「パパ、ママ、もうおねがい ゆるして ゆるしてください」

 

「怖いよー」「助けてー」届かなかった小学4年生栗原心愛(みあ)さんのSOS 関連論説

 

二審も母親に懲役8年 目黒虐待死、東京高裁(2020年9月8日配信『日本経済新聞』)

 

優里被告

 

 東京都目黒区で2018年、船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5)を虐待し死なせたとして保護責任者遺棄致死罪に問われた母親の優里被告(28)の控訴審判決で、東京高裁(若園敦雄裁判長)は2020年9月8日、懲役8年とした一審東京地裁判決を支持、弁護側の控訴を棄却した。

 控訴審で弁護側は、一審判決は元夫の雄大受刑者(35=同罪などで懲役13年が確定=による心理的ドメスティックバイオレンス(DV)の影響を過小評価していると主張。「関与は従属的だ」として量刑不当を主張し、刑を軽くするよう求めていた。

 優里被告に対する懲役8年の刑は、被告と検察側の双方が上訴権を放棄し、9月11日に確定した。

 二審判決後に接見した弁護人によると、被告は判決について「言うべきことは言った」と冷静に受け止め「私はあまりにも無知だった。これから社会の仕組みなどを勉強したい」と語っていたという。

 

記事No1 記事No2 論説 児童虐待死を受けての日弁連会長声明

 

#こどものいのちはこどものもの 子供の人権を守る会

 

 

左;七夕の会でスイカを食べる船戸結愛ちゃん=2016年7月、香川県善通寺市で

右;供養の際、ぬいぐるみなどとともに祭壇に置かれた2018年1月中旬に撮影された結愛ちゃんの写真

 

(2019年9月1日配信『東京新聞』)

 

(2018年10月3日配信『毎日新聞』)

 

(2018年6月16日配信『朝日新聞』)

写真

(2018年6月28日配信『東京新聞』)

 

 

船戸結愛ちゃん虐待死事件現場のアパートには「ゆっくりあそんでね」と書かれたぬいぐるみが手向けられていた=東京都目黒区で2018年6月8日午後

 

 

結愛ちゃんに全国から寄せられたお菓子や手紙。「助けてあげられなくてごめんね。生まれ変わって幸せになれるからね」などとメッセージが書かれていた=2018年6月27日

 

 

 東京都目黒区のアパートで2018年3月、船戸結愛ちゃん(5)が父親からの暴行後に死亡した事件で、衰弱していた結愛ちゃんに必要な医療措置を受けさせず死亡させたとして、警視庁捜査1課は2018年6月6日、保護責任者遺棄致死容疑で、父親(33)=傷害罪で起訴=と母親(25)を逮捕した。2人とも容疑を認めているという。

 

2人の逮捕容疑は、2018年1月下旬ごろから、結愛ちゃんを栄養失調に陥らせた上で暴行を加え虐待。病院に連れて行くなどの措置を取らず、2018年3月2日に敗血症で死亡させた疑い。5歳児の平均体重は約20キロだが、結愛ちゃんは約12キロだった。

 

 結愛ちゃんは、自宅に手書きの文章を残していた。警視庁が明らかにした文章の内容は以下の通り。

 

<日付不明>

ママ もうパパとママにいわれなくても

 しっかりじぶんから きょうよりか

 あしたはもっともっと できるようにするから

 もうおねがい ゆるして ゆるしてください

 おねがいします

 ほんとうにもう おなじことはしません ゆるして

 

<日付不明>

きのう ぜんぜんできてなかったこと

これまでまいにちやってきたことをなおす

 これまでどんだけあほみたいにあそんだ

 あそぶってあほみたいだからやめるので もうぜったい

 ぜったいやらないからね わかったね

 ぜったいのぜったいおやくそく

 あしたのあさは きょうみたいにやるんじゃなくて

 もうあしたは ぜったいやるんだぞとおもっていっしょう

けんめいやって パパとママにみせるぞというきもちで

やるぞきのうまでぜんぜんできてなかったこと 

 

全国の警察が2017年に、虐待の疑いがあるとして児童相談所(児相)に通告した18歳未満の子どもは、前年比約20%増の6万5431人に上る。統計を取り始めた2004年以降、13年連続の増加で、過去最悪を更新した。

警察庁は「社会的関心の高まりにより、地域からの通報が増えたことなどが影響しているのではないか」としている。

通告内容は、暴言を浴びせられるなど「心理的虐待」が全体の約7割を占めて最も多く4万6439人で、うち保護者が子どもの面前で配偶者に暴力を振るう「面前DV」が6割以上を占めた。暴行などの「身体的虐待」は1万2343人、「怠慢・拒否(ネグレクト)」が6398人、「性的虐待」251人だった。

生命の危険があるなどとして警察が一時保護した子どもは過去最多を更新し3838人だった。

 

 

“結愛ちゃん虐待死事件”高裁も母親に懲役8年 「司法は母親に責任を押し付けている」の声も(2020年9月8日配信『AERA.com』)

 

「主文、控訴を棄却します」

 

 8日午後2時過ぎ、東京高裁102号法廷。若園敦雄裁判長は裁判の冒頭こう述べ、一審の東京地裁判決を支持した。

 20183月、東京都目黒区で、5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが虐待で命を落とした事件。

 結愛ちゃんを虐待死させたとして、保護責任者遺棄致死罪に問われた母親の優里被告(28)に対して、東京高裁も一審を支持し、懲役8年とした。

「もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします」。住んでいた自宅アパートで見つかったノートに書き残された、結愛ちゃんが両親に許しを請う幼い言葉は、社会に深い悲しみと衝撃を与え、親による子への体罰を禁じる法改正のきっかけとなった。

 結愛ちゃんが亡くなって26カ月。当時の夫の雄大受刑者(35)も同罪に問われ、虐待を主導したとして昨年10月、懲役13年の判決が確定している。

 

■虐待の背景が裁判の争点

 一方で優里被告は、昨年9月、一審で懲役8年が言い渡されたが、それを不服として東京高裁に控訴していた。

 この日、優里被告は出廷せず、傍聴人だけが見守る中、裁判は行われた。今回の裁判で争点となったのは、虐待の背景としてあったとされる心理的DV(ドメスティックバイオレンス)だ。優里被告は、雄大受刑者の支配下にあったとされる。

 裁判の過程で、優里被告は雄大受刑者からの執拗な心理的DVを受け、洗脳されたような状態になり、次第に反発できなくなったことがわかっている。

 弁護人によれば、一家が香川県に住んでいた時、優里被告は雄大受刑者から結愛ちゃんへのしつけについて、連日数時間にわたって説教されるなどし、こうした「心理的DV」を受けるうちに優里被告は抵抗する気を失い、「怒ってくれてありがとう」と自分から言うまでになった。そして、優里被告が強いDVを受け続け、急性ストレスで記憶を喪失するなど「結愛さんの身に起きていることを、現実感を持って受け止めることができなかった」という。

 

「この夫婦の関係性のなかで…」

 今年7月に開かれた控訴審第1回公判では、弁護側は「一審は夫の心理的DVの影響を過小評価し、重すぎる」として量刑不当を主張、懲役5年が相当としていた。

 しかし、先の若園裁判長は、約30分にわたる判決理由の中で、

「(優里)被告は雄大の心理的影響があったとしても、結果的に雄大の意向を容認したことになる。被告は深く悔やみ反省していることを考慮しても、最終的に自分の意志に従っていたといわざるを得ない」 などと述べた。

 

■支援を求められない社会システム

 判決を受け、DV被害者の支援団体「エープラス」(東京都)代表理事の吉祥眞佐緒(よしざきまさお)さんは、

「この夫婦の関係性の中で、母親が一人で子を守ることは難しい」と指摘。問題は、母親が支援を求められない社会システムにあり、母親に責任を押し付ける司法にあるという。

「心理的に支配されていた母親にその役割を求めること自体、司法がDVを理解していない証拠。行政などの支援機関も、母親がどうして支援を受けられなかったのかを考えてほしい。制度や法律が1日も早く被害者と子どものために運用されることを望みます」(吉祥さん)

 裁判を傍聴した、自らも夫のDVに苦しめられた経験があるという都内在住のシングルマザーの30代女性はこう話した。

「夫に逆らえなくなったという、優里被告の気持ちもわからなくありません。でも、子どもが亡くなったことを重く受けて止めてほしい」

 過ちは、誰でも起こし得る。その過ちとどう向き合うか優里被告にも問われることになる。結愛ちゃんは、生きていれば小学2年生だった。(編集部・野村昌二)

 

児童虐待相談、過去最多を更新 最多は心理的虐待 厚労省(2019年8月1日配信『毎日新聞』)

 

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 厚生労働省は1日、2018年度に全国の児童相談所(児相)が対応した児童虐待の相談件数(速報値)が前年度比19.5%増の15万9850件で過去最多を更新したと公表した。心理的虐待で警察からの通告数が増えたことが要因とみられる。同省は「過去最多になったことは重く受け止め、6月の児童福祉法改正に伴う対策強化を着実に進めたい」としている。17年度に虐待死が判明した子どもの数は、前年度比12人減の65人(無理心中の13人含む)だった。
 虐待の内容別では、子どもの前で配偶者に暴力を振るう「面前ドメスティックバイオレンス(DV)」を含む心理的虐待が8万8389件(55.3%)と最も多く、17年度より1万6192件増えた。身体的虐待は4万256件(25.2%)、ネグレクト(育児放棄)は2万9474件(18.4%)、性的虐待は1731件(1.1%)だった。
 児相への通告元は警察などが7万9150件(前年度比19.8%増)で半数を占めた。警察からの通告が増えた背景には、面前DVを把握しやすい警察と児相との連携強化が進んだことがあると考えられる。

 

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 都道府県別では、大阪が2万694件(前年度比12.4%増)で最多。神奈川1万7272件(同24%増)、東京1万6967件(同23.8%増)が続いた。
 無理心中を除いた虐待死は52人で、過半数の28人が0歳児。身体的虐待で22人、ネグレクトで20人が亡くなっていた。
 東京都目黒区で昨年3月に船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)が虐待死した事件を受け、厚労省が昨年7月に徹底を打ち出した「虐待通告から48時間以内に安全を確認する」とのルールの点検結果も公表した。運用が始まった昨年7月からの11カ月で、全国の児相への虐待通告があったのは15万3571人で、確認まで48時間を超えたのは7.8%の1万1984人だった。このうち緊急性が高いと判断したケースが415人あったが、その後立ち入り調査などで安全を確認した。

 

民法「懲戒権」見直しを諮問…虐待の口実指摘も(2019年6月21日配信『読売新聞』)

 

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 山下法相は20日の法制審議会の臨時総会で、親子に関する民法の規定の見直しを諮問した。親が子を戒めることを認める「懲戒権」と、子が生まれた時期によって父を推定する「嫡出推定」制度の二つで、法制審は1〜2年程度で答申する。法務省は答申を踏まえ、民法の改正を検討する。
 懲戒権の行使は監護や教育に必要な範囲で認められている。山下氏は臨時総会で「児童虐待を行う親によって、自らの行為を正当化する口実に利用されているとの指摘がある」と述べた。
 19日に成立した児童虐待防止法などの改正法は、政府が施行後2年をめどに、必要な措置を講じることを付則で定めている。同省は有識者研究会を開いて論点を整理し、法制審に示す。
 改正法は、親が子のしつけに際して体罰を加えることを禁止し、体罰は懲戒権の範囲を超え、許されないことを明確にした。法制審は懲戒権の削除を含めて検討するが、「必要なしつけができなくなる」という懸念もあることから、懲戒権の名称を変えたり、規定を加えたりして趣旨を明確にする方向となりそうだ。
 嫡出推定は、〈1〉婚姻から200日を経過した後に生まれた子は夫の子〈2〉離婚から300日以内に生まれた子は別れた夫(元夫)の子――と推定する制度。早期に法律上の父子関係を確定させることが目的だ。
 しかし、女性が夫と別居中や離婚直後に別の男性との間の子を産んだ場合、夫や元夫の子と扱われることを避けるため、出生届を出さず、子が戸籍に記載されないことがある。同省の調べ(今年4月時点)では、全国の無戸籍者827人のうち648人(78%)がこの理由を挙げており、制度の見直しが必要と判断した。
 無戸籍者は住居の賃借や口座開設、旅券の取得などが難しい。文部科学省は戸籍に記載がなくても小中学校に就学させるよう教育委員会に指導しているが、就学機会を逃した人もいる。
 法制審は、法務省の有識者研究会が7月にまとめる報告書を踏まえ、検討を進める。嫡出推定を否認できる権利を夫(元夫)だけでなく、母や子にも認めることや、例外規定を設けることなどが論点となる。

 

「結愛ちゃん浮かばれたらいいな」 主治医が語る改正法(2019年6月20日配信『朝日新聞』)

 

 虐待死を繰り返さないよう、児童相談所の連携強化などを盛り込んだ改正法が成立した。SOSを発していた幼い命をなぜ救えなかったのか。そう問い続けてきた人たちから評価する声があがる一方で、どう実効性をもたせるか課題も残る。

 東京・目黒で虐待の末に亡くなった船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5)は、児相や警察などが虐待に気付き、対応にあたったが、救えなかった。父親から命じられ、毎日午前4時ごろに起きて、まだ薄暗い部屋で平仮名を書く練習をさせられていた。自宅に残されたノートには「もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします」と書かれていた。

 転居前に住んでいた香川県では、近隣住民から虐待を疑う通報が何度もあった。結愛ちゃんは体にけががあり、「パパにたたかれた。怖いから帰るのは嫌」と児相に訴えていた。

 同県で約4カ月間、結愛ちゃんの主治医だった四国こどもとおとなの医療センターの木下あゆみ医師は法改正について、「こうして大人が動いたということで、結愛ちゃんが少しでも浮かばれたらいいなと思います」と一定程度、評価する。

 週1〜2回診察し、母親と結愛ちゃんの話を聞くなどのケアをしていた。これだけの頻度で来院を促したのは虐待への強い危機感だった。

 だが、一家が引っ越し、香川と東京の児相間で連携が十分に取れなかった。その結果、東京の児相は面会できないまま、転居から約1カ月後、結愛ちゃんは亡くなった。

 こうした教訓から、改正法では、転居時の情報共有の徹底などが盛り込まれた。木下医師は「引き継ぎをしっかりやるというのは誰もが思うこと。どう実行するかが大事」と話す。連携強化には、児相職員のスキルアップや人員増も欠かせない。専門職としての採用や国家資格化、待遇の改善などが必要という。「法律で枠組みを作るだけではなく、子どものことにもっとお金をかける国になってほしい」と語った。

 小学校のアンケートに「お父さんにぼう力を受けています」「先生、どうにかできませんか」と書き、大人に助けを求めていた千葉県野田市の栗原心愛(みあ)さん(当時10)の事件でも、児相と市の連携不足や、亡くなる直前の長期欠席で安全確認を怠るなど行政の不手際が明らかになった。

 問題視された一つが、市教育委員会が心愛さんのアンケートのコピーを父親に渡したことだ。父親の威圧的な態度に「恐怖を感じ、屈した」(市教委)という。改正法では、児童の秘密を守る義務が明記され、弁護士による助言や指導を受け入れる体制づくりも盛り込まれた。虐待をした保護者への再発防止プログラムも努力義務だが盛り込まれた。野田市は今年度中に、学校に助言する弁護士「スクールロイヤー」を導入するという。市幹部は「心愛さんの死を無駄にしないために、現場を第一に再発防止策に取り組む」と述べた。

 心愛さんや両親を知る沖縄の女性は「一人でも多くの子を救うためにも、今すぐにでも対策を取ってほしい」と語った。

 

アドボケイト 虐待防止へ期待 子どもの本音を聞く仕組み(2019年6月9日配信『東京新聞』)

 

子育て政策について話す三重県の鈴木英敬知事。育児休暇を取った経験があることで知られる=4日、東京都千代田区で

 

 今国会で成立する見通しの児童福祉法改正案は、親の体罰禁止を定めるだけでなく、子どもの側に立って本音を聞く仕組みについて、2020年春をめどに「必要な措置を講じる」ことが付則に盛り込まれている。「アドボケイト(代弁者)制度」や「アドボカシー」と呼ばれ、虐待を防ぐ手だてとして期待が寄せられる。三重県はアドボケイトを試験的に導入した。

 アドボケイト制度は、子どもの権利条約にある「意見表明権」を保障し、その後の対応に反映する目的。昨年3月に東京都目黒区で5歳女児、今年1月に千葉県野田市の小4女児が虐待で亡くなった事件では、児童相談所など周りの大人たちがSOSをくみ取れず、アドボケイト制度導入を求める声が高まった。各地のNPO法人が連携し、全国協議会を立ち上げる動きもある。

 公的な制度がある英国やカナダでは、児相などから独立した第三者がアドボケイトを務める。三重県では18年度、試験的に児相など県職員を対象に研修を始めた。のべ44人が受講。子どもを預かる施設「一時保護所」で、職員の中にアドボケイト役の担当者を決めて、子どもの意見を聞く取り組みを行った。

 その結果、担当者以外の職員も含め、これまで以上に子どもの気持ちを意識して対応するようになったという。

 県児童相談センターの川北博道・児童相談強化支援室長は「必ずしも子どもの意見通りの結果にならないこともあるが、寄り添って説明することが子どもの納得につながるのだと思う」と語る。「児相の職員だけではなく、学校の先生や友達、家族や親戚らもアドボケイトの担い手になり得る。皆さんにもっとアドボケイトを知ってもらいたい」と広がりを期待する。

 17年にカナダの関係施設を視察した鈴木英敬知事は「日本は(先進国の中で)子どもの人権保護が遅れている。子どもたちのために早期に制度を確立したい」と語る。将来的には「医療機関など、あらゆる現場に配置していきたい」と意欲を示している。

 

アドボケイト 「代弁者」や「擁護者」などと訳される英語。さまざまな理由によって自身の意思を表明するのが難しい高齢者、障害者、子どもらが自身の思いを示せるよう支援し、その権利を代わりに主張する。具体的には、行政機関が法的措置や福祉サービスについて決定しようとする際、代弁者は当事者の立場に立って、その意向を示す役割を担う。子どものアドボケイトに関しては、英国やカナダで公的な制度が既に導入されている。

 

「DVとは違う。旦那のことが好きだった」 心愛ちゃん虐待母の「ゆがんだ愛」(2019年5月25日配信『文春オンライン』)

 

 父親による壮絶な暴行をそう表現していた栗原心愛(みあ)ちゃん(当時10)の虐待死事件。傷害幇助罪に問われた母・なぎさ被告(32)の初公判が5月16日、千葉地裁で開かれた。

 茶色のセーターに黒いズボン姿のなぎさは、終始うつむきがち。法廷で明らかになったのは虐待の全容に加え、夫・勇一郎被告(41)との歪んだ関係だ。司法記者が語る。

「2人は08年に結婚。心愛ちゃんが生まれた後、なぎさは『旦那に行動を監視されている』と母親に相談していた」

 証人として出廷した母親は、「(勇一郎に)暴力を受け、支配されている状態だったと思う。心配して離婚させ、沖縄の実家に娘と心愛ちゃんを連れ帰った」と証言した。

「しかし勇一郎が執拗に復縁を迫り、17年に再婚。同年夏に次女が生まれた後、千葉県野田市に転居すると、なぎさは実家や友人との関係を遮断され、夫の完全な支配下に置かれました」(前出・記者)

 なぎさの供述調書からは、夫への愛情が明らかになる。

「旦那からされていたことはDVと違うと思った。旦那のことが好きだった」

離婚に関する質問に口をつぐんだ

 さらに被告人質問で虐待を止めたかと聞かれると、「『これ以上やらないで』『通報する』と言ったが、胸ぐらをつかまれ、床に押し倒されて、馬乗りになってきて、苦しいと言うと、ひざ掛けを口の中に突っ込まれた」と述べた。

「DVに対する認識を弁護人に問われると『当初は思っていませんでしたが、振り返るとDVだったかなと思います』と答えており、まだ夫の呪縛から脱け出せていない印象でした」(前出・記者)

 一方、検察側は現在の勇一郎への気持ちについて質問。

「『好きなのか、離婚しようと思うのか』『心境は複雑か』と繰り返し問いかけたが、口をつぐんでいた。憔悴していたとはいえ、大体の質問に答えていたのですが」(同前)

 捜査関係者はDV案件の複雑さをこう語る。

「暴力をふるってくる『爆発期』と、優しく振る舞ってくる『ハネムーン期』というサイクルがある。被害の認識に乏しい被害者も少なくない」

 弁護側はDVが原因で勇一郎の意向に逆らえなかったと主張。検察側は懲役2年を求刑し、結審した。今秋には勇一郎の公判が始まるが、妻との関係をどう語るか注目される。(「週刊文春2019年5月30日号)

 

虐待、止められぬ母 夫からの暴力「歯が立たない」 防止法改正案、衆院委で可決(2019年5月24日配信『毎日新聞』)

 

 児童虐待防止対策の関連法案は24日、衆院厚生労働委員会で、修正案が全会一致で可決され、今国会で成立する見通しとなった。児童虐待はドメスティックバイオレンス(DV)と密接な関係があるとされ、1月に千葉県野田市で栗原心愛(みあ)さん(当時10歳)が虐待死した事件でも、起訴された母親が公判で夫からDVを受けていたことを明かした。娘とともに元夫の暴力を受け続けた東京都の50代女性は、「助けを呼べなかったのではないか」と思いやり、早期支援の重要性を訴える。 

 女性が自宅を飛び出したのは、15年前の秋だった。外出先から帰宅すると、酔った夫が「皆殺しだ」とわめきながら両手で首を絞めてきた。夫は朝から酒を飲んでは仕事を休み、事あるごとに暴力をふるっていた。

 同居する娘と母親とともに、部屋に逃げ込んだ。翌朝、夫が外出した隙(すき)を見計らい、3人で車に乗って逃げた。「死のうかな」とつぶやいたが、娘が「一緒ならいいよ」と応じた声にハッとした。「このままでは娘を死なせてしまう」。避難先を求め、東京に向かった。

 夫の暴力が始まったのは、娘の出産直後だった。夜泣きに「うるさい」と怒鳴り、「お前はばかだ。何をやってもだめだ」とののしっては女性を殴った。矛先は娘にも向かい、しつけと称してはたたき、裸にして真冬の屋外へ放り出した。女性が止めようとしても、力ではかなわず、歯が立たない。娘は思春期になると、「生まれてこなければ良かった」とリストカットを繰り返した。

 女性は離婚調停を申し立てたが、調停委員から「娘の親権は生活力のある父親に行く」「父親のない子を作るのか」と言われてあきらめた。次第に「自分は何もできない」と思い込み、助けを求めることを考えられなくなった。

 東京ではDV被害者のシェルターに入り、離婚も成立。娘と母と一緒に暮らし始めたが、女性はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、電話が鳴ると「元夫からでは」と体が固まった。娘は「お父さんは私に怒っていた。ママは悪くない」と自分を責め、避難から4年後、27歳で自ら命を絶った。

 女性は今、DV被害者の自助グループに参加している。心愛さんの事件後、インターネット上では父親の暴力を止めなかった母親に批判が集まった。しかし、女性は自身の経験から、「暴力で支配された母親が声を上げるのは難しい。周囲や行政がDVや虐待に気付いて介入する体制を作ってほしい」と願う。

児童相談所と婦人相談所などの連携強化へ

 野田市の事件を受け、法案には、児童相談所(児相)と、DV相談を受ける婦人相談所などの連携強化が盛り込まれた。児童虐待とDVの情報を一緒に分析してリスクを判断するためのガイドライン作りや、婦人相談所に児相や学校と連携するコーディネーターの配置も進める方針だ。

 身近な人からの暴力であるDVは、家庭内や恋人同士など、第三者からは見えにくいところで起きる。このため被害者は外に助けを求めにくく、子どもにも危険が及びやすい。内閣府の2017年度調査では、DVを経験した女性の45%が「別れようと思ったが、別れなかった」と回答し、その多くが「子どもがいる」「経済的な不安があった」を理由に挙げた。子どものいるDV被害者の2割は、子どもも虐待被害に遭っていた。

 政府は児相の運営指針などで、DVと児童虐待の対策を連携させるとしてきた。しかし、現場では「児相とDVの相談機関がバラバラに対応していて、あまり連携は意識されず、情報共有もほとんどしてこなかった」(DVシェルター職員)のが実情だ。全国婦人保護施設等連絡協議会の横田千代子会長は「DVを受けている母親が子どもを助けようと思っても、圧倒的な父親の暴力に萎縮してしまう。母子をともに支援することが重要だ」と話す。

 法案は親による体罰禁止の明記なども柱となる。与野党は、虐待した保護者の再発防止措置を努力義務とするほか、家族が転居した場合に児相間で速やかに情報共有し、切れ目ない支援をする規定を盛り込み、修正案をまとめた。親が子を戒めることを認める民法の「懲戒権」について、野党側は早期の削除を求めたが、与党側は応じなかった。

 24日の衆院厚生労働委員会の採決に先立つ質疑で、安倍晋三首相は「子どもの命を守ることを最優先にし、児童虐待の根絶にあらゆる手段を尽くして総力を挙げる」と決意を述べた。法案は28日にも衆院本会議で可決、参院へ送付される。

 

千葉県野田市の女児虐待死事件

 千葉県野田市の小学4年、栗原心愛(みあ)さん(当時10歳)が今年1月、両親から虐待を受けて死亡した。父・勇一郎被告(41)=傷害致死罪など=と、母・なぎさ被告(32)=傷害ほう助罪=が起訴されている。なぎさ被告も夫からのDV被害に遭っていたとされる。

 

子どもの権利条約批准25年 一向になくならない児童虐待(2019年5月5日配信『毎日新聞』)

 

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かつて育ての親に虐待された男性は、今、苦しんでいる子どもへ届ける言葉として「逃げてもいいんだよ」と記した=福岡市中央区で2019年4月24日午後2時33分

 

 国連の子どもの権利委員会が2月、子どもへの暴力や虐待事件が相次ぐ日本への強い懸念を示し、政府に虐待防止に取り組むよう勧告した。子どもの人権を保障する国連の「子どもの権利条約」を日本が批准して今年で25年になるが、悲惨な事件は一向になくならない。5日は「こどもの日」。専門家は、日本では「子どもは体罰をしてでもしつける対象」という考え方が根強く、「子どもの権利」がないがしろにされていると指摘する。 

 「一人でも話をできる大人がいたら、違ったかもしれない」。福岡県内に住む30代男性は子どもの頃、生みの親の離婚を機に預けられた育ての親から激しい暴力や虐待を受け続け、満足に食事を与えてもらえない時期もあった。 

 気を失うまで激しく殴られた小学3年のある日、「このままでは死ぬ」と恐怖を覚え、交番に駆け込んで「うちに帰りたくない」と訴えた。ところが、警察官からは「早く帰りなさい」と言われ、あざにも気付いてもらえなかったという。「もう誰にも相談しない」。男性は大人に絶望したこの出来事を今も鮮明に覚えている。 

 男性は今年1月、千葉県野田市で小学4年の栗原心愛(みあ)さんが虐待死した事件のニュースを見て「なぜ救えなかったのか」と無力感を抱いた。事件では、心愛さんが父親の家庭内虐待を訴えた学校アンケートを、市教委の職員が父親に渡していた。 

 なぜこうした事件が相次ぎ、子ども自身による勇気の告発も軽視されるのか。東海大の山下雅彦名誉教授(教育学)は「日本では子どもを力なき者、未熟者とみる傾向があり、体罰をしてでもしつける、という子ども観を払拭(ふっしょく)できていない。市民社会も子どもを軽く見ている」と語る。 

 これに対し、国連の子どもの権利条約は、18歳未満の子どもも大人と同じ権利の主体と位置づけ、暴力や搾取から守られる権利教育を受ける権利――などとともに、自由に意見を表明する権利も保障する。 

 締約国が条約が定める義務を守っているか監視する子どもの権利委員会は1月、日本の状況を審査し、2月、子どもへの暴力や虐待が「高い水準で発生している」と懸念を表明。その上で政府に子どもの通報や苦情申し立てなどを受け付ける仕組みづくり虐待防止の教育プログラム強化家庭への適切な支援――などを勧告し、法律による体罰の全面的な禁止も求めた。 

 委員会を傍聴した子どもの権利条約総合研究所運営委員の平野裕二さん(51)は「日本は西洋に比べ子どもの権利保障が遅れていることが明らかになった」と残念がる。 

 国内でも親権者による体罰禁止を盛り込んだ児童虐待防止法などの改正案が今月、国会で審議入り予定だ。山下名誉教授は、体罰を法律で禁止したスウェーデンなどでは子どもへの虐待が減少したとして「日本でも体罰禁止を急ぐべきだ」と指摘。その上で「権利条約を踏まえた政策の実現には、子どもに関わる市民の意識改革も大事だ」と強調した。

 

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昨年8万件 増加の一途 

 警察庁の統計によると、全国の警察が児童相談所に児童虐待を通告した件数は昨年初めて8万件を超え、2004年の統計開始以来増加の一途をたどる。逮捕などの摘発件数は1380件で、加害者(1419人)の7割を実親が占めるが、養親や、実親の再婚相手なども2割を超える。 

ことば「子どもの権利条約」 

 子どもを単に保護の対象ではなく権利の主体と位置づけ、18歳未満のすべての子どもの基本的人権を国際的に保障する。前文と本文54条から成る。国連で1989年に採択された。日本は94年に批准し、158番目の締約国となった。これまでに196の国・地域が締結している。 

 

横須賀市児相に学ぶノウハウ 法改正前に設置 中核市は2例のみ(2019年4月5日配信『東京新聞』)

 

 

 中核市が運営する全国3つしかない児童相談所のうちの一つ、横須賀市児相に視察が相次いでいる。国の方針に基づき、新設を目指す自治体がノウハウを求めての動きという。児童虐待など子どもを取り巻く環境は深刻さを増しており、同児相は「できる限りの情報を伝えたい」と意欲を見せている。

 「施設との連絡会」「HV」。同児相のホワイトボードは、児童の面談や親の指導を行う児童福祉司らの予定でびっしりと埋まっていた。HVとはホーム・ビジット(家庭訪問)の略で、「虐待を見聞きしたとの連絡など、突発事案が入ると本当に忙しくなる」と職員の一人は話す。

 都道府県や政令市と異なり、中核市(人口20万人以上)に児相の設置義務はない。市が2006年4月、金沢市と共に開設したのは「『横須賀の子どもは横須賀で見るべきだ』と考える当時の市長が決断した」(高場利勝所長)のが理由だった。

 予算は年15億円ほどで職員は74人。負担は軽くないが、メリットも多い。保育や義務教育など子どもに関する業務を担う市が児相も持つことで、一貫性のある支援がしやすい。地域の事情に精通する民生委員らとのつながりもあり、児童福祉司の中村圭輔さん(37)は「いい支援にはこれら関係先との連携が欠かせない」と強調する。

 両市に追随する中核市は長らくなかった。17年の厚生労働省の調査では「財政面、人材育成面での負担が大きく困難」を主な理由に大半が検討していなかった。そうした状況を変えたのが、17年施行の改正児童福祉法。増え続ける児童虐待の対応強化に向け、東京23区も児相を開設できるようにし、中核市への設置も支援するとした。

 この頃から、横須賀児相への視察が増えた。中核市3例目の児相を今月設けた兵庫県明石市など、過去3年間で計約30の区と中核市の担当者らが来訪。発足当初、県の協力により副所長クラスら経験豊富な職員3人を派遣してもらえたのが大きかったことなど、貴重な体験を伝えている。

 昨年4月からは研修生も受け入れている。東京都豊島区の職員郷野悦子さんは「豊島の人口は30人ぐらいで横須賀(約40万人)と近い。ここで学んだことは参考になる」と語る。

 児童虐待への対応に当たる全国の関係施設から相談を受ける「子どもの虹情報研修センター」(横浜市戸塚区)の小出太美夫(たみお)専門相談室長は「少ない人口ごとに児相がある方が地域のネットワークを築きやすく、中核市などに増やすのは意義がある」と指摘する。

 一方で「課題は人材育成。児童福祉司は全国的に不足し、育成には時間がかかる。技術を伝えられるベテランをある定度確保してからでないと、子どもを守る上で適切な判断ができない危険性がある」と述べた。

 

児童虐待 法改正で防げるのか 突貫工事で改正案、19日閣議決定(2019年3月16日配信『毎日新聞』)

 

児童相談所への専門職配置は?


 児童虐待防止対策の強化に向けた児童福祉法と児童虐待防止法などの改正案が19日に閣議決定され、今国会に提出される。「おねがいゆるして」と悲痛な手紙を残して亡くなった東京都目黒区の船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)と、父からの暴力を訴えながら救われなかった千葉県野田市の栗原心愛(みあ)さん(当時10歳)の二つの象徴的な事件が政府・与党を動かし、突貫工事で改正案がまとめられた。さらなる悲劇を防ぐことはできるのか。【横田愛、谷本仁美、藤沢美由紀】
◇「親権者の体罰も禁止」に踏み込み
 「たたかないと、子どもは分からないですよ」。年間1000件を超える児童虐待相談を受ける福岡市の児童相談所(児相)「こども総合相談センター」では、そう主張する親への対応を迫られることが少なくない。民法では親権者に子どもを戒める懲戒権を認めており、児相の職員が、「しつけ」と称して手を上げることを正当化する親に強く出られない背景となってきた。
 改正案は、懲戒権見直しを今後の検討課題としつつ、先んじて「体罰禁止」に踏み込んだ点が柱の一つ。同センターの久保健二・こども緊急支援課長(弁護士)は「法律で禁止されれば、親に『体罰はダメだ』と言いやすくなる。それでも聞かない親もいるかもしれないが、私たちが分かりやすく説明できるだけでも意味がある」と、保護者対応の後押しとなることを期待する。
 国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」によると、欧州で体罰を法律で禁じている国では「子どものお尻をたたく」などをしている親の割合が、禁じていない国の半分以下との調査結果もある。法改正に加え「体罰禁止」の広報キャンペーンが行われた国ではさらに効果が出ており、元児相職員の茂木健司・群馬医療福祉大専任講師(子ども家庭福祉)は「社会全体で暴力を根絶するキャンペーンを続ける必要もあり、虐待をしてしまうような親にいかにメッセージを届けるかが重要だ」と指摘する。
 法案を巡る自民党の議論では「『体罰』の定義を明確にすべきだ」との意見も相次ぎ、厚生労働省は今後、法律で禁じる体罰の範囲を定めた指針を作る。児童虐待防止法は「虐待」を「身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行」などと定義しているが、体罰は「お尻をたたく」など、より広い行為を含むためだ。
 厚労省が念頭に置くのが、学校教育法に基づく文部科学省の通知だ。学校教育法は教員らによる児童・生徒への体罰を禁じており、通知では「懲戒の内容が身体的性質のもの」が体罰に当たると規定。参考事例として「立ち歩きの多い生徒を叱ったが聞かないため、頬をつねって席に着かせる」などを挙げる。一方で、言葉によるものは想定しておらず、厚労省幹部は「同じ『体罰』という言葉を使いながらその範囲が異なるのは説明がつかない。学校教育法と整合性を取る必要がある」と語る。
 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの西崎萌(めぐみ)さんは「法制化の動きを歓迎する」と評価する。ただ、体罰禁止の対象は、懲戒権が認められている親権者らに限られた。西崎さんは「親権のない内縁のパートナーや、保護者の知人が関わった虐待事件もあり、こうした人による体罰も広く禁じるべきだ」と課題を指摘する。
◇児童相談所の体制強化も 財源と人材で課題
 改正案のもう一つの柱が児相の体制強化だ。具体策を巡っては国と実務を担う地方との綱引きが繰り広げられた。
 一つは、子どもを守るとりでとなる児相の数の問題だ。児相は都道府県と政令市に設置義務があり、中核市と東京23区も開設可能。担当地域の人口が100万人を超える児相もあり、「網の目」の粗さが指摘されてきた。適正化のため、改正案では、国が人口などを基に政令で児相の設置基準を新たに定めると明記した。全国知事会は当初この規定に難色を示したが、厚労省は「都道府県が適正配置を考えるためにも必要」として、施行(2023年4月)まで十分な期間を置くことで押し切った。
 一方、こじれたのが中核市への児相設置の義務化だ。児童福祉法改正で06年度から設置可能となったが、専門人材や財源の確保がネックだ。開設済みの金沢市と神奈川県横須賀市に、開設予定の兵庫県明石市、奈良市を加えても、中核市54市のうち4市にとどまる。
 児童虐待防止対策を検討してきた超党派議員連盟(会長・塩崎恭久元厚労相)は踏み込んだ対応を求めたが、中核市市長会は「義務化ありきではなく、財政措置や専門的人材の育成・確保の支援の充実を」と反発。与党議員への働きかけを強めた結果、統一地方選と参院選を控えて「地元市長の機嫌を損ねるわけにはいかない」(自民党中堅議員)と同調する動きが広がり、義務化は見送られた。
 児相の専門性の強化では、医師と保健師を各1人以上置くとした一方、厚労省が一時検討した弁護士配置の義務化は見送られた。虐待通告が多い大阪府などが「ケースに応じてその分野に強い弁護士と連携するほうが実効性が高い」と主張。地方では弁護士確保が難しい地域もあり、弁護士事務所などとの相談契約も引き続き容認する。
 児相が担う一時保護など「介入」の機能と、親子が再び一緒に暮らすための「支援」の機能は、別の職員や部署で担うことになり、迅速に子どもを保護する体制作りを進める。沖縄国際大の知名孝准教授(精神保健福祉)は「介入は親の敵対心をあおる。児相は介入に重点を置き、支援では市町村の要保護児童対策地域協議会を活用すべきではないか」と話している。

 

中核市の「児相」設置、目標年次は先送り 児童虐待防止法改正案(2019年3月12日配信『毎日新聞』)

 

 政府は12日、自民、公明両党の厚生労働部会などの合同会議で、児童虐待対策の強化に向けて今国会に提出する児童福祉法と児童虐待防止法などの改正案を提示した。両党とも大筋で了承した。施行は一部を除き2020年4月1日。政府は19日の閣議決定を目指す。

 焦点だった民法の「懲戒権」の見直しの検討期間について、当初は「法施行後5年」としていたが、自民党から前倒しを求める声が相次ぎ、「2年」に短縮した。

 「しつけ」名目の児童虐待事件が後を絶たないことから、児童虐待防止法改正案に体罰禁止を明記した。その上で、懲戒権のあり方についても法制審議会(法相の諮問機関)に諮問し、検討を進める構えだ。

 一方、都道府県と政令市に設置が義務づけられている児童相談所(児相)について、中核市などでの設置を進めるために改正案の付則で「施行後5年」をめどに設置できるよう政府が支援するとの規定を設けた。16年の法改正の際も同様の付則を設けており、目標年次を事実上、先送りした。

 自民党内には「中核市なども設置を義務化すべきだ」との意見が根強くあるが、自治体側は財政面や人材確保の点から義務化に反発していた。

 児相で保護者の相談・指導を担う児童福祉司らの国家資格化を含めた検討期間は、当初の「施行後3年」を「1年」に短縮。関係機関の対応に子どもの意見を反映させる「意見表明権」を保障する仕組み作りについては、「施行後5年」を「2年」に前倒しした。

児相に弁護士配置義務化 224月から 児童福祉法改正案で、厚労省が調整(2019年1月17日配信『毎日新聞』)

 

 厚生労働省は、児童虐待への対応を強化するため、全国の児童相談所(児相)に弁護士の配置を義務づける調整に入った。現在は、弁護士事務所との相談契約なども認めているが、児童虐待が相次ぐ中、児相が法的権限をためらわずに行使して子どもを守るには、日常的に弁護士が関わる体制が必要と判断した。1月下旬召集の通常国会に提出する児童福祉法改正案に盛り込み、20224月から義務化する方針。

 児童福祉法は児相に弁護士の配置を求めているが、「準ずる措置」として弁護士事務所との相談契約や、各都道府県で中心的な役割を果たす中央児相に配置した弁護士が、他の児相の相談に応じることも容認している。この結果、全国212児相のうち常勤の弁護士がいるのは7カ所、非常勤は86カ所にとどまり、6割近い119カ所は弁護士が日常的に関わる体制になっていない。

 厚労省は、職権による子どもの保護など児相が親の意向に反してでも子どもを守るには、常に弁護士の法的知識が活用できる体制が必要と判断。児童福祉法から「準ずる措置」を削除し、全児相に配置を求める考えだ。併せて医師と保健師の配置義務化も盛り込む。

 弁護士の配置方法については、常勤と非常勤のいずれも認める方向で検討しているが、非常勤の場合「月12時間の勤務」など「日常的な関与」とは言い難い実態もあり、自民党内には「常勤弁護士の配置を義務化すべきだ」との意見も根強くある。

 東京都目黒区で船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)が死亡した事件では、虐待の疑いがありながら児相が弁護士や医療関係者に相談せず、自宅に帰していたことが問題視された。結愛ちゃんの事件後に設置された厚労省の社会保障審議会のワーキンググループ(WG)では、弁護士配置の在り方が最大の焦点となり、昨年末にまとめられた報告書では「児相の意思決定に日常的に弁護士が関与」できる体制整備の推進が盛り込まれていた。

 

目黒女児虐待死事件 「かわいそう」で終わらせないで(2018年12月21日配信『東京新聞』)

 

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今年6月、女児が虐待を受けた建物の前に供えられた花束=目黒区で

 

 児童養護施設などを退所した若者のアフターケア相談所「ゆずりは」(国分寺市)の高橋亜美所長(45)が今月、3月に発覚した目黒の女児虐待死事件への思いをつづった詩集絵本「はじまりのことば」を、墨田区の出版社「百年書房」のすーべにあ文庫から著した。6月に公表され、数多く報じられた5歳の女児が「もうおねがい ゆるして」などと書いたノートは本人の意思によるものではないとの持論を示し、「かわいそう」で終わらせてはいけないと訴えている。 

 収録された詩では、「5歳の少女が/ひらがなだけの文章を書いて/生きたいと願っていた― 本当だろうか?」と疑問を呈し、(中略)「言われるがまま/覚えたてのひらがなを/使って書かされた/ぬけがら」とつづった。

 高橋さんは、あのノートを女児の「心の叫び」とし、「かわいそう」とあおる風潮が虐待の根にある問題を見えづらくすると指摘。虐待している親の回復プログラムを実践してきた経験などから、「子どもを助けるためには、まず親を」と主張し、気持ちがほどけるような「(親や子どもらへの)はじまりのことば」こそが必要とする。

 一方で、今回の著書には、少女のノートの文章も収録した。「全ての感情が奪われた抜け殻のような文字から、虐待が命の前に、子どもの魂を奪っていると感じた。すごく心を動かす一方、あそこには心も何もなかった。だから、そういうものとして残すことに意味があると考えた」という。「あのとき流した涙を、一人一人の胸の内に持ち続けてほしい」と呼びかける。

 

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事件への思いをつづった「はじまりのことば」

 

 刊行に当たっては、「百年書房」の藤田昌平代表(49)が女児のノートをすぐに文庫化したいと、高橋さんに相談。高橋さんは「児童虐待は、私たちにとって日常にある問題。目黒の事件が特別ではない」と、当初あまり積極的ではなかったという。その後、ノートが誤解、誤読されたまま事件が風化しているとの高橋さんの見解を聞き、「あの時に何を思ったかを残すために、やはり本にまとめることになった」と藤田さんは説明する。

 児童養護施設で関わった少年少女の声を代弁してつづった「はじめてはいたくつした」「嘘(うそ)つき」(ともに百年書房刊)に続き、高橋さんの虐待に関する詩集絵本は3冊目。来年以降、これらの本を携えて、朗読や講演などで全国行脚する予定もあるという。

 「はじまりのことば」は500円(税別)。問い合わせは、百年書房=電03(6666)9594=へ。

 

命救う機会、3度逃す 目黒女児虐待死で検証報告書(2018年11月15日配信『東京新聞』)

 

 東京都目黒区で3月、両親から虐待されていた船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時(5つ)=が死亡した事件で、専門家による都の部会は14日、検証報告書をまとめた。結愛ちゃんが死亡する1カ月前に、都の児童相談所が虐待と判断しながら、すぐに会わなかった点などを問題視。都は、対応すべき機会が3回あったとの見解を示した。 

 報告書によると、都の品川児相は1月30日、結愛ちゃんが都内に転居する前に暮らしていた香川県の児相から概要の連絡を受け、虐待として受理した。厚生労働省の指針では、受理から原則48時間以内に児童の安全確認を求めているが、品川児相は「けが自体は軽微」などの情報から、緊急性に乏しいと判断。結愛ちゃんへの接触より、保護者との関係づくりを優先し、深刻さをつかめなかった。

 2月9日に初めて自宅を訪問したが、母親が結愛ちゃんとの面会を拒否して会えず、5分程度で退いた。その後は訪問せず、安全確認の方策も検討しなかった。目黒区子ども家庭支援センターも同20日、小学校説明会で結愛ちゃんを確認できなかったのに、緊急度を見直さなかった。結愛ちゃんは3月2日に死亡した。

 児相を管轄する都家庭支援課は「組織として危機感が低かった面はある」と説明。緊急度を見直さず、安全確認を優先しなかった理由を「継続的な支援が必要なケースだと(香川県側から)伝えられた。その見立てにとらわれたことが最後まで響いた」と釈明した。

 また、品川児相が緊急度を評価するためのチェックシートを作っていなかったことが判明。シートは厚労省が「虐待対応の手引」で作成を求めている。香川県側にけがの写真を送るよう要求せず、情報確認が不足していたことも指摘した。

 転居前後の経緯は香川県と合同で検証した。香川県も近く、検証報告書をまとめる予定。

 

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目黒虐待:緊急性乏しいと判断 48時間ルール適用されず(2018年11月14日配信『毎日新聞』)

 

 東京都目黒区で3月に船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)が両親から虐待を受け死亡した事件で、都児童福祉審議会は14日、検証部会の報告書を公表した。一家が香川県から転入した際、都は虐待があると認識しながら、緊急性に乏しいと判断して国の指針が求める48時間以内の安全確認をせず、危険度を評価する「リスクアセスメントシート」の作成も怠っていたことが明らかになった。

 この事件では、厚生労働省の専門委員会が先月、検証報告書を公表。香川県から都への引き継ぎについて、けがの写真など客観的資料がなく、要点も不明確だった上、対面で行わなかったためリスクの判断にずれが生じたなどと指摘していた。

 都の報告書によると、目黒区を管轄する品川児童相談所は1月29日に香川県の児相から転入の電話連絡を受けた。翌日届いた2枚のファクスを基に品川児相所長らが緊急受理会議を開き「虐待ケース」と判断して受理した。

 しかし、引き継ぎの「けが自体は軽微」との記述や、転居前に保護者への指導措置が解除されていたことから、保護者との関係作りを優先。家庭訪問したのは2月9日で、母親に拒否する姿勢を示され結愛ちゃんに会えなかったのに再び訪問しなかった。都には虐待受理後72時間以内にリスクアセスメントシートを作るルールがあるが守らず、リスクの再評価をしなかった。

 目黒区の子ども家庭支援センターが、一家が住んでいた同県善通寺市からの情報提供を受け、家庭訪問する予定を2月1日に伝えた際には「児相が先に訪問する」として待つよう指示していた。報告書は「命を守るために48時間ルールがある」として安全確認を最優先し、関係機関の情報共有を徹底することなどを提言した。

 記者会見した検証部会長の大竹智・立正大教授(児童福祉)は「ルールにのっとった対応が迅速、丁寧に行われていたら亡くなることはなかった」と話した。また、個人的な意見と断った上で「48時間ルールで動くとなると相当の労力が必要。膨大なケースを抱える中、『軽微なもの』という香川の判断を優先したかったのではないか」と述べた。

◇事件契機に対面引き継ぎルール化

 厚生労働省によると、2012年度から16年度までの5年間で391人が虐待によって死亡している。そのうち159人が心中だった。一方、全国の児童相談所に寄せられた児童虐待の相談件数は、統計を開始して以来、過去最多を更新し続けている。17年度の相談件数は13万3778件(速報値)に上る。

 東京都目黒区の船戸結愛ちゃん(当時5歳)の事件を受け、政府は児童虐待防止の緊急総合対策を打ち出した。緊急性の高い案件を児相間で引き継ぐ場合は、児相の職員同士が対面で引き継ぐことをルール化。引き継ぎや虐待の通告後48時間以内に子どもと面会ができない場合は、強制力のある立ち入り調査で安全確認を徹底し、警察にも伝えることにした。

 児相と警察が情報共有する案件も具体的に示しており、虐待による外傷▽ネグレクト(育児放棄)▽性的虐待−−があると考えられる事案はすべて対象となった。

 また、児童福祉司を22年度までに全体で約2000人増員し、17年度(3253人)の1・6倍の約5200人態勢に増強する方針だ。

◇「しつけのつもりだった」から黙秘に

 船戸結愛ちゃんの父雄大被告(33)と母優里被告(26)は保護責任者遺棄致死罪で、雄大被告は傷害罪などでも起訴されている。公判日程は決まっていない。捜査関係者によると、雄大被告は逮捕直後は「しつけのつもりだった」と容疑を認めていたが、その後、黙秘している。優里被告は「自分の身に降りかかるのを恐れて見過ごしていた」と供述していた。

 

目黒虐待死:背景には児相の職員不足や専門性の不十分さ(2018年10月3日配信『毎日新聞』)

 

 船戸結愛(ゆあ)ちゃんが虐待死した事件では、「子どもが帰宅を嫌がる」など繰り返し指摘されてきた虐待リスクが見逃されていた。ただ、背景には児童相談所(児相)の職員不足や専門性の不十分さがあり、政府が打ち出している児相の体制強化策の確実な実施が必要だ。
 「(助けを求める結愛ちゃんの)声があったにもかかわらず、(危険性の)評価に反映されず、記録に十分残されていない」。厚生労働省の専門委員会の山県文治・委員長(関西大教授)は3日の会合後の記者会見で、こう語った。
 専門委は2005年から計14回の報告書をまとめ、「子どもの姿が見えない」など虐待リスクの具体的兆候のほか、危険度を評価する「リスクアセスメントシート」活用の必要性などを指摘してきた。山県委員長は「これまでの各種提言が実行されず同じことが起きてしまった。国や自治体のマニュアルや通知、提言を守っていたら(結愛ちゃんが)亡くなる確率はかなり低かったと思う」と強調した。
 3日午前、香川県庁で開かれた記者会見で県子ども家庭課の増本一浩課長は「県内では年に1件あるかないかの対応で、十分な経験がないなか踏みきれなかった」と釈明し、危険度を評価する「リスクアセスメントシート」を作成しなかった点については、「次々と対応しなければいけない事案があり、人員不足が背景の一つ」と述べた。
 だが、県側の説明について問われた山県委員長は「経験がないなら、なおさら弁護士や他の経験のある児相に聞くべきだった」と厳しい姿勢を示した。
 転居で結愛ちゃんのケースの引き継ぎを受けた品川児相の対応も批判されている。林直樹所長は毎日新聞の取材に対し、「死亡という結果をみれば、対応は至らなかった。検証結果は今後に生かしたい」と話した。山県委員長は、両都県が進めている検証で、対応の背景を含めて明らかにするよう求めた。
 政府が7月に策定した緊急総合対策は、児童福祉司を22年度までに約2000人増員し、17年度の1・6倍とすることや、児相の専門性強化策を盛り込んだ。報告書は、この緊急総合対策の確実な実施、体制整備を求めた。【横田愛、岩崎邦宏、春増翔太】
◇検証報告書に盛り込まれた対策のポイント
・強制的な入所措置は、弁護士や医師らの意見を踏まえて検討する
・状況変化のたびに緊急度を評価する「リスクアセスメントシート」に記録を残す
・家族関係全体を踏まえリスクを評価する
・児相間の引き継ぎは客観的な情報を資料で提供する

 

厚労省:目黒虐待死 香川児相は対応不十分 検証報告書で(2018年10月3日配信『毎日新聞』)

 

 厚生労働省の専門委員会は3日、東京都目黒区で3月に船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)が両親から虐待を受け死亡した事件の検証報告書をまとめた。結愛ちゃん一家の転居前に関与していた香川県の児童相談所(児相)の対応について、虐待の疑われるあざがありながら適切に対応しないなどリスクの評価が不十分だったと厳しく指摘した。

 報告書によると、父親からの虐待で一時保護中の2017年5月に香川県の児相や関係機関が会議を開催。保護者の同意なしで施設入所させるための申し立てを医療機関などから求められた。だが、同児相は、弁護士らに相談せず、あざの原因や傷ができた時期が特定できないなどとして申し立てを見送った。

 一時保護解除後も、複数回あざが見つかり、結愛ちゃん自身も「家に帰りたくない」と訴えた。だが、同児相はリスク評価に反映させず、客観的な記録(リスクアセスメントシート)も作成しなかった。記録作成は、国が虐待対応の手引で児相に求めている。

 また、同児相が直接の加害者だった父親に指導しなかったことを問題視。母への家庭内暴力の可能性も把握しながら、家族関係全体を踏まえたリスク評価ができていなかったとした。

 転居を受けた児相間の引き継ぎでは、香川県の児相が品川児相に送った書類の中にけがの写真など客観的な資料がなく、「要点が不明確で口頭の補足説明も十分ではなかった」と指摘。対面で行わなかったため「リスクの程度の判断にずれが生じた」とした。

 一方、品川児相について、父親が失業中で虐待リスクが高まることなどを考慮すれば、母親による結愛ちゃんとの面会拒否でリスク評価を見直すべきだったのに、見直さなかったのは問題だったと結論づけた。

 厚労省が個別事件に特化して検証したのは初めてで、対策も盛り込んだ。これとは別に香川県と東京都も検証作業をしている。

 

目黒虐待死事件で日本の児童福祉「制度に課題」 児相職員ら、米国の現状学ぶ(2018年9月13日配信『東京新聞』)

 

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ヘネシーさん(左)の話を真剣な様子で聞き入る児相の職員ら=新宿区内で

 

 目黒区のアパートで3月、両親から虐待を受けた船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時(5つ)=が死亡した事件を受けて、児童相談所(児相)や児童養護施設の職員らでつくる「子ども研究会」が、米国の児童福祉の現状を学び、日本の現場に生かそうと勉強会を開いた。子どもを守るとともに、親の立ち直りを支える米国の取り組みを知り、参加者からは日本の制度の抜本的な見直しの必要性を指摘する声も聞かれた。 

 勉強会は9日、米国の状況に詳しい東京福祉大名誉教授のヘネシー澄子さん(80。社会福祉学博士 臨床ソーシャルワーカー)=米コロラド州在住=を招き、新宿区の乳児院で開いた。児相職員や各区担当者、保育士ら約35人が参加した。

 ヘネシーさんが紹介したコロラド州では、児童虐待の通告を受けると、児童保護ワーカー(日本の児童福祉司)と警察官がペアで家庭訪問し、子どもを保護する。46時間以内に家庭復帰までの計画を裁判所に提出。両親は親権を停止された状態で半年〜1年半の間、怒りの制御や薬物治療などの立ち直りプログラムを受けるという。

 ヘネシーさんは「日本は司法が直接的に関与せず、虐待する両親に親権を預けたまま対応しており、子どもを守る制度になっていないのではないか」と指摘。

 結愛ちゃんのケースについて、ヘネシーさんは「(転居前の香川県で)義父は傷害容疑で2度も書類送検(不起訴)されていた。虐待は犯罪だという意識が足りない」と訴えた。

 保護した子どもへの対応では、「米国では子どもをできるだけ早く永久的な人間関係の生活に戻すよう、政府が各州に指示している」と説明。コロラド州は初期の受け入れ先の一時保護所を廃止し、専門的訓練を受けた里親に預けていると話した。

 児相職員ができることとして「虐待を受けると、子どもは人を信頼できなくなる。愛着関係を育める安全な場所で育て直しができるよう環境を整えてあげてほしい」と語りかけた。

 参加した児童福祉司の1人は「米国は親への指導プログラムもしっかり考えており、日本も根っこから考え直すべきだと認識が変わった」と話した。

 

幼い命の叫び、国を動かす 虐待死で緊急対策(2018年7月30日配信『日経新聞』)

 

 「もうおねがい ゆるして」。東京都目黒区で両親から虐待を受け死亡した船戸結愛ちゃん(死亡当時5歳)が残したメモは多くの人の心を揺さぶった。再三にわたる異変のシグナルをなぜ、生かせなかったのか。児童相談所間の引き継ぎ、不足する児相職員。事件からは、幼い命を救えなかった様々な問題点が浮かび上がる。

 「子供の泣き声がやまず、たたくような音も聞こえ心配だ」。関西地方のある児相には虐待を疑う電話や警察からの報告が1日数十件寄せられる。職員は1人当たり10を超える家庭を受け持ち、土日や深夜の出動も多く、担当者は「担当の子供が頭から離れず心休まるときがない」と漏らす。

 厚生労働省によると、全国の児相が16年度に対応した虐待件数は12万件超と10年間で3倍以上に急増。都内の児相職員は「事件で世間の関心は高まり、通報はまだまだ増えるだろう」とみる。

 結愛ちゃんの虐待死事件では、悲劇を未然に防げたはずのシグナルは複数あった。最初は16年だ。当時、一家が住んでいた香川の児相は結愛ちゃんを2度にわたり、保護。保護解除中に病院があざを見つけて通報したが、再度の保護に至らなかった。

 次の機会は一家が目黒区に引っ越した18年1月だ。児童福祉司が両親と定期的に面接する指導措置が解除されており、香川から引き継いだ品川児相は緊急性が高いと判断しなかったという。同年2月、児相の訪問に対し、母親は結愛ちゃんとの面会を拒否。小学校の入学説明会には母親しか現れず、周囲に姿を見せることなく結愛ちゃんは短い生涯を終えた。

 シグナルを生かし切れなかった背景には、香川県の児相と転居した東京の児相との引き継ぎ時のリスク伝達が曖昧になっていたことがある。児相間の引き継ぎは電話と文書でのやり取りにとどまり、香川の担当者は「直接会って託すべきだった」と悔やむ。

 事件で露呈したのは、引き継ぎ不足だけではない。結愛ちゃんが亡くなるまで児相から警視庁に情報は寄せられなかった。虐待防止対策に取り組む後藤啓二弁護士は児相への虐待情報を全て警察と共有する「全件共有」の導入を提言。「虐待は1つの機関のみで対応できる問題ではない」と訴えるが、「保護者との信頼関係が損なわれる」など全件共有に消極的な声も少なくない。

 さらに、虐待の専門職である児童福祉司の不足を指摘する声もある。17年4月時点で約3200人と10年間で1.4倍増にとどまり、増え続ける通報に加え、子供の保護など仕事が追いついていないという。

 「痛ましい出来事を繰り返してはならない」。7月20日、安倍晋三首相は関係閣僚会議で訓示した。警察との情報共有の強化、児相間の職員同士の対面引き継ぎの原則化、22年度までに児童福祉司を約2千人増員。政府が打ち出した児童虐待の緊急対策には問題点の解決策が並んだ。これまでも同様に虐待が起きては、児童虐待防止法の改正を繰り返すなど対策を打ち出してきた。それでも教訓を生かせなかった反省の表れでもある。

 17年の児童虐待の摘発は過去最多の1138件。虐待で亡くなった子供は58人に上り、一向に減る気配はない。児相での勤務経験がある沖縄大学の山野良一教授(子供家庭福祉)は「緊急性が高い兆候かを判断するため、児童福祉司の増員に加え、警察・医師ら関係者のスキルを向上していく対策が必要」と提言する。

 もっとも、政府の緊急対策などが根本的解決になるわけではない。過去、虐待の疑いを児相や警察が把握するきっかけは、近隣住民の通報が端緒となったケースが少なくない。核家族化など地域のつながりが希薄となる中、周囲からは虐待か、しつけかの見極めは難しいうえに、見知らぬ子供の異変を警察や児相に連絡しづらい現実もある。

 子供の命を守るため、近隣住民のネットワークをどう機能させるか社会全体で考えていく必要がある。

 

結愛さんの虐待に涙し、子どもの泣き声に不寛容な社会(2018年7月22日配信『朝日新聞』)

 

 二枚目俳優であるとともに、文は人なりを思わせる文章家でもあった。加藤剛さんの訃報(ふほう)を聞いて、8年前に頂戴(ちょうだい)した手紙を取り出して眺めた。

 当時私は天声人語を担当していて、ある日、加藤さんの随筆の一節を拝借してコラムを仕立てた。掲載紙をお送りしたことへの、律義な返礼の手紙である。

 話題は子どもへの虐待だった。

 男の子が相次いで命を奪われた。奈良の子は5歳なのに体重は6キロしかなかった。埼玉の4歳は、水を飲ませてと哀願する声を近所の人が聞いていた。胸のつぶれそうなコラムの中に、ともしびのように挿(さ)しはさんだのが、加藤さんが幼いわが子を肩車する随筆の場面だった。

 肩に乗って父親の額をしっかり押さえる小さな両手を、加藤さんは「若木の枝で編んだ桂冠(けいかん)」とたとえていた。その栄誉の桂冠を頭に戴(いただ)いて、加藤さんは「凱旋(がいせん)将軍のごとく」誇らしげに歩むのである。ごく短い描写ながら、子への情愛が文章からにじみ出してくる。

 子にとってみれば、人から愛され大切にされた記憶が、愛するという資質を耕すのだろうと感じたものだ。虐待をしてしまう親は、自分もまた受けた愛情が薄かったという話を往々耳にする。

 手紙をいただいて以来、痛ましい虐待のニュースに接するたびに、ふと加藤さんの肩車が思い出された。悲しいことに今年もまた、それは繰り返された。

     ◇

 ひらがなはやさしい文字である。易しいうえに優しく、つづる言葉は角がとれて丸くなる。そのひらがなを、これほど痛ましく読んだ経験はかつてない。

 船戸結愛(ゆあ)さん(5)は、覚えたばかりのひらがなの文をノートに残して息絶えた。親から悲惨な虐待を受け、まともな食事も与えられなかったという。

 「……もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします……」

 日ごろ凶悪事件を受け持つ警視庁捜査1課の幹部が、記者発表でノートの一部を読み上げながら声を詰まらせた。虐待されながらも親の愛情をただ求める、幼い必死な言葉が私たちを打ちのめす。

 これまでも児童相談所や警察が虐待を認識しながら、命を救えなかったケースは繰り返されてきた。

 児童相談所は多忙が指摘され、対応した虐待件数は一昨年度には全国で12万2千件と過去最多になった。職員の疲弊は深い。しかしながら脅かされる命の最後の守り手である。仁王立ちのゴールキーパーの姿を、その仕事に重ねてみる。

 「どの社会にとっても、赤ん坊にミルクを与えることほど素晴らしい投資はない」と国民に呼びかけたのは英首相チャーチルだった。その言葉を「社会で子どもを守り育てる」という意味に読み取りたい。国も自治体も財布は苦しいが、増える虐待から子を守る体制拡充への十分な投資を、惜しむときではない。

     ◇

 ひらがなの名前の詩人まど・みちおさんに「はっとする」という詩がある。

 違法なゴミ捨て、大金ねこばば、下着泥棒、模範教師が高山植物盗掘……新聞などでよく目にする、魔が差したような人間の過ちをまどさんは並べていく。そして詩の最後をこう締めくくる。

  ああ きりもなくはっとしては/ほ  っとする/よくもよくも俺のことで  はなかったなと

 だれでも人間である以上、つい過ちをしてしまう危うさを内に抱えている。虐待もその類いだろう。ニュースに接して「よくも私ではなかったな」と自省の痛みを引く人もいるのではないか。死に至る虐待は極端だが、無視する、暴言を吐いてしまう、衝動的にたたく、それらはおそらく日々の育児と隣り合わせだ。

 私たちの社会にも自省が要る。結愛さんのひらがなには涙しつつ、子どもに向ける目はどうも不寛容だ。子が泣けば周囲の不機嫌に親は縮こまり、遊び声さえ迷惑がられる。そうやって親のストレスや孤立感はじわじわ嵩(かさ)を上げていく。

 子育てという大仕事、もっと敬意を払われていい。見守る。手を差しのべる。加藤さんに倣(なら)って言えば、子どもという総体を社会で肩車できれば素晴らしい。

 

生活関わる法案見送り 国会きょう閉幕 与党「カジノ」「働き方」は強行(2018年7月22日配信『東京新聞』)

 

 今国会が22日に閉幕する。森友、加計問題など安倍政権の不祥事が相次ぎ、与野党が激しく対立したあおりで、審議時間が限られ、国民生活に影響する法案成立が見送られた。与党は重要視するカジノを中核とする統合型リゾート施設(IR)整備法や働き方関連法などの採決を強行する一方、野党が提出した原発ゼロ基本法案などは一度も審議しなかった。 

 政府提出法案で成立しなかったのは、成年後見制度適正化法案や洋上風力発電促進法案など5本。政府提出法案の成立率は92・3%だった。議員立法では超党派で検討していたチケット高額転売禁止法案が先送りされた。

 成年後見制度適正化法案は、知的障害や認知症などで制度を利用した人が、一律に公務員や教員、保育士などになれない欠格条項を廃止。個別の状況ごとに審査し、不当差別を解消するのが目的だ。洋上風力発電促進法案は、洋上風力発電の普及を広げるのが狙い。いずれも内閣委員会で審議される予定だった。

 政府・与党は終盤国会でカジノ法の成立を最優先させた。審議は内閣委員会で行われるため、成年後見制度適正化法案などを審議する時間はなく、置き去りにされた。野党はカジノ法の成立を急ぐ必要はないと主張した。

 東京五輪・パラリンピックを見据え、コンサートやイベントのチケットの高額転売を禁止する法案は、超党派の議員連盟が成立を目指した。与野党が国会に共同提出するため、本来なら成立するはずだが、国会運営を巡る対立が高まったため、与野党の協議が難しくなり、提出を断念した。

 野党は、東京都目黒区で船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5つ)が虐待死した事件を受け、児童福祉司の増員などを盛り込んだ児童虐待防止法などの改正案を提出したが、一度も審議されなかった。立憲民主党などが中心となって提出した原発ゼロ基本法案や犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」を廃止する法案も、委員会で扱われなかった。

 国民民主党の泉健太国対委員長は、20日の記者会見で「与党が国会改革を言うなら、野党提出法案をしっかり扱うことが最低限必要だ。虐待死事件を受け児童相談所の体制を強化する法案は厚生労働委員会で時間があったのに、与党が審議拒否した」と批判した。

 

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目黒の女児虐待父親、大麻所持容疑で追送検(2018年7月11日配信『共同通信』)

 

 東京都目黒区の船戸結愛ちゃん(5)が死亡し、両親が保護責任者遺棄致死の罪で起訴された事件で、警視庁碑文谷署は11日、父親の無職雄大被告(33)を大麻取締法違反(所持)の疑いで追送検した。

 追送検容疑は今年3月、自宅で乾燥大麻数グラムを所持した疑い。黙秘しているという。同署は起訴を求める「厳重処分」の意見を付けた。

 碑文谷署によると雄大被告は3月3日、結愛ちゃんに対する傷害の疑いで逮捕され、その際の家宅捜索で被告のかばんから大麻が見つかった。

 雄大被告と母親の無職優里被告(26)は6月、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕、その後同罪で起訴された。結愛ちゃんは死亡時、同年齢の平均体重約20キロを大幅に下回る約12キロしかなかった。自宅からは、結愛ちゃんが鉛筆で「もうおねがい ゆるしてください」などと書いたノートが見つかった。

 

「パパにやられた」届かず 目黒女児虐待死 両親起訴(2018年6月28日配信『東京新聞』)

 

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船戸結愛ちゃんが両親と暮らしていたアパート前には花束が供えられていた=東京都目黒区で

 

 東京都目黒区のアパートで今年3月、虐待を受けた船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5つ)が死亡した事件で、東京地検は27日、保護責任者遺棄致死罪で、父親の無職雄大容疑者(33)と母親の無職優里容疑者(26)を起訴した。

 起訴状によると、1月下旬ごろから、結愛ちゃんに十分な食事を与えず、2月下旬ごろには雄大被告の暴行で極度に衰弱していたのに、虐待の事実が発覚するのを恐れ、病院に連れて行かずに放置。3月2日、肺炎による敗血症で死亡させたとしている。

 結愛ちゃんは栄養失調になり、死亡時は5歳児の平均体重を7キロも下回る12・2キロしかなかった。搬送された際、おむつをはいた状態でトイレに行けないほど衰弱していたとみられる。

 自宅からは、「もうおねがい ゆるしてください」「あそぶってあほみたいだからやめる ぜったいやらないからね」などと結愛ちゃんが鉛筆で書いたノートが見つかっていた。

 結愛ちゃんは雄大被告の実子ではなかった。雄大被告は3月3日、傷害容疑で逮捕され、その後、起訴された。2人は今月6日、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕されていた。

◆児相・警察 情報共有拡大へ

 「パパにやられた。ママもいた」。船戸結愛ちゃんは生前、香川県の児童相談所や病院で両親からの虐待を訴えていた。児相間の引き継ぎや、児相と警察の連携の不足などが、痛ましい結果を招いた。今回の事件で浮かんだ課題に、国や自治体の検証が続く。

 2016年、クリスマスの深夜、結愛ちゃんはパジャマ姿ではだしのまま、家の外に放置されていた。近所の女性が「おうちに帰ろうか」と聞くと、「お父さんが怖いから嫌だ」。「パパにたたかれた」と訴え、児相が一時保護した。

 雄大被告が「もうたたかない」と約束したため、17年2月、一時保護を解除。だが、虐待は止まらなかった。3月、再び家の外に出され、2度目の一時保護。ひざなどに傷があったが、結愛ちゃんは「おうちに帰りたい。おもちゃがあるし」と話す一方、「パパ大好き」「パパ怒るから嫌い」と職員に揺れる気持ちを漏らしていた。

 両親への指導措置を取ることで、二度目の一時保護を解除。しかし、八月には病院から「あざがある」と通報が。結愛ちゃんは「パパにやられた。ママもいた」と話したが、優里被告は「私は知らない」と答え、一時保護に至らなかった。

 香川の児相は今年1月、東京都目黒区への転居などを理由に、指導措置を解除。情報を引き継いだ品川児相の職員が2月に家庭訪問し、優里被告と話をしたが、結愛ちゃんには会えなかった。

 転居以来、結愛ちゃんの訴えは、外に伝わらなくなった。ひらがなを練習するためのノートに「パパ、ママ。もうおねがい ゆるして」などとつづったが、外部の目に触れることはなかった。

 事件は、児相間や、児相と警察の連携に課題を残した。香川県と都は、それぞれ転居前後の対応を検証。一方、政府も虐待防止の緊急対策を取りまとめるとした。厚生労働省は小児科医、大学教授らの専門委員会で検証を始める。

 都内の児相は、これまで身体的虐待を受けた子どもの一時保護を解除した場合などに限り、警察に家庭の情報を伝えていた。今後、児相職員と子どもが面会するのを保護者が拒むケースなどでも、家庭の情報を伝えるように改める。

 結愛ちゃんが住んでいた目黒区のアパート前は、27日も花を手向ける人たちの姿があった。福島県白河市の男性(44)は妻、2人の娘と訪れ、「手を合わせに来たかった。結愛ちゃんに『天国でいっぱい食べてね』と語りかけました」と涙ながらに話した。

 

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結愛ちゃん、やせた体重を自ら記録 致死罪で両親を起訴(2018年6月27日配信『朝日新聞』)

 

東京地検は6月27日、父親の船戸雄大(33)と母親の優里(26)の両容疑者を保護責任者遺棄致死罪で起訴した。捜査関係者によると、雄大容疑者は結愛ちゃんに日々の体重を自ら記録するよう指示し、食事制限もしていたという。両容疑者は逮捕当時は容疑を認めていたが、雄大容疑者はその後、黙秘に転じている。

 起訴状によると、2人は1月下旬ごろから結愛ちゃんに十分な食事を与えなかったうえ、雄大容疑者は暴行を加えるなどして虐待。2月下旬ごろには結愛ちゃんが極度に衰弱して嘔吐(おうと)したにもかかわらず、2人は虐待の発覚を恐れて放置し、3月2日に低栄養状態などで起きた肺炎による敗血症で死亡させたとされる。

 捜査関係者によると、結愛ちゃんは毎朝4時ごろに起きて平仮名を書く練習をするよう雄大容疑者から命じられていた。「もうおねがい ゆるして」などと書かれたノートには、日々の体重や起床時間などが記されていた時期があったという。

 香川県から転居して一家で目黒区で暮らし始めた今年1月ごろから、雄大容疑者が結愛ちゃんに対して「ダイエットしろ」などと指示。過度な食事制限をするようになり、1日1食の日もあったという。結愛ちゃんの体重は死亡時、同年代平均の約20キロを下回る12・2キロだった。自宅からは「いきがきれるまでうんどうする」「ふろをあらう」など、20項目近い決まり事が書かれた段ボール片も見つかった。

 香川県の元勤務先で雄大容疑者の上司だった男性(44)は「小さい連れ子もいるので頑張る」と雄大容疑者が話していたのを覚えている。だが昨年10月、「娘がおとなし過ぎてあいさつも出来ないので環境を変えたい。小学校を途中で転校させたくないので急がないと」などと言い、2カ月後に退社。「職探しのため」に目黒区に転居したという。

 両容疑者の起訴を受けて、警視庁の捜査員らは27日、現場近くの寺で結愛ちゃんの冥福を祈った。

 祭壇には、結愛ちゃんの写真を囲むように、全国から届いたぬいぐるみやお菓子、「助けてあげられなくてごめんね」などと記された手紙が供えられた。事件後、現場アパート前には数百点に及ぶお供え物が置かれ、捜査員らが回収して保管していたという。捜査幹部は「全国から届いた優しい気持ちは、天国の結愛ちゃんにしっかり届いたと思う」と話した。

 

結愛ちゃん「声なきSOS」波紋(2018年6月27日配信『産経新聞』)

 

 《あなたのことをしり、まいにちあなたのことをかんがえています。どんなにかなしかったか つらかったか いたかったか》

 27日午後、事件の捜査本部が置かれた警視庁碑文谷署近くの円融寺の祭壇には、船戸結愛ちゃんに宛てて警視庁に寄せられた手紙や、現場のアパートに供えられたぬいぐるみ、花束など数百点が供養のために集められた。「捜査は今日で終結。多くの人の思いが天国の結愛ちゃんにも届いたと思う」。捜査幹部はそう語り、ピースサインをした笑顔の結愛ちゃんの遺影に静かに手を合わせた。

 幼い命を救う機会は、何度も見逃された。結愛ちゃんが以前に住んでいた香川県では2度、結愛ちゃんがアパートの外に出されているのが見つかったものの、県の児童相談所の判断は「一時保護」。東京に転居し、虐待はさらにエスカレートしたが、都内の児相は今年2月の家庭訪問の際に母親に面会拒否されて結愛ちゃんが衰弱している状況を確認できなかった。

 結愛ちゃんが最後の力を振り絞って救いを求めたのは、自分を愛してくれるはずの両親だった。《あしたはもっともっとできるようにするから》《もうおねがい ゆるして ゆるしてください》。1冊の大学ノートに覚えたてのひらがなで綴られたメッセージは、数々の悲痛な事件に対峙(たいじ)してきた捜査員の心をも揺さぶった。「彼女の最後のSOSを、伝えなくてはいけないと思った」。文章を公開した理由を、捜査幹部はそう打ち明ける。

 結愛ちゃんのメッセージはメディアやインターネットを通じて波紋を広げ、大きなうねりとなって社会を動かしつつある。都は虐待防止のプロジェクトチームを発足。政府は関係省庁の連絡会議を開いて再発防止策の協議を始め、児相の実態調査にも乗り出した。

 これまでも過去の教訓を元に再発防止を叫びながら、悲劇は繰り返されてきた。児童虐待防止法や児童福祉法の改正で、児相による強制的な家庭への立ち入りが簡素化され、一部の自治体では児相の情報を警察と全件共有している。必要なのは、子供の命を救うための措置をためらわないことだ。

 

東京都議会 児童虐待防止で条例制定へ(2018年6月19日配信『NHKニュース』)

 

東京都議会は、19日代表質問が行われました。小池知事は、東京 目黒区で5歳の女の子が両親から十分な食事を与えられずに死亡した事件を受けて、子どもを虐待から守る環境をつくるため、都独自の条例を制定する考えを示しました。

都議会は19日、各会派による代表質問が行われ、児童虐待を防ぐための都の取り組みについて、質問が相次ぎました。

この中で小池知事は「すべての子どもを虐待から守るためには、児童相談所をはじめ、警察、医療機関など地域の関係機関が連携し、力を合わせていかなければならない」と述べたうえで、都庁内に、児童虐待の防止対策などを考えるプロジェクトチームを立ち上げることを明らかにしました。

また小池知事は「関係機関が一体となって子どもと家庭を支え、すべての子どもを虐待から守る環境づくりを進めるため、都独自の条例を新たに策定する」と述べ、児童虐待の防止に向けて行政や都民、それに保護者が果たすべき役割や、情報共有の在り方などを盛り込んだ独自の条例を制定する考えを示しました。

【都立の学校では耐震化完了】また代表質問では、大阪府で震度6弱の揺れを観測した地震に関連して学校施設の安全対策について質問が出されました。

この中で、東京都教育委員会の中井教育長は「学校施設の整備や維持管理などにあたっては、児童生徒の安全確保を図ることが重要だ。区市町村の教育委員会とも連携しながら学校施設のさらなる安全対策に努めていく」と述べました。

 都の教育委員会によりますと、高校や特別支援学校など都立の学校およそ250校では校舎の耐震化がすでに終わり、現在は体育館のつり天井など建物内部の構造物が落下しないような対策を順次進めているということです。

 また都立の学校を新築や改築する場合は、ブロック塀ではなくフェンスや植栽で囲う対応を取っているということで、ブロック塀のある学校は順次、減っているということです。

 さらに国が全国の小中学校に危険なブロック塀がないか、緊急の点検を求めることを受けて、都の教育委員会は施設を管理する区市町村と連携して状況を把握していくとしています。

 

児童虐待「政治は取り組みを」 エッセイストら署名呼び掛け(2018年6月17日配信『東京新聞』)

  

 東京都目黒区で5歳の女児が死亡し、保護責任者遺棄致死の疑いで父親らが逮捕された事件を受け、イラストエッセイストの犬山紙子さんやミュージシャンの坂本美雨さん、タレントの真鍋かをりさんらが、虐待を食い止める力になろうと会を結成、活動を始めた。

 会の名前は「こどものいのちはこどものもの」。会名のハッシュタグ(検索目印)とともに思いを表明し、虐待防止策を求めるインターネット署名を呼びかけ、国や自治体などに取り組みの強化を求めていく。

 「#児童虐待問題に取り組まない議員を私は支持しません」。犬山さんは事件が報じられた後、いてもたってもいられず、会員制交流サイト(SNS)で検索しやすいようにハッシュタグを作り、賛同を呼びかけた。その後作った「#ひとごとじゃない」と併せ反響は大きく、「自分に何ができるのかを考えている多くの人の声を可視化することが大切と感じた」という。

 「児童虐待はなかなか政治のテーマにならなかった。今こそ根本的な解決のため、対策に予算を付けるよう国に求めたい」。犬山さんの呼び掛けに、坂本さんや真鍋さん、タレントの福田萌さん、ファッションデザイナーのファンタジスタさくらださんも賛同し、5人で会を立ち上げた。

 5人は14日から署名サイト「change.org」で始まった署名の共同発起人にも名を連ね、児童相談所の機能強化など総合的な対策への賛同を呼びかける。

 

結愛ちゃんの「叫び」に反響 いたたまれず(2018年6月9日配信『毎日新聞』)

 

 東京都目黒区のアパートで両親に虐待された末に死亡した船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)は、ひらがなの書き取り帳に「反省文」を残していた。衰弱した小さな体で、何を思い書いたのだろう。その文章が多くの人の心を揺さぶっている。【春増翔太、金森崇之、山本佳孝、土江洋範】

 そっと置かれた熊のぬいぐるみの横で、ひまわりの花束が風に揺れる。8日、現場アパートの前には多くの人が訪れ、代わる代わるに手を合わせていた。

 その一人、千葉県鎌ケ谷市の会社員、皆川秀典さん(49)はオレンジジュースを供えた。「私にも10歳の長女がいるが、早朝に起きて反省文を書いた結愛ちゃんを思うといたたまれない。私たち大人はいったい何ができたのだろうと思う」。そうつぶやいた。

 事件は3月2日、結愛ちゃんが搬送先の病院で死亡して発覚した。今月6日に保護責任者遺棄致死容疑で父親の雄大(33)、母親の優里(25)の両容疑者を逮捕した警視庁捜査1課の幹部は捜査経過を説明した際、声を詰まらせながら「反省文」を読み上げた。

 大学ノートには悲痛な叫びが並んでいた。4歳の息子と1歳の娘を育てる西東京市の主婦(34)は「遊ぶのが子どもの仕事なのに、『あそばない』という記述はショックだった。子どもらしく生きられればよかったのに」と声を落とす。

 容疑者を糾弾するだけでは消えない、「心のとげ」を感じた人もいた。2人の子どもがいるという東京都品川区の主婦(42)は「子育てをしていると、孤立して心の余裕がなくなる。言うことを聞かない子どもに手をあげてしまうことがある」と明かした。

 ツイッターは事件の書き込みであふれている。5児の父でもあるタレントのつるの剛士さんは「覚えたてのひらがなでなぜこんな悲痛な想いを綴(つづ)らなきゃならないのか。一番の安全地帯であるはずの親に」とツイート。「守ってあげることができなかった我々の方が本当にごめんなさい。そんな想(おも)いに駆られて胸が潰れそう」と吐露した。

 1歳5カ月の娘を育てるエッセイストの犬山紙子さんは、ツイッターで「#児童虐待問題に取り組まない議員を私は支持しません」というハッシュタグ(検索の目印)を作った。このハッシュタグを使ったツイートは既に5万件以上が拡散された。犬山さんは「政治家に取り上げてほしい。大人にしか子どもは守れない。多くの人に行動してほしい」と話す。

 こうした声に押されるように、東京都の小池百合子知事は8日の記者会見で児童相談所の体制強化を表明。加藤勝信厚生労働相も児相の対応について、省内の専門委員会で検証する方針を示した。

 「じぶんからきょうよりか もっともっとあしたはできるようにするから もうおねがいゆるしてゆるしてください」

 結愛ちゃんの言葉が、私たちを揺さぶっている。

 

目黒5歳児虐待死 電灯ない部屋一人放置(2018年6月9日配信『東京新聞』)

 

 東京都目黒区で船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5つ)が3月に死亡した事件で、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された両親が、結愛ちゃんだけ室内灯のない別の部屋で寝かせ、放置していたことが捜査関係者への取材で分かった。父親の実子でない結愛ちゃんと、両親の間に生まれた長男(1つ)と養育状況に差があり、警視庁捜査1課は血縁関係の違いが虐待に結び付いた可能性があるとみて調べている。

 一家は1月に香川県から目黒区へ転居。同県西部子ども相談センターによると、父親の雄大容疑者(33)と母親の優里(ゆり)容疑者(25)は2016年4月に結婚し、同9月に長男が誕生。その後の同12月と17年3月、結愛ちゃんが家の外に放置されているのが見つかり、一時保護されている。

 捜査関係者によると、目黒区に転居して以降、両親と長男が一緒の部屋なのに、結愛ちゃんだけ室内灯のない部屋で寝起きさせられた。この部屋は真冬でも暖房をつけず、結愛ちゃんはベランダに放置されることもあり、足には重度のしもやけの痕が残っていた。

 一課は、両親が長男を連れて東京・浅草の料理店を訪れる姿などを街頭カメラで確認。結愛ちゃんが外出したのは、引っ越しのあいさつの時だけだったとみられる。結愛ちゃんの体重は転居前の1月4日は16・6キロだったが、その後の2カ月で4・4キロも減っていた。一課は、転居後に身体的虐待だけではなく、食事を与えないなどのネグレクト(育児放棄)がエスカレートしたとみて調べている。

 両親とも容疑を認めているが、優里容疑者は「自分は暴行していない」と供述。雄大容疑者が殴るなどの暴行を加え、優里容疑者は夫との関係が悪くならないよう虐待を容認していたと、一課はみている。

 NPO法人児童虐待防止協会の津崎哲郎理事長は「継父は子どもに罰を与えることでコントロールしようとしがち。行政はもっと支援態勢を整えるべきだ」と指摘している。

 

「勉強せずに寝ていたので暴行した」父親が供(2018年6月9日配信『読売新聞』)

 

 東京都目黒区で虐待を受けた船戸結愛ゆあちゃん(当時5歳)が死亡した事件で、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された父親の船戸雄大被告(33)が、結愛ちゃんの死亡直後の警視庁の調べに対し、「勉強をするように言ったのに、寝ていたので暴行した」と供述していたことが捜査関係者への取材でわかった。

 同庁が、虐待の実態を調べている。

 捜査関係者によると、船戸被告は結愛ちゃんが死亡した翌日の3月3日、結愛ちゃんの顔を殴るなどした傷害容疑で逮捕され、その後、起訴された。当時の調べに対し、「小学校の入学に向けた勉強をするように言ったら『はい』と答えた。それなのに、昼頃に部屋を確認したら寝ていたので頭にきた」などと供述していた。

 

「もうおねがいゆるして」=亡くなった結愛ちゃんが残したメモ、中国ネットも反応示す(2018年6月8日配信『Record China』)

 

親から虐待を受け、その後亡くなった船戸結愛ちゃん(5)がノートに「もうおねがいゆるして」と書き記していたとのニュースに、中国のネットユーザーが怒りや悲しみのコメントを寄せている。

 環球時報は7日、日本の報道を引用する形でこのニュースを報じた。敗血症で3月に亡くなった結愛ちゃんの体重は同年齢の子どもの平均より約7キロ少ない12キロで、体にはあざがあった。警視庁は、結愛ちゃんの両親が十分な食べ物を与えず、暴行などを受けた結愛ちゃんが衰弱した後も病院に連れて行かなかったと見ている。両親は保護責任者遺棄致死の疑いで6日逮捕された。

記事は、結愛ちゃんが書いた文章の「もうおねがいゆるして。ほんとうにもうおなじことはしません。ゆるして。きのうぜんぜんできてなかったこと、これまでまいにちやってきたことをなおす。これまでどんだけあほみたいにあそんだか。もうぜったいぜったいやらないからね。ぜったいやくそくします」という部分を掲載し、「幼い文字で書かれたこの文章は全ての人の心を刺した」と事件の悲惨さを指摘した。

記事に対して中国のネットユーザーからは「自分の子を虐待するなんて理解不能」「結愛ちゃんは全然悪くない。だから謝る必要なんてないんだよ」「子どもの虐待なんてなくなりますように。愛されることで他人を愛することを学んでほしい」「次はきっと優しいお父さん、お母さんに巡り合えるよ」「体罰やネグレクトが正しいと思っている親には現代人としての知識を持ってほしい。こうした親の行為は子どもの体以上に、その心を傷付けている」などの声が続々と寄せられている。

                                                                                                  

電灯・暖房なしで勉強 ネグレクト状態か(2018年6月8日配信『毎日新聞』)

 

死亡5歳長女 3月搬送時におむつ、トイレ無理なほど衰弱か

 東京都目黒区で今年3月、船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)が虐待され死亡した事件で、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された無職で父親の雄大容疑者(33)と母親の優里容疑者(25)が結愛ちゃんに対し、電灯のない部屋で暖房もつけずに書き取りなどの勉強をさせていたことが捜査関係者への取材で明らかになった。警視庁捜査1課は育児放棄(ネグレクト)状態だったとみている。

 同課によると、アパートには2部屋あった。両容疑者と2人の実子の長男(1)の3人は同じ部屋で、結愛ちゃんは1人で別の部屋で寝かされていた。

 結愛ちゃんは早朝に1人で起きてひらがなの書き取りをするよう命じられていたが、部屋に電灯がないため、冬場でも寒く暗い中で勉強していたとみられる。結愛ちゃんはノートに「きょうよりかあしたはできるようにするから ゆるしてください」などと書き残していた。

 雄大、優里の両容疑者は東京に転居して同居するようになった今年1月以降、結愛ちゃんをアパートに残したまま長男を病院に連れて行ったり、3人で東京・浅草の日本料理屋で外食したりしていた。一方で結愛ちゃんは1日1食しか与えられないこともあった。3月に搬送された時にはおむつをはいていた。自分でトイレに行けないほど衰弱していたとみられる。

 雄大容疑者から日常的に暴行を受けていたとみられ、死亡時は両目付近に打撲の痕や体に複数のあざがあったほか、足の裏にはしもやけができていたという。

 

小池都知事「反省材料ある」 5歳死亡受け児相強化へ(2018年6月8日配信『朝日新聞』)

 

 東京都目黒区の船戸結愛ちゃん(5)が死亡した事件を受け、小池百合子都知事は8日、児童相談所の体制について、児童福祉司や児童心理司などの職員を増やすほか、夜間休日の相談体制を強化する方針を明らかにした。児相職員が家庭訪問しながら結愛ちゃんの姿を確認できず、その後に死亡した今回の経緯について「反省材料はある」と話し、児相と警察の情報共有を拡大する考えも示した。

 都内では今年度、11カ所の児相に児童福祉司が273人配置されているが、児童福祉法の配置基準(297人)に達しておらず、増員が課題となっている。小池氏はこの日の定例会見で「(自宅で見つかった)ノートにつづられた一文が世の中を大きく動かしている」と話し、担当者に対応を急ぐよう指示したと説明した。

 事件が起きたのが香川県から一家が引っ越してまもなくだったことから、広域の情報共有の進め方についても「国に対応してほしい」と語った。

 

結愛ちゃん、臓器が5分の1に萎縮 継続的虐待で衰弱か(2018年6月8日配信『朝日新聞』)

 

 東京都目黒区の船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5)が死亡した事件で、結愛ちゃんは免疫に関わる臓器が萎縮し、重さが同年代の約5分の1だったことが、捜査関係者への取材でわかった。虐待を受け続けた子どもにみられる傾向で、警視庁は、日常的に暴行を受けていた結愛ちゃんが自力で動けないほど衰弱していたとみている。

 捜査関係者らによると、3月2日夕、自宅の布団の上で仰向けで倒れていた結愛ちゃんは、父親の船戸雄大容疑者(33)の119番通報で救急搬送された。その際、あばら骨が浮き出るほどやせており、おむつを着けていたという。

 結愛ちゃんは同日死亡し、雄大容疑者は2月末ごろに風呂場で結愛ちゃんの顔を殴ったなどとする傷害罪で起訴された。結愛ちゃんはこの暴行後はほぼ寝たきり状態で、嘔吐(おうと)を繰り返していたという。雄大容疑者は当時の調べに「勉強するように言ったら『はい』と言ったのに、部屋を見たら寝ていたので暴行した」などと話していたという。

 結愛ちゃんの遺体を司法解剖した結果、免疫に関わる「胸腺」の重さは同年代平均の5分の1程度だった。杏林大医学部の佐藤喜宣名誉教授(法医学)によると、長期間、継続的に虐待を受けた子どもにみられる傾向だという。

 警視庁は8日、雄大容疑者と母親の優里容疑者(25)を保護責任者遺棄致死容疑で送検した。

 

女児虐待、死亡数日前からおむつ…極度に衰弱か(2018年6月8日配信『読売新聞』)

 

 東京都目黒区で今年3月、虐待を受けた船戸結愛ゆあちゃん(当時5歳)が死亡した事件で、結愛ちゃんが死亡する数日前から、おむつを着けさせられていたことが捜査関係者への取材でわかった。

 警視庁に保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された父親の船戸雄大被告(33)(傷害罪で起訴)から暴力を受け、自力でトイレに行けないほど衰弱していたという。

 

死亡の5歳女児、冬場に放置「暖房切った」(2018年6月8日配信『日テレニュース』)

 

東京・目黒区で、5歳の女の子に十分な食事を与えずに放置して死亡させたなどとして、両親が逮捕された事件で、女の子は冬場のアパートに放置されていて、 母親は「外出する時には暖房を切っていた」などと話していたことがわかった。

船戸雄大容疑者と妻の優里容疑者は、衰弱していた5歳の長女・結愛ちゃんを放置し、死亡させた疑いが持たれている。

結愛ちゃんは、今年1月に都内に引っ越し、3月に死亡するまでの間、1度しか自宅アパートの外に出ておらず、船戸容疑者らは、結愛ちゃんを1人で残して度々、外出していたとみられている。

捜査関係者への取材で、優里容疑者が、「外出する時には暖房を切っていた」などと話していたことが新たにわかった。警視庁は、冬場のアパートの部屋に暖房を切って結愛ちゃんを放置していたとみて、虐待の実態を調べている。

 

警察への虐待情報提供に基準なし 児童相談所設置の32自治体(2018年6月8日配信『共同通信』)

 

 児童虐待が疑われる事案への対応を巡り、児童相談所(児相)を設置する全国の69自治体のうち32自治体は、どの事案を警察に情報提供するかの具体的な基準を設けていないことが7日、共同通信の調査で分かった。

 児相が虐待の恐れを把握していながら警察が知らないまま児童が死亡するケースは後を絶たない。基準がある東京都でさえ、警視庁への情報提供に至らないうちに目黒区の船戸結愛ちゃん(5)が死亡しており、専門家は「現状のままでは深刻な事案が見逃される恐れがある」と指摘している。

 調査対象は児相を設けている47都道府県と20政令指定都市、神奈川県横須賀市と金沢市。

 

カンニング竹山「絶対ダメだろ!」虐待への悲痛綴り賛同殺到(2018年6月7日配信『女性自身』)

 

カンニング竹山(47)が6月7日、自身のTwitterを更新。東京都目黒区で5歳女児が虐待されたすえ死亡した事件について、悲痛な思いを明かした。

しつけと称して暴力を振るわれ、十分な食事を与えられなかった女児。2月下旬に嘔吐したものの両親に放置され3月、敗血症で死亡した。

女児は生前、毎朝4時に起床することを強制され“ひらがな”の練習をさせられていたという。さらに覚えたての拙いひらがなで両親への“反省文”をノートに書いており、そこには「きょうよりもっともっとあしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします」「ほんとうにもうおなじことはしません ゆるして」と切実な言葉が残されていた。

竹山は「虐待のニュース。こんな悲しい事があっていいのかよ!」と切り出すと、こう綴った。

「ダメだろ!絶対ダメだろ!あってはならん事だが親はもう無理なら言ってくれ!わけのわからん虐待するくらいなら俺が引き取って育てるから。。。と思ってしまう」

さらに「せつない、悲しい、親ブン殴りに行きたい」とし、やり場のない怒りを表した。ネットでは竹山の思いに、賛同する声が上がっている。

《竹山さんと同じ想いの方は、たくさんいますよ。あってはならない事件が多すぎます》

《お気持ち、わかります。一人の子供が悲しみの中で亡くなっていかなければならなかったなんて悲しくて悔しいです。せっかくひらがなを覚えたのに書いていたのが親に指示されたあんな『反省文』だなんて》

《無理な事だけど竹山さんの引き取って育てるって思う気持ち同感します》

“反省文”は波紋を呼んでいる。フジテレビの島田彩夏アナ(44)は6日に出演した「プライムニュース イブニング」で“反省文”について「本当にあまりに悲しく、あまりに辛いものでした」とし、「でも、目をそらしてはいけないと思い、ここで全文を読み上げます」と説明した。

 一文ずつゆっくり丁寧に紹介したが、読み終えた直後「5歳の子が、どんな思いでこれを書いて……」と涙ながらに絶句。さらに「どんな思いで死んでいったかと思うと、本当に胸が詰まる思いです」とし、肩を震わせた。

 

女児SOSに衝撃 目黒虐待死つづったノート(2018年6月7日配信『東京新聞』)

  

 「胸が締め付けられる」「救えなかったのか」。東京都目黒区で、両親の虐待を受けて亡くなった船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5つ)がつづったノートの存在が6日、明らかになった。両親に宛てた「ゆるしてください」という鉛筆書きの文字。結愛ちゃん一家の知人、教育関係者らは声を詰まらせた。

 6日、警視庁捜査一課が結愛ちゃんの両親逮捕を発表し、自宅アパートで発見したノートの文章の一部を小林敦課長が読み上げた。「5歳の子には到底耐えられない苦痛だっただろう」。声を震わせ、ハンカチで目元を押さえた。

 結愛ちゃんは、父親雄大容疑者(33)の実子ではなかった。一家が香川県善通寺市に住んでいた2016〜17年、児童相談所「香川県西部子ども相談センター」(丸亀市)が虐待の疑いを把握し、結愛ちゃんを2度、一時保護した。県警も雄大容疑者を2度、傷害容疑で書類送検(いずれも不起訴)していた。

 結愛ちゃんの文章を報道で知った県西部子ども相談センターの久利(くり)文代所長は、取材に「何でも自分一人でしなさいと厳しくしつけられ、遊ぶのもダメと言われていたのかな…。救えずに申し訳なかった」と後悔を口にした。

 善通寺市の森正司教育長も「ここまで追い込まれていたのかと涙が出た。こんな思いをさせて…。胸が締め付けられる」。

 同市の幼稚園で、結愛ちゃんと子どもが同級生だった30代の女性は「助けてあげられなかったのか。同じ年の子を持つ親として、とてもつらい。結愛ちゃんも4月から小学校に通っていたはずなのに…」とショックを隠せない様子。

 一家は今年1月に目黒区に転居した。書類を引き継いだ品川児相が家庭訪問したが、結愛ちゃんには会えなかった。雄大容疑者は3月2日午後6時ごろ、「娘が数日前から食事を取らず吐いて、心臓が止まっているようだ」と119番。夜に死亡が確認された。

 品川児相の林直樹所長は「こういう気持ちを、生きているうちにしっかり受け止めなければいけなかった」と言葉を絞り出した。「重く受け止めている。同じことがないようにしっかり検証したい」

 教育評論家の尾木直樹さんは「読み進めるのがとてもつらい文章」と評した。「本来なら自分の興味から言葉を楽しんで習得する時期だが、ネグレクト(育児放棄)される中で、怖くて一生懸命覚えたのでしょう。勉強という名目の虐待。どれだけ苦しかったか」と推し量った。

 NPO法人「児童虐待防止協会」の津崎哲郎理事長は「児相に危機意識が足りず、後手に回っている。命がかかっているという使命感を持って対処しないといけない」と指摘した。

 不妊治療を経て3人の子どもを授かり、6日にベストファーザー賞を受賞したロックシンガーのダイアモンド☆ユカイさんは「自分のことより親に気を使っていて、子どもらしさがない文章。涙しながら読みました」と声を落とした。「しつけがエスカレートしたり、ついカッとなったりもするが、『しかる』と『怒る』は違う。子どもはモノじゃない」と語った。

 

「パパ、ママいらん」でも「帰りたい」 亡くなった5歳児が、児相で語っていたこと(2018年6月7日配信『ハイホンポスト』)

 

東京都目黒区で3月、船戸結愛ちゃん(5)が死亡した。虐待をしていた疑いで、父・雄大容疑者(33)と母・優里容疑者(25)が警視庁に逮捕された。

結愛ちゃんは、2018年1月に東京に来るまで、一家で香川県善通寺市に住んでいた。

県や児童相談所は、どのように対応してきたのか。

県の記録からは、一家のいびつな関係が浮かび上がってきた。

「子どもの泣き声がひどい」

県西部子ども相談センター(児童相談所)が、初めて虐待の疑いを認知したのは、2016年の夏だった。

この年、優里容疑者は雄大容疑者と再婚。

雄大容疑者は4月に隣の三豊市の会社で働き始めたという。

8月25日、近所の人が「子どもの泣き声がひどい」と児相に通報した。

優里容疑者は、19歳で結愛ちゃんを妊娠したとき「若年妊婦」として善通寺市の保健師がケアしていた。児相は市の保健師に問い合わせたが、出産当時の記録では、虐待をする兆候や育児に困っているような相談歴もなかった。

児相は、結愛ちゃんが通う幼稚園に問い合わせたが、園の回答は「特に問題はない」。家を訪ねたが不在だった。

これらの情報から、児相は保護ではなく「簡易相談事案」として様子を見ることにした。

クリスマス、結愛ちゃんを一時保護

翌9月には、弟が生まれた。

9月5日の記録には「第2子出産のため、検診などで結愛ちゃんのフォローを」などと記された。

その後は通報なども無かったが、12月25日のクリスマスの日に、結愛ちゃんが一人で外に出されているところを、近所の人が目撃。通報から香川県警が結愛ちゃんを保護し、児相が対応することになった。

この時、病院では「下唇が切れ、まぶたの上にはたんこぶがあった」と診断された。担当した医師は「日常的な虐待の傾向がある」と診断書に記した。

結愛ちゃんは軽度の傷ではあったが、虐待ケースとして児相に一時保護された。

一時保護施設では、担当の職員にとてもなついており、楽しそうに過ごしていたという。

担当職結愛ちゃん「うまく言えない」と父に手紙

年が明けた2017年の1月29日、親子面談があった。お父さんへ言いたいことはないか、と問われた結愛ちゃんは「気持ちを口でうまく言えない」と言った。

雄大容疑者は結愛ちゃんに手を挙げたことを認め、「悪かった」「もうしない。できるだけ優しくするから、いい子にしててくれ」などと謝った。

結愛ちゃんは、久しぶりに会った両親を「バイバイ」と、元気に見送った。言えない気持ちは「手紙にする」と話し、覚えたての文字ですらすらと手紙を書いていたという。

この親子面談の様子、そして幼稚園での見守りで毎日様子を確認できるという判断で、2月1日、一時保護が解除された。結愛ちゃんは自宅に戻った。

雄大容疑者は、香川県警に傷害容疑で書類送検されたが、のちに不起訴になった。

初めての一時保護だったので、指導措置は付かなかった。この措置が付くと、保護者は児童福祉司の指導を受けることになり、従わない場合は子どもが一時保護されたり、強制入所させられたりする。

「措置がないからと言って、何も無いわけではありません。常に様子を見て、とにかく本人確認ができる体制を整えるため、家庭訪問をつづけ、民間との連携を進めていた」と県の職員は話す。「この頃は、行政の呼び出しや指導にも、拒否することなく応じていた」という。

2月23日、幼稚園からの聞き取りでは「元気で変わりないが、食べすぎる傾向があった」と報告されている。

父親は、普段は仕事で忙しく、帰宅は深夜に及ぶことが多かった。そのため、子どもたちと話す時間はほとんどなかった。

その後、3月14日の家庭訪問では「徐々に父子関係に改善が見えてきていた」という。

パトロール中の警官が見つけ、2回目の保護

児相から一家を注視するよう伝えられていた地元の丸亀署では、警官が頻繁に見回りにまわっていたという。

3月19日、一人で外にいた結愛ちゃんを警官が目撃した。

母は「一緒に遊んでいて、私だけちょっと家に戻っていただけだった」と話した。

しかし、結愛ちゃんはけがをしている様子で、署で身柄を保護し、病院での診察をすることになった。

舌が切れて唇に赤い傷があり、両膝には擦り傷、お腹には5cm程度のアザがみられた。

傷について問われた結愛ちゃんは、病院の医師に「お父さんに叩かれた」と訴えた。

だが、両親は「転んだだけ」「叩いたわけでない」と否定した。

この件を受けて、2回目の一時保護が決定した。

このころ、結愛ちゃんは「パパ、ママいらん」「前のパパが良かった」と言うようになっていた。

だが、5月14日の親子面談では、一時保護所の心理士に「おもちゃもあるし、お家に帰りたい」と話すこともあった。

児相は、育児支援対策室やこどもメンタルヘルス科のある善通寺市の四国こどもとおとなの医療センターに協力をあおぎ、結愛ちゃんが病院のセラピーを受けることや、祖父母の家に定期的に預けること、叩かないことなど五つの約束を両親ととりつけた。

雄大容疑者は5月にも傷害容疑で書類送検されていたが、再び不起訴になっていた。

そして児相は、7月31日に、指導措置付きで保護を解除した。

5歳児に対し過大な期待「モデル体型を維持」

父親は、児相の聞き取りに対し「きちんとしつけないといけないから」と繰り返し説明していた。

県の職員は「5歳児に対して、父親が過大な期待をしていた。とにかく養育や作法について、強いこだわりが見えた」という。

細かなこだわりは、結愛ちゃんの言動からも推し量られた。結愛ちゃんは職員に対し「勉強しないと怒られるから」と伝えていた。

人に会うときは、しっかりおじぎをして、あいさつをしないといけない。

ひらがなの練習をしないといけない。

はみがきは自分でやり、怠ってはいけない。

太りすぎてはいけない。

また、雄大容疑者は体重に対しても異常に気にするそぶりがあり、優里容疑者に「子どもはモデル体型でないと許さない。おやつのお菓子は、市販のものはダメだ。手作りしろ。野菜中心の食事を作れ」と言っていたという。

また、一時保護を解除したときにした「祖父母の家に定期的に預ける」という約束も、「祖父母は子どもを甘やかす。歯磨きすら一人でできなくなる。だからもう行かせたくない」などと言い、だんだんと預けることがなくなったという。

虐待の兆候が見分けにくかった

結愛ちゃんは、家に戻されてからも、週に1〜2回程度、善通寺市の子ども課(児童センター)か四国こどもとおとなの医療センターに通うようになった。

一時保護が解除されて一週間ほど経った8月8日、児童センターに結愛ちゃんと優里容疑者が来なかったことを不審に思った職員は、児相に連絡を入れた。

だが、特に虐待の兆候が見られたわけではなく、8月中も結愛ちゃんは4回児童センターへ来た。

その後「児童センターは遠くて通いにくい」という優里容疑者の申し出から、家に近い医療センターへ通うことになった。

8月30日、医療センターに訪れた結愛ちゃんを、医師が診察したところ、けがをしていることが分かった。

医療センターは児相へ報告。「こめかみにアザがあり、太ももにもアザがある」と伝えた。

優里容疑者は、けがを特に隠す様子はなく「気が付かなかった。私は見ていないので、分からない」と返答。

しかし、結愛ちゃんは「お父さんが叩いたの。お母さんもいたんだ」と訴えた。

これに対し、優里容疑者は「最近、結愛はよく嘘をつく。家ではしつけも厳しいし、一時保護所の居心地が良かったので、そこに行きたいがためにそういうことを言っている」と説明をした。

アザは数cmであったことと説明などから、児相は虐待と判断するかどうか見極めが厳しかったという。

なにより、一時保護をしたくても、2カ月以内の短期的な親子分離はできるが、長期的な分離を考えたとき「家庭裁判所の許可が下りないレベル」(記事末尾の【補足追記】を参照)と判断。

親との関係性を築き始めたなかで、無理やり一時的に親子を引き離す「介入的関わり方」をした場合、対立的関係になり、かえって親の児相に対する反発を強めて、児相が関われなくなる恐れがある。

寄り添って親のケアを含めて関係を切らないことが安全だとし、引き続き、医療センターなどを通じて見守りをしていくことに決めた。

引き続き、医療センターなどを通じて見守りをしていくことに決めた。

この騒動後、児相は9月8日に家庭訪問をしている。

このとき、優里容疑者は結愛ちゃんの最近の様子について職員に「父親が怖い、という気持ちはあると思う。だけど、父親は遅くに帰ってくるので、接する時間が少ない。なので、ぎこちないけれど話をすることもある」「土日には祖父母のところに行っている」と言った。

父親の雄大容疑者についても「できないと、すぐ怒って手を上げてしまっていた以前とは、違うように接している」と説明した。この日、結愛ちゃんにアザは見られなかった。

ただ、9月13日に様子を確認した際に、太ももにまたアザが見られた。しかし、この日結愛ちゃんは、父親に殴られたとは言わなかった。8月末と同じように、一時保護ができるレベルではなかったという。

幼稚園を辞め、日々の確認も難しくなったので、警察署や病院、市の子ども課と連携をし、定期的に結愛ちゃんの様子を直接確認できるように体制を強化した。

これ以降、結愛ちゃんにアザなどのけがは確認されなかった。

週2回ほどのアートセラピーが好きだった

このころ、結愛ちゃんは医療センターで行われていたアートセラピーが好きで、週に2回ほどの頻度で通っていたという。

このセラピーは、言葉でうまく気持ちを表現できない子どもや、自己主張が苦手な大人でも利用される手法のひとつだ。

アート(芸術)とサイコセラピー(精神療法)の二つの要素を併せ持ち、絵を描いたり話したりしながら、自分の思いを表現していく。

結愛ちゃんの生活にも、改善の兆しが見えていた。

10月23日の家庭訪問では、ニコニコと笑顔を見せて会話をし、月末に訪問した時は、「どうぞ」と元気よく玄関を開け、職員を迎え入れてくれたという。

アートセラピーについては「いろいろ話を聞いてもらえる」ととても気に入った様子だったという。

だが、優里容疑者は「もうすぐ仕事の都合で、東京へ引っ越すことになっている」と話すようになっていた。

優里容疑者は「引っ越しても、同じような病院を紹介してもらう」と職員へ伝えていた。しかし、「もうすぐ小学生にあがるので、期間が短いし、幼稚園や保育園には預けるつもりはない」とも言っていた。

転居によりケアが途切れることを恐れた児相職員は「社会的なつながりが途絶えてしまう」と懸念し、園に入るよう強く勧めた。

雄大容疑者が先に東京へ、体重も増えてきた

11月末の家庭訪問では、少し陰った表情をしていたという結愛ちゃん。しかし12月に入り、雄大容疑者は先に東京へ引っ越した。

週1回ほどのペースで体重を量っており、だんだんと体重は増え、2018年1月上旬には16kgを超えていた。

結愛ちゃんにけがもなく、健康的な生活ができていたため、検診をした1月4日、児相は所内協議をして指導措置を解除した。「父親がいなくなったからもう大丈夫、などという安易な判断ではなかった。親子としての改善ができてきたように見えていた」という。

児相は解除の理由について「指導ではなく、ケアや支援が必要なケースだった」と話す。

緊急性が高いケースとして移管

結愛ちゃんたちは後追いで「1月8日に引っ越す」と優里容疑者は伝えていたが、転居先についてはかたくなに言わなかった。

1月中旬に結愛ちゃんと弟を連れ、優里容疑者は東京へ行った。それを受け、児相は1月18日に市を経由して転居先を調べた。

1月23日に転居先が分かり、すぐに管轄である品川児童相談所へ連絡をした。

1月29日には「緊急性の高い案件」としてケース移管することになった。担当者は「すぐにでも本人に会って確認をしてほしい。指導措置は4日に解除になっているが、指導を積極的に続けてほしい」と伝え、数百ページあった2016年8月からの全記録を送付した。

弟の健診もあるため、引継ぎの際には「健診の時に結愛ちゃんの確認をして」とも頼んでいた。

品川児相は「転居で環境も変化している。どこまでできるか分からないが、対応は考える」と答えた。品川児相では緊急受理会議が開かれ、ケース移管の受理が決定した。

しかし、その後2回ほど「ケース移管でしたか?情報提供でしたか?」と問い合わせがあるなど、すれ違いが見られた。

県はそのたびに、「ケース移管であり、緊急性が高い。終結したケースではない。早く会って本人確認を」と伝え、2月5、6日には母親に電話を入れた。

しかし、優里容疑者が電話に出ないため、7日に雄大容疑者へ電話をした。

雄大容疑者は児相を拒否

品川児相に引き続きケアをお願いしている旨を伝えると、雄大容疑者は「それはなんなんだ。強制なのか?任意なのか?」と憤りを見せた。「あいさつもしており、地域の行事にも参加している。近所とのかかわりもあるのに、児相の職員が訪ねてくるなんて、周りから変な目で見られるので嫌だ」と受け入れる余地がなかった。

県は「引っ越したばかりで落ち着かないだろうから、香川県の児相もまだ関りを持たせてもらいます」と伝え、品川児相についての紹介をした。

しかし、2月9日に品川児相が家庭訪問をした際、結愛ちゃんには会えなかった。訪問の連絡をしていなかったこともあり、対応した優里容疑者は「弟はいるが、結愛は出かけていていない」と答えた。

連休が明けた2月13日、県が品川児相へ確認の連絡を入れると「信頼を築くにはまだ時間がかかる。警戒されてしまった部分がある」と伝えられた。

県の職員は焦りを募らせていた。この職員は取材に「指導措置があるから対応する、措置がないから安全というわけではないのは、分かっていると思っていた。香川にいたときは少なくとも週に1〜2回は本人に会えていたので、かなり心配な状態だった」と話した。

一方で、医療センターも「母親と連絡が取れない」と心配し、品川児相にいままでのアートセラピーの情報やあちらの医療機関について伝えるため、資料提供を申し出ていた。

 

 

児童虐待死を受けての会長声明

 

東京都目黒区で5歳の女児が虐待により死亡したとされる事件の報道に接し、これまで児童虐待問題に取り組んできた当連合会としても、この痛ましい事態を深刻に受け止めている。本件の事実関係については、今後適切に検証される必要があり、本件を踏まえた対応等は慎重に論ずべきところ、個別事件の検証を待たずしてできる法律の運用改善や体制整備などの対策は、これまでに厚生労働省や各自治体が行っている虐待死亡事例の検証結果等も参考にしつつ、早急に検討を始めるべきである。

例えば、虐待事案への対応に当たっては、児童相談所と関係機関との間において、適時適切な情報共有と連携が必要不可欠であり、関係機関との情報共有には要保護児童対策地域協議会等を活用することが求められているが、法の趣旨に則った運用ができていない事例も少なくない。さらに、市区町村と児童相談所間との連携、児童相談所相互間の連携も不十分である。特に、児童が自治体をまたいで転居した場合の児童相談所間の連携は喫緊の課題である。そこで、政府は全国的に情報共有や連携の運用実態を調査し、改善のための方策を打ち出すべきである。 

そして、適切な運用を困難とする根本的な原因は、児童相談所も市区町村の児童福祉担当部署も、児童虐待通告の増加に呼応して人的・物的対応体制の整備が進められてはいるものの、予算措置も含め、いまだ十分ではないことにある。さらに、児童福祉の専門家に加え、心理・医療の専門家や弁護士など、専門性の高い人材の拡充も必要であろう。

当連合会は、会内周知を徹底するとともに研修等を整備するなど、児童福祉法の定める児童相談所への弁護士配置の拡大に向けた取組を行ってきたところであるが、今後も、人材育成を含め一層の努力を尽くす所存であり、政府・自治体に対し、児童相談所への弁護士配置をより一層拡大することを望むものである。

なお、本件を受けて、児童相談所が警察に対して「虐待事案全件」の情報提供をすることを求める声が上がっている。事案によっては、児童相談所と警察が情報共有して対応することが必要な場面もあるが、児童相談所が育児に悩む親から任意の相談を受ける機能も担っていることに鑑みれば、全てのケースにつき児童相談所と警察が情報を共有することとなれば、かえって警察の介入により逮捕等に至る事態となることを懸念する親からの相談がされにくくなり、その結果、虐待の発生防止・早期発見の妨げとなる可能性がある。したがって、安易に警察を頼るべきではなく、真に子どもの権利保護の観点から慎重な対応が必要である。 

当連合会は、各地における児童虐待対応のための協議会などを通じて、児童相談所と関係機関との連携の在り方等について更に議論を深めるとともに、体罰禁止を法律上明文化することなどを含め、児童虐待の発生防止・早期発見の更なる実質化のための活動に取り組んでいくことを、ここに表明するものである。

2018年(平成30年)6月28日

日本弁護士連合会

会長 菊地 裕太郎

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