葛飾・中3自殺;区長「いじめに該当」 第三者委報告覆す

 

葛飾区いじめ調査委員会

 

 

いじめ 葛飾区が認定 中3自殺 第三者委の結論覆す(2018年6月8日配信『東京新聞』)

 

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会見する青木区長

 

 東京都葛飾区で2014年に区立中学3年の男子生徒=当時(14)=が自殺した問題で、区は2018年6月7日、部活動中に他の部員が「ジャージーを下ろそうとした」などの行為は、いじめ防止対策推進法に定義されたいじめに該当するとの見解を発表した。自殺との因果関係は「影響を与えた可能性は、否定できない」と判断した。

 区の第三者調査委員会は3月、防止法の定義を用いず、部員たちの行為は「社会通念上のいじめではない」とし、自殺との因果関係も認めない報告書を区に提出。文部科学省は区に「行政は防止法の定義で判断すべきだ」と求めた。第三者委の結論を大幅に見直したことについて、青木克徳区長は記者会見で「法の趣旨に照らして、いじめは幅広く捉え対応していくべきだ」と説明した。

 男子生徒の遺族は「自死への影響を明確に判断していただけなかった点は大変残念」とのコメントを出した。

 区などによると、生徒は14年4月9日、部活動中の話し合いで所属チームが決まらず、座り込んで動かない状態になった。部員たちから霧吹きで水を掛けられ、ジャージーを下ろされそうになるなどした後、学校からいなくなり自殺した。

 区教育委員会は15年、部員たちの行為を防止法に基づく「いじめ」と認めたが、第三者委は「日常的なふざけ」で、いじめではないと結論付けていた。

 教育評論家の尾木直樹さんは「区の見解は賢明。あいまいな社会的通念を基準にした調査委の判断を区が追認していたら、教育現場への影響は大きかった」と指摘した。 

 

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自殺「いじめ影響も」 葛飾・中3死亡、区長が見解(2018年6月8日配信『朝日新聞』)

 

 東京都葛飾区で2014年4月に区立中学校3年の男子生徒(当時14)が自殺した問題で、青木克徳区長は7日の定例会見で「いじめがあった」との見解を改めて示した。一方、区が設けた第三者委員会は今年3月、「社会通念上、いじめにはあたらず、衝動的に自死に及ぶ結果となった」と区長に答申していた。

 調査報告書によると、男子生徒は自殺当日、部活動での話し合いで他の生徒と意見が分かれて、黙り込んで動かなくなり、他の生徒たちが霧吹きで水をかけたり、ジャージーのズボンを下ろそうとしたりした。

 青木区長は会見で、一連の行為は「いじめに該当する」「自殺に影響を与えた可能性も否定できない」と説明。「生徒が亡くなった事実を重く受け止め再発防止に努めたい」と述べた。

 遺族は代理人を通じて「いじめに該当すると判断した点については正しい判断をしていただけた。これ以上の調査は難しいものと受け止めている」とのコメントを出した。

 

区長「いじめに該当」 第三者委報告覆す(2018年6月7日配信『毎日新聞』)

 

いじめが「自死への衝動に影響、可能性は否定できない」とも

 東京都葛飾区立新宿(にいじゅく)中3年の男子生徒(当時)が2014年4月に自殺した問題で、青木克徳区長は7日、区の見解を公表し、ジャージーを下ろそうとされたなどの行為は、いじめ防止対策推進法に定義されたいじめに該当すると結論づけた。「いじめと認められない」とした第三者委員会の報告書を覆した形だ。青木区長はさらに、いじめが「自死への衝動に影響を与えた可能性は否定できない」とも踏み込んだ。

 いじめの定義について、いじめ防止対策推進法は「心理的、物理的な影響を与える行為で、対象となった児童らが心身の苦痛を感じているもの」と定義する。しかし第三者委は、法律ではなく「社会通念上、いじめと評価できる行為」を基に判断。他の生徒が男子生徒に霧吹きで水をかけたり、ジャージーを下ろそうとしたりした行為は「いじめと認められない」と答申した。

 青木区長は同日開いた記者会見で、第三者委の報告書を「率直に受け止める」とする一方「区の責任として問題を考えた場合、いじめの定義は法律に照らして広く捉える必要がある」と指摘。「小さなきっかけをいじめと認識し、速やかに発見して適切に対応すべきだ、という区の強い思いを反映した」と説明した。

 区によると、3月に報告書が発表された後、内容に関して区に数十件の問い合わせがあり、大部分は「いじめと認定すべきではないか」という意見だったという。

 青木区長が公表した見解には、今後の対応策も盛り込まれた。「心身の苦痛を感じる行為はいじめで、重大な結果につながる可能性がある」との認識に立ち、児童や生徒に命の大切さや思いやりについて繰り返し指導することを明記。区長や教育委員会で構成する総合教育会議で、生徒の心身の安全に配慮した指導体制などを検討し、再発防止に取り組むとしている。

 男子生徒の自殺をめぐっては、区教委が当初、遺族などに「事故死」との認識を示し、不服申し立てを受けて再調査を始めた経緯がある。青木区長は「初動で十分に対応できなかったことは反省している」と陳謝。「区としての結論(見解)を出したことは前進で、再発防止に努力したい」と述べた。

 教育評論家の尾木直樹さんの話 区が「いじめ」と認めたことを評価する。第三者委の「社会通念上、いじめではない」という答申を排除し、いじめ防止対策推進法に基づき認定した。第三者委は批判されるべきだ。いじめと自殺の因果関係を「可能性は否定できない」と結論付けたのは半歩前進。ただ、いじめと自殺の因果関係を認定することは非常に難しい。

 

葛飾区の中3自殺「いじめ」調査の経緯

2014年4月9日 区立新宿中3年の男子生徒が部活動のペア決めがうまくいかず黙り込み、他の部員にジャージーを下ろそうとされたり、霧吹きで水をかけられたりした。男子生徒は学校を出て自殺した

14年6月4日 生徒の両親から、部員らへの聞き取り調査を求める要請文が学校に届く

14年12月1日 区教委に「学校の調査が不十分」として再調査を求める要請文が両親から届く

14年12月15日 区教委が両親に「再調査の予定はなく、いじめを起因とした事案ではない」とする文書を送付

15年2月4日 両親の代理人弁護士が区教委に再調査を求める文書を送付

15年2月13日 区教委が「いじめ・不登校対策検討委」を設置すると弁護士に返答

15年3月18日 検討委は「継続的ないじめはなく、遺書等もないため、生徒たちの行為と死亡について因果関係があるかどうかは、ないと言わざるを得ない」と結論

15年9月16日 弁護士が再調査を求める文書を青木克徳区長に送付

15年11月6日 区教委が見解を改め「いじめと評価しうる行為」とした文書を弁護士に送付

16年3月28日 区が第三者委員会を設置

18年3月28日 第三者委員会は「遊びの範囲内で社会通念上のいじめに当たらない」とする報告書を青木区長に答申

18年6月7日 青木区長が答申を覆し、一連の行為を「いじめに該当する」とした区の見解を公表。自殺への衝動に影響を与えた可能性も「否定できない」とした

 

「いじめに該当、正しい判断」自殺男子生徒の遺族がコメント

 自殺した男子生徒の遺族は7日、コメント文を発表した。他の生徒から受けた一連の行為を、区が「いじめに該当する」と結論づけたことに「正しい判断をしていただけた」と一定の評価を示した。

 一方で、いじめが自殺に影響を与えたかどうかについて、区が「可能性は否定できない」と判断したことに、「影響があったと明確に判断されなかった点は、大変残念に思う。大きく影響したと考えている」という思いを表した。

 第三者委員会が3月「いじめによる自死とは認められない」とする報告書を答申した際、遺族は「思いもよらない内容で、到底納得することができない」として、報告書の再考を求めていた。

 この日取材に応じた遺族側代理人の弁護士は、遺族が現在、第三者委がどのような検討を重ねたのかを検証していると明らかにした。ただ、遺族はコメント文の中で「いまだはっきりしないことも多々あるが、長い時間の経過を考えると、これ以上の調査は難しいものと受け止めている」とも記している。

 弁護士は「静かな生活を送りたいと望む一方で、何があったのか知りたいとも考え、葛藤し続けてきた」と遺族の心境を代弁し、法的措置を含む今後の対応について「具体的に考えていることはない」と述べた。

 

中3自殺 葛飾区“いじめに該当 自殺に影響与えた可能性も”(2018年6月7日配信『NHKニュース』)

 

4年前、東京・葛飾区の当時中学3年生の男子生徒が自殺した問題で、葛飾区は、同じ部活動の生徒による行為がいじめに該当するとともに自殺に影響を与えた可能性も否定できないとする見解を明らかにしました。いじめをめぐる認定は、第三者委員会が、社会通念上のいじめには当たらないとしていましたが、区は、今回の判断を最終的な結論としています。

平成26年4月、葛飾区立中学校の当時3年生だった男子生徒が自殺した問題をめぐっては、自殺した当日、部活動のチーム決めが希望どおりいかず、うずくまっていた男子生徒に、複数の生徒が霧吹きで水をかけたことなどについて、区の第三者委員会が、社会通念上のいじめには当たらず、自殺との因果関係は認められないとする報告書をまとめ、遺族側は再考を求めていました。

青木克徳区長は7日に記者会見し、同じ部活動の生徒による一連の行為は、いじめ防止対策推進法で定めたいじめに該当すると判断したことを明らかにしました。

そのうえで、一連の行為が男子生徒の自殺に影響を与えた可能性も否定できないと説明しました。

いじめをめぐる認定は、第三者委員会とは異なる見解となりましたが、葛飾区は今回の判断を最終的な結論としています。

青木区長は「小さなきっかけでもいじめと捉えて対処すべきで、可能性を排除せず幅広く考えていかなければならない。男子生徒が亡くなった事実を重く受け止め、再発防止に努めていく」と述べました。

自殺した生徒の両親「自殺への影響 あいまいな表現は残念」

葛飾区の見解を受けて、自殺した男子生徒の両親はコメントを発表し、「一連の行為がいじめに該当すると判断した点については、正しい判断をしていただけたものと受け止めています。しかし、一連の行為の自殺への影響について『可能性も否定できない』という、あいまいな表現がなされ、影響があったと明確に判断していただけなかった点は大変残念に思います。遺族としては、改めて一連の行為は自殺に大きく影響したものと考えています」としています。

 

葛飾区いじめ調査委員会の設置について

 

平成30年1月30日

 いじめ防止対策推進法(第30条)の規定による再調査を行うため、葛飾区いじめ調査委員会を設置しました。

 

1 再調査対象

 平成26年4月に発生した区立中学校の当時3年生の男子生徒が自死した事案

2 委員(五十音順)

飛鳥井 望 精神科医(東京都調布市青木病院(精神科-心療内科-内科)院長)

木村 文幸 弁護士(第二東京弁護士会子どもの権利に関する委員会 副委員長(2014年まで))

杉浦 正幸 私立高等学校教諭(麻布高校 社会科教員)

平尾  潔 弁護士(第二東京弁護士会 子どもの権利に関する委員会副委員長。第二東京弁護士会 全校型いじめ問題プロジェクトチームメンバー)

横湯 園子 臨床心理士(元中央大学教授)

 

区長のコメント

 平成26年4月に発生した区立中学校の当時3年生の男子生徒が自死した事案について、「いじめ防止対策推進法(第30条)」の規定による再調査を行うため、本委員会を設置いたしました。

 本事案については、学校及び教育委員会で調査を行いましたが、生徒たちの行為と当該生徒の死亡との因果関係について、判断できないとの結論が出されました。また、遺書は残されておりません。

 しかし、ご遺族から葛飾区に対して再調査のご要望があり、生徒さんの死亡という事態を重く受け止め、第三者委員会による再調査を実施することとしたものです。

 委員の皆様には、それぞれのご専門の立場から、充分なご審議をお願いいたします。

 

 

葛飾区いじめ調査委員会答申概要

 

平成30年3月28日に葛飾区いじめ調査委員会(第三者委員会)から答申を受けました。答申の概要は次のとおりです。

事案の概要

平成26年4月に発生した区立中学校の当時3年生の男子生徒が自死した事案

 

答申の概要

(1)本件事件は、本件事件当日、生徒だけで行われた部活動のチーム決めにおいて、当該生徒のチームが決まらなかったことが原因となり、衝動的に自死に及ぶ結果となったものと推定される。

 

(2)いじめ防止対策推進法は、「いじめ」とは、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義されている(第2条第1項)。

当調査委員会のような重大事態の調査委員会の設置にあたっては、いじめ防止対策推進法の広範な定義に基づいて、いじめによるかどうかの調査をできるだけ早期に行うべきことが求められるが、その結果設置された調査委員会に求められる調査は、いじめの早期発見や調査開始といった場面とは異なり、調査の結果得られた事実が社会通念上いじめに該当するかどうか、また、いじめに該当するのであれば、関係者に対してどのような指導を行う必要があるかどうかという現実の対応に影響を与える場面であることからすると、いじめ防止対策推進法上の広範な定義を用いて形式的に評価すべきではないと考える。

このような理由から、当調査委員会は、あえて法律上のいじめの定義をそのまま当てはめることはせず、同法に定義されるいじめのうち、社会通念上いじめと評価できる行為が認められる場合を、いじめとする。

 

(3)チーム決めの話合いは平穏に行われており、誰かを排除することを参加者の誰も意図しておらず、また、そのような発言もなされていない。したがって、社会通念上非難されるようなものとは認められず、本件はいじめを原因とした自死ではない。

また、話合いの後、生徒たちは、無反応になった当該生徒を窓際に移動させ、霧吹きで水をかけ、ピンポン球を当て、ジャージを下ろそうとするという行為を行ったが、これらの行為は生徒たちの間でふざけている行為として日常許容されているという共通認識の下、当該生徒を覚醒させる目的で行われた行為であり、社会通念上いじめと評価できない。

 

(4)チーム決めの話合いは、顧問不在の場で生徒たちだけで行われた。また、生徒たちから報告を受けた顧問は、当該生徒の自宅に連絡するなどの措置を取るべきであったのに、それをしなかった。

これらのことは、部活動における指導体制において、顧問が不在の時間が常態化していたことも大きな要因であると考えられる。仮に、チーム決めに顧問が直接関与していたら、本件事件は防ぐことができた可能性がある。学校は、生徒の心身の安全により配慮した指導体制を速やかに構築すべきである。また、指導者は、少しでも日常と変わった事態が生じた可能性がある場合、それに敏感に反応する姿勢を身に付けるとともに、保護者と連絡を密に取る体制を学校全体で明確にルール化するべきであった。

 

(5)学校及び教育委員会の自死であることの認識の欠落及びいじめ防止対策推進法についての理解不足から、第三者委員会の立ち上げが遅れた。このことは、記憶の風化によって調査を困難にし、両親に心理的負荷を与えた。学校及び教育委員会は、いじめである可能性、自死である可能性から目を背けず、事実の解明、再発防止に積極的な態度を取るべきである。

 

区長コメント

調査報告書では、学校の部活動における指導体制及び異常時の対応、いじめ防止対策推進法についての理解不足などの点について、不十分であったという厳しいご指摘とご提言をいただきました。学校設置者として、責任を痛感しております。

これらのご指摘及びご提言を真摯に受け止め、教育委員会をはじめ、関係各機関と協議し、再発防止に努めてまいりたいと考えております。

 

 

 

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