沖縄少女暴行事件(08年2月)=⇒平和な島を返して由美子ちゃん事件

 

記録映画:女児暴行、反省と後悔…元服役米兵

 

沖縄の中3少女暴行事件は08年2月17日で発生から1週間。沖縄県議会と沖縄市や北谷町など16市町村議会による抗議決議!!

 

 那覇地検は08年2月29日、逮捕されていた在沖縄米海兵隊員のタイロン・ルーサー・ハドナット2等軍曹(38)について、生徒が同日付で告訴を取り下げたとして不起訴処分とし、釈放した。生徒は29日、事情を聴いていた検事に対し「(事件に)これ以上かかわりたくない。そっとしておいて欲しい」と述べ、告訴を取り下げたという。

これにより、海兵隊員は同日午後8時40分ごろ釈放され、米軍に身柄を引き渡された。

刑法は強姦(ごうかん)や強制わいせつなどについて、性犯罪被害者のプライバシー保護などの観点から、被害者が告訴を取り下げた場合は犯罪事実の有無にかかわらず起訴できない「親告罪」と定めている08年03月02日付『沖縄タイムス』−「社説」=告訴取り下げ08年03月02日付『沖縄タイムス』−「大弦小弦」08年03月02日付『琉球新報』−「社説」=告訴取り下げ 犯罪の容疑は消えない)。

 

被害者の告訴取り下げで不起訴処分となった2等軍曹(38)の高等軍法会議が08年5月16日、キャンプ瑞慶覧(ずけらん)で始まり、同軍曹は少女への暴力的性行為を認めた。8年の求刑に対し、判事は懲役4年を言い渡した。しかし、司法取引で1年猶予となり、3年の懲役が確定した。なお、軍法会議は「高等」「特別」「簡易」の3種類があり、高等軍法会議は最も重い罪に適用される。公判では、米軍の中佐が判事を務めた。

 

 

沖縄県警は08年2月11日、女子中学生に乱暴をしたとして、在沖米海兵隊の2等軍曹タイロン・ルーサー・ハドナット容疑者(38)を婦女暴行の疑いで緊急逮捕した。調べに対し、同容疑者は「車内で抱きつき押し倒したり、キスしたりしたが、暴行していない」と話しているという。調べでは、ハドナット容疑者(同容疑者は96年に海兵隊に入隊。06年秋、沖縄県うるま市のキャンプ・コートニー第2次世界大戦中の沖縄戦で戦死して名誉勲章を受章したヘンリー・A・コートニー少佐にちなんで名付けられました】に配属された。日本人女性と結婚したが、別居状態で現在は1人暮らし。あいさつなどの日常会話ができる程度の日本語が話せるは10日午後10時35分ごろ、同県北谷(ちゃたん)北前1丁目の公園前の路上近くには米軍基地跡地にショッピングセンターや飲食店が連なり、休日には米兵や県内外から訪れる人でにぎわう「ハンビータウン」があるに止めた車内で、同県内に住む中学3年の女子生徒(14)に暴行をした疑い。ハドナット容疑者は同日午後8時半ごろ、同県沖縄市で友達2人といた女子中学生に「自宅へ送ってあげる」と声をかけ、バイクで同県北中城村島袋にある同容疑者の自宅に連れて行った。その後、自分の車に乗せて、北谷町に移動。路上に止めた車内で暴行した。

 

仲井真弘多知事は同日午前、「女性の人権を蹂躙する事件で決して許すことはできない」と憤り、東門美津子沖縄市長らも事件を非難した。同日午後、上原昭知事公室長、仲村守和県教育長が在沖米国総領事館に抗議した。

 

事件で、発生現場となった沖縄県沖縄市と町域の53%を米軍基地で占める同県北谷町の両議会が08年2月13日、「米軍の再発防止策には実効性がない」などと指摘、日本政府に対しても再発防止に責任を持つよう求めた。特に、暴行現場となった北谷町議会は、「悪質で深刻な事件であり、被害者の心中を察すると断じて許せるものではない」(事件のたびに米軍当局や関係機関に抗議し、再発防止を要求したにもかかわらず、またしても痛ましい事件が発生したことについて)「決して許すことはできず、強い憤りを覚える」」と非難した米政府に対する抗議決議、意見書を採択した同町では01年の女性暴行事件、07年の空気銃発砲事件など、米軍人や軍属、家族による凶悪事件が発生しており、今回の事件により「町民は再び恐怖にさらされている」と指摘)

 

沖縄市議会も同日、「(95年に起きた)米兵による女子小学生暴行事件を思い起こさせるほど県民に大きな衝撃と恐怖を与える。度重なる抗議要請に対し、米軍の事件・事故に対する綱紀粛正などの取り組みの実効性が全く見えない」とする抗議決議と意見書を全会一致で採択。さらに同様の決議などは那覇市議会が12日に可決。県議会やうるま市など4市、読谷村の議会も週内や週明けに予定している。

 

那覇市議会も同日、被害者らへの謝罪と基地縮小、日米地位協定の抜本的見直しを求める抗議決議を行った。

 

沖縄県内の平和団体も基地の前で抗議集会を開き、「米軍撤退」を訴えたた、同日開かれた沖縄県議会の2月定例会で仲井真弘多知事は冒頭、「女性の人権を蹂躙(じゅうりん)する重大な犯罪で、特に被害者が中学生であることを考えれば、決して許すことは出来ず、強い憤りを覚える」と非難、「被害者、ご家族の心情や意向に十分に配慮し、適切に対応していく」と述べた。

 

在沖米軍トップのリチャード・ジルマー4軍調整官(中将)とケビン・メア在沖米国総領事らが同日、県庁に仲井真弘多知事を訪ね、事件について「心より遺憾に思う」と謝罪した上で、沖縄署の捜査に全面的に協力する考えを示した。

 

これに対して仲井真知事は、「こういう事件が続くと、県民の 怒りが頂点に達し、今後の基地問題に深刻な影響を与えかねない」と指摘。再発防止に全力を挙げるよう求めた。

 

一方、シーファー駐日米大使と在日米軍トップのライト司令官が13日急きょ沖縄県を訪れ、県庁に仲井真弘多知事を訪ね、謝罪した。

 

また、シーファー駐日米大使は13日、外務省で高村外相と会談し、在沖縄米海兵隊員が女子中学生を暴行したとされる事件を受け、在日米軍の行動規律を全面的に見直し、厳格化すると表明した。陸海空・海兵隊の4軍が個別に策定している研修や事件防止策を見直し、米兵、軍属、家族を対象に外出制限の強化などを早急に検討する。容疑者が基地外に住んでいたことから、基地外への居住許可の厳格化などが柱になるとみられる。

 

現在の在日米軍の防止策は陸軍、海軍、空軍、海兵隊ごとにつくられ(1)教育プログラム(研修)(2)事件・事故の防止措置――に大別される。研修では、単身で着任した1等軍曹以下の米兵(海兵隊は全員)に対し、部隊配属前に日米地位協定や沖縄の文化に関する講習を行う。防止措置には、若手の米兵を対象に色別のカードを発行して基地外への夜間外出を制限する「リバティーカード制度」、トラブルが頻発する特定地域や店への出入りを一時的に禁止する「オフリミッツ」措置などがある。自由時間での飲酒絡みの事件や事故を防ぐために、単身で赴任期間が1年未満の2等軍曹以下には私有車の所有・運転を禁止、兵舎で消費できる酒の種類や量も制限されている。

 

 沖縄県知事と駐日米大使米大使・在日米軍のトップの司令官との会談要旨(08年2月13日)

 

 シーファー大使

 このような事件が起こったことを本当に遺憾に思う。被害者の少女とご家族、関係者の方々に対して同情に堪えない。今回の件に関して全面的に協力させていただき、正義がもたらせるために、われわれができるすべてのことをすると約束する。

 再発防止のために必要な手段は何であれ取る用意がある。少女と家族が負われた傷が一日も早く癒やされるよう願っている。

 個人として被害に遭った少女と両親に手紙を書いた。知事から渡してほしい。

 

 ライト司令官

 在日米軍すべてを代表し、今回の事件について本当に悲しいことだと思っている。権限の中でできることがあれば、このような事件が再び起きないように何でもしたい。今回のことに関して本当に心から悲しみ、申し訳なかったと思う。

 

 仲井真知事

 今回の事件は女性の人権を蹂躙する極めて悪質な事件であり、決して許すことはできない。

 被害者が中学生でもあり、極めて悪質な事件と言わざるを得ない。強い怒りを覚える。極めて遺憾。

 このような事件が発生すると県民の怒りが頂点に達し、今後の米軍と県民、基地について非常に大きな影響が出ることを深刻に考えている。

 このような事件が二度と起こらないよう綱紀の粛正、隊員の教育の徹底、再発防止に県民がよく分かる形で万全を期していただきたい。

 

 シーファー大使

 被害に遭った少女とご家族にできることがあれば何でもしたい。いかに私たちが申し訳なく思っているかを知っていただきたい。一日も早く幸せで、今までの生活に戻っていただけるように何か手を貸したい。

 仲井真知事 大使と司令官の誠意はきちっと受け止めたいと思うが、県民の怒りはまだ収まっていない。

 ぜひ再発防止を徹底し、県民に分かるように公開してほしい。

 

☆ 沖縄県議会は08年2月14日、在日米軍などへの抗議決議と日本政府への意見書を全会一致で可決した。米兵の犯罪が後を絶たないことを挙げ、「米軍の綱紀粛正への取り組みや軍人への教育のあり方に疑問を抱かざるを得ない」と批判したうえで、被害者への謝罪と補償や、県民の目に見える形で再発防止策について万全を期すことなどを求めている。抗議と意見書は、事件について「県民に強い衝撃と多大な不安を与えている。特に、被害者が無抵抗な少女であることを考えれば断じて許すことができない卑劣な行為」と指摘。米兵らによる事件事故が起きるたびに再発防止を強く申し入れているにもかかわらず、また発生したことに対し「激しい憤りを禁じ得ない」とし「県民の人権・生命・財産を守る立場から厳重に抗議する」としている。その上で(1)被害者および家族への謝罪および完全な補償(2)実効性のある具体的な再発防止策について万全を期す(3)米軍基地の一層の整理縮小を図るとともに、海兵隊を含む米軍兵力削減の推進―を要求している。なお、抗議決議は駐日米国大使、在日米軍司令官、在日米軍沖縄地域調整官、在沖米総領事、在沖米海兵隊基地司令官あて。意見書は内閣総理大臣、外務、防衛、沖縄担当大臣あて。18日と19日には県議団が上京し、日本政府、在日米大使館関係者らに抗議行動をする。

 

 沖縄県警の資料を基に沖縄タイムスがまとめた統計では、13年前の米兵暴行事件が起きた1995年から2007年までの間に、県警が摘発した軍人や軍属、家族ら米軍関係者による女性暴行事件は14件、17人あった。凶悪犯罪(殺人、強盗、放火、強姦)も43件、63人に上った(数字はいずれも未遂事件を含む)。刑法犯総数は800件、864人。うち暴行や傷害、脅迫などの粗暴犯は100件、100人だった。構成比が最も高いのは窃盗犯で、385件、417人に上った。最近では、沖縄市内の飲食店での20代の女性従業員を殴り、性的暴行を加えたとして、嘉手納基地内に住む米兵の息子が強姦致傷の疑いで逮捕された。08年1月には、海兵隊員2人が沖縄市内でタクシー運転手を瓶やこぶしなどで殴り、運賃を払わず逃げたとして、強盗致傷容疑で逮捕される事件も起きている。運転手は頭部裂傷など全治1カ月の重傷を負った(08年02月14日付『沖縄タイムス』)

 

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記録映画:女児暴行、反省と後悔…元服役米兵 20日公開(2015年6月20日配信『毎日新聞』)

 

東京都内で開かれた試写会で「沖縄 うりずんの雨」製作の経緯を語るジャン・ユンカーマン監督=東京都新宿区で2015年6月10日、青島顕撮影

東京都内で開かれた試写会で「沖縄 うりずんの雨」製作の経緯を語るジャン・ユンカーマン監督

 

 日本で活動する米国人映画監督、ジャン・ユンカーマンさん(62)が、20日公開されるドキュメンタリー映画「沖縄 うりずんの雨」の中で、1995年の女児暴行事件で服役した元米兵にインタビューした。元米兵は「すべきでないことをしてしまった」と後悔を口にしている。沖縄の反基地運動が高揚する契機となったこの事件で、公判以外に加害者の肉声はほとんど伝えられてこなかった。

 映画は、70年前の沖縄戦による米軍の占領以降、基地の存在に苦しむ沖縄の人々の姿を描いた。その一つとして、沖縄県民の反基地感情を高め、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の県内移設へのきっかけになった女児暴行事件を取り上げた。

 ユンカーマン監督は2012年、日本での服役後に帰国した元米海兵隊員3人への取材を試みた。1人は自殺しており、もう1人は母親を通じて取材を断ったという。残る1人のロドリコ・ハープ元1等兵(事件当時21歳)はジョージア州内で2時間以上、カメラの前で話した。その際、「表に出て話すのは初めてだ。自分のためにもなる」と語ったという。

 元1等兵は実名で姿を隠さず映画に登場する。犯罪への参加を誘われ、最初は冗談だと思ったが、結局断りきれなかったこと、共謀して女児の口や目をテープで覆ったことを述べる。そして「最悪の夜だった。私の人生は変わったが、彼女の人生はもっとひどく変えられた。教会で許しを祈っているが、どのみち地獄に落ちると思う」と表情をゆがめる。

 ユンカーマン監督は「彼はモンスター(怪物)ではない。普通の人が事件を起こすからこそ、問題はより深刻なのだ」と語る。加害者の視点から事件を振り返り、犯行の様子まで語らせたことには疑問視する声も寄せられたという。監督は「問題を深く理解するためには真正面から向き合う必要がある」と話す。

 映画は東京都千代田区の岩波ホール、那覇市の桜坂劇場などで公開される。

 

 

 

在沖米海兵隊員による少女暴行事件に関する意見書(沖縄県議会)

 

去る2月10日午後1035分ごろ、沖縄本島において、在沖米海兵隊キャンプ・コートニー所属隊員による少女暴行事件が発生した。

 女性に対する暴行は、肉体的、精神的苦痛を与えるだけではなく、人間としての尊厳をじゅうりんする極めて悪質な犯罪であり、県民に強い衝撃と多大な不安を与えている。

 特に、被害者が無抵抗な少女であることを考えれば断じて許すことができない卑劣な行為である。

 本県議会は、これまで米軍人・軍属等による事件・事故が発生するたびに綱紀粛正、再発防止及び関係者への教育等を徹底するよう米軍等に強く申し入れてきたところであるが、それにもかかわらず、今回、またもやこのような事件が発生したことに対し激しい憤りを禁じ得ない。

 また、平成1910月1日に嘉手納基地所属隊員の家族が飲食店の女性従業員の顔面をビール瓶で殴り性的暴行を加えるという強姦致傷事件が、さらに、去る1月7日に在沖米海兵隊普天間基地所属隊員2名が無抵抗のタクシー運転手を殴打し、金銭を奪うという強盗致傷事件が相次いで発生している。

 このような悪質で凶悪な事件が依然として後を絶たないことを考えると、米軍の綱紀粛正への取り組みや軍人への教育のあり方に疑問を抱かざるを得ない。

よって、本県議会は、県民の人権・生命・財産を守る立場から、今回の事件に対し厳重に抗議するとともに、下記の事項が速やかに実現されるよう強く要請する。

 

 

1 被害者及び家族への謝罪及び完全な補償を行うこと。

2 県民の目に見える形で、米軍人の綱紀粛正及び人権教育を徹底的に行うな ど実効性のある具体的な再発防止策について万全を期すこと。

3 米軍基地の一層の整理縮小を図るとともに、海兵隊を含む米軍兵力の削減 を推進すること。

以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

 

 2008(平成20)年2月14日

沖 縄 県 議 会

内閣総理大臣
外務大臣
防衛大臣   
沖縄及び北方対策担当大臣 あて

 

 

 在沖米海兵隊員による少女暴行事件に関する抗議決議(沖縄県議会)

 

去る2月10日午後1035分ごろ、沖縄本島において、在沖米海兵隊キャンプ・コートニー所属隊員による少女暴行事件が発生した。

女性に対する暴行は、肉体的、精神的苦痛を与えるだけではなく、人間としての尊厳をじゅうりんする極めて悪質な犯罪であり、県民に強い衝撃と多大な不安を与えている。

特に、被害者が無抵抗な少女であることを考えれば断じて許すことができない卑劣な行為である。

本県議会は、これまで米軍人・軍属等による事件・事故が発生するたびに綱紀粛正、再発防止及び関係者への教育等を徹底するよう米軍等に強く申し入れてきたところであるが、それにもかかわらず、今回、またもやこのような事件が発生したことに対し激しい憤りを禁じ得ない。

また、平成1910月1日に嘉手納基地所属隊員の家族が飲食店の女性従業員の顔面をビール瓶で殴り性的暴行を加えるという強姦致傷事件が、さらに、去る1月7日に在沖米海兵隊普天間基地所属隊員2名が無抵抗のタクシー運転手を殴打し、金銭を奪うという強盗致傷事件が相次いで発生している。

このような悪質で凶悪な事件が依然として後を絶たないことを考えると、米軍の綱紀粛正への取り組みや軍人への教育のあり方に疑問を抱かざるを得ない。

よって、本県議会は、県民の人権・生命・財産を守る立場から、今回の事件に対し厳重に抗議するとともに、下記の事項が速やかに実現されるよう強く要求する。



1 被害者及び家族への謝罪及び完全な補償を行うこと。

2 県民の目に見える形で、米軍人の綱紀粛正及び人権教育を徹底的に行うな ど実効性のある具体的な再発防止策について万全を期すこと。

3 米軍基地の一層の整理縮小を図るとともに、海兵隊を含む米軍兵力の削減 を推進すること。

 上記のとおり決議する。

 

  2008(平成20)年2月14

沖 縄 県 議 会

駐日米国大使
在日米軍司令官  
在日米軍沖縄地域調整官
在沖米国総領事
在沖米海兵隊基地司令官 あて

 

 

08年02月13日付『朝日新聞』−「社説」=米兵少女暴行―沖縄の我慢も限界だ

08年02月13日付『朝日新聞』−「天声人語」

08年03月02日付『朝日新聞』−「社説」=米兵釈放―それでも事件は消えない

08年02月13日付『毎日新聞』−「社説」=沖縄米兵事件 凶行を二度と起こさせるな

08年02月13日付『読売新聞』−「編集手帳」

08年02月14日付『読売新聞』−「社説」=沖縄米兵暴行 実効性ある再発防止策を

08年02月13日付『日経新聞』−「社説」=沖縄でなぜ事件が繰り返されるのか

08年02月13日付『産経新聞』−「主張」=沖縄少女暴行 米軍再編への影響回避を

08年02月13日付『東京新聞』−「社説」=沖縄少女暴行 繰り返した米兵の野卑

08年02月13日付『北海道新聞』−「社説」=米兵暴行事件 謝罪だけでは済まない

08年02月13日付『北海道新聞』−「卓上四季」=米兵暴行

08年02月16日付『北海道新聞』−「卓上四季」=戦闘機マジック

08年02月13日付『河北新報』−「社説」=米兵の少女暴行事件/沖縄をまたも踏みにじった

08年02月13日付『中国新聞』−「社説」=米兵少女暴行 沖縄の「我慢」もう限界

08年03月02日付『中国新聞』−「社説」=沖縄米兵不起訴 これで幕引き許されぬ

08年02月13日付『西日本新聞』−「社説」=卑劣な犯罪の再発を憤る 米兵少女暴行

08年03月02日付『西日本新聞』−「社説」=事件の教訓生かしてこそ 米兵不起訴

08年02月15日付『奥羽日報』「「社説」=目に見える再発防止策を/米兵の暴行事件

08年02月13日付『新潟日報』−「社説」=米兵少女暴行 悲劇をいつまで繰り返す

08年02月13日付『岐阜新聞』−「社説」=米兵、中3少女暴行事件 沖縄の怒りを受け止めよ

08年02月14日付『北国新聞』−「社説」=沖縄米兵少女暴行 日米の関係を損なう愚行

08年02月13日付『京都新聞』−「社説」=米兵暴行事件  沖縄の憤りに応えよ

08年02月13日付『神戸新聞』−「社説」=米兵逮捕/踏みにじられた沖縄の心

08年02月13日付『山陽新聞』−「社説」=沖縄・少女暴行 またも米兵に衝撃と怒り

08年02月14日付『徳島新聞』−【社説】=沖縄少女暴行事件  強い怒りが込み上げる

08年02月13日付『愛媛新聞』−「地軸」=沖縄米兵の犯罪

08年02月15日付『愛媛新聞』−「社説」=米兵暴行事件 再発防止へ対策の徹底を図れ

08年02月13日付『高知新聞』−「社説」=沖縄米兵の犯罪

08年02月13日付『熊本日日新聞』−「社説」=米兵少女暴行事件 沖縄の怒りを受けとめよ

08年02月14日付『熊本日日新聞』−「新生面」=沖縄・中学生暴行事件

08年02月13日付『宮崎日日新聞』−「社説」=再発防止へ地位協定を見直せ

08年02月13日付『南日本新聞』−「南風録」

08年02月14日付『南日本新聞』−「社説」=[米兵少女暴行] 沖縄県民の怒りを受け止めるべきだ

08年02月13日付『沖縄タイムス』−「社説」=米兵暴行事件

08年02月14日付『沖縄タイムス/夕刊』−「今晩の話題」

08年02月16日付『沖縄タイムス』=「大弦小弦」

08年03月02日付『沖縄タイムス』−「社説」=告訴取り下げ

08年03月02日付『沖縄タイムス』−「大弦小弦」

08年02月13日付『琉球新報』−「社説」

08年02月14日付『琉球新報』−「金口木舌」

08年03月02日付『琉球新報』−「社説」=告訴取り下げ 犯罪の容疑は消えない

08年02月15日付『しんぶん赤旗』−「主張」=米兵の凶悪犯罪 米軍の駐留を見直すときだ

 

 

08年02月13日付『朝日新聞』−「社説」=米兵少女暴行―沖縄の我慢も限界だ

 

 沖縄本島中部で、米海兵隊の2等軍曹による女子中学生暴行事件が起きた。許しがたい性犯罪がなぜ、こうも繰り返されるのか。強い憤りを覚える。

 容疑者は、沖縄市内の路上で友人と一緒にいた中学3年の女子生徒に「家まで送ってあげる」と声をかけ、オートバイで沖縄本島中部にある容疑者の自宅へ連れていった。少女は途中で逃げ出したが車で後を追い、裏通りに止めた車の中で少女に乱暴したとされる。

 容疑者は乱暴したことは否認しているというが、県警はワゴン車などを押収し裏付け捜査を進めている。

 在沖縄米海兵隊は04年6月以降、犯罪防止のため、若い隊員に対しては夜間外出を制限している。しかし、今回の容疑者は38歳であり、基地外に住んでいたため防止に役立たなかった。

 思い出されるのは、95年に起きた米海兵隊員3人による少女暴行事件である。この事件をきっかけに米兵による犯罪や事故に対する県民の怒りが大きなうねりとなり、抗議の県民集会には8万5千人が結集した。

 その結果、不平等だと批判の多い日米地位協定に対して見直しを求める声が盛り上がり、凶悪犯の身柄引き渡しなど運用面がいくぶん改善された。米軍も犯罪防止に努力するようになった。また、その後に基地の再編案が日米間でつくられたのも、この事件が原点だった。

 とはいえ、事態が改善したとは言い難い。今回と同じ沖縄市で昨年10月、米軍人の息子が強姦(ごうかん)致傷容疑で逮捕された。先月も、米海兵隊員2人によるタクシー強盗致傷事件が起きたばかりだ。

 事件や事故が発生するたびに、地元の自治体や政府は米軍に綱紀粛正や再発防止を強く求めてきた。

 米軍当局は毎回、「綱紀粛正」や「二度と事件を起こさぬ」と約束するが、事件は後を絶たない。効果のあがらない米軍の対応に、県民の怒りと不信感は頂点といっても過言ではない。

 日本にある米軍専用施設の75%が沖縄に集中する。なかでも負担になっているのは海兵隊である。海兵隊員による事件が際立っており、海兵隊の駐留に対する県民の反発は強まるばかりだ。

 今回の事件で、海兵隊・普天間飛行場の県内移設問題について、沖縄県が態度を硬化させ、米軍再編の進展に影響が生じる可能性も否定できない。

 福田首相は「許されることではない」との表現で、米軍へ改善策を強く求めた。米軍はことの重大性を認識し、再発防止に今度こそ総力をあげて取り組まなければならない。

 沖縄県民は、沖縄戦で旧日本軍によって集団自決に追い込まれた住民も出るなど筆舌に尽くしがたい体験をした。戦後は米軍基地に苦しめられている。

 日米両政府は、今度の不幸な事件を、そうした「軍」の重荷を和らげていくための出発点にすべきだ。

 

08年02月13日付『朝日新聞』−「天声人語」

 

「小さなかごに、あまりに多くの卵を入れている」。何年か前に沖縄を訪れた米国防総省の元高官は言い表した。「かご」は沖縄の本島、「卵」とは米軍基地のことだ。国土の1%にも満たない土地に、国内の米軍専用施設の75%を抱え込む。「基地の中に沖縄がある」と言われるさまは、米国高官にも異様に映ったらしい。実際に、那覇市から車で北へ走ると、フェンス囲いの「卵」が次から次へと姿を現す。小さなかごの中で、幾度となく繰り返されてきた米兵による性犯罪が、また起きた。38歳の海兵隊員が女子中学生に暴行した疑いで逮捕された。家まで送ると言って誘い、車内で乱暴したという。少女は泣きながら携帯で助けを求めた。島の怒りの源流は、1955年にさかのぼる。海岸で女の子の遺体が見つかった。雨に打たれ、手を固く握りしめていた。沖縄を怒りで震わせた「由美子ちゃん事件」である。6歳の子は米兵に暴行され、殺された。あまりのむごさに、島ではしばらく、生まれた子に「由美子」と名づける親はなかったと聞く。以来、米軍は事件のたびに「良き隣人になる」と誓いをたてた。だが、そのつど裏切る。沖縄には怒りのマグマが蓄えられていった。そのマグマは、95年の少女暴行事件で爆発する。米軍は綱紀粛正を約束した。だが、嵐の日の約束は晴れれば忘れられるのか、その後も犯罪はいっこうに絶えない。そして「またか」の涙である。50年一日のように事件を繰り返されては、「汝(なんじ)の隣人を愛」せるわけがない。

 

08年03月02日付『朝日新聞』−「社説」=米兵釈放―それでも事件は消えない

 

 14歳の女子中学生に乱暴したとして沖縄県で逮捕された米海兵隊の2等軍曹が、不起訴処分となって釈放された。被害を受けた少女が、告訴を取り下げたからだ。

 少女は取り下げの理由について「これ以上かかわりたくない。そっとしておいてほしい」と述べたという。

 こうした性犯罪は、被害者のプライバシーを守る必要もあり、告訴がなければ起訴できない。米兵は日本の司法の場では裁きを受けないことになった。

 だが、捜査は打ち切られても、疑いが晴れての釈放とはまったく違う。強姦(ごうかん)の容疑を否認し続けた米兵自身も、取り調べに対して「少女に関係を迫った」ことまでは認めた。米兵のしたことは決して許されない。

 米兵の身勝手な行動によって少女が受けた心の傷を思うと、なんとも痛ましい。米兵と一緒にいたときの恐怖は、どれほどだったろう。逃げ出して保護されたあと、やりきれない悔しさや怒りも覚えたに違いない。

 そんな思いをした少女の告訴取り下げである。この決断は、性犯罪がどんなに女性を傷つけるかも示している。

 強姦や強制わいせつなどの被害にあった女性にとって、警察へ訴え出るのは、ただでさえ勇気がいる。細かく事情を聴かれるよりは、「早く忘れたい」と泣き寝入りをする人も多い。いったん出した告訴の取り下げもしばしばある。これ以上、傷つきたくないと思うからだ。

 ましてや今回、少女の肩にのしかかった重圧は、想像にかたくない。

 米兵が逮捕されたことは、沖縄にとどまらず、全国を揺るがすニュースとなった。事件への注目が集まり、米兵や基地への批判の声が高まった。裁判になれば、さらに世間の目にさらされる。

 事件の発覚後、ネットなどに「少女の行動にも甘さがあった」などという批判が載った。だが、いくら警戒心を持っていても、防げないことはある。心ない中傷は、少女をいっそうつらい状況に追い込んだのではないか。

 米兵による事件の根絶を訴えてきた地元には、告訴取り下げに戸惑いもあるだろう。しかし、少女の決断を重く受け止めるしかあるまい。

 もちろん、米兵をめぐる問題がこれで解決したわけではない。沖縄では、95年に起きた米海兵隊員3人による少女暴行事件のあとも、米兵の犯罪や事故がいっこうになくならない。米軍当局が「綱紀粛正」を約束しても、事件が繰り返されてきた現実がある。

 釈放された米兵について米軍は独自の調査を続けるようだ。沖縄のほか、山口県岩国市では軍人らの基地外への外出も禁じられた。再び同じような事件が起きないよう対策を徹底してもらいたい。

 それが、不安と怒りをぬぐえずにいる基地の地元と、なによりも被害にあった少女に対する米軍の責任である。

 

 

08年02月13日付『毎日新聞』−「社説」=沖縄米兵事件 凶行を二度と起こさせるな

 

 またも忌まわしい事件が繰り返された。

 沖縄県北谷(ちゃたん)町で、在沖縄米海兵隊に所属する38歳の兵士が中学3年の少女に性的暴行を加えたとして逮捕された。地元警察の調べによると、米兵は「家まで送るから」と言葉巧みに少女を誘い出したという。悪質極まりない凶行だ。

 「基地の島」を強いられてきた戦後沖縄史の転機になったのが、95年の少女暴行事件だった。小学生の幼い女児を米海兵隊員3人が車で拉致して襲ったこの事件は、沖縄県民の怒りを爆発させた。今回の事件はそれを彷彿(ほうふつ)とさせる。

 事件が発覚した11日以降、外務省や防衛省、沖縄県はただちに各レベルで米側に米兵の綱紀粛正や再発防止の徹底を申し入れた。閣僚も「もういいかげんにしてくれ」(高村正彦外相)などと口々に非難しているが、事件の深刻さを考えれば当然だ。

 問題は、95年以降も米兵による性的犯罪が後を絶たないことだ。沖縄の苦しみは、基地が存在することによる直接的な重圧とともに、基地外での米兵の行動がもたらしていることを、政府は改めて認識する必要がある。

 在沖縄米軍は、不祥事の再発防止策として基地内に居住する若い兵士を対象に、04年から深夜の外出を制限しているという。しかし、今回の容疑者は日本人女性と結婚(現在は別居中)したため、基地外に住むことを許可されていた。現在の綱紀粛正策が不十分であることを証明した形だ。

 また、今回は基地外に住んでいた容疑者を警察が緊急逮捕しているが、基地内居住の容疑者だった場合、その身柄を日本側で確保できる保証はない。

 95年の事件を受けて、米国側は殺人や強姦(ごうかん)などの凶悪犯罪の場合に限って日本側に「好意的な考慮を払う」ことに同意した。容疑者の身柄については、日米地位協定の改正をせずに、運用の改善で取り組むことにしたものだ。ただ、そのあいまいさは火種として残っている。

 石破茂防衛相は「単に米兵1人の犯罪ではなく、日米同盟の根幹にかかわるとの認識に立つなら、再発防止や綱紀粛正を申し入れただけで済むとは思わない」と記者会見で語っている。

 在日米軍は日本の安全保障にとって不可欠と政府は繰り返してきた。そうであるならば、政府は型通りの申し入れで米側に期待するのではなく、国民とりわけ沖縄県民が納得し、安心して暮らせるような不祥事根絶策を米軍に約束させるべきだ。

 事件は、米空母艦載機の移転が争点になった山口県岩国市長選の投票当日に起きた。政府内では「事件が数日早かったら、選挙結果が違っていたかもしれない」とささやかれている。関係当局に不謹慎な想定をする余裕はないはずだ。

 

08年02月13日付『読売新聞』−「編集手帳」

 

 沖縄出身の詩人、山之口貘(やまのくちばく)に「世はさまざま」と題する詩がある。人はコメを食い、羊は紙を食う。血を吸って生きる虫もいる。「さうかとおもふと琉球には/うむまあ木といふ木がある」「いつも墓場に立つてゐて/そこに来ては泣きくづれる/かなしい声や涙で育つといふ」。そういう木があっても不思議ではない歴史が沖縄にはある。歳月が流れようとも戦没者を悼む嗚咽(おえつ)や涙に終わりはないが、許しがたいのは、新たな嗚咽の種、涙の種をまいて恥じない不届きな輩(やから)である。沖縄でまた、少女が被害に遭った。米海兵隊の軍曹が女子中学生に乱暴した強姦(ごうかん)容疑で逮捕された。14歳の少女が負った心の傷はいつ癒えるのだろう。「かなしい声や涙で育つ」木の背丈が、また伸びた。事件のたびに米国は再発防止を約束し、悲劇を繰り返す。日米両国の安全保障が人間の体ならば、一つひとつの事件は小指の傷にすぎない、とでも考えているのか。小指を深く傷つけたことのある人ならば知っている。ずきずきと全身が痛み、発熱し、ときに夜も眠れないことを。木の丈は憎しみの丈でもある。嗚咽と涙が積もり積もれば、国防における米軍の重みは重々承知している日本人も、やがては全身から高熱を発するだろう。「さよなら」の“うわごと”は米国も聞きたくないはずである。

 

08年02月14日付『読売新聞』−「社説」=沖縄米兵暴行 実効性ある再発防止策を

 

許し難い犯罪だ。日米両政府は、同盟関係の信頼性を守るためにも、実効性ある再発防止策の早期策定と徹底に全力を挙げる必要がある。

 在沖縄米海兵隊の2等軍曹が沖縄県北谷町で14歳の女子中学生に乱暴し、強姦(ごうかん)容疑で県警に逮捕された。「家に送る」と言って、乗用車に乗せ、車内で犯行に及んだという。

 那覇、沖縄両市議会は米政府に抗議する決議を採択した。沖縄県議会も14日に同趣旨の決議を行う。沖縄では、1995年に米兵3人の女児暴行事件が起きている。その後も、同様の事件が繰り返されてきた。地元の憤りは当然だろう。

 米国のトーマス・シーファー駐日大使とブルース・ライト在日米軍司令官は、急きょ沖縄を訪れ、仲井真弘多知事に謝罪した。捜査への全面協力と在日米軍の綱紀粛正も約束した。

 求められているのは、その場しのぎでなく、効果的な再発防止策だ。

 在沖縄海兵隊には、着任した隊員を対象に2日間の研修制度がある。基地内に住む3等軍曹以下は原則、深夜の外出が禁止されている。週末には米軍関係者が繁華街をパトロールしている。

 しかし、こうした対策による事件の防止効果は限定的だった。

 たった一人の米兵の心ない行為が日米同盟を揺るがしかねない。そのことを、在日米軍約3万3000人の全員に対し、組織的に繰り返し教育する制度が必要だ。米兵の外出規制や巡回態勢の強化も検討すべきだ。

 日米両政府は、今回の事件が在日米軍再編に悪影響を及ぼさないよう連携して対処しなければならない。

 2014年までに宜野湾市の普天間飛行場を名護市に移設する。海兵隊司令部要員ら米兵8000人はグアムに移転する。この計画を遅滞なく実施することこそが、在日米軍基地の74%が集中する沖縄の負担軽減の近道である。

 女児暴行事件を機に、日米両政府は96年に普天間飛行場の県内移設で合意した。だが、当初の移設計画は、地元の反対などで頓挫した。その二の舞いは許されない。沖縄県と関係市町村は、事件の再発防止の観点からも、再編計画の進展に協力してほしい。

 日本の安全保障にとって、在日米軍の抑止力は不可欠である。いかに米軍基地と地元との摩擦を減らし、「良き隣人」の関係を築くかが問われている。

 事故防止のための安全対策、騒音被害の軽減、米兵と周辺住民との交流を通じた相互理解の促進など、様々な角度から日米双方が努力することが重要だ。

 

08年02月13日付『日経新聞』−「社説」=沖縄でなぜ事件が繰り返されるのか

 

 ひとりの不心得者の行為によって国と国の関係が深く傷つく。沖縄で起きた米海兵隊2等軍曹(38)による女子中学生暴行事件はまさにそれである。1995年の少女暴行事件を思い出させる。

 日米両政府は、米軍に綱紀粛正を徹底させ、具体的な再発防止策を打ち出す必要がある。それは日米同盟の根幹にある信頼性にかかわる。
 強姦の疑いで逮捕された容疑者は「押し倒したりキスしたりしたが、暴行していない」と容疑を否認しているというが、中学生に無理やりにそんな行為をしたとすれば、それだけでも普通の大人の行動ではない。周辺住民は恐怖を感じる。

 日本側の捜査によって事実関係が明らかにされ、裁判で処分が決められるのは当然である。

 日米同盟を揺るがした95年の事件の後、米軍当局は在日米軍のすべての兵士に対し「1人ひとりが外交官たれ」と訓示してきた。再発防止教育に努めてきたはずである。

 にもかかわらず、このような事件が起こるのは13年という時間の経過のせいなのだろうか。教育に足りない点があったとすれば、容疑者だけでなく、関係者に対する米軍内部での厳しい処分も必要になる。
 95年の事件を受けてできた日米特別行動委員会(SACO)の合意には、沖縄の基地負担の象徴である普天間基地の返還が含まれていた。しかし代替施設の建設が遅れ、いまだに実現していない。

 このため2006年5月の日米合意では、14年までの普天間代替施設の完成、8000人の海兵隊要員のグアム移転などが決まった。合意が実施されれば、段階的にせよ、沖縄の基地負担は減る。

 今回の事件は、合意の実施にとって障害になりかねない。普天間代替施設の建設は沖縄県内では新たな基地の建設ととらえられ、反対論がある。事件によって反対論が強まるのは自然な流れである。

 一方、米側は海兵隊のグアム移転と普天間代替施設の建設などは再編のなかでの一連の要素と考える。したがって普天間代替施設の建設が遅れれば、グアム移転も遅れ、沖縄の基地負担は現状のまま続く。

 日米両政府にとって重要なのは、沖縄県民が納得、安心できるような再発防止策の約束、実行であり、日米合意の実施によって基地負担が減る展望を具体的に説明する作業だろう。事件が再編の実施を妨げれば、沖縄の負担軽減が遅れる。

 福田康夫首相は早急に沖縄に行く必要がある。

 

08年02月13日付『産経新聞』−「主張」=沖縄少女暴行 米軍再編への影響回避を

 

 起きてはならないことがまた起きてしまった。沖縄の米海兵隊2等軍曹が少女暴行容疑で逮捕された事件は、米兵犯罪の根絶を求めてきた沖縄の県民感情を深く傷つけた。日米両国は厳正な捜査と再発防止に全力をあげ、政治問題化しないように最大の誠意をもって事件の解決にあたるべきだ。

 1995年に起きた少女暴行事件では、日米地位協定による被疑者の扱いなどで紛糾、日米同盟を揺るがす政治問題に発展した。1年後、普天間飛行場移設を含む日米特別行動委員会(SACO)合意が結ばれ、これを継承する形で米軍再編事業が10年を経て動き始めたさなかにこの事件が起きた。

 SACO合意も、06年に合意した米軍再編計画も、最大の目標は日米同盟の抑止力強化と、基地負担軽減の2つにある。とくに沖縄は全国の米軍基地の75%が集中している。基地がもたらす物理的、心理的負担に米兵犯罪も含まれるのは言うまでもない。

 それだけに、反基地感情がエスカレートして米軍再編に支障をきたすような事態は、何としても防がなければならない。事件解決に加えて、それが日米両国の政治に課せられた重要な課題である。本来、基地負担を減らすための再編計画にブレーキがかかるようでは本末転倒になるからだ。

 それは日米同盟にもマイナスで、県民の平和と安全にもつながらない。高村正彦外相が「(日米関係などに)影響がないことはあり得ない」(12日)との憂慮を示したのも、そういう意味からだろう。

 地元の理解を得て米軍再編を進めるには、県民感情へのこまやかな配慮と冷静な行政判断が欠かせない。少女を狙った悪質な事件に弁明の余地はなく、仲井真弘多県知事らが強く抗議したのは当然である。

 日米両当局は、こうした怒りを正面から受け止めた上で、事件の解明と厳正な手続きを進めなければならない。「再発防止」を空念仏に終わらせないように、地元と密接に協力して新たな対応策を練ることも必要になる。

 米兵の犯罪は沖縄だけの問題ではない。地元民に納得のゆく解決を果たせるのかどうかを、米軍再編にからむ全国の自治体が見ている。日本政府はそのことも忘れないでもらいたい。

 

08年02月13日付『東京新聞』−「社説」=沖縄少女暴行 繰り返した米兵の野卑

 

 事件が1日早かったら山口県岩国市長選もどうなっていたか分からない。住民に不安を増大させる米兵の少女暴行事件が沖縄でまた起きた。再発防止は何度も聞いた。政府は根絶へ本腰を入れよ。

 米空母艦載機の移転容認派が当選した岩国市長選投票日の10日夜、事件は起きた。米海兵隊キャンプ・コートニーの2等軍曹が沖縄市内で3人連れの少女に声を掛け、1人を自宅へ誘い込んだ。少女が泣きだすと車で連れ出し、車内で暴行したとして沖縄署が逮捕した。米兵は容疑を否認している。

 沖縄県の仲井真弘多知事は「女性の人権を蹂躙(じゅうりん)する重大な犯罪だ」と非難、怒りの渦が広がっている。国民の平和と安全を守るはずの日米同盟が、国民に恐怖感を与える事態を招くことなど、本来あってはならない。なのに、私たちは何度米兵の野卑の報に接してきたのか。

 1955年、米海兵隊員3人が小学生女児を暴行した事件は国内外に衝撃を与えた。事件を機に日米両政府は米軍普天間飛行場の返還で合意し、米軍の特権などを定めた日米地位協定の運用改善で一致したが、米兵の不祥事は後を絶たない。

 その度に政府は米側に綱紀粛正と再発防止を求めてきたにもかかわらず、である。一連の事件が同盟の根幹にかかわる問題との認識が両政府ともに希薄ではなかったか。

 事件は普天間飛行場の移設問題にも影響を与えよう。移設先の名護市などが滑走路建設に向けた環境影響評価(アセスメント)の調査開始に基本合意したことを受け、政府は米軍再編交付金を支給する意向だ。手詰まり状態から一歩前進しつつあったが、事件で住民が移設に反発を強めるのは必至。米軍基地を抱える全国自治体への影響も大きい。

 政府に求められるのは、カネにものをいわせて押し切る政策ではない。米側に毅然(きぜん)とした態度で臨む一方、住民と丁寧に対話することが基本だ。福田康夫首相は「大変大きな問題だ。しっかり対応してほしい」と指示した。これまで目についた人ごとのような姿勢は許されまい。

 日米地位協定の見直しを検討すべきときだ。米側が容疑者を逮捕した場合、日本の検察が起訴するまで米側が身柄拘束するため、十分な捜査が阻まれるなど不平等な点が多い。運用改善で米側も柔軟に対応するようになったが、あくまで米側の裁量に委ねられる。

 今回はこのケースを免れたが、改定も視野に入れる強い態度で臨むことが事件根絶への近道ではないか。繰り返される悲劇に終止符を打つような具体策づくりを急げ。

 

08年02月13日付『北海道新聞』−「社説」=米兵暴行事件 謝罪だけでは済まない

 

 こんな許しがたい事件が、いったい何度繰り返されるのだろう。

 沖縄県で米海兵隊員が中学生の少女を暴行した疑いで逮捕、送検された。

 この10年ほどをみても、沖縄のみならず国内の米軍基地があるまちで、同じような犯罪は後を絶たない。

 米軍の規律が緩んでいるとしか思えない。米政府が被害者に誠意ある謝罪と補償をするのは当然だ。併せて隊員の教育や管理のあり方を点検し、もっと真剣に再発防止策を講じるべきだ。

 事件が起きるたびに、日本政府は米国に抗議してきた。それでも悲劇はなくならない。

 今回も福田康夫首相は「米国としっかり交渉していく」と語った。基地のまちの住民の思いを裏切らぬよう、その言葉にたがわぬ対応を求めたい。

 米兵による事件や事故がとりわけ深刻なのは在日米軍施設の75%が集中する沖縄だ。県内で昨年、刑法犯で検挙された米軍関係者は46人に上る。

 2004年には大学のキャンパスに海兵隊のヘリコプターが墜落する事故があった。住宅地に破片が飛び散り、危うく難を逃れた住民もいた。

 米軍がいるために生命の危険と隣り合わせの生活を強いられる。それが基地の島・沖縄の現実にほかならない。

 普天間飛行場の県内移設に強い抵抗があるのも、県民の不安を根本的に解消することにはならないからだ。

 米兵が事件・事故を起こすたびに問題になるのが、日米安全保障条約に基づく地位協定だ。

 今回は公務外の事件で、沖縄県警が米兵を緊急逮捕した。だが地位協定では、在日米兵の犯罪容疑者は起訴までは米側が身柄を拘束できる。

 1995年に、やはり沖縄で小学生の少女が暴行され、県民の怒りが大きなうねりとなったことがある。

 この事件のあと、殺人や女性暴行などの凶悪事件については、起訴前の身柄引き渡しに米側が「好意的配慮を払う」よう「運用改善」が図られた。住民の人権を踏みにじる犯罪で「好意的配慮」とはあきれるばかりだ。

 大学のヘリ墜落事故の際には、米側が地位協定に基づき日本側の捜査を拒否した。

 こんな不平等な地位協定の見直しも必要だ。ドイツでは駐留米軍に対し国内法順守が定められている。対等な国同士なら当たり前のことだ。そういう議論を国会でしてもらいたい。

 13年前、少女暴行事件に抗議する県民大会で、壇上から女子高校生が訴えた言葉をいま一度思い出したい。

 「静かな沖縄、悲劇のない沖縄を返してください」

 この願いはまだ実現していない。

 米軍基地の整理・縮小という沖縄県民の声を真摯(しんし)に受け止め、実行していく責任が日米両政府にはある。

 

08年02月13日付『北海道新聞』−「卓上四季」=米兵暴行

 

海がある限り、波はいく度でも打ち寄せる。沖縄の白い砂浜はわたしたちを和ませる。基地がある限り、事件は何度も繰り返すのか。米海兵隊員による女子中学生暴行で、沖縄は再び憤りに包まれた。まだ14歳である。1995年の暴行事件では、12歳の小学生が被害を受けた。当時も再発防止を約束した。その後も、女性暴行やひき逃げ、放火など、米軍関係者の犯罪はやまなかった。空約束だ。2000年の沖縄サミット前にも中学生が狙われた。サミットの際にクリントン大統領が謝罪し、綱紀粛正を訴えた。だが効果なしだ。県内の刑法犯摘発者は、昨年だけで46人になる。日本政府はどちらを向いているのか。事件の日、岩国市長選があり、米軍機移転を容認する新人が勝った。移転に反対する市政への補助金を止めて兵糧攻めにし、市長交代を余儀なくさせたのが政府だ。米艦寄港を認めない小樽市が受けた圧力も同じだろう。米艦は小樽、石狩湾新港に続き、近く久しぶりに釧路に入港する。釧路空港には昨年、緊急性がないのに米軍機が降りた。米軍は北海道に何をみているのか。千歳基地には、米軍戦闘機の訓練が移ってくる。米軍は自らの世界戦略に沿って動く。政府は応援を買って出る。住民の不安は後回しである。沖縄の事件も、道内の動きも、この点で根はつながっている。海がある限り、波はやまない。

 

08年02月16日付『北海道新聞』−「卓上四季」=戦闘機マジック

 

手品師たちは昔から、観客に怪しまれない動きをしながらトリックを用意したそうだ。例えばさりげなくポケットに手を入れる。観客は「何か種があるのではないか」と疑いながらその手に注目する。手品師はハンカチを取り出す。汗をふいてポケットに戻す。「何だ、それだけか」。観客は納得して視線を移す。そこで手品師はポケットから手を出す。手にはもちろん、隠していたものを握っている。そんな舞台でも見るようだ。在日米軍再編に伴う訓練移転で、千歳基地を使った日米共同訓練が25日からと決まった。飛んでくるのは、米軍岩国基地のFA18戦闘攻撃機だという。おや、いつの間に岩国基地からになったんだっけ?。沖縄には基地が集中している。負担を少しでも軽減するための移転だ、と政府は繰り返し説明してきた。ならば仕方ない、と納得した人は少なくなかったはずだ。その結果、受け入れが決まった。だまされた思いがするのは、地元ばかりではあるまい。「実は全国の基地を米軍が自由に使えるようにするための再編だ」。そんな指摘は当初からあった。種明かしをされてみれば、その懸念がますます深まるようだ。沖縄の負担軽減という建前から切り離されるなら、千歳を使った訓練はなし崩し的に増えかねない。「訓練移転」の言葉がトリックめいている。これは千歳への「訓練拡大」ではないのか。

 

08年02月13日付『河北新報』−「社説」=米兵の少女暴行事件/沖縄をまたも踏みにじった

 

 2度と起こしてはならない事件だった。沖縄県の人たちはもちろん全国の多くの人が、怒りと許し難い思いに包まれているはずだ。

 沖縄駐留の米海兵隊員による女性暴行事件がまた起きた。11日、中学3年の少女(14)に対する強(ごう)姦(かん)の疑いで、米海兵隊キャンプコートニーに所属する2等軍曹タイロン・ハドナット容疑者(38)が逮捕された。

 1995年9月には小学生の女の子が被害に遭った。子どもをターゲットにした凶悪な性犯罪を根絶できないようでは、在日米軍基地への理解など進みようがない。どれほど再発防止策を聞かされても、消しようのない不信が残るばかりだ。

 沖縄県警によると、事件は10日午後10時半ごろ、県中部の北谷町で起きた。公園前の路上に止めた車の中で暴行した疑いが持たれている。犯行現場はキャンプコートニーとは離れているが、ハドナット容疑者が住む北中城村からはほど近い。

 調べでは、ハドナット容疑者は10日午後8時半ごろ、沖縄市内のアイスクリーム店を出た少女3人に英語や日本語で声を掛けたという。ハドナット容疑者は3人のうちの1人をオートバイに乗せ、いったん自分の家に連れて行ってわいせつ行為を迫った。

 泣きだした少女を今度は「送ってあげる」と車に乗せた。少女はドライブの最中に逃げようとしたが、道が分からずまた車に乗り、その後に暴行を受けたという。

 少女は1時間以上、ハドナット容疑者と一緒にいたことになる。ハドナット容疑者は「押し倒したりキスしたりはしたが、暴行はしていない」と逮捕容疑を否認しているというが、少女の恐怖心を想像するだけでも胸が痛む。

 北谷町や沖縄市、さらに沖縄県が米海兵隊基地司令部などに強く抗議した。県は95年の事件を引き合いに「このようなことが続けば県民の怒りは大変なものになる」と抗議したが、既に大きな怒りを呼んでいることだろう。

 13年前の事件と重なるのは沖縄をはじめ、全国の人にとっても当然であり、米国は本気で再発防止を図ったのか不信感が募るばかりだ。

 沖縄では95年10月、8万5000人もの県民が参加した集会が開かれ、前回の事件への抗議と米軍基地の縮小を求めた。それが普天間飛行場移設のきっかけになった。

 ところが女性や子どもを狙った性犯罪は後を絶たない。駐留する米兵らの規律をいくら求めても効果がないのであれば、基地の撤廃を要求するしか道はなくなる。

 政府はまず外交ルートで最大限に抗議し、十分な謝罪と補償、徹底的な再発防止策を求めなければならない。何よりも地元沖縄の意思を大切にすべきだ。

 沖縄で相次いだ事件は、そこに住み、生活している人の心を深く傷付けた。基地の負担を強いられ、何度も傷付けられた沖縄の人たちの気持ちを決して粗末にしてはならない。

 

08年02月13日付『中国新聞』−「社説」=米兵少女暴行 沖縄の「我慢」もう限界

 

痛ましい犠牲者が、また沖縄で生まれた。米海兵隊員による中学3年の少女(14)暴行事件である。絶対に許されることではない。強い怒りを覚える。

 沖縄では1995年にも、米海兵隊員3人が小学生女児を車で連れ去って乱暴する事件が起きている。党派を超えた県民ぐるみの糾弾集会が開かれ、抗議は全国にも波及。基地への視線は一層厳しくなった。

 再発を防止するため、米軍は対策を講じてきたはずだった。なぜ防げなかったのか。

 若い兵隊の外出制限や隊員教育の充実を進めてきたという。沖縄県内での米軍人・軍属や家族らによる刑法犯の検挙者数は、2004年から4年続けて減っている。効果が出ている、といえるかもしれない。

 しかし、今回逮捕された容疑者は38歳。外出制限の対象ではなく、基地の外に住んでいたという。これまでに強めてきた管理の枠組みから外れていた可能性がある。もっと対象を広げるなど、さらに実効性を高めることが欠かせない。

 住民の不安は、地元だけではなく、米軍基地を抱える全国の街でも高まっている。不起訴になったとはいえ、昨年10月には、米海兵隊岩国基地所属の4人が広島市内で19歳の女性を集団暴行した疑いが持たれた。米兵による事件や事故は、決して人ごとではない。

 基地を減らすよう求める声が大きくなるのは当然である。在日米軍の再編計画にも影響を与えそうだ。沖縄県名護市や神奈川県座間市など、反対の動きが強まる可能性もある。

 日米地位協定の改定も急がれる。現行犯逮捕の場合などをのぞき、日本側が起訴するまで容疑者の身柄を米軍が拘束できるなど不平等な規定が残る。95年の女児乱暴事件を受け、弾力的運用もできるようにはなった。殺人はじめ凶悪な犯罪での起訴前の引き渡しなどだ。ただ、米兵の犯罪に歯止めがかかっていない以上、より踏み込んだ対応が求められる。

 在日米軍専用施設の8割近くが集中する沖縄県。今回、いびつな現状が再び突き付けられた。基地との共生を強いられ、日々積み重ねてきた我慢は、もはや限界にきているのではないか。国民も政府も、もっと沖縄の痛みに敏感になるべきだろう。時間をかけて粘り強く、在日米軍の在り方を抜本的に見直していく必要がある。

 

08年03月02日付『中国新聞』−「社説」=沖縄米兵不起訴 これで幕引き許されぬ

 

 被害者の少女や家族、友人たちは今、どんな思いでいるのだろうか。その心情を推し量ると、やりきれなさが募る。同じ年ごろの子を持つ親ならなおさらだろう。

 沖縄の女子中学生暴行事件で、那覇地検はおととい、強姦(ごうかん)容疑で逮捕、送検された在沖縄米海兵隊の2等軍曹(38)を不起訴処分にし、釈放した。容疑が晴れたわけではない。「もう、そっとしてほしい」と被害者側が告訴を取り下げ、捜査を続けることができなくなったためである。

 刑法は、強姦や強制わいせつなどの性犯罪について、被害者のプライバシー保護を重視。犯罪事実の有無に関係なく、被害者が告訴しなければ起訴できない仕組みになっている。

 裁判になれば、公判廷で検察、弁護側双方から容疑内容について詳細な質問を受ける可能性もある。傍聴席から見えないように遮へい物を置くなど被害者への保護措置が講じられたとしても、多感な少女がどこまで耐えられるか。検察側は「被害者の感情を考えれば、強姦以外の罪を適用して起訴するのも適当ではないと判断した」としている。苦渋の決断ぶりがうかがえる。

 こうした経緯を見る限り、検察側の不起訴処分でむしろ、この事件の抱える深刻さがはっきりしてきたのではないか。米海兵隊は軍曹の身柄を拘束し、基地内で引き続き調べているとされる。シーファー駐日米大使はきのうの福田康夫首相との会談で捜査継続の方針を明言したという。

 当然のことだ。今回の事件のように被害者側がやむを得ない事情で告訴を取り下げたらどうなるか。苦境に乗じる形で安易な幕引きを図るようでは、関係者や地域住民の理解はとても得られまい。

 広島市内では07年10月、米海兵隊岩国基地(岩国市)の米兵4人が19歳の女性に集団で暴行したとされる事件が起きた。検察側が嫌疑不十分で不起訴にした後、米軍側は独自の捜査を継続。先月半ばには軍法会議にかけるかどうかを決める予備審問を公開した。地に落ちた信頼を取り戻すための努力は惜しむべきではない。

 沖縄では13年前にも、米兵3人が買い物帰りの女子小学生を住宅街で車に拉致して暴行する事件が発生。不平等との批判が根強い日米地位協定の一部見直しにつながった。対等な日米関係を築くためにも、地位協定の見直し論議も深める必要がある。

 

 

08年02月13日付『西日本新聞』−「社説」=卑劣な犯罪の再発を憤る 米兵少女暴行

 

 中学3年の少女(14)を暴行したとして米兵が強姦(ごうかん)容疑で逮捕される事件が、沖縄でまた起きた。

 多くの米軍基地を抱える沖縄県の人々ならずとも、強い憤りと不安を禁じ得ない。許されない深刻な事件である。

 逮捕・送検された米兵は容疑を否認しているという。まずは事実関係の究明と、日本の司法手続きによって法と証拠に基づく厳正な対処を求めたい。

 事件は、1995年秋に起きた米兵3人による小学生女児暴行事件を想起させる。日米間で大きな問題となった、あの事件の教訓はどこへ行ったのか。

 過去5年を振り返っても、沖縄で、佐世保で、横須賀で、厚木で、広島で、近くの米軍基地や停泊艦船の米兵らによる女性暴行事件や女性殺傷事件が毎年起きている。

 事件が起きるたびに幾度も繰り返されてきた「再発防止」や「軍の綱紀粛正」の言葉がむなしい。

 今回の事件は、不埒(ふらち)な一米兵の犯罪で済まされる問題ではない。在日米軍全体に日本人に対する人権意識が欠如しているのではないか。そう疑いたくなる卑劣な犯罪である。

 米国が今後も沖縄や日本本土に基地を置き続けるというのなら、今度こそ米軍挙げて再発防止に向けた教育と綱紀粛正に全力で取り組むことが不可欠なのは、言うまでもない。

 この種の犯罪が根絶できなければ、沖縄だけでなく米軍基地を抱える各地の住民不安が増大する。そうなれば、米軍再編もあったものではない。

 日本政府も「過去に何度も起きており重大なことだと受け止めている」(福田康夫首相)「綱紀粛正と再発防止の徹底を米政府に申し入れた」(外務省)と言うだけでは済まない。

 遺憾表明や再発防止の申し入れが、普天間飛行場移設計画や在日米軍再編計画への影響や沖縄の反基地感情の再燃を懸念してのものだとすれば、政府は事を見誤ることになろう。

 95年の女児暴行事件では、沖縄県民の怒りと不安が日米安保体制を揺るがす反基地運動に広がった。日米両政府は地位協定の運用を見直し、当時のクリントン大統領が陳謝したことで、1年がかりで沈静化させた経緯がある。

 政府は、女子中学生が被害者となった今回の事件をこの時以来の「人権を蹂躙(じゅうりん)する重大な犯罪」と受け止め、人権上の問題として日米両政府の共同協議のテーブルに載せ、抜本的な再発防止策を検討すべきだ。

 必要ならば、沖縄米軍基地の一層の整理・縮小や、在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の改定、在日米軍再編計画の見直しについても協議する。

 再発防止の徹底と日米の信頼関係をつなぎ留めるために、日米両政府にそれくらいの責任と覚悟を求めたい。

 

08年03月02日付『西日本新聞』−「社説」=事件の教訓生かしてこそ 米兵不起訴

 

 女子中学生に暴行したとして強姦(ごうかん)容疑で逮捕された在沖縄海兵隊所属の米兵が不起訴処分となり、釈放された。

 被害者の中学生が告訴を取り下げ、加害者を刑事訴追することができなくなったためだ。

 日本の司法制度の下では、事件はこれで刑事上は終結するが、米軍基地を抱える地域の不安が消えるわけではない。

 とりわけ、米軍基地が集中する沖縄では、米兵による犯罪が頻発する現実とどう向き合うか。いつまでも続く不安をかえって浮き彫りにした。

 事件が「灰色決着」したことで、事件の背景にある本質的な問題をあいまいにしてはならない。

 この事件を教訓に、日米両政府は米軍の綱紀粛正と再発防止に向けた取り組みを一層強めるべきだ。それを怠れば、この種の事件は今後も繰り返さ

れる。

 捜査当局よると、逮捕された米兵は取り調べに対し強姦容疑は否認したが「性的行為を迫った」ことは認めており、那覇地検では強姦未遂罪での起訴も含め、慎重に捜査を進めていた。

 地検によると、被害者の女子中学生は「もう、そっとしておいてほしい」として告訴を取り下げたという。

 刑法の強姦罪や強制わいせつ罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない「親告罪」である。被害者が告訴を取り下げれば、犯罪事実の有無にかかわらず、検察が起訴して加害者の刑事責任を問うことはできない。

 性犯罪では、事件が公になることでかえって被害者が傷つくケースは多い。加えて、捜査や裁判で詳細な供述や証言を求められる。「親告罪」は被害者のそうした「つらさ」や「2次被害」を考慮した制度でもある。

 今回の被害者は中学生の少女である。犯罪被害以外での「つらい思い」に耐えられなかったことは想像に難くない。

 地元紙・琉球新報によると、事件直後から被害者の少女に対する中傷や非難があったという。

 ネット上にも被害少女らを中傷する書き込みが続いた。「すきを見せる少女が悪い」「簡単に誘いに乗るからだ」

 加害責任を問うどころか、まず被害者を非難する。信じたくない浅ましい行為だ。責めを負うべきは加害者であって、決して被害者ではない。たとえ被害者に多少の軽率さがあったとしても、犯罪行為が正当化されるはずはない。

 今回の告訴取り下げは、この種の犯罪の被害者をどう支えていくかという問題をも突きつけた。

 事件の捜査は米軍当局が身柄を拘束して継続し、処分を判断するという。米国の国内法と証拠に基づく厳正な捜査と判断を求めたい。

 その結果がどんなものになろうと、沖縄基地の米兵の行為が少女の人権を蹂躙(じゅうりん)したという事実は消えない。

 

08年02月15日付『奥羽日報』「「社説」=目に見える再発防止策を/米兵の暴行事件

 

 米海兵隊所属の38歳になる2等軍曹が、中学3年の少女を暴行したとして、強姦(ごうかん)の疑いで沖縄県警に逮捕され、送検された。

 沖縄では1995年に米海兵隊員3人が小学生女児を暴行する事件が起き、沖縄県民の反基地感情が一挙に高まった。日米安保体制を揺るがした。

 米側も今回の事件を深刻にとらえているようだ。ライト在日米軍司令官は14日の記者会見で、再発防止策について「1カ月以内に結論を出したい」と述べた。米兵の夜間外出禁止令の強化や立ち入り禁止区域拡大も検討対象としている。

 日米両政府は沖縄県民の怒りをしっかりと受け止めて、実効性のある再発防止策をつくるなど早急に対応する必要がある。

 米側はこれまでも事件防止策を講じてきたはずだが、95年以降も米兵による事件が後を絶たないのが実態だ。沖縄県民だけでなく、日本国民全体の目に見えるような対策を打ち出してほしい。

 シーファー駐日米大使は、沖縄県の仲井真弘多知事を訪ね陳謝するとともに、高村正彦外相にも陳謝し事件の真相究明に全面協力する考えを示した。外相は「これまで何度も綱紀粛正を求めたにもかかわらず事件が起きた。はなはだ遺憾だ」と強く抗議。再発防止への継続的な努力を求めた。

 日米双方が事態の沈静化に躍起となっているのは現在、在日米軍再編計画に取り組んでいるためだ。沖縄の普天間飛行場の移設が大きな焦点の一つになっているからだ。

 沖縄県議会は、米軍と米国に対する抗議決議案と政府あて意見書を全会一致で可決した。日米両政府と米軍に基地の整理縮小や兵力削減の推進などを求めている。決議と意見書は最近も凶悪な事件が続いてきたことを指摘したうえで、米軍の綱紀粛正への取り組みに疑問があると批判している。

 95年の暴行事件では、米側が日米地位協定を盾に、起訴前の容疑者引き渡しに難色を示し日本側が反発した経緯がある。

 その後、日米地位協定の運用を見直すことによって、日本側による米兵容疑者の身柄確保の道が開かれた。しかし、地位協定の見直しを運用改善で済ませてきたことが、米兵の犯罪が減らないことにつながっている−と指摘する声は根強い。

 運用見直しには法的な拘束力はないとされ、米側の裁量権が優先するという。仲井真知事は事件後、県議会で日米地位協定の抜本的見直しを求める考えを表明している。

 日本政府は地位協定の抜本的見直しには否定的だ。ライト司令官も「今回の事件と直接関係ない」と見直しに否定的な見解を示した。

 しかし、米軍基地が集中する沖縄の苦悩をあらためて考える必要があるのではないか。運用の改善だけでは不十分−と同知事がいうのも、もっともだ。日米両政府は、犯罪に対して踏み込んだ措置を検討すべきだ。

 本県内も含めて米軍基地を抱える自治体は、基地との共存共栄を図ってきた。その努力をないがしろにするようなことが、あってはならない。

 

08年02月13日付『新潟日報』−「社説」=米兵少女暴行 悲劇をいつまで繰り返す

 

 沖縄に駐留する米海兵隊員が中学3年の少女に乱暴し、強姦(ごうかん)の疑いで沖縄県警に逮捕された。

 「またか」という衝撃と同時に、激しい怒りを覚える。13年前の、3人の米海兵隊員による小学6年生女児への集団暴行事件が今なお、脳裏に焼き付いているからだ。

 駐留米軍と政府が再発防止を誓ったはずなのに、その後も米兵による女性暴行事件は後を絶たない。今回の事件を受けて、福田康夫首相や関係閣僚から再発防止に力を入れる発言が相次いでいる。まずなぜ同様の事件が繰り返されてきたのかを考えねばならない。

 抜本的対策を避け、その場しのぎの対応に終始してきたのではないか。今回もあいまいな決着に終わるようでは沖縄県民や国民の不信は米軍だけでなく政府にも向けられることになる。

 事件は10日、日曜の夜に起きた。38歳の米兵が友達3人で街にいた少女の1人をだまし、大型バイクに乗せて自宅に連れ込んだ。おびえて泣き出した少女を今度は車で連れ出し、車中で暴行したという。

 1995年の女児暴行事件は、20代初めの若い米兵が残忍な行為に及んだ。米海兵隊はその後、基地内の若い兵士の夜間外出を禁止するなどの措置を講じてきた。

 暴行したのは基地の外に住む米兵だっただけに、問題はより深刻といえる。管理せずとも「良き隣人」として生活ができるはずの米兵が引き起こした事件だからだ。米側は外出規制に加えて隊員教育も行い、綱紀粛正に努めてきたという。どんな指導を行い、成果はあったのか。極めて疑問である。

 日米地位協定は、米軍人・軍属は現行犯逮捕を除いて起訴前まで米側が身柄を拘束すると定めている。95年の事件ではこれを盾に米兵を引き渡さなかった米軍に、沖縄のみならず全国から怒りの声が上がった。これを契機に、起訴前の身柄引き渡しは「好意的配慮を払う」とされた。

 今回は現行犯逮捕ではなく緊急逮捕だが、米側は日本の手続きを尊重する方針だ。在日米軍再編の渦中に起きた事件を、政治問題化させたくないとの思惑もあるのだろう。

 沖縄県は2000年から地位協定の改定を政府に求めてきた。日本の要請に応じて、起訴前の身柄引き渡しを明記するよう訴えている。だが政府は、北大西洋条約機構諸国と米国の取り決めが日米地位協定と同じ内容であることを例に引いて改定に消極的だ。

 米軍の「好意的配慮」に任せたままでいいのか。再発防止の観点から問われてしかるべきだ。暴行された少女の心の傷を思えば、ここで実効ある防止策を講ずるのが政治の務めだろう。

 

08年02月13日付『岐阜新聞』−「社説」=米兵、中3少女暴行事件 沖縄の怒りを受け止めよ

 

 基地の島、沖縄でまた許し難い事件が起きた。米海兵隊員による中学3年生の少女暴行事件だ。米兵は逮捕、送検されたが、容疑を否認しているという。一報を聞いて、1995年の米海兵隊員3人がいたいけない小学生女児を暴行した事件がよみがえり、怒りがこみ上げてきた。

 沖縄県などは米兵が所属する海兵隊基地司令部や在沖縄の米総領事に抗議し、外務省もドノバン駐日米臨時代理大使に「極めて遺憾」と申し入れた。

 福田康夫首相は「許されることではない。過去に何度も起きており、重大なことだと受け止めている」(衆院予算委員会)と表明し、外務、防衛など関係閣僚に「大変大きな問題だ。しっかり対応してほしい」と指示した。

 あってはならない事件が繰り返され日本側が、米側に強硬に抗議するのは当然だ。1995年の暴行事件では、反基地感情が一挙に高まって日米安保体制を揺るがした。今回の事件はいや応なくそれとオーバーラップする。

 「事態を深刻にとらえている」(ドノバン臨時代理大使)とする米側はもちろん、日本政府も沖縄の怒りをしっかり受け止め、実効性ある再発防止策の策定など早急に対応しなければならない。

 今回の事件は、在日米軍基地が集中する沖縄の苦悩をあらためて想起させた。現在、日米両政府は(1)米海兵隊とその家族約1万7000人を2014年までにグアムに移転(2)米軍普天間飛行場(宜野湾市)をキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市)に移設(3)米軍嘉手納基地の航空機訓練を本土に移転―などを内容とする米軍再編計画に取り組んでいる。

 実現すれば、沖縄の負担は一定程度軽減される見込みだ。しかし事件の再発防止や綱紀粛正を徹底しないまま米軍を内外に移設するだけでは、犯罪を拡散させる恐れがあるのではないか。

 沖縄県内の軍人・軍属やその家族らによる刑法犯の摘発件数は03年の133人をピークに4年連続で減少しているというが、米兵による女性暴行事件は1995年以降も後を絶たないのが実態だからだ。

 95年の暴行事件では、米側が日米地位協定を盾に、起訴前の容疑者引き渡しに難色を示した。これに日本側が反発、運用を見直すことによって、公務外の米軍人による殺人、女性暴行事件で日本側が起訴前に容疑者の身柄引き渡しを要請した場合、それが実現することに道が開かれた。

 今回は米兵が緊急逮捕され、日本側が身柄を拘束しており、米側も捜査に協力する姿勢を示していることから、司法手続きは日本側に委ねられる。

 だが運用見直しに法的拘束力はないとされ、厳密には米側の裁量権が優先する。「不平等とされる日米地位協定の見直しを運用改善で済ませてきたことが、同種の犯罪が減らないことにつながっている」との民主党の指摘は一理ある。

 日本政府は地位協定本体の改定には時間がかかる上、日米安保体制の見直し論議にも発展しかねないとして否定的だ。だが、米軍再編計画の円滑な実施のためにも日米両政府は犯罪に踏み込んだ措置を検討することが必要だ。

 岩国市長選で、米軍再編計画に含まれる米空母艦載機の受け入れ派が勝利したのに安堵(あんど)している場合ではない。

 

08年02月14日付『北国新聞』−「社説」=沖縄米兵少女暴行 日米の関係を損なう愚行

 

 また沖縄で遺憾な事件が起きた。中学3年生の少女を暴行した疑いで米海兵隊の2等軍曹が沖縄県警沖縄署に緊急逮捕されたことである。一個人の行為であっても、成熟したパートナーシップを維持する努力が求められている日米関係を損なうことにつながりかねない愚かなことといわねばなるまい。

 沖縄では1995年にも米海兵隊員3人が小学生の女児を暴行する事件が起き、住民が怒り、反基地感情が高まったことがあるほか、女性に対する暴行事件など米兵の犯罪が度々発生している。とりわけ女児に対する暴行事件は容疑者の扱いをめぐって日米地位協定の見直しにもつながり、米側の譲歩でやっとおさまったという経緯があった。今度の事件はあの事件を思い出させるのだ。

 95年の事件を受けて日米特別行動委員会ができ、普天間基地の返還の合意に伴う代替施設建設に進展の兆しが見えてきた折からの事件だったことが重たい。米軍に規律の徹底を強く求めたい。

 警察の調べによると、2等軍曹は沖縄市の繁華街でアイスクリーム店から出てきた3人連れの少女たちに英語と片言の日本語で話し掛け、少女一人をバイクに乗せ、基地外の容疑者宅へ誘い込み、わいせつな行為を迫った。泣き出した少女を「送ってやる」と今度は車に乗せ、車内で暴行した疑い。

 2等軍曹は「押し倒したりキスしたりしたが、暴行していない」と容疑を否認しているというが、その真偽はこれからの調べに待つとしても、押し倒したりの行為は少女でなくても許されることではない。

 事故であっても米軍に対する不信が生まれやすいのが基地の街だ。その例が02年、韓国で女子中学生2人が米軍の装甲車にひかれて即死した事故だった。「米軍は出ていけ」という全土的な運動にまで発展し、これが尾を引き、米高官が「望まれないところには基地は置かない」と発言し、米韓関係がぎくしゃくした。次期韓国大統領の李明博氏は米韓関係の立て直しに取り組まざるを得ない羽目にもなっているのだ。

 少女暴行事件が、この二の舞いにならないよう米軍が誠意をもってことに当たるよう望む。

 

08年02月13日付『京都新聞』−「社説」=米兵暴行事件  沖縄の憤りに応えよ

 

 なぜ、このような卑劣な事件が繰り返されるのか、憤りを禁じ得ない。沖縄県警が、中学3年の少女を暴行したとして米海兵隊員を強姦(ごうかん)容疑で逮捕した。

 隊員は容疑を否認しているというが、県警には徹底的に調べてもらいたい。日米両政府は、連携して事実の究明と二度と起きぬよう対策に全力を挙げるべきだ。

 沖縄県では1995年に小学生の女児が海兵隊員3人に暴行される事件が起きた。事件の衝撃は大きく、基地縮小を求める運動にまで広がった。
 その後、県内では、米軍関係者の刑法犯検挙数は2003年(133人)をピークに減少しているものの、暴力行為など悪質な事件が今も続いている。
 米海兵隊は、隊員の教育や21歳未満の兵士の深夜外出の制限で対処してきたとするが、38歳の容疑者は基地外に住んでおり、管理の対象外だった。

 県民の間から「全員を外出規制の対象にすべきだった」「許せない」など強い抗議の声があがるのは当然だろう。

 福田康夫首相や閣僚らは、事件を受けて米政府に再発防止を求めている。米軍基地の周辺に住む住民の生命、安全を守るのは日本政府の責務だ。米側に再発防止の具体策を強く迫りたい。

 日米地位協定についてはこの際、正式に改定すべきだ。

 地位協定は「容疑者の米兵の身柄が米側にある場合は、日本側が起訴するまで米側が身柄を預かる」と規定している。

 今回は、容疑者が基地外にいたため、県警が任意同行を求め、緊急逮捕した。もし容疑者が基地内にいたとしたら、直ちに身柄を拘束できたかどうか。
 95年の事件後、地位協定の運用見直しで、米側が身柄引き渡しに応じるケースは増えたが、保証の限りではない。

 04年8月に沖縄国際大で起きた米海兵隊ヘリコプター墜落事故で県警の現場検証が拒否された事実を見ても分かる。

 容疑者の身柄引き渡しの可否が、米側の「好意的な考慮」に委ねられているような現状は、日米安全保障条約の平等の原則から見ても正常な形とはいえまい。

 米側に「基地は治外法権」といった意識が根底にあるとすれば、事件は後を絶たないだろう。周辺住民の安全を重視した協定の正式改定が不可欠だ。
 海兵隊のグアム移転を急ぎ、基地の整理・縮小など抜本策にも取り組みたい。

 今回の事件は、米軍再編に伴う米空母艦載機移転を最大の焦点にした山口県岩国市長選の開票の時間帯に発生した。

 移転容認派の市長が誕生したが、住民は気がきではなかろう。再編交付金による地域活性化だけではなく、住民の安全対策を直視する必要がある。

 政府は米軍の綱紀粛正に対して毅然とした態度で臨むべきだ。私たちも沖縄の「痛み」を他人事として見てこなかったか、今一度考えたい。

 

08年02月13日付『神戸新聞』−「社説」=米兵逮捕/踏みにじられた沖縄の心

 

 沖縄県に駐留する米海兵隊の軍曹が、女子中学生を強姦(ごうかん)した容疑で逮捕された。

 広島市でも昨秋、岩国基地の海兵隊員らが若い女性を暴行する事件があった。

 米軍基地の周辺で起きる傍若無人な行いを許すわけにはいかない。政府は米側に強く抗議するとともに、再発防止のための断固とした処置を求めるべきだ。

 事件は10日夜に起きた。警察によると、逮捕された米兵は沖縄市内の繁華街で友人2人といた中学生に声をかけ、基地外の自宅にバイクで連れて行った。中学生は逃げたが、米兵は車で追いかけて乗せ、連れまわした後、暴行した疑いだ。米兵は暴行の事実そのものは否認しているという。

 沖縄タイムスは、号外で『「またか」衝撃走る』の見だしをつけ、海兵隊キャンプのあるうるま市長の談話を紹介した。

 「ひどいことが起こってしまった。再発防止を何度申し入れても、同じことが繰り返される」。無念やるかたない沖縄県民の気持ちを代弁したものといえる。

 本島の約2割を米軍基地が占める。それが沖縄の姿だ。日米安保条約に基づくこととはいえ、一方的に我慢を強いられてきたとの思いは根強い。

 ところが、そうした県民の心に、何層にも泥を上塗りする形で繰り返されたのが米兵による不祥事である。その度に日米地位協定という差別的な取り決めが、県民の尊厳を深く傷つけてきた。

 この協定により、日本は施設、区域を提供する義務を負うだけではない。警察権や司法権も著しく制限されている。

 今回の事件は、米兵の公務外で、日本側が緊急逮捕で身柄を拘束しており、司法手続きを日本側に委ねるとの見方が強い。米側には基地の再編問題で悪影響を及ぼしたくないとの思惑もあるのだろう。

 だが、事件を根絶するには、まず日米が対等な関係に立つことが不可欠だ。それには地位協定の見直しは避けて通れない。

 沖縄で小学生女児が米海兵隊員らに暴行された1995年の事件を機に、地位協定の運用上の見直しがあった。しかし、米側は協定そのものの改定は必要ないとの立場を崩さない。そのため、米の“さじ加減”でどうにでもなる不平等さは改まっていない。日本側に常設の対応窓口がないことも問題だ。この消極的姿勢が、基地の島の人々の心を一層、重いものにしてきた。

 95年の事件は普天間基地移設の呼び水となった。今回の事件が基地問題に及ぼす影響は避けられまい。政府は沖縄の声に十分耳を傾け、対応を誤らないことだ。

 

08年02月13日付『山陽新聞』−「社説」=沖縄・少女暴行 またも米兵に衝撃と怒り

 

 沖縄県警沖縄署が、中学3年の14歳の少女を暴行したとして、強姦(ごうかん)の疑いで米海兵隊の38歳の2等軍曹を逮捕、送検した。1995年の米兵による小学生女児暴行事件を思い起こさせる凶行が再び繰り返されたことに、衝撃と強い憤りを覚える。
 調べでは、2等軍曹は10日夜、沖縄市の繁華街で3人連れの少女に声を掛け、うち1人を基地外の自宅に誘い込んでわいせつな行為を迫った。その後車で連れ出し、車内で暴行した疑い。少女は車を降りた後に保護され、その話から署員が自宅前で車の中にいた容疑者を緊急逮捕した。

 日米地位協定は現行犯逮捕の場合を除き、犯罪容疑者の軍人・軍属は起訴前まで米側が身柄を拘束すると規定し、95年の事件を機に凶悪犯罪については米側が起訴前の身柄引き渡しに「配慮を払う」ことになった。今回、米兵は沖縄県警に緊急逮捕され、身柄は日本側にある。今後の司法手続きも日本側に委ねられるとみられる。日本側の手で徹底的に事実関係を調べた上で、法的に厳正に対処していく必要がある。

 犯人が捕まっているとはいえ、沖縄県民の怒りと不安は察するに余りある。米軍基地と隣り合わせの生活に伴う悲劇と恐怖を、何度味わわなければならないのか。

 95年の事件は県民の反基地感情に火をつけ、外交問題に発展した。翌年、当時の橋本龍太郎首相が主導して両国政府が普天間飛行場の返還を発表した。米軍は再発防止の努力を強調するものの、2001年の米兵による20代女性への暴行をはじめ、その後も暴行や未遂事件が続き、強盗致傷事件などもあった。事件以外でも04年に宜野湾市の沖縄国際大構内に米軍へリが墜落し、この時も反基地感情が燃え上がった。

 県民の心を逆なでする事件が再び起きたことに福田康夫首相は「重大なことと受け止めている」と述べ、政府は米側に強い遺憾の意を伝え、綱紀粛正や再発防止策を求めるなどした。米政府には、引き続き強く働きかけていかなければならない。

 在沖縄海兵隊が「沖縄県警の捜査に全面協力している」とコメントするなど、米側はこれまでのところ協力的なようだ。米側には、今後も日本による司法手続きに積極的に協力する責務がある。

 一番重要なのは再発防止策だ。米海兵隊は基地外への外出規制や隊員教育に力を入れているという。それでも事件は起きた。米側任せでなく、実効ある防止策の早期具体化へ、日本側の関与が必要なのではないか。

 

08年02月14日付『徳島新聞』−【社説】=沖縄少女暴行事件  強い怒りが込み上げる

 

 沖縄県で許せない事件がまた起きた。38歳の米海兵隊員が、中学3年の少女を暴行した容疑で沖縄県警に緊急逮捕された。

 海兵隊員は、沖縄市の繁華街で3人連れの少女たちに声を掛け、1人を連れ回した後、車内で暴行した疑いが持たれている。

 少女の人権を踏みにじる重大な犯罪であり、強い怒りを禁じ得ない。

 沖縄では、1995年にも米海兵隊員3人が小学生の女児を暴行する事件があり、国民は大きな衝撃を受けた。

 今回の事件は、被害少女や家族に深い心の傷を負わせただけでなく、沖縄県民をはじめ国民に駐留米軍への不信感と拒絶感をあらためて抱かせた。平和運動団体が米軍基地前で抗議集会を開いたほか、沖縄市議会などが相次いで抗議の決議を可決するなど、怒りの声が広がっている。当然である。
 沖縄県や日本政府は、駐留米軍に厳重な抗議をし再発防止を求めた。米軍は、今度こそ綱紀粛正に取り組み、繰り返させない徹底した教育と対策を講じるべきだ。

 沖縄県内で昨年、刑法犯で検挙された米軍人・軍属者は46人だった。この10年間では、2003年の133人をピークに4年連続で減少しているものの、95年以降の凶悪事件は10件を超える。

 その都度、米軍は再発防止を表明したが、十分浸透していない。先月も、沖縄市でタクシー運転手をウイスキー瓶で殴った海兵隊員2人が逮捕されたばかりだ。

 繰り返される事件は、駐留米軍に人権を軽視する風潮があるのではないか。

 忘れてならないのは、沖縄県に国内にある米軍基地の75%が集中している現実だ。基地と隣り合わす住民は、安心して暮らせない。

 日米地位協定も問題が多い。米軍人・軍属は現行犯逮捕を除き、起訴前まで米側が身柄を拘束すると規定している。95年はこれを盾に容疑者の拘束は拒否され、強い批判の声がわき上がった。

 日米協議の結果、米側が凶悪犯罪については起訴前の身柄引き渡しに「好意的配慮を払う」ことで合意した。しかし、運用面の改善にとどまっており、今も米側の裁量に委ねられたままだ。

 今回は基地外で沖縄県警が緊急逮捕して身柄を拘束し、米側も捜査協力を表明した。日本国内への影響を懸念したものだろう。

 仲井真弘多沖縄県知事が「米側に裁量を委ねる地位協定の運用改善だけでは不十分で、抜本的に見直す必要がある」と指摘したのは、県民の気持ちを代弁したものだ。

 沖縄県民からは「沖縄は人の住める場所ではない」「問題解決には基地撤去しかない」などの憤りの声が上がっている。日米両政府は真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。

 95年の女児暴行事件では、基地縮小を求める大規模な県民運動となった。翌年、日米両政府は基地再編に合意し、普天間飛行場の返還と名護市への移設、沖縄駐留の海兵隊の一部をグアムへ移転することなどを決めた。

 米兵の事件だけでなく、04年には沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落するなど、沖縄県民は事故の危険にもさらされている。

 日本政府は日本の安全保障上、米軍の駐留は必要だとしている。だが、事件や事故が度重なれば、国民の怒りと不信は募るばかりだ。日米両政府は事態を重く受け止めなければならない。

 

08年02月13日付『愛媛新聞』−「地軸」=沖縄米兵の犯罪

 

 「おまえらは誰だ」「海兵隊員です」「声が小さい、おまえらは何者だ」「海兵隊員です」「おまえらの任務は何だ」。復帰前の沖縄での配属経験もある元米海兵隊員アレン・ネルソンさんは入隊直後、新人キャンプで受けた洗脳のことを証言している(岩波ブックレット「沖縄に基地はいらない」)。日中の訓練ばかりか就寝時も容赦ない。気まぐれに枕元へ現れる上官の大声に冒頭のように応じながら「殺すことです」と即答せねばならず、気に障ればまたしごかれる。修了したらしたで、今度は敵の命を取るすべをたたき込まれる毎日。そしていつとも知れぬ出撃命令を待つ。まさに「自ら選び取る明日はない」だろう。他者の痛みに鈍くなって不思議はない。ネルソンさんも沖縄を植民地と見ていたと重苦しい告白をしている。海兵隊員らによる少女暴行事件のあった13年前どころか米軍統治時と体質は変わらないのか。また少女が被害に遭う卑劣な事件が起きた。在沖縄海兵隊のグアム移転は足踏みし、移転自体も司令部中心だから負担軽減効果はあやしい。そんな状況での再発だ。日米双方の不作為も問われる。本土唯一の海兵隊基地が岩国。ここの米兵も昨年、広島で暴行事件を起こした(不起訴)。市長選で米空母艦載機移転を容認した市民は、同じ日の沖縄の事件を身につまされていようか、米軍再編の主眼の一つである沖縄の負担軽減にはやむなしという思いだろうか。こうした事件を絶対に許さぬよう地域の痛みを共有したい。

 

08年02月15日付『愛媛新聞』−「社説」=米兵暴行事件 再発防止へ対策の徹底を図れ

 

沖縄の中3少女を暴行した容疑で米海兵隊員が逮捕された事件をめぐり、地元沖縄では抗議の輪が広がっている。

沖縄県議会は被害者への謝罪と再発防止策、基地の整理縮小などを求め、抗議決議や意見書を全会一致で可決した。事件の関係地である沖縄市や北谷町などの議会も同様だ。

また、沖縄の市民団体「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」はブッシュ米大統領らにあて、基地・軍隊の撤退や、少女への謝罪と補償、加害米兵の厳正な処罰などを求める要求書を送るという。

1995年には米兵3人による女児暴行事件が起き、大きな政治・外交問題に発展した経緯がある。その記憶も新しいのに卑劣極まりない事件が繰り返された。沖縄県民の怒りが爆発するのは当然だ。
 急ぐのは実効性のある再発防止策を立て、徹底することだ。これまでも日本側は米軍に綱紀粛正をたびたび求めてきたが、掛け声だけでは駄目だ。
 沖縄県内での軍人・軍属、その家族ら米軍構成員による刑法犯の検挙人数は、2003年の133人をピークに4年連続で減少してはいる。昨年は46人だった。それでも昨年10月には米兵の家族が飲食店の女性従業員を暴行。今年も1月に米兵2人によるタクシー強盗事件が発生するなど、凶悪事件が後を絶たない。

「米軍は沖縄を植民地のような感覚で見ているのではないか」と地元住民が憤るのも、もっともである。

今回の事件を受け、米海兵隊は日本駐留の全隊員に行動規範や法令順守を徹底させるため、この2日間「倫理と指導」と題したトレーニングを実施中だ。しかし、事件が起きてからでは遅すぎる。普段からこうしたトレーニングを重ね、隊員の意識改革を図るべきだ。

在日米軍の部隊幹部が行っている見回り活動に日本の警察や自治体が参加しては、という提案も検討に値する。米兵が夜間たむろする盛り場などには近づかない、などの自衛策もさらに徹底したい。

根本的な対策としては、沖縄県の仲井真弘多知事が求めているように日米地位協定の見直しが挙げられる。

協定は犯罪容疑者となった米軍人・軍属について、現行犯逮捕の場合を除き、起訴前まで米側が身柄を拘束すると規定している。それが95年の事件を機に運用が改善され、凶悪犯罪については米側が起訴前の身柄引き渡しに「好意的配慮を払う」ことになった。

今回は緊急逮捕された米兵の身柄を日本側が拘束しており、米側も捜査への協力姿勢を打ち出しているため、協定が妨げになる恐れはないもようだ。
しかし、引き渡しが米側の裁量次第という甘い協定では、犯罪根絶のために不十分だ。抜本的に見直すべきだ。

何より重要なのは沖縄に集中している基地を減らし、米兵を削減することだ。政府はさらに努力を傾注する必要がある。

 

08年02月13日付『高知新聞』−「社説」=沖縄米兵の犯罪

 

 「おまえらは誰だ」「海兵隊員です」「声が小さい、おまえらは何者だ」「海兵隊員です」「おまえらの任務は何だ」。復帰前の沖縄での配属経験もある元米海兵隊員アレン・ネルソンさんは入隊直後、新人キャンプで受けた洗脳のことを証言している(岩波ブックレット「沖縄に基地はいらない」)。日中の訓練ばかりか就寝時も容赦ない。気まぐれに枕元へ現れる上官の大声に冒頭のように応じながら「殺すことです」と即答せねばならず、気に障ればまたしごかれる。修了したらしたで、今度は敵の命を取るすべをたたき込まれる毎日。そしていつとも知れぬ出撃命令を待つ。まさに「自ら選び取る明日はない」だろう。他者の痛みに鈍くなって不思議はない。ネルソンさんも沖縄を植民地と見ていたと重苦しい告白をしている。海兵隊員らによる少女暴行事件のあった十三年前どころか米軍統治時と体質は変わらないのか。また少女が被害に遭う卑劣な事件が起きた。在沖縄海兵隊のグアム移転は足踏みし、移転自体も司令部中心だから負担軽減効果はあやしい。そんな状況での再発だ。日米双方の不作為も問われる。本土唯一の海兵隊基地が岩国。ここの米兵も昨年、広島で暴行事件を起こした(不起訴)。市長選で米空母艦載機移転を容認した市民は、同じ日の沖縄の事件を身につまされていようか、米軍再編の主眼の一つである沖縄の負担軽減にはやむなしという思いだろうか。こうした事件を絶対に許さぬよう地域の痛みを共有したい。

 

08年02月13日付『熊本日日新聞』−「社説」=米兵少女暴行事件 沖縄の怒りを受けとめよ

 

 沖縄県でまた米兵による少女への凶悪な事件が起こった。

沖縄署は11日未明、中学3年の少女(14)を暴行したとして、強姦(ごうかん)の疑いで米海兵隊所属の2等軍曹タイロン・ハドナット容疑者(38)=同県北中城村島袋=を逮捕、12日送検した。

 調べでは、ハドナット容疑者は10日午後10時半ごろ、同県北谷町北前の公園前路上に止めた車の中で少女に暴行した疑いが持たれている。

 沖縄県では1995年、米海兵隊員3人が小学生女児を暴行する事件が発生、反基地感情が高まり、基地整理縮小を求める大規模な県民大会にまで発展した。これを契機に日米両政府は翌年、普天間飛行場返還に合意した。

 「再発防止」という言葉がこれまで何度繰り返し語られたことだろう。だが、教訓は生かされなかった。事件が繰り返されたことに沖縄では怒りの声が強まっている。少女への暴行など断じて許されない。

 福田康夫首相は、「過去に何度も起きており、重大なことだと受けとめている」と述べた。日本政府は米国側に厳重に抗議すると同時に再発防止に全力を挙げるよう強く申し入れてもらいたい。米国は県民の怒りを真摯(しんし)に受けとめ、対応に努めるべきだ。

 在日米軍兵士の法的地位は、日米安保条約に基づく地位協定で定められている。米兵が基地外で罪を犯した場合の裁判権は「公務中であれば米軍に、公務外なら日本にある」としている。しかし、これは裁判権のことで警察などによる捜査に関しては、日米が「相互に援助しなければならない」としか定めていない。

 このため、捜査が十分にできず、沖縄県民は不平等な状況を改めるよう協定の改定を求めてきた。95年の事件を機に協定の運用は見直され、「凶悪な犯罪」については起訴前の身柄引き渡しに米側が「好意的考慮を払う」ことになった。しかし、あくまで運用改善にとどまっており、2003年に沖縄で起きた強姦未遂事件では起訴前引き渡しを米側は拒否した。
 再発防止はもちろん、日米政府には地位協定の改定など抜本的な対策に取り組んでもらいたい。

 

08年02月14日付『熊本日日新聞』−「新生面」=沖縄・中学生暴行事件

 

 沖縄でまた、14歳の女子中学生が38歳の米海兵隊員に暴行される事件が起こった。自宅に連れ込んだ後、「送ってあげる」と言って車内で暴行したという。1枚のモノクロ写真を思い出した。写真記録『これが沖縄戦だ』(那覇出版社)にある。白旗を結わえた木の枝を右手に握り締め、がれきの中を米軍の方へ歩いてくる少女。ぼろぼろの服に裸足。シャッター音におびえ、広げた左手を顔の前にかざしている。指間からのぞく目の何と不安げなことか。女子中学生は、友人からの電話に「助けて」と短く言ったという。時代は違っても、戦争や暴力は少女らを押しつぶそうとする。そのおぞましさに怒りを感じるが、少女の身も守れない日本という国のふがいなさも思わずにはいられない。那覇市から国道58号を北上すると、カーナビの画面の大部分が黒くなる所がある。嘉手納町、沖縄市、北谷町にまたがる極東最大の嘉手納基地。黒い部分は北谷町の面積の54%を占める。今回の事件はそのすぐ近くで起きた。あの白旗を掲げた少女らは、「鉄の暴風」と形容された沖縄戦を生き延びた。昔はコザ市と呼ばれた沖縄市。その周辺には、戦争難民収容所もあった。つらい過去を引きずりながら、白旗の少女や少年らは歯を食いしばって生きてきたはずだ。終戦から60年以上たった今、自分らの子や孫たちが米兵からひどい目に遭わされる。これほどつらいことはない。事件が起きる度に、米軍も日本政府も頭を低くしてやりすごしてきたのではないか。“お題目”はもうたくさんだ。そんな怒りが基地の島に広がっている。

 

08年02月13日付『宮崎日日新聞』−「社説」=再発防止へ地位協定を見直せ

 

 沖縄県で米海兵隊員による中3少女への暴行という許し難い事件がまたしても起きた。

 米軍基地を抱える各地の住民の不安をかき立てるもので、日米安保体制を揺るがした1995年の少女暴行事件の苦い教訓がいまだに生かされていないことに強く憤りを覚える。

 折しも新富町の航空自衛隊新田原基地では日米共同訓練が始まった。“米軍基地化”への不安を抱く地元住民にとっても事件はよそ事ではない。

 こうした事件が根絶できない以上、住民に負担を強いる米軍再編は進められない。日本政府は沖縄の怒り、住民の不安をしっかり受け止め、米側に対して毅然(きぜん)とした態度を示すべきだ。

■米兵の再教育不可欠■

 政府は今回の事件に関して、米側に遺憾の意を伝え、綱紀粛正と再発防止の徹底を求めた。

 あってはならない事件が繰り返されたのだから、政府が米側に強硬に抗議するのは当然のことだ。だが、それでことが済まされる問題ではない。

 95年の少女暴行事件以降も沖縄をはじめ全国各地で米軍人らによる暴行や傷害などの事件が繰り返されてきた。そして、そのたびに日米双方の政府などが再発防止を誓いながらも、結果は今回の痛ましい事件だ。

 もはや米側に申し入れる程度の対応では不十分で、具体的な対策として何をなすべきか、実効性ある防止策の策定に日本政府がまず、積極的に関与していくべきだ。

 現在、日米両政府が取り組んでいる在日米軍の再編計画では、米軍基地が集中する沖縄の負担を一定程度軽減させる見込みだ。

 しかし、今回のような事件の再発防止策を徹底しないまま米軍を内外に移設するだけでは、犯罪を拡散させる恐れもある。米兵に対する再教育は欠かせないだろう。

■新田原でも不安拡大■

 これまで米兵らによる事件が起こるたびに、その在り方が問題とされてきたのが「日米地位協定」だ。95年の暴行事件では米側が協定を盾に、起訴前の容疑者引き渡しに難色を示した。

 これに日本側が反発し、その後は運用を見直すことで日本側が要請した場合、起訴前の容疑者の身柄引き渡しが実現するようになった。

 今回は容疑者の身柄を日本側が拘束しており、米側も捜査に協力する姿勢を示している。

 だが運用見直しに法的拘束力はない。政府がこれまで不平等とされる地位協定を運用改善で済ませ、犯罪や事故防止の根本的な対策に取り組んでこなかったことが、同種の犯罪が減らない一因になっているのではないか。

 政府は日米安保体制見直し論議にも発展しかねないとして、地位協定の改定には否定的な立場をとってきた。だが今度はそんなことを言っている場合ではないことを指摘しておきたい。

 本県では米軍岩国基地(山口県岩国市)所属の戦闘機2機と米軍人4人が共同訓練のため新田原基地入りした。

 地元はもろ手を挙げて訓練を歓迎しているわけではない。今後、訓練が大規模化していく心配もある。今回の事件は住民らにまた大きな不安材料を与えた。新富町はじめ本県も住民の安全・安心の確保へ強く声を上げたい。

 米軍再編計画の円滑な実施のためには、日米両政府が犯罪に対してより踏み込んだ措置を検討すべきである。

 

08年02月13日付『南日本新聞』−「南風録」

 

「得心なきに押して不義致し候者は死罪」。江戸は8代将軍吉宗の時代にできあがった「御定書百箇条」の一文である。「押して不義」を現代でも通用する言葉で言い換えると、強姦(ごうかん)、になる。

刑法江戸版は女性の結婚の有無など前提条件がつき、運用面では奉行の裁量が大きい。単純に今との比較はできないが、死刑適用の条文をつくるくらいだから、重大視される犯罪だったことは間違いない。

14歳の少女に暴行した容疑で、沖縄の米海兵隊員が送検された。隊員は「押し倒したり、キスしたりしただけ」と否認しているという。どこかの伝法な奉行なら「なあに言ってやがる。『押して口吸い』なら、立派に死罪だぜ」と怒鳴りつけるところかもしれない。

真実は裁判で決着するにしても、少女の父と同年齢でもおかしくない38歳の男が、14歳の心の深い傷に気づかないのが悲しい。鉄火奉行でなくても言いたくなる。なにかを守るために訓練しているんだろうに、きたえた力を中学生に向けて、どうする。

強姦の英語・レイプは略奪とも翻訳され、絵画の題名にもなっている。人としての尊厳、楽しかったはずの人生、それらのすべてを奪い去っていく意味がこもる。昨日までの少女を奪った事実に、隊員よ、気づけ。

かつては戦場として、現在は多数の米軍基地を抱える島として、沖縄の苦悩は深い。これ以上、もう悲しみを増やすな。もう苦しめるな。

 

08年02月14日付『南日本新聞』−「社説」=[米兵少女暴行] 沖縄県民の怒りを受け止めるべきだ

 

 また米兵の暴力が少女の心と体を踏みにじった。基地があるがゆえの住民の不安と苦悩を増幅させる事件が起きるたび、再発防止と綱紀粛正が叫ばれてきたが、繰り返された。国民は基地がある限り、根絶はできないとの思いを強くしたに違いない。

 沖縄県警が強姦(ごうかん)容疑で緊急逮捕したのは米海兵隊の2等軍曹だ。暴行容疑は否認しているが、県警の調べからは中学3年の少女を「家に送っていく」とだましながら、執拗(しつよう)に迫った様子がうかがえる。悪質な性犯罪に憤りを禁じ得ない。

 だれもが想起するのは、1995年に沖縄で起きた米海兵隊員3人による小学生女児暴行事件だ。いたいけな子供への許し難い凶行の教訓が生かされなかった以上、基地に対する反発が一気に広がったのは自然な流れだ。沖縄市と北谷町の議会は抗議決議と意見書を可決した。

 日米両政府は沖縄の怒りを正面から受け止め、適切な対応を急ぐべきだ。

 基地では小学生の暴行事件後、若年兵の深夜外出の制限などを行ってきた。だが、今回の容疑者は38歳で対象外だった。しかも基地の外に住んでいるので、管理は難しかったといえよう。

 過去10年の沖縄での米軍の軍人、軍属らによる刑法犯の検挙数は、2003年の133人をピークに4年連続で減少し続けており、昨年は46人だった。だが、米兵の女性暴行事件は1995年以降も後を絶たないのが実態である。

 今回の事件を、1兵士の資質の問題ととらえてはいけない。米軍は覆いがたい軍紀の乱れを直視し、再教育に取り組む必要がある。島に暮らす人々への米兵らのいわれなきおごりがないかも、点検することが大事だ。基地との共存を強いられてきた住民の思いを、くみ取れるような再発防止プログラムが求められる。

 沖縄県知事は、駐留米軍の法的地位を定めた不平等な日米地位協定の抜本的見直しを求める考えを表明した。13年前の事件を踏まえ、容疑者の扱いについては運用の改善で合意した。だが、その裁量が米側に委ねられていることには変わりはなく、限界があるのは明らかだ。

 今回、もし容疑者が基地内に住んでいたなら、身柄が確保できたかは保証の限りでない。協定の抜本改定は、国民の生命と人権を保護することにつながる。

 その一方で、在日米軍の軍用施設の75%を沖縄に担わせてきた不条理にもあらためて目を向けなければならない。基地の削減縮小こそが再発防止の近道と、大方の沖縄県民が感じているのは確かだ。

 

08年02月13日付『沖縄タイムス』−「社説」=米兵暴行事件

 

なぜ根絶できないのか

またしても未成年者が

 女子中学生を車で連れ回し、暴行するという米海兵隊員による許し難い事件がまた起きた。

 沖縄署は在沖米海兵隊キャンプ・コートニー所属の2等軍曹を強姦容疑で逮捕したが、事件は1995年に発生した少女暴行事件、2000年7月のわいせつ事件の悪夢を県民に呼び起こしたといっていい。

 警察の調べに対し2等軍曹は、車の中で体を触ったことは認めたものの暴行については否認している。

 だが、被害に遭ったのは未成年者であり、まだ中学生ではないか。

 屈強な兵士が、怖くなって逃げ出した少女を追いかけ再度車に乗せ、有無を言わさず体を触るというのは暴行以外の何ものでもない。

 少女は容疑者の振る舞いに異変を感じ、すきを見て持っていた携帯電話で友人に助けを求めたという。

 「助けて」と叫び、「(容疑者が)来た」「車から降りられない」という少女の緊迫した様子と恐怖を思えば、いたたまれなくなる。

 このような事件を防げなかった責任は日米両政府はもちろん、私たち大人にもある。夜が更けているのに、街角にたたずむ子どもたちに注意の目を向けきれなかったからだ。

 とはいえ、本国で同じような行為で捕まれば間違いなく重罪である。イラクで地元の少女を暴行殺害した兵士に、米軍法会議が禁固110年の有罪判決を下したことからも明らかだ。

 子どもの人権を蹂躙する行為に対して法律はそれだけ厳しいのである。

 容疑者の中に沖縄だから大丈夫という考えがあったとしたら間違いであり、警察には2等軍曹が同じような犯行を犯していないかどうか、徹底的に調べてもらいたい。

 沖縄には海兵隊、空軍、海軍、陸軍の兵士約2万3千人が駐留している。

 中には「良き隣人政策」に則して基地外でボランティアに従事したり、地域活動に積極的に参加する兵士がいるのも確かだ。

 1人の不心得によって全体を十羽一からげで推し量ろうとは思わないが、だからこそ、事件に対する県民の怒りを米軍は深刻に受け止める必要があろう。

綱紀粛正の実効性は

 同様の事件が起こるたびに、政府は「米軍に再発防止と綱紀粛正を求める」と強調してきた。

 米軍もまた「遺憾の意」を表明し、「再発防止に努める」と応えてきた。だが、実際はどうだろうか。

 県内に住む軍人・軍属、その家族による刑法犯の摘発件数は、03年の133件をピークに減少している。しかし、米兵による女性への暴行事件は1995年以降も続いているではないか。

 2000年に準強制わいせつで海兵隊員が捕まり、01年には嘉手納基地所属の空軍軍曹が20代の女性を暴行。翌年には海兵隊少佐の暴行未遂、04年にも20代女性への強姦事件が発生し、後を絶たないのが実情だ。

 米軍はその都度、綱紀粛正を言い、再発防止を約束してきた。だが、一人一人の兵士に十分に浸透しているのかどうか。県民は疑問の目でみていることを忘れてはなるまい。

 この日の閣議で、関係閣僚らが日米で実効性のある再発防止策を検討すべきだと指摘している。

 当然であり、県民が求めているのは、法律によって裏付けられた「抜本的な再発防止策」だということを認識するべきだ。

子ども守る抜本策を

 今回の事件について福田康夫首相は「許されることではない。過去に何度も起きており、重大なことだと受け止めている」と述べている。

 ケビン・メア米総領事も「極めて遺憾で、米側としても真摯に受け止め、捜査に全面協力したい」と話す。

 だが、私たちが求めているのは事後に繰り返される反省の弁ではなく、子どもたちが今回のような理不尽な事件に巻き込まれることのない、日々の安全が担保された平和な暮らしだ。

 そのために必要なのは何なのか。日米両政府は県民の声に耳を傾け、もし、日米地位協定の中に盛り込めるものがあるのであれば、日米両政府はきちんと論議をし新たな対応を模索する責務がある。

 2度とこのような事件を起こさぬためにも、政府は米国との協議を急ぎ、県民保護を最優先にした強固な施策を築いてもらいたい。

 

08年02月14日付『沖縄タイムス/夕刊』−「今晩の話題」

 

「心の底から」

 ちょうど12年前のきょう。沖縄を出発した13人の女性たちが、米国コロンビア大学で米軍基地被害の状況を真摯に訴えていた。

 ワシントンやニューヨーク、カリフォルニア、ハワイなど米国中を飛び回ったのは高里鈴代さんら「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会 アメリカ・ピース・キャラバン」のメンバー。2週間、寝食を共にし、取材をした。その間、彼女たちはフォーラムを14回開き、外国メディア23社の取材を受け、約800人と意見を交わした。

 あれから何が変わって、変わっていないのか。

 米軍基地の整理縮小や日米地位協定は一定程度の共通理解が進み、一部の基地返還や協定の運用改善など、ごくわずかだが前進したと思う。

 ところが、もう一方で県民が強く願った、住民、とりわけ子どもの人権を守るための対策は、いまだ小手先だけにとどまっている。徹底的に再発防止策を取っていたなら、今回の事件は防げたはず。

 今までのところ、県民の怒りを鎮めるためだけ?に素早く対応している米国・日本と、どちらを向いているのかよく分からない県の為政者たち。心の底から憤っているようには映らない。

 12年前、高里さんは米国でこう言った。「女性や子どもに対する人権侵害、暴力の視点から基地問題をとらえることが沖縄では十分ではなかった。そこに焦点を当てて、多くの共感が得られた」

 今も、これからも、共感するのは一般市民だけなのだろうか。(与那嶺一枝)

 

08年02月16日付『沖縄タイムス』=「大弦小弦」

 

 おそらくこの言葉がなければ、日本の政治は立ち行かなくなる。「遺憾」。さまざまな場面で幾度となく発せられた。今後も果てしなく使われ続けるであろう。

 例えば「今回の不祥事は誠に遺憾であります」。迷惑を被った人が言えば「けしからん」と怒りの意思を表す。逆に不祥事をした側が言うと「すみませんでした」と謝罪の意に転じる。その2人を第3者的に見た人は「残念」と思う。

 あいまいさが便利なのだ。ある記者会見で前知事に「遺憾という意味には残念と謝罪の意味があるが」と迫った。そこは政治家「いろいろな意味を含めている」と答えられ、二の矢を継げずに悔しい思いをした。

 先日はシーファー駐日大使が来県し米兵暴行事件について、「regrettable」と述べ、通訳は「遺憾に思う」と訳した。続けて「同情に堪えない」と謝罪の意を含ませはしたが、「遺憾」のたぐいは国際政治でも活躍しているらしい。

 さて数日前、那覇市内のLホテルから自宅に詫び状が届いた。結婚披露宴で舞台上の看板が落ち、プログラムでは新郎の上司の名前を間違えたと平謝り。酔客の1人としては、いずれにも気付かなかったのだが。

 再発防止策として「看板の木枠を補強し、更に設置の段階で比重をかけて確認作業を行う」と具体的に約束している。日米の偉い政治家が即座に足を運び、「遺憾」を何百回繰り返そうとも、このホテルの信用度には及ばない

 

備考;regrettable=残念な、遺憾な;悲しむべき、痛ましい、気の毒な(ランダムハウス英和大辞典)。

 

08年03月02日付『沖縄タイムス』−「社説」=告訴取り下げ

 

被害者の声に応える道は

 「そっとしておいてほしい」―被害者とその家族の訴えを私たちはどう受け止めればいいのだろうか。

 女子中学生への暴行事件で逮捕されていた米海兵隊員は、被害者側が告訴を取り下げたため不起訴になり、釈放された。

 県内には戸惑いも広がっている。だが、被害者が発した声を正面から受け止め、問題の所在を整理し再発防止につなげていくことが、今、私たちに求められているのだと思う。

 強姦罪は被害者の告訴がなければ起訴できない「親告罪」で、今回の事件に限らず告訴が取り下げられたり、被害者が訴えることをためらったりしてうやむやになるケースは多い。

 容疑者の身柄は海兵隊が拘束しているが、日本の法律で起訴されなかったからといって二等軍曹の容疑が晴れたわけではない。

 むしろ日本側が権利を行使しないことで、米軍の責任はより重くなったととらえるべきである。

 ケビン・メア在沖米総領事は「日本側が一次裁判権を放棄するなら、米軍当局が証拠を調べ、捜査した上で処遇を判断する」と述べている。

 米軍当局は二等軍曹の行為を徹底的に洗い直し、人権への配慮を強調する民主主義国家の名に恥じない判断を下してもらいたい。

 事件が国会でも取り上げられ、大きな政治問題に発展したため、被害者はいや応なく、さまざまな問題に直面することになった。

 米兵による性犯罪が起こるたびに出る被害者の「落ち度論」もその一つである。被害者やその家族にとっては耐え難い非難であり、それが二次被害をもたらした側面も否定できない。

 告訴し法廷の場で容疑者の罪を暴こうにも、それによって逆に自らのプライバシーがさらされる恐れがある。

 被害者と家族が告訴を取り下げたのは、そのことを何よりも心配したからではなかったか。

 告訴取り下げの判断を下すに当たっては、さまざまな葛藤があったと推察される。そのことを私たちは重く受け止めたい。

 日米両政府は、今回のような性犯罪などの発生を防ぐための再発防止策を講ずるとしている。だが、本当に実効性のある防止策を構築できなければ事態は何ら変わらず、再び同様の事件が繰り返される可能性はある。

 米軍の兵士教育の在り方に問題はないのかどうか。事件や事故に至った経緯についてきちんと検証し、二度とこのような事件が起きないようにすることが両政府の責務だ。

 

08年03月02日付『沖縄タイムス』−「大弦小弦」

 

 「容疑者釈放」。朝刊の編集作業が佳境に入った午後9時20分すぎ。中堅記者が携帯電話を耳に当てながら、担当デスクだった筆者に告げた。

 「被害者が告訴を取り下げるかもしれない」。噂話としては耳に入っていたものの、実際にテレビのテロップが流れる段階になると、編集局は重苦しい雰囲気に包まれた。紙面の組み替え作業が始まった。

 「なぜ、告訴を取り下げたのか」「本人の意思だと言っている」。那覇地検の説明内容が断片的に送られてきた。反応取りのため社に残った大勢の部員に逐一伝えながら、頭の中は被害者が発したという「そっとしておいてほしい」の言葉が駆け巡っていた。

 友達と遊ぶ。恋に胸をときめかせる。どこにでもいる生徒だったはずだ。そして悪夢のような出来事に襲われたが、勇気を振り絞って告訴した。広がる一方の波紋と一部メディアの好奇の目が本人を余計に苦しめ、追い込んだのかもしれない。ネット上での中傷もあった。

 被害者に降りかかったさまざまな風圧を改めて思う。性暴力被害者の支援活動を続ける角田由紀子弁護士は「過酷な決断ではなかったか。孤独だったのではないだろうか」と気遣っている。

 朝刊作業を終えた未明の車中。被害者の言葉を反芻した。親告罪ではなく、被害者の負担を軽減する立件方法はなかったのか。検証すべきことは多い。課題は突きつけられたままだ。

 

08年02月13日付『琉球新報』−「社説」

 

女子中学生暴行 許せない米兵の非道/「再発防止」は口先だけか

 またしても米軍基地あるがゆえの非道な犯罪が起きた。沖縄本島中部で女子中学生を暴行した疑いで、沖縄署が在沖米海兵隊キャンプ・コートニー所属の二等軍曹を逮捕したのである。
 沖縄署の調べによると、米兵は「家まで送っていく」などと被害者に声を掛けてバイクで連れ出し、北中城村の自宅に連れ込んだ。
 被害者は逃げ出したが、再度「車で家まで送っていく」と言ってワゴン車に乗せ、嘉手納町付近まで連れ回した上、北谷町内の路上に止めた乗用車内で犯行に及んだという。
 嫌がる被害者を執拗(しつよう)に連れ回すなど、悪質極まりない犯行だ。
後絶たぬ性犯罪
 県内では1995年に買い物帰りの小学生が在沖米兵3人に暴行されるという痛ましい事件が発生した。
 これをきっかけとして県民の怒りが爆発、同年10月21日には主催者発表で8万5千人(警察発表5万8千人)が宜野湾海浜公園に結集する超党派の県民総決起大会が開かれる事態に発展した。
 大会では(1)米軍人の綱紀粛正と軍人・軍属による犯罪の根絶(2)被害者に対する謝罪と完全な補償(3)日米地位協定の早急な見直し(4)米軍基地の整理縮小の促進―の4項目を求める抗議決議を満場一致で採択している。
 少女乱暴事件の際に米軍は、綱紀粛正を徹底し再発防止に全力を挙げると約束したが、ほとんど実効を上げていないことが今回の事件によって浮き彫りにされた。
 2002年には海兵隊少佐が女性を襲った暴行未遂、04年には米軍属による女性乱暴、05年には空軍兵による小学生への強制わいせつ、07年には米軍人子弟による女性暴行致傷など、米軍絡みの性犯罪は後を絶たない。
 被害者が泣き寝入りし、表面化しないケースも相当数あるとみられている。
 米軍は事件が起きるたびに再発防止に努めると強調するが、一体全体、この間、どのような有効な対策を講じてきたのか。
 犯罪が繰り返される実情から判断すると、米側の釈明はその場しのぎで口先だけだったということになる。
 このままでは、基地と隣り合わせの生活を余儀なくされている沖縄県民は、安心して夜道を歩くことさえできない。
 一番の再発防止策は、本能の赴くままに女性を襲う機会をうかがっているような兵士を野放しにしないことである。
 米軍は、個々の兵士の生活態度をつぶさに管理・監督し、犯罪を引き起こす恐れがある人物については、民間地域への外出に一定の条件を付けたり特別な指導を施すなど、強い姿勢で対処すべきだ。
 事ここに至っては、通り一遍の取り組みでは誰も納得しない。
兵員削減が急務
 海兵隊は有事の際の前方展開を担う「殴り込み部隊」として知られており、屈強な兵士が多い。
 日本には06年9月現在で1万4424人の海兵隊員が駐留しており、このうち93・5%に当たる1万3480人が在沖基地に配属されている。在沖米軍兵力の総数は、在日米軍全体の約7割に達する。
 数が多いだけに、凶悪事件を引き起こすやからも後を絶たない。
 復帰後36年近く経過した現在も、国土のわずか0・6%にすぎない県土に、在日米軍専用施設面積の4分の3が集中していることが根底にある。
 米軍絡みの事件・事故を減らすには、基地の整理縮小を進め、面積を減らすと同時に、駐留する兵員を削減することが不可欠だ。とりわけ海兵隊の実戦部隊は、できるだけ早く沖縄から移転させる必要がある。
 沖縄は戦後63年間も過重に米軍基地を押し付けられてきた。そのことが基地絡みの事件・事故を生み、県民を苦しめ続けている。
 日本政府はそのことを十分に念頭に置き、兵員の削減に本腰を入れて取り組むべきだ。
 今回、被害に遭った女子中学生の心身の傷は想像を絶するものがあるだろう。被害者に対しては、手厚いケアが求められる。
 ジルマー在沖米4軍調整官は12日夕、仲井真弘多知事に「遺憾である」と述べたが、わびて済む話ではない。二度とこのような悪質な事件が起きないように、実効性を伴った対策を示し、実行に移してもらいたい。

 

08年02月14日付『琉球新報』−「金口木舌きんこうもくぜつ=言論によって社会の人々を指導する人物。木鐸【ぼくたく】)

 

沖縄戦関連史料の「所見」が取りざたされた防衛省防衛研究所に、「逃亡犯ニ関スル若干ノ参考」と題する史料が収められている。作成したのは沖縄守備軍・第32軍司令部。日付は1944年2月10日とあり、ほぼ64年前。

 頭、「逃亡犯ノ極メテ多発シアルハ―」とあり、内部で兵士逃亡が深刻化していたことが分かる。逃亡の要因は「規律嫌忌」と「私的制裁」という。

逃げた兵士は山林、墳墓、豚小屋に身を隠した。現地召集の県出身兵士も「腹が減った」などと言い残して部隊を離れ、戻らない者がいたと史料は記す。

豚小屋に逃れた兵士に生身の人間の姿をみる。しかし、地上戦で秩序を失った日本軍の加虐行為を県民は身をもって知る。その後は米兵による人権侵害が今日まで続く。

先の史料は部隊幹部の「至情ニ溢ルル指導」で逃亡を防止せよと語る。「指導」を「綱紀粛正」に置き換えたとき、その有効性に疑問符が付くことを歴史は教える。しかし、日米両政府は学んでいないようだ。

米兵女子中学生暴行事件で政府は火消しに躍起だが、福田首相や閣僚の発言は「綱紀粛正」の羅列ばかり。高村外相は「いい加減にしてくれ」と米軍に憤ったが、県民側のせりふとして政府にお返ししたい。

 

08年03月02日付『琉球新報』−「社説」=告訴取り下げ 犯罪の容疑は消えない

 

 何ともやり切れぬ気持ちだ。告訴を取り下げた少女に、どんな心境の変化があったのか。事件後に浴びせられた心ない非難の声。あるいは、一部週刊誌による無節操な取材や報道。「なぜ、自分が責められねばならないのだろうか。やはり、自分が悪かったのか」。こんな思いでいるのなら、それは違うと、あらためて強く問い掛けたい。
 那覇地検は29日夜、女子中学生暴行容疑で逮捕した在沖海兵隊の2等軍曹を不起訴処分にした。被害者が告訴を取り下げたからだという。その理由について、「(少女が)そっとしてほしい、と思っている」と説明する。恐らく、精神的に追い詰められた本人と家族が、やむにやまれぬ思いで決断したのだろう。
 事件後、大きく問題化していく重圧に加え、公判ともなれば証言などで、さらに傷口を広げられるような仕打ちにも耐えなければならない。被害者や家族がそう心配するのも無理はなかろう。あえて言えば、自宅にまで押し掛ける週刊誌や、いわれなき中傷に行き場を失ったともいえる。まさに「被害少女に対する重大な人権侵害(セカンドレイプ)があった」(沖縄人権協会)ことになろう。
 本人や家族の判断は、そういう意味からも理解できるし尊重しなければならない。少女の心のケアに十分配慮し、1日も早く立ち直ることのできるよう、関係者の手当てに期待したい。
 いま、私たち大人がすべきことは、二度とこうした事件の起きない社会をつくることだろう。行政と民間が一体となっての再発防止策、子供たちへの教育、など。そのことが優先だ。決して、被害者の落ち度を言い募ることが、先ではない。それは、天につばするようなものだ。非難は自らに返ってくる。こうした社会を放置してきた大人としての自分に。
 23日の県民大会は、予定通り開かれることが決まった。3日にも呼び掛け団体で話し合う。また、8日には大会に向けた実行委員会の結成総会を開いて、アピール文を発表する予定だ。賛否もあるが、開催は当然だろう。自民党も含めて、実行委は超党派での開催に向けて全力を挙げるべきだ。
 告訴が取り下げられた、といって、犯罪の容疑が消えるわけでもない。事実、釈放された米兵は米軍に身柄を拘束されている。米側の厳しい処罰を願うばかりだ。
 ボールは日米両政府に投げられた。事件の再発防止に向けて、実効性のある施策がどれだけ実行できるか。「綱紀粛正」や「兵士教育の徹底」など、その場しのぎの対策では何の解決にもならないことは、すでに証明ずみだろう。もちろん、米軍基地の県外移転が根本的な解決策には違いない。

 

08年02月15日付『しんぶん赤旗』−「主張」=米兵の凶悪犯罪 米軍の駐留を見直すときだ

 

 女子中学生暴行事件で沖縄と全国の怒りは頂点に達しています。

 沖縄県の仲井真弘多知事は福田康夫首相らに直接抗議し、県議会をはじめ沖縄市議会、北谷町議会なども相次いで抗議決議をあげています。

 政府は米軍に綱紀粛正と再発防止を申し入れるなど、対応に躍起です。アメリカもシーファー駐日大使や沖縄米軍の最高責任者が「遺憾」を連発しています。しかし、高村正彦外相が「日米関係への悪い影響を少なく収められるかどうか」というように、両政府の関心はもっぱら日米軍事同盟を傷つけないことに向いています。これでは県民・国民の安全を守れるはずはありません。

押し付けの沖縄基地

 日本の米軍基地は、アメリカが戦後の占領の継続として、問答無用とばかりに押し付けたものです。国民が犠牲に耐えなければならない理由はそもそもありません。

 とりわけ沖縄の基地は、米軍が占領中に住民から土地を強奪し、さらに銃剣とブルドーザーで拡大した理不尽きわまるものです。日本政府がアメリカいいなりに基地を追認した結果、米軍犯罪も多発しています。この事実に目をつぶり、「痛みを軽減する」といっても筋が通りません。

 60年以上も県民に言語に絶する苦痛を強いてきた誤りを認め、抜本的な対策をとるのが政府の務めです。「綱紀粛正」で一件落着にするのではなく、犯罪の温床である基地をなくす方向にふみだすべきです。

 政府は「日本を守るために米軍は駐留している」といって、県民に犠牲を強いてきました。県民に我慢をせまるだけの日本政府の態度が米軍犯罪を助長してきたことは否定しようがありません。しかし、「ソ連」が崩壊し、「防衛計画の大綱」が日本にたいする「本格的な侵略事態生起の可能性は低下」しているというように、「日本防衛」はいまや口実にさえなりえません。

 重要なのは、米軍基地は「日本防衛」と無関係に、アメリカの先制攻撃戦争の足場になっていることです。イラク戦争でも沖縄は出撃基地にされています。普天間基地(宜野湾市)の大型輸送ヘリが2004年に、住宅密集地に隣接する沖縄国際大学に墜落した事故もイラク派遣に備えた訓練中の出来事です。

 「日本防衛」と関係ない米軍のため県民が犠牲になるいわれはないという沖縄県民の声を政府は、正面から受け止めるべきです。

 「綱紀粛正」や隊内教育の強化で終わりにさせるわけにいきません。1995年の少女暴行事件のさい、アメリカ政府と米軍が再発防止を明言したにもかかわらず、性犯罪が相次いでいます。とくに沖縄で米軍犯罪がなくならないのは、多くの米兵の血を流して沖縄を占領したという隊内教育や広大な一等地を奪い、米軍地位協定で特権をもっていることと結びついています。米軍犯罪をなくすには、基地の縮小・撤去以外に道はありません。いまこそ本質的な議論と運動をつよめるときです。

安保廃棄の旗を高く

 米軍基地と部隊駐留を許している根拠は日米安保条約です。日本と極東の平和と安全を目的にした安保は、いまやイラク出撃など世界各地の戦争に出撃することを認める「世界安保」に大変質しています。戦争を禁止した憲法をもつ日本が、アメリカの先制攻撃戦争の拠点になることを認めるわけにはいきません。

 安保条約廃棄の旗を高く掲げ、基地撤去と米軍撤退を要求する運動を大きく広げることが重要です。

 

 

 

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