第3次安倍晋三第3次改造内閣

 

改造内閣支持率 / 関連記事 / 論説

 

記者会見冒頭、「加計学園」問題などで国民の不信を招く結果になったことについて陳謝する安倍首相=3日午後、首相官邸で

 

 

 

内閣総理大臣談話 2017(平成29)年8月3日 閣議決定

 

 5年前、政治全体に対する国民の厳しい目が向けられている中、私たちは、政権を奪還しました。

 それから1600日余り。一つひとつ結果を出すことが、政治への信頼を回復する道である。そう信じ、内閣一丸となって、内外の諸課題に全力投球してまいりました。

 雇用は185万人増え、正社員の有効求人倍率も初めて1倍を超えました。この春、卒業した大学生の就職率は過去最高です。4年連続で今世紀最高水準の賃上げも実現し、経済再生、デフレ脱却に向け、我が国経済は、確実に歩みを進めています。

 安全保障体制の基盤を強化し、日米同盟の絆は一層深まりました。ロシア、中国、韓国など近隣諸国との関係改善も進んでいます。欧州とのEPAをはじめ、積極的な経済外交も実を結び、地球儀を俯瞰する外交は、大きく前進しています。

 こうした各般の政策を更に力強く推進することで、国民の皆様の負託に応えてまいります。

 そのためには、まず何よりも、政治に対する国民の皆様からの信頼を回復しなければなりません。常に国民目線に立ち、国民の皆様と共に歩み、内外の山積する課題に、結果を出していく。その思いのもとに、本日、内閣を改造いたしました。

 日本を取り戻す。5年前、こう、国民の皆様と約束した時の、強い使命感と、高い緊張感を思い出し、あの原点に、もう一度立ち返る。その固い決意のもと、このたび、人心を一新し、しっかりと結果を出すための力強い布陣を整えることといたしました。

 一億総活躍社会という目標に向かって、デフレからの脱却、地方創生を成し遂げ、日本経済の新たな成長軌道を描く。「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、日本を世界の真ん中で輝かせる。人生100年時代を見据え、「人づくり革命」を進めていく。そして、子どもたちの誰もが、家庭の経済事情に関わらず、それぞれの夢に向かって頑張ることができる。

 そうした我が国の未来を拓くため、安倍内閣は新たなスタートを切ります。私たちの次なる挑戦に、国民の皆様の御理解と御協力を改めてお願いいたします。

 

安倍内閣総理大臣記者会見 【冒頭発言の一部】

 

 先の国会では、森友学園への国有地売却の件、加計学園による獣医学部の新設、防衛省の日報問題など、様々な問題が指摘され、国民の皆様から大きな不信を招く結果となりました。

 そのことについて、冒頭、まず改めて深く反省し、国民の皆様におわび申し上げたいと思います。

 国民の皆様の声に耳を澄まし、国民の皆様とともに、政治を前に進めていく。

 5年前、私たちが政権を奪還した時のあの原点にもう一度立ち返り、謙虚に、丁寧に、国民の負託に応えるために全力を尽くす。一つ一つの政策課題にしっかりと結果を出すことで、国民の皆さんの信頼回復に向けて一歩一歩努力を重ねていく。

 

 

第3次安倍第3次改造内閣 2017年8月3日発足

 

 ◆総理

安倍晋三(あべ・しんぞう) 62

党幹事長・幹事長代理、官房長官、首相。成蹊大=衆(8)山口4 無派閥

 

 ◆副総理、財務、金融 留任

麻生太郎(あそう・たろう) 76

総務相、外相、党幹事長、首相。学習院大=衆(12)福岡8 麻生派

 

 ◆総務、女性活躍

野田聖子(のだ・せいこ) 56

岐阜県議、郵政相、党総務会長。上智大=衆(8)岐阜1 無派閥

 

 ◆法務

上川陽子(かみかわ・ようこ) 64

三菱総研客員研究員、法相。米ハーバード大院=衆(5)静岡1 岸田派

 

 ◆外務

河野太郎(こうの・たろう) 54

副法相、国家公安委員長。米ジョージタウン大=衆(7)神奈川15 麻生派

 

 ◆文部科学

林芳正(はやし・よしまさ) 56

三井物産社員、防衛相、農相。米ハーバード大院=参(4)山口 岸田派

 

 ◆厚生労働、拉致、働き方改革

加藤勝信(かとう・かつのぶ) 61

大蔵省企画官、官房副長官、1億総活躍相。東大=衆(5)岡山5 額賀派

 

 ◆農林水産(初)

斎藤健(さいとう・けん) 58

経産省課長、副農相。米ハーバード大院=衆(3)千葉7 石破派

 

 ◆経済産業 留任

世耕弘成(せこう・ひろしげ) 54

首相補佐官、官房副長官。米ボストン大院=参(4)和歌山 細田派

 

 ◆国土交通 留任

石井啓一(いしい・けいいち) 59

党副幹事長、副財務相、党政調会長。東大=衆(8)比例北関東 公明党

 

 ◆環境(初)

中川雅治(なかがわ・まさはる) 70

大蔵省理財局長、環境事務次官、議運委員長。東大=参(3)東京 細田派

 

 ◆防衛

小野寺五典(おのでら・いつのり) 57

宮城県職員、松下政経塾研究員、防衛相。東大院=衆(6)宮城6 岸田派

 

 ◆官房 留任

菅義偉(すが・よしひで) 68

総務相、党選対総局長・幹事長代行。法大=衆(7)神奈川2 無派閥

 

◆復興 留任

吉野正芳(よしの・まさよし) 68

福島県議、副環境相、衆院環境委員長。早大=衆(6)福島5 細田派

 

 ◆国家公安、防災(初)

小此木八郎(おこのぎ・はちろう) 52

副経産相、党青年局長・国対委員長代理。玉川大=衆(7)神奈川3 無派閥

 

 ◆沖縄・北方、消費者(初)

江崎鉄磨(えさき・てつま) 73

副国交相、党総務副会長、衆院法務委員長。立教大=衆(6)愛知10 二階派

 

 ◆経済再生、人づくり革命

茂木敏充(もてぎ・としみつ) 61

経産相、党政調会長。米ハーバード大院=衆(8)栃木5 額賀派

 

 ◆1億総活躍(初)

松山政司(まつやま・まさじ) 58

建設会社社長、副外相、党参院国対委員長。明大=参(3)福岡 岸田派

 

 ◆地方創生、行政改革(初)

梶山弘志(かじやま・ひろし) 61

副国交相、党情報調査局長・政調会長代理。日大=衆(6)茨城4 無派閥

 

 ◆五輪

鈴木俊一(すずき・しゅんいち) 64

衆院議員秘書、環境相、党総務会長代理。早大=衆(8)岩手2 麻生派

 

 ※敬称略。経歴の後は当選回数、選挙区、党派(自民党議員は所属派閥)。(初)は初入閣。

 

 ◆官房副長官

西村康稔(にしむら・やすとし)54=衆

野上浩太郎(のがみ・こうたろう)50=参

杉田和博(すぎた・かずひろ)76=事務

 

 ◆内閣法制局長官

横畠裕介(よこばたけ・ゆうすけ)65

 

 

(2017年8月4日配信『朝日新聞』)/(2017年8月3日配信『毎日新聞』)

 

 

首相の「総裁3選望まず」6割…読売・早大調査

 

安倍首相にいつまで首相を続けてほしいと思うか

 

 読売新聞社と早稲田大学現代政治経済研究所は、政治意識に関する全国世論調査(郵送方式)を共同実施した。

 安倍首相にいつまで首相を続けてほしいと思うかを尋ねると、「自民党総裁の今の任期が切れる2018年9月まで」41%と「すぐに退陣してほしい」23%と合わせ、総裁3選を望まず、今の任期内での退陣を求める人が6割を超えた。「党総裁の次の任期が切れる21年9月まで」は16%、「なるべく長く続けてほしい」は14%だった。

 総裁3選以上の長期政権を望む人は、自民支持層で56%に上ったが、無党派層では18%だった。

 調査は東京都議選直後の7月3日から、内閣改造後の8月7日にかけて行った。

 2012年12月の第2次安倍内閣発足以降の仕事ぶりの評価を、0〜10点の11段階で聞くと、平均点は4・8点。自民支持層に限ると6・1点、無党派層では4・1点。安倍内閣の取り組みで評価できる政策課題(複数回答)は「外交」35%が最も多かった。

 

 

 

 

 

内閣支持率39.7% 不支持率59.0%(JNN世論調査)

 

安倍内閣の支持率が、第2次政権発足以来、初めて40%を割り込み、39.7%だった。一方で、改造内閣の顔ぶれを評価する人は42%で、「評価しない」と答えた人を上回った(調査8月5、6日)。

 安倍内閣の支持率は、7月1日、2日の調査結果より3.6ポイント下がって39.7%でした。第2次安倍政権が発足して以来、初めて40%を下回り、不支持率は3.5ポイント上がり59.0%で、2か月連続で不支持率が支持率を上回った。

 一方、8月3日に発足した第3次安倍再々改造内閣の顔ぶれについて聞いたところ、「評価する」と答えた人は42%で、「評価しない」と答えた人の35%を上回った。

 個別の閣僚では、自民党の野田元総務会長を総務大臣に起用したことについて55%が「評価する」と答え、河野元行革担当大臣を外務大臣に起用したことについては、50%が「評価する」と答えた。いずれも「評価しない」と答えた人を上回った。

 南スーダンのPKOに関する陸上自衛隊の「日報」を巡る問題で、今週行われる国会の閉会中審査に稲田元防衛大臣を呼ぶべきかどうか聞いたところ、「呼ぶべき」と答えた人は59%で、「呼ぶ必要はない」と答えた人のほぼ2倍となった。

 7月24日と25日に行われた「加計学園」の獣医学部新設を巡る国会の集中審議で、安倍総理の説明に納得できたかどうか尋ねたところ、「納得できた」と答えた人は13%で、「納得できなかった」という人は75%に上った。

 東京都の小池都知事が率いる都民ファーストの会の国政進出について聞いたところ、「進出すべき」と答えた人は33%、「進出すべきではない」と答えた人は47%だった。

 

ANN世論調査(8月5、6日)

 

 

内閣支持率35%、不支持率は45% ほぼ横ばい(朝日調査)

 

 

 

 朝日新聞社が8月5、6日に実施した全国世論調査(電話)によると、内閣支持率は35%で、第2次安倍内閣の発足以降で最低だった7月調査の33%と比べ、ほぼ横ばいだった。不支持率は45%で、こちらも前回調査の47%から大きく変わらなかった。調査直前に行われた内閣改造は、支持率回復にはほとんどつながらなかった形だ。

 内閣改造については、菅義偉官房長官らを留任させ、野田聖子氏を総務相に、河野太郎氏を外相に起用するなどした安倍晋三首相の今回の人事を全体として評価するか尋ねると、「評価する」43%が「評価しない」34%を上回った。

 その一方で、今回の内閣改造が安倍政権の信頼回復につながると思うか聞くと、信頼回復に「つながる」は26%にとどまり、「つながらない」は55%と過半数に上った。今回の改造で「人づくり革命」を掲げ、新たに担当大臣を設けた取り組みに「期待する」は37%、「期待しない」は51%だった。

 また、内閣改造前に防衛相を辞任した稲田朋美元防衛相について、安倍首相の任命責任は大きいと思うか聞いたところ、「責任は大きい」61%が「そうは思わない」30%を引き離した。

 

支持率35.6% 不支持率47.3%(日本テレビ 8月4〜6日 定例世論調査)

 

 

 

改造内閣支持率35% 不支持率は47%(毎日新聞)

 

 

 毎日新聞は8月3、4両日、内閣改造と自民党役員人事を受けて緊急の世論調査を実施した。安倍内閣の支持率は35%で7月の前回調査から9ポイント増。不支持率は47%で同9ポイント減だった。

 今回の改造で安倍内閣への期待が変わったかどうかを尋ねたところ、「期待できない」が27%、「期待が高まった」が19%、「変わらない」が48%。支持率は上昇したものの、政権浮揚効果は限定的といえる。

 調査はコンピューターで無作為に数字を組み合わせて作った電話番号に調査員が電話をかけるRDS法で実施。18歳以上のいる1656世帯から1010人の回答を得た。回答率は61%。

 

改造内閣の支持42%、不支持48%(読売新聞)

 

  

 

 読売新聞社は、第3次安倍・第3次改造内閣が発足した3日から4日にかけて、緊急全国世論調査を実施した。

 安倍内閣の支持率は42%で、第2次内閣発足以降で最低だった前回調査(7月7〜9日)の36%から6ポイント上昇した。

 支持率は、安全保障関連法成立直後の15年9月調査の41%とほぼ同水準。不支持率は48%(前回52%)に下がったが、なお不支持が支持を上回っている。不支持の理由で「首相が信頼できない」は54%となり、第2次内閣以降で最高だった前回の49%を上回った。

 安倍首相が、麻生副総理兼財務相や菅官房長官といった内閣の骨格となる閣僚を留任させたことを「評価する」は49%で、「評価しない」の38%を上回った。野田総務相の起用を「評価する」は55%、河野外相の起用を「評価する」は53%、自民党の岸田政調会長の起用を「評価する」は53%で、いずれも半数を超えた。

 今後、安倍内閣に優先して取り組んでほしい課題(複数回答)は、「景気や雇用」80%が最も多く、「社会保障」75%、「外交や安全保障」70%などが続いた。「憲法改正」は29%。

 しかし、支持率は第2次安倍内閣発足以降で3番目に低く、不支持の理由で「首相が信頼できない」は第2次内閣以降で最高の54%に上った。全体の45%を占める無党派層からの支持も2割未満と依然低迷している。

 内閣支持率を男女別にみると、男性は48%(前回45%)、女性は36%(同28%)で、女性で回復が目立った。

 年代別では、前回調査で支持と不支持が各4割強で並んでいた18〜29歳で、支持が6割弱となり、不支持の3割弱を大きく上回った。40歳代は支持47%と不支持44%がほぼ並んだ。30歳代と50歳代以上では、不支持が支持を上回った。

 

内閣支持率42%、3ポイント上昇(日経新聞)

 

 

 

 日本経済新聞社とテレビ東京による3〜4日の緊急世論調査で、安倍内閣の支持率が42%となり7月下旬の前回調査から3ポイント上がった。不支持率は49%と3ポイント低下。内閣改造後の顔ぶれを「評価する」は42%と「評価しない」の36%を上回った。学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡る問題などで下落していた支持率が、改造を機に下げ止まった。

 内閣改造を評価すると答えた人に理由を聞くと「問題がある閣僚が交代した」が28%で最多。「能力主義が重視された」が23%、「安定感がある」が18%で続いた。加計問題の関係閣僚らをすべて交代したことが支持率の下げ止まりに寄与したとみられる。

 一方、評価しないと答えた人の理由は「若手の登用が進んでいない」が20%で最多。「派閥の意向にとらわれていた」が18%、「顔ぶれに新鮮味がない」が17%だった。

 昨年8月の内閣改造時は支持率58%で横ばいだった。昨年よりは今回の方が支持率に影響を与えたといえる。ただ、小渕優子氏を経済産業相に抜てきした2014年9月の内閣改造では支持率が11ポイント上昇。第1次安倍政権で07年8月に断行した内閣改造でも13ポイント上昇しており、これらと比べると今回の支持率の回復は小幅だった。前月に引き続き不支持率が支持率を上回っている。

 安倍晋三首相は4日の日本テレビ番組で「体制を整えただけで支持率が上がるというような甘い状況とは思っていない。しっかりと結果を出すことが私たちに求められる責任だ」と述べた。

 政党支持率は自民党が37%で前月の35%からほぼ横ばい。民進党は8%、公明党と共産党がともに5%だった。特定の支持政党を持たない無党派層は5ポイント減って36%だった。

 調査は日経リサーチが3〜4日に全国の18歳以上の男女に携帯電話も含めて乱数番号(RDD方式)による電話で実施。933件の回答を得た。回答率は43.6%。

 

安倍内閣の支持率は44.4% 不支持は43.2%(共同通信)

 

 共同通信社が8月3、4両日に実施した全国電話世論調査によると、安倍内閣の支持率は44.4%だった。前回7月の調査より8.6ポイント上昇した。不支持は9.9ポイント減の43.2%で、ほぼ拮抗した。今回の内閣改造、自民党役員人事を「評価する」との回答は45.5%で、「評価しない」は39.6%だった。

 総務相に起用された野田聖子自民党元総務会長に「期待する」は61.6%で、「期待しない」は31.4%。外相に起用した河野太郎元行政改革担当相に「期待する」は55.6%、「期待しない」は34.8%だった。

 安倍晋三首相の下での憲法改正に賛成は34.5%だった。反対は53.4%で、前回より1.4ポイントの微減だった。

 民進党代表選に立候補の意向を示している枝野幸男元官房長官と前原誠司元外相のうち、次の代表にふさわしいのは前原氏が40.0%、枝野氏が36.7%だった。

 

 

首相の懐刀も「辞めてやる」 三行半相次ぐ官邸の不協和音(2017年9月5日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 一丸となって北朝鮮危機に対応しているはずの安倍官邸に、Jアラート並みの不協和音が鳴り響いている。第2次政権発足当初から安倍首相を支えてきた側近が、相次いで離反の動きを見せているのだ。

 そのひとりが、“陰の総理”とも呼ばれる今井尚哉首相秘書官。常に安倍に寄り添い、経済政策から外交政策までを取り仕切る「懐刀」である。その今井氏が、8月16日に行われた記者とのオフレコ懇談で語った内容のメモが出回り、政権内部に衝撃が走っている。

 すでに一部週刊誌などで報じられているが、本紙も【取扱厳重注意】と書かれた問題のオフレコメモを入手。そこには、今井氏のこんな生々しい発言が記されているのだ。

<安倍総理が「最近今井さんが僕に厳しい」と最近漏らしたと聞いたから、俺は机を叩いて「国民のために総理をお支えすることに命をかけている。総理がそんな姿勢なんだったら今すぐ秘書官を辞めてやる」と言ったんだ。そしたら、安倍総理が謝ってきた>

 <このまま行けば、安倍政権は来年の9月で終わりだと思う。次は石破が90%、岸田が10%だろう>

 首相秘書官が、机を叩いて「今すぐ辞めてやる!」とは穏やかでないし、それで首相が謝るというのも情けない。どちらの立場が上なのか。その上、「安倍政権は長くない」と見限っているわけだ。

 こういう発言が流出すること自体、異常事態であり、求心力の低下を物語っているが、実は、三くだり半を突きつけたのは今井氏だけではない。安保政策の司令塔である「日本版NSC」の谷内正太郎局長も辞任を願い出たというのだ。

「8月の内閣改造に合わせて、『お役御免をこうむりたい』と申し出たそうです。正式に辞表を出したという話も聞きますが、箝口令が敷かれている。総理が慰留し、NSCは何事もなかったかのように危機対応に当たっていますが、その後も谷内さんは常に辞意を漏らしているような状況だそうです。原因は、経産省出身の今井秘書官が外交・安保政策にも干渉し、NSCの意向を無視した“二元外交”を展開してきたことと、それを許している総理への不満といわれている。我慢の限界ということです。総理を支えるという目的で、同じ方向を向いていたはずの側近が反目し、官邸内の人間関係がギクシャクしているのは間違いありません」(官邸関係者)

 そんな状態で有事対応ができるのか。“腹心の部下”2人から見放され、要を失った安倍官邸は、内部崩壊し始めている。

 

総理秘書官「辞めてやる!」発言で「総理が謝罪」の真相(2017年9月4日配信『Newsポストセブン』)

 

 

 総理大臣に影のように従い、内政から外交まで献策し、時には総理の密命を帯びて外国を極秘訪問することもある。安倍晋三首相と文字通り一心同体となって4年半の政権を支えてきたのが今井尚哉・総理首席秘書官だ。

 「今井ちゃんは本当に頭がいいよね。何を聞いてもすぐ答えが出るんだよ」

 安倍首相は会う人にそんないい方で今井氏を誉め、「知恵袋」「懐刀」として絶大な信頼を寄せてきた。政権における影響力の大きさは秘書官の立場をはるかに超えており、「官邸の最高権力者」「影の総理」と呼ばれる。今井氏が気に入らない事務方の秘書官のクビを容赦なく切ることから官邸の役人からは、「ミニ独裁者」とも恐れられてきた。

 その“一心同体”だった2人の関係に大きな亀裂が入っている。

「今すぐ辞めてやる!」──今井氏が首相に面と向かってそう啖呵を切ったというのだ。文頭に『取扱厳重注意』と印字されたA4判2枚のペーパーがある。今井氏が官邸詰め記者とのオフレコ懇談(8月16日)で語った内容を記したメモだ。そこには決して漏れてはいけないはずの官邸での総理との生々しいやりとりがこう書かれている。

 〈ある記者に安倍総理が、「最近今井さんが僕に厳しい」と漏らしたと聞いたから、僕は机を叩いて、「国民のために総理をお支えすることに命をかけている。総理がそんな姿勢なんだったら今すぐ秘書官を辞めてやる」と言ったんだ。そしたら、安倍総理が謝ってきた〉

 いくらオフレコとはいえ、首席秘書官が「辞めてやる」と記者に漏らすとは尋常ではない。ましてや総理が秘書官に謝ったなどとは、たとえ事実だったとしても“秘中の秘”のはずだ。

 ところが、このオフ懇メモは間を置かずに自民党中枢に流出し、今井発言は党幹部たちの間で広く知られることになった。

 「今井ちゃんはこんなことを軽々しく喋る人じゃなかったのに。一体、何が起きているのかね」

 ある自民党役員は官邸の異常事態を感じ取っている。

◆愕然とした今井氏、メモに込めた思いは

 今井氏は経産省のキャリア官僚で伯父(父の兄)は高度成長期に通産事務次官を務めた今井善衛氏、そしてもう1人の叔父(父の弟)は元経団連会長の今井敬氏という名門一族の出身。1982年の入省以来「将来の次官候補」としてエリートコースを歩いてきた。

 安倍首相との個人的親交も深い。第1次安倍内閣で事務の総理秘書官を務めた後、経産省に戻っていたが、安倍氏が首相に返り咲くと、たっての希望で資源エネルギー庁次長から首席秘書官に引き抜かれた。

 

「反省」消す 政権の居直り(2017年9月4日配信『しんぶん赤旗』)

 

安倍内閣改造1カ月

 支持率急落のもと安倍晋三首相が行った内閣改造から3日で1カ月。首相は改造内閣発足で「深く反省しおわびする」「真摯(しんし)に説明責任を果たしていく」(8月3日の会見)と口にしたものの、国会は開かず疑惑の説明もなし。北朝鮮問題では、国際社会が求めている対話を否定し圧力だけを迫るなど、まったく逆の姿勢をとっています。

臨時国会開かず

 「各閣僚は全力で仕事をしている」。菅義偉官房長官は改造1カ月にあたってこう自負しました。しかし、初入閣の江崎鉄磨沖縄・北方担当相が「(国会で)役所の答弁書を朗読する」と発言し閣僚の資格が問われたのに続き、麻生太郎副総理兼財務相はナチス・ドイツの独裁者ヒトラーを引き合いに「いくら動機が正しくてもだめだ」と発言し国際的批判がおきる事態に。安倍政権の倫理喪失ぶりは一段と深刻です。

 首相は、憲法53条に基づき日本共産党など4野党が6月末に行った臨時国会の召集要求を2カ月半も放置しています。与党は9月末まで臨時国会を開かない方針を決めました。

 4野党の召集理由は「国会が国民の負託に応え、疑惑の真相解明に取り組む」(要求書)というもので、法案審議ではありません。政府の意思さえあればただちに召集できる要求に応えず、首相を先頭に憲法違反を続ける異常事態です。

疑惑の説明なし

 首相が「反省」の弁で列挙した「加計学園」・「森友学園」疑惑、陸上自衛隊の「日報」隠蔽(いんぺい)問題をめぐって7月以降、衆参委員会で3回の閉会中審査が行われましたが、首相出席は1回だけ。野党が求めている首相夫人の昭恵氏と加計孝太郎理事長の証人喚問、稲田朋美元防衛相の参考人招致を与党は拒否。菅官房長官も記者会見で質問されて「ここは質問に答える場じゃない」(8月8日)と説明そのものを拒んでいます。

 「加計」疑惑では、国家戦略特区ワーキンググループの「議事要旨」に、加計学園側の出席や発言が記載されていなかった新たな「加計隠し」疑惑が浮上。「質問に答え、疑惑を解くことをやらない限り、この問題は逆にどんどん大きくなっていく」(田中秀征・福山大学客員教授、8月27日のTBS番組)と政府・与党の姿勢に批判があがっています。

 

この間の国会の主な動き

 

 6月15日 「森友学園・加計学園」疑惑、陸上自衛隊の「日報」隠ぺい問題の幕引きをはかりながら、政府・与党が「共謀罪」法を強行採決。

  22日 4野党が臨時国会召集の要求書を衆参両院に提出

 7月10日 ●「加計」疑惑などを中心に衆参両院で文科・内閣連合審査会の閉会中審査。前川喜平前文科次官は出席、安倍首相は出席せず

  24〜 ●安倍首相出席で衆参予算

  25日 委員会の閉会中審査

  28日 稲田朋美防衛相が辞任

8月 3日 内閣改造

  10日 ●衆院安保、参院外交防衛両委員会で閉会中審査。安倍首相、稲田元防衛相は出席せず

  29日 北朝鮮がミサイル発射

  30日 ●北朝鮮問題で衆院安保、参院外防両委で閉会中審査

 

茂木氏側に補助金企業が献金 15年に18万円、違法性否定(2017年8月24日配信『共同通信』)

  

 茂木敏充経済再生担当相が代表を務める自民党栃木県第5選挙区支部が、経済産業省の補助金交付決定を受けて1年以内の土木建築設計大手会社から2015年に18万円の献金を受けていたことが24日、政治資金収支報告書などで分かった。補助金を直接受けていないが、子会社も15年に18万円を支部に献金していた。

 政治資金規正法は企業に補助金の交付決定通知から1年間、政党への献金を禁じている。ただ、企業に利益を伴わない場合などには例外規定がある。茂木氏側と会社側は例外に当たると違法性を否定するが、政治資金に詳しい専門家は道義上の問題を指摘、規定の在り方が問われそうだ。

 

タブー破れば月内にも 高まる「早期解散説」根拠の数々(2017年8月8日配信『日刊ゲンダイ』)

 

「やるなら今しかない」――。先週末から永田町で「早期解散説」が駆け巡っている。

 きっかけは、内閣改造の効果でつるべ落としだった支持率が回復したこと。依然、不支持が支持を上回る状況とはいえ、30%以下の危険水域から底を打った影響は大きく、「首相が抜き打ち解散に打って出るかもしれない」と与野党問わず政界関係者をザワつかせているのだ。

 「恐らく内閣支持率は改造人事の“ご祝儀相場”で微増した今回が最高値。この先、ずるずると解散を先延ばししても、首相が安倍さんでいる限り、上がり目なし。新閣僚の不祥事が飛び出せば、もう目も当てられない。どんどんと支持率を下げる前に、早めに解散を仕掛けた方がいい」(自民党関係者)

 安倍首相がテレビ局をハシゴし、2019年10月予定の消費税アップについて「予定通り行っていく考えだ」と明言。この行動も「2014年の総選挙直前も首相は消費税を『上げる、上げる』と繰り返した後、いきなり『延期する』と反故にして、解散の口実にした。今回もそのパターンか」(政界関係者)という解説が流れている。

 公明党も早期解散には賛成のようだ。山口代表は先月末に「解散がいつあってもおかしくない」と言及。解散を先延ばしすれば、都議選でタッグを組んだ小池都知事の「都民ファーストの会」がいずれ国政に進出する可能性が出てくる。「自民につくのか、都民ファにつくのか、と踏み絵を踏まされる前に、サッサと解散してくれた方がありがたい」(公明党関係者)というわけだ。

 何より、民進党の迷走ぶりがあまりにもヒドイ。蓮舫代表の辞任に始まり、新代表候補も新鮮味ゼロ。今年4月まで党幹部だった細野豪志衆院議員が離党と、もうバラバラ。有権者の5割近くに上る政権不支持層の受け皿になるどころか、不毛な足の引っ張り合いを続け、党分裂の可能性が日増しに高まるありさまだ。

 これでは安倍首相じゃなくとも、「野党間の選挙協力が進んでいないうちに」と解散権を行使したくなってしまう。

 「野党第1党の政党支持率が2ケタに及ばない状況ですから、自民党の議席減も最小限にとどめることができる。今、総選挙となれば、受け皿のない政権不支持層は『棄権票』となって宙をさまよい、歴史的な低投票率を招きそうです。その場合も組織票が幅を利かせ、自民党が得する結果となる。解散に打って出るには今が絶好のタイミングです」(政治評論家・山口朝雄氏)

 衆院の自民党は現有290議席。次回選挙は区割りの見直しで小選挙区の定数は6減、比例の定数も4減する。よって安倍首相の悲願である改憲発議に必要な「3分の2」は310議席となる。

 「自民が20議席ほど減らしても、公明と維新の議席を足せば3分の2に迫る可能性はあり得るし、それでも足りなければ民進党内の改憲派を切り崩せばいい。民進党内が分裂含みだけに、なおさらです」(山口氏)

 唐突な改憲方針に加え、加計・森友両学園の疑惑や南スーダンPKOの日報隠蔽など、安倍首相が国民に信を問う口実は山ほどある。支持率急落を招いた諸問題も、選挙に勝てばチャラとなりかねない。

 民進党の代表選は9月1日。国政政党の代表選びの最中に、解散を仕掛けるのは禁じ手だが、あくまで政界の不文律に過ぎない。これまでも安倍首相は散々タブーを破ってきただけに、野党の選対幹部は「日報問題をめぐる閉会中審査を行う8月10日以降は、いつ解散があってもおかしくない」と警戒を強めている。

 

「強い支持」30%台どまり 改造後も正念場の安倍内閣(2017年8月5日配信『日経新聞』)

 

 内閣改造の政権浮揚効果は限定的だった。日本経済新聞社の緊急世論調査で安倍内閣の支持率は42%と、2週間前の調査から3ポイントの上昇にとどまった。それだけではない。40%台に乗せたとはいえ、「強い支持」は依然として危険水域にある。

 2012年12月の第2次安倍内閣発足以降、支持率の最低値は2015年7月の38%。安全保障関連法の衆院通過後だった。

 都議選での自民党惨敗後の前回調査は39%で、わずか1ポイント差に迫っていた。今回、内閣改造による人心一新の効果もあって42%に戻した。

■政権に黄信号の30%台は脱したのか

 内閣支持率が30%台に落ち込むと政権運営に黄信号がともるとされる。改造効果は薄かったが、ベクトルはなんとか上向き、危険水域を脱したかにみえる。

 しかし、「強い支持」でみればなお30%台半ばだ。

 日経世論調査は「あなたはA内閣を支持しますか、しませんか」と質問。「いえない・わからない」と回答した人に、もう1度だけ「お気持ちに近いのはどちらですか」とたずねる。

 1度目の質問で支持するとした回答が「強い支持」だ。強い支持が薄いと支持率全体が移ろいやすくなる。厚ければ安定する。

 今回調査の強い支持は36%。15年7月の35%とほぼ同じだ。2週間前の前回調査は33%で、実は過去最低値だった。

 安倍内閣で強い支持が30%台にまで落ち込んだのは、15年と17年しかない。15年は安保法成立後、内閣改造を経て上昇、安定した。今回も同じ軌道を描けるのか。

 

閣僚就任会見から見えるもの(2017年8月5日配信『しんぶん赤旗』)

 

疑惑隠し悪政推進

 第3次安倍再々改造内閣の各閣僚が3日、就任会見し、改造内閣の政策に言及しました。この中で閣僚らは、沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設、「共謀罪」法の運用、「残業代ゼロ」法案、環太平洋連携協定(TPP)などの安倍路線をいっそう推し進める一方で、加計疑惑の解明には後ろ向きの姿勢を鮮明にしました。

防衛相「辺野古が唯一」

 沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設に関して、「辺野古が唯一」との安倍政権の従来の姿勢を堅持する発言が相次ぎました。

 小野寺五典防衛相は安倍晋三首相から「普天間飛行場の(辺野古)移設を含め、抑止力の維持を図りつつ、沖縄をはじめとする地元の負担軽減を実現する」との指示を受けたことを明らかにした上で、「普天間の一日も早い返還のためには、辺野古が唯一の解決策というスタンスについては、政府として一貫している」と指摘。沖縄県民の民意に反した新基地建設を引き続き推進する考えを示しました。

 また、菅義偉官房長官も会見で、「沖縄のみなさんに説明を尽くしながら、辺野古移設を推進する、こうしたことも極めて大事なことだと思っている」と述べました。

 一方、名護市の稲嶺進市長は3日の定例会見で、「『辺野古が唯一』の固定観念を取り払ってもらわないとこの問題は先が見えなくなる」と指摘し、抜本的な方向転換を求めました。沖縄県の翁長雄志知事は、普天間基地の「県外移設」を強く求めました。

加計究明に背

 安倍首相の意向が働いたとの疑念がもたれている国家戦略特区での獣医学部新設・加計学園問題では、新閣僚から無反省な発言が相次ぎました。

 文科省の内部文書に「総理のご意向」などと書かれていたことをめぐって、林芳正文科相は「現時点で再調査する考えはない」と真相究明に背を向ける姿勢を示しました。

 梶山弘志地方創生担当相も、記者から疑念は払しょくされたかと問われ「個人としてのコメントは申し上げるつもりはない。しっかり説明していく」と答えました。

 一方、国家戦略特区については「日本が世界で一番ビジネスのしやすい国を目指し、日本経済を成長軌道にのせるための重要な実現手段。岩盤規制改革を積極的に行っていく」と、さらなる推進を明言しました。

共謀罪を運用

 上川陽子法相は「共謀罪」法について、「TOC条約(国際組織犯罪防止条約)の国内担保法」と破たん済みの理屈で合理化しました。金田勝年前法相の説明で国民の理解は得られたかとの問いに、「前法相も丁寧に説明したと思うが、それで十分かというと、運用には丁寧に理解を得なければならない」などと述べました。

 上川氏は、「共謀罪」法の運用について首相から特別に指示を受けたとし、「共謀罪」法を動かしていく姿を示しました。

 加藤勝信厚生労働相は「働き方改革を断行する」と主張。「時間ではなく成果で評価される制度の創設」に明言し、「残業代ゼロ」法案と国民の強い批判を浴びている、高度プロフェッショナル制度に執念を示しました。

TPPに固執

 茂木敏充経済再生担当相は、国内農業や中小企業に深刻な打撃を与える環太平洋連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(日EU・EPA)を「成長戦略の柱」と評価。TPPから離脱した米国を除く11カ国での発効に固執する姿勢を示すとともに、日EU・EPAについても「署名に向けた取り組みを進める」と明言しました。

 斎藤健農水相も副大臣としてかかわったTPPやEPA、農協つぶしの農協改革などを実績として誇示。当選3回での抜てきに「難しい課題に誠意をもって対応してきたことは自負している」と述べました。

 

毎日新聞世論調査;「下げ止まり」安堵 自民早期解散論も(2017年8月4日配信『毎日新聞』)

 

 内閣改造・自民党役員人事を受けた今回の緊急全国世論調査で内閣支持率は35%に上昇し、安倍政権には安堵(あんど)感が広がっている。ただ、このまま「V字回復」するという楽観論は政府・与党にない。自民党関係者は「ひとまず土砂崩れは止まった」と引き締めた。

 与党内は、安倍晋三首相が今回、「お友達」優遇人事をしなかったのが奏功したという見方でほぼ一致する。野田聖子総務相は「首相の誠心誠意が伝わったのではないか」と述べた。

 首相は4日夜、東京都内で自民党の伊吹文明元衆院議長と会食。大島理森衆院議長らが同席する中、今回、文部科学相への就任を固辞したとされる伊吹氏は「いい布陣だ」と評価した。首相は「しっかりやっていきます」と応じたという。

 ただ、支持率は6、7両月で計20ポイント下落しており、今回の9ポイント増を手放しでは喜べない。今後、閣僚に問題が浮上すれば、政権は致命的な打撃を受ける。自民党の二階俊博幹事長は「満足することなく謙虚に、生まれ変わったつもりで取り組む」と強調。菅義偉官房長官も記者会見で「一つ一つ結果を出していくことが大事だ」と述べた。

 支持率低下に歯止めがかかったことで、早期の衆院解散・総選挙を望む声も出始めた。民進党が低迷している間は与党に勝算ありとみて、ベテラン議員の一人は「回復基調なら、10月の衆院補選に合わせた解散もあり得るのではないか」と語った。

 

「疑惑隠し内閣」、総辞職、解散・総選挙こそ必要(2017年8月4日配信『しんぶん赤旗』)

 

小池書記局長が指摘

 日本共産党の小池晃書記局長は3日、国会内で記者会見し、同日発足の第3次安倍再々改造内閣について「日報隠蔽(いんぺい)疑惑の稲田朋美前防衛相も閣外に去り、森友や加計の疑惑に関わっていた閣僚もすべて交代している。一言でいえば『疑惑隠し内閣』だ」と批判しました。

 小池氏は「安倍晋三首相は内閣の支持率低下を改造で乗り切ろうという思惑だったと思うが、支持率低下の原因は首相自身だ」と強調。「加計などの疑惑の中心にあるのが首相の関与であり、安保法制、『共謀罪』法の強行など強権的な政治を推し進めてきたのも首相自身だ」と述べました。

 その上で、「世論調査でも、安倍政権不支持の最大の理由は『安倍首相が信頼できない』であり、求められているのは内閣改造ではなく、内閣総辞職、解散・総選挙で安倍政治・自民党政治に対して根本から民意を問うことだ」と強調しました。

 また小池氏は、記者団から日報隠蔽問題をめぐる閉会中審査について問われ、衆院安保、参院外交防衛の両委員会で「直ちに開くべきだ」と主張。特別防衛監察後も一番の疑問として残った、稲田氏による非公表了承の有無や、稲田氏がかねてから辞任の相談をしていたという首相の関与などをただすためには「稲田氏と首相の出席は欠かせない」と強調しました。

 小池氏は、森友問題も新たな事実が出てきているとして「野党側はすでに衆院財務金融委員会の閉会中審査を求めているが、参院も含めて閉会中審査が必要だ」と語りました。

 

国家破滅内閣に名を連ねた卑しい権力亡者の閣僚たち<上>(2017年8月4日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 これほど醜悪な内閣改造劇は見たことがない。 3日、第3次安倍再々改造内閣が発足。森友学園、加計学園、自衛隊の日報隠蔽問題などで追い詰められ、政権浮揚を狙って人事刷新に踏み切った。

 安倍首相は記者会見で「結果本位の仕事人内閣」と名付け、胸を張っていたが、その表情は冴えなかった。船出するのが泥舟では、それも当然か。

「地味でパッとしない布陣だよね。“挙党態勢”と言うけど、中身は二線級ばかり。総理が声をかけた連中は、みな断っている。伊吹文明さんに文科相就任を断られ、河村建夫さんに打診しても逃げられたらしい。泥舟に乗りたくないと思われたら、政権の終焉は近い。大臣になったのは、泥舟でもいいから乗りたい連中だけでしょう」(自民党関係者) 

 この改造の本質が「疑惑隠し」にあることは、国民もお見通しだ。

 「仕事人内閣というのなら、真っ先にやるべきことは、腐臭漂うスキャンダルの解明です。ところが、安倍政権の中枢メンバーは、加計学園問題で子供だましの嘘をつき続け、内閣改造の目くらましで国民をゴマかし、疑惑にフタをしようとしている。

 木の幹が腐っているのに、先端の細い枝だけ接ぎ木して立派に見せようとしているようなもので、こんな小手先の内閣改造には何の意味もありません。首相の反省の弁も口先だけで、一時的に殊勝な態度を見せれば国民をダマせると甘く考えているのがミエミエです。本当に反省していれば、内閣改造で延命を図るのではなく、行政を混乱させた責任を取って退陣しているはずです」(政治評論家・本澤二郎氏)

 沈みゆく泥舟と知りつつ、国家破滅内閣の泥舟に乗った連中もロクなもんじゃない。

 福田元首相に看破された最低最悪内閣の正体

 安倍政権の破廉恥体質については、2日に共同通信のインタビューに応じた福田元首相が痛烈に批判している。森友学園への国有地払い下げや、加計学園の獣医学部新設を踏まえ、安倍政権下で「政と官」の関係がおかしくなっていることを「国家の破滅」という厳しい言葉を使って断罪したのだ。

<各省庁の中堅以上の幹部は皆、官邸(の顔色)を見て仕事をしている。恥ずかしく、国家の破滅に近づいている>

<官邸の言うことを聞こうと、忖度以上のことをしようとして、すり寄る人もいる。能力のない人が偉くなっており、むちゃくちゃだ>

<自民党がつぶれる時は、役所も一緒につぶれる。自殺行為だ>――。

 安倍が第1次政権をブン投げた後を引き継ぎ、「あなたとは違うんです」の迷言を残して辞めた福田から見ても、いまの安倍政権は異常なのだ。

 「福田氏は慎重な発言をするタイプだけに、ここまで言うのはよほどのことですが、最低最悪内閣の本質をよく言い当てている。安倍首相は、一部の仲間内で国家権力を私物化しており、その一端が森友や加計問題で露呈したのです」(本澤二郎氏=前出) 

 自由党の小沢一郎代表も、内閣改造に関して談話を発表。こうつづっている。

<いま内閣に問われていることは、総理の友人の為の便宜供与や総理を守るための文書廃棄、口裏合わせ等の隠ぺい工作、そして、何よりそういうことを可能ならしめている公務員の「総使用人化」である>

 <安倍総理は内閣改造などという意味のないことをする前に、即刻「すべて」を明らかにしたうえで、今こそ潔く身を引くべき時である>

 真っ先に変わるべき人が居座り、改造人事を断行するという不条理。“死に体”首相の卑しい思惑で政治が愚弄されている。

 悪相・暴言で支持率が上がるわけはなし

「結果重視、仕事第一、実力本位の布陣を整えられた」――。組閣を終えた安倍は政権浮揚に自信を見せているが、この布陣では政権浮揚などあり得ない話だ。

 支持率急落に拍車をかけた菅官房長官と二階幹事長が残ったままなのに支持率が回復するはずがない。菅は加計問題で文科省の内部文書を「怪文書」扱いし、国民の政権不信に火をつけた男だ。しかも、批判を浴びた後も態度を変えず、安倍と加計孝太郎理事長の会食が、関係業者との供応接待を禁じた大臣規範に抵触するのではないか――との疑問に対しても「通常の交際」と顔色を変えず言い放っている。いまや、ゴーマン政権の象徴である。国民はあの悪相を見るたびに安倍政権への不信を募らせている。

 一方、二階は都議選の応援演説で「私ら(自民党)を落とすなら落としてみろ」と暴言を吐き、都議選の惨敗後も何ら反省することもなく、派閥の勉強会でも「そんなことに耳を貸さないで」と開き直っている。

 そんな「悪相・暴言」の2人が今後も毎日、テレビカメラの前に出てくるのに、他の閣僚を多少、入れ替えたくらいで国民の印象がガラリと変わるはずがない。政治評論家の小林吉弥氏はこう言う。

 「政権の屋台骨は変わらず、イメージ刷新も程遠い。支持率の回復は到底期待できません」

 9月の臨時国会で、野党が再び、森友、加計問題を厳しく追及するのは確実。あの悪役2人がまた開き直れば、さらに国民の怒りに火をつけるのは間違いない。

 国家破滅内閣に名を連ねた卑しい権力亡者の閣僚たち<中>につづく

 

「改憲より経済第一で」 クギ刺された首相「当然です」(2017年8月4日配信『朝日新聞』)

 

 内閣改造によって、安倍晋三首相の政権運営は安定するのか。首相は謙虚さをアピールしつつ、肝いりの憲法改正日程にブレーキをかけてでも支持率低下を食い止めたい考えだ。ただ加計(かけ)学園問題など政権を悩ませる火種は消えず、風向きは簡単には変わりそうにない。

 3日夕、首相官邸。内閣改造を受けた記者会見で、首相は憲法改正について「スケジュールありきではない」と説明した。

 首相は2020年の新憲法施行をめざし、憲法9条に自衛隊の存在を明記した自民党改憲原案を今秋の臨時国会に提出する方針を明言。党側に議論の加速を指示してきた。ただ内閣支持率の低下が止まらず、後退を余儀なくされている。

 首相は7月上旬には記者団に、年内の改憲原案提出について「十分に可能ではないか」としていた。この日はそうした言及はなし。改憲の説明の前段で「経済を最優先の課題としてしっかり取り組んでいく」と強調したうえで、党主導で議論を進める考えを示した。

 内閣改造にあわせた党役員人事後の幹部らとのやりとりでも、後退ぶりがうかがえた。3日午前の役員会で、留任した高村正彦副総裁は首相に「(改憲議論は)これからは党に任せて、内閣としては経済第一でやっていただきたい」とクギを刺した。首相は「当然です」と応じた。

 役員会後の記者会見で高村氏はこのやりとりを自ら紹介し、「目標というのは絶対ではない」と発言。二階俊博幹事長も「慎重の上にも慎重に広く国民のご意見を賜る姿勢も大事にしたい」と足並みをそろえた。もともと9条改憲に慎重な岸田文雄・新政調会長も「丁寧な議論を続けることで国民の理解も進む」と語った。

 高い支持率を背景に改憲に前のめりだった首相を強く支持してきた党執行部だったが、内閣改造・党役員人事を機に性急な改憲議論にブレーキをかけた格好だ。

 首相の悲願である改憲日程に冷や水をかけてまで政権の安定を図る首相と新執行部。まずは10月にある衆院青森4区と愛媛3区の両補選で、試されることになる。もともと自民党の議席だっただけに、一つでも落とせば政権に打撃だ。

 こうした状況は、首相の「解散戦略」にも影を落としそうだ。与党内では、来年12月に任期満了を迎える衆院の解散前倒し論が頭をもたげ始めている。政権がさらに追い込まれる前に総選挙に踏み切るべきだ、という考えからだ。

 実際、公明党の山口那津男代表は7月31日のテレビ番組で「首相が自民党総裁選に3選後、来年秋くらいという相場観があったが、こだわらないで常在戦場の心構えで臨む」と述べた。

 ただ衆参で改憲勢力が3分の2以上を占める現状で解散に踏み切れば、「首相は改憲から逃げた」との批判は免れず、求心力低下は必至だ。自ら示した「年内提出」の期限まで5カ月足らず。首相は3日の会見でこう語るにとどめた。「解散はまったく白紙だ」

 

安倍改造内閣発足、おわび発進も…「脱お友達」アピール演出(2017年8月1日配信『スポーツニッポン』)

 

 第3次安倍第3次改造内閣が3日、発足した。安倍晋三首相は会見の冒頭で、内閣支持率急落の原因となった加計学園問題などに触れ「深く反省する」と頭を下げ異例の陳謝。閣僚19人の起用理由を一人ずつ説明し、反安倍勢力だった野田聖子総務相を“大トリ”で紹介。「脱お友達」をアピールする演出を仕掛けた。 

 皇居での認証式を終えた安倍首相は午後6時すぎ、礼服姿のまま官邸で会見に臨んだ。

 各閣僚の起用理由を説明していき、野田総務相を“大トリ”に紹介。「私と当選同期(93年)であり、自民党が2度下野した苦しいときも共に過ごしてきた。常に私にとっては、耳の痛い話も直言してくれる。国民目線で物事を考えてきたと思う」と“ドヤ顔”で話した。首相に距離を置く野田氏を「目玉人事」であることを強調してみせた。

 閣外に出た岸田文雄政調会長については「将来の日本を背負っていく人材だ。政策全般を進めていく(自民)党の責任者として期待している」と評した。「ポスト安倍」をにらむ2人を持ち上げて、挙党一致を強調する演出を施した。

 冒頭では加計学園問題や南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題に触れ「改めて深く反省し、おわび申し上げる」と約10秒間にわたり深々と頭を下げた。内閣改造を受けた会見が「おわび」から始まるのは異例。「結果重視、仕事第一、実力本位の布陣を整えられた」とした上で、自ら「結果本位の仕事人内閣だ」と名付けた。

 人選には細心の注意を払った。せっかく改造しても新閣僚が不祥事や失言を起こせば致命傷になりかねない。官邸の首相執務室は、閣僚候補のスキャンダルの有無を確認する「身体検査」の資料が「山積みになっていた」(官邸筋)という。

 「政権奪還したときの原点にもう一度立ち返り、謙虚に丁寧に国民の負託に応える」と訴えた首相。内閣改造で政権立て直しを図ろうとしているが、官邸周辺では首相、菅義偉官房長官、麻生氏の間で微妙なあつれきが生じ始めたのでは?との見方も出回っている。加計学園など一連の問題に対し、野党は追及の手を緩める気配はない。新内閣は決して、視界良好ではない。

 

野田聖子総務相ナンバー2待遇入閣もチクリ直言開始(2017年8月4日配信『日刊スポーツ』)

 

 第3次安倍第3次改造内閣が3日、発足した。安倍晋三首相と距離を置いてきたことで、「脱・お友達」の象徴として起用された野田聖子総務相(56)は会見で、支持率急落に危機感を持った首相の「君子豹変(ひょうへん)」ぶりに言及。今後も首相に直言すると明言した。首相は、支持率急落の要因になった自身の手法を謝罪。「結果本位の仕事人内閣」と命名したが、野田氏への配慮を含む「聖子ファースト」の様相もにじむ。首相の謙虚な姿勢が見せかけならば、国民不信はさらに拡大する。

 「国民への謙虚な気持ちを取り戻すため、『君子豹変』ということでしょうか。それで、私と行動をともにするご決心がついたのだと思う」。野田氏は就任会見で、首相の意識の変化が自身の入閣の背景にあると分析した。

 野田氏と首相は、93年衆院選初当選の同期。12年に政権復帰を果たした後の首相の政治手法をめぐり、両者の思いは平行線をたどった。「安倍1強」が強まるにつれ、党内に首相に直言できない空気がまん延。野田氏は同期のよしみで直言を続けたが、首相に遠ざけられる事態になった。

 

野田総務相、来年総裁選へ出馬意欲「次も必ず出る」(2017年8月4日配信『日刊スポーツ』)

 

 第3次安倍第3次改造内閣が3日、発足した。安倍晋三首相と距離を置いてきたことで、「脱・お友達」の象徴として起用された野田聖子総務相(56)は会見で、支持率急落に危機感を持った首相の「君子豹変(ひょうへん)」ぶりに言及。今後も首相に直言すると明言した。

 野田氏は、首相が3選を目指す来年の自民党総裁選について「次も必ず出る」と述べ、早々と出馬の意欲を示した。閣僚でありながら総裁選出馬に意欲を示すのは異例だが、聖子流のモノ言う姿勢を貫いた形だ。野田氏は15年の自民党総裁選で、必要な20人の推薦人を確保しながら、首相サイドの激しい切り崩しで断念に追い込まれ、会見で「多様性が自民党の魅力のはず」と不快感を示した。自民党総務会長の後は、要職に就いておらず、今回の入閣で再び、「女性初の首相レース」に復帰した形だ。私生活では11年、米国で卵子提供を受け、50歳で長男を出産。障害があるが小学校に入学し、野田氏は「鉄母」として、ブログで息子の成長を紹介している。

 

安倍首相の狙いは1つ 露骨な追及逃れ「隠蔽内閣」が発足(2017年8月4日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 そして誰もいなくなった――。3日の内閣改造について、大メディアは「支持率回復」や「サプライズ人事」など安倍政権の意向を忖度しているが、忘れては困ることがある。今回の改造人事の狙いはロコツな疑惑隠し。隠蔽内閣の逃げ切りを絶対に許してはいけない。

 今度の改造人事でクビがすげ替わるのは、そろいもそろって加計学園疑惑に連なる面々ばかり。愛媛・今治市が申請した獣医学部新設の国家戦略特区の認定に関わった山本幸三地方創生相、松野博一文科相、山本有二農相の3閣僚は全員、閣内を去った。

 文科省職員が作成したとされる昨年10月21日付の「ご発言概要」に〈官邸は絶対やると言っている〉〈総理は「平成30年4月開学」とおしりを切っていた〉との記載があり、国会で追及された萩生田光一官房副長官も交代。最側近として安倍首相の意向を党内運営に反映させるため、自民党幹事長代行に就任した。

 萩生田に押し出される玉突き人事で、そのポストを奪われたのは下村博文氏だ。加計学園からのヤミ献金疑惑が政治資金規正法の「あっせん」にあたるとして先月31日、同法違反の疑いで刑事告発された。

 獣医学部新設の特区認定の担当大臣や、加計疑惑の張本人を次々と閣外に放出するとは分かりやすい。安倍首相の人事の狙いは言うまでもない。秋の臨時国会で野党が加計疑惑を攻め立てても、「当事者不在」で逃げ切りを図るため。その布石は既に打ってある。

 南スーダンPKOの日報隠蔽問題を巡る衆院安保委員会の閉会中審査で、自民党は野党が求める稲田前防衛相の出席を拒否。自民党の竹下亘国対委員長は「大臣を辞任し、一番重い責任の取り方をした」「辞任した大臣を国会に呼び出すということは、やってはいけないという判断をした」と言い放った。

 日報を隠した上、稲田氏まで覆い隠すとは恥の上塗り。野党は「最悪の隠蔽工作」と反発しているが、この伝でいけば萩生田氏も担当3大臣も、閣内を離れたことを理由に自民党は国会招致を拒んでくるに違いない。

「加計疑惑で閣内に“ゴミ”がたまってきたからキレイにしようという政権側の都合以外に、この時期に内閣改造を行う必然性は全くありません。国家の行く末を左右する閣僚人事まで、ついに安倍首相は私物化したわけです。首相は『丁寧な説明』を約束したはずなのに、『丁寧』どころか『説明』そのものを拒もうとする。結局、自ら進んで真相を解明する気など微塵もなく、疑惑にフタをすることしか考えていないのでしょう」(政治学者・五十嵐仁氏)

 在任中の職務に関する辞めた閣僚の参考人招致は、02年2月の衆院予算委に田中真紀子元外相の前例がある。

 この時、真紀子は「後ろからスカートを踏んづけられた」と語り、外務省改革を妨害されたと小泉元首相を批判したものだ。有権者がサプライズうんぬんに目を奪われたら、隠蔽政権の思うツボ。民進党も代表選にかまけて追及の手を緩めてはダメだ。

 

本命に断られ…文科相「なんで俺?」 内閣人事の舞台裏(2017年8月4日配信『朝日新聞』)

 

 安倍晋三首相が政権浮揚をかけた内閣改造・自民党役員人事。自ら「結果本位の仕事人内閣」と称した閣僚名簿だが、悩み苦しんだ末の跡がにじむ。問題を抱えるポストにはことごとく経験者を起用。来年の総裁選への思惑も絡み、局面打開とはほど遠いものとなった。

 「閣僚として入ってもらいたい。ポストは後で伝える」

 2日夕、自民党の河野太郎衆院議員に安倍晋三首相から電話が入った。報道各社が内定した閣僚の顔ぶれを次々と伝え始めていた時間帯だった。結局、「外相」の連絡を受けたのは深夜だった。

 当初想定していた岸田文雄氏の留任構想が狂い、外相選びは最後まで難航し、首相側近の加藤勝信氏の起用説も飛び交った。閣僚経験のあるベテランは「外相なんて一番最初に決まっていないといけない。珍しい改造の流れだな」と首をひねった。

 加計学園問題をめぐって国会で追及を受け続けた末、東京都議選で惨敗。南スーダンの国連平和維持活動(PKO)をめぐる日報問題では稲田朋美氏が防衛相を辞任。政権にとっては下落が続く支持率を下げ止め、「落ち着かせる」(首相周辺)のが当座の目標。首相にとって失敗できない人事だった。ところが、水面下の調整は首相の思惑通りには進まず、「遠心力」を印象づけるものだった。

 加計学園の獣医学部新設を認可するかを審査する文部科学相は、人事の焦点の一つ。そこで首相は7月31日、大臣経験者の伊吹文明・元衆院議長とひそかに会談し、就任を打診。だが、固辞された。

 理論派でならしてきた79歳の伊吹氏。「三権の長」経験者として首相の「下僚」である一閣僚に座ることなど我慢がならなかったようだ。2日のBS番組に出演した伊吹氏は、打診について最後まで明かさなかったが、「非常に危機的だから、安倍さんにはどんなことでもしてあげたい。だが、もし頼まれても、『ちょっとできないな』と答えるだろう」と語った。

 結局、2年前に「政治とカネ」の問題で農林水産相を辞任した西川公也氏に代わり、「緊急登板」させたことのある林芳正氏を今回も起用した。

 林氏が所属する岸田派の若手は「困ったときの林大臣。大本命に断られて時間がない中で、ふさわしい人がいなかったのだろう」と解説。林氏本人も周囲に「なんで俺なんだろう」と漏らしたという。党幹部の一人はこの経緯について、「断るような人のところに要請してはいけない。内閣の威厳にかかわる」と苦言を呈する。

稲田氏の辞任や日報問題で、防衛省・自衛隊の混乱を収める役割を担う防衛相も焦点だった。首相は、江渡聡徳元防衛相の再登板も検討。ところが江渡氏は地元青森で衆院選の区割りが大きく変わるうえ、衆院青森4区補選の対応も抱えていることを理由に断ったという。最終的にはやはり防衛相経験者の小野寺五典氏で決着した。

 野田聖子氏の起用も一筋縄ではいかなかった。野田氏は、入閣の打診に対し、総務相など具体的なポスト名を挙げて要求した。自身に近い閣僚経験者と相談し、「高いタマを返しておいた方がいい」と助言を受けていたという。

 閣僚起用が決まってからも、実は不本意だったことを明かしたのは江崎鉄磨・沖縄北方相。3日の二階派会合で、「私は任にあらず」との言葉を用いて、いったんは固辞しながら二階俊博幹事長の説得で受け入れた経緯を語った。

 首相は3日の記者会見で、「党内の幅広い人材を糾合した、結果本位の仕事人内閣」と胸を張った。だが内実は、政権の置かれた厳しい状況を象徴するかのような迷走の末の組閣だった。記者会見での人選に関する質問に対して首相は、「人事の様々な過程については発言は控えさせていただきたい」と多くを語らなかった。

■「ポスト安倍」わかれる路線

 首相は自身の3選がかかる来秋の自民党総裁選も見据えて、「ポスト安倍」の有力候補3人の扱いに明確な差を付けた。

 「とことん政権を支える」と直接、言質を得た岸田文雄氏を希望通り党三役に起用し、「親安倍」路線に乗せた。岸田派からは党内第4派閥ながら最多の4人が入閣。若手から「完全に安倍列車に乗った。岸田首相の実現には禅譲以外の選択肢は取りづらい」と逆に不安が漏れるほどだ。

 2年前の総裁選で首相側から推薦人を切り崩され、立候補断念に追い込まれた野田聖子氏。総務相への起用について首相が会見で「なんでも率直に、耳の痛い話も言ってくれる」とその理由を語ると、野田氏は初閣議後の会見で「(首相が)謙虚な気持ちを取り戻すために、君子豹変(ひょうへん)ということか」と返した。野田氏は記者団に「総裁選というのは安倍さんを倒すことではない」とする一方、次の総裁選は「必ず出る」と明言。閣僚復帰で有力候補になりうるが、「非安倍」としての立ち位置は中途半端だ。

 対照的なのは、石破茂氏。石破派から当選3回の斎藤健氏を農林水産相に抜擢(ばってき)し、かつては石破氏側近だった小此木八郎、梶山弘志の両氏が入閣。首相は3日の会見で石破氏を起用しなかった理由を聞かれたが、答えもしなかった。石破派幹部はこうした人事を「完全な石破潰しだ」とみて、反発している。

 ただ、首相が石破氏を意識した人事をしたことは、石破氏の存在を脅威とみていることの裏返しともいえる。東京都議選で惨敗し、求心力が落ちる首相に寄った岸田、野田両氏と違い、石破氏にとっては「反安倍」路線に旋回し、総裁選に向け首相との対立軸を打ち出しやすい。かえって「ポスト安倍」として存在感を高める可能性もある。

■「待機組」に不満も

 今回の人事で注目を集めた一人は、河野太郎氏だ。首相は「持ち前の発想力、行動力を大いに発揮してもらいたい」と述べ、外相としての手腕に期待を込めた。歯にきぬ着せぬ物言いで、異端児扱いだったが、所属する麻生派の麻生太郎副総理、同じ神奈川県選出で近い関係にある菅義偉官房長官が将来のリーダー候補として重要閣僚に推したとの見方がもっぱらだ。

 選挙応援では引っ張りだこの小泉進次郎氏は、党の筆頭副幹事長に就く。支持率回復の切り札として閣僚起用の見方もあったが、小泉氏自身は打診されても断る意向をベテランに伝えていた。副幹事長は選挙対策なども担うだけに、官邸幹部は「自由に動けていいポジション」と解説する。

 閣僚や党役員から首相の「お友達」の多くは退いた。しかし、加計学園問題で疑惑が取り沙汰された首相側近の萩生田光一氏は、党幹事長代行に。首相の意向を党運営に反映させる狙いだが、党内からは「反省がない。結局、自分に近い人を切ることができない」(閣僚経験者)との批判が早くも飛んでいる。経験者の再起用も目立ち、各派が希望した初入閣待機組のほとんどが登用されず、党内には不満が充満している。

 首相側近の一人も「実力内閣でも何でもない。いよいよ大変かも知れない」と人事を振り返った。

 

クローズアップ2017 第3次改造内閣 「1強」崩れ安定優先 首相「反省」迫られ(2017年8月4日配信『毎日新聞』)

 

 安倍晋三首相は3日の内閣改造・自民党役員人事を、国民に向けて「反省」を示し、安倍政権として「経済最優先」の原点に戻る機会と位置付けた。首相への異論を抑え込んできた「安倍1強」体制が崩れ、党内有力派閥に配慮した安定重視の布陣には、来年9月の党総裁選で連続3選を狙う首相の思惑もにじむ。岸田文雄政調会長は政権中枢で足場を固め、石破茂元幹事長は非主流派の立場から「ポスト安倍」をうかがう構図で、3者の駆け引きが加速している。【高山祐、高橋恵子、小田中大】

 「まず改めて深く反省し、おわび申し上げたい」

 安倍首相は3日の内閣改造後の記者会見冒頭、こう述べてから約8秒間、頭を下げた。2012年末の第2次内閣発足から4年半を経た長期政権はそのおごりと緩みが批判を浴び、内閣支持率の急落によって政権構造の抜本的な立て直しを迫られることになった。

 第3次安倍第3次改造内閣では、「骨格」とされる麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官を含む5人が留任した。そのほか、8ポストで閣僚経験者を登用。従来の組閣・改造では10人近く初入閣者をそろえて清新さをアピールするケースが多かったが、今回の初入閣は6人にとどまった。

 「ベテランから若手まで幅広い人材を登用し、結果重視、仕事第一、実力本位の布陣を整えた」として首相が名付けた「仕事人内閣」。その背景には、未知数の人材を登用して失敗する余裕のなくなった政権の窮状がある。

 改造前は首相が重用してきた稲田朋美元防衛相の言動が政権の足を引っ張った。森友学園への国有地売却や加計学園の獣医学部新設問題では「首相の意向」をそんたくする政府・与党内の「1強」ムードが疑惑に拍車をかけた。新たな陣容は「お友だち」優遇の色合いが薄まり、首相が党内融和重視へとかじを切ったことをうかがわせた。

 特に際立つのは麻生、額賀、岸田3派への配慮だ。麻生派からは麻生氏留任のほか河野太郎元国家公安委員長を外相に起用。額賀派からは茂木敏充前政調会長を経済再生担当相、加藤勝信前1億総活躍担当相を厚生労働相に抜てきした。岸田派は首相と距離のある林芳正元農相を含む4人が入閣。岸田派幹部は「首相一人で政権運営ができるわけではない」と語った。

 首相が守勢に回ったのは自民党が東京都議選で惨敗を喫した7月2日からだ。首相は同日夜、麻生、菅両氏と都内で会談し、政権運営への協力継続の確約を得た。「安倍降ろし」を警戒する首相はさらに同日、額賀、岸田派に影響力を持つ重鎮の青木幹雄元参院議員会長、古賀誠元幹事長にも周辺を通じてひそかに接触し、協力を求めた。

 翌3日の党役員会では、青木氏に近い吉田博美参院幹事長が「結束」を呼びかけ、岸田氏も記者団に「国民の信頼回復に向け努力する」と首相を支える考えを表明した。首相が「耳の痛いことも直言してくれる」と評価した野田聖子総務相も古賀氏に近い。3派の協力に対する「返礼」の側面も否めない人事となった。

 首相は今後、「人づくり革命」や働き方改革などで成果を上げ、内閣支持率を回復軌道に乗せたい考えだ。菅氏に近い小此木八郎、梶山弘志両氏の初入閣も実現。求心力の低下する中で身内にも細心の注意を払い、総裁3選への道筋をつけようと腐心している。

 「謙虚に丁寧に国民の負託に応える」。首相は会見でそう強調したが、憲法改正など「安倍カラー」を薄める方向で妥協すれば、保守層の離反を招きかねないジレンマも抱える。

 ◆ポスト安倍、動き加速

岸田氏、党務で備え

 「将来の日本を中心で背負っていく人材でもある。党の政策責任者として政策を前に進めてもらいたいと期待している」

 安倍首相は3日の記者会見で、4年半にわたり外相として安倍外交を支えてくれた岸田氏に「感謝している」と述べたうえで、岸田政調会長に対する評価と期待を強調してみせた。

 「議院内閣制で内閣と与党は車の両輪だ。もう一つの車輪である与党でしっかり仕事をし、安倍内閣をしっかり支えていく」

 岸田氏も同日、就任後初の記者会見で安倍政権を支える姿勢を鮮明にした。

 首相と岸田氏は今後、政権の立て直しに手を携えていく蜜月関係にある。ただ、それだけであれば、首相側の望んでいた外相留任の選択でも良かった。

 岸田氏があえて党の要職を選んだのは、来年9月の自民党総裁選へ向けた準備に入るためだ。岸田派(宏池会)内には「外交だけでは幅が広がらない」との不満も募っていた。総裁選で勝つには全国の国会議員、地方議員、党員からの幅広い支持が必要となる。

 内閣改造で4人が入閣し、岸田氏の求心力が高まった派内には「総裁選に出ない選択肢はない」(中堅)との主戦論も広がる。

 岸田氏は総裁選で首相と対決する覚悟なのか。周辺には「(昨年の内閣改造で閣外に出て首相に批判的な立場を取る)石破氏の二番煎じでは意味がない」と漏らす。首相からの「禅譲」を期待しつつ、安倍後継への布石を進める戦略だ。岸田派議員の一人は「これからの1年、岸田氏自身の力が試される」と語り、期待と不安をのぞかせた。

石破氏「受け皿」狙う

 「私どものグループは、自民党が野党の時の気持ちをもう一度思い出して、党が信頼を取り戻すことができるように、自己満足ではなくやっていきたい」

 石破氏は3日昼、内閣改造の動きを尻目に石破派の会合を開き、派閥としての政策作りを進める考えを示した。直接的な批判は避けたが、謙虚さを欠き、支持率急落に直面する安倍首相をけん制する発言だった。

 今回の人事に当たり、挙党態勢を目指す首相周辺と、独自色を強める石破派との間で神経戦が繰り広げられた。支持率をV字回復させる秘策として石破氏に入閣を求め「オール自民党」を演出する案が首相周辺にくすぶっていたからだ。

 石破氏は総裁選まで首相と距離を置き、政権批判の「受け皿」となる戦略を描く。仮に首相から入閣を打診された場合、どう対応するかに頭を悩ませていた。「断れば『自民党の危機に協力しないなんてひどい』と言われかねない」(同派議員)との懸念もあった。 2日夜、「石破抜き」の改造人事が固まり、石破氏は「ほっとした」と漏らした。石破派から斎藤健農相が起用されたことには同派の切り崩しとの見方もある。石破氏と親しい小此木氏らも入閣し、同派のある議員は「(石破氏を孤立させたい首相の)意図がよく分かるな」とつぶやいた。

 「人事のさまざまな過程については、発言は控えさせていただきたい」

 首相は会見で、石破氏を要職に起用しなかった理由を問われ、言葉を濁した。

 

内閣改造 改憲主導権揺らぐ 逆風下、見えぬ解散戦略(2017年8月4日配信『毎日新聞』)

 

 安倍晋三首相は3日の内閣改造・自民党役員人事で挙党態勢づくりを優先し、党内に反発のくすぶる憲法改正についても秋の臨時国会に党の改正案を提出する方針をトーンダウンさせた。「安倍1強」を支えてきた内閣支持率の低下に伴い、首相は宿願の改憲に向けた主導権も失いつつあり、衆院解散・総選挙の時期など、今後の政権運営は不透明さを増している。

 「これからは憲法は党に任せ、内閣は経済第一でやってほしい」。高村正彦副総裁は3日の自民党役員会で、改憲に前のめりにならないよう首相にくぎを刺した。首相を強く支持する高村氏の苦言は政権内の不安の表れなだけに、首相も「当然です」と応じざるを得なかった。新執行部の記者会見でも、二階俊博幹事長が「慎重の上にも慎重に」、岸田文雄政調会長も「丁寧な議論が必要」と相次いで要求。党内では「支持率回復には経済だ」(中堅議員)との声が広がる。

 このため首相も、改憲の「スケジュールありき」を否定。側近の萩生田光一幹事長代行からも「軌道修正」を認める発言が飛び出した。ただし、安全保障関連法の制定後などに見られたように、批判が強まると「経済」を訴えてかわすのは第2次政権以降の常とう手段。9条改正に慎重な公明党幹部は「首相の意欲は変わっていない」と見る。

 しかし今後、首相には多くの試練が待ち構える。陸上自衛隊の日報問題を巡る衆院の閉会中審査が最初のハードルで、臨時国会の早期召集を求める野党は、加計学園問題なども追及しようと手ぐすねを引く。10月には衆院青森4区、愛媛3区の両補選が予定され、惨敗した東京都議選に続いて取りこぼせば、首相の求心力低下は決定的になる。

 自民党内からは「現状をリセットするには衆院の早期解散しかない」との声が出始めたが、逆に「地元では党への逆風が激しい」と悲鳴も漏れ、解散時期の見極めも難しい状況だ。

 首相の描く改憲日程通り来年の通常国会で改正案を発議するためには、改憲勢力が3分の2を握る現在の衆院をその前に解散するわけにはいかない。「首相は改憲に未練があるだろうが、政権が持つかどうかは分からない。国民の不信は首相本人へのものだからだ」。首相と距離を置く閣僚経験者は、今後の政権運営に悲観的な見方を示した。

 

内閣改造 小池都知事「3R内閣だ」(2017年8月4日配信『毎日新聞』)

 

 東京都の小池百合子知事は3日、都内の講演会で改造内閣の顔ぶれに触れ「スキャンダルをリデュース(reduce、削減)、もう一回閣僚経験者に頑張ってもらうリユース(reuse、再使用)、ちょっとリフレッシュ(refresh)するという『3R』だ」と述べた。リデュース、リユース、リサイクル(recycle)の環境用語の3Rになぞらえて評価した。

 女性の入閣が2人だったことについて「これだけ女性活躍と言っているのに、残念ながら世界のランキングは下げるんじゃないか」と指摘。「(国家戦略特区や2020年東京五輪・パラリンピック準備など)仕事内閣として進んでもらわないと都民が困る」と注文した。

 

第3次改造内閣 発足 改憲、日程ありき否定 安倍首相、原点回帰を強調(2017年8月4日配信『毎日新聞』」)

 

 安倍晋三首相は3日、内閣改造を行い、皇居での認証式を経て、第3次安倍第3次改造内閣が発足した。首相は記者会見で「政権を奪還した時の原点に立ち返り、謙虚に丁寧に国民の負託に応える」と述べ、内閣支持率が急落するなか、信頼回復に努める考えを強調した。2020年の改正憲法施行を目指す自らの方針については「スケジュールありきではない」と述べ、丁寧に党内議論を進める考えを示した。

「不信招きおわび」

 首相は20年の改正憲法施行に向け、秋の臨時国会の会期中に自民党改憲案の提出を目指す考えを示している。これについて会見では「経済最優先で取り組む」と前置きしたうえで、「一石を投じたが、スケジュールありきではない」と語った。

 今後の憲法改正論議については「さらに議論を深める必要がある。党主導で進めていってもらいたい」と述べた。

 会見後に出演したNHKの番組では、臨時国会への改憲案提出について「目標として投げかけたが、後は党と国会に任せたい」と述べ、党に委ねる考えを示した。側近の萩生田光一幹事長代行は東京都内で記者団に「『秋の臨時国会で党改憲案を提出する』と一度公言したので、そこを軌道修正したということだ」と説明した。

 首相は会見の冒頭で「森友学園」への国有地売却問題、「加計(かけ)学園」の獣医学部新設問題、南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報問題に言及し、「さまざまな問題が指摘され、国民の大きな不信を招いた。改めて深く反省し、国民におわび申し上げたい」と頭を下げた。野党が求める国会の閉会中審査については「国会から求められれば政府として対応するのは当然」と述べるにとどめた。

 改造の意図については「一つ一つの政策課題にしっかりと結果を出すことで信頼回復に向けて一歩一歩努力を重ねていく決意のもとに、内閣を改造した」と説明した。

 NHKの番組では、加計問題で文部科学省と内閣府の主張が食い違ったことを踏まえ、「第三者が入るか、議事録をとるプロセスにしないと同じことが起きる」と指摘し、省庁間協議の過程を透明化する考えも示した。

 今回の内閣改造では全19閣僚のうち初入閣は、衆院当選3回で登用された斎藤健農相ら6人で、女性は2人。

 安定性を重視する一方、首相と距離を置いてきた自民党の野田聖子元総務会長を総務相に充てるなど、挙党態勢の構築も図った。

 

第3次安倍第3次改造内閣発足 「スケジュールありきではない」首相が改憲姿勢を修正(2017年8月4日配信『東京新聞』)

  

 第3次安倍第三次改造内閣は3日午後、皇居での認証式を経て発足した。首相は官邸で記者会見し、自身が掲げた2020年に9条改憲を施行する目標について「スケジュールありきではない」と語った。今後の改憲論議は自民党主導で進めるよう求めた。内閣支持率の急落を受け、改憲論議を急ぐよう党や国会に迫る姿勢を修正した。自民党の高村正彦副総裁ら幹部も慎重に改憲論議を進める考えを相次いで表明した。

 首相は会見で、党に改憲論議を促す発言を続けてきたことに関し「憲法施行70年の節目で、憲法はどうあるべきか議論を深めていく必要があるとの考えから一石を投じた」と説明。その上で、秋の臨時国会に自民党の改憲原案を提出し、20年施行を目指すとした目標には必ずしもこだわらない考えを示した。

 さらに「改憲は国会が発議するので、国会で議論していく。党主導で進めてほしい。これからは党で議論し、議論が深まることを期待している」と述べた。改造内閣の最重要課題は経済再生だとも強調した。

 首相は支持率が急落する中で改憲論議を強引に進めれば、国民の反発が強まりかねないと判断したとみられる。改憲は首相の悲願だけに、支持率が回復した場合、性急なスケジュールが再浮上する可能性もある。

 これに先立つ自民党役員会では、改憲の党内議論の中心的役割を担う高村氏が首相に「これからは党にお任せいただき、内閣は経済第一でやっていただきたい」と求めた。首相は「当然だ」と応じた。

 高村氏は記者会見で、秋の臨時国会への改憲原案提出に関し「一応目標としては出せればいいが、党内や各党の考え、国民全体の雰囲気をみながらやる。目標は絶対ではない」と強調した。二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長も同調した。

 

「仕事師」ズラリ!“改造暗闘”舞台裏 中韓懐柔で河野外相起用、「石破潰し」へ側近入閣で“分断”(2017年8月4日配信『夕刊フジ』)

 

 安倍晋三首相が3日に第3次安倍第3次改造内閣を発足させた。内閣支持率が下落するなか、閣僚19人のうち入閣経験者11人で安定感と改革断行の姿勢を示し、自身と距離のある河野太郎前行革担当相を外相、野田聖子元総務会長を総務相兼女性活躍担当相、林芳正元防衛相を文科相に起用するなど「脱お友達」で挙党一致を目指した。「ポスト安倍」では、岸田文雄外相兼防衛相を自民党政調会長に抜擢(ばってき)して重用する一方、「反安倍」の急先鋒(せんぽう)である石破茂元幹事長の側近・周辺議員を閣内に取り込むなど、「石破潰し」ともいえる側面も見せた。

 「内閣と自民党に対し、国民の厳しい目が注がれている。私自身深く反省している。新たな気持ちで結果を出していくことによって、国民の信頼を勝ち得て、責任を果たしていきたい」

 安倍首相(自民党総裁)は3日午前、臨時総務会を党本部で開き、新体制で信頼回復に全力を挙げる考えを示した。確かに、今回の改造人事には、首相の「絶対に失敗できない」という危機感が現れていた。

 支持率下落の原因は、強引な国会運営や、未熟な閣僚による答弁がもたらした政治不信だ。閣僚の半分以上を経験者で固めたうえ、混乱が続く防衛省や文科省には、小野寺五典元防衛相や林氏といった、霞が関での評価の高い「仕事師」を置いた。6人を初入閣させ、60人を超えていた「入閣待機組」の不満も吸収した。検討された、大物民間人の起用は見送った。

 失言や暴言で自民党に多大なダメージを与えた、稲田朋美前防衛相や豊田真由子衆院議員の反省を示すため、安倍首相の出身派閥でもある細田派からの閣僚起用は極力控え、岸田派や麻生派にポストを振り分けた。

 「政権の骨格」となる麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官は続投する。

 こうしたなか、巧妙な人事手腕も見せている。

 河野氏の外相起用は、今回の内閣改造で最大のサプライズといえる。

 英語が堪能で、衆院外務委員長も経験し、議員外交にも熱心な河野氏は有資格者といえる。ただ、河野氏は「党内左派の首相候補」とみられており、保守の安倍首相とは政治理念で距離があった。

 河野氏を重要閣僚に抜擢した理由について、官邸周辺は次のように分析する。

 「行革担当相時代、内閣の方針には従うなど、まず『政治家・河野太郎』を信頼している。後ろから鉄砲を撃つ石破氏とは違う。河野氏の父は『親中派』『親韓派』として有名な河野洋平元外相であり、東アジア情勢が緊迫化するなか、中国や韓国を懐柔し、党内左派も落ち着かせる効果がある。保守派は批判するだろうが、河野氏としては、中韓が仕掛ける『歴史戦』の最前線に立ち、日本の名誉を守る重い責任を負うことになる」

 河野氏は3日朝、「政権というのは国民の未来を明るくするためにしっかり頑張るものだ。支持率は、それができていればついてくる」と語った。河野氏が外相として実績を残せば、岸田氏の次の世代のホープに浮上する。石破氏には「世代交代」を感じさせる人事といえる。

 反安倍の女性闘士」とみられた野田氏の起用も、巧妙だ。

 安倍首相と野田氏は1993年初当選の同期だが、「保守とリベラル」という政治理念の違いもあり、対立してきた。ただ、昨年11月、同期当選組が集まった席で、野田氏が「これからは『安倍・野田連合vs石破』でやっていこう」と、安倍首相に呼びかけたと伝えられる。

 「安倍首相としては、来年秋の党総裁選を見据えて、『反安倍』の石破−野田連合が構築されるのを防ぐ狙いもあったのでは。一種の分割統治ではないか」(官邸周辺)

 石破氏の側近・周辺議員も閣内に取り込んだ。

 農水相に決まった斎藤健農水副大臣は、石破氏率いる「水月会」の主要メンバー。国家公安委員長兼防災担当相の小此木八郎国対委員長代理と、地方創生担当相の梶山弘志元国交副大臣は、石破氏が立ち上げた「無派閥連絡会」に所属していた。

 安倍首相は追い込まれたなかでも、考え抜いた配置をしている。

 永田町関係者は「今回の内閣改造で、官邸は支持率が急上昇するとは思っていない。手堅く、一歩一歩、政策を実行していく構えだ。一方で、ドナルド・トランプ米大統領が北朝鮮攻撃も示唆するなか、日本は戦後最大の試練を迎える可能性がある。『政権の安定は不可欠』と考えており、幅広い人々に支持される人材を選んだ。『有事対応内閣』という側面もある」と語っている。

 

内閣改造で加計学園人脈のお友達が出世(2017年8月3日配信『リテラ』)

 

内閣改造で加計学園人脈のお友達が出世! 萩生田光一は幹事長代行に、新厚労相・加藤勝信も加計理事長が後援会幹事

 安倍首相が「人心一新」「脱“お友だち”」なんてできるはずがないとは思っていたが、まさかここまで自浄能力がないとは──。昨日夜遅くに判明した安倍改造内閣の新大臣、党役員の顔ぶれをみて、呆れ果てた。何しろ、日報問題で一足先に内閣から避難させた稲田朋美氏以外、重要な“お友だち”は誰一人、外していなかったのだ。それどころか、軒並み前職より出世している始末だった。

 その筆頭が、自民党幹事長代行に内定した萩生田光一官房副長官だろう。周知のように萩生田官房副長官は安倍首相の側近中の側近で、加計学園の獣医学部新設をめぐっても大きな役割を演じてきた。文科省が公開したメール文書では、「広域的に」「限り」という事実上の「京都産業大学外し」を内閣府に指示していたと名指しされてもいる。本人は厚顔にも加計問題への関与を完全否定したが、萩生田氏は加計学園が経営する千葉科学大学の客員教授を務め、報酬を得ていた(現在は無報酬の名誉客員教授)こともあるうえ、自らのブログに安倍首相、加計孝太郎理事長と3人仲良くバーベキューに興じる写真を掲載していたことも発覚した。

 ところが驚いたことに、萩生田氏は安倍首相と加計氏の友人関係すら知らなかったと言い張った。

 まさに平気で嘘をごり押しする安倍政権の代表だが、安倍首相は今回の内閣改造でその萩生田氏を内閣の外には出したものの、なんと自民党幹事長代行に抜擢したのだ。

 幹事長代行といえば、党三役に次ぐ重要ポストで、党運営のキーマン。加計問題隠しのために山本幸三地方創生相や松野博一文科相ら加計問題に関係した大臣を次々外す一方で、側近については、安倍首相と加計理事長のつなぎ役まで担っていた人物を平気で要職に引き立ててしまう。いったい安倍首相はどういう神経をしているのか。

加藤勝信・新厚労相の後援会幹部に加計孝太郎氏の名前

 しかも、安倍首相は今回の改造人事でもうひとり、加計学園に連なる“お友だち”を閣内にとどまらせている。それは一億総活躍相から厚労相に“昇格”した加藤勝信氏だ。

 周知のように加藤氏は安倍首相の母親である洋子夫人の親友、加藤六月夫人の娘婿で、安倍家と家族のように付き合ってきた人物。最初の入閣も洋子夫人が安倍首相に閣僚にするよう命じたとも言われている。

“お友だち優遇が国民の反発を買った”と言われていたなかでこれまた“お友だちのなかのお友だち”を外さず格上の大臣に引き上げたわけで、これだけでも信じられないが、この加藤氏、なんと、加計学園と濃密な関係をもっていたのだ。

 加藤氏については、少し前から、加計学園主催の「加計学園杯日本語弁論国際大会決勝大会」に祝電を送っていたことが明らかになるなど、加計学園との関係がささやかれていた。

 しかし、ここにきて、加藤氏の後援会の幹事に加計学園理事長・加計孝太郎氏が名前を連ねていたことが明らかになったのだ。山陽新聞デジタル2014年9月5日付の記事によると、加藤氏が地元・岡山市と倉敷市を中心に後援会組織「加藤勝信岡山懇話会」を発足。その幹事のひとりとして、加計学園理事長の加計孝太郎氏の名前が列記されている。

 しかも、加藤氏が加計氏と深い関わりをもつようになったのは、安倍首相の紹介ではないのか、という推測も流れている。改造後に開かれる臨時国会では、野党から追及されることは必至だろう。

 今回の改造では他にも野党から厳しく追及されそうな“お友だち優遇”人事が行われている。それは西村康稔自民党総裁特別補佐の内閣官房副長官への抜擢だ。西村氏は安倍首相の出身派閥である細田派所属で、第二次安倍内閣が発足した際に内閣府副大臣に任命されるなど、やはり安倍首相の子飼いとして知られる人物だが、2013年に「週刊文春」(文藝春秋)でベトナム4P買春を報道されているのだ。

 官房副長官に抜擢した西村康稔はベトナム4P買春を封じられた過去

 記事では、西村氏が関係をもったとされるベトナム人女性が告白。それによると、西村氏は2012年にベトナムを訪問した際、ベトナム・ホーチミン近くにあるカラオケクラブで別料金を払って、その店に在籍する7人の女性をハノイの5つ星ホテルのスイートルームに“お持ち帰り”。3人を選び、一緒にシャワーを浴び、マッサージをしてもらい、セックスをしたというのだ。相手をした女性は「週刊文春」にこんな内容の告白をしている

「私たち三人は部屋にあった大きなソファーに寝そべった彼をマッサージしてあげた。頭や胴体、足をそれぞれね。それからベッドルームでセックスしたわ。とにかくニシムラはジェントルマンだった。最後は私たち三人にチップもくれたのよ。三人あわせて六百ドルに満たないくらいだった」

 もちろん、ベトナムでも買春は違法行為だ。本人はホテルに女性を連れ帰ったことを否定したが、「週刊文春」は複数の女性に話を聞いており、確度はかなり高い。

 こんなすねに傷をもつ西村氏が官房副長官という要職に抜擢されたのは、森友問題で籠池泰典理事長の証人喚問の直後、自民党総裁特別補佐として記者会見を開き、「偽証の疑いが濃厚」と籠池攻撃をした論功行賞だといわれている。

 ようするに、安倍首相は「真摯に反省」「一から出直す」「人心一新」などと言いながら、お友だちとイエスマンばかりを重用してきたこれまでとまったく同じ人事を繰り返しているのだ。

 しかし、これまでなら力ずくでマスコミや国民を黙らせてきたが、いまは状況がまったく違う。改造後の臨時国会で安倍首相が手痛いしっぺ返しを受けるのは確実だろう。

 

 

臨時国会 またも憲法ないがしろか(2017年8月29日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 政府、与党はまたも憲法をないがしろにするのか。

 自民、公明の与党幹事長は秋の臨時国会を9月最終週に召集する方向で一致した。憲法53条に基づく野党からの早期召集要求を2カ月以上無視した末に、政権側の都合だけで国会を開くという姿勢は身勝手というほかない。

 政府と与党は臨時国会で「働き方改革」関連法案、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の実施法案などの審議を想定する。

 野党側はそれらよりも、獣医学部新設を巡る加計(かけ)学園問題、国有地格安売却の森友学園問題、防衛省の南スーダン国連平和維持活動(PKO)日報隠蔽(いんぺい)問題の審議が先決である、と主張する。通常国会では、これら一連の疑惑が十分に解明されなかったからだ。

 野党4党は6月22日に「衆参いずれかの議院の4分の1以上から要求があれば内閣は国会を召集しなければならない」という憲法の規定に基づいて召集を求めた。

 しかし政府、与党は憲法に召集期限の定めがないのをいいことに要求を放置してきた。安倍晋三政権がこうした姿勢を取ったのは2015年秋に続いて2回目だ。

 政府、与党は内閣支持率の低下などを受け、通常国会閉幕後、衆参計4日の閉会中審査には応じた。ただし、いずれも短時間で、稲田朋美元防衛相や加計学園の加計孝太郎理事長ら鍵を握る人物の招致を与党が拒否したため、解明どころか、疑惑はより深まった印象が強い。

 与党幹事長は、野党の要求を無視する一方で、景気対策の補正予算編成を政府に求めることでも一致した。10月22日投開票の青森、愛媛、新潟での「衆院トリプル補選」を有利に運ぼう、あるいは衆院解散の可能性をにおわせて与党の引き締めと野党の分断を図ろう−といった思惑も見え隠れする。

 「数の力」と「党利党略」が絶えず優先される政治では、どんな政策を掲げても国民の理解を得るのは難しかろう。政府と与党がいま優先すべきは、疑惑解明の臨時国会をすぐに開くことだ。

 

首相のW寿命W(2017年8月29日配信『長崎新聞』−「水や空」)

 

 日本は長寿国だが、首相の寿命、つまり在任期間はだいたい短い。平均すると2年余りという。そんな中で、安倍晋三首相の在任は、第1次政権との通算で5年を優に超え、その長さは歴代単独5位

▲といっても、英国の首相の在任期間は平均5年くらいというから、安倍首相も世界のトップの中では「まあまあ」の長さだろう

▲短命に終わりがちなのは、日本は国政選挙のスパンが短いからだ、ともいわれる。衆院選の翌年は参院選−とW連戦Wもあるが、勝ち続けないと政権は長期的に安定しない。なかなか常勝とはいかず、そのうち倒れてしまう、と

▲与党内の政争で引きずり降ろされる例もある。どっしりとした風格をまといながらも、たった64日で退陣したこの人もそうだった。羽田孜元首相が82歳で亡くなった

▲非自民勢力による連立政権が生まれたのが1993年。皮肉にも、政権を担うと連立の結束は一気に弱まり、細川護熙首相はあっさり降板した。その次が羽田氏だったが、社会党が連立を離れ、「少数与党」はすぐさま追い詰められて

▲首相の寿命はあまりに短く、改革への道のりはあまりに遠く。新しい政治を志して、政変の沼に足を取られた人だった。長期政権のおごりか緩みか、不安定さも漂う昨今の政治に、その訃報は何かを問い掛ける

 

臨時国会の先送り(2017年8月26日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

政権に憲法守る気はないのか

 安倍晋三政権の与党・自民、公明両党は、日本共産党、民進党など野党が憲法に基づき開催を求めている臨時国会の召集を9月下旬まで先送りする意向を示しています。憲法53条で国会議員の4分の1以上が要求すれば内閣は臨時国会を開かなければならないことになっており、6月末に申し入れてから3カ月も開催要求に応えないのは、重大です。野党の開催要求は「森友学園」や「加計学園」の疑惑解明などのためです。その後の閉会中審査でも疑惑は深まる一方です。防衛省・自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)問題などもあり、速やかな開催こそ求められます。

深まる疑惑の解明のため

 憲法53条は「いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば」、内閣は臨時国会の召集を決定しなければならないと定めています。6月に通常国会が終わった後、日本共産党、民進党など野党が衆院でも参院でも4分の1以上の議員の署名を添えて、疑惑の解明などのため臨時国会開催を申し入れたのは憲法上の権利です。

 憲法はいつまでに臨時国会を開かなければならないとまでは決めていませんが、開催要求があった以上、直ちにそれに応えるのは内閣の責任です。「森友」や「加計」の疑惑はいっそう深まり、南スーダンPKO(国連平和維持活動)に派兵されていた陸上自衛隊部隊の日報が隠蔽されていた問題など解明すべき課題があります。閉会中審査で議論するのはもちろん、9月下旬などと言わず今すぐ臨時国会を開催するのは国政上の優先課題です。

 大阪の学校法人「森友学園」をめぐる疑惑では前理事長の籠池泰典夫妻が国や大阪府の補助金をだまし取っていた疑いで逮捕されました。しかし、核心ともいえる財務省が国有地を破格の安値で払い下げた疑惑や首相の妻・昭恵氏がかかわった疑惑については解明が進んでいません。「記録が残っていない」と言い張った財務省側が「森友」に「いくらなら買える」と買い値を示して交渉していたとの関係者の証言も報じられています。昭恵氏や関係者の証人喚問を含め、国会で徹底追及すべきです。

 安倍首相の腹心の友が理事長を務める「加計学園」が、「国家戦略特区」を舞台に行政をゆがめ獣医学部の新設をしようとする疑惑では“初めに『加計』ありき”だったのではないかとの指摘に、安倍首相は1月20日の正式決定まで知らなかったと言いだしました。しかしその後、正式決定の1年半以上も前の国家戦略特区の関連会議に「加計」幹部が出席して獣医学部の計画を説明していたことなどが判明し、首相発言の信ぴょう性は大きく揺らいでいます。徹底究明することがいよいよ重要です。

 南スーダンPKOの日報隠蔽問題では、防衛省の特別監察でも日報を隠していたことが明らかになりましたが、首相や稲田朋美防衛相(当時)の関与疑惑は解明されていません。引き続く追及が必要です。

山積する国政上の課題

 九州や東北をはじめ各地を襲った豪雨被害への対策、北朝鮮の核・ミサイル問題への対応など国会で議論すべき問題は山積しています。安倍政権は8月初めに内閣を改造しましたが、新大臣の見解もただされていません。一日も早い臨時国会の開催は不可欠です。

 

政治と世論を考える(6) 新聞の責任かみしめる(2017年8月26日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 世論研究の先駆的著作「世論」が米国で刊行されたのは1922年。著者であるリップマンが33歳のときだった。

 彼の疑問は、この複雑で巨大な現代社会で一般の人々が問題を正しく理解できるか、民主主義が可能か、ということだった。確かに民主主義は主権者である国民が正しくさまざまな問題を理解し、正しい投票をする前提で動いていく仕組みである。

 だが、どう考えても彼には人々が正しい理解をしているとは思えなかった。従って公衆が賢明な意見を持つことを前提とする民主主義は成り立たない。だから、情報の分析や判断は、専門家集団に委ねざるを得ないと考えた。専門家とはジャーナリストなどだ。

 第1次世界大戦に情報担当大尉として加わり、世論がいかに政府によって操作されやすいものであるかも体験していた。それが「世論」を書く動機でもあった。

 <新聞は1日24時間のうちたった30分間だけ読者に働きかけるだけで、公的機関の弛緩(しかん)を正すべき『世論』と呼ばれる神秘の力を生み出すように要求される>(「世論」岩波文庫)

 リップマン自身がワールド紙の論説委員であったし、新聞コラムを書くジャーナリストであった。晩年にはベトナム戦争の糾弾で知られる。正しいと信じる意見を述べ続けていたのである。

 現在の日本の新聞界はどうか。

 日本新聞協会が昨年発表した全国メディア接触・評価調査では、新聞を読んでいる人は77・7%。「社会に対する影響力がある」との評価は44・3%で、2009年調査の52・8%より低下。「情報源として欠かせない」との評価は32・5%と、09年調査の50・2%より大きく落ち込んだ。

 影響力はあるとしても、情報源として不可欠であると思う人は減っている。つまりインターネットなどとの接触が増えているのだろう。だが、ネット社会は虚偽の情報も乱れ飛ぶ密林のようなものでもある。

 リップマンに従えば専門家を介さないと、国民は問題を理解できなくなり、世論は政府に操作を受けやすくなる。逆に、熱した世論に迎合する政治だってありうる。

 そうならないよう、情報を集め分析し国民に知らせるのが私たちメディアの仕事である。ネットも同様だ。世論の重みをあらためてかみしめたい。

 

国会召集時期 1カ月先とはあきれる(2017年8月25日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 政府・与党は秋の臨時国会を来月25日からの週に召集する方向で調整に入った。

 民進党など野党4党は学校法人加計(かけ)学園の獣医学部新設問題の真相究明に向け、今から2カ月前の6月下旬に早期召集を要求した。

 憲法53条は、衆参いずれかの総議員の4分の1以上の要求があった場合、内閣に臨時国会の召集決定を義務付けている。

 その規定に基づく要求を無視し続け、1カ月も先の日程を出してきた。憲法違反の疑義があり、国民の目線とあまりにずれている。

 森友学園への国有地売却や陸上自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)の問題もある。政府は速やかに召集すべきだ。

 「3点セット」とも言うべき加計、森友、日報問題は、国会の閉会中審査などを通じても、さまざまな疑念は何も解消されないどころか、新たな疑問点も浮上した。

 2年前に政府の国家戦略特区の会合で愛媛県今治市からヒアリングした際、加計学園関係者が同席していたのに、議事要旨に発言記録がなかったことはその一例だ。

 安倍晋三首相は加計や日報問題の担当閣僚を代え、「疑惑隠し」との批判も出た。そうでないと言うなら、一刻も早く国会で説明責任を果たすしかない。

 それが、首相が内閣改造後の記者会見で語った「謙虚に丁寧に国民の負託に応える」道でもある。与党が言う首相の外遊や法案準備は召集先送りの理由にならない。

 安倍政権は安全保障法制成立後の2015年秋にも、野党の国会召集要求に対し、憲法53条に召集決定までの期限の定めがないのをいいことに応じなかった。

 しかし、この期限に関しては03年に内閣法制局長官が「召集のために必要な合理的な期間を超えない期間内」に召集を決定しなければならないと答弁している。

 自民党が野党時代の12年にまとめた憲法改正草案は、要求から20日以内の召集を義務付けている。

 来週末には来年度予算案編成に向けた各省庁の概算要求が出そろい、民進党新代表が選出される。

 遅きに失したとしても9月初旬には国会を開かないと、国民は到底納得しないだろう。

 与党は臨時国会に補正予算案の提出を検討すべきだとしている。地方や中小企業に景気回復が波及していないとの理由のようだ。

 不都合な問題から国民の目をそらし、10月22日に愛媛、青森、新潟で行われる衆院補選に向け、ばらまきで歓心を買う。そんな思惑がないか注意を払う必要がある。

 

政治と世論を考える(5) 原発ゼロの民意どこへ(2017年8月25日配信『東京新聞』−「社説」)

 

「討論型世論調査」を覚えていますか。

 3・11翌年の夏、当時の民主党政権が震災後の原発政策を決める前提として実施した。

 政府としては初めての取り組みだった。

 無作為抽出の電話による世論調査に答えた全国の約7000人の中から300人ほどに、1泊2日の討論会に参加してもらい、専門家による助言や質疑を織り交ぜながら、参加者の意見が議論の前後でどのように変化するかを見た。

 2030年の電力に占める原発の割合として、ゼロ、15%、20〜25%−の3つのシナリオが示されており、学習と討議を重ねて理解を深めた結果、「原発ゼロ」と答えた人が全体の約3割から5割に増えた。併せて公募した意見では、9割近くが「原発ゼロ」を支持していた。

 このような民意に基づいて、原発は稼働後40年で廃炉にし、新増設はしないことにより「2030年代ゼロ」に導くという、「革新的エネルギー戦略」が決められた。それを現政権は「具体的な根拠がない、ゼロベースに戻す」と、あっさりご破算にした。

 特定秘密保護法や集団的自衛権、「共謀罪」などの時と同様、内閣支持率の高さだけを背景にした“具体的民意”の無視、というよりは否定とは言えないか。

 その後も世論調査のたびに、脱原発には賛成、再稼働には反対の意見が過半を占める。

 6月の静岡県知事選中に本紙が実施した世論調査でも、県内にある中部電力浜岡原発は「再稼働すべきでない」という意見が約6割に上っていた。

 にもかかわらず、政府はエネルギー基本計画の見直しに際し、はじめから「30年20〜22%」の原発比率を維持する考えだ。

 3・11前の割合は28%。老朽化が進む今、新増設なしには実現できない数字である。改めて国民的議論を起こす様子はない。

 3・11を教訓に「脱原発」を宣言し、原発の新設工事を中断させた韓国政府は、世論調査や討論会でその是非を国民に問う。ドイツの脱原発は、専門家や利害関係者だけでなく、聖職者などを含めた幅広い意見によって立つ。

 なのに当の日本は、政府の独断専行を“有識者”が追認するという“逆行”を改める気配がない。

 国民の声より大事な何か、国民の命以上に守りたい何かがそこに、あるのだろうか。

 

国会先送り 許されぬ憲法無視だ(2017年8月24日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 憲法に背く行為である。決して容認できない。

 自民、公明両党の幹事長らがきのう、臨時国会を9月末に召集する方針で一致した。

 憲法53条に基づき、野党が召集を要求したのは6月末。すでに2カ月経つのに、さらに1カ月以上も臨時国会を開かないことになる。こんな国会対応がまかり通っていいわけがない。

 改めて確認しておく。憲法53条は臨時国会について、衆参いずれかの総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集しなければならないと定める。

 立法府における少数派の発言権を保障するための規定であり、首相や与党の都合で可否を決めていい問題ではない。

 確かに召集時期を決めるのは内閣だ。だが「召集のために必要な合理的な期間を超えない期間内に召集を行うことを決定しなければならない」という内閣法制局長官の国会答弁がある。

 「3カ月以上」は「合理的な期間」だ――。そう言う人がどれほどいるだろう。

 とくに自民党は言えないはずだ。なぜなら野党だった5年前にまとめた憲法改正草案で、少数会派の権利を生かすとの趣旨で、要求から「20日以内」の召集を義務づけているからだ。

 安倍首相は今月初めの記者会見で、「働き方改革」のための法案などを準備したうえで召集時期を決めたい、と語った。

 しかし野党や国民がいま求めているのは、法案審議の場ではない。一連の疑惑の真相を究明し、再発防止策を考える。そのための国会である。

 加計学園の獣医学部新設の背景に首相の意向があったのか否か、関係者の証言は食い違っている。森友学園への国有地売却をめぐっては、格安価格の決定過程について、政府側に虚偽答弁の疑いが新たに浮上した。陸上自衛隊の「日報」隠蔽(いんぺい)疑惑については、稲田元防衛相の関与の有無はあいまいなままだ。

 この間、衆参で計4日間の閉会中審査が開かれたが、真相解明には程遠かった。短時間のうえ、野党が求めた関係者の招致を与党が拒むケースが相次いだためだ。

 そのうえ、臨時国会の召集を先延ばしする与党や首相の姿勢は、疑惑追及の機会を遅らせ、国民の怒りが鎮まるのを待っているようにしか見えない。

 7月の東京都議選での自民党惨敗を受け、首相は「謙虚に、丁寧に、国民の負託に応える」と誓ったはずだ。

 

政治と世論を考える(4) トランプ氏の情報空間(2017年8月24日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 「やつらを見ろ」

 トランプ氏が記者席を指さした。すると会場を埋めた支持者がトランプ氏と声を合わせて「やつらは最も不正直な人間だ」とブーイングを浴びせた。

 昨年の米大統領選。トランプ氏の選挙集会ではメディアたたきが繰り返され、就任後の今もメディア敵視は続いている。

 メディアも黙ってはいない。ウォーターゲート事件の報道でピュリツァー賞に輝いた元ワシントン・ポスト紙記者のバーンスタイン氏は「これほど悪質な大統領は見たことがない」と批判し、メディアがトランプ氏に立ち向かうよう訴えた。

 ニューヨーク・タイムズ紙がアカデミー賞授賞式の中継で流したCMは、「真実がこれまで以上に重要になっている」との文言で結ばれた。メディアは事実を武器に政権と対峙(たいじ)しようとしている。

 ところが、ある世論調査によると、メディアにはフェイク(偽)ニュースが多いと65%の人が信じ、うち共和党支持者では8割に達する。メディア不信は深い。

 トランプ氏も「既成メディアはフェイクだらけだ」と毒づくが、自分の方こそ根拠のない発言を乱発し、取り巻きも同調する。大統領就任式の観客数をめぐる騒動がいい例だ。

 オバマ氏が就任した8年前の時の写真と比べて明らかに少ないのに、当時の大統領報道官は「過去最多だ」と自賛した。これをメディアが疑問視すると、大統領顧問は「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)だ」と真顔で強弁した。

 トランプ氏がツイッターを重宝するのは、既成のメディアを介さず支持者に直接、メッセージを伝えることができるからだ。支持者を扇動する強力な武器になる。だから、いくら批判を受けてもツイッターをやめようとはしない。

 ネット空間では自分の嗜好(しこう)や立場に合った情報だけを選択できる。メディアがトランプ氏の虚偽をいくら指摘しても、こうした別の情報空間にいるトランプ支持者は聞く耳を持たない。支持層がなかなか崩れないのは、これが大きな理由だ。

 だが、自分の気に入らない情報は排除し、好みに合うものだけを受け入れれば、客観性を失い、偏見を自ら助長させる危険を伴う。

 正しい情報や事実に基づかない政治がまともであるはずがない。この歪(ゆが)みは危険である。

 

政治と世論を考える(3) 輿論と世論の違いは?(2017年8月23日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 「世論」と書いて、「よろん」と発音する人もいるし、「せろん」と発音する人もいる。

 京都大学の佐藤卓己教授によれば、一九八〇年の調査では「せろん」と読む人が過半数だったが、それから約十年後には逆転して、「よろん」が六割を占めているのだという。偶然ではない。

 「戦前に教育を受けた世代と戦後の世代で多数派が交代した結果なのです」(佐藤教授)

 「輿論(よろん)」とは「天下の公論」であり、「世論」は明治時代の新語で、大正時代の辞書では「外道の言論、悪論」と書かれているそうだ。だから、戦前に教育を受けた世代が「世論」を「よろん」と読むことはありえないのである。

 軍人勅諭にもこんなくだりがある。「世論に惑は(わ)ず政治に拘(かかわ)らず」−。この場合も「世論」が「外道の言論」なのだからであろう。

 戦後、当用漢字表から「輿」の文字が除外され、「よろん」に「世論」の字が当てられるようになり、「よろん派」「せろん派」の二派が登場することになる。

 では、新聞社が行う世論調査は、「せろん派」で世の中の空気を読むだけの国民感情調査なのだろうか。それとも「よろん派」で、責任ある意見をくみ取る調査なのだろうか。この判定は場合にもよるが、どちらとも言い難い。

 専修大学の山田健太教授は「欧米では社会の階層ごとに読む新聞が違っています。例えば英国ならば上の層ではガーディアン紙、下の層ではイエローペーパーでしょう。しかし、日本の場合は違います。どんな市民でも読むメディアの差はありません」という。

 確かにサラリーマンでも、大学教授でも読んでいる新聞は、ほぼ同様のものであり、メディアの質そのものに大きな違いがない。お年寄りも老眼鏡を頼りにじっくり記事や社説を読む。

 「日本の読者は、新聞を読んで、知識を蓄えているわけで、新聞社の行う世論調査がたんなる『国民感情調査』に陥っているわけではないと思います。知識を持ち、意見を持った『輿論調査』の面もあると思うのです」

 「世論に問う」−。難しい政治テーマについて、こんな言葉を政治家がいう時代になっている。例えば劇場型政治がそうだ。賛成・反対で社会分断を図る。単純な言葉で世論を動かそうとする政治手法にメディアがどう対抗できるか問われる時代でもある。

 

政治と世論を考える(2) 5・15事件と民衆心理(2017年8月22日配信『東京新聞』−「社説」)

 

5・15事件。1932(昭和7)年5月15日に官邸にいた犬養毅首相を海軍将校らが暗殺したテロ事件に対し当然、当時の新聞も厳しい論調で向かった。

 「日本新聞通史」(春原昭彦著)は「かなり大胆にファッショを排撃した。とくにその論旨がきびしかったのは、東西の朝日、新愛知(現中日)、福岡日日(現西日本)」と記している。

 新愛知(中日新聞)の社説は、第2、第3のテロの出現を予測している。そして、「武器を所有するものが、赤手空拳にして何らの防備をも有せざるものに対する場合、それは武力を有するものが勝つに決まっている」と記す。

 だが、それは「物質的な勝利」にすぎないのであって、「人間の意思が暴力でどうすることもできない」と書き進む。そして−。

 「いわんや立憲政治がピストルの弾の10や20のため、そのたびにぐらぐらしてたまるものではないということは、常識のあるものはだれだって知っている」

 大正デモクラシーの息を吸った立憲政治はそれほど強固だと考えられていたのだろう。だが、この事件後、政党内閣の慣例はもろくも打ち破られてしまう。

 もう一つの異変は世論の動向である。国民は何とテロの実行犯に同情的に変化するのである。33年になると、軍法会議が始まり、新聞に裁判記事が載った。

 「東北地方の飢饉(ききん)を聞いて、国軍存立の為にも一時も早く現状打開の必要を感じ…」など被告の心情が報じられると、国民は将校らに清新さを覚え、減刑嘆願書を出すことが大衆運動となった。

 嘆願書の数、実に100万を超えたという。将校らの行動は「義挙」だと国民は感じたのだ。その変化はやはり新聞報道に起因するところが大きかったようである。

 判決はこの国民感情に応えたように軽いものとなる。首相暗殺でも刑はたった禁錮15年。しかも38年には仮釈放である。

 立憲政治はピストルの弾でぐらつかなかったのかもしれない。でも、そこに熱せられた世論が入ると、予期せぬ化学反応を始める。暗殺を義挙だと変換する世論に支えられていれば、暴力は大手を振って闊歩(かっぽ)し始めるのだ。

 今年7月に亡くなった犬養毅の孫道子は当時小学生。母親は米を買いに行っても売ってくれなかったそうである。遺族をも白眼視する、倒錯した群集心理はいつの世も抱え込んでいるのではないか。

 

政治と世論を考える<1> 変革を迫る大きな力に(2017年8月21日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 内閣改造後の3日夕、記者会見した安倍晋三首相は冒頭、謝罪の言葉から切り出した。

 「さまざまな問題が指摘され、国民の皆さまから大きな不信を招く結果となった。改めて深く反省し、国民の皆さまにおわび申し上げたいと思う」

 その約1カ月前、東京都議選の応援演説では「安倍辞めろ」と叫ぶ聴衆に「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と声を張り上げた首相。目を閉じて頭を下げる姿からは「安倍一強」を謳歌(おうか)していたころの高慢な態度は消えていた。

 国政選挙で惨敗したわけでもないのに、なぜ謝罪に追い込まれたのか。それは報道各社の世論調査で内閣支持率が急落したからにほかならない。

 例えば、共同通信社が毎月実施する全国電話世論調査。5月に55・4%あった内閣支持率は、6月に44・9%に急落し、7月には35・8%に続落した。2012年の第2次安倍内閣発足後、最低だ。

 背景には、首相自身が会見で指摘したとおり、森友学園への国有地売却、加計学園による獣医学部新設、防衛省・自衛隊の日報隠しに対する国民の反発がある。

 世論(輿論(よろん)とも)とは「世間一般の人が唱える論。社会大衆に共通な意見」(岩波書店「広辞苑」第6版)を指す。その全体の動向を統計学に基づいて科学的な手法で調べるのが世論調査だ。

 政権の座にある者はしばしば、世論調査結果について「一喜一憂すべきでない」と平静を装うが、内心では気になって仕方がないのが実態だろう。なぜなら内閣支持率は、政権基盤の一部を成す重要な構成要素だからである。

 支持率が高ければ、その政権の政策実行力は強まるし、逆に低ければ反対を押し切ってまで政策を推進することはできない。何より支持率が低ければ次の選挙が戦えないとの空気が蔓延(まんえん)し、首相・党首交代論すら出かねない。

 個別政策も同様だ。世論調査で反対の強い政策を進めるには、よほどの理由が必要となる。世論軽視との批判も覚悟しなければならない。

 有権者の側からすれば、世論の動向は権力者に変革を迫る大きな力となる。政権を代えるのも、政策の方向性を決めるのも、突き詰めれば世論である。

    ×     ×    

 私たちの世論は政治にどんな影響を与えているのか。政治と世論について考えます。

 

アイムソーリー法(2017年8月21日配信『愛媛新聞』−「地軸」)

 

 「悪いことをしたら何て言うの?」「ごめんなさい」「そうだね、気をつけようね」。夏休みも終盤、少しはしゃぎ過ぎた子が電車で叱られていた。素直な横顔がほほえましい

▲かつては皆、そうしつけられたはずだが、大人はなかなか謝らない。何秒頭を下げる、などの「技術」は発達しても嫌々、形だけ。大人の謝罪は責任、つまり地位や金銭が絡む「損得」に直結するから

▲殊に訴訟大国の米国では、過失を認める「アイムソーリー(すみません)」と言ってはいけない―そんな「心得」が語られて久しい。日本も影響されたか、事故を起こしても謝らない人が増えた。非があっても、いや非があるからこそ謝らない、では社会も人の心もすさむ

▲その過ちに気づき、米国の多くの州で「Sorry Law」、通称「アイムソーリー法」が近年、制定された。主に医療過誤で、謝っても後の訴訟で不利にはならないと定める。申し訳ないと思う人としての自然な感情こそが、相手の痛みや怒りを和らげる。誠実な謝罪は、信頼を取り戻す誓いの言葉

▲翻って、日本の政界では、支持率が下がれば「反省する」が、約束した丁寧な説明は「記録も記憶もない」の繰り返し。誠実な言葉はついぞ聞かれない。子どもにはちょっと見せられない

▲「首相が謝るのはなぜ?」「『アイ・アム・ソーリ』だから」。ふと、そんななぞなぞを思い出した。日本にも「謝罪法」を、ぜひ。

 

「安倍総理から日本を守ろう」(2017年8月19日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★首相・安倍晋三は支持率低下で「おごりがあった」と国民にわびたが、その後も元首相・福田康夫が「各省庁の中堅以上の幹部は皆、官邸(の顔色)を見て仕事をしている。国家の破滅に近づいている。政治家が人事をやってはいけない。安倍内閣最大の失敗だ」と極めて強い口調で批判した。首相は休暇中に森喜朗、小泉純一郎、麻生太郎ら歴代首相経験者と会談するなど、先輩に指導を仰ぐことが増えた。

★また「歴代首相に安倍首相への提言を要請するマスコミOBの会」が先月、中曽根康弘以降の存命の元首相12人に要請文を送付。11日までに回答した細川護熙、羽田孜、村山富市、鳩山由紀夫、菅直人の元首相の首相への注文を発表した。この中でも羽田は「安倍総理から日本を守ろう」とし、村山は「国民軽視の姿勢許せぬ」、細川は「国益を損なう」といずれも厳しく首相を批判している。

★首相は他にも、政権に批判的な政治評論家らを相次いで官邸に呼び寄せ、意見を聞いた。その中の1人、田原総一朗は「政治生命を懸けた冒険をしないか」と持ち掛け、首相が前向きに受け止めたといわれるが、結局「訪朝を促した」ようだ。田原は安倍と会う直前まで、「内閣改造で代えるべきは安倍だ」と発言し続けていたが、こうなるともう話題作りの安倍応援団だ。

★たくさんの人に話を聞いて首相がどう変わるのか興味深いが、森友学園事件で“私人”の首相夫人・安倍昭恵付秘書官・谷査恵子が、イタリア大使館1等書記官に異動した。彼女は、詐欺容疑で大阪地検特捜部に逮捕された森友学園前理事長・籠池泰典と、財務省をつないだ連絡係。本来地検の捜査対象だが、奇異な人事だ。付記すれば、南スーダンPKO日報隠蔽(いんぺい)問題の担当者だった防衛省前統合幕僚監部参事官付国外運用班長・小川修子も、中国大使館の1等書記官に異動している。がんばれば守ってくれる。

 

【軽率な発言】政治が劣化していく(2017年8月14日配信『福島民報』−「社説」)

 

政府要人の軽率な発言が止まらない。内閣改造で初入閣した江崎鉄磨沖縄北方担当相は国会答弁で誤らないよう「役所の原稿を朗読する」とし、北方領土問題は「素人」と述べた。政権が掲げてもいない日米地位協定の見直しに言及し火消しに追われている。慎重さと素直さには感服するが、重責を担う閣僚の言葉とは到底思えない。

 南スーダン国連平和維持活動の日報隠蔽[いんぺい]、政府の国家戦略特区制度を活用した学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画など諸問題への政府対応の不満に加え、閣僚らの発言が国民の政治不信を強めているといえよう。言葉は思想や考えを伝える大事な伝達手段であり、発言者の人間性をも表す。不用意な一言が混乱を招き、政治を劣化させることに政治家は気付くべきだ。

 政府要人の心ない言動は内閣改造前からあった。台風被災地で長靴を持たず背負われて水たまりを渡った内閣府・復興政務官は「長靴業界はもうかった」と述べて辞任。東日本大震災の被害に関し「まだ東北で良かった」と言った復興相も椅子を追われた。極め付きは安倍晋三首相の都議選での「こんな人たちに負けられない」発言だろう。自民党大敗を受けて反省の弁を述べたが、国を束ねる最高責任者が国民を敵と味方に分断する発言をするとは驚いた。

 各種世論調査で安倍内閣の支持率は軒並み大幅に下落した。不支持の理由は「首相が信頼できない」がトップを占める。発言の裏に権力者の傲慢[ごうまん]さや国民軽視を感じ取る人が増えたためだろう。国民の支持を失えば、政治は行き詰まるに違いない。

 乱発されるスローガンも言葉の価値を軽んじているように映る。改造内閣の看板政策である「人づくり革命」には「上から目線だ」「政府に都合の良い人間を育てる意味か」などの批判が上がる。「1億総活躍」「教育再生」は成果を生んだのか。検証し、事態を改善して初めて言葉に実体が伴うはずだ。

 日報隠蔽と「加計学園」の獣医学部新設計画の問題は国会の委員会で審査されたが、肝心の当事者が出席しない事例が目立つ。これでは問題解明は進まない。真相を明らかにして国民の信頼を取り戻そうという誠意が政府にはないのか、と勘ぐりたくなる。

 安倍首相は先の通常国会閉幕を受けた記者会見で「信なくば立たず。何か指摘があれば、その都度、真摯[しんし]に説明責任を果たす」と表明した。忘れたわけではあるまい。政治の世界で「言行一致」はいまや死語なのだろうか。

 

岐路の安倍政権 自民党 「異議なし」体質の転換を(2017年8月14日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が今回の内閣改造の大きな目玉にしようとしたのは、これまで首相と距離を置いてきた野田聖子総務相の起用だった。

 首相は「耳の痛い話も直言してくれた」と野田氏を評価した。今後は異論にも耳を傾けていくとの姿勢を見せたかったのだろう。

 安保法制や「共謀罪」法など国民世論を二分する法律を「反対する者は敵だ」とばかりに数の力で強引に成立させてきた首相である。政治姿勢を改めるのは当然だ。

 ただし同時に変わらなくてはならないのは自民党だ。「安倍1強」の下、異論というより、もはや議論そのものが乏しくなっているからだ。

 例えば憲法改正だ。支持率急落を受けて首相は自民党の議論に委ねる方針に転じたが、それまで党側はほとんど首相の言いなりだった。

 しかも400人を超える所属国会議員全員を対象に開いた7月の憲法改正推進本部の会合に出席したのは全議員の2割程度。そもそも関心がないのでは、とさえ疑わせた。

 例外がなくはない。受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案は党内で反対意見が収まらず、国会に提出できない状況が続く。だが、これは「活発な議論」という以前に、時代の流れを見誤っている姿を見せつけているだけだと言っていい。

 自民党は今、衆院議員の約4割を当選1、2回生が占める。安倍首相が自民党総裁に返り咲いた後に当選した議員だ。首相はこの若手を中心に「安倍色」のみに党を染めようとしてきた。議論なき政党にしてしまった首相の責任は大きい。

 一方で若手議員による国会審議などとは無関係の不祥事が相次ぎ、議員の劣化が深刻になっている。さまざまな要因があろうが、党として日常的に政策論議を重ねる習慣がなくなっているのも一因ではないか。

 かつての自民党にはハト派からタカ派まで混在し自由に議論を戦わせてきた。幅広さや多様性が国民に安心感を与えていたのは確かだ。

 その意味で今回、外相から党政調会長に転じた岸田文雄氏の役割は重要だ。多様な政策議論を重ねたうえで、決まったらそれに従う。そんな党に再度転換できるかどうか。岸田氏とともに「ポスト安倍」を狙う石破茂氏らにとっても課題となる。

 

新内閣の「におい」(2017年8月12日配信『山陰中央新報』−「明窓」)

 

 気分転換に部屋の模様替えをしてみたが、染みついたたばこの臭いは消えず、消臭スプレーを振りまいた。内閣の顔触れが変わって約1週間。東京都議選を境に急落した支持率は、狙い通りにやや持ち直したようだ。ただ安心するのはまだちょっと早い

▼支持率が「危険水域」とされるレベルまで落ちた原因は、指摘されるさまざまな問題を通して、国民がある種の「におい」を感じ取ったからのような気がする。特に人口密度が高い東京は、満員電車など対人距離が近く、普段からにおいには敏感

▼一種のうさんくささや「危ないにおい」、長期政権に伴う加齢臭もあるのかもしれない。ちょうど汗をかく時季。内閣改造という洗濯の機会を持つことで、何かのCMのように「においスッキリ」や「白さが際立つ」に戻したかったのでは

▼顔触れを見ると、今回は何カ所かに付いた泥汚れを落とすのが主眼だったのか、使い慣れた洗剤を使い、漂白剤を2杯混ぜた程度。はやりの香り付き柔軟剤は手控えた感じだ

▼新聞用語では、においの良しあしで「匂い」と「臭い」を書き分ける。変わった時期は覚えてないが、昔は平仮名の「におい」だった。ただし今でも判別が難しい場合は平仮名書き。新内閣の「におい」は平仮名で様子を見る

▼せっかく洗濯したのなら生乾きのままにせず、疑念の隅々まで日にさらす天日干しがニオイには効果的だと思う。そうでないと、国民の反応がこの先「臭いニオイは元から絶たなきゃダメ」となりかねない。

 

岐路の安倍政権 政と官 お追従をはびこらせるな(2017年8月8日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 改造内閣が直視すべき課題に、ゆがんだ「政と官」の関係の見直しがある。首相官邸の官僚に対する行き過ぎた統制や、それに伴う官僚の変質が安倍内閣の迷走に影響しているとみられている。

 中央官庁の官僚が安倍晋三首相ら官邸の意向をおもんばかり迎合するように政策を調整し、情報開示を拒む。その風潮は「そんたく」という言葉に象徴されている。

 首相の友人が理事長を務める加計学園の獣医学部新設問題もそうだ。内閣府の官僚が「総理のご意向」をかざして文部科学省に認可を迫る内部文書が判明した。菅義偉官房長官はそれを「怪文書」扱いし、文科省も最初は存在を認めなかった。

 森友学園の小学校建設問題では籠池泰典前理事長が首相夫人の昭恵氏との親密さをアピールしていた。国有地売却で8億円の値引きに国はなぜ応じたのか。財務省はいまだに実態解明に協力していない。

 政と官の変質は2014年5月、内閣人事局の発足が転機となった。官庁の幹部人事を一元管理することで、省益優先やタテ割りの打破を目指すとのふれこみだった。

 ところが、安倍政権の一連の幹部人事には、自らの意に沿う官僚を選別して重用したり、気に入らない官僚を排除したりする手段に制度を利用した疑念がつきまとう。

 人事による冷遇をおそれた官僚たちは意見を言わなくなり、首相や官房長官へのお追従(ついしょう)が幅をきかせるようになってきた。

 民主的に選ばれた政治家が大きな方針を示す政治主導は当然だ。しかし、政と官は単なる上下関係ではなく、協業関係にある。官僚が政権に迎合し、緊張関係を失うようでは組織は劣化してしまう。

 改造人事では加計問題への関与が文書で指摘された萩生田光一前官房副長官に代えて、事務トップの杉田和博副長官を人事局長にあてた。とはいえ官僚を実質統括する菅氏は留任しており、基本は変わらない。

 いったんはびこった風潮を改めていくためには、適正な公文書の管理や情報公開が欠かせない。

 何よりも、官僚は国民全体の奉仕者であり、政権の奉仕者でないことを首相や菅氏は認識すべきだ。それが権力者のたしなみである。

 

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内閣改造と経済 「道半ば」を脱するときだ(2017年8月8日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 結果を出すことを強調する「仕事人内閣」を掲げるなら、もう「道半ば」という言い訳は通用しなくなる。

 安倍晋三首相が内閣の最優先課題とする経済の再生についてである。

 成否を判断する上で注視されるのは、再来年10月に予定される消費税率10%への引き上げだ。首相は民放番組で「予定通り行っていく考えだ」と明言した。

 むろん、それは増税に耐え得る力強い経済の実現が、前提として欠かせない。

 2度にわたり増税延期を判断したときのように、景気が腰折れする懸念を残してはおけない。経済最優先を看板倒れにせず、成果を積み重ねる責務がある。

 4年半を超える安倍政権下で、多くの企業が収益を高め、雇用も大幅に改善した。景気を上向かせてきた政権の実績を、過小評価するのは適切でない。

 それでも国民の多くが景気回復を実感できずにいる。所得拡大が消費を喚起し、積極的な企業活動につながる−という経済の好循環を果たせていないからだ。

 企業はいまだ前向きな投資に及び腰であり、賃上げも力不足である。個人の節約志向も相変わらずだ。政権に期待するのは、長期デフレで染みついた縮み志向を払拭する大胆な環境づくりである。

 景気を一時的に刺激するだけでは、この局面を大きく変えることはできまい。

 アベノミクスの第3の矢である成長戦略が不十分なことは、繰り返し指摘されてきた。首相はそれにどう向き合うか。

 農業や介護、観光など新たな成長分野を育てる規制緩和や構造改革を加速し、企業や個人が将来を展望できるようにするには何が必要か。

 経済政策の足らざる部分を検証し、これを打開する具体的な政策こそが肝要である。負担増を伴う改革の断行にも目をつむるべきでない。

 政権に対する国民の信頼に揺らぎがみえる中、首相には、経済政策を政権浮揚の起爆剤にしたいという思いもあるだろう。

 だがそれは「人づくり革命」などキャッチフレーズを掲げるだけでは果たせまい。

 新たな看板がバラマキを誘発するようでは、アベノミクスへの期待を減じる逆効果を招きかねないと厳しく認識すべきである。

 

政権批判「福田の声」無視するな/政界地獄耳(2017年8月7日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★元首相・福田康夫と言えば冷静沈着でクールなイメージだが、意外と感情をあらわにすることもあった。福田内閣では官房長官を現首相・安倍晋三が務めたが、安倍はどんなことを学んだのだろうか。福田内閣は今問題となる内閣人事局や公文書管理体制を早くから訴えてきた。「政府や自治体が持つ記録は、国民の共有財産なのだから、大事に保存して次世代に引き継がなくてはいけない」という発想が、今の霞が関幹部や政府中枢に理解が及んでいないことが最大の失敗だ。

★内閣改造と前後して、福田は安倍政権に苦言を呈すインタビューを受けた。「各省庁の中堅以上の幹部は皆、官邸(の顔色)を見て仕事をしている。恥ずかしく、国家の破滅に近づいている。官邸の言うことを聞こうと、忖度(そんたく)以上のことをしようとして、すり寄る人もいる。能力のない人が偉くなっており、むちゃくちゃだ。自民党がつぶれる時は、役所も一緒につぶれる。自殺行為だ。(内閣人事局について)政治家が人事をやってはいけない。安倍内閣最大の失敗だ」とした。

★また安倍内閣を「(自民党内に)競争相手がいなかっただけだ。(脅かすような)野党もいないし、非常に恵まれている状況だ。そういう時に役人まで動員して、政権維持に当たらせてはいけない」。これほど痛烈な政権批判はない。福田は派閥経由で安倍に直接苦言どころか直言も可能な立場だ。それをわざわざ取材に答える形でメディア経由で伝える手法を選んだ。それ相当の思いがあったはずだ。ところが内閣人事局について変えていこうとか、公文書についての議論を深めたいという声は党からも閣内からも聞こえてこない。福田の声に正面から向き合わずして改革も革命もないはずだ。無視するな。

 

(2017年8月5日配信『河北新報』−「河北春秋」)

 

「1億総活躍社会」「女性が輝く社会」「未来投資」「地方創生」「働き方改革」「地球俯瞰(ふかん)外交」…。商業ビルの出店のように、事あるごとに新看板の公約を増やす安倍政権。それらの成果も定かならぬうち、先日の内閣改造で新手が現れた

▼「人づくり革命」。経済再生担当相の兼務というが、「いったい何なの?」の声が周囲にもネットにもあふれる。中身は保育や教育の無償化といった政策の看板掛け替えで、4兆円を超えるという財源確保も見通せない

▼採決強行で支持率が落ちたりすると、受けの良さそうな新看板で目先を変える。それが政権の常の策だった観があるが、加計(かけ)学園疑惑、陸上自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)問題などで国民の信頼が薄らぐ今、唐突な「人づくり革命」の言葉に説得力はあるのか

▼「人づくりとは何ぞや」を考えたら、父親が大切にする桜の木を切ったことを告白したジョージ・ワシントンの逸話が浮かんだ。初代米国大統領の原点は「勇気をもって正直に語る」ことだったと誰もが知る。が、子どもが出合う世の矛盾は「正直でない大人」が多いこと。政治家が代表格と見られている悲しき現実も

▼社会の宝である子どもの成長、子育てを国が助けるのは当然。だが、安易な看板掛け替えは「仏作って魂入れず」の類いになる。

 

(2017年8月5日配信『デイリー東北』−「天鐘」)

 

 そろばんが学校教育に導入されて百年以上がたつ。今は小学3、4年生が算数の授業で学ぶ。昔と同じように「ご破算で願いましては」という声が教室に響いていると思ったら、実際は違った

▼「願いましては」が使われることはあっても、「ご破算」は聞かれない。八戸市内の珠算教室の指導者に聞くと、もう20年ほど前から大会でも用いなくなったそうだ。若い世代には、もはや死語かもしれない

▼ご破算とは、そろばんの珠(たま)を払って零の状態にすること。読み手が「これから計算をお願いします」と告げ、新たな計算に入ることを示す。それが転じて、今までの状態を白紙に戻す意味でも使われるようになった

▼共同通信の世論調査で、安倍内閣の支持率が前回調査より上昇し、支持が不支持をわずかに上回った。支持する理由で最も多かったのが「ほかに適当な人がいない」。積極的な支持とは言い難い

▼首相は「加計(かけ)学園」などの問題で国民の不信を招いたとして、低下した支持率の回復を狙いに内閣改造に踏み切った。説明不足を反省し、謙虚な姿勢への転換も強調した。それが本音か、国民は今後の言動を注視する

▼自民党は野党が求めた稲田朋美元防衛相の閉会中審査への参考人招致を拒否した。「元大臣は辞任で責任を果たした」「新大臣の対応で十分」との考えらしい。よもや、まだ問題が解けていないのに、これでご破算のつもりでは。

 

改造内閣への注文(下) 経済最優先の原点に戻って改革を(2017年8月5日配信『日経新聞』―「社説」)

 

 2012年末に発足した安倍晋三政権は日本経済の再生を掲げ、その経済政策「アベノミクス」は流行語となった。それから4年半が過ぎ、雇用や企業業績は改善したが、中長期の持続的な経済成長につながる改革は道半ばだ。

 内閣改造を機に、首相はその言葉通り「経済最優先」の初心に帰って政策に取り組むべきだ。

持続可能な成長戦略を

 安倍首相は政権発足時にアベノミクスの3本の矢を掲げた。第1が大胆な金融政策、第2が機動的な財政政策、第3が規制改革を含む成長戦略だ。安倍政権が経済再生に強力な政策を進めるという発信が、企業心理の好転につながり、海外投資家の日本経済を見る目を変えたのは事実だ。

 法人実効税率の引き下げや電力・ガス小売市場の自由化、コーポレートガバナンス(企業統治)改革、農協改革、外国人訪日客の拡大など、一定の成果をあげた政策もある。

 環太平洋経済連携協定(TPP)への参加や、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の大枠合意など、通商政策でも前進があった。

 日銀が掲げた2%の物価安定目標にはなかなか届かないが、物価が持続的に下落するデフレの状況からは脱し、企業収益や雇用情勢は大きく改善した。足元の経済状況は4年半前に比べれば好転したが、課題はなお多い。

 経済指標が改善しているとはいえ、まだ日銀の大量国債購入など異例の金融緩和や財政刺激策に支えられているなかでの景気回復である。首相は5月、憲法改正を優先課題として打ち上げたが、それよりも経済再生を優先し貫徹してほしいと国民の多くは望んでいるのではないか。

 改造内閣の閣僚の顔ぶれをみると各分野に精通した人物の起用が目立つ。首相と経済政策を担う閣僚には、目先の景気だけではなく将来世代への責任を直視した経済再生に取り組んでほしい。

 首相はこれまで2020年を意識した発言をしばしばしてきた。東京五輪開催の年であり、その年を目標に様々な開発プロジェクトなどが進んでいる。

 だが、日本は東京五輪で終わるわけではない。五輪特需後のその先に難題が多いのだ。25年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、医療費は急増する。

 社会保障費の伸びを抑えながら、巨額にのぼる国の借金を減らし、財政健全化を進める必要がある。高齢者への給付抑制や消費税率上げなど負担増の議論から逃げるべきではない。真の経済再生とは、中長期的に持続可能な経済成長の道筋をしっかり示し、その歩みを着実に進めることだ。

 それには、労働生産性を上げ潜在成長力を高めると同時に、社会保障改革や財政再建の見取り図を示し若年層が抱く将来の負担増への不安を払拭することが重要だ。足元の景気を良くしても、将来世代に大きなツケを残すのでは、責任ある政策とは言えない。

 その点で気になるのは支持率低迷に悩む安倍政権が目先の人気回復をねらってバラマキ政策に出る恐れがあることだ。

将来世代へツケ回すな

 首相は7月下旬の講演で、教育無償化の財源として教育国債を排除しない考えを示した。人材への投資は重要だが、そのために借金を膨らませ将来世代に負担をおしつけるのであれば問題だ。建設国債で賄う公共事業も、現在の建設現場の人手不足を考えれば、むやみに拡大すべきではない。

 経済最優先といっても、従来型の金融・財政刺激策の追加が求められているわけではない。景気が好転している今は、技術革新や生産性向上につながる規制改革、中長期の成長に向けた構造改革を断行すべき時だ。

 雇用環境が良好で企業の倒産も少ない今こそ、不況期には難しい雇用市場の改革などに取り組まなければならない。

 加計学園問題などで議論になった国家戦略特区も、既得権益層の抵抗の強い岩盤規制を突破するのには有効な手段だ。透明性を確保したうえで、成長力の強化につながる規制改革はさらに加速してほしい。

 安倍政権が再び経済最優先に戻り、将来世代もにらんだ経済改革を進めるならば、国民の政権を見る目もまたかわるのではないか。

 

少子化と内閣改造 予算確保で本気度を示せ(2017年8月5日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 少子化が続けば、いずれ社会は成り立たなくなる。その対策には一刻の猶予も許されない。

 昨年の年間出生数が100万人の大台を割った。婚姻件数は戦後最少を記録し、30代以下の母親の出生数が軒並み前年を下回った。

 ところが、内閣改造後の記者会見で、安倍晋三首相から危機感の表明すらなかったのは極めて残念である。

 今後、出産可能な年齢の女性が減っていく。このため、出生数の下落は当分続くと予想される。政府が当面すべきことは、減る勢いを抑えることだ。

 少子化対策の取り組みを成功させるには、大胆な予算の確保をはじめ、トップリーダーの強い意志を国民に示すことが不可欠である。それだけに、今回の内閣改造においては、安倍首相の姿勢が問われていた。

 少子化は、将来の社会の支え手不足に直結する問題だ。子供たちが社会に出るには20年近い年月を要する。いま対策を講じなければ、その影響は後の世代に深刻な形で表れる。首相には、ただちに着手すべき「喫緊の課題」であるとの認識をもってほしい。

 少子化対策担当相を置くには置いたが、松山政司1億総活躍担当相の兼務である。松山氏は情報通信技術(IT)やクールジャパン戦略、科学技術など数多くの政策を担っている。これでは、本腰を入れる時間的な余裕などとてもないだろう。

 多忙を言い訳に少子化対策が後回しにされることがあってはならない。首相には、加藤勝信厚生労働相など関係閣僚と連携強化させることで、松山氏をバックアップする態勢を整えてもらいたい。

 結婚や出産を希望しながらかなわない人は少なくない。その原因や理由も、雇用問題や出会いの場の少なさ、保育所不足などさまざまだ。少子化対策に即効薬はなく、地道な政策を積み上げていかなければならない。

 大きな課題は財源である。政府・与党内には「子ども保険」などのアイデアも浮上している。だが状況の深刻さを考えれば、一般財源で思い切った予算確保をしないかぎり、政府の本気度は国民に伝わらないだろう。

 安心して産み育てられる社会を取り戻さなければ、出生数の回復は望めない。今ほど政治家の力量が問われているときはない。

 

日報と加計 改造で幕引きにするな(2017年8月5日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 「大きな不信を招く結果となり、改めて深く反省し、おわび申し上げる」

 安倍晋三首相は内閣改造後に行った記者会見で、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)や加計学園の獣医学部新設に触れ、深々と頭を下げた。

 神妙な姿勢を見せたものの、今後の解明には不安が残る。改造で幕引きを図ることは許されない。

 日報問題では10日に衆院安全保障委員会の閉会中審査を行うことが決まった。参院外交防衛委員会での実施も自民、民進両党の参院国対幹部が一致している。

 自民は、稲田朋美元防衛相の参考人招致を拒んできた。きのうの民進との会談でも「新しい防衛相に質疑に応じてもらう」とし、稲田氏の招致は不要とした。

 「廃棄済み」とされた日報が実際は電子データで残っていたことが発覚した問題だ。経緯を調べた特別防衛監察の結果は、稲田氏がデータ保管の報告を受けた可能性を否定できないとしつつ、非公表とする方針を了承した事実はないと結論付けた。

 これに対し、複数の政府関係者が報告、了承はあったと証言しており、言い分の食い違いが残ったままだ。省内でどんなやりとりがあったのか、稲田氏本人から聞く必要がある。新しい防衛相との質疑だけでは解明できない。

 稲田氏は在任中、国会で「徹底的に調査し、改めるべき隠蔽体質があれば私の責任で改善していきたい」と述べていた。辞めたからといって済む問題ではない。委員会に出て説明するのが筋だ。

 加計学園を巡る問題も議論は平行線で依然、真相がはっきりしない。文部科学省が国家戦略特区を担当する内閣府とのやりとりを記した文書には「官邸の最高レベルが言っていること」などの表現があった。しかし、内閣府側は発言を否定している。

 政府が閣議決定した獣医学部新設の条件を満たしていると判断した根拠も分からない。

 国会で答弁に立ってきた文科相と特区担当の地方創生担当相は改造で交代した。「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」との発言などが記されていた官房副長官も外れている。関係閣僚らが入れ替わったことで問題がうやむやになりかねない。

 首相は特区に関する省庁間の交渉過程について今後、議事録を作り、透明化する方針を示した。その前に、まずは疑惑の解明だ。両問題の経緯を調べ直し、国会で説明するよう求める。

 

(2017年8月5日配信『伊勢新聞』−「大観小観」)

 

▼所変われば品変わる。品定めもまた―。改造内閣の発足を受け、鈴木英敬知事が「政策通で、説明能力の高い方々が多い印象。信頼回復を目指している」。自民党総裁三選危機回避に、安倍晋三首相が知恵を振り絞ったなどという見方はしないのだろう

▼斎藤健農林水産相に期待する理由が農業政策ではなく「海外の知見に詳しい」ため。GAP認証取得に有利という皮算用だが、農業改革の行方や、クロマグロの違反操業が都道府県随一だったことなどは気にならないらしい

▼野田聖子総務相への期待感は同感。「子育て世代の味方」は、兼任の女性活躍担当相としてだろうが、かつて国会議員の女性枠を主張し、特別扱いすべきではないという高市早苗前総務相と対立していた。放送法の解釈を巡り報道機関との間でぎくしゃくした関係を修正する深謀遠慮も、三選を目指そうという首相にはあった気がする

▼「説明能力の高い方々が多い印象」は、手堅い顔ぶれということか。人心一新とは逆行するが、知事がどうこう言うことではないのだろう。共同通信の7月世論調査は、内閣不支持率の理由の五割強が「首相が信頼できない」。根本を変えられない人事に、人心一新など関心外だったか

▼支持率急落は第一次安倍内閣の終末期を連想させるが、当時官邸スタッフだった知事は「年金問題もそうでしたけども、農水大臣が自殺をされた時の衝撃とか、追い込まれ感は半端なかった」。外にいる今は、当時との比較などとてもできないという。首相の危機感などはもう感じられなくなっているということかもしれない。

 

改憲案先送り  国民の厳しい視線受け(2017年8月5日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 自民党の憲法改正案について、安倍晋三首相は、秋の臨時国会への提示を事実上先送りする、と表明した。

 内閣改造後の記者会見で「スケジュールありきではない」と軌道修正したのは、内閣支持率の続落を気にしてのことだろう。

 5月3日の憲法記念日に、2020年の新憲法施行をめざすと宣言し、首相主導で党内の取りまとめを急がせていた。臨時国会に改憲案を示し、来年の通常国会で発議、秋に国民投票というシナリオも取りざたされた。

 「安倍1強」の勢いで改憲に突き進む姿に、多くの国民は危うさを見ていたのではないか。

 先月の共同通信世論調査で、内閣支持率が35・8%と第2次安倍政権発足以降で最低を記録し、安倍政権下での改憲に反対が54・8%もあった。

 国民の厳しい視線を、首相はもっと深刻に感じるべきなのだ。

 自民党の新執行部は、さすがに危機感を抱いているようだ。再任された二階俊博幹事長は「慎重の上にも慎重に、国民の意見をうけたまわる」と改憲への性急な議論を改める姿勢を示している。

 やはり再任された高村正彦副総裁が「憲法は党にお任せいただき、内閣は経済第一でやってほしい」と進言したところ、首相は了承したという。

 確かに首相は会見で、改憲の持論を封じ、経済最優先を強調してみせた。しかし、これまでも経済優先と選挙で訴えながら、実際はどうだったか。国の方向を大きく変える特定秘密保護法や安全保障関連法、共謀罪を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法などを、数の力で国会に通してきたではないか。

 強引な手法は、高い支持率からくる慢心が根っこにあったろう。改憲の先送りが一時しのぎなら、世論の動向を見て、再び改憲へ強行ぶりを発揮するかもしれない。

 内閣改造で問題閣僚を切り、反省を口にすることで、支持率の回復を狙っているのだろう。

 安倍氏の改憲意欲は変わっていないと見るべきだ。

 憲法記念日の改憲発言には、9条に1項、2項を残したまま自衛隊を明記する案があった。自民党草案の頭越しに、これまでの議論の積み重ねをないがしろにするものだ。

 安倍氏は「結果を出す」と繰り返す。しかし、民主主義は結果に至る過程を何よりも大切にすることで成り立つ。憲法をめぐる議論は、国民参加で時間をかけて交わすべきことだ。

 

首相の悪夢(2017年8月5日配信『長崎新聞』−「水や空」)

 

 そうか、この人が環境相の頃に広めた言葉だっけ、と思い当たる。リデュース(ごみの排出を抑える)・リユース(再使用)・リサイクル(再生利用)を指す「3R」。先の改造内閣をこれになぞらえたのは東京都知事の小池百合子氏

▲就任2年目に入った氏の講演を東京で聞いた。「スキャンダルをリデュースし、閣僚経験者をリユースして、ちょっとリフレッシュという感じ」。手堅くまとめた内閣を評する口ぶりに、どこか余裕がにじむような

▲氏の率いる地域政党が都議選を圧し、次は国政に食い込むつもりかと与野党の警戒心をあおる。衆院議員の任期は残り1年4カ月ほど

▲それまでの、どの時点かで安倍首相が解散を探るとすれば、小池氏の算段が気にならぬはずはない。思えば氏も、かの「郵政選挙」で造反組へのW刺客Wを演じた

▲今ならより多く勝てる、という理由だけで首相がいきなり総選挙を打ち、自民大勝したのは2014年12月。「大義がない」と言われようがどこ吹く風だった頃からすると、悪い夢でも見ている心地だろう

▲「クールビズ」を広めたのも小池氏だったと思い出す。長期政権の緩みやおごりも強引さも、今は脱ぎ捨ててクールダウンに徹すべし−と分かっていながら、首相には汗が止まらず、息が上がるほどの酷暑だろう。

 

[日報・森友・加計問題]疑惑解明へ臨時国会を(2017年8月5日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽(いんぺい)、国有地が8億円以上も値引きされて払い下げられた森友学園問題、獣医学部新設を事実上1校だけに認めた加計(かけ)学園問題−。

 疑惑の3点セットを積み残したまま安倍改造内閣が4日始動した。安倍晋三首相が自ら真相解明の先頭に立たなければ、国民の信頼を取り戻すことはできない。

 PKO日報問題を巡り、10日に衆院安全保障委員会と参院外交防衛委員会で閉会中審査が行われることが決まったが、野党が求める安倍首相、稲田朋美前防衛相の出席を自民党は拒否している。

 稲田氏は辞任の際の記者会見で国会に呼ばれれば出席する意向を示していた。

 辞任したからといって国民への説明責任がなくなるわけではないのに信じがたい対応である。政権の「隠蔽体質」は変わっていないと言わざるを得ない。疑惑が持たれれば、率先して解明に尽くすのが大臣とその任命権者が取るべき道である。

 日報隠蔽問題は稲田氏が関わっていたかどうかが最大の焦点だったが、特別防衛監察の結果はあいまいな結論しか出さなかった。

 一方で陸自側から保管の事実を伝えられた稲田氏が国会で「明日、何て答えよう」と発言する詳細なメモの存在が明らかになっている。稲田氏は報告を受けたことも、非公表を了承したこともないと国会で全否定しており、食い違っている。真相解明には辞任した防衛省・陸自トップらの出席も不可欠だ。

■    ■

 森友学園問題の核心はなぜ国有地が8億円以上も値引きされて売却されたかである。

 近畿財務局と学園前理事長の籠池泰典容疑者側が売却価格を決める前に具体的な金額を出して交渉していた音声データがある。籠池容疑者夫妻、弁護士、設計・施工会社の打ち合わせメモも明らかになっている。国側が低価格で売却することに前向きと受け取られるやりとりである。

 小学校名誉校長を務めていた安倍昭恵首相夫人の影響や官僚の忖度(そんたく)はなかったのか。その解明も必要だ。

 加計学園問題で首相側は「記録がない」「記憶がない」との答弁を繰り返した。疑惑は解消されるどころか膨らむばかりだ。安倍首相の数十年来の友、加計孝太郎氏が理事長を務めており、決定が公正・公平になされたのか。加計氏の証人喚問も欠かせない。

■    ■

 三つの問題に共通するのは文書の廃棄、権力私物化の疑い、誠実さに欠ける答弁などである。安倍首相は改造内閣発足後の記者会見で「深く反省し、おわび申し上げる」と頭を下げた。異例の陳謝が本気なのかが問われている。

 共同通信の世論調査で安倍内閣の支持率は44・4%に回復したが、不支持と拮抗(きっこう)している。支持の理由は「ほかに適当な人がいない」、不支持の理由は「首相が信頼できない」がそれぞれ最も多い。信頼回復は簡単ではなさそうだ。

 安倍首相は、野党が憲法に基づきただちに求めている臨時国会を開き、疑惑の解明に当たるべきだ。

 

「革命」よりも成果の報告を(2017年8月5日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

  

★新内閣にメディアは、キャッチフレーズを付けたがるものだ。毎回、目的は分かるが、一向に実現しないスローガンが安倍内閣には付けられる。3日の内閣改造で経済財政再生担当相に就任した茂木敏充が、人づくり革命担当を兼務する。首相・安倍晋三は国会閉会後の6月19日の会見で、人材育成への投資政策に言及。今月中には有識者会議「みんなにチャンス構想会議」も発足させる。

★しかし中身を聞くと、大学の高等教育や幼児教育の教育費無償化、待機児童の解消、社会に出た後も生涯にわたって労働と教育を交互に行う教育システム「リカレント(循環する、の意味)教育」を目指すという。年内に基本政策を策定、来年度予算で4兆円規模を予定しているそうだ。この方針について共産党の小池晃は、「内閣改造があったが、革命という言葉をね、軽々しく使わないでほしいと思います。革命っていうのは、もう政治権力が変わるわけですよ。ある階級からある階級に政治権力が変わるような重い言葉だと思う」と、「革命」に不快感を示した。

★小池に指摘されるまでもなく、この政策は革命でも何でもない。まして、これまでの一億総活躍だとか女性活躍だとか、組閣のたびに生まれるスローガンの進捗(しんちょく)や中間報告はないものか。地方創生は、特区構想で大学設置という「結果」を見せてもらった。安倍政権になってからも多くのキャッチーな政策が発表されたが、その成果がまるで見えてこない。その最たるものがアベノミクスでもある。革命よりも、成果の報告を見せてほしい。4兆円の予算ありきの革命とは、一体何を目指すのか。

 

改造内閣発足 民意と向き合う姿勢こそ(2017年8月4日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 第3次安倍第3次改造内閣がきのう発足した。自民党の役員人事も併せて行われた。

 安倍晋三首相は、官房長官、党幹事長の留任で政権の骨格を維持する一方、批判を浴びてきた側近の重用は避けた。閣僚経験者や、首相と距離を置いてきた野田聖子氏らも起用した。

 学校法人「加計(かけ)学園」や陸上自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)問題で支持率が急落する中、挙党態勢を築き政権基盤の安定を図る狙いなのだろう。

 組閣後の会見で首相は、政治不信を招いた責任を認めて陳謝した上で、改造内閣について「結果本位の仕事人内閣」だと強調した。

 だが、官邸主導の名の下で与党内の議論や国民への説明をないがしろにしてきた首相の政治姿勢を改めなければ、内閣改造で目先を変えたところで、国民の信頼回復は望めまい。

 慢心やおごりを排し、民意と謙虚に向き合えるのか。首相に問われるのはその点である。

■期待がしぼんだ1年

 内閣改造は昨年の8月以来、1年ぶりとなる。

 前回の改造直後、共同通信の世論調査で内閣支持率は52・9%、不支持率は30・9%だった。それが先月中旬には支持35・8%、不支持53・1%と逆転した。

 直接のきっかけは加計学園などの問題だ。首相自身、丁寧な説明を口にしながら自らと閣僚の保身を優先し、事態を悪化させた。

 しかし根底にあるのは、「安倍1強」と言われるほど権力が集中する中で、議論を軽視して突き進んできた首相に対する国民の不信感ではないか。

 特定秘密保護法、安全保障関連法に続き、いわゆる「共謀罪」法を、参院の委員会採決を省略する中間報告という奇手まで使って、数の力で強引に成立させた。

 一方、看板であるアベノミクスは、大規模な金融緩和もあって企業業績こそ改善したが、肝心の個人消費は一向に盛り上がらない。すでに限界は明らかだ。

 「女性が輝く社会」「1億総活躍」「働き方改革」などのスローガンは、「道半ば」のまま次々と置き換えられてきた。

 対アジア外交では国内の強硬論にばかり目を向けた結果、中国、韓国との溝を埋め切れず、最大の懸案である北朝鮮対応で足並みをそろえられていない。

 北方領土問題では、当初は大きな進展を期待させながら、帰属の問題では前進がなく、共同経済活動の前提となる「特別な制度」の姿すら見えないのが現状だ。

 そんな中で相次いだ不祥事や疑惑が引き金となり、国民の信頼の失墜を招いたとみるべきだ。

■許されぬ「疑惑隠し」

 内閣改造には、こうした政権運営の行き詰まりを打開する狙いもありそうだ。

 ならば首相に求められるのは、独善的との批判がある政権運営を徹底的に改めることだろう。

 そのためには、閣僚がイエスマンであったり、首相の意向を忖度(そんたく)することがあってはならない。

 とりわけ野田氏や、外相に起用された河野太郎氏には、内閣としての意思統一にあたり正面から首相にもの申す姿勢が求められる。

 今回の改造では、国会の焦点である加計学園問題に関わってきた文部科学相と地方創生担当相が、そろって交代した。改造前には陸自の日報問題で、稲田朋美氏が防衛相を辞任している。

 担当閣僚が代わったからといって、政府が説明責任から逃れられるわけではない。

 自民党は稲田氏の国会閉会中審査出席を拒否しているが、これでは閣僚交代が「疑惑隠し」だと受け止められても仕方あるまい。

 野党側は、森友学園への国有地払い下げ問題も含め、国会での徹底究明を求めている。

 首相は「丁寧な説明」を口にしている。野党の求めに応じ、臨時国会を召集するのが筋だ。

■異論にも耳傾けねば

 首相は、任期中の改憲を目指す姿勢を崩していない。議論を仕切る高村正彦副総裁を続投させたのもそのためだ。

 ところが首相の性急な姿勢には党内でも異論が強まっている。

 憲法改正推進本部の全体会合では、憲法に高等教育の無償化を明記する案に消極論が相次いだ。

 党四役人事では、外相だった岸田文雄氏が政調会長に就任した。

 岸田氏は会見で、党内の議論の環境を整えると述べる一方で、9条改正をいまは考えないとしてきた持論は「従来と変わっていない」と明言した。

 公明党の山口那津男代表も、首相が提案した9条改定論と距離を置く姿勢を示した。立ち止まるべき時が来ているのではないか。

 大切なのは、異論にもきちんと耳を傾け、民意をくみ取ることである。

 

土瓶割り(2017年8月4日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

クワエダシャクという尺取り虫の一種は、自らの体を木の小枝そっくりに似せて、カムフラージュする。「これ」と教えられても全く見分けがつかない。「擬態」と呼ばれる、いわば目くらましである

▼生物界では昆虫や魚、鳥などで幅広く見られる。目的はさまざまだ。周囲の風景に溶け込みじっと獲物を待ち受けたり、天敵に捕まらないよう身を隠したり

▼安倍晋三首相がきのう、内閣を改造した。清新さという意味では疑問符がつくが、閣僚経験者や、首相と距離を置いてきた野田聖子氏、河野太郎氏らの起用で政権安定を図り、挙党一致で支持率の回復を図る狙いだろう

▼まさか、陸自の日報隠蔽(いんぺい)問題や森友、加計(かけ)学園疑惑から目をそらすための擬態ではあるまい。首相はあれほど「丁寧に説明する」と力説したのだから

▼野党は、稲田朋美元防衛相を参考人として国会に呼ぶべきだと主張している。しかし、早くも自民党の一部からは「辞任したのだから説明の必要はない」などと世迷(よま)い言(ごと)が聞こえる。首相は耳を貸してはならない。自ら疑惑を徹底究明する姿勢を示すべきだ

▼クワエダシャクの別名は「土瓶割り」。農作業の休憩中、小枝と勘違いして土瓶を掛けると落として割ってしまう―という意味だ。しょせん擬態は擬態。内閣改造をカムフラージュに、疑惑からの逃げ切りを図ろうとするなら、土瓶同様、支持率も地に落ちよう。

 

内閣改造/首相の政治姿勢が問われる(2017年8月4日配信『河北新報』−「社説」)

 

 安倍晋三首相はきのう、内閣改造に踏み切った。手堅さを重んじて、実力派の閣僚経験者を要所要所に配置した守りの布陣と言えよう。

 身から出たさびとはいえ、度重なる閣僚の不手際や失言で政権の土台を揺さぶられてきただけに、「耐震強化」を優先したのは間違いない。

 「人心一新」の看板も掲げたものの、初入閣は6人、女性閣僚は2人にとどまる。国民の目には「重厚長大」に映ったのではないか。一歩間違えれば、「飽き」につながりかねない。賭けであろう。

 麻生太郎副総理兼財務相、世耕弘成経済産業相、菅義偉官房長官ら重要閣僚を留任させ、骨格は維持した。

 一方で「お友達優遇」批判にも配慮。政権と距離を置いてきた反主流派の野田聖子氏を総務相として内閣に取り込み、挙党態勢を演出した。

 安定感と政策の継続性を重視したのだろうが、その分、新鮮さに欠けた印象は否めない。裏を返せば、自民党の人材難が露呈した格好だ。

 焦点だったのは、稲田朋美氏が辞任した防衛相のポスト。南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)問題の収束が求められている。

 白羽の矢が立ったのは、小野寺五典氏(衆院宮城6区)だ。安全保障分野のエキスパートであり、即戦力として期待されての再登板だろう。

 防衛省は背広組の事務方と陸自の制服組との対立が深刻で、文民統制(シビリアンコントロール)の根幹を揺るがす事態に陥っている。隠蔽疑惑解明と引き裂かれた組織の立て直しが急務である。

 東北からは小野寺氏以外に、鈴木俊一氏(衆院岩手2区)が五輪相に起用され、吉野正芳復興相(衆院福島5区)が留任した。それぞれの立場で東日本大震災からの被災地復興に力を尽くしてほしい。

 自民党役員人事では、岸田文雄氏が外相から念願の政調会長の座を射止め、「ポスト安倍」の足掛かりを作った。窮地にある安倍首相を政策面で支えながら、閣外で力を蓄えて禅譲を狙う戦略だろう。

 ただ、憲法改正を巡っては9条改正に執念を見せる安倍首相と、慎重な岸田氏とでは立ち位置が異なる。改憲が後継の「踏み絵」になりかねず、岸田氏は難しいかじ取り役を迫られよう。

 内閣改造が政権浮揚につながるかどうかは、ひとえに安倍首相自身の政治姿勢に懸かっているのではないか。

 そもそも支持率が急落したのは森友、加計(かけ)学園問題の対応や強引な国会運営などで、安倍首相に対する積もりに積もった国民の不信感が一気に噴出したからに他ならない。

 今はさまざま疑惑について一つ一つ丁寧に、説明責任を尽くす謙虚さが求められる。たとえ問題閣僚を一掃したとしても、安倍首相が内向き志向を改めない限り、支持率の回復など到底望めまい。

 

内閣改造 信頼回復に全力挙げよ(2017年8月4日配信『デイリー東北』−「時評」)

 

 安倍晋三首相は内閣支持率の急落による政権失速の危機を乗り切るため、内閣改造・自民党役員人事を断行し、第3次安倍第3次改造内閣が発足した。支持率急落は「安倍1強」のおごりへの国民の怒りが最大の要因だ。首相は生まれ変わる気持ちで謙虚に政権運営に当たり、政治への信頼回復に全力を挙げるべきだ。

 「骨格は替えないで、人心一新を図りたい」との首相の言葉通り、2012年12月末の第2次安倍内閣発足以来、政権の要となってきた麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官は留任。自民党の二階俊博幹事長も続投し、骨格は維持した。

 一方、4年半にわたって外相として首相を支えた岸田文雄氏を党の政策立案を取り仕切る政調会長に起用した。「ポスト安倍」をにらんで党務に就くことを希望した岸田氏の意向を尊重し、挙党態勢の構築を重視した。

 「安倍外交」を担う外相には政策通で知名度の高い河野太郎前行政改革担当相を充て、2年前の総裁選で首相に対抗して出馬を模索した野田聖子元総務会長を総務相に起用@預始@した@預終@。挙党一致と人心一新をアピールする狙いだろう。

 学校法人「加計(かけ)学園」問題や天下り問題で混乱した文部科学省の立て直しのため、文科相に閣僚経験が豊富な林芳正元農相を充てた。防衛相には、第2次安倍内閣でも防衛相を務めた小野寺五典前政調会長代理を再起用した。南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題で、稲田朋美元防衛相や事務次官らが辞任した混乱の収拾と文民統制の強化を図る。

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の国会審議で、不安定な答弁により閣僚としての資質が問われた金田勝年前法相の後任には、上川陽子元法相が再登板した。連立を組む公明党の要望はそのまま受け入れ、同党の石井啓一国土交通相が留任した。

 新内閣の閣僚19人の内訳は初入閣、留任・横滑りが各6人、閣僚経験者の起用は7人。新人を登用して党内の求心力を高めるとともに、政権の立て直しへ、ベテランを多く起用した安定重視の手堅い陣容となった。

 新内閣は、政治への信頼回復という喫緊の課題に直面するが、今回の人事でPKO日報隠蔽問題や森友学園、加計学園問題の真相がうやむやにされ@預始@ることがあっ@預終@てはならない。政府は丁寧な説明を尽くすべきだ。同時に、経済再生や安全・安心の確保など、国民が政治に期待する政策課題にも結果を出していかねばならない。

 

(2017年8月4日配信『デイリー東北』−「天鐘」)

 

外観は素晴らしいが何か物足りない。それも肝心な部分が抜け落ちていることを「仏作って魂入れず」という。魂が込もらない仏像は薄っぺらで有り難みが感じられないという喩(たと)えだ

▼安倍内閣の改造と自民党人事が行われ、「挙党態勢で安定優先の布陣」が敷かれた。森友学園と加計学園を巡る疑惑など、安倍一強がもたらした忖度(そんたく)行政や政治の歪(ゆが)みを払拭するための「人心の一新」である

▼疑惑の温床とされた仲間付き合いを脱し、首相と距離を置く野田聖子総務相や政界の“異端児”の異名を持つ河野太郎外相ら意表を突いた人材が起用された。散々酷評されたお友達付き合い≠ゥらの脱却らしい

▼「改造するほど総理の権力は下がり、解散するほど上がる」とは叔父佐藤栄作元首相の言だ。なるほど一強の攻めから守りに転じ、お気に入りだけではなく異論も許容する大人の対応に変容するかもしれない

▼元はと言えば自身の奢りと甘い友達付き合いに世論が反発、内閣支持率が3割台の危険水域に暗転した。起死回生を目指した布陣だが、また“ぼんぼんの傲慢(ごうまん)さ”が頭をもたげたら支持率回復も元の木阿弥になる

▼疑惑隠しの演出か本気か。物言う閣僚の発言が鼎(かなえ)の軽重を問う指標になりそうだ。経済と憲法。ポスト安倍の動きに解散風も吹き出した。本丸の官邸に修繕は入っておらず、仏像に本当に魂が宿り開眼するのか注目される。

 

内閣改造 国民の不信は拭えない(2017年8月4日配信『秋田魁新報』−「社説」)

 

 安倍晋三首相(自民党総裁)が内閣改造と自民党役員人事を行った。2014年12月に第3次安倍内閣が発足して以降、3度目の内閣改造となる。

 今回の内閣改造は、首相にとってこれまでと全く異なる政治状況の下で行われた。森友学園問題や加計(かけ)学園問題、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題で内閣支持率が急落し、「安倍1強」が揺らぐ中での改造である。

 そうした厳しい状況を象徴していたのが、改造後の首相会見だった。首相は冒頭、一連の問題に触れて「大きな不信を招く結果となったことを深く反省し、国民におわびしたい」と述べ、深々と頭を下げた。

 内閣支持率の急落に危機感をにじませたもので、その思いは内閣改造の顔触れにも色濃く反映されたと言える。

 一連の問題に関係した閣僚や国会答弁の不安定さが問題視された金田勝年法相らが交代させられた。批判の矢面に立った防衛相や文科相などには閣僚経験者が起用されるなど、手堅さを重視した布陣に努めたことがうかがえる。

 ただし、いくら閣僚の顔触れが変わったとしても国民の政治不信を払拭(ふっしょく)するのは難しいだろう。なぜなら内閣支持率が急落した要因となっているのは、首相自身に対する不信感であるからだ。

 加計学園の獣医学部新設計画では首相の関与や官僚の忖度(そんたく)によって行政の公平性、公正性がゆがめられたのではないか。森友学園に国有地が大幅に値引きされて売却されたのはなぜなのか。国民の疑念は晴れないままだ。

 こうした問題の全容解明に対して、政府与党の姿勢は極めて消極的だと言わざるを得ない。

 それぞれの問題のキーパーソンである加計学園理事長の加計孝太郎氏、森友学園に便宜を図ったのではないかと指摘される安倍昭恵首相夫人らの国会招致を野党は強く求めているが、自民党は拒否している。首相は「国民に丁寧に説明し、国会に求められれば誠実に対応する」と繰り返すが、行動で示しているとは言えない。有言実行が強く求められる。

 今回の改造では新たに「人づくり革命」担当相が任命された。首相が力を入れる教育無償化など人材投資の旗を振る役回りだが、従来の「働き方改革」「1億総活躍」の各担当相との役割分担が分かりにくいといった疑問の声も上がっている。安倍内閣では改造のたびに目玉政策の看板が掛け替えられるが、ポストの新設が人気取りの道具になってはならない。

 首相は引き続き経済最優先を掲げ、「結果」を出すことで信頼回復に努めると言う。しかし、疑惑が解明されない限り信頼を取り戻すことはできないことを認識すべきだ。内閣改造で国民の目先を変えられるほど簡単な問題ではない。

 

(2017年8月4日配信『秋田魁新報』−「北斗星」)

 

 秋田城跡(あきたじょうあと)歴史資料館(秋田市寺内)の企画展「古代のまじない・祈りと秋田城」(今月23日まで開催中)に並ぶさまざまな人形(ひとがた)を見ながら、閣僚といえどもしょせんは人形か、と思った

▼薄い木片を刻んで頭や手、足をつけた人形は、病気や災いを除くまじないに使われた。人形に息を吹きかけたり、体にこすりつけたりして穢(けが)れを移し、水に流す。秋田城でも9世紀前後に盛んに行われていたようで、沼地から多数の人形が見つかっている

▼きのうの内閣改造で、森友・加計(かけ)問題や「共謀罪」審議などで批判を一身に浴びた文科相、地方創生担当相、法相が閣外に去った。防衛相としてPKOの日報問題など不始末を連発した稲田朋美氏は、事実上の更迭で一足早く去っていた

▼いずれの閣僚も安倍内閣の支持率低下を招く一因を作ったことは確かだが、任命した安倍晋三首相の責任はどこへ行ってしまったのだろう。人形にフッと息を吹きかけるように、自身の責任は閣外に去る者たちに背負わせて水に流してしまうのか

▼新内閣は「人づくり革命」という新奇な名称の政策を打ち上げた。安倍内閣はこれまで「地方創生」「1億総活躍」「働き方改革」と看板を次々に掛け替えており、人材だけでなく政策も使い捨ての感がある

▼少々気の毒なのは前法相の金田勝年氏だ。結果として汚れ役を負い、「不安定答弁」のレッテルまで貼られた。第1次安倍内閣が11年前に打ち上げた「再チャレンジ」の言葉を贈りたい。

 

内閣改造 危機感透ける背水の陣(2017年8月4日配信『岩手日報』−「論説」)

 

 内閣支持率がいよいよ危険水域に近づき、これ以上は退くことのできない「背水の陣」。3日発足した改造内閣の印象だ。

 第3次安倍政権で3度目の改造。直前に防衛相を辞任した稲田朋美氏のほか、金田勝年法相ら答弁が不安定だったり資質を問われる大臣を交代させた。

 初入閣は6人にとどまり、閣僚経験のあるベテランを要所に配置した。さらに、安倍晋三首相と距離を置く野田聖子氏を総務相に起用するなど挙党態勢を演出した。

 堅実だが人心一新とは言い難い。自民党四役も、岸田文雄政調会長以外は70歳以上の重鎮で占められた。

 ここから透けてくるのは、もう失敗は許されないという決意だ。「安定優先」とは安倍首相の危機感の裏返し。それを反映した布陣というべきだろう。

 しかし、これで内閣支持率が一気に上向くかと言えば疑問符がつく。国民の目には、前内閣の「残像」が焼き付いているからだ。

 学校法人「森友学園」への国有地払い下げや、「加計学園」の獣医学部新設計画でちらついた疑惑、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題の真相はなおやぶの中にある。

 日報隠蔽問題では、閉会中審査で野党が求めた稲田氏の参考人招致を与党が拒否している。新内閣発足で問題を幕引きさせたいという思惑がありありだ。

 説明責任から逃げようとする姿勢を国民はどう見るだろうか。「安倍離れ」が起きたのは、強引な国会運営や不誠実な説明に終始した姿を通じて、国民が「安倍1強」のおごりを感じ取ったためだ。そのことにまだ気づかないのなら先は暗い。

 共同通信社が7月に行った全国世論調査では不支持の理由として「首相が信頼できない」という回答が半数を超えた。政策の是非ではないだけに深刻だ。

 国民の負託を受けて権力を預かっているという謙虚さを欠いたままでは、政策の着実な実行はおぼつかない。ましてや悲願とする憲法改正はさらに遠い。

 2020年東京五輪・パラリンピックを担当する五輪相には衆院岩手2区選出の鈴木俊一氏が起用された。東日本大震災の被災地出身議員として「復興五輪」を担う。

 これを機に、その意味を問い直してみたい。被災県で競技したり、聖火が走ることが復興五輪のすべてではないはずだ。

 全国知事会議で来県した小池百合子東京都知事は「被災地の復興なくして大会の成功はない」と強調した。閣内での奮闘を期待したい。

 

(2017年8月4日配信『岩手日報』−「風土計」)

 

1964年東京五輪には、多くの作家もペンで参戦した。歓喜、陶酔、皮肉。アンソロジー「東京オリンピック 文学者の見た世紀の祭典」(講談社編)所収のルポや随想は、それぞれの個性に満ちている

▼五輪期間中、熱狂に沸く東京を離れテレビ観戦にいそしんだのが英文学者の中野好夫。その随想「オリンピック逃避行」は、観戦記を超え卓抜な日本人論でもある

▼「外国に見せる、見てもらうということになると、不思議な能力と想像もつかぬ努力を傾ける国民」「現にオリンピック担当大臣などというのまで特設した」

▼この指摘、2020年東京五輪にも通じるのではないか。安倍晋三首相は五輪招致の場で、福島原発の汚染水問題について「状況はコントロールされている」とアピール。まさに「外国向け」見え見えの発言ではあった

▼改造内閣が発足した。五輪相には鈴木俊一元環境相が就任。首相をはじめ国民の目線を外国から被災地に引き戻し、復興への歩みを進める現状をしっかり見つめてもらうために、うってつけのポジションと言えよう

▼閣僚の失言、辞任が相次いだ前内閣。被災者の怒りを買って辞任に追い込まれた今村雅弘氏の後任、吉野正芳復興相は留任となった。「被災地の復興なくして五輪なし」。岩手と福島コンビで「復興五輪」実現の道筋をつけてほしい。

 

【安倍改造内閣発足】首相自身が変わるべき(2017年8月4日配信『福島民報』−「社説」)

 

 「一強」から「支持率急落」の激変の中、安倍晋三首相が改造内閣を発足させた。国民の批判の対象となった閣僚を退任させる一方、19閣僚のうち骨格である麻生太郎副総理兼財務相や菅義偉官房長官ら5人を留任させ、閣僚経験者を多用して安定感を重視した。しかし改造によって懸案がリセットされ、国民の疑念が拭い去られるわけではない。安倍首相は東京都議選での惨敗などを受け、国会の閉会中審査などに応じてきたが、国民は十分とは受け止めていないのではないか。首相自身が変わらなければ国民の信頼は取り戻せない。

 共同通信社が先月15、16日に実施した世論調査で、安倍内閣の支持率は前回6月より9・1ポイント減の35・8%と、第2次安倍政権発足後で最低を記録した。不支持率は10・0ポイント増の53・1%で、これまでで最高となり支持と不支持が逆転した。報道各社の調査によっては20%台の支持率もあり「危険水域に入った」という指摘も出ていた。

 共同通信の調査で安倍内閣を支持しない最も大きな理由は「首相が信頼できない」で、前回比9・7ポイント増の51・6%だった。不支持の最大の原因は首相自身ということになる。夫人が絡む「森友学園」問題、友人が絡む「加計学園」問題の解明に首相自身が積極的に取り組まなければ国民は納得しないだろう。

 本県からは吉野正芳復興相が留任となった。今年3月、帰還困難区域と一部自治体を除く多くの避難指示が解除されたことで政府は「一段落」の感覚になっていないか。3月の東日本大震災追悼式で安倍首相の式辞には「原発事故」の文言が無かった。異常な事態が6年以上も続くことに鈍感になってはいけない。吉野大臣には現場感覚で政府を動かし、復興庁の新しい体制にも道筋をつけてほしい。

 加計問題などで国民の不信を招いたことに安倍首相は昨日の記者会見で冒頭、頭を下げて反省して見せた。政策としては経済を最優先に、一つ一つの課題に成果を掲げていく方針を示した。その評価は国民が自分の現在と将来の暮らしに、安心と不安のどちらを感じるかだろう。

 少子高齢化や相対的な国力の低下で国民は地域や国家、子どもの将来性も縮小するような不安を漠然と抱えているのではないか。国家戦略特区が課題解決に寄与する政策なら、国民に分かるよう丁寧に説明すべきだ。国会で安定した勢力を抱える政権だからこそ長期的な視点に立って国民が求める課題に正面から対応してほしい。

 

改造内閣発足/復興加速へ仕事人の気概を(2017年8月4日配信『福島民友新聞』−「社説」)

      

 安倍晋三首相が、内閣改造と自民党の役員人事を行った。

 首相は今回の改造内閣を「結果本位の仕事人内閣」と位置付けるが、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興についてはどう考えているのか。

 記者会見で首相は、留任となった吉野正芳復興相を紹介する形で「東北の復興なくして日本の再生なし。現場主義を徹底し、被災地の声を復興につなげてほしい」と語ったが、首相として復興にどう取り組むのか。その気概が伝わってこなかったのは残念だ。

 震災と原発事故の発生から6年5カ月近くがたつが、避難地域の復興は始まったばかりで、県全体を見渡しても、農林水産物を中心に風評被害が収まっていないのが実情だ。本県は足踏みをしている余裕などないことを認識し、復興の加速化に力を入れるべきだ。

 復興に関わる主要ポストをみると、復興相の吉野氏と経済産業相の世耕弘成氏は留任し、新しい環境相には中川雅治氏が就いた。

 復興相は復興政策を一元的に担う責任、経産相は原発の廃炉と汚染水対策の確実な進捗(しんちょく)、環境相は除染土壌を保管する中間貯蔵施設の整備や管理運営などそれぞれ重要な任務を持つ。中川氏は環境事務次官を務め環境行政のプロと言えるが、今度は大臣として本県の再生に実行力を示してほしい。

 改造内閣と自民党執行部は強い逆風の中の船出となる。加計(かけ)学園問題や南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報問題などで国民の信頼が損なわれているからだ。閣僚経験があるベテランを総動員した感のある布陣から透けるのは「絶対に失敗できない」という首相の危機感だ。

 実際、閣僚メンバー19人の中で、第2次安倍政権以降の入閣経験があるのは留任や横滑りを含めて11人。残る8人のうち総務相に就いた野田聖子氏は第2次政権発足時に党総務会長を務めた。

 党執行部は大派閥のバランスに配慮し、党四役のうち2人は70歳以上の重鎮であるなど刷新感は薄い。「ポスト安倍」を目指す岸田文雄氏の政調会長就任も党亀裂を避ける思惑が見え隠れする。

 各種世論調査で内閣支持率が落ちた原因は、強引な国会運営や答弁がもたらした有権者の政治不信だ。堅い守りの布陣で憲法改正や経済再生、教育無償化といった「政策遂行」を訴えても、真摯(しんし)に説明責任を果たす謙虚な姿勢を伴わなければ信頼回復はおぼつかない。「安定」と「人心一新」にうたう内閣は本当に実力を発揮できるのか。国民は注視している。

 

梶山氏が初入閣 活力ある地方実現に力を(2017年8月4日配信『茨城新聞』−「論説」)

 

3日発足した安倍改造内閣で、本県関係では梶山弘志氏=茨城4区選出=が待望の初入閣を果たし、地方創生担当相に就任した。国土交通相を務めていた石井啓一氏=比例北関東=も留任し、地方と関わりの深い職責を担う2人の手腕に期待したい。特に梶山氏は初の大臣就任であり、多くの自治体が期待をかける地方創生のかじ取り役となる。地方の声に耳を傾け、地方との連携を密にし、活力ある社会の再生に努めてもらいたい。

 一方、今回の内閣改造は安倍晋三首相が「人心一新」を掲げ断行したが、森友・加計学園問題や南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題に対する国民の目は依然厳しく、信頼を回復するためには国民が納得できる真相の解明と真摯(しんし)な態度が引き続き求められる。

 梶山氏は2000年の衆院選で初当選し、現在6期目。国土交通副大臣や党の要職を務め、以前から大臣就任への期待の声が高まっていた。父は政界の重鎮として活躍した故梶山静六氏。親子2代にわたる大臣就任となった。

 梶山氏のホームページには、静六氏の旗印となっていた「愛郷無限」と共に、自らが目指す「今、確かな未来を創ろう!」という言葉が掲げられている。そして政策課題の一つとして「地方が主体となった活力ある国づくり」を挙げる。今回担当することになった地方創生そのものの課題であろう。

 地方創生は2014年夏ごろから安倍首相が掲げてきた看板政策の一つ。同年9月に発足した第2次安倍改造内閣で、次期首相候補の一人でもある石破茂氏が初代の大臣を務めたポストである。人口減少に歯止めをかけ、東京一極集中を是正し、地方での若者の雇用確保や子育てしやすい環境づくりなどを目指す、地方にとっては期待を感じさせる国主導の政策展開だった。

しかし現実は厳しい。国や各自治体ではこの方針にのっとって総合戦略や長期ビジョンを打ち立て、政策の具体化を進めてきたが、昨年暮れに行われた本社加盟の全国世論調査では、地方創生が進んでないと感じている人が8割近くに上っていることが分かった。

 県内を見渡しても人口減少、高齢化、産業衰退に苦悩している自治体が少なくない。ここにどんな活力を注ぎ込むか。アイデアと行動力を打ち出せるか。厳しい現場であるからこそ、大臣としてのやりがい、腕の見せどころがあるのではないだろうか。地方創生という動脈に多様な活力のもとが流れ出せば、茨城はもちろん全国が元気になる。ぜひ、いい仕事をして、本県を代表する政治家としての飛躍を期待したい。

 石井国土交通相は引き続き重責を担うことになる。手堅い仕事ぶりで評価が高い。同省の業務は幅広く、国土の整備と共に、近年多発する災害への対応にもさらなる腕を振るってもらいたい。

 急落した内閣支持率の中で行われた今回の内閣改造。加計問題やPKO日報問題は、国民目線からは積み残されたままだ。要所に大臣経験者やベテランを配し、安定した布陣となったが、やはり安倍首相の姿勢そのものが問われることになろう。

外交、防衛、地方創生と取り巻く重要課題は尽きない。国民を忘れ

 

(2017年8月4日配信『茨城新聞』−「いばらぎ春秋」)

 

「末は博士か大臣か」。子どもの才能への期待と将来の理想像を示す言葉だ

▼第3次安倍第3次改造内閣が発足し、それを支える新閣僚たちも決まった。「清濁併せ呑(の)む」政治家に対する人事であり、今回は従来にも増して念入りに身辺調査が行われたといわれている

▼本県からは、茨城4区選出の梶山弘志氏が初入閣した。地方創生担当相。一連の「加計問題」で注目されるポストだ

▼自民党の役員人事を含め、きのうまでは誰がどのポストに就くのか、が世間の興味の的だった。安定感のある、手堅い布陣だとは思う。きょうからは、行政部門のトップとしてそれぞれがどんな仕事をしてくれるのか、に関心が移る。こちらも報道機関としてそれらをチェックしていくことになる

▼人事は「ひとごと」とも読める。大臣なんてたらい回し、しょせん霞が関の操り人形などと冷めた見方もできるが、海千山千の官僚たちを使いこなし、国民のために粉骨砕身、職務に励行されることを望む。まずはお手並み拝見だ

▼今回の内閣改造が、低落を続ける支持率をV字回復させるカンフル剤になるのか、それとも安倍首相のレームダック化につながるのか。本県では直後に知事選が控えている。答えはすぐに出よう。

 

内閣改造 強権と隠蔽の体質正せ(2017年8月4日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 安倍首相が内閣改造と自民党役員人事を行った。

 麻生副総理・財務相、菅官房長官、二階幹事長を留任させる一方、政権に距離を置く野田聖子氏を総務相にあてるなど、「お友だち」に甘いという批判を意識し、刷新イメージを打ち出す狙いがあるようだ。

 とはいえ、忘れてならないのは、政権失速の最大の原因がほかならぬ首相にあるということだ。朝日新聞の7月の世論調査では、首相の最近の発言や振るまいについて61%が「信用できない」と答えた。

 辞任した稲田元防衛相を国会の閉会中審査に出席させようとしない姿勢は、身内に甘く、都合の悪い情報を隠そうとする政権の体質がまったく変わっていない現実を露呈している。

 政権の強権姿勢と隠蔽(いんぺい)体質を正せるかどうか。改造内閣が問われるのはそこである。

 加計問題では、野党の質問を「印象操作」と決めつけ、明らかになった文書を「怪文書」扱いするなど、首相や官房長官のおごりがあらわになった。

 身内への甘さの裏側にあるのが、自らに批判的な人々を敵視する姿勢だ。東京都議選の最終日、「辞めろ」コールをする聴衆に向かい、首相が「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と声を張り上げたのはその典型である。

 国会での議論を軽んじる姿勢も改めるべきだ。多くの国民が懸念を抱く「共謀罪」法を、参院の委員会採決を省略して成立させたことに象徴される。

 だが、その指揮をとった松山政司・参院国対委員長を1億総活躍相に、稲田氏の国会招致を拒んだ竹下亘・衆院国対委員長を総務会長に就けた。

 首相は記者会見で反省を口にし、頭を下げたが、真意を疑わせる人事だ。

 改造内閣がまずなすべきことは明らかだ。野党が求めている臨時国会をすみやかに開くことだ。これは憲法に基づく要求であり、首相の都合で可否を決められる問題ではない。

 臨時国会では一連の問題について関連文書の調査を尽くし、すべて公開するとともに、関係者に出席を求め、事実を包み隠さず明らかにする必要がある。

 今回、加計問題で野党の追及を受けた山本地方創生相と松野文部科学相、萩生田官房副長官を交代させたが、このまま説明責任を果たさないなら「疑惑隠し」の改造と言うしかない。

 自らが深く傷つけた政治全体への信頼を取り戻す一歩を踏み出すことができるか。問われているのは首相自身である。

 

安倍首相が窮余の内閣改造 政治姿勢も手法も変えよ(2017年8月4日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相は今の危機的状況をこれで乗り切れるだろうか。重大な岐路を迎える中で安倍改造内閣がきのう発足した。

 首相が頼みとしてきた内閣支持率の急落が続き、来秋の自民党総裁選で3選を狙う筋書きが揺らいでいる事態を踏まえた人事である。

 今回は、首相と距離を置いてきた野田聖子氏を総務相に起用するなど、これまでと違った姿を強調しようとしたのは確かだろう。「お友達内閣」批判に配慮し、挙党態勢作りを目指した点も認めていい。

 だが、支持率の急落は、「加計学園」問題での乱暴な対応や、「共謀罪」法をはじめ、世論を二分する法律を数の力で成立させてきた首相の強引な手法に国民の不信感が強まっていることが大きな要因だ。

 首相は記者会見で、まず「おわびと反省」を口にしたが、自身の政治姿勢や、取り組む政策の優先順位を、目に見える形で転換しないと国民の信頼は簡単には戻らない。

許されない疑惑隠し

人事のもう一つの注目点は、「ポスト安倍」を目指す岸田文雄氏が外相から党政調会長に転じたことだ。首相は外相留任を望んでいたが、岸田氏の要望を受け入れた形である。

首相はここで岸田氏を敵に回しては総裁3選がいよいよ危うくなると判断したと思われる。今まで思い通りに人事を進めてきたことを考えれば、これも「安倍1強」体制が崩れつつある状況の表れと言っていい。

 そんな首相がさっそく試されるのは国会への対応だ。

 今回の改造では山本幸三氏が地方創生担当相を、松野博一氏が文部科学相を、萩生田光一氏が官房副長官をそれぞれ退いた。いずれも疑問が広がるばかりとなっている「加計」問題にかかわってきた人たちだ。

 改造直前には、稲田朋美氏が南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題の責任を取って防衛相を辞任している。

 ところが日報問題は解明が不十分にもかかわらず、野党が求めている閉会中審査に対して、自民党は稲田氏の国会出席を拒んでいる。

 山本氏らも国会で説明する必要はないということになるのだろうか。これでは疑惑隠しと言われても仕方がない。同様に解明が進んでいない「森友学園」問題も含め、首相自らがリードして国会を早期に開き、関係者を交えて説明を尽くすべきだ。

 「加計」問題では、内閣人事局が官僚の幹部人事を握った結果、官僚が首相らに意見を言えず、行政がいびつになっている深刻な実情も見せつけた。官邸側の情報統制も目に余るものになっている。こうした「政と官」のゆがみも早急に見直す必要がある。

アベノミクスの検証を

 一方、首相は宿願としている憲法改正について「スケジュールありきではない」と会見で語った。

 憲法9条に自衛隊を明記する考えを突如提起し、2020年までの改憲を目指して自民党案を今秋の国会に提出するとの方針を変えなかった姿勢から軟化したように見える。

 首相の求心力低下で、自民党内でも改憲に異論が増える可能性がある。世論調査を見ても多数の国民が賛同しているようには見えない。このため首相主導で改憲論議を進めるのは困難になっている。

 ただし、仮にそれを認めるのであれば、方針転換をもっと明確にし、首相の言葉通り、「経済最優先」にきちんとかじを切るべきだろう。

 アベノミクスは行き詰まりを指摘されて久しい。経済成長頼みの財政健全化の道も険しくなっている。政権が発足して4年半余。旧民主党政権時代と比較して成果を強調する時期はとっくに過ぎた。まずこれまでの経済・財政政策のプラスとマイナスを謙虚に検証した方がいい。

 北朝鮮問題や、対中国、韓国外交など外交・安全保障面は厳しい状況が続く。今回、外相に河野太郎氏、防衛相には小野寺五典氏が起用された。首相と異なりタカ派色の薄い2人だけに、首相との連携をむしろプラスにつなげてもらいたい。また小野寺氏は日報問題で揺れた防衛省の立て直しが急務となる。

 「国民の声に耳を澄ませ、国民とともに政治を前に進める」と首相は改めて語った。その言葉を実行に移すことだ。状況を変えられるかどうかは、そこから始まる。今回を機に、かつてのような活発な議論が交わされる自民党に戻ることができるかどうかも脱「1強」のカギとなる。

 

落語にも出てくる厄払いの文句で…(2017年8月4日配信『毎日新聞』−「余禄」)

 

 落語にも出てくる厄払(やくばら)いの文句である。「鶴は千年、亀は万年、東方朔(とうぼうさく)は八千年、浦島太郎(うらしまたろう)は三千年、三浦(みうら)の大介(おおすけ)百六つ……」。めでたい長寿を並べたて、厄を海へと流すという

▲かつては節分などにこう唱えながら家々を回る人がいた。身にたまった厄難を免れるため、さまざまなまじないをした昔である。小さな不幸を演じて厄を払ったことにしようと、わざと落とし物や振る舞いの散財をすることもあった

▲西鶴(さいかく)の「日本永代蔵(にっぽんえいたいぐら)」には某大名家の厄落としの金、なんと430両を拾って金持ちになった人の話がある(池田弥三郎(いけだ・やさぶろう)著「日本故事物語」)。さて、このところ凶事が相次いだ安倍(あべ)政権には厄落としの期待がかかった内閣改造だった

▲政権と距離をとってきた野田聖子(のだ・せいこ)氏が総務相、防衛省に日報の再調査を求めた河野太郎(こうの・たろう)氏が外相という人事が注目された新内閣である。側近の重用が取りざたされる首相だが、一転して批判を取り込む姿勢をアピールする布陣である

▲これが厄落としの振る舞いならば、大名の落とした大金を拾った気分なのが党政調会長になった岸田文雄(きしだ・ふみお)氏かもしれない。自派の閣僚を倍増させ、自らも希望した党三役に就いて「ポスト安倍」の足場を固めたかたちになったからだ

▲気になる厄落としの効果のほどだが、政権の「骨格」には加計問題の火を消しそこねた官房長官や国有地格安売却を思い出させる財務相がとどまっている。何より首相その人にたまった厄がなお波乱を予感させる改造内閣の船出である。

 

安倍内閣改造 「経済最優先」で原点回帰せよ 堅実な布陣で負の連鎖断てるか(2017年8月4日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 かつてない逆風の中での再出発である。「人心一新」によって、国民の不信感を払拭ふっしょくするという安易な期待は禁物だ。

 様々な政策を前に進めて着実に結果を出す。それが信頼回復を図る唯一の道である。

 第3次安倍・第3次改造内閣が発足した。麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官ら5閣僚が留任し、内閣の骨格は維持した。

 即戦力の閣僚経験者7人を再入閣させる一方、初入閣は6人にとどめ、堅実な布陣としたのは妥当だ。政策面で成果を上げるには、政権基盤の安定が前提となる。

 ◆政策テーマの整理を

 7月2日の東京都議選での自民党大敗を機に、「安倍1強」の驕おごりや緩みへの批判が高まり、内閣支持率を低下させるという「負の連鎖」が続いている。新たな体制で反転攻勢できるかどうかが、安倍政権の将来を左右しよう。

 安倍首相は記者会見で「最優先すべきは経済の再生だ。アベノミクスを加速させたい」と強調した。新内閣について「結果本位の仕事人内閣だ」とも語った。

 経済政策を最優先する首相の方針は当然だ。2012年12月の第2次安倍政権の発足時に掲げた「デフレ脱却」は依然、道半ばにある。景気は緩やかに回復しているものの、安定した成長軌道には至っていない。

 今月末には、18年度予算の概算要求を控える。成長戦略を強化し、好調な企業業績を賃上げや内需拡大につなげる好循環の実現に資する施策に重点を置くべきだ。

 消費者の「貯蓄志向」の転換には、社会保障制度の持続可能性を高め、老後や子育てへの不安を解消することが欠かせない。

 麻生氏や世耕弘成経済産業相、茂木敏充経済再生相、加藤勝信厚生労働相は緊密に連携し、こうした改革に取り組む必要がある。

 茂木氏は、新たな看板政策「人づくり革命」も担当する。

 ◆防衛省再建を急ぎたい

 人材育成を重視する理念は理解できるが、教育無償化など「人への投資」の野放図な拡大はバラマキに直結する。「1億総活躍社会」「働き方改革」といった既存のテーマと重複しないよう、施策と所管官庁を整理せねばならない。

 北朝鮮の核・ミサイルの脅威が拡大する中、日米同盟を強化する必要性は一段と増している。経済、軍事両面で影響力と自己主張を強める中国や、反日的な姿勢を内包する韓国の文在寅政権との関係改善も重要かつ困難な課題だ。

 外相には、河野太郎・前国家公安委員長が起用された。途上国援助の削減が持論で、外交手腕は未知数だ。6日からの東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議で早速、真価が試されよう。

 小野寺五典防衛相は3年足らずでの異例の再登板だ。陸上自衛隊の日報問題で防衛省は、閣僚、次官、陸幕長が辞任・退職したうえ、背広組と制服組の対立が表面化する異常事態に陥った。省内の態勢の立て直しが急務である。

 加計学園問題を抱える文部科学相には政策通の林芳正・元農相が就任した。首相とともに、積極的に説明責任を果たしてほしい。

 首相と親しい塩崎厚労相、高市総務相、石原経済再生相らは、そろって退任した。代わって、首相と距離を置き、時に苦言も呈してきた野田聖子・元郵政相が総務相に起用された。

 安倍1強下での「お友達優遇」批判を踏まえ、首相は挙党態勢を重視したのだろう。出身の細田派の閣僚ポストも5から3に減らした。異なる意見にも謙虚に耳を傾ける姿勢を忘れず、政策の幅を広げることが肝要である。

 自民党では、二階俊博幹事長、高村正彦副総裁は続投した。総務会長に竹下亘国会対策委員長、政調会長には岸田文雄外相が起用された。従来以上に政府と連携するとともに、政策面での情報発信を強めることが求められる。

 ◆異論聞く度量が大切だ

 丁寧な国会運営を心がけつつ、不祥事が相次ぐ若手議員の研修にも力を入れる必要がある。

 岸田氏の三役入りは、「ポスト安倍」をうかがう本人が希望し、首相が受け入れた。岸田派から4閣僚を選んだのと合わせ、首相の岸田氏への配慮が目立った。

 憲法改正について、首相は「スケジュールありきではない。党主導で進めてほしい」と述べた。

 自民党は、年内の改正案作成に向けて、自衛隊の根拠規定の明記、緊急事態条項の創設など、重点4項目を議論している。いずれも重要な課題だ。より幅広い支持と理解が得られるよう、しっかりと論議を深めることが大切である。

 

改造内閣への注文(上) 政権への信頼の回復こそが急務だ(2017年8月4日配信『日経新聞』―「社説」)

 

 政権の浮沈を決める布陣ということになるのだろう。安倍晋三首相が3日、内閣改造・自民党役員人事に踏み切った。内閣支持率が急落するなか、挙党体制を意識した安定重視の布陣だ。有権者の信頼を取り戻し、政策を着実に実行できるのかが問われる。

 「安倍1強」体制は数カ月前までなお盤石に見えた。だが評価は一変し、いま政権は発足以来の正念場を迎えている。

政権のおごりへ批判

 自民党は7月2日投開票の東京都議選で歴史的な惨敗を喫した。日本経済新聞社とテレビ東京の共同調査で4月まで60%を超えていた安倍内閣の支持率は、7月下旬に39%まで低下した。

 支持率の急落はマイナス要因が重なって起きた。学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地の格安での払い下げと、学校法人「加計学園」(岡山市)だけに獣医学部の新設を認める決定に、国民の多くは強い違和感をもった。

 森友学園は安倍昭恵首相夫人が名誉校長を務めていた。加計学園の理事長は、首相が飲食やゴルフをよく共にする長年の友人だ。野党が政治の圧力や官僚の忖度(そんたく)を追及しても、政権内には説明責任を丁寧に果たそうという意識が欠けていた。

 閣僚の不適切な言動も追い打ちをかけた。なかでも防衛相だった稲田朋美氏は都議選で自衛隊が自民党候補を応援しているかのような演説をし、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽問題で辞任に追い込まれた。

 多くの国民が一連の問題の根本に、4年半を超えた長期政権のおごりや緩みを感じている。個別の政策への賛否ではなく、政権そのものへの不信感の高まりという点で状況はより深刻だと言える。

 首相は今回の改造・党人事を通じて、態勢の立て直しを急ぐ。麻生太郎副総理・財務相や菅義偉官房長官、二階俊博幹事長という政権の骨格は維持。一方で岸田文雄前外相を政調会長に起用し、後任の外相に河野太郎氏、防衛相には小野寺五典氏を充てた。

 自民党の入閣待望組の処遇やサプライズ人事で世論受けを狙うよりも、専門性と経験を重視した実務型の布陣は妥当だといえる。現政権の下で雇用や企業収益は改善したが、成長力の底上げや財政健全化への取り組みは遅れている。難しい課題に結果を出せるかどうかが新内閣の評価を決める。

 野党から国会で追及されることの多かった閣僚はそろって閣外に去った。しかし獣医学部新設や日報隠蔽の経緯はなお不透明で、閉会中審査などを通じて真相を解明する必要がある。今回の人事が「疑惑隠し」につながるようなら、政権の信頼回復にむしろ背を向けることになる。

 日本を取り巻く外交や安全保障の状況は日増しに厳しくなっている。北朝鮮は今年に入り弾道ミサイルの発射実験を加速し、複数の同時発射や高高度、長射程の技術開発にメドをつけつつある。核・ミサイル開発が深刻な脅威であるにもかかわらず、中国やロシアは北朝鮮への厳しい制裁に及び腰の対応を続けている。

北の脅威、待ったなし

 中国は南シナ海を着々と軍事要塞化している。日本の再三の抗議にもかかわらず沖縄県の尖閣諸島に公船を派遣し、東シナ海で一方的なガス田開発を加速している。

 河野外相と小野寺防衛相は日米同盟の絆を再確認するとともに、国際社会の結束に向けてさらに努力する必要がある。日報問題で幹部が入れ代わった防衛省・自衛隊の組織立て直しも喫緊の課題だ。

 首相は憲法9条の改正による自衛隊の明記を柱とする改憲案の早期取りまとめを自民党に指示している。ただ教育無償化の明記などには与党内にも異論が多い。経済・財政や安全保障政策への取り組みが後回しになるような政権運営は避けるべきである。

 先の通常国会ではアベノミクスの評価や北朝鮮の脅威にどう向き合うかという重要な政策論争がかすみ、森友、加計両学園の問題をはじめ閣僚の資質や問題発言にばかり焦点があたった。

 支持率が低迷する民進党は蓮舫代表の辞任表明を受けた代表選びが事実上始まった。与野党がより高いレベルで政策を競い合わなければ、日本の明るい未来は開けない。政治の信頼回復には地道な努力を積み重ねていくしかない。

 

(2017年8月4日配信『日経新聞』―「春秋」)

 

昨年はじめ、米国で共和、民主両党とも大統領候補をまだ決めていなかった頃。かの国に長く住む日本人のシンクタンク研究員が、こう助言してくれたことがある。「トランプとサンダーースを泡沫(ほうまつ)候補と見ない方がいい」。いまから思えば慧眼(けいがん)だったというしかない。

▼米国民のかなりの数が、自国の政治や経済が一部の人に動かされているといら立っている。彼らが異端の人であるトランプとサンダースを支持している。逆にクリントンやブッシュといった、なじみ深い名前を持つことはマイナスに働く。政府の要職に就いた前歴も同じ。だからヒラリーは二重に不利。そんな解説だった。

▼きのう新しい内閣が発足した。試しに数えると、20人の大臣のうち、父、祖父、義父が政治家という人が少なくとも13人いる。自民党とは世襲政治家が主力の集団なのだと、あらためて感じる。大臣経験者も、首相みずからを含め14人と多い。もうエラーもオウンゴールも許されないぞ、との思いが手堅い人事から伝わる。

▼民進党も、次の代表選に名乗りを上げたのは元大臣の2人だ。両党とも冒険的な人事に懲りた形か。しかし元大臣や××議員の息子、娘といった人々ばかりが目立つ政治は、一見安心感があるようで、実は人々の心にうっすら閉塞感を積もらせる。次の総選挙の争点は政界の新陳代謝――。早くもそんな声が一部にあがる。

 

内閣改造 憲法改正へ歩み止めるな 北の脅威から国民を守り抜け(2017年8月4日配信『産経新聞』−「主張」)

 

安倍晋三首相は内閣改造と自民党役員人事にあたり、「反省すべき点を反省し、結果を出すことで国民の信頼を勝ち取りたい」との姿勢を強調した。

 それは「しっかりと政策を前に進めていきたい」との思いを実現するためにほかなるまい。

 政権が重要政策を遂行するには国民の強い信頼が重要である。だが、稲田朋美元防衛相は防衛省・自衛隊を統率できない姿勢を露呈した。首相自らも、「加計学園」の獣医学部新設をめぐる国会対応のまずさを認めた。

 政権基盤の再構築が急務であり、首相が目指そうとする方向性は妥当なものといえる。

 《政権基盤の再構築急げ》

 この際、念を押しておきたいのは、憲政史上、初めてとなる憲法改正の歩みに決してブレーキをかけてはならないことである。

 現憲法が抱える最大の問題は国防の概念とそれを担う組織の規定が欠如している点にある。自衛隊違憲論がはびこり、現実的な防衛政策の展開を妨げ、国民の安全を損ねてきた。

 首相は会見で、憲法への自衛隊明記や東京五輪がある2020年の改正憲法施行を提起してきた点について、「議論を深めるべきだと一石を投じたが、スケジュールありきではない」と語った。

 戦後日本で、憲法改正を現実の政治日程に乗せたのは首相だけだ。その旗印が揺らげば「安倍政治」の意味は大きく減じ、自己否定につながりかねない。

 首相の決意を改めて問いたい。首相と自民党は、改正案の策定や有権者との積極的な対話を通じ、改正への機運を高めてほしい。

 喫緊の課題として、安倍政権がさらに力を入れるべきは、北朝鮮にいかに対処するかである。

核開発を進め、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などを日本の排他的経済水域(EEZ)へ撃ち込んでくる。脅威の度合いは格段に増している。戦後最大級の国難に直面していることを自覚しなければならない。日本に対する軍事攻撃さえ懸念すべき状況にある。防衛相経験者の小野寺五典氏を再び起用したのは妥当だろう。

 具体的に何をすべきか。それは防衛態勢の抜本的強化にほかならない。弾薬の備蓄増は自衛隊の抑止力を高める。これまでも合憲とされながら見送られてきた敵基地攻撃能力の保有を決断し、整備を急ぐ必要もある。

 河野太郎外相は「国民の平和、安全を守る」と語った。ならば国際社会とともに最大限の圧力を北朝鮮にかけ、核・ミサイル戦力を放棄させなければならない。

 近く開催される日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)は重要な機会となる。日米同盟の抑止力と対処力の一層の強化を急ぐべきだ。

 外相、防衛相だけの仕事ではない。国民保護を担う野田聖子総務相をはじめ、すべての閣僚が団結し、国民を守り抜く方策を考え、実行してほしい。

 《暮らしの安定に注力を》

 首相は、経済再生を最優先の仕事と強調した。国民の暮らしの安定と向上も喫緊の課題である。息切れが目立つアベノミクスの立て直しは避けて通れない。

 金融緩和と財政出動で景気を刺激する間に成長戦略を深め、経済再生を図るのが、首相が描いた青写真だったはずだ。だが、肝心の成長戦略が力不足である。円高是正や法人税減税などで企業の収益力は着実に高まったものの、賃金や設備投資への資金配分は十分とはいえない。

 個人消費を活性化させ、経済の好循環を生むよう、さらなる賃上げが必要だ。投資や賃上げを促すため、企業が成長産業に参入しやすい環境づくりが欠かせない。

 規制緩和や税制改革を通じて成果を生み出す、実効的な成長戦略に知恵を絞ってほしい。

 大きな懸念がある。首相は新たに「人づくり革命」を打ち出したが、これまでも「1億総活躍」「地方創生」など重なり合う部分が多い政策を掲げてきた。それぞれ担当閣僚が置かれ、混乱も生じた。今回も同じ構造がみられる。政策遂行に遅れは許されない。

 国民の信頼回復を図るといいながら、おかしなことがある。陸上自衛隊の日報問題をめぐる閉会中審査について、自民党が稲田元防衛相の出席を拒んでいることだ。臭いものにフタをする対応は、改めなければならない。

 

AI政治家に負けるな(2017年8月4日配信『産経新聞』−「産経抄」)

 

 立候補者はロボットではないか。米国のある都市で2032年に行われた市長選で、こんな疑惑が持ち上がった。SF作家、アイザック・アシモフが1950年に発表した「われはロボット」(ハヤカワ文庫)の一場面である。

▼ロボットの心理が専門の研究者は、最高の行政官になる、と主張する。「彼は、人間に危害を加えることはできないし、圧政を敷くことも、汚職を行うことも、愚行に走ることも、偏見を抱くこともできないのですからね」。

▼米国の研究者、ベン・ゲーツェル氏は実際、人工知能(AI)を搭載したロボットを政治家として育成するプロジェクトを進めている。人間と違って、自らの利害や偏見にとらわれず、正しい判断ができるのが、強みだという。政治の混乱が続く韓国では、ゲーツェル氏に協力を求めた。「AI政治家」が政策にかかわる仕組み作りを急いでいる。

▼第3次安倍晋三改造内閣が発足した日本はどうだろう。国会でまともな答弁ができない。省内をまとめきれず、失言も多かった。こんなダメ大臣を一掃して、閣僚経験者を多数起用した。安定重視がキャッチフレーズである。

▼それでもなお、国民の期待を裏切るような不祥事が起これば、安倍政権の危機にとどまらない。受け皿となる有力な野党が見当たらないとなれば、いっそのこと政治をAIに任せよう、との声が日本でも上がりかねない。

▼香港の新聞によると、中国のAIも曇りのない目で政治を見る能力に恵まれている。IT大手が提供するAIの対話サービスに、ある利用者が「共産党万歳」と書き込むと、すぐ反論してきた。「こんなに腐敗して無能な政治に万歳できるのか」。このAIは、日本の新内閣にどんな判定を下すだろう。

 

憲法守る政治、今度こそ 改造内閣が始動(2017年8月4日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が内閣改造を行った。内閣支持率の続落を受けた政権の立て直しが狙いだが、憲法を尊重し、擁護するのか否か、政治姿勢が問われている。

 第3次安倍第3次改造内閣が始動した。首相にとって第1、2次内閣を含めて8回目となる組閣は2012年の政権復帰以降では、最も厳しい政治状況の中での改造人事ではなかったか。

 昨年7月の参院選での自民党勝利で「安倍一強」は強固になったかに見えたが、今年に入り局面は一変。学校法人「森友学園」への国有地売却問題や「加計学園」の獣医学部新設問題、防衛省・自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)、防衛省・自衛隊を選挙応援に政治利用する稲田朋美元防衛相の発言などが相次いだ。

真相の解明が先決だ

 自民党は7月、4年前には大勝した東京都議選で惨敗を喫し、内閣支持率は共同通信社の調査で30%台にまで落ち込んだ。今回の内閣改造には、その失地を回復する狙いがあるのだろう。

 次の党総裁候補と目される岸田文雄前外相は政調会長として閣外に出たが、麻生太郎副総理兼財務相や菅義偉官房長官ら内閣の骨格は変えず、初入閣は6人にとどめた。引き続き厳しい追及が予想される文科相には林芳正氏、防衛相には小野寺五典氏を配したことからも、その狙いがうかがえる。

 林、小野寺両氏は12年12月に発足した第3次安倍内閣でそれぞれ農相、防衛相を務めた閣僚経験者でもあり、答弁能力も高いとされる。首相が2人を起用した理由は、分からなくもない。

 ただ、安倍政権が国民の信頼を取り戻したいのなら、真相解明が先決のはずだ。

 2つの学校法人の問題では、首相による関与の有無について真相は明らかになっていない。稲田氏が防衛省の日報隠蔽を了承していたのか否かも、証言が食い違う。

民主的手続きを軽視

 林、小野寺両氏にはまず真相解明、次に再発防止に取り組んでほしい。今回の内閣改造によって、指摘された数々の問題の解明に幕を引くことがあってはならない。

 野党側は憲法53条に基づく臨時国会の召集や閉会中審査の開催を求めている。蓮舫代表の辞任表明を受けて民進党は次の代表選びに入っているが、安倍内閣は新しい代表が決まった後、速やかに臨時国会の召集に応じ、首相が所信を明らかにすべきである。

 自民党は稲田氏を参考人招致しての閉会中審査を拒んでいるが、真相解明に依然、後ろ向きと断ぜざるを得ない。加計学園の加計孝太郎理事長を含め、関係者の参考人招致を引き続き求めたい。

 ちょうど1年前の内閣改造を振り返ってみよう。

 7月の参院選を経て、憲法改正に前向きな「改憲派」が、衆参両院で改正発議に必要な3分の2以上の議席を占めた。これを受け、私たちは社説で、憲法尊重・擁護義務を負う首相や閣僚が、現行憲法を蔑(ないがし)ろにするような言動を繰り返さないよう自覚を促した。

 ところが、その後の政治はどうだろう。現行憲法を軽視または無視したり、民主主義の手続きを軽んじる政治がまかり通ってきた一年ではなかったか。

 首相は自ら期限を切り、9条など項目まで指定して政治目標とする憲法改正を主導してきた。議論を深めるために「一石を投じた」と説明したが、自民党の歴代首相が憲法尊重・擁護義務に反するとして避けてきた「禁じ手」だ。

 その一方、憲法に基づく野党側の臨時国会召集の要求は無視し続ける。改正したいからといって現行憲法を軽視・無視していい理由にはなるまい。

 稲田氏による自衛隊の政治利用発言は、行政の政治的中立性を著しく逸脱する憲法に反する発言だが、首相は罷免要求を拒否した。稲田氏を重用してきたからだろうが、憲法に反する発言をした閣僚を擁護したことは、憲法を軽視する首相自身の姿勢を表すものだ。

 首相は記者会見で「結果重視、仕事第一、実力本位の布陣を整えられた。政策課題に結果を出すことで信頼を回復する」と述べた。

政治姿勢改める必要

 しかし、いくら内閣改造で体制を一新したからといって、憲法や民主主義の手続きを軽んじる政治姿勢を改めない限り、国民の信頼回復は望めまい。

 「共謀罪」法の成立強行を挙げるまでもなく、「安倍一強」の鎧(よろい)の下にあった憲法や民主的手続きを軽視・無視する強権的手法を国民が見抜いたからこそ、支持率が落ちた事実を注視すべきだろう。

 憲法改正論議自体は否定しないが、国民から遊離した拙速な議論は避けるべきだ。現行憲法を蔑ろにする政治の継続はもちろん、許されてはならない。内閣改造を機に、あらためて指摘したい。

 

(2017年8月4日配信『東京新聞』−「筆洗」)

 

こういう川柳がある。<放言をせぬ大臣の名を忘れ>。きのうきょうの新聞の川柳欄に載っていそうな傑作だが、実は半世紀以上も前に詠まれた句。今も昔も、とため息が出る

▼それにしても放言、暴言に不祥事に疑惑…そういうことでしか名を覚えてもらえぬような大臣が、何と多いことか。あまりにも多すぎて、最近は<放言をした大臣の名も忘れ>と詠みたくなるほどだ

▼そんな大臣は一掃して…ということなのか。内閣を改造した安倍首相は、「結果本位の仕事人内閣だ」と胸を張り、「信頼回復に向けて一歩一歩努力を重ねていく」と言っていたが、まず自ら踏み出すべき「一歩」は、臨時国会の召集だろう

▼国民の信頼を回復するためには、政権を揺るがす加計学園をめぐる疑惑を国会で究明していくことが不可欠だ。だが、野党が憲法の規定に基づいて臨時国会の召集を求めて1カ月以上たつのに、きのうの記者会見でも早期の召集を明言しなかった

▼疑惑をめぐって国会で、ごまかしの答弁を繰り返した地方創生担当相らは内閣改造で交代させられたが、大臣の顔触れを変えただけで疑惑解明に努めぬのなら、それこそ「印象操作」だ

▼きのう首相官邸には、新入閣の誇らしげな笑顔が並んだ。新大臣たちは、半世紀以上も前に詠まれたこんな川柳もあることを、お忘れなく。<辞めたのでそんな大臣いたと知れ>

 

人づくり革命(2017年8月4日配信『下野新聞』−「雷鳴抄」)

 

 「一億総活躍社会」「地方創生」「女性活躍」。安倍(あべ)政権でさまざまな目玉政策が出てきたが、今度は「人づくり革命」という

▼通常国会閉会後の記者会見で安倍首相が新たな看板として打ち出した。具体的には幼児教育の無償化、高等教育の負担軽減などが上がっている。森友、加計学園問題など重量級の話題の陰に隠れて正直、印象になかった

▼その人づくり革命担当相に、本県衆院5区選出の茂木敏充(もてぎとしみつ)氏が、経済再生担当相との兼任で就任した。事前に重要閣僚での起用と一斉に報じられていたため、行き先が気になっていた

▼これまで金融・行革相、経済産業相や自民党政調会長などを歴任。政策に精通し、実務能力にもたけるというのが茂木氏の評価である。起用には、看板政策推進の姿勢をアピールする狙いがあるとのことで、重要の意味がふに落ちた。改めて真価が問われる

▼数年前、通信社の講演会で茂木氏の話を聞いた。数字を上げながら成長戦略を事細かに説明する政策通の姿に舌を巻いた記憶がある。続いて登場したのは民進党の枝野幸男(えだのゆきお)元官房長官。アベノミクスの対案を具体的に示していた

▼偶然にも本県出身者が続いた。枝野氏は来月の民進党代表戦に立候補の予定だ。もし党代表になれば茂木氏と国会で看板政策を巡って論戦となるだろう。ぜひ見てみたい。

 

(2017年8月4日配信『上毛新聞』−「三山春秋」)

 

▼安倍政権の改造内閣が発足した。群馬県選出議員の入閣があったわけでもなく、特段の新しい政策も掲げられず、「人心一新」で内閣支持率の浮揚につなげたい安倍首相の思惑ばかりが目につく 

▼急変する支持率とは不思議なものだ。浮ついた人気投票のようにも言われるが、1906年に英国で行われた実験が興味深い 

▼広場に運ばれた牛の体重を、見物する約800人が予想した。回答の平均値548キロは実測値543キロとほとんど変わらない。個々の予想はばらついても見えざる意思が働くのだろうか 

▼みんなの意見は案外正しいという「集合知」の一例だ。内閣支持率を考えると、加計学園問題への対応や閣僚の相次ぐ失言で国民の信頼感は揺らいだ。その感覚は浮ついたフィクションでなく、芯を突いているのだ 

▼内閣の人心一新が、支持率上昇だけを気に掛けた保身の手段とは思いたくない。道元の言葉を借りれば「仏道修行の功を以もって代わりに善果を得んと思ふことなかれ」。国民の信頼は、打算を超えた無私の汗を流してこそ回復する 

▼群馬からも安倍政権の課題は見える。地方創生のお題目はいいが、いたずらに地方間競争を助長して、芯となる国策が心もとない。限界集落、雇用格差、市街地再生、子どもの貧困−。政局の今後の算術よりも、地方の明日を考える内閣でありたい。

 

内閣改造 強権政治を改めてこそ(2017年8月4日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が内閣改造を行った。支持率が落ち込む中、閣僚経験者を多く起用するなど安定を重視した布陣になっている。

 問われるのは閣僚の顔触れよりも政権の姿勢だ。反対意見に耳を貸さない強権的な国会運営や、疑問に正面から答えない不誠実な対応を改めなければ、不信感は拭えない。

 菅義偉官房長官、麻生太郎副総理兼財務相ら5人が留任した。共謀罪を巡って不安定な答弁を重ねた法相、加計学園問題で明確な根拠を示さず疑惑を否定した地方創生担当相らは交代している。

 総務相には自民党の野田聖子元総務会長を起用した。アベノミクス検証の勉強会を開くなど首相と距離を置いてきた野田氏を取り込んだ形だ。党人事では副総裁、幹事長が留任している。首相の言いなり、官邸追随の流れがますます強まらないか心配になる。

 共同通信社が先月中旬に行った世論調査で内閣支持率は第2次政権発足後、最低を記録した。不支持は最も高くなり、支持と不支持が逆転している。不支持の理由で最も多かったのは「首相が信頼できない」だった。首相自身が招いた支持率急落である。

 2012年の政権復帰後、特定秘密保護法や安全保障関連法など巨大与党の強引な国会運営が続いてきた。共謀罪では委員会採決を省き、いきなり本会議で成立させる乱暴な手法を取った。

 前内閣で相次いだ閣僚の問題発言も見過ごせない。環太平洋連携協定(TPP)を巡って「強行採決」に言及した農相、東日本大震災について「まだ東北で、あっちの方だったから良かった」と述べて辞めさせられた復興相…。政権のおごり、緩みが表れている。

 首相はきのう党臨時総務会で反省を口にした。「安倍内閣、自民党に対し、国民の厳しい目が注がれている。私自身、至らない点があり、こうした状況を招いた」と殊勝な姿勢を見せている。

 これまでも度々、反省の言葉を語り、丁寧な説明を約束しながら行動は伴わなかった。加計学園や森友学園の問題で政府は「記録がない」「記憶がない」と繰り返し解明に後ろ向きだ。首相は野党が憲法に基づき要求した臨時国会の召集に応じようとしない。

 次の国会で政府は一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の審議入りを目指す。カジノ解禁の実施法案も提出する方針だ。ともに疑問が多い。力ずくでなく、議論を尽くしてこそ「反省」は本物になる。

 

(2017年8月4日配信『信濃毎日新聞』−「斜面」)

 

ネオン街に生きる女性の一途な恋心を切々と歌い上げる。小林旭さんの「昔の名前で出ています」である。1975年に発売、じわじわと人気が広がり大ヒットする。当時、ゴルフ場開発に失敗しどん底に落ちていた小林さんを救った

   ◆

 14億円にも上る借金を清算できたという。「地獄と天国を一気に体験した気分だった」と後に語っている。加計学園やPKO部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題などで支持率が急落し苦境に陥っている安倍晋三首相が放った一手は起死回生となるだろうか。内閣改造だ

   ◆

 10年前の夏。参院選で惨敗した第1次安倍政権は内閣改造に踏み切った。1週間もたたずに農相が「政治とカネ」を巡る問題で辞任。このつまずきも大きく影響し首相退陣に追い込まれた。今回の改造は「絶対に失敗できない」との思いが強いのだろうか。ベテランをかき集めた

   ◆

19閣僚のうち初入閣は6人にとどまる。5人が留任し閣僚経験者が多い。以前務めたポストに返り咲いた閣僚もいる。清新さに欠ける顔触れは「昔の名前で出ています」の類いとやゆされよう。同じ人を重ねて起用するのは人材難の裏返しかもしれない

   ◆

 首相がにわかに唱え始めた「人づくり革命」は新内閣でも看板政策のようだ。人づくりが喫緊の課題なのは政治の世界ではないか。人材の劣化は政治不信を強め民主主義の危機を招く。自分の内閣の行方ばかり心配している場合ではない。数々の疑惑が清算されていないこともお忘れなく。

 

安倍改造内閣 異論に耳傾ける謙虚さを(2017年8月4日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 加計(かけ)学園問題などの疑惑が解消されなくては国民の不信は払拭(ふっしょく)できないだろう。真摯(しんし)に説明責任を果たす謙虚な姿勢を求めたい。

 第3次安倍第3次改造内閣が発足した。閣僚経験のあるベテランを多く集めた、実務や答弁の力を重視した人選といえる。

 加計学園問題や南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題などにより内閣支持率は急落している。

 安倍晋三首相は「反省すべきは反省し、新たな気持ちで結果を残して国民の信頼を勝ち得る」と決意を表明した。

 安定した布陣で立て直しに全力を挙げ、憲法改正や経済再生、教育無償化といった政策を前に進めていこうということだろう。

 だが党役員人事も含め、骨格の顔ぶれは変えず、初入閣6人、女性閣僚2人と刷新感はない。

 何より忘れてならないのは、支持率の低下は、強引な国会運営や閣僚らの失言がもたらした政治不信が根底にあるということだ。

 安倍首相の友人が理事長を務める加計学園の獣医学部新設計画を巡っても、首相や官邸の関与による「加計ありき」があったか否かが焦点になっている。

 政府の説明は二転三転し、首相が出席した衆院予算委員会の閉会中審査でも、参考人による答弁の食い違いが目立つなど疑問の解消にはほど遠かった。

 ところが今回の改造では、国会答弁の矢面に立った松野博一文部科学相と山本幸三地方創生担当相が、ともに交代した。

 PKO日報隠蔽問題では、辞任した稲田朋美元防衛相の閉会中審査への参考人招致を巡り、自民党の国対委員長だった竹下亘氏は「閣僚辞任という一番重い責任の取り方をした」と拒否した。

 その竹下氏は党の意思決定機関を束ねる総務会長に就任した。加計学園、日報隠蔽問題とも、早期幕引きを図るつもりなのだとしたら許されない。

 続投の二階俊博幹事長は先日、「今、自民党はいろいろ言われている。そんなことに耳を貸さないで、正々堂々、次の世代にこの国をバトンタッチできるまで頑張らなくてはいけない」と述べた。

 異論や反対の声に耳を傾けることなく、数の力で押し切ろうとする今の安倍政権、自民党の体質を象徴するような発言だ。

 一方で今回の閣僚・党役員人事では、「1強」と言われた首相の求心力低下もうかがわれる。

 「ポスト安倍」を目指す岸田文雄外相兼防衛相の閣内封じ込めを断念し、政調会長に据えた。

 首相と距離を置く野田聖子氏の総務相起用も、挙党一致を印象づける布陣と言っていいだろう。

 安倍首相が意欲を見せる憲法改正には、自民党内にもさまざまな意見がある。核・ミサイル開発を進める北朝鮮への対応をはじめ経済、少子高齢化対策など課題は山積している。

 他党はもちろん党内の異なる主張も聞きながら、丁寧な議論ができるのか。問われているのはその政治姿勢だということを、首相は肝に銘じなければならない。

 

(2017年8月4日配信『新潟日報』−「日報抄」)

 

 トウモロコシの粒を数えた人によると、1本に600粒ぐらいある。同じ数だけヒゲのような糸が生える。ふっさふさであるほど粒が多いことになる

▼トウモロコシにキュウリ、ナス、トマト。絵の具の選びがいがある季節である。うまく色がばらけたものだ。描きたいのはやまやまだが、絵心がない。トマトは肌にいいと聞く。緑のキュウリはひと手間加え、からし漬けや梅肉あえにすれば、胃がしゃきっとよみがえる

▼昔の周という王朝では閣僚会議に必ず料理人が一人出席したものだった。「宰人」の役職名で呼ばれ、並み居る大臣たちより上に置かれた。王様が話している間、この宰人は大臣たちの顔色や肌つやを見る

▼あの人は肝臓が弱っているな、などと見極めて会議後の料理に腕をふるう。例えば豚の丸焼きなら肝臓はこの人に、この部位はあの人にといった具合に効能を考えながら切り分けた。はかりを使わなくともピタリと等しく分けた

▼首相のことを指す宰相はこの宰人に由来するという説がある。公平に、しかもそれぞれに価値あるものを与える人、それが宰相のいわれである(小泉武夫「食の堕落と日本人」)。宰相安倍晋三さんが腕をふるった。果たして、粒ぞろいだろうか

▼意志を思えば、憲法改正の絵筆をふるうための布陣であろう。改造理由を思えば安全運転内閣だ。自民党内のことをいうのか、「人づくり革命」という担当相が生まれるようだ。真の適材適所でなければ、胃がきりきり痛むのは庶民である。

 

安倍政権出直し 「仕事師内閣」で信頼回復を(2017年8月4日配信『北国新聞』−「社説」)

 

 安倍政権の立て直しを図る内閣改造と自民党役員人事は、安定と堅実さを重視したものといえる。骨格を維持しながら非主流派も取り込み、挙党態勢を印象づける陣容となった。

 安倍晋三首相は人心一新による出直しを強調している。が、一部の世論調査で30%を切るまで急落した内閣支持率は、閣僚の入れ替えやサプライズ人事で回復できるものではなかろう。経済再生を最重要課題とする政権の原点に立ち返り、「仕事師内閣」といえる働きぶりで結果を出していく。そのことによって政権への信頼を回復していくほかあるまい。

 安倍政権が進めてきた経済政策や外交路線そのものに対する国民の支持は、それほど低下していないはずである。金融緩和、財政出動、規制改革などの成長戦略を柱とする安倍政権の経済政策が企業収益の増加と税収増、失業率低下などの成果を生んだことは認めなければならない。さらに、名実ともにデフレ脱却といえる経済の実現にまい進してほしい。

 仕事師内閣として成果を上げるには、「政と官」の良好な関係が不可欠である。その点で難があったと言わざるを得ない防衛省と文部科学省を率いる小野寺五典、林芳正両氏はまず、官僚機構をまとめ、機能させる力量を厳しく試されることになる。

 北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まる中、防衛省の内部対立や緩みは許されない。同省は2015年の法改正で、いわゆる文官優位を改め、文官(背広組)と制服組が対等の立場で、一丸となって大臣を支える制度にした。日報問題で揺れる組織を早急に本来の姿に戻す必要がある。

 安倍首相は、積極的平和主義を掲げて外交に力を入れ、それを得意としてきた。従来の対米外交の常識では測れないトランプ大統領の登場や中国の台頭、韓国の政権交代など、日本を取り巻く国際情勢は大きく変化している。外交手腕が未知数の河野太郎氏を外相に起用した安倍首相の外交戦略の真価が問われることになるが、外交と内政は不可分であり、国民の信頼と支持が低下すれば、外交の推進力も弱まることを、あらためて銘記しなければならない。

 

経済再生が第一 期待を高める力がいる(2017年8月4日配信『北国新聞』−「社説」)

 

 内閣を改造した安倍晋三首相は経済再生を第一の課題に挙げた。各種経済調査では景気回復の判断が出ているものの、安倍政権が目指すデフレ脱却は、まだ実現していない。経済再生の道のりは容易でないだろう。

 安倍首相が政権交代を果たし、アベノミクスと呼ばれる経済政策を掲げたときは先行きに期待が生まれ、デフレの重い雰囲気が変わった。それから5年近くが過ぎて当初の期待感は薄れている。

 今や期待は失望に変わろうとしているのではないか。安倍首相は厳しい現状を重く受け止め、期待を高める力を取り戻さなければならない。デフレから抜け出すためには、企業と家計が先行きに期待し、明るい予想を持つことが欠かせないからである。

 日銀はデフレ脱却に向けて掲げた物価上昇目標の達成が遅れる要因として、企業と家計にデフレマインドが根強く残っていることを挙げた。しつこいデフレマインドを払いのけるためには、日銀が大規模な金融緩和を粘り強く続ける必要がある。緩和効果の拡大に向けて、政府が財政出動で需要を増やす施策も検討を要する。

 それなのに今は内閣の支持率低下に伴って、安倍政権の経済政策を疑問視する声が台頭している。ここで金融緩和を縮小し、緊縮財政に転じればデフレ脱却は遠のく。経済最優先の政策を貫くためには、安倍首相が政権交代時の原点に立ち返って信頼を取り戻すことが何より大事なのではないか。

 金融緩和をはじめとする経済政策は確実に成果を出している。景気回復のペースが緩やかなため実感がないという反応もあるが、求人倍率の上昇と失業率の低下は政策効果を明確に物語っている。

 北陸では新幹線開業が近づくときに金融緩和と財政出動が始まったのは幸運であった。デフレ脱却の政策が実行されていなければ、北陸新幹線の開業効果も、これほど大きくはならなかっただろう。雇用に不安があれば旅行を控える動きが広がっていたに違いない。

 雇用情勢が改善すれば経済再生は近い。こうした期待を広める手腕の有無が首相に問われている。

 

内閣改造 疑惑隠しでは信頼戻らぬ(2017年8月4日配信『福井新聞』−「論説」)

 

第3次安倍第3次改造内閣が発足した。閣僚経験者の再登板や自民党内の非主流派の登用など、安倍晋三首相は「結果本位の仕事人内閣」と表したものの、党政調会長に就任した岸田文雄前外相兼防衛相にスポットが当たってしまうほどにインパクトのない布陣と言っていい。「『サプライズのなさ』がサプライズ」という識者の言葉が当を得ている。

 森友・加計学園問題や、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題で失墜した国民の信頼は大臣の首のすげかえでは払拭(ふっしょく)されるはずもない。問われるのは首相自らの「1強」体質であることを肝に銘じるべきだ。

 安倍首相にとって来年9月の自民党総裁選で3選を果たし、宿願の憲法改正を成し遂げるためには、何としても支持率の下落に歯止めをかけなければならず、これまでのような身内に重きを置いた「お友達内閣」では国民の信頼回復もおぼつかない。新布陣はまさに保身に走る「崖っぷち内閣」である。

 挙党態勢の構築には腐心の跡がみてとれる。党執行部、閣僚人事ともに派閥のバランスに配慮したようだ。だが、党四役は70歳以上の3人が占め、19閣僚では留任が5人、閣僚経験者が8人と刷新感は薄い。思い切った若手の登用も考えるべきだったのではないか。

 去就が注目されていた岸田氏は、首相の留任意向を断り、自ら閣外へ身を置いて党務をこなすことを希望したとされる。党総裁選への布石ともみられる。記者会見で憲法の9条改正には慎重な姿勢は変わらないとした上で、政調会長として「活発な議論の環境をつくるのが私の立場だ」と述べたが、持論を封じてまで安倍政権を支え続けられるのか、疑問も残る。

 岸田氏が4年8カ月近く務めた外相には河野太郎元行政改革担当相が起用された。北朝鮮の核・ミサイル開発問題をはじめ米中韓ロなどとの間には難問が山積している。河野氏はどうかじ取りしていくのか、力量が問われる。

 総務相に郵政相などを務めた野田聖子元自民党総務会長を起用した。前回の総裁選で出馬を模索し、首相と距離を置いてきた。首相は「挙党一致」を印象付けたい考えなのだろう。だが野田氏にとっては取り込まれた格好で、存在感をいかに発揮できるかだ。

 一方、衆院安全保障委員会の閉会中審査が予定されているPKO日報隠蔽問題では、自民党側が渦中の稲田朋美元防衛相は辞任で責任を取ったとして参考人招致を拒否している。加計学園問題でも「大臣が交代したから」などと同じような対応を取れば、「疑惑隠し内閣改造」と言わざるを得ない。

 安倍首相は「私自身、至らない点があり、こうした状況を招いたことを深く反省している」と言うなら、疑念に対して丁寧に説明責任を果たしていく覚悟がなければ、国民の信頼は取り戻せない。支持率回復の要諦はそこにしかない。

 

「糸を売って縄を買う」などと皮肉…(2017年8月4日配信『福井新聞』−「越山若水」)

 

「糸を売って縄を買う」などと皮肉られたのは日米繊維交渉である。沖縄の返還問題が絡んだからで、福井弁で言えば「糸がむだかって」なかなかほどけなかった

▼そのさなか通産相に田中角栄元首相が就いた。「交換できるなら、縄をとるのは当たり前だ」と国内対策用の巨額予算を大蔵省に認めさせ、合意にこぎつけた

▼「田中角栄 最後のインタビュー」(佐藤修著、文藝春秋)にある。合意の評価は時がするとして、興味を引かれるのは田中元首相が入閣の際につけた注文である

▼大蔵、外務両相の職務も同時に行う。でなければやらない、と佐藤栄作首相に言ったという。福田赳夫外相と水田三喜男蔵相も通産相の仕事をして「正三角形行政」をする、と

▼地図上で三つの省を線で結ぶと正三角形になる。だから…というのだが、これはたぶん両相の顔を立てる煙幕。難交渉を乗り切るのに両相の権限が欲しい、が本音だっただろう

▼安倍晋三政権が布陣を新しくして再始動した。内閣の要職には閣僚経験者が並ぶ。「重厚」と評したいところだが、そう言うには何か物足りない

▼福井県民にすれば地方創生が大問題。企業の人不足は深刻だし、拉致問題に進展がないのも不満だ。あの「角さん」も最後は国民の支持を失って倒れたが、国難には果敢だった。あんな覇気を、残念ながら今度の改造内閣に感じない。

 

(2017年8月4日配信『静岡新聞』−「大自在」)

 

▼三角大福中などと呼ばれた自民党の派閥が争っていた頃、政権派閥は他派閥に気を使うのが当たり前だった。「総理が組閣に当たり、まず考えることは、組閣の骨組みをなす各派閥への閣僚割当数だ」

▼著書「自民党戦国史」にそう書いたのは池田、大平両首相の側近として総裁派閥に深く関わった故伊藤昌哉さんである。内閣支持率が急落すれば、有力派閥が合従連衡などにより、党内で政権交代の受け皿の役割を担った

▼政権争いや閣僚ポスト争いは熾烈[しれつ]を極め、“政治とカネ”の問題がついて回った。派閥政治の弊害は厳しい批判を浴びたが、国民の不満を吸収する疑似政権になったことも事実だった

▼小選挙区になって以降、派閥の力は衰えていく。巨大与党になった今、政権争いにしのぎを削ったかつての派閥の姿は見当たらず、安倍晋三首相の1強時代が続いている。加計学園問題やPKO日報隠蔽[いんぺい]問題などへの反発で、逆風下にある1強の首相が支持率回復へ内閣改造に打って出た

▼閣僚経験者の起用が目立つ安定重視の新布陣はもう失敗は繰り返さないとの決意の表れだろう。本県からは上川陽子氏(衆院静岡1区)が再び法相として入閣した。閣僚当時の堅実な仕事ぶりが評価されたとみられる。期待したい

▼党内の派閥や野党に依然、ライバルは見当たらない1強の首相である。全ての国民の代表として求められるのは、何より自制する心だろう。首相はきのう、原点に立ち返って国民の負託にこたえると強調した。難問山積だが、誠実に説明責任を果たす内閣であってほしい。

 

内閣改造  おごり排し信頼回復を(2017年8月4日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 「第3次安倍第3次改造内閣」がきのう発足した。

 国民の政治不信は根深い。政権の立て直しに向けた安定重視の布陣とはいえ、安倍晋三首相にとって強い逆風にさらされての再船出に違いない。首相自らが「1強」のおごりを排して謙虚な姿勢で臨まなければ、政権の起死回生は難しいことを肝に銘じてもらいたい。

 首相は記者会見で「結果本位の仕事人内閣」と位置付け、「政策課題に結果を出すことで信頼を回復する」と力を込めた。

 森友・加計両学園を巡る疑惑や自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)問題などで民意は離れつつある。内閣支持率が急落する中、首相は「人心一新を図りたい」として内閣改造と自民党役員人事を前倒しした。

 ところが、閣僚19人の顔触れをみると、政権の骨格である麻生太郎副総理や菅義偉官房長官らが続投し、外交の顔となる外相に河野太郎氏を起用するなど第2次安倍政権以降の入閣経験者が11人を占めた。新鮮味を欠き、実務や答弁の力を重視した陣容からは首相の強い危機感が透けてみえる。

 挙党態勢へ大派閥のバランスに腐心する内向きの論理ばかりが優先された。政権と距離を置く野田聖子総務相の起用は「批判勢力」を含め幅広い人材を登用する度量を示したが、野田氏の持論を封じ込める狙いがあるようだ。これで身びいきを反省し、信頼回復につながる改造と言えようか。

 防衛相に小野寺五典氏が再登板した。日報問題で揺れる組織の立て直しを図るが、隠蔽体質の糾明や再発防止を怠ってはならない。資質を欠く防衛相の言動で危ぶまれた文民統制の徹底も求めたい。

 加計問題で国会答弁の矢面に立った文部科学相と地方創生担当相を替え、幕引きを図りたい意向も見え隠れする。だが真相解明は程遠く、疑惑は残ったままだ。

 一方、党執行部は高村正彦副総裁と二階俊博幹事長を留任させ、政策立案を取り仕切る政調会長に「ポスト安倍」を目指す岸田文雄氏を充てた。ベテランを残した守りの布陣といえ、刷新感は薄い。

 政権復帰で安倍政権が再発足して4年7カ月余り。「1強」を背景に強権的な手法が国民の政治不信を招いた。都合の悪いことは調査せず説明もせず、ひたすら強弁で押し隠そうとする姿勢が首相に限らず内閣全体に波及した。

 新内閣はまず国民の声に謙虚に耳を傾け、丁寧な政権運営に心がけるべきだ。説明責任をおろそかにすれば信頼回復は難しい。

 

安倍内閣改造/政権の体質は改まるのか(2017年8月4日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が、内閣改造と自民党役員人事に踏み切った。「人心一新」で急落する支持率の回復を図るためだ。

 かつて70%を超えた内閣の支持率は、先月の世論調査で35・8%に下落し、不支持率(53・1%)が上回った。「首相が信頼できない」とする回答が5割を超え、国民の不信感が浮き彫りになった形である。

 「加計学園」の獣医学部新設問題で野党に追及された文部科学相の松野博一氏と地方創生担当相の山本幸三氏は、閣外に出た。自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)で関与が疑われた稲田朋美氏は、改造の前に防衛相を辞任している。

 閣僚の交代で幕引きを図る意図があるのなら、「疑惑隠し」の批判は免れない。

 日報問題は、衆院安全保障委員会の閉会中審査で議論されることが決まった。野党は稲田氏の参考人招致を求めているが、自民党は拒否している。

 後任の小野寺五典氏は防衛相を務めた経験があり、安定感を期待されたとみられる。だが日報隠しで当事者としての説明を求めるのは無理がある。

 加計学園問題では、政府側の答弁が二転三転した。今後、前文科相らが答弁に立たず、後任大臣が追及をかわす展開になれば、真相の解明は遠のく。

 加計学園の疑惑に加え、「森友学園」の国有地売却を巡る問題でも、首相や首相夫人の関与の有無が取りざたされている。そうした疑問に正面から答えないまま、本当に「信頼回復」が可能だと考えているのか。

 首相と距離を置いてきた野田聖子氏を総務相に抜てきし、河野太郎氏を外相に指名したのは、「お友達重視」の印象を変えたいとの意図がうかがえる。

 ただ、安倍政権と与党は、重要法案で強行採決を繰り返すなど、異論に耳を貸さない「おごり」が指摘されてきた。最近までの高い支持率も、「ほかに適当な人がいない」などの消極的支持が多く、民進党の低迷に助けられたのが実情である。

 首相はきのう、「大きな不信を招いたことを改めておわびする」とテレビカメラの前で頭を下げた。「反省」が言葉だけで政権の体質が一向に改まらないのなら、国民の不信感は一層深くなると心すべきだ。

 

(2017年8月4日配信『神戸新聞』−「正平調」)

 

歴代選手をよりすぐり「わがベストナイン」を思案するのはプロ野球ファンの楽しみである。「サードは長嶋」の声に阪神びいきは「待った」をかける。「三宅がいる」「掛布もいる」と

◆シーズン中の球団の監督は、いま持てる陣容でベストの布陣をやりくりする。あいつはけが、こいつはスランプか…で、頭が痛くなるときもあるだろう。「バースがおったらなあ」と、すぐに懐かしの選手を持ち出してぼやくのもファンの常に違いない

◆内憂外患のいまの政治で考えるなら、閣僚もばりばりのベストメンバーが求められる。再登板あり、反主流派の起用あり…の苦心は危機感の表れとみえるが、さあどう出るか。安倍改造内閣がきのう、発足した

◆思えば前の布陣は、自分の守備位置も分かっていないようなふらふら答弁の人や暴投を繰り返す人がいて、どこがベストかと疑われた。2番手チームの低迷に助けられてはいるが、大失速のあっぷあっぷである

◆阪神が優勝した12年前、当時の岡田彰布監督は言った。「選手が当たり前のことを当たり前にしてくれる。役割分担がしっかりできたのも最高の選手に恵まれたから」

◆取り組むべき難題は多い。まだ疑惑の晴れぬ問題もある。まずは当たり前のことを当たり前に頼みたい。

 

安倍改造内閣 危機感にじむ守りの布陣(2017年8月4日配信『山陽新聞』−「社説」)

   

 安倍晋三首相による改造内閣が発足した。ここまで「1強」を維持してきた政権の支持率は急落しており、2012年12月の第2次安倍内閣発足以降、最大の危機に陥った中での改造である。

 閣僚19人のうち初入閣は6人、女性は野田聖子総務相ら2人にとどまった。派手なサプライズはなく、ベテランや閣僚経験者が目立つ。新鮮味は薄いが手堅い「守りの布陣」と言えよう。これ以上の失点は許されないという首相の危機感がにじむ人事だ。

 南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題で大臣と幹部が辞任した防衛省トップには小野寺五典氏が再登板する。加計学園問題を巡る文部科学省の混乱収拾には実務能力に定評がある林芳正氏が当たる。党執行部は二階俊博幹事長が留任し、総務会長に竹下亘氏を、政調会長に「ポスト安倍」をうかがう岸田文雄氏を充てた。

 支持率低下とともに党内での首相の求心力には陰りが見えており、挙党態勢の人事を意識したのだろう。首相の出身派閥である細田派がやや自重する形で他派閥に配慮し、党内の非主流派も登用した。

 内閣の新たなポストとしては「人づくり革命」担当相を設けた。茂木敏充経済再生担当相が兼務する。人づくり革命は通常国会後に首相が打ち出したもので、教育無償化や人材への投資の施策を検討していくという。政権の新たな看板にしたいようだ。

 安倍政権は、地方創生や1億総活躍といった看板を次々と掲げ、担当大臣も置いてきた。だが、十分な成果を挙げているとは言い難く、キャッチフレーズ先行の感が強い。問われているのは成果である。道半ばの地方創生をはじめ、じっくりと腰を据えて取り組んでもらいたい。

 森友学園問題をはじめとして、強まる一方の政権批判の風向きを変えたい。今回の人事にはそうした思惑があったはずだ。しかし、内閣の顔ぶれを変えること以上に今必要なのは、国民や野党の批判を謙虚に受け止め、森友・加計問題などで首相らに向けられた疑念に丁寧に答えることである。安倍政権の根本的な政治姿勢が問われている。

 PKO日報問題では、国会の閉会中審査に、稲田朋美前防衛相を参考人招致するよう野党が求めている。稲田氏には、日報の非公表方針を了承していた疑いが浮上しており、うやむやのままの幕引きは許されない。だが、自民党は一貫して応じない構えだ。その理由が「稲田氏は閣僚辞任という一番重い責任を取った」というのでは、国民目線からかけ離れており、理解が得られるとは思えない。

 きのうの記者会見で首相は「国民の声に耳を澄ませる。政権交代時の原点に立ち返る」と語った。言葉だけでなく、長期政権で積み重なったおごりや緩みを排除していかないことには信頼回復の道は見えてこない。

 

きょうは「ビヤホールの日」であ…(2017年8月4日配信『山陽新聞』−「滴一滴」)

   

 きょうは「ビヤホールの日」である。東京・銀座に1899年、日本で初めてのホールが開業した日に由来する。モダンな造りも話題を呼び、初日からビールが売り切れた

▼発案したのは、戦前に東洋のビール王と呼ばれた井原市出身の馬越恭平(44〜1933年)。アサヒビールとサッポロビールの前身に当たる大日本麦酒の社長だった。正月の初荷を派手な行列に仕立てたり、仕掛け花火で商品名をPRしたり。アイデア経営で、倒産寸前の会社を国内市場の約8割を握るまでに育てた

▼若いころには失敗もあった。三井物産に入って数年で重役の手前まで出世した時、為替取引に手を出した。もうけたつもりだったが、実際は大赤字。自らの失敗を認めることができずに会計係の部下を叱る馬越を、部下は引かずにいさめ続け、最後は馬越が謝罪した

▼後に馬越がビール会社に移った際、その部下を探して幹部に抜てきした。伝記「馬越恭平」から引いた逸話である

▼著者は、部下の妹の孫に当たる故・橋本龍太郎元首相。出版時は当選4回生だった。忠言する部下と、それを受け入れるリーダーの器の大切さが、後に内閣を率いた時に思い返されたかもしれない

▼安倍晋三首相の改造内閣が発足した。支持率低下を食い止める妙薬があるとすれば、耳に痛い言葉を受け止める度量ではないか。

 

内閣改造 疑惑解明から逃げるな(2017年8月4日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 いくら顔触れを変えても、政権が抱えている課題に変わりはない。森友、加計学園や、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊日報の隠蔽(いんぺい)問題など、国民が抱く疑惑をうやむやにしようとするのであれば、到底許されまい。

 安倍晋三首相がきのう内閣改造を行った。大臣の問題発言や曖昧な答弁、強引な国会運営などが批判を浴び、内閣支持率は急落している。政権立て直しを図るため、追い込まれる格好での閣僚交代となった。

 失敗はもはや許されず、リスクを避けて実務能力優先で人選したのだろう。そんな守りの姿勢に強い危機感がうかがえる。

 歴史認識などの考え方が近い側近を重用する「お友達内閣」のイメージを変えようとした点も危機感の表れといえよう。首相と距離を置く野田聖子氏の総務相起用である。原発など党の政策に対しても歯に衣(きぬ)着せぬ発言で知られる論客、河野太郎氏は外相に就いた。挙党体制をつくって政権を安定させる思惑が首相にはあるようだ。

 野田、河野両氏は、首相を含め閣僚間で議論になることを恐れず積極的に発言してほしい。

 安定感のある人が多い一方、新鮮味が乏しいとの指摘もあろう。大事なのは何をするか、である。安倍首相は会見で「経済最優先」の考えを示した。

 ただ肝心の「アベノミクス」に陰りが見え始めている。日銀は先月、2%の物価上昇目標の達成時期をまた先送りした。「異次元緩和」に取り組んできたものの、先行きは不透明だ。金融政策の抜本的な見直しが必要ではないか。

 忘れていけないのは、政権への逆風となっている数々の疑惑は解明されていないことである。関連する文部科学や地方創生、防衛の大臣は全て代わったが、職を退いても説明責任から逃げられるわけではない。閉会中審査などで今後も、解明に努力する必要がある。

 安倍首相も、積極的に公開の場に出させるようにすべきだ。そうしてこそ、信頼を取り戻す道が見えてくるのではないか。

 そのためにも、まずは安倍首相が自ら真剣に国民の疑念に向き合うことが欠かせない。妻や友人に国会の証人として出るよう促すのが筋である。

 PKO日報の問題を抱える防衛相には、小野寺五典氏が就いた。隠蔽体質の改善を進めながら、省内で生じた亀裂を埋めていくことが求められる。責任は重大だ。公文書の管理には、安倍政権として取り組むことも急がれる。

 内閣改造に先立ち、自民党の役員人事が行われた。憲法改正の論議を主導する高村正彦副総裁を続投させたのは、首相が在任中に改憲を実現したい強い思いの表れだろう。しかし、連立与党の公明党をはじめ自民党内にも慎重論がある。首相の前のめり姿勢は理解し難い。国の根幹に関わるだけに、時間をかけた議論が不可欠だ。

 広島選出の岸田文雄氏は党政調会長になった。外相を務めた4年半余り、閣僚の一員として核兵器廃絶や改憲などの問題で首相との考えの違いを封印せざるを得なかったかもしれない。首相を目指すのなら、党内の意見をまとめる立場に就いたとはいえ、自らの考えをはっきり打ち出してもらいたい。

 

内閣改造/信頼回復へ真摯な対応を(2017年8月4日配信『山陰中央新報』−「論説」)

 

 安倍晋三首相が、内閣改造と自民党の役員人事を行った。麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、二階俊博幹事長、高村正彦副総裁という政権を支える骨格を維持するとともに、閣僚としての資質が問われた稲田朋美元防衛相、金田勝年前法相の二つのポストに、経験者である小野寺五典、上川陽子各氏を再起用するなど安定重視の布陣とした。

 また、安倍首相に距離を置いていた野田聖子元総務会長を総務相に、当初、「廃棄済み」とされていた南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報の公表を促した河野太郎元行政改革担当相を外相に充て「人心一新」もアピールした。

 しかしPKO日報隠蔽(いんぺい)問題のほか学校法人「森友学園」への格安での国有地払い下げ問題や、安倍首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画を巡る問題で失った国民の信頼は、閣僚、党役員の入れ替えだけで回復させるのは難しいだろう。

 政権復帰以後の国政選挙連勝で得た「数の力」に頼る姿勢を改め、自らの非を率直に認め、批判にも耳を傾ける真摯(しんし)さを求めたい。

 安倍首相に異を唱えることなく、指示を忠実にこなす閣僚が目立った改造前に比べれば、野田、河野両氏を閣内に迎え入れたことは評価できる。ただ、党内さえも味方か否かで切り分け、敵と見れば攻撃的とも言える対応をとる手法が変わるのかどうか。

 理念、信条や政治手法が安倍首相とは大きく異なるにもかかわらず、協力姿勢をとる岸田文雄前外相は党政調会長として取り込み続け、時に批判的な発言をする石破茂元幹事長は処遇せず、政権から遠ざけ続けている。

 「安倍内閣、自民党に対し、国民の厳しい目が注がれている。私自身、至らない点があり、こうした状況を招いたことを深く反省をしている」

 安倍首相は自民党総裁として臨んだ3日の党臨時総務会で、こう述べたが、その「反省」が本物かどうかは、今回の人事だけでは判断できない。

 森友・加計学園問題などで国民の強い反発を招いたのは安倍首相の姿勢に加え、「1強」状態が招いたおごりだったといえる。

 公開を求められた公文書や公的資料の提出を拒む、あるいは廃棄済みなどとして存在しないことにする。出さざるを得なくなると、ほとんどを黒塗り状態にしてしまう。

 これでは国民から、自分たちに都合が悪いものはうそをついてでも隠そうとしているような対応に映ったとしても不思議ではない。

 さらに加計学園問題では、官僚が作成した文書を菅官房長官が「怪文書」と切り捨て、文部科学省の内部調査が始まると、副大臣が国家公務員法の守秘義務違反を持ち出して官僚をけん制した。

 そして安倍首相は問題を追及する野党やメディアを「印象操作」と非難。東京都議選で街頭演説した際には、自らにやじを飛ばし続けた聴衆に対し「こんな人たち」とやり返した。

 今回の改造を出直しの機会に、そうしたおごりを捨てないと、国民の厳しい視線を変えることはできないだろう。

 

「将の将たる」立ち居振る舞い(2017年8月4日配信『山陰中央新報』−「明窓」)

 

 古代中国、前漢の初代皇帝となった劉邦が、謀反の疑いで捕縛した韓信に聞いた。「自分はどれだけの兵が動かせると思うか」。韓信は劉邦配下の大将軍で、漢王朝誕生の立役者

▼韓信は答えた。「陛下は10万までなら動かせるでしょう」。「お前はどれだけ動かせるか」「私は多ければ多いほど良く動かせます」。劉邦は笑って聞いた。「ではなぜお前は私の捕虜になっているのか」

▼「自分は兵の将たる者。あなたは将の将たる人だったからです」。互いに天下取りをうかがうライバルだったが、いくら戦上手でも自分は一将軍のまま。皇帝に上り詰めた劉邦には群雄を束ねる天授の力量があったから、という答えだ

▼第3次安倍内閣の第3次内閣改造と党役員人事が終わった。鍵となる閣僚の顔触れは、無難さを意識したのか守りの印象。党人事では、竹下亘氏(衆院島根2区)が総務会長に就任し、党内融和の重責を背負うことになる

▼盤石に見えた「安倍1強」を支えた内閣支持率が急落し、今回の改造は政権の再浮揚を占う意味を持つ。お騒がせ閣僚を一掃した表紙替えだけであってはならないし、「人づくり革命」を目指すというなら、まず首相の手腕に注文を付けたくなる

▼省の将たるは大臣。その采配に口出しし、身内に甘い政治などとう批判を浴びてはならないのはもちろん、少々扱いにくくても、歯に衣(きぬ)着せぬ物言いをする直言居士を大切にするべきでは。「将の将たる」首相には、天命を自覚した立ち居振る舞いがあるはずだ。

 

(2017年8月4日配信『山口新聞』−「四季風」)

 

こんな人も珍しい。県選出の林芳正参院議員。きのうの組閣で文科相として入閣したが、この9年足らずの間に5回目の大臣就任になる。衆院議員だとしても、異例の多さだ

▼そもそも衆院議員に比べ参院議員はいろいろな面で「差」をつけられる。代議士の呼称は衆院議員に限定。予算など多くの意思決定には衆院が優越、内閣不信任案決議も衆院だけ。林氏が総理を目指すうえからも衆院にくら替えを模索し続けるのも、このような事情が横たわる

▼その参議院にいながらも08年に福田改造内閣で防衛大臣として初入閣以来、経済財政政策担当相、安倍内閣では2度の農水相、そして加計学園問題を抱える文部科学相。閣僚失言が相次ぐなか、国会答弁で安心して任せられる人なのだ

▼林氏の後援会幹部の間には入閣が決まった瞬間、「いつも困ったときばかりか」と戸惑いもあったが、「きっと問題を解決できる」「飛躍する好機」と対応に期待する

▼林氏が衆院くら替えを模索するのは山口3区。河村建夫元官房長官の地盤だ。その河村氏は衆院予算委員長に就いた。対立しがちな河村、林両氏のバランスを保ったかのようにも見える安倍首相の人事の妙、見事な応変である。

 

内閣改造 大臣を代えても疑惑は消えない(2017年8月4日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 第3次安倍第3次改造内閣が発足した。ベテランを多く配して安定を重視する一方、安倍晋三首相と距離を置いてきた野田聖子、河野太郎両氏をそれぞれ総務相、外相に起用するなど、「挙党態勢」を演出。首相が内閣支持率の急落に危機感を抱いた結果と言えよう。

 南スーダン国連平和維持活動(PKO)の「日報」や、学校法人「加計学園」を巡る問題の当事者となった大臣は外した。「人心一新」を狙ったのだろうが、これで疑惑が解消されたわけではない。このままうやむやにすることは許されない。引き続き国会で追及していかなければならない。

 中でも、日報問題で自らが組織的な隠蔽(いんぺい)に関与した可能性が高い稲田朋美元防衛相は、これまで説明責任を全く果たしていない。自民党の幹部は「辞任という一番重い責任の取り方をした。辞任した大臣を国会に呼ぶべきではない」と稲田氏の参考人招致を拒む。辞めれば在任中の疑惑は不問となり、説明の必要もないと言わんばかりの姿勢は到底容認できない。

 加計学園問題で矢面に立った山本幸三前地方創生相と、松野博一前文部科学相も閣外に去った。今治市への獣医学部誘致を巡る経緯について、政府の説明と文科省の内部文書との食い違いは残ったままだ。二度の閉会中審査でもその溝は埋まらなかった。真相解明の責務は残っている。新しく就任する2人の大臣も「分からない」では済まされないと肝に銘じるべきだ。

 東日本大震災を「東北で良かった」と発言した今村雅弘前復興相をはじめ、第2次安倍内閣が発足して以降、閣僚の辞任は6人に上る。また辞任には至らなかったものの、国会での不安定な答弁が問題になった金田勝年前法相や、沖縄県での大阪府警機動隊員による「土人」発言を「差別であるとは個人的に断定できない」とかばった鶴保庸介前沖縄北方相らもいる。

 首相はこれらの問題が起きるたびに「自らの任命責任」を口にしてきたが、具体的に何らかの行動を取ったわけではない。任命責任を口にするなら、稲田氏らには大臣を辞めた後もその責務を全うさせるべきだ。

 自民党人事では、加計学園問題への関与が指摘された萩生田光一前官房副長官が幹事長代行の要職に就いた。側近の優遇は変わらないようだ。また、再任された二階俊博幹事長はかねて言動が物議を醸してきた。先日には、自民党への国民の批判について「そんなことに耳を貸さないで、正々堂々頑張らなくてはならない」と話した。

 首相は昨日「反省すべきは反省し」と改めて低姿勢を見せたが、党人事を見る限り、本当に反省しているかどうかは疑わしい。国民の信頼を取り戻し、内閣支持率を上げるためには「疑惑隠しの内閣改造」では逆効果だ。自ら真相を明らかにすることでしか信頼は回復できないと認識するべきだ。

 

【内閣改造】人心一新などできない(2017年8月4日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 安倍首相が内閣改造と自民党執行部人事を行った。

 閣僚も党役員も派閥のバランスを考慮し、閣僚経験のあるベテランや重鎮を配している。安定優先の布陣だという。

 そもそも今回の改造は森友、加計(かけ)学園や南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題などによる内閣支持率の急落が理由だ。数々の疑惑の幕引きを急ぎたい思惑があからさまなだけに、国民の多くは冷めた目で見ていたのではなかったか。

 首相は「国民の信頼回復に努める」と意気込むが、それは閣僚の顔触れを変えただけでは成し得ない。首相自ら疑惑の解明に率先して取り組む姿勢がなければ、不信はますます強まるだけである。

 内閣改造は支持率が低迷した時などに、「人心一新」を掲げて行われるのが常である。今回も安倍首相は「新たな気持ちで結果を残し」「新たな布陣で政策を前に進める」と、政治の「リセット」を強調する。

 しかし、それほど簡単に切り替えができる状況だろうか。

 安倍首相を慕っていた森友学園の理事長は、国有地の払い下げについて安倍昭恵・首相夫人側に相談。結果的に常識外れの値下げが実現している。加計学園の獣医学部新設を巡っては、「総理のご意向」などと書かれた文部科学省の内部文書に沿って、計画がとんとん拍子で進んでいった。学園理事長は首相の「腹心の友」である。

 官僚の忖度(そんたく)や「えこひいき」、政治の私物化が疑われる問題が立て続けに起こっている。異常な事態と言うほかない。

 PKO日報問題では、陸上自衛隊の隠蔽方針を稲田前防衛相が了承していたか否かが曖昧なままだ。こちらも「文民統制」の根幹が揺らぐ重要な問題である。

 改造では防衛相、文科相、地方創生担当相の関係閣僚が軒並み交代した。当事者を表舞台から退場させ、ほとぼりが冷めるのを待つ―。そうした従来のやり方を踏襲するつもりなのだろうか。

 内閣支持率が急落したのは、答弁が不安定だったり失言したりする閣僚の資質だけが原因ではない。疑惑解明に向けて消極的な姿勢に終始してきた、安倍首相への不信感が大きいのは明らかだろう。そうである以上、首相自身が対応を変えるほかに事態打開の道はない。

 日報問題で与野党が開催する国会の閉会中審査について、野党は稲田前防衛相の参考人招致を求めているが、与党は拒んでいる。森友、加計学園問題でも、昭恵夫人や加計学園理事長らの招致が実現していない。これでどうして真相解明が期待できよう。

 安倍首相がイニシアチブを取って関係者を招致し、堂々と質疑してこそ、信頼回復への第一歩が踏み出せるというものだろう。

 それができなければ疑惑隠しの内閣改造に終わるだけである。

 

「男の顔は履歴書である」(2017年8月4日配信『高知新聞』−「小社会」)

 

 「男の顔は履歴書である」と言ったのは、ジャーナリストの大宅壮一だ。女性の社会進出が進んだ現在なら、「女の顔」も同じだろう。そう思って安倍改造内閣の、閣僚の顔写真と経歴をながめた。

 安倍首相の言葉を借りれば「反省すべきは反省し、国民の信頼を取り戻す」布陣だろう。防衛省の日報隠蔽(いんぺい)問題で、防衛相は改造を待たずに閣外に去り、経験者を起用。森友、加計(かけ)問題の関係閣僚も交代した。

 19人の閣僚のうち経験者が留任を含めて13人もいる。閣僚らの言動が次々と問題になり、安定性を何より重視したのだろう。政権の骨格となる重要閣僚は「古い顔」、経験者は「かつて見た顔」では、清新さは乏しい。

 逆に、問題を起こした閣僚の顔が消えたことで、早期に幕引きを図ろうとするなら反省したことにならない。日報問題も森友、加計問題も数々の疑惑が積み残しになっている。もともと疑惑隠しのための改造という批判がある。

 閣僚を任命したのは、国会で強弁を続け、東京都議選の「こんな人たち」発言で自民党を惨敗に導いた首相。閣僚名簿を読み上げたのは、加計問題の関係文書を「怪文書」と切り捨てた菅官房長官だ。煎じ詰めれば安倍政権の体質そのものが問われていることに、首相はどれだけ敏感になれるのか。

 疑惑解明に正面から向き合い、国民に丁寧に説明する。改造後の首相には、分厚く重い夏休みの宿題が残っている。

 

内閣改造  政治不信を払拭できるか(2017年8月4日配信『徳島新聞』−「社説」)

                  

 ベテランを多く入閣させるなど安定を重視した陣容となったが、失われた信頼をどう取り戻すのか。

 安倍晋三首相が内閣改造・自民党役員人事を行った。首相の友人が理事長を務める学校法人「加計(かけ)学園」問題などで内閣支持率が急落する中、麻生太郎副総理兼財務相や菅義偉官房長官を留任させるなど政権の骨格を維持した。

 初入閣は6人となったが、この布陣で何を目指すのか、いまひとつ見えてこない。

 改造の目玉は、政権と距離を置いてきた野田聖子元総務会長を総務相に起用したことだ。第2次内閣発足以来、4年半余り外相を務めてきた岸田文雄氏を政調会長に充て、後任に河野太郎前行政改革担当相を抜てきした。

 首相への「批判勢力」である野田氏や政治信条が異なる河野氏を閣内に取り込むことで「お友達優遇」との批判をかわし、挙党態勢をアピールする狙いがあるのだろう。

 河野氏は、情報発信力や改革姿勢が評価された形だ。外相や衆院議長を歴任した父洋平氏はハト派で知られ、中国や韓国との関係改善を図りたいとの思惑も読み取れる。

 一方で、閣内不一致が起きる可能性もはらんでいる。

 注目されたのは、加計学園問題を抱える文部科学相の人選だ。林芳正元農相の行政手腕に期待したとみられる。

 7月の閉会中審査では、首相の答弁の整合性が追及されるなど、疑問は残ったままだ。説明責任をしっかりと果たしてもらいたい。

 安倍政権は南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題を巡って、稲田朋美防衛相が辞任に追い込まれ、大きな打撃を受けたばかりである。

 防衛相には、小野寺五典政調会長代理を再び登板させた。日報問題を踏まえ、シビリアンコントロール(文民統制)の徹底を図らなければならない。北朝鮮の核・ミサイルへの警戒も怠れない。

 焦点となったのは岸田氏の処遇だった。石破茂元幹事長と並び、衆目の一致する「ポスト安倍」候補である。

 岸田氏は、来年の総裁選への準備を進めるため、閣外に出て党務に就くことを希望していた。その要求を受け入れた上、岸田派から4人を入閣させたのは、「安倍1強」の状況が変化したことをうかがわせる。

 首相は政権の安定化に向けて、派閥のバランスを取ることに腐心したようだ。

 記者会見では低姿勢だったが、大切なのは、強引な国会運営や答弁が招いた有権者の政治不信をいかに払拭(ふっしょく)するかである。

 今回も経済最優先を打ち出し、新たに「人づくり革命」を掲げたが、看板倒れに終わらないよう、成果を出さなければならない。

 閣僚の度重なる失言や資質が問題視されてきただけに、安倍内閣は国民目線を忘れず、謙虚に諸課題に対処すべきである。

 

(2017年8月4日配信『徳島新聞』−「鳴潮」)

 

赤ちゃんは生まれた時に手を握り締めている。これからの人生で大切なものをつかむんだと、言っているように。年老いて亡くなる時には、手のひらを広げて旅立つ。この世で手に入れたものは、あの世へは持っていけない。そう悟ったように

 いつか、どこかで、そんな話を聞いた気がする。映画のせりふだったか、小説の一節だったか。少なくとも、政界の関係者からではなかった

 「私を、私を」。いつの時代も、ポストを求める手が四方八方から伸びてくるのが、政界人事の常である。今回の内閣改造で閣僚の半数以上が入れ替わったが、初入閣は6人にとどまった。資質に欠ける閣僚を安定感のあるベテランに代えて、窮地をしのぎたい。そんな意図は分かるが、安倍晋三首相が掲げた「人心一新」には程遠いのが第一印象だ

 改造はもろ刃の剣。入閣できなかった議員の不満がいつ爆発するか分からない。首相は憲法改正への意欲を隠さないが、内閣支持率の急落を受けて、党内では異論も聞こえ始めている

 首相が後世に名を残そうとするなら、道を誤りかねない。私心なく国のために尽くせば、評価はいやでもついてくる。人心が離れるのは私心が過ぎるからではないか

 政治家の手は名誉や利益をつかむためのものではない。困窮し、救いを待つ国民に差し伸べるためにある。

 

内閣改造 政治姿勢を改めるときだ(2017年8月4日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 閣僚や自民党役員の顔触れを変えたからといって、国民が政権に抱く疑念が消えるわけではない。「1強」のおごりや慢心とは決別し、謙虚な姿勢で政権運営に臨んでもらいたい。

 第3次安倍晋三第3次改造内閣が発足した。内閣支持率が急落する中、菅義偉官房長官や麻生太郎財務相ら5人が留任するとともに閣僚経験者7人を再登板させ、手堅さと安定感を最優先した。

 19閣僚のうち初入閣は6人にとどまり、清新さには欠ける。「守りの布陣」といえるだろう。

 防衛省の日報隠蔽(いんぺい)問題で矢面に立った防衛相、加計(かけ)学園の獣医学部新設問題を担当する文部科学相と地方創生担当相、「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法を巡る国会答弁が不安定だった法相は、いずれも交代した。

 政権と距離を置いてきた野田聖子氏を総務相に、歯に衣(きぬ)着せぬ発言で知られる河野太郎氏を外相にそれぞれ起用したのは、内外に挙党態勢を印象付ける狙いだろう。自民党役員人事では「ポスト安倍」を目指す岸田文雄前外相を政調会長に据えた。

 前内閣で積み残した宿題は多い。まずは日報隠蔽問題、加計学園問題、国有地格安売却の森友学園問題の解明が欠かせない。閣僚交代による幕引きは許されない。国民も国会も納得できる説明責任を果たすことが信頼回復の第一歩と心得てほしい。

 「アベノミクス」や「地方創生」など看板政策も色あせてきた。次は「人づくり革命」というが、打ち出した政策を検証する作業も必要ではないか。

 首相が前のめりの憲法改正は国民にも多様な意見があり、慎重で丁寧な論議が求められる。特定秘密保護法、安全保障関連法、共謀罪のような暴走は許されない。

 1年前、前回の内閣改造に際して私たちは「『数の力』を過信して国民の目に『おごり』と映るような政治は禁物」と指摘した。今回、首相は「人心一新」のための改造だという。何よりも首相自身が政治姿勢を改めるときである。

 

日本の特撮番組「スーパー戦隊」(2017年8月4日配信『西日本新聞』−「春秋」)

 

 日本の特撮番組「スーパー戦隊」シリーズを翻案した米テレビドラマ「パワーレンジャー」シリーズ。20年以上も米国の子どもたちのハートをつかみ、映画版の新作が今夏、日本でも公開された

▼スーパー戦隊は1975年の「ゴレンジャー」から。5色に色分けされたヒーローが力を合わせて戦う。変身後に一人ずつ名乗りを上げるのは、歌舞伎「白浪五人男」をまねたのだとか

▼英語版は93年にスタート。日本でのシリーズ作品を下敷きに、米国で制作されている。スーパーマンなど、ヒーローは1人で戦うものと思われがちな米国で、チーム戦が人気を博したのには理由がある

▼戦隊のメンバーは、白人、黒人、中南米系、アジア系などの俳優を起用し、男女も偏らないよう配慮。多様なヒーローがそれぞれの役割で活躍して勝利をつかむ姿は、多民族国家・米国の理想に通じるというのだ

▼きのう“新作”が発表された「アベレンジャー」シリーズ。前作では、リーダーのアベレッドとの関係が指摘された「もり・かけ疑惑」や味方の失態で人気が急落した。へまをした仲間を外して心機一転、挽回を図る

▼「1強」「お友達」批判を踏まえ、リーダーへの苦言も辞さないメンバーも加えたという。多様なチームへの“変身”を強調するが、中心メンバーの顔触れは変わらず、疑惑解明も生煮えのまま。これで国民のハートをつかむことができるだろうか。

 

内閣改造 批判に耳を傾ける真摯さを(2017年8月4日配信『熊本日日新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相(自民党総裁)は3日、「人心一新」を掲げて内閣改造と党役員人事を行った。顔触れを見ると、内閣の骨格は維持しつつ閣僚経験者を多く起用。内閣支持率が急落する中、目新しさより安定を優先させた布陣で政権の立て直しに全力を挙げる。

 ただ支持率低迷は加計学園問題などの対応で首相への不信感が高まっているのが要因である。失った国民の信頼は閣僚や党役員の入れ替えだけでは回復できない。自らの非を素直に認め、厳しい批判にも耳を傾ける真摯[しんし]さが必要だ。

 19閣僚のうち麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官ら5人が続投。加計問題で矢面に立った松野博一文部科学相や山本幸三地方創生担当相、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の国会審議で不安定な答弁が批判を浴びた金田勝年法相らは閣外に去った。

 1年前に防衛相に抜てきされた稲田朋美氏は、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽[いんぺい]問題の責任を取って内閣改造を待たずに辞任し、政権にとって大きなダメージとなった。2012年12月の第2次安倍内閣発足以降、失言などを理由に途中で職を辞した大臣は6人に上る。前回の改造人事では閣僚経験のない入閣待機組の就任が目立ったが、今回、閣僚経験者の起用が多かったのは「もう失敗できない」との危機感があったからに違いない。

 党内バランスにも配慮したようで、これまで安倍政権に距離を置いてきた野田聖子元総務会長を総務相に起用した。党内の批判勢力をできるだけ取り込み、挙党態勢に腐心した表れだ。

 加計問題で注目を浴びる文科省のトップには林芳正元農相が就いた。組織の立て直しが急務な中、獣医学部新設計画の審査を担う大学設置・学校法人審議会は8月末にも文科相に答申予定だ。新大臣の下で手続きをする方が野党からの追及をかわしやすいとの思惑も透けるが、このまま問題の幕引きを図ることだけは許されない。

 自民党の役員人事では、二階俊博幹事長や党の改憲論議の中核を担う高村正彦副総裁が留任。焦点になっていた岸田文雄氏は政策立案を担う政調会長に就いた。安倍首相は外相続投を求めたようだが、党務を希望する本人の意向を尊重したようだ。ポスト安倍をうかがう最有力とされる人物である。これまでは閣内にいて制約も多かっただけに、その言動がこれまで以上に注目を浴びよう。

 新たな布陣となった安倍内閣は経済再生最優先を掲げ、首相は結果を残すことで国民の信頼回復を図りたい考えだ。ただ、森友学園問題や加計問題などの対応で「1強」と言われてきた首相の求心力が低下しているのは明らか。政権運営は厳しさが増している。

 これまでの強引な国会運営を反省するとともに、国民への説明責任を言葉だけでなく、態度で示すことが必要だ。そうでないと国民はおろか、党内の不満も高まって政局となる可能性もあろう。

 

(2017年8月4日配信『熊本日日新聞』−「新生面」)

 

7日に開幕する夏の甲子園。きょうは秀岳館の対戦相手が決まる組み合わせ抽選会だ。地区予選では、注目のスラッガー清宮幸太郎選手の早稲田実業があと1勝で出場を逃し、一発勝負の高校野球の厳しさを改めて教えてくれた

▼勝ち抜くためにどんなチーム作りをするか。守備型、攻撃型…、選手の個性や力量を見極めて決めるところに監督の腕の見せどころがある。さらに「勝ち上がるには『地域の代表』という見えない後押しの力が必要」(森岡浩著『高校野球熱闘の100年』)にもなる

▼こちらは加計学園問題などで支持率が急落した安倍政権。劣勢を立て直すため、ある程度計算できる守備型に変わらざるを得なかったのだろう。きのうの内閣改造と自民党役員人事だ。もとをただせば監督の安倍晋三首相の独断がすぎる采配や、起用した監督お気に入りの選手がエラーを重ねたところに原因がある

▼新しい顔触れを見ると、ヒットを打ちまくる派手さは期待できずとも、以前プレーした実績があり、手堅い選手を多く起用した。これまで采配に批判的な立場だった者も入閣させ、さしずめ全員野球といったところか

▼ただしチームの骨格の選手は交代させず、サプライズと言えるような起用も見当たらない。新鮮味には欠け、期待して出番を待っていた新人からは不満も出そうだ

▼今回の選手交代で、世論という後押しの力を再び得ることができるかどうか。いつまでも劣勢を覆せなければ、チーム内から監督交代という声が聞こえてこよう。

 

うがいの手順(2017年8月4日配信『宮崎日日新聞』−「くろしお」)

 

 現在の岐阜県にあった三万石の岩村藩はマニュアルを重んじる藩だった。なにせ、近習(きんじゅ)向けの「勤向諸事(つとめむきしょじ)心得(こころえ)覚(おぼえ)」で、お殿様のうがいと手洗いの手順まで定めていたほどだ。

 「慶安(けいあん)の御触書(おふれがき)」も農民の生活手引書として印刷、領内に配り、その後全国に広まった。小泉純一郎元首相が外相だった田中真紀子氏に渡した「重職心得箇条(じゅうしょくこころえかじょう)」は藩家老の子佐藤一斎の手で書かれた(磯田道史著「歴史の愉しみ方 忍者・合戦・幕末史に学ぶ」)。

 安倍首相による内閣改造が昨日行われた。「加計学園」問題などで何重にも打撃を受けた政権立て直しのためベテランを多用、安定重視の陣容になった。総務相に批判勢力とされる野田聖子氏、注目の防衛相は小野寺五典氏を再起用した。

 「まだ東北で、あっちの方だったからよかった」と発言した復興相がいた。しどろもどろ答弁の法相、うそにうそを重ねた防衛相もいた。閣僚ではないが常識を欠いた党所属議員の暴言、ふるまいが次々と明るみになり週刊誌、テレビワイドショーをにぎわした。

 アベノミクスの景気上昇に期待をかけて暮らしが上向きになるならとじっと我慢の国民もさすがに堪忍袋の緒が切れかけた。支持率急落で低姿勢に転じた首相の態度だが内閣改造でかつての勢いを取り戻せるか。滑り出しが肝心だろう。

 殿様のうがい手順にうるさかったのは武士は清浄性が求められたからだ。改造内閣メンバーも見習って、口にする言葉に気をつけてほしい。疑念を抱かせず、不快にせず、虚言など論外で。ついでに重職心得箇条を読むこともお勧めする。

 

改造内閣スタート(2017年8月4日配信『佐賀新聞』−「論説」)

 

これで幕引きとするな

 第3次安倍第3次改造内閣がスタートした。新内閣の布陣を見ると、閣僚経験のある中堅・ベテランを集め、安定感を重視した「実務型内閣」という印象だ。これまでは抜てき人事が目立ったが、今回はそれほど奇をてらった人事はなく、なんとしても支持率下落を止めたいという安倍晋三首相の狙いが透けて見える。

 しかし、森友・加計(かけ)学園問題や南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題などで失った国民の信頼は一朝一夕では回復しない。謙虚に説明責任を果たす姿勢が求められる。

 19閣僚のうち5人が留任した。政権の要となる菅義偉官房長官と麻生太郎副総理兼財務相は続投。この2人をそのまま残したことで、首相としては冒険を避けた形だが、国民には「変わり映えがしない」と映るかもしれない。一方の初入閣は6人と少ない。

 注目の女性閣僚は2人で、野田聖子氏を総務相に据えたのが、サプライズ人事といえる。経済政策などを巡り、これまで安倍政権と距離を置いてきた野田氏は、2年前の自民党総裁選で立候補を模索。内閣の支持率が下がる中、野田氏の入閣で自民党内の幅広い人材を起用する姿勢をアピールし、挙党態勢の確立につなげる狙いがあろう。

 もう一つの目玉人事は、歯に衣着せぬ言動が持ち味の河野太郎氏が外相に就いたこと。PKO部隊の日報問題で、防衛省内の調査をやり直すよう求めたことでも知られる。首相とすれば、党内の幅広い意見に耳を傾けて政権運営に当たるイメージづくりを演出した形だ。

 省内が混乱した文部科学省と防衛省の大臣には、党内有数の政策通とされる林芳正氏と、安全保障政策に詳しい小野寺五典氏という閣僚経験者を充てた。文科省は天下り問題で幹部が処分され、国家戦略特区での獣医学部新設を巡り、内部で混乱があった。一方の防衛省も、PKO部隊の日報問題で大臣や次官らが辞任。ミサイル発射を繰り返す北朝鮮への対応も迫られている。いずれも早急に態勢を立て直すためには、実績のある、即戦力の人材起用が不可欠と判断したようだ。

 ただ、野党側から見れば、内閣改造をしただけでは、一連の問題の幕引きは認められないと言うだろう。体制を一新するだけで終わらず、丁寧な国会対応をするなど、引き続き国民の疑念を払拭(ふっしょく)する努力が必要だ。

 首相が強い意欲を示す憲法改正問題は今後の大きな政治テーマである。首相は秋の臨時国会で党独自の憲法改正案を提出すると明言した。しかし支持率の低下で、党内では年内のとりまとめが難しいとの観測も出ている。そこで、これまで以上に重要性を増すのが、党運営を仕切る三役ら幹部だ。

 二階俊博幹事長、高村正彦副総裁は再任させ、新しい政調会長には岸田文雄氏を起用。ハト派の岸田氏は憲法9条改正には慎重な姿勢を崩していないが、首相は党内のとりまとめ役を期待している。派閥の会長を務める岸田氏は安倍首相の後に政権を担う意欲を示しており、自らの信条に折り合いをつけながら、改憲問題をどう扱うかが注目される。国民世論を二分しかねないだけに、慎重で丁寧な議論が望ましい。

 

塗り箸で芋(2017年8月4日配信『佐賀新聞』−「有明抄」)

 

 きょう8月4日は、語呂合わせで「箸の日」。雑誌『暮しの手帖』の編集長を務めた松浦弥太郎さんが著書『今日もていねいに。』(PHP文庫)で、箸づかいについてつづっている

◆「優雅な箸づかいも日本人にとっては心強い味方になります」と説き、美しく見せる秘策を伝授してくれる。「人は普通、お箸の真ん中あたりを持ち、下手な人ほど下のほうを持つらしいのです。逆に言えば、できるだけ上のほうを持つと、とてもきれいに見えるということです」

◆箸にまつわることわざに「塗り箸で芋を盛る」とある。つるつるとした塗り箸は、芋をつかもうにもすべってやりにくい。要は、適材適所が大切だと説いているわけだ。内閣改造に踏み切った安倍晋三首相の“箸づかい”はどうだろう

◆急落した支持率を何とか立て直そうと、不安含みの閣僚はあっさり総取っ換えして、実績がある中堅・ベテランばかりを起用した。派閥のバランスにも目配りし、スキャンダルを恐れて入閣待機組は絞り込んだ

◆内閣を支持しない理由を世論に聞けば、トップは「首相が信頼できない」。独善的な姿勢を改め、異論に耳を傾ける姿勢をアピールしたいのか、政権と距離を置いてきた野田聖子氏を閣内に取り込みはした。きょうは「橋の日」でもある。国民との信頼の橋を、もう一度架けられるか。

 

[安倍改造内閣] おごりを捨て真摯に国民に向き合え(2017年8月4日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 支持率が急落した内閣のイメージを払拭(ふっしょく)し、信頼回復につなげられるのか。新たな布陣の手腕が厳しく問われている。

 安倍晋三首相が内閣改造と自民党役員人事を断行し、第3次安倍第3次改造内閣が発足した。人心を一新し、困難な局面を打開する狙いだ。

 「お友達内閣」とやゆされるのを避け、多くのベテランを起用して安定重視に腐心したことがうかがえる。

 国民の政権への不信感が高まっているのは明らかだ。森友・加計学園問題や、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊を巡る日報隠蔽(いんぺい)問題への稲田朋美元防衛相の対応など政権の姿勢に批判が集中した。7月の東京都議選の歴史的な大敗がそれを端的に物語る。

 疑惑に丁寧に答えず、真相解明に後ろ向きな態度は、ひとえに「安倍1強」のおごりと言わざるを得ない。強引な国会運営を反省し、真摯(しんし)に説明を尽くす姿勢が求められる。

 支持率の低迷は、衆院解散・総選挙の時期を巡る首相の戦略にも影響を与えているに違いない。内閣改造の成否が今後の行方を左右することになろう。

 経済再生や社会保障制度の見直し、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への対応など、内外に課題が山積している。内閣が結束して取り組むことが重要だ。

■局面打開へ再起用も

 党四役人事で注目されるのは、岸田文雄外相兼防衛相が、希望した政調会長に就任したことだ。

 岸田氏は「ポスト安倍」の有力候補の一人だ。首相は来年の党総裁選で2021年までの総裁任期を得る思惑から、岸田外相を続投させて閣内に封じ込める狙いがあったに違いない。

 だが、支持率回復のために岸田氏の協力は欠かせず、最終的に受け入れざるを得なかったようだ。党総裁選に向け、岸田氏の動向が注目される。

 19閣僚のうち留任は菅義偉官房長官ら5人だった。総務相に首相と距離を置く野田聖子元総務会長を起用したのは、挙党態勢を演出する目的とみられる。

 首相にとって、昨年夏の安倍第2次改造内閣の目玉として防衛相に起用した稲田氏の誤算は大きかった。

 東京都議選の応援演説での自衛隊の政治利用と受け取れる失言や日報問題に絡む混乱など、およそ閣僚の資質に欠ける人物を重用した首相の責任は極めて重大だ。

 後任に小野寺五典元防衛相を再起用したのは、防衛省・自衛隊の混乱状態を収拾する狙いがある。

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を巡り、国会答弁が二転三転した金田勝年法相の交代は当然だ。上川陽子元法相が再登板する。

 学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画問題では、政府の説明が次々に変わり、国民の不信を招いた。国会答弁の矢面に立った松野博一文部科学相、山本幸三地方創生担当相も交代した。

 文科相の後任には林芳正元農相を充て、実務や答弁能力を重視した。

 国会対策委員長に鹿児島県選出の森山〓(しめすへんに谷)前農相を起用したのは、国会運営で野党側との折衝の手腕を期待されてのことだろう。

■疑惑解明を忘れるな

 内閣改造で閣僚の顔ぶれを変えたからといって、森友・加計学園問題や日報問題が解決したわけではない。政府、与党は勘違いしないことだ。

 首相はこれまで森友学園問題への関与を全面否定し、2月の衆院予算委員会では「私や妻、事務所が関わっていれば、首相も議員も辞める」と断言した経緯がある。

 昭恵夫人からの現金100万円寄付の真偽については、政権側と学園側の言い分が食い違ったままだ。

 学園による当初の「安倍晋三記念小学校」計画や、昭恵夫人の名誉校長就任が、学園側と首相夫妻の親密な関係を思わせ、学校開設への不公平な手続きを疑わせた。

 国有地はなぜ学園側に格安で払い下げられたのか。真相解明には昭恵夫人や当時の財務省の交渉担当者らの国会招致が欠かせない。

 首相が「腹心の友」という加計学園の理事長ら関係者の招致も必要だ。

 日報問題の核心は、陸上自衛隊内で「廃棄した」とされていた日報が保管されていたことを巡り、稲田氏が報告を受け、了承していたかどうかである。

 稲田氏は否定しているが、報告を受けながら国会答弁で否定したとの疑惑は解消されていない。文民統制など重大な問題を含んでいる。自民党の稲田氏の国会招致拒否はあり得ない。

 憲法論議からも目が離せない。首相の狙い通りに今秋の臨時国会中に自民党改憲案を提出できれば、来年の通常国会中に国会発議、秋に国民投票との日程も見えてこよう。

 内閣改造で支持率が上がれば、首相が総選挙に打って出るのではないかとの観測もある。

 だが、国の骨格を変える憲法改正は、大局的な視点に立った慎重な論議が必要だ。国民の多くは早急な憲法改正を望んではいない。日程ありきの改憲は将来に禍根を残すことになりかねない。

 

(2017年8月4日配信『南日本新聞』−「南風録」)

 

タイの塩焼きに一箸つけたところで殿様がお代わりを所望した。困った家来はちょうど満開の桜に目を向けさせ、その隙に塩焼きを裏返す。江戸小話の「桜鯛(だい)」である。

 こちらは、殿様が急場しのぎに走ったということか。安倍改造内閣が発足した。官房長官ら政権の骨格はそのままにして、力量不足の問題閣僚を一掃した。目指すは内閣支持率の回復だ。

 とはいえ、顔ぶれはフレッシュさに欠ける。19人の閣僚のうち3分の2を入れ替えながら初入閣は6人にとどまっている。「未来チャレンジ内閣」と名付けた1年前の威勢の良さはどこへやら、「安全運転型」の布陣を強いられた。

 首相の宿願は憲法改正に自民党総裁の3選だ。ところが稲田朋美元防衛相の後ろ盾として批判を浴びたばかりか、森友・加計学園問題で大きな打撃を受けた。浮き彫りになったのは「安倍1強」の弊害にほかならない。

 「政権奪還したときの原点にもう一度立ち返り、謙虚に丁寧に国民の負託に応える」。首相は会見で力を込めた。地方では景気回復の実感が乏しい。新たな看板政策という「人づくり革命」の行方はどうなるか、これまでの政策の焼き直しなら願い下げだ。

 「結果を残す」との言葉を信じていいのか。閣僚をすげ替えて人心を一新する。しかし国民は依然として厳しい目を向けている。これで数々の疑惑が帳消しになるわけではない。

 

[安倍改造内閣]負担軽減に背く新基地(2017年8月4日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が3日、内閣改造を実施した。

 名護市辺野古での新基地建設を巡って、国が知事の許可を受けずに岩礁破砕などを行うことに対し、県が差し止めを求め提訴するなど、対立が深まる中での改造となった。

 防衛相には、辺野古の埋め立て承認時に大臣だった小野寺五典氏が再登板した。外相には日米地位協定の改正に向け取り組んだ経験もある河野太郎氏が、沖縄担当相には、これまで沖縄との関係が薄い江崎鉄磨氏が起用された。

 7月末の大田昌秀元知事の県民葬で、安倍首相は「元知事が心を砕かれていた沖縄の基地負担の軽減に、政府として、引き続き全力を尽くす」と述べた。

 しかし、政権が繰り返し語る「負担軽減」はレトリックにすぎない。普天間飛行場返還のため、米軍にとって最も望ましい新基地を造るというものだからだ。新基地はキャンプ・シュワブやハンセン、北部訓練場、伊江島補助飛行場と一体的に運用される。軍港機能も新たに付加され、本島北部地域は米軍の一大軍事拠点に変貌することになる。

 政府がいう「負担軽減」は、県民の支持を得られておらず、大田氏が切望した「基地のない平和な沖縄」とも相いれない。

 保守県政時代に副知事を務め、大田氏の友人だった比嘉幹郎氏は県民葬で、「遺志を尊重し、県民に対するいかなる差別と犠牲の強要政策にも反対する」と語った。多くの県民が共感する意思表示を政府は真剣に受け止めるべきだ。工事を中断した上で、沖縄側との徹底した協議を求める。

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 安倍首相は会見で、森友学園へ格安で国有地を払い下げた問題や加計(かけ)学園の獣医学部新設計画を巡る問題、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽(いんぺい)問題を挙げた。その上で「国民の不信を招く結果になった」と、反省とおわびを述べ、新内閣で信頼回復に努めることを強調した。

 顔ぶれは、麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官ら政権を支える骨格は維持しながら、「人心一新」をアピールした。だが、ふたを開けてみれば、閣僚経験者7人を再起用し、留任も5人と安定を重視した布陣となった。

 加計学園などの問題に加え、閣僚としての資質のなさや、経験不足が露呈し、内閣の支持率低下につながったとみているからだ。

 閣僚の入れ替えで支持率回復を目指すが、失った国民の信頼を取り戻すのは容易ではないだろう。

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 森友・加計学園問題などで国民の強い反発を招いたのは、政権に批判的な声に対して敵対的な首相自身の姿勢に加え、政権が自分たちに都合の悪いことを、ないことにしようとする傾向も見えたからだ。長い間支持率が高かった「1強」状態が招いたおごりである。

 関係閣僚を替えたからといって、これらの問題、疑惑にふたをして終わりとはならない。首相の「反省」が本物であるなら、真相解明に率先して取り組むべきだ。国民へ誠実さを示し、国政にあたることが求められる。

 

安倍内閣改造 永田町の論理は通用せず(2017年8月4日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 顔ぶれを変えたからといって過去の疑惑、不祥事が消えるわけではない。

 安倍晋三首相が内閣改造を実施し新たな自民党四役を決定した。資質を不安視された閣僚らを一掃し、閣僚経験者の再登板や、距離があるとされた野田聖子氏を取り込んでバランスに気を使った。しかし、これは永田町だけに通用する論理にすぎない。

 問題なのは閣僚だけでなく首相への不信感の高まりだ。森友・加計学園問題や南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽問題で説明責任を果たし、真相究明に取り組まない限り信頼回復にはつながらない。

 沖縄県民の民意を無視して名護市辺野古に新基地建設を強行する姿勢を改め、建設断念に舵を切らなければ沖縄の支持は得られまい。沖縄の施策に関係する河野太郎外相、小野寺五典防衛相、江崎鉄磨沖縄北方担当相も同様だ。

 共同通信が実施した7月の世論調査で、安倍内閣の支持率は、2012年の第2次政権発足以来最低の35・8%となった。不支持率は10・0ポイント増で最も高い53・1%。支持と不支持が逆転した。不支持理由として「首相が信頼できない」が前回比9・7ポイント増の51・6%で最多だった。第2次安倍政権以降で初めて半数を超えた。

 今回の内閣改造で加計学園問題に関係する山本幸三地方創生担当相や松野博一文部科学相を交代した。松野氏は「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」と記載された一連の文書への対応などで批判された。山本氏は松野氏との説明の食い違いが露呈し、国民の不信を強める一端になった。

 2人の閣僚を退場させても加計学園を巡る疑惑は依然として解明されていない。真相解明は急務だ。

 7月の閉会中審査で、安倍首相は加計学園の獣医学部新設計画を「学園の申請が認められた今年1月20日の諮問会議で知った」と以前の答弁と食い違う説明をした。首相の答弁の整合性が問題になっている。自身の説明責任が問われている。

 森友学園問題も、前理事長と妻の逮捕で幕引きとしてはならない。国有地がなぜ8億円余りも値引きされたのか、首相や昭恵首相夫人、政治家の関与はなかったのか。徹底究明が急がれる。

 南スーダンPKO日報問題は、直接の責任者で虚偽答弁が疑われている稲田朋美前防衛相が辞任したからといって、問題をうやむやにしてはならない。稲田氏を国会招致すべきだ。防衛省・自衛隊の隠蔽(いんぺい)体質にメスを入れ、シビリアン・コントロール(文民統制)を機能させる必要がある。

 強引な国会運営や閣僚らの失言がもたらした政治不信は、小手先の内閣改造では解消しない。首相の政治姿勢が問われていることを肝に銘じなければならない。

 

官邸の低姿勢どこまで続くものか(2017年8月4日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★第3次安倍「再々改造内閣」が発足した。政界関係者から見れば、玄人好みの安定内閣といったところだろうが、党内からは早速いろいろな声が聞こえてくる。中堅議員は「出戻り入閣が多くて、いつもの顔ぶれがポストを変えて、または以前のポストに帰ってきたという印象。新鮮味なく代わり映えしない感じだ。同時に自民党の人材不足が露呈したといっていい。閣僚としての専門性というより安定した答弁が優先されたのではないか」。

★別の閣僚経験者は「官邸と細田派の低姿勢が印象に残るがいつまで続くものか。支持率が上向けばのど元過ぎればだ」と冷ややかな一方、「首相・安倍晋三自身の危機をうまく政権とか与党の危機にすり替えて党を巻き込み、挙党体制に持ち込んだ腕力はさすがだ。党がまとまる演出をして、非主流派を作らずみんなで頑張ろうという形にしたことで安倍批判は消える」(副大臣経験者)。ただ、内閣支持率に跳ね返るかどうかは未知数だろう。

★森友・加計学園疑惑関係者、文科相・松野博一、地方相・山本幸三らは排除したものの、官房副長官・萩生田光一を外しきれず、幹事長代行に据えたのは極めて中途半端。やはりお友達は切りきれなかったか。入閣組にしても外相狙いの茂木敏光を受け入れず経済再生相に据える、真偽は不明だが経験者の河村健夫に文科相を打診するも難色を示され、即座に選挙区問題で河村と反目する林芳正を起用するなどは党内で厳しい人事だったと話題だ。そつない答弁をする閣僚はそろえても、「前大臣の発言については承知していない」などの答弁が秋の国会で乱発されれば玄人好みの組閣も水の泡になる。

 

安倍政権改造人事(2017年8月4日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

追い詰められて、開き直って

 内閣支持率が軒並み急落し、南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊の「日報」隠蔽(いんぺい)問題で稲田朋美防衛相が辞任、「森友」「加計」など行政をゆがめた疑惑にも国民の批判が高まる中で安倍晋三政権が閣僚と自民党役員の人事を行いました。追い詰められた改造です。「共謀罪」法を強行した金田勝年法相や、「加計」疑惑渦中の松野博一文科相、山本幸三地方創生相らが交代、河野太郎氏(外相)や林芳正氏(文科相)、茂木敏充氏(経済再生相)らが入閣しました。首相が執念を燃やす改憲や経済政策の布陣は国民への居直りそのものです。

暴言、失言が相次いだ

 昨年の参院選後、安倍政権が内閣と党の人事を行い、ちょうど1年です。当初、アメリカ言いなりに環太平洋連携協定(TPP)を推進した山本有二農水相が三権分立の原則を踏みにじって国会での「強行採決」をけしかけ、南スーダンPKOをめぐって稲田氏自身もかかわる隠蔽疑惑が発覚、「森友学園」への国有地格安払い下げや首相の「腹心の友」が理事長の「加計学園」の獣医学部開設をめぐって首相自身までかかわった疑惑など、問題が後を絶ちませんでした。米軍新基地に反対する沖縄県民を「土人」扱いした鶴保庸介沖縄北方担当相や博物館学芸員を「がん」だと決めつけた山本地方創生相など暴言や失言が相次いだのは、これらの人物がもともと閣僚としての資質を欠き、任命権者である安倍首相がその責任を明らかにしなかったからです。

 “辞任ドミノ”を恐れる首相のもとで、この1年間辞任したのは東日本大震災が「東北のほうだからよかった」と被災者を愚弄(ぐろう)した今村雅弘復興担当相と稲田氏だけです。その稲田氏も自民党が国会閉会中審査への出席を拒否し、所管官庁の官僚らが「記録はない」「記憶はない」と繰り返した松野氏、山本氏らも説明責任を尽くしていません。辞任し交代したから“知らぬ”は通用しません。

 新しい閣僚と党役員では、河野外相や野田聖子総務相の起用、岸田文雄外相の自民党政調会長への異動など目先は若干変えたものの、菅義偉官房長官や麻生太郎副総理・財務相、世耕弘成経産相や、二階俊博自民党幹事長ら骨格となる閣僚・党役員は留任し、政権の基本性格は変わりません。防衛相に就任した小野寺五典氏は、集団的自衛権の容認や安保法制=「戦争法」を推進し、北朝鮮問題でも「敵基地反撃能力の保有」を主張した「国防族」です。自民党政調会長から経済再生相になった茂木氏も、厚労相に横滑りした加藤勝信氏、世耕氏らとともに大企業最優先の「アベノミクス」の推進役です。国民の期待に背く暴走に拍車をかける危険は重大です。

改憲シフトの強化許さず

 安倍首相は「アベノミクス」を推進するとともに、秋の臨時国会に自民党の改憲案を提出し、年明けには改憲案の発議を狙っています。今回の党役員人事でも、自民党の改憲案づくりの中心となってきた高村正彦副総裁を留任させ、党内をまとめる総務会長に竹下亘氏を据え党の改憲本部の体制も強化しました。憲法を根こそぎ破壊する策動を許さず、安倍首相を退陣に追い込み、政権を打倒する国民のたたかいがいよいよ重要です。

 

(2017年8月4日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

ちょうど1年前。安倍首相は内閣改造で稲田朋美氏をよりによって防衛相に起用しました。9条改憲派で鳴らす人物の入閣は首相にとっても野望を達成するための布石でした

▼従軍慰安婦や南京大虐殺を否定し、靖国神社参拝をくり返してきた稲田氏。古い価値観にとらわれた極右思想の持ち主に内外からの反発は必至でした。案の定、「日報」隠し疑惑をはじめ数々の問題を起こし、1年足らずで辞任に追い込まれました

▼この間、資質が問われた閣僚は稲田氏にとどまりません。加計問題の文書を「怪文書」と断じた菅官房長官、東日本大震災を「あっちの方だったから良かった」と発言した今村復興相、沖縄での機動隊員による「土人」発言を「差別であるとは断定できない」とした鶴保・沖縄北方相―

▼共謀罪やTPPといった重大な法案をめぐっても担当相の失言や暴言が相次ぎました。枚挙にいとまがないほどのそれは自公政権のおごりの表れでした

▼支持率急落にあえぐ安倍首相がまた内閣の顔ぶれを変えました。防衛相には集団的自衛権の行使容認を閣議決定したときの担当相だった改憲派の小野寺五典氏を再び。いくら適材適所を強調しても、中身が同じでは破たんはすでに

▼人心一新で政権の立て直しをねらう安倍首相ですが、国民が嫌悪しているのは自分たちのやりたいことは問答無用で押し通す、都合の悪いことは隠すといった体質そのもの。心を改め、新たにするというのであれば、首相みずからを代えるしかありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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