一橋大アウティング訴訟

 

一橋大の責任認めず 東京地裁控訴

 

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アウティング(英語:Outing)は、LGBT(ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー)などに対して、本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向や性同一性等の秘密を暴露する行動のこと。つまり、同性愛者だという秘密を他人にばらされること。

 

これに対して、自ら望んで同性愛者だと告白することを「カミング・アウト」という。

 

一橋大学のある国立市では2018年4月、アウティング禁止を明記した条例(国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例)も施行された。筑波大など他大学でもガイドライン整備が進んでいる。

 

性的指向、性自認等の公表の自由は個人の権利としています

性的指向、性自認等を公表するかしないかの選択は、個人の権利です。他者が本人の意に反して、勝手に公表(アウティング)することは認めません。

 

(禁止事項等)

第8条 何人も、ドメスティック・バイオレンス等、セクシュアル・ハラスメント、性的指向、性自認等を含む性別を起因とする差別その他性別に起因するいかなる人権侵害も行ってはならない。

2 何人も、性的指向、性自認等の公表に関して、いかなる場合も、強制し、若しくは禁止し、又は本人の意に反して公にしてはならない。

3 何人も、情報の発信及び流通に当たっては、性別に起因する人権侵害に当たる表現又は固定的な役割分担の意識を助長し、是認させる表現を用いないよう充分に配慮しなければならない。

 

 

一橋大学のロースクール(法科大学院)に通っていた愛知県出身の院生(25)は、最高に信頼していた同級生に、「好きだ、付き合いたい」と告げた。その同級生は、「付き合うことはできないけど、これからもよき友達でいて欲しい」と返信。告げた院生は「ありがとう」「悲しいけどすげー嬉しかった」と返した。だが約3カ月後の6月24日に同級生たち9人でつくるLINEのグループチャットで、「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」と暴露した。LINEで言いふらされた。院生は苦悩の末、校舎6階から落ちて25年の人生を閉じた。

 

buzzfeed

 

一橋大学アウティング事件、家族が大学を訴えた理由(動画)

 

 

ゲイを暴露された一橋生の死から4年「事件を風化させない」行動する在学生や卒業生(2019年8月30日配信『BUSINESS INSIDER JAPAN』)

 

ゲイを暴露された一橋生の死から4年「事件を風化させない」行動する在学生や卒業生

 

一橋大学・マーキュリータワー入り口に設置された献花台。

 

一橋アウティング事件から4年。なぜ、事件は起こってしまったのか。事件を風化させないためには……。それぞれの思いを抱いて活動する、一橋大学の在学生・卒業生たちを追った。

一橋アウティング事件:一橋大学(東京都国立市)の法科大学院生の男性が、同級生らに同性愛者だと暴露(アウティング)され、2015年8月、校舎から転落死した。男性は、教授やハラスメント相談室に一連の出来事や症状を相談していた。

 

「私が助けられなかった」

2019年8月24日、一橋大学アウティング事件が発生してから4年が経った。

この事件は、アウティング(他人のセクシュアリティを暴露すること)の問題を広く社会に知らしめたほか、性的マイノリティに対する大学側の適切なサポートの問題も呼び起こした。

筆者は、同大学でジェンダー研究のゼミを卒業した一人だ。ニュースを聞いた時、ジェンダー研究が盛んなこの大学で、こんな事件が起きたことが不思議でならなかった。

 8月24日、事故現場となった構内のマーキュリータワーを訪れると、夏休みにもかかわらず多くの学生が出入りしていた。入り口のすぐ右手に、レインボーの旗に覆われた献花台が置かれている。事件で亡くなった男子学生の命日であるその日、設置されたものだ。

夏休み期間中にマーキュリータワーを出入りするには、学生証を所定の場所にかざす必要がある。献花台はカードリーダーのすぐ横に置かれているため、ほとんどの学生が「何だろう?」という様子で足を止め、事件の内容がつづられた文章を読んでから入館する。中には手を合わせる学生もいた。

命日の11時30分を過ぎたころ、被害者の両親が訪れた。献花台の前に来ると、母親は声を上げて泣き崩れた。

「息子の命日が近づくと、『私が助けられなかった』という思いばかり浮かんできます。体調もとても不安定になります。今日、ここまで来られる自信はなかったのですが、行けるところまで行こうと思い、なんとか来ることができました」

「一橋大生は絶対に忘れてはいけない事件」

献花台を設置したのは、一橋大学大学院経済学研究科修士課程の本田恒平さん。事件が起きたとき、本田さんは他大に通う大学2年生だった。

「生まれも育ちも国立なので、公園のように利用していた一橋大学は身近な存在でした。大学ではジェンダー研究もしていたので、事件が発生した場所だけでなく、その内容にもショックを受けました」

大学4年生になった本田さんは、一橋大学大学院への進学を考え始める。そのことを当時仲の良かった友人に話すと、一瞬、彼女は険しい顔つきになり、「私の兄は一橋大学で亡くなった」と本田さんに明かした。彼女はアウティング事件で亡くなった男子学生の妹だった。

「その瞬間、一橋大学アウティング事件は僕にとって特別な事件になりました」と本田さんは振り返る。

「進学したら、一橋大学をこんなことが二度と起きないような場所にしたかった」

今年の春から同院に通う本田さんは、昨年まで事件の献花を主催していた学生が卒業していることを知り、自ら大学に許可を取って献花を引き継いだ。テーブル、レインボー旗、事件の内容を伝える文章などは、全て本田さんが用意したものだ。

「一橋大生はこの事件を絶対に忘れてはいけないと思います。僕一人でできることは限られていますが、思いを持った在学生や卒業生は他にもいます。事件を風化させないために、そしてこの事件に対して一橋大学に真摯に向き合ってもらえるように、僕にできることを考えていきたいです」

「自分も同じことになっていたかもしれない」

本田さんの言葉通り、事件を風化させないために立ち上がっている一橋大生は、本田さんだけではない。

事件の1審判決が言い渡された2019年2月27日、一橋大学の卒業生である松中権さんは、任意団体プライドブリッジを設立した。

プライドブリッジは、一橋大学をLGBTQ学生を含む全ての人が安全に過ごせる環境にしたいと考える卒業生有志のネットワーク。

学内のジェンダー社会科学研究センターと協力して「一橋プライドフォーラム」を開始し、性の多様性への理解を促す在学生向け寄附講座の開講や、ジェンダー・セクシュアリティに関するリソースセンターの設置・運営を行う。

同団体の会長を務める松中権さんは、2000年に一橋大学法学部を卒業し、入社した電通ではゲイを公表して働いていた。「カミングアウトしてLGBTQを支援するNPOを立ち上げ、二足のわらじでキラキラ楽しく働いていました」と当時を振り返る。

ところが事件の翌年、両親が提訴後に記者会見を開いた2016年8月5日、ニュースでその内容を知った松中さんは言葉にできないほどのショックを受ける。

一橋大学在学中、松中さんはカミングアウトしていなかった。大学は性的マイノリティが安全に過ごせる場所ではないと感じていたからだ。事件を受けて、「状況によっては自分も同じことになっていたかもしれない」と、まるで被害者と自分自身が一体化したように感じたと話す。

この出来事がきっかけとなり、松中さんは電通を退社して性的マイノリティのための活動に専念することを決意。同大の卒業生とともにプライドブリッジを設立した。

松中さんは、学内で事件が風化しつつあることに警鐘を鳴らす。

「電通の寄付講座のひとコマとして、私は一橋大学生に向けてここ数年、LGBTQと社会活動について授業をしてきました。退社後も続けています。今年の受講生の中で、一橋アウティング事件の内容を理解している学生は約半分でした」

“悪意のない本音”をこぼす学生

事件後、ジェンダーに関する書籍を出版した一橋大生たちもいる。タイトルは、『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた──あなたがあなたらしくいられるための29問』。本著では、アウティングの定義や問題点、事件の内容についても丁寧に解説されている。

同パートの執筆を担当した学生の一人である、一橋大学社会学研究科修士1年の女性、Aさんは、アウティングに関する記載を本著に含めた理由を次のように話す。

「この事件は学内で起こったにもかかわらず、何が問題だったのかとか、この状況をどう改めなければいけないかとか、私のまわりではそこまで話題に上りませんでした。しかも『ゲイに告られたらどうするんだよ』という“悪意のない本音”をこぼす学生が1人や2人ではないことを、日常会話の中で実感していました」

事件後も、学内は性的マイノリティの人たちが安全に過ごせる場所になったとは言えない。改めてそう感じたAさんたちは、「この問題を取り上げないわけにはいかない」と考え、事件の問題点を広く伝える必要があると考えた。

「『性の多様性は守られなくてはならない』と考える私たちの立場を、明らかにしたいと思いました。ジェンダーを研究する立場として、この問題について沈黙したくなかったんです」(Aさん)

息子の魂はまだ生きている

被害者の両親は、このような在学生や卒業生の取り組みを前向きに受け止めていた。

父親は「息子を失ってからは寂しくてしょうがない」と振り返りつつ、「こうして支援していただく皆さんがいらっしゃることが、一番の心のよりどころです。それでなんとかやっています」と話す。

母親は、こう語る。

「私や家族だけじゃなく、少しでもみなさんがこうして行動に移してくださるので、息子の魂がまだ生きてるって思います。事件が忘れ去られるほど、つらく悲しいことはありません」

遺族は2016年3月、アウティングした同級生と一橋大学に対し、損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。その後、同級生とは和解が成立している。

一方で、大学とは未だ係争が続いている。2019年2月の一審判決では遺族の訴えは棄却された。判決は、アウティングの問題点や重大性に一切触れることなく、大学の対応に落ち度はなかったとするものだった。その後、遺族は控訴した。

「大学は全くわかっていないです。1審で私たちは負けましたが、それで当たり前じゃないかぐらいに思っているのではないでしょうか」(母親)

「やっぱり、許せんですね。息子から相談を受けたときにちゃんと話をしてくれれば、こんな形にはなってなかったんじゃないかなって思いますよね。なぜ私たちが控訴したかということを理解してほしいです」(父親)

事件に無関係な人はいない

先出の書籍『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた──あなたがあなたらしくいられるための29問』に、アウティングの問題点は以下のように記されている。

「家族や友達、知り合いが自らのセクシュアリティをあなたに告げた場合、もしくは偶然知ってしまった場合などに、アウティングをするとどういったことが起こると考えられるでしょうか。わたしたちの社会では、今なお多くのセクシュアル・マイノリティが『普通でない』と烙印を押され、大きなリスクを負う危険性をもつため、場合によっては命を奪われたり社会的な死に追いやられたりすることもありえます」

他人のセクシュアリティを暴露することは、単に秘密をばらすことと同列で語ることはできない。アウティングは、人の命を奪ったり、社会的な死に追いやったりする可能性がある行為だ。そのため、本人の同意なくアウティングすることは絶対にしてはならない。

事件後の4年間で、性的マイノリティを取り巻く環境は確かに変わってきている。早稲田大学や名古屋大学、筑波大学、群馬大学などでは、性的マイノリティの学生への対応ガイドラインが策定された。国立市では、全国初のアウティング禁止条例が施行された。しかし制度だけでなく、一人一人の意識が変わらなければ本当の再発防止にはならない。

献花台は8月31日(土)まで設置される。

 

プライドブリッジ会長の松中権さん(右)と副会長の川口遼さん(左)。

 

献花台の前でインタビューに応じた遺族

 

献花台にはたくさんの花が供えられていた

 

献花台に供えられた手紙

 

事故現場に供えられた花

 

 

 

内容紹介

ともに考えていくために……大学生の視点からのジェンダー「超」入門! 

ジェンダーを勉強したら、イクメンにならないといけないんでしょ? 

日本はLGBTに寛容な国だよね? 

フェミニズムって危険な思想なんでしょ? 

なんでジェンダーのゼミにいるのに化粧してるの? 

性暴力って被害にあう側にも落ち度があるんじゃない? 

――「ジェンダー研究のゼミに所属している」学生たちが、そのことゆえに友人・知人から投げかけられたさまざまな「問い」に悩みながら、それらに真っ正面から向き合った、真摯で誠実なQ&A集。

 

【「はじめに」より】

この本に収録された29の質問は実際にわたしたちが投げかけられてきた問いです。(中略)それぞれの回答においては、「大学生の視点」で答えることを心がけました。専門家が書いた難しい本はたくさんありますが、社会に生きる一般人であり、かつ研究にもほんの少し携わりはじめた大学生という立場をいかしたつもりです。(中略)ここでわたしたちが示した回答は、もちろん、唯一の正解ではありえず、ジェンダーをめぐるさまざまな問題についてみなさんとともに考えることをめざしています。ジェンダーにまつわる制約から解き放たれて自分らしく生きていくために、あなたも一緒に考えてみませんか? 

 

出版社からのコメント

本書は、ジェンダー研究のゼミに所属する大学生たちが、友人や知人から実際に受けた質問に対して、時間をかけて真剣に考察・討議し、誠実に回答したQ&A集です。

回答はホップ(初心者向け)、ステップ(中級者向け)、ジャンプ(上級者向け)の3段階で構成。それぞれの回答は、唯一の正解として提示するのではなく、わかりやすい語り口で「ともに考えましょう」と呼びかけています。

ここから議論が広がっていくことをめざしています。学校や職場、また家庭で、話題にしていただけると幸いです。

 

アマゾン

 

アウティング  行政は率先して禁止(2019年7月15日配信『京都新聞』―「社説」)

 

 同性愛などの性的指向や性自認を本人の了解なしに暴露する「アウティング行為」は、当事者を追い込み、心身にダメージを与える深刻な問題である。

 だが、行政の対応は進んでいない。共同通信が全国の都道府県と政令市の67自治体に聞くと、禁止を定める職員向けのマニュアルなどを作成しているのは1割にとどまることが分かった。

 性的少数者について社会の理解は徐々に進んでいるものの、差別や偏見が招く問題に関する認識はまだ十分ではない。

 同性の友人に「友だち以上の気持ちがある」と告白した女子高生が、翌日学校に行くと友人に「あの人はレズビアン」と言いふらされていた―。

 民間団体の電話相談窓口には、不登校や退職に追い込まれるそうした被害が寄せられている。

 2015年には一橋大法科大学院の男子学生が、同性愛者だと同級生に暴露された後に転落死する事案が発生した。

 一橋大がある東京都国立市は、アウティング禁止を盛り込んだ条例を全国で初めて施行した。国は職場でのアウティング防止の指針づくりを今後検討するという。

 必ずしも悪意のあるケースだけではない。告白された側が驚き、抱えきれずに友人らに話してしまい、結果として心ない中傷が広がってしまうことが多い。

 「当事者は一瞬にして居場所を失う。引きこもりや困窮状態になるなど『負のスパイラル』に陥ってしまう」。電話相談の担当者は注意を促す。

 こうした事態を避けるには、正しい知識や対応の仕方を知ることが必要だ。

 共同通信の調査では、当事者のプライバシー保護やアウティングの禁止、窓口対応などでの配慮を定めた職員用マニュアルやガイドラインなどを作っていたのは、わずか9自治体だった。

 7自治体は今後作成する、15自治体は職員研修で注意喚起していると答えた。

 個人情報を扱う役所は、アウティングが起きやすいとの指摘もある。当事者の生活を破壊しかねない行為だと危機感を持って取り組むべきだ。

 専門機関の整備に積極的に関わり、対応のノウハウを持つ相談窓口があることを住民に広く知らせるような対応が望まれる。

 性的指向や性自認に限らず、プライバシーを守るのは大切なことだ。地域の人権意識向上へ、率先して取り組んでほしい。

 

同じ悲劇を生まないために 同性愛「暴露」訴訟(2019年3月8日配信『毎日新聞』)

 

判決内容を説明する原告側代理人の南和行弁護士(左)と吉田昌史弁護士=東京・霞が関の司法記者クラブで2019年2月27日15時0分

 

 一橋大法科大学院の男子学生(当時25歳)が校舎から転落死したのは、同性愛者であることを同級生に暴露(アウティング)されたためだとして、遺族が同級生と大学を提訴してから約3年がたつ。東京地裁は先月、大学への訴えを退けたものの、遺族による提訴はアウティングの危険性を社会に知らしめる第一歩になった。

 遺族は今月7日に控訴し、裁判の舞台は東京高裁に移る。同じような悲劇を生まないためにはどうすればいいか。アウティングの問題を考える。【東京社会部・遠山和宏】

◇「判決は上辺だけで判断」

 判決によると、学生は2015年4月に同性の同級生に好意を伝えた。同級生は当初は「付き合うことはできないけど、これからもよき友達でいて欲しい」「全然キモいとかそういうのはないよ」などとメッセージを送っていたが、同6月にこの2人を含めて法科大学院の同級生9人が登録する無料通信アプリLINE(ライン)のグループメッセージに「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」などと投稿した。学生は同8月に法科大学院の教室がある建物から転落死した。

 学生の両親は大学に対し、法科大学院で性的指向が人権として尊重されることを教えなかったことにより同級生がアウティングしたなどとして安全配慮義務違反を主張 していたが、鈴木正紀裁判長は「原告の主張する内容を講義していればアウティングが発生しなかったとは認められない」「相談を受けた大学教授はアウティングが許されるものではないとの立場を一貫して表明し、学生の苦しみに共感を示していた」などとして訴えを退けた。同級生との間では昨年1月に和解が成立しており、具体的な内容は明らかにされていない。

 学生の代理人の南和行弁護士は判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見し「本質的な問題である『アウティングが不法行為か』などを判断してくれなかった。性的指向というデリケートな問題をみんなに知られてしまったことの重大さに言及していない」などと述べた。学生の父(63)は南弁護士に対して「人が一人亡くなった事実があったのに、今日の判決は上辺だけで判断しているように思う」と話していたという。

◇カミングアウトを受けたら……

 LGBT当事者から性自認や性的指向について打ち明けるカミングアウトを受けた人が、当事者から同意を得ることなく第三者に伝える行為はアウティングと呼ばれる。LGBT関連のセミナーを開くレインボーノッツ合同会社代表の五十嵐ゆりさん(45)は「命にかかわる重大な行為であることを認識せず、悪意なくアウティングをしてしまう人も多い。講演や研修会では危険性について必ず触れている」と話す。

 カミングアウトする理由はさまざまだが、悩みを相談したかったり、隠し事をせずに接したかったりなどがある。一方で、社会にはLGBTに偏見を持っている人もおり、自分のタイミングで打ち明けたいと考える当事者は多い。信頼をする相手に重大な決心をして話したのに、意図しないタイミングで別の人たちにまで知られてしまえば大きなショックを受ける。打ち明けられた場合は、本人に寄り添って自分に求めること、自分に打ち明けてくれた理由や背景、どのような人たちが自分がカミングアウトを受けた内容を知っているかを聞き取ることが重要だ。

 どのように受け止めればいいのか分からず、自らも悩むケースもある。五十嵐さんは「それでも当事者が打ち明けていない共通の知人に相談することは避けるべきだ。自治体やLGBT関連団体などの相談窓口に連絡を取ることが一つの手段だ」と語る。

◇意識の高まり少しずつ

 アウティングに対する社会の意識は少しずつだが、高まりつつある。筑波大学は昨年3月に公表した「LGBT等に関する基本理念と対応ガイドライン」改訂版で、アウティングについて「自死(自殺)といった最悪の結果を招きかねません。故意や悪意によるアウティングに対して、本学はハラスメントとして対処します」と記し、カミングアウトされた際の対応について「『誰にも言わないで欲しい』と言われてカミングアウトされたとしても、守秘義務のある相談窓口に相談することができます」と具体的に紹介した。

 一橋大のある東京都国立市は昨年4月に施行した「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」の中で、「何人も、性的指向、性自認等の公表に関して、いかなる場合も、強制し、若しくは禁止し、又は本人の意に反して公にしてはならない」とアウティングの禁止を明記した。学生の家族もこうした動きを「社会が変わってきた」と評価し、南弁護士に「(動きを伝える)新聞記事見ましたか?」と電話してくることもあったという。一橋大は判決を受けて「改めて亡くなられた学生のご冥福をお祈りし、遺族の方々に弔意を表します。本学と致しましては、引き続き、学内におけるマイノリティーの方々の権利についての啓発と保護に努めて参ります」とコメントした。

 南弁護士は記者会見でアウティングによって当事者であることを知る周囲の人たちの対応についても言及した。「『同性愛なんて平気、平気』と言う人はいっぱいいるけれど、それだけでは不安は消えない。集団の中で『自分はこういう人です』と言って人間関係を作ってきたが、アウティングされて、これまで意識して他人に見せてきた自分と違うように見られるという不安が孤立感につながる。『聞かなかったことにする』ではなく、そうした孤立感を理解して、もう一回人間関係を作ってほしい」。悲劇を生まないために、一人一人の意識の変化を求めた。

 

同性愛の暴露 尊厳傷つけぬ配慮を(2019年2月28日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 同級生に「同性愛者だ」と暴露され、心身に不調をきたし、校舎から転落死した−。遺族が大学側を相手にした訴訟は敗訴した。だが、もはや性的問題などでの差別や不当な暴露は許されぬ時代だ。

 LGBT(性的マイノリティー)への差別を禁ずる条例は、全国各地で広がりをみせている。2002年には堺市で全国で初めてつくられた。

 東京では13年に文京区や多摩市で。同性カップルなどをパートナーとして公的に認める「パートナーシップ制度」は世田谷区や渋谷区でも生まれた。

 昨年には国立市で「女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」が施行された。性的指向(恋愛対象の性)などによる差別を禁じている。同時に他人が本人の意に反し暴露(アウティング)することも禁じる内容である。

 背景がある。国立市内の一橋大で15年、法科大学院生が同級生に「おまえがゲイであることを隠しておくのムリだ」と、無料通信アプリ「LINE」のグループに実名入りで暴露された。学生は直後から心身不調に。2カ月後には授業中にパニック発作を起こし、学内の保健センターで休養後に6階の校舎から転落死した。

 遺族と同級生とは和解が成立したが、27日に東京地裁で大学に損害賠償を求めた訴訟の判決があった。大学がセクハラ対策を怠ったほか、ハラスメント相談室の担当者が学生と面談して状況を把握しているのに、適切な対応をしなかったとの遺族の主張だった。

 判決理由はこうだ。「安全配慮義務違反により、アウティングが発生したとはいえない」「(死の当日は)体調不良の可能性や認識は予見できても、自殺など本人も制御不能な行動に出る危険までは予見できない」と−。

 遺族敗訴でも、社会への大きな問題提起となったと考える。同性愛は本人のプライバシーの問題であり、勝手に他人に暴露される理由などありえない。暴露されれば、誰かに嫌悪されたり、差別されたりする恐怖を持つ恐れもあろう。いわれなき攻撃の対象となるかもしれない。

 だから、大学であれ、職場であれ、個人の尊厳を前提にとらえねばならない。守秘義務のある専門の相談窓口の設置なども必要であろう。アウティングは、セクシュアルハラスメントでもある。根絶を目指す必要があろう。何より深刻な人権問題であるという意識を共有したい。

 


大学側の責任認めず 一橋大同性愛暴露訴訟 東京地裁、遺族の請求を棄却
(2019年2月28日配信『東京新聞』)

 

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「一橋大アウティング裁判」の判決後、涙ながらに記者会見する南和行弁護士(左)と吉田昌史弁護士=東京・霞が関の司法記者クラブで

 

 一橋大法科大学院の男子学生=当時(25)=が校舎から転落死したのは、同性愛者であることを同級生が暴露(アウティング)したことに対して大学が適切な対応を取らなかったためだなどとして、両親が大学に約8500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は27日、「大学が適切な対応を怠ったとは認められない」として請求を棄却した。 

 訴状によると、男子学生は2015年4月、同級生に恋愛感情を告白した。同級生は6月、無料通信アプリLINE(ライン)のグループに「お前がゲイであることを隠しておくのムリだ」と実名を挙げて投稿。男子学生は精神不安定となって担当教授やハラスメント相談室の相談員らに相談したが、大学はクラス替えなどの対策をせず、同年8月、授業中にパニック発作を起こし転落死したとしている。

 両親は同級生にも損害賠償を求めていたが、18年1月に和解した。

 判決理由で鈴木正紀裁判長は、大学のセクハラ対策について「講義やガイダンスをしていればアウティングが発生しなかったとはいえない」と指摘した。

 その上で、被害を相談した教授について「クラス替えをしなかったことが安全配慮義務に違反するとはいえない」とし、相談員についても「クラス替えの必要性を教授らに進言する義務はなかった」と認定した。

 一橋大は「引き続き、マイノリティーの方々の権利について啓発と保護に努める」とコメントを発表した。

◆「裁判所、本質踏み込まず」弁護側落胆

 「裁判所は本質に踏み込んだ判断を一切しなかった。残念でならない」。判決の言い渡し後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見した原告代理人の南和行弁護士は肩を落とした。

 南弁護士は、時折涙ぐみながら男子学生の両親と妹の談話を代読。父は「人が一人亡くなった事実があるのに、うわべだけで判断したような判決だ」と批判し、妹は「アウティングをしたことも大学の対応も、まるで肯定されたような気持ち」と嘆いた。

 南弁護士は「お母さんは『いろんな人が社会問題として意識してくれるから、勇気づけられる』と喜んでいた」と判決前の様子を紹介し、「裁判官には勇気がないのか」と憤った。

 実際、原告側は「アウティングは性的指向というデリケートな問題に関わり、人間関係を壊すものだ」として大学の対応を問題視していたが、判決はアウティングがなぜ危険なのかやどう対処すべきなのかに言及しなかった。

 司法が明確な警鐘を鳴らさない中、最近ではアウティングを防ぐ取り組みを始める大学もある。筑波大では昨年、LGBT対応のガイドラインにアウティングの項目を新たに加えた。一橋大の地元、東京都国立市も昨年4月、「公表の自由は個人の権利として保障される」とうたった全国初の「アウティング禁止条例」を施行した。

 国際基督教大ジェンダー研究センター元センター長の生駒夏美教授は、今回の判決を「非常に残念」としつつ、「今回の提訴により、アウティングが大学内で起きていることが広く知られた。全ての大学が、相談体制を整え、差別意識をなくす啓発の契機にしてほしい」と話す。

 大学のハラスメント対策に詳しい広島大の北仲千里准教授(社会学)は「男子学生のアウティング被害を知った大学関係者は本来、学生が元の就学環境を取り戻せるよう、より積極的に動くべきだった。大学関係者のLGBTへの認識をあらためないと、今後も同じような問題は起きる」と訴えた。

 

同性愛言い触らされ大学院生自殺 一橋大の責任認めず 東京地裁(2019年2月27日配信『NHKニュース』)

 

 

同性愛者であることを友人たちに言い触らされ自殺した大学院生の両親が、大学の対応が不適切だったと訴えた裁判で、東京地方裁判所は、大学が安全に配慮しなかったとは言えないとして訴えを退けました。

一橋大学法科大学院の3年生だった男子学生は4年前、男性の同級生に好意を打ち明けたところ、LINEなどで友人たちに言い触らされ、その2か月後、授業中に自殺を図って亡くなりました。
 学生の両親は、相談を受けた教授や相談員の対応が不適切だったとして大学に対し8500万円余りの賠償を求めています。
 27日の判決で東京地方裁判所の鈴木正紀裁判長は「相談を受けた教授は、同級生が言い触らした行為は許されないと一貫して表明し、学生の苦しみに共感を示していた。 

教職員を集めて相談内容を共有し、本人にハラスメント相談室を紹介していた」として、大学が安全に配慮しなかったとは言えないという判断を示し、両親の訴えを退けました。
 両親の弁護士によりますと、当時の同級生に賠償を求めた訴えについてはすでに和解が成立しています。

 

両親「うわべだけの判断」

両親「うわべだけの判断」

弁護士によりますと、男子学生の両親は「判決の内容にはことばもありません。人が1人亡くなった事実があるのに、うわべだけで判断しているように思います」と話していたということです。

大学「引き続き少数者の権利保護」

一橋大学は「裁判では事実に基づき大学側の立場を明らかにしてきました。引き続き学内におけるマイノリティーの方々の権利について啓発と保護に努めます」とコメントしています。

 

 

同性愛暴露訴訟、遺族の請求棄却 一橋大生が転落死(2019年2月27日配信『毎日新聞』)

 

 2015年に校舎から転落死した一橋大法科大学院の男子学生=当時(25)=の両親が、同性愛者であることを同級生が暴露したことに対して大学が十分な対応を取らなかったのが原因だとして大学に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(鈴木正紀裁判長)は27日、請求を棄却した。

 両親は同級生にも損害賠償を求めて提訴したが、既に和解が成立している。

 判決理由で鈴木裁判長は、男子学生が相談していた教授やセクハラ相談室職員らの対応には問題がなかったと指摘。大学は教育環境に配慮する義務に違反していなかったと述べた。

 

 

ゲイ暴露で転落死、一橋大アウティング事件 大学訴えた裁判では原告敗訴 東京地裁(2019年2月27日配信『ハフポスト』)

 

ゲイであることを同級生に暴露(アウティング)された一橋大の法科大学院生(当時25歳)が、2015年8月に校舎から転落死したのは、大学が適切な対応をしなかったのが原因として、両親が大学に約8576万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2月27日、東京地裁であった。裁判長は原告側の主張を棄却した。

両親はアウティングした同級生も訴えていたが、2018年1月に和解している。

訴状などによると、亡くなった学生は、自分がゲイ(男性の同性愛者)であることを家族にも言っていなかった。2015年4月、恋愛感情を抱いた同級生に告白。告白によって知った同級生がその年の6月、法科大学院の同級生たちのLINEグループで、学生がゲイであることをアウティングした。

アウティングに大きなショックを受けた学生は、その後授業などで暴露した同級生と顔を合わせるとパニック発作が起こるようになる。2015年7月から心療内科を受診、不安神経症やうつ、パニックなどの診断を受け薬を処方され、一連の事実や症状について大学のハラスメント相談室や保健センターに伝えていた。

学生の両親が訴えていたのは以下の点など。

・大学側は、アウティングというセクハラ防止対策をしなかった

・大学のハラスメント相談室が自死を防ぐ手立てをしなかった

・パニック発作や薬の処方などについて知っており、自死の予測ができたのに授業に出ることを防止しなかった

これに対して、大学側は以下のように反論していた。

・セクシュアルマイノリティも含むハラスメント防止のための啓発に努めている

・具体的なハラスメントを防止するのは現実的に不可能

・突発的な自死を予測するのは不可能

・専門の相談機関も紹介していた(ただしそれは性同一性障害のクリニックで、大学側が問題を正しく認識していなかったことの現れと原告側は指摘)

 

「大学側は法科大学院の学生たちが置かれた環境を知っていたはずだ」一橋大学アウティング訴訟、きょう判決(2019年2月27日配信『アメーバータイムス』)

 

一橋大法科大学院に通っていた男子学生が同性愛者であることを同級生に口外されたことに悩み転落死した事件をめぐり、遺族側が大学を提訴した民事訴訟の判決が27日言い渡される。 
 発端は亡くなる4か月前、2015年4月のこと。男子学生Aさんが同級生の男性Bさんに思いをLINEで告白したことだった。その2か月後、Aさんは同性愛者であることをクラスメイトが参加するLINEグループで暴露される。本人の意に反して第三者に暴露する行為、いわゆる「アウティング」だ。Aさんは精神的なショックから、男性を見ると動悸や吐き気などの症状が発作的に出るようになり、差別などの不安から授業にも出席できなくなり、苦しみを抱えながら亡くなった。

「大学側は法科大学院の学生たちが置かれた環境を知っていたはずだ」一橋大学アウティング訴訟、きょう判決

 

 Aさんの遺族を取材した小川彩佳アナウンサーは印象に残った言葉として「Bさんもまた、LGBTやアウティングについて誰も教えてくれなかった、この社会の被害者だと思う」を挙げている。Bさん側とAさんの遺族と男性の間ではすでに和解が成立しているが、Aさんは亡くなるまでの2か月間、大学にアウティング被害の相談をしていたことから、大学側の対応責任を問う民事訴訟を提起。あす判決を迎える。
 最初に打ち明けたのは、授業を受け持っていた教授だった。訴状などによると、Aさんは教授にクラス替えなどの相談をしたりしていたが、教授は「クラス替えをすれば余計大事になる」と話し、最終的には「学生間のトラブル」と結論付け、事案として取り扱わなかったという。さらにAさんはハラスメント相談室でも4度面談。しかし相談員は「自身が同性愛者であることを受け止めきれていないからアウティングで傷つくのではないか?」と、Aさん自身の問題と認識。男性に恋愛感情などを抱くAさんに対し、心と体の性が一致しない、性同一性障害の医療支援などを行うクリニックの受診を薦めました。同性愛と性同一性障害を混同していたとみられている。

 結果としてアウティングされたことに苦しんでいたAさんの叫びは届かず、大学に相談してから1か月後、Aさんは授業を抜け出し、校舎から転落、亡くなった。

「大学側は法科大学院の学生たちが置かれた環境を知っていたはずだ」一橋大学アウティング訴訟、きょう判決

 

 遺族が追及するのは、Aさんが学校生活で性的指向についてセクハラ被害に遭わないようにするなど、安全に配慮する義務を負う大学の責任だ。リディラバの安部敏樹氏の取材に対し、原告の代理人を務める南弁護士は「日常のコミュニケーションの中で本人が相談してきた内容を踏まえて、自分の身に置き換えて想像すればいくらでも具体的な対応はできたのに、何もしなかった」と指摘。一方、大学側の主張については「大学の対応には何も問題なかった。今回亡くなったのは、本人が覚悟の上で自分の意思でやったことだ、もうそれだけ。それだけです」と説明する。また、Aさんの遺品の中から“同性愛に関しては悩んではいない“ことを示すメモが見つかったことを挙げ、“同性愛を苦に自殺した“という大学側の説明について「嘘ですよね」と反論した。

「大学側は法科大学院の学生たちが置かれた環境を知っていたはずだ」一橋大学アウティング訴訟、きょう判決

 

 アウティングについて、ゲイであることを公表した上でLGBT支援に取り組むドイツ証券の柳沢正和ディレクターは「一生をかけて守っている秘密が暴露され、人間関係も全てが壊されてしまうと思ったら、恐怖でしかないと思う。私の場合もライバル企業の人にバラされてしまったこともあったが、そのことを教えてくれたお客さんが、“私は気にしないから“と言ってくれた。そういう信頼関係があるとだいぶ違ってくると思うが、LGBTの人たちは自分の立ち位置や生き方が揺らいでしまうような経験を少なからずしていると思う」と話す。

 その上で、「私も両親も含め、色んな人にカミングアウトして受け入れてもらったが、それが果たして良かったかどうかは正直わからない部分もある。よく、カミングアウトとはバトンを渡す行為だ、という言い方をされる。つまり、本人は自身のセクシュアリティについて何十年もかけて悩んでいるが、カミングアウトされた方は渡されて初めて悩む、そこでヘルプがないのは本当に辛いことだろうと、私も家族や友人を見ていて思った。Bさんも苦しい状況だったと思う。Bさんの最初の返答は考えに考え抜いた、すごく真摯なものだったと思う。でも、グループLINEへの投稿があまりも唐突で理解に苦しむ。この2か月に一体何があったのか、すごく気になる。その間、Bさんは誰かに相談できたのか。専門家に話すことができたのか。そこにも大学側の環境、対応があれば良かったのではないかと思う」と指摘。「法科大学院で弁護士を目指している方々にアウティングの自覚がなかったということは、本当にショックだった。日本の法曹界を担う学生には、基礎的な知識としてやっぱり知っておいてほしいと思う。また、一橋大学の相談室のホームページを見ると、今もLGBT関係のホットラインが一つも入っていない。こんな大きな問題になっているにもかかわらず、重大なことだと受け止めていないのではないか。このような問題には、法律家になるときには必ず勉強するような判例もある。今回が初めてですというのは言い訳にはならないと思う」と厳しく批判した。

 

「大学側は法科大学院の学生たちが置かれた環境を知っていたはずだ」一橋大学アウティング訴訟、きょう判決

 

 拓殖大学非常勤講師の塚越健司氏は、一橋大学大学院生だった頃、法科大学院に通う学生たちの様子をいつも目にしていたという。「同じ建物で勉強していたが、彼らには24時間365日自習できる部屋もあり、本当に一生懸命勉強していたし、建物の外でも法律の勉強について議論をしているようだった。そんなめちゃくちゃ濃い関係の中でアウティングしてしまえばどういうことになるか。また、一橋大学の中にはセクシュアリティの問題について専門に研究している人もいるし、学生たちからも声が上がったりしている」と話した。

「大学側は法科大学院の学生たちが置かれた環境を知っていたはずだ」一橋大学アウティング訴訟、きょう判決

 

 裁判を傍聴してきた三輪記子弁護士も「大学側も学生たちが置かれていた状況を知っていたはずだし、合格すればずっと同じ法曹界で生きていくことになる。そんな中での寄って立つ土台を破壊されてしまった。大学側の対応を見てみると、彼は性別違和で悩んでいたわけではないのに、回答がマッチしていないし、その後の対応も的外れだったと思う。それでも“やるべきことはやった“と主張しているが、Aさんの立場に立って考えるということができていれば、状況は全く違ったと思う。大学側が物を言う人を黙らせることで解決しようとしていなかったか、ということが問われていると思う。また、教授の認識と大学の運営側の認識にも違いがあったかもしれないし、そこの連携は不可能だったのかという問題もある。B君に対する働きかけや、クラス替え・自習室の席を変えるといった環境づくり、授業を欠席することに対する措置を考えるとか、さまざまな選択肢が考えられたのではないか」と指摘していた。

 

<アウティングなき社会へ>(下)善かれと思っても「暴露」 「打ち明けられたら対話を」(2019年2月19日配信『東京新聞』)

 

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亡くなった男子学生がよく着ていた服を手にする母親=愛知県内で


 「自分の居場所や生活が脅かされる不安でいっぱいだったのだろう」。神谷悠一さん(33)は、同性愛者だと暴露される「アウティング」の被害を受け、校舎から転落死した一橋大法科大学院の男子学生=当時(25)=の心境を、そう思いやった。自身もアウティングされた一人だ。職場で、知人が幹部に、神谷さんがゲイ(男性同性愛者)であることを伝え「当事者だから守ってあげてほしい」と話してしまった。
 「足元が抜けるようだった」。善かれと思っての行動らしかったが、秘密を突然暴かれた神谷さんにとっては、恐怖でしかなかった。同性愛に対して、誰がどんな嫌悪や差別感を持っているか分からない世の中なのに。攻撃されるのではないか。排除されるのではないか−。職場で人とすれ違うたびに、びくびくした。
 レズビアン(女性同性愛者)の大路(おおじ)香里さん(33)も数年前、告白した女性にばらされ、共通の知人間で広まってしまった。「関係性を変えてしまう繊細なプライバシーだから、信頼し、心を許した相手にしか言わなかったのに。ショックでした」
 性的少数者の相談を受けてきたNPO法人「共生社会をつくるセクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク」代表理事の原ミナ汰(た)さん(62)は、「この人ならと信頼して打ち明けた人にばらされるので、アウティング被害は、ショックが大きい」と語る。相手が親しい関係のために被害を言い出しにくく、周囲には当事者間の問題として距離を置かれやすい面が「性暴力に構造が似ている」と話す。
 恋愛話は男女間のことというのがまだまだ前提で、つい最近までLGBTなど性的少数者は笑いの定番のネタにもされていた。そんな空気の中では、意図的に傷つけようとするアウティングだけでなく、想定外だった同性愛をカミングアウトされて(打ち明けられて)戸惑い、誰かに話してしまうことも起こりがちだという。
 「打ち明けられたら、まず、信頼して話してくれたことに感謝を示してほしい。恋愛感情を告白されたら、遠慮せずに自分の好みや恋の対象になるかどうかをはっきり伝えていい」。一人で抱えきれない場合は、守秘義務のある専門窓口に相談することもできる。
 「男女間の異性愛も、同性愛も、基本は人と人との関係です。対話して、その中で自分の知られたくないことを他人に言われたらどうか、と考えてみることが大切だと思う」
 亡くなった一橋大の男子学生の両親は生前、息子から直接、ゲイだと聞くことはできなかった。アウティングという形ではなく、もし今、生きていてゲイだと話してもらえたら−。母親はちゃんと受け止め、声を掛けてあげたかった。「いいパートナーができたら、連れていらっしゃいね」と。

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<アウティングなき社会へ>(中)「彼は昔の自分」命守る制度を 退職し活動に専念「社会を変える」(2019年2月18日配信『東京新聞』)

 

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弁護士を目指していた男子学生の本棚。手前は、よく弾いていたチェロの形をしたオルゴール=愛知県内で

 2016年夏、五輪の高揚感の真っただ中にあったブラジル・リオデジャネイロ。松中権(ごん)さん(42)は、ホテルで見たネットニュースに血の気が引いた。同性愛者であることを無料通信アプリ「LINE(ライン)」の同級生グループ内で明かされた後、校舎から転落死した一橋大の法科大学院の男子学生=当時(25)=の遺族が、大学などに損害賠償を求める訴訟を起こしていたのだ。同大は松中さんの母校である。「彼は、かつての自分だ」
 大手広告会社電通の日本政府首相官邸担当営業として出張中だった。同性愛をひた隠しにした大学時代がフラッシュバックする。過呼吸に襲われ、「東京五輪を(性の多様性を表す)レインボーに」と浮かれていた気分は吹き飛んだ。
 大学時代は「何とかつじつまを合わせ、ごまかし、うそをつき、笑い、楽しんでいるふりをした」。4年生の時、逃げるように留学したオーストラリアで男性同士が堂々と手をつないで歩く姿に励まされ、初めて周囲に打ち明けた。
 入社8年目、研修で半年間滞在した米ニューヨークでも、同性愛者が生き生きと働く姿を目の当たりにした。帰国後の10年、LGBTなど性的少数者を支援する団体を設立。そのころから徐々に職場で打ち明けた。
 LGBT団体では明るく楽しく、ポジティブに発信する一方、「人権問題」の面を強調するのは避けていた。しかし、男子学生の転落死で考えを改めた。「これは人権問題であり、命を守る法制度が必要だ」
 電通を退職し、LGBTの活動に専念。差別をなくす法制度を求める集会を国会で開いたり、困窮するLGBTの人が使えるシェルターの開設を支援したりした。「社会は勝手に変わってくれない」と覚悟する。
 異性を好きになるか、同性を好きになるかといった「性的指向」などを本人の意思に反して公表する「アウティング」は、男子学生の転落死をきっかけに社会問題化しつつある。
 遺族の提訴が報道された後、国際基督教大(ICU。東京都三鷹市)ジェンダー研究センターは、学生の不安を解消する努力を約束し、LGBTを含む少数者対応の見直しを学内外へ向けて呼び掛ける声明をホームページに掲載した。
 当時のセンター長、生駒夏美教授は「転落死は、差別意識が厳然と存在するのに、LGBTという言葉だけ表面上もてはやされる現状をあぶり出した」と振り返る。17年3月には、人権についての学長宣言が発表され、「アウティングを含むセクシュアルハラスメントの根絶を目指す」との旨が明記された。
 一橋大の地元である東京都国立市は昨年4月、アウティングを禁じる全国初の条例を施行した。
 男子学生の父親は、松中さんの存在を関係者を通じて知った。「こうして動いてくれる人がいるのは心強い。もっと早く、息子と知り合ってくれていたら」と複雑な胸の内を明かす。母親は、報道などで見聞きした国際基督教大や国立市の動きに励まされたという。「少しでも世の中が変わっていくなら、息子は永遠に生きていると思えます」

 

<アウティングなき社会へ> (上)同性愛暴露され心に傷(2019年2月17日配信『東京新聞』)

 

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ゲイであることを暴露され、その後転落死した男子学生の遺影を持つ母親。奥は学生が弾いていたチェロ=愛知県内で

 「LGBT」という言葉とともに性的少数者の存在は広く知られるようになってきた。一方で差別や偏見も根強く残り、性的指向などを他人が暴露する「アウティング」と呼ばれる行為で深く傷つけられる人々もいる。
 2015年に一橋大(東京都国立市)のキャンパスで転落死した男子大学院生=当時(25)=もアウティングの被害を受けていた。遺族は大学を訴えており、27日に東京地裁の判決を迎える。言葉を凶器としないため、互いに何を理解するべきかを考える。
 男子学生が愛用したチェロが、実家の部屋の納戸にひっそりとしまわれていた。「自分は愛を語れないけれど、今からチェロで演奏します」。大学の集まりで学生はそう言って、自己紹介代わりに英国の作曲家エルガーの「愛の挨拶(あいさつ)」を披露したという。5歳から習い始め、中高ともオーケストラ部で活躍した。愛知県内に住む両親は、チェロを大事そうに出して懐かしんだ。
 15年8月24日、弁護士を目指し一橋大法科大学院で学んでいた学生は、授業中に校舎から転落して亡くなった。2カ月前、告白した男子同級生にゲイ(男性同性愛者)であることを仲間内で暴露され、吐き気や不眠など心身に不調をきたし、心療内科にも通院していた。
 家族にはゲイであることを話していなかった。死後、大学側から伝えられた父親は「驚きはあったけど、だから何なのと。亡くなったことが何よりもショックで」。
 明るくて、頑張り屋だった。友人も多く、高校ではバンドを組んだり、新潟県中越地震の被災地へボランティアに出掛けたり。一人暮らしの部屋には、海外の珍しい調味料が並んでいた。
 様子がおかしいと母親が感じたのは、15年7月上旬。電話口で泣いていた。理由は教えてくれなかった。心配で「ごはん食べた?」などと、たわいのないメールを毎日送った。
 8月中旬に帰省した時はほとんど外出しなかったが、1人だけ男性の友人(28)に会った。この友人には高校3年の時、恋愛感情を告白していた。友人は「今までと同じく、仲の良い友達でいよう」と答え、その通りの関係が続いていた。
 友人は、一緒にあんかけスパゲティを食べた後、学生に元気がないことに気付いた。「大丈夫か?」と聞くと、「友人関係に苦しんでいる」と答えたという。「あと半年でお互い卒業だから、もう少し頑張り抜こうと約束したんです」
 学生は当時、クラス替えなどを求めて担当教授や大学のハラスメント相談室に相談し、内容をパソコンに残していた。それを読んだ妹(26)は法廷で「兄は同性愛を苦にはしていなかった。アウティングをされて以降、目がうつろになり、理解を欠いた大学の対応で悪化した」と訴えた。
 母親には消えない後悔がある。息子が高校生の時、同級生の親から「ゲイ、ゲイってからかわれているよ」と教えられたが、気にせずそのままにした。「あの時、『ゲイって言われてもお母さんは気にしないよ、個性でしょう』と言ってあげられていたら」。弾き手のいなくなったチェロを触りながら、涙をこぼした。

 

<一橋大アウティング裁判> 訴状などによると、一橋大法科大学院の男子学生は2015年6月、同級生約10人が参加する無料通信アプリ「LINE」のグループに同性愛者だと書き込まれ心身に不調をきたし、同年8月24日、校舎から転落死した。両親は16年に同級生と大学に損害賠償を求めて提訴。大学がセクハラ対策を怠ったほか、ハラスメント相談室の担当者が学生と面談して状況を把握しているのに、適切な対応をしなかったと訴えている。同級生とは昨年、和解が成立。大学側は「対応に落ち度はなかった」と主張している。

 

同性愛暴露され転落死 一橋大アウティング訴訟 遺族支援者ら明大で集会(2018年7月21日配信『東京新聞』)

 

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集会で報告する(なんもり法律事務所)南和行弁護士=千代田区の明治大駿河台キャンパスで

 

 一橋大(国立市)で2015年、男子大学院生=当時(25)=が同性愛者であることを同級生に暴露された2カ月後に校舎から転落死し、学生の両親が大学を相手に訴訟を起こしていることに関し、支援者らによる報告集会が、千代田区の明治大駿河台キャンパスで開かれた。亡くなった学生の妹は「兄は戻ってきません。家族も含めてきちんと向き合わなければならない」などとメッセージを寄せた。 

 訴状によると、学生は15年6月、同級生約10人が参加するLINEのグループに、同性愛者であることを同級生の1人に書き込まれ、精神状態が不安定になった。学生は同8月、授業中にパニック発作を起こして転落死した。

 学生の両親は16年、同級生と大学を相手に提訴。同級生とは和解が成立したが、適切な対応を取らなかったとして大学を訴えた訴訟は継続中で、大学側は「対応に落ち度はなかった」と主張している。今月25日に、大学側の証人尋問が予定されている。

 原告代理人の南和行弁護士は「暴露されてから亡くなるまでの2カ月間に学生は心身の不調に見舞われ、学内の相談室や担当教授らに相談していた。助けられるきっかけはいくつもあった」と強調した。

 今月16日に行われた集会は「一橋大学アウティング事件 裁判経過報告と共に考える集い−大学への問いかけ」と題して、明治大現代中国研究所が主催。アウティングとは、性的指向(好きになる相手の性)などを本人の同意なく第三者に暴露することで、大学のある国立市では今年4月、アウティング禁止を明記した条例も施行された。筑波大など他大学でもガイドライン整備が進んでいる。

 自らもゲイ(男性同性愛者)で、集会を企画した明治大の鈴木賢教授は「大学の立ち位置が問われている裁判」と指摘。「真っ先に大学がやるべきことは、アウティングを受けたクラスメートと被害者の関係をもう一度作り直すことではなかったか」と話した。集会では、遺族からのビデオメッセージも紹介され、妹は「大学には、国立市や他大学がなぜ動いたのかを考えてもらいたい」と語った。

 

 

シンポジウム「一橋大学アウティング事件 裁判経過報告と共に考える集い ── 大学への問いかけ」

 

内容

 一橋大学アウティング事件の裁判は、アウティングした当事者と、アウティングについて相談を受けていた一橋大学と、双方を被告とする裁判でした。昨年5月の報告集会のあと、争点整理の手続と共に裁判所からの和解の斡旋がありました。

 その中で、原告であるAくんのご両親も納得し、アウティングをした当事者との間では和解による解決となりました。しかしもう一方の被告である一橋大学との間では和解とはならず、裁判の手続は証人尋問に進むことになりました。

 7月16日の集会では、これまでの裁判経過を報告すると共に、相談を受けていながらなぜAくんの命を救うことができなかったのか、大学の対応について共に考えたいと思います。

 

●裁判のカンパをお願いいたします

口座:ゆうちょ銀行 408 支店 普通 5613947(ゆうちょ 14060−56139471)

名義:アウティングジケン サイバンヲ シエンスルカイ

 

日時   2018年7月16日(月曜・祝日)13:3015:00(13:00開場)

会場   明治大学 駿河台キャンパス グローバルフロント1階多目的ホール

登壇者 裁判報告:南和行(弁護士 なんもり法律事務所)

コメント:鈴木賢(明治大学教授)

※その他の登壇者も調整中です。

参加費 無料(事前申し込み不要)

主催   明治大学現代中国研究所

共催   アウティング事件裁判を支援する会

問い合わせ先  なんもり法律事務所 06−6882−2501  

 

 

「どんな形で終わっても、兄は戻ってきません」一橋大学アウティング事件裁判で問われる大学の責任(2018年7月16日配信『fairs−fai』)

 

本人のセクシュアリティを第三者に暴露する「アウティング」を理由に、当時25歳のゲイの一橋大学院生が転落死してしまったのが2015年の8月。

翌年に遺族が起こした裁判報道をきっかけに、アウティングの危険性は広く知られることとなった。

事件からもうすぐ3年を迎えようとしている。先日、アウティングをしてしまった同級生とは「和解」という形で裁判が終結したが、もう一方の相手である大学との裁判は継続中だ。

責任を認めず、問題をうやむやにしようする一橋大学。裁判の争点はどこになるのか、遺族は何を望んでいるのか。今日、明治大学で一橋大学アウティング事件裁判の報告会が行われた。

大学の対応は適切だったのか

事件の経緯や裁判については、以下いくつかの報道にまとめられている。

本件の原告代理人の南弁護士は「(亡くなったAさんに対する)大学の対応が適切だったのか、Aさんがどんどん追い詰められていることになぜ気づくことができなかったのか」が裁判の争点となるという。

Aさんはアウティングをされて以降、ロースクールの担当教授、ハラスメント相談室、大学の保健センターの3箇所に相談をしている。

アウティングをされてから自死してしまうまでの約2ヶ月間「まともな対応はされていませんでした」。

Aさんがハラスメント相談室に相談した際、専門相談員は「ハラスメントというよりも学生委員会での対応が良い」と業務報告をしている。つまり、この件はハラスメントにはあたらないという見解だ。また、相談員はAさんに「あなた自身が自分のことを堂々とすれば傷つかなくなるよ」とアドバイスしたという記録がある。

また、保健センターに相談した際は「性同一性障害の医療支援をしているクリニックへの受診を進められた」という。

そしてロースクールの教授は、Aさんからの相談を受けて、メールでAさんとアウティングをしてしまった同級生、両者の話を聞いたが「人間関係のトラブル」として特に何も対応をしなかった。

さらに、Aさんが自死して以降、大学から遺族に対する最初の説明は「ショックなお知らせがあります、息子さんは同性愛者でした」という言葉だったそうだ。しかも、遺族が大学側の対応がどのようなものだったか聞いても一切答えられず、同級生にも遺族と会うことを止められ、情報を遮断されていたという。

まとめると、大学側はセクシュアリティについての適切な情報は持っておらず、アウティングの危険性も把握していなかった。それにより、今回の事件を単なる人間関係のトラブルと位置付け、SOSを求めたAさんをむしろ追い詰めてしまった。さらには、遺族に対して説明責任を果たさず、責任を転嫁し、事実を隠蔽しようとしていると捉えられてもおかしくない。

自身もゲイであることをオープンにし、アウティングされた経験を持つという明治大学の鈴木教授は「一橋大学の掲げるポリシーの中に『豊かな人権感覚を有する法律家の育成』とあります。教育をしている側にこの感覚が果たしてあるのか、これは非常に皮肉だと思います」と話す。

どんな形で終わっても、兄は戻ってきません

報告会では、原告であるAさんの遺族からビデオメッセージが放映された。

Aさんの母親は「6月、7月はフラッシュバックで体調が悪くなりますが、これも息子が生きた証だと思います」と話す。

Aさんの妹は「被告学生や一橋大学の対応には何度も涙をながし、心が壊れる思いでした」と話す。

「和解でも戦いでも正直複雑です。どんな形で終わっても、兄は戻ってきません。でも、戻ってこなくても兄が残した『弁護士になって人を助けたかった』という思いを引き継いで、兄が生きた証を残していこうと思います。

被告大学は、あれから社会はどう変わったか、大学のある国立市がなぜ動いたのか、他の他大学がなぜ動いたのかを考えていただけなければならないと思います」。

彼は私でした

Aさんと同じ一橋大学の卒業生で、自身もゲイであることを公表し認定NPO法人グッド・エイジング・エールズの代表をつとめる松中権さんが登壇。

「考えれば考えるほど胸が苦しくなって、悲しさと怒りがグチャっと混ざったような感情が喉につかえて、苦しくなります」。

「一橋法学部でゲイ、それだけでなく(LINEでアウティングをされたやりとりを見て)状況のすべてが、私でした。過呼吸で吐きそうにながらパソコンに向かっていました」。

松中さんはゲイであることを隠して一橋大学での4年間を過ごした。大学4年の頃、周りが就職活動をしている中、わらをも掴む思いで、逃げるようにオーストラリアに留学した。

そこでの経験をきっかけに卒業後電通に入社、その後カミングアウトして働けるようになった。

「本当に自分はラッキーだな。周りの人にも恵まれて」そう思いながら、LGBTについてポジティブに伝える活動と仕事とを二足のわらじで続けていた矢先、このニュースを知り「(自分の中の)愚かさに、その薄っぺらさに、その自己中心的な発想に、落胆しました」。

大学機関やNPOなど、LGBTに関する活動を行っている3名が登壇した。

人権を主張すること、それを守る制度を求めること

この事件をきっかけに、自分の中にある一つの感情に向きあうことになった。
それは、「人権を主張すること、それを守る制度を求めること」。

これまでは、そういった主張に対して、どこか「かっこ悪い」「そんなことをしたら、理解を広げるどころか、壁を作られてしまう」と思い逃げてきたという。

「どこかカッコ悪いなんて言ってられないのです。大切な大切な、いろんな将来の可能性を抱えた、ひとりの若者の命が失われたのです。

そして、彼は私、だったかもしれないし、彼は明日の私かもしれない。彼は私の大切な誰かかもしれないし、彼は誰かにとっての大切な誰かかもしれない。彼は自分の人生を自分らしく生きたいと願う全ての人なのです」

松中さんは、どんな人であろうと、性的指向や性自認によって差別をしてはいけないという法制度を整えていくべきだと考える。

「理解を広げることで安心した場所をつくることと同時に、何かがあった時に頼れる、そんな何かを事前に食い止められる、安全な場所であることも大切です。安心と安全の両輪が必要なのです」

自分は偶然生きられているだけかもしれない

同じLGBTの当事者に対しても「もし、自分はラッキーだな、色々あるけど幸せに生きられているし、と思っている方がいらしたら、それは、ただただ、自分の周りの小さな社会にいる人たちのおかげで、偶然生きられているだけかもしれない、と、考えてみる時間を持ってもらえると嬉しいです。

当事者の方々だけではありません。たまたま、自分の身近な大切な人たちが、偶然幸せに生きていられるだけ、幸せに生きているように見えているだけかもしれないと。

社会は勝手には変化しません。変えたいと願う人の、小さな勇気と行動が集まって変わっていくものです」。

「ひとつの大切な命が失われました。もう二度と、繰り返してはなりません。私たちの時代で、終わりにしましょう」

大学に求めること

一橋大学アウティング事件の、大学の対応と責任の所在についてを問う証人尋問は、東京地裁で7月25日(水)午前10時から行われる。

筆者自身、自分と同世代のゲイの当事者がアウティングによって命を落としたというニュースを見て、暑い夏の夜だったにもかかわらず寒気がしたことを今でも鮮明に覚えている。

Aさんがアウティングされて自死に至るまでの2ヶ月をどんな思いで過ごしたかは誰にもわからない。ただ、その間に何か一つでも、Aさんの命を繋ぎ止めるためにできたことはあったのではないか。そう思うとやりきれない気持ちになる。

どんな結果になってもAさんは戻ってこない。しかし、少なくともAさんを追い詰めてしまった大学がその責任を真摯に認め、それに対する謝罪や経緯の説明を、遺族や大学関係者に共有すること。そして、再発防止策を講じることをAさんと同じ当事者のひとりとして求めたい(松岡 宗嗣=1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。一般社団法人fair代表理事。オープンリーゲイ。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEKを主催)。

 

https://kokucheese.com/images/upload/529408_photo1.jpg?20180713102522

 

SOGI=好きになる相手の性別である「性的指向(Sexual Orientation)」と、自分をどのような性だと認識しているかの「性自認(Gender Identity)」の頭文字で、全ての人が持つ特性の概念を指す。

 

東京2020オリンピック・パラリンピックまでに性的指向および性自認に基づく差別をなくそう! 

国際水準のSOGI都条例を求める都庁集会を開催します。 

現在都において準備が進められているSOGIに関連する条例は、国の法整備への影響、他の自治体に及ぼす影響も含め、とても大事な条例になります。 

当事者の困りごとの解決のため、より良い内容の条例になるように、多くの参加者とともに考えるイベントです。 

下記要領で実施予定です。ぜひ奮ってご参加ください。 

1人でも多くのご参加をお待ちしています! 

無料/当事者大歓迎/アライももちろん大歓迎/撮影禁止ゾーンあり 

 

注;北米で端を発した「アライ」とは、英語で「同盟、支援」を意味するallyが語源で、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の当事者ではない人が、LGBTに代表される性的マイノリティを理解し支援するという考え方、あるいはそうした立場を明確にしている人々を指す言葉。非当事者であることを明示するために「ストレート(異性愛者)・アライ」とも呼ばれる。

 

概要 

・日時:7月27日(金)16:00〜17:30(受付開始15:45) 

・場所:都議会第二会議室 東京都新宿区西新宿2−8−1 都営地下鉄大江戸線「都庁前駅」より徒歩1分 

・内容(予定) 

都議会各会派のみなさまからのご挨拶 

【基調講演】オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた都条例の位置づけと重要性 

【リレートーク】東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた「私の提言」発表コーナー 

 勝間和代氏(経済評論家)ほか 

※参加人数把握のため、事前お申し込みにご協力をお願いします。 

 お申し込みのお名前はニックネームでの登録が可能です。 

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性的少数者の差別解消めざす都条例案(2018年6月22日配信『しんぶん赤旗』)

 

禁止規定設け実効性を

当事者団体・メディアが学習会

 性的少数者の当事者団体や支援者有志でつくる「なくそう! SOGI(ソジ)ハラ」実行委員会は21日、LGBTなど性的少数者への差別解消を目指す東京都条例案について、メディアとの合同学習会を都内で開きました。

 同実行委員会は、SOGIにまつわる差別や問題ある言動、不当な待遇などを「SOGIハラ(ハラスメント)」と名付け、なくすための法整備に向け活動しています。

 東京都は、2020年の東京五輪・パラリンピックを視野に入れ、性的少数者への理解促進と差別解消を盛り込んだ条例の制定を目指しています。

 学習会で、労働政策研究・研修機構の内藤忍副主任研究員は、差別禁止の規定がなく加害の根拠が示せないと指摘し「いまの条例案では実効性がない。少数者の声は小さいが、苦しんでいる人や困っている人がいることは事実。禁止規定は必要だ」と話しました。

 日本大学の鈴木秀洋准教授は「性的指向・性自認は憲法の幸福追求権のど真ん中の問題だ」と述べ、自身が関わった文京区男女平等参画推進条例の制定を例に講演。苦情を受け付ける窓口や、当事者の参画がないことが課題だとしました。

 同実行委員会の神谷悠一さん(LGBT法連合会事務局長)は「都と国の動向は密接しており、条例は重要な位置づけにあります。多くの人に問題点を知ってほしい」と話しました。

 SOGI 好きになる相手の性別である「性的指向(Sexual Orientation)」と、自分をどのような性だと認識しているかの「性自認(Gender Identity)」の頭文字で、全ての人が持つ特性の概念を指します。

 

 

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