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梶田隆章(東京大学宇宙線研究所所長)、白川英樹(筑波大学名誉教授)、広渡清吾(日本学術会議元会長)ら51人の大学人が呼びかけ人となって、大学が直面する危機を克服するための道を探り、行動することをめざす「大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム」(略称「大学フォーラム」)を結成した。

 

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第1回シンポジウムを「大学の危機をのりこえ、明日を拓くために」と題して、3月31日(日)に明治大学で午後1時半から開催。

講演者は、梶田隆章(東京大学宇宙線研究所所長)、井野瀬久美恵(甲南大学教授)、山本健慈(前和歌山大学学長)、山口裕之(徳島大学教授)

 

「大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム」を社会へのよびかけ

 

 1.いま、大学はさまざまな危機に直面しています 

  大学の使命は、高等教育をつうじて学生に豊かな学びと人生の選択の機会を保障し、落ちついた自由な環境のもとで多様で独創的な研究成果を生み出すという知の創造と継承によって、明日の社会づくりに貢献することにあります。しかし、大学はいま、これらの使命を果たすことを危うくするような、深刻な危機に直面しています。 

 

基盤的経費の削減による教育研究の土台の弱体化

第一の危機は、学術研究や高等教育の基盤を支える教育研究費が年々削減され、教育・研究をこれまでの水準で続けることさえ困難になっていることです。

国立大学の基盤的な経費である運営費交付金は、法人化が行われた2004年度以降系統的に削減され、2018年度には当初の約88.2%にまで落ち込んでいます。 

私立大学に対する助成も、「経常費の2分の1補助の速やかな達成を目指す」とした国会決議(1975年)にもかかわらず、1980年度の29.5%をピークに低下の一途をたどり、今では10%を割るに至っています。その結果、研究費が大幅に削減されたり、教育・研究に不可欠な定期刊行物の購読打ち切りを余儀なくされたりするなどの状況が広く生まれています。人件費に充てることのできる安定的な経費が減っているために、教員が退職しても後任の採用ができず、その分野の研究者が不在となることが少なくありません。若手研究者のポストも、任期のついた不安定なものが大半となりました。少なくない大学で、これまでには見られなかったような教職員の一方的な雇い止めや解雇さえ横行しています。これらのことは、学部・大学院の教育や研究に打撃を与えるとともに、研究者をめざす人びとを減少させ、大学のもっとも重要な役割のひとつである多様な学問の継承を危うくするという結果をもたらしています。

このような中で、研究資金の配分のあり方をつうじて研究の方向性が歪められ、結果として研究の質と量の低下すらもたらされています。政府は、大学を競争的環境に置くことこそが大学を活性化させる鍵だとして、運営費交付金を削減する一方、競争的な研究資金や寄付金などを「自ら稼ぐことのできる大学」になることを求めてきました。そのさい、大学を日本経済再生のための「科学技術イノベーション」の拠点にするという観点から、「選択と集中」という考え方にもとづいて研究資金を重点的に配分する方向を強めてきました。 

その結果、(1)人文・社会科学系よりも自然科学系、(2)基礎研究よりも応用研究、(3)長期にわたる研究が必要なテーマより短期的に結論が出そうなテーマ、が重んじられる傾向にあります。各大学における教育研究費の配分にも、このような傾向が反映しています。 

 このような政策の端的な帰結が、科学論文の量も質も低下し、国際的な順位を大きく落としていることに表現される「研究力」の低下、とくに基礎研究の基盤の弱まりです。科学者自身だけではなく、社会の各方面から危機感をもって受け止められているこの問題の背景には、任期つきという不安定なポストが増え、研究費が減少するなかで競争的な研究資金の獲得に追われ、研究内容もすぐに成果の出やすいものに傾きがちになっているなどの事情があることについても、大方の認識は一致しています。 

 不断の「改革」の押しつけによる大学の疲弊

第二の危機は、不断に「改革」を求めるかけ声のもとで、「大学ガバナンス」改革と称して大学にはふさわしくないトップダウン型大学運営が強化され、結果として大学全体が疲弊するに至っていることです。

国立大学では、大学の自主性を高めるはずのものだった国立大学法人制度のもとで、上記のように基盤的経費である運営費交付金を漸減させて競争的資金などへの依存度を高めながら、政府が組織のあり方や人事制度についての「改革」の方向づけを与え、その方向づけに沿って「改革」を実行しているかどうかを評価し、評価にもとづいて資金配分に差をつけるといくというやり方が、年々緻密化されてきました。大学内部では、そのような評価と資金配分のやり方に迅速に対応するために、学長を中心とする大学執行部に権限を集中することが推奨され、学内における熟議と合意がおろそかにされています。

その結果もたらされているのは、目に見える数値化された目標の短期的な達成に慌ただしく追われる大学の姿です。このような企業的な「大学ガバナンス」のあり方は、多様な役割をもち、成果がすぐには目に見えにくい大学における教育研究の性格、教育・研究の専門家集団としての教員が、一生涯にわたる学びの一過程にある学生や職員とともに作り上げる大学のあり方にふさわしいものではなく、むしろ大学全体を疲弊させるものとなっています。

短期的な評価にもとづいて財源措置を不安定化させるこのような方向性をいっそう強化することに対して、国立大学協会は2018年11月、「国立大学法人制度の本旨に則った運営費交付金の措置を!」と題する声明を出し、「高等教育及び科学技術・学術研究の体制全体の衰弱化さらには崩壊をもたらしかねないものであって、国立大学協会としては強く反対せざるを得ない」と明確に主張しています。

しかも、財政誘導による「改革」の加速化とトップダウン型大学運営という手法は、それが適切なものだったか否かについての検証もなされないままに、国立大学から私立大学へと広げられようとしています。 

 

2.明日に向かって問われるべきことは何でしょうか? 

 それでは、基盤的な教育研究費を確保し、研究資金配分の歪みをただし、大学全体の叡智を結集した大学運営のあり方を回復することをつうじて大学の危機を克服しつつ、明日に向かって問われるべきことは何でしょうか? 

大学が大学である以上は備えるべきものは何かを踏まえながら、それぞれの大学が歩む道を自主的に定める

第1に、以上のような「改革」が推し進められている背景には、まがりなりにも中長期的な広い視野から大学政策を立案する役割を担ってきた文部科学省と中央教育審議会の地位が低下し、首相官邸に政策形成に中心が移っているという事情があります。そのため、「科学技術イノベーション」の拠点、あるいは「地方創生」の拠点として大学を位置づけるというように、経済政策的視点に傾斜した大学政策が次々に打ち出されてきました。その結果、大学間格差が広がり、広がった格差は国立大学でも私立大学でも大学の事実上の「類型化」として固定化されようとしています。それぞれの大学が自らの判断で特色を打ち出すことは必要です。しかし、政策によって鋳型にはめようとすることは、大学のもつべき多様な役割、それぞれの個性を軽視することにつながりかねません。

 2018年9月、日本私立大学連盟は「高等教育政策に対する私大連の見解」を発表し、「私立大学の『特性』と『自主性』を損なうことになりかねない高等教育政策が相次ぎ提示されている」と警告を発しています。重要なのは、大学が「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」(学校教育法)ことを改めて想起し、多様性を超えて、「大学が大学である以上は備えるべきものは何か」、ということを改めて考えることではないでしょうか。

  大学における学びの場を量的にも質的にも確保し、学費負担の軽減によって機会均等を保障する

 第2に、大学進学率はすでに十分なほど高くなったというわけではありません。短大を含む大学進学率は57.9%(2018年)に達していますが、地域差が大きく、4年制の進学率では女子の方がかなり低いのも日本の特徴です。充たされていない進学への希望が少なからず残されているのです。社会人の学びなおしの要求もあります。したがって、18歳人口の減少という見とおしを安易に大学の淘汰に結びつけるのでなく、学びの場を量的に確保してゆくことがなお必要です。量を確保すると同時に、大学進学率50%以上といういわゆるユニバーサル段階に入った大学教育はどのような質をもったものであるべきか、それをどう確保するかについて、これからの社会のあり方と知のあり方をグローバルな視野で見とおしつつ、真剣に検討することも不可欠です。そのさい、学生と家族が重い学費負担を強いられていることを直視しなければなりません。親からの仕送りは減り、アルバイトへの依存度が高まっています。有利子のものを中心とした奨学金受給者の割合が上昇する一方、雇用形態が不安定になる中で、返済に苦しむ人びとも増加しています。

 大学進学をあきらめた理由のひとつとして挙げられているのが経済的負担の大きさであることに見られるように、学費負担の軽減は、高等教育への機会均等という観点からも喫緊の課題です。 

 高等教育の費用は誰が負担すべきかを根本的に考え、公的支出の水準を引き上げる

第3に、「改革」を論じるさいに、財政的制約が当然のように前提とされることが少なくありません。しかし、財政は未来に向けて何を重視するのかという選択の問題です。しかも、日本は高等教育に対する公的支出が国際的に見ても低いままにとどまり、個人負担の大きな国に属しています。充実した教育、そして研究には、費用がかかります。公的支出の水準を引き上げ、そのための財源について、真剣に議論されなければなりません。 

 これらのことを、社会の変化とその方向を見とおしつつ、大学のはたすべき役割の根本に立ち返って問うことが求められています。 

 

3.国公私の別を超えて、社会とともに大学の今と明日を考え、行動するための「フォーラム」を 

 大学をめぐる課題は多岐にわたり、いずれも深い省察を求めるものです。しかし、個々の大学は、「競争的環境」の中で大学政策の求める要請に応じることに日々追われています。大学政策に疑問があっても、それを形に表わし行動することが困難になっています。国立大学のあいだでも、置かれた条件の違いが拡大し、共通の主張をまとめることは容易ではなくなっています。そのことは、私立大学ではいっそう強く当てはまります。だからこそ、国公私を超えて、大学の直面する危機と課題にどのように立ち向かうかを議論する場が必要です。

 一方、大学はどのような問題を抱えているのかについて、大学人の認識と社会の認識とのあいだにはズレがあることも否定できません。 

大学人は大学の現状を社会に向かって伝えるとともに、これまでの自らのあり方についても真摯に反省し、社会は大学に対する疑問や期待を率直に語り、相互理解をめざすことが不可欠です。

 このような状況に立ち向かうために、私たちは、大学の今と明日を考えるための議論を持続的に行なうための場として、「大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム」を設けたいと考えています。この「フォーラム」は、大学の現実を率直に見つめるとともに、明日に向かって確実に歩むための道をじっくりと探り、社会に発信していきます。個別大学を超え、国公私立という設置形態を超えて共通の関心を育て、立場や意見の違いにもかかわらず一致できる要求を明らかにすること、大学関係者だけでなく、受験生や大学生をもつ親の皆さん、中等教育関係者や、大学と広く市民社会とをつなぐメディア関係者などともいっしょに考え、政策を転換するために行動することをめざします。

 

 

「大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム」発起人(五十音順)

 

井原 聰(東北大学名誉教授/日本科学者会議事務局長)

小沢 弘明(千葉大学副学長)

梶田 隆章(東京大学宇宙研究所長)

黒田 兼一(明治大学教授/前明治大学教職員組合執行委員長)

小森田秋夫(神奈川大学教授/元日本学術会議第一部長)

中嶋 哲彦(名古屋大学教授/前全国大学高専教職員組合中央執行委員長)

丹羽 徹(龍谷大学教授/前日本私立大学教職員組合連合中央執行委員長)

広渡 清吾(東京大学名誉教授/元日本学術会議会長)

増田 正人(法政大学常務理事・副学長)

 

【連絡先: E-mail:univforum7@gmail.com

 

 

 

ノーベル賞受賞者らがフォーラム結成 大学の「危機」訴え(2019年2月14日配信『日本経済新聞』)

 

記者会見する白川英樹筑波大名誉教授(中央)(13日、東京都千代田区)

 

 フォームの終わり

ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章・東京大宇宙線研究所長や、化学賞を受賞した白川英樹・筑波大名誉教授ら51人の研究者が政府の大学改革や財政施策の問題を議論するフォーラムを結成した。教育研究費の削減などで大学が「深刻な危機に直面している」として、定期的にシンポジウムを開いて問題意識を広く共有し、見解を出していく。

白川氏は13日に都内で開いた記者会見で「様々な先生から、安易な成果を求められて基礎研究が困難になってきたなどと聞くようになった。高等教育が衰退している懸念がぬぐえない」と危機感をあらわにした。

結成に際して公表した呼びかけ文では、国立大向けの運営費交付金など、大学の運営を支える基盤的な経費の削減によって教育研究の水準の維持が難しいと指摘。資金の配分に短期的な成果を反映させるといった改革手法により、大学が疲弊していると訴えた。

第1回のシンポジウムは3月31日に明治大で開き、梶田氏らが講演する。呼びかけ人の一人である広渡清吾・東大名誉教授は「シンポやホームページなどで意見交換し、社会にメッセージを出していくことで、世論形成を進める」と話した。

 

大学の危機 市民と乗り越えたい(2019年2月14日配信『しんぶん赤旗』)

 

ノーベル賞受賞者らフォーラム設立

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(写真)「大学フォーラム」設立について記者会見する呼びかけ人ら=13日、東京都千代田区

 ノーベル賞受賞者の梶田隆章、白川英樹両氏をはじめ51人の大学人の呼びかけで「大学の危機をのりこえ、明日を拓(ひら)くフォーラム」が設立され、13日、呼びかけ人らが文部科学省内で記者会見しました。

 日本学術会議元会長の広渡清吾東京大学名誉教授は、基盤的経費の削減と大学の自主・自律性を奪う絶え間ない「改革」によって、大学全体が疲弊していると危機感を示し、「国公私立の別を超え、市民と一緒に大学の現状や使命を考える場をつくり、政府の政策を変更させるような力を社会の中に形成していきたい」と設立の趣旨を述べました。

 白川英樹筑波大学名誉教授は、「安易な成果を求める圧力があり、受験者を増やすための宣伝に時間を取られ、本分がおろそかになるという研究者の声を各地で聞く。基礎研究に集中できない今のような大学では、私のノーベル賞はなかった」とのべ、「個人での活動には限界がある」とフォーラムに加わった理由を語りました。

 同フォーラムは、梶田隆章東京大学宇宙線研究所所長ら4人が講演する第1回シンポジウムを3月31日に東京・明治大学で開催する予定。シンポジウムのほか小規模の研究会なども行い、インターネットも活用して、政策を転換するために行動していくとしています。

 

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大学危機訴えるフォーラム=ノーベル賞学者ら設立(2019年2月13日配信『時事通信』)

 

大学の危機を訴えるフォーラム設立の記者会見で話す白川英樹筑波大名誉教授=13日午後、文部科学省

 

 ノーベル化学賞を受賞した白川英樹筑波大名誉教授や日本学術会議元会長の広渡清吾東京大名誉教授らが13日、文部科学省で記者会見し、「大学の危機をのりこえ、明日を拓(ひら)くフォーラム」を設立したと発表した。大学の予算削減が続き、教育研究の土台が弱体化しているとして、政府の政策転換を目指す。
 フォーラムは国公私立大の研究者や名誉教授ら約50人が呼び掛け人となった。3月31日に東京都千代田区の明治大で無料シンポジウムを開き、呼び掛け人の一人の梶田隆章東大宇宙線研究所長(ノーベル物理学賞受賞者)が基礎科学の持続的発展を、山本健慈和歌山大前学長が地方国立大の現状を訴える。
 白川氏は「小中高校生向けの講演や実験教室に取り組んできたが、高等教育、高度な研究が衰退を始めたという懸念を拭い切れない」と話し、ノーベル賞につながる研究を現在の大学の環境でできたかとの質問には「無理です」と答えた。

 

 

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