元米海兵隊員による沖縄県うるま市の女性会社員(20)レイプ殺人死体遺棄事件 関連論説

 

2017年1月17日

 

米、遺族へ補償金拒む 地位協定の欠陥是正せよ(2018年3月18日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 米軍属女性暴行殺人事件の被告が遺族に支払うべき損害賠償の補償肩代わりについて、米側が被告の身分を理由に対象外だとして拒否していることが分かった。日米地位協定で定めた補償対象の「被用者」に、米軍の直接雇用でない軍属は含まれないとの主張だ。地位協定の欠陥と言わざるを得ない。

 補償の肩代わりは日米地位協定第18条6項で定められている。米軍関係者の公務外の事件・事故などで、被害者側は米政府に賠償金を請求できることになっている。

 ところがこの6項で補償対象について「合衆国軍隊の構成員または被用者」と規定している。米側は「被用者」の中に、米軍が直接雇用していない軍属は含まれないと解釈しているようだ。

 裁判権では「被用者」という線引きはない。軍属は米軍人と同じ日米地位協定に基づく取り扱いを受ける。裁判権では特権を受けるのに、補償で支払い対象から除外されれば、米側のご都合主義としか言いようがない。

 2008年に沖縄市で発生した米軍人2人によるタクシー強盗致傷事件では、運転手の男性が重傷を負わされた。男性は心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しめられ、補償が実現しないまま12年に死去している。

 補償が実現しなかったのは日本側の補償審査が終わらなかったためだ。男性の代理人が09年5月から14年10月まで、5回にわたって損害賠償請求書を提出した。しかし日本側が損害額の算定などを理由に審査を継続し、結論を出していなかったのだ。

 このため男性の長男が昨年12月、損害賠償請求訴訟を那覇地裁に起こした。10年たっても補償が実現できない現状は現行制度のいびつさを証明している。これでは遺族は報われない。

 米軍人・軍属による事件被害者の会は2005年、米軍人、軍属らの不法行為による被害者を救済するために、日本政府が損害を賠償する「損害賠償法」の制定を求めて国会議員や外務省などに要請活動を展開した。

 その際、外務省などは「日米地位協定が存在する以上、新たな法律を制定するのは困難」と答え、制定に否定的な立場を示した。地位協定の欠陥によって被害者が泣き寝入りしているからこそ法整備を求めたのだ。その声に耳を傾けないのなら、地位協定の抜本改定に踏み切るべきだ。

 県内の米軍人・軍属、家族による刑法犯摘発件数は2017年は48件だった。16年の23件から倍増している。被害者が救済されない状況を放置してはならない。

 米軍属女性暴行殺人事件の被告については現在、日米双方が「被用者」に該当するかについて協議を継続している。米側には「被用者」に該当するとの判断を求めたい。そして補償の肩代わりを速やかに実行に移すべきだ。

 

[米軍属事件 補償の壁]地位協定の解釈見直せ(2018年3月17日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 軍属として特権的地位を与えておきながら、米軍の直接雇用ではないので補償の対象外というのは、到底納得できるものではない。

 一昨年4月、うるま市で起きた米軍属の男による女性暴行殺害事件で、米政府が遺族への補償を拒んでいる。

 この事件では一審で無期懲役とされた被告に対し、那覇地裁が遺族への賠償を命じる決定を出した。犯罪被害者支援の一環で、刑事裁判の中で賠償請求できる「損害賠償命令制度」によるものだ。

 しかし被告に支払い能力がないため、遺族は日米地位協定に基づき米政府に補償を求める準備を進めていた。その矢先、補償に後ろ向きの声が聞こえてきた。

 地位協定18条6項は、「合衆国軍隊の構成員又は被用者」が公務外に起こした不法行為について米政府の補償を定めている。

 事件当時、被告は基地内の民間会社で働いていた。米軍の直接雇用ではないので制度が適用される「被用者」に当たらないとの主張である。

 一方、地位協定1条は「合衆国の国籍を有する文民で日本国にある合衆国軍隊に雇用され、これに勤務し、又はこれに随伴するもの」を軍属と規定している。軍と契約している民間会社に雇用されていた被告も、地位協定の定める軍属とされたのだ。

 在沖米軍トップが事件後、県庁に駆け付け「私に責任がある」と頭を下げたのは、軍人並みに地位協定の恩恵を受ける軍属だったからである。責任を忘れたわけではあるまい。

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 米軍人らによる公務外の事件・事故では、米側の支払いが裁判所が示した補償額に満たない場合、その差額を日本政府が埋める「SACO見舞金」の制度もある。だが見舞金は米側の補償が前提だ。 

 冷静に考えてほしい。ウオーキング中に突然襲われ、命を奪われた被害者には何の落ち度もない。加害者のみか、両政府からも賠償金や見舞金が一銭も支払われないというのはあまりに理不尽だ。

 昨年、両政府は犯罪抑止につなげようと軍属の範囲を縮小する地位協定の補足協定に署名した。政府は画期的と自画自賛したが、肝心な軍属と被用者の違いさえ整理していなかったのである。

 そもそも今回のような米側の解釈はどこで誰が決めたのか。米側が一方的に解釈しているのか。それとも日米合同委員会で話し合われ、そのような解釈に至ったのか。明らかにすべきだ。

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 裁判で読み上げられた被害者の母親の言葉を思い出すと今でも胸が締め付けられる。「(娘は)想像しがたい恐怖におびえ、痛み、苦しみの中でこの世を去りました。悔しいです。悲しすぎます」

 国会は衆参両院で与党が圧倒的多数を占めている。被害者遺族に寄り添い、公的救済に積極的に動くべきだ。

 基地あるが故の被害に対する補償を、被用者かどうかで区別することに合理的理由はない。地位協定の見直しも含めて、この問題を早急に解決しなければならない。

 

ケネス被告証言 被害女性に落ち度はない(2017年2月17日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 未来を断たれ無念のうちに亡くなった被害者だけでなく家族を何度傷つけるのか。

 米軍属女性暴行殺人事件で殺人や強姦(ごうかん)致死などの罪で起訴されている元米海兵隊員で米軍属のケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン)被告が犯行について「(事件が起きたあの場所に)あの時居合わせた彼女(被害女性)が悪かった」との認識を示していることが分かった。米軍準機関紙「星条旗」が被告の弁護人を通じて同被告の証言を報じた。

 事件当日の日没は午後7時で、被害女性は同8時ごろウオーキングに出た。大通りがいつものコースだった。日暮れから1時間たつかたたずに、商業施設に程近い通りを歩くだけで見も知らぬ男に襲われ殺された。悪いのは加害者で、被害者に落ち度は全くない。

 ケネス被告は日本の法制度では女性暴行は親告罪で、被害者による通報率も低いとして「逮捕されることについて全く心配なかった」と述べている。日米地位協定で守られているとの意識もあったのではないか。

 被告側は強姦致死と死体遺棄の罪については起訴事実を認める一方で、殺人罪については殺意がなかったとして否認している。逮捕前の県警の調べに対して殺害をほのめかす供述をしていたが、逮捕直後から黙秘に転じた。被告は犯行の全てを法廷で明らかにし、罪を認め被害者に謝罪すべきだ。

 証言によると、被告は「高校時代から女性を連れ去り乱暴したいとの願望があった」という。そして「人殺しがしたい」という動機で海兵隊に入隊した。

 専門家は、海兵隊では男性的な攻撃性を突出するために、徹底的に女性を蔑視する非人間的な訓練が行われると指摘する。除隊後、効果的な殺人者となる非公式な教育を受けた被告が「欲望を満たす」ために女性に襲い掛かった。

 県警によると米軍構成員(軍人、軍属、家族)による強姦は1972年5月15日から2016年末までの間に130件発生している。ケネス被告の供述は同じ痛みを味わった女性たちをも傷つけた。退役米軍人でつくる「ベテランズ・フォー・ピース(VFP)」は海兵隊教育が今回の犯罪を生み出したと結論付けている。軍隊教育で犯罪の再発を防げないとなると、海兵隊の撤退こそ一番の再発防止策だ。

 

11月20日

 

なぜ娘なのか、なぜ殺されなければならなかったのか(2016年11月21日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

 ねらいを高く定め、求めるものを手に入れるまで、押して押して押しまくる―。次期米大統領のトランプ氏が若き不動産王として注目された頃に出した自伝の中で書いています

▼カネのためではなく、ゲーム=取引をすること自体に本当の喜びがあると。そして取引を成功させるためには強硬な態度をとったり、異常とも思えるほど執念を燃やしたり。はったりで自分を大きく見せることも

▼百戦錬磨の連中を打ち負かすことにたまらない魅力を感じてきたというのですから、とうてい一筋縄ではいかない相手。先の大統領選でも散々敵をつくっておきながら、勝利すると「みんなの大統領になる」。かと思えば超タカ派の人物を次々と起用しています

▼真っ先に会いに行った安倍首相はそのトランプ氏を「信頼できる指導者であると確信した」と持ち上げました。そんなにすぐ信頼できる相手とは思えませんが、同盟関係にすがって、選挙中に公言した在日米軍の撤退をやめてほしいと懇願したか

▼沖縄で起きた元米海兵隊員の暴行殺人事件から半年が過ぎました。「なぜ娘なのか、なぜ殺されなければならなかったのか」。被害に遭った20歳の女性の父親は今も気持ちの整理がつかない心境を手記に

▼もうこれ以上、私たちのような苦しみ、悲しみを受ける人がいなくなるよう一日も早い米軍基地の撤去を県民として願っていると。その無念さを代弁できない首相などいらぬ。代わりに同じ国民として声を上げよう。米軍は出ていけ、平和を返せ。

 

米軍属事件半年 小手先の策では防げない(2016年11月20日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 「なぜ殺されなければならなかったのか」。娘を失った父の悲痛な訴えは、そのまま基地被害を受け続ける沖縄社会に、繰り返される事件を防げない日米両政府に投げ掛けられた重い問いだ。

 恩納村の雑木林で若い女性が無残な姿で見つかった米軍属女性暴行殺人事件で、元米海兵隊員の軍属ケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン)被告が逮捕されてから半年が過ぎた。

 半年で何かが変わったのだろうか。

 事件は沖縄の人々に大きな衝撃と怒りを与え、そして自責の念を生んだ。若い女性の命を守れなかったつらさと、1995年の少女乱暴事件以降も繰り返される米軍関係者による事件を防げなかったことへの悔いだ。

 6月19日の県民大会には主催者発表で約6万5千人が集まり、海兵隊の撤退や、米軍関係者に特権的地位を与える日米地位協定の抜本的改定を要求した。

 沖縄の怒りに対し、日米両政府は火消しに躍起となり、安倍晋三首相は三重県でのオバマ大統領との会談で再発防止を求めた。

 しかし日米両政府が示す再発防止や綱紀粛正の策は小手先だった。

 在沖米軍は哀悼期間の約1カ月間、夜間外出や基地外飲酒を禁止した。しかし期間中にも米軍人が飲酒運転で国道58号を逆走するなどの事件が起き、哀悼期間後は米軍関係者による傷害事件などが発生している。

 地位協定も軍属の範囲を狭めるだけの議論に終始し、しかもいまだ「補足協定」も締結されていない。

 政府が設置した「沖縄・地域安全パトロール隊」も65台態勢と、予定する100台に届かない。しかも米軍関係者による事件事故が多い深夜には実施されず、効果は疑問視されている。警官100人増員も間に合わず、来年以降、県外からの応援で対応する。

 狭い沖縄に4万7千人以上の米軍人、軍属、その家族が住む。集中する米軍基地は沖縄本島の約18%を占める。住民と軍隊があまりに近い沖縄で、「綱紀粛正」を何度繰り返しても事件は起きる。

 被害女性の父は手記で、事件を「沖縄に米軍基地があるがゆえに起こる」とし、「一日も早い基地の撤去を」と願った。遺族の重い問いに日米両政府は応えるべきだ。

 

逮捕から半年。元米兵暴行殺人事件で、被害者の父親が(2016年11月20日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 逮捕から半年。元米兵暴行殺人事件で、被害者の父親が手記を寄せた。被告への強い怒り、癒えぬ悲しみ、「大事な一人娘」への深い愛情を振り絞るようにつづっている

▼「なぜ娘が」。突然、娘が殺されたことを受け止められず、気持ちの整理がつかないことに胸が痛む。「私達遺族にはいかなる言い訳も通用しません、被告人は人ではありません」と極刑を望んでいる

▼金武町の吉田勝廣さん(71)は、被害者の遺体が発見された恩納村の現場へ6日に1度行く。花をたむけ、手を合わせ、献花台の周りを掃除する。事件を忘れないため、だ

▼「米兵がらみの事件や事故が起こるたびに二度と繰り返さないと誓うが、いまだに政治は問題を解決できていない」。町長や県議など23年間、政治に関わってきた吉田さんは、自分自身にも問い掛けている

▼父親の手記は最後に「沖縄に米軍基地があるゆえに起こる。一日でも早い基地の撤去を県民として願う」と訴える。吉田さんは「根本的な解決にはそれしかない。政府はごまかしている」

▼1995年の米兵暴行事件後、日米両政府は普天間飛行場の返還に合意したが、何も変わっていない。今回の殺人事件でも、政府はパトロール強化に向け、県警の定員100人増とパトカー20台増を決めただけだ。遺族の願いとは、ほど遠い現実がある。

 

9月2日

 

パトロール職員動員 米軍犯罪抑止にはならない(2016年9月2日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 担当外職員までかき集め、パトロールに当たらせることで米軍犯罪を抑止できると考えているのなら大間違いだ。元凶を絶たなければ犯罪抑止は不可能だ。

 米軍属女性暴行殺人事件の再発防止策として政府が創設した「沖縄・地域安全パトロール隊」の要員が、従来の沖縄総合事務局と沖縄防衛局のほか国の出先15機関に拡大していることが分かった。

 沖縄気象台、沖縄労働局、沖縄国税事務所、那覇植物防疫事務所など犯罪抑止パトロールとは縁のない機関も含まれている。出先機関の労組は「平常業務に影響を与える」と反発している。まさに政府総動員だ。

 県民の目から見れば、政府が実施しているパトロール活動が犯罪抑止の抜本策になり得ないことは、はっきりしている。事件を受けて開かれた県民大会で要求したのは在沖海兵隊の削減であり、日米地位協定の改正である。そこに手を付けない限り「綱紀粛正、再発防止」は掛け声だけに終わるのは自明のことだ。

 しかも、防衛省は防犯パトロール要員として沖縄に派遣した職員60人をヘリパッド建設反対運動が続いている東村高江の警備に充てた。犯罪抑止に従事する要員を市民と対峙(たいじ)させるという理不尽な行為は到底許されない。

 パトロール要員の機関拡大に対し、出先機関のうち5官署に支部がある沖縄国公労は「所掌事務を逸脱する行為を強制するもので決して看過できない」として中止を求める文書を菅義偉官房長官に送っている。国公労連は「(パトロールは)一過性の対策で実効性は期待できない」とする談話を発表している。

 当然の主張だ。効果が期待できない上、業務に悪影響を及ぼすようなパトロールへの職員動員が職場に受け入れられるはずがない。

 さらにはパトロール要員を高江の警備に回し、ヘリパッド建設反対を訴える市民を弾圧するような任務を国家公務員に強いる恐れがある。

 2017年度の内閣府沖縄関係予算に沖縄・地域安全パトロール事業費として8億7千万円を計上したのも疑問だ。沖縄振興に資する費用とは言い難い。本来ならば防衛省予算で組むべきである。

 職員動員を強いる前にやるべきことがあろう。なぜ米軍犯罪が繰り返されるのか、元凶を見据え抜本策を講じるべきだ

 

7月30日

 

「管轄移転請求」を考える(2016年7月30日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 米軍属女性暴行殺人事件の被告が4日、東京地裁に移管を求める管轄移転請求を行った。マスコミ報道などを理由に「県民全てが予断を持っている」とし、「被害者は私だったかも」という意識を持つ県民は裁判員として「欠格」だと主張した

▼刑事訴訟法17条は「地方の民心、訴訟の状況その他の事情により裁判の公平を維持することができない虞(おそれ)があるとき」に被告は管轄移転を請求できるとしている

▼1995年の少女乱暴事件でも「反基地感情が高まっている沖縄では公正な裁判ができない」と管轄移転請求があった。公判は延期となり、傍聴者から「沖縄の人間は裁判を見られないことになってしまう」と反発の声が上がった。請求は棄却され、那覇地裁で有罪判決が下された

▼被告には管轄移転を請求する権利がある。地域から選ばれる裁判員は、有罪か否かと量刑について予断を持たずに公平な判断を求められる。裁判員制度の下で初めてとなる今回の請求は、制度に一石を投じるものだ

▼しかし、県民としては割り切れない思いがある。歴史の中で基地あるが故の被害に苦しんできた。その中でまた一人の女性の命が奪われた。その裁きが東京で行われていいのか

▼最高裁に委ねられた請求の判断は遠からず出される。「被害者は私だったかもしれない」。そういう思いで県民は見詰めている。

 

7月17日

 

防犯要員を警備に 県民の安全より弾圧優先か(2016年7月17日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 防衛省は米軍属女性暴行殺人事件を機に、沖縄に派遣した防犯パトロールの職員を基地建設の抗議行動の警備要員に充てる計画を進めている。派遣先は米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設の現場と米軍北部訓練場の一部返還に伴うヘリパッド建設現場だ。県民の安全を守るために派遣されたはずの職員が基地建設に抗議する住民を鎮圧する任務を担う。これを茶番と言わずして何と言おう。

 派遣職員は防衛省の本省から約10人、全国7地方防衛局から約50人の計約60人だ。米軍属の事件を受けて政府が再発防止策で創設した「沖縄・地域安全パトロール隊」として夜間巡回に従事するのが本来の目的だった。

 ところが、防衛省が6月23日付で地方防衛局に職員派遣を依頼した文書によると、派遣任務は「沖縄における防犯パトロール及び妨害活動への対応(警備関係)」となっている。公にされることもなく、任務に「妨害活動への対応」を潜り込ませていたのだ。

 男性職員を1〜2週間交代で随時派遣し、期間は7月中旬から12月末となっている。派遣の開始時期が辺野古の陸上工事再開とヘリパッド建設着工時期と重なる。「ただし、現地の状況に応じ期間を延長」との記述もある。「現地の状況」とは抗議行動や県民の反発の度合いを指すのだろう。

 防犯パトロールというより、抗議行動封じ込めの警備が主眼であるとしか思えない。これでは「沖縄・地域住民弾圧隊」ではないか。県民を愚弄(ぐろう)するにもほどがある。

 パトロール隊が巡回を開始した6月15日の出発式で島尻安伊子沖縄担当相は「県民の安全、安心のため精いっぱい頑張ってほしい」と隊員を激励した。それからわずか8日後に防衛省は任務に「警備」を加えて職員派遣を各防衛局に求めている。最初から「県民の安全、安心のため」ではなく「政府が基地建設強行を安全、安心」に進めるための派遣だったのだろう。

 被害女性の父親が事件追悼の県民大会参加者に謝意を伝える文書にこう記した。

 「娘は7月18日に21歳になりますが、娘の笑顔を見ることは二度と出来なくなりました」

 告別式に参列した中谷元・防衛相に説明してほしい。基地あるが故に起きた女性の犠牲を繰り返さないための巡回と、基地建設強行の警備を任務にすることの意味を。

 

7月8日

 

米軍属見直し/抑止効果には疑問が残る(2016年7月8日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 日米地位協定で米側に優先的な裁判権が認められている米軍属について、その範囲を見直すことで日米両政府が合意した。

 軍属とは、米軍基地内で働く民間の米国人で、軍人とともに協定で守られる対象となる。

 在日米軍専用施設・区域の約74%が集中する沖縄県では米軍の兵士や軍属による事件、事故が繰り返されてきた。5月には米軍嘉手納基地内で勤務する元海兵隊員の軍属が女性暴行殺害事件で逮捕された。

 見直しでは、軍属の業務を四つに分類して定義を明確化する。実質的に範囲の縮小を図り、日本の司法権が及ぶ対象を広げる。米軍関係の犯罪に歯止めをかけるのが狙いで、秋にも正式に合意し、法的拘束力のある文書を交わすという。

 今回の事件で、沖縄県民の怒りは頂点に達している。軍属の範囲見直しは初めてで、合意を「一歩前進」と評価することもできる。

 ただ、軍人は対象外で犯罪の抑止効果も限定的との見方がある。沖縄県が求める地位協定の抜本改定にも踏み込まず、従来の運用改善の延長にとどまった印象は否めない。

 地位協定では、米軍の軍人・軍属による公務中の犯罪は米側の裁判権が優先される。公務外でも、容疑者が基地に逃げ込むなどして米側が先に拘束すれば、日本側が起訴するまで引き渡さなくてよい。

 21年前の少女暴行事件で米側は容疑者の兵士らの引き渡しを拒み、反基地感情が高まった。両政府は、凶悪犯罪の身柄引き渡しで米側が「好意的考慮」を払う運用改善で合意したが、決定権は今も米側にある。

 過去に米側が軍属の引き渡しを拒んだケースもある。今回の事件では容疑者は基地の外に居住しており、沖縄県警が逮捕した。たまたま日本側の動きが先んじただけで、米側が考慮を払ったわけではない。

 岸田文雄外相は、見直しによって今回の事件の容疑者は軍属の立場から外れると説明する。だが、軍属の人数自体がはっきりせず、どこまで範囲が縮小するかも見通せない。翁長(おなが)雄志知事は「実効性のある内容になるかどうか」と懸念を示す。

 地位協定の規定は1960年の発効後、一度も見直されていない。日本政府は交渉に及び腰だが、国民が納得できる形に見直すのは当然だ。改定を米側に求めるべきである。

 

[米軍属範囲縮小] 小手先対応では済まぬ(2016年7月8日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 これで在日米軍関係者の特権的な地位の見直しにつながり、犯罪防止にも役立つのだろうか。

 日米両政府は、両国間の地位協定で事件・事故の際、米側に優先的な裁判権がある米軍属の範囲縮小で合意した。

 米軍属が起訴された沖縄県の女性暴行殺害事件を受けて決めた。

 合意は軍属を4分類して、定義も明確にするという。米政府予算で雇用され在日米軍のために勤務する文民、技術アドバイザーやコンサルタントで在日米軍の公式招待で滞在する者などだ。

 ただ、技術アドバイザーらは「高度な技術」「任務に不可欠」などが認定条件とされ、曖昧さも残っている。

 何より、沖縄が求め続ける地位協定の改定に踏み込んでいない。趣味のウオーキング中、20歳の若さで無残な最期を遂げた女性の事件が起きても、協定改定の協議すらしないのは驚きだ。

 これでは、「根本的な解決にならない」(沖縄県の基地対策関係者)、「小手先の対応に県民は納得しない」(ヘリ基地反対協議会共同代表)と反発が相次ぐのはもっともだろう。

 日米両政府は今回の合意を、駐留米軍約5万人も含めた地位協定の抜本見直しへの契機にすべきである。

 そのためにはこれからの詰めの作業が大事だ。

 合意では、今後数カ月間での協議の完了や、日本側が法的拘束力のある政府間文書の作成を目指すことも決めた。軍属の適格性の定期審査、教育・研修の受講も義務付けた。

 これらを確実に履行し、合意の実効性を高めてもらいたい。政府間文書の内容があやふやなら、沖縄の反発は強まりかねない。

 特に問題なのは、軍属の数さえ日本側が米軍から十分に知らされていないことだ。

 事件当時、日本側にあった軍属数5000人余は2013年時点のものだった。その後、米軍は今年3月末時点で約7000人と通知した。うち沖縄県内は約2000人という。

 事件では、容疑者が特権で日本の出入国管理を経ず国外へ逃亡できる可能性もあった。

 軍属数やその属性などを正確に知らせるのは、最低限の務めではないか。政府間文書にそれを盛り込むよう求めたい。

 沖縄では1972年の日本復帰以降、米軍絡みの凶悪犯罪が500件を超える。

 「事件の『第二の加害者』はあなたたちです」。抗議の県民大会で、女子大生が本土に向けた言葉をいま一度胸に刻みたい。

 

7月7日

 

軍属の範囲縮小 地位協定なぜ変えない(2016年7月7日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 日米両政府は、両国間の地位協定で米側に優先的な裁判権が認められている米軍属の対象範囲見直しに関する合意内容を発表した。

 沖縄県で起きた女性暴行殺害事件を受けた対策の一環で、軍属の定義を明確化し、実質的に範囲を縮小するとした。しかし米軍人・軍属に特権的な待遇を与えた日米地位協定自体は改定されない。

 沖縄県が改定を強く求めている協定には手を付けず、実効性も定かではない措置が対策の名に値するだろうか。

 1995年の少女暴行事件をはじめ、沖縄では基地あるがゆえの事件事故が繰り返されている。それなのに、日米はなぜ改定に踏み込まないのかをただしたい。

 軍属は在日米軍基地で働く民間の米国人だが、定義はあいまいだった。合意では《1》米政府予算で雇用されている《2》米軍の船舶・航空機の乗組員―などに4分類した。

 これが適用されれば、基地内のインターネット関連会社に勤務していた暴行殺害事件の被告の男は対象から除外されるという。

 日本政府は法的拘束力のある文書の作成を目指すという。これまでの運用改善措置とは違うとして沖縄の理解を得たい考えだ。

 だが、本来は早く実施しておいて当然の作業ではないか。

 対象の職種など細部の協議は今後に委ねられ、縮小人数も明らかではない。中途半端な内容で公表したのは、参院選を意識したと受け取られてもやむを得まい。

 そもそも、5月の事件発覚時に日本側が把握していた国内の米軍属の人数は2013年3月末時点の5203人。それが、合意発表に際して明らかにされた数字は今年3月末の約7千人だった。

 急に増えた理由は不明という。日本政府は毎年の人数の変動さえ米側から報告を受けていない。基本的な実態を把握できなくては対策の効果も検証しようがない。

 日米地位協定では、公務中の軍人・軍属が起こした事件事故は米側に裁判権がある。

 公務外でも米側が先に身柄を確保した場合は、日本が起訴する前の身柄引き渡しに米側が運用で「好意的考慮」を払うとしているが、基本的には米国の裁量だ。

 04年に沖縄国際大学構内に米軍普天間飛行場の大型ヘリが墜落した事故でも、地位協定が壁になり警察は事故直後の現場検証すらできなかった。

 理不尽な実態は沖縄だけの問題ではない。放置しては主権国家としてのありようが問われよう。

 

日米地位協定 一件落着にはできぬ(2016年7月7日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 前進ではあるのだろう。だが、この合意だけで一件落着としてはならない。

 日米地位協定で保護されている米軍属の範囲を限定することで、日米両政府が合意した。

 米軍属の男が沖縄県の女性を殺害したなどとして起訴された事件への対応で、米軍属を「米予算により雇用されている者」など4分類に限定するという。

 これにより、基地内で働く民間企業従業員だった今回の被告のような立場は軍属でなくなる。一方で多数の米兵や軍属に、日本の法律の適用を除外する特権的な地位はそのままだ。

 米軍人・軍属に対する教育・研修の強化も盛られた。

 当然の措置とも言えるが、女性殺害事件後の綱紀粛正にもかかわらず、沖縄では米軍関係者による飲酒事故などがやまない現実がある。実効性のある教育・研修を徹底してほしい。

 そもそも今回の合意は、地位協定の抜本的な見直しを求め続けてきた沖縄の声に、正面からこたえるものではない。

 米軍関係者による事件や事故が後を絶たない背景には、地位協定が助長してきた特権意識があるのではないか――。沖縄県などが日米両政府に地位協定の改定を求めてきたのは、そんな危機意識からだ。

 事件後、沖縄では県議会や市町村議会が相次いで協定改定を要求。沖縄だけではない。米軍施設のある14都道県の知事でつくる渉外知事会も、日米両政府に同様の緊急要請をした。

 日米両政府は、引き続き、協定改定を含むさらなる見直しに取り組む必要がある。

 一つは裁判権の問題だ。

 公務外の事件・事故は日本側に裁判の優先権がある。ところが、容疑者の身柄が米側にあれば起訴まで米側が拘束する。

 1995年の少女暴行事件などを機に協定が「運用改善」され、米軍は日本側から被疑者の起訴前の身柄引き渡し要請があれば、「好意的考慮を払う」ことにはなった。だが、あくまで米側の裁量次第だ。

 これを「日本から要請があれば引き渡しに応じる」と協定に明記し、強制力を持たせれば、犯罪抑止効果は高まるはずだ。

 また、米軍基地には国内法の適用が数多く除外されている。例えば、米軍基地内では土壌を汚染しても原状回復義務を免除される。環境保全に関する国内法を基地内にも適用し、汚染者負担原則を徹底させることも書き込むべきだ。

 沖縄県民の、そして日本国民の声を誠実に米政府に伝える責任が、日本政府にはある。

 

地位協定で日米合意 「沖縄」は何も変わらない(2016年7月7日配信『福井新聞』−「論説」)

 

これが地位協定の見直しなのか。日米両政府は、米側に優先的な裁判権が認められている地位協定に関し「軍属」の範囲を縮小する方針で合意した。元海兵隊員の米軍属が逮捕、起訴された沖縄県うるま市の女性暴行殺害事件を受けた措置だ。今秋にも具体策を詰め法的効力が伴う形で正式合意を目指すという。

 犯罪抑止へ前進したようにみえるが、実態は何も変わらないだろう。日本は軍属の数さえ毎年米側から提供もされておらず、しかも駐留米軍関係者全体で見れば一部にすぎないからだ。

 合意は、今回の事件だけに絞ったつじつま合わせの小手先修正。安倍政権の対米従属姿勢が露骨に顔を出す。沖縄が求めるのはあくまで軍人も含めた地位協定の抜本的改定である。

 岸田文雄外相は共同発表後、記者団に「従来のような地位協定の運用改善にとどまらない措置だ」と強調した。軍属を4分類して定義付け、対象の縮小を図る。教育・研修も強化する。

 しかし、翁長雄志(おながたけし)知事は「米側に裁量を委ねる形となる運用の改善だけでは不十分」と実効性を懸念し、見直しを求める。「沖縄だけの問題ではなく、外交や安全保障、国民の人権、環境保護などをどう考えるかという国民的な問題だ」との発言は重く響く。

 日米間に横たわる免法特権や治外法権が米軍の占領意識を助長させている。そのことは頻発する事件や事故と無縁ではない。1カ月間の「服喪期間」でさえ、米軍人による酒酔い運転事故などが相次いでいるのが沖縄の現状である。

 国内には各地に米軍基地があり、地位協定は沖縄県だけの問題ではない。翁長氏の言う通り「本土」でも日米安保体制や在日米軍の在り方を抜本的に考え直すべきではないか。

 日米地位協定は1960年に発効。公務中の犯罪は米側が第1次裁判権を持つと定め、公務外でも米側が先に容疑者を拘束すれば起訴前まで原則、日本側に身柄を引き渡さないなどの規定がある。それが「罪を犯しても基地に逃げ込めばよい」という驕(おご)りにつながっているのだろう。協定は一度も改定されていない。韓国は2度改定、ドイツ、イタリアなど米軍駐留国と比べても不平等性が多方面から指摘されている。

 今回の日米合意は渦中の参院選を意識しているのは明らかだ。政府は「県民大会」で海兵隊撤退や地位協定の抜本的改定を求めた約6万5千人(主催者発表)の怒りの声をどう聞いたのか。沖縄が抱える戦後70年の痛みである。

 同県では72年の本土復帰から2014年までに、米軍関係者による殺人や強姦(ごうかん)など凶悪犯罪が571件発生、737人が検挙された。

 女性暴行殺害で起訴された米軍属は「殺意はなかった」「強姦はしていない」と主張。「県民は死刑を宣告すると決めている」「沖縄の人の裁判は受けない」として審理を那覇地裁から東京地裁に移すよう請求した。あまりに身勝手な、悲しい現実だ。

 

【日米地位協定】軍属見直しで終わらすな(2016年7月7日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 米軍属が起訴された沖縄県うるま市の女性暴行殺害事件を受けた措置にしては、犯罪の抑止効果の面からも、日本の主権が問われる点からも不十分というしかない。

 日米両政府は、地位協定上の軍属の範囲について厳格化することで一致し、合意内容を発表した。事実上対象を縮小することで、日本の司法制度の適用範囲を広げる。

 在日米軍は兵士を中心に編成されており、兵士の活動を支える文官の軍属はごく一部である。沖縄でも過去、兵士が多くの凶悪犯罪を起こしている。軍属範囲の見直しで解決する問題ではない。

 沖縄県側は協定の抜本的な改定を求めているが、政府は改定ではなく補足的な協定を目指す意向だ。

 翁長知事は「実効性ある内容か、国に説明を求めたい」としている。疑問は当然だろう。協議をこれで終わらせてはならない。政府には引き続き、改定を視野に本質的な議論を求める。

 合意内容によると、軍属を4分類して定義を明確化し、米政府の被雇用者や在日米軍の公式招待で滞在する高度な技術者などに限定する。日本の在留資格を持つ米国人を軍属から除外することも徹底する。

 うるま市の事件で起訴された男は基地内にあるインターネット関連会社に勤務していた。合意が実施されれば、軍属の対象外になるという。

 対象を厳格化する重要性は否定しない。問題解決へ迅速な対応も必要である。だが政府が合意内容について、「従来のような地位協定の運用改善にとどまらない措置」(岸田外相)と成果を強調するのはどうか。

 今後細部を詰め、最終決着には数カ月を要するというのに、参院選の投票日前に発表したことにも政権の思惑を指摘する声がある。

 地位協定は、兵士や軍属が起こした公務中の事件事故は米側に裁判権があると規定する。公務外では日本側が裁判権を持つものの、米側が先に容疑者を拘束した場合は原則として起訴まで日本側に身柄を引き渡さなくてよい。

 前身の日米行政協定の改定交渉の際、日本側は裁判権を放棄する事実上の密約を交わした。これが1960年発効の地位協定にも、安保闘争の混乱などで国会で十分審議されることなく継承されたためだ。

 協定が犯罪を助長している面は否定できない。米軍基地を抱える自治体は被害に苦しみ、協定の見直しを繰り返し求めてきた。それでも政府は運用の見直しを進めるだけで、協定は一度も改定されていない。

 沖縄では、うるま市の事件後も米兵士の飲酒運転などが相次いでいることを、政府はもっと深刻に捉えるべきだ。

 これにとどまらず米軍機には、飛行禁止区域や低空飛行の禁止を定める国内法も適用されない。米側には事実上の治外法権が与えられていると言ってよい。理不尽な協定の本質を変えない限り、米軍基地を巡るさまざまな問題は解決されない。

 

7月6日

 

日米地位協定 抜本改定を提起せよ(2016年7月6日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 改善と言うより、当然のことではないか。

 日米両政府が地位協定に関する合意内容を発表した。米側に優先的な裁判権が認められている米軍属の定義を明確化するという。誰が協定の対象なのか、はっきりしていない現状がそもそもおかしい。

 米軍属が起訴された沖縄の女性暴行殺害事件を受け、協議してきた。岸田文雄外相は「運用改善にとどまらない措置」と強調するものの、沖縄県が求める協定改定とは懸け離れている。小手先の対応で終わらせてはならない。

 米軍属は、日本国内にある米軍基地で働く民間の米国人だ。協定は、文民で在日米軍に雇用される者や随伴者などと定義する。

 合意は軍属を▽米政府予算で雇用され、在日米軍のために勤務する文民▽米軍運航の船舶、航空機に乗る被雇用者―などに4分類した。起訴された男は基地内にあるインターネット関連会社に勤務していた。合意が実施されれば、軍属から外れるという。

 軍属の適格性を定期審査する作業部会の新設や、日本の在留資格を持つ米国人を軍属から除外する手続きづくりに着手することも打ち出した。在留資格者はかねて軍属から外れるとされてきた。徹底するのは当たり前だ。

 細部を詰めるため、最終決着は先になる。協議開始を明らかにしてから約1カ月で合意した。この時期の発表は10日の参院選をにらみ、迅速な対応をアピールする思惑も感じさせる。

 高度な専門性のない技術者などの請負業者を協定の対象から外すことを想定しているという。中谷元・防衛相によると、国内の米軍属は3月末時点で約7千人、うち請負業者は約2千人いる。実施でどれほど減るのか、政府は早急にはっきりさせるべきだ。

 加えて、協定の抜本改定を米側に提起することも欠かせない。米軍関係者の事件が繰り返されるのは「協定に守られているという慢心」があるため、というのが沖縄の受け止めだ。

 米兵らによる公務中の犯罪については、米側に第1次裁判権がある。公務外でも米側が先に容疑者を拘束すれば、起訴前まで原則として日本側に身柄を引き渡さないと規定されている。

 運用改善で、殺人など凶悪犯罪での引き渡し要求には米側が「好意的考慮を払う」ことになってはいる。それでも依然、決定権は米側にある。不公平な協定の見直しを持ち掛けようともしない政府の姿勢は納得できない。

 

米軍属の「限定」 再発防止には不十分だ(2016年7月6日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

  再発防止の効果があるのか極めて疑問だ。

 沖縄県での米軍属による女性暴行殺害事件を受けて、日米両政府は、日米地位協定で保護される軍属の範囲を限定することで合意した。

 在日米軍基地で働く民間の米国人である軍属は、日米地位協定上、軍人とともに特権的な地位が与えられている。ところが、地位協定が定める軍属の範囲は「日本国にある米軍に雇用され、これに勤務し、随伴するもの」とあいまいだ。

 合意では、軍属の範囲について「米国政府予算などにより雇用される者」「船舶等の乗組員」「米国政府が雇用する者」「技術アドバイザーやコンサルタント」の4類型を例示した。だが、4類型はあくまで例示と位置づけられており、他のケースも含まれる余地が残る。範囲は依然としてあいまいだ。

 米軍属は、今年3月末現在で全国に約7000人いる。このうち請負業者などが軍属から除外される主な対象になりそうだ。

 沖縄には、2013年3月末現在で米軍人は2万7791人、米軍属は1885人いる。

 範囲を限定した結果、軍属の人数は減ることが期待されている。だが、米軍が請負業者などの数そのものを新基準内で増やす可能性もあり、減るかどうかは見通せない。

 このほか合意では、日本に在留資格を持つ者を軍属から除外する仕組みを強化することや、軍属の適格性を定期的に見直すこと、教育・研修の強化が盛り込まれた。いずれも、もっと早く実施しておくべきだった当然のことばかりだ。

 そもそも、沖縄県が再発防止策として求めてきた「地位協定の抜本的改定」「米軍基地の大幅な整理・縮小」などの内容からはほど遠い。

 地位協定では、軍人・軍属の公務中の犯罪は、米側に優先的な裁判権があり、公務外でも米側が先に容疑者の身柄を確保すれば、原則として日本側が起訴するまで米側が拘束できる。殺人などの凶悪犯罪の場合は、日本側からの起訴前の身柄引き渡し要求に対し、米側が「好意的考慮を払う」と運用改善されたが、強制力はない。

 起訴前の身柄引き渡しを運用改善ではなく明文化して強制力を持たせれば、犯罪の抑止効果が高まると、県側は主張している。

 軍人・軍属への教育も、適切な内容で徹底すべきだ。沖縄の人々にとって、米軍が「良き隣人」となるための教育をしてもらいたい。

 容疑者の逮捕から1カ月半。この間、米軍人・軍属による事件・事故の再発防止が叫ばれながら、飲酒運転の事故などが相次いでいる。小手先の対策ではすまされない。

 

米軍属範囲縮小 沖縄に配慮した現実的な合意(2016年7月6日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 米軍属の男が起訴された沖縄県の女性殺害事件を踏まえた、迅速かつ現実的な対応と言える。

 岸田外相と中谷防衛相がケネディ駐日米大使、ドーラン在日米軍司令官と会談し、日米地位協定の対象となる軍属の範囲を実質的に縮小することで合意した。

 軍属は、米国予算による被雇用者、在日米軍が公式に招いた技術アドバイザーやコンサルタントなど4分類に限定する。日本の在留資格を持つ者は除外される。今回の事件の男は含まれなくなる。

 軍属でなければ、公務中も日本の警察による身柄拘束が可能だ。日本側の裁判対象を拡大する。

 日米両政府は数か月以内に、詳細を定めた文書をまとめる。日本側は、拘束力のある補足協定などの形式の文書にしたいという。実効性を持たせることが大切だ。

 沖縄県内では、日米地位協定の抜本改定を求める声が根強い。

 ただ、現状でも、殺人、婦女暴行など凶悪事件に関しては、起訴前の身柄引き渡しに米側が「好意的考慮」を払う仕組みである。

 日本の警察や検察、裁判所が権限を適切に行使できるルールの確立が優先されるのではないか。

 女性殺害事件後も、沖縄で米軍関係者が酒酔い運転容疑などで逮捕される事件が相次いでいる。

 米軍は一時的に飲酒禁止令を出すなどしたが、効果は限定的だ。綱紀粛正の教育や研修の徹底を重ねて強く求めたい。

 重要なのは、沖縄の過重な基地負担を着実に軽減することだ。

 在日米軍が先月下旬、沖縄の米軍専用施設の数は全国比で39%に過ぎないとネット上で指摘した。沖縄県の翁長雄志知事は「ねじまげたのは残念だ」と反発した。

 米軍専用施設に限れば、面積の全国比は74%に上り、この数字が長年、沖縄への基地集中を象徴すると喧伝けんでんされてきた。

 だが、小松基地、東富士・北富士演習場など、米軍と自衛隊の共用施設を含めると、沖縄の施設の面積は22%にとどまる。統計次第で、その印象は大きく変わる。

 日米合意に基づき、県内最大の米軍施設である北部訓練場の一部の返還が実現すれば、県内の米軍施設の総面積は2割も減る。

 さらに、普天間飛行場を含め、人口が多い県南部の米軍施設の返還が進めば、県民は負担軽減を一段と実感できよう。

 一連の施設返還計画を実行に移す際に、沖縄県が果たすべき役割は大きい。翁長氏には、積極的に政府と協調してもらいたい。

 

地位協定の明確化 米軍は一層の綱紀粛正を(2016年7月6日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 沖縄県うるま市で海兵隊出身の米軍属が起こした女性暴行殺害事件に対する県民の怒りは強い。事件は残虐極まりなく、県民の怒りは当然だ。

 事件への対応を協議してきた日米両政府は、在日米軍に関する地位協定上の軍属の範囲を実質的に縮小することや、米軍人と軍属への教育研修の強化で合意した。

 犯罪抑止の効果が期待される。細部の交渉を進め、早期の運用開始に努めてほしい。県民の信用を取り戻し、日米同盟が揺らぐ事態は避けなくてはならない。

 公務中の場合、地位協定が米側に優先的な裁判権を認めている軍属の範囲はこれまで曖昧だった。これを高度な知識をもつ技術者など4分類に限ることで、日本の裁判対象を広げる狙いがある。

 ドーラン在日米軍司令官は会見で「米軍人、軍属、家族、契約業者、従業員に犯罪は一つも許さないと確実に理解してもらう」と述べた。言葉通りの努力を望むが、4日には同県北谷町で米空軍下士官が酒気帯び運転容疑で逮捕された。一層の綱紀粛正を求める。

 ただ、事件に怒り、憂えているのは県民ばかりではない。

 米軍基地の軍人や家族の多くが炎天下の沿道に立ち、「沖縄とともに悲しんでいます」「沖縄のためにお祈りしています」と記したプラカードを掲げ、行き交う車に頭を下げ続けた。

 遠く日本に赴任した米軍人、家族、軍属のほとんどは「最も高い基準で行動」(ドーラン氏)しており、米国の国益とともに、日本や地域の平和のため働いていることも事実だ。

 沖縄の米軍基地は、日米同盟の抑止力の要である。中国は尖閣諸島周辺の海空域に軍艦や戦闘機を侵入させてくるに至った。沖縄の米軍基地の機能が損なわれては、尖閣はもとより、先島諸島や沖縄本島の安全も脅かされる。

 抑止力の維持と普天間飛行場の危険性の除去を両立させるには、辺野古移転が求められることも、改めて指摘したい。

 女性暴行殺害事件で起訴された米軍属側は、裁判員に選ばれる沖縄県民は予断を持つとして、管轄裁判所を那覇地裁から東京地裁へ変更するよう求めた。裁判員制度は国民の常識や量刑感覚を反映させることなどを目的としており、請求は筋違いのものであるとしか言いようがない。

 

地位協定見直し 沖縄の求めには程遠い(2016年7月6日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 なぜ抜本改定に踏み込まないのか。米兵らに特権的な法的地位を認める日米地位協定。日米両政府が合意した事実上の適用対象縮小は一定の前進だが、改定を求める沖縄県民らの望みには程遠い。

 きっかけは元米海兵隊員で、沖縄県の米軍基地内で働いていた米軍属(在日米軍基地で働く米国籍の民間人)の男が、同県うるま市で女性を暴行、殺害した事件で逮捕、起訴されたことである。

 事件は公務外で、日本側が身柄を拘束したため、地位協定が捜査の障害になることはなかったが、地位協定自体が米兵らの特権意識を助長し、犯罪の温床になっているとして、沖縄県の翁長雄志知事は協定改定を求めている。

 米軍施設が所在する14都道県でつくる渉外知事会も、改定に速やかに着手するよう求める緊急要請を日米両政府に行った。

 協定改定に踏み込まず、運用見直しにとどまる今回の合意は、基地がある故の犯罪に苦しむ沖縄県民らの求めに応じるものになっているのか。答えは「否」である。

 地位協定の適用対象は在日米軍の軍人・軍属とその家族だが、日米合意は軍属を「米予算により雇用される者」などに4分類し、範囲を厳格化する、という。

 米軍にとって既得権である地位協定の改定に困難が伴うことは容易に想像できる。軍属の適用対象縮小でも一定の前進なのだろう。

 しかし、在日米軍で多数を占める米兵の特権的な法的地位は手付かずだ。女性暴行殺害事件後の綱紀粛正にもかかわらず、沖縄では米軍関係者が飲酒運転容疑で逮捕される事案が後を絶たない。

 すべての在日米軍関係者に対する教育・研修を強化するというが果たして有効な対策となり得るのか、甚だ疑問である。

 翁長氏はきのう県議会の代表質問に「米側に裁量を委ねる形となる運用の改善だけでは不十分であり、抜本的な見直しが必要だ」と答えた。当然の反応だろう。

 日米両政府には知事発言を重く受け止め、協定改定に早急に着手するよう求めたい。この程度の運用見直しでは、米兵らの犯罪をなくすことはできまい。

 そもそもこの時期に合意を急いだ背景には、沖縄県選挙区での自民党公認候補の劣勢が伝えられる参院選があるのではないか。

 安倍政権には迅速な取り組みを宣伝する狙いもあろうが、核心を外した運用見直しで沖縄県民の理解を得ることができると考えているのなら、思い違いも甚だしい。

 

米軍属の扱い  再発防止策と言えるか(2016年7月6日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 むごい犠牲を繰り返さない対策とこれが言えるのだろうか。

 日米両政府は、沖縄県での女性暴行殺害事件を受け、日米地位協定で米側に優先的に裁判権が認められている米軍属の対象を明確化することで合意したと発表した。実質的な範囲縮小になるという。

 だが、沖縄県民が強く求めている地位協定の抜本改定には踏み込まず、軍属を含む米軍関係者の「特権」は何ら変わらない。過去にも重大事件が起きるたび日米は「運用改善」を打ち出してきたが、今回の合意も実効性は不透明で、後を絶たない犯罪の防止に「ほど遠い」の声が上がるのも当然だろう。

 合意内容は米軍属の職種について、米政府予算で雇用され在日米軍のために勤務する文民、公式招待した技術アドバイザーなど4分類して定義。日米で軍属の適格性を審査する作業部会を新設する。

 これで今回の被告のような請負業者らを軍属から除けると政府は強調するが、4分類の内容は曖昧さが残る。日本国内で約7千人とされてきた米軍属のうち約2千人が請負業者というが、実際にどれだけ除外されるかは見通せない。

 今後、日米で数カ月かけて細部を詰めるが、政府が掲げる法的拘束力のある文書化も決まっていない。沖縄の反基地感情の高まりを懸念する米側と、参院選への影響を避けたい日本政府が早期の収束を図ろうという思惑が透ける。

 だが、米軍の特権を温存したままで事態の改善が望めないのは、事件後も相次ぐ米兵らの飲酒運転事故からも明らかである。米兵、軍属が基地内に逃げ込めば起訴まで身柄は引き渡されず、米側が「公務中」と主張すれば日本に優先裁判権はない。

 なのに政府はなぜ、米側に地位協定の改定協議すら求めないのか。日本で犯罪を犯した米軍関係者が日本人同様に裁かれず、守られねばならないのか。その問いに答えないままでは、今回の合意は米側の特権を追認し、永続させることになりかねない。

 「日米同盟の強化」を進める安倍晋三首相は、地位協定にみられるように国の主権を一部放棄して「従属的」関係を受け入れても仕方ないと考えているのだろうか。

 沖縄で先月開かれた県民大会では、集中する基地の危険と負担を放置する政府、本土に対して「第二の加害者だ」と激しい怒りが噴出した。京都を含めて他の米軍施設の立地先の問題でもある。矛盾を押し付けたままの幕引きは許されない。

 

地位協定の日米合意 抜本的改定こそ必要だ(2016年7月6日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 日米地位協定で米側に優先的な刑事裁判権が認められている米軍属の範囲を絞り込むことで、両政府が合意した。米軍属の男による女性暴行殺害事件が起きた沖縄県を念頭に、犯罪抑止の効果を狙うとみられる。

 参院選をにらみ、日米が「目に見える改善の具体化」(安倍晋三首相)をアピールしたつもりだろう。しかし、このような小手先の対応だけでは、県民は納得できまい。

 沖縄側が求めてきたのは地位協定の抜本的改定である。日本政府は米側に唯々諾々と従うことなく地位協定の「特権構造」に切り込むべきではないか。

 地位協定の中で米軍人・軍属による事件や事故のたびに改定の声が上がるのが、刑事裁判権を定めた17条である。軍人・軍属の公務中の犯罪は米国に、公務外なら日本に、それぞれ第1次的な裁判権があるとされる。

 だが、それは建前だろう。公務外でも容疑者の身柄が米側にあれば、原則として起訴されるまで日本側に引き渡されない。それでは捜査に支障をきたす。過去の暴行事件の折、県民の強い要求で米側が「起訴前の引き渡しに好意的考慮を払う」と約束したものの、あくまで相手方の裁量に委ねる点が問題だ。

 加えて刑事裁判権の規定自体が、日本の司法権の侵害に当たる疑いが強い。2011年に公務中の犯罪で米側が刑事訴追しない場合、日本側で裁判できるよう運用を見直したものの、この規定がある限り、犯罪撲滅の根本的な解決にはなるまい。

 しかも、日米合意の対象となる軍属は日本に駐留する米軍関係者のごく一部にすぎず、犯罪抑止の効果は疑わしい。見直しは米軍の責任逃れを助長する恐れもあると指摘されている。

 今回の事件後、米軍は一時、基地や自宅の外での飲酒を禁止するなど綱紀粛正策を取ったにもかかわらず、軍人による酒酔い運転事故が相次いでいる。女性殺害事件の被告も元海兵隊員であり、軍人はどうするのか、という県民の声は強まるだろう。

 地位協定に基づく「特権」は刑事裁判権だけではない。

 基地に絡む排他的管理権もそうだ。13年に沖縄市の基地跡地に猛毒ダイオキシンのドラム缶が投棄されていたことが明るみに出た。米軍には環境汚染に関する国内法令の適用を免除し、内規に任せていたからだ。

 日米両政府は昨年、環境補足協定を結んだが、日本側の立ち入りにはいまだ制約が残る。

 さらに同じ年、宜野座村の米軍演習場に米軍ヘリコプターが墜落した事故で警察や消防が直後の立ち入りを拒まれたのも、排他的管理権が口実だった。火災延焼や水源汚染を防ぎ、住民の安全や健康を守る手だてが封じられたのは由々しきことだ。

 沖縄だけの問題ではない。かねて西中国山地の訓練空域を中心に繰り返され、騒音とともに住民に事故への不安をもたらす岩国基地などの米軍機による飛行にも関わる。地位協定を盾に自由に飛び回り、航空法も適用されない。「空の治外法権」をこのまま放置できない。

 何か起きるたびに運用の「改善」で取り繕うだけでは限界である。ふたたびみたび重大な事件事故が発生するなら、「日米同盟」の根幹を揺るがす前例のない事態に陥りかねない。日米両政府にその覚悟はあるのか。

 

[米軍属の範囲見直し]再発防止につながらぬ(2016年7月6日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 日米両政府は5日、日米地位協定における米軍属の範囲の見直しで合意した。

 うるま市で発生した女性暴行殺人事件の被告が米軍属だったことを受け、一般的な技術者などの請負業者を軍属の対象から外すことを想定している。最終合意ではなく、今後数カ月間かけて細部を詰め、法的拘束力のある政府間文書の締結を目指すという。

 最終合意でないにもかかわらず、日米両政府が発表したのはなぜか。「凶悪犯罪を防止するため」「県や県議会が求める地位協定の抜本的改定には応じられないとのメッセージを伝えるため」「参院選を有利に進めるため」−。

 地位協定では軍属を「米国の国籍を有する文官で、在日米軍に雇用され、勤務、随伴する者」と規定。通常、日本に居住する者は除かれる。

 軍属の範囲の見直しは、逆に言えばこれまで軍属の位置付けがあいまいだったからであり、本来なら事件に関わりなく正しておくべきだった。

 軍属の範囲の明確化と凶悪犯罪を防止することがどうつながるのか分からない。軍属は全体のわずか。抑止効果はあったとしても限定的とみるしかない。米軍が再発防止策を出したにもかかわらず、米兵の飲酒運転の事故が後を絶たないことからも分かる。

 1995年の米兵による暴行事件を糾弾する県民総決起大会以来、県や県議会は地位協定の抜本的な改定を求めてきた。だが、日米両政府とも地位協定の本体には手を付けることをしない。事件事故が起きるたびに運用改善による対応を続けている。今回も日米両政府が地位協定の抜本的改定を協議した形跡はない。

■    ■

 参院選を有利に進めるため、という見方はどうか。

 参院選は10日の投票日に向け終盤戦に入った。この時期になぜ、日本側から外務・防衛相、米側から駐日米大使・在日米軍司令官が顔をそろえ恭しく発表したのだろうか。

 既視感がある。文化財調査で欠陥が明らかになっている「環境補足協定」。日米両政府は2014年10月、交渉中にもかかわらず発表した。知事選を控え、前知事を後押しする意図があからさまだった。

 15年12月には米軍普天間飛行場東沿いの4ヘクタールを17年度内に返還することで合意した。これも宜野湾市長選の直前の発表だった。

 沖縄が求めているのは、在日米軍の特権的な地位を定めた地位協定の抜本的な改定である。防衛省によると、13年3月末現在、県内には1885人の軍属がいる。

 このうち見直しで何人が減少するのか、はっきりしないが、凶悪犯罪の抑止につながるのかどうか疑問である。

■    ■

 小手先の見直しにとどまっては、ほとぼりがさめるとまた事件事故が繰り返される。

 地位協定や関連取り決めは憲法・国内法より優先され、主権や地方自治を侵害している。この構図にメスを入れなければならない。

 日米両政府が事件事故の再発防止策を本気で考えるなら地位協定の抜本的な改定と米軍基地の大半を占める海兵隊撤退に踏み込む必要がある。

 

軍属の対象縮小 しっぽ切りでは収まらない(2016年7月6日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 トカゲのしっぽ切りでしかない策が、在沖米軍から派生する事件事故の防止につながるのだろうか。日米両政府は、米軍属女性暴行殺人事件を受けて、日米地位協定上の軍属の適用対象を狭めることで合意した。

  内容は、軍属を4分類して定義を明確にし、民間企業の技術アドバイザーやコンサルタントの職能を特定する。日本人の配偶者を持つなど在留資格を有する者は除外する。これで軍属の対象を縮小するのだという。

  とはいえ、日米両政府はこの措置で何人程度の軍属が除外されるのか、明らかにしない。

  在沖米軍関係者は2013年度末で5万2092人、そのうち軍属は1885人で、全体の約3・6%である。適用対象を狭めても実際に減るのは全体の数%とみられる。対象はわずかだ。

  そもそも軍属とはいかなる存在か。地位協定には米国籍を有する文民で米軍に雇用、勤務し、または随伴する者と記されているが、範囲や、米軍駐留に必要な人材かはあいまいだ。

  女性暴行殺人事件の被告は基地内の民間企業勤務、5月に覚せい剤、大麻の取締法違反で逮捕された2人は嘉手納基地内の店の販売員、6月に沖縄市で飲酒運転による事故で逮捕された男は基地内の売店などを運営する機関の従業員だった。「随伴」の対象は広い。

  数ある地位協定の問題点の一つは、米軍関係者の犯罪が起きた際、米軍の排他的管理権が立ちはだかり、県警による基地立ち入りを困難にしていることがある。

  女性暴行殺人の被告は当初、遺体を運んだスーツケースをキャンプ・ハンセン内に捨てたと供述した。基地内で証拠隠滅を図った可能性がある。

  対象から外された軍属であっても、基地内で働く限り、犯罪後、基地内に逃げ込むことは可能だ。問題解決にはならない。

  岸田文雄外相は参院選前の発表にこだわったという。5日の会見で「女性暴行殺害事件の被告のような立場の人間は対象から外れる」と述べた。事件で焦点が当たった「軍属」を取り急ぎ整理するだけの策で沖縄の反発が収まると思っているとすれば、見当違いだ。

  しっぽを切ってもトカゲは生きている。不平等な地位協定の本質に切り込んだことにはならない。

 

7月5日

 

[相次ぐ米兵飲酒事故]悪しきサイクルを断て(2016年7月5日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 米軍関係者による事件事故、飲酒運転が後を絶たない。

 米軍嘉手納基地所属の2等軍曹が4日午前4時ごろ、道交法違反(酒気帯び運転)容疑で沖縄署に現行犯逮捕された。

 元米海兵隊員の軍属が逮捕された女性暴行殺害事件を受け、米軍は5月27日から6月28日までを服喪期間と位置づけ、基地や自宅の外での飲酒を禁止し、午前0時までの帰宅を義務づけていた。

 凶悪事件が起きると米軍は、再発防止策として外出や飲酒の制限措置を打ち出すが、期間が過ぎて規制が解除されると、事件事故や飲酒運転が再び増え出す。

 日米両政府や米軍の「再発防止策」「綱紀粛正策」は、今もってこの悪しきサイクルを根本から断ち切ることができない。

 飲酒事故は服喪期間中にも起きている。

 6月4日午後11時40分ごろ、同僚の米兵と酒を飲み、自宅に帰る途中、交差点を右折する際、対向車線に入り、軽乗用車2台と衝突し、男女2人にけがを負わせたとして嘉手納基地所属の米海軍2等兵曹が逮捕され、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の罪で起訴された。

 綱紀粛正という言葉がむなしく響くような服喪期間中の事故だった。だが、それだけではなかった。

 先月26日午前4時半ごろ、米軍属の男が基地外の市道で、日本人男性の軽自動車と出合い頭の衝突事故を起こし、酒気帯び運転の疑いで沖縄署に逮捕された。

■    ■

 翌日の記者会見で、翁長雄志知事はこう語っている。

 「憤りや悲しみを表現しても、むなしい」

 「綱紀粛正や再発防止を全力でやると言いながら、いとも簡単にこういうことが起きる。これ以上、どう言っていいか全く分からない」

 両政府に対する不信感、何度抗議しても根本的な改善に結びつかない失望感と徒労感。翁長知事だけでなく、多くの県民が似たような感情を共有している。

 女性暴行殺害事件に抗議し、被害者を追悼する19日の県民大会で、集まった約6万5千人(主催者発表)の人々は、声を張り上げる代わりに「怒りは限界を超えた」というメッセージ・ボードを掲げて意思表示した。

 だが、翌20日の記者会見で菅義偉官房長官は、県民大会という名称について触れ、「よく県全体という話がされるが、それはまったくあたらない」と語った。

 大会に参加した人々の気持ちに寄り添うのではなく、大会を過小評価する政治的発言は嘆かわしい限りである。

■    ■

 日米両政府は、地位協定で米側に優先的に裁判権が認められている米軍属の範囲を実質的に縮小する方向で大筋合意した。5日に共同発表する。

 だが、県や県議会の地位協定見直し要求は、軍属の範囲縮小で済むようなものではない。慰霊の日の沖縄全戦没者追悼式で県知事、県議会議長、県遺族連合会会長はそろって、基地負担の不条理を訴えた。その声に向き合うことが出発点である。

 

7月4日

 

悲しいときも指笛は鳴る(2016年7月4日配信『東京新聞』−「私説・論説室から」)

 

 元海兵隊員の米軍属に殺害された女性を悼み、基地があるために繰り返される事件に抗議する沖縄の県民大会は、地元を代表する歌手、古謝(こじゃ)美佐子さんの歌から始まった。

 曲は「童神(わらびがみ)」。初孫の誕生を祝って、1997年に作られた曲だ。「暑い日や寒い日、雨や風の日には、子どもを守る盾になる」と、幼子へのあふれる愛情を歌っている。

 真夏の太陽が照りつける那覇市の会場を黒服を着た6万5000人が埋め尽くした。三線をつま弾きながら情感を込める古謝さんの歌に人々は水を打ったように聴き入った。拍手とともに、あちこちから甲高い音が聞こえた。

 フィー、フィー、フィー、フィー。

 指笛だった。沖縄の人は指笛が上手だ。陽気な場面でしか聞いたことのない指笛が、こんなにも胸に染みたことはない。街を歩いていただけの女性がなぜ、二十歳の命を奪われなければならなかったのか。親たちはなぜ、大切な一人娘を失わなくてはならなかったのか。

 私は思う。沖縄に生きる古謝さんが、ほかでもない、「童神」を集会の始まりに選んだのは、大切な娘を守りたかったという親の思いの代弁だったのではないかと。

 こんなにも無残に、また沖縄の女性の命が奪われてしまったことへの怒り。やりきれなさ。その思いに応える指笛に会場はひとつになった。言葉よりも深く悲しみを伝えるあの指笛の音が耳に響いている。

 

6月18日

 

米軍属事件追起訴 事件捜査の障壁排除せよ(2016年7月1日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 県民に大きな衝撃を与えた事件の舞台が法廷に移される。裁判を通して事件の真相を明らかにしてほしい。同時に事件捜査の障壁である日米地位協定の問題点を浮き彫りにする機会とすべきだ。

 米軍属女性暴行殺人事件で那覇地検は元海兵隊員で米軍属の男を殺人と強姦(ごうかん)致死の罪で追起訴した。裁判員裁判となる。

 若い女性の生命を奪った罪の重さは計り知れない。基地ある故の残虐な事件に抗議する県民大会が開かれ、海兵隊撤去を訴えた。文字通り県民注視の中で裁判が進むことになる。

 被告は逮捕前の任意聴取で「2、3時間車で走り、乱暴する相手を探した」などと明らかにしたが、逮捕翌日の5月20日以降は事件に関する供述を拒否している。これまでのところ犯行に用いたとされる棒などが見つかっているが、凶器の刃物や女性のスマートフォンは発見されていない。女性の死因も特定されないままだ。

 犯行に関する具体的な供述はなく、物証にも乏しい中で、那覇地検は逮捕容疑と同様、殺人と強姦致死の両方での起訴に踏み切った。現時点で地検は認否を明らかにしていない。法廷では両罪をどう立証するかが焦点となる。

 米軍基地絡みの犯罪の捜査を進める上で障壁となる日米地位協定の問題点が今回の事件でも指摘されている。

 被告は当初、遺体を運ぶのに使用したスーツケースをキャンプ・ハンセン内に捨てたと供述している。被告は米軍基地内で証拠隠滅を図った可能性があるのだ。供述に基づき、県警は基地内のごみが集積するうるま市の最終処分場を1週間捜索した。

 本来なら米軍基地内を捜査対象にすべきだ。しかし、米軍基地の排他的管理権を認める地位協定が基地立ち入りを困難にしている。

 追起訴に当たって県警は「被害者や遺族の無念を晴らすべく、総力を挙げた」との談話を出した。その総力から軍人・軍属をかくまっているのは地位協定なのだ。日本政府は捜査の障壁を排除するため、地位協定の抜本改正に全力を尽くすべきだ。

 在沖米軍が軍人・軍属に対し、飲酒や深夜外出の自粛を命令、要請した「哀悼期間」を6月28日に解除したことも許し難い。事件後も飲酒運転容疑による逮捕者が出た。形ばかりの反省や弔意では事件・事故は抑止できない。

 

元海兵隊員の米軍属による暴行殺人事件に(2016年6月18日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 元海兵隊員の米軍属による暴行殺人事件に抗議する県民大会の共同代表3人を沖縄タイムス社に招いた16日の座談会は黙とうから始まった。犠牲になった女性に哀悼の意をささげ、3人は静かに語り始めた

▼座談会は沈痛な空気に包まれた。代表らは事件への怒りと同時に、若い命を守れなかったことに胸かきむしられるような自責の念を抱いている

▼呉屋守將氏は「行動することが責務だ」と大会の意義を述べた。高里鈴代さんは「後悔の気持ちを抱いている」としながら、「事件を再び起こさない決意」を強調。玉城愛さんは「怒りや悲しみを繰り返させない思いを受け継ぐ」と語った

▼同日、翁長雄志知事が大会参加を表明した。公約を超える海兵隊撤退が決議に盛り込まれたことで悩み、海兵隊撤退には自民、公明、与党のすべての解決策を包含するという「苦肉の解釈」を示した

▼県議会は、自民退場の上で海兵隊撤退を盛り込んだ決議案を全会一致で可決した。怒りは同じである。県議会の抗議行動には自民代表も同席した

▼「政治色が強い」などとし、自民、公明、おおさか維新は参加しない。批判も政治行動の一つだ。それぞれの立場で犠牲者を追悼し、事件再発防止の具体的な対策が求められる。参加せずとも、19日は黒い物を身に着け、深い悲しみを表してほしい。

 

6月12日

 

米大使館課長発言 日米地位協定は機能不全だ(2016年6月12日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 日米地位協定の抜本的改定を求める県議団の要請に対し、信じ難い発言があった。在日米大使館のアーロン・スナイプ安全保障政策課長は「日米地位協定があるから米軍は管理されている。地位協定は機能している」と述べた。

米軍関係者による事件・事故が繰り返される背景に、差別的な地位協定があるのは常識だ。現実に起きている問題から目をそらし「地位協定は機能している」と強弁する態度からは、解決への意思が感じられない。

 米国政府、米軍が沖縄の現状をどう認識しているか、よく分かる発言だ。結局、米軍関係者が沖縄では何をしても構わないという占領者意識の表れであろう。

 スナイプ氏が言う「地位協定が機能」した例は幾つもある。

 2003年に起きた強盗致傷事件では、基地内で身柄を確保された米兵2人が拘禁施設に収容されず、基地内を行き来した。共犯者同士が証拠隠滅や口裏合わせできる状況を米軍自体が許していた。

 06年のタクシー強盗事件では、基地内で拘束された米兵2人の供述から、別の米兵1人の関与が分かったが、既に帰国した後だった。

 08年に金武町伊芸区で起きた被弾事件では、県警の立ち入り調査の実現に1年近くもかかった。当時の県警刑事部長が県議会答弁で地位協定が捜査の障害となったことを認めた。

 身柄引き渡しの拒否や基地内の排他的管理権という地位協定が実害をもたらしているのは明らかだ。基地内に駆け込めば逃げ得、証拠隠滅もやりたい放題である。地位協定は米軍関係者の犯罪を見逃す「機能」こそ果たしているが、「管理」できているとは言えない。

 スナイプ氏はこうも述べた。「軍人が全て悪いのか」と。

 罪を犯すのは米軍人の一部でしかないことは承知だ。県民は全ての軍人が悪いと言っているのではない。犯罪が繰り返される温床である地位協定を放置し、平和な生活を脅かす構造的差別に対してこそ、より激しい憤りがあるのだ。

 県議会は復帰後、地位協定改定を求める決議を30回可決した。党派を超えた全県民の要求だ。日米両政府はその重みを理解せず「運用改善」でごまかそうとしている。

 沖縄での差別を放置するなら解決策は一つだ。米本国でも県外でも構わない。在沖米軍基地を移すしか選択肢は残されていない。

 

占領意識と女性の人権(2016年6月12日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 「OCCUPY」という英語は「占領する・占拠する」を意味する。この英単語を見つけたのは、ベテランズ・フォー・ピースという退役軍人らの団体が、米軍属女性暴行殺人事件を受けて9日に発表した声明文の中だった

▼その単語は「沖縄はオバマ大統領が生まれる前から米軍に占拠されてきた」という一文にあった。基地の中から見える沖縄とは、米軍に「占領」された地なのだと改めて認識した

▼沖縄の住民からすると「沖縄の人の土地をわが物顔で使用している米軍」「もともとは自分たちの土地で一時的に貸している」というのが一般的な思いではないか。基地があまりにも日常となり過ぎて「占領されている」という認識は薄い

▼しかし今回のような痛ましい事件に直面すると「占領されている」と嫌でも意識せざるを得ない。沖縄で戦後ずっと続く米軍人・軍属による事件・事故は、そのような「占領意識」が根底にある

▼軍人による女性に対する性暴力は沖縄だけではない。太平洋戦争中、日本の占領下にあったフィリピン、第2次大戦末期のドイツなどでもあった

▼過去の歴史を見ると“占領軍”がいる限り、女性は「戦利品」の一つと見なされ、人権は守れない。戦後71年がたつ。その間、表沙汰にならず泣き寝入りしてきた女性たちの屈辱に思いをはせたい。事件に終止符を打つには基地撤去しかない。

 

6月11日

 

退役米軍人声明 米軍撤退主張を支持する(2016年6月12日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 沖縄は「テロの状況そのもの」という指摘は的を射ている。

 米国の退役米軍人でつくる「ベテランズ・フォー・ピース(VFP)」琉球沖縄支部が米軍属女性暴行殺人事件に対する声明を発表した。

 テロとは、被害者を無作為に選択することで、暴力による脅威を増幅させる手段と定義する。軍服の敵兵だけでなく誰でも標的になり得る。

 VFPは、今回の事件のように沖縄の被害者が無作為に選ばれるから「テロ的な状況」と指摘する。そして「日米両国が反テロ運動に取り組むのであれば、ここ沖縄から始めなければならない」と訴えた。つまり基地撤去である。退役軍人の主張だけに説得力がある。VFPの主張を支持する。

 県警によると、1972年の日本復帰後、米軍構成員(軍人、軍属、家族)による県内での凶悪犯罪は2013年を除き毎年発生している。県警の犯罪統計書や発表資料によると、米軍構成員による凶悪犯罪は1972年5月15日から2015年末までの間に574件発生し、741人が摘発された。

 このうち強姦(ごうかん)は129件147人。日本復帰後、毎年3人が被害に遭っている計算だ。件数より加害者数が多いということは複数による凶行が含まれることを示す。

 犯罪が起きるたびに米当局は「再発防止に努める」と繰り返す。そして日本政府は「軍人教育と綱紀粛正の強化」を求める。しかし犯罪は繰り返される。なぜか。

 VFPは「軍人教育と綱紀粛正」がジレンマを抱えているからだと分析する。軍隊は「良き隣人」訓練だけでは、実際の戦場で戦うことができない。そこで効果的な殺人者となる非公式な教育も受けている。

 専門家は、海兵隊では男性的な攻撃性を突出するために、徹底的に女性を蔑視する非人間的な訓練が行われ、人間としてのバランスを失っていくと指摘する。

 海兵隊で綱紀を粛正し非公式教育を担うのが海兵隊の3等軍曹(E5)だ。今回の女性暴行殺人の容疑者は元3等軍曹だった。VFPは「海兵隊教育と綱紀粛正」の文化こそ、今回の犯罪を生み出したと結論付けている。

 軍隊教育で犯罪の再発を防げず、沖縄の女性がテロの被害におびえるのはごめんだ。再発防止は海兵隊の撤退しかない。

 

6月10日

 

[元米兵再逮捕]沖縄の怒り もう限界だ(2016年6月10日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 うるま市の女性会社員(20)が遺体で見つかった事件で、県警特別捜査本部は9日、死体遺棄容疑で逮捕・送検していた元米海兵隊員で軍属の男(32)を、殺人と強姦(ごうかん)致死の両容疑で再逮捕した。容疑について「今は話せない」と認否を明らかにしていないという。

 特別捜査本部によると、男は、路上を歩いていた女性に背後から近づき、暴行を目的に、棒で頭を殴り、草地に連れ込んだ上、刃物で刺すなどして殺害した疑いがある。

 既に伝わっていた部分もあるが、改めて事件の内容が分かると、女性の人権を踏みにじる、むごたらしい犯罪に、悲しみと怒りがこみ上げてくる。

 基地あるが故の事件・事故が繰り返されてきた沖縄においても、極めて凶悪な事件である。

 今回の事件に対する県民の怒りは、全県的に広がっている。

 県議会が5月26日に抗議決議と意見書を可決したのに加え、県内41市町村の全議会が事件への抗議決議を可決する見通しとなった。

 議会決議は住民意思の表明である。既に決議したほとんどの議会が綱紀粛正や再発防止策の策定に加え、「日米地位協定の抜本的な見直し」を盛り込んでいる。「全基地閉鎖撤去」や「海兵隊の撤退」など、強い要求を入れた議会もある。

 綱紀粛正では、もはや根本的な解決にならないと受け止められている証しである。

■    ■

 在沖米軍は5月27日、県内に住む軍人・軍属やその家族に、基地の外での飲酒を禁じ、午前0時までの帰宅を義務づけると発表した。「喪に服するため」の1カ月間の措置だとした。

 ところが6月4日、米軍嘉手納基地所属の米海軍2等兵曹の女が酒に酔った状態で車を運転し、国道58号を逆走して軽乗用車と衝突する事故を起こした。2人にけがを負わせた。

 在沖米軍トップのローレンス・ニコルソン四軍調整官が会見で述べた「沖縄の人たちと共に喪に服し、悲しみを分かち合う」ことすら、徹底させるのは不可能なのだと露呈した。

 日本政府も、防犯パトロール隊の創設や警察官100人の増員、パトカー20台増車、防犯灯の設置などの対策をまとめた。一般的な犯罪抑止対策にはなりそうだ。だが、日米地位協定によって保護・優遇され、それが占領者意識を持つ素地となっている軍人・軍属に、実効性ある対策かどうかは疑わしい。

■    ■

 翁長雄志知事は、再逮捕を受けて「繰り返される事件・事故に県民の怒りは限界を超えつつある」とするコメントを発表した。

 米軍人・軍属による事件の抜本的な解決を図るため、日米両政府に日米地位協定の見直し、米軍基地の整理縮小など、過重な基地負担の軽減も改めて求めた。

 19日には、那覇市内で大規模な県民大会も予定されている。一人でも多くの人が参加し、両政府に沖縄の意思を示すときである。

 

詩人の川崎洋さんの作品「存在」(2016年6月1日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 詩人の川崎洋さんの作品「存在」の一節にある。〈「二人死亡」と言うな/太郎と花子が死んだ、と言え〉

▼一人ひとりはかけがえのない存在である。その死を無機質な数ではなく、命のぬくもりをまとった名前が大事なのだと説く

▼ニュースは実名報道が原則だが、例外的に匿名にする場合がある。少年法が保護する未成年や刑事責任能力がない人、乱暴された女性らである。書かれる人の名誉やプライバシー、遺族感情を傷つけないかが考慮されている

▼日本新聞協会で匿名報道をめぐる研究会があった。沖縄での痛ましい暴行殺人事件も取り上げられた。匿名によって、事件の「痛み」がかすむのではないか。落ち度のない被害者の名を伏せることが、逆に尊厳を傷つけることにならないか。議論となった

▼深い悲しみや怒りで混乱する遺族の動揺を思う時、配慮する気がまさる。被害者の無念に寄り添い、存在を記憶に刻むには名前がよりどころになる。議論に一理あっても、実名か匿名か簡単に割り切れる問題ではない

▼「平和の礎」に刻まれた名前を見れば、戦争に進む社会であってはならないと思う。自死遺族や心病む人、認知症の人らが近年、偏見を拒み存在を受け入れる社会を求めて名乗り出ている。「名前」の問題は社会のありようが深く関わる。難しさを痛感する

 

米軍属再逮捕 基地内の捜査権を認めよ(2016年6月10日配信『琉球新報』−「社説」)

 

米軍基地内で日本の警察が捜査権を十分に行使できない異常事態を放置する政府の姿勢は、主権国家として許されない。日米地位協定の改定に直ちに取り組むべきだ。

 米軍属女性遺棄事件で、県警は死体遺棄容疑で逮捕していた元米海兵隊員で軍属の男を、殺人と強姦(ごうかん)致死の容疑で再逮捕した。

20歳の女性が命を奪われた事件は新たな段階を迎えた。ここに至るまで、県警の捜査は常に日米地位協定の壁が障害になってきたことを見落としてはならない。

 県警が容疑者を逮捕したため、取り調べや身柄引き渡しなど、日米地位協定上の支障はなかったように見える。しかし、実態は違う。容疑者は米軍基地内で証拠隠滅を図った可能性があるにもかかわらず、基地内では直ちに捜査権を行使することができないのだ。

 県警は「遺体をスーツケースに入れて運んだ」という容疑者の供述に基づき、うるま市内の最終処分場で数点のスーツケースを押収した。この処分場は米軍基地の廃棄物を処理している。容疑者はキャンプ・ハンセン内でスーツケースを投棄した可能性がある。

 捜査の過程で県警が基地内での容疑者の足取りを把握しているならば、基地内の捜査は不可欠だ。

 ところが、日米地位協定は基地内での米国の排他的管理権を認めている。米側の同意がない限り、日本の警察は立ち入りできない。2008年12月の金武町伊芸区被弾事件では県警の立ち入り調査の実現に1年近くもかかった。

 米軍基地を治外法権のように規定し、米軍人・軍属の特権を認める日米地位協定が基地に絡んだ犯罪の元凶であることは誰の目にも明らかだ。しかし、今回の事件でも日本政府は日米地位協定の改定を米側に求めず、運用改善で幕引きを図ろうとしている。

 政府の対米従属姿勢はここに極まっている。新基地建設問題では「抑止力維持」を名目に辺野古移設に拘泥する一方で、県民の生命に関わる日米地位協定の欠陥には手を付けようとはしない。これでは国民の安全を守るべき責務を政府は放棄していると断じざるを得ない。

 事件に抗議して、那覇市で開かれる19日の県民大会は日米地位協定の抜本的改定を要求することになろう。主権国家を標榜(ひょうぼう)するならば、政府は県民の要求を受け止め、実行に移すべきだ。

 

6月9日

 

「Yナンバーの車には気をつけて」(2016年6月9日配信『南日本新聞』−「南風録」)

 

種子島や奄美大島でなじみ深い国道58号は、鹿児島市の中央公民館前が起点だ。幹線とはいえ、のんびりした離島の道路も、終点の那覇市付近では交通量も多い。

 沖縄を訪れた際に知人から「Yナンバーの車には気をつけて」と忠告された。運転が荒く、事故になるとやっかいだという。Yナンバーは米軍関係者の自家用車に付けられている。

 沖縄の女性遺棄事件は、痛ましいとしかいいようがない。容疑者の米軍属の男は、きょうにも殺人容疑などで再逮捕される。犯行に使われた車もYナンバーだった。基地があるがゆえに、繰り返される犯罪に胸が痛む。

 南日本文学賞の選考委員を務めた沖縄の作家大城立裕さんは1967(昭和42)年、「カクテル・パーティー」で芥川賞を取った。高校生の娘を米兵に暴行された父親が、不利と分かりながら裁判に踏み切る内面をえがいた小説だ。

 4年前に復帰40年で取材をした際、大城さんは静かに話した。「日本国憲法体制になれば、米兵の治外法権はなくなると思っていた。ところが改善されず、小説を書いたころと変わっていない」

 遺棄事件を受け綱紀粛正策が出されたにもかかわらず、米兵が飲酒運転事故を起こした。米軍の特権を認める日米地位協定の抜本的な見直しはいつまでたっても実現しない。鹿児島で同じ国道58号を走りながら、基地負担に苦しむ沖縄に思いをはせる。

 

米兵の免責示談提示 地位協定の改定しかない(2016年6月9日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 日米地位協定の欠陥がまた露呈した。

 神奈川県横須賀市で2006年に起きた米兵の男による強盗殺人事件で、米政府が遺族らに対し米兵に「永久の免責」を条件とする示談を申し入れ、遺族らがこれを拒否している。

 日米地位協定の規定で、公務外で事件、事故を起こした米兵本人に支払い能力がない場合、米政府が慰謝料を支払う。米政府が提示した額は男が日本の裁判所に命じられた賠償額の約4割にすぎない。それで免責せよとは到底、納得できない。

 事件は日本で発生した。本来なら米政府は、日本で確定した賠償額を支払うべきだ。もしくは日本政府が合意の上で、米軍を駐留させているのであるから、補償は日米両政府が責任を負うべきだ。

 日米地位協定に伴う民事特別法は、米兵の公務中の犯罪や事故などの不法行為で生じた損害は、日本の国家公務員によるものと同様、日本政府が賠償責任を負うと規定している。公務外の不法行為は基本的に米兵個人が責任を負うが、支払い能力がない場合が多い。そこで米政府が慰謝料を支払うが、今回のように半額に満たない場合、差額は「日本政府が払うよう努力する」よう運用改善することで合意している。しかし、これは努力規定でしかない。

 大切な命を奪われた上に、裁判で確定した賠償額も受け取れない。このように、日米地位協定は被害者側を守らない。運用改善ではなく、米兵の公務外の犯罪や事故は、米政府が全額支払うよう改定すべきだ。一時的に日本政府が全額補償し、それを米政府に請求するように改定する方法もある。

 米軍基地が集中する県内は今回と同様の事例が発生している。例えば06年に沖縄市で発生したタクシー強盗致傷事件の場合、実刑判決を受けた米海兵隊員2人が約2800万円の損害賠償を命じられたが支払わず、米政府が13年に見舞金約200万円の支払いによる示談を提示した。裁判までいかず、米軍側の裁定による額で示談させられている事例は多い。

 刑事事件の身柄引き渡しと同様、公務外の損害賠償問題など日米地位協定は、多くの欠陥を内包している。事件の被害者になっても補償さえ受けられないのではたまらない。一日も早く地位協定を抜本改定するよう日米両政府に求める。

 

公民権運動(2016年6月9日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

きょう6月9日は数字の語呂合わせで「ロックの日」だ。1950年代以降、急速に広がったが、もとは自由を求める運動の側面も色濃い

▼日本でも心に響く曲は少なくない。「生まれた所や皮膚や目の色でいったいこの僕の何がわかるというのだろう」。人気ロックバンド、ザ・ブルーハーツの曲「青空」は被差別者の公民権運動を想起させる。「運転手さんそのバスに僕も乗っけてくれないか」と続く

▼アフリカ系米国人の公民権運動は公営バスから始まった。「白人専用・優先席」に座ったアフリカ系女性が席を譲らず、罰金刑を受けた事件に抗議する運動が広がった

▼3日に死去した元ボクサーのムハマド・アリ氏も運動の象徴だった。「黒人」を理由にレストランでの食事を拒まれたことに抗議し、ローマ五輪で取った金メダルを川に投げ捨てた

▼基地問題を巡る沖縄の要求も公民権運動に近い。日米地位協定改定、在沖米海兵隊の撤退、全基地撤去などは人間の尊厳の平等を求めているとも言えよう。本土で基地に反対すれば「優先席」に座れるが、沖縄は座れない

▼「青空」はこうも歌う。「こんなはずじゃなかっただろ?/歴史が僕を問いつめる/まぶしいほど青い空の真下で」。米軍絡みの事件事故が絶えない沖縄。悲劇を強いられた先人たちの声が聞こえる気がする。「沖縄差別はもう終わらせよう」と。

 

6月8日

 

連帯責任(2016年6月8日配信『岩手日報』−「風土計」)

 

在日米海軍は当面の間、全兵士を対象に基地内外での飲酒を禁止。自由行動も厳しく制限するという。沖縄県内で米軍属や兵士の犯罪が相次ぎ、日米同盟に深刻な影響が懸念されるからだ

▼連帯責任という発想は、日本人にはなじみ深い。近い例ではプロ野球。所属選手の不祥事では、球団の責任にも議論が及ぶ。選手と球団の契約関係が徹底する米大リーグとは、かなり趣が違う

▼13選手が出場停止処分を受けた2013年の薬物スキャンダルでも、糾弾されたのはあくまで選手個人。報酬分の期待が裏切られたなどと、球団が選手に損害賠償を求める可能性すらあると聞く

▼米海軍の対応は、組織と個人の関係で日本的な発想に立ったものと推察される。そう考えればなおのこと、兵士や軍属一人一人に今回の措置の意味を諭し、理解させることが実効性のカギを握るだろう

▼米軍が、日本人に分かりよい形で理解を得ようと努めるときに、日本の政治家の言動は庶民の常識外。弁護士の力を借りた東京都知事の弁明は、要するに「不適切だが違法ではない」。「後は都民の判断に任せたい」と言う

▼現金授受問題で、不起訴となった途端に活動を再開した前経済再生担当相もしかり。大臣室でのやり取りなど、自身の疑惑は「不適切だが違法ではない」と顔に書いてある。なめられていないか。

 

沖縄の米軍 綱紀粛正がむなしく響く(2016年6月8日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 沖縄県では米軍関係者による事件や事故が後を絶たず、その都度綱紀粛正や防止策が打ち出されてきた。

 掛け声だけなのか。元海兵隊員で米軍属の男による女性遺棄事件に続き、こんどは海軍に所属する女が飲酒運転で事故を起こして逮捕された。国道を逆走して車2台と衝突、けが人を出している。

 遺棄事件によって米軍が基地や自宅以外での飲酒を禁止する綱紀粛正策を実施していたさなかである。海軍の女は男性兵士の自宅で酒を飲み、捕まったときには泥酔状態だったという。

 在日米海軍は国内すべての兵士を対象に基地の内外を問わず、飲酒を即時禁止した。

 沖縄では「飲酒を禁止するだけでは問題の解決にならない」と効果を疑問視する声が出ている。小手先の対応では県民の不信感を強くするだけだ。甘く考えていると言わざるを得ない。

 飲酒事故の翌日、5日に投開票された沖縄県議選は、日米が強引に進める米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する候補が過半数を維持した。事件が相次いだことで怒りが増幅し、選挙結果にも反映したとみられる。

 移設反対の立場を堅持する翁長雄志知事は選挙後、外務省の沖縄担当大使と会談し「綱紀粛正や再発防止を何十年間にわたり何百回も聞かされた。むなしい」と心情を吐露した。事件が繰り返される現状には「(外務・防衛省に)当事者能力があるとは思えない」と苦言を呈している。

 一方、安倍晋三首相は飲酒事故に関し「誠に遺憾であり、言語道断」と批判した。言葉は強いけれど、沖縄の民意と正面から向き合う気はないようだ。

 米軍関係者に特権的な身分を認める地位協定については、既に日米の防衛当局間で本格的な見直しをしない方向で一致している。辺野古移設も県議選の結果に左右されないとの姿勢だ。とても県民が納得するとは思えない。

 移設に反対する沖縄の政党や企業でつくる「オール沖縄会議」は19日に女性遺棄事件に抗議する大規模集会を開く。

 1995年の少女暴行事件後に開かれた県民総決起大会は、翌年の日米両政府による普天間返還合意へとつながった。

 今のままでは、米軍基地がある限り被害が続くとの思いが県民の間で強まるだけだろう。日米は地位協定の改定や基地縮小など、沖縄の人々が肌で感じられる負担軽減に踏み切るべきだ。

 

[大弦小弦]米軍基地が集中する本島中部地域(2016年6月8日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 米軍基地が集中する本島中部地域。どこでも米軍関係者をみかける。運転中、飲食、ビーチ、通りを歩けばすれ違う。そんな日常の風景は、米軍関係者による事件・事故が起きても変わっていない

▼女性遺体遺棄事件を受け、在沖米軍は「哀悼を示す期間」として1カ月間、外出制限と基地外での禁酒措置を講じた。「罰ではなく、被害者と家族へ深い哀悼を示し、沖縄の住民として責任を確認する」ためだ

▼その期間中、米海軍兵が飲酒運転し、国道を逆走する事故が起きた。「同僚宅で飲み、帰る途中だった」と話しているという。「哀悼を示す」期間だけにあきれる

▼「完全に県民をばかにしている」「米軍の綱紀は緩みっ放しだ」。相次ぐ事件・事故に米軍基地周辺の自治体の首長らが発した怒りは、県民の思いを代弁するには十分だ

▼日常の生活を脅かされた事故の被害者と変わらない日常を過ごす米兵。この違いは何か。「基地あるがゆえ」の構図を変えなければ、同じことが繰り返されることは過去から学んできた

▼在日米海軍は基地内外での飲酒を禁じた。再発防止策、綱紀粛正、遺憾…。聞こえのいい言葉を並べても、安心・安全の担保にはならない。命や人権が日常的に脅かされている状況が続く異常さを、日米両政府はあらためて直視すべきだ。

 

6月7日

 

[今度は海軍に禁酒令]地位協定に手を付けよ(2016年7日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 在日米海軍は6日、日本に駐留するすべての海軍兵に対し、基地内外での飲酒を禁じ、勤務時間外の行動についても自宅と勤務先の往復などに制限する服務規律の見直しを発表した。

 嘉手納基地所属の海軍兵が酒酔い運転の容疑で逮捕された事件を受けての緊急対策である。

 「全面飲酒禁止」は異例で、再発防止への決意がにじむ重い判断に見えるが、当面の間、海軍に限った措置である。これまで繰り返された綱紀粛正策に照らせば「ほとぼりが冷めるまで」の弥縫(びほう)策にしか映らない。

 元海兵隊員で軍属の男による女性遺体遺棄事件を受け、在沖米軍は先月27日、軍人・軍属らに対する基地外での飲酒や深夜0時以降の外出禁止策を決めた。6月24日までの約1カ月間を「喪に服する」期間とすることも強調している。

 今月3日、政府の犯罪抑止対策推進チームは、警察官100人の増員や車両100台のパトロール隊などの設置を決めた。

 そして今回。在日米海軍は全兵士に飲酒禁止を指示したのである。

 日米両政府から矢継ぎ早に打ち出される再発防止策は、沖縄の怒りが地位協定の改定にとどまらず、全基地撤去の運動へとつながるのを恐れてのことだろう。

 しかし、これら対策が実効性のある恒久対策になり得ないことは、過去の事例をひもとけばすぐに分かる。  

■    ■

 2012年、本島中部で起きた2米兵による女性暴行事件の際、米軍は外出時間や飲酒の規制を盛り込んだ「リバティー制度」を設けた。ところが14年に規制が緩和されると、飲酒運転で逮捕される米兵が相次いだ。

 観光客の女性がホテルで暴行された事件を含め、昨年から今年にかけて那覇市内で頻発した米兵関係の事件は、中北部に比べ憲兵や上官の「監視が緩い」ことが背景にあげられた。

 事件を受け今度は、那覇での宿泊が禁じられた。いたちごっこである。

 海軍兵による酒酔い運転事故も、米軍自らが定めた哀悼期間に起きている。綱紀粛正策は1週間余りで破られた。

 ドーラン在日米軍司令官は、今回の服務規律の見直しに当たり「米軍兵士は国の代表として最も高い水準の規律を維持することが求められている」と話したが、飲酒の全面禁止自体、「良き隣人」政策の破綻というしかない。

■    ■

 日米双方から示された三つの再発防止策に県民が冷ややかなのは、いずれ時間がたてば緩和され、事件・事故が再び繰り返されることを経験則として知っているからだ。

 遺体遺棄事件後、共同通信社が実施した全国世論調査で、7割を超える人たちが地位協定の改定を支持している。

 米軍関係者が地位協定によって守られ、優遇され、それが占領者意識を温存させ、再発防止を妨げているのは明らかである。

 両政府の対策には、その最も大事な部分が抜けている。

 

飲酒米兵国道逆走 これが「喪に服す」の実態だ(2016年6月7日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 嘉手納基地所属の米海軍兵が酒に酔った状態で嘉手納町水釜の国道58号を逆走し、2台の軽自動車と次々に衝突し、男女2人に重軽傷を負わせた。

  「綱紀粛正」の掛け声に何ら実効性がないことをあらためて証明した格好だ。一方でこれは、沖縄では何度も繰り返されてきた、いわば日常の光景でもある。

  精神論を語るだけでは時間の無駄だ。戦後70年が過ぎた。もう、本当に効果のある対策を講じるべきときだ。

  自分たちは特権に守られており、米軍基地内に逃げ込めば日本側に逮捕されず、証拠隠滅も可能だ。そんな意識がふらちな行動を招いているのは想像に難くない。

  捜査に関わる特権を米軍人・軍属から剥奪するよう、日米地位協定を抜本改定すべきだ。全米軍基地に国内法を適用し、基地内での全ての捜査を可能にすべきだ。

  現場は沖縄最大の国道の、なおかつ見通しが良く、速度が出やすい地点だ。そんな場所で逆走する車に出くわした恐怖はいかばかりか。逮捕された米兵からは基準値の6倍ものアルコールが検知されている。死者が出なかったのが不思議なくらいだ。

  容疑者は「読谷村内の友人宅で酒を飲んだ」と供述している。米軍属女性遺棄事件を受け、在沖米軍が基地外での飲酒を30日間禁じる措置を講じてから1週間ほどしかたっていない。米軍の言う「喪に服す」とは、この程度である。

  日本政府は米軍犯罪対策として、警察官の増員やパトカーの増強を掲げたが、噴飯物だ。事件事故を防ぐというより、起きた事件事故の処理に当たることになろう。これで抑止策とは、もはや笑い話だ。

  安倍晋三首相はこの事故を「言語道断だ」と述べたが、うわべの言葉だけ厳しくても、実効性がなければパフォーマンスにすぎない。

  沖縄での米軍絡みの事件事故を本気でなくすなら、地位協定改定より期待できる対策がある。沖縄への基地集中をやめることだ。

  3月の女性暴行、4月の覚せい剤取締法違反、5月の遺棄、今回と続いてきた。だが復帰後、米軍絡みの事件は昨年末までで5896件もある。今回の事件も、いわば約6千分の1にすぎないのだ。

  1県だけにこれほど被害を集中させるのは、あまりに理不尽と言うほかない。政府が真剣に向き合うべきなのは、その差別性だ。

 

特別な痛みを共有する月(2016年6月7日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

 6月は沖縄にとって特別な痛みを共有する月です。日米の激しい地上戦によって県民の4人に1人が犠牲になった沖縄戦。その6割近くが6月以降に命を落としているのです

▼沖縄本島に米軍が上陸した4月1日以降、住民を巻き込んだ戦闘は凄惨(せいさん)を極めました。5月末、ついに日本軍の司令部が置かれた首里に星条旗が掲げられます。事実上の決着。しかし泥沼の戦場は、さらに悲惨さを増していきました

▼南部彷徨(ほうこう)。本土防衛のために持久戦を選んだ日本軍によって、住民たちは降り注ぐ米軍の砲弾と雨の中、行き場を失いさまよいます。NHKの沖縄戦全記録では、わずか1日で5500人が亡くなった日も

▼県民の命を削りながら戦闘を引き延ばした日々。23日の「慰霊の日」をはじめ、沖縄の6月はその痛みがよみがえります。71年後の忘れられない月。沖縄では県議選がたたかわれ、またもや新基地建設ノーの民意が示されました

▼元米海兵隊員が乱暴目的で女性を襲い、暴行を加えて遺体を捨てたと供述した事件。生々しい感情が渦巻く中、飲酒運転による衝突や大麻事件といった米兵、軍属の犯罪が相次ぎます。いくら綱紀粛正や防犯強化を叫んでも基地があるかぎり解決はしません

▼安倍政権は相も変わらず「辺野古が唯一の解決策」とくり返しています。いまわしい記憶とともに地の奥までしみ込んだ沖縄の痛み。それは、米軍基地が居座る今も。悲しみと怒りの島に平和を取り戻すため、県議選の勝利を参院選へとつなげたい。

 

6月5日

 

米軍犯罪対策 的外れの政府に失望した(2016年6月5日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 期待はしていなかったが、あまりにも的が外れた米軍犯罪抑止対策には失望するしかない。県民の生命・財産を守るのに、政府は全く当てにならないことが分かった。

  政府の対策は主に4点だ。(1)非常勤職員による100台規模の車両でのパトロール(2)警察官100人とパトカー20台の増強(3)一括交付金などによる防犯灯や防犯カメラ設置(4)国、県、自治体などによる協議機関設置−が柱となっている。

  政府は警察力と監視によって米軍関係者の犯罪を抑止できると考えているようだが、県民の感覚とは埋め難いほどの距離がある。

  県民が求めているのは、国内法の適用除外など米軍関係者を特権的に扱う日米地位協定の改定であり、沖縄からの全基地撤去、あるいは基地の整理・縮小だ。こうした抜本的対策こそが県民の願いである。それは本紙と沖縄テレビ放送が5月30日〜6月1日に実施した世論調査で明確に示されている。

  さらに犯罪の背景として、米海兵隊の新人研修がある。沖縄蔑視や差別、占領者意識丸出しの研修文書によって、海兵隊員は沖縄社会を見下すよう刷り込まれる。

  研修文書で自らを「保護者」と位置付け、駐留国への敬意もない軍人らが街中を自由に行動する。事件を起こしても基地内に逃げ込めば、地位協定が守ってくれる。これら構造的問題を放置し、どこが「犯罪抑止対策」と言えるのか。

  今後、政府の対策が始まっても実効性には疑問がある。

  大量の警察官養成が間に合うのか不透明な上、防犯灯などの運用費は地元自治体にさらなる財政負担を強いる可能性もある。

  防犯カメラは、犯罪発生後に容疑者を特定するために威力を発揮する場面もあるが、抑止効果は未知数だ。防犯カメラが住宅街などにも設置されれば、県民監視社会ではないかと危惧する声もある。

  国は常々、外交と安全保障は国の専管事項と言う。しかし米軍属女性遺棄事件後、政府が地位協定改定、基地撤退・縮小などを米側に求めたことはない。政府は外交の当事者としての資格すらない。

  そもそも米軍関係者の犯罪は、基地がなければ起こり得ない。小手先の対策を机上で練るよりも、政府は地位協定改定といった抜本的な解決策に踏み込むべきだ。できないのであれば「沖縄に寄り添う」などと二度と言うべきでない。

 

感覚のずれは異常(2016年6月5日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

そこまでして彼らにいてほしいのか。沖縄県うるま市での、元米海兵隊員が20歳の女性の命を奪った事件を受けて、政府が3日に発表した「犯罪抑止」策を見て、強い憤りを覚えました

▼警察官を増やす、地域の防犯=いわゆる青パトを増やす、防犯カメラや街路灯を増やす…どれもこれも、諸悪の根源である米軍の存在を前提にした対症療法でしかありません。しかも沖縄県全域でそのような対策を強化するなど、ほとんど不可能です

▼さらに驚いたのは、学校で防犯教育を充実させる、というものです。一体、どんな教育をするのでしょうか。「米兵は怖い人たちだから近づかないように」と教えるのでしょうか

▼政府は今回の事件がどのように発生したのか、本当にわかっているのか。容疑者は公道でウオーキングしていた女性を背後から突然、棒で殴り、首を絞め、ナイフで刺したと言います。このような凶悪犯罪から身を守るために、学校で教えられることなどありません

▼第2の基地県・神奈川の黒岩祐治知事は「根本的な解決にはならない」と批判しました。地元紙、琉球新報の世論調査では、「再発防止策」として、県民の4割超が「全基地撤去」を望みました。基地あるがゆえの事件・事故だから、当然の意見です

▼それでも政府と自公両党は、この「犯罪抑止」策を成果であると考え、参院選沖縄選挙区での訴えの目玉にしようとしています。この感覚のずれは異常です。米軍とともに、彼らの支配も取り除かなければなりません。

 

6月4日

 

激しい怒り一色(2016年6月4日配信『日本海新聞』−「海潮音」)

 

 倉吉図書館で沖縄の地元紙・琉球新報を読んだ。20歳の女性会社員が米軍属に暴行を受け、遺体で発見された。この事件が現地でどのように報道されているか−。紙面は予想以上に激しい怒り一色に染まっていた

◆「繰り返される悲しみ」「我慢も限界」。沖縄の戦後70年史は、米軍関係者の事件事故の繰り返しの歴史である。矛先は“治外法権”の色濃い日米地位協定に向かう。「特権温存図る日米」「沖縄の慟哭(どうこく)聞こえるか」

◆本土に訴えかける記事も多い。「国土面積0・6%の沖縄に全国の74%の米軍専用施設が集中する」「他国の軍隊がこれほど大量かつ長期に、小さな島に駐留し続けることが問題の淵源(えんげん)だ」。この実態を多くの国民に知ってほしい、という悲痛な叫びだ

◆報道本部長の特別評論には頭を殴られたような衝撃を覚えた。「“負担軽減”の文言を繰り返すだけの無策の末、新たな犠牲者を生み出した日米両政府は、まぎれもなく第2の容疑者」。さらに「私たちには、子や孫の世代に新たな犠牲者を出す構造を断ち切る責務があり、“第3の容疑者”になることを拒む」と書かれていた

◆日本の安全のために米軍基地が必要ならば、いつまで沖縄だけに犠牲を強いるのか。他人事だと思っていると、私たちも第4の「容疑者」のそしりを免れない。

 

[政府の再発防止策]具体性なく実効性疑問(2016年6月4日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 元海兵隊員で米軍属による女性遺体遺棄事件を受け、政府は「沖縄県における犯罪抑止対策推進チーム」の会合を首相官邸で開き、再発防止策を決めた。5月26日の初会合に続く2回の会合での決定である。

 柱となる対策は二つ。

 一つは警察官100人とパトカーを20台増やし、事件・事故が起きた場合の初動対応とパトロールを強化する。

 もう一つは沖縄総合事務局が非常勤職員を採用し、車両100台規模の「沖縄・地域安全パトロール隊」を組織。青色回転灯をつけて繁華街をはじめとする必要な場所をパトロールする。

 だが、具体的中身となるとはっきりしないことが多い。

 警察官増員の時期も決まっていない。そもそも何を根拠に100人と見積もったのか。沖縄県警が採用するのか、別の都道府県から派遣されるのか。一定期間に区切った増員なのか。予算はどこから出るのか。政府側は「できるだけ速やかに」としか言わない。不可解である。

 地域安全パトロール隊についても今月中に約20台で発足するという。総合事務局など国の機関が所有する車両の使用を想定しているようだが、永続的に続けるのか。非常勤職員の規模はどれくらいで予算は内閣府から出るのか。昼夜パトロールだけをするのか。別業務も受け持つのか。不透明である。

 警察官の増員や地域安全パトロール隊は、辺野古新基地建設や東村高江のヘリパッド建設をにらんだものではないのかとの疑いも消えない。

■    ■

 米軍人・軍属の事件・事故は基地あるが故である。

 県議会では女性遺体遺棄事件に対する抗議決議と意見書を全会一致で可決したばかりである。在沖米海兵隊の撤退、基地の整理・縮小、日米地位協定の抜本改定−などを求めている。

 県議会で退席した野党も、在沖米海兵隊の大幅な削減、基地の整理・縮小、日米地位協定の抜本改定などを党本部に要請している。

 多くの県民が求めているのは、0・6%の国土面積に米軍専用施設の74%を集中させるという極端な米軍基地のあり方をただし、事件・事故の土壌となっている不平等な日米地位協定を抜本的に改正せよ、ということである。

 与野党が一致し、県民が求めるこれらの問題に踏み込むことなしに、付け焼き刃の再発防止策をいくらうたってみても実効性を持たない。

■    ■

 政府はなぜ、いま具体的な中身が固まっていない再発防止策を打ち出したのか。

 環境整備として防犯灯や防犯カメラを増設することも盛り込んでいるが、どこにどれだけ設置するかも「決まっていない」という。

 県議選の投開票が5日に迫っている。参院選も22日公示、7月10日投開票の日程が決まった。

 県議選を重視する官邸が関係省庁に再発防止策づくりを急がせたのではないかとの疑念が拭えず、沖縄の実情を知らない霞が関の官僚が机上でつくったプランであるとしか思えない。

 

軍属事件世論調査 民意は全基地撤去だ 臨界点超えた沖縄の世論(2016年6月4日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 もはや沖縄の世論は臨界点を超えたと言ってよい。

  米軍属による女性死体遺棄事件を受けた琉球新報と沖縄テレビの世論調査では、事件事故を防ぐため「沖縄からの全基地撤去」を望む意見が43%と最も多かった。2番手の「在沖米軍基地の整理縮小」27%を引き離している。

  海兵隊をどうすべきかという問いには「全面撤退」が53%と過半数を超え、「大幅に減らすべきだ」の32%をはるかに上回った。

  従来言われた「基地の整理縮小」ですら生ぬるいという民意の表れだ。沖縄はもはや全基地撤去、海兵隊全面撤退を望むという次の局面に移ったと言える。

 特権の剥奪

  国策による犠牲を強いられるのは、もうたくさんだ。植民地扱いは許さない。数字を子細に点検すれば、そういう民意の表れだと分析できよう。

  日米地位協定に関する質問への答えが象徴的だ。「根本的改定」が45%と最も多く、「全面撤廃」も34%にも上る。「運用改善」は15%にとどまり、「現状のまま」は3%でしかない。

  軍人や軍属に特権を与える地位協定の抜本改定、全面撤廃を求めるのは、すなわち特権を剥奪せよということだ。裏を返せば、沖縄戦から続く軍事植民地扱いを根本から改めよということであろう。

  もっと端的に表れているのが安倍晋三首相に関する項目である。日米首脳会談で首相が普天間飛行場移設をめぐって「辺野古が唯一」と述べたのに対し、「支持しない」が71%と圧倒的な高さに達した。「支持する」は7%にすぎない。10倍もの不支持は、国策だから従えと言わんばかりの、安倍政権の姿勢に対する明確な「ノー」の意思表示なのである。

  その辺野古移設に関しては、「国外移設」が32%と最多で、「即時閉鎖・撤去」が29%、「県外移設」が23%と続く。三者合わせて現行計画反対は84%にも及ぶ。「辺野古移設を進めるべきだ」は9%にすぎない。

  これは、仲井真弘多前知事の埋め立て承認直後に行った2013年12月の県民世論調査よりもなお強い意思表示だ。あの時、県外・国外・無条件撤去の合計は74%だった。今回はそれを10ポイントも上回っているのである。13年段階で「辺野古移設」は16%だったから、移設容認はほぼ半減した。

  2年半を経てこの結果だ。前回も前知事の承認劇への瞬間的な反発などではなかったのだ。辺野古移設反対の民意がいかに底堅いかの表れだ。このどこをどう見れば、民主主義国の首相が「辺野古が唯一」と口にできるのだろう。

 対照的な安保観

  興味深いのは日米安保条約に対する意見だ。「平和友好条約に改めるべきだ」が最も多く、42%に上る。「破棄すべきだ」の19%が2番目に多い。次も「多国間安保条約に改めるべきだ」の17%で、現在の日米安保条約を「維持すべきだ」はわずか12%しかない。

  昨年の共同通信の全国世論調査では、日米安保条約と日米同盟について、「維持」と「強化」の合計は86%に達していた。今回の県民世論とはあまりに対照的だ。

  安保条約は、すなわち米軍基地を日本に置くことを意味する。その維持・強化とは、基地を今の規模のまま置き続けるか、あるいはもっと基地を増やすか軍事機能を強化するかのいずれかしかない。

  平和友好条約と安保の違いは、外国の軍隊を置くか置かないかだ。基地を押し付けられている沖縄では、現行安保をやめるよう8割の人が切望しているのに対し、本土は、沖縄に基地を集中させたまま、基地の維持・強化を9割近くが望んでいるのである。

  日本が安保条約を結んだ時、沖縄は日本ではなかった。今も否定の意思表示は明確だ。沖縄は、いかなる意味でも結果責任を負わない。その沖縄が安保の結果を押し付けられているのである。何と植民地的な光景だろうか。

 

米軍「綱紀粛正」策(2016年6月4日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

沖縄蔑視では犯罪なくならぬ

 元米海兵隊員の軍属による「女性遺体遺棄事件」を受け、在沖縄米軍が「哀悼」期間(先月27日から30日間)に入っています。米兵に加え軍属らを対象に深夜の外出制限、基地外での飲酒禁止など「綱紀粛正」策が実施されていますが、過去幾度となく行われてきたものとほとんど変わりません。翁長雄志沖縄県知事は在沖縄米軍トップのニコルソン4軍調整官に直接、今回の「綱紀粛正」策の実効性に疑問を示しています。さらに、海兵隊が沖縄着任の兵士に県民蔑視の研修をしていたことまで明らかになっています。事件の「再発防止」とは程遠いのが実態です。

県民を誹謗中傷する研修

 「県民は戦後何十年間、何百回も抗議してきた。(犯罪の)再発防止につながるか、県民は残念ながらうつろな気持ちで聞いている」―。翁長知事はニコルソン4軍調整官に対し、今回の「綱紀粛正」策について県民がむなしさを感じていることを率直に指摘しました(先月28日の電話会談)。

 米軍の「綱紀粛正」策に何ら実効性がないことは、これまでの米軍の事件・事故をめぐる沖縄の歴史で証明済みです。しかも、わずか30日間の実施期間が終われば深夜外出も飲酒も野放しです。

 加えて、今回の「綱紀粛正」策が発表される直前、在沖縄海兵隊が沖縄着任の兵士らに県民を蔑視する研修を行っていたことが判明し、米軍への怒り、不信はますます高まっています。

 問題の研修の内容を明らかにしたのは、「沖縄文化認識トレーニング」と題した研修用のスライド資料(在沖縄海兵隊作成)です。イギリス人ジャーナリストが米国の情報公開請求で入手しました。

 資料には、沖縄県民の世論について「論理的というより感情的。二重基準。多分に『責任転嫁』」と侮蔑の言葉が並んでいます。

 「県民は一般的に限られた情報しか持っておらず、情報を得るための努力をしない」と見下し、沖縄の地元紙について「内向きで視野が狭く、反軍事のプロパガンダ(宣伝)を推進している」「反軍事の目標を持つメディアによって増幅された特定の出来事が世論のバランスを大きく変え得る」と中傷を繰り返しています。

 沖縄の政治についても「米軍基地問題を多くの地方政治・国政の問題に関する『てこ』として利用している。主として中央政府からますます多くの補助金を受け取るためだ」と誹(ひ)謗(ぼう)しています。さらに「多くの沖縄県民にとって、軍用地料が唯一の収入源で、彼らは基地の返還を望んでいない」と事実無根の記述まであります。

 まさに「上から目線の最たるもの」(翁長知事)であり、海兵隊内に今なお占領者意識がはびこっていることを示しています。

基地撤去こそが最も有効

 いくら「綱紀粛正」「再発防止」と繰り返してみても、沖縄県民蔑視の「教育」を行っていれば、犯罪がなくなるはずがありません。

 翁長知事はニコルソン4軍調整官に「根本的な問題は国土面積の0・6%の沖縄に74%の在日米軍専用施設があることだ。負担軽減は日米地位協定の見直しを含めた議論でなければならない」と強調しました。基地の大幅縮小・撤去と、米軍に特権を保障する日米地位協定の改定こそ、最も有効な「再発防止」策に他なりません。

 

6月2日

 

米軍属の薬物起訴 これが「綱紀粛正」の実態だ(2016年6月2日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 何度繰り返された光景だろう。「綱紀粛正」の、これが実態だ。

  覚せい剤取締法違反や大麻取締法違反の容疑で米軍属の男ら4人が逮捕・起訴された。逮捕は4月上旬だ。3月には米海軍兵による女性暴行事件があり、事件直後、在沖米四軍調整官は「良き隣人・良き市民であるため、できる限りのことをする」と約束した。その言葉からわずか3週間での逮捕だった。

  「再発防止」の掛け声がむなしい。覚醒剤などの薬物は、使用して錯乱した人が罪を犯すこともある。4人の住所はいずれも沖縄市の市街地で、市民が平穏に暮らせるはずの地域だ。そんな場所で、錯乱するかもしれない薬物が持ち込まれ、使われていたのである。

  この種の事件を機に米軍の沖縄偏在が糾弾されると、決まって持ち出されるのが「犯罪率は県民より米軍が低い」という話だ。

  確かに彼らの起訴率は県民平均より低い。だが米軍人・軍属は1週間の大部分を基地内で過ごす。その間の犯罪は日本側には見えない暗数だ。当然、起訴率に含まれない。比較するなら基地内の全犯罪を公開した上ですべきだ。

  さらに言えば、基地外で起こした事件もほとんどが日米地位協定の壁で逮捕できないから、基地内での証拠隠滅や口裏合わせも可能だ。日米合同委の秘密合意により、よほど重要でない限り米軍人・軍属の犯罪は起訴しないという密約もある。起訴率は、これらの困難をくぐり抜けて辛うじて起訴できた数字にすぎないのだ。

  復帰から昨年末までの米軍人・軍属の検挙件数は5896件で、殺人・強姦(ごうかん)などの凶悪犯だけでも574件ある。この数字、米軍専用基地のない33府県は例年ほぼゼロが並んでいるはずだ。沖縄に74%もの専用基地が集中するから、多くの県でゼロで済む犯罪が、これほど押し付けられているのである。これが差別でなくて何なのか。

  米国内で軍人にインタビューした辛淑玉(シンスゴ)氏によると、彼らは「沖縄では何をしても裁かれないことを知っている。だってパスポートを持って入るのではないからね」と語っていたそうだ。地位協定で守られているという意識が犯罪を容易にしている事情がうかがえる。

  だとすれば基地内の強制捜査を可能にするよう地位協定を改定すべきだ。基地集中の是正、撤去がもっと有効なのは言うまでもない。

 

5月31日

 

地位協定改定要求 政府は対米折衝に踏み出せ(2016年5月31日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 安倍政権が専管事項と言い張る外交に関する問題であろうと、米国に強大な権限を与え過ぎて日本の主権が制約され、基地周辺住民の生活が脅かされ続ける。

  そのような卑屈でいびつな状況を改めねばならないという、多数の国民の思いが示された。

  在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定を巡り、共同通信社の全国世論調査で「改定するべきだ」との回答が71%に上った。安倍政権は国民の声を真摯(しんし)に受け止め、抜本的改定を求める対米折衝に踏み出すべきだ。改定を求めないことには、これまで通り何も変わらないのだ。

  米軍属の凶行に対する怒りを呼び起こした女性遺棄事件を受け、県内には日米地位協定改定要求が強まっているが、国民全体の考えもほぼ符号している。

  日米首脳会談で、安倍晋三首相はオバマ大統領に地位協定改定を求めず、腰が引けた対応に終始した。オバマ氏も同意し、日米両政府は運用改善で済まそうとしている。だが、何を改善するのかさえ示されず、全く具体性に欠けている。改定しないのであれば、お茶を濁すことにさえならない。

  米兵事件が起きるたびに沸き起こる改定要求に対して、日本側が「ゼロ回答」を繰り返す卑屈な対応はもう許されない。

  安倍政権は沖縄の怒りが収まるのを待っているかのようだが、国民世論は決して納得していない。米国に唯々諾々と従うばかりの外交姿勢に批判を強めているのだ。

  基地周辺住民の人権や生活環境が軽んじられ、米軍最優先の基地運用が続く中で被害者が生み出されている。この悪循環の根源は地位協定にあることは明白だ。

  世論調査結果を見ると、「改定するべきだ」が安倍政権支持層でも67%に達しているのが特徴だ。不支持層は81・9%に上る。与党の自民支持層でも65・7%、公明支持層は75・5%である。広範な世論と言える数値だ。

  日米地位協定は、軍人、軍属ら米軍構成員に特権意識を与えてきた。公務外に基地外で起こす事件でも、凶悪犯以外は基地内に逃げ込めば、すぐに日本側に身柄が引き渡されない。

  米軍基地返還時に汚染が見つかっても、米側が浄化する責務さえ課していない。米国に屈従し、主権国家と名乗ることさえはばかられる。戦後71年たっても続く異常極まる状況を断ち切るべきだ。

 

5月30日

 

遺体遺棄事件の被害女性の通夜を忘れない(2016年5月27日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 遺体遺棄事件の被害女性の通夜を忘れない。祭壇でほほ笑むドレス姿の遺影、かわいがっていたうさぎのぬいぐるみ、そして白いひつぎ。どんな日常、前途が20歳で奪われたのかを物語っていた

▼親族の女性は泣きながら報道陣に訴えた。半数以上いた本土の記者はどう聞いたか。「どうか、この基地だけは、どこかに持って行ってください。見えない所へ。手の力で持てなくても、心で持って」

▼翌日、私は祖母の一周忌で京都にいた。寺のカエデの緑葉が陽光に輝いていた。紅葉しなくても美しいことを知った。軍事でなく観光が目的の外国人が行き交う。つまり、別世界だった

▼京都の暮らしでは、殺人訓練を積んだ元海兵隊員に突然襲われることも、米軍ヘリが大学に墜落することも想定されない。「人権が、あるよね」。沖縄出身の妻がそう言い、本土出身の私はうなずくことしかできなかった

▼祖母は大正生まれ。戦争をくぐり抜け、本土で90歳の天寿を全うした。孫が沖縄で働き始めても、なかなか足が向かなかった。「申し訳なくてねえ」。沖縄は遊びに行く所ではなかった

▼沖縄に犠牲を強いてきた自覚は、戦中派には色濃かった。その世代も少なくなった。事件の衝撃、基地を押し付けてきた責任。どちらもまるで関係なさそうに続く本土の日常が、やるせなかった。

 

5月29日

 

[四軍調整官会見]問題続出 もはや限界だ(2016年5月29日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 女性の遺体を遺棄した疑いで元海兵隊員の軍属が逮捕されたことを受け、在沖米軍トップのローレンス・ニコルソン四軍調整官は、キャンプ瑞慶覧で記者会見した。

 犠牲者への哀悼の意とともに、明らかにされたのは綱紀粛正策である。

 27日から6月24日まで約1カ月、県内に住む軍人に対し、基地の外や自宅の外での飲酒を禁じ、午前0時までの帰宅を義務づけた。軍属に対しても同様の綱紀粛正を求めている。

 「異例の対応」には違いないが、これ以外の再発防止策や、より踏み込んだ綱紀粛正策には、触れていない。「喪に服するため」の当面の措置という位置づけだ。この程度の再発防止策を示して県民の怒りが収まるなどということは、あり得ない。

 復帰後も、いやというほど事件が繰り返されてきたのはなぜなのか。この事実は、軍内部の性犯罪防止策では再発防止が不可能なことを示している。ニコルソン調整官は会見で、県などから改善策の提案があれば再発防止策の見直しも検討するとの考えを示したが、対策が手詰まり状態にあることを認めたようなものである。

 過去に起きた米軍関係者の事件と再発防止策を丁寧に検証し、再発を防げなかった理由も含め検証結果を報告書の形で沖縄県と国会に提出すること。四軍調整官を参考人として県議会に招き、海兵隊の入隊から訓練形態、日常生活に至るまで、を聞くこと−そのような大胆な対応策を検討する時期が来た。

■    ■

 こうした取り組みは犯罪抑止に一定の効果をもたらすと思われるが、それだけではまだ足りない。

 2012年10月、仲井真弘多知事は、森本敏防衛相に会い、米海軍兵士による集団強姦(ごうかん)致傷事件に強く抗議した。その年の8月にも強制わいせつ容疑で海兵隊員が逮捕されるという事件があったばかり。仲井真知事は「正気の沙汰ではない」と強く抗議し、地位協定の改定を求めた。

 今回の事件で安倍晋三首相に会った翁長雄志知事も「日米地位協定の下では、米国から日本の独立は神話だと言われている気がする」と述べ、地位協定の改定を求めた。

 地位協定の見直しを求める声は、政治的立場を超えた「県民の声」だといっていい。

 米軍関係者は日米地位協定によってさまざまな面で保護され、優遇されており、それが占領者意識を温存させ再発防止を妨げているのは明らか。海兵隊が集中していることも再発防止を難しくしている要因の一つだ。

■    ■

 在沖米海兵隊が新任兵士を対象に開く研修は、再発防止策の一つでもあるはずだが、研修に使われた資料は、県民に対する蔑視感情や抗議団体・地元メディアに対する感情的決めつけなどがちりばめられた内容だった。

 ここにも地位協定によって与えられた「特権的地位」が顔をのぞかせている。資料は今も使われているのか。これが海兵隊の公式見解なのか。海兵隊は早急に事実関係を明らかにすべきである。

 

県民蔑視研修文書 根深過ぎる占領者意識だ(2016年5月29日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 組織に入る新人たちに、配属地の歴史や文化を学び、顧客やその地で暮らす住民に敬意を抱き、社会人らしく振る舞うよう促す。それは、新人教育の基本だろう。

 ところが、事件・事故を起こし続け、県民生活を脅かしている在沖米海兵隊は全く逆だった。

県民への敬意どころか、沖縄社会を見下し、差別と蔑視が網羅された文書に基づき、新人を研修していた。反省なきままに、事件が拡大再生産される温床にはこの県民蔑視がある。研修の検証を求めている県は、海兵隊の居直りを許してはならない。

具体的な記述はこうだ。

戦後71年に及ぶ過重負担について、県民が「犠牲・差別」「基地は経済発展の阻害要因」と主張するのを物語呼ばわりしている。

 「外人パワーを発揮し、許容範囲を超えた行動をしてしまう」。外国人は異性にもてはやされ、兵士たちに女性が寄ってくるという偏った意識を植え付ける表現だ。海兵隊員らが牙をむく性被害が後を絶たない要因にもなっていよう。

琉球新報など県内2紙に対し、「内向きで狭い視野を持ち、反軍事を売り込む」と記す。報道が誘導して反基地の世論が形成されていると決め付ける短絡的思考には、民度が高い県民の思いの深層をくむ感性はみじんもない。

「海兵隊員の血であがなって獲得した沖縄の支配者は米国」という占領者意識が今なお息づき、ゆがみ切った対沖縄観が根深い。

米軍絡みの事件・事故が起きるたびに、米軍や日米両政府は再発防止に向けた常套(じょうとう)句のように「兵員教育」を挙げてきた。だが、独善の極みである海兵隊は組織の体をなしておらず、再発防止の主体と見なすことをやめた方がいい。

この文書をめぐる県民の反応は、驚きを通り越してあきれ果てるか、不祥事が断ち切れない欠陥組織の真の姿が露見したと冷静に受け止めるか−の2通りだろう。そして、海兵隊は沖縄から出ていくべきだという思いを強めていよう。

米軍属女性遺棄事件を受け、在沖海兵隊トップのニコルソン四軍調整官は1カ月間の基地外飲酒禁止を課すと発表し、哀悼の意を表した。だが、沖縄蔑視文書の破壊力を前にすると、「綱紀粛正」の文言はむなしく響く。

在沖海兵隊は、辛うじて理解を得ていた層からも見放される自壊行為を重ねている。

 

5月27日

 

日米首脳会談/地位協定の抜本改定を急げ(2016年5月27日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 「遺憾の意」「再発防止」−。沖縄で米軍関連の事件が起きるたび、何度も発せられてきた言葉が今回も繰り返された。県民にはむなしく響いたのではないか。25日夜行われた安倍晋三首相とオバマ米大統領との首脳会談である。

 安倍首相は、沖縄で米軍属が逮捕された女性遺棄事件について「断固抗議」した。オバマ大統領は「心からのお悔やみと深い遺憾の意」を表明し、再発防止に全力を尽くすことを約束した。日米地位協定の運用改善を図ることでも一致したという。

 安倍首相はオバマ大統領に猛省を促す強硬な態度を演出して、強まる反米軍基地感情の火消しをもくろんだのだろうが、逆に火に油を注ぐ結果になったのではないか。抜本的な対策を示さず、口先だけと受け止められたからだ。

 沖縄県の翁長雄志知事は、これまで求めてきた日米地位協定の改定に言及がなかったことに反発。「前進があったとは感じない。修飾語を増やして乗り切ろうとしている」と失望感をあらわにした。

 沖縄にとって、地位協定は喉元に突き刺さったトゲだ。日米安保条約に基づき、在日米軍の法的地位や基地の管理・運用を定めている。1960年の発効後、一度も改定されたことがない。

 事件や事故を起こした軍人らが「公務中」と判断されれば、第1次裁判権は米側にある。「公務外」の犯罪であっても米軍側が容疑者の身柄を確保していれば、起訴するまで日本側に引き渡さなくてもよいことになっている。

 95年に起きた米兵の少女暴行事件を機に、殺人などの凶悪事件では米側が起訴前の身柄引き渡しに「好意的配慮を払う」ことで合意。その後は運用改善で対処してきた。ただ、決定権は米側にあり、さじ加減次第となりかねない。

 今度の事件は、県警が公務外の容疑で軍属を逮捕したため地位協定には絡んでいないが、沖縄ではこうした「特権」を許しているからこそ、米軍関連の犯罪が後を絶たないとの声が圧倒的だ。

 日本側に不利な協定の見直しが会談のテーブルに乗らなかったことは、沖縄県民には「対米追従」と映った。「今の協定下では日本の独立は神話だ」と語る翁長知事の思いは当然だろう。運用改善といった小手先の対応ではなく、もう日米が協定の抜本的見直しを進めるべき時期だ。

 沖縄県民の怒りは燎原(りょうげん)の火のごとく広がっている。県議会はきのう、地位協定の抜本的改定などを求める意見書を可決した。きょう告示される県議選の結果にも大きく影響するだろう。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡る反対運動もいっそう燃え上がるに違いない。

 国土のわずか0.6%の土地に在日米軍の7割以上が集中している沖縄。本土復帰以降、5800件を超す米軍犯罪が起きている。犯罪以外にも米軍機墜落、騒音被害、交通事故…。

 政府が「外交・安全保障は国の専権事項」と強弁するだけでは、沖縄の根深い問題は解決できないだろう。基地の整理縮小、分散移転を含めて、わが事と受け止めたい。

 

「過去の過ちを繰り返さぬように」(2016年5月27日配信『北海道新聞』−「河北春秋」)

 

第2次世界大戦中、ハワイ・オアフ島に日系人や捕虜が強制収容された施設があった。ハワイ出身のオバマ米大統領は昨年、「過去の過ちを繰り返さぬように」と、この場所の「国定史跡」指定を自ら推し進めた

▼米国史のタブーとされる人種差別と広島・長崎への原爆投下。国として謝罪をしない代わり、それらがあの戦争の記憶と共にオバマ氏の心の傷みとなって刻まれている。そんなふうにも思える

▼きょう夕方、現職大統領として初めて広島の地を踏む。平和記念公園で献花した後、何を語るのか。そのスピーチに世界が注目している。ロシアとの核軍縮交渉が停滞したまま任期半年となった人と知っているのに、である

▼米の歴史学者がこう言っている。「米国が支持するのは過去の悪に向き合いそれを乗り越える能力。これは夢かもしれないが、闘うに値する夢である」。平和を願う多くの人がオバマ氏の提唱する「核なき世界」の夢に懸け、長い闘いを決意した日。5.27。それは広島からしか始まらない

▼慰霊碑のそばでは被爆者の方々が見守っていることだろう。ぜひ、言葉を交わしてほしい。資料館の展示も見てほしい。スピーチの草稿は決まっているのかもしれないが、オバマ氏の内に万言があふれ出るはずだ。それを聞きたい。

 

日米首脳会談/地位協定の抜本改定を急げ(2016年5月27日配信『河北新報』−「社説」)

 

 「遺憾の意」「再発防止」−。沖縄で米軍関連の事件が起きるたび、何度も発せられてきた言葉が今回も繰り返された。県民にはむなしく響いたのではないか。25日夜行われた安倍晋三首相とオバマ米大統領との首脳会談である。

 安倍首相は、沖縄で米軍属が逮捕された女性遺棄事件について「断固抗議」した。オバマ大統領は「心からのお悔やみと深い遺憾の意」を表明し、再発防止に全力を尽くすことを約束した。日米地位協定の運用改善を図ることでも一致したという。

 安倍首相はオバマ大統領に猛省を促す強硬な態度を演出して、強まる反米軍基地感情の火消しをもくろんだのだろうが、逆に火に油を注ぐ結果になったのではないか。抜本的な対策を示さず、口先だけと受け止められたからだ。

 沖縄県の翁長雄志知事は、これまで求めてきた日米地位協定の改定に言及がなかったことに反発。「前進があったとは感じない。修飾語を増やして乗り切ろうとしている」と失望感をあらわにした。

 沖縄にとって、地位協定は喉元に突き刺さったトゲだ。日米安保条約に基づき、在日米軍の法的地位や基地の管理・運用を定めている。1960年の発効後、一度も改定されたことがない。

 事件や事故を起こした軍人らが「公務中」と判断されれば、第1次裁判権は米側にある。「公務外」の犯罪であっても米軍側が容疑者の身柄を確保していれば、起訴するまで日本側に引き渡さなくてもよいことになっている。

 95年に起きた米兵の少女暴行事件を機に、殺人などの凶悪事件では米側が起訴前の身柄引き渡しに「好意的配慮を払う」ことで合意。その後は運用改善で対処してきた。ただ、決定権は米側にあり、さじ加減次第となりかねない。

 今度の事件は、県警が公務外の容疑で軍属を逮捕したため地位協定には絡んでいないが、沖縄ではこうした「特権」を許しているからこそ、米軍関連の犯罪が後を絶たないとの声が圧倒的だ。

 日本側に不利な協定の見直しが会談のテーブルに乗らなかったことは、沖縄県民には「対米追従」と映った。「今の協定下では日本の独立は神話だ」と語る翁長知事の思いは当然だろう。運用改善といった小手先の対応ではなく、もう日米が協定の抜本的見直しを進めるべき時期だ。

 沖縄県民の怒りは燎原(りょうげん)の火のごとく広がっている。県議会はきのう、地位協定の抜本的改定などを求める意見書を可決した。きょう告示される県議選の結果にも大きく影響するだろう。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡る反対運動もいっそう燃え上がるに違いない。

 国土のわずか0.6%の土地に在日米軍の7割以上が集中している沖縄。本土復帰以降、5800件を超す米軍犯罪が起きている。犯罪以外にも米軍機墜落、騒音被害、交通事故…。

 政府が「外交・安全保障は国の専権事項」と強弁するだけでは、沖縄の根深い問題は解決できないだろう。基地の整理縮小、分散移転を含めて、わが事と受け止めたい。

 

信頼修復 十分ではない/日米首脳会談(2016年5月27日配信『東奥新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相は主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)出席のため来日したオバマ米大統領と会談し、沖縄県で20歳の女性の遺体が遺棄され、元米兵が逮捕された事件について「断固抗議する」と申し入れた。大統領は再発防止に全力を挙げると表明した。

 だが首相は会談で、沖縄県が求めている在日米軍の法的な地位を定めた日米地位協定の見直しについては提起せず、沖縄の米軍基地に関しても「負担軽減に全力で取り組む」としただけで具体策には踏み込まなかった。これを受け沖縄県の翁長雄志知事は「前進があったとは感じない。大変残念だ」と批判した。

 首相は日米同盟が外交・安保政策の「基軸」だとしているが、同盟関係を支えるのは沖縄だけでなく日本全国にしっかりと根を張った信頼関係だろう。事件によって損なわれた信頼の修復には、ほど遠い会談内容だったと言わざるを得ない。

 日本政府としては、沖縄の事件を厳しく受け止める姿勢を強調する狙いがあっただろう。大統領が到着した直後の夜に首脳会談を設定した。出席者を絞った少人数会合で首相は、沖縄の事件を集中的に取り上げたという。

 しかし、沖縄県民の怒りは、事件のたびに「再発防止と綱紀粛正」が約束されながら事件が繰り返されてきた実態にある。翁長知事は「何百回も何十年間も聞かされてきたが現状は何も変わらない」と指摘する。

 地位協定は日米安保条約に基づき駐留する米軍と軍人・軍属らの法的な扱いなどを定める。司法手続きなどが日本に不利な内容だとして改定を求める声があるが、1960年の発効以来、運用の改善だけで改定は行われていない。

 今回の事件で逮捕された元米兵は米空軍嘉手納基地に勤務しており「軍属」に当たる。日本の警察が逮捕し、捜査に支障は生じていないものの、翁長知事は「特別の協定に守られている」ことが事件発生の土壌になっていると主張する。沖縄県選出の参院議員である島尻安伊子沖縄北方担当相も抜本的改定が必要だと言明している。

 会談後の記者会見で安倍首相は「改善を具体化し、地位協定のあるべき姿を不断に追求していく」と述べたが、改定を交渉する考えはないということだろう。事件の与える影響の深刻さを十分認識しているのか、疑問だ。

 

日米地位協定 運用改善では済まない(2016年5月27日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 日米両政府と沖縄との考え方の隔たりを改めて浮き彫りにする首脳会談だった。

米軍属の男が逮捕された女性遺棄事件を巡り、オバマ大統領は再発防止を約束した。しかし、沖縄が改定を求める日米地位協定については、運用改善を図る方針が示されただけだ。これでは、とても納得は得られない。

会談は、伊勢志摩サミットのため来日した日の夜に行われた。安倍晋三首相は事件について「断固抗議する」とし、オバマ氏は哀悼と遺憾の意を表明した。当初、翌日の朝に想定していたのを前倒しした。迅速な対応をアピールしたかったのだろう。

 翁長雄志知事は先ごろ首相との会談で地位協定の抜本見直しなどを要請していた。首脳会談後の記者会見を受けて「オバマ大統領と直接会話する機会をつくってほしいとの私の希望や、地位協定の見直しに言及しなかったのは、大変残念だ」と述べている。

 協定は、日米安全保障条約に基づき、在日米軍の法的地位などを定めたものだ。1960年の発効後、一度も改定されていない。軍人や軍属が事件、事故を起こした場合、「公務中」と判断されれば原則的に米側に第1次裁判権があるなど、特権を与えている。

 日米両政府はこれまでも重大な問題が起きるたびに運用の改善で対応してきた。

 95年の米兵による少女暴行事件の後には、殺人などの凶悪犯罪について起訴前の身柄引き渡し要求に米側が「好意的考慮を払う」との改善で合意した。決定権は米側にあり、問題はなお残る。

 今回の事件では、身柄引き渡しなど協定による問題は生じていない。容疑者は基地の外に住んでいたため、沖縄県警が任意で事情を聴き、逮捕した。米側は容疑者が公務外だったと判断し、日本の刑事手続きに委ねている。

 だからといって沖縄の主張を聞き流すことはできない。犯罪の背景には、協定による特権意識があるのではないか。

 沖縄県議会は事件に抗議する決議と意見書を可決した。米海兵隊の撤退、米軍普天間飛行場の県内移設断念などとともに、協定の抜本的見直しを要求している。

 来月には、大規模な県民大会が那覇市で開かれる予定だ。米軍が再発防止を約束しても凶悪事件は繰り返されてきた。政府が小手先の対応で済ませようとすれば、米軍撤退を求める声はさらに高まるだろう。不公平な協定の改定を米側に要求すべきだ。

 

(2016年5月27日配信『信濃毎日新聞』−「斜面」)

 

〈大衆は断言を求めるので証拠は求めない〉。フランスの作家アナトール・フランス(18441924年)の警句だ。こう続く。〈大衆に対しては、いかにしてとか、どんな具合にとか言ってはならない〉

    ◆

 鹿島茂著「悪の引用句辞典」から引いた。このところの政治家の物言いが思い浮かぶ。日米首脳会談で沖縄県の米軍属による女性遺棄事件をめぐり、安倍晋三首相はオバマ大統領に「断固抗議した」。「実効的な再発防止策と厳正な対応」も求めたそうだ

    ◆

 大統領は「再発防止に全力を挙げる」と応じた。だが何にどう取り組むか具体策は示していない。「沖縄県民の安全確保を徹底するための対策づくりを官房長官に指示した」(首相)というが、米軍の特権を認める日米地位協定を見直すつもりはないらしい。県民を侮っていないか

   ◆

 糸満市にある「魂魄(こんぱく)の塔」は敗戦後、最初に建てられた慰霊塔だ。沖縄戦で逃げ惑い、島南部に追い詰められた人々が米軍の銃弾にさらされ犠牲になった。敗戦の翌年、野ざらしになっていた無数の遺骨を住民が集め、石を積み上げた。無念が眠っている

   ◆

 沖縄は魂に深い傷を刻まれている。戦後も米軍基地があるゆえの女性を狙った犯罪が絶えない。癒えるどころか傷を負い続けている。魂が発する憤りだ。口先の政治決着で火消しをしようとすれば、燎原(りょうげん)の火のごとく燃え広がるだろう。

 

日米首脳会談 地位協定なぜ改定できぬ(2016年5月27日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 悲劇を二度と繰り返さぬため、米軍の法的地位などを定めた日米地位協定の改定を行うべきだ。

 安倍晋三首相はオバマ米大統領と会談し、沖縄県で米軍属が逮捕された女性遺棄事件について抗議し、再発防止を求めた。だが翁長雄志(おながたけし)知事が求めた地位協定の改定は提起しなかったとみられる。

 オバマ氏は「日本の司法制度の下で正義の追及を阻むものではない」と述べるにとどまった。

 両首脳の発言は、沖縄の県民感情から懸け離れていると言わざるを得ない。

 地位協定では、米国の軍人や軍属が公務中に事件や事故を起こした場合、米側に1次裁判権があると定める。

 公務外の場合、日本側に裁判権がある。ただし、容疑者が基地内に駆け込み米軍が身柄を拘束すると、日本側は起訴するまで基本的に身柄の引き渡しを受けられない。米軍に協力を求め、任意捜査をするしかない。

 今回の事件は、公務外の行為に対する容疑なので、米側に身柄を引き渡す必要はない。容疑者は基地の外に住んでいた。地位協定上の問題は生じていない。

 だが、地位協定は基本的に米側を守る内容だ。軍人や軍属による犯罪が絶えない一因と指摘されている。沖縄側が改定を求めるのは当然である。

 日米地位協定は1960年の発効後、一度も改定されていない。日本との協定を改定すれば、軍隊を駐留させている他国との協定にも波及しかねないためだ。

 日本政府も米国の立場に配慮して、改定ではなく運用改善で対応してきた。

 95年の米兵による少女暴行事件後には、殺人などの凶悪犯罪に限り、起訴前の身柄引き渡しについて、米側が「好意的な考慮を払う」ことになった。

 だが、2002年に起きた米兵の強姦未遂事件で、日本側の身柄引き渡し要請を米側は拒んだ。「好意的な考慮」の基準は曖昧で、米側の裁量に委ねられている。

 沖縄県では95年以降も米兵による凶悪犯罪が13年を除き、毎年発生している。

 今年3月には那覇市のビジネスホテルで女性観光客が暴行される事件があったばかりだ。

 運用の改善だけで凶悪犯罪の再発を防止するのは限界がある。地位協定を抜本的に見直すことが必要である。

 翁長知事は今回の事件を受け、安倍首相に「米軍基地があるが故の犯罪だ」と強く抗議した。沖縄県の過重な基地負担を軽減することも急務だ。

 戦後70年以上を経ても、国土面積の0・6%の沖縄県に在日米軍専用施設の74%が集中している。

 だが、安倍首相は日米首脳会談で宜野湾市の米軍普天間飛行場について名護市辺野古移設が唯一の解決策との認識を改めて示した。

 日本政府は沖縄の米軍を安全保障上、不可欠だと強調する。しかし、県民は米軍による事件や事故の危険に常にさらされていると言っても言い過ぎではない。日米両政府は目をそらしてはならない。

 

サミットと沖縄 実効性のある対策を打て(2016年5月27日配信『福井新聞』−「論説」)

 

最大約7万人の警察官を動員し厳戒の中で始まった伊勢志摩サミットと、米軍属が逮捕された沖縄県の女性遺棄事件を巡る日米首脳会談。いずれも重要な協議だが、目指す「実効性のある」成果をたぐり寄せたとはいえない。むしろ抱えている問題の根深さが浮き彫りになった。安倍政権は参院選を前に実績を積み上げ、政権浮揚を図る演出を試みるが、逆に政策遂行の困難性が露出してきた。

 先進7カ国(G7)首脳によるサミット最大のテーマは世界経済のリスク対応である。安倍晋三首相は持続的成長へ向けG7のリーダーシップ発揮を訴えた。具体策として金融政策、財政出動、構造改革の三つを総動員する「G7版三本の矢」を打ち出し、首脳宣言に盛り込まれる見通しだ。

 焦点の財政出動を巡っては、首相が欧州歴訪で事前調整を図ってきたが、財政規律を重視するドイツなどは慎重姿勢を堅持。各国の経済情勢を踏まえた政策判断を尊重する内容で決着した。これでは当たり前の政策にすぎず、新味に欠けると言わざるを得ない。

 むしろ注目すべきは首相が世界経済の認識に関し「リーマン危機前の状況に似ている」と述べ、対応を誤れば危機に陥るリスクがあると指摘したことだ。

 だが、果たして適切な認識だろうか。中国を含め世界経済の悲観材料は減少、状況は年初より上向いてきている感もある。一部の首脳から疑問視する意見が出たのも当然であろう。

 首相の発言は明らかに来年4月予定の消費税再増税を意識している。「リーマン・ショックや大震災のような事態が起きない限り、再増税を延期しない」と言い続けてきた首相だ。議長特権を生かした増税回避と財政出動による新たな経済対策への「布石」、絶好の下地作りではないか。

 アベノミクス効果がはく離し、増税約束を守れなくなった政策の行き詰まりをG7で覆い隠すような手段は議長国としてどうか。

 もう一つの難題。沖縄県での女性遺棄事件を巡る日米首脳会談で、首相は「断固抗議する」と強い調子で実効的な再発防止策と厳正な対応を求めた。オバマ大統領も「深い遺憾の意」を表明、再発防止に全力を挙げるとしたが、双方とも在日米軍の法的な地位を認めた日米地位協定の見直しには踏み込まなかった。

 首相の言う「目に見える改善の着実な具体化」「協定のあるべき姿」とは何を指すのか。地位協定はドイツ、イタリア、韓国など米軍駐留国で結ばれている。

 だが、米軍に対する法令の適用や基地管理権、航空管制権、環境保全など他国にある権利が日本にはなく、不平等性が1960年の発効以来、多方面から指摘されている。

 多発する米軍人・軍属の性犯罪などもこの不平等からくる「日本軽視」が根底にあるのではないか。協定の不条理性に向き合わず対米従属姿勢を続ければ、沖縄の悲劇はまた繰り返されるだろう。政府は基地の整理・縮小どころか、移設による米軍機能の維持拡大を図ろうとしている。首相は軽々に「寄り添う」と言うべきではない。もう沖縄に小細工は通じない。

 

日米と沖縄 切実な声をなぜ伝えぬ(2016年5月27日配信『朝日新聞』−「社説」)

  

 「厳正な対処」を強く求める安倍首相。「日本の捜査に全面的に協力する」と約束するオバマ米大統領――。

 沖縄県で起きた米軍属による死体遺棄容疑事件から6日。県民の不信が渦巻くなかでの日米首脳会談は、抗議と遺憾の言葉のやりとりとなった。

 だがそれで、米軍が絡む凶悪犯罪がなくなるだろうか。県民が背負わされてきた過重な基地負担が解消されるだろうか。残念ながら、そうは思えない。

 まず問題なのは、沖縄県の翁長雄志知事が求めた日米地位協定の改定を、安倍首相が提起しなかったことだ。会談後の共同記者会見でも首相は「地位協定のあるべき姿を不断に追求していく」と述べるにとどめた。

 確かに今回は公務外の容疑で県警が逮捕したため、地位協定上の問題は発生していない。

 だが、米軍関係者による事件が絶えない背景には、いざとなれば基地に逃げ込めば地位協定が守ってくれる、という特権意識があると指摘されてきた。

 例えば公務外の容疑で、米側が身柄を押さえた場合でも、日本側に引き渡す。いまは米側の「好意的配慮」に委ねられている運用を明文化する改定につなげれば、犯罪を防ぐ効果も期待できよう。

 地位協定は米軍にさまざまな特権を与え、米側は改定には否定的だ。だからといって改定を口にしようとしない首相の姿勢は、及び腰に過ぎないか。

 もう一つの問題は、首相が首脳会談で、米軍普天間飛行場の移設について「辺野古移設が唯一の解決策であるとの立場は変わらない」と伝えたことだ。

 耳を疑うのは、その首相が共同記者会見で「米軍再編にあたっても、沖縄の皆さんの気持ちに真に寄り添うことができなければ、前に進めていくことはできない」と語ったことだ。

 辺野古移設に反対する沖縄の民意は、度重なる選挙結果に表れている。基地の県内たらい回しが米軍絡みの犯罪の防止につながらないことも明らかだ。

 首相が県民の気持ちに「寄り添う」思いは多としたい。ならば、首相が大統領に伝えるべきは、普天間の県外・国外移設を求める県民の切実な声と、辺野古移設の断念ではないか。

 現状を放置すれば、日米関係の不安定な状態は続くだろう。

 米軍関係者による犯罪は、重大な基地被害であり、人権侵害である。日本復帰から44年がたっても、その重荷は沖縄県民に押しつけられている。その理不尽と不平等をどうすればいいのか。日本全体が問われている。

 

日米首脳会談 沖縄には届いていない(2016年5月27日配信『毎日新聞』−「社説」)

  

 これでは沖縄と日米両政府の溝は、埋まらないだろう。

 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先だち、安倍晋三首相とオバマ米大統領が慌ただしく会談した。

 沖縄県で起きた米軍属による死体遺棄容疑事件に区切りをつける狙いがあったと見られるが、県民の怒りを鎮めるには不十分な内容だった。

 首相は共同記者会見で「断固抗議した」「実効的な再発防止策など厳正な対応を求めた」と、強い表現で憤りや米国への抗議を語った。

 米軍普天間飛行場の移設計画を含めた米軍再編については、「沖縄の皆さんの気持ちに寄り添うことができなければ、前に進めていくことはできない」と話した。

 どれも首相の言う通りなのだが、問題は沖縄の人々に響いているかどうかだ。

 これまでも首相は「沖縄の気持ちに寄り添いながら、できることはすべて行う」とたびたび語ってきた。

 けれども実際には、安倍政権は辺野古移設で一貫して沖縄に強圧的な態度を取り続けてきた。会談で、首相は基地の整理・縮小について「辺野古移設が唯一の解決策との立場は変わらない」と説明したという。

 それで「寄り添う」と言われても、県民はにわかに信用できまい。

 一方、オバマ大統領からは、謝罪ではなく「深い遺憾の意」が表明され、捜査への全面協力や再発防止徹底の方針が示されたにとどまった。

 沖縄県が求める日米地位協定の改定が会談で取り上げられることはなく、これまで通り必要に応じて運用改善していくことが確認された。

 地位協定の改定とて、決して抜本的な解決策ではない。それでも、米軍人・軍属が公務外で罪を犯した場合、米側の裁量に左右されずに、日本側が起訴前に身柄拘束できるよう協定を改定すれば、今よりも犯罪を減らす効果はあるだろう。強制力のない運用改善では不十分だ。

 深夜に及んだ記者会見、両首脳が語る強い非難の言葉などは、両政府の危機感をかもし出してはいる。

 しかし、内容の乏しさを考え合わせれば、これらはサミットやオバマ大統領の広島訪問、沖縄県議選、参院選への影響を回避するための政治的な演出のようにも見えてくる。

 会談では、世界経済、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、北朝鮮の核開発、海洋の安全保障、難民対策なども話し合われた。

 日米が世界に負う責任は重く幅広い。だがその同盟関係は、今回のように一つの事件で揺らぎかねないもろい構造を抱えている。同盟を強化するためには、対症療法でなく、沖縄の過重な基地負担の問題に根本的に取り組むしかない。

 

日米首脳会談 「綱紀粛正」に頼る限界(2016年5月27日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 沖縄県で起きた元米海兵隊員の軍属による女性遺棄事件。日本側は米側に「綱紀粛正」を求めているが、日米地位協定を改定し、沖縄の米軍基地を削減しなければ、真の再発防止策とはなり得ない。

 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)開幕に先立ち、25日夜に行われた日米首脳会談。約50分間の会談前半に行われた少人数会談は、すべての時間が沖縄県での事件に費やされた、という。

 安倍晋三首相はオバマ米大統領に「身勝手で卑劣極まりない犯行に憤りを覚える」と伝えた上で「実効的な再発防止策の徹底など厳正な対応」を求めたが、具体的に何を指すのかは不明だ。

 日本政府はこれまでも、米兵や米軍基地に勤める軍属による事件や事故が起きるたびに、米軍側に綱紀粛正や再発防止を求めてきたが、今回の事件は、その抑止効果に限界があることを示す。

 事件や事故を起こしても米軍基地内に逃げ込めば、地位協定に守られる。こんな特権意識が凶悪犯罪を誘発していると、沖縄県民の事件を見る目は厳しい。

 1955年に県内で起きた少女暴行事件を受けて、殺人、強姦(ごうかん)の凶悪事件に限って起訴前の身柄引き渡しに米側が「好意的配慮を払う」よう運用が改善されたが、身柄引き渡しはあくまでも米側の判断であり、拒否した例もある。

 米兵らの特権意識が犯罪や事故を誘発すると指摘される状況を解消するには、運用改善では限界がある。翁長雄志知事をはじめ沖縄県側が切実に求めているにもかかわらず、首相はなぜ、地位協定の改定に踏み込まなかったのか。

 沖縄県には在日米軍専用施設の約74%が集中する。日本国民たる沖縄県民の命と平穏な暮らしを守るには米軍施設の大幅削減が急務だが、日米両政府は、県民の抜本的な基地負担軽減にはつながらない米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への「県内移設」が、「唯一の解決策」であるとの立場を変えようとしない。

 首相は会談後の記者会見で「日本国民の命と財産を守る責任を果たすために、あらゆる手を尽くす決意だ」と強調した。首相たる者の心構えとしては当然だが行動が伴わなければ意味がない。

 首相は今回の会談で、地位協定の改定と普天間飛行場の国外・県外移設を提起すべきだった。沖縄の状況が劇的に改善すれば、大統領にとってもレガシー(政治的遺産)になったはずだ。機を逸したことは残念でならない。

 

(2016年5月27日配信『伊勢新聞』−「大観小観」)

 

▼オーストラリアで通訳をしている日本人が知人のパーティーで小話を披露することになった。出会い頭の二人の主婦。「奥さんどちらへ」「そこの美容院まで」「あら、今日は休みだったのね」

▼立川志の輔さんが落語の枕に使っている。どうでしょうかと通訳氏に聞かれ「まずまずだ」と答えると、ところが知人らはクスリともしないという。「バーで馬が四頭、酒を飲んでいた。そこへ犬がきて知り合いが来ていないか尋ねて帰る。すると、馬が『おい、犬が話したぜ』」。彼らはそんな話をしてどっと沸くのだそうだ

▼ユーモアが一つも入らぬスピーチは米国社会では通用せぬという。スピーチの名手オバマ大統領が最後の記者夕食会で存分にジョークを連発して会場を沸かせたというが、何がおもしろいのか分からなかったのはわがエスプリにとって遺憾だった

▼伊勢志摩サミット前日の日米首脳会談後の共同記者会見で、オバマ大統領がニコリともしなかったのは、真顔でジョークを言う究極のユーモアを読み解く能力がなかったせいもあろうが、沖縄県の女性遺棄事件で「強いショック」「深い哀悼の意」を言葉だけでなく態度でも示したのかもしれない

▼ベトナムへの武器禁輸措置解除を「中国への挑発ではない」と言わずもがなのことも。フィリピンに反米大統領が登場し、頼れぬベトナムとの連携が一層大事になる。ここで沖縄で反米感情が爆発し基地撤退に追い込まれては東アジアの拠点を失う

▼75%の基地依存が逆に日本全体に降りかかってくる。日米首脳とも緊張せざるを得なかったのかもしれない。

 

日米首脳会談  地位協定の議論ほしい(2016年5月27日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相は、三重県志摩市のホテルでオバマ米大統領と会談した。沖縄県で元海兵隊員だった米軍属が逮捕された女性遺棄事件について、安倍首相が「被害者のその時の恐怖と無念さを思うと言葉もない」と厳重に抗議したのに対して、オバマ大統領は「心からの深い遺憾の意を表明する」として、事件再発防止に全力を挙げると約束した。

 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の開幕直前に日米首脳会談に踏み切った背景には、沖縄の人々の事件に対する強い反発と怒りがある。なぜ、悲惨な事件が起こり続けるのか。沖縄県民に共通する疑問だからだ。

 沖縄県議会はきのう、女性遺棄事件に抗議する決議と意見書を賛成多数で可決した。決議は在沖縄米海兵隊の撤退と並んで在日米軍の法的な地位を定めた日米地位協定の抜本的見直し、米軍の普天間飛行場(宜野湾市)の県内移設断念が盛り込まれた。

 決議は県政与党に加えて、中立派の公明党が賛成した。軍属の逮捕と女性の遺体発見から1週間がたち、県内の市町村では同様の決議を行うところも増えている。

 日米地位協定は、在日米軍の軍人や軍属が事件や事故を起こした場合、米側の特権を認めている。公務中だと原則として米側に第1次裁判権があり、日本の検察は起訴できない。

 今回の事件は公務外の時間帯に発生しており、身柄の引き渡しなど地位協定上の問題は生じていないものの、会談で安倍首相は「目に見える改善を着実に具体化し、結果を積み上げる」と述べ、当面は運用改善に取り組む姿勢を示して、地位協定の改定には慎重な姿勢を崩さなかった。オバマ大統領も「日本の司法制度の下で正義の追及を阻むものではない」と述べるにとどめた。

 サミット開幕を直前に控えているとはいえ、せっかくの首脳会議である。沖縄の人たちが求める地位協定の改定に踏み込めなかったのは物足りない。

 駐留軍を派遣する米国は各国と地位協定を結んでいるが、日米間では協定を結んだ1960年以降、一度も改定されていない。在日米軍をおもんばかる姿勢ばかりが見え隠れする。

 沖縄県の翁長雄志知事は事件後に安倍首相との会談でオバマ大統領との面会を要請した。しかし、「外交は中央政府間で協議すべきだ」(菅義偉官房長官)との理由で要請は伝わらず、直接対話の実現が先送りされたのも残念だ。

 

米大統領と謝罪/沖縄の痛み受け止めたか(2016年5月27日配信『神戸新聞』−「社説」)

  

 オバマ米大統領にとって、今回はこれまでになく重い課題を背負った訪日といえる。主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では世界経済のリスク回避などを協議しているが、注目はその後の広島訪問だ。

 現職米大統領の被爆地訪問は初めてで、被爆者の代表と対面し、所感を述べる。米政府は「第2次大戦の全犠牲者の追悼」が目的とするが、自身の信条である「核なき世界」への思いをどう反映させるか。

 きょうオバマ氏が述べる言葉に世界の耳目が集まる。

 その前に問われたのが、沖縄の米軍属による女性死体遺棄事件への向き合い方だった。

 サミット前日に日米首脳会談を持ったのは、早期に事態を沈静化させる狙いがあるのだろう。安倍晋三首相にオバマ氏は「心からの哀悼と深い遺憾の意」を表明した。「再発防止に全力を挙げる」とも語った。

 だが、明確な謝罪の言葉がなかったのは残念というしかない。

 ケリー国務長官らは日本に「深い謝罪の意」を伝えた。ケネディ大使も沖縄を訪問し、翁長(おなが)雄志知事に謝罪する意向という。

 何の罪もない女性が犠牲になった悪質な犯行だ。米兵らの犯罪が後を絶たない実情を考えれば、「哀悼と遺憾の意」だけでは沖縄県民の感情は収まらない。謝罪を回避したと受け取られるような言い回しでなく、米軍の最高指揮官として謝罪の意思を伝えるべきではなかったか。

 一方、安倍首相の発言も踏み込み不足だ。米軍の犯罪多発の背景には日本側の捜査や訴追に不利な日米地位協定の規定があるとされるが、改定を求めなかったとされる。

 会見では「一つ一つの問題について目に見える改善を具体化する」と語ったが、米国に再発防止を要請するのはこれまでと同じ対応で、根本的な解決には程遠い。

 人権派弁護士だったオバマ氏には、米軍基地を抱える沖縄の問題にも心を寄せてもらいたい。過度な負担を強いられる人々の「痛み」はよく分かるはずだ。

 オバマ氏は被爆地訪問を決断した。ただ、広島でも原爆投下に対する謝罪の言葉を回避するという。

 原爆投下を正当化する米世論にも配慮する必要があるのだろうが、多くの人が核廃絶を願う真意を感じ取る。今後の行動に期待したい。

 

日米首脳会談 拭えない事件再発の懸念(2016年5月27日配信『山陽新聞』−「社説」)

 

 25日夜に行われた日米首脳会談は、米軍属が逮捕された沖縄県の女性遺棄事件が主要テーマとなった。安倍晋三首相が再発防止策の徹底を求めたのに対し、オバマ米大統領も再発防止を約束した。

 約55分間の会談のうち約20分間の少人数会合では、全ての時間を使って沖縄の事件を話したという。会談後の記者会見で、オバマ氏は自ら事件に触れて「県民や日本国民を震撼(しんかん)させた。捜査には全面協力する」と述べた。米国側が事件を重視している姿勢は伝わってきた。ただ、重要なのは実効性ある再発防止策を打ち出せるかどうかだろう。

 再発防止のため沖縄県が強く求めていたのが、在日米軍の特権的地位を定めた日米地位協定の抜本的見直しだった。両首脳は運用改善を図る方針では一致したものの、安倍首相は改定を提起しなかったようだ。オバマ氏も会見で「日本の司法制度の下で正義の追及を阻むものではない」と述べ、今回の事件で地位協定が問題になっていないとの見方を示した。

 しかし、これで沖縄県民の怒りや再発への不安が拭えるだろうか。

 これまでも米軍関係者による犯罪が起きるたび、日本側が再発防止を求め、米側は綱紀粛正と再発防止を誓ってきた。米側は夜間の外出禁止や基地外での飲酒を一時的に禁止するなどの対策も取ってきたが、事件は繰り返されている。今後、米側は何らかの対策を打ち出すとみられるが、これまでの延長線上なら、どれだけ実効を上げられるかは疑問符が付く。

 日本側は安倍首相の指示で関係省庁の局長級による対策チームを立ち上げ、再発防止策をまとめるという。迅速な対応を見せた形だが、案として出ているのは街路灯や防犯カメラの増設、パトロールの強化という。その程度なら、沖縄の人々には小手先の対策に映るのではないか。

 沖縄県が長年、求めてきたのが日米地位協定の改定である。戦後の米国統治下では米軍人による犯罪が多発した。本土復帰後も在日米軍には日米地位協定で一種の治外法権が認められ、特権的な意識が米軍人らの犯罪を誘引しているのでは、との指摘がある。実効性ある対策として沖縄が協定の抜本的見直しを求めるのは理解できる。

 もちろん地位協定は沖縄だけの問題ではない。米軍施設を抱える広島、山口、神奈川など14都道県の知事でつくる「渉外知事会」は繰り返し見直しを求め、日本弁護士連合会も2年前、改定を求める意見書をまとめている。

 沖縄県議会はきのう、在沖縄米海兵隊の撤退や日米地位協定の抜本的見直しなどを求める意見書を可決した。同県議会が米海兵隊の撤退要求にまで踏み込むのは異例だ。そこまで沖縄県民の反米、反基地感情は高まっている。日米両政府はその事実をしっかり見つめるべきではないか。

 

日米首脳会談 地位協定なぜ改めない(2016年5月27日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 日米首脳会談から一夜明けたきのう、肩を並べて伊勢神宮の参道を歩くオバマ米大統領と安倍晋三首相の姿が伝えられた。開幕した伊勢志摩サミットの友好ムードを演出する狙いだったのだろうが、多くの沖縄県民からすれば、少し違和感を覚えたのではないか。

 おととい夜の会談で、両者は深刻な表情を見せたばかりだ。首相は沖縄県で米軍属の男が逮捕された女性遺棄事件を巡って大統領に「断固抗議」し、実効的な再発防止策を求めた。大統領も「心からの哀悼と深い遺憾の意」を表明した。

 首脳同士の和気あいあいとした関係は悪いことではない。ただ沖縄の重大事件への対応が、もう終わったかのように映る姿勢ならいかがなものだろう。

 首脳会談を予定から1日前倒ししたのも、素早い対応をアピールしたい政権の思惑が透けて見える。サミットと広島訪問という歴史的なイベントに、沖縄の事件と切り離して臨みたかったのではないか。きょう告示の沖縄県議選、さらに参院選を意識したのかもしれない。

 問題は会談の中身である。両首脳は「日米が協力して米軍基地負担軽減に全力を尽くす」とのメッセージを打ち出したが、具体策に踏み込まなかった。

 沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事らが事件を踏まえ、強く求めた日米地位協定の改定を含む抜本的な見直しについても、首相は「目に見える改善を具体化し、結果を積み上げる」と運用の改善で対応する考えを示しただけだ。

 知事は事件後、首相と面談して「米軍基地があるがゆえに起きた事件。大統領と直接話をさせてほしい」と求めていた。なのに首相は沖縄県の要求さえ大統領に伝えなかったという。その知事が「まったく中身がない」と批判したのも当然だ。

 地位協定については、これまでも米軍人や軍属らによる犯罪や事故が起こるたび、日本の捜査や裁判権を制限する内容が問題とされてきた。今回は公務外の軍属の容疑で地位協定は障害とならなかったが、沖縄で事件が絶えない背景には地位協定の存在があるのは明らかだ。現に沖縄選出の島尻安伊子沖縄北方担当相も、抜本的な改定が必要だと明言している。

 普天間飛行場の辺野古移設問題などを巡り、沖縄の負担軽減を図ると安倍政権は繰り返してきた。この首脳会談は沖縄の切実な思いに寄り添い、地位協定見直しを提起する絶好の機会だったはずだ。米国に対して弱腰と言われても仕方なかろう。

 政府はきのう、再発防止を徹底するため、関係省庁の局長級によるチームを発足させた。街路灯や防犯カメラの増設、パトロールの強化を検討するというが、それだけで長年繰り返されてきた米軍関係者による犯罪が防げるとは思えない。

 きのう県議会が事件に抗議するとともに、在沖縄海兵隊の撤退を求めて決議した。沖縄では日を追って抗議の動きが拡大する。首相は事件の影響の深刻さを軽く見てはいないか。

 きょう首相と大統領は被爆地広島を訪れる。核兵器廃絶に向けた決意をともに示すとみられるが、同時に安全保障における日米関係の強化をアピールする狙いがあるのかもしれない。しかし、沖縄の怒りを決して置き去りにしてはならない。

 

【日米首脳会談】さらに深めた沖縄との溝(2016年5月27日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 女性会社員の遺体遺棄事件への怒りに震える沖縄県民。その心に響く言葉は聞かれなかった。

 安倍首相とオバマ米大統領が会談し、首相は事件について「断固抗議」し、大統領は再発防止に全力を挙げると約束した。しかし沖縄側が求める日米地位協定の改定には両首脳とも慎重姿勢を崩さず、米軍普天間飛行場の辺野古移設も推進することで一致した。

 過重な基地負担への抜本対策が示されたとは言えず、日米両政府と沖縄との溝の深さが改めて浮き彫りとなった。

 事件は普天間返還合意の契機となった1995年の少女暴行事件はもとより、米兵らによって繰り返されてきた凶悪事件を思い起こさせた。過去には6歳の少女が米兵に暴行、殺害され、米軍当局が犯人に死刑を宣告したものの、本国送還でうやむやになった事件もある。

 犯罪が絶えない根底にあるのが、日米安保条約に基づく地位協定だ。

 公務中の米軍人らが起こした事件事故の裁判権は原則米側にある。公務外でも犯人が基地内に逃げ込むなどして身柄が米側にある場合、日本側が起訴するまで引き渡さなくてもよい。これにより米兵の犯罪の起訴率が、日本人のそれより低いとのデータもある。

 95年からは協定の運用改善で殺人や強姦(ごうかん)など凶悪事件に限り、起訴前の身柄引き渡しが行われるようになった。だが、それも米側の「好意」など裁量に委ねられている。

 オスプレイなど米軍機は日本国内で広範囲に低空飛行訓練を行える。これも国内法が定める最低安全高度の適用が、地位協定によって除外されているためだ。

 地位協定の改定は沖縄県民を含む全国民の安全確保につながる。にもかかわらず、日本政府は今後も米国に改定を求めない姿勢を貫くのか。それでは「国民を保護する責務を放棄している」と、批判されても仕方ないのではないか。

 普天間の辺野古移設は、沖縄県民にしてみれば基地の県内たらい回しにすぎない。そもそも96年の日米返還合意の条件は、普天間の一部機能の嘉手納飛行場への移転、統合▽普天間のヘリコプター部隊のヘリポートを県内の米軍基地内に新設する―というものだった。

 それが紆余(うよ)曲折を経て現行計画では、滑走路2本に加えて港湾機能も併せ持つ。代替ヘリポート程度だったものが巨大な新基地に膨らんでいるのだ。これでは県民の目に、「基地の整理・縮小」と映らないのも当然だろう。

 遺棄事件を受けて、菅官房長官は「街路灯の設置など犯罪を起こしにくい環境を整備する」と述べた。それも必要だろう。ただ地位協定の改定など、沖縄県民が求めるものとのあまりの落差に愕然(がくぜん)とする。

 政府は沖縄の「基地あるがゆえの苦悩」にもっと真摯(しんし)に向き合い、県民の理解が得られる負担軽減に取り組むべきだ。

 

沖縄の痛み(2016年5月27日配信『佐賀新聞』−「有明抄」)

 

 もう14年前になるが、梅雨のころの月桃(げっとう)の白い花が咲く季節に、沖縄を歩いたことがある。北谷(ちゃたん)町から宜野湾市までの約20キロを進んだ

◆のどかな南の島ではあるが、ところどころ道路のそばまで基地のフェンスが迫り、その向こうには緑の芝生が広がっていた。基地の中に日常がある。実際に行ってみて分かることがあり、その年はちょうど本土復帰30年の節目だった。変わった沖縄、変わらない沖縄の姿があった

◆その基地の島で米軍絡みのむごい事件がまた起きた。将来への希望に満ちた20歳の女性の命が奪われ、その亡骸(なきがら)は無残に元海兵隊員の男に捨てられた。いい知れない憤怒を覚える。島は怒りで震えている。基地撤去を求める声が噴き上がり、それが抗議の県民大会へのうねりとなる

◆日米首脳会談でこの問題が取り上げられた。遺棄事件に抗議した安倍首相に対し、オバマ大統領はお悔やみの言葉と遺憾の意は表明したが、具体的な対策までは踏み込まず、難しさが浮き彫りになっただけだった

◆在日米軍にさまざまな特権を与えている協定の見直しを沖縄が求めているのもまっとうな要求だ。「徹底した再発防止」。これほどむなしく響く言葉はないだろう。今まで何度繰り返されても実を伴わない現実がある。このまま、何の罪もない女性の死だけが取り残されてはならない。(

 

日米地位協定(2016年5月27日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

◆毅然として改定交渉に臨め

 安倍晋三首相は主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)出席のため来日したオバマ米大統領と会談した。沖縄県で20歳の女性の命が奪われた事件について首相は「断固抗議する」と申し入れたものの、沖縄県が求めている日米地位協定の見直しについては提起せず、沖縄の米軍基地に関しても「負担軽減に全力で取り組む」としただけで具体策には踏み込まなかった。

沖縄県の翁長雄志知事は「前進があったとは感じない。大変残念だ」と批判した。今回の会談では、「日米同盟」の基本となるべき信頼関係が修復できたとは言えず、また、日本政府と沖縄県との溝が埋まる機会にもならなかった。

効果なかった防止策

 日本政府には、事件に厳しく対処しているという姿勢を強調する狙いがあったのだろう。大統領が到着した直後の夜に会談を設定し、首相は抗議した上で再発防止策の徹底などを要求。大統領は「深い遺憾の意」を表明し、再発防止に全力を挙げると述べた。

 政府は、菅義偉官房長官をトップに関係府省庁の局長級でつくる「犯罪抑止対策推進チーム」を発足させた。だが沖縄県民の怒りは、米軍基地が集中する中で、事件のたびに「再発防止と綱紀粛正」が「約束」されながらも、事件が繰り返される実態にある。

 そのことを首相や政府は深刻に捉えているのか、甚だ疑問だ。受け止めているのならば、翁長知事が求める地位協定の抜本見直しについて「相手があることだ」と突き放すことなどできないはずだ。

 沖縄県議会は、海兵隊の撤退や地位協定見直しを求める決議を可決した。抗議集会も活発化している。基地が集中する沖縄の人々から、小手先の再発防止策ではどうにもならないと「叫び」が上がっているのだ。声をしっかり受け止めるべきだ。

沖縄の声受け止めず

 地位協定は司法手続きなどが日本に不利な内容だとして改定を求める声が上がってきたが、1960年の発効以来、運用の改善だけで改定は行われていない。

 今回の事件で元米兵は日本の警察が逮捕しており、捜査に支障は生じていない。だが翁長知事は「特別の協定に守られている」ことが事件発生の「土壌」になっていると主張し、首相との会談の中で、オバマ大統領との面会と地位協定見直しなどを求めた。

 しかし日本政府側の説明によると、会談では「地位協定については国内でもさまざまな議論がある」と触れただけで、沖縄県が求める協定改定を提起しなかったとみられる。会談後の会見では「改善を具体化し、地位協定のあるべき姿を不断に追求していく」と述べたが、改定を交渉する考えはないということだろう。

 首相は「日米同盟」が外交・安保政策の基軸だとしている。対等な関係の上に成り立っている「同盟」であれば、毅然(きぜん)とした姿勢で交渉すればよいのではないか。

 

[沖縄米軍属事件] 首脳の口約束だけでは(2016年5月27日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相とオバマ米大統領が、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を前に会談した。

 安倍首相は米軍属が逮捕された沖縄県の女性遺体遺棄事件を巡り「断固抗議する」と厳正な対応を求めた。オバマ氏は「心からの哀悼と深い遺憾の意」を表明した。

 両首脳の言葉は沖縄の人々の心に響いただろうか。政治問題化を避け、反感を強める沖縄世論の火消しを急ぐだけなら意味はない。

 オバマ氏は再発防止に全力を挙げると述べた。首脳同士の口約束に終わらせてはならない。

 会談は当初、サミット開幕当日の26日朝に設定されていたが、日本側の要請でオバマ氏到着直後の25日夜に前倒しされた。

 事件への迅速な対応をアピールする狙いがあったからだろう。首相は会談後の会見でも、強気の対米姿勢を崩さなかった。

 だが、会談の成果には疑問が多い。まず在日米軍の法的な地位を定めた日米地位協定の改定が提起されなかったことだ。

 沖縄県は地位協定が特権意識を生み、犯罪を助長する可能性があるとして、これまで再三抜本見直しを求めてきた。

 首相は運用改善を図る方針で、沖縄の要求を伝えることすらしなかった。これでは犯罪の抑止効果に限界があり、事件の再発防止に向けた道筋は見通せない。

 両首脳は沖縄の米軍基地負担軽減に全力で取り組む方針で一致した。

 しかし、首相は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)について、名護市辺野古への県内移設が唯一の解決策との考えを変えていない。オバマ氏も同じ認識という。

 沖縄には在日米軍専用施設の74%が集中し、過重な基地負担に苦しんでいる。

 こうした現状では、辺野古移設は基地のたらい回しに等しい。負担軽減に真剣に取り組むなら、本格的な基地の整理・縮小に踏み出すべきだ。

 翁長雄志知事はオバマ氏との面会を求めたが、事実上、門前払いされた。県民の思いが置き去りにされる強い憤りがあるのだろう。首脳会談について「大変残念だ。前進があったとは感じない」と批判した。

 沖縄県議会はきのうの臨時会で、女性遺棄事件に抗議する決議と意見書を可決した。

 普天間の県内移設断念や日米地位協定の抜本的見直しを盛り込み、米海兵隊の撤退要求にも踏み込んでいる。

 日米両政府は基地があるゆえの犯罪という実態を直視し、沖縄の思いと誠実に向き合うべきだ。

 

[日米共同会見の裏で]「辺野古」確認するとは(2016年5月27日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 25日夜行われた日米首脳会談で、安倍晋三首相が米軍普天間飛行場問題について、「辺野古移設が唯一の解決策」と述べ、オバマ大統領と認識を共有していたことが分かった。

 会談後の共同記者会見の模様はテレビ放映されたが、辺野古の話はまったく出ていなかった。元海兵隊員で米軍属の男による女性遺体遺棄事件に対する抗議の場で、多くの県民が反対する辺野古への新基地建設を改めて確認する−。県民を愚弄(ぐろう)しているというほかない。

 安倍首相は、翁長雄志知事が求めたオバマ氏との面談の要望を取り合わなかったばかりか、沖縄が求める日米地位協定の改定を提起することさえしなかった。その裏で「辺野古移設が唯一の解決策」と確認していたとは、一国の政治の最高責任者としてあるまじき行為である。

 翁長知事が「20歳の夢あふれる娘さんがああいう状況になった中で、辺野古が唯一などと日本のトップがアメリカのトップに話すこと自体が、県民に寄り添うことに何ら関心がないことが透けて見える」と厳しく批判したのは当然だ。

 県議会は26日、事件への抗議決議と意見書を可決した。在沖米海兵隊の撤退と米軍基地の大幅な整理・縮小を求める内容だ。与党・中立会派が提出し、野党が退席する中で全会一致で可決した。県議会決議では初めて海兵隊撤退まで踏み込んだ。その意味を重く受け止めてもらいたい。

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 在沖米海兵隊については、沖縄に派遣された新任兵士を対象に開く研修に、沖縄を蔑視するような内容が盛り込まれていることが分かった。「沖縄の世論は論理的というより感情的」「沖縄の政治は基地問題を『てこ』として使う」という偏見に満ちたものだ。兵士に対し、異性にもてるようになる「外人パワー」を突然得るとして我を忘れることのないよう注意するくだりもある。

 こうした教育が、沖縄を見下す若い兵士の態度を形成し、事件を起こす素地になっているのではないか。事件が起きるたびに米軍側は綱紀粛正や再発防止を強調するが、真逆の研修内容であり、実効性は期待できるはずもない。

 1995年の米兵暴行事件を受けて、米軍は「良き隣人」政策を進めてきたが、その後も事件は絶えない。研修内容を見る限り、政策が破綻していることを今回の事件は示している。

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 任期満了に伴う県議会議員選挙がきょう告示される。

 今回の県議選は、これまでにない極めて重要な政治的意味を持つ。

 辺野古への新基地建設に反対する翁長知事を支持し安定多数を得る県政与党が過半数を維持できるかが最大の焦点だ。選挙結果は、新基地建設を巡る国と県との対立の行方や、翁長知事の今後の県政運営を大きく左右する。

 基地あるが故の事件をどう防ぐかは重要な争点であり、候補者は基地問題に対するスタンスを明確にすべきだ。有権者はそれらを見極め、意思表示する機会でもある。

 

「断固」とは、文字のイメージ通り(2016年5月27日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 「断固」とは、文字のイメージ通り、きっぱりと物事をやる様を表す。その言葉を聞くとだれもが、語る人の強い意志を想起するだろう

▼25日夜の日米首脳会談後の会見で、安倍晋三首相は「オバマ大統領に日本の首相として断固抗議した」と厳しい表情で話した。沖縄でまた繰り返された米軍属によるむごすぎる事件に対してである

▼会見や国会で、この「断固」をやたら使う場面が記憶にある。強いリーダーのイメージにふさわしい言葉とお思いであろう。固い意志で臨んだのだから、何か出てくるかと思ったら、再発防止と負担軽減…。がくぜんとした人も多かったに違いない

▼保守、革新に関係なく求めている日米地位協定の改定は提起せず、「あるべき姿を不断に追求する」との言葉に魂を感じなかった。会見では明かさなかったが、辺野古新基地が「唯一の解決策」とも確認していた

▼現行方針を頑固に進めると、断固とした決意を示したということか。県民が悲しみに心ふさがれているさなかである。沙汰の限りとしか思えない。「ヤマトは、沖縄を何だと思っているんだ」。県民の声が胸に響く

▼怒りに共感しても、またもやの被害が基地撤去の要求につながる情理を、理解できない人が多い。痛い歴史、重い現実さえ知ろうとしない。やり場のない暗い何かが心に募る。

 

日米首脳会談 事件防ぐ意思感じられない(2016年5月27日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 元海兵隊員の米軍属による女性遺棄事件の責任の一端は、米軍の最高司令官であるオバマ大統領、基地を提供する安倍晋三首相にもある。その認識が両首脳には決定的に欠けている。

  一体何のために今回の事件を日米首脳会談で話し合ったのか。県民を失望させる結果になったことを両首脳は重く受け止めるべきだ。

  オバマ氏は「お悔やみと遺憾の意を表明する」と述べたが、謝罪はしなかった。謝罪する立場にないと考えているならば、問題である。

  ケリー米国務長官は「犠牲者の遺族や友人に深い謝罪の意を表明する」と岸田文雄外相に伝えている。国務長官が電話で謝罪すれば済む問題なのか。大統領が謝罪するほどの事件ではないと考えているのではとの疑念さえ湧く。

  事件の再発防止策でも、何ら成果はなかった。オバマ氏は再発防止のために「できることは全てやる」と述べた。「できること」は米側の恣意(しい)的な判断で決まる。これまでの経緯からして、米側が「できること」に期待はできない。

  米軍の綱紀粛正や米軍人・軍属教育の徹底、基地外飲酒制限、外出規制はこれまでも示されてきた。その結果が今回の痛ましい事件である。これまで以上の「できること」を提示しないとあっては、再発防止に真剣に取り組む意思がないと受け取らざるを得ない。

  県民が求めているのは、日米両政府が過去に示した実効性のない再発防止策ではない。もうこれ以上、一人の犠牲者も出さないことを、県民に保証する凶悪事件の根絶策である。オバマ氏に再発防止を求めただけの安倍晋三首相には、その視点が欠けている。

  県民の命や安全に関わることは結果が全てである。再び凶悪事件が起きた場合には在沖米軍の撤退、在沖米軍基地の撤去を約束する覚悟で取り組まなければ、凶悪事件はまた起きるだろう。

  事件が後を絶たない背景には日米地位協定の存在がある。「事件を起こしても守られる」との米軍人・軍属の特権意識を取り除くことが必要だ。だが、両首脳とも「運用の改善」にとどめ、県民要求を一蹴した。

  協定を抜本改正しないとあっては、凶悪事件の発生を根絶する意思を感じることはできない。全在沖米軍基地の撤去でしか、県民を守る手だてはない。そのことを首脳会談は証明した。

 

県議会抗議決議 海兵隊撤退で人権を守れ(2016年5月27日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 残忍な事件に対する県民の激しい怒りと苦悩を込めた決議だ。日米両政府、特に伊勢志摩サミットに出席している安倍晋三首相とオバマ米大統領は沖縄の民意を正面から受け止めるべきだ。

県議会は米軍属女性遺棄事件に対する抗議決議と意見書を可決した。普天間飛行場の県内移設断念、在沖米海兵隊の撤退と米軍基地の大幅な整理縮小、日米地位協定の抜本改定を求めている。

中でも海兵隊の撤退を初めて盛り込んだことは重要だ。否決された自民の抗議決議案も海兵隊の大幅削減を盛り込んでいた。在沖米海兵隊の撤退要求は県民の総意だ。

米軍基地から派生する重大事件・事故による人権侵害の多くは海兵隊駐留に起因している。暴力装置である軍隊と県民生活は到底相いれない。海兵隊は県民と真っ向から対立する存在だ。

 1993〜96年に駐日米大使を務めたウォルター・モンデール氏は、米側が海兵隊の沖縄撤退を打診したのに対し、逆に日本政府が引き留めたという事実を本紙インタビューで明らかにしている。

 そもそも海兵隊はアジア太平洋を巡回配備しており、沖縄を守るために駐留しているのではない。森本敏元防衛相は「海兵隊が沖縄にいなければ抑止にならないというのは軍事的には間違い」と明言した。在沖米海兵隊の「抑止力」の虚構性は明らかだ。

 90年代に海兵隊撤退が実現していれば、今回の事件は起きなかったのではないか。米側の打診を断った日本政府の責任は極めて重い。

 海兵隊撤退は県民の人権を守るため、譲ることができない要求である。両政府は県民要求の実現に向けて直ちに協議に入るべきだ。

  採決で自民などが退席したのは残念だ。「事件と普天間飛行場移設問題は切り離すべきだ」というのが理由である。しかし、新基地建設断念は県民要求だ。自民は沖縄の民意に寄り添ってほしい。

 嘉手納基地第1ゲート前で開催された緊急県民集会で採択した緊急抗議決議も米軍基地の大幅な整理縮小と合わせて、新基地建設断念と普天間飛行場の閉鎖・撤去をうたっている。

 県民の生命・財産を守るための最低レベルの要求だ。大会に参加した4千人は犠牲となった女性を悼み、悲しみの中で要求を突き付けたのである。それに応えるのは日米両政府の責務だ。

 

安倍・オバマ会談(2016年5月27日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

沖縄の怒りがまだ分からぬか

 伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)開幕前に安倍晋三首相とオバマ米大統領による日米首脳会談が開かれました。最大の焦点は、沖縄で起きた米軍属で元海兵隊員による「女性遺体遺棄事件」でした。首相は大統領に「実効的な再発防止策など厳正な対応」を求めました。しかし、首脳会談前に翁長雄志沖縄県知事が求めていた日米地位協定の改定や、米軍基地の大幅縮小などについて、首相は全く言及しませんでした。さらに名護市辺野古の米軍新基地建設を表明し、「県民の気持ちに寄り添う」(首相)どころか逆なでする姿勢まで示したことは許されません。

事件の背景に地位協定も

 「大変残念だ。県民は納得しない」。翁長知事は怒りの表情で首脳会談の感想を述べました。

 翁長知事は、首脳会談前に首相と会談(23日)し、「『綱紀粛正』『徹底した再発防止』などというのはこの数十年、何百回も聞かされたが、現状は全く何も変わらない」と批判していました。しかし、首相は首脳会談でも「再発防止」を求めるだけで、知事の要求に応えませんでした。

 今回の事件を含め、なぜこういう事態が繰り返されるのか。

 最大の要因は、国土面積の約0・6%しかない沖縄県に在日米軍専用基地面積の約74%という広大な米軍基地が集中し、県民が基地と隣り合わせの生活を余儀なくされていることです。沖縄の米軍基地の抜本的縮小、撤去に踏み出さない限り、「基地あるがゆえの犯罪」は決してなくなりません。

 基地の重圧とともに県民に犠牲をもたらしているのが日米地位協定です。

 日米安保条約に基づく日米地位協定は、在日米軍や軍人・軍属らの法的地位を定めています。米軍人・軍属が起こした犯罪に対する第1次裁判権は「公務中」は米側にあり、「公務外」では日本側にあるものの、犯人が基地内に逃げ込めば原則起訴まで身柄を引き渡さなくてもいいなど、米側に数多くの特権を認めています。

 翁長知事は、米軍人・軍属の犯罪が繰り返される要因について「基地あるがゆえ」の問題に加え、「日米地位協定という特権的な状況があり、軍人・軍属が占領意識を持って県民を見ていることが大きい」と強調しています。「地位協定の下では日本の独立は神話」という知事の言葉に込められた沖縄の現実を直視すべきです。

 在日米軍に治外法権的な特権を保障している屈辱的な日米地位協定の抜本的な見直しは、軍人・軍属らの犯罪を防止する上でも不可欠です。協定の改定に背を向けた日米両首脳の責任は重大です。

基地のない平和な沖縄を

 首相は、「再発防止」のため「あらゆる手を尽くす」と述べました。しかし今回の会談は、翁長知事が首相にぶつけた「安倍内閣はできることはすべてやると言っているが、できないことは全てやらないという意味にしか聞こえない」(23日)との批判を証明しました。

 首相は首脳会談で、辺野古の新基地を「唯一の選択肢」と改めて指摘し、「沖縄の皆さんの気持ちに寄り添わなければできない」と述べました。しかし、新基地建設こそ県民の気持ちを乱暴に踏みにじるものです。沖縄の怒りも痛みも分からない安倍政権を退陣に追い込むたたかいが重要です。

 

5月26日

 

 

[日米首脳会談]具体性欠け心に響かず(2016年5月26日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 安倍晋三首相は25日夜、三重県伊勢市のホテルで開いた日米首脳会談で、冒頭、元米海兵隊員で軍属の男が逮捕された女性遺体遺棄事件について「断固抗議」し、米国に実効性ある再発防止策と厳正な対応を求めた。

オバマ大統領はこれに対し、深い哀悼の意を表明するとともに、日本の司法の下での捜査に全面的に協力するとの考えを明らかにした。

 会談後の共同記者会見では、翁長雄志知事が求めた日米地位協定の抜本的な見直しについては両首脳とも、具体的回答を避け、否定的な姿勢を示した。

 安倍首相とオバマ氏は今回の凶悪事件の発生について「強い憤り」(安倍首相)と「非常にショック」(オバマ氏)を受けていることを明らかにしたが、共同記者会見では最も重要な点が触れられていなかった。

 両首脳は今回の事件のことは語っているが、このような凶悪犯罪が沖縄戦の最中から現在まで繰り返し繰り返し起きている事実に対して、どれだけ深刻に感じているのか、会見からはまったく伝わってこなかった。

 米軍関係者による凶悪な性犯罪が発生するたびに、沖縄県民は日米両政府から同じような言葉を何度も聞かされてきた。具体的な政策が示されない限り、沖縄の人々の怒りや悲しみ、両政府に対する不信感が解消されることはないだろう。沖縄との溝は深まるばかりである。

 翁長知事は23日の安倍首相との会談で、オバマ氏との面談の橋渡しを要請したが、実現しなかった。

■    ■

 翁長知事が直接面談を求めたのは、綱紀粛正と再発防止を何度求めても、米軍関係者による性犯罪が後を絶たず、女性の人権が侵害され続けているからだ。

 菅義偉官房長官は「一般論として安全保障や外交に関わる問題は、中央政府間で協議されるものだ」と翁長知事の要請を一蹴した。

 面談を実現させようと動いた形跡がみられない。

 女性の遺体遺棄事件は、安保や外交問題ではない。県民の生命を守る立場にある知事が米軍の最高司令官である大統領に訴えるのは当然の行動ではないか。

 その機会をつくろうとさえしない政府とはいったいどこの政府なのだろうか。日米両政府は基地撤去にも地位協定の見直しにも否定的だ。その場しのぎの再発防止策で幕引きとなるような事態だけは絶対に避けなければならない。

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 6月19日の大規模な県民大会に向け、日を追うごとに抗議の動きが広がっている。25日には軍属の男が勤務していた嘉手納基地前で、4千人(主催者発表)の緊急県民集会が開かれた。

 地元のうるま市議会をはじめ市町村議会でも抗議決議が相次いでいる。県議会は26日の臨時会で抗議決議を予定しており、与党・中立案が賛成多数で可決される見通しだ。

 沖縄が一つに結束し沖縄の声をもっともっと広げることが重要だ。すべての市町村議会に対し、意思表示することを求めたい。

 

県議選あす告示 問われる米軍基地の存在(2016年5月26日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 沖縄の将来を占う第12回県議会議員選挙が27日告示される。

 今回の県議選は、元米海兵隊員で米軍属の女性死体遺棄事件によって米軍の存在そのものが主要な争点に浮上した。米軍普天間飛行場の返還、名護市辺野古への新基地建設の是非、日米地位協定の改定など、施政権返還から44年たっても変わらない基地問題に対する姿勢が鋭く問われる。

 今回は、13選挙区(定数48)に70人が立候補を予定している。前回より7人多い。既に各選挙区で激しい前哨戦が展開されている。立候補予定者には、有権者が政策を十分理解し、投票できるよう、明確に主張してもらいたい。

 翁長雄志知事が就任してから1年半の県政運営が問われる選挙でもある。

 翁長知事は仲井真弘多前知事による辺野古埋め立て承認を検証した結果、2015年10月に承認を取り消した。それを受け国は代執行訴訟を起こし、3月に和解が成立した。政府にとって選挙結果は、県民意識を測る材料となる。県政与党が安定多数を維持するかどうか注目が集まる。

 前回12年の本紙県議選立候補予定者アンケートは、ほとんどが普天間飛行場の国外移設や県外移設、無条件撤去のいずれかを選択した。しかし、今回の立候補予定者アンケートは、70人のうち41人が普天間飛行場の国外県外移設、無条件撤去と答えた。一方、野党系は国外移設を前提とした暫定的な県内移設、辺野古移設などと回答し主張が分かれている。争点をぼかすことなく旗幟(きし)を鮮明にして選挙戦に臨んでほしい。

 翁長県政はアジア経済戦略構想を打ち出し、経済政策を進めている。好調な観光が県経済をけん引しているが、収入が低く不安定な非正規雇用率が44・5%と全国で最も高い。子どもの貧困率が高い背景に、低賃金で働く親の貧困がある。非正規労働者の正規化や最低賃金の引き上げ、保育士の処遇改善など雇用に関する政策は候補者選びのポイントになろう。

 子どもの貧困に対する政策も重要な判断材料だ。日本復帰後は公共工事に予算が重点配分されたため、教育・福祉に十分回せなかった。このつけが子どもの貧困という形で顕在化している。待機児童問題を含め、沖縄の未来を担う子どもたちの教育、福祉についての政策論争に期待する。

 

「琉球」の解放(2016年5月26日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 突然、風が吹いた。木々は波打ち、線香の煙が立ち込めた。「喜んでいる、喜んでいる」。先祖の歓喜を感じた墓参者が思わず声にした

▼今月17日、沖縄からの墓参団29人が中国・北京の琉球人埋葬地を訪れ、鎮魂の祈りをささげた。そこには1879年の琉球併合前後に中国へ渡り、救国運動を展開して客死した琉球人が眠る

▼墓参団は「一緒に帰ろう」と声を掛け「平和な沖縄の実現」を誓った。亡命琉球人の指導者・幸地朝常の親族である渡久山朝一さん(67)は「救国運動は遠い時代の出来事ではなく身近に感じる」と語った

▼渡久山さんの祖父は最後の琉球国王・尚泰の付き人で、朝常のいとこに当たる。朝常が中国にたつ際、尚泰は祖父に港近くの丘に「旗を立てなさい」と指示したという。親族で今も語り継がれている

▼「恐るべからず屈すべからず」。朝常はこう言って、日本官吏に屈するなと琉球人を鼓舞した。大和に支配された琉球には帰りたくないとも話したという。渡久山さんは「亡命した仲間が次々に死ぬ中で、帰りたくても帰れなかったのだろう」と推し量る

▼さて今の「琉球」。米軍属女性死体遺棄事件が起きた。埋葬地に眠る琉球人たちは帰りたいだろうか。救国運動から約140年、植民地状況からの解放はまだ道半ばである。歴史をたどると、沖縄の苦悩はあまりにも深く、長過ぎる

 

5月25日

 

『できないことは全てやらない』(2016年5月25日配信『下野新聞』−「雷鳴抄」)

 

 安倍晋三(あべしんぞう)首相や政府の中枢は事態の深刻さをどこまで分かっているのだろう

▼沖縄県でまた起きた米軍絡みの痛ましい事件。20歳の女性が遺体で発見された3日後、市民団体が抗議集会を開いたのは本島中部にある米軍キャンプ瑞慶覧(ずけらん)の前だった。返還・移設を巡って長年の懸案となっている普天間飛行場の前でも名護市辺野古でもない

▼瑞慶覧には在沖縄米軍トップの事務所がある。怒りの先は米軍基地の存在そのものに向かう。首相は翁長雄志(おながたけし)知事との会談で「米側に厳正な対処を求める」と述べた。だが「再発防止と綱紀粛正は何百回も言われながら何も変わらない」と知事は指摘。日米地位協定の見直しを含めた抜本的対策を求めた

▼辺野古移設に反対する知事だが日米安全保障条約と米軍基地の存在は認める立場だ。その上でかねて「反基地の矛先が嘉手納基地などに向かえば日米安保体制は根底から揺らぐ」と警告してきた

▼首相は「日米同盟が外交の基軸」と主張する。ならば同盟を堅持するため急ぐべきなのは、沖縄の声を真正面から受け止め、基地撤去・縮小と地位協定見直しに向け米側と交渉することだろう

▼「安倍政権は『できることは全てやる』と枕ことばのように言うが『できないことは全てやらない』という意味合いにしか聞こえない」。知事の言葉は厳しい。

 

「魂呼(たまよ)ばい」(2016年5月25日配信『中日新聞』−「中日春秋」)

 

 この国にはかつて、「魂呼(たまよ)ばい」という風習があった。亡くなった人の魂を呼び返そうと、家の屋根に上って、その名を叫ぶ。沖縄では「マブリユビ(霊魂呼び)」といい、昭和初期ごろまで続いていたそうだ

▼米軍属が逮捕された沖縄の女性遺体遺棄事件。愛する娘を失った父はおととい、遺体が発見された雑木林を家族らと訪れて娘の名を呼び、こう語り掛けた

▼「お父さんだよ、お父さんのところに帰るよ。みんなと一緒について来てよ。お父さんのところに帰るよ」。あまりに痛切な、「魂呼ばい」である

▼沖縄の翁長雄志知事は「魂の飢餓感」という言葉を口にする。県民の4人に1人が死んだ沖縄戦。長く「平和憲法」の埒外(らちがい)にされ続けた戦後。米兵による犯罪の被害に遭っても、泣き寝入りを強いられた日々。人権や自己決定権がないがしろにされ続けたことを、そう表現しているのだ

▼米軍がらみの事件事故がいくら繰り返されても、米兵らに事実上の治外法権を認める「日米地位協定」が見直されぬ現実が、今も目の前にある。今回の事件を受けて知事は、安倍首相に地位協定の見直しなどを求めたが、首相は及び腰だという

▼愛娘(まなむすめ)が変わり果てた姿で見つかった現場で、父は涙を流しつつ、「魂を拾いに来ました」とも語ったという。首相は、その魂のずしりとした重みに耐えうる政治・外交ができるだろうか。

 

「由美子ちゃん事件」を知ったの…(2016年5月25日配信『山陽新聞』−「滴一滴」)

  

 「由美子ちゃん事件」を知ったのは昨年、日本記者クラブの取材団で沖縄を訪ねた時だった。翁長雄志知事が会見で、戦後の忘れられない事件の一つとして挙げた

▼1955年9月、6歳の少女が行方不明になり、翌朝、遺体が米軍基地のそばで見つかった。暴行された跡があり、米軍人が逮捕された。当時、沖縄は米国の統治下。日本に裁判権はなく、容疑者の身柄はさっさと米本国に移された

▼当時の県民の思いについて、翁長知事は「屈辱」という言葉を使った。沖縄が歩んだ、本土とは異なる戦後を考えさせられる。今月、沖縄県で20歳の女性の遺体が見つかり、米軍関係者が逮捕された。沖縄ではかつてない怒りが渦巻く。歴史を知れば、その怒りの深さが少しは理解できる気がする

▼事件を受け、沖縄からは日米地位協定の抜本見直しを求める声が上がっている。とはいえ、本土に住む多くの人はピンとこないだろう

▼日本に駐留する米軍には一種の治外法権が認められ、公務中の事件は米側に裁判権がある。今回は公務外で日本側に裁判権があるものの、そもそも特権意識が犯罪の温床になっているのでは、と指摘されて久しい

▼米軍関係者は旅券なしに出入国でき、日本政府は国内にいる米軍関係者の数すら把握できない。そんな事実に驚かされる。私たちは知らないことが多い。

 

6・19県民大会 真の解決策を示す場に(2016年5月25日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 元海兵隊員で米軍属の男による女性死体遺棄事件に抗議する県民大会が6月19日に那覇市で開かれる。多くの人たちが事件への憤りとやるせない悲しみを胸に参加するだろう。党派の枠を越えて抗議の意志を示すとともに、事件を二度と起こさせない具体的な要求を日米両政府に突き付ける場でなくてはならない。

 1995年に起きた少女乱暴事件を受けて同年10月21日に開かれた県民大会は県議会全会派を網羅して、8万5千人(主催者発表)を集めた。2007年の教科書検定意見撤回県民大会や10年の普天間の国外、県外移設を求める県民大会、12年のオスプレイ配備反対県民大会も超党派による開催だった。

 しかしながら、民意を示すことはできたが問題の解決にはつながらなかった。

 これは県議会も同様だ。県議会は26日の臨時議会で事件に抗議する決議を審議する。与野党は決議に初めて海兵隊撤退・大幅削減を盛り込んだが、自民党が「普天間飛行場の県内移設断念」の文案に難色を示し、一本化できなかった。

 県議会が日本復帰の1972年から今年3月22日までの43年余で可決した371決議のうち、206件は米軍基地に絡む抗議決議だ。米軍人・軍属による事件事故のたびに県議会は米軍や日米両政府に綱紀粛正や再発防止を求めてきた。この4年の任期中でも県議会代表は14回、抗議決議を手交するため関係機関に赴いている。

 だが、翁長雄志知事が「綱紀粛正や徹底した再発防止などは何百回も聞かされてきたが現状は全く変わらない」と言うように、事件・事故は繰り返される。

 国土面積の0・6%の沖縄に全国の74%の米軍専用施設が集中する。イラクやアフガンの戦争では兵士は沖縄から最前線に送られ、「太平洋戦争で血であがなって得た占領地沖縄」に戻る。住民と基地はフェンス一枚隔てるだけだ。軍隊という暴力装置で訓練を受けた彼らが、暴力を平穏に暮らす人々に向けるのを完全に止めることはできない。それは沖縄の戦後の歴史が証明している。

 米軍人・軍属による事件事故を防ぐには、根源である基地をなくすことしかない。沖縄の民意として、もう基地はいらないと示すことが本当の問題解決策なのではないか。県民大会は党派を超え、真の解決策を示す場にすべきだ。

 

沖縄の慟哭、政府の罪(2016年5月25日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 広島平和記念公園にある原爆慰霊碑に「安らかに眠って下さい/過ちは/繰返しませぬから」という文字が刻まれている。碑が立ったのは原爆投下の7年後。広島大教授だった雑賀(さいか)忠義さんが編んだ碑文である

▼建立時、碑文は批判を浴びた。「過ち」の責任を誰が負うのか不明確だというのだ。広島市は「一個人や一国の行為を指すものではなく、人類全体が犯した戦争や兵器使用などを指している」と説明する

▼27日、オバマ大統領が広島を訪れる。慰霊碑の前にも立つだろう。英訳文の説明板もあるので、趣旨は理解できるはずだ。肝心なのは「過ち」の責任を自覚できるか、である

▼被爆者の多くはオバマ大統領の謝罪を求めてはいないが、米国が無辜(むこ)の民の命を奪った事実は消えない。せめて核なき未来を築くため被爆者の声を聞いてほしい。慰霊碑に向き合う姿勢が問われている

▼大きな「過ち」が沖縄で起きた。罪は一軍属にとどまらない。基地負担を強要し、犯罪抑止には無策だった日米両政府の罪は重い。しかも罪の自覚に欠けている。翁長知事が求めるオバマ大統領との面談に日本政府は否定的だ

▼軍属が女性を遺棄した恩納村の現場を県民が訪れ、花を手向けている。オバマ大統領、安倍首相に問いたい。沖縄の慟哭(どうこく)が聞こえるか。無念の死を遂げた女性のみ霊にぬかずき、わびるべきではないのか。

 

「彼女の笑顔を、忘れないでください」(2016年5月25日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

祭壇に飾られた写真の女性は、ピンクのドレスに王冠を模したティアラを着け、ほほ笑んでいました。「彼女の笑顔を、忘れないでください」。涙で途切れる父親のあいさつに告別式は深い悲しみと怒りに包まれました

▼犯行の卑劣さが明らかになってきた沖縄の女性遺体遺棄事件。逮捕された元米海兵隊員の軍属の供述によると、ウオーキング中の女性の頭を背後から棒で殴り、草むらに連れ込んで乱暴。首を絞め、ナイフで刺し殺したと

▼容疑者は乱暴する相手を車で探していたといいます。傍らでうごめいていた残忍な悪意。自分が被害者でも不思議ではない、娘や孫が同じ目に遭っていたかもしれない―。痛みの共有は沖縄の苦難の歴史に重なります

▼戦後70年以上も居座る米軍基地。今も占領者のように扱われる日米地位協定のもとで人権を侵されてきた県民の魂の飢餓感。翁長雄志知事は、それを「大切な人の命と生活を奪われた上、差別によって尊厳と誇りを傷つけられた人々の心からの叫び」(『戦う民意』)だと

▼いま沖縄や全国でこれだけ悲しみがあふれ、怒りがたぎっているのに日本の首相はどこを向いているのか。地位協定の見直しも基地の撤去も、辺野古新基地の撤回さえ口にしません

▼「もう我慢できない」。怒りの矛先は基地の存在とともに、こんな不条理を続ける日米の政府にも。あさって沖縄では県議選が告示され、県民大会から参院選へ。魂まで飢えさせる基地をすべてなくすため、オール沖縄の力をさらに強く。

 

5月24日

 

日米地位協定 今度こそ抜本見直しを(2016年5月24日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 「今の地位協定のもとでは、日本の独立は『神話だ』と言われますよ」

 米軍政下、沖縄の自治を「神話」と言い放ったキャラウェイ高等弁務官の言葉を使って、沖縄県の翁長雄志知事がきのう、安倍首相に日米地位協定の見直しを求めた。

 元米海兵隊員の軍属による女性死体遺棄事件を受け、沖縄ではいま、「全基地撤去」を求める声が広がるほど激しい怒りに包まれている。米軍関係者による事件・事故をこれ以上繰り返さないためにも、米軍基地の整理・縮小を急ぐ必要がある。

 同時に、翁長知事が日米地位協定の見直しを求めるのは、米兵や軍属らによる犯罪が後を絶たない背景に、在日米軍にさまざまな特権を与えているこの協定があるとみるからだ。

 地位協定をめぐっては、これまでも米軍人や軍属による犯罪や事故が起きるたびに、日本の犯罪捜査や裁判権を制限する条項が問題となってきた。

 今回、元米兵は公務外の容疑で県警が逮捕したため、地位協定上の問題は発生していない。だが、もし米軍が先に身柄を拘束していれば、引き渡しまで時間がかかったり拒否されたりする恐れもあった。

 95年に起きた少女暴行事件では、公務外の米兵ら3容疑者の身柄を米側が拘束し、県警の引き渡し請求を拒んだ。

 県民の強い反発でその後、凶悪事件に限って起訴前の身柄引き渡しに米側が「好意的配慮を払う」とする運用改善で合意した。その後、全犯罪に広がったが、米側の裁量で捜査が左右される恐れはいまも残る。

 こうした運用改善が実現した例はあるものの、地位協定の改定を含む抜本的な見直しは、県の長年の要求をよそに、政府は米国に提起しようとしない。

 翁長知事はきのう、オバマ米大統領に直接面会する機会を設けるよう首相に求めた。しかし菅官房長官は「外交・安全保障に関わる問題は、中央政府間で協議するのは当然だ」と否定的な見方を示した。

 その中央政府が動かないからこそ、知事は大統領との直接の面会を求めているのだろう。

 韓国やドイツは、米国との地位協定の改定を実現させている。なのになぜ、日本政府は米国に改定を求めないのか。

 今週、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)のためにオバマ大統領が来日する。再発防止や綱紀粛正を求めるのはもちろんだが、基地縮小や地位協定の抜本見直しについても、首相から具体的に提起すべきだ。

 

翁長・安倍会談 「基地ある故」直視せよ(2016年5月24日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 退役後とはいえ元米海兵隊員であり、米軍基地内で働く軍属である。沖縄県に在日米軍施設が集中する故の犯罪であることを直視しなければ、いくら米側に綱紀粛正を要請しても、再発は防げまい。

 これまでにも増して、翁長雄志沖縄県知事は憤りと悲しみに震えていたに違いない。

 元米海兵隊員で嘉手納基地に勤める男が女性の遺体を遺棄した容疑で逮捕された事件。翁長氏はきのう安倍晋三首相、沖縄基地負担軽減担当相でもある菅義偉官房長官を首相官邸に訪ね、米兵や軍属の特権的な法的地位を認めた日米地位協定の改定を求めた。

 米兵らによる事件・事故が起こるたびに、沖縄県側は地位協定の改定を求めてきたが、日米両政府は県側の要請を拒み、運用改善にとどめてきた経緯がある。

 今回は、公務外の事件であり、日本側が身柄を確保したため、地位協定が壁となって捜査が進まない状況ではないが、沖縄県内では地位協定の存在が米兵らに特権意識を生み、凶悪犯罪を誘発したとの厳しい見方も出ている。

 地位協定の運用改善では、犯罪抑止効果が限られるのが現状だ。翁長氏が「再発防止や綱紀粛正という言葉を何百回も聞かされてきたが、現状は何も変わらない」と訴えるのも当然である。

 日米安全保障条約に基づく米軍の日本駐留が、日本と周辺地域の平和と安全に死活的に重要だというのなら、安倍内閣は地位協定から治外法権的な要素を除外する改定をまず提起すべきではないか。

 さらに直視すべきは、沖縄県に在日米軍専用施設の約74%が集中し、県民に過重な基地負担を強いている実態である。

 普天間飛行場(宜野湾市)返還のためとはいえ、名護市辺野古への「県内」移設では、県民の負担は抜本的には軽減されない。

 さらに、今回の事件を受けて沖縄県側から「基地がある故の犯罪だ」との指摘が相次ぎ、沖縄県内にあるすべての米軍施設の撤去を求める動きも広がっている。

 米軍基地が減らない限り、訓練中の事故はもちろん、米兵らによる犯罪はなくなるまい。

 日米両政府は沖縄県民の心の叫びに耳を傾け、普天間飛行場は国外・県外移設へと方針転換し、ほかの米軍基地についても抜本的縮小に着手すべきである。

 首相は大統領に「具体的、実効性ある再発防止策を求める」というが、基地がある故に犯罪が起きる現実から目を背けてはならない。

 

できないことはすべてやらない(2016年5月24日配信『東京新聞』−「筆洗」)

 

同僚から「きょうの筆洗はおもしろかった」といわれたとする。喜べぬ。むしろ警戒する。「ほめ言葉を最大の敵とせよ」の処世訓とは無縁である。ひっかかるのは「きょうの」という部分である

▼曲がった心には「きょうの」が強調されて聞こえる。だとすれば「いつもはひどいが、きょうに限っては」の意であり、悪口ではないかとおびえる。日本語は難しい

▼「できることはすべてやる」。腕まくりが似合いそうな、この日本語の怪しさを指摘したのは元米兵の遺体遺棄事件をめぐって安倍首相と会談した、翁長知事である。「(政府の)できることはすべてやるという言葉は、できないことはすべてやらないとしか聞こえない」

▼そう聞こえるのは、知事のせいでは断じてない。この種の事件にせよ、基地問題全体にせよ、結局、解決の糸口さえつかめぬ政府の対応のせいである。できないことはできない。そうかもしれないが、沖縄の意向を端(はな)から「できぬ」と決めつけてきた姿勢がその言葉を疑わせる

▼翁長知事が要請したオバマ米大統領との面談について、菅官房長官は「外交は中央政府で協議するのが当然ではないか」と述べた。政府にはこれも「できないこと」に分類されるらしい

▼かくして、あの日本語は沖縄県民の耳には「期待するな」「何も改善しない」と冷たく翻訳されて聞こえる。もはや言葉が通じない。

 

米軍基地をなくすシナリオ(2016年5月24日配信『宮崎日日新聞』−「くろしお」)

 

 作家の和田竜(りょう)さんはもともと映画監督志望で、そのために書いたオリジナル脚本がシナリオ界の芥川賞とされる城戸賞受賞作になり後に「のぼうの城」として映画化された。

 だが脚本から即、映画化の話が進んだわけではなかった。先に宮崎市で開かれたJTフォーラム(宮崎日日新聞社主催、JT協賛)のトークショーで、本人の口から語られた裏話だ。脚本を小説として書き直し、その本がベストセラーになったので映画化できた。

 脚本は映像にするための設計図で、シーンとト書きを組み合わせることでせりふが生きてくる。コンクールなどでは、せりふの言い回しだけに気をつかった空疎な初心者の脚本が散見されるという(柏田道夫著「シナリオの書き方」)。

 沖縄県うるま市の女性が遺体で見つかった事件の容疑者が元米海兵隊員で、軍属だったことを受けて、安倍首相は伊勢志摩サミットに合わせ、5月下旬に行う日米首脳会談でオバマ大統領に厳正な対応を直接求める。当然のことだが、それだけで済む話ではない。

 被害女性については「さぞ、無念だったと思う。ご家族のことを思うと言葉もない」と語った。そのせりふに偽りあるとは思わないけれど、ならば二度とこんな惨劇を繰り返さないため沖縄の基地縮小のシナリオも描いてみせてほしい。

 「いいせりふは口にするにふさわしいシーンや動きがなくてはいけない」は脚本の鉄則だという。首脳会談というシーンはいいが、行動を伴わねばせりふは空疎に聞こえる。タイトルは首相の著作名をまねて「この民を守る決意」がいい。

 

[オバマ氏との面談]政府の責任で実現図れ(2016年5月24日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 被害者の父親が23日、事件後初めて、遺体が見つかった恩納村の現場を訪ねた。娘の魂を拾いに来たという。

 県道脇の雑木林の地面にひざをつき、花を手向け、ふり絞るような声で娘の名前を呼んだ。

 「お父さんだよ。みんなと一緒に帰るよ。おうちに帰ろう」

 かけがえのない一人娘をなくした父親の震える声が木立を包み、周りに響く。

 この日、東京では翁長雄志知事が安倍晋三首相に会い、語気強く遺体遺棄事件の発生に抗議し、日米地位協定の見直しを求めた。

 「綱紀粛正とか再発防止とか、この数十年間、何百回も聞かされた」

 だが、安倍首相から返ってきた言葉は「実効性のある再発防止策」というお決まりの文句だった。

 沖縄の現実は、再発防止策で事態を取り繕うような段階をとうに過ぎている。再発防止策は完全に破綻したのだ。

 本土の多くの人たちは知らないかもしれないが、沖縄でサミットが開かれた2000年7月、クリントン米大統領は森喜朗首相と会談し、米兵による相次ぐ事件に謝罪。その日の夜、クリントン大統領は、キャンプ瑞慶覧に1万5千人の軍人・軍属とその家族を集め、「良き隣人たれ」と訓示した。

 16年前の構図が今も繰り返されているのである。

 事件発生のたびに米軍は夜間外出禁止や飲酒禁止などの再発防止策を打ち出し、外務省沖縄事務所は米軍関係者を対象に「沖縄理解増進セミナー」を開いた。

 さまざまに手を尽くしても米軍は軍人・軍属による性犯罪を防ぐことができていない。現実は、県民の受忍限度をはるかに超えて深刻だ。

 翁長知事は、安倍首相との会談で、サミット参加のため訪日するオバマ大統領に面談する機会をつくってほしい、と要請した。

 クリントン氏の「約束」が実現できていない現実を踏まえ、政府はあらゆる手を尽くして翁長知事とオバマ大統領の面談の実現を図るべきである。

 米国陸軍歴史編纂(へんさん)所が発行した軍政文書を収めた「沖縄県史資料編14 琉球列島の軍政」はこう記している。

 「少数の兵士は米軍の沖縄上陸と同時に、住民を苦しめ始めた。とくに性犯罪が多かった」

 沖縄の女子を「かどわかした罪」で3人の米兵を追っていた沖縄の警察官が容疑者に射殺されるという事件も起きている。

 米軍関係者による凶悪な性犯罪が、復帰後44年たった今も、繰り返されているのはなぜか。沖縄が世界的にもまれな、基地優先の「軍事化された地域」だからだ。

 日本政府がその現実を承認し性犯罪の発生に有効な手だてが打てない状況は主権国家として恥ずべきことである。政府の政策は、沖縄の犠牲を前提にした差別的政策というほかない。

 基地問題は今回の事件によってまったく新しい局面を迎えた。

 基地の撤去、海兵隊の削減・撤退、地位協定の見直し、実効性のある再発防止策−これらの対策を組み合わせた抜本的な解決策が必要だ。

 

「われわれの所有の下、沖縄はめざましい進歩を(2016年5月24日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

  「われわれの所有の下、沖縄はめざましい進歩を遂げ、多くを得た。この島の住民にどれほど貢献しても見返りの方がずっと大きい」

▼ジャン・ユンカーマン監督の映画「沖縄 うりずんの雨」で流れる、米軍が制作した自国向けテレビ番組のナレーション。作られたのは1955年ごろ、映像は嘉手納基地から次々飛び立ち、朝鮮半島に爆弾を大量投下するB29爆撃機

▼物資など、米軍占領で沖縄が「得た」ものはあるだろう。同時に、失ったものは数限りない。戦前の経済基盤は沖縄戦で徹底的に破壊され、占領で土地を奪われた結果、基地に依存せざるを得ない構造がつくられた

▼沖縄自らが選択した生き方ではない。沖縄戦を生き抜いたのに、生きるために家族を殺したであろう米軍の弾薬を整備する仕事に就く。その弾が新たな犠牲者を生む。人々は、どんな思いで弾を磨いてきたのだろう

▼沖縄は今、不条理に満ちた歴史や、米軍の事件・事故におびえる日常との決別を明確に訴えている。そんな中、元海兵隊員が女性の命を奪った。またも凶行を止められなかった

▼前述のナレーション、「見返り」とは基地の自由使用を指す。安倍晋三首相と来日するオバマ大統領が「謝罪」したとしても、2人が辺野古新基地建設の推進を確認し、今後も基地との共存を強いるなら、それは沖縄への冒涜(ぼうとく)だ。

 

知事・首相会談 沖縄に犠牲強いるのは誰か(2016年5月24日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 その冷淡ぶりに寒々しい思いを禁じ得ない。うるま市の女性会社員遺体遺棄事件を受け、翁長雄志知事は安倍晋三首相との会談でオバマ大統領と直接話す機会を与えてほしいと要請した。だが首相はこれに答えず、会談後に菅義偉官房長官は「外交は中央政府間で協議すべきだ」と要望を一蹴した。

 1995年の事件の際、県内の日米地位協定改定要求の高まりに対し、当時の河野洋平外相は「議論が走り過ぎ」と、交渉すらあっさり拒否した。菅氏の発言は、あの時の冷淡さをまざまざと思い起こさせる。

 菅氏の言う「中央政府間の協議」では沖縄に犠牲を強要するだけだったから、大統領との面会を要望したのである。即座の却下は、その犠牲の構図を変えるつもりがないと言うに等しい。

 沖縄に犠牲を強いるのは誰か。米国との意見交換を仲介し、沖縄の民意が実現するよう動くべきはずなのに、仲介どころか積極的に阻んでいる日本政府ではないか。

 会談では、首相に対する発言としては極めて異例の、厳しい文言が並んだ。翁長知事はこう述べた。

 「安倍内閣は『できることは全てやる』と枕ことばのように言うが、『できないことは全てやらない』という意味にしか聞こえない」

 「基地問題に関して『県民に寄り添う』とも言うが、そばにいたとは一度も感じられない」

 しかしこの、かつて例のない発言が何の違和感もなく、言って当然の言葉に聞こえる。それが県民大多数の感覚だろう。

 広島に行く大統領と面会し、基地集中の是正を直接訴える貴重な機会すら、あっさり拒否される。知事は「今の地位協定の下では日本の独立は神話だ」と協定見直しも求めたが、それもゼロ回答だった。知事が言った通り、県民の思いはもはや「心の中に押し込められないくらい爆発状態」である。

 翁長知事は異例の手厳しい言葉を連ねたが、それでもなお物足りなさを禁じ得ない。大統領との面会要求のほかは地位協定見直しを含めた「実効性ある抜本的対策」を求めたくらいだが、それだけで基地に由来する凶悪事件を根絶できないのは明らかだ。やはり全基地閉鎖要求に踏み込んでほしかった。

 県民は今、憤りを静かにたぎらせている。やり過ごすつもりの政府はいずれ、今回の冷淡な態度を後悔することになるだろう。

 

在沖米軍の規律 人権感覚欠如は構造的だ(2016年5月24日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 規律を重んじる軍隊組織で決まり事がいとも簡単に破られる。県民に被害を与えかねない危険な犯罪行為を続けるやからが絶えない。実効性のあまりの乏しさから、制度と呼ぶには無理がある。

 在沖米軍に規律を順守させることは限りなく不可能に近くないか。そんな疑念が付きまとう。

 米軍属による女性死体遺棄事件に対し、全県で怒りが強まる中、米海軍3等兵曹が22日未明、酒気帯び運転の現行犯で逮捕された。

 基準値の約2・5倍のアルコールが検知された容疑者は、米兵の深夜外出や飲酒を規制する「リバティー制度」に違反していた。容疑者の階級なら午前1時以降の外出禁止が課されている。それを破った上で酒を飲み車を運転していた。

 「綱紀粛正」「再発防止」という言葉が空虚に響くばかりだ。

 緩み切っている、空念仏、規律の機能不全、県民は恐怖の連続−。県内政党代表が発した強い怒りは、県民の命が危険にさらされている危機感を反映していよう。

 外出禁止措置にはそもそも抜け穴が多い。全米兵は外出時にゲートで身分証明書と自らの外出条件が記された資格証である「リバティーカード」を示す。外出規制の対象者が禁止時間を破って基地に戻れば「違反」が発覚するシステムだ。

 だが、規制が始まる前に出て、取り締まる時間帯を過ぎて戻れば免れることができる。逮捕された3等兵曹があと数時間、酒気帯び運転をしながら遊び歩き、規制時間後に基地に戻っていれば、違反は発覚しなかった可能性が濃厚だ。

 3月に那覇市内のホテルに泊まっていた米兵が起こした女性暴行事件の後、米軍人の事件・事故防止を協議する日米会合は、それまでの制度運用に欠陥があったかについて検証はなされなかった。

 米軍側の「努力」を喧伝(けんでん)する場になってしまい、再発防止に向けた厳密な検証が素通りされることが、何度も繰り返されてきた。

 日本政府側の弱腰がそれを許容している。日米双方の無責任体質が、米兵犯罪の横行を招いているのである。

 女性死体遺棄事件が殺人事件に発展する可能性が高くなる中、平然と酒気帯び運転できる米兵が出ることにあきれ果てる。二万数千人を擁する在沖米軍の規律と人権感覚の欠如はもはや構造化されている。在沖米軍は「良き隣人」を名乗ることをやめた方がいい。

 

5月23日

 

祭壇には、今年の成人式に合わせて撮った写真が飾られていた(2016年5月23日配信『毎日新聞』−「余禄」)

 

 祭壇には、今年の成人式に合わせて撮った写真が飾られていた。ピンク色のドレス、頭にはティアラをつけ、愛らしくほほ笑む20歳の女性だ。その人が無残な姿で帰って来るなんて誰が想像できただろうか

▲おととい、被害女性の実家がある沖縄県名護(なご)市で告別式が営まれた。女性の父親は「皆さん写真を見てください。娘のことを忘れないでください」と途切れ途切れの声であいさつしたという。その控えめな訴えが、参列者の涙を誘った

▲かつて在日米軍基地の面積は今より5割近く広かった。本土の基地は1990年代半ばまでに6割削減されたが、沖縄は15%の縮小にとどまった。この結果、沖縄の日本復帰時点で59対41だった沖縄と本土の基地割合は、75対25に変わった。狭い沖縄に基地が集中していればこその事件である

▲沖縄の海兵隊で勤務した経験のある米国人学者が今年本を出した。沖縄県民の犯罪発生率は米軍の倍以上という試算があるとして「沖縄全体の犯罪発生率を減らすには、海兵隊を増やす方がいい」と書いている。遺族の前でこんなセリフが吐けるかどうか胸に手を当てて考えるがいい

▲内閣は慌ただしく反応している。告別式には中谷元(なかたにげん)防衛相らが参列し、きょうは安倍晋三首相と翁長雄志(おながたけし)沖縄県知事が会談する。ただ政権側の関心がもっぱら6月の県議選や今夏の参院選への影響にあるようだと、沖縄の怒りは米軍と同時に東京に向く

▲女性が「ウオーキングしてくる」と恋人に送信して連絡を絶ったのは4月28日夜だ。偶然だが、64年前にサンフランシスコ講和条約の発効で沖縄が本土から切り離された「屈辱の日」である。

 

繰り返す悲惨な事件(2016年5月23日配信『山口新聞』−「四季風」)

 

県が先週行った来年度の国の予算と政策に関する政府要望の資料を見ていて、気付いたことがある。米軍岩国基地の安心・安全対策の推進などを求めた中に、「米兵犯罪への不安」とある

▼昨年末、本年度の再度の要望にもあったのだが、気にならなかった。引っ掛かったのは、沖縄で起きたやりきれない事件と並行して読んだからに違いない

▼過重な米軍基地が、繰り返す悲惨な事件の原因となってきた沖縄。何度再発防止を求め、謝罪してきたことか。岩国基地のある山口でもそうだが、地元の声は声でしかない

▼気付いたのにはもう一つ、岩国基地への空母艦載機移駐が「来年」と聞いたこと。「17年ごろまで」と「17年」に強意を置きつつ、(やってくるよな!いつ?)と反問してきたのだが現実となりそうだ

▼移駐なら岩国は極東最大規模の基地となる。沖縄は戦場で主役の海兵隊が主で、岩国にやってくるのは教育・訓練がなされた部隊と家族ら…という安心・安全神話がある。楽観的すぎないか

▼占領時の「行政協定」を踏まえてつくられ、治外法権的特権も指摘される日米地位協定で米軍は活動する。週末の首脳会談、その辺を踏まえて首相に再発防止を要請してもらいたい。

 

米軍属女性遺棄 大人の責任果たせていない(2016年5月23日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 1995年10月、少女乱暴事件に抗議する県民大会で、大田昌秀知事(当時)は「行政を預かる者として、本来一番に守るべき幼い少女の尊厳を守れなかったことを心の底からおわびしたい」と述べた。少女の人権を私たち大人は守れなかった。集まった約8万5千人の人たちはつらい涙を流し、二度と犠牲者を出さないことが大人の責任だと考えた。

 あれから20年がたって、若い命が犠牲になってしまった。胸がふさがる。あのとき誓った大人の責任を私たちは果たせていない。

 被害女性の両親は「一人娘は、私たち夫婦にとってかけがえのない宝物でした」と告別式の参列者に宛てた礼状に記した。「にこっと笑ったあの表情を見ることもできません。今はいつ癒えるのかも分からない悲しみとやり場のない憤りで胸が張り裂けんばかりに痛んでいます」。あまりにも悲しい。

 容疑者の元海兵隊員である米軍属は被害者と接点がなく「2〜3時間、車で走り、乱暴する相手を探した」と供述している。女性は偶然、ウオーキングに出掛けただけで残忍な凶行の犠牲になったのだ。

 軍隊という極限の暴力装置に、あまりにも近くで暮らさざるを得ないこの沖縄。事件は沖縄の誰の身にも起こり得る。被害者は自分だったかもしれない。家族の悲しみ、痛みは私たちのものだ。

 95年の事件をきっかけに、日米両政府は「沖縄の基地負担軽減」を繰り返し言ってきた。しかしこの20年、基地負担は減っていない。

 在沖米軍基地の整理縮小を図る96年のSACO(日米特別行動委員会)最終報告で決められた基地の返還は、読谷補助飛行場やギンバル訓練場など一部にとどまる。最大の懸案である普天間飛行場は全く動いていない。

 米軍人・軍属の特権を認めた日米地位協定は一字一句変わっていない。犯罪の被疑者の身柄の引き渡しも殺人や強姦(ごうかん)などの凶悪事件に限って米側の「好意的配慮」によるとした運用改善だけだ。

 20年間、沖縄の基地負担軽減は進んでいない。不平等な日米地位協定もそのままだ。

 軍隊と住民は共存できないという事実を、沖縄は繰り返し思い知らされてきた。命と人権を守ることは最も大事な大人の責任だ。もう悲しくつらい犠牲は誰にも負わせたくない。

 

米政府意見聴取要請 県民要求 直接受け止めよ(2016年5月23日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 辺野古新基地建設問題で県民が何を求めているのか、米政府は直接確認すべきだ。これは自国軍を沖縄に置く米政府の責務だ。

 翁長雄志知事はコクラン米上院歳出委員長との会談で、米軍普天間飛行場返還・移設問題の解決に向け、米政府が県民から直接意見を聞く取り組みを求めた。

 当然の要求だ。日米合意から20年を経てもなお、普天間飛行場の返還が実現していない。その理由を米政府はじかに調査し、政策に反映すべきだ。

 翁長知事は今回、米議会、有力シンクタンク関係者、知日派学者に対し、新基地建設計画に県民が根強く反対しており、実現が困難であることを伝えた。翁長知事の訪米要請行動は2度目である。

 米軍基地問題の解決を訴える沖縄県知事の訪米要請行動は1980年代の西銘順治知事の時に始まった。その後の歴代知事も訪米要請を繰り返し、沖縄の声を米政府や議会に届けてきた。基地がある市町村長も要請に同行した。

 沖縄が多額の費用と労力を費やして訪米要請を重ねてきたのはなぜか。それは日本政府が対米追従姿勢に終始し、県民の声を米側に正しく伝えてこなかったからだ。

 県民が反対する垂直離着陸機MV22オスプレイの配備直前、日本政府が米側に「オスプレイの運用に制約を課すことなく取り得る措置」を提案したことはその典型だ。

 対米追従を続ける日本政府は米軍基地から派生する事件・事故から県民を守ることができない。だからこそ日本政府を飛び越え、基地の重圧にあえぐ沖縄の状況を米国に直接伝えてきたのだ。

 今度は米政府が沖縄の実情を直視すべき時だ。新基地建設に反対する県民の声を聞くべきだ。普天間飛行場や新基地建設予定地の辺野古の美しい海を見てほしい。

 米本国では許されない不条理を沖縄に強いてはならない。普天間をめぐる混乱の当事者であることを米政府は自覚すべきだ。

 さらには米軍が71年も居座り続ける沖縄で起こした人権じゅうりんを反省すべきだ。民主国家を標榜(ひょうぼう)する米国の実像から目を背けてはならない。

 土地新規接収などに反対した1950年代の「島ぐるみ闘争」の最中、沖縄を訪れた米下院軍事委員会が沖縄の意思に背く「プライス勧告」を発した。その愚を繰り返してはならない。人権意識を沖縄でも発揮すべきだ。

 

[無言の意思表示]沖縄の怒り、見誤るな(2016年5月23日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 大音量のシュプレヒコールもなければ、高く突き上げるこぶしもない。参加者は黒や白の服に身を包み、プラカードを掲げて、フェンス沿いを無言で行進する。

 米軍属の男による女性遺体遺棄事件を受け、女性団体の呼び掛けで開かれた22日の集会は、これまでとまったく違っていた。沈黙の中に悲しみがあふれ、怒りがたぎる。

 北中城村石平のキャンプ瑞慶覧ゲート前で、参加者が手にしていたのは、亡くなった人の魂が宿るといわれるチョウの絵。わずか20歳で命を奪われた被害者の苦しみを思い、決して忘れないという気持ちを込め、15分置きに基地に向かってチョウをかざした。

 「命」と書かれたむしろ旗や「怒」の文字など、意思表示の言葉はそれぞれだが、目立ったのは「全基地撤去」を求めるプラカードだ。

 今回の事件で、1995年の少女暴行事件を思い返した人が多い。95年の事件の際は、55年の「由美子ちゃん事件」が語られた。

 21年前、あれだけ声を上げて「基地がもたらす人権侵害」を訴えたのに、ちょうどその年に生まれた女性の命を守ることができなかった。その怒りや無念さが、米軍の撤退を求める以外に解決策はない、との声に集約されてきている。

 約2千人(主催者発表)の無言の行進は、声を張り上げる以上に沖縄の強い意志を感じさせた。同時に基地問題で沈黙し続ける多くの日本人に「あなたたちはどうするつもりなのか」と問い返す行動でもあった。

■    ■

 「暴行する相手を探していた」「背後から頭を棒で殴り、襲った」。容疑者の供述が明らかになるにつれて浮かび上がってきたのは、事件の残虐性や凶悪性である。

 女性の遺体発見から3日たった22日、恩納村の現場には、朝早くから花を手向ける人、ペットボトルのお茶を供え手を合わせる人の姿があった。

 「私が被害者だったかもしれない」「娘や孫が被害に遭っていたかもしれない」。県民の間に、痛みを共有しようという思いが、日ごとに強くなっている。

 沖縄の基地維持を優先させる日米両政府に、女性への人権侵害に有効な対策が打ち出せるはずがないことは、これまでの歴史が語っている。

 女性の人権と県民の命を守る全県的な組織を早急に立ち上げ、不退転の決意で取り組まなければ、両政府を動かすことはできない。 

■    ■

 きょう23日、翁長雄志知事と安倍晋三首相が会談する。政治的駆け引きや「火消し」のための会談設定であればまったく意味がない。

 3月に那覇市内のホテルで女性暴行事件が起きた時、防衛省関係者から伝わってきたのは「最悪のタイミング」という言葉だった。サミットを前にした今回も「最悪のタイミング」という言葉が語られている。彼らにとって沖縄とはいったい何なのか。

 米兵による女性への性犯罪は重大な人権侵害であり、それは71年前の米軍上陸直後から始まり、今も続いている。

 

5月22日

 

フェンスに貼られたX(2016年5月22日配信『朝日新聞』−「天声人語」)

 

 ×、×、×、×、×、×。沖縄県の米軍嘉手納基地で多くの×(バツ)を見た。女性遺棄事件に憤った住民たちが赤や黒のビニールテープで基地フェンスに貼り付けた抗議の印である。基地は容疑者の勤務先だった

▼被害女性の住まいは基地から東へ車で10分、金武(きん)湾を見下ろす高台にある。真新しいアパートの外壁にログイン前の続き、シーサーが掲げられている。沖縄の家々に見られる魔よけの獅子だ。女性はここで交際中の男性と結婚を前提に暮らしていた

▼遺体はそこから北へ車で30分、米軍キャンプ・ハンセンに近い雑木林で見つかった。花束が供えられ、警察官が遺留品を捜している

▼現場は県道104号のすぐわき。米軍が1997年まで「県道越え実弾砲撃」演習をしたあたりだ。演習は本土へ移転されたが、一帯は米海兵隊の訓練の場として使われている。ここを選んだのは容疑者に土地勘があったのか。海兵隊に属した時期、通った道なのかもしれない

▼きのうは名護市内の斎場で、被害女性の告別式が営まれた。「20歳の娘がこのような形になってしまい、ただただ残念でなりません。無事に生きて帰ってくる事だけを考えていたので今は何も言えません」。遺族は前日そんな談話を出した

▼人生が20歳で絶たれるなど、だれに想像できよう。高校を卒業し、就職もし、成人式をへて、次はきっと結婚を夢見ていたことだろう。まさに開こうとする花が一夜で無残にも踏みにじられた。怒りが胸にこみあげ、×の列を指でなぞった。

 

「私たちに静かな沖縄を返してください。軍隊のない(2016年5月22日配信『高知新聞』−「小社会」)

 

 「私たちに静かな沖縄を返してください。軍隊のない、悲劇のない、平和な島を返してください」―。1995年、沖縄県で起きた米兵による少女暴行事件に抗議する県民総決起大会。1人の女子高校生の訴えを覚えている人は多いに違いない。

 仲村清子さん。米軍普天間飛行場の近くで暮らす仲村さんは結婚して母となり、働きながら子育てに追われているという。スピーチにこめた願いもむなしく、繰り返された悲劇にどんな思いでいることだろう。

 同県うるま市の女性会社員が遺体で見つかり、元海兵隊員で軍属の男が逮捕された。乱暴し殺害した、と供述している。被害者はことし、成人式を迎えている。まさに総決起大会が開かれた年に生まれた世代に当たる。

 そんな彼女の人生は、過重な基地負担の軽減が叫ばれ続けた20年と重なる。にもかかわらず沖縄の女性や子どもたちは、米兵らの性暴力の対象となる危険にさらされ続けてきた。

 今後、普天間飛行場の辺野古移設中止を含めて、反基地の声はいっそう高まっていくだろう。日米両政府は「国外、県外移設」の要望に真摯(しんし)に耳を傾け、検討しなければならない。

 「基地があるゆえの苦悩から私たちを解放してほしい」。総決起大会で仲村さんはこうも述べた。日米安保体制が大切だと言うのなら、基地も全国で平等に負担してほしい―。沖縄の思いに「本土」の私たちがどう応えるかも問われている。

 

米軍属逮捕 政府は沖縄とともに怒れ(2016年5月22日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 いつまでこんな事件が続くのか。沖縄は怒りに震えている。

 沖縄県うるま市に住む20歳の女性が遺体で発見され、元米海兵隊員で軍属の男が死体遺棄容疑で逮捕された。男は「わいせつ目的で女性を襲い、殺害した」という内容の供述をしているという。

 沖縄では1995年、米兵3人が小学生の女子児童を集団で暴行する事件が発生し、県民に衝撃を与えた。この時は全島で抗議運動が燃え上がり、普天間飛行場返還の日米合意につながった。

 だがその後も、米軍関係者による事件は後を絶たない。沖縄県によると95年以降、県内での米兵による殺人、強姦(ごうかん)などの凶悪犯罪は、2013年を除いて毎年1〜7件発生しているという。

 安倍晋三首相は事件を受け「徹底的な再発防止など厳正な対応を米国側に求めたい」と語った。しかし、求めるだけでいいのか。

 これまでも事件が起きるたび、日本側は再発防止を求め、米軍は綱紀粛正を約束してきた。効果が上がらないのは証明済みだ。

 翁長雄志(おながたけし)知事は「基地があるがゆえに事件が起きてしまった」と強調した。米軍基地の集中それ自体が、県民の安全な生活を脅かしているという認識である。

 沖縄には全国の米軍専用施設の約74%が集中している。過重な基地負担の解消なしに、こうした犯罪の抜本的な改善は望めない。

 今回の事件は公務時間外で容疑者も基地の外に住んでいたため、日米地位協定は捜査の障害にはならなかった。しかし米軍人や軍属に刑事手続きでの特権を認める地位協定の存在が、犯罪の抑止力を弱めているとの指摘もある。

 前途ある女性の命が無残に奪われたのだ。政府はその理不尽さへの怒りを沖縄と共有してほしい。

 そして米軍関係者による犯罪防止の根本策として、沖縄の米軍基地の整理・縮小や地位協定の改定に向けて踏み出すべきだ。

 政府がこれまで通りの「再発防止要請」だけで事態を収拾しようとするのなら、「怒りが足りない」と言わざるを得ない。

 

沖縄の米軍属逮捕 抜本対策は基地の縮小だ(2016年5月22日配信『熊本日日新聞』−「社説」)

 

  沖縄で何の罪もない女性の命が奪われ、米軍関係者がまた逮捕された。繰り返される悲劇に県民の怒りは頂点に達している。

 4月末から行方不明になっていたうるま市の女性会社員(20)が遺体で見つかり、元米海兵隊員で米空軍嘉手納基地に勤務する軍属の男(32)が死体遺棄の疑いで逮捕された。男は「わいせつ目的で女性を狙い乱暴した」「殺害し遺体をスーツケースに入れて運んだ」と供述している。

 沖縄県民からは「米軍基地がある限り、事件は起こる」と基地撤廃を求める声が上がっている。当然の怒りである。

 沖縄県には在日米軍専用施設の約74%が集中し、米軍関係者による凶悪事件が後を絶たない。1995年には女子小学生が米兵に暴行される事件も起き、「県民総決起大会」で約8万5千人(主催者発表)が抗議の声を上げた。翌96年に日米両政府が普天間飛行場の返還に合意する原動力となった。

 安倍晋三首相は「非常に強い憤りを覚える。今後、徹底的な再発防止など厳正な対応を米国側に求めたい」と述べたが、これまでも再三の再発防止の申し入れにも関わらず、こうした事件が繰り返されている。抜本的な対策には、沖縄の米軍基地の縮小を本気で進めるしかあるまい。

 在日米軍の軍人や、軍に直接雇用されている民間人の軍属が事件や事故を起こした場合、日米地位協定で日本側は任意捜査に頼らざるを得ないなど米側に大きな特権があり、不公平さへの批判も根強い。今回は「公務外」の事件のために、日本の刑事手続きに従って送検されるが、半ば放置されてきた地位協定の改定にも取り組むべきだろう。

 安倍首相は、26日から主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で訪日するオバマ米大統領に直接、厳正対応を求める意向を固めた。だが、それだけでは不十分だ。首脳会談で日米両政府が米軍基地の縮小に向けて固い決意で取り組むよう協議すべきだ。

 政府はオバマ氏の広島訪問で、日米の歴史的和解と同盟関係を演出し、参院選への弾みとするシナリオを描いていた。広島訪問への影響を心配する声もあるようだが、一過性の対応では沖縄県民の怒りを鎮めることはできまい。

 基地問題で政府は、普天間飛行場の返還に代わり、名護市辺野古への新たな基地建設工事を進めている。しかしこれが「負担軽減にはつながらない」と県民の強い反発を受けている。政府が今回の事件で毅然[きぜん]とした対応を取らなければ、沖縄の反基地運動の対象は普天間飛行場にとどまらず米軍基地全体に広がるだろう。

 日米同盟は日本の安全保障政策の基本だが、事件は同盟の基礎となる信頼関係を根底から損なうものである。首相は23日に沖縄県の翁長雄志知事と会談する。しっかりと沖縄の声を受け止め、責任を持って米側との交渉に当たってもらいたい。沖縄の負担軽減を求める政府の本気度が問われる。

 

因果の糸(2016年5月22日配信『長崎新聞』−「水や空」)

 

 2012年、佐世保の外国人バー街が静まり返った。在日の米軍人に夜間の外出禁止令が出されたからだ。沖縄で米兵2人が女性に乱暴してけがをさせ、綱紀粛正の轡(くつわ)が並べられた

▲「米軍が事態を深刻に捉えていることの表れ」「米軍全体の行動と思われないように努めている」と当時の佐世保基地の司令官。米軍人の全てが悪いわけではないのだが−と注釈付きの弁だった

▲沖縄で米軍属が逮捕された事件は、被害女性(20)へのわいせつ目的だったらしい。こんな形で未来を絶たれた無念はいかばかりか。「米軍基地がある限り、悲劇は繰り返される」と沖縄で怒りが噴き出している

▲先の司令官の弁明ではないが、基地に関わる人物に限った事件だとか、軍全体が悪いとか、基地と事件との因果は突き詰め難い。ただ、1995年に起きた米兵による少女暴行事件との因果は踏まえておきたい

▲その痛ましさに沖縄の怒りは頂点に達し、普天間飛行場の返還合意の力となった。基地と犯罪との因縁に、けりをつけたはずだった

▲なのに普天間が移る先は「同じ沖縄県内」と意外な方を向き、今も返還はならない。再発防止を叫んでも米兵絡みの事件は絶えない。堂々巡りのうちにこんな事が−。21年前からつながる因果の糸が、いま浮き立っているかに見えてならない。

 

全基地撤去要求 日米政府は真剣に向き合え(2016年5月22日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 米軍属女性死体遺棄事件の謝罪に訪れた在沖米四軍調整官に対して、安慶田光男副知事は「沖縄の基地全体について県民は反対する可能性が懸念される。事件に対する県民の気持ちは無視できない。注視していく」と述べ、県民の意思表示によっては全ての在沖米軍基地撤去を求める考えを示した。

 米軍人・軍属による事件が起きるたび、日米両政府は何度も綱紀粛正と再発防止を誓ってきた。しかし事件は起き続けている。今年3月にも観光客の女性が海軍兵に性的暴行を受ける事件が起きた。

 この時、謝罪に訪れた四軍調整官は「良き隣人であるため、良き市民であるため、できる限りのことをさせていただく」と述べ、再発防止を約束していた。それにもかかわらず再び犠牲者が出た。

 県内での米軍構成員による凶悪犯罪は日本復帰の1972年5月15日から2015年末までの約43年間で、574件発生し、741人が摘発されている。殺人が26件34人、強盗が394件548人、強姦(ごうかん)は129件147人、放火25件12人となっている。これらの犯罪は、沖縄に基地が存在していなければ起きていなかった。県民は基地あるが故の犯罪にさらされ続けているのだ。

 事件を受けて会見した女性団体の代表らは「基地がなければ事件はなかった」と涙ながらに訴え、沖縄から全ての基地・軍隊を撤退させるよう求める要求書を日米両政府に送ることを表明した。多くの県民の気持ちを代弁している。

 翁長雄志知事は日米安全保障体制を容認する立場だ。しかし今回の事件を受け、全基地撤去を求める民意は広がりを見せている。安慶田副知事の発言は民意の高まりいかんでは翁長県政として全基地撤去を求める可能性を示したものだ。それだけ相次ぐ事件に危機感を抱いている証左だ。

 オバマ米大統領の広島訪問前に事件が起きたことに触れ、政府関係者が「本当に最悪のタイミング」と発言したことが一部で報じられた。事件そのものではなく、時期が最悪だとの認識だ。別の時期なら事件が起きてもよいのか。犠牲者の無念さに一片の思いも寄せられない冷酷な人間の発想だ。

 これ以上、言葉だけの再発防止策など聞きたくない。全基地撤去を求める声に、日米両政府は真剣に向き合うべきだ。

 

[米軍属暴行殺害供述]再発防止策は破綻した(2016年5月22日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 父親は嗚咽(おえつ)しながら「遺影を見てください。娘を忘れないでください」と参列者に語り掛けた。

 母親は遺体が発見された後、沖縄の風習にならい、「落とした魂(マブイ)」を探しに恩納村の現場などを回り、手を合わせたという。

 「好きな人と心通わせ、今が一番楽しい時期だった、かけがえのない宝物」の一人娘を奪われた両親の心中は察するに余りある。

 うるま市の女性会社員(20)が遺体で見つかった事件で、女性の葬儀・告別式が21日、実家のある名護市内で開かれた。家族や親族、高校時代のクラスメートら約800人が参列。葬斎場は深い悲しみと憤りに包まれた。

 死体遺棄容疑で逮捕された元米海兵隊員で軍属の男性は、県警捜査本部の調べに対し、「わいせつ目的で女性を探し暴行した」「殺害し、遺体をスーツケースに入れて運んだ」などと殺害と性的暴行を認める供述を始めている。

 「首を絞め、刃物で刺した」とも話しているようだ。事実とすれば、極めて残忍で凄惨(せいさん)な事件で言葉を失う。

 女性は午後8時ごろ、ウオーキングに出て事件に遭った。1995年の米兵による少女暴行事件は買い物帰りだった。今年3月、那覇市内のビジネスホテルで起きた米海軍兵による女性暴行事件は、安全なはずのホテルが犯行現場となった。

 沖縄では民間地域であっても安全ではない。女性はどのようにして自分の身を守ればいいというのか。

■    ■

 沖縄戦で米軍が離島や沖縄本島に上陸した直後の1945年3、4月からすでに各地の集落で女性が性的暴行に遭っていることがわかっている。「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」などが掘り起こした事実である。

 復帰後、米兵による女性暴行事件は県警によると、昨年末までに129件に上る。「沈黙している」女性のことを考えると、氷山の一角であろう。

 米兵による少女暴行事件が起きた際、当時の米太平洋軍司令官が「(犯罪で使用した)レンタカーを借りる金で女を買えた」と発言して更迭された。軍隊が女性の人権をどう見ているかがあからさまだ。その延長線上に事件はあるのではないか。

 95年の県民総決起大会で決議したのは、米軍人の綱紀粛正と犯罪根絶、日米地位協定の見直し、基地の整理縮小−などだった。県民の要求はいまだ実現されていない。

■    ■

 在沖米軍トップのニコルソン四軍調整官は3月の女性暴行事件で県庁を訪れ、「綱紀粛正」「再発防止」を約束した。あれから約2カ月。また謝罪である。

 米軍がらみの性犯罪でいったいどれだけの女性が犠牲になったのか。何度も再発防止策が講じられたにもかかわらず、被害が続いているのはその破綻を示すものだ。

 沖縄では基地が女性の人権を侵害する「暴力装置」のような存在になっている。「性暴力に脅かされないで当たり前に生きる権利」すら保障できないような政府はもはや政府とはいえない。

 

迫る沖縄県議選(2016年5月22日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

翁長県政支える力 強く大きく

 沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設阻止を貫く翁長雄志知事を支える県政与党が現在の過半数を確保し、さらに前進できるか―。沖縄県議選(定数48)が27日告示されます(6月5日投票)。現有5議席の日本共産党は与党「オール沖縄」の躍進、共産党候補者7人全員勝利へ全力をあげています。その結果は県民の暮らしに直接かかわるだけでなく、日本の政治にも大きな影響を与えます。県議選と、続く参院選で安倍晋三政権と自民党、公明党などにノーの審判を下し、沖縄と日本の未来を切り開くことが重要となっています。

「基地なくせ」の声は痛切

 元米海兵隊員で嘉手納基地所属の軍属が20歳の女性の命を奪う許し難い事件を起こし、県民の命と安全を危険にさらす米軍基地への激しい怒りが渦巻いています。「基地のない平和な沖縄」を実現するのは、極めて痛切な課題です。

 安倍政権が「辺野古が唯一」と新たな基地を押し付けることほど、県民の願いに逆らうものはありません。一昨年、県民の圧倒的支持で新基地反対を貫く翁長県政が誕生し、直後の総選挙では「オール沖縄」候補が県内全ての小選挙区で勝利しました。民意は明確です。

 米軍新基地建設に固執する安倍政権の下で、「県政奪還」を狙う自民党は大量の候補者を立て、「野党過半数」に向け現職閣僚の参院候補や、公明党などとともにすさまじい運動を展開しています。

 県民への公約を裏切って新基地建設推進に転じたことに反省もなく、翁長知事の県政運営を妨害する自民、公明などへの厳しい審判こそが必要です。与党議席の躍進、日本共産党7議席への前進をなんとしても実現し、新基地建設阻止の県民の揺るがぬ声を、きっぱりと示すことが求められます。

 安倍政権による暮らし破壊の暴走が続く中、国の悪政持ち込みを許さず、暮らしと福祉を守り向上させる県政を前に進めることができるかどうかも問われています。

 深刻な子どもの貧困を解消するため翁長県政は60億円の予算を組むなど真剣な努力を続けています。日本共産党県議団は、子どもの貧困の実態調査を早くから行い、対策を提案し県政を動かす役割を発揮しています。子どもの医療費無料化も翁長知事と力を合わせて制度拡充を実現しています。

 「県民の利益第一」で住民に寄り添う共産党が伸びてこそ、暮らしを守る県政の前進が可能です。

 県民に負担増を強いる来年4月の消費税10%への増税、サトウキビなど県内農業に壊滅的打撃を与える環太平洋連携協定(TPP)など暮らし破壊の暴走に一貫して反対してきた日本共産党への一票は、暮らしを守る確かな一票です。

新たな政治の扉を開こう

 戦争法が施行され、自衛隊員が戦後初めて海外で「殺し殺される」危険が迫る事態に、悲惨な沖縄戦の体験から「命(ぬち)どぅ宝」を大切にする県民は黙ってはいられません。

 戦争法廃止・立憲主義回復を掲げ参院選1人区で野党統一候補の実現が進むなか、県議選での「オール沖縄」と日本共産党の躍進は、安倍政権打倒への野党と市民の共同を全国で加速する力となります。

 県議選勝利、参院選での「オール沖縄」のイハ洋一候補の勝利、比例代表での日本共産党躍進を必ず実現し、新しい政治の扉をともに開こうではありませんか。

 

5月21日

 

沖縄の悲劇再び 基地の集中こそ元凶だ(2016年5月21日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 沖縄に米軍基地が集中する現実が、またも悲劇をもたらした。

 沖縄県うるま市の女性会社員(20)が行方不明となった事件で、県警は死体遺棄の疑いで、元米海兵隊員で基地内で働く米国人の男(32)を容疑者として逮捕した。

 岸田文雄外相はケネディ駐日米大使を呼び、「遺憾だ」として抗議した。大使は「心からの悲しみ」を表明したという。

 詳細は捜査中だが、沖縄ではこれまでも米軍基地の存在に起因する事件が繰り返されてきた。

 翁長雄志(おながたけし)知事が「この怒りは持って行き場がない。痛恨の極みだ」と憤りを示したのも当然だ。

 普天間飛行場の辺野古移設をめぐる国と県との対立も続いている。今回の事件を受けて、緊張がさらに高まる可能性もある。

 政府内からは来月の沖縄県議選や夏の参院選への影響を懸念する声も聞かれる。だが求められているのは目先の選挙対策ではなく、基地の集中という元凶の解消だ。

 来週開かれる主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせて、安倍晋三首相とオバマ米大統領との会談も予定される。両首脳は事態の打開に踏み出してほしい。

 容疑者は現役米兵ではないが、米軍に雇用された「軍属」だ。日米地位協定で米兵に準ずる扱いが規定される。事件は公務外で起き日本側が身柄を拘束している。

 基地と県民生活が隣り合わせの現状がなければ、事件は起きていないだろう。基地ゆえの悲劇だ。

 大規模な基地反対運動につながった1995年の少女暴行事件をはじめとして、沖縄では米兵が関わる事件が後を絶たない。

 今年3月にも準強姦(ごうかん)容疑で米兵が逮捕されたばかりだ。

 米政府はそのたびに再発防止を口にしてきた。日本政府も「強い憤り」を表明してきたが、言葉だけに終わってはいないか。

 米軍はまず、米兵に限らず軍属も含めた管理の徹底と綱紀粛正を図るべきだ。日米両政府は、日米地位協定を含めて、あらゆる対策を検討しなければならない。

 だが米軍専用施設の7割以上が沖縄に集中する現状が続く限り、問題の根絶は望めないだろう。

 安倍首相は日米首脳会談で今回の事件も取り上げるという。

 沖縄では事件を受け、米軍への抗議行動が既に起きている。首相は沖縄の心に寄り添い、実効性のある対策を求めるべきだ。

 オバマ氏には、被害者と県民への謝罪とともに、基地集中の解消につながる判断を期待したい。

 

沈黙の言葉(2016年5月21日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

沖縄在住の芥川賞作家目取真(めどるま)俊さんは、「沈黙の言葉」という表現を使う

▼心の奥深くに傷を負っている者は、その体験のつらさゆえに容易に口を開かない。沖縄で米軍関係者が起こした事件の被害者の多くがそうだという。時間がたっても言葉に表せない情念が残る。科学的に説明できるものでもない。それが沈黙の言葉である(「沖縄/草の声・根の意志」)

▼被害者の声なき叫びに、どこまで思いを巡らしてきたのか。またもや、沖縄で胸が痛む事件が起きた。元米海兵隊員で軍属の男が女性会社員の死体遺棄容疑で逮捕された。被害者はもはや語ることもできない。まだ20歳。たくさんの夢があっただろうに

▼1972年の本土復帰以降、沖縄の米軍人、軍属ら米軍関係者による犯罪摘発数は一昨年末までに5862件に上る。平均すれば3日に1回の割合になる。最近も後を絶たない。基地の県内移転よりも整理縮小を望む声が出てくるのは当然だ

▼犯罪を起こしても米軍関係者には特権がある。吉田茂内閣当時の寺崎太郎外務事務次官が安保条約よりも内容が大事で「本能寺」と呼んだ日米地位協定だ。不平等の証しが、米軍に甘えを生んではいないか

▼沖縄のことわざに「イチャリバチョーデー」がある。出会えば皆きょうだいの意味だ。被害がなくならない現状では、かの国の軍が「良き隣人」を自負しても仲良くできるわけがない。

 

本土の側は何にも知らん(2016年5月21日配信『河北新報』−「河北春秋」)

 

「本土の側は何にも知らん。沖縄の人々の苦悩に耐えている姿との落差が大きすぎるんだ」。むのたけじさんが著書で言っている。なるほど大事件が起きてから、やっと思い返す。基地問題、日米地位協定、女性に対する蛮行の歴史を

▼1995年、「満腔(まんこう)の怒り」という言葉を通し沖縄県民の心の内をのぞき見た。米兵による少女暴行事件に抗議する総決起大会の決議文にあった。全身打ち震えるような怒りの矛先は「米当局と、わが政府」。自国政府とも闘わねばならない状況は今も続いている

▼うるま市の会社員女性(20)の死体を遺棄した容疑で元海兵隊員の男(32)が逮捕された。殺害をほのめかす供述もしている。基地で働く軍属(民間人)だが、軍属も含めた米軍関係者による凶悪犯罪は、95年以降も絶えることがない

▼基地があるが故の不幸は、基地と共に取り払いたい。県民のそんな願いはもっともだ。終戦から70年余にわたり沖縄が強いられてきた負担と痛みを、わが身に引き寄せ考え続けねばならない

▼27日に予定されるオバマ米大統領の広島訪問や参院選への影響を懸念する声が政府周辺から出ている。今は一つの若い命が失われた事実に対しもっと謙虚であるべきではないか。政府が沖縄県民に信頼されない理由はこの辺にある。

 

沖縄の米軍属逮捕 基地の縮小、移設進めよ(2016年5月21日配信『デイリー東北』−「時評」)

 

 沖縄でまた、在日米軍関係者による痛ましい事件が起きてしまった。失踪した沖縄県うるま市の20歳の女性会社員が遺体で発見され、米軍軍属で元海兵隊員の男(32)が死体遺棄容疑で沖縄県警に逮捕された。男は女性の殺害をほのめかす供述をしているという。詳しい経緯や犯行の動機など、県警には全容を解明してほしい。

 悲惨な事件に、沖縄県民の怒りは募り、米軍への抗議の声が上がっている。米国から帰国したばかりの翁長雄志知事も「基地があるから事件が繰り返される」と語った。

 今回の事件は、沖縄県と政府が対立する普天間飛行場の辺野古移設問題への影響も考えられ、オバマ米大統領の広島訪問にも影を落としかねない。

 在日米軍施設の多くが集中する沖縄では、米軍関係者による事件、事故が後を絶たず、安倍晋三首相ら政府関係者は「再発防止」に努めると強調している。

 そのためにも、政府が先頭に立って、基地の縮小、県外移設を進めるとともに、不平等な日米地位協定の改定など対等な関係を築くことが不可欠だ。

 被害者の女性は4月から行方不明になり、県警の捜査で、軍属として米軍基地に勤務している容疑者が浮かんだ。

 容疑者は事情聴取に「動かなくなった女性を雑木林に遺棄した」と認めて逮捕された。女性の「首を絞めた」との供述もしているとされる。

 沖縄県内では、大問題になった1995年の少女暴行事件の後も、米兵らによる殺人、強盗、強姦(ごうかん)など凶悪事件がほぼ毎年起きている。

 本土復帰後も、沖縄には米軍専用施設・区域の7割以上が集中している。こうした異常な配置が深刻な状況につながっているともいえよう。普天間問題に限らず、日本政府は米軍基地の整理や縮小などを米側に強く働き掛ける必要がある。

 一方、日米地位協定は米兵らが「公務中」に事件や事故を起こした場合には、米側に第1次裁判権があるとし、原則的に日本側は起訴できない。

 「公務外」でも容疑者が基地内にいると、起訴前には日本側に身柄が引き渡されないことがあった。このため凶悪事件では、起訴前でも日本側に身柄を引き渡すなど、運用が見直されてきた。

 しかし米側から引き渡しを拒否されるケースもあり、沖縄国際大学の米軍ヘリ墜落事故では県警は現場検証を拒否された。

 沖縄は戦時中も戦後も過剰な負担を強いられてきた。これを解消するのは政府の責任だ。

 

元米兵逮捕 沖縄の怒り受け止めよ(2016年5月21日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 「基地があるがゆえに事件が起きてしまった」。翁長雄志知事の言葉は、多くの沖縄県民の思いを代弁するものだろう。

 うるま市の20歳の女性の遺体が見つかり、元米海兵隊員で軍属の男が逮捕された。政府は沖縄の怒りをしっかり受け止めなくてはならない。基地縮小を含め、再発防止の抜本策を米側と話し合うべきだ。

 4月下旬、交際中で同居する男性にスマートフォンで「ウオーキングしてくる」とメッセージを送信したまま、行方不明になっていた。供述に基づき、雑木林で遺体が発見された。むごく、痛ましい結果である。

 男が逮捕された日の夜、岸田文雄外相はケネディ駐日米大使を外務省に呼び、「極めて遺憾だ。強く抗議する」と伝えた。中谷元・防衛相も在日米軍司令官を防衛省に呼んでいる。

 安倍晋三首相は、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせて行う日米首脳会談で事件を取り上げ、厳正な対応をオバマ大統領に求める意向を固めた。米側に捜査への協力や再発防止を求めるのは当然である。

 沖縄では米軍関係者による凶悪犯罪が繰り返されてきた。1995年に米兵3人が女子小学生を連れ去り暴行した事件では、かつてなく反基地感情が高まった。それ以降もほぼ毎年起きている。

 ことし3月には那覇市のビジネスホテルで女性観光客が海軍1等水兵の部屋に連れ込まれ、暴行される事件があった。それから1カ月余りでの凶行である。米軍が綱紀粛正、再発防止を約束しても県民は信用できないだろう。

 「基地がある限り、事件が繰り返される」との声が出るのは当然だ。小さな島に在日米軍専用施設の約74%が集中する状態は改めていかなければならない。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り、政府と県の対立が続いている。

 菅義偉官房長官は「沖縄の気持ちに寄り添いながら、できることは全てやるという方針の下に負担軽減に全力で取り組む」と述べている。寄り添うというなら、辺野古を「唯一の解決策」と押し付けるのではなく、県民が広く納得できる方法を探る必要がある。

 米国務省の報道官は、逮捕後の記者会見で「移設を推進する立場は変わらない」と言明した。強行すれば、反基地感情がさらに高まるのは必至だ。日本政府には、県外移設や無条件の返還について米側と協議するよう求める。

 

暗たんとした思い(2016年5月21日配信『信濃毎日新聞』−「斜面」)

 

暗たんとした思いになる。戦後の沖縄で米兵が女性を狙って起こした犯罪の年表だ。強姦(ごうかん)や殺害の文字が並ぶ。10歳未満の被害者もいる。1972年までの米軍統治下は加害者の処罰の大半が「不明」とある

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 95年の米兵による小学生暴行事件を受け「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」が独自に調査しまとめた。本土復帰まで公式記録が存在せず、復帰後も泣き寝入りする女性が多く、実態が埋もれていた。沈黙していた無数の声が聞こえてくるようだ

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 20歳の女性も訴えたいはずだ。なぜ私の人生を奪ったのか、と。ウオーキングという日常に押し入った暴力。遺体となって発見され、元海兵隊員が逮捕された。繰り返される悲劇に地元紙沖縄タイムスの社説は、パソコンを打つ手の震えを抑えることができない、と書き出している

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 軍隊は人間や環境、文化全てを破壊し尽くす日々の訓練と実戦によって兵士を非人間化し、通常よりさらに強い性や人種の差別意識を内在化させる―。95年の国連世界女性会議に伴うNGOフォーラムで、沖縄の経験を踏まえて出された共同声明の一文だ

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 女性への犯罪は「構造的暴力」との訴えである。行動する女たちの会の共同代表、高里鈴代さんは自著「沖縄の女たち」に〈沖縄の経験を沈黙の墓に埋葬してはならない〉と書いている。その声にいつまでも聞こえぬふりができるのか。

 

米軍属逮捕 繰り返される沖縄の悲劇(2016年5月21日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 沖縄県で、また米軍関係者による凶悪な犯罪が起きた。

 うるま市の会社員、島袋里奈さん(20)が遺体で見つかった事件で、米軍属の男が死体遺棄容疑で県警に逮捕されたのだ。

 米空軍嘉手納基地で働く元海兵隊員、シンザト・ケネス・フランクリン容疑者(32)は「首を絞め、刃物で刺した」と殺害をほのめかす供述をしているという。

 被害者は地元ショッピングセンターで働き、結婚を前提に交際相手と幸せに暮らしていた。

 ところが4月28日に行方不明となり、県警が捜査していた。容疑者の供述に基づき、白骨遺体が恩納村の雑木林で発見された。

 20歳の若さで暴力的に人生を断たれるとは、何とむごいことか。家族や周囲の人々の悲しみは、想像に余りある。

 米軍関係者による日本国内での凶悪犯罪は後を絶たない。

 殺人や強盗などの凶悪犯で、全国の警察が摘発した米兵、軍属らは、2015年までの10年間で62件91人に上った。

 在日米軍の専用施設・区域の約7割が集中する沖縄では、ほぼ毎年発生している。

 1995年の米兵による女子小学生暴行事件では、沖縄で「県民総決起大会」が開かれた。

 県民の激しい抗議は翌年、日米政府が米軍普天間飛行場の返還に合意する原動力となった。

 「基地の島」で、同じような悲劇を繰り返させてはならない。日米両政府は、実効性のある再発防止策に真剣に取り組むべきだ。

 犯罪の温床になっていると指摘されるのが、米側に大きな特権がある日米地位協定だ。

 在日米軍の軍人や軍属が事件、事故を起こしても、「公務中」と判断されれば、原則として米側に第1次裁判権がある。

 「公務外」なら、その権利は日本側が持つ。だが容疑者が基地内に逃げ込めば、起訴までの間、日本側に身柄は渡されない。

 95年の事件でも、先に米側が容疑者の身柄を拘束し、地位協定を盾に引き渡しを拒否した。

 猛反発を受け、運用が改善された。殺人など凶悪犯罪に限り米側の同意があれば、起訴前でも身柄が引き渡されるようになった。

 米軍関係者の凶悪犯罪を抑止するには、協定を抜本的に改定する必要があるのではないか。

 政府は毅然(きぜん)とした態度で米側と交渉すべきだ。

 今回の事件で、沖縄に反基地のうねりが高まるのは間違いない。

 普天間飛行場の辺野古移設問題や、27日に予定される米オバマ大統領の広島訪問への影響は避けられまい。

 沖縄では6月に県議選を控え、夏には参院選がある。

 基地集中への不満が強まり、辺野古移設に対する反発が大きくなれば、選挙結果にも影響しよう。

 安倍政権は、米大統領訪問を参院選への弾みにするシナリオを描いていた。日米の歴史的な和解と同盟関係を演出するものだ。

 だがまずは、足元の苦しみを直視すべきではないのか。国民の安全を守るのが政府の仕事だ。

 

沖縄の米軍属逮捕 基地ある限り事件起きる(2016年5月21日配信『福井新聞』−「論説」)

 

沖縄でまたも米軍絡みの許しがたい事件が起きた。行方不明だった20歳の女性が遺体で見つかった。沖縄県警は元米海兵隊員で嘉手納基地で働く軍属の男を死体遺棄の疑いで逮捕した。在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄の悲しい現実である。政府が強調する「基地負担の軽減」は、完全撤去へ向かわなければ、こうした凶悪事件が繰り返されるだろう。

 米国から帰国したばかりの翁長雄志(おながたけし)知事は「沖縄の米軍基地がいかに理不尽な形で置かれているかと話してきた。その矢先に、基地があるがゆえの事件が起きてしまった」と絶句、「痛恨の極み」と憤った。

 安倍晋三首相は「非常に強い憤りを覚える。徹底的な再発防止など厳正な対応を求めたい」とし、菅義偉官房長官も「言語道断。二度と起こらないよう、あらゆる機会を通じて米側に対応を求め続けたい」と強調した。言葉の調子は強いが、政府は「二度と起こらないよう」と何度繰り返してきただろうか。

 沖縄に厳然として治外法権が存在する限り、再発防止は当てにならない。日米同盟の強化は日本の安全保障政策の基本だが、県民の安全は過去も、現在も保障されてはいない。

 1995年、米兵による女子小学生暴行事件が発生した。反基地の怒りは翌年の日米両政府による普天間飛行場の返還合意につながった。だが、その飛行場は20年たっても返還されず、名護市辺野古で新基地建設工事が進められている。

 国土の0・6%の土地に米軍専用施設の約74%が集中するというが、割合は14年の73・8%から、今年1月現在では74・46%に増えているという。基地負担軽減に実効性がない。

 72年の沖縄返還からこれまで、米軍関係者による犯罪検挙数は6千件近い。米兵の殺人、強盗、強姦(ごうかん)などの凶悪犯罪は95年以降も毎年数件発生。3月にも女性観光客が那覇市内で暴行される事件が起きている。

 県警の調べによると、亡くなった女性は「ウオーキングしてくる」と出た後、行方不明になった。逮捕された軍属の男は「首を絞め、刃物で刺した」と供述している。全く面識もなかったとすれば、県民は安心して外も歩けない。

 日米安保条約に基づく地位協定は、米兵・米軍属が事件を起こした場合、米側に特権を認めている。今回米側は捜査に全面的に協力するとしているが、この「特権」こそ、いまだ戦後を引きずる「沖縄の痛み」そのものである。

 オバマ米大統領が26日からの主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)のため来日する。安倍首相が日米首脳会談で厳しく申し入れ、オバマ氏も「遺憾の意」を表明するだけでは、何ら現状は変わらない。治外法権を改め、基地縮小・撤退への道筋を付けることでしか県民は納得しないだろう。

 

元米兵逮捕 基地を減らすしかない(2016年5月21日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 沖縄県民は幾度、おぞましい事件に直面しなければならないのか。

 うるま市の女性(20)が遺体で見つかり、米国籍で元米兵の男(32)が死体遺棄容疑で県警に逮捕された。男は女性殺害をほのめかしているという。

 元米兵は米軍嘉手納基地で働く軍属である。現役の兵士ではないが、米軍基地が存在しなければ起きなかった事件だと言わざるを得ない。

 太平洋戦争末期に米軍が沖縄に上陸して以降、米軍統治下の27年間も、72年の日本復帰後も、沖縄では米軍人・軍属による事件が繰り返されてきた。

 県警によると、復帰から昨年までの在沖米軍人・軍属とその家族らによる殺人や強姦(ごうかん)などの凶悪事件は574件にのぼる。

 事件のたびに県は綱紀粛正や再発防止、教育の徹底を米軍に申し入れてきた。だが、いっこうに事件はなくならない。

 全国の米軍専用施設の75%近くが集中する沖縄で、米軍関係者による相次ぐ事件は深刻な基地被害であり、人権問題にほかならない。これ以上、悲惨な事件を繰り返してはならない。そのためには、沖縄の基地の整理・縮小を急ぐしかない。

 95年に起きた米海兵隊員らによる少女暴行事件を受けて、全県で基地への怒りが大きなうねりとなった。その翌年、日米両政府は米軍普天間飛行場の返還で合意したはずだった。

 だが20年たっても返還は実現せず、日本政府は名護市辺野古沿岸に移設する県内たらい回しの方針を変えようとしない。

 日本の安全に米軍による抑止力は必要だ。だがそのために、平時の沖縄県民の安全・安心が脅かされていいはずがない。

 たび重なる米軍関係者による事件は、そうした問いを日本国民全体に、そして日米両政府に突きつけている。

 日本政府が米政府に再発防止を強く求めているのは当然だ。来週、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)のために来日するオバマ大統領にも、安倍首相から厳しく申し入れてほしい。

 だがそれを、一連の外交行事が終わるまでの一時しのぎに終わらせてはならない。

 長く県民が求めてきた辺野古移設の見直しや、在日米軍にさまざまな特権を与えている日米地位協定の改定も、放置されてきたに等しい。

 地元の理解のない安全保障は成り立たない。こうした県民の不信と不安を日本全体の問題として受け止め、幅広く、粘り強く米側に伝え、改善の努力を始めなければならない。

 

元米兵が死体遺棄容疑で逮捕(2016年5月21日配信『朝日新聞』−「天声人語」)

 

 沖縄県伊江島の農民が立ち退きを求められたのは、戦後10年近くたつ1954年のことだ。米軍が広い演習場をつくろうとしていた。求めに応じなければ強制的に追い出す。米軍は農民たちに迫った

▼反対運動の先頭に立った阿波根昌鴻(あはごんしょうこう)さんが『米軍と農民』で軍とのやりとりを記録している。「敵の危険ログイン前の続きから沖縄を守るため」土地が必要だと米軍から言われるが、どうして自分たちが犠牲にならないといけないのか、農民たちには納得ができない。米軍は言った。「大多数を安全にするためには少数の者が犠牲になることは、気の毒だがやむをえない」

▼犠牲は沖縄全体にのしかかっていった。50年代以降、本土の基地が縮小する一方で沖縄の米軍基地は拡大し、固定化する。基地があるがゆえの残虐な事件がまた起き、若い命が失われた

▼亡くなった女性は、成人式を終えたばかりで、仕事を頑張っていると母親に話していたという。なぜ被害にあわなければならなかったのか。心から冥福を祈りたい

▼忘れてはいけないのは、沖縄では日常的に軍関係者による犯罪が起きていることだ。在日米軍専用施設の7割以上が沖縄に集中している。そのゆがみを改めて感じる

▼容疑者は元米兵で、基地がなければ沖縄に来ることはなかっただろう。日本人女性と結婚して、幼い子もいるという。地域で暮らす一人の住民だった彼がなぜ事件を起こしたのか。逮捕直前に自殺を図ったとも伝えられる。今回の事件が壊したものの大きさを思う。

 

沖縄米軍属逮捕 県民の怒りに向き合え(2016年5月21日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 

 なぜ沖縄で米軍絡みの凶悪な犯罪が繰り返されるのか。米軍属の男が女性会社員の遺体を遺棄した事件に、沖縄の人は怒りを募らせている。

 被害者の20歳の女性は結婚を前提にした交際相手がいたという。将来ある若者に対する卑劣な行為だ。逮捕された男は女性の殺害もほのめかしているという。

 日本政府は米政府に強く抗議し、綱紀粛正を求めた。安倍晋三首相も「非常に強い憤りを覚える」と語った。まずは事件の全容を把握し、動機や背景を解明する必要がある。

 沖縄の面積は、全国のわずか0・6%だ。そこに在日米軍専用施設の74%が集中する。沖縄県の面積に占める割合は10%。沖縄米軍基地の整理・縮小計画を決定した20年前に比べても減少率は1ポイントに届かない。

 1995年の米兵3人による沖縄少女暴行事件は、反基地運動に火を付け、日米同盟を揺るがした。だが、再発防止や綱紀粛正を唱えるものの、凶悪事件はなくならず、昨年も沖縄では3件の強盗事件が起きた。

 過重な米軍基地負担と、後を絶たない米軍関係者の犯罪は、沖縄の人たちに重くのしかかり、不公平感をかきたてさせずにはおかない。

 日本政府は、沖縄の不安や怒りがいかに深いかを米国に訴えるべきだ。そのうえで、安倍政権は沖縄の基地負担軽減に一層、取り組む必要がある。

 政府や自民党は、6月の沖縄県議選や今夏の参院選を前に米軍普天間飛行場移設問題への影響を懸念している。だが、基地問題という本質に向き合わなければ沖縄の怒りが収まることはない。

 綱紀粛正も効果がないままでは、反基地感情は増幅するばかりだ。沖縄県民や議会は、再発防止の仕組み作りや、米軍人・軍属らの事件・事故の扱いを定めた日米地位協定の改定を求めている。

 今回は公務外の犯罪で日本側が逮捕しており、地位協定の制約に伴う支障は出ていない。しかし、米軍が拘束していた場合でも要請できる起訴前の身柄引き渡しには、強制力はなく、米側が拒否した例もある。

 こうした裁判権の改定は抑止効果があるとして労働組合や弁護士団体が求めてきた経緯がある。犯罪抑止の観点から議論を促したい。

 来週の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では、日米首脳会談も予定されている。基地の整理・縮小や犯罪の防止など米軍基地問題で真剣な意見交換をする好機だ。

 2000年の九州・沖縄サミットの際、クリントン米大統領は「よき隣人としての責任を果たす」と約束した。残念ながら、そのことばはいま、空虚に響く。

 

沖縄米軍属逮捕 再発防止へ厳正対応が必要だ(2016年5月21日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 残虐で、許し難い犯行である。在日米軍には、実効性ある再発防止策の徹底を求めたい。

 沖縄県うるま市の20歳の女性が4月下旬から行方不明になっていた事件で、沖縄県警が米軍属の32歳の男を逮捕した。恩納村の雑木林に女性の遺体を遺棄した容疑だ。

 男は容疑を認め、女性の首を絞め、刺したとの趣旨の供述もしているという。男は元海兵隊員で、今は米軍嘉手納基地でインターネット関連の業務に就いている。

 県警は、犯行に至る経緯や動機など、事件の全容解明に向けて捜査に全力を挙げてもらいたい。

 安倍首相が「非常に強い憤りを覚える。今後、徹底的な再発防止など厳正な対応を米国側に求めたい」と語ったのは当然である。

 今回の事件で看過できないのは27日のオバマ米大統領の広島訪問に対する影響だ。日米同盟を新たな段階へ導く歴史的な訪問に、深刻な影を落としかねない。

 男の逮捕当日、岸田外相はケネディ駐日米大使に対し、「卑劣で残忍な凶悪事件で、極めて遺憾だ」と申し入れた。中谷防衛相もドーラン在日米軍司令官に抗議した。矢継ぎ早の対応は、日本政府の強い危機感の表れだろう。

 ケネディ氏は、「沖縄県警や日本政府に全面的に協力する」と岸田氏に約束した。米側も、オバマ氏の来日をより意義深いものにするとの問題意識を共有し、真剣に対応していると言える。

 沖縄では、米軍関係者による凶悪犯罪が繰り返されてきた。

 2012年10月に海軍の兵士2人が集団強姦ごうかん致傷容疑で逮捕され、その後、実刑判決を受けた。今年3月にも、海軍兵1人が準強姦容疑で逮捕されている。

 不祥事の度に、米軍は再発防止を約束した。12年の強姦事件後には、日本に滞在する全軍人に夜間外出禁止令を発し、軍人・軍属への再教育も表明した。

 それでも事件が続くのは、過去の対策が不十分だったからだ。米軍の教育が有効に機能したのか、本格的に検証する必要がある。それを踏まえ、効果的な綱紀粛正策を実施しなければならない。

 沖縄県の翁長雄志知事は「基地があるがゆえの事件が起きてしまった」と述べた。今回の犯行は男の勤務時間外であり、日米地位協定上の問題は生じていない。事件を普天間飛行場の辺野古移設と絡めて政治利用してはなるまい。

 日米両政府は、米軍基地の整理縮小など、沖縄の負担軽減策を着実に実行していくべきだ。

 

米軍絡みの犯罪防止に全力を(2016年5月21日配信『日経新聞』―「社説」)

 

 沖縄で若い命がまた失われた。なぜ米軍絡みの凶悪犯罪はなくならないのか。事件があるたびに米政府は綱紀粛正を誓うが、長続きしない。地域の一員であるという意識が不足しているからではないか。日米両政府は沖縄県民の心情に寄り添い、本気で犯罪をなくす努力をすべきだ。

 安倍晋三首相は「非常に強い憤りを覚える。徹底的な再発防止など厳正な対応を米国側に求めたい」と語った。ことばだけに終わらせないでほしい。

 米軍は米本土から新しい兵隊が送り込まれてくるたびに「基地外で泥酔するな」などと厳命する。沖縄が先の大戦の激戦地で、米軍への悪感情を持つ人が多いことも教える。「これ以上は打つ手がない」。そう漏らす米軍幹部に会ったことがある。

 本当にそうか。米軍内に沖縄は自分たちが戦争で勝ち取った場所という意識はない、といえるだろうか。同じ島で生活する仲間という気持ちがあれば、このような蛮行ができるはずはない。

 事件の容疑者は基地で働く軍属だが、もともとは海兵隊員だ。在日米軍絡みの犯罪では、海兵隊が最も多いのは事実だ。日米は2006年、沖縄の海兵隊のうち約8000人を14年中にグアムに移すことで合意したが、施設整備の遅れなどで予定通り進んでいない。

 この移転は海兵隊が使う普天間基地の県内移設とは本来連動しておらず、遅れは移設反対運動のせいとはいえない。沖縄県民からすれば、米兵犯罪の温床を取り除く努力を日米両政府が怠っているようにしか見えない。

 「間が悪い」。安倍政権内にこんな声があるそうだ。オバマ米大統領の来日が近い時期、という意味だろうが、帰ったあとならば起きてよかったのか。県民感情を逆なでするような見方だ。

 「しっかり対応してもらった」と県民が思う振る舞いを日米両政府はできるか。普天間移設のハードルがさらに高くなるかどうかの正念場である。

 

元米兵の凶行 怒りを悲劇根絶につなげ(2016年5月21日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 沖縄県うるま市の女性会社員が、無残な遺体で発見された。死体遺棄の疑いで元海兵隊員の米軍属が逮捕された。

 被害者はまだ、20歳の若さだった。どれだけ無念だったろう。遺族の悲しみはどれだけ深いだろう。住民らが怒るのは、当然である。

 安倍晋三首相は「非常に強い憤りを覚える」と述べ、菅義偉官房長官は「残忍で凶悪な事件の発生は許し難く言語道断だ」と強く批判した。

 政府は米側に強く抗議し、全容解明への全面協力と、具体的な再発防止策を求めてほしい。

 容疑者は海兵隊を退役後、空軍嘉手納基地でコンピューター関連の仕事に従事していたとされる。在日米軍の軍属とは、基地で事務員や技師として働き、軍務を支援する民間の米国人を指す。

 日米地位協定は、在日米軍の軍人、軍属が公務中に事件、事故を起こした場合、米側に第1次裁判権があると規定している。このうち軍属については、平成23年、米側が刑事訴追しなければ日本側で裁判ができるよう、協定の運用が見直された。

 今回の事件は公務中のものではなく、日本の刑事手続きにより、沖縄県警が捜査している。米軍側も捜査に協力している。

 沖縄ではこれまでも、米軍関係者による許し難い事件が繰り返されてきた。平成7年には米兵3人が小学生女児を暴行する事件があった。米側は地位協定をかざして起訴前の身柄引き渡しに応じず、県民の猛反発を招き、協定の「運用改善」や米軍普天間飛行場の返還合意につながった。

 13年には米兵が駐車場で女性を暴行した疑いで逮捕され、24年には米兵2人が集団強姦(ごうかん)致傷容疑で逮捕された。その度、米軍は綱紀粛正を約束するが、事件は後を絶たない。今年3月にも、那覇市のホテルで米兵が女性観光客を乱暴し、準強姦容疑で逮捕されたばかりだった。

 沖縄は地政学的にも国の守りの要諦であり、米軍の駐留は抑止力として欠かせない。日米同盟にはいささかの揺るぎもあってはならない。だがそのことと、事件に対する感情は別の問題である。

 日本の国民が、残虐な事件の犠牲者となったのだ。当然の怒りを自制する必要はない。その感情は、悲劇の根絶に向けた取り組みにぶつけたい。

 

元海兵隊員逮捕 沖縄を安心安全の島に(2016年5月21日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 米軍基地があるために犯罪が繰り返される。沖縄県で女性が行方不明になっていた事件で、元米兵が死体遺棄容疑で逮捕された。県民を守るために、日本政府は米国との交渉に全力を尽くすべきだ。

 「またか!」と県民には痛恨の極みだろう。4月から行方不明になっていたうるま市の会社員女性(20)の遺体が恩納村の山林で発見された。沖縄県警は米軍嘉手納基地で働く元海兵隊員のシンザト・ケネス・フランクリン容疑者(32)を逮捕。「女性を捨てた」と容疑を認め、殺害をほのめかす供述をしているという。

 被害者の女性はシンザト容疑者と面識がない。犯罪に巻き込まれたのは、普段の暮らしのすぐ隣に基地があったがためである。

 在日米軍専用施設の74%が集中する沖縄は「基地の中に沖縄がある」と例えられる。米軍関係者による犯罪は、第2次大戦末期の沖縄戦当時から繰り返されてきた。

 全国の警察が2006年から10年間に摘発した殺人や強盗などの凶悪犯は62件91人。沖縄では毎年のように発生している。

 事件のたびに日米政府は遺憾の意を示すが、現実には再発防止になっていない。沖縄の人々が求めるのは、米軍基地の廃止である。それがすぐにかなわないなら米軍に特権を与え、県民を憲法のらち外に置く日米地位協定を対等なものに改めることである。

 シンザト容疑者は、今は軍人ではないが、日米地位協定で定められる「軍属」に当たる。今回は「公務外」であるため、日本の刑事手続きに従って罪が問われることになるが、米兵、米軍属による犯罪がやまない背景には、改善運用はされるものの、不平等を解消する抜本的見直しがされてこなかった協定があることは論をまたない。

 辺野古新基地に反対する沖縄県民の声を直接伝えようと、翁長雄志知事が訪米している最中に急展開した事件である。無残な犯行で若い命が奪われたことに、沖縄の怒りはまた燃え上がる。大規模な基地反対運動のきっかけとなった、1995年の少女暴行事件を思い起こさせる。

 事件が米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設に伴う、名護市辺野古の新基地建設に影響を与えるのは必至だ。来日するオバマ米大統領は沖縄の米軍基地がいかに理不尽な形で置かれているのか、県民の痛みの声を正面から受け止めてほしい。広島の思いだけでなく、沖縄の思いを毅然(きぜん)として伝えることも、政府の責務である。

 

肝苦(ちむぐり)(2016年5月21日配信『東京新聞』−「筆洗」)

 

極北の民が話すイヌイット語には「イクトゥアルポク」という言葉があるそうだ。意味は、<だれか来ているのではないかと期待して、何度も何度も外に出て見てみること>。きっと客人を大切にする民なのだろう

▼南アフリカのズールー語で「ウブントゥ」は<あなたの中に私は私の価値を見出し、私の中にあなたはあなたの価値を見出す>との意味で、「人のやさしさ」を表すというから、実に味わい深い

▼世界にはおよそ6000の言語がある。その一つ一つに風土が深く染み込んでおり、だから、他の言語に簡潔に置き換えにくい言葉も多い。『翻訳できない世界のことば』(創元社)は、そんな言葉を集めた小さな宝箱のような本だ

▼その箱にぜひ加えてほしいのが、沖縄の言葉「肝苦(ちむぐり)さ」だ。これも訳すのが難しいという。だれかの悲しみや苦しみを思えば、自分の心が本当に痛くなる。他人の痛みを自分の痛みとする。そういう深い意味合いを持った言葉なのだそうだ

▼沖縄はいま、「肝苦さ」でいっぱいだという。20歳の女性が、行方不明になった。家族は祈り続けただろう。しかし遺体で見つかり、元米兵が逮捕された。「基地の島」で、またも悲劇が繰り返された

▼娘の命を奪われた家族の悲しみ。いくら米軍基地の県外移転を訴えても顧みられぬ沖縄の痛み。日本中が、「肝苦さ」の本当の意味を理解する時だ。

 

「捨て石」(2016年5月21日配信『静岡新聞』−「大自在」)

 

▼戦時中は「捨て石」にされ、戦後は地政学上などから「要石」になり、国土面積のわずか0・6%の土地に在日米軍専用施設の約74%が集中する。米兵らの起こす悲惨な事件や事故は今も絶えない。その度に悲嘆が、反発が渦巻く。沖縄の現実である

▼思い出すのは、女子小学生が米兵に暴行された1995年の事件だ。全国に怒りの声が満ちあふれ、反米軍基地運動のうねりとなって広がった。翌年の普天間飛行場返還合意へとつながったが、返還される見通しは依然立っていない

▼沖縄の大学構内に米軍ヘリが墜落した際は、現場を撮影していたテレビ局のカメラマンに迷彩服の米軍関係者が立ちふさがった。大きな手でカメラのレンズに“ふた”をしようとするしぐさが印象に残る

▼そしてまたもや凶悪な事件が起き、尊い命が奪われた。「県民は悔しくて、悔しくて泣いている」。怒りに震える沖縄の人々の声が届いている。4月に消息を絶った女性(20)が遺体で見つかり、警察は米空軍基地で働く元米海兵隊員で米軍属の男(32)を死体遺棄容疑で逮捕した

▼女性は結婚を前提に男性(21)と交際し、幸せな生活を送っていたようだ。勤め先の店長によれば、真面目で、明るく気配りのできる子だった。有り余る将来に、どんな夢を紡いでいたのだろうか。痛ましい

▼来週にはオバマ米大統領の被爆地・広島への歴史的訪問がある。政府は歓迎ムードに水を差す心配をする前に、断固とした抗議の声とともに厳しい対応を迫るのが先だろう。沖縄の怒りにふたをすることはできない。

 

沖縄米軍属逮捕  もう悲劇を繰り返すな(2016年5月21日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄でまた、女性が被害に遭い、米軍関係者が逮捕される事件が起きた。

 沖縄県うるま市の女性会社員(20)が遺体で見つかり、死体遺棄容疑で県警に逮捕された米軍属の男(32)は殺害をほのめかす供述をしているという。米軍関係者が関わったとみられる凶悪事件が繰り返されたことを、日本政府は重く受け止めなければならない。

 翁長雄志知事は「基地があるがゆえに事件が起きてしまった」と強調した。県民から激しい怒りの声が上がるのも当然だ。

 1995年の米兵による少女暴行事件では、県民の怒りが大きなうねりとなった。「県民総決起大会」に約8万5千人(主催者発表)が集まって抗議の声を上げ、翌年の日米による米軍普天間飛行場の返還合意につながった。

 しかし、米軍関係者による犯罪は後を絶たない。

 警察庁によると、殺人や強盗などの凶悪犯で全国の警察が摘発した米兵、軍属らは昨年までの10年間で62件91人に上った。沖縄県では少女暴行事件が起きた95年以降、2013年を除いて毎年1〜7件発生している。今年3月にも、那覇市で女性観光客が海軍1等水兵に暴行された。

 在日米軍の軍人や軍属が事件、事故を起こした場合、日米地位協定で米側に大きな特権がある。「公務中」と判断されれば、原則として米側に第1次裁判権があり、日本の検察は起訴できない。「公務外」なら日本側に第1次裁判権があるが、容疑者が基地に逃げ込むなどすれば起訴されるまで日本側に身柄は引き渡されない。

 過去の事件を通じて協定は見直されてきたが、米兵による事件に関する抜本改正は見送られた。協定による特権が、犯罪が絶えない要因となってはいないか。

 事件が起きるたびに、米側に綱紀粛正を求めるだけでは不十分だ。日本政府は地位協定の改定や米軍基地の県外移設を含めた根本的な対策を検討する必要がある。

 今回の事件を受け、普天間飛行場の名護市辺野古移設をめぐる県と政府の対立が激しくなる可能性がある。6月の県議選や夏の参院選で米軍基地問題が焦点となるのは間違いない。

 今月下旬には主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)やオバマ米大統領の広島訪問がある。安倍晋三首相はオバマ氏に厳正な対処を求め、具体的な再発防止策を日米で早急に協議すべきだ。

 

米軍属逮捕/過大な基地負担が背景に(2016年5月21日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 沖縄県うるま市の女性会社員が遺体で見つかった事件で、元米海兵隊員で軍属の男が死体遺棄容疑で逮捕された。沖縄県警の調べに殺害をほのめかす供述をしている。

 容疑が事実なら、許すことのできない卑劣な犯罪だ。命を奪われた女性の恐怖や家族の悲しみ、憤りは察するに余りある。

 米軍関係者による痛ましい事件が繰り返されたことに県民も衝撃を受けている。容疑者は米空軍嘉手納基地に勤めており、米軍は捜査に全面協力すべきである。

 安倍晋三首相は「徹底的な再発防止など厳正な対応を米国側に求めたい」と述べた。綱紀粛正を強く求めねばならない。来日するオバマ米大統領にも沖縄の基地問題の現状をきちんと伝えることが重要だ。

 国土の0・6%の沖縄に在日米軍専用施設・区域の74%が集中する。そうした異常な状況の下で、1972年の本土復帰後も米軍関係者による犯罪が続発してきた。

 2014年末までの犯罪摘発件数は約6千件に上り、殺人や性的暴行などの凶悪事件が約1割を占める。被害届が出されない例も含めれば実数はもっと多いだろう。

 海兵隊員らによる少女暴行事件で県民の怒りが爆発したのは1995年のことだ。それを機に日米政府は普天間飛行場の返還で合意した。

 だがその後も事件は続いている。今年3月には那覇市のホテルで海軍兵士が女性観光客を自室に連れ込んで暴行し、逮捕された。その都度米軍は夜間外出禁止などを実施するが、効果はほとんど見られない。

 背景には、米軍関係者に有利な日米地位協定の問題があるとされる。公務中の事件、事故は米側の裁判権が優先され、公務外でも基地に逃げ込めば警察は逮捕できない。

 今回のような凶悪事件の場合は米側が身柄を引き渡すなど運用の改善で対応しているが、米側の「好意的考慮」にとどまる。日本側の捜査や訴追に支障のないよう協定改正を迫るのが政府の責務ではないか。

 県民は米軍機の事故などの危険にも直面しており、我慢の限界だろう。過大な基地負担の軽減を急がねばならないが、地元が反対する普天間飛行場の辺野古移設にこだわっていては進展は望めない。政府は米軍基地の移転、縮小について米側と幅広く協議する必要がある。

 

(2016年5月21日配信『神戸新聞』−「正平調」)

 

沖縄の女子高生の言葉が人々の胸を打ったのは21年前だった。米兵が繰り返す犯罪にもう耐えられない、と彼女は訴えた。「軍隊のない、悲劇のない、平和な島を返してください」

◆米兵の少女暴行事件に対する抗議集会でのことだ。戦後50年。私たちはいつまで基地に苦しめられるのか。怒りは全国に伝わった。が、地元の人には苦い思いも残った。「それを伝えるために少女を犠牲にしてしまった」

◆犠牲はもう出さない。願いはまたも打ち砕かれた。沖縄で行方が分からなくなっていた20歳の女性会社員の遺体が雑木林で見つかった。米軍属の男が死体遺棄容疑で逮捕された

◆「犯人を私の手で殺したい」と語った母親の悲痛を思う。琉球新報によれば、親族や近所の人たちが「大丈夫よ大丈夫よ」「元気でありますように、元気でありますように」と声を掛け合い無事を祈り続けたそうだ。あまりにむごい結末である

◆“抑止力”の名の下、沖縄の米軍は何を守っているのだろう。「軍隊は住民を守らない」と書いたのは作家の司馬遼太郎さんだった。軍隊は軍隊を守り、さらには国家などといった崇高なものを守ると

◆オバマ大統領の来日を前に「タイミングが悪い」との声が政治や外交の世界から漏れてくる。ひと一人の命が奪われたのに、何を守ろうというのか。

 

米軍属の犯罪 沖縄で繰り返される悲劇(2016年5月21日配信『山陽新聞』−「社説」)

  

 今年成人式を迎えたばかりの若い命が奪われ、米軍関係者が逮捕された。沖縄県民の間に、大きな衝撃が広がっている。

 沖縄県うるま市の20歳の女性が4月末から行方不明になっていた事件で、沖縄県警が逮捕したのは元米海兵隊員で、現在は米軍嘉手納基地(嘉手納町など)で働く「軍属」だった。女性を車で連れ去り、殺害した疑いがある。

 在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄県では、米軍人や軍属による犯罪が繰り返されてきた。「基地があるから事件が起きる」として、県民の間で基地への反発が強まっている。

 今回の事件で、沖縄県民が受けている衝撃を理解するためには、本土に住む私たちも沖縄で戦後に起きた悲劇を知っておく必要がある。米軍人らによる犯罪の中で、特に県民の記憶に焼き付いているのは「由美子ちゃん事件」だ。

 1955年9月、石川市(現在のうるま市)に住む6歳の少女が行方不明になり、翌朝、米軍基地の近くで遺体が見つかり、米軍人が逮捕された。当時、沖縄は米国の施政権下にあり、容疑者の身柄は米国に移され、沖縄側には裁判の状況すら、ほとんど知らされなかったという。

 その後も沖縄県内では米軍人らによる事件が続いた。殺人、強盗、強姦(ごうかん)などの凶悪犯罪は本土復帰から間もない77年が69件とピークで、その後、数は減ったが、ほぼ毎年起きている。95年には複数の米軍人による小学生の少女への暴行事件が起きた。県民の反発はかつてなく高まり、これが日米両政府による米軍普天間飛行場(宜野湾市)の返還合意につながった。

 今回の事件を受け、日本政府は米側に徹底的な再発防止を求めるとしている。しかし、これまでも米側は事件のたびに再発防止を約束してきたが、事態は変わっていない。沖縄県内からは、日米地位協定の抜本的な見直しを求める声が上がっている。

 日米地位協定は、在日米軍の軍人や軍属が犯罪に問われた場合、「公務中」なら原則的に米側に優先的な裁判権があると定めている。「公務外」なら日本側に裁判権があり、今回の事件はそのケースに当たる。ただ、過去の事件では公務外でも容疑者が基地内に逃げ込むなどすれば、起訴されるまで、日本側に身柄は引き渡されなかった。

 95年の少女暴行事件などを機に米側は運用改善に応じてきたものの、米側の裁量で日本の捜査が左右される状況は変わっていない。依然として不公平との批判は根強く、米軍人や軍属による犯罪が絶えない温床になっている、と指摘されている。

 沖縄県内の反基地感情が高まれば、日米関係に大きな影響を与えることになる。日米両政府は沖縄の声を真摯(しんし)に受け止め、地位協定の改定を含めた本格的な議論を始めるべきだ。

 

沖縄元米兵逮捕 「綱紀粛正」もはや限界(2016年5月21日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 またしても許しがたい事件が沖縄で起きた。行方不明になっていた20歳の女性の死体を遺棄した疑いで、元米海兵隊員で軍属の男が逮捕された。殺害をほのめかす供述もしているという。基地絡みの凶悪犯罪は後を絶たない。言葉だけの綱紀粛正や再発防止ではもはや限界だ。

 「徹底的な再発防止など厳正な対応を米国側に求めたい」。きのう、安倍晋三首相の言葉は沖縄県民にどう聞こえたか。歴代政権から何度も聞き、そのたびに裏切られてきた。県民は怒りを抑えきれないでいよう。

 現にことし3月にも那覇市で女性観光客が暴行され、米兵が逮捕された。この時も県が米軍に綱紀粛正を求めたが、痛ましい事件が繰り返された。

 今回の容疑者は除隊後、嘉手納基地で電気関係の仕事をする民間人の軍属だった。教育責任がある米軍は何をしていたのだろう。場当たり的な対応では何も変わらないということだ。

 昨年、米軍人や軍属、その家族による刑法犯摘発は全国で76件に上り、半数近くの34件は沖縄だった。今回も「基地があるがゆえに事件が起きてしまった」と翁長雄志(おなが・たけし)知事は断じる。

 容疑者逮捕のおととい、知事は米国から帰ってきたばかりだった。普天間飛行場の辺野古移設を含め、理不尽な状況を伝えに行っていた。基地の危険は、今回のような凶悪犯罪も含む。知事の怒りもなおさらだろう。

 思い出されるのは、沖縄の女子小学生が米兵に暴行された1995年の事件である。反基地感情が噴き出し、日米両政府による普天間返還合意につながった。だが20年たっても返還されず、負担軽減は進んでいない。

 凶悪犯罪がこうも繰り返される以上、米軍基地の整理・縮小を加速させるしかあるまい。完全撤去を求める声も一層増えてこよう。むろん実現には、米軍の最高司令官を動かさねばならない。そのオバマ大統領が間もなく日本にやって来る。

 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせ日米首脳会議を開く。安倍首相は沖縄の現状や怒りを率直に伝え、基地問題の踏み込んだ議論をすべきだ。

 すぐにでも手を付けられるのは日米地位協定である。今回は公務外の軍属が犯した事件で米側は捜査に全面協力する方針という。しかし米軍人らの公務中の犯罪は米側に第1次裁判権があり、かねて不平等が指摘されてきた。犯罪抑止の観点からも日本側から見直しを求めたい。

 政府与党は安全保障関連法の施行などを受け、かつてない良好な日米関係をアピールする。今こそ対等な同盟関係を示す時だが、政府は事件の早期収拾を図る考えだ。参院選対策かと思いきや大統領の広島訪問への影響も考えてのことらしい。

 沖縄が気兼ねする必要はなく、大統領に明確な謝罪を求めるべきだ。そもそも日本政府はどっちを向いているのか。過重な基地負担を押し付けてきた責任を忘れてはならない。

 辺野古移設についても言える。訴訟の和解を受け、政府と県は打開策を探る作業部会を月末に予定していた。政府側が延期を申し入れたのは当然だ。そのような状況にない。

 戦後71年、復帰44年になるのに、もう限界だ―。沖縄の声を両政府は受け止め、一刻も早く痛みを取り除くべきだろう。

 

ああ非情(2016年5月21日配信『中国新聞』−「天風録」)

 

 わずか1字ずつという手紙のやりとりがある。「?」に「!」。帝政に反発し祖国フランスを離れた作家ビクトル・ユゴーがある本の売れ行きを気遣って聞く「どうだ?」に、出版社が「上々です!」と返した。世紀をまたぐ名作「レ・ミゼラブル(ああ無情)」である

▲無情などは通り越し、非情いや非道と言うべきだろう。沖縄で女性が行方知れずとなった事件で、基地勤めの元米海兵隊員が死体遺棄の疑いで捕まった。殺害もほのめかしているという

▲女性はことし成人式を迎えたばかりだった。これからという人生を断ち切られた無念を思うと何ともやりきれない。わが政府は定めし、あぜんとしていようと気を回せば、「綱紀粛正」「再発防止」と漢字4文字を唱えていた。口癖か何かだろうか

▲文豪ユゴーの言葉として伝わる一節がある。「小さな悲しみには忍耐を持ち、大きな悲しみには勇気を持って立ち向かいなさい」。沖縄の基地前にも、きのう「居ても立ってもいられなくなって」と現れた女性がいた

▲基地問題では以前、「怒」のプラカードが渦巻いたことがある。県民の胸に揺らめいているだろう「怨(えん)」の1字に変わる日がいつ来てもおかしくない。

 

沖縄の米軍属逮捕/日米で再発防止に取り組め(2016年5月21日配信『山陰中央新報』−「論説」)

 

 沖縄でまたしても米軍絡みの許し難い、痛ましい事件が起きた。4月末から行方不明になっていた20歳の女性が遺体で見つかり、沖縄県警は元米海兵隊員で空軍基地に勤務する米軍属の男を死体遺棄の疑いで逮捕した。

 安倍晋三首相は「徹底的な再発防止など、厳正な対応を求めたい」と述べたが、これまでも再発防止を申し入れながら、事件は繰り返し起きている。

 オバマ米大統領が26日からの主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)のため来日し、日米首脳会談が行われる。安倍首相はこの機会に、大統領に厳しく申し入れるとともに、日米両政府が再発防止に向けて、固い決意で取り組むよう協議すべきだ。

 在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄県では米軍関係者による凶悪事件が後を絶たない。日米同盟は日本の安全保障政策の基本ではあるが、事件は同盟の基礎となる信頼関係を損なうものだ。

 沖縄県の翁(お)長(なが)雄(たけ)志(し)知事は「基地があるがゆえに事件が起きてしまった」と指摘する。こうした事件のたびに思い出さざるを得ないのが、女子小学生が米兵に暴行された1995年の事件だ。沖縄では反基地の怒りが噴き出し、日米両政府による96年の普天間飛行場(宜野湾市)の返還合意につながった。

 だが普天間飛行場は20年たっても返還されず、名護市辺野古で新たな移設基地の建設工事が進められている。今回、菅義偉官房長官は「沖縄の負担軽減に全力で取り組んでいく」と述べたが、軽減は進んでいないのではないか。

 その一方で事件は無くならない。沖縄県によると米兵による殺人、強盗、強姦(ごうかん)などの凶悪犯罪は95年以降も毎年数件発生、今年3月にも女性観光客が那覇市内で暴行される事件が起きている。

 沖縄県警の調べによると、亡くなった女性は同居男性に「ウオーキングしてくる」と連絡した後、行方不明になった。逮捕された米国人の32歳の男は遺体を遺棄した容疑を認め、殺害に関与した供述をしているという。女性との接点はなく、見知らぬ女性を襲った可能性がある。

 日米安全保障条約に基づく地位協定は、在日米軍人や軍に直接雇用されている民間人の「軍属」が事件を起こした場合の対応で米側に特権を認めている。男は米空軍嘉手納基地(嘉手納町など)内で働く軍属だが、米側は捜査に全面的に協力するとしている。

 政府は沖縄関係閣僚会議を開き、米軍の綱紀粛正などを求めることを確認。19日夜に岸田文雄外相がケネディ駐日米大使を、中谷元・防衛相がドーラン在日米軍司令官を呼んで抗議した。

 政府内にはオバマ大統領の被爆地・広島訪問への影響を懸念する声もあるようだ。だが今回の事件で毅然(きぜん)とした対応を示さなければ、沖縄の反基地運動の対象は普天間飛行場にとどまらず米軍基地全体へ広がるだろう。

 普天間飛行場の移設問題にも影響しよう。移設を巡る政府と沖縄県の訴訟は和解が成立、工事を中断し、打開策が話し合われている。しかしまずは今回の事件への対処を政府と沖縄県で協議すべきだ。米国との交渉は政府の責任だ。基地負担軽減を進める政府の本気度が問われる。

 

沖縄の米軍属逮捕 基地負担の軽減は待ったなしだ(2016年5月21日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 米軍関係者による凶行が、またも繰り返された。沖縄県うるま市の女性会社員が先月から行方不明になっていた事件で、元海兵隊員の軍属の男が死体遺棄容疑で逮捕された。殺害をほのめかす供述もしているという。

 沖縄の人々の怒り、悲しみ、不安に寄り添わねばなるまい。安倍晋三首相は、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせて開く日米首脳会談で、オバマ大統領に厳正対応を求める意向だ。抜本対策は待ったなし。再発防止や綱紀粛正の要請にとどまらず、日米地位協定の改定や基地縮小など、沖縄の負担軽減に踏み込んでもらいたい。

 在日米軍人・軍属の法的地位を定めた地位協定は、「米側を守る内容」との批判がかねて根強い。日本側の捜査を阻む壁にもなっている。公務中と判断されれば第1次裁判権は原則として米側にあり、公務外でも先に米側が被疑者を拘束すれば、日本側が起訴するまで身柄を引き渡す義務がないためだ。

 1995年の少女暴行事件を契機に、殺人や強姦(ごうかん)といった凶悪犯罪に限り起訴前の引き渡しを認めるなど運用改善が図られたものの、協定自体はほぼ手つかず。いまだに米側の優越的地位は歴然と言わざるを得ない。

 今回は軍属の身柄がすでに日本側にあり、米側も全面協力を表明している。だからといって協定を維持する根拠にはならない。事件が起きるたび、米軍は夜間外出禁止令を出すなど対策を講じてきたが、実効性を欠くのは明らかだ。優越的地位が、軍人・軍属の犯罪が絶えない要因だとの専門家らの指摘を、重く受け止める必要がある。

 沖縄県内での米軍関係者による殺人や強盗などの凶悪犯罪は77年の69件がピークだった。95年以降も、2013年を除いて毎年1〜7件発生している。減ったからといって、安心できるわけではもちろんない。

 今年3月には、那覇市内で米兵による女性暴行事件があったばかり。再発防止に向け日本政府や米軍、沖縄県が先月中旬に会合を開いた直後、今回の事件が起きた。安慶田光男副知事が「これまで通りの綱紀粛正では同じことの繰り返し」と断じたのは当然。小手先の対策でお茶を濁すことは許されないと、日米両政府は肝に銘じてほしい。

 在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄。県民の願いは基地負担の真の軽減にある。少女暴行事件の際は8万5千人(主催者発表)規模の総決起大会が開かれ、普天間飛行場(宜野湾市)の返還合意につながった。安倍政権は負担軽減を強調しながら、名護市辺野古への移設に固執する。県内移設では軽減にはならない。普天間と辺野古を切り離すよう改めて求める。

 軍属逮捕を受け、政権や関係省庁からは普天間問題やオバマ氏の広島訪問、参院選などへの悪影響を懸念する声が漏れ聞こえる。向き合う相手を間違ってはならない。今こそ、沖縄の声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。

 

【米軍属の逮捕】沖縄の悲劇防ぐ具体策を(2016年5月21日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 在日米軍専用施設の約74%が集中する「基地の島」で、また悲劇が起こった。

 沖縄県うるま市の女性会社員が行方不明だった事件で、米空軍の嘉手納基地内で働く米国人の軍属が死体遺棄容疑で逮捕された。殺害をほのめかす供述もしており、殺人容疑も視野に捜査が続いている。

 3月には、米兵による女性観光客暴行事件があったばかりだ。沖縄で繰り返される米軍関係者の重大犯罪は、過度な米軍基地の集中と無縁であるはずがない。

 政府には沖縄県民の生命と財産を守る責任がある。米側に再発防止を求めるだけでなく、当事者としての具体策が問われている。

 被害者は4月末、ウオーキング中に消息を絶った。日常のなかでなぜ突如、命を奪われなければならなかったのか。犯人の罪はいうまでもないが、事件が相次ぐ環境を見過ごすわけにはいかない。

 沖縄県によると2011年現在、沖縄県内には約2万6千人の軍人、約2千人の軍属がいる。

 米軍関係者による刑法犯は減少傾向にあるとはいえ、県民の反基地感情が高まるきっかけとなった1995年の少女暴行事件以降も、凶悪事件は度々発生している。酒気帯び運転を含めた交通事故が頻発する実態もある。

 米軍基地が集中するがゆえに、沖縄県民の日常の危険性が増している状況は否めまい。そして重大な事件が起こるたび、米軍は綱紀粛正をうたうものの、その効果が一時的にすぎないことは数々の事件で明らかといえる。

 軍属の逮捕を受け、政府はケネディ駐日米大使に捜査への協力や綱紀粛正、実効的な再発防止策の策定を要請した。抗議は当然としても、この内容ではいずれ悲劇が繰り返されるのではないかという不安を禁じ得ない。

 政府内では、普天間飛行場の辺野古移設計画への影響を懸念する声があるようだ。

 だが、沖縄の移設反対の世論は明確であり、相次ぐ事件や事故も根拠の一つとして指摘され続けてきた。その危険性があらためて顕在化しているのだから、反基地の声が高まるのも自然な流れだろう。

 辺野古移設を巡る訴訟の和解後も、政府は沖縄県との協議会で、移設が「唯一の解決策」と繰り返し、主張は平行線をたどっている。

 しかし、移設では県民が不安を覚えざるを得ない状況は変わらない。政府は不安の原因を直視し、根本的に負担を軽減できるよう、米国内を含めた「県外移設」などを真剣に検討すべきではないか。

 日米地位協定の問題もある。今回の事件は「公務外」の犯罪で日本側が逮捕できたが、「公務中」なら真相究明がさらに困難になった可能性がある。

 米軍関係者による犯罪への抑止力を高める意味でも、根本的な改定を米側に働き掛ける必要がある。

 

沖縄米軍属逮捕  過重な基地負担が問題だ(2016年5月21日配信『徳島新聞』−「社説」)

             

 米軍関係者による凶悪事件がまた起きた。

 沖縄県うるま市の会社員女性(20)の死体を遺棄した容疑で、米軍属の男(32)が逮捕された。男は殺害をほのめかす供述をしている。

 繰り返される犯罪に、沖縄の怒りが頂点に達したのは当然だろう。

 米軍は事件のたびに再発防止を図ってきたが、効果は上がっていない。改めて綱紀粛正の徹底と、兵士・軍属の教育強化を求めたい。

 沖縄県によると、米兵による殺人、強盗、強姦などの凶悪犯罪は、県内で毎年1〜7件発生している。3月には那覇市で、女性観光客を暴行する事件があったばかりだ。

 翁長雄志知事は「痛恨の極みだ」と憤った。県民からは「人ごとじゃない」「基地がある限り、事件は起きる」との声が上がっている。

 沖縄には在日米軍専用施設の約74%が集中している。過重な基地負担が事件の背景にあるのは明らかだ。

 日米両政府は一部の基地返還に合意しているが、ほとんど実現していない。沖縄の負担軽減へ、両政府は真剣に取り組まなければならない。

 合意から20年になる普天間飛行場も、返還の見通しは立っていない。県民の反対にもかかわらず、名護市辺野古への移設を両政府が押し進めようとしているためだ。

 今回の事件で反発は一層強まろう。民意を踏まえ、県外・国外移設も視野に入れるべきではないか。

 

沖縄の元米兵逮捕(2016年5月21日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

◆防止には基地縮小しかない◆

 怒り、悔しさが込み上げてくる。またもや沖縄の女性が犠牲になった。本人や家族の無念はいかばかりか。沖縄の人々の憤りや悲しみはいかばかりか。

 沖縄県うるま市の会社員女性(20)の行方不明事件で、元海兵隊員で空軍基地で働く米軍属の男(32)が死体遺棄容疑で逮捕された。安倍晋三首相は「徹底的な再発防止など厳正な対応を米国側に求めたい」と述べたが、米軍絡みの事件は繰り返されている。「再発防止策」の徹底などで済む話ではない。抜本的な対策には沖縄の米軍基地の縮小を本気で進めるしかない。

住民は常に身の危険

 1995年、女子小学生が米兵に暴行された事件を忘れることはできない。沖縄では反基地の怒りが噴き出し、「県民総決起大会」に約8万5千人(主催者発表)が集まり抗議の声を上げた。

 それ以降も米兵が絡む事件や事故は絶えず、そのたびに米軍は夜間外出を禁止するなど綱紀粛正を図ってきた。

 しかし事件はなくならない。沖縄県によると米兵による殺人、強盗、強姦(ごうかん)などの凶悪犯罪は95年以降も毎年数件発生。今年3月にも女性観光客が那覇市内で暴行される事件が起きている。

 翁長雄志知事が「基地があるがゆえに事件が起きてしまった」と述べたのは当然だ。

 在日米軍の専用施設・区域の約74%が集中する沖縄。「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の高里鈴代共同代表は「沖縄の人々が日常を過ごしているところに、暴力が起き続ける」と語ったが、この指摘は重い。沖縄の人々にこのような思いを背負わせたままでいいのか。いいはずがない。

 「同じ女性として怖いし悔しい」「あらためて、何をされるか分からないとの思いを強くした」。同県内の女性たちの声だ。

 政府は常に身の危険を感じなければならない住民の恐怖心を、しっかりくみ取るべきだ。

拡大する抗議の動き

 抗議行動は同県内、さらに東京にも広がっている。

 95年の「総決起大会」に象徴される抗議行動は、日米両政府による96年の普天間飛行場(宜野湾市)の返還合意につながった。

 だが同飛行場は返還されず、名護市辺野古で新たな移設基地の建設工事が進められている。今回、菅義偉官房長官は「沖縄の負担軽減に全力で取り組んでいく」と述べたが、軽減は進んでいない。

 オバマ米大統領が26日から主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)のため来日し、日米首脳会談が行われる。日米両政府は事件について話し合い、米軍基地の縮小、県民の負担軽減に向け固い決意で取り組むよう協議すべきだ。

 日米同盟は日本の安全保障政策の基本となっているが、事件は同盟の基礎となる信頼関係を損なうものだ。信頼関係の持てない同盟関係はあり得ず、日本は毅然(きぜん)とした態度を示さなければならない。

 

沖縄女性殺害(2016年5月21日配信『佐賀新聞』−「論説」)

 

日米地位協定の見直しを

 希望に満ちていたはずの未来を奪われ、どれほど無念だっただろうか。20歳の女性会社員が沖縄で殺害された事件で、米軍属の米国人の男が逮捕された。

 米軍関係者による犯罪がまた起きた。1972年に沖縄が本土復帰して以来、米軍関係者による犯罪の検挙数は約6千件に及ぶ。それも、殺人や強姦(ごうかん)など凶悪な犯罪が後を絶たない。1995年の米兵3人による少女暴行事件をはじめ、殺人や強姦が相次ぎ、今年3月にも、海軍の水兵が女性観光客を自室に連れ込んで暴行する事件が起きたばかりだ。

 容疑者逮捕を受けて、岸田文雄外相はケネディ駐日米大使に抗議した。これまでも事件が起きるたび、米軍は謝罪し、再発防止を約束してきてはいた。

 だが、一向に改善される気配はない。なぜ、こうも繰り返されるのか。

 戦後の米統治下で整備された沖縄の米軍基地は、本土復帰後も整理や縮小が進んでいない。国土面積のわずか0・6%の沖縄県に在日米軍専用施設の約74%が集中している。

 翁長雄志知事が「基地があるがゆえに事件が起きてしまった」と憤りをあらわにしたが、基地撤廃を求める声が一層強まるのは当然だろう。

 日米の間には「日米地位協定」が横たわる。この協定では、米側が身柄の引き渡しに応じないケースを認めており、米軍による事件・事故について米側が報告する義務さえない。

 例えば、95年の少女暴行事件でも、米兵3人の身柄引き渡しに米軍は応じなかった。沖縄県民の強い反発を受けて、米軍が「好意的配慮を払う」と運用の一部を見直したが、果たしてこれで十分だろうか。

 今回の事件では、容疑者が公務中ではなかったため、日本の法律で裁かれることになる。今回に限って言えば、地位協定が直接、壁になったわけではない。

 だが、これほど米軍関係者が犯罪を安易に引き起こす根底には、ある種の“特権”意識があるのではないか。「基地に逃げ込めば何とかなる」などという考えを生み出す土壌に、現行の地位協定がつながってはいないだろうか。

 これまでも沖縄は地位協定の根本的な見直しを求めてきた。翁長知事は「日本政府が、当事者として対応できないことは県民がよく知っている」と述べたが、それでは困る。

 安倍晋三首相には、ぜひとも指導力を発揮してもらいたい。これまでのように米軍が再発防止を約束するだけではまったく足りない。実効性のある対策を引き出す必要がある。ここは地位協定の見直しにまで踏み込むべきだ。

 来週にはオバマ大統領が来日する。被爆地・広島の訪問も予定されており、日米の両国関係にとって大きな節目だ。日米同盟の重みを再確認するとともに、安倍首相とオバマ大統領には対等なパートナーとして率直に語り合ってもらいたい。基地問題に目を背けてはならない。

 沖縄の事件で狙われるのはいつも、女性ばかりだ。基地があるゆえに暴力にさらされ、命まで奪われる。こんな理不尽は、許されない。もう終わりにしてほしい。

 

[沖縄米軍属逮捕] 基地あるゆえの悲劇だ(2016年5月21日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 基地があるゆえの悲劇はいつまで続くのか。強い憤りを覚える。

 沖縄県うるま市の20歳の女性が遺体で見つかった事件で、元海兵隊員で軍属の男が死体遺棄容疑で沖縄県警に逮捕された。女性は4月末から行方不明になっていた。

 男は女性の殺害をほのめかす供述もしており、沖縄県警は殺人容疑でも調べる方針だ。事件解明へ徹底した捜査を求めたい。

 国土の0.6%しかない面積に在日米軍の専用施設・区域の約74%が集中する沖縄県では、軍人や軍属など米軍関係者による凶悪犯罪が後を絶たない。

 県民や議会は、そのたびに日米両政府に再発防止策を強く求めてきたものの、有効な手立ては講じられていないのが実情である。今度こそ、日米両政府は実効性のある対策を打ち出すべきだ。

 沖縄県基地対策課によると、1972年の本土復帰以降、米軍関係者がかかわった犯罪の検挙件数は2015年末までに5896件に上る。うち殺人などの凶悪事件は574件を占める。

 95年に起きた米兵による少女暴行事件は、反基地の大きなうねりとなり、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の返還合意につながった。

 しかし、普天間飛行場は20年たっても返還に至っていない。政府は、沖縄県民の反対が強い名護市辺野古への移設工事の方針を変えないままだ。

 事件が、普天間飛行場の移設計画や、オバマ米大統領の広島訪問に影響を及ぼす可能性もある。

 オバマ氏の広島訪問で安倍政権は、日米の歴史的和解と強固な同盟関係を演出し、参院選の弾みとする考えだ。しかし、シナリオ通りにはいくまい。安倍晋三首相はオバマ氏に強く抗議し、基地の整理縮小に向けた協議につなげるべきである。

 沖縄県民には再発防止を求めても、米軍基地がある限り事件は繰り返されるとの思いは強い。日米両政府は基地問題に本気で取り組まなければならない。

 沖縄県民の怒りを増幅させている要因には、在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定もある。

 少女暴行事件当時、地位協定を盾に米兵の起訴前の身柄引き渡しを拒否し、反発が広がったのは多くの人の記憶に残る。

 日米両政府は凶悪事件に限り、米側が起訴前の身柄引き渡しに「好意的考慮を払う」という形で運用改善を図ってきた。だが、抜本改正は見送られたままだ。今回は身柄が日本側にあるが、協定の改定を求める議論も再燃しよう。

 日本政府には毅然(きぜん)とした対応が求められる。

 

[女性遺棄事件]声上げ立ち上がる時だ(2016年5月21日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 「もうガマンができない」 うるま市の女性会社員(20)が遺体で見つかった事件から一夜明けた20日、県内では政党や市民団体の抗議が相次ぎ、怒りや悔しさが渦巻いた。

 これまでに何度、「また」という言葉を繰り返してきただろうか。県議会による米軍基地がらみの抗議決議は復帰後206件。凶悪犯の検挙件数は574件。いくら再発防止を求めても、米軍の対策は長く続かず、基地あるが故に、悲劇が繰り返される。

 日米両政府の責任は免れない。

 20日、県庁で記者会見した16の女性団体の代表は、時に声を詰まらせながら、口々に無念の思いを語った。

 「被害者がもしかしたら私だったかもしれない、家族だったかもしれない、大切な人だったり友人だったかもしれない」「基地がなかったら、こういうことは起こっていなかったんじゃないか」−涙ながらにそう語ったのは、女性と同世代の玉城愛さん(名桜大4年)。

 死体遺棄容疑で逮捕された元米海兵隊員で軍属の男性が勤務する嘉手納基地のゲート前では、市民らが「全基地撤去」のプラカードを掲げて事件発生に激しく抗議した。

 政府によって「命の重さの平等」が保障されないとすれば、私たちは、私たち自身の命と暮らし、人権、地方自治と民主主義を守るため、立ち上がるしかない。

 名護市辺野古の新基地建設に反対するだけでなく、基地撤去を含めた新たな取り組みに全県規模で踏み出すときがきた、ことを痛感する。

■    ■

 日米両政府の「迅速な対応」がどこか芝居じみて見えるのは、「最悪のタイミング」という言葉に象徴されるように、サミット開催やオバマ米大統領の広島訪問、県議選や参院選への影響を気にするだけで、沖縄の人々に寄り添う姿勢が感じられないからだ。

 基地維持と基地の円滑な運用が優先され、のど元過ぎれば熱さ忘れるのたとえ通り、またかまたか、と事件が繰り返されるからだ。

 沖縄の戦後史は米軍関係者の事件事故の繰り返しの歴史である。事態の沈静化を図るという従来の流儀はもはや通用しない。

 オバマ大統領はサミットの合間に日米首脳会談に臨み、27日には、原爆を投下した国の大統領として初めて、被爆地広島を訪ねる。

 その機会に沖縄まで足を伸ばし、沖縄の歴史と現状に触れてほしい。新しいアプローチがなければ基地問題は解決しない。そのことを肌で感じてほしいのである。

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 県庁OBの天願盛夫さんは退職後、独力で「沖縄占領米軍犯罪事件帳」を執筆し、出版した。講和前補償問題に関する資料を整理・編集したもので、強姦事件、射殺事件、強姦殺害事件などの凶悪事件や軍用機墜落事故などが列記されている。あまりの数の多さに息が詰まるほどである。

 なぜ今もなお、米軍関係者の事件事故が絶えないのか。根本的な問題は「小さなかごに、あまりにも多くの卵を詰めすぎる」ことだ。この事実から目を背けてはならない。

 

元海兵隊員の米軍属(32)が(2016年5月21日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 元海兵隊員の米軍属(32)が死体遺棄容疑で逮捕されてから一夜明けた20日、在沖米軍トップや在沖米総領事、沖縄大使、沖縄防衛局長らが相次いで県庁を訪れ、安慶田光男副知事に謝罪した。何度同じような光景が繰り返されてきたか。頭を下げる姿にあらためて怒りがこみ上げる

▼うるま市の女性会社員(20)の遺体を遺棄したとして逮捕された容疑者は、県警の捜査本部の調べに、「女性を刺した」として殺害を認めるような供述を始め、暴行も示唆しているという

▼供述内容が事実であれば、余りにも卑劣で、女性の生命と人権を奪った犯行の悪質さに言葉を失う。動機や経過などの事件の全容解明が急がれる

▼女性はことし1月に成人式を迎えた。家族や友人らと祝った門出から半年もたたずに、将来の夢を絶たれ、命を奪われた

▼戦後71年を迎えても、米兵や米軍属の事件におびやかされる日常。事件事故が後を絶たないのは、言葉だけの再発防止と綱紀粛正だけで異常事態を放置してきた日米政府に原因がある

▼県幹部は「戦場以上だ」と悲痛な叫びを上げた。翁長雄志知事は23日、安倍晋三首相と会談する。首相が謝罪しようと女性の命は戻らない。責任を痛感するならば、米軍基地があるが故の被害を絶つ抜本的な対策を示すのが当然だ。

 

「殺害」示唆 植民地扱いは限界だ 許されない問題の矮小化(2016年5月21日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 えたいの知れない重苦しい塊が胸の中に居座り続けている。なぜ繰り返し繰り返し、沖縄は悲しみを強いられるのか。この悔しさはまさしく、持って行き場がない。

 行方不明だった会社員女性(20)が遺体となり見つかった事件で、死体遺棄容疑で逮捕された元米海兵隊員で軍属のシンザト・ケネス・フランクリン容疑者が「首を絞め、刃物で刺した」と供述した。事実なら、事故などでなく意図的に殺害したことになる。

 しかも遺体は雑木林に放置された。被害者の恐怖と無念はいかばかりか。想像すると胸が張り裂けそうになる。もう限界だ。今のままの沖縄であってはならない。

 現在進行形の「戦場」

 女性と容疑者に接点は見当たらない。事件当日の日没は午後7時で、女性は8時ごろウオーキングに出た。大通りがいつものコースだった。日暮れから1時間たつかたたずに、商業施設に程近い通りを歩くだけで、見も知らぬ男に突然襲われ、最後は殺されたのだ。しかも相手はかつて海兵隊員として専門の戦闘訓練、時には人を殺す訓練をも受けたはずである。なすすべがなかったに違いない。沖縄はまさに現在進行形で「戦場」だと言える。

 沖縄に米軍基地がなければ女性が命を落とさずに済んだのは間違いない。在日米軍専用基地が所在するのは14都道県で、残りの33府県に専用基地は存在しない。だからこれらの県では米軍人・軍属による凶悪事件は例年、ほぼゼロが並ぶはずである。他方、統計を取ればこの種の事件の半数は沖縄1県に集中するはずだ。これが差別でなくて何なのか。

 沖縄は辛苦を十分に味わわされた。戦後70年を経てもう、残り33府県並みになりたいというのが、そんなに高望みであろうか。

 政府は火消しに躍起とされる。沖縄は単なる「火」の扱いだ。このまま米軍基地を押し付けておくために当面、県民の反発をかわそうというだけなのだろう。沖縄の人も国民だと思うのなら、本来、その意を体して沖縄から基地をなくすよう交渉するのが筋ではないか。

 だが辺野古新基地建設を強行しようという政府の方針には何の変化もないという。この国の政府は明らかに沖縄の側でなく、何か別の側に立っている。

 19日に記者団から問い掛けられても無言だった安倍晋三首相は、20日になって「非常に強い憤りを覚える。今後、徹底的な再発防止などを米側に求めたい」と述べた。その安倍首相に問い掛けたい。これでも辺野古新基地の建設を強行するのですか。

 責任はどこへ

 綱紀粛正で済むなら事件は起きていない。地元の意に反し、他国の兵士と基地を1県に集中させ、それを今後も続けようとする姿勢が問われているのである。

 問題のすり替え、矮小(わいしょう)化は米側にも見られる。ケネディ米大使は「深い悲しみを表明する」と述べたが、謝罪はなかった。ドーラン在日米軍司令官も「痛ましく、大変寂しく思う」と述べたにすぎない。70年以上も沖縄を「占領」し、事実上の軍事植民地とした自国の責任はどこかに消えている。

 ドーラン氏はまた、容疑者が「現役の米軍人ではない」「国防総省の所属ではない」「米軍に雇用された人物ではない」と強調した。だが軍人か軍属か、どちらであるかが問題の本質ではない。軍属ならば米軍の責任はないかのような言説は無責任極まる。

 確かに、容疑者は海兵隊をやめ、今は嘉手納基地で働く軍属だ。だからこそ辺野古新基地をやめれば済む問題でもない。

 日ごろ戦闘の訓練を受けている他国の軍隊がこれほど大量かつ長期に、小さな島に駐留し続けることが問題の淵源(えんげん)だ。沖縄を軍事植民地として扱い続ける日米両政府の姿勢が間違いなのである。ここで現状を抜本的に変えなければ、われわれは同輩を、子や孫を、次の世代を守れない。

 

沖縄米軍属の犯罪(2016年5月21日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

唯一の根絶策は基地の撤去だ

 沖縄県でまた「米軍基地あるがゆえの悲劇」が起こりました。うるま市の20歳の女性が行方不明になっていた事件で、米空軍嘉手納基地(嘉手納町など)の軍属の元米海兵隊員が死体遺棄容疑で逮捕されました。遺体が見つかったのは米海兵隊キャンプ・ハンセン近くの恩納村の雑木林で、容疑者は女性の首を絞めナイフで刺したと供述しているとされます。これからの人生に夢と希望を抱いていただろう若い女性の命を無残にも奪った残虐な事件に激しい憤りを禁じ得ません。事件の元凶である過大な米軍基地を押し付けてきた日米両政府の責任は免れません。

守られない「再発防止」

 「今、こうやってパソコンに向かっている間も、打つ手の震えを抑えることができない」―。沖縄の地元紙社説(沖縄タイムス20日付)の書き出しです。今回の事件が沖縄県民に与えた衝撃、怒りと悲しみの深さを象徴しています。女性の無念さ、無事な帰りを願っていた家族らの心情を思うと胸が締め付けられます。

 沖縄では、戦後71年、日本復帰からでも44年もの間、「米軍基地あるがゆえの事件・事故」が絶えず繰り返されてきました。県民は、米軍人・軍属などによる凶行の犠牲者になる危険と常に隣り合わせの生活を余儀なくされてきました。

 沖縄県の資料によれば、1972年の復帰から2015年末までの米軍関係者(軍人、軍属、家族)による犯罪の検挙状況は5896件に上ります。このうち殺人、性的暴行、強盗、放火といった「凶悪犯」は574件と1割近くを占めています。国土面積のわずか0・6%の沖縄に、在日米軍専用基地面積の約75%が集中している異常な事態が背景にあることは間違いありません。

 安倍晋三首相は「沖縄の基地負担軽減」を繰り返していますが、沖縄の基地の過重負担の実態は何も変わっていません。県民の命と暮らしを危険にさらし、深い悲しみと苦しみを強いる事態をこれ以上放置することは絶対あってはなりません。

 安倍首相は今回の事件について「非常に強い憤りを覚える」と述べ、「徹底的な再発防止」などを米側に求めるとしています。しかし、沖縄の米軍関係者の事件・事故をめぐる歴史が示しているのは、いくら米政府や軍が謝罪し、「再発防止」や「綱紀粛正」を約束しても守られたためしはないということです。

 今年3月に米海兵隊キャンプ・シュワブ(名護市)の米軍人が那覇市で、寝込んでいて抵抗できない女性に性的暴行を加えたとして逮捕された事件でも、日本政府は米側に対し「再発防止」などを申し入れていました。今回の事件は、その直後に起きました。

新基地建設は許されぬ

 「米軍基地がある限り、今後も犠牲者が出る恐れは避けられない」―。今回の事件を受けて、沖縄からほうはいとして沸き上がっている声です。沖縄の地元紙は、米軍の「再発防止」策に限界があるなら、「選択肢は一つしかない。沖縄から去ることだ」と強調しています(琉球新報20日付)。

 基地撤去こそ米軍犯罪根絶の「唯一の解決策」です。日米両政府が「唯一の解決策」などといって沖縄に新基地建設を進めることは絶対に許せません。

 

米軍属女性死体遺棄 日米両政府に責任 防止策は基地撤去しかない(2016年5月20日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 県民の尊い命がまたも奪われた。米軍属の男が関与をほのめかしている。元をたどれば、過重な米軍基地を県民に押し付ける日米両政府に行き着く。在沖米軍基地の整理縮小に消極的な両政府の責任は極めて重大だ。強く抗議する。

米軍は米兵らが凶悪事件を起こすたびに再発防止に努めるとする。だが、守られたためしがないことは今回の事件が証明する。

 基地ある限り、犠牲者が今後も出る恐れは否定できない。基地撤去こそが最も有効な再発防止策である。日米両政府はそのことを深く認識し、行動に移すべきだ。

危険と隣り合わせ

 4月28日から行方不明になっていた、うるま市の会社員女性(20)が19日、恩納村の雑木林で変わり果てた姿で見つかった。県警は元海兵隊員で軍属のシンザト・ケネス・フランクリン容疑者(32)=与那原町=を死体遺棄の疑いで逮捕した。

 女性は交際中の男性に「ウオーキングしてくる」と、スマートフォンの無料通信アプリでメッセージを送信して出掛けた。商業施設が並ぶ大通りが、いつものウオーキングコースだったという。

 米軍基地から離れた場所であっても、県民は米軍人・軍属の凶行の被害者になる危険性と常に隣り合わせで生活していることを今回の事件は物語る。

 基地がなければ、容疑者は沖縄にいない可能性が高く、今回の事件も起きなかっただろう。米軍基地あるが故の痛ましい事件であることは明らかだ。

 在沖米軍は何のために存在するのか。日米両政府は日米安保に基づき、日本の安全を守るためだとする。県民の命を奪っておいて、日本の安全などあったものではない。日米安保の矛盾が沖縄からはよく見える。

 在日米軍専用施設面積のうち、沖縄が占める割合は2014年時点の73・8%から、ことし1月現在では74・46%に上昇した。安倍晋三首相の「沖縄の負担軽減」は米軍施設面積の面でも一切進んでいない。今回の事件はその延長線上にある。

 県内での米軍人・軍属による殺人や女性暴行などの凶悪犯罪は1997年の69件をピークに減少し、95年以降は2013年を除き、毎年1〜7件の発生である。発生件数が減っているからといって、評価することは一切できない。

 そもそも米軍人・軍属は県民が積極的に招いたわけではない。犯罪ゼロが「良き隣人」の最低限の条件である。それができなければ、沖縄にいる資格はない。

我慢も限界だ

 女性はショッピングセンターに勤め、勤務態度は真面目で、明るく気配りのできる女性だったという。笑顔で写った写真からは幸せな様子が見て取れる。

 20歳。これからさまざまな人生経験を積み、大きく成長を遂げたものと思う。夢もあっただろう。それがかなわなくなった女性の無念に胸が痛む。無事を祈って帰りを待った家族や友人らの心痛に、胸が張り裂ける思いの県民も多いだろう。

 県民を危険にさらし、悲しみに暮れる人たちをこれ以上生み出すことは許されない。

 日米両政府は今回の事件を「極めて遺憾」などの言葉で済ませてはならない。県民の我慢も限界に達している。「綱紀粛正と再発防止に努める」だけでは不十分だ。

 ことし3月には那覇市内のホテルで、キャンプ・シュワブ所属の1等水兵が観光客への女性暴行事件を起こし、逮捕されている。県はその際、米軍に対し綱紀粛正と人権教育の徹底を含めた再発防止を強く求めた。

 容疑者は軍人ではないが、嘉手納基地で働く元海兵隊員の軍属である。米軍には軍属も教育する責任が当然ある。だが事件がなくならないことからして、米軍の教育には限界があることが分かる。ならば、選択肢は一つしかない。沖縄から去ることだ。

 

 

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