連合、「残業代ゼロ」容認 突然の方針転換

 

組織の内外から「変節」に異論噴出

 

残業代ゼロ法案 記事 論説

 

 

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2017年7月14日配信『朝日新聞』/2017年7月14日配信『東京新聞』

 

連合の神津里季生会長(左)と逢見直人事務局長

 

連合本部前で抗議する人たち=19日午後8時11分、東京都千代田区

 

 

 

 2017年7月13日午後、「長時間労働を助長する」「残業代ゼロ法案」と強く反対してきた、収入が高い一部の専門職を労働時間規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の創設を柱とする労働基準法改正案について、連合の幹部が年間104日以上の休日確保を義務化する等、労働者の健康を守る措置を強化すること(法案の修正)を条件に、導入の容認に転じた。

 

しかし、修正後も時間でなく成果で賃金を払う改正案の骨格は維持され、成果を出すまで過重労働を強いられるとの懸念は変わらない。

 

当然のことなら、傘下の労働組合の意見を聞かず、支援する民進党への根回しも十分にしないまま、執行部の一部の唐突な「方針転換」に過労死遺族をはじめ、組織の内外から「変節」に異論が噴出。労働者の代表としての根幹的な存在意義が問われる事態になった。

 

「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子(えみこ)代表(68)は「『残業代ゼロより過労死ゼロ』を掲げる連合と、ともに闘ってきた。方針転換に憤っている。今以上に成果を求められてサービス残業が増えるだけ」と批判した。

 

連合傘下の産業別労組「UAゼンセン」に加入する関東の中小繊維産業労組の書記長は「いまだに上部組織から説明はなく、理解できない」と疑問視した。西日本の電機部品メーカーの労組委員長は「電機産業の労使は2017年3月に『長時間労働の是正は労使で取り組むべき重要な課題』と共同宣言を出したが、高プロ容認は逆行ではないか」と話した。

 

また、全労連の橋口紀塩事務局次長は「我々は高プロ導入反対を貫く」と述べた。

 

連合は7月27日、札幌市内で臨時の中央執行委員会を開催。政労使での修正合意を見送り、新制度への事実上の容認姿勢を撤回すると決めた。

神津里季生会長は同日午後に記者会見し「合意できる内容に至らなかった。理にかなった判断で政府との関係がおかしくなるとは思っていない」と述べ、見送りを正式表明した。

神津会長は、執行部が政府に改正案修正を要請したことで組織内に混乱を招いたとして謝罪した。

 

2017年7月12日

労働基準法等改正法案に関する要請書(案)に反対する声明pdf

 

日本労働組合総連合会

事務局長 逢見直人殿

全国コミュニティユニオン連合会(全国ユニオン)

会長 鈴木 剛

 

 7月8日、共同通信のインターネットニュースで、現在、国会に提出されたままになっている労働基準法改正案について、連合が政府に修正を申し入れることが報じられました。その後、他の新聞各紙で同様の報道が相次ぎます。

 週が明けて7月10日、突如として「『連合中央執行委員会懇談会』の開催について」という書面が届き、出席の呼びかけがありました。開催は翌11日で、議題は「労働基準法改正への対応について」です。

 異例ともいえる「懇談会」で提案された内容は、報道どおり労働基準法改正案に盛り込まれている「企画業務型裁量労働制」と「高度プロフェッショナル制度」を容認することを前提にした修正案を要請書にまとめ内閣総理大臣宛に提出するということでした。

  しかし、連合「2018〜2019年度 政策・制度 要求と提言(第75回中央執行委員会確認/2017年6月1日)」では、雇用・労働政策(※長時間労働を是正し、ワーク・ライフ・バランスを実現する。)の項目で「長時間労働につながる高度プロフェッショナル制度の導入や裁量労働制の対象業務の拡大は行わない。」と明言しており、明らかにこれまで議論を進めてきた方針に反するものです。労働政策審議会の建議の際にも明確に反対しました。ところが、逢見事務局長は「これまで指摘してきた問題点を文字にしただけで方針の転換ではない」など説明し、「三役会議や中央執行委員会での議論は必要ない」と語りました。まさに、詭弁以外何物でもなく、民主的で強固な組織の確立を謳った「連合行動指針」を逸脱した発言と言っても過言ではありません。しかも、その理由は「働き方改革法案として、時間外労働時間の上限規制や同一労働同一賃金と一緒に議論されてしまう」「圧倒的多数の与党によって、労働基準法改正案も現在提案されている内容で成立してしまう」ために、修正の要請が必要であるとのことでした。

 直近の時間外労働時間の上限規制を設ける政労使合意の際も、私たちはマスメディアによって内容を知り、その後、修正不能の状況になってから中央執行委員会などの議論の場に提案されるというありさまでした。その時間外労働時間の上限規制と、すでに提出されている高度プロフェッショナル制度に代表される労働時間規制の除外を創設する労働基準法改正案とを取引するような今回の要請書(案)は、労働政策審議会さえ有名無実化しかねず、加えて、連合内部においては修正内容以前に組織的意思決定の経緯及び手続きが非民主的で極めて問題です。また、政府に依存した要請は、連合の存在感を失わせかねません。

  さらに言えば、高度プロフェッショナル制度については、法案提出当初の2015年4月24日には、塩崎厚生労働大臣が経済人の集まる会合の場で「小さく生んで大きく育てる」などと語ったことが報じられています。こうした発言を鑑みても法律が成立してしまえば、労働者派遣法のように対象者が拡大していくことは火を見るよりも明らかです。また、裁量労働制についても、年収要件などがなく対象者が多いだけに問題が大きいと考えます。

私たち全国ユニオンは、日々、長時間労働に苦しむ労働者からの相談を受けており、時には過労死の遺族からの相談もあります。過労死・過労自死が蔓延する社会の中、長時間労働を助長する制度を容認する要請書を内閣総理大臣宛に提出するという行為は、働く者の現場感覚とはあまりにもかい離した行為です。加えて、各地で高度プロフェッショナル制度と企画業務型裁量労働制の反対運動を続けてきた構成組織・単組、地方連合会を始め、長時間労働の是正を呼び掛けてきた組合員に対する裏切り行為であり、断じて認めるわけにはいきません。また、このままでは連合は国民・世論の支持を失ってしまうおそれがあります。

  シカゴの血のメーデーを例にとるまでもなく、労働時間規制は先人の血と汗の上に積み上げられてきました。私たち労働組合にかかわる者は、安心して働くことができる社会と職場を後世に伝えていくことが義務であると考えます。今回の政府に対する要請書の提出は、こうした義務を軽視・放棄するものに他なりません。全国ユニオンは、連合の構成組織の一員としても、政府への要請書の提出に強く反対します。

以 上

 

 

2017年7月13日

内閣総理大臣

安倍 晋三 様

日本労働組合総連合会

会 長 神津 里季生

 

労働基準法等改正法案に関する要請書

 

過労死・過労自殺ゼロはもとより、健やかに働き続けられる社会の実現に向けて、長時間労働の是正は解決すべき喫緊の課題です。そのため、「働き方改革実行計画」を踏まえた時間外労働の上限規制等については、労働政策審議会の建議に基づいて、速やかに法改正を行い、施行することが求められています。

一方、国会においては2015年に提出された労働基準法等の一部を改正する法律案が継続審議扱いとなっています。この法案には、中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率を引き上げてダブルスタンダードを解消することや、年次有給休暇について年間5日の時季指定義務を使用者に課すこと等、評価すべき内容も盛り込まれています。

しかし、同法案に盛り込まれている企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大や高度プロフェッショナル制度については、長時間労働・過重労働を助長しかねないため、私たちは労働政策審議会における議論の段階で反対の意見を表明してきました。

現在の法案の内容のままでは問題点が多く、少なくとも、下記の点について是正することが不可欠です。

政府におかれては、私たち働く者の声をしっかりと受け止め、反映くださるよう強く要請します。

 

 

1. 企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大について

○ 企画業務型裁量労働制に新たに追加される「課題解決型提案営業の業務」については、その対象が広く営業職全般に拡大される懸念がある。この懸念を払拭するため、対象業務の内容は、現行制度と同様、あくまで「企画、立案、調査及び分析」が中心であり、商品販売のみを事業内容とする営業所等で働く労働者は対象となり得ないこと等を明確化すべきである。

○ 「企画、立案、調査及び分析」は、法人顧客の事業の運営に関する事項を改善するために行うものであるから、提案する商品等はそのために特別に開発したものでなくてはならず、既製品やその汎用的な組み合わせの営業は対象にならないことも、明確化すべきである。

○ 「課題解決型提案営業」という略称も、上記の趣旨を踏まえて見直すべきである。

○ 「裁量的にPDCAを回す業務」についても、対象業務の内容は、現行制度と同様、あくまで「企画、立案、調査及び分析」が中心であり、事業の運営に関する事項を改善するために行うものであることを明確化すべきである。

○ 一定の勤続年数に関する基準に該当する者のみが企画業務型裁量労働制の対象となることを法律上明確にするとともに、労働基準監督機関による助言・指導の強化など、制度の適正な運用を確保するために所要の見直しを行うべきである。

2. 高度プロフェッショナル制度について

○ 高度プロフェッショナル制度については、労働時間規制の適用除外という重大な効果を及ぼすものであり、対象労働者の範囲や手続きが厳格であるだけでは足りず、対象となる労働者の健康が確保されなければならない。そのため、制度の導入要件である健康・福祉確保措置(選択的措置)のうち、「年間104日以上かつ4週間を通じ4日以上の休日確保」を義務化すべきである。

○ 上記に加えて、疲労の蓄積の防止又は蓄積状況の把握の観点からの選択的措置を講じなければならないこととし、その内容は、勤務間インターバルの確保及び深夜業の回数制限、1か月又は3か月についての健康管理時間の上限設定、2週間連続の休暇の確保、又は疲労の蓄積や心身の状況等をチェックする臨時の健康診断の実施とすべきである。

以 上

 

 

 

「残業代ゼロ」と残業上限規制 政府、一本化して提出へ(2017年8月31日配信『朝日新聞』)

 

 政府は30日、専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」と、残業時間の罰則付き上限規制を一本化した労働基準法改正案を今秋の臨時国会に提出する方針を正式に表明した。厚生労働省の労働政策審議会の分科会で、同省が労使の代表者に「一つの法案にまとめることが適当だ」と説明したが、連合は法案の一本化に強い反対を表明した。

 高プロの導入を盛り込んだ労基法改正案は2015年4月に国会に提出された。野党や連合が「残業代ゼロ法案」などと反発し、一度も審議されていないが、政府は3月にまとめた「働き方改革実行計画」に、残業時間の上限規制の導入などとともに、高プロを含む労基法改正案の早期成立を目指すと明記した。

 厚労省の山越(やまこし)敬一・労働基準局長は分科会で、高プロと残業時間の上限規制は「どちらも働く人の健康を確保し、能力を発揮して働く観点から労働時間法制として議論された」として法案の一本化が適当だと述べた。政府は、提出済みの法案を臨時国会で取り下げたうえで、一本化した法案を出す方針だ。

 これに対し、労働側の委員は7人全員が一本化に反対を表明。連合の村上陽子・総合労働局長は「なぜ一本化するのか理解できない。高プロと裁量労働制の拡大は必要性がなく、長時間労働を助長しかねない」と反対理由を述べた。連合は分科会終了後、厚労省の前で一本化反対をアピールする集会を開催。村上氏は集まった約150人の参加者を前に、「今後は(高プロの)問題点をさらに指摘していく」と声を上げた。

 一方、経営側の委員は一本化に賛成した。経団連の輪島忍・労働法制本部長は「企業労使が一体になって仕事の進め方を見直し、生産性の高い働き方を構築しないといけない。(高プロと上限規制を)ワンパッケージにすることで労働者の健康と生産性向上の双方を実現できる」と主張した。臨時国会の開会を控えて、法案の一本化を巡る攻防が本格化しそうだ。

 政府は9月前半にも労基法改正案の要綱を示す予定だ。連合の神津里季生(こうづ・りきお)会長が7月、高プロの政府案に対し、働き過ぎの防止策を講じる修正を安倍晋三首相に要請したのを受け、政府は連合の要請内容を盛り込む方向で検討している。

 

労基法改正一括審議 働き方改革や人づくり革命の胡散臭さ(2017年8月26日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 25日から閣議が再開され、自宅にこもっていた安倍首相が公務に復帰した。とはいえ、国会論戦が始まるのは1カ月も先のことだ。政府・与党は秋の臨時国会の召集について来月25日を軸に調整に入った。

 「働き方改革」関連法案の仕上がりが遅れれば、9月29日以降にズレ込む可能性もあるという。臨時国会で最大の焦点とされるのが、この「働き方改革」である。

 裁量労働制を拡大させる「高度プロフェッショナル制度」の創設や、同一労働同一賃金の実現に向けた労働契約法改正、時間外労働の上限規制のための労基法改正などが臨時国会に上程される予定だ。

 「長時間労働の是正」と言われると、いいことのように思ってしまうが、「多様で柔軟な働き方」「労働者の自己実現の支援」なんて美辞麗句にダマされてはいけない。安倍政権が進めてきた労働改革は、「自由な働き方」を名目に派遣社員を恒久化するような法改正など、大企業に都合のいいものばかりだからだ。

 「働き方改革という美名の実態が労働者イジメなのは、『働き方改革実現会議』のメンバーを見れば一目瞭然です。経団連会長など経営者サイドばかりで、労働者の代表は連合会長しかいない。『高度プロフェッショナル制度』なんてカッコイイ名称にスゲ替えたところで、その中身は『残業代ゼロ法案』に変わりありません。どうすれば、安価な労働力をコキつかえるかということしか考えていない。ハッキリ言って、働き方改革ではなく“働かせ方改革”ですよ」(経済ジャーナリスト・荻原博子氏)

 さらに問題なのは、高度プロフェッショナル創設を「働き方改革」関連法案として一括審議しようとしていることだ。加藤厚労相は「労働基準法の改正案で2つの法案が出ることは混乱を招くおそれがあり、1つにして提出することによって混乱が生じないようにすべきだ」と明言している。

■悪法を一括審議に紛れ込ませる

 2005年に経団連が提言し、「ホワイトカラーエグゼンプション」の名前で残業代ゼロ法案が世に出てきてから10年以上。いまだ実現していないのは、世論の反発が根強いからだ。それを「働き方改革」関連法案の中にこっそり紛れ込ませ、通してしまおうとしている。10本もの法案を一括審議で済ませた安保法と同じやり方だ。

 労働問題に詳しい政治学者の五十嵐仁氏が言う。

 「性質の異なる法案を一括審議して決めてしまうのは、あまりに乱暴です。審議時間を短縮するためだとしたら、与党の横暴でしかない。労働という重要なテーマを扱うのだから、個別の法案ごとにじっくり審議する必要があるはずです。そもそも残業時間に上限を設ける規制法と、残業代ゼロ法案は真っ向から対立する。どうして一括審議ができるのか。どのみち最後は数の力で成立すると軽く考えているのでしょうか。過労死が社会問題になったから、残業時間に上限を設けると言い出しただけで、お題目に過ぎないということがよく分かります。残業だけ規制して、労働者に寄り添うフリをしているだけなのです。人手不足が言われ、賃金も上がらない中で残業時間を規制したらどうなるか。自宅に持ち帰ってのサービス残業が常態化しかねません。同一労働同一賃金にしても、大企業ファーストのこの政権にやらせたら、安い方に収斂していくに決まっています。消費は伸びず、景気対策にはマイナスになる。結婚して家庭生活を充実させることも難しくなる一方です。この国にとって死活問題ともいえる少子化対策とも逆行する。資本家の目先の利益だけで、国の将来像が見えません。こういう小手先のプランで形だけ取り繕うことを繰り返しているから、一向に国民の暮らしも経済もよくならない。少子化を促進するような政策を打ち出しておいて、『人づくり革命』なんてよく言えたものです」

 格差社会促進の張本人が「人づくり改革」の噴飯

「人づくり革命」は、通常国会閉会後の6月19日の会見で、安倍首相がいきなり持ち出した。

 「家庭の経済事情にかかわらず、高等教育を全ての子供たちに真に開かれたものにしていく。リカレント教育を抜本的に拡充し、生涯にわたって学び直しと新しいチャレンジの機会を確保する」

 「人づくりこそ次なる時代を切り開く原動力であります。これまでの画一的な発想にとらわれない『人づくり革命』を断行し、日本を誰にでもチャンスがあふれる国へと変えていく」――こう言ったのだ。

 人づくり革命担当相を新設、教育無償化の実現を目指すという。9月に「人生100年時代構想会議」を立ち上げ、2つの無償化案を検討する。大学在学中は授業料を取らず、卒業後に所得に応じて拠出金の形で納付する案と、一定の所得制限をした上で給付型奨学金を拡張する案だ。

だが、「家庭の経済事情」で選択の機会が奪われるような格差社会をつくってきたのは誰なのか。民主党政権時代に「高校無償化」をバラマキと批判したのも「なかったこと」にするのか。

 「これから議論される2つの無償化案は、従来の奨学金制度と変わらず、教育無償化とは程遠い。今までと変わらないものを新しい看板にして、さも新たな政策のように印象操作するのは安倍政権の常套手段です。『人づくり革命』なんて、ウサンくさいキャッチフレーズ政治の典型じゃないですか。今まで、さんざん改革と言ってきたが、それではゴマカしきれなくなったので、とうとう革命などと言い出した。革命は安倍首相が大嫌いな概念のはずで、言葉遊びの最たるものです」(五十嵐仁氏=前出)

 広辞苑によれば、「革命」とは「従来の被支配階級が支配階級から国家権力を奪い、社会組織を急激に変革すること」。体制側がこの言葉を持ち出すのは、どうも違和感がある。この政権が言うことは、いまやすべてがいかがわしい。

 ■労働者イジメと老人イジメが本格化

 「中身がないから、“革命”などという大げさな言葉を使いたがる。後ろめたさの裏返しでしょう。教育無償化と言いながら、学生に借金を負わせるなんて、ひどい話ですよ。『百俵の米も食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵になる』という“米百俵の精神”はどこへ行ってしまったのでしょうか。弱者に寄り添う姿勢が口先だけなのもいいところだし、『人生100年時代構想会議』という名称が、この“革命”の実態を表していると思います。年金受給年齢を遅らせ、75歳まで働かせようという狙いでしょう。国民生活はどんどん追い込まれていく。その一方で、権力者の周辺には特別な便宜がはかられて公金が投入されている疑惑があるわけで、ここで国民が怒らなければウソです」(荻原博子氏=前出)

 茂木“革命担当”相も就任翌日の会見で「高齢者を中心にした給付の社会保障制度から、全世代型の社会保障に改革していくことが求められている」とか言っていたから、労働者イジメに加え、老人イジメも本格的に始めるのだろう。これが「働き方改革」「人づくり革命」の正体なのである。

 成長戦略と称し、国家戦略特区を悪用して身内で利権を分け合う縁故主義。森友・加計問題でそれが露呈した。 

 国家戦略特区をめぐっては、諮問会議やワーキンググループのメンバーが、特区ビジネスのコンサル業務でボロ儲けしていることもネットで話題になっている。特区で規制緩和した事業を自分の会社で受注している竹中平蔵氏だけでなく、安倍を擁護し、加計問題を「岩盤規制の打破」と強弁してきた“有識者”が、そろいもそろって特区ビジネスに関わっていた。

 国家戦略特区が官邸周辺の既得権益になり、巨額の税金が食い物にされているのだ。そうやって政治を私物化してきた張本人が、どのツラ下げて「1億総活躍」などと言うのか。自分たちの悪事をゴマカすために労働者の味方ヅラをする。それが見透かされると、革命だとか言い出す。こんなペテン師にこれ以上、政治をやらせてはいけないのだ。

 

脱時間給、対決法案に 連合と民進「反対」で足並み(2017年8月25日配信『日経新聞』)

 

 連合は25日、働く時間でなく成果に応じて賃金を払う「脱時間給制度」の導入に反対すると正式決定した。一時は条件付きで容認する姿勢を示したが、連合組織内の反発で撤回した。容認に不快感を示していた民進党と足並みをそろえ、関係の立て直しを図る。政府・与党は9月召集の臨時国会で制度導入を定める労働基準法改正案を成立させたい考え。与野党の対決法案になりそうだ。

 脱時間給制度をめぐっては、経済界が成長戦略に不可欠な政策と見ている。優秀な人材が自由に働き、成果に見合った報酬を得ることが企業の競争力にもつながるとの考え。政府・与党も重要性を理解している。

 連合は25日に中央執行委員会を開催。8月末から議論が始まる厚生労働省の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で、法案に反対する方針を表明することを確認した。連合の神津里季生会長は同日の記者会見で「労働時間規制を外してしまう非常に危険な内容だと、これまでにも増して訴えていく」と述べた。

 神津氏は7月、安倍晋三首相に現行案の修正を求め、一度は同制度を容認する姿勢を示した。しかし傘下の産業別労組などが猛反発し、方針を撤回。政府、経団連との政労使合意も見送った。

 脱時間給を導入する法案をめぐっては、政府・与党は残業時間の上限を定める働き方改革の関連法案と一本化して臨時国会に提出する方針だ。連合が当初要求していた修正を反映し、理解を求める。賛否を明らかにしていない日本維新の会の協力も得たい考え。反対する民進党や共産党などと激しい論戦になりそうだ。

 

https://www.nikkei.com/content/pic/20170825/96958A9E93819481E0E79AE1888DE0E7E2EAE0E2E3E59793E0E2E2E2-DSXMZO2039971025082017EA2001-PB1-3.jpg

                                                                                   

誰のための連合か 「脱時間給」容認撤回(2017年7月28日配信『日経新聞』)

 

 連合は本当に働く人のための組織なのか。「脱時間給」制度の創設を一度は容認しながら撤回した連合の姿勢から抱くのは、そんな疑問だ。

 労働時間ではなく成果に対して賃金を払う脱時間給は、働いた時間では成果が測れないホワイトカラーが増えてきた社会の変化に即したものだ。

 工場労働が中心だった時代と違い、経済のソフト化・サービス化が進んだ現在は、労働時間で賃金を決められるよりも成果本位で評価してもらいたいと考える人も増えていよう。効率的に働けば労働時間を短くできるメリットも脱時間給にはある。そうしたホワイトカラーのことを連合は考えているのか。

 連合の新制度への反対姿勢に透けるのは、年功制や長期雇用慣行のもとでの旧来の働き方を守り抜こうとしていることだ。だが日本が成長力を伸ばすには、もっと生産性を上げられる働き方を取り入れることは欠かせない。

 グローバル化が進み、企業の競争が一段と激しくなるなか、働く人の生産性向上を促す脱時間給はできるだけ早く導入しなければならない制度である。単純に時間に比例して賃金を払うよりも、成果や実績に応じた処遇制度が強い企業をつくることは明らかだ。企業の競争力が落ちれば従業員全体も不幸になる。連合が時代の変化をつかめていないことの影響は大きいといえよう。

 働き方改革の法制化の全体像をみれば、連合が危惧する過重労働には歯止めをかける仕掛けもある。労働基準法改正案は脱時間給制度を盛り込んだ法案と、罰則付きの残業時間の上限規制などを定める法案を一本化して審議する段取りになっている。残業上限規制の新設は健康確保の面から連合の首脳らも評価してきた。

 それだけに連合が脱時間給の制度設計などの修正合意を撤回し、労基法の改正作業が進みにくくなったことは、働く人のためにもならないといえないか。

 連合は1989年に、官公労を中心とした総評系や民間労組主体の同盟系などの労組が集まって発足。団体間の肌合いは異なり意見集約はいまも容易でない。民間労組のなかでもたとえば成果給の導入に前向きなところがある一方で、思い切った賃金制度改革に後ろ向きな団体もある。

 こうした「寄り合い所帯」の構造が、いったんは脱時間給の事実上の容認に転じた執行部方針が覆される事態を招いた。

 傘下の労組は組合員の大半を正社員で占め、非正規社員の待遇改善が後回しになりがちになる問題もある。労働運動のリーダーを自任する連合は、我々はすべての働く人を代表する組織であると言う。行動で示せなければ、空虚に聞こえる。

 

連合が決定 「残業代ゼロ」容認撤回20177月28日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

首相のたくらみ破綻

 連合は27日、札幌市で臨時の中央執行委員会を開き、残業代も支払わず過労死するほど働かせる「残業代ゼロ制度」(高度プロフェッショナル制度)の導入など労働基準法改定案について、修正・容認する「政労使」合意を結ばず、反対を貫くことを満場一致で決めました。労働者や過労死遺族、市民らの世論や運動に押されて反対姿勢を明確にしたものです。秋の臨時国会で法案成立と野党共闘つぶしを狙った安倍首相のたくらみは破たんに追い込まれました。

 会議後に会見した神津里季生(りきお)会長は、政労使合意について「制度を容認したと誤解される恐れがあれば排除する必要があるが、そういう形にならなかった」とのべ、法案の容認を迫られたことを示唆し、合意は結ばないと表明しました。

 労基法改定案は、1日8時間・週40時間などの時間規制を適用除外する「残業代ゼロ」制度と、何時間働いても一定時間だけしか働いたと見なさない裁量労働制の拡大が柱です。労働界も野党4党もこぞって反対し、2年余、審議入りできていません。

 今後の対応について連合は談話を発表し「制度を導入すべきでないという反対の立場」で、審議会や国会で連携して取り組むと表明しました。

 連合は「残業代ゼロ法案」だと反対してきましたが、政府案がそのまま成立する事態を避けるとして、執行部が、一部修正を政府に要請。条件付きで事実上容認する方針転換に対し、「組合員への裏切りだ」(全国ユニオン)などと反対意見が連合内外から噴出していました。

 

「残業代ゼロ」法案 力合わせて廃案に(2017年7月27日配信『しんぶん赤旗』)

 

過労死遺族ら5団体が会見

 家族を過労死で亡くした遺族や弁護士らでつくる五つの団体が26日、労働時間規制を外す高度プロフェッショナル制度の導入や、何時間働いても一定時間しか認めない裁量労働制の拡大などが盛り込まれた「残業代ゼロ」法案に反対して、厚生労働省で共同記者会見を行いました。法案は「長時間労働、過労死を促進させるもの」だと批判。さまざまな団体と力を合わせて必ず廃案に追い込んでいくと語りました。

 日本労働弁護団、全国過労死を考える家族の会、過労死弁護団全国連絡会議、かえせ☆生活時間プロジェクト、ブラック企業被害対策弁護団の代表が出席しました。

 「家族の会」の寺西笑子代表は、「過労死促進の働き方は容認できません」と強調。会見に先立って、法案修正を求めている連合へも要請したと報告し、「同じ方向でたたかってほしいと話してきました。私たちのなかには、すでに裁量労働制で家族が過労死した人がいます。成立を阻止したい」とのべました。

 過労死弁護団の川人博幹事長は、裁量労働制が営業職にまで広がれば、電通で過労自殺した高橋まつりさんが担当していた法人営業も対象になりうると指摘。「政府の『働き方改革』は長時間労働の規制にはならず、むしろ合法化させるもの」と強調しました。

 

成果型労働;政府、法案修正検討し提出へ 連合合意なしで(2017年7月27日配信『毎日新聞』)

 

 政府は成果型労働制といわれる「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)導入を含む労働基準法改正案について、修正を検討し、秋の臨時国会で、働き方改革関連法案と一括して提出する方針を固めた。連合は高プロを修正のうえ容認する姿勢を一転、政労使合意を見送る方針だが、政府は連合の合意がなくても、法案の修正で歩み寄り、成立を目指す考えだ。

 菅義偉官房長官は26日の記者会見で「労働者団体の代表の意見を重く受け止め、責任をもって検討する」と述べ、早期成立に強い意欲を示した。

 国会に提出済みの、高プロの創設を柱とした労基法の改正案はいったん取り下げ、残業時間の罰則付き上限規制などを盛り込んだ働き方改革関連法案と一体化。厚生労働省の労働政策審議会の答申などを踏まえ、臨時国会に提出する。

 菅長官は「働く方々の健康を確保しながら、多様で柔軟な働き方を実現するために重要な法案」として、連合が求めていた「年104日以上の休日確保」を義務付ける案などに配慮する姿勢を示した。

 高プロは、年収1075万円以上の研究開発者など所得の高い一部の専門職を、残業代支払いなど労働時間に関する規制の対象から外す制度。政府は「生産性の向上が期待できる」とするが、野党は「残業代ゼロ法案」として反対していた。

 一方、連合はこの日、札幌市で三役会を開き、高プロの政労使合意を見送る方針を確認した。27日の中央執行委員会(中執)で正式決定する。

 連合の神津里季生(こうづ・りきお)会長は終了後に報道陣の取材に「中執で提案する内容について、三役会全体で合意した。われわれとして主体的な判断を、中執で確認する」と述べた。

 

連合、「脱時間給」容認を撤回 政労使合意は見送り(2017年7月26日配信『日経新聞』)

 

 連合は25日、労働基準法改正案に盛る「脱時間給」制度を巡る政府、経団連との修正案の政労使合意を見送る方針を固めた。連合執行部が現行案の修正を政府に要請したことに、傘下の産業別労働組合などが強く反発。組織をまとめきれないと判断し、撤回することになった。27日に中央執行委員会を開き正式に決める見通しだ。政府は秋に召集する臨時国会に労基法改正案を再提出する。

 政府は3月末に脱時間給を含んだ労基法改正案の「早期成立を図る」とした働き方改革の実行計画をまとめた。連合はもともと同法案に反対の立場だったが、これをきっかけに修正を要請する検討を始めた。「安倍1強」の情勢下で、政府と正面衝突する事態は避けたいという連合執行部の判断があった。

 連合の神津里季生会長は今月13日、安倍晋三首相と会談し正式に修正を要請。連合は新制度対象者の働き過ぎを防ぐ健康確保措置の拡充などを求め、政府も受け入れる方向だった。

 ところが、連合執行部による組織内への根回しが不十分だったため、今月下旬に開いた中央執行委員会で異論が相次いだ。政労使合意は撤回に追い込まれることになったが、政府は臨時国会で労基法改正案の成立をめざす方針は変えていない。働き方改革は臨時国会の焦点の一つになる見通しだ。

 

安倍首相の危険なねらい(2017年7月25日配信『しんぶん赤旗』)

 

「残業代ゼロ」法案修正「政労使合意」の動き

反対抑え込み早期成立狙う

 「残業代ゼロ」法案(労働基準法改定案)について安倍晋三首相は、連合の要請を受けて法案を修正することを表明し、連合、経団連と「政労使合意」を結ぼうと呼びかけています。連合は政労使合意を結ぶのかどうかについて21日、中央執行委員会で議論しましたが、組織内の了承が得られず、議論を続けることになりました。安倍首相が「政労使合意」でねらうものは何なのか、見てみると―。

 

法案成立に道筋

 同法案は、1日8時間・週40時間などの労働時間規制を撤廃する「高度プロフェッショナル制度」を導入することと、何時間働いても一定時間しか労働時間と認めない「裁量労働制」を営業職に拡大することが柱です。

 労働時間規制がなくなり、過労死するほど働かせた上、残業代を支払う必要もなくなるというのが本質です。

 そのため労働界も日本弁護士連合会も過労死で家族を亡くした遺族も「過労死促進・残業代ゼロ」だと批判。野党4党も労基法改正案の対案を提出し、厳しく反対してきました。これに押されて2年余、審議入りできていません。

 これが修正されれば「反対するわけにいかない」と連合の神津里季生会長は21日の記者会見で認めました。法案成立に道筋が大きく開かれることは明らかです。連合内から「長時間労働を助長する制度を容認する」(全国ユニオン声明)と反対の声が上がるのも当然のことです。

 安倍政権は、「残業代ゼロ」法案と、連合も合意した残業時間の上限規制の労基法改定案をセットで成立させる考えを示しているため、連合が修正を言い出した側面があります。

 神津氏は「反対の立場は変わらない」として、「連合の態度が誤解されないか政労使合意の内容を見極める必要がある」として判断は先送りしました。しかし、検討されている政労使合意案では「労働基準法等の改正の早期実現を期す」と明記されており、連合が賛成に転じることが前提になっています。

本質変わらない

 神津氏は「いまの法案がそのままの形で成立してしまうことは耐えられない。できる限りの是正をしないといけない」と修正を求める理由を説明します。

 連合が求める修正の柱は、法案で「健康確保措置」として企業に一つだけ実施を求めている三つの選択肢―(1)104日の休日(2)労働時間の上限設定(3)次の勤務までの休息時間確保―のうち、「104日の休日」付与を義務付けることです。

 しかし、104日の休日とは、週休2日になっても、あとの5日は祝日も盆も正月も関係なく24時間働かせることができることに変わりありません。大企業は現在、週休2日に加えて年休や公休など140日程度休みがありますが、これよりも少ないものです。

 これでは「健康確保措置が極めてぜい弱」(神津氏)と指摘する現状は変わりません。

 裁量労働制の拡大についても「商品販売のみを事業内容とする労働者は対象外とする」との修正を求めていますが、これも政府が説明してきたこととほとんど変わりません。

 損保ジャパン日本興亜では、すでに一般の営業職にまで脱法的に導入しています。あいまいな規定では歯止めになりません。

 民進党の大串博志政調会長は20日、神津会長も同席したBS放送の番組で、「本質が変わらない限り、反対の態度は変わらない」と改めて表明しています。

「敵に塩」を送る

 連合の修正要請について安倍首相は「残業代ゼロ法案といったレッテル貼りの批判に終始すれば、中身のある議論が行えないと考えていたが、連合の提案は建設的なものだ」と歓迎しています。

 安倍政権は、「残業代ゼロ」法案の行き詰まりに加えて、加計学園疑惑など国政の私物化と憲法破壊の政治に対する国民の批判を浴びて都議選でも惨敗、支持率急落に追い込まれています。こうしたなかで修正を求めることは「敵に塩」を送ることにならないのか。

 神津氏は、「政局のために労働法制をやるわけではない」と釈明していますが、「導入阻止」を実現しようとすれば、さらに安倍政権を追い詰め、廃案に追い込むたたかいこそ必要になっています。

 全労連は、高度プロフェッショナル制も裁量労働制拡大も撤回する以外にないと強調し、改悪阻止・規制強化の「一致点での共闘をすべての労働者に呼びかける」と訴えています。

 

「残業代ゼロ」容認を再協議へ 連合、異論相次ぎ(2017年7月25日配信『朝日新聞』)

 

 連合は27日に臨時の中央執行委員会を開き、専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の導入を条件付きで容認する執行部の方針について再協議することを決めた。

 傘下の産別や地方組織の幹部らが参加して26〜27日に札幌市で開く集会にあわせて、協議の場を設ける。関係者によると、主要産別の幹部でつくる三役会を26日夕に開いた後、27日朝に地方組織の幹部も入る意思決定機関の中執委を臨時で開く見通し。同日午後には、神津里季生(こうづりきお)会長と逢見(おうみ)直人事務局長が記者会見を開く予定だ。

 連合は高プロを「残業代ゼロ法案」と強く批判してきたが、執行部の一部が主導して条件付きの容認に方針転換。執行部は21日の中執委で組織内の了解が得られれば、27日にも政府、経団連と高プロの政府案の修正に関する「政労使合意」を結ぶ予定にしていた。

 しかし、一部の産別や地方組織から中執委で異論が相次ぎ、執行部は了解取りつけを見送っていた。中執委の次回の定例会合は8月25日だが、執行部はその前に臨時会合を開いて再協議することにした。

 

政労使会談;再延期へ 連合「成果型労働」結論出ず(2017年7月22日配信『毎日新聞』)

 

 働き方改革を巡って27日に予定されている安倍晋三首相、連合の神津里季生(こうづ・りきお)会長、経団連の榊原定征会長の会談が再延期される可能性が強まった。21日の連合中央執行委員会(中執)で、所得の高い一部の専門職を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)導入を認めるかどうか結論が出なかったためだ。神津氏は記者会見で「議論を継続する」と述べた。

 成果型労働制ともいわれる高プロに対し、連合や民進党はこれまで「残業代ゼロ法案」などと反対してきた。高プロ導入と、裁量労働制の拡大を盛り込んだ労働基準法改正案は国会で審議入りのめどが立っていない。

 しかし、神津氏は13日、安倍首相との会談で「年104日以上の休日確保」を義務付けるなどの修正案を示し、高プロ容認にかじを切った。

 政府は経団連とともに修正を受け入れる方針を決め、19日に政労使で合意する運びだったが、傘下の産業別労組から不満が噴出した連合が18日、「中執以降にしてほしい」と政府に延期を要請。会談は27日に延びた経緯がある。

 神津氏らは21日の中執で、産別や地方組織の代表75人に「コミュニケーションが十分ではなかった」と説明不足を陳謝。「高プロを含む改正案と、3月に政労使で合意した残業時間の罰則付き上限規制のための改正案を、政府は一体で国会に出す。働く者が危険にさらされることを手をこまねいて見ていられない」と理解を求めた。

 出席者からは「高プロは慎重に考えるべきだ」「執行部はもっと情報発信を」という意見が相次ぎ、神津氏は中執に了承を求めなかった。

 神津氏は会見で「政労使合意に到達するのか、見極めがついていない」と述べた。高プロに対する組織内の反発は根強く、今の修正項目だけで政府に妥協するのは難しくなったという見方もある。厚生労働省幹部は「合意内容で連合にもっと歩み寄るべきかどうか、首相官邸が判断する局面が来るだろう」と政府側の譲歩に含みを持たせた。

 

連合、混迷深まる 「残業代ゼロ」了解取り付け失敗(2017年7月22日配信『朝日新聞』)

 

 専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を条件付きで容認する方針転換を巡り、連合の内部で混迷が深まっている。21日の中央執行委員会でも異論が相次ぎ、執行部は組織内での了解取り付けに失敗。神津里季生(こうづりきお)会長は「方針転換」の意義を改めて訴えたが、記者会見では苦しい説明に終始した。

「残業代ゼロ」連合執行部、了解得られず 産別など反対

 「引き続き全体が認識を共有していかなければいけないと私から発言し、全体で確認した」

 中執委の後の記者会見。「残業代ゼロ法案」と強く批判してきた高プロを条件付きで容認する方針に転じ、政府、経団連との間で「政労使合意」を結ぶことへの了解取り付けを見送る判断をしたことについて、神津氏はそう説明した。

 連合の修正要求について、政府が経団連と調整のうえ、受け入れると返答してきたことも明らかにしたが、肝心の組織内を固められなかった。会見中の神津氏の表情は終始硬かった。

 中執委は、傘下の産別や地方組織の幹部で構成される連合の意思決定機関。執行部はもともと、この日の中執委の前に政労使合意を結ぶシナリオを描いていた。

 神津氏は20日夜、民放のテレビ番組に出演した後、当初は19日に予定していた政労使合意を連合側の事情で先送りしたことを記者団に認めた。21日の中執委で組織内の了解が得られれば、合意を結べる環境が整うとの楽観的な見方も示したが、中執委では異論が続出した。

 

“こんな人たち”の復讐劇 反安倍クーデターのノロシ上がる(2017年7月21日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 ボロボロだ。20日の定例会見で菅官房長官は、追い詰められ、追い込まれ、苦しい弁明を繰り出すしかなかった。

 南スーダンPKOの日報の「非公開」を稲田防衛相が了承したとされる“隠蔽疑惑”。菅は、「徹底した調査が必要だ」と答え、特別防衛監察の調査対象にこの一件も含まれると明言せざるを得なくなった。まとまった報告書で、事務方は処分しても、調査対象外の政務三役は責任回避する手はずが狂った。

 そのうえ、山本地方創生相が国家戦略特区による獣医学部新設が決まる2カ月前に「加計学園が事業者」と獣医師会に伝えていたとされる疑惑も発覚。菅はこれについても「山本氏がきちんと説明する」と言わざるを得ず、いつもの「あたらない」「問題ない」で擁護することはできなかった。

 週明けに安倍首相出席の集中審議を控え、国民から厳しい視線が注がれている手前、ゼロ回答はイメージが悪い。次々出てきた不都合な疑惑に、菅は苦渋の表情だ。

 長らく続いた「安倍1強」政治は、明らかに潮目が変わった。政権を取り巻くありとあらゆる状況が逆回転している。

 都議選惨敗と支持率急落がその象徴だが、ひとつのきっかけは、秋葉原で「こんな人たち」と指さして侮蔑した、安倍のあの傲慢な態度にある。まがりなりにも国民の一員なのに、意見が違う、逆らうヤツらは「こんな人たち」扱い。もっとも、その思想は、安倍政治のすべてに通じている。

■絶対王政の支配層と下僕

 周囲を身内で固め、政府と国民との関係を、民主主義のなかった中世貴族社会の絶対王政のような支配層と下僕の関係に貶めた。それは、立憲主義を否定し、黒を白と言い張り、独裁国家さながらだ。しかし、そんな恐怖支配が4年半も続けば、抑圧された人々の我慢も限界である。

 稲田と山本の両大臣を窮地に追い込むリーク情報は、責任と処分を押し付けられる現場の陸上自衛隊の反乱であり、お友達に利益を付け替えるご都合主義を「規制改革」だとアピールすることで、守旧派のレッテルを貼られた獣医師会の反発が根っこにある。文科省から内部文書が次々流出したのだってそうだ。つまり、虐げられてきた「こんな人たち」の復讐劇が始まったのである。

 上智大教授の中野晃一氏(政治学)はこう言う。

 「民主党政権は『官僚を使いこなせなかった』と言われました。それを受け、『決められる政治』を行うとして登場した安倍政権は、『官僚をうまく使いこなしている』と言われてきた。しかし、一連の失態で、それがいかに空疎なものだったのかが明らかになりました。安倍政権は官僚を使いこなしていたのではなく“私物化”していたのです。防衛省の問題は深刻です。もともと上意下達の保守的な組織なのに、大臣があまりにヒドすぎて、現場が反乱を起こしているのが現状。文民統制が利いていないわけで、マズい状況です。それぐらい安倍政権は横暴が過ぎ、ボロが出てきてしまったということなのでしょうけれど」

 あらゆる階層が「もう黙ってはいられない」と決起

 こうなると、安倍1強が続くとみて、迎合してきた連中の「わが世の春」は続かない。反安倍クーデターののろしが上がれば、政権もろともジ・エンド。しっぺ返しはもう始まっている。

 政治家としての素養を磨くわけでもなく、首相出身派閥という“温室”で遊んでいたチルドレンたち。「このハゲーー!」の豊田真由子衆院議員は、元秘書に告発され、傷害容疑で摘発の瀬戸際。いまだ表に出てこられない。重婚スキャンダルの中川俊直衆院議員は、2万円の政治資金パーティーという非常識な「おわびの会」が中止に追い込まれた。これらに続きかねないクズ議員が自民党にはワンサカいる。

 「公平公正」を装いながら安倍に忖度してきたメディアもその実態が白日の下にさらされつつある。

 安倍と懇意の解説委員が政権スポークスマンを担うNHK。真っ先にスッパ抜いたはずの文科省文書で政権に都合の悪い部分を黒塗りしていたことがバレ、一番最初に行ったはずの前川前文科次官のインタビューがいまだ放送されていないことを、前川氏本人に暴露された。

 その前川氏を、出会い系通いのいかがわしい官僚に貶めようとした読売新聞は、記事に対して読者からの抗議が殺到したという。

■労働者の声を聞け!

 裏切りの本性があらわになったのは連合だ。政策実現のため、労働者のため、と詭弁を弄し、その実、やっぱり、支配階級側に付きたい労働貴族だったじゃないか。第2次安倍政権発足直後の2013年に官邸主導の「政労使会議」のテーブルに着いた時からその傾向が透けて見えたが、さすがに反対から百八十度転換した「残業代ゼロ法案」での合意には、ア然ボー然である。

 そんな連合に対し、労働者が牙をむいた。19日、連合本部前にデモ隊100人が結集。「残業を勝手に売るな」とシュプレヒコールを上げた。報じた朝日新聞によれば、参加者のひとりが「労働者に囲まれ、デモまでされる労働組合とは一体何なのか」と怒っていたというが、その通りだ。

 結局、傘下の労働組合からも批判が噴出し、神津里季生会長の退任と、政権との談合を進めた張本人である逢見直人事務局長への禅譲計画は引っ込めざるを得なくなった。

 「連合は民進党の支持母体ですが、自民党政権が長期化する中で冷や飯が続き、政権との距離感の取り方が難しくなっていた。そんな中で、旧同盟系の右派と旧総評系の左派の対立があり、右派は共産党とも組む野党共闘に反対してきた。そこに楔を打ち込もうとしたのが安倍官邸です。逢見事務局長が菅官房長官に一本釣りされ、『残業代ゼロ法案』で暴走した。連合会館の前で抗議デモを受けたのには驚きましたが、『労働者の声を聞け』と批判されるのは当然です」(中野晃一氏=前出)

■この国を悪くしたのは誰だ

 経済産業省も反安倍クーデターにやられる口だ。安倍政権は別名「経産省内閣」と呼ばれてきた。経産省出身の今井尚哉政務秘書官が菅とともに官邸を牛耳ってきたからである。原発死守で東電や東芝救済も経産省の意向。霞が関人事にも口出しして好き勝手やってきた。

 本来、政府から独立しているはずの日銀も青ざめているはずだ。安倍政権と一体になって、破綻したアベノミクスを「道半ば」と言い続けてきたが、きのう、「物価上昇率2%」の達成時期をまた先送りした。実に延期は6度目だ。

 立正大名誉教授の金子勝氏はこう言う。

 実態はそうではなくても、安倍首相が『うまくいっている』と言うので多くは批判せず、目をつぶってきた。しかし、もはや上っ面さえも取り繕うことができないぐらいにさまざまな問題が噴出してしまった。こうなると、安倍1強が続くと思って、セルフコントロールしていた人たちが動きだす。文科省や防衛省に代表されるように政府内部からの反乱が起き、支持率が30%を割るまでに続落してくれば、黙っていた人たちも、『私も言わなくちゃ』という気になる。あらゆる階層で『反安倍』が大きな流れになってきました」

 安倍とお仲間連中が、特権意識よろしく、私利私欲、個利個略に走ってこの国を悪くした。お人よしな国民も、さすがにそのおかしさに気づいた。いよいよ大逆襲が始まったのである。

 

連合へ働き手が異例のデモ 「残業代ゼロ、勝手に交渉」(2017年7月19日配信『朝日新聞』)

 

 専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を条件付きで容認する方針に転じた連合への抗議デモが19日夜、東京都千代田区の連合本部前であった。日本最大の労働組合の中央組織として「労働者の代表」を自任してきた連合が、働き手のデモに見舞われる異例の事態だ。

 「一般の働く人々の権利と生活を守るために動くのが労働組合の役割のはず。連合執行部は今回の一方的な賛成表明を撤回し、存在意義を見せてほしい」

 午後7時に始まったデモの冒頭。マイクを手にした男性はこう訴えた。参加者たちはプラカードやのぼりを掲げ、「残業を勝手に売るな」などとコールを繰り返した。参加者は午後9時までに100人ほどに膨れあがった。

 今回のデモのきっかけは、高プロを「残業代ゼロ法案」と批判してきた連合が一転、執行部の一部メンバーの主導で条件付き容認の方針を決めたことだった。連合傘下でない労組の関係者や市民らがツイッターなどで呼びかけたメッセージは「連合は勝手に労働者を代表するな」などのキーワードとともに拡散。参加者の多くはツイッターでデモの開催を知り、仕事帰りに集まったとみられる。

 都内の清掃作業員、藤永大一郎さん(50)は「労働者に囲まれ、デモまでされる労働組合とは一体何なのか。恥だと思ってほしい」。別の会社員男性(53)も「連合の一部の幹部だけが勝手に政府と交渉し、話を進めているように見える。一般の組合員は納得していないのではないか」と首をかしげた。「年収1075万円以上」などが条件となる高プロの適用対象となる働き手はごくわずかだが、デモの呼びかけ人の一人は「年収要件などはすぐに緩和されて対象が広がる」と心配した。

連合執行部に対しては、傘下の労組や過労死遺族の団体などからも反発の声が続出している。当初は19日までに連合と政府、経団連の3者が「政労使合意」を結ぶ段取りだったが、連合内部の混乱を受けて延期された。連合執行部は21日に中央執行委員会を開き、組織内で了解を取り付けることを決めた。

■揺らぐ連合の存在意義

 連合は680万人ほどの組合員を抱える日本最大の労働組合の中央組織だ。

 厚生労働省の労働政策審議会の労働側委員は連合が独占。政府の「働き方改革実現会議」(議長・安倍晋三首相)にも神津(こうづ)里季生(りきお)会長が労働側の代表として加わり、残業時間の罰則付き上限規制といった重要政策の決定に関わってきた。

 しかし、今や多くの働き手にとって労組は縁遠い存在だ。1990年代以降、企業が人件費を削るために非正社員の比率を高めてきたこともあり、6千万人ほどの国内の働き手に占める労組員の割合は2割を切っている。連合を「労働者の代表」とみなすには組織率の低迷は深刻だが、労働者全体の利益を政策に反映させるには、できるだけ多くの働く人の声を集約して代弁する存在が欠かせない。

 「労組に守られていない8割以上の労働者がいる。連合はそこに向かってどう力を発揮するのかが問われている」。神津会長も繰り返しそう発言してきた。

 今回のデモの呼びかけ人の一人は「議論の手続きを含めて、連合は労働者の代表としての自覚を持ってほしい。期待するからこそ、声を上げている」と話す。

 

「残業代ゼロ」容認に「唐突感」の声 連合の地方会議で(2017年7月18日配信『朝日新聞』)」

 

 連合の逢見(おうみ)直人事務局長は17日、大阪市で開かれた近畿地方の組織の幹部を集めた会議に出席し、記者会見した。専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を「残業代ゼロ法案」と強く批判してきた連合が条件付きで容認に転じたことが組織内に波紋を広げているが、逢見氏は、この日の会議でも「唐突感がある」といった意見が出席者から出たことを明らかにした。

 今回の「方針転換」は、連合のナンバー2の逢見氏らが主導してきた。政府は連合の修正要求を受け入れ、19日までに経団連も交えた3者で「政労使合意」を結ぶ見通し。高プロは導入に向けて、大きく動き出すことになりそうだ。

 出席した幹部によると、この日の会議は高プロへの対応に議論が集中したという。逢見氏は高プロについて、「基本的に反対という態度は変わらないが、(今秋の臨時国会で審議入りする見通しの)労働基準法改正案から外せということは非常に難しい」「法案についての懸念点を、修正の要望という形で政府に伝えたというのが今回の経緯。そういう経緯について説明をして、いろんな意見をいただいた」などと釈明した。

 逢見氏によると、地方組織の幹部からは「一般の人に説明・理解を求めるのは時間がかかる」「民進党との連携をどうしていくのか」といった意見も出たという。

 

「残業代ゼロ」連合容認に波紋 「次期会長候補が独走」(2017年7月15日配信『朝日新聞』)

 

 専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を「残業代ゼロ法案」と強く批判してきた連合が、条件付きで導入の容認に転じたことが組織内に波紋を広げている。方針転換を主導した次期会長の有力候補の「独走」に、傘下の労働組合が冷めた視線を注いでおり、今秋の会長人事にも影響しそうだ。

 高プロの修正を求めて安倍晋三首相と会談してから一夜明けた14日午前、都内で開かれた産別のOBでつくる団体の定期大会に連合の神津里季生(こうづりきお)会長の姿があった。

 同席した民進党の蓮舫代表らを前に神津氏は、高プロの導入を条件付きで容認した理由についてこう釈明した。「共謀罪法案は与党が強引に成立させた。高プロも、ずさんな健康管理態勢のもとで制度が入れられるのではないかと考え、やむにやまれず、せめて年間104日以上の休日は義務づけるべきだと申し出た」

 しかし、高プロを含む労働基準法改正案は、野党や連合が「残業代ゼロ法案」などと猛反発し、2年以上にわたって一度も審議されずにたなざらしにされていたものだ。加計(かけ)学園問題などで安倍内閣の支持率が下がり、都議選で自民党は大敗。政治情勢が変化する中で、秋の臨時国会で政府・与党が改正案の審議入りを決めれば、批判が再燃する可能性もあった。主要産別出身のある連合幹部は「要請内容はどれも根本的な修正ではない。政権が弱っている中、わざわざ塩を送るようなまねをするなんて、政治的センスを疑う」と突き放す。

 今回の要請は、逢見(おうみ)直人事務局長や村上陽子・総合労働局長ら執行部の一部が主導し、3月末から水面下で政府と交渉を進めてきた。直前まで主要産別の幹部にも根回しをしていなかったことから、組織内には逢見氏らの「独走」への不満がくすぶる。

 逢見氏は連合傘下で最大の産別「UAゼンセン」の出身。事務局採用で、産別の会長まで歴任した後、2015年10月から現職。村上氏は、連合の事務局採用の職員から幹部に昇進してきた。

 逢見氏は事務局長に就任する直前の15年6月、安倍首相と極秘に会談し、批判を浴びたこともある。労働者派遣法や労基法の改正案に連合が反対し、政権との対立が深まるなかでの「密会」だった。当時も、組織内から「政権の揺さぶりに乗った」と厳しい指摘が出ていた。

今秋人事に影響必至

 逢見氏は、10月で任期満了を迎える神津氏からバトンを引き継ぐ有力な会長候補だ。神津氏が新執行部の体制を検討する「役員推薦委員会」に対し、異例の1期2年で辞任する意向を伝え、後任人事は逢見氏の昇格を軸に進んでいた。

 しかし、逢見氏ら執行部の突然の「変節」に対し、傘下の産別からは「組織に諮らずに、こんなに重要な方針転換を決めるのはあり得ない。会長になったらどれだけ独断で決めていくかわからない」といった批判が噴き出している。

 労組の中央組織のリーダーとしての逢見氏の資質を疑問視する声も出始めており、会長人事の行方も流動的になってきた。もともと逢見氏の会長就任に慎重な意見があったことに加え、神津氏の留任を望む声もあり、今後の調整には曲折も予想される。

 逢見氏らの「独走」を追認した神津氏の責任を問う声もある。ある連合幹部は言う。「会長の立場なら止められたはずだ。主導した責任もあるが、それを許した責任も重い」

■経団連は歓迎

 経団連の榊原定征会長は14日、連合が「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の導入を条件付きで容認する姿勢に転じたことについて、「できるだけ早く(連合と)考え方をまとめていきたい」と語り、歓迎する姿勢を示した。首相官邸で記者団に語った。

 連合が健康への配慮などを条件に掲げていることについては「懸念は理解できるので詳しく分析し、日本商工会議所などとも連携して検討したい」と述べた。

 

「残業代ゼロ」法案 首相が修正表明したが…(2017年7月15日配信『しんぶん赤旗』)

 

“時間規制外し”変わらず

  過労死するほど働かせたうえ、残業代を支払う必要性もなくなる「残業代ゼロ」法案(労働基準法改定案)について、安倍晋三首相は13日、連合の神津里季生会長の要請を受けて、制度の骨格は変えないで法案を修正する考えを示しました。安倍首相は秋の臨時国会で法案成立をねらう姿勢を強めています。修正案の中身と「修正劇」の背景をみると―。


図

連合 事実上の容認へ

過労死遺族・組合から批判も

 「いまの法案がそのままの形で成立してしまうことは耐えられない。できる限りの是正をしないといけない」。神津氏は要請後、修正を求める方針に転じた理由を記者団にこう釈明しました。

 連合は「長時間労働を助長する」として、「導入阻止」を掲げてきました。しかし、安倍首相が、連合も合意した残業時間の上限設定の法案とセットで成立させる考えを示しているため、修正を言い出さざるをえなくなった背景があります。

 同法案について労働界は一致して反対。野党4党は廃案を求め労基法改正案の対案を提出しています。これに押されて2年余、審議入りできていません。

写真

(写真)労働法制改悪阻止など掲げて請願デモ行進する労働者=5月25日、東京都千代田区

 加えて安倍内閣は、加計学園疑惑など国政の私物化と憲法破壊の政治に対する国民の批判を浴びて都議選でも惨敗、支持率急落に追い込まれています。

 こうした中、修正に転じることには家族を過労死で亡くした遺族や連合の組織内からも批判する声が上がっています。傘下の全国ユニオンは「組合員に対する裏切り行為で、断じて認めるわけにはいかない」とする声明を出しました。

週5日“働かせ放題”

過労死の危険消えず

 「残業代ゼロ制度」(法案では、高度プロフェッショナル制度)は、一定の専門職について労働時間規制を外し、残業代も払わなくてすむ制度です。「残業代ゼロ・過労死促進法案」と批判されています。修正によって、欠陥は是正されるのか。

 連合が示した修正案では、高度プロフェッショナル制度を導入するさい、「104日の休日」付与を義務付けた上で、四つの「健康管理対策」から一つを選択させるといいます。

 しかし、104日の休日とは、週休2日になっても、あとは祝日も盆も正月も関係なく24時間働かせることが可能です。過労死の危険は変わりません。

 健康管理対策には「労働時間の上限」がありますが、残業は過労死ラインの月100時間を超えなければよいという緩い水準です。

 何時間働いても一定時間しか労働時間と認めない「裁量労働制」を一部の営業職に拡大することについては、「商品販売のみの営業職は対象としない」としています。しかし、これも政府が説明してきたこととほとんど変わりありません。

 損保ジャパン日本興亜では、一般営業職にまで脱法的に導入している実態があります。あいまいな規定では歯止めにもなりません。

押し付け狙う安倍政権

撤回求める声強く

 会談で安倍首相は「残業代ゼロ法案といったレッテル貼りの批判に終始すれば、中身のある議論が行えないと考えていたが、本日の提案は建設的なものだ」と歓迎しました。

 安倍首相は、19日にも経団連を交えた3者会合で合意した上で、法案を修正。残業時間の上限設定も含めた「働き方改革」関連の統合法案として、秋の臨時国会に提出し成立させたい考えです。

 しかし、過労死遺族や労働者、市民、弁護士などから、是正にもならない「修正」で成立させることに反対する声が急速に広がっています。日本労働弁護団は13日、「労働時間法制の根幹を脅かす法案の廃案を求めていく方針に何ら迷いはありません」と表明しました。

 日本共産党の小池晃書記局長はツイッターで12日、「いったいどこが歯止めか」と批判。民進党の大串博志政調会長は「長時間労働の例外をつくるという本質が変わらない限り、賛成するのは難しい」(11日)と述べています。

 

「残業代ゼロ」 連合、突然の方針転換 調整後回し(2017年7月14日配信『朝日新聞』)

 

 「長時間労働を助長する」「残業代ゼロ法案」と強く反対してきた「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」について、連合が導入の容認に転じた。傘下の労働組合の意見を聞かず、支援する民進党への根回しも十分にしないまま、執行部の一部が「方針転換」を決めていた。組織の内外から「変節」に異論が噴出しており、働き手の代表としての存在意義が問われる事態になっている。

 「3月の末から事務レベルで政府に対して改善を要請してきた」

 13日午後、首相官邸で安倍晋三首相への要請を終えた連合の神津(こうづ)里季生(りきお)会長は記者団にそう明かした。3月末は、残業時間の罰則付き上限規制などの導入を政労使で合意し、政府が「働き方改革実行計画」をまとめたタイミング。一見唐突に見える方針転換は、4カ月も前から準備してきたものだった。

3月に政労使で合意した際に経団連や政府との交渉を進めたのは、連合の逢見(おうみ)直人事務局長、村上陽子総合労働局長ら執行部の一部のメンバーだ。逢見氏は繊維や流通などの労組でつくる日本最大の産別「UAゼンセン」の出身。関係者によると、今回も同じメンバーが政府との水面下の交渉にあたり、神津氏も直前まで具体的な内容を把握していなかったようだという。

 このメンバーは、政府や経団連と水面下で調整する一方で、組織内の根回しは直近までほとんどしていなかった。政府への要請内容を傘下の主要産別の幹部に初めて伝えたのは今月8日の会議。連合関係者によると、「圧倒的多数の与党によって、現在提案されている内容で成立してしまう」「実を取るための次善の策だ」などと理解を求め、首相への要請後に、政府側から19日までに回答が来る予定になっている段取りも伝えたという。だが、この場で「なぜ、組織の決定プロセスを踏まずに結論を急ぐのか」「組織への説明がつかない」といった異論が続出した。執行部は11日に傘下の産別幹部を「懇談会」の名目で急きょ招集。逢見氏や村上氏が「組織内での議論や了承は必要ない」などとして、手続きに問題はないと釈明したという。

 組織内から公然と批判する声も出てきた。派遣社員や管理職などでつくる傘下の「全国ユニオン」は、「手続きが非民主的で極めて問題。長時間労働の是正を呼びかけてきた組合員に対する裏切り行為で、断じて認めるわけにはいかない」などとする鈴木剛会長名の反対声明を出した。

■過労死遺族ら「話が違う」

 「話が違う。あり得ない」。「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子(えみこ)代表は憤る。「神津会長は残業代ゼロには大反対という考えだったのに、急な方針転換だ」。この修正内容では過労死を防げないと批判し、「仕事の成果が過度に求められれば、休日確保などの措置をとっても労働者はサービス残業するかもしれない」と懸念を示した。

 労働問題に詳しい法政大学キャリアデザイン学部の上西充子教授も「連合は『実を取る』と言うが、実質的に容認と変わらない。内部の合意形成もないまま執行部だけで急な動きを見せている。組織として非常にまずい」と手厳しい。「労働弁護団や過労死遺族の団体など一緒に反対してきた団体ともすりあわせた形跡がない。今の連合は労働者の代表とは言えない」

 民進党にも戸惑いの声が広がる。蓮舫代表は13日の記者会見で、神津氏から同日朝に「コミュニケーション不足」について謝罪の電話があったことを明らかにしたうえで、「連合の中の健全な議論を経て、どう判断するかに口を出す立場ではない。ただ、(政府が再提出する)労働法制の中身が納得できるものなのかは独自の判断をする」と述べ、連合との距離感をにじませた。

■「実を取る」修正案、効果疑問

 「いまの法案がそのままの形で成立してしまうことは、私どもの責任としては耐えられない。できる限り是正をしないといけない」。神津氏は、政府に修正を求める方針に転じた理由を記者団にそう説明した。今回の方針転換で、連合は本当に実を取れるのか。

 政府は専門性が高い働き手が成果を上げやすくする狙いで、高プロの導入をめざしてきた。今の法案は高プロの対象者に、年104日以上の休日取得▽労働時間の上限設定▽終業から始業まで一定の休息を確保する「勤務間インターバル制度」――の三つの健康確保措置の中から一つを義務づける内容だ。

 一方、連合は高プロと裁量労働制の双方に修正を求めた。104日の休日取得を義務づけた上で追加の措置を選択させる内容だ。厚生労働省幹部は「104日の休日を義務づけた上で、労働時間の上限設定か(終業から始業まで一定の休息を確保する)勤務間インターバル制度を選ばせることになると、一般の働き手に対する規制より相当きつくなる。そこで連合は経団連のことを考えて、オリジナルの選択肢を二つ加えた」と明かす。新たに加えられた選択肢は、2週間連続の休暇と臨時の健康診断だ。

 神津氏は「いまの内容に比べれば大幅に改善される」と胸を張ったが、104日という日数は、祝日を除いて週に2日を休みにすれば足りる。それに臨時の健康診断を実施すればOKになり、今の法案と大きくは変わらない。

 裁量労働制で新たに対象業務になる法人向け営業については、一般の営業職が対象にならないよう明確にすることを要請したが、この内容もこれまでの政府の説明と変わらない。

 労働問題に詳しい棗(なつめ)一郎弁護士は「高プロの対象となる人の勤務先は大企業が多く、今でも週休2日の人が多いだろう。土日に休んでいても過労死に認定されたケースもあり、104日の休日を義務づけただけでは、効果は疑問。別の手立てが必要だ」と指摘する。

 高プロが適用される可能性がある働き手の受け止めはどうか。東京都内の大手コンサルタント会社で働く30代の女性は「連合が求めている健康確保措置は、実際に効果があるかどうか疑問だ。私たちコンサルは毎年実績を上げなければクビになるし、自分の仕事へのプライドもある。休日取得を義務化するというが、自分なら休んだふりをして家で仕事をする。仲間で健康を損ねる人が続出するのではないか」と冷ややかだ。

 都内のシンクタンクで金融市場分析を担当するアナリストの40代の男性も「リポートの締め切りが迫っているときなど、休日労働を迫られることも多いのが実情。その一方で、休日の割増賃金は支払われない、というだけの話になるなら困る」とこぼす。

 

連合、「残業代ゼロ」容認 健康管理対策の強化条件に(2017年7月14日配信『東京新聞』)

 

 安倍晋三首相と連合の神津里季生(こうづりきお)会長は13日、官邸で会談し「残業代ゼロ」制度(高度プロフェッショナル制度)を修正する方向で一致した。連合は修正により制度を事実上容認した。

 神津氏が修正を要請したのに対し、首相は「しっかりと受け止め検討する」と応じた。

 神津氏は会談後、記者団に「法案がそのまま成立するのは耐えられない。できる限り是正するのが連合としての責任ある立場だ」と強調した。

 政府・与党は残業上限規制を柱とする働き方改革関連法案と秋の臨時国会で一括審議し、成立させたい意向。労組の中央組織の連合が容認したことで、成立の可能性が出てきた。

 「残業代ゼロ」制度は、年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発などの専門職が対象。神津氏は首相との会談で「年間104日以上かつ4週間を通じて4日以上の休日確保」の義務化を求めた。

 加えて、終業から始業までの間に一定の休息時間を設ける「勤務間インターバル」の導入や2週間連続の休日取得、在社時間の上限制限、心身の疲労などの状態をチェックする臨時の健康診断のいずれかの実施を企業に求めた。

 改正案は、労使で事前に残業時間を含めた労働時間を想定し賃金を決める「企画業務型」裁量労働制の適用を拡大し、企画や立案、調査などを担う営業職も対象にする。

 神津氏は、拡大対象に対象者数が多い商品販売など一般的な営業職を含めないよう求めた。

 改正案は2015年4月に閣議決定されたが、民進党などの反対で審議入りできていない。

 

首相、受け入れへ 次期衆院選にらみ連合との協力模索(2017年7月14日配信『日経新聞』)

 

 「脱時間給」制度を巡り、連合が政府に修正要求した背景の一つに、安倍政権側からの働きかけがあったとみられる。内閣支持率が低迷するなか、官邸サイドには民進党最大の支持団体である連合を取り込みたいとの思惑もありそうだ。ただ、政府との調整を主導した連合の逢見直人事務局長の対応に傘下の産業別労働組合は強く反発している。

 脱時間給を盛った労働基準法改正案を「残業代ゼロ法案」と批判してきた連合だが、一転して修正案を出したのは「現行案で強行されるより労働者の利益にかなう」(連合幹部)との判断があった。神津里季生会長は13日、記者団に「できる限り是正しないといけない」と強調。「今の法案は健康確保措置が極めて脆弱だ。それを強化するための要請だ」と語った。

 もっとも連合の組織内は動揺している。「長時間労働を助長しかねない制度だ」「この程度の修正で受け入れるのはおかしい」。8日、都内の連合本部。電機連合、自動車総連など産別労組の幹部からは、執行部方針に批判が続出した。容認論を唱えたのは、繊維や化学、食品など幅広い業種の労組でつくるUAゼンセンだけ。逢見氏の出身母体だ。

 11日に急きょ開いた中央執行委員会懇談会でも「納得できない」などの異論が出たが、執行部は「このまま進めます」と押し切った。

 逢見氏は事務局長に就く直前の2015年6月に安倍晋三首相と極秘に面会した。事前に当時の連合幹部らに伝えず、首相の公表日程にもなかったため「密会だ」と批判された。今回も脱時間給制度を修正する過程で、逢見氏が内閣府幹部と水面下で接触を続けたものの、産別労組への根回しは十分ではなかった。

 連合幹部は「安倍政権の支持率が下がっているときに、連合から助け舟を出すようなものだ」と逢見氏を批判する。

 脱時間給法案の扱いが、10月に任期切れを迎える神津会長の後任人事に影響する可能性もある。神津氏は、異例ながら1期目で辞任する意向を周辺に伝えており、後任には現事務局長の逢見氏が浮上している。ただ、組織内からこの人事に慎重な意見が出ているため決定がずれ込んでおり、反対論が強まる事態も想定される。

 

秋の臨時国会最大焦点「働き方改革」法制化へ前進 連合会長、安倍首相との会談で「成果型賃金」容認 民進は対応苦慮(2017年7月14日配信『産経新聞』)

 

 安倍晋三首相が13日、連合の連合の神津里季生(こうづりきお)会長との会談で「高度プロフェッショナル制度」を盛り込んだ労働基準法改正案の修正検討を表明したことで、同改正案を含む働き方改革関連法案の概要が固まった。働き方改革は秋の臨時国会で最大の焦点となるが、民進党は支持団体の連合が「残業代ゼロ」制度を事実上容認したことで一方的な反対もできなくなり、対応に苦慮しそうだ。

 「そもそも制度として必要なのかというのは根底にある。しかし、現実を考えると、健康管理のところだけは最低限やってほしいというのが私たちの思いだ」

 神津氏は首相との会談後、記者団にこう述べ、健康確保措置の強化を条件に高度プロフェッショナル制度を事実上容認する考えを示した。同制度も含む働き方改革関連法案の法制化に向け大きな前進となった。

 働き方改革関連法案は、同一労働同一賃金を実現するための労働者派遣法、パートタイム労働法、労働契約法の3法の改正と、長時間労働是正に向けた残業上限規制を強化する労働基準法の改正が柱だ。3月末の働き方改革実行計画に基づく労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の議論もまとまり、今後、法制化の作業が本格化する。

 働き方改革関連法案で野党が問題視していたのが、高度プロフェッショナル制度を含む労基法改正案との関係だ。同改正案は平成27年4月に国会に提出されたが、野党が「残業代ゼロ法案」と強く批判し、継続審議となっている。

 ただ、今年3月の政府の働き方改革実行計画では「この法改正について、国会での早期成立を図る」と明記していた。実行計画をまとめた働き方改革実現会議に神津氏がメンバーとして加わり、労基法改正案の早期成立を明記した実行計画も承認し、その後、水面下で政府と連合の間で修正協議が続けられていた。

 今回、連合が「残業代ゼロ」制度を事実上容認したことで打撃を受けそうなのが民進党だ。東京都議選の自民党惨敗を受け、働き方改革関連法案の国会審議でも安倍政権への対決姿勢を鮮明にしたいところだったが、最大の支持団体にはしごを外された形になる。

 民進党の蓮舫代表も13日の記者会見で、労基法改正案に対し「どういう内容のものが出てくるのか見ないと現段階では話せない」と歯切れが悪かった。

 

 

医師の働き過ぎ 健康でこそ命預かれる(2017年8月28日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 医師の長時間労働を減らす議論が厚生労働省の有識者検討会で始まった。勤務医は残業や夜勤など激務が問題化している。患者の命を預かる医師が過労で倒れては元も子もないというものだろう。

 政府が3月にまとめた「働き方改革実行計画」では、残業時間の上限を「月100時間未満」とする規制策を盛り込んだ。医師はこの規制の適用を5年間猶予された。患者が診療を求めれば拒めない「応召義務」があるからだ。

 医師は、命を救うという使命感が強い。多くの患者を診察する病院の勤務医は残業をいとわず、宿直や急な呼び出しにも対応している。職場に医師の過労問題には目をつぶる雰囲気もあるだろう。

 だが、激務から心身を休める余裕がない。7月には、懸命に診療を続けていた産婦人科の30代男性研修医の自殺が、長時間労働で精神疾患を発症したことが原因だったと労災認定されたばかり。研修医に休日はほとんどなく、自宅の冷蔵庫には何もなかったという。私生活もない状態で、自身の命を脅かす働き方は尋常ではない。

 厚労省によると、週の労働時間が60時間を超える人の割合は雇用者全体の平均で14%。医師は41・8%でトップだ。過去5年間に過労死や過労自殺した医師は10人に上る。

 7月には最高裁が、勤務医の年俸に残業代は含まれないとの判決を出した。つまり通常の賃金と残業代を明確に線引きし、労働時間規制の重要性を示したといえる。

 医師の残業をどう減らすか、検討会で2年かけ議論する。ただ、8月の初会合は協議の難航を予想させた。大学病院長は「医師は診療、自己研究、教育の3つの業務がある。どこからどこまでと業務を切り分けられない」と指摘した。別の医療関係者は「医師の勤務には自己研さんの面があり、制限されることに不満を持つ医師もいる」と慎重な対応を求めた。

 残業を減らせばその分、医師を増やすなど将来必要な医師の養成問題に影響する。確かに一律に規制をかけることは難しい。ここは知恵を出し合うしかない。

 負担が重くなりがちな若手とベテランとの分担見直しは必要だろう。診断書作成などの事務作業や、患者への説明など医師の業務をもっと他職種に任せたい。看護師にも医師と協力して医療行為ができるように業務の幅を広げられる余地はあるのではないか。

 医師も紛れもなく労働者であることを忘れないでほしい。 

 

連合会長続投/第一線の声に耳を傾けよ(2017年8月17日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 連合が、神津里季生(こうづりきお)会長を再選する人事案を固めた。10月の定期大会で正式に決める。

 一部の専門職を残業代支払いなどの対象から外す「高度プロフェッショナル」制度を盛り込んだ労働基準法改正案について、連合は先月、健康診断の強化などの条件を示し、修正することで政府と一致した。それまで主張してきた反対の立場を覆したに等しい。

 ところが傘下の労組から猛反発を受けると、再び反対に転じた。「残業代ゼロ法案」と厳しく批判してきた姿勢が、わずか1カ月の間に揺れ動いた。

 働く者を守る使命に腰が定まらないままトップが続投しても、組合員の信頼は得られない。今後、どんな方針で政府に臨むのか。きちんと説明し、信頼回復に努める必要がある。

 今回の人事案では会長代行ポストを新設し、逢見直人(おうみなおと)事務局長を推薦する。逢見氏は労基法改正案で政府との協議の窓口を務めている。内外の批判を受けて辞意を漏らしたが、辞任すれば会長の責任も問われかねない。そのために別の役職で処遇するというのなら、組織防衛ありきの人事だ。

 逢見氏は会長昇格も有力視されていた。2年前には首相と密談するなど、政権との近さが指摘されている。安倍政権が経済界と連携して労働規制を見直そうとする中、どれだけ労働者の防波堤になれるか心もとない。

 連合の地方組織は、昨年10月の新潟県知事選で原発再稼働を掲げる与党系候補を支援したが、野党系候補に敗れた。7月の東京都議選では、支持する民進党ではなく「都民ファーストの会」と政策協定を結んだ。

 支持率低迷が続く民進党は、共産党も含めた野党共闘を模索している。共産と距離を置く連合は否定的で、両者の溝が広がっている。

 だからといって、連合が傘下の労組の意向を聞かず、執行部と政権の直談判を重視しようとするなら、存在意義がゆらぐ。

 働きやすい社会をつくるため第一線に立つ組合員の声に耳を傾け、政府に政策の実行を迫る。約680万人が加盟する巨大組織は、安倍首相が「働き方改革」を進める今こそ、労組の原点に立ち返るべきだ。

 

【連合執行部】労働者を守る原点に戻れ(2017年8月14日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 労働基準法改正案の修正を政府に求め、合意しながら組織内の異論を受け撤回した連合は、神津里季生会長が続投することになった。

 労働組合が果たすべき使命は、働く人々の命と暮らしを守ることだろう。労組の中央組織である連合が向き合うのは、あくまで働く人々でなければなるまい。

 そうした原点を忘れたのか、政府の方を向いた末、連合に混乱と不信を招いた執行部の責任は大きい。組織内外で失った信頼を回復させるのは容易ではないだろう。

 連合執行部が修正を要請したのは「高度プロフェッショナル制度」を含む労基法改正案である。この制度は、年収が1075万円以上の金融ディーラーや研究開発といった専門職を労働時間規制と残業代支払いの対象から外し、成果に応じて賃金を決めるものだ。

 「残業代ゼロ法案」であり、労働時間の規制が外されれば過労死を助長する恐れがあるとして、連合は反対してきた。法案は2年以上、国会でたなざらし状態となってきた。

 この法案について、神津会長は安倍首相と修正する方針でいったんは合意したものの、組織討議が十分でないと傘下労組などから強く反発され合意を撤回した。

 連合は、「高度プロフェッショナル制度」に関し年間休日104日制の義務付けなどで修正を求めたものの、制度の大枠はそのままとした。これでは週休2日制の義務化にすぎない。専門職の人は、働く時間が増えるのに残業代は減る不利益を押し付けられかねない。

 政府の法案には「高度プロフェッショナル制度」のほか、残業時間の上限規制などを強化する働き方改革関連も含まれる。適用する対象は異なるが、規制の緩和と強化がセットになった法案といえる。整合性が問われてしかるべきだろう。それでも政府は一括で成立させることを目指している。

 連合執行部は、与党が多数を占める国会の情勢から法案の成立を見越し、休日拡充などで改善を図る考えだったという。執行部の一部幹部が政府と水面下で交渉を重ねてきたことも問題視された。

 過重労働による過労死や自ら死を選ぶ事例が後を絶たない。安心して働ける環境とするため、政労使が利害を超えて対策を講じるべき時でもある。しかし連合執行部は政府の思惑を見極め切れなかった。傘下労組や過労死した人々の遺族からの批判は当然である。

 労使間で決める賃上げについて首相が経済界に求める「官製春闘」が続く。それでも中小、地方をはじめ経営が厳しい企業は少なくないだろう。政府は働き方改革の旗を振るが労働環境の改善は進んでないのが実情ではないか。

 連合の存在意義は問われ続けている。政府との距離を考え直す必要もあろう。今回の迷走を教訓として、方向を確認し態勢を立て直さないことには信頼は取り戻せまい。

連合の迷走 本当に「働く人の代表」か(2017年8月12日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 連合は本当に「働く人の代表」なのか−。一部専門職を「1日8時間、週40時間」の労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」をいったん容認した迷走ぶりに、そう問い掛けたくなる。

 年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発職などが対象で、残業や深夜、休日労働をしても割増賃金が支払われなくなる。成果を上げようとして際限ない長時間労働に陥る恐れがある。

 政府は「時間に縛られず効率的に働ける」と説明し、制度を盛り込んだ労働基準法改正案を2015年4月に国会へ提出した。経済界には対象拡大のため年収要件の大幅引き下げを求める声もある。

 連合は民進、共産両党や過労死遺族などとともに「残業代ゼロ法案」「過労死助長法案」と反対してきた。ところが先月、神津里季生(こうづりきお)会長が安倍晋三首相と会談し、一部修正による容認を表明した。

 修正は祝日を除いても週休2日で達成できる年間休日104日の義務化などだが、これで働く人の健康が守れるか疑問が残る。

 連合傘下の労組や支持関係にある民進党、過労死遺族が驚いたのも無理はない。組織内外の論議を経ないままだった。かねて首相官邸との近さが指摘されていた逢見直人事務局長ら一部幹部が政権側と水面下で交渉した結果という。

 労働運動に政治力が求められる局面もあろうが、議論抜きでいいわけがない。傘下の労組から反発の声が上がったのも当然である。連合本部に抗議のデモが詰め寄る異常事態となり、連合は一転して容認を撤回した。

 しかし政府は今回の修正を反映する改正案を秋の臨時国会に出し直すという。難航していた制度導入に連合が結果的に「助け舟」を出す形になった。混乱は0月が任期満了の連合執行部人事にも波及し、会長昇格が確実視されていた逢見氏は専従の会長代行となり、神津氏が続投の方向になった。

 

 連合は今年で発足30年になる。国内最大の労働団体として働く人に寄り添っているのか。自らの足元を再点検すべきだ。

 

残業代ゼロ法案   働き過ぎを助長するのか(2017年8月3日配信『徳島新聞』−「社説」)

 

 高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の創設を柱とする労働基準法改正案について、連合が容認する姿勢を撤回した。

 過労死遺族らが「残業代ゼロ法案」だとし、「過労死を促進する働き方になる」と批判してきた制度である。傘下の労組からも、容認姿勢に異論が噴出していた。反対の立場に戻ったのは当然だろう。

 政府は政労使の合意がなくても、新制度を修正した上で労基法改正案を秋の臨時国会で成立させたい考えだ。

 しかし、制度にはさまざまな問題が指摘されている。広告大手電通の違法残業事件などをきっかけに、働き過ぎの見直しが叫ばれる中、残業代ゼロはそれに逆行する動きであり、賛成できない。

 制度の対象となるのは、年収1075万円以上の金融ディーラーやアナリスト、研究開発職などである。

 労働時間と成果の関連性が高くないとして、「週40時間、1日8時間」の上限や、残業代、深夜・休日手当を支払うといった労基法の規制の適用外とする。

 政府は働き方の選択肢が増え、時間に縛られず効率的に働けるようになるという利点を挙げる。短時間で集中して成果を出し、仕事を終了できれば労働者にはメリットがあるだろう。

 それでも、高収入の専門職の誰もが、効率良く成果を上げられるわけではない。金融業界などからは、成果主義の強まりや残業の増加を心配する声が上がっている。

 労基法の規制は、働く人を守るための最低限の歯止めである。例外を設けるなら、働き過ぎを防ぐ対策が必要だ。

 連合が先月、改正案を容認したのは、対象者の健康確保措置を強化する修正案で政府と折り合ったからである。

 「年間104日以上かつ4週間で4日以上の休日取得」を義務化し、働く時間の上限設定や勤務間インターバル、連続2週間の休日取得、緊急の健康診断―のいずれかを労使に選ばせるという内容だ。

 ただ、年間104日は週休2日と同じであり、他の措置も過労死を防ぐ決め手にはならない。組織内外から反発を受けたのは無理もなかろう。

 なし崩し的に対象が拡大する懸念も拭えない。

 2005年に同趣旨の「ホワイトカラー・エグゼンプション」が浮上した際、経団連は年収400万円以上を対象とするよう主張していた。

 制度を導入した後、経済界からの要請で年収要件が下げられたり、対象業種が広げられたりする可能性がある。

 政府は改正案と、残業時間の上限規制を盛り込んだ働き方改革関連法案を一括して審議する方針だという。

 だが、過労死を助長しかねない新制度と、長時間労働を防ぐための法案を一本化するのは矛盾している。

 残業時間規制は上限を厳しくした上で、新制度とは分けて成立を図るべきだ。

 

「労働は人生に味をつける塩である」。17世紀の…(2017年8月3日配信『高知新聞』−「小社会」)

 

 「労働は人生に味をつける塩である」。17世紀の英国の聖職者トーマス・フラーの言葉という。労働という塩の味付けで人生が豊かになればいい。だが長い間、長時間労働が習い性になり、過労自殺が問題化している日本である。

 労働者の生活と健康を守ることを使命とする連合の中枢が、ぐらぐらと揺れている。「高度プロフェッショナル」という、何やら難しそうな制度の導入を巡る問題だ。

 かつての「残業代ゼロ」法案といえばわかりやすい。高収入の金融ディーラーや研究開発など一部労働者を、労働基準法が定める労働時間規制の対象から外す制度だ。連合は「過労死を助長する」などとして一貫して反対してきた。

それが一転、連合執行部は今年、政府の法案を修正する方針に変更。連合会長が安倍首相に修正を提案した。ところが「修正は容認」とする批判が組織の内外から殺到し、結局、政労使での合意は見送りになった。

 辛うじて原点に戻った形だが、一般労働者の不安は根強い。最初は一部の労働者でも、労働者派遣法で限定的だった対象者が次々に拡大されていった例もある。連合の修正要請を反映させるという政府の法案の中身も流動的だ。

 連合の一部の幹部が政府と交渉し、一般の労働者は寝耳に水だった。東京の連合本部に多数の労働者が抗議に詰めかけた日もあった。デモをする総本山がデモをかけられる。連合よ、どこを向いている。

 

「残業代ゼロ」と連合/働く人の命と健康第一に(2017年8月2日配信『河北新報』−「社説」)

 

 失った信頼を取り戻すのは容易なことではあるまい。

 高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」創設を含む労働基準法改正案を巡って、迷走した連合のことだ。

 残業代がゼロになり、過労死を助長しかねないと、一貫して反対してきたにもかかわらず、健康確保対策の強化を条件に事実上の容認に転じ、法案を修正することで、いったんは政府と合意した。

 だが、その方針転換は十分な組織討議を経ておらず、共に反対してきた民進党、過労死で家族を失った人たちとの議論や調整もなく唐突に過ぎた。傘下の労働組合などから「認められない」「裏切りだ」との強い批判が噴出した。

 予想以上の反発を受け、今度は容認姿勢を撤回。経団連を加え予定していた政労使による修正合意を見送った。

 政府と水面下で交渉し、混乱を招いた連合執行部の責任は重大だ。労働組合の中央組織として、働く人たちの権利と暮らしを守るというその原点を見失ったに等しい。「独走」を猛省すべきである。

 もっとも、政府による「からめ手」からの攻めはしたたかだった。格差是正を図る同一労働同一賃金と共に、残業時間の上限規制を盛り込んだ「働き方改革関連法案」と、労基法改正案を一本化し、秋の臨時国会で一括審議するとの戦術をちらつかせた。

 長年の悲願である残業上限規制の実現を「人質」に取られ、連合は改正案で譲歩を迫られた形だ。国会で与党が多数を占め法案成立が見込まれる中、少しでも改善できるならと修正を求めたとされる。

 だが政労使合意見送りを受けても、政府は連合が求めた健康確保措置を盛り込み法案を修正した上で、従来方針通り、働き方改革関連法案との一括成立を目指すという。

 しかし、この一括審議にはそもそも矛盾がある。一方は残業に上限を設け労働時間規制を強化しようとする動きであるのに対し、他方は、その労働時間規制の緩和であり、規制に「例外」を設けようという取り組みである。

 真逆の事柄なのだから、本来、別々に国会に提出され審議されてしかるべき案件だ。政府に強く再考を求めたい。

 残業代ゼロは、認め難い。連合の修正要求も形ばかりの内容といえる。健康確保対策とした年間104日の休日確保義務付けは週休2日制にすぎず、働く時間の制限はない。臨時の健康診断を含め追加された措置も不十分で、過労死の危険は消えていない。

 しかも、いったん導入されれば、年収要件が引き下げられ対象職種が拡大される恐れを否定できない。

 連合は反対に「回帰」した。働く人たちの命と健康を守るために、民進党を含む同志とスクラムをどう組み直し、手ごわい政府といかに渡り合うか。信頼の回復に向け、その行動が問われている。

 

労基法改悪;労働者守る視点忘れるな(2017年8月2日配信『福井新聞』−「論説」)

 

人の命を削って長時間労働させる法律があってよいのか。いかにも経済成長路線を猛進する安倍政権の政策らしいが、基本的人権を保障しないような法改正を強行させてはならない。

専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を含む労働基準法改正案のことだ。

安倍政権は2015年4月、改正案を国会に提出したが、野党や連合が猛反発し、2年以上にわたり一度も審議されてこなかった。

働き方改革を進める政府は、残業時間に罰則つき上限を設定、過労死ラインとされる月100時間に「未満」を付けるなどして、3月に政労使で合意した。

一方で高プロの導入を計画。この二つの改正案を一本化して秋の臨時国会に上程、早期成立を図る構えだ。菅義偉官房長官は「働く方々の健康を確保しながら多様で柔軟な働き方を実現するために重要な法案」と位置付ける。

連合はこれまで一貫して「残業代ゼロ法案」と批判してきたはずだ。しかし、神津里季生会長は安倍晋三首相に健康確保措置を拡充する修正案を提示し、7月中に政労使のトップ会談で修正に合意する方向にこぎつけた。ところが、傘下の産別や地方組織から異論が噴出、迷走の末に方針撤回を余儀なくされた。

執行部の唐突な方針転換の理由も不明確で議論の積み上げもない。連合は神津会長の続投方針を固めたようだが、幹部の独断専行は日本最大の労働組合組織としてあってはならないことだ。労働者の権利と暮らしを守る労働基準法の原点に立ち返るべきである。

高プロの対象は、年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発職など「働いた時間と成果の関連性が高くない」とされる専門職だ。法定労働時間を超えて働いても、深夜・休日勤務をしても残業代が支払われないことになる。

連合の修正案は、新制度が定めている健康確保措置を強化し、年間104日の休日の確保を義務付けることなどを盛り込んだ。だが働き過ぎを防止する効果は極めて疑わしく、過労死の遺族からも批判や失望の声が上がったのは当然だ。

そもそも、政府側にすりより水面下で交渉を進めるという政労癒着の構造は労働現場を無視したものだ。その直接の交渉役だった逢見直人事務局長は、会長に昇格する方向で調整が進んでいたというから驚く。

連合が従来の要求型から「協議型」で新たな活路を開くとしても、政権が仕掛けた舞台に引き込まれては存在意義が薄れる。労働者の信頼を得るためにも、もっと開かれた連合へ出直すべきではないか。

日本の労働生産性は35カ国中20位、先進7カ国(G7)では最下位だ。違法なサービス残業がはびこる中で、新制度はどう影響するか。長時間労働を助長する懸念が強く、残業代ゼロを広げるのが経営側の本音ではないのか。「例外なき働き方改革」が必要だ。安倍政権には任せておけない。

 

連合の迷走 労働者守る原点に戻れ(2017年8月1日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 残業代の支払いなど労働時間に関する規制から一部の専門職を外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)」を含む労働基準法改正案について、修正を条件にいったん容認の姿勢を見せた連合が、最終的に政労使での修正合意を見送った。

 「残業代ゼロ法案」と制度を強く批判してきたのに、7月半ば、執行部が一転、容認に転じたのは驚きだった。「組合員への裏切り行為だ」などと組織内で批判を浴び、合意見送りを迫られたのは当然である。

 混乱を招いた執行部の責任は重い。連合はあらためて従来の反対方針を明確にし、高プロ制度導入を阻止する考えだが、まずは組織の立て直しや信頼回復が求められる。

 この制度は、高収入の専門職を「労働時間は1日8時間まで」「時間外労働には割増賃金を支払う」と定めた規制の対象外にするものだ。

 連合や野党は「残業代ゼロ」「過労死が増える」と反対してきた。しかし連合執行部は衆参両院で圧倒的多数を占める与党によって、労基法の改正は避けられないと考えたようだ。神津里季生(こうづ・りきお)会長が安倍晋三首相と会談し、修正を要請していた。

 執行部とすれば、上限規制のための現実的な選択のつもりだったのかもしれない。だが連合の修正案にしても実効性があるかどうかは疑わしい。

 「年間104日の休日確保の義務化」のほか「連続2週間の休日取得」「臨時の健康診断」などから労使に選ばせ、働き過ぎ防止を図るというものだ。しかし労使の力関係から現実には有名無実化してしまうのではないか。

 制度に対し、労働界は「残業代ゼロ」で、際限なく働かされかねないとして反対してきた。

 いったん導入されれば、対象が高収入労働者以外にも拡大していく恐れがある。

 長時間労働を助長し、残業を規制する動きに逆行するものではないか。過労死事件の遺族も懸念を募らせている。

 安倍政権は「官製春闘」をはじめ、政労使会議などでの関与を強めてきた。その流れで連合執行部も政府にすり寄ろうとしているとの見方もある。姿勢を正さねばなるまい。

 連合が修正合意を見送ったことで、白紙に戻るかといえば、そう単純ではない。

 政府は連合の修正案を反映させた労基法改正案を、残業時間の上限規制と抱き合わせ、秋の臨時国会に提出する構えだ。菅義偉官房長官も「労働者団体の代表の意見を重く受け止め、検討する」と持ち上げてみせた。

 というのも、労基法改正案は2015年4月に閣議決定されたものの、労働界から「残業代ゼロ法案」と批判され、2年以上審議が先送りされてきた背景がある。

 政労使合意はなくても連合の主張を取り込んだ方が、残業規制を含む働き方改革関連法案と一括成立させるためには得策と判断したようだ。乱暴なやり方と言わざるを得ないが、今回の執行部による修正要請が、政府への「助け舟」になった面は否めない。

 連合は迷走を猛省し、高プロ制度にいま一度、反対姿勢を強く打ち出す必要がある。同時に働く人の権利や生命を守る原点に立ち返らねばならない。

 

[残業代ゼロ法案] 労働者守る原点に返れ(2017年8月1日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を含む労働基準法改正案について、連合は条件付きで容認する方針を撤回した。

 連合は政府に年間104日の休日義務化などの修正を要請、政労使での合意を目指していた。だが、組織の内外から異論が噴出し、方針転換を余儀なくされた形だ。

 神津里季生連合会長は新制度への反対姿勢を「基本的なスタンスとして堅持する」と述べた。それでも、修正を申し出た事実は消えず、今後の組織のかじ取りは難しくなろう。

 連合は、迷走を招いた判断の誤りを反省すべきだ。労働者の権利を守るという原点に返り、信頼回復に努めてもらいたい。

 新制度は年収1075万円以上の金融ディーラーなどが対象だ。法定労働時間を超えて働いても深夜・休日勤務をしても残業代が支払われず、「残業代ゼロ法案」との批判は強い。

 国会では与党が圧倒的な多数を占めることから、連合は成立が避けられないなら少しでも働き過ぎを防ぐ仕組みを、と修正を提案した。

 しかし、修正案は休日確保を義務付けたものの、追加措置は労使で選ぶことになっているなど、企業に対する要求は緩やかだった。働き過ぎの歯止めになるかどうかは極めて疑わしい。

 執行部が政府と水面下で折衝し、修正を要請する直前まで組織内に説明していなかったことも、独走だとして不信感を高めた。中央執行委員会などで批判が相次いだのは当然といえる。

 神津会長は臨時の中執で一連の混乱を謝罪した。意思決定過程や政権との距離の取り方などを反省し、丁寧に説明を尽くすことが求められる。

 一方、政府は連合が要請した休日確保措置などを盛り込んで修正する方針を固めた。秋の臨時国会で、残業時間の上限規制などを含む働き方改革関連法案と一括成立を求める方針だ。

 経団連は新制度の年収要件の引き下げにしばしば言及しており、適用対象が拡大される可能性は否定できない。

 そうした法案を、残業時間を規制する見返りのように一本化して審議するやり方は、納得しがたい。過労死が社会問題となっている今、まずは長時間労働の抑制を先行させるべきではないか。

 労働者のために何が必要か。連合はしっかり検討を重ね、問題点を厳しく指摘してもらいたい。国会でも労働環境の改善に向けた徹底的な論議を求めたい。

 

労働時間規制緩和 労働者守る原点に返れ(2017年7月31日配信『茨城新聞』−「論説」)

 

 一部の専門職を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を含む労働基準法改正案について、連合は条件付きで容認する方針を撤回した。連合は新制度の修正を政府に要請し、政労使による合意を目指していたが、異論が相次いだためだ。連合は迷走を招いた判断の誤りを反省し、労働者の権利を守る原点に返ってほしい。

 連合は「残業代ゼロ」で労働者を働かせる制度だとして新制度に反対してきたが、神津里季生会長が安倍晋三首相に健康確保措置を拡充する修正案を示し、7月中に政労使のトップ会談で修正に合意する方向となっていた。しかし、傘下の労働組合などから反対の声が続出したため、27日の中央執行委員会で方針を転換した。

 政府は秋の臨時国会に新制度を柱とする労基法改正案を提出して成立を図る方針だが、連合が再び反対の姿勢を明確にしたことで、見通しは不透明となってきた。

 新制度の対象は、年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発職など「働いた時間と成果の関連性が高くない」とされる専門職。法定労働時間を超えて働いても深夜・休日勤務をしても、残業代が支払われない。

 連合の修正案では、新制度が定めている健康確保措置を強化し、年間104日の休日の確保を義務付けることなどを盛り込んだ。しかし、修正案は企業に対する要求が緩やかで、働き過ぎを防止する効果は極めて疑わしい。「新制度には反対」と言いながら政府に修正を求めるやり方そのものが分かりにくく、批判が起きたのは当然である。執行部が政府と水面下で折衝し、修正を要請する直前まで組織内に説明しなかったことも、独走だとして不信感を高めている。修正提案は、新制度の導入が阻止できないなら少しでもましな制度にする方がよいという判断ゆえだろう。

 しかし、改正案の国会審議が2年以上も先送りされている状況で、政府を助けるような提案をするのは理解できない。連合は安倍政権に接近し過ぎているとの批判がある。政権との距離感に問題はないか顧みるべきだ。

 神津会長は組織内に混乱を招いたとして謝罪した。経緯を丁寧に説明し信頼を回復する努力が欠かせないが、果たして納得が得られるだろうか。何らかのけじめをつけるよう求める声が高まるかもしれない。

 新制度の内容を再検討すると、あらためて問題が多い制度だと言わざるを得ない。政府は時間に縛られない効率的な働き方ができると説明するが、違法なサービス残業がはびこる現状では、新制度は長時間労働を助長する懸念が強い。順番として、長時間労働の抑制を先行させるべきではないか。

 年収要件が引き下げられ、適用対象が拡大される可能性も否定できない。経団連はしばしば年収要件の引き下げに言及してきた。新制度をアリの一穴として、残業代ゼロの働き方を広げるのが経営側の本音ではないかと疑われても仕方ない。

 これほど働く人に影響の大きい制度を十分に議論しないまま導入するようなことがあってはならない。連合はあらためて新制度の問題点を厳しく指摘すべきであり、政府も労基法改正案の成立を急いではならない。まず徹底的に議論することが必要だ。

 

「脱時間給」制度 職種を限定した導入は妥当だ(2017年7月31日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 働き方改革を停滞させぬよう、引き続き政労使の協調関係構築へ向けて努力すべきだ。

 高収入の専門職を労働時間規制の対象外とする「脱時間給」(高度プロフェッショナル)制度の導入を巡り、政府、経団連、連合の政労使合意が見送られた。

 一時は条件付き容認を表明した連合が、態度を転じたためだ。かねて「長時間労働を助長する」と反対してきただけに、組織内の反発が強く、撤回を余儀なくされた。政労使協調を主導した事務局長の会長就任も立ち消えになった。

 組織内外の信頼を大きく損ねた連合執行部の責任は重い。

 政府は、連合が求めていた健康確保策を強化した上で、新制度導入を含む労働基準法改正案を今秋の臨時国会に提出する方針だ。

 労基法は、労働時間を「1日8時間、週40時間」と定め、これを超える残業や深夜・休日労働に対して、割増賃金の支払いを企業に義務づけている。

 新制度には、この規定が適用されない。賃金は働いた時間に関係なく、成果や能力に応じて決まる。既存の裁量労働制も実労働時間にかかわらず、一定時間働いたとみなして賃金が決まるが、割増賃金などが適用される点で異なる。

 企画力や発想力が問われる仕事では、働いた時間と成果は必ずしも一致しない。短時間で成果を出すより、漫然と長く残業する方が賃金が高くなる現行制度になじまないのは、明らかだ。こうした職種は増えている。

 一定の職種について、本人の同意を条件に、賃金と労働時間を切り離すことは、妥当だ。生産性向上の効果も期待できる。

 対象は、為替ディーラーなどの高度専門職で、年収1075万円以上の人が想定される。法案には、平均賃金の3倍超と明記する。雇用者の3%未満とみられる。

 労働側には、残業代の負担という経営側にとっての歯止めがなくなることで、「際限なく働かされる」との懸念が強い。

 工場労働や一般事務職に適用されれば、そうした事態も起こり得よう。対象は、個人の職務範囲が明確で、働く時間や仕事の進め方を自分で決められる職種に限定することが重要である。

 働き過ぎの防止策も欠かせない。新制度では、一定の休日確保などが義務づけられる方向だ。

 野党は「残業代ゼロ」と批判するが、長時間残業ありきの考え方だろう。レッテル貼りではなく、建設的議論が求められる。

 

労働時間規制緩和/労働者を守る原点に返れ(2017年7月31日配信『山陰中央新報』−「論説」)

 

 一部の専門職を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を含む労働基準法改正案について、連合は条件付きで容認する方針を撤回した。連合は新制度の修正を政府に要請し、政労使による合意を目指していたが、異論が相次いだためだ。連合は迷走を招いた判断の誤りを反省し、労働者の権利を守る原点に返ってほしい。

 連合は「残業代ゼロ」で労働者を働かせる制度だとして新制度に反対してきたが、神津里季生会長が安倍晋三首相に健康確保措置を拡充する修正案を示し、7月中に政労使のトップ会談で修正に合意する方向となっていた。しかし、傘下の労働組合などから反対の声が続出したため、27日の中央執行委員会で方針を転換した。

 政府は秋の臨時国会に新制度を柱とする労基法改正案を提出して成立を図る方針だが、連合が再び反対の姿勢を明確にしたことで、見通しは不透明となってきた。

 新制度の対象は、年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発職など「働いた時間と成果の関連性が高くない」とされる専門職。法定労働時間を超えて働いても深夜・休日勤務をしても、残業代が支払われない。

 連合の修正案では、新制度が定めている健康確保措置を強化し、年間104日の休日の確保を義務付けることなどを盛り込んだ。しかし、修正案は企業に対する要求が緩やかだと指摘を受ける。「新制度には反対」と言いながら政府に修正を求めるやり方そのものも分かりにくかったのではないか。

 執行部が政府と水面下で折衝し、修正を要請する直前まで組織内に説明しなかったことも、独走だとして不信感を高めている。修正提案は、新制度の導入が阻止できないなら少しでも良い制度にするという判断だろう。

 しかし、改正案の国会審議が2年以上も先送りされている状況で、判断は正しかったのか。野党側からは、連合は安倍政権に接近し過ぎているとの批判がある。政権との距離感に問題はなかったかチェックも必要だ。

 神津会長は組織内に混乱を招いたとして謝罪した。経緯を丁寧に説明し信頼を回復する努力が欠かせないが、果たして納得が得られるだろうか。何らかのけじめをつけるよう求める声が高まるかもしれない。

 新制度の内容を再検討すると、政府は時間に縛られない効率的な働き方ができると説明するが、違法なサービス残業がはびこる現状では、新制度は長時間労働を助長する懸念が強い。政策の順番として、長時間労働の抑制を先行させるべきではないか。

 年収要件が引き下げられ、適用対象が拡大される可能性も否定できない。経団連はしばしば年収要件の引き下げに言及してきた。新制度をアリの一穴として、残業代ゼロの働き方を広げるのが経営側の本音ではないかと疑われても仕方ない。

 これほど働く人に影響の大きい制度を十分に議論しないまま導入するようなことがあってはならない。連合はあらためて新制度の問題点を厳しく指摘すべきであり、政府も労基法改正案の成立を急いではならない。まず徹底的に議論することが必要だ。

 

残業代ゼロ容認撤回 過重労働規制こそ優先を(2017年7月31日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 働く人を守る労働組合として当然の結論だ。高収入の一部専門職を残業代支払いなど労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を条件付きで容認していた連合が、容認を撤回した。

 「残業代ゼロ法案」として批判されてきた労働基準法の改正案だ。連合はぶれた姿勢を反省した上で、従来通り反対を貫き、労働者を守る原点に立ち返るべきだ。

 一方で政府は、連合が要請した休日確保措置などを盛り込んで修正する方針だ。残業規制を含む働き方改革関連法案とセットでの成立をもくろんでいる。水と油のような両法案を切り離し、過重労働や残業時間の規制を優先して徹底審議するよう強く求める。

 連合は「残業代ゼロ法案」に一貫して反対してきたが、13日に神津里季生会長が安倍晋三首相に一転して修正案を示し、7月中に修正に合意する方向となっていた。しかし、組織内で十分な議論をしないまま執行部が方針転換をしたことに、傘下の組合や過労死遺族などから予想以上の猛反発をくらっていた。

 「安倍1強」の中で、原案通り成立するよりは妥協して修正案を出す方が得策との考えが働いたようだ。だが、支持率が低下して屋台骨がぐらついている安倍政権に、結果的に助け船を出した形になっていた。

 労働者を守る組織として存在意義を見失った独断は、厳しく非難されるべきだ。目を向けるべきは、政権にすり寄ることではなく、働く者の健康と権利を守ることだ。

 連合が要請した条件は、年収1075万円以上の専門職に、「年間104日の休日」を義務化した上で「連続2週間の休暇取得」「勤務間インターバルの確保」「臨時の健康診断」など4項目から労使に選ばせる内容だった。

 しかし、新制度導入を推進する経団連は、第1次安倍政権時代に「年収400万円以上」と主張していた。一度、新制度が成立してしまうと、アリの一穴で制限は緩和され、長時間労働が増えていくのは火を見るより明らかだ。

 政府は連合の主張を取り込み、秋の臨時国会に提案する構えだ。2015年に提案後2年以上一度も審議されてこなかったので、まずは審議入りを目指す狙いなのだろう。

 政府が狡猾(こうかつ)なのは、残業時間の上限規制を盛り込んだ「働き方改革法案」と、新制度を導入する「労働基準法改正案」を一本化して一括審議を図る点だ。残業規制を人質にしているとしか思えない。

 最優先すべきは長時間労働の抑制だ。法案を切り離して別個に審議した方がいい。

 過重労働の改善は喫緊の課題であり、時代の要請である。県内484企業を対象にした調査でも56%が働き方改革に取り組んでいると答えた。

 働く者の健康や生命に関わる残業時間抑制の法案を優先して早期に成立させ、残業代ゼロ法案は廃案にすべきだ。

 

揺れる連合 労働者守る原点に返れ(2017年7月30日配信『岩手日報』−「論説」)

 

 連合が揺れている。労働時間規制に関する法律改正をめぐり、執行部の判断が内部から反発を招き、方針を撤回する羽目に陥った。

 組織内の意思疎通はどうなっているのか。執行部は一体どこを向いているのか。そんな懸念を抱かせた。

 問題となったのは、高収入の一部専門職を残業代支払いなど労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」。連合の神津里季生会長が今月中旬に安倍晋三首相と会い、同制度の内容修正を求めたことだ。

 これは、条件付きながら、事実上の容認に他ならない。それまで「残業代ゼロ法案」「過労死を促進する」などと反対してきた労働界には転換は認め難いはずだ。

 連合執行部が政府と水面下で交渉したと伝えられ、傘下の労組には「寝耳に水」だった。労組内外から厳しい批判の声が沸き起こるのは当然と言えよう。支持政党である民進党との亀裂も深まった。

 働く人たちが連合本部前で抗議デモを展開するという異例の出来事も起きた。連合内部の動揺は大きかったに違いない。

 高度プロフェッショナル制度が導入されるか否かは、労働時間規制にとって分岐点になりかねない局面だ。それだけに、意見を集約せずに上層部だけで重大な判断を下したのは疑問だ。

 結局、容認撤回を余儀なくされた。臨時中央執行委員会で見送る方針を決め、神津会長が謝罪した。傘下の労組から不信を買ったばかりか、政界、経済界から足元を見透かされた。威信は低下し、深い傷を負った。

 この問題は会長選びに波及。神津氏が10月に任期満了となり、逢見直人事務局長の就任が有力だったが、政権側との交渉の窓口となって主導したのが逢見氏だったことで、人事構想は流動化した。

 傘下労組からの批判に加え、政府内からは「けじめ」を求める声も聞こえるという。体制への影響は免れないのではないか。

 労組の組織率低下に歯止めがかからない。労組に対する期待が薄れているとも指摘される。今こそ労働者の権利を守る原点を見つめ直したい。

 連合は地域での地道な活動も行っている。例えば若者をめぐる労働トラブル増加を受けては、ルールを学ぶ講座を各地で開設。2年前からは岩手大でも提携して開講、学生の意識向上につなげている。また、今夏は盛岡市で、教職員の長時間労働是正を訴えるシンポジウムを共催した。

 労働界を代表する日本最大組織の連合に託される役割はなお大きい。その責務を自覚し、今回の混乱を重い教訓としなければならない。

 

「働き方改革」(2017年7月30日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

「残業代ゼロ制度」は撤回を

 安倍晋三政権が秋の臨時国会で成立を狙う「残業代ゼロ」法案の修正をめぐって、連合は27日の中央執行委員会で「残業代ゼロ制度」の容認を撤回しました。執行部の一部修正の方針に対して、連合内部からの批判に加え広範な労働組合と市民団体から強い批判が相次いだためです。「残業代ゼロ」法案は撤回しかない―。これが労働者・国民の声であることが改めて浮き彫りになりました。

日本の労働法制を覆す

 法案の「高度プロフェッショナル制度」(「残業代ゼロ制度」)の最大の問題は、労働時間規制を完全になくすことにあり、文字通り日本の労働法制を根幹から覆すものです。日本共産党は「(残業時間は週15時間、月45時間までとする等)大臣告示も守らず、過労死ラインを超える長時間労働をすすめる大企業に、こんな法律をあたえるなら、いよいよ長時間労働に歯止めがきかなくなる」(2015年2月、志位和夫委員長の衆院予算委員会)と一貫して追及、撤回を求めてきました。

 「残業代ゼロ制度」を導入しようとする政府の主張には、いくつもごまかしがあります。

 一つは、年収1075万円という高収入に限定するという点です。経団連は「年収400万円以上」を提言しています。塩崎恭久厚生労働相も「小さく生んで大きく育てる」と明言しています。年収要件は法案に明記されていません。いったん導入されたなら、どんどん対象が広がります。

 二つは、時間でなく成果で評価されるという点です。これは法案に書かれていませんが、成果主義賃金を導入した職場では、長時間労働がまん延しています。労働者は、成果をだすために、時間と体力の限界を超えて働かざるを得ない立場に追いやられます。そのうえ、労働時間規制をはずせば、際限のない労働に追い立てられることになります。

 三つは、「健康確保措置」をとるという点です。「年104日以上の休日」をあたえて「健康確保」するといいます。しかし、104日の休日で休めるのは週2日だけです。お盆も正月もゴールデンウイークも有給休暇もありません。年261日は、無制限の長時間労働をおしつけられます。

 こんな制度が導入されたなら、過労死が激増するのは火を見るよりも明らかです。だからこそ、広範な労働組合、市民団体が強く反対してきました。この2年間、政府が国会に法案を提出したものの審議できなかったのは、それだけ反対の声が強いからです。

 日本共産党は「残業代ゼロ」法案撤回とともに長時間労働と過労死をなくすための緊急提案を発表(3)、実現に向け各団体と懇談してきました。残業上限規制に例外を設けず、週15時間、月45時間、年360時間とする大臣告示の法定化とともに、勤務から次の勤務までの間に連続11時間の休息時間を設けること、長時間労働の温床となっている裁量労働制等の規制強化などが共産党の提案です。

国会内外の国民的運動を

 共産党、民進党、自由党、社民党は、長時間労働を規制する法案を国会に共同で提出しています。労働者・市民と野党との共同の力で、「残業代ゼロ」法案を撤回させ、長時間労働規制の法改正を実現しましょう。

 

連合の撤回 労働者守る原点に立て(2017年7月29日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 連合は、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を含む労働基準法改正案について、政労使による修正合意の見送りを決めた。

 「残業代ゼロ法案」として制度導入に反対してきたにもかかわらず、執行部が法案修正を条件に突然容認に転じ、加盟労組や過労死遺族らの猛反発を受けた。

 容認方針の撤回は当然である。

 傘下の組織に十分な説明もなく、政府や経団連と水面下で調整し、結果的に大きな混乱を招いた執行部の責任は重い。

 神津里季生(こうづりきお)会長は、「運営体制を反省し、しっかり組み立てないといけない」と述べた。

 労働者の権利を守る組織という原点に立ち、信頼の回復に全力を尽くさねばならない。

 高度プロフェッショナル制度は、第1次安倍晋三政権が導入しようとして果たせなかった「ホワイトカラー・エグゼンプション」の焼き直しである。

 「残業代ゼロ」で際限なく働かされかねないとして、労働界が強く抵抗してきた。

 しかも、いったん導入されれば、対象が拡大する恐れがあり、第2次安倍政権でも、国会で2年以上たなざらしとなってきた。

 政府は、残業時間の上限規制と抱き合わせにして、秋の臨時国会に提案する方針だ。

 連合執行部は、上限規制の「実を取る」ため、歩み寄ったとされるが、理解に苦しむ。

 残業上限の「月100時間未満」は、国の過労死ラインと変わらない。論外の緩さだ。

 連合が提案した修正案の中身も実効性が疑わしい。

 健康確保措置として「年104日以上の休日取得」を義務付け、「2週間連続の休日取得」「臨時の健康診断」などの条件の中から労使に選ばせる内容だ。

 多くの企業が、臨時の健康診断を選ぶとみられる。これでは、過労を食い止めるどころか、長時間労働の「免罪符」に利用される懸念もある。

 連合が修正合意を見送っても、政府は、労基法改正案に連合の修正案を反映させるようだ。

 残業時間の上限規制を柱とした働き方改革関連法案の成立を急ぐ姿勢も変えていない。あまりに乱暴なやり方だ。

 労働側の言い分も一応聞いたという体裁だけ繕って、明確な歯止めを欠いたまま、長時間労働を助長しかねない制度を法制化するのは言語道断である。

 

政労使の仕事(2017年7月29日配信『愛媛新聞』−「地軸」)

 

 徹底反対から一転して容認、そしてまた反対へ。「残業代ゼロ」法案を巡り、信じ難い変節を見せた連合の神津里季生会長が、政労使合意を諦めてひと言。「理にかなった判断だった」

▲「あんな法案はいらない」と言いつつ「健康対策を足せば認める」と政権に接近、労働組合なのに抗議デモまでされる事態を招いた反省は薄い。「(容認したという)誤解が広がる選択は取れない」との強弁も、どうにも無理が

▲だが無理を通すのは政府が一枚上手。連合の撤回も「一度首相に修正提案した事実は変わらない」と無視、秋の国会で「働き方改革」関連法案と一括成立をもくろむ。反対はこれからが本番

▲「高度プロフェッショナル制度」では、実働時間に関係なく成果で賃金が決まる。どう考えても、効率的な働き方のためだけなら既存の裁量労働や運用で十分。わざわざ法改正する利点は経営側のコスト削減にしかない

▲首相は先月、同一労働同一賃金に触れ「非正規の時にはなかった責任感ややる気が正規になって生まれる」と述べた。正社員化を目指す政策でもなく、非正規労働者を見下す発言だが、官房長官は「批判する方がおかしい」。過酷な「働かせられ方」を理解しない人たちの進める「働き方改革」が夏なのにうそ寒い

▲「猛暑来るあやまらないで怒る人」今泉かの子。そんな理不尽を日々のみ込み、人は働く。その声に丁寧に耳を傾けるのが、政労使の仕事。

 

(2017年7月28日配信『河北新報』−「春秋」)

 

ただ働きが増える」「長時間労働が適法にされる」「残業代をなくしたい経営側の都合そのもの」。こんな批判が広がっていた。政府が導入を掲げた「高度プロフェッショナル制度」。年収が高い一部の専門職を残業代支払い対象から外す内容だ

▼政府は、働く者を守る目的で労働時間を規制してきた労働基準法の改正案として早期成立を目指す。「時間でなく成果で評価される働き方」と改革を強調するが、非人間的な「残業代ゼロ法案」との異名もある。反対の声を上げるのが、社会問題となった過労死の遺族たち

▼「人を無制限に使える環境になれば、犠牲は後を絶たなくなる」と仙台市の前川珠子さん(52)。東北大准教授だった夫は5年前、東日本大震災で被災した研究室の復旧に日夜没頭した末、うつを発症し自死した

▼遺族の仲間らと「東北希望の会」をつくり、悲劇を防ごうと活動する。肌で感じるのは、逆に「成果」への要求が強まる職場の空気。弱い立場の若い働き手が過労自死し、新たな遺族が活動に加わってくる

▼連合といえば、日本最大の労働者組織。だが、トップが政府との取引に応じて法案をいったん容認し、厳しい批判を受け撤回するという迷走を演じた。残業代ばかりか人の命も削りかねない企業社会に希望はあるのか。

 

連合の迷走 組織の原点に立ち返れ(2017年7月28日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 「残業代ゼロ法案」と批判されている労働基準法改正案について、連合が、政府や経団連との政労使3者による法案修正の合意を取りやめた。

 一貫して反対してきた連合の神津里季生会長が安倍首相と会い、法案の修正を申し入れてから2週間。過労死で家族を失った人たちや傘下の労組からも「裏切り行為だ」「組合員に説明がつかない」と批判が出ていた。東京の連合本部には「勝手に労働者を代表するな」と、働く人たちが抗議に詰めかける事態にまでなった。

 合意の見送りは当然だ。

 混乱を招いた連合執行部の責任は重大である。最大の問題は、これほど重要な検討課題を傘下の労組や関係者と十分に議論しないまま、執行部の一部が政府側と水面下で交渉し、合意へ進もうとしたことだ。

 労基法改正では、残業時間の上限規制が秋の臨時国会で審議される予定だ。神津会長は「残業時間の上限規制と(「残業代ゼロ」導入が)一本化され、強行されるとの危機感があり、少しでも改善できるならとの思いだった」と、修正協議を進めた理由を説明した。反対を貫けば残業時間規制も頓挫しかねないとの判断もあったようだ。

 だが、働く人たちの健康を守り、処遇を改善するための法改正と、「残業代ゼロ」で長時間労働を助長しかねない労働規制の緩和を一緒に進めるというやり方が、そもそも間違いだ。連合は安易な妥協をするべきではなかった。

 修正要求も形ばかりの内容だったと言わざるを得ない。健康確保措置として年間104日の休日取得義務づけを求めたが、これは祝日を除く週休2日制に過ぎず、働く時間の制限はない。追加された措置も、年1回の定期健康診断以外に臨時の健康診断を行うといった内容だ。これで働く人たちの命と健康を本当に守れるだろうか。

 同一労働同一賃金や残業時間の上限規制といった働く人たちの関心が高いテーマについて、安倍政権は政労使で協議する枠組みを作り、そこに連合も参加してきた。

 実のある改革を目指して意見を言うことは必要だが、政府や経済界のペースにのみ込まれていくのは全く別の話だ。労働組合の中央組織として、すべての働く人を代表しているという自覚に欠けていたと言わざるを得ない。

 働く人たちの権利と暮らしを守る。その原点に立ち返らなければ、信頼を取り戻すことはできない。

 

連合が「高プロ」容認を撤回 迷走が残した大きなツケ(2017年7月28日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 所得の高い専門職に残業代なしの成果型賃金を適用する「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)を容認する方針だった連合が態度を一変、撤回を表明した。

 もともとは「残業代ゼロ法案」と反対していたが、執行部が組織内や民進党への調整をしないまま容認に転じ、傘下の労組から反対の声が高まったのだ。

 連合が撤回しても、政府は「年間104日以上の休日確保」を会社に義務づけることを含んだ労働基準法改正案を臨時国会に提出するという。一度は歩み寄った連合の提案を取り入れ、労働者の健康に配慮した姿勢を見せようというのだろう。

 政府の説明によれば、高プロの対象は業務内容も就業時間も自分で決めることができる一部の専門職である。それなのに働き過ぎ防止を会社に義務づけるのは、自分で働く時間を決められない人についても想定しているからだろう。

 高プロが一般職にも広がる恐れがあるからこそ、政府・与党は慎重な審議を余儀なくされ、労基法改正案は2年以上も継続審議とされてきたのではないか。

 連合の提案は「1強」に陰りの見えてきた安倍政権に助け舟を出し、高プロ本来の理念と矛盾する制度にお墨付きを与えたことになる。撤回しても、残した禍根は大きい。

 働き方改革は、連合にとって「踏み絵」でもある。残業時間規制にしても同一労働同一賃金にしても、連合は以前から実現すべき政策課題として掲げていた。しかし、残業代がなくては生活できない従業員は多い。非正規社員の待遇改善をするため正社員の給与水準が下げられることには反対という人も多いだろう。

 一方、経営者側や政府が働き方改革で目指しているのは、生産性向上やコスト削減だ。制度設計の詰めが進む中で労使の対立が顕在化し、内部に矛盾を抱える連合が守勢に立たされる場面が目立ってきた。

 高プロも残業時間規制も、最終的には個々の職場での労使協議で具体的な対象者やルールが決められることになる。労働者の権利を守るためには労組の役割はやはり大きい。

 連合は自覚を持って政策や意思決定のあり方を見直し、組織の立て直しに努めるべきだ。

 

政労使合意なくても労基法改正を確実に(2017年7月28日配信『日経新聞』―「社説」)

 

 労働時間ではなく成果に対して賃金を払う「脱時間給」をめぐって、連合がいったん転じた制度化の容認方針を撤回した。働き手の健康を確保する対策の強化などを内容とした政府、経団連との法案修正の合意は見送る。傘下の労働組合の強い反発が背景にある。

 脱時間給は社会の変化に応じた制度なだけに、連合の執行部が組織をまとめきれなかったのは残念だ。政労使合意は交わせなかったが、成長戦略の観点からも制度の創設を盛った労働基準法改正案は早期成立が求められる。秋の臨時国会で確実に成立させるべきだ。

 長時間労働を助長するとして改正案に反対してきた連合は、このまま法案が成立する事態を避けようと、一時歩み寄りをみせた。脱時間給の利用者には年104日以上の休日取得を義務づけることなどを条件に、この制度を事実上容認する姿勢を政府に示した。

 執行部も想定できなかった反発は新制度に対する労組の拒否反応の強さを表す。しかし、この制度を設ける意義は大きい。

 経済のソフト化・サービス化が進み、成果が働いた時間に比例しない仕事が増えている現実がある。働く時間が長いほど生産が増える工場労働なら時間に応じて賃金を払うことが合理的だが、企画力や独創性が問われるホワイトカラーにはそぐわない。成果重視を前面に出すことで、脱時間給は働く人の生産性向上を促せる。

 脱時間給は長時間労働を招きかねず、残業を規制する動きと矛盾する、とも指摘される。だが新制度では本人が工夫して効率的に働けば、仕事の時間を短縮できる。その利点に目を向けるべきだ。

 今回の混乱を通じ、制度の課題も浮かび上がった。政府は連合から提案のあった休日取得の義務づけなどを前向きに検討し、法案に反映する構えだ。妥当だろう。

 いまの法案では対象者が高収入の一部の専門職に限られるが、今後広げていくのが望ましい。そのためにも健康確保の対策の充実は必要だ。各企業が休日増など独自の対策を講じる手もある。

 労基法改正案には、仕事の時間配分を自分で決められる裁量労働制を提案型の営業職などに広げることも盛られている。この制度も生産性向上への意識を高める。

 政府は改正案を国会に提出後、2年余り棚ざらしにしてきた。働き方改革への姿勢が問われていることを自覚すべきだろう。

 

残業代ゼロ法案 連合は反対を貫き通せ(2017年7月28日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 いわゆる「残業代ゼロ法案」をめぐり混乱していた連合が従来通り反対の立場に戻ったのは当然である。働く人の側に立たないのなら連合の存在意義はない。ぶれずに法案成立阻止に全力を挙げよ。

 以前は「ホワイトカラー・エグゼンプション」、現在は「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」に名称を変えたが、対象となる人の労働時間規制をなくし、残業代なしの過重労働となるおそれがある制度に変わりはない。

 制度が問題なのは、成果を出すために働き続け、成果を出したらより高い成果を求められ、際限なく過重労働が続くおそれがあることだ。労働時間の規制対象外なので過労死が起きても会社の責任を問えない可能性も指摘される。

 他にも問題だらけである。今回の法案は2年前に労働基準法改正案として国会に提出されたが、国民の反対が根強いこともあり、ただの一度も審議されていない。

 制度ができてしまえば年収要件の引き下げや職種の拡大が進むであろうことも容易に想像できる。今は「年収1075万円以上の専門職」が対象だが、経団連の当初の提言は「年収400万円以上」と一般の会社員も想定していた。

 連合は一貫して反対してきたはずである。執行部が組織内で十分な議論を重ねないまま独走し、条件付きで容認する考えを安倍晋三首相に伝えたのは背信といえる行為だ。容認撤回は当然で、地方組織や全国の労働者に動揺を与えたことを猛省すべきだ。

 政府の強引さにもあらためて憤りを覚える。連合も参加した政府の働き方改革会議が3月末にまとめた「実行計画」には、連合が悲願としてきた「残業時間の上限規制」を盛り込む一方、高プロ創設も早期に図るとの一文を入れた。

 政府は「残業時間の上限規制」と高プロを一体で審議することを譲らず、いわば残業規制を「人質」に高プロ容認を連合に迫った格好だからだ。

 連合執行部は、安倍一強体制では反対しても法案は成立してしまうという。しかし、政権の支持率が危険水域に近い状況で、国民の反発が強い「残業代ゼロ法案」を強行に採決できるだろうか。弱体化した政権に塩を送るような対応は政治センスを疑う。

 労働界代表として働く人の健康や暮らしを守る極めて重い使命を自覚しているならば、残業代ゼロというあしき法案は身を挺(てい)しても阻止すべきだ。

外で過ごしたそうだが、こんな誇りに満ちた言葉を残している。「いかなる政府も、手ごわい野党なくしては、長く安定することはできないものなのだ」

 

残業代ゼロ 労働時間規制と切り離せ(2017年7月28日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 一部の専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」について、連合が「条件付き容認」の方針を撤回した。

 残業代がゼロになり過労死を助長すると批判されている制度である。労働者の働く環境に大きな影響が出かねない。

 それなのに連合は組織内の討議を徹底せず、執行部の判断で容認の姿勢を政府に伝えた。中央執行委員会に参加した産業別労働組合などから異論が噴出したのは当然だ。執行部は独走を真摯(しんし)に反省する必要がある。

 考えなければならないのは、高度プロフェッショナル制度の導入案と残業時間の規制案を、秋の臨時国会で一括審議する政府方針の問題点である。

 残業時間規制は働き方改革の一環として、残業の上限を「月100時間未満」とする。労働時間規制の緩和と強化になりかねない内容を一括審議して、賛否を問うことに無理がある。

 残業規制は喫緊の課題になっている。これまでは労使協定に特別条項を加えれば残業時間は青天井だった。過労自殺や過労死も後を絶たない。2016年度の過労死は107件で前年度より11件増えている。

 「月100時間」の上限では、過労死や過労自殺をなくす当初の目標には程遠いものの、上限新設は一歩前進にはなる。国会で問題点を審議する必要がある。

 連合は残業時間規制の導入に長年にわたって取り組んできた。政府は上限設定を「人質」にして、高度プロフェッショナル制度の容認を連合に迫った。「安倍一強」の国会情勢を背景に、「清濁併せのむ」ことを迫る政府のやり方には問題がある。

 高度プロフェッショナル制度に対する疑念はつきない。

 年収1075万円以上の研究開発職や金融ディーラーなど「労働時間と成果の関連性が高くない仕事」を対象とする。残業代などの割増賃金が支払われない。休日付与や残業制限もない。問題点が多く指摘され、法案は2年以上、塩漬けになっていた。それでも政府が導入を急ぐ背景には賃金上昇を抑えたい経済界の要望がある。

 政府は効率的な仕事ができると説明している。それならば制度が労働環境の改善につながるか国会で徹底的に論議し、制度の可否を考えなければならない。

 臨時国会は残業時間規制を優先する必要がある。高度プロフェッショナル制度と残業時間規制を切り離し、法案を練り直すべきだ。

 

労働時間規制緩和(2017年7月25日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

◆働く人の生活守れるか疑問◆

 高収入の専門職を労働時間の規制から外し、残業代を払わない「高度プロフェッショナル制度」について、連合が容認する方針に転じた。新制度を含む労働基準法改正案が次期国会で成立する見通しが強くなったが、長時間労働を助長する恐れがあり、働く人の生活を守れるか疑問である。

 新制度が対象とする労働者は、年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発などの専門職。労働基準法では、労働時間が1日8時間、週40時間を超えるか、深夜・休日勤務をした場合は、企業に割増賃金の支払いを義務付けているが、新制度で働く人にはこの規制が適用されない。

不十分な連合修正案

 連合はこれまで「残業代ゼロ法案」として労基法改正案に反対してきたが、神津里季生会長が安倍晋三首相に新制度が定めている健康確保措置を強化する修正案を示し、これを条件として受け入れる考えを表明した。

 連合の修正案では、これまで選択肢の一つだった「年間104日以上かつ4週間で4日以上の休日の確保」を義務付ける。さらに終業から始業までの間に一定の休息を設ける「勤務間インターバル制度」、労働時間の上限設定、連続2週間の休日取得、臨時の健康診断-の四つのうちいずれかを労使に選ばせる。

 しかしこれで対象者の働き過ぎを防止し、健康を守ることができるだろうか。年間104日の休日は、祝日を除いた週休2日制と同じ日数にすぎない。年1回の定期健康診断とは別の臨時の健康診断は、容易に実施できて経営側には好都合だが、経営側の抵抗が強い他の三つの措置の方が重要だ。四つを並列して選択させるのは理解できない。

 そもそも残業代は経営側にとって長時間労働の抑止力として機能しているが、新制度では深夜や早朝に働いても残業代が払われなくなるため、労働時間が際限なく長くなりかねない。

「残業代ゼロ」に懸念

 長時間労働による過労死が多発し、違法なサービス残業が横行している現状では、時間に縛られず自由な働き方がしたい人の希望に応えるという新制度の理念そのものに疑問符が付く。

 最も心配なのは、新制度の対象が拡大される可能性だ。経営側が年収要件の引き下げを要求することは十分に考えられる。

 神津会長は「(新制度が)必要ないというスタンスは堅持するが、何もしないでいると健康確保措置が非常に弱いままになってしまう」と説明するが、傘下の労組からは納得が得られるだろうか。

 政府は秋の臨時国会に労基法改正案を提出し、残業時間の上限規制などを盛り込んだ働き方改革関連法案とともに成立を目指すが、「残業代ゼロ」の新制度には多くの疑問があり、懸念は強まる。働く人の健康、生活を第一に考え、徹底的に議論をするべきだ。

 

ガンダムのジム(2017年7月23日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

人気アニメ「機動戦士ガンダム」に出てくるジムは、量産型ロボットで性能は高くない。いわば「その他大勢」だ

▼札幌出身で千葉商科大専任講師の常見陽平さんは、この作品に世の中の縮図を見る。著書「僕たちはガンダムのジムである」で、1%のガンダムより、99%のジムのような普通の人の役割こそ大切と説いた

▼連合のホームページに、題して「1億総活躍より1億総安心労働社会を!」という1年前の対談が載っている。神津里季生(こうづりきお)会長が常見さんと意気投合し、労働規制緩和の流れを憂えていた。「隔世の感」を禁じ得ない

▼ジムたちの怒りだろうか。連合本部前で市民有志がデモを行った。普通の働き手たちが「労働者代表」に抗議する前代未聞の事態である。一部専門職を労働時間の規制から外す「残業代ゼロ法案」を巡り、連合執行部が条件付きで容認に転じたからだ

▼同じホームページでは、事務局長時代の神津氏のコラムも読める。「労働基準法の改悪法案」「財界から『小さく産んで大きく育てればいい』という声が出ている」「このような法律を通すわけにいかない」。全くその通り。一体、何が変わったのか

▼安倍晋三首相が振り回すうさんくさい「ドリル」は、岩盤規制に穴をあけるという。しかし、ここで「岩盤」呼ばわりされているのは、長い間、労働者を守ってきたルールだ。連合が盾にならないでどうする。

 

資本論150年(2017年7月23日配信『朝日新聞』−「天声人語」)

 

 挑戦する人は多いが、なかなか通読できない本がある。代表例が、今年で出版150年となる『資本論』だろう。著者のマルクスは生前、難解だと苦情を聞かされると「労働日」の章を読んでくれと言っていたそうだ。英国にはびこる長時間労働を扱っている

▼「わたしたちも普通の人間です。超人ではありません。労働時間が長くログイン前の続きなるとある時点で働けなくなるのです……頭は考えるのをやめ、目は見るのをやめるのです」(中山元〈げん〉訳)。事故を起こしたとして裁判にかけられた鉄道労働者の言葉だという

▼読んでいくと、本当に19世紀の記述なのかという気がしてくる。食事の時間を削られ、働かされる人たちがいる。納期に追われ過労死した若者がいる

▼現代の日本は、またも過労の犠牲を生んでしまったか。新国立競技場の建設工事にあたっていた20代の建設会社員が失踪し、自ら命を絶った。失踪前の1カ月間は211時間の時間外労働をこなしていたという。人間よりも工期が優先なのか、違法状態がまかり通っている

▼残業時間を規制するため法改正の動きはあるが、どうも様子がおかしい。「残業代ゼロ」法案を通そうという流れが同時にあり、将来、規制の抜け道に使われるのではと危惧される。対応をめぐって連合内部で意見が割れ、労働界は大揺れである

▼労働者が死と隷従に追いやられるのを防ぐ。そのための強力な法律を――。マルクスはそんな訴えで章を終えている。悔しいことに、少しも古びてはいない。

 

労働時間規制緩和/働く人の生活を第一に(2017年7月23日配信『山陰中央新報』−「論説」)

 

 高収入の専門職を労働時間の規制から外し、残業代を払わない「高度プロフェッショナル制度」について、連合が容認する方針に転じた。新制度を含む労働基準法改正案が次期国会で成立する見通しが強くなったが、長時間労働を助長する恐れがあり、働く人の生活を守れるか、運用面にはなお高いハードルがある。

 新制度が対象とする労働者は、年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発などの専門職。労働基準法では、労働時間が1日8時間、週40時間を超えるか、深夜・休日勤務をした場合は、企業に割増賃金の支払いを義務付けているが、新制度で働く人には規制が適用されない。

 連合はこれまで「残業代ゼロ法案」として労基法改正案に反対してきたが、神津里季生会長が安倍晋三首相に新制度が定めている健康確保措置を強化する修正案を示し、これを条件として受け入れる考えを表明した。

 連合の修正案では、これまで選択肢の一つだった「年間104日以上かつ4週間で4日以上の休日の確保」を義務付ける。さらに、終業から始業までの間に一定の休息を設ける「勤務間インターバル制度」、労働時間の上限設定、連続2週間の休日取得、臨時の健康診断の、四つのうちいずれかを労使に選ばせる。

 しかし、これで本当に対象者の働き過ぎを防止し、健康を守ることが可能なのか。年間104日の休日は、祝日を除いた週休2日制と同じ日数にすぎない。年1回の定期健康診断とは別の臨時の健康診断は、容易に実施できて経営側に好都合だが、経営側の抵抗が強い他の三つの措置の方がはるかに重要だ。四つを並列して選択させるのは理解できない。

 そもそも残業代は経営側にとって長時間労働の抑止力として機能しているが、新制度では深夜や早朝に働いても残業代が払われなくなるため、経営側が対象者に過大な仕事量を課すようなことがあれば、労働時間が際限なく長くなりかねない。

 長時間労働による過労死が多発し、違法なサービス残業が横行している現状では、時間に縛られず自由な働き方がしたい人の希望に応えるという新制度の理念は実現するのだろうか。

 新制度の対象が拡大される心配もある。年収要件は「1075万円以上」だが、第1次安倍政権で同様の制度が提案された際、経団連は「400万円以上」を求めたことがある。新制度が導入されたら、経営側が年収要件の引き下げを要求することは十分に考えられる。

 労基法改正案は2年以上も国会審議が見送られてきたのに、連合がここで方向転換したのも唐突な印象を受ける。傘下の一部労組からは批判が噴出している。神津会長は「(新制度が)必要ないというスタンスは堅持するが、何もしないでいると健康確保措置が非常に弱いままになってしまう」と説明するが、納得が得られるだろうか。

 政府は秋の臨時国会に労基法改正案を提出し、残業時間の上限規制などを盛り込んだ働き方改革関連法案とともに成立を目指す。「残業代ゼロ」の新制度には多くの疑問が残る。働く人の生活、健康を第一に考え、結論を急いではならない。

 

労働時間規制緩和 働く人の生活を守れるか(2017年7月22日配信『茨城新聞』−「論説」)

 

高収入の専門職を労働時間の規制から外し、残業代を払わない「高度プロフェッショナル制度」について、連合が容認する方針に転じた。新制度を含む労働基準法改正案が次期国会で成立する見通しが強くなったが、長時間労働を助長する恐れがあり、働く人の生活を守れるか疑問である。

 新制度が対象とする労働者は、年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発などの専門職。労働基準法では、労働時間が1日8時間、週40時間を超えるか、深夜・休日勤務をした場合は、企業に割増賃金の支払いを義務付けているが、新制度で働く人にはこの規制が適用されない。

 連合はこれまで「残業代ゼロ法案」として労基法改正案に反対してきたが、神津里季生会長が安倍晋三首相に新制度が定めている健康確保措置を強化する修正案を示し、これを条件として受け入れる考えを表明した。連合の修正案では、これまで選択肢の一つだった「年間104日以上かつ4週間で4日以上の休日の確保」を義務付ける。さらに、終業から始業までの間に一定の休息を設ける「勤務間インターバル制度」、労働時間の上限設定、連続2週間の休日取得、臨時の健康診断−の四つのうちいずれかを労使に選ばせる。

 しかし、これで本当に対象者の働き過ぎを防止し、健康を守ることができるだろうか。年間104日の休日は、祝日を除いた週休2日制と同じ日数にすぎない。年1回の定期健康診断とは別の臨時の健康診断は、容易に実施できて経営側に好都合だが、経営側の抵抗が強い他の三つの措置の方がはるかに重要だ。四つを並列して選択させるのは理解できない。

 そもそも残業代は経営側にとって長時間労働の抑止力として機能しているが、新制度では深夜や早朝に働いても残業代が払われなくなるため、経営側が対象者に過大な仕事量を課すようなことがあれば、労働時間が際限なく長くなりかねない。

 長時間労働による過労死が多発し、違法なサービス残業が横行している現状では、時間に縛られず自由な働き方がしたい人の希望に応えるという新制度の理念そのものに大きな疑問符が付く。

 最も心配なのは、新制度の対象が拡大される可能性だ。年収の要件は「1075万円以上」だが、第1次安倍政権で同様の制度が提案された際、経団連は「400万円以上」を求めたことがある。新制度が導入されたら、経営側が年収要件の引き下げを要求することは十分に考えられる。

 労基法改正案は2年以上も国会審議が見送られてきたのに、連合がここで方向転換したのも、いかにも不透明で唐突な印象を受ける。傘下の一部労組からは「裏切り行為だ」と批判が噴出している。神津会長は「(新制度が)必要ないというスタンスは堅持するが、何もしないでいると健康確保措置が非常に弱いままになってしまう」と説明するが、本当に納得が得られるだろうか。

 政府は秋の臨時国会に労基法改正案を提出し、残業時間の上限規制などを盛り込んだ働き方改革関連法案とともに成立を目指すが、「残業代ゼロ」の新制度には多くの疑問があり、懸念は強まるばかりだ。決して結論を急いではならない。働く人の生活、健康を第一に考え、一から徹底的な議論をするべきだ。

 

「残業代ゼロ」法案 働き方改革には逆行する(2017年7月20日配信『山陽新聞』−「社説」)

  

 政府と連合が、労働界から反対が強かった一部の専門職を残業代支払いなどの労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の導入で合意した。

 連合はこれまで「残業代ゼロ法案」だとして強く反対してきたが、健康確保措置を強化するよう労働基準法改正案を修正する方向で一致した。連合の方針転換で、法案は秋の臨時国会で働き方改革関連法案と一括審議され、成立する見通しが出てきた。

 突然の容認について連合の神津里季生会長は「(制度を)撤回させるのが望ましいが、現実を考えた時に健康管理をここまでやってほしいという思いがある」としている。しかし、労基法改正案は2015年4月に閣議決定され、連合や民進党など野党の反対で2年以上も国会審議が先送りされてきた法案だ。唐突感は否めない。

 連合としては「安倍1強」の政治状況の下、少しでも労働者に有利な条件を法案に盛り込ませたいという狙いなのだろう。「テロ等準備罪」などの与野党対決法案が、巨大与党の数の力で何度も押し切られたこともあっての判断と思われる。

 だが、電通事件などで「過労死」が社会問題としても大きくクローズアップされている。政府が進める長時間労働是正の「働き方改革」とも整合性が取れておらず、過労死遺族が反発するのも当然だ。連合の判断は流れに逆行しているのではないか。

 新制度は、年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発などの専門職が対象となる。仕事の成果に応じた賃金にすることで、政府は「時間に縛られず効率的に働ける」などとしている。

 修正案は休日確保を義務付けるほか、終業から始業の間に一定の休息を設ける「勤務間インターバル」や、連続2週間の休日取得―などから働き過ぎ防止策を労使に選ばせる内容になるという。

 ただ、連合が支持する民進党には困惑が広がっているようだ。連合会長と安倍晋三首相のトップ会談で合意が行われたことで、これまでの共同歩調から、突然蚊帳の外に置かれる格好になった。野党共闘などを巡っての両者の溝がさらに深まる可能性がある。

 傘下の労組から異例の反対声明が出るなど、連合内部にも批判の声がある。修正方針を確認するため、きのう予定されていた政府や経団連との3者トップ会談は、連合内部の調整がつかないことから延期された。今後、十分な理解が得られるかどうかは不透明と言えよう。

 いったん労働時間規制の適用除外が一部にでも導入されれば、将来なし崩し的に対象が拡大するのでは、との懸念も拭えない。過労死やうつ病など労働者に犠牲を強いてきたこれまでの日本の過酷な労働環境を抜本的に見直す。連合はそのことを、いま一度再認識すべきであろう。

 

過労労災最多 「心の病」を防がねば(2017年7月19日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 過労死などの労災申請者数が2016年度に過去最悪となった。特に増えているのが長時間労働やパワハラを原因とする「心の病」による労災申請。それも正社員が多くを占めるのが特徴だ。

 厚生労働省が発表した過労死等労災補償状況によると、脳・心臓疾患や心の病で労災申請した人は前年度よりも約百人増え、2400人余に上った。 

 急増しているのが心の病によるもので、全体の6割超を占める。心の病での労災認定498人と過去最多で、自殺者数は未遂も含め84人だった。

 心の病による労災申請が右肩上がりに増えている背景について、厚労省は過労死等防止対策推進法の施行などで「業務による精神疾患が労災認定の対象になると周知されてきたため」と説明する。しかし、それだけではないだろう。

 全労働者に占めるパートなど非正社員の割合は4割近くに達している。企業は非正社員を増やす一方、正社員の数を絞り込んでおり、正社員に仕事の負荷がかかる状況になっている。労災申請も圧倒的に正社員によるものが多い。職場の労働環境は改善されていないと言っていいだろう。

 労災認定された人々の年代別では、30歳以上が前年度とほぼ同じだったのに対し、20歳代が20人増の107人と突出して増えている。余裕がないため、入社間もない社員を教育期間もないまま、即戦力として働かせる企業が増えていると専門家は指摘する。

 また、労災認定の理由は、パワーハラスメントを含む「ひどい嫌がらせ、いじめ、暴行」が「仕事内容・量の大きな変化」などを上回り、初めて最多となった。全国の労働局、労働基準監督署に寄せられる相談件数も16年度、「いじめ・嫌がらせ」が7万件超と5年連続でトップになっている。

 人間関係が荒廃している職場が増えているのかもしれない。経営者はいま一度、社内を巡察してみたらどうか。

 性的嫌がらせ、セクシュアルハラスメントや妊娠、出産を理由とする嫌がらせマタニティーハラスメントは法律で定義され、企業は防止するための体制整備が義務付けられている。だが、パワハラについては規定はない。法定化は待ったなしだ。

 また、違法な働かせ方から自らを守るため、子どものころから労働法制を教えることを国に義務付ける法案が超党派議連で検討されている。一歩でも前に進めたい。

 

連合「残業代ゼロ」容認 改悪に加担する背信許されない(2017年7月19日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 日本最大の労働組合の全国中央組織である連合が、労働者に背を向けて政権にすり寄る、まさかの「変節」を見せた。

 連合の神津里季生会長が安倍晋三首相と会談。「高度プロフェッショナル制度」を創設する労働基準法改正案を巡り、健康確保対策の強化を条件に法案を修正することで一致した。「残業代ゼロ法案」として、野党や労働界が何年も徹底反対してきた悪名高い改正案の、事実上の容認という百八十度の方針転換である。到底看過できず、強い憤りをもって反対する。

 神津氏は「あんな制度はいらないとの考え方は変わらない」と述べながら、修正で「(健康対策という)実」を取るために容認したという。だが、微々たる修正では法案の本質は何も変わらない。執行部の独断に、傘下労組からも反発が噴出した。信を失った体制を直ちに改め、容認の撤回と、今秋の臨時国会での成立阻止を強く求めたい。

 「高度プロフェッショナル制度」は、高収入の一部専門職を労働時間規制の対象から外し、時間ではなく仕事の成果に応じた賃金にする制度。首相は「ホワイトカラー・エグゼンプション」の呼称だった第1次政権時代から「時間に縛られず効率的な働き方ができる」とうたい、これまで国会審議が4度も先送りされたにもかかわらず、執拗(しつよう)に法改正をもくろんできた。

 しかし新制度は、会社が決めた成果を達成できなければ何時間働いても残業代は払われず、どう見ても経営側のコスト削減のメリットしかない。第一、既存の裁量労働制の援用で「効率的な働き方」は十分可能。安倍政権が掲げる「働き方改革」の「真意」が漏れ透ける。

 神津会長が「譲れない一線」とした健康対策も、現状と大差ない休日確保以外は「労使の選択制」で、実効性は極めて不透明。そもそも働き方改革の実行計画でも、残業時間の上限規制で過労死ラインとされる「月100時間」に「未満」を付加して胸を張った前歴がある。命に危険が及ぶ長時間労働の「合法化」に、連合が加担した事実を決して忘れてはならない。

 唐突な変節には、10月に任期が切れる連合会長人事も絡むという。首相と「密会」し、今回の容認を水面下で主導したとされる事務局長が昇格すれば、歯止めはなくなるも同然。連合の支持を受ける民進党も、政権と癒着する連合と距離を置き、多くの国民が望む「労働者保護、脱原発、反改憲」に明確にかじを切るべき時機ではないか。

 労働法制は、立場の弱い労働者の命と人権を守る最後のとりで。その「改悪」の片棒を労組が担ぐとは、労働者への背信に他ならない。社会の安全網たる労組の推定組織率は昨年末で17.3%。労組離れが進む中、まともな働き方を求める役割さえ放棄するのなら、もはや「労働者の代表」の名には値しない。誰のための労組か、猛省とともに考え直してもらいたい。

 

「残業代ゼロ」法案 疑問多い連合の方針転換(2017年7月17日配信『熊本日日新聞』−「社説」)

 

 高収入の専門職を労働時間規制や残業代支払いの対象から外し、仕事の成果に応じた賃金を支払う「高度プロフェッショナル制度」について、導入に反対していた連合が容認姿勢に転じた。新制度を含む労働基準法改正案は働き過ぎを防ぐ措置を強化する方向で修正され、秋の臨時国会で働き方改革関連法案と一括審議される見通しとなった。

 これまで連合は、労基法改正案を「残業代ゼロ」法案と呼んで反対してきたが、残業の上限規制を柱とする働き方改革法案との抱き合わせでの受け入れを政府から迫られ、やむなく方針転換した格好だ。しかし、唐突な翻意には傘下の労働組合からも批判の声が噴出している。雇用主に比べ力の弱い労働者をどこまで守れるのかも疑問だ。新制度が「アリの一穴」となり、労働時間規制がなし崩しに甘くなる懸念もある。

 高度プロフェッショナル制度は、年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発などの専門職が対象。政府と連合は、年104日の休日を企業に義務づけることで合意したほか、(1)仕事を終えて次に働き始めるまでに一定の休息を設ける「勤務間インターバル制度」(2)働く時間の上限設定(3)連続2週間の休日取得(4)臨時の健康診断−のうちいずれかを労使に選ばせることでも一致した。決められた時間を超えて働いた場合は残業代を支払わない「裁量労働制」に関しては、連合側が対象業務の明確化を求めた。

 内閣支持率が急落し、東京都議選で自民党が惨敗を喫した直後だけに、連合の譲歩は政権にとって渡りに船だったろう。秋の臨時国会で連合や野党が反対したまま重要法案の採決を強行すれば、世論のさらなる反発は必至だからだ。

 とはいえ、年104日の休日は祝日を除いた週休2日制にすぎない。四つの選択肢の中には経営側が選びやすい案も盛り込まれた。さらに、新制度が導入されれば対象者の労働時間の把握が甘くなる恐れがあり、現場からは、成果主義の過剰な高まりやサービス残業の増加を心配する声も出ている。

 日本では長い間、長時間労働が容認されてきた。労働時間の上限を1日8時間、週40時間とする労基法の規制を「形骸化している」とみる労働者も多い。しかし、電通の違法残業事件などをきっかけに、まともな働き方を求める機運が高まり、安倍政権もようやく働き方改革に着手した。

 ここで新制度を導入すれば、対象者は働き方改革の枠から外れることにもなりかねない。政府は「時間に縛られずに効率的で柔軟な働き方ができる」と強調するが、規制は労働者の命と健康を守るための最低限の歯止めだ。

 働いた時間ではなく成果で評価を、との考えは理解できるが、まずは長時間労働の解消に注力し、過労死や過労自殺をなくすことが先決ではないか。過酷な労働環境を肌身で知る過労死遺族が、新制度導入に繰り返し反対していることも重く受けとめるべきだ。

 

[「残業代ゼロ」容認]連合の存在意義揺らぐ(2017年7月17日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 労働界の反対で2年以上審議入りできなかった「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を柱とする労働基準法改正案が、成立に向けて動きだした。「残業代ゼロ法案」と批判してきた連合が、容認へと舵(かじ)を切ったからだ。

 高収入の一部専門職が対象とはいえ、「働き方改革」に矛盾する制度である。連合の突然の方針転換も不可解に映る。

 高プロは年収1075万円以上の金融ディーラー、研究開発などの専門職を労働時間の規制や残業代支払いの対象から外し、仕事の成果に応じた賃金にする仕組みだ。

 労基法が労働時間の上限を1日8時間、週40時間と定め、超えた場合は残業代支払いを義務付けているのは、労働者を守る目的からである。残業代は企業に長時間労働を抑制させるブレーキともなっている。

 連合の神津里季生会長は安倍晋三首相に健康確保措置を強化する修正を求めた上で、要請受け入れを条件に容認する考えを表明した。

 連合が求める修正は「年104日以上の休日」を義務付けるほか、終業から始業まで一定の休息を設ける「勤務間インターバル」、働く時間の上限設定、連続2週間の休日取得−などから一つを労使に選ばせる内容だ。

 労働者の立場は弱く、会社に求められれば長時間労働は避けられない。規制の枠外となれば、労働基準監督署の監視など外部の目も届きにくくなる。

 健康確保措置の実効性が見通せない中、残業増加や成果主義の強まりが懸念される。

■    ■

 政府は秋の臨時国会で、残業規制や同一労働同一賃金を盛り込んだ働き方改革関連法案と高プロ創設を一括審議しようとしている。

 神津会長が「やむにやまれずという思いだ。あんな制度はいらないとの考え方は変わらない」と語るのは、悲願である残業規制を導入するための政治的駆け引きということなのか。

 一方、政府が連合の要請を受け入れる方針を示しているのは、労働者保護の色彩の強い法案と抱き合わせることで、批判を和らげたいとの思惑からだろう。

 しかし罰則付きの残業の上限規制や非正規労働者の処遇改善のための同一労働同一賃金など働く人を保護する法案と、労働時間を規制する法案では整合性を取るのが難しい。

 そもそも一括審議にはなじまない。

■    ■

 「ホワイトカラー・エグゼンプション」の名で導入が議論された10年以上も前から、連合は「残業代ゼロ法案」として反対を続けてきた。

 それだけに今回の方針転換は唐突で、傘下の労働組合から激しい批判を浴びている。重要な判断にもかかわらず、組織内部の調整など決定に至ったプロセスにも疑問の声が上がる。

 電通の違法残業事件をきっかけに、働き方を見直す機運が高まっている。

 制度導入にこのまま突き進めば、働く者の代表である連合の存在意義は揺らぐ。

 

残業代ゼロ法案 働く者の命守れるのか(2017年7月17日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 働く者の命や権利を守る労働組合として、果たして妥当な判断だろうか。「残業代ゼロ法案」として批判されてきた制度の導入を、連合が条件付きで容認した。

 この方針転換で法案成立の公算が大きくなり、長時間労働や過労死に拍車が掛からないか、強く懸念する。連合は働く者を守る原点に返り、容認方針を撤回すべきだ。

 今回の制度は、高収入の一部専門職を残業代支払いなどの労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」が柱だ。年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発などの専門職が対象で、残業や深夜・休日労働をしても割増賃金が支払われない。

 2015年に閣議決定されたが、野党や過労死遺族からの反対が根強く、2年以上も塩漬けになっていた。連合も強く反対してきたが、健康確保対策の強化という条件を付ける形で容認に転じた。唐突感が拭えず、政治的駆け引きに屈したとしか思えない。

 連合は、政府から水面下で働き方改革の残業規制と抱き合わせでの受け入れを迫られたという。このため、労働基準法改正案が現行案で成立するよりは、修正という形で実を取った方がいいと判断した。

 連合の神津里季生(りきお)会長が安倍晋三首相と面談して修正を求め、政府は応諾した。修正点は「年間104日以上かつ4週間で4日以上の休日取得」を義務付けた上で、「勤務間インターバルの確保」「連続2週間の休暇取得」「臨時の健康診断」などの選択肢から労使に選ばせるという内容だ。

 しかし、この条件だけでは、働き過ぎを助長するという法案の問題点は改善できない。会社から過大な成果や仕事を求められる心配があり、健康診断さえ受ければ際限なく働けるともなりかねない。長時間労働の歯止めになるのか、極めて疑わしい。

 さらに、連合自体が従来批判してきたように、「残業代ゼロ」制度がいったん導入されると、規制が徐々に緩められていく恐れは残る。実際、経済界からは対象拡大のために年収要件を下げるべきだとの声が既に出ている。

 連合の「変節」には内部や傘下労組から批判が噴き出している。政権に接近し、労働者の立場をなおざりにしたともいえる動きは不可解だ。

 今回の労基法改正案には、決められた時間を超えて働いても残業代が支払われない「裁量労働制」の対象拡大も盛り込まれている。長時間労働対策に逆行する法案だ。

 過労死や長時間労働の解決策は喫緊の課題だ。電通の違法残業事件を機に政府も重い腰を上げ、働き方改革に取り組むようになった。

 だが、働き方改革関連法案と「残業代ゼロ」法案を国会で一括審議する方針だ。相いれない法案同士をセットで通すやり方はおかしい。働く者を守るため、廃案を求めていくことこそが労働団体としての連合の本分ではないか。

 

労基法の改正 懸念と疑問がつきない(2017年7月16日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 一定年収以上の専門職を労働時間の規制から外し、残業や深夜・休日労働をしても会社が割増賃金を払わない制度の創設が現実味を帯びてきた。

 制度を盛り込んだ政府の労働基準法改正案に反対してきた連合が容認姿勢に転じ、神津里季生会長が安倍首相と会って一部修正を要望した。首相も受け入れる意向で、改正案を修正し、秋の臨時国会で成立を目指す。

 だが、残業代の負担という経営側にとっての歯止めをなくせば、長時間労働を助長しかねない。そう連合自身が指摘してきた問題点は残ったままだ。方針転換は傘下の労働組合にも寝耳に水で、あまりに唐突だった。修正の内容、検討過程の両面で、懸念と疑問がつきない。

 連合の修正案は、今は健康確保措置の選択肢の一つである「年104日以上の休日取得」を義務付ける。さらに、労働時間の上限設定▽終業から始業まで一定の休息を確保する「勤務間インターバル制度」▽2週間連続の休日取得▽年1回の定期健康診断とは別の臨時の健康診断、の四つからいずれかの措置を講じるというものだ。

 だが、この内容では不十分だ。過労死で家族を失った人たちや連合内からも批判と失望の声があがっている。

 年104日は祝日を除いた週休2日制に過ぎない。しかも4週で4日休めばよいルールなので、8週で最初と最後に4日ずつ休めば48日連続の勤務も可能だ。働く時間の制限もない。

 また四つの選択肢には、臨時の健康診断のような経営側が選びやすい案がわざわざ盛り込まれた。これで労働時間の上限設定や勤務間インターバル制度の普及が進むだろうか。

 労働団体にとって極めて重要な意思決定であるにもかかわらず、連合は傘下の労働組合や関係者を巻き込んだ議論の積み上げを欠いたまま、幹部が主導して方針を転換した。労働組合の中央組織、労働者の代表として存在が問われかねない。

 この規制緩和は経済界の要望を受けて第1次安倍政権で議論されたが、懸念の声が多く頓挫した。第2次政権になり2年前に法案が国会に提出されたが、これまで一度も審議されず、政府の働き方改革実現会議でもほとんど議論されていない。

 臨時国会では同一労働同一賃金や残業時間の上限規制が柱の「働き方改革」がテーマになるが、これに紛れ込ませて、なし崩しに進めてよい話ではない。

 働く人の権利と暮らしを守る労働基準法の原点に立ち返った検討を求める。

 

「残業代ゼロ」 誰のための連合なのか(2017年7月15日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 連合の神津里季生会長が、年収の高い専門職を残業代支払いなど労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を柱とした労働基準法改正案について、安倍晋三首相に修正を申し入れた。

 首相は修正に応じる見通しで、連合は「残業代ゼロ法案」として強く反対してきた制度の導入を事実上、容認することになる。

 神津会長が、修正点として要求した働き過ぎの防止策が、長時間労働の歯止めになるかどうか、極めて疑わしい。

 不可解で唐突な方針転換と言わざるを得ない。傘下の労組や過労死遺族の団体が強く反発するのは当然だ。

 「変節」と非難されても仕方あるまい。安易な条件闘争に走るのは裏切りである。

 「高度プロフェッショナル制度」は、金融ディーラーなど年収1075万円以上の専門職を対象とし、残業や深夜・休日労働をしても割増賃金が支払われない。

 「残業代ゼロ」と批判されるゆえんだ。

 連合側の修正は、「年104日以上かつ4週間で4日以上の休日取得」を義務付けた上で、「2週間連続の休日取得」「臨時の健康診断」といった条件の中から労使に選ばせるという内容だ。

 104日の休日は週休2日とほとんど変わらない。

 臨時の健康診断に至っては、「診断を受ければ働かせてもいい」とも受けとれ、むしろ長時間労働を助長させるのではないか。

 しかも、いったん導入されれば、突破口となって、対象が拡大する恐れがある。かつて経団連は「年収400万円以上」での導入を提言していた。

 首相に修正を申し込むまでの経緯にも問題がある。

 修正内容については、連合執行部の一部メンバーが政府や経団連と水面下で調整してきたとされ、傘下の労組には直前まで方針転換を伝えられなかった。

 残業規制を巡っても、今春、神津会長と、経団連の榊原定征会長とのトップ会談の結果、「月100時間未満」で決着した。

 これは厚生労働省の過労死ラインと同水準で、上限規制と呼ぶに値しない。

 春闘を見ても、近年は安倍政権が経済界に直接賃上げを要請する形が続いている。

 労働者の代表としての存在意義さえ疑われる状況だ。誰のため、何のために連合はあるのか、突き詰めて問い直すべきだ。

 

「成果型労働制」連合が容認 生活と健康を守れるのか(2017年7月15日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 所得の高い一部の専門職に残業代なしの成果型賃金を適用する「高度プロフェッショナル制度」の導入を連合が容認した。「残業代ゼロ法案」との批判を受けて2年以上も継続審議になっていた労働基準法改正案が成立に向けて動き出す。

 政府は、年間104日以上の休日確保を企業に義務づけるなど連合の要請に沿って法案を修正するが、これで労働者の生活と健康が守られるのか疑問だ。今後は専門職以外に適用が広げられる懸念もある。

 高度専門職とは年収1075万円以上のコンサルタントや研究開発職などとされている。労働時間規制から外れ、残業代もない。会社から高いレベルの成果を求められれば、いや応なく労働時間は延びるだろう。

 政府と連合は企業に「年間104日以上の休日確保かつ、4週間で4日以上の休日取得」を義務づけることなどで合意した。しかし、週休2日にすれば有給休暇を含めずに年間104日になる。これで健康に特段の配慮をしたとは思えない。

 適用される年収の基準は省令で定められることになっており、今後対象が拡大される可能性もある。

 以前、「ホワイトカラー・エグゼンプション」という残業代なしの制度が議論された際、経営側は「700万円以上」や「400万円以上」を対象とするよう主張した。残業時間が長い割に成果の上がらない中高年の給与削減が狙いなのは明らかだ。制度が導入された後に対象拡大を求めることは容易に予想できる。

 労使委員会の決議や本人の同意も必要とされているが、労働組合の組織率は2割を下回る。また、「高度専門職」とはいえ会社の管理下で長年働いてきた労働者が会社の要請をどこまで拒否できるかも疑問だ。

 こうした数々の懸念がぬぐえないことから、連合は「成果型労働制」に強く反対してきた。なぜこのタイミングで政府と合意したのか。「(与党多数の)政治状況の中で(健康確保が)不十分なまま改正案が成立するのは耐えられない」と言うが、やはり唐突感は否めない。

 秋の臨時国会に提出される労基法改正案の目玉は残業時間規制だ。過労死をなくすための法案に、残業代ゼロの「成果型労働制」を盛り込むのはつじつまが合わない。

 

連合の姿勢 原点を忘れてないか(2017年7月15日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 安倍政権が導入を目指す「高度プロフェッショナル制度」を連合が容認した。

 「残業代ゼロ」とも批判される制度だ。健康確保を条件としたとはいえ、対象者の働きすぎに拍車が掛からないか懸念される。

 連合の神津里季生会長は「制度の撤回が一番望ましいが、現実を考えたときに健康管理をここまでやってほしいという思いがある」と理由を述べている。

 政治的駆け引きに傾きすぎていないか。安心して働ける環境をつくるという労働団体の基本を忘れてもらっては困る。

 この制度が始まると、金融ディーラーやコンサルタント、研究開発職などに就く年収1075万円以上の人は、労働時間の規制や残業代支払いの対象から外れる。政府は、時間に縛られない効率的な労働につながるとうたう。

 しかし、過大な成果や仕事を求められて際限なく働くことになりかねない。労働基準監督署の監視の目から漏れやすくもなる。経済界からは、対象を広げるため年収要件の引き下げを望む声があり、過重労働がさらにはびこる危うさが指摘されている。

 小泉政権時の2006年に制度導入が浮上した際、反対したのは連合だった。安倍政権は制度を盛った法案を国会に提出済みで、民進党を中心に連合に呼応して野党は審議入りを拒んできた。

 連合―日本労働組合総連合会は50の産業別組織などが加盟し、686万人の組合員を持つ国内最大の労組中央組織だ。

 民進党を支援するものの、最近は野党共闘や原発政策を巡って溝を深めている。逆に首相や自民党役員との会合を重ね、政権・与党との距離を縮めている。

 今回も連合は、水面下で安倍政権に制度の撤回を求めた。政府側は残業規制を引き合いに「全部パーにするか、清濁併せのむか」と容認を迫ったという。

 過労自殺も過労死も後を絶たない。働き方の改革は、不満と不安を募らせている労働者と家族の要請だ。「できるものならパーにしてみろ」と言い返せばいい。

 連合の幹部は「テーブルに着けば政権の思惑にのみ込まれ、着かなければ何も実現できない」と嘆く。労働者の意思を背景に主張を貫くことを忘れ、言葉通り政治にのまれている証しだろう。

 連合執行部への批判が強まっている。働く者・生活する者の集団として世の中の不条理に立ち向かい、克服する―。原点に返らねば求心力を失うことになる。

 

残業代ゼロ法案/不可解な連合の方針転換(2017年7月15日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 働く者を守る労働組合として首をかしげる判断だ。

 「高度プロフェッショナル制度」として一部専門職を残業代支払いの対象から外す労働基準法改正案について、連合の神津里季生(りきお)会長が安倍晋三首相と会談し、一部修正の方向で一致した。事実上の容認である。

 傘下の労組からは批判の声が上がる。連合は前身の計画を小泉政権が2006年に閣議決定して以来、「残業代ゼロ法案」として10年以上、反対してきた。組織決定を得ず転換したのでは、混乱が生じて当然だ。

 社会問題化した長時間労働を肯定するとの批判がある法案を、なぜ認めるのか。執行部はきちんと説明する必要がある。

 法案は年収1075万円以上の一部専門職を対象に、残業代支給や深夜割り増しなどの規制をなくす。本人と労使が合意すれば導入でき、健康確保策として、年104日以上の休日取得など3項目から一つを選ぶ。

 神津会長は休日取得を義務づけ、さらに健康診断や労働時間の上限設定など4項目から一つを選んで加えるよう求めた。

 安倍政権は「働き方改革」を掲げており、秋の臨時国会で法案審議入りの可能性は高い。可決される前に修正を勝ち取ろう、との判断という。

 しかし、年104日の休日は全労働者平均より10日も少ない。他の健康確保策を組み合わせても、過重労働の抑止効果がどこまであるのか疑問だ。

 ひとたび労働規制を緩和すれば、経済界は対象者の拡大を政府に働きかけるだろう。今回の改正案の対象は給与所得者の4%程度だが、年収や職種の見直しによって対象が広がることは十分に考えられる。

 連合には、そうした事態を招かないよう歯止めをかける責任がある。そのことをしっかり自覚しなければならない。

 民進党は連合とともに法案に反対してきたが、今回の方針転換を明確に知らされず、はしごを外された格好だ。連合が政権との協調を重視したといえる。

 安倍政権は「政労使」の会談の場を設け、連合を取り込んできた。しかし労働組合は政権の諮問機関ではない。働く者を守る原点に立ち返り、労組としての一線を守るべきだ。

 

「残業代ゼロ」法案 制度の本質変わらない(2017年7月15日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」が実現する可能性が出てきた。長時間労働を助長する「残業代ゼロ法案」と反対してきた連合が、働かせ過ぎを防ぐ対策を強化する修正案と引き換えに、事実上容認に転じたからだ。

 連合側は「制度の内容は大幅に改善される」と強調するが、過労につながりかねない制度の本質は変わっていない。対象となる働き手を守れるかどうか。疑問と不安は消えていない。

 労働時間ではなく、成果に対して賃金を払う「脱時間給」制度とも呼ばれる。もともとは経済界が「企業の競争力の強化につながる仕組み」として要望してきたものだ。

 高度な専門性が必要な職種に限定し、労働基準法の規制から外す。残業代を支払う義務もない。金融ディーラーやアナリストなどを想定。年収の目安は1075万円以上、本人の同意や労使合意が条件となる。

 政府は2015年4月、制度の導入を盛り込んだ労基法改正案を国会に提出。働き方の選択肢を増やし、時間に縛られず効率的に働けるとメリットを強調したが、労働界や野党から「残業代ゼロ法案」などと猛反発を受け、これまで一度も審議されることなく、2年以上もたなざらしとなっていた。

 ところが、連合の神津里季生(こうづ・りきお)会長がおととい、安倍晋三首相と会談し、制度の修正を要請。政府は受け入れ、秋の臨時国会に修正した労基法改正案を再提出する方針で、成立に向けて動きだした。

 高度プロフェッショナル制度では、働く時間は労働者に任されているため、歯止めがきかなくなって長時間労働につながる恐れがある。働き方改革との整合性も問われてくる。唐突に映る方針転換に対し、連合傘下の組織からも反発、抗議の声が上がったのも当然といえよう。

 政府は秋の臨時国会で、制度創設を盛り込んだ労基法改正案とともに、罰則付きの残業時間の上限規制などを含めた働き方改革関連法案を一括して審議する構えだ。批判の多い制度創設を残業時間の規制強化と一緒に審議することで世論の理解を得やすくなるとの思惑が透ける。

 連合からすれば、制度創設に表立って反対すれば、一括審議で行われる残業規制の導入にも影響しかねないとの判断があったのかもしれない。神津会長は首相との会談後、「撤回が望ましいが、現実を考えたときに健康管理をここまでやってほしい思いがある」と述べた。

 修正案では、年104日以上の休日取得を義務化するとともに、働く時間の上限設定や2週間の連続休暇、臨時の健康診断などから労使に選ばせ、働き過ぎ防止を図るとしている。

 ただ、効果そのものが疑問視され、いったん導入されれば、なし崩し的に対象が拡大されていく懸念もある。会社から過大な成果や仕事を求められ、過労死の危険性は残ったままだ。

 柔軟で多様な働き方を否定するつもりはないが、日本の過酷な労働環境を考えれば、まず長時間労働から働く人の命と健康を守る施策から取り組みたい。高度プロフェッショナル制度の議論は、残業時間の上限規制を実現した後にスタートしても遅くないはずだ。

 

言い換えてもダメ(2017年7月15日配信『中国新聞』−「天風録」)

 

 核災。詩人若松丈太郎さんは原発事故をそう呼ぶ。福島第1原発から25キロの南相馬市に住む者として憤りをにじませて。人間が核を誤用し、起こした災害なのだ。事の本質を見抜いて突く、詩人らしい言葉である

▲真実を覆い隠したい側からすれば、目をそらさせ、オブラートに包める言葉こそ都合がいい。「共謀罪」も本質を隠して「テロ等準備罪」と言い換えた。東京五輪のテロ防止に不可欠とも言いくるめ、強引に可決した

▲これもその類いか。残業代ゼロ法案だ―と、野党や連合が反対してきた労働基準法改正案だ。「脱時間給」制度とも報じられるが、実際、高収入の専門職に残業代を払わないでよくなる。政府は「高度プロフェッショナル制度」と呼ぶ

▲この名称では内容が分からない。「高い技能を持つ専門家」とおだてて通すつもりか。ところが反対してきた連合のトップが一転、条件付きで容認した。長時間労働を助長し、健康を損なわせるのか、と反発が上がる

▲演説にやじを飛ばす聴衆を「こんな人たち」と首相は呼んだ。「自分に盾突く連中」と言いたいのを我慢し、ぼかしたのか。だが当然、非難された。言い換えても駄目なものは駄目である。

 

【残業代ゼロ法案】働き方改革と整合しない(2017年7月15日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 「残業代ゼロ法案」として、野党や労働界が批判してきた「高度プロフェッショナル制度」を盛り込んだ労働基準法改正案を、政府が修正する方針を決めた。

 高収入の専門職を労働時間規制と残業代支払いの対象から外し、成果に応じて賃金を決める新制度で、法案は国会で2年以上にわたり継続審議になってきた。

 制度はそのままに、休日の拡充など健康確保措置を強化する方向だ。法案に反対してきた連合からの修正要請を受けた対応だが、民進党は反対姿勢を崩していない。制度容認に転じた連合に対し過労死遺族らから反発も噴き出している。

 政府が「岩盤規制」改革の一環とする新制度を巡っては、ノルマの押し付けなどで勤務時間が無制限化したり、対象がずるずると拡大したりする懸念が拭えていない。修正案が提出される秋の臨時国会で徹底審議を求める。

 現法案は「年間104日の休暇取得」など三つの措置のいずれかを企業に課す。連合はこれに「連続2週間の休暇取得」などを加えるよう求めるが、仮に健康対策が強化されたとしても、長時間労働の歯止めになるかは不透明だ。

 成果を迫られる労働者が現実の職場で、休日や休息を制度通りに消化できるだろうか。政府や経済界は「時間に縛られない効率的な働き方」が進むとするが、能力などには個人差もある。ノルマや納期に追い立てられるなど、休めなくなる事情はいくらでも想定されよう。使命感が強ければなおさらだ。

 最高裁は、契約以上の超勤を続けていた勤務医の年俸に残業代は含まれないと判示した。医師は新制度の対象外とはいえ、曖昧な勤務契約への警告と言える。

 新制度の原型は第1次安倍内閣で持ち上がった「ホワイトカラー・エグゼンプション」。労働時間規制を一部除外する制度で、経団連が年収400万円以上を対象に要望した提言を基にした。年収1075万円以上とする新制度にも経済界から拡大の要望が強まるのは必至だ。

 労基法改正案には、労使が合意した「みなし時間」を超えても残業代が支払われない裁量労働制の対象拡大も盛り込まれた。サービス残業を助長する懸念から反対する民進党に対し、連合は対象業務の明確化を求めた上で容認する方向だ。働き方改革で安倍政権と接近する連合の現実的な思惑だろうか。

 政府は新制度で勤務時間の規制緩和に踏み込む一方、残業の上限規制などを強化する働き方改革関連法案との一括成立を目指す。整合性が問われる。非正規労働者の待遇改善などをアメとして使い、新制度への批判を抑え込もうという狙いも透けて見える。

 過重労働による過労死や自殺が後を絶たない。その根絶は日本社会の喫緊の課題である。政労使が利害を超えて議論を深め、根本的な解決策を探り出さなければならない。

 

[残業代ゼロ法案] 修正で労働者守れるか(2017年7月15日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 連合が、「残業代ゼロ法案」と批判してきた高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を、一転して容認する方針を表明した。

 安倍晋三首相と神津里季生連合会長が、年104日の休日義務付けなど、働き過ぎを防ぐ措置を強化するよう修正する方向で一致した。

 秋の臨時国会で働き方改革関連法案と一括審議され、成立する可能性がある。

 だが、成果主義が広がることや、残業の増加を懸念する声は強い。修正によって本当に労働者を守れるのか、なし崩しに対象が拡大していかないか。国会で十分に検討を行わなければならない。

 高度プロフェッショナル制度は年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発などの専門職が対象だ。政府は規制を外すことで時間に縛られない効率的な働き方ができるとする。

 連合は休日確保を義務付けるほか、追加措置として(1)終業から始業までに一定の休息を設ける「勤務間インターバル」(2)働く時間の上限設定(3)連続2週間の休日取得(4)臨時の健康診断―の中から労使で選ぶよう修正を求めた。

 しかし、これだけで十分な歯止めとなるのだろうか。

 労働時間規制の対象外なので深夜や早朝に働いても残業代は生じない。健康診断さえ受ければ休日以外は際限なく働くことにもなりかねない。「生身の人間」である以上、過労死の危険は消えない。

 連合が容認へ方針転換したことに、傘下の労組から不満が噴出している。

 執行部側は、与党の圧倒的多数を背景に政府案がそのまま成立するより、「修正が必要」との現実的立場を主張する。

 一方、反対派は「過労やハラスメントが横行している実態とかけ離れている」として「小さな穴を開けてはならない」と強調する。

 連合内部や支持する民進党との間で議論は十分行われたのか。疑念を抱かざるを得ない。

 政府は働き方改革の一環として3月に、「繁忙期の上限を月100時間未満、年720時間」とする残業の上限規制をまとめ、法改正に向けた議論を進めている。

 罰則付きで実効性を担保するとはいえ、「月100時間前後」のいわゆる過労死ラインを許容するとの誤った認識が広がる恐れもある。

 残業代ゼロ法案にも新たな残業上限規制にも、過酷な労働環境を知る過労死遺族らは繰り返し反対している。政府も企業も真摯(しんし)に受け止め、改善を図るべきだ。

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