第4次安倍改造内閣発足

 

安倍3選関連論説

 

 

第4次安倍改造内閣と改憲問題

 

2018年10月15日配信『朝日新聞』

 

https://cdn.mainichi.jp/vol1/2018/10/08/20181008k0000m010055000p/6.jpg?1

2018年10月7日配信『毎日新聞』

2018年10月4日配信『東京新聞』)

 

2018年10月3日配信『日経新聞』

 

内閣改造を「評価しない」45%・「評価する」38%…読売世論調査

 

(2018年10月4日配信『東京新聞』)

 

 

 

井上伸@雑誌KOKKO

第4次安倍改造内閣の女性閣僚の割合は5%(20人中1人)でフランスやカナダの10分の1。「ジェンダーギャップ指数2017」で日本の女性閣僚は19%・88位でしたが5%のバーレーンが131位なので安倍政権は一気に43位もジェンダーギャップを悪化させたことになります。これのどこが女性活躍なのでしょうか?

 

(2018年10月2日配信『毎日新聞』)

 

(2018年10月3日配信『朝日新聞』)

 

(2018年10月3日配信『日経新聞』)

 

図

(2018年10月4日配信『しんぶん赤旗』)

 

 

朝日・産経世論調査 安倍4選どちらも「反対」が過半数超え(2019年3月19日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 朝日新聞と産経新聞が16、17両日にそれぞれ実施した世論調査で、自民党内で浮上している安倍首相の「党総裁4選」について聞いたところ、朝日で「賛成」27%、「反対」56%。産経で「賛成」31.1%、「反対」59.3%。ともに「4選反対」が過半数を占めた。

 内閣府が今月、景気判断を下方修正したことに関連して、朝日が「実感として景気が悪くなったと思いますか」と聞いたところ、「悪くなった」が49%、「そうは思わない」の41%だった。産経が「景気回復の実感があるか」と尋ねると、「実感がある」は9.8%にとどまり、「実感はない」は83.7%に達した。

 10月に予定されている消費税率10%への引き上げについては、朝日で「反対」55%、「賛成」38%。産経で「反対」が53.5%、「賛成」41.0%だった。

 内閣支持率は、産経で前回2月調査比1.2ポイント減の42.7%、不支持率は0.1ポイント減の42.8%となり、昨年7月以来8カ月ぶりに「不支持」が「支持」を上回った。朝日では「支持」41%、「不支持」37%で横ばい。

 

改憲主張「禁止されず」 衆参代表質問 憲法擁護義務に首相反論(2018年10月31日配信『東京新聞』)

  

 安倍晋三首相は30日の衆参両院代表質問で、首相が改憲を訴えるのは公務員の憲法尊重擁護義務を定めた憲法99条違反と追及され、「99条は憲法改正について検討し、主張することを禁止する趣旨のものではない」と反論した。憲法学者はこの説明に疑義を示している。 

 参院本会議で立憲民主党の吉川沙織氏は「憲法順守義務を負う首相は、改憲にかかる発言は自制的、抑制的であるべきだ」と指摘。衆院本会議で共産党の志位和夫委員長も同様の考えを示し、憲法審査会での改憲論議を促す首相について「行政府の長が立法府の審議のあり方に事実上の号令をかけており、三権分立を蹂躙(じゅうりん)する」とも問題視した。

 これに対して首相は、首相や閣僚が国会で発言する権利と義務を定めた憲法63条と、国会が首相を指名すると定めた67条に言及。「国会議員の中から指名された私(首相)が、国会に対して議論を呼び掛けることは禁じられておらず、三権分立の趣旨に反するものではない」と反論した。

 99条は「憲法の規定を順守するとともに、完全な実施に努力しなければならない趣旨を定めたもの」と語り、公務員が改憲を主張するのを禁じた規定ではないという見解を示した。

 この説明について、早稲田大の水島朝穂教授(憲法)は「99条は憲法の『最高法規』の章にあり重い。改正手続きを定めた96条は国会にのみ発議権を委ねている。首相が国会に対し、過剰に改憲で介入することは96条、99条の趣旨に反する」と疑問視。

 63条や67条は、国会や内閣の権限に関するさまざまな条文の一部にすぎないとし、「首相は付け焼き刃で持ち出した。改憲を正当化しようとする焦りが見える」と分析している。 

◆日本国憲法の関連条文

 63条 

 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

 67条 

 (1)内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。(以下略)

 99条 

 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 

内閣総理大臣所信表明演説に対する代表質問 立憲民主党・民友会 吉川 沙織

【憲法】

 そして、「憲法」についてです。

 憲法とは、権力者の恣意的な行動を抑制する「縛り」として制定されたものです。総理は、所信表明で、「憲法とは国の理想を示すもの」と全く誤った憲法理解を示しています。総理は、改憲という悲願を達成するため、真正面からではなく「政略主義」的に改正しようとしてきました。

 総理は、北東アジアにおける安全保障環境の激変を理由として第96 条の改正手続きの要件緩和を目論み、これが失敗すると、これまで確立した政府解釈を変更するなど、権力のブレーキを次々にはずし、集団的自衛権の行使容認に踏み切ってきました。そして、総理は、ほとんどの憲法学者が主張する違憲説をかわすため、頻発する大災害で奮闘する自衛隊への配慮を示し、憲法第9条の2を新設しようと考えています。

所信表明では、「制定から70 年以上を経た今、国民の皆様と共に議論を深め、私たち国会議員の責任を、共に、果たしていこうではありませんか」とされています。なぜ改憲が必要なのか、どこに不都合があるのか、ただ制定から70 年経過したというだけで改正しなければならないのでしょうか。総理の改憲に対する基本的所見を伺います。

 また、所信表明で総理は、憲法審査会の審査の有り様に言及されました。これまで総理は度々、「国会のことは国会で決めていただく」旨答弁されてきましたが、今回の所信はこれまでの答弁と矛盾し、三権分立の観点からも問題があるのではないかと考えますが、総理の見解を伺います。

 あわせて、憲法第99 条が規定する、閣僚などの憲法遵守義務について、どう認識し、それを全うするために具体的にどのような措置をとるつもりですか。憲法遵守義務を負う総理は、自ずと改憲に係る発言について自制的、抑制的であるべきと考えますが、見解を伺います。

 

志位委員長の代表質問 衆院本会議動画

 

憲法9条改定――憲法を守らない総理に、憲法を語る資格なし

 憲法9条改定について質問します。

 総理は、この国会に自民党としての憲法9条改定案を提出することを公然と宣言しています。9条に自衛隊を書き込み、海外での武力行使を無制限にすることがその眼目ですが、そうした中身以前の大問題があります。

 それは、総理の改憲への暴走が、憲法も立憲主義も無視した常軌を逸した暴走となっているということです。

 端的に三つの点をただしたい。

自衛隊を前にした改憲宣言――憲法99条違反は明瞭ではないか

 第一に、総理は、9月の自衛隊高級幹部会同、10月の自衛隊記念日観閲式で、9条改憲を進めることを事実上宣言しました。政治的中立を最も厳格に守らなければならない実力組織である自衛隊に、その最高指揮官が改憲の号令をかける。それがどんなに危険で異常なことであるかは明らかです。自衛隊の最悪の政治利用であり、閣僚に憲法の尊重・擁護を義務づけた憲法99条に違反することは明瞭ではありませんか。

立法府の審議に事実上の号令――三権分立を蹂躙する暴論

 第二に、総理は、所信表明で、「憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の理解を深める努力を重ねていく」とのべ、「国会議員の責任を果たそう」と呼びかけました。行政府の長が立法府の審議のあり方に事実上の号令をかける。これは立法府である国会への重大な介入・干渉であり、憲法の三権分立を蹂躙(じゅうりん)する暴論であることは明らかではありませんか。

国民多数が反対するもとでの強引な改憲論議――憲法の私物化ではないか

 第三に、自民党改憲案をこの臨時国会に提出することに対して、どの世論調査を見ても、国民の多数が反対しています。「毎日」「朝日」「読売」「産経」「共同」「NHK」、どの世論調査でも例外なく反対多数です。国民が望んでもいないのに、権力を握る政権・与党が、権力への制約をとりはらう改憲論議を強引に推し進めることは、それ自体が立憲主義の乱暴な否定であり、憲法の私物化そのものではありませんか。

 憲法を守らない総理に、憲法を語る資格は断じてありません。

 日本共産党は、院内外の多くの方々との共同の輪を広げ、安倍政権による9条改憲に断固反対を貫く決意を表明するものです。

 

改憲主張は「三権分立に反せず」 首相、野党の批判に反論(2018年10月30日配信『共同通信』)

 

 安倍晋三首相は30日、参院本会議での各党代表質問で、国会で首相が憲法改正を主張することを巡り「憲法に関する事柄を含め、政治上の見解等について国会に対し、議論を呼び掛けることは禁じられておらず、三権分立の趣旨に反しない」と述べた。立憲民主党の吉川沙織参院議員が「憲法尊重擁護義務を負う首相の改憲に関する発言は自制的であるべきだ」と批判したのに対し、反論した。

 首相は、自身の改憲を求める主張と、閣僚らの憲法尊重擁護義務を定める憲法99条との関係に関し「憲法の定める改正手続きによる改憲について検討し、主張することを禁止する趣旨ではない」と語った。

 

改憲シフト 危険早くも(2018年10月30日配信『しんぶん赤旗』)

 

自民・稲田氏 代表質問でけしかけ

 安倍晋三首相は29日、衆院本会議で自民党の稲田朋美筆頭副幹事長が代表質問で「憲法改正は急務だ」と述べたのに対し、「すべての自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境を整えることは今を生きる政治家の責任だ」と答弁。「憲法審査会において政党が具体的な改正案を示すことで国民のみなさんの理解を深める努力を重ね、与党・野党といった政治的立場を超えて幅広い合意が得られると確信して」いると述べました。

 安倍首相 稲田氏は名うての「靖国」派として安倍首相が側近に重用し、この日の代表質問も「異例の抜てき」と言われました。その稲田氏が質問で改憲をけしかけ、安倍首相が答弁で憲法審査会での議論加速を訴えた形で、安倍政権・自民党の改憲シフトの危険が早くもあらわになりました。

 

改憲「反対」9ポイント急増(2018年10月30日配信『しんぶん赤旗』)

 

首相 暴走発言強めるたびに

「日経」世論調査

 「日経」の最新世論調査(26、27両日実施)で、安倍晋三首相が狙う改憲のための「国民投票」の時期はいつがいいかとの質問に対し、そもそも「憲法改正には反対だ」が最多の37%を占め、前回の緊急世論調査(2、3両日実施)より9ポイントも急増したことが、29日付同紙の報道で明らかになりました。

 安倍首相は、自民党総裁選で3選されて以来、自衛隊観閲式(14日)で自衛隊明記の9条改憲を事実上宣言したほか、臨時国会召集にともなう衆参両院での所信表明演説(24日)でも憲法審査会を動かすよう求めるなど、国会と自衛隊に改憲の号令をかける異常な暴走を開始しています。

            今回の世論調査結果は、安倍首相が改憲に前のめりの異常な暴走発言の度合いを強めるたびに、逆に改憲への世論の慎重論が強まっていることを示しています。

 

内閣支持率また下落 「改憲・消費増税」に反対が半数超え(2018年10月28日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 安倍内閣の支持率がまた下落した。

 日経新聞とテレビ東京による調査(26〜28日実施)では、第4次安倍改造内閣発足直後の前回10月初旬の緊急調査から2ポイント減の48%となり、半数を割った。不支持率は42%と横ばいだった。

 読売新聞(26〜28日実施)では10月改造後調査から1ポイント減の49%で、こちらも半数割れした。不支持率は2ポイント上昇して41%となった。

 安倍首相が自民党の憲法改正案を臨時国会で示したいとしていることについて、日経が「国民投票の時期はいつがいいか」と聞いたところ、「憲法改正には反対だ」が最も多く、前回より9ポイント増の37%となった。次いで「2021年以降」が24%だった。

 読売でも「この首相の考えに賛成ですか、反対ですか」の問いに対し、「反対」が47%で、「賛成」の40%を大きく上回った。

安倍3選以降、戦前回帰路線の総仕上げとなる“安倍壊憲”に対する警戒感が国民の間に広がっていることの表れだ。

 安倍首相が明言した来年10月の消費税引き上げについては、読売の「予定通り10%に引き上げることに賛成ですか、反対ですか」との質問に、「賛成」が43%にとどまったのに対し、「反対」は51%で過半数を占めた。

 

「憲法改正、安倍首相に焦燥感あると思う」自民・伊吹氏(2018年10月25日配信『朝日新聞』)

 

伊吹文明・元衆院議長(発言禄)

 (所信表明で安倍首相が憲法改正について、「国会議員の責任を果たしていこう」と述べたことについて)内閣総理大臣は国会に対してああいうことを言うのはいいのかなという感じはしたけれども、彼の気持ちを忖度(そんたく)すると、憲法改正は憲法のどこを読んでも内閣総理大臣はおろか内閣には決定権や提出権はなんらありません。すべて皆さん(国会議員)にゆだねられている。自民党の綱領で新憲法の制定と言っている党に属して公認をもらって、3分の2(近く)を持っているのに一体何をしているんだっていう焦燥感が安倍晋三の腹の中にはやっぱりあるんだなと思うんですね。

(25日、派閥の例会で)

 

「憲法審が強硬派に」  自民・船田氏が警鐘(2018年10月23日配信『東京新聞』)

  

 自民党の船田元(はじめ)・衆院議員が22日、自らのブログを更新し、衆院憲法審査会で野党側と交渉に当たる布陣が「強硬派」に代わったとして懸念を表明した。「野党の反対を押し切って(改憲案を)国会発議できたとしても、国民投票で過半数の賛成を得られなくなる可能性が高い」と警鐘を鳴らした。

 衆院憲法審では、与野党協調を重視した中谷元(げん)氏が与党筆頭幹事から外れ、首相に近い新藤義孝氏に交代。船田氏も幹事を外れた。

 船田氏は、自らと中谷氏が「野党との話し合いを重視しつつ憲法改正を進める『協調派』とも呼ばれていた」と説明。「『強硬派』と呼ばれる首相に近い方々が、野党との交渉の前面に立つこととなった」と指摘した。

 その上で「国民投票で過半数の賛成を得るためには、少なくとも野党第一党との合意が必要」と忠告。今回の人事は「それでは待てないとする強硬派によって審査会を運営するというメッセージを内外に示した」と評した。

 

憲法協調派外れる

 10月24日からいよいよ臨時国会が始まる。相次いだ災害の復旧費用や、人手不足を解消するための外国人在留資格の追加などが議論されるが、憲法改正のための話し合いも憲法審査会を中心に展開される予定である。

 ところが自民党の筆頭幹事であった、中谷元氏と次席の私の名前は名簿から削除されてしまった。中谷氏は先の総裁選で石破候補に投票したこと、私は以前から安倍総理の憲法改正に関しての前のめりのご発言に懸念を示し、総裁選で白票を投じたことがその理由と言われている。

 さらに二人はかつて野党との話し合いを重視しつつ憲法改正を進めると言う、中山太郎元憲法調査会長の路線を受け継ぎ、「中山学校」とも「協調派」とも呼ばれていた。今回はこれに代わって、いわゆる「強硬派」と呼ばれる安倍総理に近い方々が、野党との交渉の前面に立つこととなった。

 振りかえれば確かに、協調派の審査会運営は野党の意見も尊重しながら、丁寧に運営して来たと自負している。外部から見ると時間がかかりすぎている、野党に譲歩し過ぎているとの批判も受けて来たが、お互いの信頼関係の上に、国民投票法の改正など成果を出して来たのも事実である。

 なぜそうして来たかといえば、両院の3分の2以上の賛成による国会発議のルールは、出来る限り幅広い合意がなければ前に進めないことを示している。さらに重要なことは、牽制史上初めてとなる国民投票で過半数の賛成を得るためには、少なくとも野党第1党との合意、あるいは了解が必要だからである。

 野党の反対を押し切って、3分の2で国会発議が出来たとしても、国民投票で過半数の賛成を得られるかは保証できない。むしろ得られなくなる可能性が高い。新たに野党との交渉に当たられる方々には、是非とも丁寧な審査会運営を心がけていただきたい。

 しかし今回の人事は、それでは待てないとする強硬派によって審査会を運営すると言うメッセージを内外に示したのである。

[2018.10.22]

 

臨時国会 自民改憲案急ぐ 体制一新で強引審議も(2018年10月20日配信『東京新聞』)

 

 改憲推進へ体制を一新した自民党が、24日召集の臨時国会で党の改憲条文案を提示する目標に向けて本格的に動き始めた。これまで衆参両院の憲法審査会では野党との協調を比較的重視してきたが、路線転換して強引に議論を進める可能性もある。安倍政権による改憲に反対する野党は、国民投票法改正の議論を優先するよう求め、対抗する構えだ。 

 「憲法審査会を定期的に開けるよう、協力をいただきたい」

 自民党憲法改正推進本部の下村博文本部長は19日、公明党の北側一雄憲法調査会長と国会内で会い、改憲条文案を臨時国会で憲法審に提示したい意向を伝えた上で、憲法審の開催に協力を求めた。

 衆院憲法審の自民党幹事らも同日、初顔合わせし、臨時国会で条文案提示を目指す方針を確認した。

 自民党は先の通常国会で条文案提示を目指したが、野党が反発。衆院憲法審の与党筆頭幹事だった中谷元氏らは野党との協調を重視し、強引に審議を進めることはしなかった。

 これを踏まえ、安倍晋三首相(自民党総裁)は先の党人事で、側近の下村氏を同本部長に起用。衆院憲法審の与党筆頭幹事も中谷氏から首相に近い新藤義孝氏に替わり、「改憲推進シフト」と受け止められた。仕切り直しの場となる臨時国会で、憲法審の自由討議で条文案提示を目指す。

 立憲民主党などの野党側は、自民党の体制一新に警戒を強めている。共通投票所の導入などを柱とした国民投票法改正案が衆院で継続審議となっていることから、自由討議の前に、この議論を求める立場だ。

 さらに、国民投票のテレビCM規制も優先議題としている。国政選挙ほど規制がない現行の国民投票制度は資金力のある政党が有利とされ、野党側は「欠陥を埋めなければ国民投票はできない」(立民の枝野幸男代表)と訴える。

 自民党内には、安倍色が強い陣容に反発して野党が憲法審の審議に応じないとの見方もある。下村氏は今のところ「協調路線を図る」としているが、最終的に与党や改憲に前向きな野党とだけの審議に踏み切り、条文案を提示する可能性も否定できない。

 

内閣改造「評価」22% 支持率上昇せず 朝日世論調査(2018年10月15日配信『朝日新聞』)

 

 朝日新聞社が13、14両日に実施した全国世論調査(電話)で、安倍晋三首相が掲げた「全世代型の社会保障改革」について尋ねたところ、「期待できない」が57%で「期待できる」は32%にとどまった。安倍政権に一番力を入れてほしい政策では「社会保障」と答える人が30%と最も多かったが、改革への期待は低かった。

 内閣支持率は40%(前回9月調査は41%)、不支持率は40%(同38%)と拮抗(きっこう)。内閣改造による支持率上昇の効果は見られなかった。

 安倍政権に力を入れてほしい政策を六つ挙げて聞くと、「社会保障」がトップで、「景気・雇用」「地方の活性化」(ともに17%)などを上回った。ただ、安倍首相の社会保障改革については、30代以下は「期待できる」「期待できない」ともに4割台で割れたが、40代以上は「期待できない」の方が多かった。60代では69%が「期待できない」と答えた。

 北朝鮮の拉致問題について、安倍首相のもとで解決に向けて進むことに期待できるかも尋ねた。「期待できない」が59%で、「期待できる」33%を上回った。

 人手不足に対応するため、外国人労働者の受け入れを拡大することには「賛成」49%、「反対」37%だった。男性は賛成が56%と高めだったが、女性は賛成、反対ともに41%と賛否が割れた。

 2日に発足した改造内閣について、安倍首相の人事の全体評価を聞くと、「評価しない」が50%。「評価する」は22%にとどまった。自民支持層でも31%、無党派層では58%が「評価しない」と答えた。

 麻生太郎財務相を留任させたことについては「評価しない」が54%、「評価する」は29%だった。女性閣僚が1人だったことには、54%が「もっと多い方がよかった」と答えた。

 

麻生氏、改造後支持率「高くなった記憶ない」 実は…安倍政権7分の5上昇(2018年10月11日配信『東京新聞』)

 

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 安倍晋三首相が2日に行った内閣改造直後の新聞各社の世論調査で、内閣支持率が下落か横ばいだったことに対し、麻生太郎副総理兼財務相は記者会見で「内閣改造をして、前より評価が高くなった記憶はあまりない」と発言した。しかし共同通信社の世論調査では、2012年12月の第2次安倍政権発足以降、最初を除いた7回の組閣のうち、5回で内閣支持率は約5〜8ポイント上昇している。

 麻生氏は5日の記者会見で、内閣支持率が0・9ポイント下落した今回の内閣改造の評価を問われると「よほど新人とかが出てこない限り、新内閣で評価が上がったという例が過去にあったら教えてほしい」と発言。「あまり記憶がないが、内閣改造をして、前よりやたら評価が高くなったって、この2、30年間であまりないんじゃないか」などと語った。

 今回の世論調査では、麻生氏の留任について「よくなかった」は51・9%で、「よかった」は33・5%だった。麻生氏はこの結果に対する受け止めも聞かれた。

 第2次安倍政権発足以降の組閣をみると、17年8月の内閣改造では、8・6ポイント増の44・4%だった。直前の同7月には第2次安倍政権発足以来最低の35・8%を記録していた。

 支持率が下落した2回のうち、16年8月の改造は直前の53・0%から52・9%へと0・1ポイント減。0・9ポイント減の今回が最大の下げ幅となる。 

 

署名運動も始まった 麻生財務相の“追放運動”は拡大の一途(2018年10月10日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 国民の怒りはもはや頂点に達した。安倍首相が辞めさせないなら、国民が引きずり降ろす以外にない。狙いはもちろん決まっている。第4次安倍改造内閣で留任した“ヒョットコ顔男”こと、麻生財務相のクビだ。

 麻生氏留任に対する国民の不信感は募る一方だ。NHKが9日報じた世論調査でも、麻生氏留任を「よくなかった」が42%に達した。毎日新聞の調査でも「評価しない」が61%に上り、共同通信の調査でも、5割以上が「よくなかった」と回答している。

 どの世論調査でも、国民の多くが“ノー”を突きつけているにもかかわらず、当の本人はシレッとしたもの。相変わらずの「べらんめぇ調」で、記者をにらみつけ、上から目線でエラソーなことばかり言っている。財務省の決裁文書改ざんを主導した佐川宣寿前国税庁長官についても、「極めて有能な行政官だった」と言い、自身の監督責任を棚に上げて居直ったまま。安倍首相の言う「丁寧」「謙虚」「真摯」のカケラもない。親の七光で飯を食い、税金をしゃぶり、ロクに漢字も読めない破廉恥人間のクセに、これまた一部の大マスコミや取り巻きから「親分肌」「麻生節」などと持ち上げられてカン違いしているから、どうしようもない。

 もはや、こんな大臣を放っておいたら日本は世界の笑いもの。そう考えた「森友・加計問題の幕引きを許さない市民の会」は10日から、麻生氏辞任を求める署名を始めた。来月11日には、財務省前で“麻生追放”デモを行う予定だ。同会の醍醐聰東大名誉教授がこう言う。

「麻生さんの辞任要求については、森友問題の徹底解明や佐川前長官の辞任要求と合わせて、すでに1万3719筆の署名を財務省に提出していますが、新たに麻生さんの辞任に的を絞った署名を集め、来月に提出しようと考えています。麻生さんは安倍政権のアキレス腱。文書改ざんが行われ、職員が自殺する事態になったのに、財務省の対応を『適正』などとトンチンカンなことを言っている。これは財務省のトップがガバナンスを踏みにじっている異常事態であり、徹底して辞任を求めていきます」

 麻生氏が大臣を辞めるまで追放を求める運動は拡大するばかりだ。

 

副大臣も「靖国」派ばかり(2018年10月8日配信『しんぶん赤旗』)

 

「東京裁判は不当」「核武装検討を」

安倍改憲の野望支える

 第4次安倍晋三改造内閣の発足にともなって4日の閣議決定で任命された自民党所属副大臣(22人)のうち21人が改憲右翼団体の「神道政治連盟」と「日本会議」と連携する議員連盟のいずれかに加盟していることが本紙の調査で明らかになりました。

戦後秩序に挑戦

 このうち、「神道政治連盟国会議員懇談会」には19人が加盟。「日本会議国会議員懇談会」には16人が加盟しています。両議連のいずれにも加盟していないのは、高階恵美子厚生労働副大臣だけでした。

 自民党所属閣僚の全員が「神政連」議連に加盟する同内閣では、初入閣した柴山昌彦文部科学相が就任当日(2日)の記者会見で、戦前、子どもたちに“天皇のために命をささげよ”と教えて戦争に駆り出した教育勅語を今日の道徳教育でも「使うことができる」などという重大な認識を口にし、大問題になっています。

 自民党所属の副大臣もほとんどが「靖国」派改憲右翼団体系議連に所属している実態は、将来の“閣僚候補”らも同様の異常な右翼的傾向に変わりがないことを示しています。

 今回、農林水産副大臣に就任した高鳥修一氏は自身のブログ(2011年9月9日付)で、極東国際軍事裁判(東京裁判)は「勝者が敗者の戦争犯罪を一方的に裁く不当な裁判」「このむちゃくちゃかつ不当な裁判を元に戦勝国に都合よく作られた歴史を教えるのが戦後の歴史教科書」だなどとして、同裁判の審判の上に築かれた戦後秩序そのものに挑戦する危険な主張を展開しています。

 外務副大臣に就任した阿部俊子氏は、12年総選挙時の「毎日」候補者アンケートで日本の核武装について「検討を始めるべきだ」と回答していました。

首相主張に共感

 外務副大臣を続投する佐藤正久氏は、17年12月5日の参院外交防衛委員会で、自衛隊員が入隊するさいに署名する「服務の宣誓」を引用して同副大臣の職務に当たっての決意を表明。元自衛隊員でイラク先遣部隊長も務めた元“制服組”の国会での異常な行動に、野党議員からは“文民統制に反する行為”だと批判された経緯があります。同氏は日本会議設立20周年記念大会(17年11月27日)に祝辞を寄せ、憲法に自衛隊を位置づけるという同会議と安倍首相の主張に共感を示し、その実現のため「共に頑張って行きましょう」と訴えました。

 自民党所属の閣僚に加え、同党所属の副大臣も日本の過去の侵略戦争を「正義の戦争」と正当化する「靖国」派がほとんどを占め、安倍首相の自衛隊明記の9条改憲の野望を支える布陣となっているのが実態です。

 

表

 

毎日新聞世論調査 安倍改造内閣に「期待」8%(2018年10月7日配信『毎日新聞』)

 

支持率は横ばいの37%

 毎日新聞は6、7両日に全国世論調査を実施した。2日の内閣改造で安倍内閣に対する期待が高まったか尋ねたところ、「期待できない」が37%で、「期待が高まった」の8%を大きく上回った。最も多かったのは「変わらない」の47%。内閣支持率は37%で9月の前回調査から横ばい。不支持率は1ポイント減の40%で、3月の調査から7回連続で不支持が支持を上回った。

 麻生太郎副総理兼財務相を留任させたことについて、「評価する」は25%にとどまり、「評価しない」が61%にのぼった。自民支持層は、「評価する」48%と「評価しない」44%がほぼ拮抗(きっこう)。「支持政党はない」と答えた無党派層は、「評価する」17%、「評価しない」69%。人事刷新による政権浮揚効果に影響した可能性がある。

 女性閣僚は改造前の2人から片山さつき地方創生担当相1人に減った。安倍内閣で最少になったことに関し「女性の閣僚をもっと増やすべきだ」は38%、「女性の閣僚を無理に増やす必要はない」は50%だった。

 自民党総裁選で首相と戦った石破茂元幹事長が率いる石破派から山下貴司法相を起用したことについては、「評価する」51%、「評価しない」31%となった。

 主な政党の支持率は、自民党31%▽立憲民主党11%▽公明党4%▽共産党3%▽日本維新の会2%▽国民民主党0%−−など。無党派層は40%。

調査の時期の違いなどから単純に比較できないが、12年末の組閣後、14年9月の改造後の支持率は47%で動かなかった。その後3回は一定程度上昇。安保法制成立後の15年10月は4ポイント増の39%で、「支持しない」は7ポイント減の43%。16年8月は3ポイント改善し47%。17年8月は9ポイント増の35%。同年7月の東京都議選惨敗後に26%と第2次内閣以降で最低だったのを持ち直した。

 政権は支持率回復を図る。首相周辺は「下がらないだけ良かった。国民はこれから成果を見て判断するだろう」と強調する。だが自民のベテランは「拉致問題や北方領土問題の解決など大きな得点を稼げないと浮上は難しい」と漏らす。

 野党の低迷は続くが、それでも党内で「来年の参院選は負ける」(中堅)との見方が広がる。「来年はダブル(衆参同日選)をやった方がいい」(若手)と局面打開を求める声も出始めた。

 一方、立憲民主党の辻元清美国対委員長は「国民はあきれている。安倍政権への『うんざり感』が漂っている」と指摘した。

 

がん患者は「働かなければいい」発言の議員、政務官就任(2018年10月5日配信『朝日新聞』)

 

 安倍内閣は4日の臨時閣議で新たな副大臣・政務官を決めた。自民党総裁選で石破茂・元幹事長の支持を表明した議員から3人を起用。女性副大臣は2人から5人に増やした。

 総裁選で石破氏支持を表明した議員からは、無派閥の橘慶一郎衆院議員を復興副大臣に充て、政務官には石破派から2人を起用した。昨秋発足の第4次安倍内閣では、同派からの起用は政務官1人のみだった。

 総裁選で石破氏は、地方票の45%にあたる181票を獲得。党内では善戦と受け止められていた。石破派の舞立昇治内閣府政務官は記者団に「何派はともかくとして、総裁選が終わったので全力で支えていく」とノーサイドを強調した。

 女性登用に腐心した様子もうかがえる。女性閣僚は片山さつき地方創生相のみで、野党からは「女性活躍とあれだけ言っていながら1人では国民にも世界にも説明がつかない」(共産党の志位和夫委員長)など批判の声が上がっていた。

 だが、副大臣には永岡桂子文部科学副大臣や佐藤ゆかり総務副大臣ら女性は前回より3人多い5人を登用。政務官は鈴木貴子防衛政務官のみで1人減った。

 派閥別では、第2派閥の麻生派からの起用が目立つ。副大臣に鈴木馨祐(けいすけ)財務副大臣ら4人、政務官に5人の計9人が入り、前回の7人を上回った。昨年7月に旧山東派、谷垣グループの一部と合併し、第4派閥から第2派閥となった麻生派としては面目が立った格好。麻生派幹部は「ほぼこちらの要望が通った」と満足げだ。

 一方、がん患者に対し「働かなければいいんだよ」とやじを飛ばして謝罪した大西英男衆院議員が総務政務官に就任した。ほかにも言動が物議を醸した議員が数人おり、今後の政権運営の「火だね」となる可能性がある。

  ◇

副大臣

 【復興】橘慶一郎C、浜田昌良・参B=公明(留任)【内閣府】左藤章D、田中良生C(留任)、中根一幸C【総務】鈴木淳司D【総務兼内閣府】佐藤ゆかりB【法務】平口洋C【外務】阿部俊子D、佐藤正久・参A(留任)【財務】上野賢一郎C(留任)、鈴木馨祐C【文部科学】永岡桂子D【文部科学兼内閣府】浮島智子B=公明【厚生労働】大口善徳G=公明、高階恵美子・参A【農林水産】小里泰弘D、高鳥修一C【経済産業】関芳弘C【経済産業兼内閣府】磯崎仁彦・参A【国土交通】大塚高司C【国土交通兼内閣府兼復興】塚田一郎・参A【環境】城内実D【環境兼内閣府】秋元司B【防衛兼内閣府】原田憲治C

政務官

 【内閣府】長尾敬B、舞立昇治・参@【内閣府兼復興】安藤裕B【総務】大西英男B、国重徹B=公明【総務兼内閣府】古賀友一郎・参@【法務】門山宏哲B【外務】鈴木憲和B、辻清人B、山田賢司B【財務】伊佐進一B=公明、渡辺美知太郎・参@=無所属で自民党会派【文部科学】中村裕之B【文部科学兼内閣府兼復興】白須賀貴樹B【厚生労働】上野宏史A、新谷正義B【農林水産】浜村進B=公明、高野光二郎・参@【経済産業】滝波宏文・参@【経済産業兼内閣府兼復興】石川昭政B【国土交通】工藤彰三B、田中英之B【国土交通兼内閣府】阿達雅志・参A【環境】勝俣孝明B【環境兼内閣府】菅家一郎B【防衛】鈴木貴子B【防衛兼内閣府】山田宏・参@

 

政務官「魔の3回生」14人、自民ハラハラ(2018年10月4日配信『産経新聞』)

 

 

 

 政府が4日に決定した政務官人事で、平成24年衆院選で自民党から初当選した「魔の3回生」が半数以上の14人を占めた。「適齢期」の当選2回生が少ない自民党のいびつな構図のためだが、早くも失言や不祥事への懸念が出ている。

 「しっかり外相を支え、日本の国益に資する外交をやっていきたい」

 衆院当選3回で外務政務官に就任した辻清人氏は4日、所属する岸田派(宏池会)の会合でこう抱負を語り、大きな拍手を受けた。

 今回政務官に就いた自民党衆院議員17人のうち、初当選の時期が異なる3人を除いた14人は、トラブルが多い「魔の3回生」にあたる。過去には、不倫を認めて辞職した宮崎謙介氏や、秘書への暴言・暴行で昨年の衆院選で落選した豊田真由子氏らが有名だ。

 現在の3回生は落選経験者や他党からの移籍組を含め88人。大半は自民党への追い風で連続3回当選を果たし、党内で一大勢力を形成する。「魔の3回生」の大量当選のあおりで、若手の登竜門とされる政務官の適齢期である2回生は今回、参院議員経験者を除き一人も就任しなかった。

「魔の3回生」では今回、がん患者について「働かなくていい」と発言するなど、舌禍の多い大西英男氏が総務政務官に起用された。政務官に就いた別の3回生は「心配されないように頑張るしかない」と語るが、ベテラン議員は「正直、心配な人もいる」と本音を漏らす。

 一方、派閥別では安倍晋三首相の総裁選勝利に貢献した麻生派(志公会)が閣僚に加え、副大臣、政務官でも人数を増やした。同派中堅は「麻生太郎会長の力だ」と語る。首相を後押しした二階俊博幹事長率いる二階派(志帥会)も閣僚2人を増やした。

 

露骨なモリカケ論功 ズブズブ関係"完黙"で入閣した2大臣(2018年10月4日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 モリカケ論功人事じゃないのか――。初入閣を果たした2大臣を巡り、自民党内でも怨嗟の声が上がっている。

 1人目は石田真敏総務相だ。今年3月に衆院予算委員会で行われた佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問。質疑のトップバッターが石田だった。森友文書改ざんについて、誘導尋問のような質問を重ね、佐川氏から「(国有地値下げの)経緯の中で総理夫人の影響があったというふうには思っておりません」との答えを引き出した。

 偽証は罰せられる証人喚問の場で、佐川氏に昭恵夫人の森友問題への関与を否定させた褒美として入閣できたと、専らの評判である。

 もう1人の山本順三防災相は、もっと露骨だ。山本は愛媛選出の参院議員で、出身は加計学園の獣医学部のある今治市。今も地元事務所は同市内に置いている。

 安倍首相の出身派閥の細田派に所属し、2年前に改選を迎えた参院選では昭恵夫人も応援に駆けつけた。問題は加計学園とのズブズブ関係だ。

 昨年7月に週刊文春が下村博文元文科相の加計学園からの闇献金200万円疑惑を報じた記事に、実は山本も登場。下村事務所の日報に2014年4月23日に下村の紹介で加計学園の秘書室長と会食、さらに同年10月17日には加計孝太郎理事長と共に下村や同じく愛媛選出の塩崎恭久元厚労相と、東京・赤坂の料亭で会合を持つ案内が記されていたという。今治市在住で「今治加計獣医学部問題を考える会」の黒川敦彦共同代表が言う。

「山本氏は獣医学部誘致の地元対策を巡り、安倍首相と今治市長とのパイプ役を務めたとの情報もあります。昨年8月、地元の国政報告会で誘致反対派の市民に取り囲まれましたが、終始ダンマリ。地元では加計問題の渦中に口を割らなかった論功で、ようやく入閣できたと持ちきりです」

 2人の初入閣は、安倍がモリカケ問題について全く反省していないことの証明である。

 

大マスコミもケチョンケチョン 改造内閣は「自爆テロ」(2018年10月4日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 まっとうな反応だろう。第4次安倍改造内閣と自民党執行部の役員人事を報じた3日の大新聞の論評は総じてケチョンケチョンだった。

〈こんな内向きの人事では、政治や行政への信頼を取り戻し、難しい政策課題に取り組む足場を固めることなどできはしまい〉〈「女性活躍」を掲げながら、女性閣僚が1人というのも、看板倒れだろう〉〈首相がきのうの記者会見で述べた「新しい国造りの力強いスタートを切る」布陣には程遠いと言わざるを得ない〉(朝日新聞)

〈長く入閣できなかった待機組の一掃を図ったことをうかがわせる。首相はきのうの記者会見で「全員野球内閣」と銘打ったが、長期的課題を担える布陣なのかは疑問だ〉(毎日新聞)

〈自民党総裁選の論功行賞、入閣待望組の滞貨一掃という評価は、そう的外れではない〉(日経新聞)

安倍応援団と揶揄されている読売や産経ですら、編集委員が改造人事に後進育成の姿勢が感じられないことを指摘。

いつもは安倍ヨイショばかりの民放番組でも、コメンテーターが「これまでの安倍内閣で一番、出来の悪い内閣」「この人で大丈夫かなという人が5人くらいいる」とコキ下ろしていたら珍しい。

安倍首相は「全員野球内閣」なんて言ってヘラヘラしていたが、世論の受け止めは真逆。共同通信の緊急電話世論調査によると、改造人事について「評価しない」との回答は45.2%に達し、「評価する」の31.0%を大きく上回っていた。

■目玉も華もない傷モノだらけの私物化人事

改造人事が失敗した理由は、総裁選の露骨な論功行賞に加え、フダツキの「お友達」を復権させたことが大きいだろう。

共同通信の調査によると、自殺者まで出た財務省の組織ぐるみの公文書改ざんや隠蔽、虚偽答弁に対して何ら責任を取らなかった麻生副総理兼財務相の留任を「よくなかった」と回答した割合は51.9%に達した。

大臣室で業者からカネを受け取るという前代未聞の“口利きワイロ疑惑”で経済再生担当相を辞任した甘利明を選対委員長に起用したほか、厚労省の捏造データが発覚した「働き方改革関連法案」を巡る国会答弁でインチキ答弁した加藤勝信厚労相を総務会長、陸自のイラク派遣日報の隠蔽問題で防衛相辞任に追い込まれた稲田朋美を筆頭副幹事長兼総裁特別補佐、政治資金問題で刑事告発された上、加計学園からの“ヤミ献金”疑惑が指摘されている下村博文を改憲推進本部長にそれぞれ据えたのも大問題だ。要するにモリカケ問題と構図は同じ。政治の私物化に他ならない。

「お友達」以外の人事は滞貨一掃。片山さつきの地方創生担当相なんて目玉にもならない。むしろ、生活保護バッシングを繰り返し、社会的弱者など歯牙にも掛けない片山が地方創生なんて最悪だ。恐らく頭にあるのは、地方の「創生」よりも「切り捨て」だろう。

政治評論家の小林吉弥氏はこう言う。 

「総裁選で石破氏に地方票で善戦され、さらに沖縄県知事選で出はなをくじかれたことが影響し、安倍首相は人事で思い切った布陣を敷くことが出来なかった。それで調整型のような形になったのでしょうが、目玉もなければ華もなく、傷モノだらけの人事となれば支持率が下がるのは当然。タダでさえ、任期最後の政権の期待感は低いのに、この顔ぶれでは支持率はますます下がると思います。首相の党内求心力もどんどん失われていくことになるでしょう」

安倍は来年の統一地方選、参院選まで持たない

就任会見で早速、教育勅語をアレンジしたら今も道徳に使えるといった趣旨の発言をして批判が噴出している柴山昌彦文科相は論外だが、もはや今回の改造人事は国民を挑発し、ケンカを売っているに等しい。人事直後は内閣支持率が上がるケースが多いが、共同通信の調査だと、新内閣の支持率は46・5%で、前回(9月)の調査から0・9ポイント減った。党内からは「まるで自爆テロ」なんて声も漏れ始めたが、これじゃあ一体、何のために改造人事を行ったのか分からない。

安倍は今回の閣僚人事で、党改憲推進本部の現役役員を6人も入閣させた。根本匠厚労相は事務総長だし、片山、岩屋毅防衛相、石田真敏総務相、原田義昭環境相はいずれも副本部長。柴山は事務局次長だ。下村を本部長にし、党の最終案を取りまとめる総務会長に加藤を起用したのも改憲のためとみられている。だが、このまま改造内閣の支持率がジリジリと下がり続ければ、来春の統一地方選、夏の参院選の顔として「アベ」で戦えないのは明らか。今月末の臨時国会で火ダルマ状態になり、災害対策のための2018年度補正予算を成立させた途端、党内政局が起きる可能性だってある。

「安倍さんは今回の人事で、改憲本部長だった細田(博之)さんと総務会長の竹下さんを交代させましたが、2人とも派閥の領袖ですよ。いくら改憲のためとはいえ、こんな失礼な人事はありません。この扱いに細田、竹下の両派閥議員はカンカンです。細田さんも竹下さんも同じ島根で互いに気心は知れている。仮に政局になれば、どう動くか分かりませんよ。そうなれば改憲なんて夢のまた夢になります」(自民党国会議員秘書)

ヤルヤル改憲は延命のためのポーズ

国民が強く求めているワケでもない改憲をゴリ押しするために党内の重鎮を袖にし、周りを「お友達」で固めればコトがうまく運ぶと思っているのであれば、安倍のオツムを疑う。そもそも、安倍がどんなにシャカリキになっても、来年の通常国会の発議はスケジュール的にムリだ。春は統一地方選や新年号に伴う平成天皇の退位や新天皇の即位といった国民的な重要行事がある。そうこうしているうちに6月の会期末を迎え、そのまま参院選に突入だ。それで慌てて今度の臨時国会に改憲案を提出しようと焦っているのだろうが、野党はもちろん、連立を組む公明党だって黙っちゃいない。オマケに支持率が上がらないのだから、誰がどう見ても改憲なんて出来るワケがない。結局、「ヤル、ヤル」と旗を振っているのは安倍一人だけ。まるでヤルヤル詐欺だ。政治アナリストの伊藤惇夫氏がこう言う。

「改憲推進本部長に下村さんが就きましたが、公明党とのパイプもなく、どうまとめるのでしょうか。支持率が落ちていく中、とにかく残り3年の総裁任期を全うするには、改憲を言い続けないと党内の求心力が保てない。改憲するというのは(自身の)延命のためのポーズだと捉えています」

終わりはとっくに始まっている。

 

安倍新内閣の支持率が急落 「評価しない」多数で早くも暗雲(2018年10月4日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 総裁3選を果たしたばかりの安倍首相に早くも暗雲だ。先月30日の沖縄県知事選の敗北がケチのつき始めで、第4次安倍改造内閣の発足を受けて2、3両日に実施された各種世論調査でもボロボロだ。

 日本経済新聞の調査では、内閣支持率が前回9月調査の55%から50%に急落。改造後の支持率下落は珍しく、第2次安倍政権では初めてだ。

 改造後の安倍内閣や自民党執行部の顔ぶれについては「評価しない」が44%で、「評価する」の28%を上回った。評価しない理由では「派閥の意向にとらわれていた」が26%で最も多かった。

 読売新聞でも、内閣改造を「評価しない」が45%で、「評価する」の38%を上回った。

 疑惑やスキャンダル続出だった財務省のトップの麻生副総理兼財務相の留任を「評価しない」が57%、「評価する」は36%。建設業者からワイロをもらって大臣辞任の“前科”がある甘利明の自民党選対委員長への起用では「評価しない」が41%で、「評価する」は37%だった。

 一方、沖縄県知事選で米軍基地の辺野古移設に反対する玉城デニー氏が当選したことは、63%が「評価する」で、「評価しない」は24%だった。

 驕れる安倍はもはや風の前の塵に同じだ。

 

自民・内閣人事、異常あり(2018年10月4日配信『しんぶん赤旗』)

 

カネの疑惑、ぞろぞろ

 2日に行われた自民党役員人事と内閣改造。安倍晋三首相の背後や隣に並ぶあの人、「政治とカネ」の疑惑がありませんでしたっけ? こんな人事ありなの?

 党選対委員長に起用された甘利明元経済再生相。2016年1月、土地トラブルをめぐり口利きした見返りに建設会社から1200万円を受け取った疑惑が発覚し、大臣を辞任しました。

 秘書2人が都市再生機構(UR)と計12回面談し、「甘利事務所の顔を立ててくれ」などと要求していました。甘利氏本人も大臣室で建設会社側から現金計100万円を受け取っていました。あっせん利得処罰法違反の疑いなどで告発されましたが、東京地検特捜部は嫌疑不十分で不起訴にしました。

 加計学園側から支払われたパーティー券代200万円を政治資金収支報告書に記載しなかったとされた下村博文元文科相は、党改憲推進本部長という要職に就任。問題が発覚した17年6月には「法律上問題ない」と疑惑を否定していました。

 岩屋毅防衛相は党カジノプロジェクトチーム座長やカジノ議連幹事長を務め、米国のカジノ業者の関係者からパーティー券74万円分の購入を受けたと報じられました。

末期的な「適材適所」判断

神戸学院大学教授 上脇博之さん

 安倍晋三総裁・首相は党役員や内閣に自分のイデオロギーに近い議員や、党内で求心力を保つために初入閣者を多数入れました。自民党総裁の3選を果たし、やりたいことを強行するための布陣です。

 改憲に向け安倍首相の右腕として下村博文元文科相を改憲推進本部長にしました。下村氏とは教育改悪で一緒にやってきたし、加計学園の加計孝太郎理事長とも近い関係です。

 下村氏は自身のパーティー券疑惑について「都議選後に説明する」と言いながら、いまだ説明していません。森友加計問題で説明責任を果たさない安倍首相と体質が同じです。

 党選対委員長に抜擢された甘利明元経済再生相の疑惑は、業者とのもたれあいというよりタカリに近い悪質なものです。こんなことをする人を選挙の責任者にすることは、自民党のダーティーな面をさらに真っ黒にするものだといえます。

 自民党は「政策活動費」という名目で、2016年だけで17億円を使途不明の使い方をしています。選挙の裏金にもなりかねないカネの使い方を甘利氏に任せてしまう。安倍自民党からみると「適材適所」かもしれませんが、国民にとっては最悪で有害です。

 甘利氏は、自身の事件について「不起訴になったので問題ない」と言っています。法的な責任と政治的責任の違いをわかっていません。刑事責任が問われなかったとしても、政治的責任はあります。本人が「説明する」といっておきながら雲隠れし、逃げ回った末に「問題ない」では、「逃げ得」です。説明して説明責任を果たそうとしないのは納得してもらえる説明ができないからだと思います。

 岩屋毅防衛相についても、自公維によるカジノ法案を国会で通過させた“功績”の持ち主。安倍政権になって防衛費はどんどん膨らむ方向で利権の温床です。そこに彼を抜擢した意味合いは大きい。

 こんな異常人事しかできないということは、安倍首相は主権者国民から見た適材適所の判断ができない。となると、首相本人が首相としての能力がなく適材適所ではないということになります。いよいよ末期的状態です。

 

新閣僚ら早速暴言(2018年10月4日配信『しんぶん赤旗』)

 

戦前の教育勅語「今も使える」

敵基地攻撃能力の保有を主張

それもそのはず ズラリ「靖国」派

 2日発足した第4次安倍改造内閣と自民党新執行部の閣僚や役員から早くも重大発言が相次いで飛び出しました。初入閣した柴山昌彦文部科学相は、教育勅語を現代的にアレンジして教えることも「検討に値する」と発言。自民党総裁特別補佐に就任した稲田朋美元防衛相は、自衛隊の敵基地攻撃能力の保有を主張しました。


 2日深夜の記者会見で教育勅語について問われた柴山氏は「いまの道徳教育に使うことができる分野というのは十分にあるという意味では普遍性を持っている」と述べました。

時代錯誤

 戦前の道徳教育「修身」では、教育勅語に基づき“天皇のために命をささげよ”と教え、子どもたちを侵略戦争に駆り立てました。そのため戦後の日本国憲法のもとで、衆参両院が同勅語の排除と失効をそれぞれ決議しました。その勅語を道徳教育で「使うことができる」との認識を現職の文科相が表明したのは極めて重大です。

 一方、稲田氏は2日、東京都内で開かれたシンポジウムで「北朝鮮は実は非核化の意思はないんじゃないか」と述べ、「ミサイル防衛で1発目のミサイルを撃ち落とし、2発目(が撃たれる)までに敵基地を反撃する能力を持っていない状況でいいのか」と主張したと報じられました。朝鮮半島の平和の激動の流れに全く逆行する発言です。

 自民党の閣僚や役員らはこれまでも、時代錯誤で好戦的な暴言や改憲の主張を繰り返してきました。柴山氏は2017年の改憲右翼団体「日本会議」系の集会で「今が(改憲の)絶好のチャンス」だと主張。今回、自民党憲法改正推進本部長に就任した下村博文氏は文科相当時の14年4月8日、「教育勅語の中身そのものは、まっとうなことが書かれている」と発言していました。

右派議連

 その背景に何があるのか―。今回の第4次改造内閣で公明党所属の石井啓一国土交通相を除き、安倍晋三首相と自民党所属閣僚の計19人の全員が、「靖国」派改憲右翼団体と連携する「神道政治連盟国会議員懇談会」と「日本会議国会議員懇談会」の二つの議員連盟のいずれかに加盟歴があることが本紙の調査で分かりました。とくに「神道政治連盟」の議連には19人全員に加盟歴があり、「日本会議」の議連には15人が加盟しています。(表)

 また、自民党四役のうち留任の岸田政調会長と新任の加藤勝信総務会長、甘利明選対委員長の3氏は、いずれも両議連に加盟しています。

 初入閣の12人を含む13人を入れ替えた内閣改造でしたが、安倍首相や麻生太郎財務相をはじめ、過去の日本の侵略戦争を「正義の戦争」と正当化する「靖国」派が多くを占める自民党から何人入れ替えても、その危険な主張が変わらないのは当然です。

 

 

看板政策 兼務多すぎ 「担当相」政権長期化で乱立(2018年10月4日配信『東京新聞』)

  

 第4次安倍改造内閣が3日、本格始動した。少子高齢化に対応するためとして「全世代型社会保障改革担当相」を新たに設け、すべての世代が安心できる制度づくりを目指すと訴える。安倍政権は「地方創生」「一億総活躍」など次々と看板政策を掲げ、内閣改造で担当閣僚を新設してきた。政権の長期化で「看板政策担当相」の兼務が重なり、それぞれの政策の本気度に疑問符がつきかねないケースもある。 

沖縄・北方担当相の宮腰光寛氏は3日、3人の前任閣僚から引き継ぎを受けた。宮腰氏は沖縄・北方を含め一億総活躍や領土問題、行革など8つの閣僚を兼ねる。就任当日の2日、記者団に「(首相から)『担当が多岐にわたるので国会も大変だと思うが、頑張ってもらいたい』と話があった。思った以上にたくさんあった」と語った。一億総活躍は2015年9月、首相が打ち出し、直後の内閣改造で初めて担当相を設置。初代の加藤勝信氏は担務が7つ、次の松山政司氏は8つの時期もあった。

 地方創生は14年に掲げた政策で、同年9月の内閣改造時に、石破茂氏が初代担当相となった。石破氏は地方創生も含めて担務は2つだったが、その後の担当者は5つ。今回初入閣の片山さつき氏も地方創生を含め5つを受け持つ。片山氏は3日の記者会見で「地方創生が目立っていないことを首相が気にしていた」と明かした。

 幼児教育無償化など人材投資の政策「人づくり革命」は17年に政権が掲げた。同年8月の内閣改造で、茂木敏充経済再生担当相が担った。

 今回の内閣改造で「人づくり革命」は消え、茂木氏は全世代型社会保障改革担当相として、65歳を過ぎても働けたり、公的年金の受給開始時期を70歳超でも選択可能にしたりする制度設計を担う。ただ、茂木氏は日米貿易交渉での日本側の交渉責任者。政権の看板政策を進める余力があるのかとの批判も招きそうだ。

 

内閣改造「評価せず」45% 麻生氏留任「よくない」51%(2018年10月4日配信『東京新聞』)

  

 共同通信社が2、3両日に実施した全国緊急電話世論調査によると、内閣改造と自民党役員人事を「評価しない」との回答は45・2%で、「評価する」の31・0%を上回った。安倍内閣の支持率は46・5%で、前回9月の調査から0・9ポイント減となった。不支持は1・8ポイント減の38・2%だった。

 内閣改造は通常、政権基盤の強化や求心力回復を狙って行う。直後に支持率が上がるケースが多いが、今回は政権浮揚にはつながらなかった形だ。

 安倍晋三首相が麻生太郎副総理兼財務相を留任させたことについて「よかった」と答えた人の割合は33・5%で、「よくなかった」は51・9%だった。石破茂元幹事長を主な自民党役員や閣僚に起用しなかったことについては「納得できる」43・3%、「納得できない」41・0%でほぼ拮抗(きっこう)した。

 首相が自民党の改憲案を次の国会に提出できるよう取りまとめを加速すべきだとの意向を示していることについて賛成は36・4%、反対は48・7%だった。

 安倍内閣が優先して取り組むべき課題(2つまで回答)について聞いたところ「年金・医療・介護」が38・7%で最も多く、「景気や雇用など経済政策」36・1%、「子育て・少子化対策」22・3%と続いた。

 米軍普天間(ふてんま)飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の名護市辺野古(へのこ)への移設を進める政府方針について「支持する」は34・8%、「支持しない」は54・9%だった。

 政党支持率は自民党が前回比1・4ポイント減の44・8%で、立憲民主党は2・4ポイント増の8・7%。公明党4・4%、日本維新の会2・6%、共産党2・2%、国民民主党1・0%、社民党0・8%、自由党0・6%、希望の党0・5%。「支持する政党はない」とした無党派層は33・0%だった。

 

内閣改造を「評価」38%…読売世論調査(2018年10月4日配信『読売新聞』)

 

 読売新聞社は、第4次安倍改造内閣が発足した2日から3日にかけて、緊急全国世論調査を実施した。内閣の骨格となる閣僚が留任する一方、初入閣が安倍内閣で最多の12人となった今回の内閣改造について評価を聞くと、「評価する」が38%で、「評価しない」の45%を下回った。

 麻生副総理兼財務相が留任したことを「評価する」は36%で、「評価しない」57%の方が多かった。唯一の女性閣僚として、片山地方創生相を起用したことについては「評価する」が51%、「評価しない」が35%。先の自民党総裁選で、安倍首相の対抗馬の石破茂・元幹事長を支援した議員を閣僚に起用したことは「評価する」が71%に上り、「評価しない」の19%を大きく上回った。

 自民党役員人事で、甘利明氏を選挙対策委員長に起用したことについては、「評価する」37%、「評価しない」41%だった。

 

自壊へ一直線 「安倍改造内閣」国民唖然の酷い顔触れ<>(2018年10月4日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 2日発足した第4次安倍改造内閣は、目を覆う酷い顔ぶれだ。連続2期6年までだった自民党総裁選のルールを変えて政権延命の道をこじ開けた安倍晋三首相は、圧力と恫喝をフル稼働。無理に無理を重ねて三選した。そのツケで、大臣不適格者を残留せざるを得なくなり、論功でスネ傷議員や大臣待望組を滞貨一掃とばかりに何人も入閣させるしかなくなったのである。

「ここまでヒドい組閣をするのか、と言葉を失いました。沖縄県知事選で突き付けられたアベ強権政治へのNO、総裁選で地方票が示した異議申し立て、モリカケ問題を巡るアベ首相の説明に納得できない7割超の世論はすべて無視。国民に挑戦状を叩きつけた布陣です」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)

 会見した安倍は「腕を磨いた実務型の人材を結集した」などとうそぶき、「全員野球内閣」と命名したが、初入閣組は派閥領袖の推薦をほぼ丸のみ。国民が仰天するスネ傷のオトモダチもワンサカだ。

 「政権の土台」として続投した麻生太郎財務相は、森友学園問題を巡って公文書隠蔽・改ざんに走った財務省のトップ。コトの発端は安倍夫婦の暴走とはいえ、部下が自殺しているのに知らん顔なんて、民間企業ではありえないことだ。通常国会で辞任が当たり前なのに、残留なんて、まさしく、国民への挑発だ。菅官房長官も沖縄の故・翁長知事を冷遇し、辺野古ノーの民意を踏みにじってきた中心人物だ。県知事選の惨敗を受けて、蟄居が当然なのに、デカイ顔して、官邸に居座り、霞が関にニラみをきかせる。ホント、呆れた人事だが、こんなムチャクチャのオンパレードが、今度の改造なのである。

 西日本豪雨の最中に「赤坂自民亭」で総裁選対策にいそしむ安倍の様子をツイッターで宣伝した西村康稔官房副長官も続投し、その席で大ハシャギしてツイッターを拡散した片山さつき参院議員がまさかの地方創生相で初入閣した。働き方改革を巡り、データ捏造に手を染めた加藤勝信厚労相は党総務会長に横滑りした。

 世論をバカにするにもホドがあるが、これには党内だって騒然だ。政治評論家の本澤二郎氏はこう言った。

「ポイントは安倍首相の出身派閥で党内最大の細田派の処遇です。4人が入閣した第2派閥の麻生派の後塵を拝する3人にとどまった。派内は総裁選で誓約書を取らなければならないほど不満分子を抱えているのにこの扱いでは、足元から揺らぐことになるでしょう」

 この改造で、安倍内閣の命運が尽きたんじゃないか。そう言い切っててもいいほどだ。

 フダツキが憲法改正を仕切るマンガというか呆れた神経

 内閣総辞職モノの不祥事に何度見舞われたか分からないほど醜聞まみれの安倍が総裁3選に突き進んだのは、悲願の憲法改正を実現するためだ。連立を組む公明党は事前協議を拒んでいるが、会見で安倍は「真摯に議論する。具体的条文を示さなければ理解は得られない」と受け流し、「自民党がリーダーシップを取り、次の国会に改正案を提出すべきだ」と重ねて強調した。

 それを支えるのが、今回の内閣改造・党役員人事だ。改憲論議を含めた意思決定機関を束ねる総務会長に安倍シンパの加藤前厚労相を充て、憲法改正推進本部長に側近の下村博文元文科相を起用した。下村といえば、加計学園の獣医学部新設プロセスに関わり、学園から200万円闇献金を受け取った政治資金規正法違反疑惑が浮上。

 下村は「都議選後に説明する」と話していたが、いまだ明確な説明から逃げている。

 「分かりやすいほどの憲法改正シフトです。盟友の加藤総務会長もそうですが、安倍首相と思想信条が近い下村氏を本部長に据えることで、党内の反発を抑え込み、改憲論議を強引に加速させる思惑がミエミエです」(五十嵐仁氏=前出)

 こんなフダツキに憲法改正を仕切らせるなんてマンガというか、ホトホト呆れた神経である。

金銭醜聞の甘利の復権もオドロキならば選挙責任者という国民への挑戦

それにしてもオドロキなのが、口利きワイロ問題で大臣を辞めた甘利明元経済再生相の復権である。安倍の片腕と評され、総裁選で安倍陣営の選対事務総長を務めたことで再入閣も取り沙汰されていたが、結局は党4役の選挙対策委員長に就任。グレーな人物が政権の命運を握る来年の統一地方選や参院選を陣頭指揮するというのである。一体どういう了見なのか。

 安倍は会見で「TPPを合意に導く上において、米国とも相当タフな交渉をしていただいた。実績、手腕、調整能力、党内でも、ほとんどの方々が高く評価をしているのではないか」などと褒めそやしていたが、甘利は大臣室や事務所で建設業者から現金計100万円を授受。あっせん利得処罰法違反などの告発を受けた東京地検特捜部は不起訴処分(嫌疑不十分)としたが、本人も授受を認め、つい最近まで「睡眠障害」を口実に国会をサボってきた男である。

「大臣室での金銭授受が発覚した政治家は、日本の政治史上初めてのケースではないか。強権的な安倍政権が法務・検察を抑え込んだことでブタ箱入りを免れ、命拾いできただけで、本来であれば永田町から排除されるべき人物です。安倍首相自身、99年の下関市長選を巡り、対立候補の選挙妨害を依頼した暴力団と報酬でモメ、自宅に火炎瓶を投げ込まれた騒動が持ち上がっている。選挙で勝つためには、倫理も法令順守もクソ食らえということなのでしょう」(本澤二郎氏=前出)

 トコトン国民をナメている。

いくらなんでも酷すぎる滞貨一掃組の能力、資質、危うさ、人格

 初入閣したのは12人で、全閣僚の半数以上を占めた。新聞・テレビは「安倍内閣で最多」と大々的に報じ、安倍が改造前に言っていた「幅広い人材」を起用したように見せているが、とんでもない。12人のうち、衆院で当選5回以上、参院で当選3回以上のいわゆる「待機組」からの起用が10人。つまり、各派閥から「待機組」をねじ込まれただけで、滞貨一掃の人事なのはハッキリしている。

 しかも、その顔ぶれが酷すぎる。危ういのは、安倍と同じ右派思想が目立つことだ。日本最大の右翼組織「日本会議」のメンバーである桜田義孝五輪相は、慰安婦問題に「職業としての娼婦、ビジネスだ」とトンデモ発言をして問題になったし、竹島、尖閣諸島の領土問題で先鋭的な論陣を張る原田義昭環境相は、日韓合意に「納得しがたい」とイチャモンをつけ、韓国の反発を買っていた。

 能力、資質にクビをかしげたくなる人物も少なくない。地元・大分の支持者らを官邸に招いた際、階段に並ぶ組閣ごっこの写真を撮って大ハシャギしていた岩屋毅防衛相、TPP対策委の委員長代理兼事務総長時代に“ワイロ授受疑惑”を報じられた宮腰光寛1億総活躍・沖縄北方相、「赤坂自民亭」を発案したとされる石田真敏総務相、「大臣になるのが目的で国会議員をやっている」と揶揄されていた渡辺博道復興相――など、とてもじゃないが「適材適所」とは思えない。

「この改造人事は論評に値しません。総裁選で自分を支持した派閥領袖の言いなりで待機組を受け入れただけ。専門分野も何もあったものではない」(元NHK政治部記者で評論家の川崎泰資氏)

 滞貨一掃どころか、“不良債権”のバルクセールだ。

野党も週刊誌も腕をまくる醜聞大臣探し

 よこしまな論功行賞人事を受け、野党や週刊誌は早くも醜聞探しに走っている。いつ、スキャンダルがハジけてもおかしくない状況だ。

 自民党のカジノプロジェクトチームの座長を務め、カジノ推進の旗振り役の岩屋防衛相は、米カジノ業者のパーティー券購入リストに名前が記載され、実際、14年からの2年間で計74万円のパー券を買ってもらっていた。石田総務相は、14年末の衆院選で陣営の運動員が選挙活動を手伝った女性に報酬を支払い、公選法違反(買収)でパクられている。

 肝心の身体検査も、「甘すぎる」との声が聞こえてくる。

「派閥推薦を優先したので、官邸はロクに身体検査ができていないようです。実際、ある大臣には、秘書や職員へのパワハラ疑惑が浮上している。自民党内でも『いつ醜聞が飛び出すか』と不安視されています」(永田町関係者)

政治評論家の山口朝雄氏はこう言う。

「今回の改造は、大臣待機組を手なずけることが目的。おのずと人選は『滞貨一掃』となるわけで、問題を抱えた人物が入り込んでいてもおかしくはありません。野党にとっては格好の追及材料となる可能性があります」

野党もメディアも手ぐすね引いて待っている。

何ものなのか、石破派の3回生

改造人事で注目を集めたのは、石破派に所属する山下貴司法相。「魔の3回生」から異例の入閣だ。

山下は岡山県出身で東大法学部卒。1992年に検察官となり、東京や横浜などの地検で勤務した後、米国日本大使館や法務省刑事局付、東京地検特捜検事などを歴任した。憲法の司法試験考査委員や慶大講師も務め、法務・検察の出世街道を突っ走っていた2012年、衆院選に出馬して初当選。リベンジポルノ防止法などの議員立法も手掛けた。

石破派にもかかわらず、安倍はなぜ、「冷や飯」を食わせなかったのか。

「安倍さんと思想が近いからでしょう。憲法審査会では、憲法解釈の変更について〈国民の負託を受けた議会に立脚した内閣が、直面する諸課題に対応するため憲法解釈の変更を行うことは、むしろ立憲主義にかなうものである〉と是認していたし、9条についても〈9条の限界、解釈の限界としてどこまで許されるのかということ、これを私は国会で徹底討議すべき〉と発言しています。改造人事で党選対委員長に就いた甘利氏に批判が出ていますが、過去の参院の中央公聴会で、甘利問題を指摘した元検事の郷原信郎弁護士を批判したことも“評価”されているのでしょう」(与党担当記者)

 要するに挙党体制でも、適材適所でもない。安倍が改憲を進めるための人選ということ。

 万が一、法務・検察から改憲の進め方に異論が出た場合の「お目付け役」なのだ。

外遊回数だけを誇る河野太郎留任の愚

 目が点なのは河野太郎外相の留任も同じ。安倍もビックリの訪問回数だけを誇る“やってる感”外交が続くことになるのだから最悪だ。

 河野は昨年8月の就任以来ほぼ毎月、外遊し、訪問先はナント50カ国・地域(延べ73カ国・地域)に上る。4年8カ月の在任中に51カ国・地域(延べ93カ国・地域)を訪れた岸田前外相と比べても、超ハイペースである。得意の英語を生かした通訳なしの会談をアピールしているが、何の成果も上げていない。

 今年1月、平昌五輪直前の南北融和ムードの中、河野はカナダの外相会議で「北朝鮮と国交断絶」を呼びかけ、水を差した。トランプ米大統領が「核態勢見直し(NPR)」として「小型核の開発」と「核の先制使用」を打ち出すと、すぐさま「高く評価する」と礼賛した。

 国内ではグチばかり。「外相専用機を買ってくれ」とおねだりしたり、野党の要求で国会に出席し、数千万円のチャーター機を使わざるを得なかった際は、「税金の無駄遣いだ」とイチャモンを付けた。元外交官の天木直人氏が言う。

「訪問回数は重ねたかもしれませんが、河野外相は、断交呼びかけやNPR礼賛など、この1年で日本の国際的な地位をおとしめただけ。史上最低の外相です。ポンペオ米国務長官やラブロフ露外相は、平壌で金正恩委員長と会談していますが、河野外相はやろうとしない。安倍首相の訪朝が容易じゃないなら、なぜ自らが平壌に行こうとしないのか。実行力もビジョンも何もないのです」

 少しは本当の外交をやったらどうか。

片山さつき 凄まじかった猟官運動

 唯一、女性で入閣したのが片山地方創生相だが、大臣ポスト獲得のためのなりふり構わぬ猟官運動に眉をひそめた同僚議員も多い。

 先月の総裁選で片山は、投開票日が近づくにつれ、「アベ礼賛」ツイートを連発。8月28日は「憲法改正実現力、日本の舵取りは安倍総裁続投!」とやり、9月3日の安倍選対発足式には、壇上に上がる安倍の写真を掲載し「貫禄と品格あるスピーチでした!」と、気持ち悪いくらいにヨイショしてみせた。

 問題になった「赤坂自民亭」を巡るツイートも猟官運動の一環だったのだろうが、バツが悪かったのか既に投稿を削除しているのだから呆れるしかない。そもそも片山は、安倍や石破ら5人が立候補した12年総裁選では、石破の推薦人に名を連ねていた。ポストのために、こびを売る相手をコロコロと変えるのが常なのだ。

 そんな片山を安倍は「超人的なガッツの持ち主」などと持ち上げたのだからどうしようもない。

「忠誠心を見せた人物だけを引き上げるというやり方は、常軌を逸しています。全ての人選が、党内の論理で決められ、国民の方向を向いていません」(山口朝雄氏=前出)

 片山に地方創生など、期待できない。

人事の脅し、くびきが取れて、党内で火を噴く安倍降ろし

「盾突けば干される」という圧力やポスト期待で従順だった入閣待機組だが、改造人事が終わってしまえば、人事のくびきが取れ、一転「反安倍」だ。大臣になれなかった議員らが早速、不満を爆発させている。

「主要閣僚は結局、いつものメンバーだし、相変わらずのお友達重用。甘利や下村のような“傷モノ”を党の要職に就けるなんてあり得ません。私にはもう失うものはない。これからは、いざとなればガンガン暴れ、党内に火をつけてあおりますよ」(ベテラン議員)

 入閣待機組は80人とされていた。派閥推薦の滞貨一掃とはいえ、入閣漏れは70人近くに上る。総裁選で安倍支持に回って、党員票も集めたのに、ババを掴まされ恨み骨髄だろう。

 これまで自民党内で、安倍批判を表でハッキリ口にしてきたのは、村上誠一郎、石破茂、中谷元、船田元のわずか4議員程度だったが、今後、この人数は一気に膨れ上がるだろう。

 「入閣待機組は5年10カ月、黙って安倍首相を支持してきました。しかし、今回は安倍政権にとって最後の内閣改造になる可能性がある。来年の参院選で大敗したら退陣かもしれませんし、逆に勝利すれば閣僚をかえる必要がなくなりますからね。もはや待機組がじっと我慢している必要はなくなったわけです。内閣に何かスキャンダルでもあれば、反安倍に回るでしょう」(政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)

 安倍降ろしが火を噴くことになる。

世紀のデタラメ改造を「安全運転」などと評価する大マスコミのトンチンカン

「自民党は人材の宝庫」なんてブチ上げながら、結局は「お友達」と「極右」と「赤坂自民亭」ばかりになった改造人事。見飽きた顔とトボケた顔がずらり並び、何の期待もできない人事だったにもかかわらず、新聞・テレビは〈堅実な布陣〉〈総裁3期目を安全運転でスタートする狙い〉――などと総じて好意的に報じているから、どうかしている。

 この布陣のどこをどう見れば堅実と言えるのかが、サッパリ分からない。

 安倍は「戦後日本外交の総決算」などと言っているが、ロシアとの北方領土問題も、北朝鮮との拉致問題も八方ふさがり。日米通商協議だって、この先、トランプにどれだけ譲歩を迫られるのか見当もつかないのだ。それなのに、ただただ「全員野球内閣」なんて目くらましのキャッチフレーズを垂れ流している。

「組閣のカゲにかき消されてしまったが、沖縄県知事選の報道もおかしかった。安倍政権が総力を挙げて応援したにもかかわらず、結果は『歴史的大敗』だったのです。しかし、きちんと報じたメディアは皆無に等しい。メディアもおかしくなっています」(川崎泰資氏=前出)

 ポンコツ新内閣を持ち上げている場合じゃない。

この布陣で内閣支持率が上がるのか加速化する「無理やり3選内閣」の自壊

 党則を変えてまで総裁3選に執着してきた安倍は、ポスト期待とドーカツの“アメとムチ”でここまで求心力を維持してきた。その論功行賞と派閥への配慮で出来上がったのが、目玉ゼロでパッとしない、今回の「無理やり3選内閣」である。責任逃れ一色の麻生留任が骨格、初入閣組はボロばかり。一般に改造直後の内閣支持率にはご祝儀があるとされるが、こんな布陣で支持率が上がるのか。

「麻生、菅、二階の骨格3人を留任させたのは、ポスト安倍への蠢きを抑え、グリップするため。お友達重用と派閥均衡の“守り”の人事ですから、何かを成し遂げるための内閣ではなく、国民には響きません。改憲以外、何をやろうとしているのかが見えず、期待感は出ないでしょう」(鈴木哲夫氏=前出)

 総裁選で党員票の半分近くを石破に取られ、沖縄県知事選では大惨敗。上からゴリ押しの強権手法の極限が見え、国民も辟易、安倍政権は崩壊に向け尻に火がついている。その火を消すどころか、今度の改造でさらに油を注いでいるのだから、もはや命運は尽きた。

「安倍首相は新内閣を『実務型の全員野球内閣』としました。こんな当たり前のことしか言えないのは、レームダック化の裏返し。強気で我が道を行くのが持ち味だったのに、よほど追い込まれているのでしょう。もはや安倍1強を恐れない党内の『反安倍』の動きは抑え切れません。来年の参院選まですら持たないかもしれません」(政治評論家・野上忠興氏)

 安倍政権もいよいよ本当にオシマイだ。

 

安倍首相:トーンダウン 自民改憲案「提出」は「説明」(2018年10月3日配信『毎日新聞』)

 

 安倍晋三首相は3日、自民党の高村正彦前副総裁と首相官邸で会談し、自衛隊の明記など4項目の党憲法改正案を、秋の臨時国会で与野党に説明したいとの意向を示した。首相は2日の記者会見で「次の国会で党の改憲案提出を目指す」と改めて表明。高村氏が「党の条文案を衆参両院の憲法審査会で説明するという意味でいいか」と真意を尋ねると、首相は「そうとらえてもらって結構だ」と答えたという。

 首相はこれまで、臨時国会で条文案の「提出」に意欲を示したと受け止められていたが、議論のたたき台として「説明」するだけでも構わないと事実上認め、トーンダウンした形だ。

 自民党憲法改正推進本部は3月、9条への自衛隊明記▽緊急事態条項の創設▽参院選の合区解消▽教育の充実−−の条文案をまとめた。しかし先の通常国会では、立憲民主党など野党が慎重姿勢で、憲法審での説明さえほとんどできなかったという経緯がある。

 首相は公明党との事前協議にも意欲を示したが、公明党は応じず、与野党が一堂に会する憲法審での議論を求めている。公明の山口那津男代表は3日、国民民主党の玉木雄一郎代表にあいさつ回りをした際、「憲法(論議)には与野党の区別はなく、国会で同等のプレーヤーだ」と指摘。「場外で先行させ、何かを持ち込むことはふさわしいやり方ではない」と伝え、首相を重ねてけん制した。

 

「派閥の意向」が影 改造後の支持率下落は安倍政権初(2018年10月3日配信『日経新聞』)

 

日本経済新聞社の世論調査で内閣改造・自民党役員人事後に内閣支持率が下がったのは、第1次・第2次を通じて安倍政権では初めてだ。2012年12月の第2次政権発足以降、改造や衆院選後の組閣で支持率は平均すると5ポイント程度上昇していた。内閣改造は政権浮揚につながる例が多いが、今回は人事が政権運営に影を落とす結果となった。

首相は2日の内閣改造でいわゆる「入閣待機組」を多く起用した。初入閣は第2次政権発足以来の内閣で最多の12人だった。9月の総裁選で幅広い派閥の支持を得たため、各派の要望を受け入れた。党内の人事への不満は一定程度解消したが、今回の世論調査では内閣や党執行部の顔ぶれを評価しない理由で「派閥の意向にとらわれていた」が26%にのぼった。

首相はこれまで人事を契機に政権浮揚を図ってきた。第2次政権の6回の改造と組閣の後の支持率をみると、16年8月の第3次再改造内閣発足後の1回だけが横ばいだった。残り5回はすべて支持率が上がった。

 14年8月は集団的自衛権の行使容認を閣議決定した後で支持率が49%だった。9月の改造で小渕優子経済産業相ら過去最多に並ぶ5人の女性閣僚を起用し、幹事長に谷垣禎一氏をあてる人事をすると60%に上がった。

第1次政権では07年8月の1回だ。「お友達内閣」と批判されていたが官房長官を塩崎恭久氏から与謝野馨氏に代えるなどベテランを要職に起用すると支持率は28%から41%に上昇。前月まで不支持率が支持率を上回っていたが逆転した。

歴代政権でも改造をすると支持率が上がる例がほとんどだ。首相自身も経験している。小泉純一郎政権の03年9月、当時当選3回で幹事長に抜てきされたときは小泉内閣の支持率は45%から65%に20ポイントも上がった。

今回のように改造後に支持率が下がった例は少ない。1997年9月の第2次橋本改造内閣の発足時は、当時の橋本龍太郎首相がロッキード事件で有罪となった佐藤孝行氏を総務庁長官に起用した。世論の反発を受け、支持率は改造後に44%から43%に、不支持率は31%から36%になった。

民主党政権下では野田佳彦首相が12年10月の改造で田中慶秋氏を法相に起用すると、同氏の外国人献金問題などが発覚した。田中氏が辞任すると改造前に比べて支持率は13ポイント下落した。

 

安倍内閣:柴山文科相、教育勅語「普遍性持つ部分ある」(2018年10月3日配信『共同通信』)

 

 柴山昌彦文部科学相は2日の就任記者会見で、教育勅語を巡って同胞を大切にするといった基本的な記載内容を現代的にアレンジして教えていこうという動きがあるとして「検討に値する」と述べた。「アレンジした形で、今の道徳などに使えるという意味で普遍性を持っている部分がある」とも語った。

 政府は昨年3月の閣議で、戦前の教育の基本理念を示した教育勅語を学校で扱うことに関し「教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切」とした上で、憲法や教育基本法に反しない形での教材使用は否定しないとの答弁書を決定。野党や教育学者などから「教育勅語の排除・失効を決めた国会決議に反する」「戦前回帰の動きだ」といった批判や懸念が出ていた。

◇日本教育学会会長の広田照幸日本大教授の話

 教育勅語には普通の人が理解しやすいような徳目も含まれているが、全て「無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」という文言に掛かり、天皇家の繁栄のために国民があるというつくりのため一部をつまみ食いできる文章ではない。だからこそ戦後、国会で失効が決議された。ある徳目が普遍的だと考える人がいてもおかしくはないが、道徳の教材として使われれば憲法に反する原理を教育に持ち込むことになってしまう。

 

初入閣の柴山文科相、教育勅語“普遍性持つ部分ある”(2018年10月3日配信『TBSニュース』)

 

 初入閣した柴山昌彦文部科学大臣は就任会見で、戦前の教育で使われた教育勅語について、「アレンジした形で、今の道徳などに使える分野があり、普遍性を持っている部分がある」などと述べました。

 「(教育勅語を)アレンジをした形で、今の例えば道徳等に使うことができる分野は、私は十分にあるという意味では、普遍性を持っている部分が見て取れる」(柴山昌彦文科相)

 柴山大臣はさらに、「同胞を大事にするなどの基本的な内容について現代的にアレンジして教えていこうという動きがあり、検討に値する」とも話しました。

 教育勅語については、政府が去年、教材として使うことを否定しない内容の答弁書を閣議決定し、野党や研究者らが「戦前回帰だ」などと批判していました。

 

安倍内閣:教育勅語、自衛官リスク発言、「中身知らず」EM菌議連…不安深まる初入閣組(2018年10月3日配信『毎日新聞』)

 

 第4次安倍改造内閣で初入閣した閣僚12人は、2日夜から3日に就任の記者会見に臨んだ。首相官邸は不用意な発言を慎むよう指導したが、さっそく柴山昌彦文部科学相が教育勅語を巡る発言で批判を浴び、過剰に守りに入ったり「力み」を見せたりする閣僚も続出。「臨時国会も乗り切れるか分からない顔ぶれだ」(自民党関係者)という不安をさらに深める船出となった。

 「政府は積極的に教育勅語を活用する考えはない。一般論として学校現場の判断で行うべきだ、という発言だろう」。柴山氏の教育勅語発言に関し、菅義偉官房長官は3日の会見でこう釈明した。

 だが共産党の志位和夫委員長は「教育勅語は、大事が起きたら天皇のために命を投げ出すことが核心だ」と批判。立憲民主党の辻元清美国対委員長も「昔ならすぐクビだ」と追及する考えを示した。

 柴山氏は、安倍晋三首相が自民党幹事長時代に公募候補第1号として初当選した縁があり、保守系団体「日本会議国会議員懇談会」の役職も務める。3日の省内の訓示では、省内ですれ違った時は自分にあいさつするよう職員に求めた。

 岩屋毅防衛相は、2015年の安全保障関連法の国会審議の際、自衛隊員のリスクについて「増える危険性があるのは事実だ」と発言していた点を問われた。岩屋氏は「駆け付け警護などが『リスクが増える可能性もない』というのは正確な説明にならない。リスクを極小化しなければならないと申し上げたつもりだ」と釈明した。

 過去に言動が問題化した初入閣組も多く、政権幹部は「記者の挑発に乗らず、所管外のことを答えない」ように指導。閣僚側も「リスクと思う人がいるかもしれない」(渡辺博道復興相)と自覚はしているようだ。

 かつて南京大虐殺に関する政府見解の再検討を求めた原田義昭環境相は、会見でただされると「コメントを控える」と指導を順守した。慰安婦問題などで失言歴のある桜田義孝五輪担当相は、会見でパラリンピックを「パラピック」と言い間違える場面もあり、3日の職員訓示では原稿を棒読みした。

 唯一の女性閣僚、片山さつき地方創生担当相は「3人分働いて」と首相に頼まれたと明かし、「期待に沿えるように頑張る」と意気込んだが、政府内からは「張り切りすぎると仕える人が大変だ」とぼやきも漏れた。

◇科学技術担当相がEM菌議連幹事長「中身はよく知らない」

 初入閣の平井卓也・科学技術担当相は3日の記者会見で、科学的裏付けのない有用微生物群(EM菌)の利用を目指す超党派の「有用微生物利活用推進議員連盟」幹事長を務めていると明らかにし、「EM菌を使っている方がたくさんいるので幹事長を引き受けた。中身はよく知らない」と釈明した。

 議連は2013年末に国会議員約50人で発足。平井氏は「障害者施設でEM団子を作ったり、EM農業をやったりしているところを激励に行った。(大学教授の)話も一度聞いたが、ちゃんと答えられるだけの知識は持っていない」と述べた。

 EM菌は水質浄化などに効果があると宣伝されながら、科学的な裏付けはないと指摘されている。

 

首相「自民主導で改憲」(2018年10月3日配信『東京新聞』)

 

 第4次安倍改造内閣は2018年10月2日午後、皇居での認証式を経て発足した。安倍晋三首相は官邸で記者会見し、改憲について「自民党がリーダーシップを執り、次の国会に改正案を提出すべきだ」と秋の臨時国会への改憲案提出に意欲を示した。

自民党役員人事では、いずれも側近の加藤勝信、下村博文両氏をそれぞれ総務会長、憲法改正推進本部長に起用し、改憲論議を加速させる態勢を敷いた。

 首相は記者会見で、改憲案提出に向けた党内論議について「(総裁選の)結果が出た以上、下村氏の下で議論を深め作業を加速してもらいたい」と促した。

 改憲の是非を問う国民投票の時期に関しては「国会の議論次第だ。与野党の幅広い合意を得られるよう努力する」と語った。与党・公明党との調整を巡り「具体的条文を示さなければ、理解は得られない。信頼関係の中で真摯(しんし)に議論することが大事だ」と述べた。

 これに対し、公明党の山口那津男代表は「国会に具体案を出す前に協議する手法はとらない。衆参の憲法審査会の土俵で議論するのが基本だ」と自民党との事前協議に応じない考えを重ねて表明。首相会見を受け国会内で記者団に語った。

 加藤氏は就任記者会見で、改憲の党内論議に関し「首相の指示も踏まえ、憲法改正推進本部で議論が深まっていく」と説明。総務会の運営については「決めるときにはしっかりと結論を出し、実行していく」と述べた。党が改憲原案を国会に提出する際には、総務会の了承が必要になる。

 首相は会見で、改造内閣を「明日の時代を切り開く全員野球内閣だ」と名付けた。総裁選で争った石破茂元幹事長が率いる石破派からは、当選三回の若手、山下貴司衆院議員を法相に抜てきした。片山さつき参院議員を地方創生担当相に起用したが、女性閣僚は1人にとどまった。

 

首相、融和よりこだわり優先 腐心したのが甘利氏の処遇(2018年10月3日配信『朝日新聞』)

 

 第4次安倍改造内閣が発足した。主要ポストには盟友や側近を配置した人事となった。甘利明氏は当初の構想通りではなかったものの、要職に押し込み、憲法改正に向けても側近を登用。融和よりも自身のこだわりを優先した形で、自民党憲法改正案の国会提出をめざすが、そのハードルは高い。

 今回の人事で首相が腐心したのが甘利氏の処遇だった。2日夕、首相官邸で記者会見に臨んだ首相は、党四役の選挙対策委員長に就けた甘利氏について「実績、手腕、調整能力は、党内でもほとんどの方が高く評価しておられるのではないか」と手放しで絶賛した。

 甘利氏は第2次安倍政権発足当時、経済再生相としてアベノミクスのスタートを中核的に支えた。麻生太郎副総理兼財務相や菅義偉官房長官とともに政権の屋台骨だったが、2016年に建設会社からの現金授受問題で閣僚を辞任。あっせん利得処罰法違反などの疑いで告発され、東京地検特捜部は不起訴処分(嫌疑不十分)としたが、表舞台から遠ざかっていた。

 その復権が首相の狙いで、布石を打っていた。無派閥の甘利氏に対して、首相は一昨年末、麻生派入りを進言。「私にとってもプラスだからね」と語った。主流派の麻生派の力が増すのは得策な上、甘利氏を登用できるチャンスも広がる。国会で答弁を求められる閣僚での起用は難しくても、「党なら大丈夫だろう」(政権幹部)との判断だった。

 候補は政調会長と総務会長だったが、総裁選で目算が狂った。石破氏が想定以上の票を得たことで、麻生氏と二階俊博幹事長とともに、岸田文雄・政調会長も続投させ、派閥会長による主流派体制を維持せざるを得なくなった。

 今度は総務会長を模索したが、官邸幹部から懸念が相次いだ。「かつても『もうみそぎは済んだだろう』と判断したんだけど、いざ就任してみたら世論の温度感は違った。そういうこともあるから党役員に登用して良いのか」

 橋本龍太郎内閣が1997年、ロッキード事件で有罪が確定した佐藤孝行氏を総務庁長官に登用し、猛反発を受けて12日間で辞任に追い込まれて失速。翌年の参院選に敗れて退陣した例に重ねた。首相側近も「登用すれば、またたたかれる」と漏らした。

 党行政改革推進本部長の甘利氏は「省庁再々編」の旗を振り、総裁選では首相陣営の事務総長。露出が高まり、SNSなどでは現金授受をめぐる批判が再燃したことが影響した。首相は国連総会出席のため米国に発った9月23日までに、甘利氏を総務会長に登用することを断念。一つ格下で、定例の記者会見もない選対委員長で妥協することになった。

 甘利氏は就任を受けた2日の記者会見で「私、秘書とも刑事訴追されていない。私については検察審査会もその必要性を認めていない」と強調したが、党執行部は「(甘利氏を政調会長や総務会長にするとの観測で)名前が出たのが早すぎた。つぶされた」と振り返った。

 しかし、党役員人事では過去の不祥事やトラブルからの「みそぎ」を意識した人事も相次いだ。自衛隊の日報問題で防衛相を辞任してから1年強の稲田朋美氏は総裁特別補佐に。自身を支援する政治団体が学校法人「加計学園」の秘書室長から政治資金パーティーの費用として200万円を受け取りながら、政治資金収支報告書に記載していなかったと報じられ、昨年7月の都議選惨敗後に党都連会長を辞任した下村博文氏は憲法改正推進本部長となった。

 財務省の不祥事や自身の軽率なふるまいで責任を問われた麻生氏の続投も早々に決定。党幹部は「スキャンダルを抱えた人ばかり。秋の臨時国会が始まる前から、色々出てくるかもしれない」と懸念する。

閣僚経験者は「また、お友達だ。なぜわざわざ反発を招く起用をするのか」と反発した。

 

安倍首相 「全員野球内閣だ」実務型の人材結集(2018年10月3日配信『毎日新聞』)

 

 安倍晋三首相は2日夜、第4次安倍改造内閣の発足を受けて首相官邸で記者会見し、初入閣が安倍内閣で最多の12人になった今回の布陣について「全員野球内閣だ」と述べた。首相は「できるだけ多くのチャンスを作っていく。実務型の人材を結集した」と説明。「総裁選で誰に投票したかは考える余地がなかった」と挙党一致を強調した。

 憲法改正について首相は、近く召集する臨時国会に自民党案提出を目指す考えを重ねて表明した。改憲に慎重な公明党との調整に関しては「丁寧に説明していかなければならない」と述べた。

 改造内閣では、菅義偉官房長官が拉致問題担当相を兼務する。首相は会見で「6月の米朝首脳会談など新たな局面を迎える中、(菅氏の)手腕を生かし、政府・与党でオールジャパンの体制を強化する。一日も早い解決に全力を尽くす」と述べた。

 

首相「ポスト安倍」意識の布陣に 石破氏けん制の思惑も2018年10月3日配信『日経新聞』)

 

安倍晋三首相は2日の内閣改造・党役員人事で「ポスト安倍」を意識した布陣にした。岸田文雄政調会長を再任し、茂木敏充経済財政・再生相や河野太郎外相も留任させた。側近の加藤勝信氏は総務会長に抜てきした。総裁選で善戦した石破茂元幹事長が「ポスト安倍」の最有力とみなされるのを防ぐ狙いもある。

首相は2日の記者会見で、今回の人事を通じ「しっかりした土台の上に、できるだけ多くの方に活躍のチャンスを与えたい」と述べた。

総裁選中はポスト安倍について「リーダーは自ら育ってくる」などと語り、自身でお膳立てする考えはないとの立場を示していた。総裁選の結果を受け、石破氏の抑止に軸足を移したとみられる。

象徴的なのは岸田氏の人事だ。岸田氏は総裁選で自身の立候補を探っていたため首相への支持表明が出遅れた。首相陣営では当時、人事で岸田氏を外すべきだとの意見があった。岸田氏と並ぶ有力候補とみなすのが茂木氏だ。

今回、政権が目玉に掲げる全世代型社会保障改革の担当閣僚を新たに設け、茂木氏に兼務させると発表した。総裁選では所属する竹下派会長の竹下亘前総務会長が石破氏支持に傾くのに反し、竹下派の衆院議員を首相支持でまとめた。

「これからは岸田、茂木時代かもな」。総裁選後、首相は周囲にこう漏らしている。

重鎮のポストと目される総務会長に当選6回の加藤氏を起用したのも同じ理由からだ。2012年の第2次安倍政権発足時に官房副長官に登用し、その後も閣僚で処遇した。茂木氏と同じ竹下派に属する。

参院竹下派は石破氏支持だった。同派の総裁候補とみられる小渕優子氏も石破氏に投票した。首相が竹下派の茂木、加藤両氏を重用するのは竹下派への影響力も計算しているフシがある。

 外相に留任させた麻生派の河野氏を含め首相が着目するポスト安倍候補がいずれも出身の細田派でないことも重要だ。首相退任後も発言力を保つための布石になるからだ。

 

ポスト安倍候補は奮起を(2018年10月3日配信『産経新聞』)

 

 2日の自民党役員・内閣改造人事で要職に就いた面々、なかんずく安倍晋三首相の後を襲う「ポスト安倍候補」には、一層の奮起を促したい。何しろ、立憲民主党の枝野幸男代表は9月30日の党大会演説で、こう言い放っているのである。

 「自民党総裁選が終わったことで、『ポスト安倍』という話が出ている。しかし、野党第一党の党首である私が『ポスト安倍』だ」

 「私の責任は政権を得ることではなくて、長期政権を作ることだ」

 野党第一党トップの心構えとしては正しいとしても、自民党内で現在名前が挙がっている「ポスト安倍」候補など眼中にないと言っているに等しい。

 岸田文雄政調会長も茂木敏充経済再生担当相も河野太郎外相も、役職に就いていない石破茂元幹事長も含め、相手にされていないということになる。「人材の宝庫」(安倍首相)であるはずの自民党としては、不本意であるはずだ。

 「現在の内外の情勢を見たとき、『安倍首相の方がよい』ではなく、『安倍首相でなければ務まらない』のです」

 今回、党選挙対策委員長に就任した甘利明元経済再生担当相は総裁選中、繰り返しこう訴えていた。仮にそうだとしても、3年後には別の誰かが首相の重責を担わなければならない。

 先の総裁選は、初めから安倍首相の勝利自体は確定的で、石破氏がどこまで健闘するかが焦点だったが、今度は混戦となるかもしれない。今後、ポスト安倍候補同士のせめぎ合いは、徐々に激しさを増していく。

 ただ、そうした政局的な動きや駆け引きよりも、ポスト安倍候補には何より、それぞれの役職や立場の中で、政治家としての力量を示してもらいたい。外交・安全保障、憲法改正、少子化対策、経済政策…と、腕の見せ場はたくさんある。

 安倍首相自身も、小泉純一郎内閣の官房副長官時代に拉致問題、靖国神社参拝問題、教科書問題などで発信力を発揮して頭角を現し、幹事長、官房長官と次々に要職に起用された。

 その意味で、まだ当選回数6回の加藤勝信前厚生労働相が、党四役の一角である総務会長に抜擢された意味は大きい。安倍首相はかねて加藤氏のことを「将来の首相候補の一人」と語っており、枢要な地位に就けることでその資格を与えたといえる。

 防衛相時代の不祥事で、いったん無役となっていた稲田朋美元政調会長を、党総裁特別補佐兼筆頭副幹事長として再び表舞台に上げたのも、稲田氏を「初の女性首相」候補と考えてきた安倍首相の配慮だろう。

 党憲法改正推進本部長に起用された下村博文元文部科学相を含め、与えられた場所で結果を出せば評価が高まり、将来につながっていく可能性がある。

 「人物になると、ならないのとは、畢竟(ひっきょう)自己の修養いかんにあるのだ。決して他人の世話によるものではない」

 江戸城無血開城の立役者である勝海舟は、こう説いた。安倍首相も9月の産経新聞のインタビューで、全く同趣旨のことを述べていたのが印象に残っている。(論説委員兼政治部編集委員 阿比留瑠比)

 

安倍首相が内閣改造・党役員人事(2018年10月3日配信『しんぶん赤旗』)

 

露骨な9条改憲シフト

改ざん・隠ぺい 責任不問

 安倍晋三首相(自民党総裁)は2日、党役員人事とあわせ内閣改造を行い、第4次安倍改造内閣を発足させました。内閣改造では、公文書改ざん・隠ぺいなどの責任を不問にしたまま麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官を留任させ、自民党役員人事では、腹心の加藤勝信前厚生労働相を、総務会長にして改憲の党内調整にあたらせ、総裁選では来年夏の参院選前に憲法改定の国民投票を実施するよう首相に提言した甘利明元経済再生相を選対委員長に起用。党憲法改正推進本部長には自身に近い下村博文元文部科学相を充て改憲の推進役とするなど、露骨な改憲シフトとなっています。

 安倍首相は、河野太郎外相、世耕弘成経済産業相、茂木敏充経済再生担当相などの主要閣僚も続投させ、外交・経済分野での対米従属姿勢を継続。公明党の石井啓一国土交通相の留任も決めました。

 ただ、他の閣僚人事では、総裁選で支援を受けた各派閥から待機組を相次いで起用するなど派閥均衡色も強く出ています。文部科学相に柴山昌彦氏、防衛相に岩屋毅氏が充てられるなど初入閣は12人にのぼり、安倍内閣で最多となりました。

 女性は、地方創生相に片山さつき氏を登用したのみとなりました。

 一方、19人の自民党の閣僚全員が神道政治連盟、うち14人が改憲右翼団体「日本会議」の議連に入っている改憲タカ派内閣です。

 自民党の役員人事では、建設会社からの金銭授受・口利き疑惑で閣僚辞任した甘利明元経済再生相を選対委員長、自衛隊「日報」隠ぺいで同じく辞任した稲田朋美元防衛相を筆頭副幹事長に起用するなど安倍首相に近い改憲派議員をズラリと配置。国民の批判を無視しながら、9条改憲に向けた執念を示しました。    

 

改憲、右翼的志向が強い布陣 ただちに臨時国会で論戦を(2018年10月3日配信『しんぶん赤旗』)

 

 日本共産党の小池晃書記局長は2日、国会内で記者会見し、同日発足した第4次安倍晋三改造内閣の陣容について問われ、安倍首相と同じ毛色の“右バッター”=右寄り政治家が占める「モノトーン(単一色)の内閣だ」と評しました。

 小池氏は、公明党の石井啓一国土交通相を除く閣僚19人全員が改憲右翼団体と連携する「神道政治連盟国会議員懇談会」に加盟し、「日本会議国会議員懇談会」にも14人が加盟しているとして、「改憲、右翼的志向が強い布陣だ」と強調しました。

 小池氏は、沖縄県知事選で最大争点となった名護市辺野古の米軍新基地建設、国の主権を売り渡す日米、日ロ外交や相次ぐ大災害への対応など問題は山積しており、「一刻も早く臨時国会を開会して論戦に応じるべきだ」と強調。国民の多数が反対する自衛隊明記の9条改憲など「とんでもない。断固阻止する」と述べました。

 

国民の政治不信あおる(2018年10月3日配信『しんぶん赤旗』)

 

内閣改造人事 小池書記局長が批判

 日本共産党の小池晃書記局長は2日、国会内での会見で、新内閣の印象を問われ、「見あきた顔と見慣れない顔をかき集めたインパクトのない布陣だ」と述べました。

 さらに、記者団から、森友学園疑惑をめぐる財務省の公文書廃棄、隠ぺいなどで責任が問われる麻生太郎財務相の留任や、厚生労働省の労働時間データねつ造などで責任が問われる加藤勝信前厚労相の自民党総務会長就任への受け止めを問われ、「ちょっとびっくりした」と発言。あっせん利得疑惑がある甘利明元経済再生担当相の同党選対委員長就任にも言及し、「麻生氏の留任や甘利氏の復権などは、国民の政治不信をあおることになる。(安倍首相は)『しっかりした土台の上に幅広い人材を登用していく』というが、ぐらぐらの土台ではないか」と述べました。

 また、甘利氏が2日の記者会見で疑惑を問われ「刑事訴追されていない」と開き直ったことに言及。道路用地買収に権限に基づく影響力を行使する「口利き」で報酬を得たのではないかとの疑惑について、甘利氏は何の説明も必要な文書の開示も行っていないと指摘し、「刑事訴追されなかったから一件落着だとの説明はあまりに無責任だ。そういう人を選挙の顔にするのは、国民をなめている」と厳しく批判しました。

 また、初入閣の閣僚が安倍内閣で過去最多の12人に上ったのは「処遇のためでは」との質問に、小池氏は「一言で言えば『閉店セール内閣』。安倍政治の終わりの始まりだ」と述べました。

 

片山さつき氏入閣で限界露呈 安倍政権“自滅”は時間の問題(2018年10月3日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 2日の内閣改造と党役員人事で、安倍政権の限界がハッキリ見えた。どんなに立派に見える家でも、屋台骨にガタがきているのに放っておいたら、内側から崩れ落ちるのは必定だ。ガラクタ素材で補強したところで、どうにもならない。

 改造人事について、安倍首相は「しっかりとした土台の上に、幅広い人材を適材適所で」と言い続けてきた。「土台を固める」という方針で、政権の屋台骨である菅官房長官と麻生財務相、二階幹事長の留任を真っ先に決めたのだ。

「ただでさえ二階は79歳、麻生は78歳と高齢で、この2人が踏ん張っているかぎり、党内の世代交代が進まない。しかも、政権の“花形ポスト”である官房長官と財務相は第2次安倍政権発足時から一度も交代がなく、お鉢が回ってこない待機組の不満は爆発寸前でした。それでも政権が力を持っていれば誰も文句を言えなかったのですが、今回は空気が違う。相変わらずのオトモダチ重用人事に、党内で怒りの声が渦巻いています」(自民党の閣僚経験者)

腐った屋台骨をガラクタで…

 今回、初入閣が決まったのは、お騒がせ議員の片山さつき氏、安倍首相の首相補佐官や総裁特別補佐を務めてきた茶坊主の柴山昌彦氏、極右仲間の桜田義孝氏、スマホ向けゲームの「あべぴょん」を開発したという平井卓也氏……。その他は、組閣のたびに名前だけは挙がる宮腰光寛氏や原田義昭氏、吉川貴盛氏ら滞貨一掃組がズラリだ。

「総裁選で主要5派閥からの支持を取り付けた結果、各派閥の意向を尊重せざるを得なくなった。特に党内第2派閥を束ねる麻生さんと、総裁3選の道筋をつけた二階さんには格別の配慮をしています。この2人の不興を買って反安倍に回られては、たまらないですからね。がんじがらめに縛られた結果、当選回数を重ねた大臣待機組の“在庫一掃”に協力し、新鮮味は出せなかったのです」(官邸関係者)

 主要閣僚は代わらず、新入閣組はオトモダチとくたびれた滞貨ばかり。こんな改造内閣に期待しろという方が無理だ。

「屋台骨を中心にしてオトモダチを要所に配し、残りを派閥に論功行賞で配分するという内向きの論理だけで、まったく有権者の方を向いていない人事です。少なくとも麻生財務相は交代させなければおかしい。何度辞任してもおかしくないほどの暴言を繰り返してきたし、公文書改ざんという大問題を起こした組織のトップが責任を取らずに続投なんて、あり得ません。麻生財務相や菅官房長官、二階幹事長を交代させて、若返りで人心一新すれば支持率アップも望めたかもしれませんが、この布陣では難しい。延命第一で小幅改造にとどめたことが裏目に出て、党内の不満に足をすくわれることにもなりかねません」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)

 守りを固めるつもりが、肝心の屋台骨が腐っていれば、あっという間に家は傾く。干された石破派が暴れるまでもなく、自滅は時間の問題だ。

 

改造内閣 「選挙まで」「結局おじさん」有識者ら不満も(2018年10月2日配信『毎日新聞』)

 

改造内閣 名付けると……

 2日に発足した第4次安倍改造内閣。先月の自民党総裁選で支援を受けた各派閥からの新入閣が相次ぎ、論功行賞の色が濃い顔ぶれとなる中、新内閣は国民の期待に応えられるのか。「選挙までの時間稼ぎだ」「結局おじさんだらけ」。有識者らからは疑問や不満の声があがった。

 「それぞれのポジションで腕を磨いてきた実務型の人材を結集した。『全員野球内閣』だ」。安倍晋三首相は2日夕に首相官邸で開いた記者会見で、内閣改造の狙いをこう説明した。

 自信をのぞかせる首相の姿に「前回の改造では『仕事人内閣』と名付けておきながら、安倍内閣として過去最多の12人を初入閣させるのは矛盾していないか」と首をかしげるのは、時事問題について積極的に発信する時事芸人のプチ鹿島さん(48)だ。

 「初入閣が多いのに、顔ぶれにフレッシュさはあまり感じられない。攻めの姿勢をアピールしつつも、内実は派閥の意向を受け入れた布陣でボールを回しているだけ。来年夏の参院選までの時間稼ぎにしか見えない」と話し、「パス回し内閣」と評した。

 経済ジャーナリストの荻原博子さん(64)が名付けたのは「庶民感覚置き去り内閣」。荻原さんは「『女性活躍』や『仕事人』を経て、結局派閥均衡型に戻った印象。今後、増税や社会保険料の引き上げなど暮らしへの影響が大きい施策が目白押しなのに、顔ぶれからはその分野のスペシャリストという起用に感じられない」とし、「むしろ、首相に従う議員をそろえて選挙対策や悲願の憲法改正を意識した布陣にしか見えず、国民目線が足りない」と注文をつけた。

 改造では、総裁選で石破茂元幹事長を支持した斎藤健農相は交代したが、石破派からは山下貴司氏が法相に就任した。一方、自民党役員人事では、総裁選で首相陣営の事務総長を務めた盟友の甘利明氏を選対委員長に起用した。女性閣僚は2人から1人に減り、片山さつき氏だけに。麻生太郎副総理兼財務相らは留任した。

 企業の人材育成に取り組むFeelWorks社長、前川孝雄さん(52)は「結局おじさん内閣」と命名した。「女性をはじめ、多様な人材の活用という観点から見ると、今回の布陣はほど遠く、おじさん中心の組織の作り方だ」と指摘。その上で「金銭授受疑惑があった甘利氏の起用も、ほとぼりが冷めたという政界認識と、市民意識にギャップを感じる。内向きの気遣いが優先されていては改革は進まない」と話した。

 

「在庫一掃、閉店セール内閣」野党が改造後の顔ぶれ批判(2018年10月2日配信『朝日新聞』)

 

 2日発足した第4次安倍改造内閣の顔ぶれに対し、野党各党は「在庫一掃」「閉店セール内閣」「政治が責任を取っていない」と批判を強めた。

 安倍晋三首相は内閣の「骨格」となる主要閣僚を留任させ、自民党総裁選で支援を受けた各派閥から多くの閣僚を登用した。

 先の通常国会で決裁文書の改ざん問題が発覚しながら麻生太郎財務相が留任したことについて、立憲民主党の福山哲郎幹事長は「責任を取るべき人が全く責任を取っていない。臨時国会でこれまでの問題点を追及していきたい」。国民民主党の玉木雄一郎代表は「あれだけの大事件になり、役所の幹部の多くは辞任し、自ら命を絶つ職員が出たのに政治が一切責任を取らないという一つの宣言だ」と首相の姿勢を批判した。

 麻生派や二階派など総裁選で首相を支援した派閥から広く閣僚を選んだことについて、共産党の小池晃書記局長は「見飽きた顔と見慣れない顔を集めたインパクトのない布陣。閉店セール内閣で(政権の)終わりの始まり(を示している)」と論評。政権に近い日本維新の会の片山虎之助共同代表も「政権の継続性や新鮮さ、色々なことを考えて相当な配慮を加えていると思うが、総裁選の論功行賞や滞貨一掃という感じが拭えない」と述べた。

 首相が意欲を示す憲法改正を前に進めようと、党の総務会長や憲法改正推進本部長に側近議員を据えたことについて、社民党の又市征治党首は「憲法改正案の早期提出をにらんだ改憲シフト」と警戒を強めた。

 一方で福山氏は「安倍総理のお友達で憲法改正を本気でやるのは、逆に国民の不信感が高まるのではないか」と述べ、合意形成は遠のくと指摘。小池氏は「国民の中で9条改憲を望む声は非常に少数。首相が改憲を主張すればするほど反対が増えるのが現状ではないか」と話した。

 

甘利氏「刑事事案になっていない」 現金授受疑惑で説明(2018年10月2日配信『朝日新聞』)

 

 自民党役員人事で選挙対策委員長に起用された麻生派の甘利明元経済再生相は2日、党本部での記者会見で、金銭授受疑惑で2年前に閣僚を辞任した際の政治責任について、「何の刑事事案にもなっていない。検察の捜査がすべてだ」と述べ、疑惑は解消されたとの認識を強調した。

 甘利氏は2016年1月、週刊文春が報じた現金授受疑惑を受け、秘書の監督責任と国会審議に支障を来しかねないといった理由で閣僚を辞任。自身や元秘書が働きかけをした見返りに現金を受け取ったなどとして、あっせん利得処罰法違反などの疑いで告発されたが、東京地検特捜部は不起訴処分(嫌疑不十分)とした。

 甘利氏は、これまで自身による大臣室や事務所での現金計100万円の授受などは認める一方、違法性はないと強調してきたが、2日の会見でも「熱烈なファンが、就任祝いにあがりたいと(大臣室に)来られた。『お祝いは届け出をせよ』と指示した。(その後)届け出がきちんとなされていることが第三者から確認された」と改めて適切な処理だったとの考えを示した。甘利氏は今年9月の総裁選で安倍陣営の事務総長を務めた。

 

首相支持で明暗 麻生、二階派躍進も石原派ゼロ 石破派、竹下派は安堵(2018年10月2日配信『産経新聞』)

 

 第4次安倍晋三改造内閣が発足した2日、自民党総裁選で首相を支持した派閥では麻生派(59人)が最多の4人、二階派(44人)が2人増の3人の閣僚を出す一方、石原派(12人)は引き続き入閣ゼロで、明暗が分かれた。首相と争った石破茂元幹事長率いる石破派(20人)や一部が石破氏支持に回った竹下派(55人)も改造前と同じ閣僚数となり、安堵の声が上がった。

 「はい、分かりました。今すぐ行かせていただきます」

 二階派の事務所で待機していた片山さつき氏は新閣僚呼び込みの電話を受け、笑顔を見せた。同派の二階俊博幹事長は総裁任期を延ばす党則改正を主導。いち早く首相支持を表明して連続3選を強力に後押ししてきた。片山氏ら3人が初入閣し、二階氏は「ベストを尽くして任命を受けたわけだから、力いっぱい頑張ってほしい」とエールを送った。

 麻生派も、会長の麻生太郎副総理兼財務相と河野太郎外相の留任に加え、当選回数が多く閣僚経験のない「待機組」の原田義昭、岩屋毅両氏が入閣した。同派は財務、外務、防衛の政権中枢を担い、党では甘利明選対委員長が四役に入り、主流派を印象づけた。

 一方、96人を擁する細田派は改造前と同じ3人の入閣にとどまった。党四役に一人も入らず、最大派閥の割には低調だった。

 一時は総裁選出馬を検討し、首相支持表明が遅れた岸田文雄政調会長の岸田派(48人)は閣僚数を減らした。とはいえ、総裁選で岸田氏らが首相の党員票獲得に向け奔走したこともあり、派が推した待機組の宮腰光寛、平井卓也両氏が初入閣し、面目を保った。

 山崎拓最高顧問が「反安倍」勢力の結集を目指していた石原派は最終的に首相支持でまとまったが、閣僚ゼロを打開できなかった。

 石破派や竹下派は改造前、“冷や飯”を覚悟する声が聞かれていたが、ともに改造前と同じ閣僚数だった。石破派幹部は「格好がついた。首相は石破派のことをみてくれたという印象だ」と評価し、竹下派幹部も「総裁選が終わったらノーサイドということだ」と胸をなで下ろした。

 

 

安倍総裁4選論 むしろ早期退陣求めたい(2019年3月19日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 いわゆる「安倍1強」がさらに強権的になることを危惧せざるを得ない。自民党の二階俊博幹事長は12日の記者会見で安倍晋三首相の党総裁選連続4選論を巡り「十分あり得る」と述べた。この発言が波紋を広げている。

 任期を連続3期9年までとする党則を改正し総裁選で当選すれば、任期は2021年9月から24年9月まで延びる。1212月以降、約12年間にわたって安倍首相が権力を握る構想に、野党からは「よほど人材がいないのか」といった批判が噴出した。

 安倍首相は夏の参院選への影響を懸念してか、14日の参院予算委員会で「ルールに従うのは当然だ」と述べたが、自民内には4選に賛同する声もある。当初禁じられていた3選を認めさせたのと同様、多数の国会議員・支持者をバックに、4選へ向かう可能性は否定できない。

 総裁任期の延長は危険である。自民党もその問題意識の下、1980年に多選を制限した。戦後最長の約7年8カ月(6472年)の長期政権を築いた佐藤栄作首相に対し「権力が集中する」といった批判があったため連続3選を禁じた。この党則を改正し3選された安倍首相がそのまま任期を務めれば、佐藤氏を1年4カ月も上回る憲政史上最長の首相となる。

 英国の歴史家アクトンは「絶対的権力は絶対に腐敗する」との格言を残した。歴史や諸外国の例を見ると、絶対的な権力は堕落する可能性が高い。政治の私物化や汚職、組織の硬直化にもつながる。法や党のルールで多選を制限することは、それらの有効な予防策だ。米国の大統領は2期8年、韓国は1期5年までと憲法で定められている。

 長期化した「安倍1強」の弊害は既に顕著だ。憲法9条の解釈変更による集団的自衛権の行使や地球規模での他国軍支援を可能にする安保法制の制定では、国民を戦争や紛争に巻き込む危険を顧みない政策を断行した。

 森友学園・加計学園問題では、国民ではなく首相を見て仕事をする議員や官僚が首相周辺に増えていることを印象づけた。「イエスマン」が増えたことで、不祥事の自浄作用が働かないのだ。

 「安倍忖度(そんたく)という利益誘導政治だ」と野党が批判するのも無理はない。自民党内にも「1強政治は見直すべきだ」との指摘があり、昨年9月の総裁選で争点にもなった。

 沖縄の米軍基地問題に対しては、歴代首相には見られない強権ぶりだ。知事選や国政選挙、県民投票で何度も辺野古新基地建設反対の民意が示されても、お構いなしに工事を強行している。総裁任期が延びれば、さらに強権的になる恐れがある。

 これ以上、暴走は許されない。選挙や県民投票という民主的手続きで示した民意を踏みにじり、私物化に映る政治を改められない政権には、むしろ早期退陣を求めたい。

 

安倍総裁4選論 「緩む自民党」の表れだ(2019年3月18日配信『北海道新聞』―「社説」)

 

 これも1強政権の緩みとおごりなのだろう。安倍晋三首相の自民党総裁任期をさらに3年間延長する「4選論」が、党幹部から相次いで飛び出した。

 安倍首相は昨年9月の総裁選で連続3選された。連続2期6年までだった党則は、2年前の党大会で3期9年に改正された。4選となると再び党則改正が必要だ。

 首相は「(連続)4選は禁じられている。総裁としてルールに従うことは当然だ」と述べた。一応の火消しを図った形だが、党則改正の可否には言及しておらず、今後もくすぶる可能性がある。

 3期目の任期が始まって半年足らずである。しかも、夏の参院選で党として国民の審判を受ける立場でありながら任期延長が公然と語られるとは、政権与党の見識を疑わざるを得ない。

 4選論は先月、加藤勝信総務会長が言及した。さらに波紋を広げたのが二階俊博幹事長の発言だ。

 先週の記者会見で「十分あり得る」と述べ、多選により党運営の独裁を招く懸念を問われても「余人をもって代え難いという場合は何ら問題ない」と断言した。あけすけな物言いにあぜんとする。

 発言には、安倍政権のレームダック(死に体)化を避けるとともに、参院選後の内閣改造・党人事での幹事長交代論をけん制する狙いがあるようだ。

 二階氏は2年前の党則改正を主導した。今回も、4選論をテコに党内の求心力を高め、幹事長続投につなげるつもりだろうか。そんな思惑から口にしたとすれば、党務の責任者として政略がすぎる。

 安倍首相は11月まで務めれば、通算在職日数が史上最長となる。

 第2次政権以降の6年余りで、憲法や国会を軽んじる強引な手法や、官僚の忖度(そんたく)が行政の公正性をゆがめたとされる森友・加計(かけ)問題など、1強長期政権の弊害が繰り返し指摘されてきた。

 自民党がなすべきは首相への追随ではなく、与党として政権のゆがみを正すことだ。その自覚があれば4選論など出るはずがない。

 政策面でも、内政、外交とも行き詰まりが目立つ安倍政権の路線を総括し、新たな展望を描く議論がこれから必要になるだろう。

 その意味では、「ポスト安倍」と目される顔ぶれから、二階氏らの発言に表立った批判が聞かれないのが気がかりだ。

 首相や党執行部の言動に実力者が目を光らせ、時には論争を交わす―。かつての自民党の緊張感は望むべくもないのだろうか。

 

(2019年3月18日配信『東京新聞』−「筆洗」)

 

「丹薬」とは古代中国において不老不死になると信じられていた薬である。その正体はなにか。『毒と薬の世界史』(船山信次著・中公新書)によると、水銀と硫黄の化合物である硫化第二水銀だったそうだ

▼硫化第二水銀の色は赤。生命を象徴する血の色を連想させたほか、熱を加えても「千変万化した上、また元の姿に戻る」ため、体内に取り込めば生命が絶えることがないと信じられていたそうである

▼自民党の中には安倍政権のための「丹薬」をお探しの方がいらっしゃるようである。自民党総裁の任期は連続3選限りで現在の安倍首相の党総裁任期は2021年9月までだが、これを見直し、連続4選まで認めてはどうかという意見が幹部にあるそうだ

▼実現すれば任期はさらに4年延び24年まで。不老不死といわぬまでも、例のない長期政権を手に入れようというのか

▼首相自身は今のところ、4選禁止のルールに従うと発言しているが、党内にゴマスリまじりの容認論が高まれば、どう転ぶか分かるまい

▼「丹薬」の硫化第二水銀は毒性の高い化合物で不老不死どころか唐の時代には歴代皇帝のうち少なくとも6人が「丹薬」の中毒で命を落としているそうだ。4選容認は過度な権力集中の弊害に既にうんざりする国民は無論、世代交代の健全な歯車が回らない自民党にとっても危険極まりない猛毒となるだろう。

 

首相連続4選論 「後継候補」は発憤せよ(2019年3月16日配信『岩手日報』―「論説」)

 

 自民党幹部が、安倍晋三首相の党総裁連続4選の可能性に相次いで言及している。

 加藤勝信総務会長は、先月末の東京都内の講演で「国民から『さらに続けてほしい』との声が出てくれば、4選の状況は生まれてくるかもしれない」と発言。二階俊博幹事長も記者会見で「党内外や海外からの支援もあり、この状況では十分あり得る」と可能性を後押しした。

 当の安倍首相は、元日放送のテレビインタビューで「少なくとも(4選は)ない」などと、いったんは明確に否定したものの、ここに来て発言を変化させている。

 国会では「自民党のことは自民党でしっかりと議論していくこと」と意欲をにおわせたかと思えば、先ごろは「党則で禁じられている。ルールに従うのは当然」と火消しに回るなど、しきりに煙幕を張っている。

 自民党総裁の任期は、2017年の党大会で連続2期6年から3期9年へと党則が改正され、首相は昨年9月の総裁選で3選を果たした。現任期は21年9月までだが、再び党則を変えれば4選への道が開ける。それは「党で議論すること」には違いない。

 二階氏は一昨年の党則改正を主導した。4選論が現実味をもって語られるゆえんだ。

 だが党総裁が即首相を意味する現状で、総裁選びは「党の勝手」とは行くまい。小泉政権後を担った第1次安倍政権から、ほぼ1年ごとの首相交代の末に民主党に政権を明け渡したのは、まさに「党の勝手」の結果。民主党政権でも首相交代が度重なり政治不信を増幅させたのは、与野党にまたがる重い教訓だろう。

 「絶対的権力は絶対的に腐敗する」との時代を超越した格言もある。権力の内側にいて、長期政権の利点に目を奪われた主権者不在の議論は厳に戒めなければなるまい。

 とはいえ残任期をたっぷり残す段階で浮上した連続4選論の裏には、後継候補の影が薄い現実が横たわる。

 有力候補の一人とされる岸田文雄政調会長は、宴席で同席した安倍首相に「次は岸田さん、出るんですよね」と次期総裁選の話題を振られ、反応しなかったという。「すかさず手を挙げたのは(中略)野田聖子衆院予算委員長だった」と、本紙記事にある。

 昨年の総裁選で、地方票をほぼ首相と分けて存在感を示した石破茂元幹事長は、4選論に「本気ではないだろう」と静観の構えと伝わる。

 総裁選が派閥闘争そのものだった時代とは様相を異にするとはいえ、4選論の台頭に反応が薄い現状は政治の活力が減退している証左だろう。政権取りへ道筋を描けない野党勢力を含め、「候補」は発憤しなければなるまい。

 

(2019年3月15日配信『デイリー東北』―「時評」)

 

自民党内で、2021年9月に総裁任期が切れる安倍晋三首相の続投を可能にする連続4選論が表面化している。首相のレームダック(死に体)化を防ぐ狙いかもしれないが、昨秋に3選を果たしたばかりだ。連続3期9年を限度とする現在の党則の改正が必要で、十分な論議が欠かせない。

 発端は先月中旬、安倍首相や自民党の岸田文雄政調会長ら衆院初当選同期が会食した場だ。次の総裁選が話題になり、二階俊博幹事長の側近が首相の4選に触れた。その後「ポスト安倍」候補に取り沙汰される加藤勝信総務会長が「国民から『さらに続けてほしい』との声が出てくれば」との前提で4選に言及、二階幹事長も外交実績などを踏まえ「十分あり得る」とした。いずれも首相に近い幹部だけに、首相の「機嫌取り」の側面もありそうだ。

 当の安倍首相は先月末の衆院予算委員会で、野党側の質問に対し「自民党のことは、自民党でしっかり議論していく。党のことは、ご心配なく」と述べ、可能性を否定しなかった。

 党内外に波紋が広がったためか、14日の参院予算委員会では「(4選禁止の)ルールに従うのは当然だ。最後の任期で結果を出すことに集中していきたい」と“神妙”な答弁に変えた。

 首相は先月下旬、第1次内閣からの通算在職日数が吉田茂元首相を抜いて歴代4位に達し、今年11月まで続けば歴代最長になる。ただ悲願とする憲法改正、ロシアとの平和条約締結の実現めどが立たないだけに、「さらなる任期延長で」との気持ちがないとは言い切れない。

 自民党は歴史的に総裁任期に関し「融通無碍(むげ)」な面がある。首相が第2次内閣を発足させた12年には、連続2期6年が限度だったが、二階氏主導で17年の党大会で党則を変え、3期9年まで可能になった。しかし、佐藤栄作元首相が連続4期務めた後「多選弊害」批判が出て、連続3期が禁止された歴史を忘れてはならない。

 まして昨年来、決裁文書改ざんや統計不正など官僚不祥事が相次いでおり、政権の緩み、おごりが指摘される。今年初めには景気が後退局面に入った可能性があり、アベノミクスも曲がり角に差し掛かっている。

 そんな中、首相4選論に大きな異論が出てこないことに、自民党内の危機意識の乏しさを感じる。昨秋の総裁選で首相と争った石破茂元幹事長や、次期総裁選への出馬に意欲を示す岸田氏らが、もっと発信力を強める必要があるのではないか。

 

安倍4選論と野党 政権の慢心、許すな(2019年3月15日配信『茨城新聞』―「論説」)

 

安倍晋三首相の党総裁連続4選を認める発言が自民党の二階俊博幹事長らから相次いでいる。安倍1強が6年以上、続いたことで政権の慢心が頂点に達したのか。しかし、分立して多弱のまま政権に緊張感を与えることができなかった野党の責任も極めて大きい。

2017年10月の衆院選に際して、小池百合子東京都知事率いる希望の党への合流を巡り、旧民進党が分裂した経緯を考えれば、拙速な党丸ごと合流は支持者、有権者の理解が得られない。参院で、立憲民主党と国民民主党が不毛な第1会派争いをしている場合でもない。

国会議員数、支持率共に野党トップの立民が中心となって与野党対決の主戦場となる改選1人区での候補者一本化をはじめ最大限の努力をしなければならない。

安倍首相の4選に最も前向きなのは二階氏だ。12日の記者会見で「党内外や海外からの支援もあり、この状況では十分あり得る」と容認した。現在、総裁任期を連続「3期9年まで」としている党則を改正し、総裁選で当選すれば任期は24年9月まで延長される。実現すれば12年末以来、約12年間にわたり安倍首相が権力を握り続ける異例事態となる。

安倍首相に近い加藤勝信総務会長も講演で「国民から『もう少し続けてほしい』という意見が出れば、対応する可能性はある」と4選論に2度も言及している。党三役のうち2人が条件付きながら許容している。

総裁任期を巡っては17年3月の党大会で、12年衆院選以来、4回の国政選挙を勝利に導いた安倍首相の再々選を念頭に、「連続2期まで」だった党則を二階氏主導で見直した。その後、17年衆院選でも自民党が大勝したため翌18年9月の総裁選を経て連続3選を果たしたばかり。21年9月の任期切れまでも2年以上あり、党内でも4選論は「時期尚早」との受け止めが大勢だ。

 4選に前のめりな二階氏の真意については「安倍首相のレームダック(死に体)化を防ぐため」との見方がある一方、参院選後に予想される内閣改造と党役員人事を見越して幹事長留任を狙っているとの分析もある。

 いずれにしても党利党略、個利個略にすぎず、世論を無視した自民党でしか通用しない内輪の論理である。世論の反発を受ける可能性があり、本来であれば統一地方選や参院選の後に浮上してくるはずの話にもかかわらず、党内からは明確な異論、反論は出てこない。

 谷垣グループの逢沢一郎代表世話人が13日のグループ会合で「党の信頼に関わる問題で、慎重に向き合うべきだ」と述べたぐらい。安倍カラーに染まりきった今の自民党に自己修正力はないのかもしれない。

 こんな事態に陥った責任は野党の方が大きいと言わざるを得ない。与党時代に民主党が分裂、下野後も党勢回復できず、民進党に党名変更。17年衆院選を前に再分裂した。

 立民、国民、共産など野党6党派は参院選に向け、改選1人区のうち、愛媛、熊本両選挙区で候補者一本化に基本合意。他の選挙区でも一本化作業を本格化させる構えだが、残り時間は少ない。

 調整不調で自民党の勝利を許せば、安倍首相の4選は現実味を帯びる。立民がリーダーシップを発揮し、一本化作業を加速すべきだ。

 

代表質問 熟議目指す姿勢を(2018年10月31日配信『山陰中央新報』−「論説」)

 

衆参両院で、安倍晋三首相の所信表明演説に対する与野党の代表質問が行われた。そこで鮮明に浮かび上がったのは、憲法改正など自らが掲げるテーマに対する安倍首相の強い意欲と、自身に批判的な質問に対する極めて不誠実な態度だった。

与野党の権力闘争の場でもある国会質疑は、双方が丁寧に議論を尽くして幅広い合意を形成する努力をしなければ、あっという間に形骸化し、国民の強い政治不信を招くことになる。安倍首相にはまず、熟議を目指す姿勢を求めたい。

30日までの答弁で、安倍首相が最も能弁になるテーマは憲法改正だ。

「自衛隊員が誇りを持って任務を全うできる環境を整えることが今を生きる政治家の責任だ。国民のため命を賭して任務を遂行する隊員の正当性の明文化、明確化は国防の根幹に関わる」

自民党の稲田朋美筆頭副幹事長による29日の質問に対して、安倍首相は憲法9条への自衛隊明記を主張、その後、同様の答弁を繰り返した。

内容とともに、このやりとりで注目すべきなのは、代表質問としてあるべき形なのかという点だ。稲田氏は安倍首相の側近で、発言も質問というよりは「ご意見伺い」に近かった。

安倍首相も「憲法改正の内容について、私が首相として、この場でお答えすることは差し控えさせていただく」としながら「お尋ねなので、私が自民党総裁として一石を投じた考えの一端を申し上げたい」と断って持論を展開した。

安倍首相は所信表明演説で「国の理想を語るものは憲法だ。憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の皆さまの理解を深める努力を重ねていく。そうした中から、与党、野党といった政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られると確信しています」と議論の加速化を促している。

 思想信条が近い稲田氏が安倍首相に憲法改正の具体案を語らせるために水を向けた格好。安倍首相が終了後の自民党役員会で稲田氏について「堂々としていた」と語ったことが、全てを物語っているのではないか。

 与党といえども政府をチェックするのが国会としての最大の役割である。このような「質問」が横行するようでは、その役割を自ら放棄することになる。

 さらに安倍首相は「憲法尊重擁護義務を負う首相の改憲に関する発言は自制的、抑制的であるべきだ」とした立憲民主党の吉川沙織氏に対して「政治上の見解等について国会に対し議論を呼び掛けることは禁じられておらず、三権分立の趣旨に反しない」と反論した。

 しかし、吉川氏は「禁じられているか否か」を問うているのではなく、自制、抑制を求めているのであり、かみ合っていない。

 さらに立民の枝野幸男代表が求めた、原発ゼロ基本法案、分散型エネルギー社会推進4法案など野党側提出法案の審議については「国会運営にかかるものであり、国会がお決めになるものだ」と取り合わなかった。

 与党側が口火を切った形の憲法改正については首相と自民党総裁の立場を使い分けて冗舌に語り、野党側の求めに関しては論点をずらして首相のポストに閉じこもり、応じないというのでは、ご都合主義の極みではないだろうか。

 

首相の改憲発言 国会では控えるべきだ(2018年10月30日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 国会の場では憲法改正の内容についての発言は差し控えると言いながら、お尋ねですのでと自説をとうとうと述べる。安倍晋三首相は、憲法を尊重し、擁護する義務を軽視しているのではないか。

 首相の所信表明演説に対する各党代表質問がきのう始まった。今年、日本各地を襲った災害からの復旧・復興に向けた2018年度補正予算案はもちろん、首相が今の臨時国会に自民党案を示す意欲を示した憲法改正や安倍内閣が来年4月からの対象拡大を目指す外国人労働者の受け入れ問題が主要な論点である。

 冒頭、質問に立った枝野幸男立憲民主党代表は、首相が「国の理想を語るものは憲法」と述べたことを「憲法の本質は国家権力を縛ることにある。縛られる側の中心にいる首相が先頭に立って旗を振るのは論外だ」と批判した。

 首相は改憲を巡る枝野氏の指摘には答えず、続く稲田朋美自民党筆頭副幹事長の質問に「首相としてこの場で答えることは控える」としながら「お尋ねですので、自民党総裁として一石を投じた考えの一端を申し上げる」として、自衛隊の合憲性には依然、議論があり、自衛隊の存在を明文化することは政治家の責任だ、と述べた。

 国民を代表する一国会議員としては、憲法改正の要不要について自らの見解を国会の場で表明することは認められるべきだろう。

 しかし、首相は今、自民党の国会議員、党総裁であると同時に、行政府の長たる総理大臣だ。「憲法を尊重し擁護する義務を負う」と定める憲法九九条の規定を軽んじ、自らの権力を縛る憲法の改正を安易に主張すべきではない。

 議員と首相との厳密な使い分けは難しいとしても、首相として答弁に立っている以上、たとえ質問されても、改憲に関する発言は控えるべきではなかったか。自民党の歴代総理・総裁がなぜ改憲に関する発言を慎んできたのか、首相は思いを巡らせるべきだろう。

 そもそもなぜ枝野氏の指摘には答えず、身内の自民党議員の質問に答えたのか。これでは稲田氏の質問は首相が国会で改憲意欲を重ねて表明するための振り付けと指摘されても仕方あるまい。

 首相は所信表明演説で、在任期間の「長さゆえの慢心はないか」と自問したが、首相の立場で国会で堂々と改憲を主張するのは長期政権ゆえの緩みにほかならない。

 首相の改憲発言は憲法に反するのでは、という国民の指摘や疑問にも真摯(しんし)に向き合うべきである。                                               

 

憲法改正論議/独善的で拙速ではないのか(2018年10月19日配信『河北新報』−「社説」)

 

 急ぐ必要はあるのか。強引な姿勢も加速している。憲法改正に突っ走ろうとする安倍晋三首相と自民党だ。

 党総裁選で3選された首相は「憲法改正は総裁選の最大の争点だった。結果が出た以上、皆で一致結束して進んでいかないといけない」と改憲への強い意欲を強調した。

 首相は2020年の改正憲法施行を目標に据える。総裁任期は21年9月まで。任期中のレガシー(政治的遺産)づくりのように映る。紛れもなく「日程ありき」だ。

 国のありようを定める最高法規である。多くの政党で合意を図るのはもちろん、国民への丁寧な説明は不可欠だ。首相の姿勢は独善的で拙速に過ぎると言わざるを得まい。

 もっとも胸算用には狂いが生じているようだ。自民党は憲法改正条文案に関する公明党との事前協議を断念した。公明党が一貫して事前協議に難色を示してきたためだ。

 自民党は24日召集予定の臨時国会で、9条への自衛隊明記など4項目の憲法改正条文案を衆参両院の憲法審査会に単独提示。与野党協議をスタートさせた上で改憲原案を策定する想定だ。

 そもそも9条への自衛隊明記は首相が昨年5月、唐突に示した。自民党が惨敗した7月の東京都議選では改憲発言を封印。10月の衆院選では党公約に「自衛隊明記」などを掲げたが、演説ではほとんど触れなかった。直後の12月に再び改憲意欲を示し、今年3月に党が4項目をまとめた。

 首相は総裁3選を視野に「改憲ギア」を巧妙に上げたり下げたりして、党内の求心力を維持してきた。党役員人事では党憲法改正推進本部や衆参両院憲法審査会などの要職に自らの側近や保守派議員、国対族を配置。改憲論議の加速を狙う意図が透ける。

 ただ、総裁選では石破茂元幹事長が首相案に明確に反対した。人事では野党との協調を重視する「憲法族」を遠ざけた。党内でも意見が分かれているのが実態だ。

 連立を組む公明党も身構える。山口那津男代表は「幅広い政党、政治家の合意をつくる努力が必要。9条改正が緊急になされるべきだとは必ずしも言えない」「衆院憲法審査会の土俵で議論するのが基本だ」などと述べている。

 共同通信社が2、3日に実施した世論調査では、公明党支持層の48.6%が改憲案提示を目指す首相の姿勢に反対と回答した。自民党支持層は57.6%が賛成と答え、認識の隔たりが鮮明になった。

 首相は改憲を語る際、決まり文句のように「自衛隊の違憲論争に終止符を打つ」と強調するが、国民的な議論にはなっていない。政府は一貫して自衛隊合憲の立場で、国民世論にも定着している。

 首相が約束する「謙虚な政権運営」は取りも直さず「謙虚な改憲論議」でもある。数の力をむき出しにした強引な改憲論議があってはならない。

 

首相参拝は凍結を(2018年10月17日配信『佐賀新聞』−「論説」)

 

 東条英機元首相ら極東国際軍事裁判(東京裁判)のA級戦犯が1978年、靖国神社に合祀(ごうし)され、17日で40年となる。85年8月15日に当時の中曽根康弘首相と18閣僚が公式参拝、中韓両国の強い反発を招いた。以降、首相らの参拝は外交問題となり、2013年末には安倍晋三首相が参拝し、米国からも批判される事態に至った。

 政府内で分祀(ぶんし)を模索する動きもあったが、神社側が拒否し、膠着(こうちゃく)状態だ。現状で首相らが参拝を強行するのは領土を巡る問題を抱える近隣諸国だけではなく、同盟国との間にあつれきを生じさせかねない。今後は首相や閣僚の参拝は凍結するのが現実的な対応だろう。

 1978年、東条氏ら14人を「昭和殉難者」として合祀したのは、幕末期の福井藩主を祖父に、戦後の宮内相を父に持ち、自身は旧海軍出身の松平永芳宮司だ。

 靖国神社発行の松平氏の講演録によると「『すべて日本が悪い』という東京裁判史観を否定しないかぎり、日本の精神復興はできない」というのが、それまで「宮司預かり」状態だった合祀を実行した理由だという。

 合祀の事実は当初、公表されなかったが、共同通信社などの報道で表面化。さらに中曽根氏らが終戦記念日に公式参拝を行ったことで、中国政府が「人民の感情を傷つけるものだ」と強く反発するなど近隣諸国との深刻な外交問題に発展した。

 首相らの参拝を批判する中国側に対して「内政干渉だ」などの反論があるが、それは両国の国交正常化に至る過程でのある歴史的事実を知らないか、あえて無視した議論と言わざるを得ない。

 A級戦犯合祀に先立つ72年の日中国交正常化の際、当時の周恩来首相は、日中戦争、太平洋戦争は日本の一部の軍国主義者による誤った指導の下に引き起こされたもので、日本国民は中国人民同様、戦争の犠牲者だという論理を取り、賠償請求を放棄した。

 日本側は賠償放棄を高く評価したが、それは戦争責任に関する周氏の論理をも受け入れることを意味する。にもかかわらず、軍国主義者の象徴である東条氏らが合祀されている靖国神社を日本の首相や閣僚が参拝するのは、賠償なしの正常化を支える論理を切り崩す行為と中国側から見なされることになる。

 靖国神社が戦没者の慰霊だけではなく、顕彰を目的とした施設であることも考えれば、中国側の反発を内政干渉と切り捨てるのは難しくなる。

 松平氏には、この観点からの吟味が明らかに欠如している。さらに合祀の目的は、米国が主導した東京裁判を貫く歴史観の否定である。占領期に形作られた「戦後レジームからの脱却」を目指す安倍首相が参拝した際、米国が「失望」を表明したのは、歴史修正的な行為と映ったからだろう。

 さらに、このところ、A級戦犯合祀に対する批判は靖国神社の足元からも出ている。日本遺族会会長を務めた古賀誠元自民党幹事長は「遺族会に連絡なく行われた」として、祭った手続きをなかったことにする「廃祀(はいし)」を求めている。

 また、靖国神社元幹部が昨年、「論理の一貫性に欠ける」などと疑義を呈する著書を刊行し、波紋を広げた。

 靖国神社を巡る議論は複雑化している。首相や閣僚があえて参拝する環境にないことは明白だ。

 

プロ野球は潔く首脳陣が代わるのに…(2018年10月13日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★プロ野球の世界では成績がデータとしても残るため、指導者の采配が可視化しやすい。このオフ、巨人、阪神、中日、オリックスで監督が交代。楽天はシーズン中に交代した。ヘッドコーチやさまざまなコーチ陣も監督とともに去り、新たな首脳陣が直近のドラフトなど、次期チーム作りのために慌ただしく編成される。プロの厳しい世界を見る思いだ。

★転じて、スポーツはその潔さや覚悟が試合や采配ににじみ出る。監督やコーチの役割が大きいのは、そこだろう。そしてそれが、チームワークや選手たちとの絆を生む。東京オリンピックを前に、誰もがその素晴らしさを楽しみたいと思う。

★ところが、政治の世界はどうだろう。責任回避、責任転嫁、開き直り、言い訳、おとぼけ、なかったことに、と隠し通した者勝ちのような社会をつくろうとしている。昨今、権限を持つ者、権力を持つ者が優先して行使するさまざまなことを、スポーツならばルールが制止してくれるが、政治の世界はどうか。ファンのあるプロ野球ではファンに顔向けできるか、観客が試合を見に来てくれるかどうかが、大きなバロメーターになる。

★第4次安倍改造内閣の売り物は「適材適所」だそうだ。国会が始まる今月末までは、シーズン前のキャンプに例えれば、各閣僚は選手のごとくウオーミングアップの最中だ。そう揚げ足を取ることもあるまい。だが「私も妻も関わってない」「TPP反対と言ってない」「安倍政権で拉致問題を解決すると言ってない」「トリクルダウンと言ってない」「FTA(自由貿易協定)ではなくTAG(物品貿易協定)」と言い張られると、国民はもやもやが残るものだ。

★ファンにそっぽを向かれぬように丁寧に説明し、国民に不信感を持たれぬよう手を尽くすべきだ。そして指導者は、潔く非を認めなくてはならない。プロ野球のオフと政治が重なった。

 

憲法の岐路 自民の新体制 数の力を使うつもりか(2018年10月11日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 宿願とする憲法の改定に向け、安倍晋三首相が自民党内の体制固めを進めている。

 改憲を望む声が国民に多いとは言えない中での首相の積極姿勢である。今後には厳しい目を注ぎ続けなければならない。

 具体的な改憲案をまとめる憲法改正推進本部の本部長に下村博文氏、党の最高意思決定機関である総務会の会長に加藤勝信氏を起用した。いずれも首相の側近だ。

 野党との協議を取り仕切る衆院憲法審査会の与党筆頭幹事、中谷元氏と、与党幹事の船田元氏は交代させる。野党との協調を重視してきたコンビである。首相主導で進める意図が鮮明だ。

 首相は先の総裁選について「改憲が最大の争点だった」との考えを示している。会見では「自民が(改憲への)リーダーシップを取る」「次の国会に改憲案を出すべきだ」などと述べた。

 首相の言うように、総裁選を経て議論を前に進める環境は整ったか。答えは「ノー」だ。

 理由は第一に、自民党内でさえ考えが一致していないことだ。総裁選で石破茂氏は、「国民の理解のないまま(改憲案を)国民投票にかけてはいけない」と首相を批判した。その石破氏に党員・党友票の約45%が投じられている。首相の姿勢を危ぶむ声が根強いことをうかがわせる。

 第二に連立を組む公明党の理解も得られていない。首相が改憲への意欲を示す度に、公明は「われわれとしては考えていない」などけん制してきた。山口那津男代表は最近「与党の合意形成はない」と述べ、与党協議そのものから距離を置いている。

 そして第三に国民世論である。各種調査では慎重論が多い。

 そもそも、いま改憲しなければならない緊急の理由は存在しない。憲法学者の間に自衛隊違憲論が根強いなど、首相が挙げる理由は説得力が乏しい。自衛隊の発足以来、その存在を「合憲」としてきたのは自民ではないか。

 公明との協議を見限って改憲案を国会に単独で提示する―。先日は自民幹部がそんな考えを示している。数の力を使うつもりとすれば問題は大きい。憲法論議の進め方として不適切だ。

 憲法を変えるかどうかを決める権利は国民にある―。首相がよく使う言い方である。

 国民が改憲を望んでいるか、首相がまず自問すべきだ。

 

[臨時国会と改憲]急ぐ理由どこにもない(2018年10月11日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 内閣改造後初めての臨時国会が今月下旬、召集される。 政府は、西日本豪雨や北海道地震などに対応するため、補正予算案を提出し、早期成立をめざす方針だ。

 自民党総裁選で憲法改正への意欲を繰り返し明らかにしてきた安倍晋三首相が執着しているのは、自民党がまとめた憲法改正案の提出である。

 首相本人が前のめりになればなるほど野党は反発し、国民は警戒する。与党の中でさえ合意形成は進んでいない。

 自民党総裁選では、石破茂・元幹事長との考え方の違いが表面化した。衆院憲法調査会の幹事を務める船田元氏は首相の姿勢に「同調できない」として総裁選で白票を投じた。

 自民党は当初、公明党と事前調整を進める意向だったが、山口那津男代表は「憲法審査会での議論が基本」だと主張し、与党協議を否定した。

 創価学会の中には9条改憲に対する警戒心が強い。沖縄県知事選で問われたのも「平和の党」としての存在意義だった。

 各種世論調査でも憲法改正の優先度は極めて低い。共同通信社が9月に実施した世論調査では、臨時国会への党改憲案提出に51%が「反対」と回答した。

 安倍首相の姿勢が改憲の「私物化」だと批判されるのは、こうした状況を無視して強引に改憲を進めようとしているからである。

 改憲を発議するのは国会であって首相ではない。首相が気負って旗を振れば振るほど「安倍改憲」への疑問と懸念は深まるばかりだ。

■    ■

 一体、どのような深謀遠慮が働いているのか。

 安倍首相は、臨時国会に自民党の憲法改正案を提出し、来夏の参院選前に国会発議するスケジュールを描いていたといわれる。

 党役員人事で安倍首相は、側近の下村博文・元文部科学相を党改憲本部長に起用するなど改憲シフトを敷いた。

 だが、憲法改正原案を臨時国会に提出するのは現状では不可能である。

 首相が考えているのは、衆参両院の憲法審査会に4項目の自民党改憲案を提示し、その中で与野党が協議し、必要があれば一部修正をした上で、憲法改正原案を策定する、という流れだ。だが、立憲民主党などの野党は、こうした手順にも反対している。

 間違っても、来年の参院選前に発議したり、参院選と同時に国民投票を実施するというような、強引な改憲が行われてはならない。

■    ■

 臨時国会では、憲法改正の手続きを定めた国民投票法改正案をめぐっても、激しい議論が展開されそうだ。

 現行法は、投票日の2週間前まではテレビやラジオの広告・宣伝のためにいくら金を使っても構わない仕組みになっている。資金量を誇る改憲派が有利なのは明らかだ。

 憲法9条の1項、2項を維持した上で新たに自衛隊を明記する改憲案は、成立したあと、憲法解釈がとめどなく広がっていく可能性が高い。

 改憲をめぐる問題はあまりにも多く、首相の意向で改憲を急ぐのは極めて危うい。

 

国民投票という劇薬(2018年10月10日配信『東京新聞』―「私説・論説室から」)

 

 英国と欧州連合(EU)の離脱交渉が行き詰まっている。「合意なき離脱」の場合、企業撤退などの経済的打撃だけでなく、英国からEU加盟国への航空便運航認可手続きの煩雑化など、影響は計り知れないという。離脱を決めた2年前の国民投票なかりせば、との思いを強くする英国民は多いはずだ。

 人ごとではない。自民党総裁選で3選を果たした安倍晋三首相は、憲法改正の国民投票をと意気込む。民意を直接問う体裁の国民投票だが、危うさがいっぱいだ。国民投票法のCM規制は投票14日前からの放映を禁じているだけ。民放連もCM量の自主規制はしない方針だ。資金があれば、国会発議から60〜180日の投票運動期間中の大半で、CMを活用して改憲を刷り込むことができる。

 英国の国民投票では有料のCMが禁止されている。それでも、「移民が社会保障を食いものにしている」など根拠のあやふやな言説が飛び交い、離脱賛成を後押しした。カネをかければ、もっとバラ色の「離脱後」を脚色することもできただろう。

 ドイツには国民投票制度はない。ヒトラーに全権を委ねる「総統職」設置などが、国民投票での圧倒的な支持でお墨付きを得たナチ時代への反省からだ。国民投票は劇薬だ。英国の苦境を肝に銘じたい。もっとも、EU離脱撤回への道を開くやり直し国民投票は、良薬になるかもしれないが。

 

(2018年10月6日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

「鉄の女」と呼ばれた英国初の女性首相、故マーガレット・サッチャーさんはこんな言葉を残している。「家庭の問題を理解できる女性ならば、国家を運営する問題をより理解できる」

▼予算や外交といった国家運営は、家庭のやりくりに例えることもできよう。男性よりも生活を営む力にたけている女性に、もっと国家運営を任せるべきだというサッチャーさんらしい考え方だろう

▼そんな彼女なら、日本の現状にきっと眉をひそめているに違いない。女性議員の少なさは日本だけでなく、世界共通の課題であるにしてもだ

▼第4次安倍改造内閣で女性閣僚が1人となり、落胆と批判が広がっている。安倍政権は「女性活躍」を旗印に掲げ、第2次改造内閣では過去最多と並ぶ5人が入閣していた。数値目標設定を義務付け官公庁や企業の尻もたたいた。にもかかわらず、今回の組閣で政治の世界はいまだ男性中心という現状が浮き彫りになったようだ

▼政権自ら「女性活躍」に逆行する結果に、「口先だけ」「看板倒れ」とのそしりは免れまい。それを意識したのかどうか、政府は副大臣に過去最多の女性5人を登用し、自民党は衆院予算委員長に野田聖子前総務相を充てるという。だが、慌てて帳尻を合わせたようでもある

▼口先だけで行動しない政治家は男性にその傾向が強い。サッチャーさんはそう感じていたようだ。「(政治において)やってほしいことがあれば女に頼みなさい」とも語っている。人口の半分は女性。人材がいないはずはない。

 

社会保障改革 将来見据え徹底議論を(2018年10月5日配信『秋田魁新報』−「社説」)

 

 第4次改造内閣を発足させた安倍晋三首相は政権の最大の課題に少子高齢化を挙げ、3年間で「全世代型の社会保障改革」を実行する方針を示した。

 2019年度までに雇用制度改革に道筋を付け、21年度までに医療、介護、年金などの改革を進めるスケジュールだ。民間も含めた「未来投資会議」で議論をスタートさせる。65歳を過ぎても働き続けられるよう、法改正も視野に、まずは企業に継続雇用制度の年齢引き上げや定年延長を働き掛ける施策を検討する。

 人口減と少子高齢化が進む中、社会保障をいかに持続させるかは国の重要課題だ。制度を支える側の働き手が減る一方、支えられる側の高齢者が増えていく。団塊の世代が75歳以上となる22年度以降は社会保障給付費が一段と増える計算だ。40年度には現在の1・5倍以上の約190兆円に上ると見込まれる。小手先の対策では済まない。国の将来を見据えた徹底議論が不可欠だ。

 改革を実行する上で、国民に負担増を求めることは避けられないだろう。それだけに開かれた議論を進める必要がある。国民が混乱することがあってはならない。政府は改革の中身を国民に分かりやすく、丁寧に説明して理解を求めていくべきだ。

 来年は春に統一地方選、夏に参院選がある。10月には消費税増税が予定されている。だが政府のスケジュールでは、医療、介護、年金をどうするかの議論は後回しになっている。財源をいかに確保するのか。痛みを伴う議論は選挙が終わってからというのでは誠実さを欠く。少なくとも政府の基本的な考えや方向性は選挙前に国民に示し、是非を問うべきだ。

 安倍首相は改造内閣で根本匠厚生労働相に社会保障改革の検討を指示する一方、新設の全世代型社会保障改革担当相には茂木敏充経済再生担当相を兼務で充てた。未来投資会議の議論は官邸主導で進められる。一体どこが責任を負うのか。働き方改革を巡り不手際が目立ったとの見方があるが、社会保障の主管官庁である厚労省が外されたのはいかにも不自然だ。改革の行方が懸念される。

 政府は今年2月に「高齢社会対策大綱」を5年ぶりに見直し、65歳以上が高齢者という従来の考えを転換する方向へ大きくかじを切った。元気で意欲のある高齢者が希望すれば70歳まで働けるようにすることで、年金支給をできるだけ抑制する狙いがある。

 ただ、そうした高齢者がどの程度に上るかは見通せない。健康状態や収入、蓄えなどは個人差が大きい。一層進む高齢化に伴い、生活保護費が増大することも十分予想される。生活困窮者向けのセーフティーネットの充実は欠かせないだろう。政府には高齢社会の負の側面も直視した責任ある制度設計が求められる。

 

社会保障改革 負担論議から逃げるな(2018年10月5日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 第4次改造内閣が始動した。安倍晋三首相は、少子高齢化を「国難」と呼び、2021年度までに全世代型の社会保障改革を断行するとうたっている。

 これから人口は減り、高齢化率は高まる。医療、介護、年金などの社会保障給付費は右肩上がりに増えていく。経験のない人口構造の中、暮らしを維持する社会構想力が問われる。

 首相は、財源確保やサービス給付抑制について言及していない。来年の統一地方選や参院選を見据え、国民負担に関わる議論を先送りするとみられている。

 国民が不安を抱きつつ見守っているのは負担のあり方だ。肝心な問題から逃げてはならない。

 16年度の給付費は116兆円余で過去最高を更新した。団塊の世代全員が75歳以上となる25年度に140兆円を超え、高齢者数が最多に近づく40年度は190兆円に達する見通しとなっている。

 40年度の人口推計は1億1千万人で、1564歳の生産年齢層は現在より1500万人ほど少なくなる。そんな状況で、税収と社会保険料を30兆円ずつ増やさなければ賄えない金額だ。

 首相は2度、消費税再増税を延期した。5兆円余の増収が当てにできなくなり、給付費は大幅に圧縮されてきた。

 低年金で暮らす高齢者や生活保護受給者に必要なサービスが行き渡っていない。今年8月にも、一定以上の年収がある高齢者の介護サービス利用の自己負担が3割に引き上げられた。この傾向に拍車が掛かる恐れがある。

 政府は、不足する介護職員や保育士の処遇を改善し、増員を図る方針でいる。大切な施策ではあるものの、十分な財源を確保できるのだろうか。

 サービス給付を削り、利用者負担を増額する。要支援者向けサービスは介護保険から切り離す―。当座しのぎのやりくりはいつまでも通用しない。

 財源を逆進性の高い消費税に絞らず、所得税の累進性や資産課税を強化すべきだ。企業の蓄えである内部留保は446兆円に上っている。法人税について再検討を求めたい。税制を抜本的に見直すと同時に、社会保険料の増額も考えざるを得まい。

 選挙では聞こえがいい政策だけを訴えて、終わってから負担を押し付けてくるのでは、有権者は納得できない。首相が残りの任期をにらんで論議を極力後にずらそうというのなら、改革断行の本気度も疑われる。

 

〈万緑叢中紅一点、動人春色不須多〉…(2018年10月5日配信『西日本新聞』−「春秋」)

 

 〈万緑叢中紅一点、動人春色不須多〉。北宋の詩人、王安石の詩の一節。「一面の緑の中に鮮やかな紅色の花が一輪咲いている。人の心を動かす春の景色の中に多くのものは要らない」という意味だ

▼詩に描かれた「紅一点」は、多くの同じようなものの中で、一つだけ異彩を放つものを指す。紅色から女性を連想したか。転じて、男性ばかりの中に女性が1人交じっている様子を表すようになった

▼2日発足した第4次安倍改造内閣。女性閣僚は片山さつき地方創生担当相1人だけだ。文字通り紅一点となった片山氏は「女性が1人だったので、『あれ?』と思った」と。国民から見ても「あれ?」である

▼安倍晋三首相は2014年、「女性活躍社会」の金看板を掲げ、女性5人を閣僚に登用した。その後は内閣改造のたびに女性閣僚は減り、ついに1人に。首相の旗振りに応じ、官公庁や民間企業でも女性管理職が少しずつ増えてきたのに、本家本元の金メッキが剥がれるとは。女性が活躍する時代の到来を期待した人たちはがっかりだろう

▼異彩を放つ優秀な女性を抜擢(ばってき)し、その活躍が多くの女性の目標となるのは結構なことだ。だが、今の社会を動かすには、男性一色の景色の中に数多くの女性の色をちりばめることが欠かせまい

▼国会の花畑に適材が少ないのなら、民間人を起用すればいい。外に目を向ければ、美しい花々が鮮やかに咲き誇っている。

 

内閣改造と党人事(2018年10月5日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

◆国造りは政治不信払拭から◆

 自民党総裁選で、石破茂元幹事長に圧勝して連続3選を果たした安倍晋三首相が内閣改造と自民党役員人事を行った。その後の記者会見で安倍首相は人事の狙いを「新たな国造りの力強いスタートを切る」ためとした。学校法人「森友学園」問題、裁量労働制を巡る不適切データ問題などに関わった閣僚に政治的な責任を全く取らせないまま、安倍政権は改憲という「新たな国造り」に向かおうとしている。「新たな国」とはけじめが要らない国なのか。

首相の側近を要所に

 首をかしげざるを得ない布陣である。安倍首相の盟友である麻生太郎副総理兼財務相は、森友学園問題に関する決裁文書の改ざん事件を起こした財務省のトップであるにもかかわらず留任。次に家族ぐるみで親しい関係にある加藤勝信前厚生労働相を、不適切データの発覚によって批判が噴出した裁量労働制の問題を決着させ切れないまま、総務会長に昇格させた。

 いずれも、正確でなければならない公的な文書やデータを基にした議会制民主主義を揺るがす不祥事だった。所管する組織に取り返しがつかないような重大問題が起きた際は、辞任、交代などの形で政治的な責任を取り、一定のけじめをつけるのが閣僚の役目であろう。小泉進次郎衆院議員が改ざん事件発覚直後、「自民党は官僚だけに責任を押し付ける政党ではない」と指摘した通りだ。にもかかわらず、閣僚が責任を取らないまま要所に側近を置き、「安倍1強」体制の再始動となった。

 麻生、加藤両氏だけではない。西日本で記録的な大雨になる恐れがあると気象庁が厳重な警戒を呼び掛けた7月5日夜に開かれた自民党議員による飲み会の写真をツイッターなどに投稿して批判を浴びた西村康稔官房副長官が留任、片山さつき参院議員は地方創生担当相に起用された。

見通せない改憲論議

 安倍首相にとって「新たな国造り」とは、悲願である改憲の実現を意味しているのは間違いない。長年の安倍首相の「お友達」として知られる下村博文元文部科学相を党憲法改正推進本部長に配した。「下村憲法改正推進本部長-加藤総務会長-森山裕国対委員長」のラインで、党憲法改正案の早期の国会提出を目指すとみられる。

 安倍首相は早ければ来年の通常国会で改憲発議にこぎ着け、夏にも国民投票を実施する日程を描く。改憲に向け、連立を組む公明党、野党にも理解を広げたいとしているが、公明党は改憲案提出前の与党協議に応じない姿勢を崩していない。同党とのパイプ役だった高村正彦氏を自民党副総裁から外したことにもいぶかる声が出ており、道筋は見通せない。

 森友、加計学園問題、障害者雇用の水増し問題、文部科学省の汚職事件などで高まった政治不信をどう払拭(ふっしょく)するか。改憲論議を加速させる前に、やるべき事があるのではないか。

 

[女性閣僚1人] 看板政策はどうなった(2018年10月5日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 第4次安倍改造内閣が本格始動した。安倍晋三首相は少子高齢化や憲法改正を重点課題に掲げるが、前途は厳しい。

 共同通信社の最新の緊急世論調査で内閣改造と自民党役員人事を「評価しない」が45.2%で、「評価する」の31.0%を上回った。内閣支持率も前回9月の調査を下回った。

 改造直後は支持率が上がるケースが多いが、政権浮揚にはつながらなかった。新内閣に対する期待の低さの裏返しに違いない。

 原因の一つは女性閣僚が1人にとどまったことではないか。女性活躍社会の実現に向けた政権の本気度を疑わざるを得ない。

 2014年9月発足の第2次安倍改造内閣では女性閣僚5人を起用した。昨年11月に発足した第4次内閣では2人だったが、今回は片山さつき地方創生担当相が唯一入閣した。

 安倍首相は内閣発足後の会見で、各国に比べて女性閣僚の比率が低いと認め、片山氏について「2人分も3人分もある存在感」と釈明した。各派閥の意向を重視し男性の初入閣組を優先したため、女性のポストがなくなったのでは、とも勘ぐりたくなる。

 首相は「女性活躍の社会はスタートしたばかりだ」とも述べた。だが、14年10月には「すべての女性が輝く社会づくり本部」を設置し政権の看板政策に掲げてきた。改造人事が「看板倒れ」と言われても仕方あるまい。

 自民党の女性議員は全体の1割にとどまる。入閣適齢期は当選回数を基準に、おおむね衆院5回以上、参院3回以上とされ、人材には限りがあるだろう。

 しかし今年5月、政党に女性候補の確保を促す「政治分野の男女共同参画推進法」が成立したばかりである。たとえ経験が浅くても積極的に登用すれば、人材の育成につながり、女性議員のすそ野の広がりも期待できる。

 民間から閣僚に起用する手もあったのではないか。過去には遠山敦子元文部科学相や川口順子元外相、大田弘子元経済財政担当相らが登用された。女性の国政進出を後押しし、政治への関心を高めるきっかけになるはずだ。

 民間でも女性が活躍する場がなかなか広がっていない。厚生労働省の調査では企業の管理職(課長級以上)に占める割合は17年度、11.5%にとどまる。

 指導的立場にある女性の割合を20年までに30%とする政府の目標に遠く及ばない。新内閣は「看板倒れ」の汚名をすすげるよう、女性活躍社会の実現に本腰を入れて取り組むべきである。

 

安倍改造内閣と沖縄]「辺野古」断念へ協議を(2018年10月5日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 安倍政権の課題や火種を残したままの内閣改造だ。

 第4次安倍晋三改造内閣が発足した。閣僚19人のうち初入閣は12人に上った。刷新をアピールしたとみられるが、新しさは感じない。

 政治分野の男女共同参画推進法を掲げる中で女性大臣は1人にとどまり、これまでと同様「安倍シンパ」の起用が目立つ。

 その一人、首相補佐官だった柴山昌彦文科相は教育勅語に対する認識を問われ「現代風に解釈され、アレンジした形で、道徳などに使うことができる分野は十分にある」と発言して早くも批判を浴びている。

 滅私奉公の思想をうたう教育勅語は、先の大戦の精神的支柱になったことから戦後の国会で失効が決議された。国民主権の憲法の下では相いれない内容で、教育行政を預かるトップとしての認識が問われよう。

 麻生太郎副総理兼財務相の留任も首をかしげざるを得ない。省職員に自殺者まで出した「森友学園問題」や、セクハラによる前事務次官辞任の重大さを考えれば、更迭されても仕方がなかった。内閣改造で引導を渡すべきではなかったか。政権の自浄能力に疑問符が付く。

 菅義偉官房長官も留任した。引き続き沖縄基地負担軽減相を兼務する菅氏は、会見で早々と「普天間飛行場の危険除去と同時に、辺野古移設や負担軽減を目に見える形で実現したい」と述べた。

 普天間の閉鎖・返還や辺野古新基地建設で、県民の民意を顧みず、これまで通り強行姿勢で押し進めることを宣言したに等しい。

■    ■

 安倍政権下で県民は2度も、新基地建設に反対する知事を選んだ。しかも圧倒的な民意で、である。

 翁長雄志前知事が誕生した4年前、安倍政権は翁長氏との面談を4カ月にわたって拒否したことは記憶に新しい。サトウキビ交付金に関する面会を農水相が断ったり、沖縄振興予算を議論する自民党の会合に招かなかったりするなど、政権や党による徹底した無視が続いた。

 今回の知事選で、政権が推した候補は政府と県の関係について「対立より対話を」と主張したが、過去に対話を拒否したのはほかならぬ安倍政権の側だ。

 対話を拒む政府の姿勢そのものが、この間、新基地建設を巡る裁判の応酬や、建設現場での市民らと機動隊の衝突など混乱をつくってきたことを見れば、変わらなければならないのは政府の姿勢であるのは明らかだ。

■    ■

 新知事に就任した玉城デニー氏は、当選した当初から政府に協議を提案している。4日、初登庁した玉城氏は、かつて政権が翁長氏の面会を拒否したことなどを振り返り「県民が選挙の争点で明確に示したのは辺野古反対の民意。このことを政府に求めるのはもちろん、県が法律に基づき判断した埋め立て承認の撤回についても県の判断に従うよう求める」と述べた。

 県民が再び選んだ辺野古反対の知事を、安倍政権が無視することは許されない。

 

弱さ認めた「全員野球」内閣(2018年10月5日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★第4次安倍改造内閣の評判は、メディアの中でも国民からも、あまり芳しくない。自民党内でも過去の行状から、失言や答弁ミスを引き起こしそうな顔ぶれが続々入閣したことで、やっかみ半分、厳しい見方をする議員も多い。自分の内閣の総仕上げをしようとする時、できるだけ気心の知れた仲の良い人たちで固めて、最後を飾るという気持ちを理解するという人もいる。

★しかし、この布陣は来夏の参院選までの内閣だろう。その後は順調にいけば、あと2回改造があるはずだ。つまりは、それほど強靱(きょうじん)な内閣とは言えないということだ。それは首相・安倍晋三自身が認めている。「全員野球内閣」というネーミング自体が、弱い分一丸とならなければという意味だろう。今までの「この道しかない」などのスローガンを掲げてきた強力内閣路線の延長にあるとは思えない、遠慮気味な方針だ。

★「全員野球内閣は、首相なりの挙党体制を表現したかったのだろう。主要閣僚などは留任やお友達で固めたものの、12人の新人と再入閣は派閥の要請をのんだもの。首相から見れば、党内世論を踏まえているという挙党体制のつもりだろう。ところが全員右バッターしかいない、バランスの悪いチームを作ったことが裏目に出たのではないか。左バッターが用意できなくとも、スイッチヒッターぐらい隠し玉で欲しかった」(閣僚経験者)。その評価が党内と国民、野党の一致した見方だということが内閣の弱点になるだろう。

★自民党総裁選、沖縄県知事選、内閣改造とめじろ押しの中、政権と安倍内閣が少しずつずれ始めていることに気づき、修正をしていかなければならない時に、政権はまた中央突破を図ったのだろう。成功するか。

 

内閣の経済財政運営/覚悟が問われる再生への道(2018年10月4日配信『河北新聞』−「社説」)

 

 第4次安倍改造内閣が始動した。残り3年、経済財政運営でも総決算が求められる。

 首相は引き続き「デフレからの完全脱却」を訴えるが、取り組むべきは自立型の経済再生へ道筋をつけることだ。

 2日の東京株式市場の平均株価は、バブル崩壊後の最高値を更新した。為替市場が円安で推移し、追い風を受けた輸出企業の株が買われた。

 この流れは日本経済の実力ではない。米連邦準備制度理事会が利上げを決め、新興国の資金が米国に流入。ドル高・円安が一段と強まり、一部が日本への投資に向かったのが実態だ。波に乗る米経済の影響を一時受けたにすぎず、3日の相場は一転、反落した。

 第2次安倍政権の6年間は景気回復局面が続きながらもデフレ脱却を宣言せず、大規模金融緩和を継続してきた。

 円安の恩恵で大企業の収益は拡大し税収も伸びたが、賃金は上がらず好景気の実感は行き渡っていない。経済政策の停滞と言わざるを得ない。

 9月の企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業の業況が3期連続で悪化した。約10年ぶりという。トランプ米大統領が仕掛ける貿易協議を懸念し、先行きを危ぶむ経営者が増えている。外圧に左右される日本経済のひ弱な体質をここでもさらしている。

 米中貿易戦争の巻き添えも不安だが、自国の通商交渉でマイナス要因がもたらされるとしたら失政と言える。

 先日の日米首脳会談では、「物品貿易協定(TAG)」締結に向けた関税協議入りで合意したことに危惧が広がっている。野党側は、政府の不用意な判断が対米自動車輸出や農畜産物の市場開放で不利益を招きかねないと指摘。速やかな説明を求めている。

 自動車、農業は共に日本経済の基軸である。攻勢をかわすだけの受け身の交渉でなく、新たな貿易ルールを提案する主体的な姿勢が欠かせない。政権全体で交渉に当たり利益を守らねばならない。

 国内に目を転じれば消費税増税の実施まで1年に迫った。政府は内需への影響を理由に2度先送りしたが、国の根本政策の信頼性に関わる。腹を決め断行すべきだろう。

 任期終盤での景気の腰折れは首相にとって決定的な失点になる。政府は駆け込み需要の反動抑止など大規模な景気対策を打つ構えだ。しかし増税は国の借金償還や社会保障の財源にするのが趣旨。過剰な対策費は理屈に合わない。

 一方で首相は「内閣の最大のチャレンジ」として全世代型の社会保障政策を3年で実現すると明言した。税率10%では社会保障制度の維持や財政健全化に対応できないが、給付と負担の議論は来年の参院選後に先送りするという。

 医療・介護の負担増を伴う改革にどう踏み込むのか。その覚悟なしに、国民の不安は解消できまい。まして自立した経済社会の未来図を描けるわけはない。

 

(2018年10月4日配信『東奥日報』−「天地人」)

 

紅一点。きのうの朝刊1面に顔写真付きで並んだ新内閣の顔触れを眺めて浮かんだ言葉の一つ。中国の詩の一節「万緑叢中(ばんりょくそうちゅう)紅一点」に由来する。一面の緑に、一輪の赤い花が咲いている意から、多くの男性の中にただ1人女性がいることをいう。

 一面の緑なら爽やかな風も吹こうが、見慣れたダークスーツの男性集団の中に、赤い装いの襟元が目を引く女性が1人。地方創生と女性活躍の担当相として片山さつき氏が初入閣した。皇居での認証式直前になってドレスを買いに走るドタバタが報じられるなど、本業以外で何かと注目されがちなのも「紅一点」ならではの苦労か、これも発信力ととらえるべきか。

 第2次安倍内閣以降、多い時で5人だった女性閣僚は今回1人に。安倍晋三首相は「女性活躍」を掲げ、企業などで女性の指導的立場に占める割合を3割とすることなどを推進しているが、その足元で「紅一点」とは、時計が逆戻りしたようでがっかりさせられる。

 安倍首相も女性閣僚の少なさを認めた上で、片山氏に対しては「2人分も3人分もある存在感で、女性活躍の旗を掲げてほしい」と苦しいもの言いだった。

 そもそも自民党の国会議員のうち女性は約1割にとどまる。数さえそろえればいいとは思わないが、まず足元から、数も実力も伴う「女性活躍」を進めてもらわないと、看板政策もすっかり色あせて見える。

 

女性閣僚たった1人 本気でないのが明らかに(2018年10月4日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 「紅一点じゃ、足りない。」−−。5年前、男女共同参画週間の折に政府が掲げたスローガンである。皮肉にも、第4次安倍改造内閣は、その「紅一点」の内閣となった。

 安倍晋三首相を含む20人中、女性は地方創生・女性活躍担当の片山さつき氏ただ一人。政権は政府や民間企業に、女性の意思決定参画度などを数字で表す「見える化」を求めてきた。まさに旗振り役の本気度のなさが見え見えになった形だ。

 「女性が活躍する社会」を看板政策にしながら、どういうことか。記者会見で問われた首相は、「日本は女性活躍の社会がスタートしたばかり」と釈明した。就任から5年半以上たった首相の言葉ではなかろう。

 この間、本気にさえなれば、女性の国会議員を増やし、閣僚となるべき人材も育てられた。足りなければ民間からの起用もできたはずだ。

 「閣僚待ち」状態の男性議員を多数入閣させ、党内のバランスをとる内輪の事情があったのだろう。しかし「男女共同参画」は、国内外で繰り返してきた約束だったのである。

 国際シンポジウムを開いてトランプ米大統領の娘、イバンカさんら有名人を招く。国連で演説し、「女性が輝く社会」を連呼する。そうしたパフォーマンスと、女性の能力を引き出し、個性を生かす環境を整えることは、全くの別物である。

 安倍氏は「紅一点」となった片山氏について、「超人的なガッツの持ち主」であり、「2人分、3人分の発信力を持って仕事をしていただける」と述べた。

 軽い調子の発言かもしれないが、男性以上の働きを示さなければ女性を一人前として認めない風潮が、女性の社会進出を阻んできたことを忘れてはならない。

 首相は、少子化・高齢化に正面から挑むというが、女性の力なしでは解決できない課題ばかりである。それを理解しているのだろうか。

 国外を見渡せば、スペインで18人中女性が11人という内閣の誕生など、日本との差は一段と開きそうである。だが、先を走る国も、そこに至るまでには、政治家のみならず市井の女性たちの長い闘いがあった。

 21世紀の今、1人の女性しか入閣させないリーダーをどうとらえるのか。国民の意識も問われている。

 

女性と政治 すそ野をまず広げよう(2018年10月4日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 「女性活躍」の看板が泣く。第四次安倍改造内閣で女性閣僚は1人となった。本来、その看板を支えるべき女性議員自体が少ないことも原因だろう。政治に参加する間口を広げていくことが必要だ。

 2015年、カナダのトルドー首相は30人の閣僚のうち半数の15人を女性とした理由を問われ、肩をすくめながらこう答えた。「2015年だから」。数字合わせだけでなく、もうそういう時代でしょ、というメッセージが込められていた。

 安倍首相は新内閣に女性閣僚が1人しかいない理由を問われ、片山さつき地方創生相には「2人分、3人分」の存在感があると釈明した。一時は女性閣僚が5人いたことを考えれば、「女性活躍推進」という看板と実際とが遠ざかり続けているのは確かだ。政治の姿を変えていくには、数の力も必要だろう。

 国際組織の列国議会同盟によると、女性のアーダーン首相が生後3カ月の娘を抱っこして国連の会合に出席したことが話題となったニュージーランドは、下院の女性議員比率が世界193カ国中19位の38・3%に上る。女性議員を増やすためのクオータ(割当)制を導入しているフランス、英国、ドイツも30%台。日本は161位の10・1%だ。

 女性が不利益をこうむるガラスの天井は政治の世界だけに存在するのではなく、また日本に限った話ではない。ノーベル物理学賞の受賞が決まったドナ・ストリックランドさんは、同賞の女性受賞者としては1930年のマリー・キュリーから数えてまだ3人目だ。ただ政治が他と違うのは、他の分野にも制度面で影響を及ぼしていくことができるという点だ。

 身近な地方議会から間口を広げていくのも一つの方法だろう。

 来春には統一地方選がある。今年5月、政治分野の男女共同参画推進法が施行された。国会や地方議会の選挙で男女の候補者の数が「できる限り均等」となることを目指す理念法だ。市川房枝記念会女性と政治センターの調査では2015年、女性議員が1人もいない地方議会は全体の2割強にも上る。

 より豊かな言論は多様性から生まれ、民主主義の土台の厚みとなる。女性が参加しやすい環境を醸成することは、年齢や職業などが偏りがちな地方議会に、新風を運ぶ呼び水ともなるはずだ。まず各政党の候補者選定など、足元からの一歩を望みたい。

 

首相の改憲姿勢/個人の悲願と一線を画せ(2018年10月4日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が自民党総裁選で連続3選を果たし、内閣改造と党役員人事を終えた。秋の臨時国会の焦点となるのが、首相が意欲を示す党改憲案提出の動きである。

 「いよいよ憲法改正に取り組む」。総裁選に続く先月の党両院議員総会で、首相はこう決意を述べた。おとといの記者会見では、具体的な改正条文を示して連立与党の公明党や国民の理解を得る考えを強調した。

 改憲は、首相にとって年来の「悲願」とされる。最後の3年の総裁任期を迎え、期するところがあるようだ。

 東京五輪・パラリンピック開催の年に新憲法を施行する意向を昨年、表明している。国民投票を含めたスケジュールを頭に描いているとみていい。

 だが、改憲は社会保障や経済対策などと比べて緊急度の高い課題とは言いがたい。国民の多くは首相の姿勢に懐疑的だ。数の力で押し通せば対立と混乱を深める事態になるだろう。

 いくら個人の思いは強くても、政権運営とは一線を画するべきだ。国政の最高責任者として節度ある対応を求めたい。

 首相は「改憲は党是」と述べてきた。確かに2010年の自民党の綱領には「新憲法の制定を目指す」とある。ただし、後半に列挙された政策目標の一つで、「新しい憲法の制定」を冒頭に掲げた05年の「新綱領」からは後退した印象を受ける。

 党の憲法草案を公表したが、改憲を急ぐ首相の考えを全員が支持しているわけではない。総裁選では石破茂元幹事長が首相の姿勢を批判し、党内論議が不十分な段階での拙速を戒めた。

 首相が掲げるのは「戦争放棄」などを定めた憲法9条を残して、自衛隊の存在を明記する案だ。自衛隊の違憲論議に終止符を打つためとするが、9条改正への反発をかわして改憲にこぎつける狙いが見て取れる。

 しかし、総裁選後の共同通信の世論調査では、臨時国会での改憲案提出に51%が反対している。「国民の理解がないまま国民投票にかけてはいけない」という石破氏の言葉は正論である。憲法のあり方については、先を急がずじっくりと議論したい。前のめりは禁物だ。

 

「全員野球」内閣とは(2018年10月4日配信『中国新聞』−「天風録」)

 

 常連ではない若手が球場のお立ち台に上がる。より大きな拍手に、こちらもうれしくなる。広島東洋カープのある内野手は先頃、先輩の勝ち越し打に続いて追加点を挙げ、初の晴れ舞台に

▲彼は今季途中の移籍組だけに、試合より緊張したと明かした。えっ、俺もですか―などというやりとりがあったのかもしれない。「全員野球」を誇るカープである。ならば、お立ち台に上がるチャンスを全員にと、春先に読者が本紙広場欄に寄せていたが、ご明察の通りになった

▲ところが「全員野球」内閣と聞くと、どう理解していいやら。このたびの改造に当たり首相自ら宣言した

▲初入閣が12人を占めて平均年齢が上がった。「いぶし銀」のような人材を「適材適所」で―。中には首相に折り返し電話を、と言われ「番号が分かりません」と戸惑うほど縁遠かった人もいたそうな。そんな、いぶし銀に晴れ舞台が待っていようとは、さすが人材豊富な政権党だ

▲プロ野球では、いぶし銀のような守備やバント、などと昔は形容したものだが、それだけでも勝てない。改造内閣は守りに入るな―という新聞論調も目立つ。まずは国会というお立ち台で、お手並み拝見といきたい。

 

(2018年10月4日配信『徳島新聞』−「鳴潮」)

 

太陽系の端で新たな天体が見つかったそうだ。直径は約300キロ。太陽を1周するのに4万年もかかる。あまりに遠いので、地球から見えるのは、そのうち400年ほどという

 国立天文台が米ハワイに置く「すばる望遠鏡」を使い、米研究チームが姿を捉えた。愛称は「ゴブリン」。そんな名のゲームキャラクターもいるが、元は西洋の伝説に登場する意地の悪い精霊である。初観測が2015年10月というから、ハロウィーンも絡み、気の毒な呼び名がついたか

 さて、地上では第4次安倍改造内閣が発足した。19閣僚のうち初入閣は12人。大半は自民党総裁選で首相を支持した派閥に属し、論功行賞の色彩が濃い。「実務型の人材を結集した」と首相は自賛するけれど、典型的な派閥均衡、守りの布陣。入閣待機組の「在庫一掃」「閉店セール」の声も

 首相にしてから「全員野球内閣」と命名は地味だ。憲法改正や北方領土、拉致問題など、扱おうとする課題の大きさに比べ、迫力に欠ける。活躍するはずの女性も、さらに減って一人に

 「ゴブリン」以外にも、端には未発見の天体が多数あるらしい。太陽系を構成するのは地球や火星といった、おなじみの惑星だけではない

 日本も東京だけではない。小欄としては何より、地方の現状をしっかり観測し続ける内閣であってもらいたい。

 

外見と中身が一致していることをいう「看板に偽りなし…(2018年10月4日配信『高知新聞』−「小社会」)

 

 外見と中身が一致していることをいう「看板に偽りなし」。「岩波ことわざ辞典」によると、江戸前期には看板にうそがないという意味で使われたが、のちに「看板に偽りあり」という反対の表現も生まれた。「看板倒れ」ともいう。

 第4次安倍改造内閣が発足した。長期にわたる安倍政権の特徴として、看板政策の頻繁な掛け替えがある。地方創生、女性活躍、1億総活躍、働き方改革などと目まぐるしい。

 初入閣組の中で片山女性活躍担当相が、特に注目を集めているのもそんな背景があるからだろう。看板政策を担いながら、女性閣僚は改造前から1人減って片山さんただ1人。この矛盾を生んだのは閣僚の任命権を持つ安倍首相だ。

 カナダのトルドー政権は、閣僚を男女半数ずつにした内閣を誕生させた。ニュージーランドのアーダン首相は6月に約6週間の産休を取り、先ごろ生後3カ月の長女を連れて国連本部で開かれた会合に出席した。世界の動きを見ると、日本の周回遅れが際立つ。

 さらに片山さんは、もう一つの看板政策である地方創生も担当する。こちらも課題山積で、ずっしり重い二足のわらじをはきこなせるか。安倍首相は片山さんを2人分、3人分の存在感があると持ち上げたが、閣僚としての資質や能力は存在感とはまた別の話だ。

 首相はほかの看板政策も引き継ぎつつ、憲法改正も視野に入れる。乱立ですべての看板が倒れやしまいか。

 

(2018年10月4日配信『南日本新聞』−「南風録」)

 

カレーの本家はインドに違いないが、今や日本の国民食である。専門店に行けばいろんなトッピングがあり、選ぶのにも一苦労する。やはり相性がいいのは豚カツだろう。

 今年はカツカレーが誕生して100年になるそうだ。東京・浅草の屋台でカツとカレーライスを別々に出していたところ、客に「一緒にしたら」と言われたのが始まりらしい。

 作家の五木寛之さんがエッセーでお気に入りの一皿を紹介している。カツは揚げたて、カレーは濃すぎない、そして何よりもカツは厚すぎないことが大切といい、衣がカレーで柔らかくなりかけた「その一瞬が食べごろ」と作法を説く。

 先の自民党総裁選で、安倍晋三首相の出陣式に験担ぎで出されたカツカレーが話題になった。食べた国会議員の数と票が合わないとは笑い話のようだが、「ただ食いは許さない」と造反者探しになったのは後味が悪かった。

 さて、内閣改造で新たに船出した安倍政権である。初入閣が12人もいながら派閥に気遣った守勢が目につき、「在庫処分」と陰口が漏れる。カレーなら一晩寝かせるとうまくなるが、こちらは味付けのベースが変わらなかったせいか、どうも新味に欠ける。

 首相が自ら「国難」と呼ぶ混迷の時代を切り開いていくには、カレーにカツをのせるような大胆な発想が必要だろう。客の声に誠実に向き合う姿勢が大事なのは言うまでもない。

 

安倍改造内閣始動 麻生財務相が留任とは(2018年10月4日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 第4次安倍改造内閣が始動した。当選回数を重ねながらも閣僚経験のない「待機組」に配慮し、12人が初入閣となった。女性閣僚は片山さつき地方創生・女性活躍担当相だけで、男女共同参画の流れに逆行する組閣だ。

 最も驚いたのは麻生太郎副総理兼財務相を留任させたことだ。財務省は、森友学園を巡る決裁文書改ざんという前代未聞の不祥事を引き起こした。一昔前なら大臣の辞任が確実視される事案だ。側近に甘い安倍晋三首相のカラーが色濃く出た。

 財務省が大阪府の国有地を学校法人「森友学園」に、鑑定評価額よりも約8億円安く売却したことが発端だった。開校予定の小学校の名誉校長は安倍昭恵首相夫人であり、特別扱いが強く疑われている。売却に関する決裁文書改ざんや書類廃棄は当時の理財局長が主導して進められた。

 それだけではない。4月には当時の事務次官が女性記者に対するセクハラで辞任した。この時、麻生氏は「はめられて訴えられているんじゃないかとか、いろいろな意見がある」と言い放った。二次加害とさえいえる。発言からは閣僚としての見識、品位がみじんも感じられない。

 一連の不祥事を通して明らかになったのは、麻生氏には財務省を率いるだけの指導力が欠けているということだ。続投させたのは首相が文書改ざん問題を深刻に受け止めていない証左といえる。

 麻生氏とともに舌禍が懸念されるのが桜田(さくらだ)義孝(よしたか)五輪相だ。2016年に自民党本部で開かれた会議で従軍慰安婦について「職業としての売春婦だった。それを犠牲者だったかのようにしている宣伝工作に惑わされすぎだ」と発言し、間もなく撤回した。

 当時、菅義偉(すがよしひで)官房長官は「政府や党の(慰安婦問題への)考え方は決まっている。そうしたことを踏まえて発言してほしい」と苦言を呈した。

 五輪相は大会の円滑な準備・運営に関する施策を推進する重要なポストである。アジア諸国の反発を招かないよう十分に注意すべきだ。

 岩屋毅(いわやたけし)防衛相はかつて、自民党の国会議員でつくる日米地位協定改定を目指す議連の副会長を務めた。地位協定がドイツ、イタリアに比べて駐留国に著しく不利である点も十分に理解しているだろう。ぜひとも協定の見直しを提起してほしい。

 沖縄にとって唯一、期待できるのは宮腰光寛(みやこしみつひろ)沖縄担当相だ。県内の全ての有人離島に足を運んだという。農政通として知られ、基幹作物のサトウキビにも精通している。振興策と基地のリンク論を「予算とは直接リンクしない」と一蹴した。玉城デニー新知事と協調しながら、沖縄振興に取り組んでもらいたい。

 改造内閣と時を同じくして玉城県政がスタートする。これを機に、沖縄に基地負担を押し付ける姿勢を改めるよう安倍首相に強く求めたい。

 

教育勅語復活発言(2018年10月4日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

形変えても本質は変わらない

 安倍晋三首相による内閣改造で文部科学相として初入閣した柴山昌彦氏が就任会見で、教育勅語について「アレンジした形で今の道徳に使うことができる分野は十分にあるという意味では、普遍性を持っている部分が見て取れる」「現代的にアレンジして教えていこうという動きがある。検討に値する」などと発言しました。戦前、軍国主義教育を進める主柱となっていた教育勅語を、形を変えて復活させようというもので、国の文部行政の責任者が就任早々このような発言をするのは異常です。

侵略戦争に「命投げ出せ」

 教育勅語は戦前の教育の基本原理を天皇が示すものとして、1890年に出されました。

 勅語の本質は「一旦緩急あれば義勇公に奉じ以て天壌無窮の皇運を扶翼すべし」という言葉に示されています。「重大事態があれば天皇のために命を投げ出せ」ということです。戦前の学校では、教育勅語が徹底して子どもたちにたたき込まれ、天皇と国家への忠誠を植え付けられた若者たちが、自らの命を捨て、相手の命を奪う侵略戦争に駆り立てられました。

 柴山文科相は勅語には「普遍性を持っている部分がある」といいます。これまでも自民党の政治家や閣僚などから同様の発言が繰り返されてきました。しかし勅語が示した「父母に孝に」などの「徳目」は結局のところすべて天皇に対する命がけの忠義に結び付けられていました。「父母に孝に」「夫婦相和し」などは、子は親に、妻は夫に絶対的に従うべきという考えに基づく「徳目」で、「個人の尊重」「両性の平等」などを定めた日本国憲法と相いれません。

 教育勅語は戦後、憲法の理念に反するとして1948年に衆議院で「排除決議」、参議院で「失効決議」が採択され、公式に廃止されました。衆議院の「排除決議」は教育勅語が「明かに基本的人権を損い、且つ国際信義に対して疑点を残すもととなる」と指摘しています。いくら「アレンジ」して形を変えたところでその本質は変わりません。柴山氏は「国際的な協調を重んじるといった記載内容」をアレンジして教えるといいますが、侵略戦争のために使われた勅語で国際協調を教えるなどというのは歴史を無視した暴論です。

 柴山氏の文科相の資格が問われます。同氏は首相側近です。「教育行政の立て直し」といって文科相にすえた首相の責任は重大です。

 改憲を狙う安倍政権は昨年3月、教育勅語を学校で教材として使うことを容認する見解を閣議決定しました。今年度からは「道徳」が教科化され、「国や郷土を愛する」など国が定めた「徳目」にそった検定教科書を使用し、子どもの学習状況を「評価」するようになりました。子どもの内心の自由や教育の自主性を奪い、「戦争をする国」のための人づくりを進めようというもので、教育勅語の復活をもくろむのも、その一環です。

憲法にもとづいた教育を

 改造内閣は自民党の閣僚全員が改憲右翼団体と連携する議員懇談会に加盟するなど改憲、右翼志向が際立っています。柴山氏の発言はその危険性を象徴しています。

 安倍政権による教育勅語復活、「戦争をする国」のための人づくりを許さず、憲法にもとづいた教育を守り進めるため、世論と運動を広げましょう。

 

(2018年10月4日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

うちは全員野球で。かつて弱小球団の監督が口にしていたのを思い出しました。投打に秀でた選手がいないぶん、みんなで力を合わせてたたかう。そんな意味合いを込めて

▼こんどの組閣を安倍首相は「全員野球内閣」と名付けました。ツイッター上でそれをいじった「#安倍全員野球にありがちなこと」がおもしろい。「外野がライトに寄りすぎ」「退場者がいつの間にかベンチに戻ってる」「本当は全員野球ではなく、一人相撲」

▼疑惑や隠ぺい、偽りに居直る相変わらずの顔ぶれを皮肉ったものも。「負けそうになるとルールを変える」「アウトになっても塁に居座る」「野次(やじ)られると試合が止まる」「都合よく記憶がなくなる」

▼政権を批判する声や反対する国民を敵視する態度についても。「バットでボールではなく、自国民を打ちのめす」「応援団にひどい暴言を吐く奴(やつ)がいる」「相手チームの応援団がボードや横断幕を出すと球団関係者がのぼりで隠そうとしてくる」

▼沖縄知事選の惨敗や総裁選での離反がありながら、反省なしの9条改憲シフト。閣僚もゆがんだ歴史観を押し広める日本会議や神道政治連盟に加わる人物ばかりです。内外ともに問題山積のなかで、かじ取りどころか国を危うくするだけの“全員野球”です

▼一言でいえば「閉店セール内閣」。アベ政治の終わりの始まりだと評したのはうちの小池晃さん。そういえば、先のツイッターでも。「9回裏なのに『新しい時代を切り開く』などと喚(わめ)いて続行しようとする」

 

(2018年10月3日配信『中日新聞』−「夕刊」=「夕歩道」)

 

 自らの内閣を何と呼ぶか。「改革断行内閣」と勇ましかったのは01年の小泉純一郎さん。「背水の陣内閣」は07年の福田康夫さん。民主党政権では10年、菅直人さんが「奇兵隊内閣」だと。

 第1次政権の「美しい国づくり内閣」、再登板後の「未来チャレンジ内閣」など印象重視の強烈な命名が多い安倍さんだが、今回は「全員野球内閣」だそうで、こう言っては何だが、やや平凡か。

 ご本人の掲げる「真摯(しんし)」や「丁寧」が大方の国民の理解と食い違っていたこともままある。看板だけでは判断できまい。「右バッターばかり」(小池晃共産党書記局長)という全員野球やいかに。

 

第4次安倍改造内閣 反省と展望はどこにある(2018年10月3日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相はきのう、内閣・自民党役員の人事を行い、第4次安倍改造内閣が発足した。

 2012年末からの6年近くに及ぶ政権運営では、「1強」の弊害が顕著になっている。それをどう改め、最後の自民党総裁任期の3年で何をなすのか。その方向を指し示す人事だったはずだ。

 新たな顔ぶれから、そうしたメッセージは読み取れない。

 学校法人森友学園を巡る決裁文書改ざんの責任を問われた麻生太郎副総理兼財務相や、菅義偉官房長官、二階俊博幹事長ら政権の骨格は維持された。

 その上で、2年前に「政治とカネ」の問題で閣僚を辞任した甘利明氏の選対委員長就任など「親安倍」の議員を要職に登用し、総裁選で支援を受けた派閥に所属する多くの入閣待機組を処遇した。

 「実務型の人材を結集した全員野球内閣」と強調するものの、実態は論功行賞の色彩が濃い。

 女性活躍を政権の看板政策に掲げていながら、女性閣僚は前内閣の2人から1人に減った。

 総裁選の党員票で石破茂元幹事長が善戦し、沖縄県知事選で与党推薦候補が敗れた。首相の求心力に影が差す中で、党内基盤を固め直す狙いだとしたら、内向きの布陣だと言わざるを得ない。

■解せない麻生氏続投

 「批判を真摯(しんし)に受け止め、謙虚で丁寧な政権運営を行う」。首相は総裁選期間中を含め、森友・加計問題の反省を踏まえて何度もこう繰り返してきた。

 その言葉に真っ向から反するのが麻生氏続投だ。文書改ざんや、前財務事務次官のセクハラ問題という深刻な不祥事が相次いで起きた組織の長としての責任を取らずに、その座にとどまった。

 共産党の小池晃書記局長はおとといの記者会見で、首相の政治姿勢をこう皮肉った。

 「『真摯に受け止める』と言う時は右から左に聞き流す時。『丁寧に説明する』は同じことを何度も繰り返すということ」

 首相に耳の痛い指摘だろう。

 甘利氏の政治資金問題も忘れてはならない。経済再生相在任中、事務所が建設会社から都市再生機構(UR)との補償交渉が有利に進むよう依頼を受け、秘書と自身が計600万円を受領した。

 甘利氏は刑事訴追は受けていないことを強調したが、閣僚辞任後は体調不良を理由に、野党の国会招致要求に応じなかった。説明責任は果たしていない。

■看板替えるだけでは

 首相は昨年の衆院選や総裁選で公約した「全世代型社会保障改革」の実現に向け、茂木敏充経済再生相に担当相を兼務させた。

 65歳以上の雇用継続や、年金の受給開始時期として70歳超も選択できる仕組みを構築する。働ける高齢者には社会保障を支える側に回ってもらい、その分の給付を子育て世代に振り向ける。

 そんな考えのようだが、高齢者への給付やサービスを都合よく削減されるだけに終わりかねない。

 首相は衆院選で、来年10月に税率10%に引き上げる消費税の使途のうち、借金返済に充てる財源の一部を教育無償化に回す方針も打ち出した。

 財政再建と、国民の将来不安を解消する社会保障制度の実現を両立させて、個人消費の活性化にもつなげる―。本来力を注ぐべき取り組みは、手付かずのままだ。

 目先の好景気を追い求めるアベノミクスも限界は明らかだ。

 安倍政権は、1億総活躍や人づくり革命など聞こえのよい目玉政策を打ち出しては、次々に看板を掛け替えてきた。

 総裁選で石破氏が地方創生を一層重視すべきだと訴え、党員の一定の支持を集めたのも、看板倒れが危惧されるからだろう。

 「全世代型社会保障改革」も、結局その繰り返しにならないとは言い切れまい。

 新たな課題に着手する前に、取り組んだ政策の問題点を探る地道な検証作業が欠かせない。

■改憲の時にはあらず

 外交も行き詰まりが顕著だ。北方領土問題を巡る日ロ交渉、北朝鮮による日本人拉致問題は一向に解決の展望が開けない。

 首相がトランプ大統領との親密な関係を誇ってきた日米関係も、農畜産物を含む全物品の関税撤廃・引き下げを協議する新通商交渉が始まり、正念場を迎える。

 首相は記者会見で、総裁選で公約した次期国会への改憲案提出について「自民党がリーダーシップを取って目指していくべきだ」と述べ、重ねて意欲を示した。

 だが、首相はもともと改憲について「スケジュールありきではない」と述べていた。

 国民は改憲を喫緊の課題として求めてはいない。国の将来や国民生活に直結する政策を全力で進めることに専念すべきだ。

 

安倍采配(2018年10月3日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

高校野球地方大会。コールド負けを目前に必死に食い下がるが、ついに2死走者なし。真っ白なユニホームの代打は内野ゴロで、懸命に一塁にヘッドスライディングをして…▼現実でも時々見る光景だ。控えで頑張ってきた選手を試合に出してやりたいという監督の「親心」もあろう。高校野球ならそれもいい

▼安倍晋三首相はきのう、内閣改造と自民党役員人事を行った。初入閣組はなんと12人。首相は「適材適所」を強調するが、総裁選の論功行賞で入閣待機組を順送りに登用したとみる向きも。白いユニホームが泥だらけになるくらい、懸命な「プレー」を望むばかり

▼見覚えのあるユニホームでの再登場は、党四役の選対委員長となった甘利明元経済再生担当相。2016年1月「政治とカネ」の問題で辞任した際、「調査結果をしかるべきタイミングで公表する」と述べていた

▼ところが、その後「睡眠障害」を理由に国会を長期欠席。不起訴処分後に復帰したが、いまだに納得できるような説明はしていない。当時「政治家としての美学」を辞任の理由に挙げた。さて、こうした対応は「美学」にふさわしいのか

▼着古したユニホーム姿は麻生太郎財務相。財務省の文書改ざん問題や次官のセクハラ問題で官僚は辞任したものの、トップの麻生氏は給与を自主返納しただけ。続投は吉と出るか凶と出るか。「安倍監督」の采配や、いかに。

 

内閣改造/強権的な政権運営を改めよ(2018年10月3日配信『河北新報』−「社説」)

 

 「安定」や「選挙」を重視した布陣で政権基盤を立て直す意図があるのだろうが、疑問を拭えない人事もある。「1強」のおごりが見え隠れすることは否めない。

 安倍晋三首相はきのう、9月の自民党総裁選で3選されたことに伴う内閣改造と党役員人事に踏み切った。

 骨格は維持し、6人を再任した。初入閣は12人で安倍内閣では最多。党総裁選で支持を受けた各派閥に配慮した入閣待機組の在庫一掃にも映る。女性が1人にとどまったことは人材不足を露呈した。

 総裁選では党員票で石破茂元幹事長が45%を獲得。首相の政権運営に対する批判票が噴出した。改造では石破派の若手1人を法相に起用し、党内融和を図る姿勢を示した。

 一方で解せない判断もある。財務省不祥事で責任を問われ続けてきた麻生太郎副総理兼財務相の続投だ。

 財務省では学校法人森友学園との国有地取引を巡って決裁文書改ざんが発覚し、佐川宣寿前国税庁長官が引責辞任した。福田淳一前事務次官のセクハラ問題による辞任もあった。麻生氏は佐川氏を国税庁長官に栄転させ「適材適所」と強弁を繰り返した。セクハラ問題では「(被害女性に)はめられた可能性が否定できない」などと主張した。

 首相は麻生氏を一貫してかばい続け、今回の改造でも「土台」と位置付けた。政治責任を不問にしてまで権力基盤の維持に執着する姿勢は、首相が約束した「謙虚な政権運営」と懸け離れている。

 党役員人事に目を移すと、総務会長に側近の一人の加藤勝信前厚生労働相を据えた。憲法改正論議を含めた意思決定機関を束ねるポストだ。首相は秋の臨時国会に党改憲案を提示したい考えを示す。9条に自衛隊を明記する改正案など4項目の条文案は党内で正式決定されておらず、総務会の了承が必要になる。

 さらに、選対委員長には盟友の甘利明元経済再生相を充てた。先月30日の沖縄県知事選で党推薦候補が大差で敗れたことは、地方で「安倍離れ」が加速していることを改めて印象付けた。

 枢要ポストに自身に近い議員を置き、改憲論議をリードするとともに、万全の選挙対策を講じる狙いだ。陰りが見えつつある求心力を高めようとの思惑がにじむ。

 東北からの入閣は根本匠厚労相(衆院福島2区)1人にとどまった。防衛、復興、五輪の3閣僚だった改造前と比べ寂しいが、被災地閣僚として医療充実や人手不足解消などを後押ししてほしい。

 安倍内閣では閣僚の失言や議員の不祥事が相次いだ。森友、加計学園問題では首相が言う「丁寧な説明」は尽くされず、政権全体のおごり、緩みは消えていない。

 多くの疑惑について丁寧に説明し、公正な政策を果断に実行する。まずは強権的な政権運営を改めるべきだ。

 

(2018年10月3日配信『デイリー東北』−「天鐘」)

 

来秋の消費増税を前にした駆け込みなのか、住宅新築があちこちで進んでいる。今年は何度も大雨、台風が来襲するため、例年以上に天候を気にしながらの工事だとか

▼日本家屋の大半を占める木造住宅。建築工程の中で、昔から重要なものの一つが「土台」である。柱が立つ根元であり、ここが強固で水平でなければ、どんなに良い柱も真っすぐに立たない。柱からの重さを受け止めて下の基礎に伝える役割も担う

▼土台がしっかりしていないと家全体が揺らぎ、いずれ傾いてしまう。他の箇所に高価な部材を使っても台無しになることから、材質選びと施工には念が入れられる

▼第4次安倍改造内閣が発足した。長く“待機”していた新顔の入閣も多いが、政権の中枢はほぼ同じ。安倍晋三首相は党総裁選直後に、麻生太郎副総理兼財務相を政権の土台と位置付け、留任させる考えをいち早く表明していた

▼森友学園問題を巡る公文書の改ざんやセクハラ疑惑で辞任した事務次官。財務省の不祥事は麻生氏の下で起きたはず。責任をあいまいにしたまま居座ったトップを続投させるという

▼そもそも土台とは、全ての荷重を自らが受け、目に見えない所で支える存在。辞典を紐解(ひもと)くほどに、安倍首相の言葉選びと人物選びが当てはまっているのか疑問も浮かぶ。政権の土台とはすなわち国家の土台。その部分が信頼されなければ、国自体が揺らぐ。

 

内閣改造と自民人事 「地方」の視線を恐れよ(2018年10月3日配信『岩手日報』−「論説」)

 

 限られた残り任期に何を成し遂げたいか、はっきり示された人事だろう。憲法改正に向けた安倍晋三首相の並々ならぬ意欲が見える。

 第4次安倍改造内閣が2日発足し、初入閣12人を含む陣容で船出した。同時に自民党の役員人事も行われ、新体制が始動した。

 今回の改造は、党総裁選で安倍首相に挑み、善戦した石破茂元幹事長の派閥からの入閣が焦点だった。法相に石破派の山下貴司氏を抜てきし、一応の「挙党態勢」を演出したとは言える。

 だが総裁選で党内5派閥が首相を支持した結果、各派に配慮して大臣経験のない「待機組」を多く起用したため、実力には疑問符が付く。本県選出の鈴木俊一五輪相は1年2カ月で退任となった。

 岩手と関わりの深い復興相に就いた渡辺博道氏は千葉県選出で、震災復興の手腕は未知数だ。地方創生担当相の片山さつき氏も、地方政策に関しては同様だろう。

 一方、決裁文書改ざん事件を起こした財務省のトップ、麻生太郎副総理兼財務相は職にとどまる。重大な不祥事で政治家が責任を取らないことは、日本の議会政治に禍根を残すのではないか。

 現金授受問題で一昨年、閣僚を辞任した甘利明氏が党選対委員長に起用されたことにも言える。説明が不十分なまま短期間で要職に戻るのは違和感が拭えない。

 自民党人事では、甘利氏はじめ首相に近い議員の重用が目立った。総務会長に加藤勝信厚生労働相、憲法改正推進本部長に下村博文元文部科学相を充てたことだ。

 党として憲法改正案を出す際は、まとめ役の総務会長、旗を振る本部長の手腕にかかる。首相は悲願とする改憲への道筋を「側近」「盟友」に託したと言える。

 だが憲法改正を急ぐ姿勢は、必ずしも国民の希望と合致しない。世論調査では、改憲より先に社会保障の充実を望む声が常に強い。

 そうした国民の意識と政権の隔たりがくっきりと表れたのが、自民党総裁選や沖縄県知事選ではなかったか。総裁選は、党員でさえ地方では現政権に批判的な目を向けていることが示された。

 「1強」のおごりが目立つ政権運営、是正されない東京一極集中、大企業と中小企業の格差。いずれも地方は厳しい視線を注いでいる。

 来年の消費税増税に耐える経済状況をつくる。社会保障を持続可能にして、人口減を止めるために豊かな地方をつくる。首相の残り任期に国民が望むことだろう。

 それらをおろそかにしたまま、首相個人の悲願は決して成就しない。「地方」の視線を恐れなければならない。

 

【安倍改造内閣発足】復興一層の加速を(2018年10月3日配信『福島民報』−「論説」)

 

 第四次安倍改造内閣が発足した。安倍晋三首相の自民党総裁任期は二〇二一年九月までで、これからの三年間が政権の総仕上げとなる。

 首相は記者会見で、吉野正芳氏(衆院本県5区)から復興相を引き継ぐ渡辺博道氏(衆院千葉6区)の起用に当たり「東日本大震災からの復興、福島の再生をさらに加速してほしい」と述べた。復興はまだ途上であり、今後も内閣を挙げて被災地再生に努めるべきだ。

 初入閣となった渡辺氏は内閣府政務官、経済産業副大臣を務めた経歴を持つ。被災三県の中で、本県には三日、宮城、岩手両県には五日にも訪れる。震災と東京電力福島第一原発事故の被災者に寄り添う姿勢も示した。来県時には、被災地の実情や復興に向けての課題を肌で感じることが大切だ。

 「復興・創生期間」は二〇二〇年度で終了となる。併せて、復興庁は二〇二〇年度末で廃止される。被災地は後継組織が不可欠と訴えている。自民、公明両党は七月末、「東日本大震災 復興加速化のための第7次提言」を首相に提出し、後継組織の検討を求めている。首相は会見で、震災と原発事故からの復興について具体的な施策に触れなかった。だが、防災や復興を一元的に担当する防災復興庁(仮称)の新設、本県の復興に特化した福島復興庁(仮称)への衣替えなど課題は多い。内閣は議論を本格的に進めなければならない。

 復興財源となる東日本大震災復興特別会計も二〇二〇年度で廃止の予定だ。新たな財源をどのように確保するのか。道筋を示す必要がある。

 留任した世耕弘成経産相(参院和歌山選挙区)は八月初め、福島市で開かれた福島復興再生協議会で、本県の経済発展に向けて新しい構想をつくる考えを示した。復興・創生期間後の産業振興を目的に施策や財源などをまとめる。引き続き、構想を実現させる責務を負う。

 元復興相の根本匠氏(衆院本県2区)は厚生労働相として再入閣した。閣僚十九人のうち、被災三県を地元としているのは根本氏に限られる。厚労行政に加え、内閣の一員として被災地復興に向けた閣僚の意見を調整する役割にも期待する。

 原田義昭環境相(衆院福岡5区)と桜田義孝五輪相(衆院千葉8区)も初入閣だ。帰還困難区域内の建物解体や除染、「復興五輪」となる東京五輪・パラリンピックの円滑な準備をそれぞれ担う。両氏もしっかりと職責を果たしてほしい。

 

政治家と歴史(2018年10月3日配信『福島民報』−「あぶくま抄」)

 

 首相官邸のホームページに歴代の首相の出身地(原則として戦前は出生地、戦後は選挙区)が記されている。都道府県で山口県が最も多い。

 伊藤博文[いとうひろぶみ]、山県有朋[やまがたありとも]、桂太郎[かつらたろう]、寺内正毅[てらうちまさたけ]、田中義一[たなかぎいち]、岸信介[きしのぶすけ]、佐藤栄作[さとうえいさく]、安倍晋三の八氏を数える。桂、佐藤、伊藤の三氏は通算の在職が七年を超えた。安倍首相の自民党総裁の任期は向こう三年にわたる。来年十一月を迎えれば、通算の在職日数は歴代トップに並び、憲政史上、最長をうかがう。

 戊辰戦争と明治改元から百五十年にちなんで、全国各地で行事が相次ぐ。安倍首相はかつての講演で、明治元年から五十年と百年の節目に、山口県出身の首相が巡り合わせた歴史を挙げた。そして今、百五十年に自らがその任に当たる。

 総裁選の訴えの中でも、明治維新や戊辰戦争を念頭に置き、長州(山口県)や薩摩(鹿児島県)、会津に触れた。過去の出来事を謙虚に学ぶ心構えは、政治家の大切な資質の一つといえよう。ただ、史実を都合よく読み解いたり、その場の盛り上げに安易に使ったりしていないだろうか。改造内閣が二日、発足した。歴史に誠実に向き合い、先人の戒めと教訓を心に刻み続けてほしい。

 

安倍改造内閣/本腰を入れ難題に挑戦せよ(2018年10月3日配信『福島民友新聞』−「社説」)

      

 長期政権だからこそ、本腰を入れて困難な課題に取り組むことができることを銘記し、着実に政策を実行していくことが重要だ。

 安倍晋三首相が、内閣改造と自民党の役員人事を行った。首相が「全員野球内閣」と位置付けた今回の内閣の顔ぶれは、各派閥の12人を初入閣させつつ、政権の骨格は維持した。宿願とする憲法改正と、来年の統一地方選や参院選を見据えた布陣と言える。

 先の党総裁選では連続3選を果たしたものの、石破茂元幹事長に善戦を許し、続く沖縄県知事選で与党推薦候補が敗北した。党内求心力を維持できるかどうかの岐路に立つ危機感も透ける。

 人選の基準は「挙党態勢」ではなく「適材適所」とするが、額面通りには受け取れない。むしろ、自身を総裁選で支持してくれた派閥に配慮するあまり、入閣待機組を大量に取り込んだように映る。

 首相は、来年11月に在職期間で桂太郎氏を抜き、歴代最長政権も視野に入れる。ただ、受け身で目の前の課題処理に追われるのなら長期政権に意味はない。人口減少対策や社会保障改革など難題に果敢に挑戦するべきだ。党内外の異論に耳を傾け、丁寧な説得と透明な政策プロセスを通じて、政策推進力を確保する姿勢が望まれる。

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興は、課題が複雑化しており、これまで以上に前面に立った取り組みが求められていることを認識するべきだ。

 本県の復興に携わる主な閣僚では、復興相に渡辺博道元経済産業副大臣、環境相に原田義昭元文部科学副大臣が起用された。世耕弘成経済産業相は留任となった。

 それぞれ復興に深く関わるが、中でも復興相は復興政策を一元的に担当する。吉野正芳前復興相からの引き継ぎを徹底し、間断なく復興政策を指揮してもらいたい。

 初入閣の渡辺、原田両氏はできるだけ早く県内に足を運び復興の現状に理解を深めてもらいたい。

 一方、世耕氏は第3次安倍第2次改造内閣時から2年以上にわたり経産相を務める。担当分野は第1原発の廃炉や、トリチウムを含む処理水の扱いなど、本県の将来を左右するものばかりである。難題を乗り越えるためのリーダーシップが求められる。

 県選出議員では、根本匠元復興相(衆院2区)が厚生労働相に就いた。同省が担う行政分野は「いつもからもしもまで」と言われるほど幅広い。厚生政務次官や復興相を務めた経験を生かして、少子高齢時代にふさわしい厚生労働行政の実現を目指してほしい。

 

内閣改造と自民党人事 けじめは要らないのか(2018年10月3日配信『茨城新聞』−「論説」)

 

「示しがつかない」というのはこういうことを言うのだろう。

自民党総裁選で、石破茂元幹事長に圧勝して連続3選を果たした安倍晋三首相が内閣改造と自民党役員人事を行った。

その後の記者会見で安倍首相は人事の狙いを「新たな国造りの力強いスタートを切る」ためとした。親しい下村博文元文部科学相を党憲法改正推進本部長に配しており、「新たな国造り」とは悲願である憲法改正の実現を意味しているのは間違いない。

そうであればなおさら、首をかしげざるを得ない布陣である。

まず安倍首相の盟友である麻生太郎副総理兼財務相。学校法人「森友学園」問題に関する決裁文書の改ざん事件を起こした財務省のトップであるにもかかわらず留任した。次に家族ぐるみで親しい関係にある加藤勝信前厚生労働相。裁量労働制を巡る不適切データ問題などを決着させ切れないまま総務会長に昇格した。

 いずれも、正確でなければならない公的な文書やデータを基にした議会制民主主義を揺るがす不祥事だったにもかかわらず、政治的な責任が全く取られていない。

 政治主導を掲げる安倍政権は、内閣人事局で府省庁の幹部人事を一手に握り、政府内の異論を許さない態勢で、アベノミクスや集団的自衛権の行使容認など数々の重要政策を推し進めてきた。

 であれば所管する組織に取り返しがつかないような重大問題が起きた際は、辞任、交代などの形で政治的な責任を取り、一定のけじめをつけるのが閣僚の役目であろう。

 小泉進次郎衆院議員が改ざん事件発覚直後、「自民党は官僚だけに責任を押し付ける政党ではない」と指摘した通りだ。閣僚が責任を取らないまま、安倍政権は憲法改正という「新たな国造り」に向かおうとしている。新たな国とはけじめが要らない国なのか。

 麻生、加藤両氏だけではない。西日本で記録的な大雨になる恐れがあると気象庁が厳重な警戒を呼び掛けた7月5日夜に開かれた自民党議員による飲み会の写真をツイッターなどに投稿して批判を浴びた西村康稔官房副長官が留任、片山さつき参院議員は地方創生担当相に起用された。

 また、建設会社からの金銭授受問題で2016年に経済再生担当相を辞任、一時は政治活動も休止していた甘利明衆院議員が党三役に次ぐ選対委員長として「復権」した。さらに南スーダン国連平和維持活動(PKO)日報隠蔽(いんぺい)問題を受け、17年に防衛相を辞した稲田朋美衆院議員も筆頭副幹事長として、選挙区でのうちわ配布問題で14年に法相を辞めた松島みどり衆院議員が広報本部長として、それぞれ党中枢に復帰した。

 甘利氏らは、閣僚を辞任することでけじめをつけた形になっているが、いずれも安倍首相に近いことから優先的に復権することができたと自民党内でもみられている。

 特に稲田、松島両氏には「閣僚当時、省内を掌握できず、混乱を招いた」などの評価もあることから恣意(しい)的な人事ではないかとの声が安倍陣営にもある。

 安倍首相は「下村憲法改正推進本部長−加藤総務会長−森山裕国対委員長」のラインで、党憲法改正案の早期の国会提出を目指すとみられるが、その前にやるべき事があるのではないか。

 

安倍新体制 信頼回復には程遠い(2018年10月3日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 総裁選で支持してくれた派閥にポストで報いる。「政治とカネ」の問題を引きずる側近も、党の要職に据える。こんな内向きの人事では、政治や行政への信頼を取り戻し、難しい政策課題に取り組む足場を固めることなどできはしまい。

 安倍首相がきのう、内閣改造と自民党役員人事を行った。

 安倍内閣では最多の12人を初入閣させたが、大半は各派閥が推す「入閣待機組」だ。総裁選で善戦した石破茂・元幹事長の派閥からも1人起用したが、露骨な論功行賞人事である。自らに批判的な勢力も取り込む、懐の深さは感じられない。

 「女性活躍」を掲げながら、女性閣僚が1人というのも、看板倒れだろう。

 党人事で見過ごせないのが、金銭授受疑惑で2年前に閣僚を辞任した、盟友の甘利明・元経済再生相を党4役である選挙対策委員長として「復権」させたことだ。

 甘利氏はきのう、「私、秘書とも刑事訴追されていない」と釈明した。確かに、検察は不起訴処分としたが、あっせん利得処罰法はかねて抜け道の多いザル法と指摘されている。何より、甘利氏が当時、説明責任から逃げ続けたことを忘れるわけにはいかない。

 来年の統一地方選、参院選で国民に広く支持を求める立場についた以上、甘利氏には改めて、納得がいくまで丁寧な説明を求める。

 首相が秋の臨時国会への原案提出に意欲を示す憲法改正でも、身内ともいえる親しい2人を党内調整の要に配置した。憲法改正推進本部長の下村博文・元文部科学相と、総務会長の加藤勝信・前厚生労働相である。

 下村氏には文科相在任中、加計学園の幹部からパーティー券の費用として計200万円を受け取りながら、政治資金収支報告書に記載していなかった問題などが明らかになっている。

 下村氏は現金は学園からではなく、幹部が11の個人や企業から預かったものだと説明、検察も不起訴処分にしたが、11人の内訳が明らかにならないなど、疑問は残ったままだ。

 甘利、下村両氏の起用に加え、首相は、森友問題の真相解明に陣頭指揮をとるでもなく、組織ぐるみの公文書改ざんの政治責任に背を向ける麻生太郎副総理兼財務相の続投を決めた。「謙虚に丁寧に」と繰り返す首相の言葉の本気度を疑う。

 首相がきのうの記者会見で述べた「新しい国造りの力強いスタートを切る」布陣には程遠いと言わざるを得ない。

 

安倍内閣の新布陣 長期的課題が担えるのか(2018年10月3日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 第4次安倍改造内閣が発足した。

 初入閣の人数が安倍政権では過去最多の12人となった。自民党総裁選で安倍晋三首相の3選を支持した各派閥の意向を尊重した結果だ。

 衆院当選7回以上のベテランなのに初入閣という新閣僚が7人もいる。長く入閣できなかった待機組の一掃を図ったことをうかがわせる。

 初入閣が多ければ、それだけ行政手腕や国会答弁が不安視される。過去の言動やスキャンダルが野党から攻撃されるリスクも増す。

 例えば、片山さつき地方創生担当相は貧困家庭の子どもを中傷するようなツイートをして物議を醸したことがある。参院外交防衛委員長のときには審議に遅刻して謝罪した。

 原田義昭環境相は過去に学歴詐称問題で副文部科学相を辞任したほか、歴史認識をめぐっては旧日本軍の「南京大虐殺」に関する政府見解の見直しを求めたことがある。

 桜田義孝五輪担当相も「慰安婦はビジネスだ」との発言を批判されて撤回しており、安倍首相を支持する強硬な右派からの起用が目立つ。

 党人事では、2016年に現金授受問題で経済再生担当相を辞任した甘利明氏を選対委員長に起用した。甘利氏は首相の盟友であり、政権全体で身内重視が強まった印象だ。

 ただし、今回の人事からは、首相が新たな総裁任期の3年間で何を成し遂げたいのかが見えてこない。

 憲法改正に前のめりになっていることは、党内論議のまとめ役となる総務会長と憲法改正推進本部長に側近を起用したことから分かる。

 一方で、麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、外交・経済閣僚ら内閣の骨格は変わっていない。

 アベノミクスなどの主要政策は継続するとして、これまでに掲げた「地方創生」「1億総活躍」などの看板政策を進める熱意は伝わらない。一時は5人いた女性閣僚は1人となり、「女性活躍」の看板も色あせた。

 首相は「人生100年時代を見据えた社会保障改革を3年で断行する」と明言している。そのためには人口減少・東京一極集中への対策や、消費増税を含む歳入改革などに政府全体で取り組む必要がある。

 首相はきのうの記者会見で「全員野球内閣」と銘打ったが、長期的課題を担える布陣なのかは疑問だ。

 

沖縄の古謡集「おもろさうし」には「セジ」という言葉が…(2018年10月3日配信『毎日新聞』−「余録」)

 

 沖縄の古謡集「おもろさうし」には「セジ」という言葉がよく出てくる。国王がセジを得るように祈る歌には「戦(いくさ)セジ」「百(ひゃく)歳(さ)セジ」「世添(よそ)うセジ」などさまざまな種類がある。このセジ、霊力のことなのだ

▲戦セジとは戦勝をもたらす霊力、百歳セジは永遠の命を保つ霊力、そして世添うセジとは世を保護し支配する霊力という。セジは人や物がもともと備えているのではない。天と地の間にあって、何かの拍子に人や物に宿る霊力なのだ

▲先日の沖縄県知事選では翁長雄志(おなが・たけし)氏から基地移設反対を引き継いだ玉城(たまき)デニー氏へ、世添うセジはすんなり移行した。地域振興策を人質に基地の移設を進める政府に対し、沖縄の誇りと意地を掲げて霊力を蓄えた翁長氏の遺産である

▲ひるがえって自民党総裁選で3選を果たしたばかりの安倍晋三(あべ・しんぞう)首相には出だしからのつまずきである。総裁選での党員票の伸び悩みもこれあり、来年の参院選をにらんで首相の政治的霊力を値踏みする党内外の視線も厳しさを増そう

▲その第4次改造内閣は財務相や官房長官らの骨格は維持しながら12人が初入閣、女性は何と1人の陣容となった。各派閥の入閣待機組の受け入れや盟友・側近重視の人事は、党内に潜むリスクを避けて霊力の消耗を防ぐ狙いのようだ

▲つまりは参院選、また改憲を狙った布陣だろうが、野党も新閣僚の資質や女性1人の陣容など突っ込みどころには困るまい。むろん参院選セジの宿り先を決めるのは、その間の一切を見つめる国民である。

 

安倍改造内閣 惰性を排し困難な課題に挑め(2018年10月3日配信『読売新聞』−「社説」)

 

 ◆デフレ脱却、通商交渉に万全を◆

 安倍首相が内閣と自民党の基盤を固め直す人事に踏み切った。惰性を排して、困難を伴う内外の課題に取り組み、成果を上げねばならない。

 自民党総裁選での連続3選を受け、首相は第4次安倍改造内閣を発足させた。要所に実力者を配した上で、入閣経験のない議員を積極的に登用した。

 安定感の確保と、党の活性化に腐心した布陣である。

 ◆初入閣で各派閥に配慮

 首相は記者会見で、「未来を見据えながら、新しい国造りを力強く進めていく。実務型の人材を結集した」と述べた。

 内閣と党の要である菅官房長官と二階幹事長を再任した。財務省の不祥事に伴う責任論がある中、麻生副総理兼財務相も留任させた。引き続き重責を担う以上、財務省の信頼回復に指導力を発揮しなければならない。

 岸田政調会長を続投させたのは、「ポスト安倍」の有力候補として処遇した形である。

 特徴的なのは、初入閣が12人を占めたことだ。安倍内閣の人事で最多となる。長く入閣を待望していた議員が多い。自民党総裁選で首相を支持した各派閥への配慮がうかがえる。

 対抗馬の石破茂・元幹事長は処遇しなかったが、石破派の議員を起用した。党内融和に一定の配慮を示したことは理解できる。

 首相復帰から間もなく7年目に入るが、守りに入ることは許されまい。漫然と目の前の課題の処理に追われるようでは、国民の間に「飽き」が広がろう。

 長期政権ゆえの緩みや驕おごりが目立つ中、内閣全体が緊張感を保ち、優先順位を付けて政策を遂行することが重要である。その努力を怠れば、内閣は直ちに失速することを、首相は肝に銘じるべきだ。

 政権の総仕上げを果たすためには、来年夏の参院選を乗り越える必要がある。今秋から来年にかけて、国内外の懸案を確実にこなすことが大切だ。

 来年の4月30日に天皇陛下が退位され、5月1日に皇太子さまが即位される。一連の儀式や改元を円滑に進めねばならない。

 政権発足以来の目標であるデフレ脱却を果たすには、規制緩和や成長戦略など、優先度の高い施策を進め、経済成長を持続的にすることが欠かせない。

 ◆社会保障改革は責務だ

 1年後の10月には、消費税率が10%に引き上げられる。今度こそ、増税に耐えられる経済環境を整えてもらいたい。

 全世代型の社会保障制度の構築は、先送りできない課題だ。

 膨張する医療、介護、年金を抑制しつつ、次世代への給付を充実させることが重要である。負担増を伴う制度改正は避けて通れない。国民の理解を得ながら、実行することが政治の責任となる。

 茂木経済再生相を社会保障改革担当に指名した。根本厚生労働相と連携して取り組むことになろう。首相自ら、改革の先頭に立つことが肝要である。

 貿易赤字削減という目先の目標に固執するトランプ米政権との通商交渉は難航が予想される。

 自由貿易体制を堅持し、国益を守るために、米国と建設的な通商関係を構築しなければならない。万全の交渉態勢を整える必要がある。

 首相は、戦後外交の総決算として、北方領土問題と北朝鮮による日本人拉致問題の解決に全力を挙げる。河野外相を留任させ、拉致問題の担当を新たに菅氏に担わせたのは、首相の決意の表れと言える。

 長年の懸案を解決に導くには、緻密ちみつな戦略に基づいて実務的な協議を重ね、首脳外交での決着を目指すことが重要だ。

 首相は、自民党の役員人事で、悲願とする憲法改正を前に進める陣容を整えた。

 総務会長には、重用する加藤勝信・前厚労相を抜てきした。党の憲法改正案は総務会の了承が不可欠なためだ。憲法改正推進本部長には、自らに近い下村博文・元文部科学相を起用する。

 ◆憲法改正丁寧に進めよ

 憲法9条を改正し、自衛隊の違憲論を払拭ふっしょくする意義は大きい。二階、岸田両氏と連携して、党内の取りまとめと、公明党などとの調整にあたるべきだ。

 憲法のあるべき姿を不断に論じるのは国会の責務である。野党を促し、停滞する衆参両院の憲法審査会の議論を活性化させることが大切だ。憲法改正への国民の賛同を広げることにつながる。

 憲法改正は国会発議から国民投票まで長い道のりである。丁寧に手順を踏むことが欠かせない。

 

「和の政治」で政策を前に推し進めよう(2018年10月3日配信『日経新聞』―「社説」)

 

「しっかりとした土台の上に、できるだけ幅広い人材を登用していきたい」――。安倍晋三首相がこう事前予告した通りの顔ぶれの改造内閣が始動した。政権の骨格である側近グループを留め置く一方、自民党の各派閥の要望を大幅に取り入れ、党内力学に目配りした布陣となった。

今回の人事の特徴は、初入閣が12人を占め、2012年の政権復帰以降で最も多かったことだ。しかも、各派閥が長らく押し込みたかったベテラン級が目立つ。自民党総裁選の論功行賞、入閣待望組の滞貨一掃という評価は、そう的外れではない。

総裁選で首相を応援した勢力からは「石破派を干し上げろ」といった声もあった。だが、首相は同派の当選3回の若手を閣僚に登用した。石破茂元幹事長の首相批判を先鋭化させない防波堤の効果をにらんだようだ。

党役員人事では、総務会長は竹下派から起用した。総裁選で自主投票だった同派に代わり、主流派の細田派や麻生派から起用する手もあったが、石破陣営だった竹下亘氏から安倍陣営だった加藤勝信氏に移すにとどめた。

 いずれも大きな波風を立てることなく改造内閣を無難に船出させることを重視したといえる。

 政権内がごたごたしていると、政策実現に必要な法案の国会審議は進まないし、さらなるプランの立案も滞る。今年の通常国会はその典型だった。総裁選で首相の票数が思いのほか伸びなかった背景には、最近の内閣の働きぶりも影響していよう。

重要なのは、こうした融和路線を形だけに終わらせないことだ。「和の政治」を心がけることで、政策本位の政権運営を推し進めてもらいたい。

 政権が長期化するにつれ、だんだん清新さが失われていく。目先を変えようと、サプライズ人事に走らなかったのはよいことだ。菅義偉官房長官らかなめのポストが固定していることが、安倍政権の安定の基盤である。

 来年の参院選は、安倍政権が2013年に圧勝したときに当選した議員の改選であり、自民党の苦戦は避けられない。

 有権者がみているのは、日ごろの暮らし向きを良くしてくれるかどうかだ。留任閣僚は財務、経済産業、経済再生といった経済分野が多い。改造内閣の声価を定めるのは結局はこの面々である。

 

内閣改造 「骨太の政治」に邁進せよ 首相は社保改革の全体像示せ(2018年10月3日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 第4次安倍晋三改造内閣が発足した。新しい自民党の執行部と合わせ、これからの3年間を「安倍政治」の集大成とするための最初の布陣が整った。

 安倍首相は記者会見で、「明日の時代を切り拓(ひら)くための全員野球内閣だ」と強調した。

 安全保障環境や急速に進む少子高齢化など内外の情勢は厳しさを増している。政治に足踏みは許されない。憲法改正をはじめ、日本の平和と繁栄を守る骨太の政策を長期的な視野に立って示し、果敢に遂行しなければならない。

 ≪党内抗争の余裕はない≫

 首相が一連の人事で、憲法改正など基本路線の一致を重視したのは当然だ。政権の骨格として麻生太郎副総理兼財務相や菅義偉官房長官、二階俊博幹事長らを続投させた。北朝鮮情勢をにらみ河野太郎外相を、日米通商交渉のため茂木敏充経済再生担当相をそれぞれ留任させたのも妥当である。

 同時に、総裁選で戦った石破茂元幹事長の派閥に属する若手、山下貴司氏を法相に抜擢(ばってき)した。自民党に党内抗争をしている余裕はない。挙党態勢をとるべきだ。麻生氏の留任には野党から批判が出ている。財務省は決裁文書改竄(かいざん)などの不祥事を重ねた。担当閣僚としてのけじめが求められ続けるだろう。消費税増税が控える中で、いかに力強い経済を実現できるかの成果が問われる。

 来夏の参院選を見据え、党選挙対策委員長に起用された甘利明氏には、金銭授受疑惑で閣僚を辞任した過去がある。不起訴になったとはいえ丁寧に説明責任を果たすべきだ。

 首相が国難と位置づけている少子高齢化問題の解決に向けて、いよいよ取り組むときである。「全世代型の社会保障制度へと3年で改革を断行する」と首相は強調した。高齢者に偏りがちな制度を改め、生涯を通じて安心できるよう見直す方向は正しい。

 ただ、道筋が明確ではない。

 首相は1年目の課題として高齢者が働き続けられる環境の整備を挙げたが、ペースが遅くはないか。具体策として示したのも年金受給開始年齢の選択肢の拡大ぐらいである。

 年金や医療、介護、少子化対策などの政策は密接に関係する。社会保障改革にとって3年という時間は短いと認識すべきだ。

 まずは、首相自らが改革の全体像を示す必要がある。新設された全世代型社会保障改革担当相の茂木氏の下で、包括的な政策を検討してもらいたい。

 最大の課題は、財源の確保だ。首相は来年10月の消費税増税を繰り返し表明しているが、それでも不足する分をどうやり繰りするつもりなのか。「全世代型」といっても、すべての世代を手厚くすることなどできない。

 ≪国民への丁寧な説明を≫

 社会保障は当面の課題解決もさることながら、高齢者数がピークとなる2040年代初頭をにらんだ改革も忘れてはならない。

 40年度の社会保障給付費は今より70兆円増え、190兆円となる見通しだ。勤労世代が減り、医療や介護の担い手不足も深刻化することが予想されている。長期政権だからこそ、人口激減を前提とした「新たな国のかたち」も提示してもらいたい。

 引き続き外交・安全保障は重要だ。首相の掲げる「戦後外交の総決算」は北方領土をめぐる対露外交と核・ミサイル、拉致問題をめぐる対北朝鮮外交が念頭にある。それに加え、覇権志向の中国とどう向き合うかを示すべきだ。

 安倍政権の大きな実績に、集団的自衛権の限定行使を容認する安全保障関連法の制定がある。「戦争法」といった事実と異なる批判を浴び、内閣支持率の一時的な低下があっても実現した。これなしに、日米同盟強化と北朝鮮核危機への対処は叶(かな)わなかった。

 政府・与党はこれからも国家国民にとって必要な政策を、批判を甘受してでも実現する覚悟を貫いてほしい。

 さらに必要なのが国民からの信頼を高める努力だ。国会での巨大与党だけでは遂行できない政策がある。安倍政権は保守層が強固な支持基盤である。それが長期政権を実現させたが、憲法改正や社会保障改革、防衛力の充実などは無党派層を含め広範な国民の理解が必要だ。国民に丁寧に説明し、対話を重ね、率直に協力を求める。謙虚な政治の姿をみたい。

 

改憲より信頼回復だ 安倍改造内閣が発足(2018年10月3日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 自民党新執行部と改造内閣が発足した。新体制の下、これまでの強引な政権・国会運営を転換できるのか。政治への信頼回復に最優先で取り組むべきだ。

 自民党総裁選で連続三選されたことを受けて、安倍晋三首相がきのう自民党役員人事と内閣改造を行った。安倍氏にとっては最後の三年間の始まりである。

 まず、注目したいのは憲法改正に向けた自民党の布陣だ。

 党の改憲原案を取りまとめる党憲法改正推進本部長には下村博文元文部科学相を、原案を国会提出する際、了承が必要な総務会を取り仕切る総務会長には、加藤勝信前厚生労働相を起用した。

今秋の提出に反対多数

 下村氏は首相出身の細田派に所属し、首相との関係も近い。加藤氏は総裁選で一部が石破茂元幹事長を支持した竹下派所属だが、二〇一二年の第二次安倍内閣発足以来、官房副長官や厚労相として一貫して首相を支えてきた盟友だ。

 首相は、憲法九条に自衛隊の存在を明記するなどの改憲案を主張し、改造後の記者会見でも、秋に召集予定の臨時国会に自民党改憲案の提出を目指す意向を示した。

 自らと近い関係にある二人を改憲手続きの要となる職に就け、改正憲法の二〇年施行に向けた環境を整えようとしているのだろう。

 しかし、改憲は、その是非を最終的に判断する国民が切望している状況とは言い難い。

 党総裁選での連続三選を踏まえて行われた共同通信社の全国電話世論調査では、秋の臨時国会への党改憲案提出に「反対」とする回答は51・0%に上り、「賛成」は35・7%にとどまった。

 安倍内閣が最も優先して取り組むべき課題でも、改憲は下位にある。与党の公明党の理解すら得られない改憲を、強引に、拙速に、進めるべきではない。

「森友」責任とらず続投

 次に、閣僚の顔触れを見てみよう。麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、河野太郎外相、茂木敏充経済再生担当相、世耕弘成経済産業相、公明党の石井啓一国土交通相の六閣僚が留任した。

 首相が政権の「土台」と位置付ける主要閣僚を閣内にとどめ、政権安定を優先させたのだろう。

 ただ麻生氏は、森友学園を巡る決裁文書の改ざんや、事務次官が辞任に追い込まれたセクハラ疑惑を巡り、財務省のトップとしての責任をとるべき立場にある。

 にもかかわらず、続投とは、首相が一連の政権不祥事を軽視しているとしか思えない。自らの任命責任を回避するために、閣僚の責任をあえて問わないのだろうか。

 同様に、首相の盟友である甘利明元経済再生相の党選挙対策委員長への起用にも苦言を呈したい。

 秘書や自身の現金受領問題で閣僚を辞任した甘利氏は、あっせん利得処罰法違反容疑などで告発されたが不起訴とされ、その後の衆院選でも当選を果たしてはいる。

 とはいえ、大臣室で現金を受け取る行為への不信感は拭えず、説明を十分果たしたとは言い難い。

 国会で野党の追及にさらされる閣僚起用は見送られたが、来年の統一地方選や参院選を仕切る選対委員長は党四役の一角だ。要職起用を免罪符としてはならない。

 十九閣僚のうち初入閣は半数を超える十二人に上る。総裁選で争った石破氏の派閥から衆院当選三回の山下貴司氏を法相に起用したが、ほとんどは衆院当選六〜八回のベテラン議員で、新味にかけることは否めない。

 首相は、総裁選で支援を受けた各派閥に配慮して、閣僚待機組を起用したのだろう。

 その余波なのだろうか、女性閣僚が片山さつき地方創生担当相一人の起用にとどまることが気掛かりだ。

 一四年九月に発足した第二次安倍改造内閣は「女性の活躍推進」を掲げ、五人の女性閣僚を登用した。野田聖子総務相、上川陽子法相の女性二閣僚を起用した昨年八月の内閣改造と比べても、後退した印象は否めない。

 首相が「女性活躍」の旗を引き続き掲げるのなら、党内にこだわらず、民間からの女性登用も含めて検討すべきではなかったか。

強硬な政治姿勢は慎め

 共同通信社の全国電話世論調査によると、安倍内閣が最も優先して取り組むべき課題は「年金、医療、介護」「景気や雇用など経済政策」「子育て・少子化対策」の順に多い。いずれも暮らしに密接に関わる政策課題ばかりだ。

 政権が一丸となって全力で取り組むのは当然としても、その前提となる政治、行政への信頼回復も急務である。信頼を欠けば、国民の理解や協力は得られない。

 そのためには国民の声や野党の言い分にも真摯(しんし)に耳を傾け、これまでのような強硬な政治姿勢をまず改める必要がある。自説を言い募るだけでは信頼回復など望めない。信なくば立たず、である。

 

(2018年10月3日配信『東京新聞』−「筆洗」)

 

 ジム・モリス投手と聞いて、ぴんとくる人は野球ファンでも少ないだろう。大リーグ通算成績は登板21試合で、零勝零敗。防御率4・80。実働は1999年と2000年の2シーズンのみ。成績だけなら見るべきところのない投手かもしれぬ

▼それでも、その選手が語り継がれるのは、大リーガーになるまでの道程への称賛である。若い時はドラフトに指名されるほどの腕前だったが、腕を故障。高校の先生になったものの、夢あきらめきれず、ある球団の入団試験に挑戦。苦労の末、大リーガーとして初マウンドに立ったときは35歳になっていた。普通なら引退する年齢である

▼安倍改造内閣の組閣名簿を見て、その投手の半生を描いた米映画の邦題をふと思い出した。『オールド・ルーキー』。12人が初入閣。しかも、当選回数を重ねながらも、なかなか大臣に手が届かなかった方々が目立つ

▼初入閣の適齢期といえば、衆院議員なら当選五、六回ぐらいだろう。今回は当選7、8回での初入閣が七人。失礼ながら「出世」が少々遅れていた人たちといえるだろう

▼自民党の「在庫一掃処分市」と皮肉ってもいいが、本日はやめておく。良き仕事をと言っておく

▼大臣が夢だったわけではあるまい。大臣として、国民のために何をなすかを夢見ていたはずである。オールド・ルーキーたちの仕事を厳しく見守るとする。

 

安倍改造内閣 意のまま「改憲第一」か(2018年10月3日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が内閣改造と自民党役員人事を行った。宿願である改憲、来年夏の参院選対策に力を注ぐ狙いが見て取れる。

 少子高齢化への対応をはじめ、難題が山積する。「改憲第一」で突き進むなら、国民に対して無責任である。

 内閣、党ともに自身に近い議員を並べた。決裁文書改ざんなど不祥事の責任を問われるべき麻生太郎副総理兼財務相は、菅義偉官房長官らと合わせ続投する。党四役では総務会長に厚労相だった加藤勝信氏、選対委員長に甘利明元経済再生担当相を充てている。

 一方で初入閣が12人に上る。当選回数を重ねながら閣僚経験のない入閣待機組を数多く起用した格好だ。党内の結束に向けた各派閥への配慮がうかがえる。党総裁選で石破茂元幹事長を支持した石破派若手の山下貴司衆院議員を法相に抜てきしてもいる。

 首相は「適材適所」の人事とするものの、実際は党内融和を演出した印象が強い。総裁選で石破氏の善戦を許し、沖縄県知事選では与党推薦候補が敗れた。失速感が漂う中、求心力の維持に腐心したのではないか。

 党憲法改正推進本部長には下村博文元文科相を起用した。改憲論議を含めた意思決定機関を束ねる総務会長の加藤氏とともに首相の側近である。首相の意向のままに党内の議論が進められないか、注視しなければならない。

 首相は9条への自衛隊明記をはじめ改憲への意欲を繰り返し表明している。総裁選後には、改憲が最大の争点だったとした上で「結果が出た以上、一致結束して進んでいかないといけない」と強調した。臨時国会に党の改憲案を提出する考えを示している。

 世論調査で期待する政策として改憲を挙げる人は少ない。自衛隊明記は賛否が分かれている。総裁選で「スケジュールありきでやるべきでない」と主張した石破氏は地方票の約45%を得た。最大の争点だったと言うなら、前のめりの姿勢は改めるべきではないか。

 国民の関心は身近な暮らしに直結する政策に向いている。最近の世論調査でも安倍内閣が最優先で取り組むべき課題として挙げられるのは「年金、医療、介護」「景気や雇用など経済政策」の順である。何に力を注がなければならないか、国民の意向は明確だ。

 全世代型の社会保障改革、デフレからの完全脱却など総裁選での議論は消化不良だった。下旬には臨時国会の召集が見込まれる。国民への詳しい説明を求める。

 

安倍改造内閣 「適材適所」を貫けたのか(2018年10月3日配信『北国新聞』−「社説」)

 

 第4次安倍改造内閣が発足した。初入閣は12人で、安倍政権では第1次内閣を含めて最多である。麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官を留任させ、政権の骨格を維持した上で、総裁選で首相を支持した主要派閥に配慮した顔触れといえよう。

 安倍晋三首相は総裁選を通じて、閣僚人事は「適材適所」で行い、挙党態勢という形は取らないと明言してきた。入閣待機組を数多く入閣させた結果、その意志をどこまで貫くことができたのか。

 論功行賞を思わせる人事がある一方で、安全保障政策に精通した岩屋毅衆院議員を防衛相に起用し、米国とのタフな交渉を担当する外相に河野太郎氏、経済産業相に世耕弘成氏、経済再生相に茂木敏充氏を留任させるなど、要所を手堅くまとめた印象である。

 石破派の山下貴司法務政務官を法相に抜てきしたのは、党内融和の演出というより、石破派にクサビを打つ狙いが透けて見える。女性の入閣が片山さつき地方創生担当相1人にとどまったのは、単に適任者が少なかったためだろう。

 北朝鮮の非核化や日米、日中の貿易摩擦、少子高齢化対策、社会保障改革など国内外の重要案件への対応は待ったなしである。特に来年は、統一地方選、皇位継承、参院選など、重要な政治日程がめじろ押しだ。

 内閣改造に先立つ自民党役員人事では、二階俊博幹事長と岸田文雄政調会長の留任を軸に、首相の信頼が厚く、総裁選で首相陣営の事務総長を務めた甘利明元経済再生担当相を選対委員長に、首相側近の加藤勝信厚労相を総務会長に起用した。

 甘利氏は「政治とカネ」の問題で経済再生担当相を辞任した経緯があり、厳しい視線が向けられるのは避けられない。加藤氏の総務会長起用は、憲法改正案提出をにらんだ動きだろう。

 だが、公明党は改憲に慎重姿勢を崩しておらず、対決姿勢を強める野党もすんなりと与野党協議に応じるとは思えない。発議を参院選以降に持ち越すのが現実的な選択ともいえるが、参院選の1人区で野党共闘が進めば、発議に必要な「3分の2」の議席維持は容易ではあるまい。

 

内閣改造と党人事(2018年10月3日配信『福井新聞』−「論説」)

 

国民の信頼回復に疑問符

自民党総裁選で地方の批判を招き、沖縄県知事選では与党推薦候補が敗北するなど「1強」の陰りが指摘される中、安倍晋三首相は第4次改造内閣を発足させた。党役員人事を含め要職を盟友や側近で固め、初入閣組は総裁選で支持を受けた派閥の均衡に配慮した布陣だ。森友、加計学園問題などで政権への不信は払しょくされないまま。この陣容で国民の信頼回復が果たせるのか、疑問符がつく。

 2012年の第2次安倍内閣発足以来、首相を支えるのが麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官。とりわけ麻生氏には、決裁文書改ざんやセクハラ問題による事務次官辞任など自らがトップを務める財務省の不祥事が尾を引く。野党は無論、国民の間でもけじめを問う声がくすぶる。首相の信頼をかさに着たかのような放言も国民の怒りを増幅させかねない。

 菅氏は沖縄県知事選で三たび応援に駆けつけながら、推薦候補は8万票の大差をつけられた。「辺野古が唯一の解決策」と主張し続けてきた菅氏が前面に立ったことで批判を招いたとの指摘もある。政府との対話を求める新知事とどう折り合いをつけるのか。菅氏が強権に傾けば、国民の政権批判を加速させる可能性も否定できない。

 首相の悲願である憲法改正をけん引するのが党総務会長の加藤勝信前厚生労働相と、党憲法改正推進本部長の下村博文元文部科学相。加藤氏は総裁選で石破氏支持に回った竹下派ながら、首相を支持し、側近中の側近とも目されている。ただ、裁量労働制を巡る不適切データ問題などを棚上げしたままの昇格には違和感が否めない。首相の最側近である下村氏には加計学園絡みの献金疑惑が浮上した経緯がある。

 選挙対策委員長に起用された甘利明元経済再生担当相は、建設会社からの金銭授受問題を受け16年に辞任した。党執行部ならば、国会で野党から追及されないとの思惑が透ける。日報隠蔽(いんぺい)問題で防衛相を辞任した福井県選出の稲田朋美氏、うちわ配布問題で法相を辞めた松島みどり氏もそれぞれ筆頭副幹事長、広報本部長として復帰した。下村、甘利両氏と同様、首相に近い人物だから、党務ならば復権も可となれば、一連の混乱を目の当たりにしてきた国民にとってはこれまた違和感が拭えない。

 初入閣した12人は主に衆院6〜8期と適齢期を過ぎた待機組であり「在庫一掃セール」の印象が拭えない。首相のいう「適材適所」は、今月下旬にも召集される臨時国会などで早々に試されることになる。法相の山下貴司氏は衆院3期での異例の起用だ。所属する石破派の分断を図る狙いも指摘されている。

 女性閣僚は片山さつき地方創生担当相のみで、「女性活躍社会」を掲げてきた安倍政権にしてはお寒い限りだ。人材の枯渇は「ポスト安倍」もしかり。1強体制の下で、党自体が活性化や人材育成をおろそかにしてきた「つけ」が回ったと言わざるを得ない。

 

安倍改造内閣  「真摯な姿勢」今度こそ(2018年10月3日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 第4次安倍改造内閣と新たな自民党役員体制がスタートした。

 党総裁選で3選した安倍晋三首相の「最後の任期」となる残り3年間に向けた最初の布陣である。

 総裁選で掲げた憲法改正の実現と、来夏の参院選に向けた思いは読み取れる。ただ、それ以外の政策課題や、解決のための方向性を示した人事とは言い難い。

 改造内閣では麻生太郎財務相、菅義偉官房長官のほか外務、経済産業などの主要閣僚が留任した。総裁選で支持を得た派閥からバランスよく起用し、争った石破茂元幹事長の派閥からも登用した。党内融和を演出したといえる。

 閣僚19人のうち初入閣は12人に上った。「入閣待機組」に配慮したとみられ、清新さは感じられない。手腕や力量は未知数で、山積する課題への対応には不安も感じさせる。むしろ、官邸が各省庁を直接コントロールする傾向が強まらないか気になる。

 首相の思いは、党役員人事に、よりにじみ出ているようだ。

 3選に協力した二階俊博幹事長と岸田文雄政調会長を再任したほか、国会への法案提出に不可欠な党内手続きの場である党総務会を仕切る総務会長には自らに近い加藤勝信氏を起用した。

 盟友の甘利明氏を選対委員長に、側近の下村博文氏を憲法改正推進本部長に就けたのは、改憲と参院選を重視している表れだろう。内閣と党を身内で固め、異論を封じ込める。「安倍1強」を象徴する内向きの人事ではないか。

 ただ、甘利氏は建設会社からの金銭授受問題で2年半余り前に閣僚を辞任している。党の役職とはいえ、このタイミングでの復権に世論の理解は得られるのか。

 森友問題の真相解明ができていない中での麻生氏の財務相留任への批判も免れまい。来秋の消費増税で国民負担を求める立場だけに反発を招くことも否定できない。

 安倍氏は今後、就任以来掲げてきた政策の総仕上げをしなければならない。改憲や選挙対策にばかり政治的エネルギーを費やしているわけにはいかない。国民生活に身近な課題解決へ、具体的なシナリオを示す必要がある。

 とりわけ超高齢社会への対応や財政再建は、国民の痛みを伴う部分もある。そこに踏み込むには、内閣、党を含めた政権への信頼性が決定的に重要である。

 異なる意見にも耳を傾け、批判に謙虚に向き合う姿勢が欠かせない。真摯(しんし)な政権運営を目に見える形で実行するしかない。

 

改造内閣発足/国民の厳しい目意識せよ(2018年10月3日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 第4次安倍改造内閣がきのう発足し、自民党の役員も新たな体制となった。安倍晋三首相の党総裁として最後の任期は3年だ。積み残した内外の諸課題にめどをつけ、長期政権の総仕上げに取りかかる段階になる。

 そのためには、これまでのような強硬姿勢を改め、異論にも耳を傾けることが求められる。首相が再三にわたって口にする「謙虚」で「丁寧」な政権運営の実践にほかならない。

 内閣では麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、党役員では二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長らを続投させ、政権の骨格は変えなかった。一方で新入閣は12人と安倍内閣では最多となった。総裁の座を争った石破茂氏の陣営からも起用し、挙党態勢を築いた形だ。

 首相はアベノミクス、働き方改革、1億総活躍など、さまざまなテーマを掲げてきた。だが、いずれも十分な成果を上げているとは言いがたい。

 憲法改正に強い意欲を示しているが、日本が直面しているのは、急速な少子高齢化だ。昨年の総選挙で首相が「国難」と位置付けた難問である。増大する社会保障について、持続可能な将来像を描くことが重要だ。首相も「全世代型社会保障」を打ち出しているものの、手つかずのこの問題に正面から取り組む必要がある。

 このところ、盤石と思われていた「安倍1強」にほころびが目立ち始めている。

 沖縄県知事選では、与党が全面支援をした候補が大差で敗れた。総裁選でも、首相は国会議員票の8割を獲得したが、地方票は45%が石破氏だった。

 また共同通信社の世論調査でも、「安倍1強」を問題だと思う人は57%に上っている。強引な国会運営や政治姿勢に対して、批判的に感じていることがうかがえる。「森友・加計(かけ)」学園に対する首相の説明にも、国民の多くは納得していない。

 来年は統一地方選と参院選が予定される。大勝した前回参院選のような議席を得るのはハードルが高いとみられる。

 首相が本当に「謙虚」で「丁寧」な姿勢で臨むのか。国民は厳しい目で見ていることを常に意識しなくてはならない。

 

安倍改造内閣 課題克服へ成果問われる(2018年10月3日配信『山陽新聞』−「社説」)

   

 安倍晋三首相が第4次改造内閣を発足させた。内閣の骨格というべき主要閣僚を留任させ、総裁選で自らを支持した派閥の入閣待機組にもポストを割り振った。新味やサプライズはなく、清新さに欠ける印象は拭えない。

 2012年12月からの政権は6年弱に及び、安倍首相は先の総裁選でさらに3年の任期を手にした。歴代最長政権が視野に入るが、そのことで政権の謙虚さが失われ、自民党の慢心につながっているとの批判もある。国民に向き合う姿勢がこれまで以上に問われよう。

 首相は総裁3選後の会見で「しっかりとした土台の上に幅広い人材を登用したい」と政権中枢の維持に言及しており、安倍政権発足時から閣僚を務める麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官の2人を続投させた。

 難しい対米、対ロ交渉を抱える河野太郎外相や世耕弘成経済産業相、茂木敏充経済再生相も留任させた。

 党執行部も二階俊博幹事長や岸田文雄政調会長が再任するとともに、総務会長には加藤勝信厚生労働相を起用し、「政治とカネ」を巡る問題で経済再生相を辞任した甘利明氏を選対委員長に充てた。

 総務会長は首相が悲願とする憲法改正論議のとりまとめ役となる。来年夏には参院選を控えており、内閣・党執行部とも中枢には、自身に近い議員や政策に手堅い人材を並べたのが特徴だ。

 ただ、麻生氏は森友学園を巡る公文書改ざんや事務次官のセクハラ問題など数々の財務省の不祥事に対し、政治責任を取らずにいる。

 総裁選で首相の政治姿勢などを批判した石破茂元幹事長が地方票で45%を獲得したのも、そうした政治家の責任を曖昧にしてきた政権への批判が込められているのではないか。麻生氏は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 その石破氏が率いる石破派から閣僚起用があるかどうかも注目されたが、若手で当選3回の山下貴司衆院議員が法相に抜てきされた。

 また、女性閣僚は2人から1人に減った。初入閣は12人と前回の改造時(6人)から倍増した。総裁選での支持派閥への首相の配慮をうかがわせ、求心力を維持したい危機感の表れともとれよう。

 改造内閣では、国内外の山積する課題に丁寧かつ大胆に取り組むことが求められる。安倍首相の残る3年は、人口減少対策や持続可能な社会保障、財政再建など、将来世代への責任を果たすための重要な時期でもある。

 きのうの会見で首相はあらためて憲法改正に意欲を見せたが、地方創生や1億総活躍といった看板政策もまだ十分な成果を上げていない。アベノミクスの地方への恩恵も不十分だ。さらに、深刻な人手不足が経済の足かせになりつつある。いまは改憲に前のめりにならず、国民の声にしっかり耳を傾けてほしい。

 

第4次安倍改造内閣 異論くみ取る政治こそ(2018年10月3日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 早くから既定路線だったようだが、第4次安倍改造内閣で、麻生太郎副総理兼財務相が留任したことには首をかしげざるを得ない。省職員に自殺者まで出した「森友学園問題」や、セクハラによる前次官辞職の重大さを考えれば、安倍晋三首相は引導を渡すべきではなかったか。

 むしろ、ここまで更迭しなかったことに眉をひそめる向きがある。首相と気脈を通じる橋下徹・大阪維新の会前代表が先日、調査能力の欠如を指摘し「麻生さんは駄目だと思う」と評したのが象徴的といえよう。

 組織を健全に保つには信賞必罰が欠かせない。たとえ6年前の政権返り咲き以来の「盟友」で足場を固めるため党内第2派閥を率いる麻生氏の協力が必要だったとしても、である。政権の自浄能力が問われかねない。

 なれ合いやえこひいきが過ぎると、途中で投げ出した第1次政権でも目に付いた「お友達内閣」批判が出てこよう。

 首相は、外相や経済産業相、官房長官など枢要閣僚を留任させ、党執行部の骨格も保った。

 「ポスト安倍」を目指す岸田文雄政調会長(広島1区)は続投。総務会長に就いた加藤勝信前厚生労働相(岡山5区)は首相と家族ぐるみの親交がある。

 むろん、人事はころころ代えればいいわけではない。首相が信頼できる仲間と史上最長の政権を実現したい気持ちも分からぬではない。

 首相は会見で「全員野球内閣」と説明した。引っ掛かるのは、内閣改造前に訴えた「適材適所」「しっかりとした土台」という言葉の意味だ。先の自民党総裁選の支援や対立の構図が、人選の物差しになっているように思えてならない。

 最たる論功行賞といえるのが首相の選対本部で事務総長を務めた甘利明氏を党四役の選対本部長に起用したことだろう。

 経済再生相だった2年前、建設会社からの金銭授受問題で辞任し、一時は政治活動を休止した経緯は記憶に新しい。

 きのう、甘利氏は不起訴になったから問題ないとの認識を改めて示した。国民には、どう聞こえただろう。

 閣僚の大半が総裁選で首相を支援した派閥の出身で、支援態勢が分かれた竹下派にもポストが割り振られた。支援派閥への首相の配慮は、派閥推薦を含む12人が初入閣したことからもうかがえる。ただ「在庫一掃セール」との指摘が党内にもある。国会で野党の追及に耐えられるかどうかが問題だろう。

 一方、地方票(党員・党友票)の約45%を得た石破茂元幹事長の派閥からは、法相として初入閣した山下貴司氏(岡山2区)だけ。総裁選で「圧力を受けた」と証言した石破派の農林水産相は交代させられた。

 「自分と違う考えを政治に反映させなければ意味がない」。石破氏がこう訴え、支持を集めた総裁選は、一体どこに行ったのだろう。

 秋の臨時国会に党の改憲案を出したい首相は、党憲法改正推進本部長にも「盟友」の下村博文元文部科学相を配した。ただ先の沖縄県知事選で与党推薦候補が大敗したように「1強」体制には揺らぎも見られる。

 来年は統一地方選や参院選が控える。党内外の異論をくみ取り、国民への丁寧な説明を尽くすよう首相に改めて求めたい。

 

内閣改造 「適材適所」国民への説明不可欠(2018年10月3日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 第4次安倍改造内閣が発足した。主要ポストの閣僚が留任となり、参院愛媛選挙区の山本順三国家公安委員長兼防災担当相ら初入閣組は12人に上った。安倍晋三首相が連続3選を果たした自民党総裁選の「論功行賞」の色合いが濃い。

 人事について首相は、従来の派閥均衡と同じだという理由で「挙党態勢」に否定的な考えを示していた。顔触れを見る限りでは、派閥に配慮して党内の均衡を崩さないように起用しており、支持基盤を固めて政権維持を優先する意図が透ける。

 首相が土台と位置付けている麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官の再任は早々に決まった。麻生氏は一連の財務省不祥事の責任があり、処遇に疑問が残る。森友学園問題を巡る決裁文書の改ざんは国会を欺く行為で、国民の信頼を大きく損なったが、職員の処分で幕引きを図った。組織の長である麻生氏は、けじめをつけておらず、いまだ問題の真相究明もできていない。にもかかわらず、真っ先に続投を決めたのは、再任ありきの判断と言わざるを得ない。

 麻生氏は在任中、失言を繰り返した。文書改ざんのきっかけについて「それが分かれば苦労せん」と憤然と切り返し、事務次官のセクハラにも「セクハラ罪という罪はない」と発言。政治家としての資質が疑われる。同時に長期政権のおごりを最も露呈した閣僚で、任命した首相自身も「安倍1強」による弊害への自覚と反省が見られない。「適材適所」であると国民が納得できる説明が不可欠だ。

 全閣僚のうち初入閣が半数を超えるが、将来を見据えた抜てきとは言い難い。一定の当選回数を重ねた「入閣待機組」を大量に取り込んだ結果だ。総裁選で石破茂元幹事長に善戦を許した上に、沖縄県知事選で与党推薦候補が敗北し、求心力低下を恐れる首相の危機感の表れだ。

 初入閣で防災を担当する山本氏には、迅速な対応を求められる課題が山積している。西日本豪雨をはじめ北海道の地震、台風21号などにより、列島各地が甚大な被害を受けた。被災者の目線で適切な対策を講じるとともに、災害に強いまちづくりを急いでほしい。

 女性閣僚は1人だけだ。第2次安倍内閣以降で女性閣僚の起用が最多だったのは、2014年9月発足内閣の5人。01年の小泉内閣発足時と並び戦後最多だった。女性登用の後退は明らかだ。自民党の女性議員自体も全体の1割にとどまっている。政権が掲げる「女性活躍」は看板倒れであり、早急に人材を育成し、積極的登用を図りたい。

 今回の人事の基準に国会での答弁力を挙げる声が党内にあった。その能力は野党の追及をかわす目的で使うのではなく、謙虚に丁寧に政権運営に当たるために求められる。国民の政治不信が高まっている中、安倍政権の政治姿勢が問われており、異論に耳を傾け、真摯(しんし)に説明責任を果たさなければならない。

 

安倍改造内閣 喫緊の課題に向き合え(2018年10月3日配信『徳島新聞』−「社説」)

 

 憲政史上最長の政権も視野に入る安倍晋三首相だが、そうしたことへの高揚感より危機感の方が強いのではないだろうか。

 先の自民党総裁選で連続3選を果たしたものの、地方票で石破茂元幹事長に善戦を許した。沖縄県知事選では与党の支援候補が大敗を喫した。

 党内には、「安倍1強」への陰りを指摘する声が出始めているほか、来夏の参院選へ不安も広がってきている。逆風での第4次安倍改造内閣の船出であり、前途多難と言わざるを得ない。

 首相には、政策推進に当たり丁寧な説明と、合意形成への努力が求められる。

 組閣について、首相は政権の安定や政策の継続性を重視したと説明する。しかし、政治の要諦は信頼である。麻生太郎副総理兼財務相の続投は、国民意識と懸け離れていよう。

 「森友学園」の文書改ざんや事務次官のセクハラ問題など、財務省の不祥事が相次いだ。にもかかわらず、麻生氏は説明責任を果たさず、管理責任も取らずじまいだ。

 これまでにも辞任を求める声があっただけに、留任に違和感を覚える人は少なくないだろう。

 もとより、最大の責任は任命者である首相にある。麻生氏が政権にとどまる限り、負のイメージがつきまとうことを覚悟すべきである。

 総裁選で石破氏に厳しく指摘されたが、首相自身の政治姿勢も改める必要がある。

 反省は口にするものの、言葉だけ。国民からそんな印象も持たれている。早く不信感を払拭しなければ、政策推進もおぼつかなくなる。

 初入閣は12人と、安倍内閣で最多となった。石破派からも抜てきし、挙党態勢を築いた形だ。「適材適所」を疑問視する向きもあり、国会運営で不安もあるが、それぞれが政策課題を認識し、国民の負託に応えてもらいたい。

 首相は、経済重視の方針を維持し、アベノミクスの総仕上げを急ぐ構えだ。デフレ脱却の道筋をどう付けるか、消費税率10%引き上げをスムーズに行えるか。少子高齢化や人口減少社会を踏まえた対策も急務である。

 首相は総裁選で、「全ての世代で安心できる社会保障制度に向けて3年かけて大改革を行いたい」と宣言した。

 共同通信社の世論調査でも取り組むべき課題として「年金・医療・介護」が最も多かった。痛みが伴う負担と給付のバランスをどう取るのか。難しいテーマだけに、早急に具体策を練ってほしい。

 自民党役員人事では、選挙対策と憲法改正に向けて、自身に近い議員を起用した。本腰を入れて取り組む考えのようだ。

 選挙対策はともかく、憲法改正にはもっと慎重さが要る。今月下旬にも予定される臨時国会に党改革案の提出を目指すようだが、容認できない。今は何よりも、喫緊の諸課題に力を尽くすべきだ。

 

【内閣改造】民意を軽く見ていないか(2018年10月3日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 安倍首相が内閣改造と自民党役員人事を行った。

 政権の骨格となる主要閣僚ポストは留任させた。初入閣組は、9月の党総裁選で自らを支持した派閥への論功行賞が色濃くにじみ出ている。

 党の中枢には自身に近い議員を並べ、憲法改正論議や参院選対策に本腰を入れる布陣だという。

 ただ、総裁選を経ても、森友、加計両学園の問題をきっかけに、多くの国民が1強政治や長期政権のひずみに厳しい視線を注ぐようになった状況は変わってはいまい。

 首相の政治姿勢に疑問を呈した石破元幹事長が党員・党友票の獲得で善戦したのも、1強体制批判への一定の共感が党内にもあるという証明だろう。

 ところが、側近や盟友が並ぶ主要ポストの顔触れからは、そうしたひずみを自戒する「けじめ」は感じられない。今後の政権運営に欠かせない「国民の信」を軽く見ていないか危惧する。

 麻生副総理兼財務相の留任がそれを象徴するのではないか。

 森友学園への国有地売却問題を巡る財務省の決裁文書改ざんは、財務省のみならず、行政府全体の信用を失墜させた。土地売却を担当した近畿財務局内には理財局からの改ざんの指示に強い反発があり、「書き換えをさせられた」との内容のメモを残して自殺した職員も出た。 

 事務次官によるセクハラ問題も含めて、麻生氏には引責辞任に値する局面が何度もあった。国民も忘れてはいまい。政治責任の観点からも、麻生氏の留任にはきちんとした説明が必要だ。

 党四役の選対委員長に就いた甘利元経済再生担当相の「復権」にも疑問が湧く。

 甘利氏は、建設会社からの金銭授受問題を受け、2016年1月に経済再生担当相を辞任した。検察は同年5月、あっせん利得処罰法違反容疑で告発されていた甘利氏らを嫌疑不十分で不起訴にした。

 病気療養を理由に同年の通常国会を欠席し続け、追及を逃れた甘利氏は、不起訴になったとしても説明責任は残るという批判を受けた。

 復権自体は否定するものではないにせよ、政治家としての説明責任を果たしてこその再チャレンジでなければならない。ほとぼりが冷めたと判断しての起用だとすれば、国民の感覚とはずれている。 

 沖縄県知事選でも、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の是非を巡る政権側の「争点隠し」は、党内からも「有権者に見透かされた」という声が出ている。敗北は、民意を軽く見たしっぺ返しではなかったか。

 改造内閣の前には首相が今後3年の目標に打ち出す憲法改正のほか、来秋には消費税増税も控える。重要政策の推進は、国民の信なくしてはおぼつかないと自覚すべきだろう。

 首相は批判が高まるたびに「謙虚で丁寧な政権運営」を繰り返してきた。民意を意識した有言実行があらためて問われる。

 

安倍内閣改造 これが「適材適所」なのか(2018年10月3日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 果たして「適材適所」の人事と言えるのか。本当に「謙虚で丁寧な政権運営」が実現するのだろうか。疑問を禁じ得ない。

 自民党総裁選で連続3選を果たした安倍晋三首相(党総裁)がきのう、党役員人事と内閣改造に踏み切った。

 党人事では、二階俊博幹事長や岸田文雄政調会長を留任させ、閣僚人事でも、菅義偉官房長官や麻生太郎副総理兼財務相ら主要閣僚を続投させた。

 首相の表現を借りれば、政権の屋台骨を支える「しっかりとした土台」の顔触れである。

 悲願の憲法改正や来年の参院選を見据えて、「安定と継続」を最優先した人事−と言えば聞こえはいい。

 しかし、何よりも国民から見て不可解なのは、麻生氏の留任である。財務省は森友学園問題で決裁文書を改ざんして国会へ提出するという、前代未聞の不祥事を引き起こした。

 その最高責任者は麻生氏だ。にもかかわらず首相は麻生氏をかばい続け、今回の人事でも続投させた。加計(かけ)学園問題と併せ、首相周辺で相次ぐ疑惑や不信の解消を本気で目指すのなら、改造人事で政治的なけじめをつけるべきではなかったか。

 初入閣が12人に膨らんだのは、総裁選で首相を支援した各派閥が抱える入閣待機組の意向を尊重したからだろう。派閥均衡と論功行賞の色彩が濃厚だ。

 党人事で目を引くのは、甘利明元経済再生担当相を、党四役の選対委員長に抜てきした人事だ。建設会社からの金銭授受問題で甘利氏は2年前、閣僚辞任に追い込まれた。いわゆる「政治とカネ」の疑惑である。

 首相の盟友として知られ、今回の総裁選では安倍選対の事務総長を務めた。党四役入りで復権を果たしたことになる。

 盟友といえば、厚生労働相から総務会長に起用された加藤勝信氏、党憲法改正推進本部長に就く下村博文元文部科学相も首相の腹心として有名だ。

 憲法改正案の国会発議に向けた党内手続きとしては、党憲法改正推進本部の意見集約を踏まえ、最終的には総務会で了承を取り付ける必要がある。両氏の起用は首相の「改憲シフト」とも言えるだろう。

 ここで首相には、総裁選の特に地方票で石破茂元幹事長が「善戦」した意味を、改めて冷静に考えてほしい。

 「1強政治」に、おごりや慢心はないか。国論を二分する憲法改正を急ぐより、社会保障の充実や少子化対策など、国民の暮らしに直結する切実な問題にこそ目を向けるべきではないか−ということだ。

 長期政権で培った政治力の使い方を誤ってはならない。

 

内閣改造 不祥事にけじめついたのか(2018年10月3日配信『熊本日日新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相(自民党総裁)は2日、内閣改造と党役員人事を行った。19閣僚のうち6人を続投させて内閣の骨格を維持する一方、12人の初入閣組を起用。党の要職には自身の側近議員を配し、党総裁選で掲げた憲法改正や、来年の統一地方選・参院選に向けた態勢の強化を図った。

 しかし、森友・加計学園問題など前内閣で起きた不祥事に政治的なけじめをつけたとは言い難い。安倍首相は人選の基準を「適材適所」としているが、「1強」体制の弊害を改め国民の信頼を得るには、もっと踏み込んだ刷新が必要ではなかったか。女性閣僚も改造前の2人から1人に減った。

 留任した重要閣僚も難題を抱えることになろう。中でも麻生太郎副総理兼財務相には、決算文書改ざん問題をはじめとする財務省不祥事の責任論が残る。来年10月には消費税の10%への増税も迫る中、舌禍騒動を繰り返す麻生氏の存在自体が与野党攻防の火種となる可能性もある。

 党役員人事では改憲論議をまとめる総務会長に加藤勝信氏、参院選を指揮する選対委員長に甘利明氏を充てた。ただ甘利氏には、第2次内閣発足時から経済再生担当相を担ったものの「政治とカネ」問題で辞任した経緯もある。任命した首相の見識が問われよう。

 歴代最長政権も視野に入れる安倍首相だが、取り巻く環境は厳しさを増している。党総裁選で連続3選を果たしたが石破茂元幹事長に善戦を許し、続く沖縄県知事選では与党推薦候補が敗北した。

 先の日米首脳会談では、物品貿易協定(TAG)の締結に向けた新たな通商交渉に入ることで合意した。しかし実際には、自動車関税の引き上げ先送りと引き換えに、拒み続けていた2国間協議の扉を開くものだった。茂木敏充経済再生担当相が交渉の先頭に立つことなるが、輸入農産品の関税引き下げなどで大幅な譲歩を強いられれば、国内農家の反発を招き、参院選の結果にも影響を及ぼしかねない。

 新内閣には人口減少対策や社会保障改革など懸案も待ち受ける。難題に本腰を入れるためにも、異論に耳を傾ける謙虚な姿勢を貫き、改めるべき事柄は速やかに改める柔軟性を持ってもらいたい。

 

(2018年10月3日配信『熊本日日新聞』−「新生面」)

 

もしもの話、一部の自民若手議員だけの無料通信アプリLINE(ライン)グループというものがあれば、スマートフォン上でこんな“会話”が交わされたかもしれない。ここ数日来のグループの最大の関心事はもちろん内閣改造の行方である

▼「舌禍は大丈夫かね」「やばいかも」「消費税10%が控えてるしね」「決裁文書書き換えもくすぶってる」「野党はしつこすぎ」「大丈夫。言いたい放題言って、生き残ってきたから」。麻生太郎副総理兼財務相はやはり、安倍晋三内閣にとって不動のサブキャプテンのようである

▼事前の予想通り、麻生さんをはじめ、外務、経済産業などの重要閣僚が留任となった。同時に、閣僚19人のうち12人が初入閣で、顔ぶれが大幅に入れ替わった。党役員人事とも併せて、来るべき改憲と選挙対策を意識した布陣という

▼「参院選は大丈夫かね」「沖縄知事選も負けたしね」「思い切って小泉進次郎くんを起用すればよかったのに」「…まさか、ありえねえ」

▼入閣待機組を数多く取り込んだとして、報道ではさっそく“在庫一掃”などという党内の声を紹介している。「あいかわらず無責任だね」「言わせとけばいいさ」「月刊誌が援護してくれる」「新潮45があれば書かせてくれたのに」「惜しかったな」

▼当たらずといえども遠からず、だったとしてもここに書き連ねたのはあくまで架空の会話である。事実をフェイクニュースと言い張るのと違い、正真正銘の作り話。どうかくれぐれもお間違えのないように。

 

[安倍改造内閣] 理解できぬ麻生氏続投(2018年10月3日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 第4次安倍改造内閣が発足、新たな自民党役員も決まった。党総裁選で連続3選を果たした安倍晋三首相にとって締めくくりの3年間がスタートした。

 陣容は首相の悲願である憲法改正と、来年夏の参院選を見据えた布陣と言えよう。主要ポストは留任させて一見、政権運営の土台を固めたかに見える。

 だが、麻生太郎副総理兼財務相の続投は理解に苦しむ。財務省で相次いだ不祥事の政治的責任は不問に付すということか。到底、納得できる人事ではない。

 安倍首相は組閣に当たって「新しい国造りに向け、しっかりした土台の上に幅広い人材を登用したい」と語った。その土台の中心的役割を担うのが政権ナンバー2の麻生氏である。

 決裁文書が改ざんされた学校法人「森友学園」問題をはじめ、財務省の一連の不祥事はいずれも麻生氏の在任中に起きた。

 だが、麻生氏は決裁文書の改ざん、廃棄の方向性を決めた当時の理財局長を「適材適所」と、かばい続けた。事務次官のセクハラ問題でも「セクハラ罪という罪はない」と事務次官を擁護するような発言を繰り返した。

 官僚に責めを負わせ、首相は麻生氏の進退論を封印してきた。けじめをつけないままでいいのか。野党の追及は収まらず、国会審議への影響は必至だろう。

 麻生氏は失言や暴言も多く、大臣としての資質も問われる。「G7(先進7カ国)の国の中でわれわれは唯一の有色人種」と事実誤認の発言をした。

 先の総裁選では、地方票の約45%を獲得した石破茂元幹事長が「善戦した」との見方に、「どこが善戦か」と疑問を呈した。安倍1強政治への批判票と受け止めるべきなのに、そんな謙虚さは感じられない発言だ。

 沖縄県知事選でも与党推薦の候補が大差で敗れた。政権の姿勢に対する国民の反発、不信感が基地問題に限らず高まっていることを忘れてはならない。

 安倍首相は秋の臨時国会に改憲案提出を目指す。党の論議の取りまとめ役となる総務会長や憲法改正推進本部長に自身に近い議員を置き、論議の加速をもくろむ。

 だが、8月末の共同通信社の全国電話世論調査では秋の改憲案提出に「反対」が49.0%で「賛成」の36.7%を上回った。拙速な改憲論議には抵抗感が根強い。

 景気対策や社会保障改革など課題は多い。来年の統一地方選や参院選で政権の安定を目指すのであれば、改憲よりも国民生活に密接な施策にまず取り組むべきだ。

 

安倍首相「適材適所」意味ご存じない?(2018年10月3日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★自民党総裁選での首相・安倍晋三の勝ち方、党員の視点、日露、日米、日韓と相次いで行われた首脳会談の内容、総動員選挙を繰り広げた沖縄知事選挙。そして今回の「適材適所」という党人事と内閣改造だ。総裁選から第4次改造内閣組閣までの間に安倍政権の評価はがらりと変わったのではないか。

★1つは、国民が内閣に全幅の信頼を置かなくなった。世論調査では見えてこない政権への不信感。外交では地球儀を俯瞰(ふかん)する外交を標榜(ひょうぼう)したが、相当額の税金を海外に投入。一方、災害の復興予算や貧困対策、暑さ対策としての小中学校へのエアコン導入に、海外にばらまくような鶴の一声はなかった。また各国首脳との個人的な関係を武器に外交を展開することを売り物にしていたが、露プーチン大統領、米トランプ大統領らに踊らされていることが露呈した。沖縄知事選ではこれでもかと人とカネをつぎ込み、公約に携帯電話を4割下げるなど、県民を愚弄(ぐろう)するような中央とのパイプさえあればといった中央集権化とお上意識で選挙戦を東京の理屈で押し通そうとした。

★外交の責任者、河野太郎の外相留任。沖縄知事選の責任者と中枢にいた幹事長・二階俊博、官房長官・菅義偉の留任。副総理兼財務相・麻生太郎は少なくとも財務相からは外れるべきだし、それがけじめだろう。加えて金銭疑惑で閣僚辞任した甘利明を選対委員長、加計学園からの献金疑惑がある首相側近・下村博文を憲法改正推進本部長に据えるなど、適材適所の意味をご存じないのかと思うばかりの人事だ。彼らは会見義務のないポストだというのもミソだ。内閣の売りは入閣待望組の大量初入閣。共産党書記局長・小池晃はそれを「閉店セール」と評したが、その中には総裁選の時に「内閣にいるんだろ。石破さんを応援するんだったら辞表を書いてからやれ」と前農相・斎藤健に言い放ったご仁も論功行賞で入閣した。その程度の内閣改造だが、既に党内はオール安倍与党体制ではないことをお忘れなく。

 

安倍政権改造人事(2018年10月3日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

崩れた「土台」で暴走の加速か

 自民党総裁に3選された安倍晋三首相が自民党役員と内閣改造の人事を行いました。安倍氏は、「しっかりとした土台の上に、多くの皆さんに活躍のチャンスをつくる」と発言してきましたが、「森友」問題などで責任が問われた麻生太郎副総理・財務相の留任、かつて「口利き」問題で辞任した首相の盟友・甘利明元経済再生相の党四役就任など、世論に背を向けた驚くべき顔ぶれです。自民党総務会長に首相に近い加藤勝信前厚生労働相を、自民党改憲推進本部長に首相側近の下村博文元文科相を据えるなど改憲シフトも露骨です。

「論功行賞」“お友だち”

 1年前に発足した第4次安倍政権の最初の改造となる今回の人事は、閣僚では麻生氏のほか、河野太郎外相や世耕弘成経済産業相、石井啓一国土交通相(公明)、菅義偉官房長官、茂木敏充経済再生相、自民党役員では二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長らが留任、代わり映えしない顔ぶれです。安倍氏に近い議員や総裁選で安倍氏を支持した議員の起用も目立ち、「論功行賞」“お友だち内閣”復活の様相です。総裁選で争った石破派からの起用は、1人です。

 とりわけ重大なのは「森友」問題や前事務次官のセクハラ問題などで監督責任が問われてきた麻生氏を「土台」と称して“いの一番”に留任させたことです。国有地を格安で払い下げ、首相のウソに合わせて国会虚偽答弁や公文書を隠ぺい・改ざんした「森友」問題では部下の佐川宣寿前国税庁長官をかばい続け、辞任が迫られてきた麻生氏の留任は世論に背くものです。首相がこれを「土台」と呼ぶなら、それこそ腐りきった土台の上の、改造政権というほかありません。

 首相が麻生氏の留任を経済政策「アベノミクス」の継続のためだと説明していることも、来年10月からの消費税増税強行などをにらんだものとして重大です。

 自民党の幹事長、総務会長、政調会長と並ぶ党四役の一人、選対委員長に起用された甘利氏も、かつて都市再生機構(UR)から建設会社に払われた巨額の補償を秘書と一緒に「口利き」し、大臣室などで金銭を受け取った疑惑で追及されました。甘利氏は閣僚の辞任だけで起訴されませんでしたが、そうした甘利氏を公然と復権させるところにも、安倍政権の国民無視の姿勢は明らかです。

 安倍首相は総裁選前から、自民党の改憲案を次の臨時国会に提出すると公言しています。党内を取りまとめる総務会長と、改憲推進本部長にいずれも自らに近い議員を起用したのは、首相の執念を示す改憲シフト(布陣)です。国民の多くは安倍改憲を支持していません。改憲阻止は喫緊の課題です。

退陣迫るたたかいを

 自民党と内閣の人事を終えた安倍政権はいよいよこれから秋の臨時国会や改憲、予算が焦点となる来春の通常国会、統一地方選挙や参院選挙に向けた活動を本格化させます。安倍首相は総裁選で、総裁としての任期中の3年間に改憲に「チャレンジ」することや消費税増税の強行、社会保障「改革」「戦後外交の総決算」などに取り組むことを公言しました。

 国民の暮らしと平和を脅かす安倍政権の暴走を許さず、総裁としての任期を待たずに退陣に追い込む国民のたたかいが重要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

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