ICANのベアトリス・フィン事務局長初来日

 

記事

 

 

ICAN事務局長、長崎初訪問 核廃絶へ連携呼びかけ

 

ノーベル平和賞受賞記念展のオープニングセレモニーに出席し、あいさつするICANのベアトリス・フィン事務局長(左)。

手前の前列右端は田上富久・長崎市長=長崎市の長崎原爆資料館で2018年1月12日午後4時29分

 

 

左;被爆者や学生らを前にあいさつするベアトリス・フィン氏

右;長崎原爆資料館に展示されている「焼き場に立つ少年」の写真を見る同氏=12日、長崎市の長崎原爆資料館

 

2018年1月12日、「核兵器廃絶国際キャンペーンのベアトリス・フィン事務局長(35)が長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の招きで初来日し、被爆地・長崎市の長崎原爆資料館で被爆者や学生らを前に「『ノーモア・ヒバクシャ』をともに実現しましょう」と呼びかけた。その後、「日本が核兵器禁止条約に署名することを望む」とのメッセージを館内に置かれた見学者用のカードに英文で綴った。

フィン氏は、原爆資料館でICANや核兵器禁止条約を解説するパネル展の開会式に出た後、田上富久(たうえとみひさ)市長らと懇談。「核兵器がある限り使用される危険が存在し、再びナガサキが繰り返されかねない。核兵器禁止条約は一筋の光だ。私たちはともに行動し、日本政府にプレッシャーをかけ、被爆者のストーリーを若い世代にも伝えていく必要がある」「世界中の若い世代に、被爆体験を語り継いでいくことが大切。核の真の専門家は、被爆者にほかならないから」「世界中の政府や人々の考え方を変えるため、連携し続けていきましょう」などと語った。

その後、原爆投下直後の長崎で撮られ、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王が配布を指示した常設展示の「焼き場に立つ少年」の写真や2017年のノーベル文学賞を受賞した長崎市出身のカズオ・イシグロさんから田上市長に届いた手紙などを興味深そうに見入っていた。

 13日は、同市の平和公園を訪れ、原爆落下中心地碑に献花した。その後、長崎原爆資料館などを見学した。

 原爆資料館で被爆の爪痕を示す写真や品々を見学し、「ICANが核兵器廃絶のために取り組まなければならないと改めて思った。人々が被害に遭った写真で特に心を動かされた。核兵器がある限り、また新たな被害を生んでしまう」「核兵器が人類にもたらす惨禍を改めて思い知らせてくれる。ここ(長崎)を最後の被爆地にしなければならない」と語った。

フィンさんが被爆地を訪れるのは初めて。国際運営委員を務める川崎哲さん(49)も同行し、犠牲者を追悼した。

 寒空の下、黒い服に身を包んだ2人は、原爆落下中心地碑にゆっくりと近づき、白い花輪をささげた。

 

<ベアトリス・フィンさん> 1982年11月7日、スウェーデン・イエーテボリ生まれ。2010年、スイス・ジュネーブに国際本部がある非政府組織(NGO)「婦人国際平和自由連盟」に入り、軍縮問題を担当。14年に移籍し現職。英国の大学院で国際法の修士号を取得している。

 

 

原爆落下中心地碑の前に献花し、犠牲者の冥福を祈るフィン事務局長(手前)とICANの川崎哲国際運営委員=13日午前

 

長崎原爆資料館を見学するフィン事務局長(中央)=13日午前

 

 フィン氏は13日午後、同資料館で開かれる長崎大核兵器廃絶研究センター主催の市民セミナーで2017年7月に国連で採択された核兵器禁止条約をテーマに講演し、被爆者の朝長万左男さん(74)やICANの川崎哲国際運営委員(49)らとのパネル討論に参加した。

講演でフィン氏は、「被爆者の協力なしでは条約は成立しなかった。被爆者のおかげで核軍縮に近づいている」と強調。「人類で初めて原爆を体験した日本は核廃絶に向けた世界のリーダーになり、核兵器禁止条約に参加する道義的責任がある」と、条約に参加しない日本政府を批判し、「皆さんの声を一つにして、政府に核の傘に入ってはならないと示さなければならない」と訴えた。

 

長崎大主催のセミナーで講演する核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長=13日午後、長崎市

 

 講演後のパネル討論には、外務省の今西靖治(のぶはる)軍備管理軍縮課長は、北朝鮮の動向を念頭に「厳しい安全保障環境にある。条約への参加は、米国による核抑止力の正当性を損なう」と主張した。

これに対して、フィン氏は「核兵器の脅威にさらされていない国はなく日本政府も条約に同意しなければならない」と反論。フィン氏は、「(長崎への原爆投下以降に)核兵器が使われなかったのは、幸運だったからにすぎない」と語り、北朝鮮の核・ミサイル開発を巡る米朝関係の緊迫化を踏まえ「使用の可能性は高くなっている」と警鐘を鳴らした。

 

基調講演を終えて、来場者からの質問に答えるフィン氏(左)。右は川崎哲国際運営委員=13日午後、長崎市で

 

 セミナー後、記者会見したフィン氏は「核兵器廃絶に大きな関与をしている長崎に来ることができて非常に触発されている。もっと被爆者の話も聞きさまざまな人々と共有したい」「日本政府は核廃絶という目的を唱えながら、自分たちが変わろうとしていない」と述べた。

また、核兵器禁止条約に署名していない日本政府について「核廃絶を訴える面と核兵器に依存している面の2つの顔があり矛盾している」と指摘したうえで「民主主義国家なら条約に参加するかどうかを決めるのは最終的には国民であり国民が『署名してほしい』と声をそろえて求めれば、政府は署名するはずだ」と訴えた。

 そして、日本と同じように核の傘に依存しているノルウェーなどを例に挙げ、署名の可能性を探るための議論が国会で始まっていることを紹介。市民が声を上げることの重要性を強調した。

 

核廃絶へ「希望を武器に」 ICAN事務局長、長崎で若者に

 

フィン氏は14日、長崎大キャンパス(長崎市)で、核軍縮を学ぶ若者らとの対話集会に参加した。フィンさんは「若い世代には希望、エネルギー、ソーシャルメディアという武器がある。世界とつながり、廃絶実現を」と呼び掛けた。

 集会には、大学生や高校生ら約50人が参加。フィンさんは、ICANで若手メンバーが平和運動を引っ張っていることも紹介した。

 

フィン氏、首相に面会断られる ICAN事務局長、広島を初訪問

  

フィン氏は来日に合わせ、安倍晋三首相に面会を要請していたが、日本政府から断られていたことが15日分かった。

 ピースボートによると、ICANは2017年12月下旬から内閣府を通じて2回、安倍首相との面会を求めた。しかし外務省から2018年1月14日までに「日程の都合が合わず面会できない」との回答があった。

 

 面会拒否“恥ずべき” ICAN対応で首相を批判 小池氏

   

 共産党の小池晃書記局長は15日の記者会見で、ICANのフィン事務局長からの安倍晋三首相との面会の要請を拒否した日本政府の対応について問われ、「本当に恥ずかしい」と厳しく非難した。

 小池氏は、17日に外遊から帰国する安倍首相は18日まで日本に滞在するフィン氏と会えるはずだと述べたうえで、「被爆者の運動が国際的にも評価され、ノーベル平和賞を受賞したのは、日本の首相であれば心から喜ばなければいけないことだ。被爆者のみなさんも涙を流して喜んでいる。首相は、大事な相手になぜ会わないのか」と重ねて批判した。

 また、昨年8月の広島・長崎両市での平和記念式典で首相は「被爆者の方々に寄り添う」と言いながら、今回のような突き放す対応をとっていると指摘。「長崎で被爆者の代表が批判したように、“あなたは本当に

 

 フィン氏は15日、広島市の平和記念公園で原爆慰霊碑に献花し、原爆資料館を見学した。

 

広島市の平和記念公園を訪れ、原爆慰霊碑に献花するICANのベアトリス・フィン事務局長=15日午前

 

フィン氏、広島で講演 「日本は足踏み外した」と批判

 

フィン氏は15日、広島市で開かれた若者との対話集会で講演し、核兵器禁止条約に参加しない日本政府を「(核廃絶を求める)合理的な国際社会から足を踏み外した」と批判した。

 集会には学生や被爆者ら約340人が参加した。フィン氏は、被爆国の日本が条約に反対していることに「広島、長崎以外で同じ過ちが繰り返されていいと思っているのではないか」と指摘。「被爆地と日本政府の隔たりは大きく、埋める必要がある」と訴えた。

 

 若者との対話集会で参加者からの質問に答えるICANのベアトリス・フィン事務局長=15日午後、広島市

 若者との対話集会で参加者からの質問に答えるフィン氏=15日午後、広島市

 

 

安倍首相 ICANの事務局長とは会わず(2018年1月18日配信『毎日新聞』)

 

 東欧を歴訪した安倍晋三首相は17日午後4時過ぎ、政府専用機で羽田に帰国し、同5時過ぎに東京都内の表千家東京稽古場で母洋子さんらと初釜式に出席した。同7時過ぎには東京・富ケ谷の私邸に帰宅した。ノーベル平和賞を昨年受けた国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の事務局長で12〜18日に日本を訪れていたベアトリス・フィン氏から面会を求められていたが、日程を理由に断っていた。

 ジャーナリストの江川紹子さんは「外遊の疲れもあり、すぐに深刻な話ができないことは分かるが、平和賞への敬意を表してとりあえず面会し、『詳しい話は別の機会に』などと応じてもいいのではないか。首相が拒めば日本全体が拒んだと受け取られかねないことを認識してほしい」と指摘する。

 

ベアトリス・フィン事務局長と、与野党代表らによる公開討論会

 

 

 

 

核禁止 響かぬ国会 ICAN事務局長と討論会(2018年1月17日配信『東京新聞』)

 

 ノーベル平和賞を昨年受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のベアトリス・フィン事務局長と、与野党代表らによる公開討論会が16日、国会内で開かれた。フィン氏が日本政府に核兵器禁止条約への署名を求めたのに対し、明確に賛同したのは共産、自由、社民三党と参院会派「沖縄の風」だけ。自民、公明両党の与党は慎重で、他の野党も明言しなかった。 

 核兵器廃絶を求める日本のNGOが主催した。昨年七月に条約が採択されて以降、各党がそろって核政策を話し合うのは初めて。

 フィン氏は、核の使用や開発を禁じた条約の意義を説明。日本政府が条約に参加しない理由としている、米国の「核の傘」による核抑止について「神話だ。北朝鮮の核開発を阻止できなかった。時代遅れの政策を継続していることこそ脅威だ」と見直しを求めた。

 これに対し、佐藤正久外務副大臣は「日米同盟の下、核抑止力の維持は不可欠だ」と従来の説明を繰り返した。自民党の武見敬三参院政審会長は「抑止力を含めた防衛態勢を整えないと命を守れない」と、条約参加には距離を置いた。公明党の山口那津男代表も、核兵器を持たない国のすべてが条約に賛成していないことを指摘した。

 立憲民主党の福山哲郎幹事長は、北朝鮮の脅威を挙げ「日本は核抑止に依存する安保政策をとっている」と指摘。民進党の岡田克也常任顧問も「核抑止に依存している事実は非常に重い」と語った。

 一方、共産党の志位和夫委員長は「核抑止は、いざという時は広島・長崎のような惨禍を起こしても許される考え。続けてよいのか」と批判。社民党の福島瑞穂副党首も「核抑止は幻想。条約に賛成すべきだ」と強調した。

 フィン氏は、国会に調査委員会を設置し、日本政府の安全保障政策のどこが禁止条約と抵触するのか調べるよう提案。

 これについては山口氏が「調査を進め、各党と議論を深めることに賛同したい」と応じたほか、福山氏も「条約の効果を調査するのは有効だ。国会での議論を提起したい」と前向きな姿勢を示した。

 討論会に出席した日本原水爆被害者団体協議会の田中熙巳(てるみ)代表委員は、本紙に「中身がないと思った。核抑止は間違っている。核兵器を使われた体験者として言ってきたが、やっぱり分かってもらっていない」と苦言を呈した。

 

 

ICAN事務局長迎え国会議員と討論集会(2018年1月17日配信『しんぶん赤旗』)

 

戦争被爆国の政府が、「核抑止力論」を続けていいのか 志位委員長が発言

  核兵器禁止条約の採択に貢献し、ノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長らを迎え、与野党10党・会派との討論集会「核兵器禁止条約と日本の役割」(主催=核兵器廃絶日本NGO連絡会)が16日、国会内で開かれました。NGO関係者や被爆者が参加し、多くのメディアも駆けつけ大きな注目をあびました。


写真

(写真)握手する志位和夫委員長(右)とベアトリス・フィンICAN事務局長(左)=16日、衆院第1議員会館

 司会は川崎哲ICAN国際運営委員が務め、フィン氏が報告を行いました。日本が同条約に参加することを訴えたフィン氏は、「『核抑止』は神話です。核兵器があることによって平和と安定はつくれない」と指摘し、「核兵器の非合法化は世界の流れになる」と強調しました。

 日本政府から佐藤正久外務副大臣が出席し、「核廃絶というゴールは共有している」「立場の違う国々の橋渡しをしたい」としながら、「北朝鮮の脅威」を挙げ「日米同盟のもと、核兵器を有する米国の抑止力を維持しなければならない」と主張。条約には「署名できない。参加すれば核抑止力の正当性を損なうことにつながる」と非難をあびせました。

 日本共産党の志位和夫委員長は、ICANのノーベル平和賞受賞を祝福するとともに、核兵器禁止条約が、核兵器を法的に「禁止」し、「悪の烙印(らくいん)」を押すことによって、それをテコにして核兵器の「廃絶」にすすもうという、「最も抜本的かつ現実的な道を示した歴史的条約」だと強調。条約への署名・批准がすすみ早期に発効するように「『ヒバクシャ国際署名』を大いに広げ、世論を国内外で広げていきたい」と語りました。

写真

(写真)国会議員との討論集会で発言する志位和夫委員長(右端)。左はベアトリス・フィンICAN事務局長=16日、衆院第1議員会

 そのうえで志位氏は、日本政府の条約不参加を批判し、核兵器禁止条約をめぐる二つの論点として、「条約に参加すると『核抑止力』の正当性が損なわれる」、「北朝鮮の核開発という情勢にこの条約はそぐわない」との日本政府の議論を批判しました。

 「核抑止力論」を突き詰めて考えると、「いざというときには核兵器を使用するという『脅し』によって安全保障をはかろうというものであり、広島・長崎のような非人道的惨禍を引き起こしても許されるという考え方」と厳しく批判。「日本政府はともかくも『核兵器の非人道性』を訴えています。『非人道性』を訴えながら、唯一の戦争被爆国がこうした『核抑止力論』を続けていいのかがいま問われています」と述べました。

 また、北朝鮮に核開発の放棄を迫るうえで、核兵器禁止条約が国際的な大きな力になると強調し、「北朝鮮問題の本当の意味での解決を考えても、核兵器禁止条約という道がもっとも抜本的かつ現実的な道です。この方向で国民的合意や政党間の合意が得られ、日本政府が踏み出すことを願ってやみません」と訴えました。

 さらに志位氏は「日本政府は(核保有国と非核保有国の)『橋渡し』というなら条約採択に努力された国々、市民社会の声を聞き、対話をすべきです」と述べました。

 政府側、各党・会派の発言を聞いたフィン氏は、「『核抑止政策』は安定を増す政策ではありません。しかも、核兵器を使うぞと脅し、広島・長崎で起きたことが起こると脅す政策です」と語り、禁止条約の参加を重ねて求めました。

 日本共産党からは吉良よし子参院議員も発言しました。

 最後に司会の川崎氏は、「この討論集会では核抑止力論の是非と、禁止条約への日本政府の立場が、二つの論点となりました。今後も議論を継続できればと思う」と語りました。

 討論集会にさいして、志位氏は、フィン氏とあいさつをかわし、ニューヨークでの国連会議以来の再会を喜びあうとともに、ノーベル賞受賞への祝意をつたえました。

 

ICANと国会議員との討論集会(2018年1月17日配信『しんぶん赤旗』)

 

フィンICAN事務局長の報告(要旨)

  核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長が、国会議員との討論集会の冒頭で行った報告(要旨)は次の通りです。

 被爆者の経験と素晴らしい運動がICANの活動の土台をつくり、今回のノーベル平和賞受賞につながりました。日本は唯一、核戦争による倫理、経済、社会的な代償を知る国です。私は広島と長崎で多くの被爆者とご家族と話しました。人類における最悪の出来事の記憶を引き継いできた方々に、深い敬意を表したい。これ以上の被爆者を生みだすことは決して許されません。

 私は、核保有国や条約に反対する国々から圧力を受けました。日本にも条約参加に反対する議論や懸念がありますが、条約は新しい国際規範として多くの国が支持を表明しています。核兵器の非合法化は世界の流れです。日本は国際社会と市民社会から「倫理的義務を果たしていない」と強い圧力がますますかかっていくでしょう。日本は唯一の被爆国として禁止条約に参加することで、世界の核軍縮のリーダーとなりえます。

 何百万人もの罪のない一般市民を殺戮(さつりく)する核兵器は、安全保障の中核にはなりえません。もし核抑止がベストな安全保障政策であれば、命は失われないし、紛争も防げる、安全性も高まるはずです。核兵器をめぐる歴史は、それと反対の結果を招いたことを証明しています。

 北朝鮮情勢も非常に危険な状況ですが、核兵器による抑止ではなく、いかに禁止するかが重要です。核抑止は「神話」です。現実をみれば北朝鮮の核開発は阻止できなかったし、核拡散につながった。核兵器は誰のもとにあっても、平和と安定をつくれないものです。

 核兵器の退場は、安全保障政策にとって必要なステップであり、安定をもたらすものです。国際法で違法とされた兵器を製造、保有すればその国の政治的地位は落ちます。世界ではすでに大手の金融機関などが核兵器を製造する企業に投資をしなくなっている流れができています。

 いまや安全保障を核兵器に依存することは恥ずかしいことです。まず日本には条約そのものに向き合い、批准した場合はどのような影響を与えるのか、調査に踏み出してほしいと思います。

 

ICANと国会議員との討論集会 志位委員長の発言(2018年1月17日配信『しんぶん赤旗』)

   

 日本共産党の志位和夫委員長が、核兵器禁止条約の採択に貢献した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)と日本の各政党の国会議員との討論集会で行った発言は次の通りです。

歴史的な核兵器禁止条約―早期に署名・批准、発効を

 日本共産党の志位和夫です。

 まず、ICANのノーベル平和賞の受賞に対して心からのお祝いを申し上げたいと思います。

 私は、昨年の3月と7月、核兵器禁止条約の国連会議にPNND(核軍縮・不拡散議員連盟)の一員として参加し、条約の採択に向けた活動を行いました。そのさいに、ICANのみなさん、ベアトリス・フィン事務局長、川崎哲国際運営委員にさまざまな形で協力・支援をいただいたことに感謝を申し上げたいと思います。

 国連会議に参加して、今度の核兵器禁止条約というのはまさに歴史的な条約だと強く実感しました。

 まず、核兵器を法的に「禁止」し、この兵器に「悪の烙印(らくいん)」を押すことによって、それをテコにして核兵器の「廃絶」に進もうという、現在の世界の状況のもとでは、「核兵器のない世界」にすすむ、最も抜本的かつ現実的な道を示したものだと考えております。

 ぜひ、この条約への署名・批准がすすみ、早期に発効することを心から願っておりますし、「ヒバクシャ国際署名」を大いに広げ、そのための世論を国内外で広げていきたいと考えています。

「核抑止力論」――広島・長崎のような非人道的惨禍を起こしても許されるという考え方を続けていいのか

 そのうえで、この条約に日本政府が参加していないということはたいへん残念なことだと思います。

 いくつかの論点があると思いますが、一つは、この条約に参加すると「核抑止力の正当性が損なわれる」ということが、(日本政府の条約不参加の)一つの理由にあがっていると思います。

 しかし、「核抑止力論」とはいったい何かということを突き詰めて考えますと、いざというときには核兵器を使用する、その使用をためらわない、そういう「脅し」によって安全保障をはかろうという考え方にほかなりません。すなわち、いざというときには広島・長崎のような非人道的惨禍を引き起こしても、それは許されるんだという考え方が、この「核抑止力論」だと思います。

 日本政府は、ともかくも「核兵器の非人道性」を訴えてきていると思います。「核兵器の非人道性」を訴えながら、唯一の戦争被爆国の政府が、このような「核抑止力論」をつづけていいのかが私はいま問われていると思います。

北朝鮮問題の本当の解決でも禁止条約はもっとも抜本的かつ現実的な道

 もう一つのポイントとして、(日本政府の側から)「北朝鮮の核開発という情勢のもとで、この条約はそぐわないのではないか」という議論もなされていると思います。

 私たちは、もとより、北朝鮮の核開発は断固として反対ですし、経済制裁強化と一体に「対話による平和的解決」をはかることが、唯一の解決策だと考えています。

 ただ、私は、こういう危機があるからこそ、核兵器禁止条約がいよいよ重要になっていると考えます。核兵器禁止条約によって核兵器を違法化し、「悪の烙印」を押す。そのことが北朝鮮に対して、核兵器開発の放棄を迫る国際的な大きな力になることは、間違いありません。

 そして日本政府についていいますと、日本政府もこの条約に参加をして、「日本はもう核兵器による安全保障という考え方は捨てた、だからあなたがたも核兵器を捨てなさい」というふうに北朝鮮に迫ることが日本政府の立場を最も強いものにする。北朝鮮に核兵器開発の放棄を迫る一番強いロジック(論理)を、そして政治的立場をもつことになるというふうに考えます。

 ですから、北朝鮮問題の本当の意味での解決を考えても、私はこの核兵器禁止条約という道がもっとも抜本的かつ現実的な道だと考えます。

 ぜひ、この方向で国民的合意が得られ、政党間の合意も得られ、日本政府が踏み出すことを願ってやみません。

「橋渡し」というなら禁止条約に努力した国々、市民社会の声も聞くべきだ

 そして最後に一言。(日本政府が核保有国と非保有国の)「橋渡し」(をする)ということを言われました。それに対して、(被爆者の)サーロー節子さんが7月7日に、禁止条約が採択されたときに、「『橋渡し』というのだったら、なぜこの場にいないのか」という批判をされました。

 「橋渡し」というのであれば、日本政府は、核兵器禁止条約に努力された国々、市民社会の声も聞くべきです。そして対話をするべきです。フィンさんは(核兵器禁止条約が日本に与える影響の)「調査」をということを言われました。それを含めた努力が必要だということを最後に申し上げたいと思います。

 

「日程合わず」と面会拒絶 安倍首相ICAN“門前払い”の狙い(2018年1月16日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 昨年、ノーベル平和賞を受賞したNGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の事務局長で、初来日中のベアトリス・フィン氏の面会要請に、安倍首相が“門前払い”をくらわせた。

 フィン氏は長崎大の招待に応じて12日に来日した。長崎、広島を訪問し、きょう午後には超党派の国会議員との討論集会に参加。ICANの主要運営団体「ピースボート」によると、昨年12月22日と今年1月8日の2回にわたり、内閣府を通じて面会を要請したが、外務省から「日程の都合が合わず面会できない」との回答があったという。

 菅官房長官は面会拒否について、「日程の都合上だ。それ以上でも、それ以下でもない」と言い張るが、東欧歴訪中の安倍首相の帰国は17日午後4時ごろ。一方、フィン氏が日本を発つのは18日昼すぎだ。17日夕方から18日午前までの日程をやりくりすれば、安倍首相がフィン氏と会うことは可能だったはずである。

 安倍首相は普段、官邸で「ミス〇〇」などの表敬訪問を受け、鼻の下を伸ばしているクセに、ノーベル平和賞受賞者の面会をすげなく断るとは、よっぽどICANの活動を毛嫌いしている証拠だ。

「ICANの平和賞受賞の理由は広島、長崎の被爆者と連携して核兵器の非人道性を訴え、使用・保有などを全面禁止する『核兵器禁止条約』の国連採択に尽力したこと。被爆国として日本は核保有国と非保有国との『橋渡し役』を自任してきたのに、安倍政権は『核の傘』に依存する米国の反対などを理由に禁止条約への署名を拒否したのです」(外交関係者)

 ICANの平和賞受賞後も、安倍政権は「政府のアプローチとは異なるが、核廃絶というゴールは共有」などと、味も素っ気もない談話を発表したのみ。ICANには一貫して冷淡なのだ。

「『日程の都合』なんて体のいい断り文句で、禁止条約に反対するトランプ米政権の機嫌を損ねたくないだけ。安倍政権は2016年4月に『憲法9条は一切の核兵器の保有および使用をおよそ禁止しているわけではない』と閣議決定。武器輸出三原則を葬り去ったように、いずれ『持たず、作らず、持ち込ませず』の非核三原則の撤廃にも道筋をつけたいはず。2年前のオバマ前大統領の広島訪問同行時には『核兵器のない世界へ』と表明し、広島・長崎の原爆犠牲者の慰霊式では『被爆者に寄り添う』と語っていますが、しょせん上辺だけ。核廃絶を望む被爆者を突き放してばかりです」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)

 被爆国の首相として恥ずかしくなる。

 

共産・小池氏「ICANと面会しない首相、恥ずかしい」(2018年1月15日配信『朝日新聞』)

 

小池晃・共産党書記局長(発言録)

 (「核兵器廃絶国際キャンペーン〈ICAN〉」事務局長が求めていた安倍晋三首相との面会を政府が断ったことについて)本当に恥ずかしいと言わざるをえない。(事務局長は日本に)18日までいる。安倍首相は17日に(外遊から)帰国する。会えるじゃないですか。なぜ会わないのか。

 被爆者の運動がこれだけ国際的にも評価され、ノーベル平和賞を受賞した。日本の首相であれば、心から喜ばなければいけないことだ。被爆者もみんな涙を流して喜んでいる。そういう時に我が国の首相が、会ってほしいと相手方が言っているにもかかわらず、会わないとはなんたることだと。本当に恥ずかしい。

 (首相は)いろいろな人と会っているじゃないですか、誰とは言いませんけれど。そんな時間があるんだったら、なんでこんな大事な人と会わないのか。

 安倍首相は(昨年)8月の広島・長崎の平和記念(祈念)式典で「被爆者の方々に寄り添う」と言いながら突き放すような対応をしている。長崎で被爆者の代表が「あなたはどこの国の首相ですか」と詰め寄った場面が報道されたけれども、私も今回の対応を見て「あなたは本当にどこの国の首相なんですか」と言いたくなる。万難を排して、ICANの事務局長と会うべきだ。

 

 

安倍首相とノルウェー首相(2018年1月21日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

   

 核兵器禁止条約の採択実現に貢献してノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長が訪日を終えました。事前に要請していた安倍首相との面会は実現しませんでした。首相が「日程の都合上難しい」と断ったためです。

 ここで思い起こされるのが、ノーベル平和賞授賞式が行われたノルウェーのソルベルグ首相の対応です。同国は米国主導の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国。政府は核兵器禁止条約に「署名しない」という立場です。

 ソルベルグ首相は昨年12月の授賞式に出席しましたが、フィン氏らの演説で核兵器禁止条約の署名を求める部分には拍手をせず、地元メディアで批判の的になりました。それでも同首相は、授賞式の翌日、フィン氏らと面会しました。

 受賞者との面会は慣例のようですが、今回の相手は核兵器禁止条約の推進者であり、NATOの国としては悩ましいところです。会えば「なぜ署名しないのか」と詰問されることは分かっていたはず。それにもかかわらず、首相は面会し、共同記者会見を開いて、立場の違いはあると言いつつも受賞に祝意を伝えました。

 安倍首相の面会拒否は他の米国の同盟国と比べても異常です。「橋渡し役」どころか、完全に核保有国の立場に立った首相と非難されても仕方ないでしょう。

 

首相の面会(2018年1月18日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

 被爆証言はたくさん聞いてきたはずだった。しかし、実際に足を運ぶと全然違う。「心を揺さぶられました」。苦痛と破壊から立ち上がり、核廃絶を誓う被爆地は「希望の都市」に見えた

▼核兵器禁止条約の国連採択に貢献し、ノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))」のベアトリス・フィン事務局長(35)が初めて来日し、1週間かけ長崎、広島などを巡った。「全ての国に条約に入ってもらう努力をしなければ」との決意を新たにしたという

▼残念だったのは、安倍晋三首相と面会できなかったことだ。米国の核の傘に依存する日本は条約に反対する。ICANの川崎哲(あきら)さん(49)は「日程調整がつかないのはやむを得ない」と言いながらも、割り切れなさが残る

▼内閣府に2度、文書で要請したが、返事はない。「自分たちの所掌事項ではありませんが…」と断りの電話を入れてきたのは外務省だった。たらい回しのようだ

▼面会は国会議員を通じて要請するのが慣例とも聞く。だが、「平和賞の国際NGOが特定の議員にお願いするのはおかしい」と川崎さん。こんな場面でこそ、開かれた政府かどうか試されるのではないか

▼首相は昨年、被爆者から「どこの国の総理か」と詰め寄られた。きょう離日するフィンさんは「被爆者に敬意を払い、条約に署名を」と首相に伝えたかったという。この声は届くだろうか。

 

ICAN事務局長の来日 核兵器廃絶へ共に歩もう(2018年1月18日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 被爆地訪問が、核兵器をなくす活動のさらなる原動力につながると信じたい。

 「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN=アイキャン)のベアトリス・フィン事務局長が初来日し、広島、長崎両市を訪れた。被爆者たちとの連携で核兵器禁止条約の採択に尽力し、昨年のノーベル平和賞を受けた非政府組織(NGO)である。長崎大核兵器廃絶研究センターが招いた。

 広島市の原爆資料館では被爆遺品などを目の当たりにし、被爆者の肉声に耳を傾けた。核兵器の非人道性こそが禁止条約の軸だけに、被爆地訪問はかねてからの念願だったのだろう。

 被爆者の証言については、これまでもNGO活動を通じ、触れていたらしい。とはいえ被爆地に身を置いて、核被害の実情にじかに触れた体験は別物であり、大きなインパクトだったに違いない。

 記者会見でも「こんなことがまた起こるのは受け入れ難いと、決意を新たにした」と話していた。ICANの活動をより強固なものにする礎としてもらいたい。

 一方で、「被爆地が体現している価値観と、日本政府の政策の間には大きなギャップがある」と実感したようだ。

 申し入れていた面会を安倍晋三首相に断られ、失望を深くしたのではないか。菅義偉官房長官は「日程の都合上。それ以上でもそれ以下でもない」と説明していた。

 日本政府は条約について、「核兵器廃絶というゴールは同じだが、プロセスとアプローチが違う」として反対の立場を取っている。目指すところが同じなら、被爆国のリーダーとしてなおさら、対話の機会を持つ努力をすべきである。

 異なる考えの相手と対話や議論を重ねることで、核なき世界を阻む「壁」は徐々に取り払われていくはずだ。

 国会内でおととい開いた日本政府代表や各会派の国会議員との討論会は、その良い例だったのではないか。

 外務副大臣や自民党議員は、核ミサイル開発を進める北朝鮮情勢に触れ、「条約に入ると核抑止が損なわれて国民の生命が守れない」といった主張を繰り返した。

 しかしフィンさんが、条約と日本の安全保障政策のどこがどうそぐわないのか、つぶさに検証する委員会を国会に設けるよう提案すると、公明、立憲民主など与野党の複数の議員が理解を示したという。

 今必要なのは、考えが違っても、こうした対話や議論の機会を持つことではないか。

 私たち市民にとっても、フィンさんの言葉は活動の在り方を考える好機になった。

 彼女は何度となく、「市民が声を大きくし、政府にプレッシャーを」と呼び掛けていた。被爆地の体験を語り続けながら、「核と人類は共存できない」という世論を盛り上げ、政府を動かしていく地道な努力が求められていよう。

 心に訴え掛けるだけでなく、「事実に基づいた議論を」とも訴えていた。核なき世界の実現を阻む側の説得には、情理を尽くした戦略が欠かせないということだろう。

 そのためにも、被爆地は世界の市民との連帯を一層強めなくてはならない。

 

核兵器廃絶へ行動を(2018年1月18日配信『しんぶん赤旗』)

 

右;ヒバクシャ国際署名を呼びかける田中さん(左)とフィンさん=166日、東京都内

 

声あげ、団結し連帯しよう

ICAN フィン事務局長 都内で講演

 核兵器禁止条約の採択に貢献し、ノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長(35)は16日、東京都内で「核兵器は本当になくせるの?ICANに聞いてみよう!」と題して講演しました。主催は核兵器廃絶日本NGO連絡会。

 フィン氏は、「日本は、核兵器禁止条約に参加し、核軍縮のリーダーになってほしい。核兵器禁止条約に参加するための障害はない」と述べました。

 日本は民主主義国家であり、国民が首相の“ボス”であり「皆さんが声をあげ、団結し、連帯すれば政府はそれを無視できなくなる」と語りました。

 私たちは人類の存続の側に立っていると述べ、「何もしないというのは、核兵器を容認するのと同じだ」と指摘し、核兵器禁止条約は現実にあり、核兵器の廃絶を現実にするのは人々の行動だと語りました。

 「人々の力によって核の悪夢に終わりを告げることができると信じるなら、ICANと一緒に『希望』を共有していこう」と呼びかけました。

 日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の田中熙巳(てるみ)代表委員も壇上にたち、日本政府は禁止条約に署名も批准もしないとしていることを批判。「国民の8割が核兵器の廃絶を願っています。願いを『希望』に変えて行動しよう」と述べ、ヒバクシャ国際署名を呼びかけ、条約発効へ向けて頑張る決意を語りました。

 

亡くなった幼い弟を背負った少年が、直立の姿勢で火葬の順番を待っている…(2018年1月17日配信『西日本新聞』−「春秋」)

 

 亡くなった幼い弟を背負った少年が、直立の姿勢で火葬の順番を待っている。原爆投下後の長崎で撮影された写真「焼き場に立つ少年」

▼「かみしめて血のにじんだ唇が悲しみを伝えている」。ローマ法王フランシスコは昨年末、この写真の裏に「戦争が生み出したもの」と書いて配布するように指示した

▼昨年は、核兵器の非人道性を訴え、廃絶を求める動きが世界に広がった。国連で核兵器禁止条約が採択され、実現に尽力した国際非政府組織「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)がノーベル平和賞を受賞した。ローマ法王の異例の指示も、この流れをさらに加速させたいとの思いからだろう

▼ICANのフィン事務局長が来日し、長崎、広島を訪れた。フィンさんは「二つの日本があると感じた」と述べた。「長崎や広島など核廃絶を求める側」と「核がなければ国を守れないと考える政府」だ

▼唯一の戦争被爆国でありながら、日本は同条約に背を向けた。フィンさんは来日中に安倍晋三首相に面会したいと求めていた。しかし、政府は「日程の都合」を理由に断った

▼安倍首相は17日まで欧州を歴訪。リトアニアでは、ナチスに迫害されたユダヤ難民の命を救った外交官、杉原千畝(ちうね)の記念館を訪ね「日本人として誇りに思う」と話した。多くの命を奪う核兵器の廃絶に取り組む人たちのことも誇りに思ってほしい。ぜひ、少年の写真を手にして。

 

「忖度」は今も(2018年1月17日配信『朝日新聞』−「水や空」)

 

 しばらく世をにぎわせて、潮が引くように去る。流行語の運命だろうが、そうでない場合もたまにある。米国発で、今も廃れない「フェイク(偽の)ニュース」はその一例だろう

▲けんか腰のメディア批判を号砲に新政権をしょって走りだしたトランプ大統領は、もうすぐ就任1年になる。これもフェイクの類いだ−と言いたいのかどうか。核兵器禁止条約を「全く非現実的」と断じている

▲米政権が近く公表する核戦略の指針に、この非難が盛り込まれるという。気にくわなければ何くれとなく“けんか腰”でやり込めたがる大国のリーダーを見て、ふと思う。オバマ前政権ならどうだったろう、と

▲「核なき世界」を唱えたが、これという成果を残せなかった前大統領ではある。在任時に核禁条約が形をなしていたならば、核政策での“出方”はいくらか違ったろうか−とイフ(もしも)は禁物と知りながら

▲その条約を先導してノーベル平和賞を受けた団体の事務局長は安倍晋三首相との面会を求めたものの、かなわなかった。事情の詮索は控えるが、首相も面会を望んでいたかと言えば、間違いなく「ノー」だろう

▲米政権は核禁条約をそしり、オバマ路線との決別を鮮明にする。その意向を日本は言外に酌む。昨年の流行語「忖度(そんたく)」は忘れられていないらしい。

 

首相 ICAN面会拒否(2018年1月16日配信『福井新聞』−「論説」)

 

核廃絶には程遠い姿勢だ

唯一の戦争被爆国である日本が先頭に立って核廃絶を世界に訴え、行動するのは当然であろう。なぜ、動こうとしないのか。

 昨年のノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長が安倍晋三首相に面会を要請したが、断られたことが明らかになった。

 菅義偉官房長官は「日程の都合上だ。それ以上でも、それ以下でもない」と述べたが、いかにも冷淡な扱いではないか。事実上の拒否であろう。

 ICANは100カ国超の約470団体からなる世界の連合体だ。広島、長崎の被爆者らと連携して核廃絶を訴え続け、国連での核兵器禁止条約採択に貢献。核の脅威が増す中で国際世論を動かした活動が画期的な成果につながった。

 被爆者として初めて授賞式で演説したサーロー節子さん(カナダ在住)は「核兵器は必要悪ではなく絶対悪だ」「核兵器の終わりの始まりに」と各国政府に署名を呼び掛けた。

 ノーベル平和賞は人類が共有する価値である。フィン氏が強調するように、核兵器に立ち向かう「揺るぎない規範」となるものだ。だが、核禁止条約に反対する米ロ英仏中の核保有五大国が授賞式にそろって欠席したのは世界平和への背信行為と言わざるを得ない。

 北朝鮮の核保有で脅威が増大し、既存の秩序が揺らいでいるのは事実だ。核削減も行われたが、老朽化した核への対応にすぎず、現状は「抑止力」名目に核の近代化を図っていることに自体に問題がある。

 核廃絶の軸となるべき日本は米国の「核の傘」に依存し、核禁止条約にも参加しないままだ。「条約への参加は、米国による核抑止力の正当性を損なう」というのが政府の論理である。

 そんな日本にフィン氏は「世界のリーダーとなり、核禁止条約に参加する道義的責任がある」と述べた。発言の重みと期待を正面から受け止めるべきだ。

 大戦後、米支配下で核兵器が存在した沖縄には今も米軍が駐留。トランプ政権は日本海上空で核搭載可能なB52戦略爆撃機の訓練を実施、航空自衛隊も参加した。核の抑止ではなく、核攻撃の加担に等しい。「核がある限り、核の恐怖から逃れられない」のだ。

 今の状況は政府が自任する核保有国と非保有国の「橋渡し役」から程遠く、安倍首相がいくら「核なき世界の実現」を訴えても説得力はない。政府こそ非人道性の極みである核の廃絶へ先頭に立つべきで、立てるのは日本しかない。

 12日に初来日したフィン氏は被爆地を訪れ、16日に国会議員との討論集会などに参加、18日帰国する。安倍首相は欧州歴訪から17日に帰国予定だ。本当に日程の都合がつかないのか。

 「(広島・長崎以降)核兵器が使われなかったのは、幸運だったからにすぎない」「被爆者なくして核禁止条約は生まれなかった」と訴えるフィン氏らの肉声と向き合ってほしい。

 

inserted by FC2 system