最高裁、大崎事件の再審認めず

 

裁判所の「正義」とは?〜「大崎事件」最高裁決定の異常

 

大崎事件最高裁決定全文 2019年6月25日

 

記事

 

鹿児島県大崎町で1979年、男性の遺体が見つかった大崎事件の第3次再審請求審で最高裁は、殺人などの罪で懲役10年が確定し服役した原口アヤ子さん(92)の請求を認めない決定をした。2019年6月25日付。再審を認めない判断が確定した。

 

(2019年6月27日配信『東京新聞』)

 

3度の「再審」検察が壁 大崎事件・特別抗告 弁護団、国賠請求の方針

(2018年3月20日配信『西日本新聞』)

(2019年6月26日配信『毎日新聞』)

 

 

   

(2018年3月12日配信『毎日新聞』)

 

 

 

裁判所の「正義」とは?〜「大崎事件」最高裁決定の異常(2019年6月26日配信『yahooニュース』)

 

江川紹子|ジャーナリスト

 

雪冤を訴え続ける原口アヤ子さんと弁護団事務局長の鴨志田祐美弁護士(2019年4月30日)

 

 「再審」は、冤罪を訴える人を救済する、最後の手段である。ただ、そこに至る扉は限りなく重く、容易には開かない。

 この困難な手続きで、地裁、高裁が続けて「再審開始」を認めた「大崎事件」第3次再審請求審。ところが最高裁は、これらの決定を取り消し、再審請求を棄却した。高裁に差し戻すわけでもなく、最後の最後に、自ら再審の扉をぴしゃりと閉めたのだ。地裁、高裁が認めた再審への道を、最高裁が破棄自判という形で道を閉ざしたのは過去に例を聞かない。前代未聞の異常な決定と言わざるをえない。 

 最近、再審を巡っては、在野で大きな動きが出て来ている。いくつもの冤罪事件を通して明らかになった再審に関する法律の不備を訴える「再審法改正をめざす市民の会」が設立され、日本弁護士連合会も秋の人権大会で「今こそ再審法の改正を」をテーマの1つに掲げる。冤罪被害者を救済しようという声が広がる中、この最高裁決定はそれに冷や水を浴びせた。地裁などの下級審が再審開始を決定するのをためらう萎縮効果も懸念される。法改正の動きが本格化し、過去の裁判の見直しが積極的に行われる前に、それに抵抗したい最高裁が機先を制した格好とも言えるのではないか。

 

大崎事件とは

 

 

 事件に登場する人物の関係はこの図の通り(原口アヤ子さん以外は仮名)。1979年10月、鹿児島県曽於郡大崎町の牛小屋堆肥置き場で四郎さんの遺体が発見された。アヤ子さんは、夫と義弟、及び甥に持ちかけて、四郎さんを殺害したとして、懲役10年の判決を受けた。控訴、上告して争ったが、この有罪判決は確定し、アヤ子さんは服役した。

 今年3月に再審無罪が確定した熊本・松橋事件など、冤罪事件では密室の取り調べの中で、虚偽の「自白」に追い込まれているケースが多いが、本件でアヤ子さんは、捜査・裁判を通して一度も「自白」していない。

 刑務所では模範囚だった。刑期満了を待たずに仮出所できるように、職員が反省文を書くように勧めたが、アヤ子さんは「やっていないから」と言って応じなかった。そのために仮釈放はされず、満期出所した後の1995年4月に最初の再審請求を行った。鹿児島地裁は再審開始決定を出したが、検察の異議申立を受けた福岡高裁宮崎支部が取り消した。今回の第3次請求は2015年7月に起こされ、17年6月に鹿児島地裁が、18年3月に福岡高裁宮崎支部が再審開始決定を出した。すでに3つの裁判体で再審開始決定を出している事件だ。

 高裁の決定に対して、検察側が特別抗告。しかし、今回の最高裁は、決定の冒頭で「単なる法令違反、事実誤認の主張」として、検察側の主張を退けた。そのうえで、「職権をもって調査」し、今回の結論を出している。

 

大崎事件の現場。3家族が同じ敷地に家を構えていたが、今では物置1つが残るだけで木や草が生い茂っている

 

確定判決を否定する鑑定を「尊重すべき」としながら…

 最高裁が問題にしたのは、四郎さんの死因についての鑑定だった。

 確定判決が認定した死因は、アヤ子さんが手渡した「西洋タオル」を一郎さんが四郎さんの頸部に巻いて「その両端を力一杯引いて絞めつけ」ための「窒息死」だった。

 その最大の根拠となった鑑定を行った城哲男・鹿児島大教授(法医学)は、被害者に「頸椎前面の組織間出血」があったことから、死因は頚部圧迫による窒息死と判断していた。ところがこの城教授は、四郎さんに関する重要な事実を警察から聞かされていなかった。

 遺体発見の数日前、酒に酔って自転車に乗っていた四郎さんは、側溝に落ち、前後不覚の状態になっているのを地元の人に発見されていた。近くの男性2人が、意識のない四郎さんを、軽トラックの荷台に載せて自宅まで運んでいた。

 

四郎さんが落ちた側溝

 

 事情を知った城教授は、再度鑑定資料を検討し、他殺の判断を撤回。「頸椎前面の組織間出血」の原因は、首の「過伸展(むち打ち症などのような力が加わること)」などによるものと修正し、この出血のほかは頚部圧迫の痕跡はなかったことを明らかにした。そして、側溝に転落した状況によっては、このような出血を伴う頸椎や頸髄損傷によって死亡することもある、とした。

 第3次再審請求で弁護側が新規証拠として提出した鑑定を行った吉田謙一・東京医科大教授(法医学)も、出血の原因は「過伸展」によるものとし、死因は「低体温を伴う失血」である可能性が高いとした。自転車ごと溝に落ちた事故による出血のため、自宅に届けられた時にはすでに死亡していた可能性も指摘した。高裁決定は、吉田鑑定を踏まえ、他の証拠を総合評価して、再審開始を決めている。

 今回の最高裁も、吉田鑑定について、「死因に関して、科学的推論に基づく1つの仮説的見解を示すものとして尊重すべきである」と評価した。ところが、その一方で、吉田教授自身が解剖を行ったわけではないとか、「死亡するに至るまでの具体的な時間経過については明確な判断を示していない」とかの「問題点」を挙げ、こう結論づけた。

〈前記のような問題点を考慮すると、同人(=四郎)の死因又は死亡時期に関する認定に決定的な証明力を有するものとまではいえない〉

 そのうえで、アヤ子さんとの共犯関係を認めた一郎さんらの自白は「相互に支え合っている」などとして信用性を高く評価した。

 実は、この男性3人は、いずれも知的障害があり、誘導に乗りやすく、強圧的な者に迎合的な傾向があった。アヤ子さんが出所後、元夫の一郎さんになぜ「自白」したのかを問いただすと、「警察の取り調べが厳しくて言ってしまった」と謝られたという。

 こうした特性のある知的障害者は、取り調べで捜査官に迎合した供述をすることも多く、虚偽供述によって冤罪が起きるのを防ぐために、現在は警察が取り調べの可視化を行うように努めている。警察庁のまとめでは昨年度中には「知的障害等を有する被疑者」の取り調べ4,978件で録音・録画を実施した。しかし、大崎事件が起きた頃は、そうした配慮などはまったくない。

 それでも、最高裁は3人の供述について、こう結論づけた。

〈一郎、二郎及び太郎の知的能力や供述の変遷等に関して問題があることを考慮しても、それらの信用性は相当に強固なものであるということができる〉

 そのうえで、地裁、高裁の再審開始決定について、次のように認定した。

〈これらを取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる〉

 最高裁はかつて、再審請求審においても「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則が適用される、とする判断(白鳥決定)を示した。しかし、最高裁自身も「科学的推論に基づく1つの仮説的見解を示すものとして尊重すべき」とする吉田鑑定が、「絞殺」とした確定判決の死因鑑定に大きな疑問を呈しているのに、再審の道を閉ざした。この決定は、弁護側に完全なる無罪の証明を求めるに等しい。

 吉田鑑定に「問題点」があるなら、最高裁は高裁に差し戻して、疑問点をきちんと明らかにするように命じる道もあった。高裁の判断より被告人や再審請求人に不利な判断をするなら、むしろ、それがこれまでの最高裁の常道だった。なのに今回、敢えてその道を採らず、自判して弁護側の反論や補足の立証を一切シャットアウトしたところに、今回の決定の異常さがある。

 

最高裁決定に憤る鴨志田弁護士

 

 弁護団事務局長の鴨志田祐美弁護士は、「あなた方の『正義』とは何か、と裁判官たちに問いたい。あなた方は何のために裁判官になったのか、と」と憤った。 

冤罪救済の法整備を求める声が高まる中で

 最高裁決定を受けて記者会見する弁護団

大崎事件の再審請求の過程では、検察の証拠隠しが次々に明らかになった。裁判所が証拠開示を勧告し、五月雨式に不提出証拠を開示し、検察官が「大崎事件に関する証拠はもはや存在しない」と言い切った後に、裁判所がさらに強い姿勢で開示を求めたところ、新たにフィルムが何本も出て来た、というようなこともあった。

 現在、再審に関する法整備を求めるムーブメントの中で、再審請求審での証拠開示は最も大きなテーマだ。通常の裁判では、公判が始まる前に検察側の証拠がかなり開示されたり、検察側の手持ち証拠の標目が示されたりするようになったが、再審請求審では裁判官の姿勢次第で対応の差が大きい。それをルール化しようという主張が出ている。

 大崎事件は、その象徴的な存在だった。

 松橋事件に続き、湖東記念病院事件でも再審開始が確定し、手続きが始まった。昨年、大津地裁は、無実を訴えながら獄死した男性の遺族が起こした日野町事件で、再審開始決定を出した。布川事件で再審無罪が確定した桜井昌司さんが起こした裁判では、東京地裁が、警察の取り調べだけでなく、証拠開示に応じなかった検察の責任も認めた。

                                                                                                                

布川事件国賠訴訟一審判決では検察の証拠開示の義務を認めたが(国民救援会提供)

 

 冤罪被害者を救う判断がいくつも出ている中での、今回の最高裁決定。

 日弁連の再審に関する会議の最中に今回の決定を知ったという鴨志田弁護士は「下級審への萎縮効果が心配だ」と懸念する。

 92歳になったばかりのアヤ子さんには、今後、弁護団がこの決定を伝える、という。

「これで諦めるわけにはいかない」(鴨志田弁護士)

 今回の決定を出した第1小法廷の裁判官は以下の通り。

 小池裕(元東京高裁長官)

 池上政幸(元大阪高検検事長)

 木澤克之(東京弁護士会出身、元立教大学法科大学院教授、元学校法人加計学園監事)

 山口厚(東京大学名誉教授)

 深山卓也(前東京高裁長官)

 

江川紹子

ジャーナリスト

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。

 

 

 

大崎事件、4次再審請求へ(2019年7月20日配信『京都新聞』)

 

弁護団が方針決定

 鹿児島県大崎町で1979年、男性の遺体が見つかった大崎事件で、殺人などの罪で服役した原口アヤ子さん(92)の弁護団は20日、最高裁の第3次再審請求棄却を受けて鹿児島市内で会議を開き、第4次請求をする方針を決めた。時期は現時点で明らかにできないとしている。

 弁護団によると、最高裁決定は受け入れられないとの認識で一致。心理学者や法医学者に新たな鑑定を依頼したり、関係者の供述を科学的に分析したりして新証拠を提出し、再審請求する方針という。

 弁護団の鴨志田祐美事務局長は「誰も諦めていない。高齢の原口さんのことを考えると、時間をかけることはできない」と話した。

 

「再審制度ゆがめる」大崎事件で法学者92人が抗議声明(2019年7月12日配信『朝日新聞』)

 

声明文を読み上げる指宿(いぶさき)信(まこと)・成城大教授=2019年7月12日午後0時30分、東京・霞が関

 

 鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」で、刑事法学者92人が12日、殺人罪などで懲役10年の判決を受けて服役した義姉・原口アヤ子さん(92)の再審開始決定を取り消した最高裁に抗議する声明を出した。「再審制度の意義を根本からゆがめる決定」と批判し、制度改正を訴えた。

 原口さんの再審請求は一、二審で認められていたが、検察側の特別抗告を受け、最高裁は6月25日付の決定で取り消した。声明は「再審は誤判と人権侵害を救済する制度」と指摘し、下級審の開始決定を最高裁が覆すのは「基本理念を揺るがす」と批判した。また、開始決定が出れば検察側は不服を申し立てられなくする制度改革を求めた。

 会見した指宿信(いぶすきまこと)・成城大教授は「短期間にこれだけの賛同が集まったのは、決定の衝撃と、再審の門が再び閉じられるという危機感の表れだ」と語った。

 

大崎事件第3次再審請求棄却決定についての滋賀弁護士会会長声明

 

  2019(令和元)年6月25日,最高裁判所第一小法廷は,いわゆる大崎事件第3次再審請求事件(請求人原口アヤ子氏ほか)の特別抗告審について,検察官の特別抗告には理由がないとしたものの,職権により,鹿児島地方裁判所の再審開始決定及び福岡高等裁判所宮崎支部の即時抗告棄却(再審開始維持)決定を取り消し,再審請求を棄却する決定をした。

 本件は,1979(昭和54)年10月,鹿児島県曽於郡大崎町において,原口氏が,元夫,義弟の計3名で共謀して被害者を殺害し,その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。

原口氏は,逮捕時から一貫して無罪を主張したものの,1980(昭和55)年3月31日,鹿児島地方裁判所は,共犯者とされた元夫,義弟,義弟の息子の3名による自白,自白内容と矛盾しない法医学鑑定,共犯者親族の供述等を主たる証拠として,懲役10年の有罪判決を言い渡し,同判決は1981(昭和56)年2月17日に最高裁判所が異議申立を棄却して,確定した。

 1995(平成7)年4月19日,原口氏は再審請求を行い,2002(平成14)年3月26日,第1次再審請求審の鹿児島地方裁判所は,いったん再審開始決定をしたものの,検察官の即時抗告により同決定は取り消され,その後の第2次再審請求においても再審の扉は開かなかった。2017(平成29)年6月28日,第3次再審請求審の鹿児島地方裁判所は,法医学鑑定と供述心理鑑定を新証拠として2度目となる再審開始決定をし,2018(平成30)年3月12日,福岡高等裁判所宮崎支部も再審開始の結論を維持し,検察官が特別抗告をした。

そして,今回,最高裁判所は,書面審理のみで原々審及び原審の判断を「著しく正義に反するもの」として覆し,不意打ち的に,自ら請求を棄却したのである。

本件は,過去3回にわたって再審開始が認められており,えん罪被害救済を目的とする再審手続の中でも特に慎重な判断が要求される事件である。特別抗告審が事後審かつ法律審であり,事実誤認が抗告理由にあたらない以上,下級審の事実認定に疑問があったとしても,公開された再審公判の法廷において事実審理を行わせるか,せめて事件を下級審に差し戻すべきであった。

また,今回の決定は,新証拠に旧証拠を凌駕する高度の証明力を要求し,事実上,請求人側に無罪の立証責任を負わせたとも解され,えん罪被害救済を理念とする再審制度の趣旨や,「疑わしい時は被告人の利益に」の原則が再審請求審にも適用されるとした白鳥・財田川決定を骨抜きにするものである。今回の決定が,下級審における再審判断に及ぼす影響も懸念され,日野町事件,湖東事件といった再審弁護に携わってきた当会としても,到底容認することはできない。

本件は,事件発生から約40年,第1次再審請求から24年以上が経過し,原口氏も92歳と相当高齢になっている。原口氏の雪冤のために残された時間はあまりにも少ない。

当会は,大崎事件の再審請求について,日本弁護士連合会及び鹿児島県弁護士会と連帯し,あらゆる協力を惜しまないことを表明するとともに,再審請求審における全面的証拠開示,再審開始決定に対する検察官の不服申立て禁止をはじめとする,えん罪被害救済に向けた再審法改正の実現に,さらに力を尽くす所存である。

 

2019(令和元)年7月9日

                               滋賀弁護士会 会長 永芳 明 

 

大崎事件 “再審認めない”最高裁判断 弁護団が女性に報告(2019年6月27日配信『NHKニュース』)

 

40年前、鹿児島県大崎町で義理の弟を殺害した罪などで服役した92歳の原口アヤ子さんについて、最高裁が再審=裁判のやり直しを認めなかったことを受けて、弁護団は、入院中の原口さんに判断の内容を伝えました。弁護団が改めて再審請求をすることを伝えると、原口さんは大きくうなずいたということです。

原口アヤ子さんは、昭和54年、鹿児島県大崎町で当時42歳の義理の弟を首を絞めて殺害したとして、殺人などの罪で懲役10年の刑が確定し、服役しましたが、一貫して無実を訴え、再審を求めていました。

3度目の再審請求で、最高裁判所は、再審を認めた地裁と高裁の決定を取り消し、再審を認めない極めて異例の決定を出しました。

原口さんの弁護団と支援者は、27日、原口さんが入院している鹿児島県内の病院を訪れ、最高裁判所の決定の内容を伝えました。

面会のあと、弁護団は会見を開き、鴨志田祐美事務局長は「原口さんに『再審確定の知らせを持って来られずごめんなさい。すぐ次の再審請求をやります。一緒に闘い続けましょう』と伝えると、原口さんは大きくうなずいた」と説明しました。

そして、「最高裁は原口さんの40年の叫びにこたえ、真剣に証拠を見たのか。詳細な証拠や主張の検討を行ったとは到底考えられない」と最高裁の決定を強く批判しました。

弁護団は、これまでの証拠を改めて調べ、4度目となる再審請求に向けて検討を進めるとしています。

 

大崎事件 再審の扉3度閉ざす 弁護団「最高裁の決定は横暴」(2019年6月27日配信『東京新聞』)

 

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大崎事件の再審請求が棄却され、記者会見で言葉を詰まらせ、うつむく鴨志田祐美弁護団事務局長=26日、東京・霞が関の司法クラブで

 

 40年間、一貫して潔白を訴え、無罪判決を法廷で聞くという原口アヤ子さん(92)の悲願は、3度目の再審請求でもかなわなかった。1979年に起きた「大崎事件」の第3次再審請求審をめぐる最高裁決定。弁護側の新証拠の価値を一蹴した判断に、弁護団からは「あまりにも横暴だ」と怒りの声が上がった。 

 「原口さんの人生をかけた闘いに、最高裁はちゃんと向き合っていない。5人の裁判官は何を考えているのか」。東京・霞が関の司法記者クラブで26日に会見した鴨志田祐美弁護団事務局長は、表情をこわばらせ語気を強めた。

 1995年に初めて再審請求を申し立てて以降、これまで地裁、高裁で3回の再審開始決定が出ている。「ある意味一番頼りにしていたのは最高裁。長い長い闘いにピリオドを打ってくれると信じていた」と落胆を隠さない。

 会見に同席した元裁判官の木谷明弁護士も「無実の人を救済するために裁判所はあるのではないのか。大変がっかりしている」と批判した。

 原口さんの長女京子さん(64)には、鴨志田弁護士が電話で連絡した。京子さんはしばらく絶句した後、「これは裁判所のトップが決めたことなんですか? それなら日本の恥ですよね。お母さんも私も、もうちょっとで楽になれると思ったのに…」と漏らしたという。弁護団は、原口さんには決定内容をまだ伝えていないという。

 これまで脳梗塞を2度患い、原口さんは発声もままならない状態。今月7日にあった誕生日会では、鴨志田弁護士が再審請求審について話すと、目に光が宿り、何かを言いたそうに頭を持ち上げた。「一緒に同じ法廷で裁判長の『被告人は無罪』っていうのを聞こうね」と話しかけると、大きくうなずいたという。

 最高裁は今回、高裁支部に審理を差し戻すことをせず、書面の審査のみで自ら再審請求棄却を判断するという異例の決定をした。

 再審制度に詳しい白鴎大法学部の村岡啓一教授(刑事訴訟法)は「原口さんの関与があったかには触れず、法律論だけで決着を付けてしまっている」と指摘。「選ぶべきは再審開始だった。事故死の可能性についても、再審公判でやるべきだった。ここで終わってしまったのは、原口さんへのものすごく冷たい仕打ちだ」と非難した。

<大崎事件> 鹿児島県大崎町で1979年10月、農業中村邦夫さん=当時(42)=が酒に酔って道路脇の溝に落ちているのを住民が発見。3日後、遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、隣に住んでいた中村さんの義姉原口アヤ子さんと親族の計4人が殺人容疑などで逮捕された。原口さんは一貫して否認したが、親族3人は殺害や死体遺棄を自白。一審・鹿児島地裁は原口さんに懲役10年を言い渡し、1981年に最高裁で確定。親族3人は懲役1〜8年の判決が確定し、出所後いずれも死亡した。

 

大崎事件 再審、ハードルさらに高く(2019年6月27日配信『東京新聞』)

 

<解説> 確定判決に疑問を投げかけた法医学鑑定を「証明力はない」と一蹴し、大崎事件の再審開始を認めなかった最高裁決定は、再審のハードルをさらに上げかねない。

 「絞殺ではなく事故死の可能性がある」と指摘したこの鑑定について、1審と2審は証明力を認めて再審開始決定を出した。これに対し、最高裁は「遺体を直接検分していない」「12枚の写真からしか遺体の情報を得られていない」と証明力を否定した。

 だが、そもそも遺体は腐敗が進んでおり、確定判決時の鑑定も「他殺を想像させる。窒息死と推定」という程度。絞殺の根拠は、共犯者とされた親族3人の自白に依存していた。

 親族3人は、捜査段階から何度も供述を変遷させていた。「タオルで絞め殺した」と自白しながら、いまだタオルは特定されていない。

 第1次再審請求審を加えると、3度にわたり再審開始決定が出ながら、再審の扉は唐突に閉じられた。「疑わしきは被告の利益に」という刑事裁判の鉄則は守られたのか。新旧証拠の総合評価で確定判決に疑いが生じれば、再審を開始すべきだとする「白鳥決定」に沿ったと言えるか疑問だ。

 

大崎事件 再審取り消し 最高裁 鑑定の証明力否定(2019年6月27日配信『東京新聞』)

  

 鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」で、殺人罪などで服役した義姉の原口アヤ子さん(92)が裁判のやり直しを求めた第3次再審請求審で、最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)は、再審開始を認めた福岡高裁宮崎支部と鹿児島地裁の決定を取り消し、再審請求を棄却する決定をした。再審を認めない判断が確定した。25日付。裁判官5人全員一致の意見。 

 1審、2審の再審開始決定を最高裁が覆したのは初めてとみられる。共犯とされた元夫(故人)の再審開始も取り消した。

 最高裁は、1、2審が重視した弁護側が新証拠として提出した法医学鑑定を検討。鑑定は、確定判決が「窒息死と推定される」とした男性の死因について、「転落事故による出血性ショックの可能性が極めて高い」と指摘していた。

 最高裁は鑑定について、写真だけでしか遺体の情報を把握できていないことなどを挙げ、「死因または死亡時期の認定に、決定的な証明力を有するとまではいえない」と判断した。

 有罪の根拠となった「タオルで首を絞めた」などとする元夫ら親族3人の自白については、「3人の知的能力や供述の変遷に問題があることを考慮しても、信用性は強固だといえる」と評価。「法医学鑑定に問題があることを踏まえると、自白に疑義が生じたというには無理がある」とした。

 最高裁は「鑑定を『無罪を言い渡すべき明らかな証拠』とした高裁支部と地裁の決定を取り消さなければ著しく正義に反する」と結論づけた。

 弁護団は26日、東京都内で記者会見し、「許し難い決定だ」と批判。第四次再審請求を検討するとした。

 第3次再審請求審では、鹿児島地裁が2017年6月、目撃証言の信用性を否定する心理学者の鑑定や法医学鑑定を基に、再審開始を認めた。18年3月の福岡高裁宮崎支部決定は、心理鑑定の証拠価値は認めなかったが、「法医学鑑定と整合せず不自然」などとして親族らの自白の信用性を否定し、再審開始決定を維持した。

 

義弟殺害罪の大崎事件 再審開始決定を取り消し 最高裁(2019年6月26日配信『NHKニュース』)

 

 

40年前、鹿児島県大崎町で義理の弟を殺害した罪などで懲役10年の判決が確定し、服役した92歳の女性について、最高裁判所は、再審=裁判のやり直しを認めた鹿児島地方裁判所と福岡高裁宮崎支部の決定を取り消し、再審を認めない決定をしました。地裁と高裁でいずれも再審が認められた決定を最高裁が取り消すのは初めてとみられます。

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190626/K10011969601_1906261453_1906261459_01_03.jpg

 

原口アヤ子さん(92)は昭和54年、鹿児島県大崎町で当時42歳の義理の弟を首を絞めて殺害したとして、殺人などの罪で懲役10年の刑が確定して服役しましたが、一貫して無実を訴え再審を求めていました。
 おととし6月、鹿児島地裁が再審を認めたのに続いて、去年3月、福岡高裁宮崎支部は、弁護側が提出した遺体の鑑定結果を新証拠にあたると判断したうえで「被害者の死因は首を絞めたものではなく、自転車で溝に転落した事故による出血性ショックの可能性が高い」として、再審を認める決定を出していました。
 これについて最高裁判所第1小法廷の小池裕裁判長は「新たな鑑定結果は、遺体を直接調べたものではなく、過去に行われた鑑定の情報や、解剖の12枚の写真からしか情報を得られず、証明力には限界がある」と指摘しました。
 そのうえで「共犯者の自白などは客観的状況にもあっていて信用性は固く、新たな鑑定結果で共犯者の自白などに疑問が生じたというには無理がある」として、26日までに鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部の決定を取り消し、再審を認めない決定をしました。
 原口さんの死亡した元夫についても再審を認めない決定をしました。
 5人の裁判官の全員一致の意見でした。
 地裁と高裁でいずれも再審が認められた決定を最高裁が取り消すのは、昭和50年に「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則が再審の判断にも適用されるようになってからは初めてとみられます。
 原口さんは「私は無実です。死ぬまで頑張ります」として、これまで3度にわたって再審を求める訴えを起こし、地裁と高裁で合わせて3回、再審が認められていました。

大崎事件とは

昭和54年、大崎町で当時42歳の男性が自宅の小屋で遺体で見つかりました。
首には絞められたような痕があったとして警察は殺人事件として捜査し、男性の義理の姉にあたる原口アヤ子さんと元夫など合わせて4人を逮捕しました。
裁判で検察は、原口さんが元夫にタオルを渡して首を絞めるよう指示し、元夫が首を絞めて殺害したなどと主張しました。
原口さんは一貫して否認し続け、最高裁判所まで争いましたが懲役10年の刑が確定しました。
原口さんの元夫も共犯として懲役刑が確定し、その後、死亡しました。
服役後も無実を訴え続けた原口さんに弁護団が結成され、平成7年、鹿児島地裁に再審を求めました。
平成14年、一度目の再審請求で鹿児島地方裁判所が再審を認める決定をしましたが、その後、取り消されます。
再審請求のポイントの1つが「被害者はタオルで首を絞められて殺害されたとは認められない」とする専門家の鑑定書でした。
3度目の再審請求で裁判所は、専門家の鑑定結果などから「タオルで絞殺し親族とともに遺体を遺棄したという確定判決の事実認定について、殺害や死体遺棄がなかった疑いを否定できない」と指摘し、再審を認めました。
検察はこれを不服として即時抗告を申し立てましたが、去年3月、福岡高裁宮崎支部は「新たな証拠から被害者が殺害されたという前提がなくなり、犯人とみるのは相当困難だ」として再審を認めた地裁の決定を支持しました。
さらに検察は最高裁判所に特別抗告し、近く決定が出されるとみられていましたが、特別抗告から10か月後のことし1月中旬、検察が遺体の鑑定結果の信用性を否定する意見書を提出しました。
弁護団は「裁判を故意に遅らせている」として最高裁判所に反論の意見書を出していました。

原口さん 最近の様子は

原口さんの弁護士によりますと、原口さんは長らく1人暮らしでしたが、おととしから病院に入院していて、ことし1月末には体調を崩し、一時、命に危険もあったということです。
 最近はベッドの上で過ごすことが多いものの、体調がいい日は看護師に車いすを押してもらいながら病院内を移動することがあるほか、電話で娘の声を聞かせると喜ぶしぐさを見せるということです。
 今月は92歳の誕生会が開かれて支援者などの前に姿を見せていました。 

 

「大崎事件」の再審決定を取り消し 最高裁(2019年6月26日配信『朝日新聞』)

 

 鹿児島県大崎町で1979年に男性(当時42)の遺体が見つかった「大崎事件」で、最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は殺人罪などで懲役10年の判決が確定して服役した義姉の原口アヤ子さん(92)の再審請求を認めない決定をした。一、二審は再審開始を認めていたが、最高裁は「弁護側が新証拠として提出した鑑定の評価を誤った」として取り消した。一、二審で認められた再審開始の決定を最高裁が取り消したのは、初めてとみられる。

 原口さんの再審請求は3度目で、今回の請求では裁判はやり直されないことが確定した。第一小法廷は併せて、共犯として有罪が確定した原口さんの元夫(故人)の遺族が求めた再審請求も棄却した。決定はいずれも25日付で、裁判官5人の一致した意見。

 この事件では、79年10月に男性の遺体が自宅横の牛小屋の肥料の中から見つかり、原口さんら親族4人が逮捕された。男性の兄だった原口さんの元夫ら3人が犯行を認めた一方、原口さんは一貫して無罪を主張。81年に有罪が確定した後も、再審を求めてきた。

 今回の再審請求審では、弁護側が提出した二つの鑑定結果の評価が争点だった。一つは「原口さんが男性殺害を持ちかけるのを見た」と証言した別の親族に対する心理学者の鑑定(@)で、「体験に基づかない情報が含まれている可能性が高い」という内容。もう一つは遺体に関する法医学者の鑑定(A)で、「タオルによる絞殺」という確定判決の認定に対し、窒息死に伴ううっ血などの症状がないとし、「溝に落ちた事故による出血性ショック死の可能性」を指摘した。

 一審・鹿児島地裁は17年、@A両方の信用性を一定程度認めて再審開始を決定。二審・福岡高裁宮崎支部も18年にAの信用性を完全に認めて開始決定を支持し、検察側が不服として特別抗告していた。

 最高裁は@について、「心理学的見地からの視点を示したにすぎない」という二審の判断を踏襲した。Aについては、事件当時の遺体の写真などが根拠で、「可能性を指摘したにすぎない部分があり、証明力には限界がある」と信用性を否定。二審が「問題点を十分に考慮しないまま、過大に評価した」と指摘した。

 そのうえで、「泥酔して溝に落ちていた男性は、近隣住民2人に自宅に送り届けられた後、親族に殺害・遺棄された」という確定判決の認定につながった、供述や証言を改めて検討。遺体を肥料に埋めた犯人は親族以外に考えられず、「供述は相互に支え合い、客観的な状況とも整合する」と認定し、「確定判決の事実関係に合理的な疑いは生じていない」と結論づけた。

 原口さんは今月15日に92歳の誕生日を迎えた。現在は鹿児島県内の病院に入院し、言葉も発しにくい状態だという。(北沢拓也)

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 〈大崎事件〉 鹿児島県大崎町で1979年10月、男性(当時42)を殺害したなどとして、義姉の原口アヤ子さんら親族4人が殺人や死体遺棄容疑で逮捕された。80年の鹿児島地裁判決は原口さんを懲役10年とし、最高裁で81年に確定した。

 

 原口さんは90年に出所し、95年に最初の再審を請求。同地裁は02年に再審開始を決定したが、福岡高裁宮崎支部が04年に取り消した。10年に起こした2度目の再審請求は一審から全て退けられた。15年の第3次請求は17年の一審、18年の二審ともに認められ、検察側が特別抗告していた。

 

大崎事件の再審開始認めず 最高裁決定(2019年6月26日配信『日本経済新聞』)

 

鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」で殺人罪などに問われ、懲役10年が確定し服役した原口アヤ子さん(92)の第3次再審請求の特別抗告審で、最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)は26日までに、再審開始を認めた鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部の決定を取り消し、再審請求を棄却する決定をした。25日付。

原口さんと同様に再審請求を申し立てていた元夫(故人)についても再審開始決定を取り消し、請求を棄却した。最高裁が再審開始決定を取り消すのは初とみられる。

再審請求では「首を圧迫された窒息死ではなく、転落事故などによる出血性ショック死の可能性がある」とする弁護側の新たな法医学鑑定や、原口さんの関与を認めた親族の供述の信用性を否定する心理鑑定の評価が争点となった。

第1小法廷は決定で、被害者の遺体が腐敗していたため、事件当時の解剖では限られた情報しか得られなかったと指摘。弁護側が新証拠とした解剖時の写真に基づく新たな法医学鑑定は基礎となる情報に問題があるとして、「死因や死亡時期について、決定的な証明力があるとまではいえない」と判断した。

共犯者や親族の供述は客観的状況と整合しているとも指摘。法医学鑑定や心理鑑定などの新証拠を考慮しても確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせるものとはいえないとし、「新証拠は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠には当たらない」と結論づけた。

事件は79年10月、大崎町で農業の男性(当時42)が遺体で見つかり、男性の義姉だった原口さんと元夫らが殺人や死体遺棄の罪で起訴された。原口さんは捜査段階から一貫して関与を否定したが、81年に最高裁で懲役10年が確定した。

原口さんは服役後の95年に再審請求した。2002年に鹿児島地裁が再審開始を認めたが、その後福岡高裁宮崎支部が取り消し、最高裁もこれを支持。その後の第2次再審請求も退けられた。

15年に申し立てた3度目の再審請求では、鹿児島地裁が17年6月に再審開始を認め、福岡高裁宮崎支部も18年3月の決定で地裁決定を支持。検察側が不服として最高裁に特別抗告していた。

 

40年前の殺人「大崎事件」再審開始認めず 最高裁初の高裁決定取り消し(2019年6月26日配信『産経新聞』)

 

 鹿児島県大崎町で昭和54年、農業、中村邦夫さん=当時(42)=の遺体が見つかった大崎事件の裁判のやり直しを求めた第3次再審請求特別抗告審で、最高裁第1小法廷(小池裕(ひろし)裁判長)は、殺人罪などで服役した義姉、原口アヤ子さん(92)と元夫(故人)について、再審開始(裁判のやり直し)を認めない決定をした。検察側の特別抗告を認め、鹿児島地裁決定と福岡高裁宮崎支部決定を取り消した。

 再審開始の判断基準とされる「白鳥決定」(昭和50年)以降、最高裁が再審開始決定を取り消すのは初とみられる。決定は25日付。5裁判官全員一致の結論。

 平成29年6月の地裁決定は、有罪認定の決め手となった親族らの「自白」について捜査機関による誘導の可能性を指摘。供述を分析した心理学者の鑑定書に基づき、自白の信用性を否定し、再審開始を認めた。

 地裁決定を維持した昨年3月の高裁決定は「(心理学者の)鑑定は手法も内容も不合理」として証拠価値を認めなかった一方で、弁護団が提出した法医学鑑定を「新証拠」と認定。死因は自転車で溝に転落した事故による出血性ショックだった可能性があると指摘し、新旧証拠を総合評価した上で「確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じた」と判断していた。

 これに対し、第1小法廷は新証拠について、中村さんの遺体が腐敗していることなどから「決定的な証明力を持っているとまではいえない」と指摘。法医学鑑定によって親族らの自白や目撃供述に疑義が生じたというのは無理があるとし、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠とはいえない」と結論づけた。

 確定判決で原口さんは、中村さんの日頃の生活態度に不満を募らせ、首をタオルで絞めて殺害したとされた。当初から全面否認していたが、鹿児島地裁は昭和55年、懲役10年の実刑を言い渡し、56年に最高裁で確定した。物証がほぼない中、確定判決は、知的能力に問題があった親族らの自白と、共謀場面を目撃したとする義妹の証言から有罪と認定していた。

 原口さんは服役後の平成7年に再審請求し、鹿児島地裁は14年、再審開始を決定したが、16年に福岡高裁宮崎支部が取り消し、最高裁で確定。2回目の請求も退けられ、27年7月に3回目の請求をした。元夫は懲役8年が確定し、服役後に死亡。長女(64)が再審請求していた

 

 

「大崎」再審棄却 救済の扉を狭めぬよう(2019年7月5日配信『北海道新聞』―「社説」)

 

 無実の人の救済に道を開く再審の扉を重くしないか。そんな懸念を拭えない判断だった。

 鹿児島県で1979年に起きた「大崎事件」の再審請求審で、殺人罪などで懲役10年が確定し服役した女性について、最高裁は請求を棄却する決定を出した。

 地裁や高裁などの下級審が認めた再審開始の決定を最高裁が取り消すのは異例だ。

 弁護団が新証拠として提出した被害者の遺体の鑑定結果について、最高裁は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠とはいえないと判断した。

 通常、憲法違反や重大な判例違反を審理する最高裁が、再審を巡る事実認定に踏み込むのは違和感がある。3回目となった再審請求に背を向けず、再審公判に委ねるか、高裁に差し戻すべきだった。

 「疑わしきは被告人の利益」が刑事裁判の鉄則である。その原則は、再審を開始するかどうかの判断にも適用される。

 今回の最高裁決定が、再審の門を狭めるようなことがあってはならない。

 弁護側は、死因とされた窒息死の典型的症状が遺体になく、転落事故による出血性ショックの可能性が高いと主張。最高裁も、事故死の見解を科学的推論に基づく仮説として尊重すべきだとした。

 にもかかわらず、鑑定した法医学者が直接遺体を見ておらず、写真などに基づいたものだとして、死因を認定するほどの証明力はないと結論づけ、新証拠と判断した高裁支部決定を取り消した。

 最高裁は75年の「白鳥決定」で「新証拠と確定裁判の旧証拠を総合評価し、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じれば再審を開始すべきだ」と緩やかな基準を示し、再審の門を広げた。

 鑑定の経緯に重きを置き、新証拠と認めなかった今回の最高裁の判断は、白鳥決定にも反する。

 近年、多くの冤罪(えんざい)事件を通じて露見した法の不備を補おうと、再審をより容易にするような法整備を求める声が上がっている。

 今回の最高裁決定が、そうした改善の機運に水を差すような事態は避けたい。

 今後の再審請求審で、DNA型鑑定など決定的証拠を求めるような形で、下級審が萎縮することも懸念される。

 再審開始決定の判断に当たり、過度に厳格な基準の適用が定着することになれば、再審が「開かずの扉」といわれた時代に逆戻りしかねない。

 

大崎事件の再審 尊厳回復の扉を閉ざすな(2019年6月30日配信『信濃毎日新聞』―「社説」)

 

 疑わしきは被告人の利益に―。刑事裁判の鉄則が再審にも適用されることを最高裁は1975年の「白鳥決定」で明確に示した。それを自ら反故(ほご)にするかのような判断は受け入れがたい。

 鹿児島で79年に起きた大崎事件の再審請求を棄却する決定を出した。地裁、高裁がいずれも認めた再審開始を最高裁が覆すのは、白鳥決定以降、ほかに例がない。

 殺人と死体遺棄で懲役10年が確定し、服役を終えた原口アヤ子さんはこれまで一度も罪を認めていない。今回の再審請求に先立つ第1次の請求でも地裁が再審開始の決定を出したが、検察が抗告し、高裁で退けられていた。

 誤判による冤罪(えんざい)は重大な人権侵害である。確定判決が揺らいだと裁判所がいったん判断したなら、ただちに裁判をやり直すのが本来だ。終審である最高裁はとりわけ重い役割を担う。その責務を放棄したと非難されても仕方ない。

 事件は、原口さんの義弟にあたる男性が遺体で見つかり、原口さんが親族3人と共謀して殺害したとされた。凶器などの物証はなく、有罪の認定を支えたのは親族の供述や目撃証言だった。

 弁護側は今回、事故死の可能性を示す法医学鑑定を提出した。高裁はその信用性を認め、再審開始の根拠とした。これに対し、最高裁は「死因を認定するだけの証明力はない」と述べ、高裁の判断を誤りと断じている。

 その考え方に従えば、よほど決定的な無実の証拠を新たに出さない限り、再審が認められないことになりかねない。ほかの事件でも地裁や高裁に再審開始の判断をためらわせないか心配だ。

 原口さんは今月で92歳になった。体の衰えが目立ち、最近は声を出すのも難しいという。再審請求は一からやり直しを余儀なくされる。存命中に再審はかなうのか、見通せなくなった。

 再審制度は戦前の刑事訴訟法をほぼそのまま引き継いだ。再審請求審が非公開であることを含め、適正な手続きの保障を欠く。三審制の安定や司法の権威を保つことを重く見て、再審に厳格な態度で臨む裁判官も少なくない。静岡の一家殺害事件で死刑が確定した袴田巌さんも、地裁が再審開始を認めながら、高裁で覆された。

 かつて再審は「開かずの扉」と言われた。その時代に後戻りすることがあってはならない。疑わしきは―の鉄則をゆるがせにしないために、人権保障を根幹に置く憲法を踏まえて再審制度を改めていく必要がある。

 

証拠開示など法整備急げ/大崎事件再審取り消し(2019年6月28日配信『東奥日報』―「時論」)

 

 鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった大崎事件の第3次再審請求審で最高裁第1小法廷は、殺人と死体遺棄の罪で懲役10年が確定し服役した元義姉原口アヤ子さんの裁判のやり直しを認めない決定をした。

 鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部が再審開始決定のよりどころとした弁護団提出の新証拠について、最高裁は証明力を否定。通常、憲法違反や判例違反の有無を審理する最高裁が、事実認定に踏み込んで判断を示すのは珍しい。

 地裁、高裁の開始決定を取り消すのは、75年の最高裁決定によって再審請求を巡る判断の枠組みが示されて以来初めて。「白鳥決定」として知られるその決定は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則が再審にも適用されるとした。地裁と高裁がそれぞれ異なる角度から確定判決に疑問を呈し、再審を認めたことを踏まえると、今回の最高裁決定が白鳥決定から逸脱したものではないかとの声が上がるのもうなずける。

 「無辜(むこ)の救済」の扉が狭まるのではないか。そうした懸念も広がる中、再審請求審の長期化によって請求人が司法判断に翻弄(ほんろう)され続けるのを避けるためにも、停滞している再審制度の在り方を巡る議論を前に進める必要がある。

 原口さんは逮捕当初から一貫して関与を否定した。しかし確定判決は知的障害のある元夫ら親族3人の自白や、原口さんが自分の夫に殺害を持ち掛けたとする元義妹の証言などを基に、元夫の弟である男性の振る舞いを快く思っていなかった原口さんが元夫らと共謀して、タオルで首を絞めて殺害したと認定した。

 原口さんは80年に鹿児島地裁で懲役10年の判決を受け、81年に最高裁で確定し服役。95年になり申し立てた第1次再審請求で2002年に地裁の開始決定が出たが、高裁支部に取り消された。

 第2次請求は退けられ、15年に第3次請求。弁護団は元義妹の供述の信用性に疑問を投げ掛ける心理学鑑定と、男性の解剖時の写真を分析して「事故死」の可能性を指摘した法医学鑑定を新証拠として提出。17年の地裁決定は心理学鑑定を、18年の高裁支部決定は法医学鑑定をそれぞれ重視した上で再審開始を認める結論を導いた。

 だが、計3度も開始が認められながら結局、原口さんに再審の扉は開かれなかった。

 今回の最高裁決定は法医学鑑定を「条件が制約された中で工夫を重ね専門的知見に基づく判断を示した」と評価しながらも、遺体を直接検分しておらず、写真からしか情報を得ることができなかったため証明力に限界があると指摘。調書記載の供述の変遷を分析した心理学鑑定も限定的な意味しかないとした。

 いずれも「無罪とすべき明らかな証拠」とはみなされなかった。科学鑑定を厳格に判断した結果とはいえ、現在92歳で鹿児島県内の病院に入院中の原口さんにとっては酷というほかない。第3次請求審では、検察側が地裁の勧告を受け入れ、事件から30年余りたって初めて、男性の解剖時のネガフィルムを開示するなど、証拠開示の問題点も改めて浮き彫りになった。

 再審には開示のルールがなく、請求人側は裁判所の訴訟指揮に頼るしかない。それが審理長期化の一因となっており、法曹界は再審を巡る法整備の議論を急ぐべきだ。

 

大崎事件 再審の門を狭めるな(2019年6月28日配信『朝日新聞』―「社説」)

 

 冤罪(えんざい)はあってはならないという観点から事件を見直すことよりも、法的安定性を優先した決定と言わざるを得ない。

 40年前に鹿児島県大崎町で男性が遺体で見つかった事件で、最高裁が、裁判のやり直しを認めた地裁と高裁の判断をいずれも取り消し、再審を求めていた女性の訴えを退けた。極めて異例な事態である。

 もちろん確定した判決が簡単にひっくり返ってしまっては司法への信頼はゆらぎ、社会に悪影響を及ぼす。だが事件の経緯を振り返ると、最高裁の結論には釈然としない思いが残る。

 最大の争点は男性の死因だった。確定判決は「窒息死」としていたが、再審請求審で弁護側は、転倒事故による「出血性ショック死」の可能性が高いとする法医学者の新鑑定を提出。高裁は、これを踏まえると確定判決には様々な矛盾や不合理が生じるとして、裁判のやり直しを決めた。

 しかし最高裁は、遺体そのものではなく写真を基にしているなど、新鑑定がかかえる問題点を複数指摘し、「高裁の評価は間違っている」と述べた。

 この事件では、窒息死させる際に使ったというタオルが見つかっておらず、また、女性の共犯とされた関係者3人の供述は不自然に変遷していた。3人には知的障害があり、捜査員による誘導が生じやすいケースだ。そもそも窒息死という所見も、すでに腐敗していた遺体を解剖した医師が「消去法」で推定したものだと、当の医師が認め、後に見解を変えている。

 そんな脆弱(ぜいじゃく)な証拠構造の上にある判決であっても、いったん確定した以上は、よほど明白な事情がなければ覆すべきではない――。それが棄却決定を通して見える最高裁の考えだ。「疑わしきは被告人の利益に」という、再審にも適用される鉄則に照らし、妥当だろうか。

 女性が再審を請求したのは3回目で、1回目でも死因に疑問が呈され、地裁が開始決定を出している(後に取り消し)。つまり今回の最高裁決定以前に事件に関与した八つの裁判体のうち三つが、有罪としたことに疑問を抱いているのだ。

 近年、DNA型鑑定をはじめとする科学技術の進展や、検察の手持ち証拠の開示の拡大により、冤罪が晴れる例が続く。再審開始決定に従わず、上訴を繰り返す検察に疑問が寄せられ、そのあり方も含めて、再審に関する法制度を整備しようという機運が盛りあがっている。

 今回の決定で、こうした流れが逆行することは許されない。裁判に誤りがあった場合は速やかに正す。そのための最善の方策を追求し続けねばならない。

 

「大崎事件」最高裁が棄却 再審の門が狭まらないか(2019年6月28日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 鹿児島県大崎町で1979年に起きた「大崎事件」で、殺人罪などに問われ懲役10年が確定し、服役した92歳の原口アヤ子さんについて、最高裁が再審開始決定を取り消し、請求を棄却する決定を出した。

 地裁と高裁が続けて再審開始を決定していた事件である。こうしたケースで最高裁が再審を取り消すのは初めてとみられ、異例だ。

 被害者とされるのは原口さんの義弟だ。自転車事故を起こし自宅に運び込まれた後、自宅横の牛小屋から遺体が見つかった。

 原口さんは元夫ら親族3人と共謀し、義弟の首を絞めて窒息死させたとして起訴された。だが、一貫して無罪を主張してきた。

 今回の第3次再審請求審では、弁護側が提出した法医学鑑定書の信用性が主要な争点になった。

 鑑定は、遺体写真などを基に作成され、義弟が自転車事故による出血性ショックで亡くなった可能性を指摘した。高裁はこの鑑定を無罪とすべき新証拠としたが、最高裁は信用性に疑問を呈した。

 かつて再審は「開かずの扉」と言われていた。最高裁が75年の白鳥決定で、「新旧証拠を総合評価して、確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせれば足りる」と緩やかな基準を示し、再審開始決定が相次いだ。

 今回の決定は、新証拠である鑑定の証明力の限界に重きを置いた判断だ。ただ、地高裁の決定を覆すだけの十分な説明はなされていない。

 事件では、事実上の無罪認定である再審開始決定が下級審で計3回も出ている。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則に照らしても、結論には疑問が残る。

 事件の発生から40年がたち、最初に再審請求してから24年が経過した。時間がかかったのは、検察側の証拠開示が迅速に行われず、裁判所も検察に証拠開示させることに消極的だったからだ。高齢の原口さんへの配慮はうかがえなかった。

 今回の決定によって、再審の際、地高裁が従来より厳格に新証拠を評価するのではないかとの懸念が出ている。ハードルを上げすぎれば、DNA型鑑定のような決定的証拠がなければ再審が認められないことにつながりかねない。再審への門が狭くなる事態は避けたい。

 

再審取り消し 証拠を厳格に評価した最高裁(2019年6月28日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 裁判をやり直すだけの証拠がそろっているかどうか、吟味した末の判断と言えよう。

 鹿児島県で1979年に起きた「大崎事件」の第3次再審請求審で、最高裁が殺人罪などで服役した女性の請求を退けた。再審開始を認めた鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部の結論を覆す、異例の決定である。

 確定判決は、女性が元夫ら親族と共謀し、義弟の首を絞めて窒息死させたと認定した。再審請求審では、弁護側が提出した二つの鑑定結果の評価が争点となった。

 地裁は、供述調書などを心理学的に分析した鑑定に基づき、女性の関与を認めた共犯者の供述の信用性に疑問を投げかけた。高裁支部は、「事故死の可能性が高い」とする法医学鑑定を重視した。

 これに対し、最高裁は供述心理鑑定の証拠価値を否定した。法医学鑑定についても、「解剖時の写真などを基に示された見解で、死因に関して決定的な証明力はない」と結論づけた。

 再審請求が認められるには、無罪を言い渡すべき明白な証拠を新たに示す必要がある。弁護側の鑑定が求められる水準に達していないと判断した以上、開始決定を取り消すしかなかったのだろう。

 最高裁は1975年の決定で、再審を開始すべきかどうかは「新旧の証拠を総合評価して判断する」との基準を示している。今回、最高裁は、「総合評価を行わずに結論を導いており、不合理だ」と高裁支部の決定を批判した。

 近年、DNA鑑定の技術向上もあり、再審開始が認められる事例が相次いでいる。ただ、大崎事件は物的証拠に乏しく、DNA鑑定によって有罪を覆せるような証拠構造ではなかった。

 今回の最高裁決定は、証拠を厳格に評価することの重要性を改めて示した司法判断である。

 一方、大崎事件で、捜査や証拠開示を巡る問題が浮かび上がったことには留意が必要だ。

 女性の有罪を支えた主な証拠は親族の供述で、その内容は変遷を重ねた。捜査が供述に依存し過ぎた面はなかったのだろうか。

 実況見分の写真や、遺体の状況を示したネガフィルムなどの証拠が検察側から弁護側に開示されたのは、第3次再審請求審になってからだ。裁判所が検察側に強く促したことでようやく実現した。

 こうした基礎的な証拠は本来、当初の裁判の段階で示されるべきだ。公権力を用いて集めた証拠は、真相解明のため、適切に開示されなければならない。

 

最高裁の判断 なぜ再審の扉を閉ざす(2019年6月28日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 40年間も潔白を訴えていた大崎事件(鹿児島)の原口アヤ子さんに再審の扉は開かなかった。最高裁が無実を示す新証拠の価値を一蹴したからだ。救済の道を閉ざした前代未聞の決定に驚く。

 「やっちょらん」−。原口さんは、そう一貫して訴えていた。殺人罪での服役。模範囚で、仮釈放の話はあったが、「罪を認めたことになる」と断った。十年間、服役しての再審請求だった。

 鹿児島県大崎町で1979年に起きた事件だった。被害者が酒に酔い、側溝に落ちているのを住民が発見した。3日後に遺体が自宅横にある牛小屋で見つかった。原口さんは隣に住み、被害者の義姉にあたる。親族の計4人が殺人容疑などで逮捕され、81年に最高裁で確定した。

 そもそも本当に殺人なのかも疑われる事件だ。側溝に転落した際の「出血性ショック死の可能性が極めて高い」からだ。新証拠の鑑定はそう記している。この見方は地裁・高裁も支持している。何しろ確定判決時の鑑定は「他殺を想像させる。窒息死と推定」という程度のあいまいさだった。

 では、絞殺という根拠は何か。実は共犯者とされた親族の自白に寄り掛かっている。供述は捜査段階でくるくる変わる。虚偽自白の疑いとみても不思議でない。

 なぜ自白したか。「警察の調べが厳しかったから」だそうだ。しかも知的障害のある人だった。今なら取り調べが適切だったか、捜査側がチェックされたはずだ。

 最高裁は新鑑定を「遺体を直接検分していない」「12枚の写真からしか遺体の情報を得られていない」と証明力を否定した。親族の自白は「相互に支え合い信用性は強固」とした。だが、本当に「強固」なのか。過去の冤罪(えんざい)事件では、捜査側が描くストーリーに沿った供述を得るため、強要や誘導があるのはもはや常識である。

 最高裁の判断には大いに違和感を持つ。審理を高裁に差し戻すこともできたはずである。事件の真相に接近するには、そうすべきだった。事故死か他殺かの決着も、再審公判でできたはずだ。再審取り消しは論理自体が強引である。もっと丁寧に真実を追求する姿勢が見えないと、国民の司法に対する信頼さえ損なう。

 「疑わしきは被告人の利益に」は再審請求にも当てはまる。その原則があるのも、裁判所は「無辜(むこ)の救済」の役目をも負っているからだ。再審のハードルを決して高めてはならない。

 

大崎事件 再審の扉が重くなるのか(2019年6月28日配信『新潟日報』―「社説」)

 

 疑わしきは被告人の利益に。この刑事裁判の原則を再審開始判断にも適用するとした「白鳥決定」に沿った判断といえるのかどうか。

 再審の扉が、再び重くなるのではないか。そこが大きな気掛かりだ。

 鹿児島県大崎町で1979年に起きた大崎事件の第3次再審請求審で、最高裁は、殺人と死体遺棄の罪が確定し服役した原口アヤ子さんの請求を認めない決定をした。

 鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部はいずれも再審を認めていたが、最高裁は覆した。これで再審を認めない判断が確定したことになる。

 白鳥決定は75年に最高裁が示した。再審開始のハードルが下がり、再審開始決定が続いた。最高裁が地裁、高裁段階の再審開始決定を覆すのは、この白鳥決定以降初めてだ。

 最高裁は、弁護側が提出した新証拠について「無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは言えない」と判断した。

 これまでより厳格に判断したということだが、なぜこれほど評価が異なるのか。違和感は拭えない。

 確定判決によると、原口さんは元夫ら親族3人と共謀し、義弟だった被害男性の首をタオルで絞めて殺害し、牛小屋に遺体を遺棄した。

 原口さんは逮捕当初から一貫して関与を否定したが、知的障害がある元夫ら親族3人の自白などを基に懲役10年の判決が確定し、服役した。

 再審請求審では、この3人の自白の信用性が争点となり、弁護側は死因は絞殺ではなく「転落事故による出血性ショックの可能性が高い」とする法医学鑑定書を提出した。

 高裁支部決定はこの鑑定の信用性を認めたが、最高裁は「遺体を直接見ておらず、解剖に基づく別の鑑定書の情報や写真だけを根拠にしている」として、死因を認定するほどの証明力はないとした。

 鹿児島地裁決定は、心理学者による供述調書の分析から親族の一人が虚偽の証言をした可能性に言及したが、最高裁は証拠価値を否定した。自白の信用性は「相応に強固」とした。

 第1次再審請求でも地裁が再審を認めており、再審開始判断は合計3度も出ている。これも踏まえて考えると、今回の最高裁決定は、再審のハードルを上げたようにも見える。

 再審の門戸を広くしておくことは、冤罪(えんざい)被害者のより幅広い救済につながる可能性がある。

 近年では、茨城県で男性が殺害された布川事件、熊本県で男性が刺殺された松橋事件などで再審無罪が出ている。

 DNA鑑定など科学鑑定の技術向上もあり、栃木県で女児が遺体で見つかった足利事件や、東京電力女性社員殺害事件でも再審無罪が出た。

 今回の最高裁決定は、こうした流れに待ったをかける判断のような印象を受ける。今後にどう影響するのか。注視せねばならない。

 

大崎事件  疑問残る再審取り消し(2019年6月28日配信『京都新聞』―「社説」)

 

 再審開始の扉の重さが再び浮き彫りになった。

 1979年に鹿児島県大崎町で男性の遺体が見つかった大崎事件の第3次再審請求審で、最高裁は殺人などの罪で懲役刑が確定し服役した元義姉原口アヤ子さん(92)の請求を認めない決定をした。

 弁護側が提出した死因鑑定の信用性を否定した上で、再審を認めた鹿児島地裁、福岡高裁宮崎支部の決定を取り消した。

 再審請求の判断枠組みを示した75年の「白鳥決定」以降、地裁、高裁段階の再審開始決定を最高裁が取り消すのは初めてだ。司法関係者から「異例の決定」との声が上がったのも当然だろう。

 事故死の可能性を指摘した鑑定に対し、最高裁は遺体が腐敗していたことや、鑑定人が遺体を直接見ていないことから証明力には限界があると厳格に判断した。

 一方で、共犯とされた元夫らの供述が変遷していることなどには踏み込まずに「自白の信用性は相応に強固なもの」と評価した。

 「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則から、有罪とするのに疑問があれば再審を開始できるとした「白鳥決定」を逸脱しないか、疑問が残る。

 近年、科学的証拠に基づいて自白の信用性が否定され、再審無罪の確定が相次いでいる。

 刑事訴訟法は再審開始の要件を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見した場合」と定めるが、決定的な物証がなくても開始を認めるケースが目立つ。

 背景には、裁判員制度の導入や取り調べ可視化などの動きに影響された裁判所の意識の変化もあるのだろう。

 「疑わしきは―」に従い、市民の常識に照らして疑問が残っていないかを検討する姿勢が反映されるようになった。再審のハードルが下がったとの見方もあった。

 だが今回の決定は、そうではないと言っているようだ。

 再審の門戸を再び狭めることになりかねず、他の事件への影響が懸念される。

 原口さんの逮捕から実に40年となる。再審を巡っては、証拠開示について規定がなく裁判所の裁量に委ねられていることなどに対し、法整備を求める声が上がっている。

 そもそも裁判のやり直しの判断を同じ裁判所がすることに問題はないか。独立の再審委員会を設ける英国のような例もある。

 再審開始の基準も含めて「疑わしきは―」の原則が徹底される制度の在り方を議論すべきだ。

 

大崎事件再審取り消し 救済の門戸、狭めないか(2019年6月28日配信『中国新聞』―「社説」)

 

 鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった事件を巡り、最高裁が、殺人罪などで懲役10年が確定し服役した原口アヤ子さん(92)の再審開始の決定を取り消した。地裁、高裁支部の判断を覆した。

 最高裁は通常、高裁までの判決や手続きに憲法違反や法令違反がないかどうかを審理する。今回のように、弁護側が提出した新証拠を精査して判断を示すのは異例だろう。

 そうまでして新証拠を一つずつ否定し、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとはいえない」と断じた。まるで、無罪が明白である完璧な証拠を出せと言わんばかりだ。

 司法の頂点の判断であるとしても、市民感覚からすれば違和感を禁じ得ない。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の大原則はどこに行ってしまったのか。

 今回の再審請求で、弁護側は「(男性の)死因は転落事故による出血性ショックの可能性が高い」とする法医学鑑定書などを提出した。地裁と高裁支部は、この鑑定書を含む新証拠の信用性を認め、再審を認める判断を下した。

 ところが最高裁は、法医学鑑定については「遺体を直接見ておらず、解剖に基づく情報や写真だけを根拠にしている」と指摘。死因を認定する証明力はないと結論づけた。

 確かに、事件当時に実際に解剖した法医学者の所見は重要ではある。男性の遺体は埋められ、発見当時から腐敗が進んでいた。遺体から得られる情報がそもそも乏しかったという事情を考えれば、当時の所見にも過度には寄り掛かれまい。

 今回の鑑定の基になった遺体の写真は、検察側が地裁の勧告を受け入れ、事件から30年余りたって初めて公表したものだ。証拠開示の在り方も改善していかなければならない。

 原口さんは40年前の逮捕時から一貫して否認してきた。事件への関与を示す直接の証拠もない。確定判決で重視された「共犯者」の自白の信用性を巡り、2002年にも地裁が再審を認めたことがあった。

 これまで計3回、再審が認められたことを踏まえれば、証拠は決して強固とは言えない。

 かつて再審は「開かずの扉」とされ、ほとんど認められなかった。最高裁が75年、再審請求の判断の枠組みを示し、新旧の証拠を総合的に判断して合理的な疑いがあれば、再審への道が開かれるようになった。さらにDNA型などの科学鑑定が著しく進歩し、ハードルが下がってきたのは間違いない。

 それに対し、最高裁は今回、厳格な判断を自ら率先して示したことになる。再びハードルを上げたようにも見える。各地の地裁や高裁で、再審を決める判断にマイナスの影響を与えないか気掛かりである。

 原口さんが初めて再審請求したのは24年前だ。90歳を超え、今は声を出すのも難しい状態という。なぜ、こんなに時間がかかるのかと悔しい思いだろう。

 再審制度は、冤罪(えんざい)を受けた人の救済が目的である。だからこそ再審に向けたルールは法整備などで明確にし、審理を迅速化することも検討に値しよう。証拠を重んじる姿勢はむろん大切だが、救済の道を狭めることもあってはならない。

 

「再審」取り消し 大原則踏み外してないか(2019年6月28日配信『西日本新聞』―「社説」)

 

 刑事裁判をやり直す「再審」は、有罪確定者の利益のために行われる。刑事訴訟法に明記している。

 「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の大原則にのっとった規定だ。それを踏まえた決定と言えるのか。疑問を禁じ得ない。

 殺人罪などで服役した原口アヤ子さん(92)が無実を訴えて再審を求めた鹿児島県の「大崎事件」である。最高裁が、第3次再審請求審で鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部が認めた再審開始を取り消した。

 この事件は元々、物証に乏しく、関係者の供述が有罪立証の柱だった。原口さんは逮捕時から一貫して無実を主張してきた。確定判決は状況証拠の積み重ねから導き出された。

 最高裁の決定でまず問題視すべきは、第三者による鑑定結果より、自白と供述を重んじる論理展開になっていることだ。

 弁護側は新証拠として法医学鑑定を提出していた。被害者の死因は殺人ではなく、転落事故などによる出血性ショック死の可能性が高いとする内容だ。

 最高裁はこの鑑定に「仮説的見解として尊重すべきだ」と一定の評価を与えながらも、「決定的な証明力は有しない」と断じた。一方で、共犯者とされる親族の自白や目撃供述の信用性は「相応に強固だ」と評価した。冤罪(えんざい)事件の温床となる「自白偏重」とは言えないか。

 さらに気になるのは、再審を認めた地裁、高裁の決定を取り消さなければ、「著しく正義に反する」と表現した点だ。

 一般的には、事実誤認などで出された被告や被害者の人権を侵害する判決を破棄する際などに使われる言葉だ。観点を誤っていないか。

 もちろん、決定は5人の裁判官が十分に吟味し、討議を重ねた結論であろう。それでも大きな違和感はぬぐえない。高齢女性の一生の名誉がかかっている。非公開で行われる再審請求審ではなく、再審による公開の法廷で検察と弁護側が双方の主張を戦わせ、裁判所として改めて判決を下すべきではないか。

 再審のルールは明文化されていない。法整備を含め確立していく必要がある。私たちはこれまで、再審開始の決定が出たら速やかに再審の法廷に舞台を移す原則づくりを提案してきた。大崎事件では、第1次再審請求から既に24年がたっている。「開始決定」「取り消し」の繰り返しだった。

 熊本県の「松橋(まつばせ)事件」など再審無罪判決が続いている。法学者らが再審の法整備を求める団体を結成するなど機運も高まっている。再審制度は誰のためにあるのか。もう一度問いたい。

 

大崎事件再審認めず 制度の在り方議論深めて(2019年6月28日配信『熊本日日新聞』―「社説」)

 

 鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった大崎事件の第3次再審請求審で、最高裁第1小法廷は、再審を認めた鹿児島地裁、福岡高裁宮崎支部の決定を取り消し、殺人などの罪で懲役10年が確定し、服役した元義姉原口アヤ子さん(92)の請求を認めない決定をした。

 地裁、高裁が認めた決定を最高裁が取り消すのは、再審請求の判断枠組みを示した75年の「白鳥決定」以降初めて。最高裁が再審のハードルを上げた形だ。

 原口さんは、52歳で逮捕されてから一貫して無実を訴えてきた。第1次再審請求でも地裁が請求を認めており(その後、高裁支部が取り消し)、確定判決を支える証拠構造の脆弱[ぜいじゃく]さは明らかだ。白鳥決定が示した「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の原則に沿った決定なのか疑問が残る。

 確定判決によると、原口さんは元夫や親族と共謀。男性宅で首をタオルで絞めて殺害し、牛小屋に遺体を遺棄したとされる。凶器とされたタオルが特定されないなど物証はほとんどなく、原口さんと犯行を結び付けたのは元夫ら3人の自白だった。

 弁護側は「死因は転落による出血性ショックの可能性が高い」とする鑑定書を新証拠として提出した。高裁支部は、鑑定書の信用性を認め絞殺の認定に合理的疑いが生じたと判断。3人の自白の信用性についても、「核心部分に変遷があり信用できない」とした。

 自白をめぐっては、鹿児島地裁が弁護側提出の心理学鑑定書を採用。「捜査機関が誘導した可能性があり、虚偽の供述の可能性もある」と踏み込んだ。捜査機関が描く事件の見立てに沿って自白を迫る、過去の冤罪[えんざい]事件で繰り返された構図だ。

 しかし、最高裁は鑑定人が遺体を直接見ていないなど証明力には限界があると判断。共犯とされた元夫らの証言も「自白の信用性は相応に強固」と評価した。

 いわれのない罪に問われた人を救済する再審では近年、科学的証拠に基づき自白の信用性が否定され無罪が確定するケースが相次いでいる。今回の決定で「無辜[むこ]の救済」の扉は狭まるのか。証拠開示の問題も含め、再審制度の在り方を巡る議論を深める必要がある。

 

大崎事件再審認めず(2019年6月28日配信『佐賀新聞』―「論説」)

 

救済の扉は狭まるのか

 鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった大崎事件の第3次再審請求審で最高裁第1小法廷は、殺人と死体遺棄の罪で懲役10年が確定し服役した元義姉原口アヤ子さんの裁判のやり直しを認めない決定をした。鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部が再審開始決定のよりどころとした弁護団提出の新証拠について、証明力を否定した。

 第1次請求でも地裁は開始を決定。3度も開始が認められながら、またも再審の扉は開かなかった。最高裁は通常、憲法違反や判例違反の有無を審理。事実認定に踏み込んで判断を示すのは珍しい。地裁、高裁の開始決定取り消しは、75年の最高裁決定が再審請求を巡る判断の枠組みを示して以来初めてのことだ。

 「白鳥決定」として知られる、この決定は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則が再審にも適用されるとした。地裁と高裁がそれぞれ異なる角度から確定判決に疑問を呈し、再審を認めたことを踏まえると、今回の最高裁決定が白鳥決定から逸脱したものではないかとの声が上がるのもうなずける。

 「無辜(むこ)の救済」の扉は狭まるのか。そうした懸念も広がる中、再審請求審の長期化によって請求人が司法判断に翻弄(ほんろう)され続けるのを避けるためにも、証拠開示の問題を含め再審制度の在り方を巡り停滞している議論を前に進める必要がある。

 原口さんは逮捕当初から一貫して関与を否定した。しかし確定判決は知的障害のある元夫ら親族3人の自白や、原口さんが自分の夫に殺害を持ち掛けたとする元義妹の証言などを基に、元夫の弟である男性の振る舞いを快く思っていなかった原口さんが元夫らと共謀して、タオルで首を絞めて殺害したと認定した。

 原口さんは80年に鹿児島地裁で懲役10年の判決を受け、81年に最高裁で確定し服役。95年になり申し立てた第1次再審請求で2002年に地裁の開始決定が出たが、高裁支部に取り消された。第2次請求は退けられ、15年に第3次請求をした。

 弁護団は元義妹による供述の信用性に疑問を投げ掛ける心理学鑑定と、男性の解剖時の写真を分析し「事故死」の可能性を指摘した法医学鑑定を新証拠として提出。17年の地裁決定は心理学鑑定を、18年の高裁支部決定は法医学鑑定をそれぞれ重視した上で再審開始を認める結論を導いた。

 だが今回の最高裁決定は法医学鑑定を「条件が制約された中で工夫を重ね専門的知見に基づく判断を示した」と評価しながらも、遺体を直接検分しておらず、写真からしか情報を得ることができなかったため証明力に限界があると指摘。調書記載の供述の変遷を分析した心理学鑑定も限定的な意味しかないとした。

 いずれも「無罪とすべき明らかな証拠」とはみなされなかった。科学鑑定を厳格に判断した結果とはいえ、現在92歳で鹿児島県内の病院に入院中の原口さんにとっては酷というほかない。第3次請求審では検察側が地裁の勧告を受け入れ、事件から30年余りたって初めて、男性の解剖時のネガフィルムを開示するなど、証拠開示の問題も改めて浮き彫りになった。

 再審には開示のルールがなく、請求人側は裁判所の訴訟指揮に頼るしかない。それが審理長期化の一因となっており、法曹界は再審を巡る法整備の議論を急ぐべきだ。

 

[大崎事件] 再審制度に翻弄された(2019年6月27日配信『南日本新聞』―「社説」)

 

 大崎町で1979(昭和54)年、男性が変死体で見つかった大崎事件の第3次再審請求審で、最高裁は殺人罪などで懲役10年が確定し服役した原口アヤ子さんの請求を認めない決定をした。再審開始を認めない判断が確定した。

 原口さんは逮捕から40年近く、一貫して無実を訴えてきた。これまで計3回再審開始が認められながら再審への扉が再び閉ざされたのは残念である。

 原口さんは今月15日に92歳を迎えた。最高裁が再審開始決定を取り消すのは、再審請求の判断枠組みを示した75年の「白鳥決定」以来初めてであり、意外な決定に戸惑うほかない。

 3次請求審では2017年6月に鹿児島地裁が再審開始の決定をし、18年3月に福岡高裁宮崎支部も決定を維持したが、福岡高検は不服として最高裁に特別抗告していた。

 地裁は共犯者の自白などを疑問視した供述心理鑑定を重視した。高裁支部決定は遺体写真などを分析した法医学鑑定を再審開始の根拠とし「事故死の可能性」にまで言及した。

 いずれも殺人事件という前提が崩れた疑いがあるという点で共通する。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に沿った判断だった。

 これに対し検察側は「弁護側の法医学鑑定は解剖写真を見ただけで、事件当時、実際に解剖した教授の所見の方が信頼できる」と主張、「高裁支部の決定は判例違反に当たる」と再審を認めないよう求めた。

 最高裁は法医学鑑定について「遺体を直接見ておらず、解剖に基づく別の鑑定書の情報や写真だけを根拠にしている」とし死因を認定する証明力はないと指摘。確定判決の根拠となった親族らの自白や証言は「信用性は相応に強固だ」と結論づけた。

 原口さんの関与を示す直接の証拠はなく、自白の信用性などを巡り司法判断が揺れ動いた。1995年4月に最初の再審請求以来、3度にわたる再審請求で24年の歳月を費やしている。

 再審制度は無辜(むこ)(罪のない人)の救済が目的である。迅速な審理が求められるが、進め方や証拠開示は裁判所の裁量に委ねられている。

 「検察側にも異議申し立てが許される再審制度自体に問題がある」と指摘する専門家もいる。原口さんのように長年翻弄(ほんろう)され続ける再審制度の在り方について、人道上の観点からも見直しを検討すべきである。

 

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