「茶髪で生まれたら普通じゃないの?」 黒染めを強要された女子高生提訴

 

「地毛証明書」「無言給食」 学校のルールを考える /  / 論説

 

「誰のための学校なのか」 頭髪黒染め強要

 

「茶髪がいると評判下がる」 / 大阪府立高校6割「地毛登録制度」−生まれつき茶髪な生徒は届出

 

学校の頭髪指導 / 「“ブラック校則”をなくそう!プロジェクト」

 

「黒染め強要は人権侵害」池上彰さんが語るブラック校則の問題点

 

<校則>昔より今が厳しく 眉毛、下着の色…細かく規制

 

 

大阪府立高の黒染め強要訴訟

 

 地毛が茶色なのに学校から黒染めを強要され不登校になったとして、大阪府羽曳野市の府立懐風館高3年の女子生徒が2017年9月、府に約220万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。黒染めで頭皮がかぶれ、精神的苦痛を受けたという。府側は争う姿勢を見せている。

 

 

髪の毛が生まれつき茶色いにも関わらず、教員から黒染めをするよう強要され、精神的苦痛を受けて不登校になったとして、大阪府羽曳野市の2つの高校を統合し、2009年に設立した府立懐風館(かいふうかん)高校3年の女子生徒(18)が府に226万円の損害賠償を求め、大阪地裁に提訴した。

 

大阪府教育庁は取材に「事実関係も含め、係争中なので取材には応じられない」とした。

 

高校生の頭髪をめぐっては、色を染めたりパーマをかけたりしていないか見分けるための「地毛証明書」を、東京都立高校の多くが一部の生徒に提出させていることが明らかになっているが、大阪教育庁によると、府立高校で同様の仕組みがあるか否かは「把握していない」という。

 

大阪地裁で第1回口頭弁論が10月27日開かれた。生徒側は「黒染めの強要は、生まれつきの身体的特徴を否定し、人格権を侵害する」と主張。府側は「適法だ」と反論した。

 

生徒は生まれつき髪の色素が薄く、2015年4月の入学時、教諭から「その色では登校させられない。黒く染めてこい」と言われた。生徒はそれに応じて黒く染めたが、色が落ちるたびに「不十分だ」などと注意され、2年の2学期以降は4日に1回は指導を受けるようになった。 

 

自宅には常時、10個ほどの髪染め剤を置き、度重なる使用で生徒の頭皮はかぶれ、髪はぼろぼろになった。教諭から「母子家庭だから茶髪にしているのか」と言われたり、指導の際に過呼吸で倒れ、救急車で運ばれたりしたこともあった。文化祭や修学旅行には茶髪を理由に参加させてもらえなかった。

 

生徒は2016年9月、教諭から「黒く染めないなら学校に来る必要はない」と言われ、不登校になった。

 

校則には頭髪の規定がないが、入学時に配る「生徒心得」には「パーマ、染髪、脱色は禁止する」と記載。学校側はこれを指導の根拠としており、生徒の代理人弁護士に「たとえ金髪の外国人留学生でも規則で黒く染めさせることになる」と説明したという。

 

 

他人事ではないーー。この問題をそんな風に感じている人たちは、少なくない。自らも過去に「黒染め強要」を受けたことがある別の女子高生が、BuzzFeed Newsに思いの丈を語った。

 

自らも過去に「黒染め強要」を受けたことがある別の女子高生は、「私が、黒染め強要を差別だと感じる理由は、生まれ持ったものを無理矢理変えなければいけないということです。髪色を好き好んで生まれてきたわけでもないのに、髪色のせいで人格まで否定されたり、なぜここまで地毛のせいで辛い思いをしなければならないのかと、疑問に思います」「とても他人事とは思えなく、悲しく、やりきれない気持ちでいっぱいです」と語る。黒染め強要が「差別」だと話している。

 

さらに、「人はみんな、持っているものがそれぞれ違うということです。肌の色も目の色も髪の色も、それぞれ違います。髪色一つで人格まで否定されるような社会は間違っています」「どうか理解が広がって、私のような生徒も、ハーフやクォーターではないけど生まれつき黒髪ではない生徒も、みんなが辛い思いをせず学校生活を送れるようになることを、願います」訴えている。

 

いま通っている高校では、事前に髪色が黒ではないことやパーマであることを示す「地毛登録」をしており、黒染めの強要を受けたことはないという。

 

同じような問題をなくすために、どんなことを教育関係者に知ってもらいたいのか。そう聞くと、女子生徒は言葉に力を込めた。

 

この女子生徒は、中学1年生のころ、担任から黒染めの強要を受けたことがある。入学当日のことだ。いまでもはっきりと覚えている。

 

「保護者やクラスメイトの前で、担任の先生から教室の前に呼び出され、髪色の注意を受けました。母は『私の父がアメリカ人なので娘は4分の1、つまりクォーターです。生まれつきの髪色です』と説明しました」

 

「すると担任の先生に、『どこの血が入っていようが、なに人であろうが関係ない。これは市の決まり。普通は黒髪で生まれてくる。髪を染めてもらわなければ学校に来ては困る』「高校進学も諦めろ」と言われたんです」

 

母親は教育委員会に足を運び、対応を依頼したが、その後も担任の態度は変わらなかった。別室や廊下に呼び出される日々が続いた。

 

「茶髪で生まれてきた私が、普通じゃないと言われているように感じて。本当に、涙が出るほど悔しかったです」「見世物みたいに教師たちに囲まれ、髪をかき分けられながら根元も調べられました。まるで不良少女扱いです。悔しくて、仕方がなかった」

 

同じクラスには、アメリカ人と日本人の親を持つ生徒がいた。担任はその生徒の髪色に言及しながら、「ハーフが黒髪に近いのになぜ、クォーターのあなたの髪がこんなに赤いのか」とも注意をしたともいう。

 

さらには「高校進学や行事参加も諦めろ」とまで言われ、「我慢の限界」を感じた女子生徒は、母親とともに、再び教育委員会に訪れた。

 

教育委員会からは、「そのような決まりはない」との説明を受けた。すぐに学校側に連絡が行き、学年主任らから謝罪も受けたという。

 

その後、担任から幼少期の写真を持ってくるよう求められ、数枚を提出すると「やっと地毛だということが認められた」。それからは同じような強要を受けることはなくなった。

 

女子生徒は自らの経験を振り返りながら、こう言った。「生まれ持ったものを否定するなんて、ひどいですよね」「差別がなくなれば…」と。

 

黒染め強要を巡っては、過去にも訴訟になったケースがある。宮城県立高校の元女子生徒は2005年、赤みがかった地毛を黒く染めるよう強要されたとして、県に550万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。

 

 黒く染めるたびに地毛の赤みが増してしまうため、生徒が「髪が傷んでこれ以上染められない」と断ると、教諭から無理やり黒いスプレーをかけられることもあったという。生徒は自主退学し、私立高校に転校した。2006年10月、県が生徒に謝罪し、50万円を支払うことで和解が成立している。

 

 

「下駄通学の禁止」やっと廃止に 大阪府立校で校則変更(2018年4月16日配信『朝日新聞』)

 

 「下駄(げた)通学の禁止」は時代遅れの校則として廃止に――。大阪府教育庁は16日、府立学校90校が昨年12月から今年3月にかけて校則や生徒指導方針などを見直したと発表した。生まれつきの茶髪に配慮し、「茶髪の禁止」という校則の表現を「染色・脱色の禁止」に変えた学校もあった。

 昨年9月、府立高校の女子生徒が茶色い髪を黒く染めるように指導されて不登校になったとして府を提訴したことを受けて、府は頭髪に限らず校則全般を点検するよう府立の全197校(特別支援学校なども含む)に指示した。

 その結果、校則や生徒指導方針などを変更したのは90校あり、このうち校則の改訂や新たな設置が68校であった。全日制高校135校では53校が校則を改めた。

 頭髪に関しては全日制高校19校が変更。生まれつき茶髪の生徒に配慮し、「茶髪」禁止の表現を「染色・脱色」に見直したほか、「パーマ」禁止を「故意によるパーマ」に変えた学校があった。時代に合わせて「アイパー(アイロンパーマ)の禁止」を廃止した学校もあった。

 ほかにも時代に合わせた変更は見られ、「下駄通学の禁止」や「カチューシャの禁止」を廃止する学校があった一方で、カラーコンタクトやマスカラの禁止を新たに盛り込んだ学校もあった。

「ブラック校則」は人権侵害(2018年3月30日配信『しんぶん赤旗』)

 

理不尽な指導の背景に文科省通知あり

参院委で吉良氏 「撤回を」

 日本共産党の吉良よし子議員は29日の参院文教科学委員会で、生徒の心身を傷つける「ブラック校則」の実態を告発するとともに、厳罰で処する生徒指導(ゼロ・トレランス=寛容度ゼロ=方式)の撤回を求めました。

 吉良氏は、「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」が行った実態調査に基づき、「社会通念に照らし合理的でない校則は見直すべきだ」と求めました。林芳正文科相は「校則は絶えず積極的に見直すべき」だと述べた上で「児童生徒が何らかの形で参加した上で決定するのが望ましい」と答弁しました。

 調査では「下着の色が決められている」校則もありました。「服装検査のときは別室でブラウスの前を開けてスカートをめくって女性教師がチェック」し、男性教師が確認や指導した例もあります。吉良氏は「セクハラ、パワハラ、人権侵害ではないか」と強く批判し、林文科相も「自尊感情の低下を招き、児童生徒を精神的に追い詰めかねない」と懸念を示しました。

 吉良氏は、この10年で理不尽な指導が増えていると指摘。その背景に2006年の「児童生徒の規範意識の醸成に向けた生徒指導の充実について」とする、違反行為に罰則を厳格適用する「ゼロ・トレランス方式」に基づいた生徒指導を求める通知があると告発しました。

 通知を受けて「別室指導」「特別指導」等の罰則が細かく決められたのは広島県福山市です。吉良氏は、指導から逃げた女子生徒が教員の手を振り払っただけで「対教師暴力」だと警察に逮捕された事例を紹介。「子どもと教師の関係が崩され、学ぶ権利まで奪われている。(ゼロ・トレランス方式を推奨する)通知は撤回するしかない」と強く求めました。

 

児童生徒の規範意識の醸成に向けた生徒指導の充実について(通知)

18初児生第12号

平成18年6月5日

各都道府県教育委員会担当課長殿

各指定都市教育委員会担当課長殿

各都道府県私立学校主管課長殿

附属学校を置く各国立大学法人学長殿

 

文部科学省初等中等教育局児童生徒課長

坪田 眞明

 

 児童生徒の問題行動等の現状をみると、暴力行為、いじめ、不登校等が相当の規模で推移するとともに、社会の耳目を集めるような重大な問題行動もあとを絶たないところです。

 このような状況の中で、国立教育政策研究所生徒指導研究センターにおいては、文部科学省の「新・児童生徒の問題行動対策重点プログラム(中間まとめ)」(平成17年9月)を受け、「生徒指導体制の在り方についての調査研究」(別紙1)を行い、今般、別添のとおり、「生徒指導体制の在り方についての調査研究報告書(規範意識の醸成を目指して)」(以下、「本報告書」という。)をとりまとめたところです。

 ついては、貴職におかれては、本報告書の内容(別紙2)及び下記の点を踏まえ、所管の学校及び域内の市区町村教育委員会等に対し、生徒指導の一層の充実を図るようお願いします。

 

 

1.本報告書の趣旨について

 本報告書は、従来からの生徒指導の理念に立った上で、児童生徒の規範意識の醸成に重点を置きつつ、学校及び教育委員会における生徒指導の取組みの在り方に検討を加え、その改善・充実のための方策等を提示したものであり、各学校及び教育委員会等においては、本報告書の成果を活かしつつ、それぞれの実情を踏まえ、生徒指導上の取組みの一層の充実を図るよう努めること。

2.各学校における生徒指導の充実について

 各学校における生徒指導については、それぞれの実態に応じ、本報告書の内容を踏まえつつ、次の点に留意して、その一層の充実を図ること。

(1) 生徒指導上の対応に係る学校内のきまり及びこれに対する指導の基準をあらかじめ明確化しておくこと。

 その際、各学校の実態に応じ、米国で実践されている「ゼロ・トレランス方式」にも取り入れられている「段階的指導」等の方法を参考とするなどして、体系的で一貫した指導方法の確立に努めること。

(2) 生徒指導に係る指導基準については、あらかじめ児童生徒又は保護者等に対して明示的に周知徹底することとし、もって、児童生徒の自己指導能力の育成を期するとともに、家庭や地域レベルにおける児童生徒の規律ある態度や規範意識の育成に向けての指導(しつけ)との連携の確保にも配意すること。

(3) 学校や社会のきまり・ルールを守ることの意義・重要性について、学級活動・ホームルーム活動や道徳、さらに別途通知する「非行防止教室」等における指導の場を積極的に活用しながら、繰り返し指導を行うことにより、児童生徒の規範に対する認識と理解の向上を図ること。

(4) 指導基準の適用及び具体的指導に当たっては、全ての教職員間の共通理解を図った上で、一貫性のある、かつ、粘り強い指導が行われることが重要であること。その際、児童生徒が自ら責任ある行動をとることができる自己指導能力の育成を身に付けることを目標とすること。

(5) 学校内の決まり等を守れない児童生徒の問題行動や非行等に対しては、あらかじめ定められている指導基準に基づき、「してはいけない事はしてはいけない」と、毅然とした粘り強い指導を行っていくこと。

(6) 問題行動等への対応に当たっては、児童生徒の規範意識の向上を図るための取組みと併せて、個々の児童生徒の状況に応じて、教育相談等を通じて、問題行動等の背景やそれぞれの児童生徒が抱える問題等をきめ細かく把握して対応することが必要であり、このような観点からの教育相談・カウンセリング機能の一層の充実に努めること。

3.教育委員会による生徒指導上の対応の充実について

 各学校における児童生徒の規範意識向上のための取組みが効果的に展開されるためには、各教育委員会において、学校における生徒指導に対する取組みを効果的に指導し、支援することが求められる。各教育委員会においては、本報告書の内容を踏まえ、次の点に留意しながら、各学校における生徒指導の一層の充実を図ること。

(1) 積極的な学校訪問の機会等を通じて、学校の生徒指導の状況の的確な把握に努めること。

(2) 学校・家庭・関係機関等の連携を促進するため、連絡調整を行うこと。

(3) 生徒指導に求められる生徒指導に係る教員研修の一層の充実を図ること。

(4) 出席停止や懲戒についての規定の周知・ガイドラインの策定を行うなど、学校における生徒指導の運用面の支援を図ること。

 

<校則>昔より今が厳しく 眉毛、下着の色…細かく規制(2018年3月8日配信『毎日新聞』)

 

 

 不合理な校則の見直しを求める「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」に取り組むNPO法人などは8日、校則に関するインターネット調査の結果を発表した。50代が中高生だった頃に比べ、10代のほうが髪形や服装を細かく規制されている傾向が明らかになったという。今後、厳しい校則が増えている背景を調べる。

 調査は15歳以上の1050代の男女を対象に、どのような校則やルールを体験したかなどをアンケート形式で尋ねた。回答の中から中学時代と高校時代についてそれぞれ1000人ずつを無作為に抽出し、分析した。

 中学と高校では、中学の方が厳しい傾向があった。年代別で見ると、中学で髪の毛の長さに関する規定を体験した割合は50代が25%、10代が27%とほとんど変わらなかったが、「眉毛をそってはいけない」「下着の色が決められている」などは10代が他の年代に比べて圧倒的に高く、近年厳しくなったことがうかがえた。逆に体育や部活動での「水飲み禁止」は4050代で高かったが、危険なことが周知されたためか1020代は低かった。

 このほか、校則が厳しい学校ほど教員が人前で叱責するなど理不尽な指導が増え、いじめを体験した割合も高くなる傾向が確認されたという。調査結果は、不合理な校則をなくすよう求める署名と併せて近く文部科学相に提出する。

 ◇生まれつき茶髪の18%、高校時代に染毛求められる

 調査では、プロジェクト発足のきっかけとなった大阪府立高校の女子生徒が生まれつき茶色の髪を黒く染めるよう強要された問題に関連し、髪色についても調べた。生まれつき黒色ではない人は全体の12%おり、このうち9%が中学時代、18%が高校時代に髪を黒く染めるように求められたという。

 また、毛髪に関する指導を受けた人の割合は、中高とも10代が最も多く、中学で3%、高校で6%だった。近年、ファッションとしての染髪が定着して染める生徒が増えた一方、黒染めも容易になって染めるよう求める学校が増えているとみられるという。

 

驚きの“ブラック校則”、マフラー禁止 下着の色まで指定(2018年3月8日配信『TBSニュース』)

 

 どんなに寒くてもマフラーの使用を禁止するなど、理不尽ともいえる、いわゆる「ブラック校則」がいろいろあるそうです。校則に関するアンケート調査で次々と明らかになりました。

 「体育の時だけなんですけど、 リップが赤すぎるとダメ」(女性)

 「眉毛そりです」

Q.一切、眉毛をさわってはいけない?

 「そうです、そうです。私、眉毛めっちゃ濃かったんですけど、ちょっと切っただけでばれて」(女性)

 生徒に対し理不尽なルールを押しつける、いわゆる「ブラック校則」。これまでも、SNSなどで疑問の声が上がっていましたが、数多くの事例があることが、8日、明らかになりました。

 「眉毛をそってはいけない。寒さに備えるマフラーとかタイツとか、独自の対策をしてはいけないという項目が、むしろ近年になって増えているということが分かった。恋愛禁止はどの時代においても 一定数あるという状況。スカートの長さに関しては中学も高校も同様に厳しいという状況も分かる」(評論家 荻上チキさん)

 会見したのは、評論家の荻上チキさんらが去年立ち上げた「“ブラック校則”をなくそう!プロジェクト」。全国の中高生の保護者など4000人を調査した結果、下着の色の指定や、コートやマフラーの使用禁止、恋愛禁止といった校則も確認されたということです。

 このプロジェクトのきっかけとなったのは、髪の色に関する校則を巡る裁判でした。

 「黒く染め続けるか、学校を辞めるか選べ」

 大阪の府立高校3年の女子生徒は、地毛が茶色なのに、学校側から黒く染めるよう繰り返し指導され、「精神的苦痛を受けた」として大阪府を相手取り、訴えを起こしました。これに対し大阪府は「女子生徒の地毛は黒だと複数の教師が髪の根元を見て確認している」などと反論しています。

 髪の色については、いわゆる“地毛証明書”の提出を求めている学校もあります。

 「本生徒の頭髪の色に関しては、生まれつきのものであり、染髪したものではない」。これは、ある高校で使われていた“地毛申請書”。保護者が学校側に届け出をし、生徒指導の担当が承認する形になっています。

 大阪の府立高校では、およそ2割が、こうした“地毛証明書”などの提出を求めていることが明らかになっています。

 「茶髪だからといって、勉強に支障が出ることはないと思うのに、わざわざ自分の個性とか生まれつきの髪を、ねじ曲げて変えないといけないのはおかしい」(女性)

 「先生に文句を言われるから、 聞かれるのとか面倒くさいから地毛証明書はありかな」(男性)

 こうした髪の色に関する校則について、8日に会見したプロジェクトは・・・

 「生まれつきの髪の毛の色が茶色の人に絞ると、中学時代で1割、高校時代で2割の人が黒染めの指導を経験しています」(評論家 荻上チキさん)

 プロジェクトは、こうした校則が増える背景について、「教員の多忙化によって、一括管理が進んでいることが考えられる」などと指摘しています。現在、“ブラック校則”の改善を求める署名を集めていて、今後、林文部科学大臣に提出する方針です。

 

高校時代に「黒髪強要」18% ブラック校則でNPOがアンケート(2018年3月8日配信『産経新聞』)

 

 「ブラック校則」と呼ばれる学校での理不尽な規則をなくそうと活動しているNPO法人などが8日、全国の15歳から50代の男女計2千人を対象に、中高生時代の経験を尋ねたアンケート結果を発表した。生まれつき髪の色が黒以外の人のうち、9%が中学時代、18%が高校時代に、髪を黒く染めるよう求められたと答えた。

 ほかに「スカートの長さを測られた」「下着の色を調べられた」といった少数意見もあった。NPO法人などは今後アンケート結果を分析してまとめ、インターネットで集めている署名とともに文部科学相に提出する予定だ。

 プロジェクトは教育関係のNPO法人や評論家の荻上チキさんらが立ち上げた。中学時代の経験を答えた千人のうち121人が生まれつき黒髪以外で、この中の11人が黒染めを強要されたと回答。21人が「地毛証明書」を書かされたと答えた。高校時代の調査では生まれつき黒髪以外は119人で、うち21人が黒染めを求められたという。

 

風・学校の頭髪指導(1);「荒れた学校の教壇に立ってから言いなさい」元教諭からの手紙 「染髪禁止」儒教の倫理観も(2017年12月18日配信『産経新聞』)

 

 大阪で問題となった頭髪黒染め強要訴訟問題でクローズアップされた「地毛登録」。関西の学校現場ではどの程度導入されているのか、こんな疑問から取材を始めたが、読者から寄せられたさまざまな意見の中で、特に気になったものがある。

 《荒れた学校の教壇に1年でも立ってから言ってください》。公立中学校で長年教諭を務めた大阪府内の女性(70)から届いた、こんな“お叱り”の手紙だ。女性は《生活指導の中でも難しいものの一つ》としたうえで、《親も子も「地毛」と言ってくる場合にも、明らかにおかしいと思われるものがかなりあった》と、自らの経験も明かしてくれた。

 その上で、なぜ茶髪がダメなのかにも踏み込む。《教師は生徒の生活態度や家庭のあり方なども含めて総合的に判断して指導しています。(中略)「孝経」には「身体髪膚(はっぷ)これを父母に受く。あえて毀傷(きしょう)せざるは孝の始めなり」と書かれているが、今は通用しなくなったのでしょうか」》

 女性が言及した「孝経」とは古代中国の書物で、儒教の経典の一つ。言葉は「人の身体は親からもらったものであるから、傷つけないのが孝行の始めである」との意味で、「傷つけない」とは、肌に入れ墨などをしないということを指している。

 これを現在の学校現場に置き換えれば、染髪やピアスなどをしない、ということになるだろう。そういえば、41歳になる私も学生時代、父から「入れ墨を入れたり、金髪にしたら勘当するからな」と言われたことがある。

 そのせいというわけでもないが、大学生の時に少し茶色く髪を染めたことはあったが、結局、金髪にしたりすることはなかった。

 少数の例外を除き、日本の学校で当たり前のルールとして定着している「染髪禁止」だが、女性が指摘したような儒教的な倫理観が日本社会に根強くあることが、要因の一つといえるのかもしれない。

 今回寄せられた声のように、就職・進学のためや秩序を守るためなどさまざまな理由があると思う。さらにみなさんの考えをお聞かせください。  

    ◇

地毛登録「仕方ない」「人権侵害」賛否割れる

 学校現場の頭髪指導をめぐり意見を募集したところ、読者からさまざまな声が届いた。染髪禁止には「社会が見た目を気にする以上、仕方ない」などの指摘があった。生まれつき髪が茶色い生徒らに学校側が申告を求める「地毛登録」については「やむを得ない」「人権侵害」など賛否が割れた。

 産経新聞が近畿2府4県の公立高校に取材した結果、回答を得た約400校のうち約7割で、口頭や書面による「地毛登録」が実施されていることなどが判明。読者から意見を手紙やメールで募った。

 校則などで髪を茶色や金色に染めるのを禁止している学校が多いことについては、「会社の面接で茶髪と黒髪(の生徒)が来ても、きちんと人物で評価できるか」(大阪府内の定時制高校に勤務する30代男性)と、社会の要請があるという指摘が寄せられた。

地毛登録については「髪染め禁止を校則にする以上、生徒を差別から守ることになる」(高知県・59歳男性)と理解を示す声があった一方、「制度の存在そのものが人権侵害」(20代後半・性別不明)との意見も出た。

      ◇◇

 【用語解説】大阪の頭髪黒染め強要訴訟

 今年10月、大阪府立高校3年の女子生徒(18)が生まれつき茶色い髪を黒く染めるよう強要されたとして、損害賠償を求めて府を大阪地裁に提訴した。生徒側は、黒染めを繰り返させられて頭皮がボロボロになり過呼吸で不登校となったほか、ペナルティーを理由に学校行事への参加を禁止され、クラスに机も置かれなくなったと主張。これに対し、府は、机の件は不適切だったとしながらも「(学校側は)生まれつきの髪色になっていないと判断した」と反論し、全面的に争う姿勢を示している。この問題を受け、大阪府教育庁は府立高137校を対し、頭髪指導の現状についてアンケートを実施し、結果を公表。8割が地毛が黒くない生徒についての情報を把握している一方で、9割が校則などで脱色・染色を禁止していることが明らかになった。 

 

風・学校の頭髪指導(2)】 染色に厳しい日本社会、「見た目」は大事…社会の考え方変わらない限り「地毛登録」なくならない?(2017年12月19日配信『産経新聞』)

  

 学校が頭髪指導を重視する理由として、「見た目」に重きを置く日本社会の風潮を挙げないわけにはいかない。大阪府立高校の定時制で教壇に立つ30代の男性教諭からはこんな意見が寄せられた。

 《就職面接の際に茶髪と黒髪(の生徒)が来たら、きちんと人物で評価するのでしょうか?》

 「格好をつけている」「チャラチャラしているように見える」。茶色に染めた髪がマイナスに働く理由といえば、こんなところだろうか。

 服飾業界などでは、あえて奇抜な髪形・髪色にすることが仕事上必要なこともある。アパレルショップの店員が上司から茶色に染めるよう指示され、拒否したら解雇された−というケースもあったと聞く。

 だが、おおむね日本社会が茶髪・金髪などの染色に厳しいのは事実だろう。

 就業規則や服務規定で髪を茶や金色に染めることを禁止している会社は多い。業種・部署によって差はあるが、一般的に銀行や証券・保険会社、ホテル、旅館、百貨店などは服装や頭髪など、身だしなみに対する規制が厳しい業界だとされている。役所などの公的機関はほぼNGだ。

 30代の男性教諭の勤務する学校では、もともと髪色の明るい生徒や天然パーマの生徒には、一筆書いてもらういわゆる「地毛登録」を行っているという。

《もしも社会全体が髪の色など見た目に関係ない(とらわれない)のなら、われわれ教員は頭髪指導をする必要がなくなるとも思います》とした上で、《もっといい方法があるかもしれませんが、現状このような方法をとらざるを得ないのではないでしょうか》とつづっていた。

 頭髪指導がなくならないのは、社会の“考え方”が変わらないからかもしれません。

 

風・学校の頭髪指導(3)地毛茶髪、黒染めで頭皮ボロボロ…アレルギー無視「生徒への暴力だ」(2017年12月20日配信『産経新聞』)

 

 大阪の頭髪黒染め強要訴訟では、黒染めを繰り返した生徒の頭皮がボロボロになった、という点もショッキングだった。大阪府高槻市の67歳女性は、子供の毛染めについて警鐘を鳴らした10年ほど前の本紙記事のコピーを添えて意見を送ってくれた。

 女性が紹介してくれたのは、平成19年7月26日付の本紙朝刊生活面に掲載された「子供の毛染め ご用心」という記事。これによると、染毛剤は、主にメラニン色素を壊す脱色剤と、脱色と化学染料の浸透を同時に行う酸化染毛剤に分けられる。

 脱色剤に含まれる過酸化水素は皮膚や目に刺激が強く、酸化染毛剤に入っているパラフェニレンジアミンはぜんそくや腎臓障害、アナフィラキシー(急性アレルギー反応)を発生させる可能性もあるという。

 初回は問題なくても繰り返し使うことでかぶれなどのアレルギー症状が出ることがあり、症状が出れば以降はずっとアレルギー体質が続く恐れがある。特に子供は皮膚が弱く、免疫機能が完成されていない大人よりトラブルが起こる可能性が高いという。

 女性は記事の内容に触れた上で、《女子生徒の頭皮がボロボロになり、過呼吸になったということは間違いなく毛染めのアレルギー反応を無視した生徒への暴力であり、身体的精神的傷害事件であるといっても過言ではないと思います》と指摘。《髪の加工は未成年の飲酒喫煙と同じくらい被害があることを自覚してほしい》とも訴えた。

 おしゃれのために髪染めを繰り返す生徒側と、見た目に重きを置き、黒髪に揃えるため髪染めを強要する先生側。健康被害という側面からみれば、無責任の程度は同じかもしれない。

 

こんな校則いらない NPO有志が「ブラック」実態調査へ(2017年12月15日配信『東京新聞』−「夕刊」)

 

プロジェクトについて話す発起人代表の渡辺由美子さん(左)と荻上チキさん=東京・霞が関の文科省で

 

 人権を無視した不合理な校則をなくそうと、若者の支援に携わるNPO有志が「“ブラック校則”をなくそう!プロジェクト」を発足させた。今後、理不尽な校則の実態を全国規模で調査し、結果は来年3月末までに文部科学相に提出する。併せて校則見直しを学校現場に通達するよう求める署名も届け、公的調査の必要性を訴える。 

 「映画は学校が指定したものしか見てはいけない、髪形はおかっぱのみ、日焼け止めはおしゃれだから禁止など、今の社会通念上あり得なかったり、教育効果が証明されないような校則がある」。14日、プロジェクト発起人でNPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さんや評論家荻上(おぎうえ)チキさんが文部科学省で記者会見し、疑問を投げ掛けた。

 今年10月、大阪府の女子高生が生まれつき茶色い髪を黒く染めるよう教諭らから強要され不登校になったとして、府に損害賠償を求める訴えを起こしたことが報道された。問題だと感じた荻上さんらはこうした校則を「ブラック校則」と名付け、ツイッター上で「#ブラック校則」「#こんな校則いらない」のハッシュタグ(キーワード検索できる目印)で体験談を集めはじめた。

 すると、10代から親世代まで幅広い年齢層から反応があった。「黒髪でなかったり天然パーマの生徒に地毛証明書を提出させる」「下着の色を指定し学校でチェックする」「登山での水飲み禁止」など、人権を軽視したり健康に影響したりするような校則があることが分かった。

 プロジェクトでは、同様のブラック校則を経験したことがあるかどうか、アンケート会社を通じて12月中に大都市圏を中心としたより広範な調査を行い、結果を来年一月にも公表する。ツイッターに体験談を寄せた現役高校生らとも連絡を取り、直接ヒアリングなどをするという。

 インターネットの署名サイト「change・org」では11日から、ブラック校則の見直しへの賛同を呼び掛けており、15日朝の時点で2万件超の署名が寄せられている。

 荻上さんは「ブラック校則は理不尽なルールそのものと、教員による不適切な運用の二つによってできる」と指摘。「校則へのストレスや違和感から不登校やいじめにつながることもある。子どもの生活や人権と関わる深いテーマで、社会全体で考えてもらうために実態を解明し、問題提起をしたい」と話している。

 

「ブラック校則」調査実施へ 頭髪黒染め問題受け(2017年12月14日配信『朝日新聞』)

 

 子ども関連の活動をしているNPO法人の理事長らが14日、「『ブラック校則をなくそう』プロジェクト」を立ち上げた。大阪府立高校の女子生徒が頭髪の黒染めを強要されたと訴えた問題をきっかけに、理不尽な校則や運用方法に注目し、時代に合ったルールにしていく議論を進めたいという。

 プロジェクトは、学習支援のNPO法人「キッズドア」理事長の渡辺由美子さんら3人が発起人となり、「ストップいじめ!ナビ」代表で評論家の荻上チキさんがスーパーバイザーを務める。野球解説者の古田敦也さんら、約30人の著名人が賛同している。

 具体的な活動としてはまず、インターネットを使って校則の種類や年代・地域による偏りを調べ、校則で苦しんだり、厳しい指導を受けたりしている子どもの声も集める。また、不合理な生徒指導が教員の長時間労働につながっている可能性もあるとみて、教員にもインタビューする。インターネットで署名を集め、調査を踏まえた政策提言とともに、来春に文部科学省に提出する予定だ。

 会見をした渡辺さんは、「個別の学校を問題視したり、教育委員会と対立したりするものではない。学校で安心して学べる環境を社会全体で考えていければ」と話した。

 

教育の窓;「誰のための学校なのか」 頭髪黒染め強要(2017年11月27日配信『毎日新聞』)

 

毎日新聞に寄せられたハガキやメールなど

 

 頭髪が生まれつき茶色なのに学校から黒く染めるよう強要されたとして、大阪府立高3年の女子生徒(18)が府に損害賠償を求めた訴訟を巡る報道に関連し、学校での頭髪指導について読者から感想や意見が多く寄せられた。現役の高校生や、かつて子どもが指導を受けた保護者らの声もあった。一部を紹介し、頭髪指導のあり方について考えたい。

 ●修学旅行前に指導

 埼玉県立高3年の女子生徒(17)は昨年11月の修学旅行前に突然、進路指導担当の教諭から頭髪を黒く染めるか、短く切ってくるよう指導された。頭髪はくり毛色に近い茶色だが、母親と同じく生まれつきで、髪染めや脱色をしたことも、ヘアアイロンをあてたこともない。入学時に頭髪の色を登録する制度があるため、髪の色について担任に相談した際にも「問題ない」と言われていた。

 にもかかわらず、進路指導担当の教諭は「旅行先で他校とのトラブルを避けるためだ。風紀を乱しているので、このままでは修学旅行に参加させない」と言い、再三呼び出しを受けて指導された。最後まで拒否したため修学旅行には地毛のまま参加できたが、教諭らから常に行動を監視され、楽しめなかったという。

 「地毛なのに黒染めを強要されると、心までボロボロになる。かばってくれる友人や先生がいたので救われたが、当時は精神的にかなり追い詰められた。今回の報道で自分がされたことを鮮明に思い出し、悲しくなった」。女子生徒はこう訴える。

 ●日本特有の考え

 「そもそも学校で毛染めを禁止しているのに、黒染めをさせるのか」。大阪府在住の女性(48)は、長女(24)が府立高3年の時、軟式テニスの夏の大会前に部活動の顧問から黒染めを求められ、こう思ったのを覚えている。長女の頭髪は元々、日に当たると透けて茶色く見える程度だったという。

 それでも、顧問からは「毛染めをするような子ではないと分かっているが、地域の目があるから」と黒染めを指導された。「染めてもいないのに、なぜ黒く染めないといけないのか」。自分も長女も納得できなかったが、大会に出場できなくなっては困ると考えて渋々従った。

 黒染めして大会に出た長女は、髪から落ちた染料が黒い汗となって顔を流れた。「学校自体に悪い印象はないが、一律に頭髪は黒くないといけないというのは日本特有の考え方ではないか。どこか釈然としない気持ちが残った」と振り返る。

 ●陳情書を提出

 教員志望の男子大学生(23)は岐阜県内の公立高3年の時、学校の頭髪指導で黒染めを強要される同級生がいることに疑問を覚えたのをきっかけに、頭髪指導を受けた同級生に聞き取り調査をした。今回の報道を受け、調査の結果を教えてくれた。

 髪が茶色いと呼び出され、地毛だと説明すると切るように強要された▽入学時に登録すれば黒く染めないで済む「地毛登録」をしたのに2度も指導された▽茶色い地毛を自発的に黒く染めて自己防衛している−−。いずれも身体的特徴による差別で、人権侵害に該当すると考え、2014年3月に実情をまとめた陳情書を法務局と教育委員会に提出したという。

 今は県外の教育大に在籍する男子大学生は「理不尽な頭髪指導はこれまでほとんど認識されず、気になっていた。今回の訴訟で明らかになったが、ようやくか、とも思う」と語る。来春から教師として教壇に立つ予定だが、教育の現場が実際にどうなっているのかは分からない。それでも、理不尽な頭髪指導はしたくない。「学校教育は誰のためにあるのか。それをもう一度しっかりと考えていきたい」【岡崎英遠】

 

他に寄せられた意見(抜粋)

 髪の毛、肌の色、宗教……みんなと一緒じゃないとダメ。「違います」ってことは当たり前ではなく「届け」を出さないとダメ。「島国日本」はいつまでも変わらないのだとがっかりしている。=大阪市住吉区の会社員女性(45)

 親の好みで子供の髪を染めて学校に行かせる時代。好き勝手しながら、進学や就職については丁寧な指導を要求する。そんな格好で入試や就職の面接にいかせられるだろうか。地毛登録は当然の措置だと思う。=広島市の男性(54)

 茶髪の子はその色がかっこよく見えると思っているかもしれないし、服装の規則を破る子は、彼女の美的感覚からスカートの丈をそうしているのかもしれない。我々大人は、自分たちの判断のみが正しいとするそのセンスこそをやぼったいと反省し、態度を改めれば、学校はもっと自由でのびのびとしてくるはず。=主婦(70)

 頭髪指導の問題点は、すぐに指導が作業と化して、摘発して矯正することが自己目的化してしまうことだ。「改善」が進むとちょっとした「乱れ」が目につき、余計に指導がエスカレートする。物事は効率よくシステマチックに行われるのが良い場合もあるが、教育や人間関係はそうあってはいけないと思う。=現役教諭

 

海外メディアも注目

 学校での頭髪指導のあり方を巡っては、芸能人や作家、学者ら、さまざまな人たちがツイッターで意見を発信している。

 元AKB48のメンバーで母親がフィリピン出身の秋元才加さんは、高校の時に地毛なのに染髪を疑われて黒く染めた経験を明かし「規則は大事だけど、大事なことはもっとあるはず」と投稿した。

 作家で明治学院大教授の高橋源一郎さんも「そもそも髪をどんな色に染めたっていいじゃないか」と疑問を投げかけた。

 脳科学者の茂木健一郎さんは「『黒染め』強要問題の延長線上には、新卒一括採用、就職活動における画一的なリクルートスーツと髪形、時代遅れの偏差値入試などの問題がある」と持論を展開し、「これらのマインドセット(思考様式)が日本の停滞の象徴であり原因」と指摘した。

 海外メディアも注目し、英BBCや米タイム誌、中国の国営新華社通信などが「日本の多くの学校には髪の色、化粧、スカートの丈など外見について厳しい規則がある」と報じた。

 大阪府教委は全府立高校を対象に、頭髪指導の現状把握のための調査を始めている。

 

 

県立高校の地毛証明 多様性認める環境を(2018年1月11日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 なぜこれほどまで黒い直毛にこだわるのか。管理強化ではなく、多様性に配慮し自由な教育環境を整えてほしい。

 もともと髪の色が薄かったりくせがあったりする生徒が、生まれつきのものであることを証明するための「地毛証明書」を、県立高校全60校のうち52校(86・7%)が生徒に提出させていることが本紙の調べで分かった。

 証明書を求める理由として学校側は「染髪やパーマだと誤解して、地毛の生徒に不要な生徒指導をすることを避けるため」と説明している。生まれつきを証明するため、保護者の面談や署名、幼少時の写真提出を求めている。

 しかし、地毛など身体的特徴はプライバシーにかかわる。日本も批准している国連の「子どもの権利条約」第16条は、子どものプライバシー・通信・名誉の保護を定めている。証明書の提出を求めるのは、子どもの権利条約に反する可能性がある。

 証明書を提出した生徒から「染髪やパーマを疑われ、自分を否定されて嫌だった」との声が挙がる。髪の色は個人によって違うものだ。

 昨年、大阪の府立高校で生まれつき茶色っぽい髪を黒く染めるよう教諭らにしつこく強要され、不登校になったとして、女子生徒が府に損害賠償を求める裁判を起こした。生徒は指導に従ったが、髪を理由に授業や文化祭、修学旅行の参加を禁じられた。生徒指導を逸脱した著しい人権侵害だ。

 そもそも国際化が進む中で「髪は黒」という考えは、時代錯誤といえる。教室には外国にルーツを持つ生徒もいるだろう。

 地毛を確認する背景に、染髪を禁止する校則がある。染髪禁止の理由は「社会が求める高校生像に反している」「学習活動に集中するため」「ルールだから」という回答が多かった。

 違反した場合、猶予期間を決め黒く染め直してくるよう指導する。染めた色を戻さなかった場合「帰宅指導」として教室に入れない、式典に参加させないなど学校活動への参加を制限すると答えた学校が18校(30・0%)あった。17校(28・3%)は髪を染めて卒業式に来た生徒はその場で黒いスプレーで染め直させていた。

 裁量権は学校側にあるにしても、そこまで規制する権限があるのか疑問だ。どんな校則が必要なのかは本来、学校側が生徒や保護者の声に耳を傾けながら決めるものだろう。時代の変化に応じて見直してもいいはずだ。「ルールだから」という理由で思考停止してはいけない。

 学校は画一的ではなく、それぞれの個性を互いに尊重し、自分らしさを持った人材を育てる場である。個性よりも統制が重視される場ではない。何よりも「子どもの最善の利益が第一に考慮される」(子どもの権利条約第3条)場でなければならない。

 

ブラック校則(2018年1月8日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

世界にはさまざまなマナーやルールがある。おなじみのVサインも相手に突き付けるようにすると、ギリシャでは「くたばれ」の意味になる。親指を立てるOKサインは、アラブ世界やバルカン半島では性的侮辱を表し、脚を組んだりして足の裏を見せることは、イスラム圏では無礼とされるという

▼文化史ジャーナリスト阿門禮さんの近著「世界のタブー」は、こうした世界各地の「してはいけないこと」を紹介する。ところが、日本の学校にも驚きの「してはいけないこと」の数々があった

▼「授業中のトイレは男子1分、女子3分程度にしなければ欠席扱い」「女子の下着は白のみ。学校でチェックする」。冗談のような校則である

▼昨年、大阪府の女子高生が生まれつきの茶髪を黒く染めるよう強要され、不登校になった問題が報道された。これを受け、NPO有志による「“ブラック校則”をなくそう!プロジェクト」が募集した理不尽な校則の一部だ

▼ほかにも、「映画は学校指定のものだけ」「髪形はおかっぱのみ」「登山での水飲み禁止」。人権軽視どころか、健康にも影響しかねない

▼プロジェクトは近く最終結果を公表する。どんな「学校のタブー」が寄せられるか。生徒を縛り、管理するためだけの「道具」であるならば、そんな校則は即刻見直すべきだ。理不尽な校則には、社会全体で力いっぱいのVサインを突き付けたい。

 

世界人権デー(2017年12月10日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

「お前(まえ)、バカじゃねぇの?障害者かよ!」。学校でこんな言葉を耳にした函館市立亀田中2年の古川心菜(こがわここな)さんは、笑顔でこう言った。「あのさ、障害は、決して悪い事じゃなくて、私達が歌が上手とか、スポーツができるとかっていう個性と一緒なんだって」

▼今年の全国中学生人権作文コンテストで函館地方法務局長賞に選ばれた古川さんの「障害の意味」から引いた。「私は障害がないから、障害のある人の心の中まではわからない。しかし、個性をバカにされたら嫌なのは皆同じだ」「だから私は、障害のある人と障害のない人の掛け橋みたいな存在でありたいと思う」

▼肌、髪、言葉、得意なことと不得意なこと…。人は同じようでいて、少しずつ違う。そうした違いを個性ととらえ、お互いに尊重し合い、どんな個性を持つ人も暮らしやすい社会を築いていく。作文からはそんな決意がうかがえる

▼残念ながら、それに逆行するような動きがなくならない。聞くに堪えないヘイトスピーチはもちろん、性的少数者(LGBT)に対する根強い偏見などもそうだろう

▼すべての人間は生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である―。1948年12月10日に国連が採択した世界人権宣言の一部だ

▼きょうは世界人権デー。世界的な動向でも、身近な出来事でもいい。そこから、人権をじっくりと考える1日にしたい。

 

学校の頭髪黒染め指導 理不尽な強要ではないか(2017年11月19日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 大阪の府立高校で、生まれつき茶色の髪を黒く染めるよう強要され、精神的苦痛を受けたとして、3年生の女子生徒が府に損害賠償を求めて提訴した。

 訴状によると、生徒は入学以来、執拗(しつよう)に黒染めを指導され、度重なる染色を強いられた。そのため2年生の秋から不登校になり、文化祭や修学旅行にも参加させてもらえなかった。さらに3年に進級する時に生徒の名がクラス名簿から削除された。

 これらが事実だとすれば理不尽な強要であり、生徒の身体や容姿を否定する人権侵害に当たる。生来の髪の色は個人によって違う。黒髪以外は認めないという指導は不適切だ。

 府は裁判で争う方針だ。府教委によると、学校は「生まれつきの髪の色を変えるような指導はしていない」と主張し、この生徒はもともと黒髪だったと判断して指導し続けたという。指導方法に問題がなかったのか府教委は事実関係を明らかにすべきだ。また訴訟とは別に、生徒が再び登校できる配慮も必要だ。

 頭髪に関する指導は、服装や遅刻対策とともに生徒指導の中心となってきた。校内暴力など「荒れる学校」が社会問題となった1980年代、管理教育が強まったことがある。パーマや染髪、脱色を禁ずる校則は今なお、多くの学校に残っている。

 頭髪指導をする理由として「他の生徒に悪影響を与える」「茶髪が多いと風紀が乱れていると判断される」などが挙がる。だが学校の評判を気にするあまり、生徒の尊厳を軽んじるような指導は許されない。

 そもそも「髪は黒色」という考え方が国際化社会にそぐわないのではないか。日本でも外国人留学生や外国にルーツを持つ生徒は年々増加している。そうした生徒たちが同じ教室で学ぶのは日常の風景になったことを認識すべきだ。

 髪の毛が生まれつき黒くない生徒が学校に届け出る「地毛登録制度」を導入している学校も少なくない。管理しやすいだろうが、出自などプライバシーに関する情報だ。慎重な運用が欠かせない。

 外見だけで決めつけず、画一的に押しつけることなく、生徒の内面を理解しながら成長に導く。これこそが本来の指導のあり方だ。全ての教育現場で自問してもらいたい。

 

黒髪強要/指導を超えた人権侵害だ(2017年11月17日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 大阪府立高校3年の女子生徒が、生まれつき茶色っぽい髪を黒く染めるよう教諭らに強要され不登校になったとして、府を提訴した。

 生徒の個性を認めないどころか、苦痛を与える。事実であれば、もはや指導を超えた人権侵害にあたる。

 府側は争う姿勢だが、松井一郎知事は「生まれついての身体特徴をなぜ変える必要があるのか」と疑問を呈している。学校や教育委員会は、なぜこのような事態に至ったかをきちんと説明すべきだ。

 訴状などによると、生徒はもともと髪の色素が薄く、母親が配慮を求めたが、入学時から黒く染めさせられた。生徒指導や学年主任の教諭らも繰り返し強要し、指導は4日に1度のペースにまで及んだ。

 染髪剤の影響で頭皮や髪がぼろぼろに傷むほど何度も染めたが、「不十分」「学校をやめるか黒染めするか選べ」などと指導したという。髪の色を理由に授業や修学旅行などへの参加が認められず、2年生の秋から不登校になった。

 母親らの抗議に対して、教諭らは「茶髪の生徒がいると学校の評判が下がる。たとえ金髪の外国人留学生でも、黒く染めさせる」と説明したとされる。国際化が進み、多様性が重視されている教育現場からこうした発言が出ることに耳を疑う。

 黒髪を規則に掲げる学校の中には、黒以外の色の生徒に生来の色であることを示す「地毛証明書」を提出させる例がある。

 学校生活での秩序を守るため、一定のルールも必要だろう。特有の身体的特徴のある生徒への配慮ともとれる。

 だが、これも問題点が潜む。黒髪のみをあるべき姿だとする指導そのものが、多様性を否定し、個性の排除につながりかねないからだ。

 生徒側は「生徒指導の名のもとに行われたいじめ」と訴えている。本年度は生徒の名前が名簿に記載されず、教室に席もないという。生徒に寄り添う姿勢とはおよそかけ離れている。

 教員の行き過ぎた指導を苦に、生徒が命を絶つ事案も続く。どのような理由にせよ、生徒を精神的に追い詰める指導があってはならない。

 

黒髪のルール(2017年11月16日配信『中国新聞』−「天風録」)

 

 今年ドラマ化された漫画「人は見た目が100パーセント」は地味な理系女子研究員が主人公。仕事の都合で「美」の研究を始め、おしゃれに目覚める。どきっとさせるタイトルも人気にひと役買ったのだろう

▲でもやっぱり、大切なのは中身でしょう。そう言いたいところだが、学校はどうしても見た目にこだわるらしい。生まれつき茶色の髪なのに黒染めを強要されたとして、大阪府立高校の女子生徒が訴訟を起こしている

▲「黒髪」のルールが守れないなら「登校させない」と言われて染め続け、生徒の頭皮や髪はボロボロに傷んだという。修学旅行も参加禁止。気持ちが落ち込み、登校できなくなったそうだ

▲人権を脅かす事態を避けるためか、大阪府内はもちろん広島県内にも「地毛登録」を促す高校があるという。もともと茶色と登録すれば、頭髪指導は免れる。だが、肌や髪の色がさまざまで当然の諸外国からすると「黒髪」の基準自体が不思議なのだろう。訴訟は海外の目も引く

▲みんな一緒、との空気は学校だけでなく日本全体にまん延しているのか。就活ではルールなどないのに、黒のスーツばかり。おしゃれという個性の目覚めが遅くなるわけだ。

 

英国の学校で6月、10代の男子…(2017年11月15日配信『山陽新聞』−「滴一滴」)

   

 英国の学校で6月、10代の男子生徒がスカートをはいて登校し、話題になった。記録的な猛暑でも半ズボンをはくのを認めない校則への抗議行動だった

▼この学校の制服は女子は長ズボンまたはスカートで、男子は長ズボン。校長が皮肉交じりに「スカートで来たら」と発言したことから、男子生徒が友人や姉妹にスカートを借りたという。スカートを着用する男子生徒は日ごとに増え、学校は校則の見直しも考えると言わざるを得なくなった

▼保護者の1人が取材に答えている。「自分の権利のために子どもたちが立ち上がったことを誇りに思う」。校則をめぐる話題という点では同じでも、こちらの日本のニュースは何とも重苦しい気分になる

▼大阪で、生まれつき茶色の髪を黒く染めるよう強要されたとして生徒が府立高校を訴える事態になった。生徒側によると、学校は「金髪の外国人留学生でも黒く染めさせる」と発言したという

▼持って生まれた身体の特徴を否定することは人権侵害にほかならない。教師の中に「待った」をかける人はいなかったのか

▼集団生活に一定の決まりはいるとしても、決まり自体に問題があれば変えていかなければならない。自ら問題を見つけ、解決する力を養う。2020年度以降に始まる学習指導要領には、そんな方針が盛り込まれているはずなのだが。

 

松尾貴史のちょっと違和感 「頭髪指導」という名のハラスメント 他者と違って何が悪いのか(2017年11月12日配信『毎日新聞』)

 

 大阪府立懐風館高等学校の3年生の女子生徒が、生まれつき茶色い髪を黒く染めるように教諭から度重なる「指導」をされ精神的な苦痛を受けたとして、府を相手取って220万円の賠償を求める訴訟を起こした。

 入学時に、生徒の母親が「娘は生まれつき髪が茶色い」と説明していたにもかかわらず、学校側はいわゆる校則「生徒心得」を盾に、「生まれつき金髪の外国人留学生でも黒髪に染めさせる」とはねつけたのだという。生徒は仕方なく応じて黒に染めるも、1、2週間ごとに「指導」は行われ、髪が伸びるたびに地毛の茶色い部分が出てくるので何度も染めさせられ、2年生の2学期にはそれが4日ごとになり、最終的に染め方が不十分だとして出席を禁止された。指導の際に過呼吸で倒れ、救急搬送されたこともある。文化祭や修学旅行にも参加させてもらえず、現在も不登校状態は続いている。高校側は今年4月、生徒の名前を名簿から削除して、他の生徒や保護者には「退学した」とうその説明までしているという。

 「黒染めを約束するまで帰さへんぞ」「母子家庭だから茶髪にしているのか」という暴言まであったという。これは、私の感覚では人権侵害であり、教師による虐待としか思えないのだけれど、現場ではこれが当たり前なのだろうか。

 頭髪指導とは何か。宗教の戒律か何かであれば、そのいわれを聞いてみようという気にもなるが、あまりのばかげた発想、慣習にただただあきれかえる。地毛が茶色でも一度染めたら染め続けなければならないという奇妙な規定まであるという。

 こういった異常な「指導」が行われているのはこの懐風館高校だけではなく、日本のあちらこちらで続けられている。東京都にも、「地毛登録」などというまるで珍妙かつ愚劣な慣習があるという。「地毛証明書」なるものを提出させ、教諭に認定させるのだ。幼児期の写真まで貼付(ちょうふ)させる学校もある。これは完全にパワーハラスメント、モラルハラスメントとして「認定」される愚行ではないか。

 懐風館高校の高橋雅彦教頭はテレビのインタビューで「最終的には裁判所で判断していただく」などと語っているが、自分たちで判断できないことを生徒に強いているという客観性のなさに驚かされる。蛇足ながら、この教頭が白髪交じりでパーマ状の髪だったことに個人的な違和感を覚えた。自身は模範たろうとしないのだろうか。そのくせ毛、縮毛も「認定」対象になることもあるらしい。毛が生えない体質の子にも、それを求めるのだろうか。体の部分の形や色が周りの大多数と違っていることで、これほど面倒で不快な思いをしなければならない理由は何か。同じ髪形をしなければならないというのは戦時中の軍国主義の名残だと思うが、それを教育現場でかたくなに続ける理由は何なのか。

 人は皆、生まれながらに違って当然だと思うし、そろえることが正しいとも思わない。髪の色が違うからといって、そこにどんな悪があるというのか。北朝鮮の軍事パレードのようにそろっていれば満足なのだろうか。

 生まれつきの特徴に限らず、スカートの丈は膝上何センチだ、運動靴のひもの穴は6対だ、耳は髪から完全に露出させろだ、とにかく他者と違うことを許さない正当な理由が想像できないことが多すぎる。しかし、教師にとっては「管理しやすい」というメリットがあるのだろう。それはそうだ、隊列を組んだ時に少しでも違っていれば指摘しやすく、「他と違う」という罪状で挙げることができるのだから。つまりは、それぞれの事象で教師が判断する力も感性もないと言っているに等しい。

 長い目で見ると、これは日本全体の弱点になるのではないか。こんな教育を受けて、「1億総活躍」などできようはずもない。「1億総火の玉」ならば話は別だが。ニュース番組でキャスターが「国際化が進んでいますから」とコメントで締めていたけれど、そういう問題ではない。(放送タレント)

 

(2017年11月12日配信『南日本新聞』−「南風録」)

 

 「ポニーテール、ようやく解禁」。30年前の本紙に、こんな見出しが躍っていた。鹿児島県内のある公立高校で校則で禁止されていた髪形が許された。7年間、生徒総会で議論を続け実現したとある。

 禁止していた理由に驚く。「うなじに刺激的な感じを受ける者がいるのでは、との心配から」と学校側は説明していた。生徒たちが納得できなかったことは容易に想像できる。

 こんな理不尽な校則は過去の話だと思っていたが、そうではないらしい。先日、テレビでポニーテール禁止は今もあると紹介していた。色柄物の下着を「透けると犯罪に巻き込まれる恐れがある」と禁止する学校もあるという。

 大阪では、生来の茶色の髪を黒く染めるよう何度も指導されたとして生徒が府立高校を訴えた。頭皮はボロボロになり、精神的苦痛のために過呼吸を起こしたという。配慮を求めても学校側は「ルールだから」と取り合わなかったそうだ。

 集団生活に一定の決まり事があるのは仕方ない。だが生徒の個性や尊厳を損なう結果になっては本末転倒だ。一律に守らせることだけが教育の役割ではないだろう。

 議論がある今こそ、疑問に感じながら続いてきた校則を見直す機会にしたい。30年前の記事には「手続きを踏めば、改めるべきは改めてもらえることを学べたことが(生徒にとって)最大の成果」という教諭の談話が掲載されている。

 

世界は広い(2017年11月12日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 女子生徒の髪はまゆより上で肩に付かない長さ、男子は丸刈り。靴下はラインが入ったりワンポイントの模様が入ったりしては駄目で必ず白。約30年前の中学時代の校則だ

▼折り曲げれば、ばれないと思い、白地に1カ所マークの入った靴下をはいていったことがある。生徒指導の先生に見つかり、職員室に呼び出され、靴下をはさみで切られた

▼反抗期だったこともあり、反省より反発の方が強かった。当時、そのような生徒指導は当たり前だった。今は靴下もかばんも自由で、男子の丸刈り規定もない。校則はだいぶ緩くなった

▼そう思っていたが、大阪の高校で地毛が茶髪の女子生徒に対し、黒く染めるよう学校側が染髪を強要していたことが明るみになった。生徒は「指導の名の下のいじめだ」とし、慰謝料などを求め学校を提訴した

▼高校時代、留学したオーストラリアでは制服はあったが、厳しい校則はなかった。スカート丈が短かろうが長かろうが本人の自由。ピアスも化粧もあり。そもそもベトナム系、イタリア系、アフリカ系などさまざまな人種の人がクラスにいた。当然、人を外見では判断しない

▼当たり前だと思っていた常識が、外の世界から見ると、くだらない場合がある。世界は広いと知れば「あるべき姿」にとらわれることもなくなる。生きづらいと思うとき、視点を変えれば気が楽になることもある。

 

(2017年11月11日配信『神戸新聞』−「正平調」)

 

与謝野晶子は歌集「みだれ髪」に詠む。〈髪五尺ときなば水にやはらかき少女(おとめ)ごころは秘めて放たじ〉。少女の髪は柔らかく胸のうちにも似て傷つきやすい。思いは秘めておきましょう、と

◆「みだれ髪」は1901(明治34)年に発表された。時は変わっても歌は少女ごころそのままにみずみずしく、まるで色あせない。そうかと思えば、いつの時代かと首をひねるようなルールに悲しむ少女もいる

◆大阪の府立高校に通う女子生徒が、生まれつき茶色の髪を黒く染めるようしつこく強要されたとして、府に損害賠償を求める裁判を起こした。もともと色素が薄いと訴えても認められず、不登校になったという

◆学校側は争う姿勢を見せているが、記事によれば、生徒は4日に1度、「色が落ちてきた」などと指導された。年ごろの少女である。染髪を繰り返し、ボロボロになるまで傷んだ髪を見るのは忍びなかったろう

◆「金髪の留学生でも黒く染めさせる」という先生の言葉にも耳を疑う。「おまえの肌の色はおかしい」。そう言っているのと同じだろう。生まれついての個性を同じ色に染め上げて、何の教育か。何が多様性か

◆恐らくこの学校だけの話ではない。〈やはらかき少女ごころは…〉。職員室での朗読をおすすめする。

 

黒髪強要(2017年11月9日配信『愛媛新聞』−「地軸」)

 

 自転車の高校生のヘルメット姿は、すっかり見慣れた。命を守るため、着用は大切。とはいえ、ヘアスタイルの乱れが気になるよう

▲かつて、多くの中学・高校で男子は学生帽の着用が校則で決まっていた。ただ、髪形が崩れないよう、学校に着く直前にかぶる生徒が多かった。しゃれっ気のない身には、寝癖が直り重宝したけれど

▲頭髪と校則の「せめぎ合い」は時代を問わないようだが、大阪府立高校では「一線」を越えた。女子生徒が、生まれつき茶色っぽい髪を黒く染めるよう教諭らに強要され、不登校になったとして提訴した。何度も染め、痛みやかぶれも生じたといい、これでは校則の名を借りた人権侵害。学校側は「たとえ金髪の留学生でも、規則なので黒く染めさせる」と説明したという

▲同様の訴訟は12年前に宮城県でもあり、このときは自主退学を迫られたという。愛媛も対岸の火事ではない。数年前、本紙投稿「ヤング落書き帳」に、茶色の地毛を染めるよう指導を受けたという高校生の声が届いている

▲持って生まれた髪の色を否定し、立場の弱い児童生徒に、染めることを強要するのは許されない。そんな当たり前の話が通用しないだけではなく、髪や肌の色で人を差別する意識が、子どもたちに植え付けられてしまうことを心配する

▲決まりは押し付けでなく、児童生徒と教師が一緒に話し合い作りたい。校則はよりよい学校生活を送るためにある。

 

(2017年11月8日配信『茨城新聞』−「いばらぎ春秋」)

 

下級生の女子生徒が若い女性教員に前髪をばっさり切られた−。中学3年の時、校内にこんな話が伝わった。みんなで憤慨した。抗議の意志を示すため、職員室の外側から数人で「かわいそう」「ひどい」などと大声を上げた

▼抗議の輪は広がらなかった。ただ、この行動を教員側から注意された記憶もない。子どもっぽい方法であっても、大人の間違った行為を指摘したことに意味はあったと今でも思う

▼学校は、生徒の外見、とりわけ髪の毛に強いこだわりを持つ。生活の乱れを示すサインとの認識なのだろう。適切な指導もあろうが、薄気味悪さすら感じる行き過ぎもある

▼大阪府立高3年の女子生徒が生まれつき茶色の髪の毛を黒く染めるように学校側から指導され、精神的苦痛を受けたとして府に損害賠償を求めて提訴したことが話題になっている。この生徒は指導を受け入れて染めていたが、色が戻る度に染め直しを強いられたという

▼しゃくし定規に「黒」を強要する学校側の姿勢は、明らかに異様だ。目の前にいる生徒の心身を犠牲にして、校長や教員は何を守ろうとしたのか

▼教育現場に統制や強要は似合わない。それぞれの違いを認め合い、おおらかに包み込む雰囲気こそふさわしい。 

 

黒髪指導 生徒の尊厳を損なう愚(2017年11月6日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 生徒が訴えている内容が事実なら、いちじるしい人権侵害というほかない。安心して高校生活を送れるよう、関係者にすみやかな対応を強く求める。

 大阪の府立高校で、生まれつき茶色い頭髪を黒く染めるよう何度も指導され、精神的な苦痛を受けたとして、女子生徒が賠償を求める裁判を起こした。

 訴えによると、教諭らは「黒くしないなら登校する必要はない」と発言し、授業への出席や修学旅行の参加を禁じた。生徒は度重なる黒染めで頭皮がかぶれて髪がぼろぼろになり、現在は不登校状態だという。

 府は裁判で争う構えだが、一方で行政トップの松井一郎知事は「生まれつきの身体的特徴をなぜ変える必要があるのか。大いに疑問だ」と述べている。

 では、どうしてこんな理不尽なことを強いたのか。教育委員会は説明する義務がある。

 髪の色や質は人それぞれだ。改めて言うまでもない。ところが日本の教育現場では「まっすぐな黒髪があるべき姿で、それ以外は認めない」という指導がしばしば見受けられる。

 今春の朝日新聞の調べで、東京都立高校の約6割で、髪が茶色がかっていたり縮れていたりする生徒に対し、生まれつきであることを示す「地毛証明書」を、入学時に提出させていることが明らかになった。

 髪の毛や服装などに関する指導は厳格であるべきだとする人は「あの学校は乱れているという評判が広まると、生徒募集や就職・進学に影響し、みんなに迷惑がかかる」という。

 学校は集団生活の場であり、秩序を保つために一定のルールが必要なのはわかる。それにしても度を越した対応が、各地で繰りひろげられていないか。

 学校が若い世代に向け、何より伝え、はぐくむべきは、一人ひとりの個性を互いに尊重しあう意識だ。国際化が進み、さまざまなルーツを持つ子どもが増えているいま、その必要性はますます大きくなっている。

 学校の評判を優先させ、生徒個人の尊厳を否定するルールを押しつけるのは本末転倒だ。全体を「管理」するのではなく、一人ひとりを「指導」する。この当然の姿勢を見失わないでもらいたい。

 個人よりも全体、個性よりも統制を重んじる空気は、日本社会に根強くある。「同調圧力」という言葉も頻繁に耳にする。程度の差はあれ、教育現場で起きていることは、大人たちの姿の投影といえる。問題の府立高校に憤るだけでなく、自分の足元を問い直していきたい。

 

生徒指導 多様性への配慮も必要(2017年11月4日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 これが事実であれば、生徒指導に名を借りた「いじめ」だろう。

 大阪府羽曳野市の府立高校3年の女子生徒が、生まれつき茶色い髪を黒く染めるよう執拗(しつよう)に指導され、精神的苦痛を受けたとして、府に損害賠償を求めて提訴した。

 生徒は指導に従ったが、何度も染め直させられ、授業や修学旅行への参加を禁じられたという。

 頭髪指導を巡っては、黒髪・直毛でない生徒に「地毛証明書」の提出を求める学校も少なくない。

 規範意識を養うことは大切としても、管理自体が目的となり、教育的意味が見失われている。

 しゃくし定規ではなく、多様性へ配慮した教育を求めたい。

 訴状などによれば、生徒は度重なる染髪で頭皮がかぶれ、指導中に過呼吸で搬送されたりした。

 それでも不十分として、昨年9月に登校を禁じられ、不登校になった。他の生徒には「退学した」と虚偽の説明がなされたという。

 同校の「生徒心得」はパーマ、染色、脱色を禁じているが、学校は黒髪に固執し「たとえ金髪の外国人留学生でも規則なので黒く染めさせる」と説明したという。

 これは極端な事例だろうか。

 頭髪や服装の指導は従来、遅刻対策とともに生徒指導の柱になってきた。

 染髪やパーマを禁じた校則や生徒心得を実践するため、各地で導入されているのが、地毛証明書や地毛登録書だ。

 入学時、生まれつき黒髪ではない生徒を対象に、保護者が押印した書類を出させたり、髪色を色見本と照らし合わせて登録する。

 東京では都立高校の過半数が導入し、一部の学校は幼児期や中学時代の写真を出させていた。

 ここまで髪の色にこだわるのは不可解だ。出自などプライバシーにも触れる恐れもある。人権感覚が希薄と言わざるを得ない。

 生徒指導では「服装の乱れは心の乱れ」などと言われる。

 本来、さまざまな変化に目を配るのは、生徒の異変を早期に発見し、抱えている問題に対応するためではなかったか。

 厳しい校則や、過度な管理が、学校という閉じた場で同調圧力を強め、生徒を緊張させて、いじめや不登校、中退の要因ともなることが指摘されてきた。

 看過できないのは、こうした指導がしばしば、保護者などの要請を背景としていることだ。

 画一的な外見に子どもを押し込めるのではなく、本来の目的に立ち返り、内面の成長を支えたい。

 

(2017年11月4日配信『信濃毎日新聞』−「斜面」)

 

ごみをあさり、農作物を食い散らかす厄介者といえば、街中をわが物顔で飛び回るカラスだろう。すぐ思い浮かぶ黒い羽は、よく見ると1色ではない。羽の付け根や首の部分は青みがかった黒。色彩は1羽ごとに微妙に異なってもいる

   ◆

 日本では艶があって美しい黒髪を「烏(からす)の濡(ぬ)れ羽色」と呼んで、女性の髪の毛の理想にしてきた。黒髪を生み出す色素の量は人によって異なっており、黒だけでなく茶や青色を帯びた人もいる。遺伝の影響が大きく、親から受け継いだ大切な個性である

   ◆

 「これはいじめ」。大阪府立の高校に通う女子生徒の主張だ。生まれつき茶色の髪を黒く染めるよう強要されたと、府を相手に訴訟を起こした。訴状だと母親が配慮を要望したが何度染めても不十分とされ指導を受けた。最後は「学校をやめるか黒染めするか」と迫られたという

   ◆

 学校が面接で母親に言ったとされる言葉は耳を疑う。「たとえ金髪の外国人留学生でも規則なので黒く染めさせる」と。女子生徒は黒染めの影響で痛みやかぶれが生じ、昨年9月から不登校になった。本年度は名前が名簿になく、教室に席もないという

   ◆

 府教委は頭髪指導は各校に委ねられる、としてコメントせず、府は裁判で請求棄却を求めた。個性を否定し、健康被害が出るまで指導することは教育といえまい。府教委も理解していると信じたいが、校則や学校の体面が大切なのか。異様な黒髪信仰は、カラスにとっても迷惑な話だろう。

 

金井啓子の現代進行形=茶髪は黒髪より劣るのか?(2017年11月4日配信『大阪日日新聞』)

 

校則は時代に応じ臨機応変に

 大阪府羽曳野市の府立懐風館高校が同校3年の女子生徒に髪の毛を黒く染めるように“指導”し、これが精神的な苦痛となって女子生徒が不登校になり、生徒側が損害賠償を求めて提訴する問題が発覚した。

 報道によると、女子生徒の髪の毛は生まれつき茶色で、そのことは入学当初から家族が学校側に伝えていた。だが、教諭は「母子家庭だから茶髪にしているのか」などと中傷。あげくは、茶髪を理由に文化祭や修学旅行に参加させず、「黒染めしないなら学校に来る必要はない」と“指導”し、それ以降、女子生徒は登校していないという。なお、懐風館高校は生徒の代理人弁護士に「たとえ金髪の外国人留学生でも規則で黒染めさせることになる」と説明したそうだ。

 そもそも「校則」とは何なのか。一般的には入学や退学、あるいは家庭と学校との連絡や処分などの事務的な手続きを定めている他、生徒に服装や髪形など校内の秩序を守らせるためのルールである。

 学校でも会社でも、あるいは社会全般においても一定の秩序が必要なのは言うまでもない。私が大学で担当する授業でも、理由なき遅刻や度が過ぎた私語、また他の学生が不快に感じる言動などは禁じている。授業の進行が滞ったり他の学生に迷惑がかかるからだ。懐風館高校だけでなく、全国の中学や高校が校則を定めるのは間違っていない。

 ただし、校則といえども絶対的なものではないだろう。戦時中の旧制中学の校則が現在にも通用するわけではないように、何が校則違反か、何が校内の秩序を乱すかはその時代の社会規範や人権意識などによって変化する。

 懐風館高校では古式ゆかしく「日本人は黒髪」という考え方を持っているようだが、果たして現実と合致しているのか。そもそも髪質は遺伝や食生活などさまざまな要因によって変わるもので、すべての日本人が黒髪なのではない。「黒髪は美しい」といった美の観念も時代によって変わっていく。ましてや、この女子生徒は生まれつき茶髪なのだから、それを「染めろ」と迫るのは、先天性の視覚障害者に「黒板の文字が読めるように眼を治せ」と言っているに等しいくらい無知か傲慢(ごうまん)か、恥知らずのいずれかである。

 私の教え子たちの中には「高校時代には絶対に戻りたくないし、何の愛着もない。卒業以来一度も遊びに行っていないし、これからも行かない」と言い切る人もいる。彼の母校は懐風館高校ではないが、度を越した厳しさの校則を教員に厳格に守らされる日々があまりにつらかったからだという。そういった教員たちはあまりに世間知らずと言っていいだろう。時代の寸法に合わない校則や指導があることくらい、いい大人なら知っておいてほしい。指導や教育が必要なのは生徒ではなく、教員や大人の方だろうと言いたくなる今回の問題だった。(近畿大学総合社会学部教授)

 

校則(2017年11月2日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

背の高い人、低い人。色黒の人、色白の人。人間は一人一人が異なる。髪の色も黒、茶、金色とさまざまだ。もちろん外見だけではない。そんな社会の多様性を尊重できるよう子どもたちを導くのも、教師の役目のはずだが…

▼その学校の無軌道ぶりには怒りすら覚える。大阪府の府立高女子生徒が、生まれつき茶色っぽい髪を黒く染めるよう何度も強要され、不登校になった問題である。生徒は府に損害賠償を求める裁判を起こした

▼訴状によると、痛みやかぶれが生じるほど何度も染めさせられた。それでも不十分だとし、修学旅行や文化祭に参加させてもらえなかった。驚くべきは、学校側が「たとえ金髪の外国人留学生でも黒く染めさせる」と言ったことだ。多様性の尊重などみじんも感じられない

▼もちろん高校生活に一定のルールはあっていい。しかし、それはあくまでも生徒のためであり、常識の範囲内でなくてはなるまい。生徒の人権を踏みにじるような校則は認められない

▼校則に書かれているから守るのではない。守らねばならないことをまとめたものが校則であろう。けれど、生まれながらの髪の色を無理やり黒く染めることが、どうしても守らねばならないこととは到底思えない

▼高校での主権者教育の重要性が高まっている。理不尽な校則を強制するような学校で、果たして本当の民主主義を学ぶことができるのだろうか。

 

 

大阪府立高校6割「地毛登録制度」−生まれつき茶髪な生徒は届出(2017年11月12日配信『毎日新聞』)

 

大阪府立高校の約6割では生まれつき髪の毛が茶色等黒髪以外の生徒に届出をさせる「地毛登録制度」を採用してる。大阪府立懐風館(かいふうかん)高校の女子生徒が、生まれつき頭髪が茶色いのに黒く染めるよう強要されたとして府に損害賠償を求めていた問題でのアンケートから判明

大阪府立高校の6割が生まれつき髪の毛が茶色等な黒髪以外の生徒に届出をさせる「地毛登録制度」を採用していることがわかった。

毎日新聞の大阪府立高校に対する頭髪指導に関するアンケートで判明。 回答した71校の約6割が、生まれつき髪が茶色い等の生徒が「地毛の色」を届け出る「地毛登録制度」を採用しているとのこと。

 府立懐風館(かいふうかん)高校(羽曳野市)の女子生徒が、生まれつき頭髪が茶色いのに黒く染めるよう強要されたとして府に損害賠償を求めた訴訟をきっかけに、アンケートを実施。全日制137校のうち71校(52%)が回答した。66校は「訴訟に関わる」などの理由で回答しなかった。 地毛登録制度があると回答したのは45校。ある高校は指導上のトラブルを避けるため、入学時に地毛が茶色い生徒は申し出るよう呼びかけ、保護者に確認できれば指導対象から外している。他校では、保護者アンケートで地毛の色を把握したり、頭髪の生え際を調べたりしている。 一方、24校は「極端な色の生徒が少ない」などの理由で制度を設けていない。 頭髪指導を「している」と回答したのは69校。2校は「していない」と回答した。内容別では、染色・脱色の禁止(63校)、パーマ禁止(58校)が多く、髪形を整える「ヘアアイロン」で変色した場合でも黒に戻すよう指導する学校もあった。頭の側面を刈り上げ、頭頂部を長めに残す「ツーブロック」は高校生らしくないと禁止する例も。地毛が茶色でも黒く染めるよう求める、と回答した学校はなかった。 校則などに頭髪の規定があるのは67校。うち2校は「黒色に限る」と色を明記していた。指導に従わない生徒への措置は授業の出席停止(6校)、行事の参加禁止(6校)、停学(2校)など。校則がなくても頭髪指導をしているのが2校あった。

 

「茶髪がいると評判下がる」女子高生“黒染め強要”で学校側の言い分−「週刊文春」編集部文春オンライン(2017年11月3日)

 

 大阪府立懐風館高校(羽曳野市)の3年生の女子生徒が、生まれつき茶色い頭髪を黒く染めるよう学校から強要され精神的苦痛を受けたとして、大阪府を相手取り約220万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こした。

 社会部記者が語る。

「訴えによれば、女子生徒は学校側から髪を黒くするよう指導され、昨年9月には4日に1度、黒く染め直して登校していましたが、教師に『アウト〜』『黒くしないなら学校に来る必要はない』などと言われた。文化祭や修学旅行への参加も認められず、旅行のキャンセル料も請求された。母子家庭の生徒に対し、担任が『家庭環境の変化の際に、両親の気を引きたくて頭髪を染めたのか』とも。

 その後、女子生徒は不登校となり、母親は弁護士を交え学校側と協議。ところが今年4月、登校を試みるとクラス名簿には自分の名前がなく、席もなかったそうです」

 原告代理人の弁護士が語る。

「学校側は指導の理由を、『茶髪の生徒がいると学校の評判が下がるから』だと言いました。金髪の留学生でも黒く染めさせるとのことです。

 幼少の頃から髪の色が明るかった証拠写真も示しましたが、学校側は『1度黒く染めていた生徒は続けるのがルール』という言い分。女子生徒は中学時代から髪を黒く染め、高校入学時の生徒証の写真撮影の際、教諭に『茶色ではダメ』と言われたためその後も染色を続けていた。ですがそのせいで頭髪がボロボロになって逆に色素が抜け、2年生の夏休みの登校日に少し茶色に染め直してきたところ教師に厳しく問い詰められ、帰宅後、過呼吸に陥りました」

 一方で同校の同学年の生徒は「入学時の頭髪検査で、少しでも茶色い場合は先生に『地毛なのか』と聞かれ、申告しました。集会でも教師2人態勢で頭髪検査をしますが、申告があればお咎めなしのはず」と首を傾げる。

 この件は米ニューヨーク・タイムズでも報道された。週末、同校を訪ねると、抗議の電話がひっきりなしに鳴っていた。同校の教頭が答える。

「現在、府の教育委員会と相談しており、原告の生徒と被告である府側に見解の相違があり係争中ですので具体的なことはお答えできません」

 そこまで黒髪に拘泥する教育上の意義とは?

 

「地毛証明書」「無言給食」 学校のルールを考える(2017年8月21日配信『朝日新聞』)

 

 学校に通っていたころ、ちょっと変わったルールや活動がありませんでしたか。「教育のため」と言われると否定しづらいけれど、なんだかモヤモヤが残るものも……。「地毛証明書」について報じた5月の記事をきっかけに起きた議論や、その後の取材をもとに、そんな「学校の不思議」についてみなさんと考えたいと思います。

 東京の都立高校の「地毛証明書」についての記事が朝日新聞デジタルに掲載されると、SNSで一気に反響が広がりました。

 多くは批判的な意見でした。ツイッターから引用すると、「くだらない」「いまだにこんなことやっているなんて、信じられない」「人を見た目で判断するなと教えるのが教育だ」「これは教師の仕事なのかな。ほかにやるべき仕事があると思う」などの声がありました。

 一方で、冷ややかな見方もありました。「学校が決めたことなんだし嫌ならそこに行かなければいい」「どこでもやるものだと思ってた」

 東京都教育委員会は「頭髪指導をする中で、(地毛が茶色い生徒らに)間違った指導をしないために行われている」と制度自体は是認しています。その上で写真を添付させることについては、「個別状況で真に必要な場合に限られるべきだ」との立場です。また、ある都立高の副校長は「生徒に地毛を大切にするよう呼びかけているので、証明書が必要だ」と言います。

 こうした議論に著名人も加わりました。教育評論家の尾木直樹さんは「身体について証明書を出させるなんて明らかな人権侵害だ」と憤ります。「大人は、子どもをケアしつつ人格を尊重するという、対等の関係を目指すべきだ。これは上からの一方的な押しつけだ」

 脳科学者の茂木健一郎さんもいち早く反応した一人。ブログで高校生に向けて「君たちは全く悪くない。おかしいのは、世間であり、都立高校の方なのです」と書きました。

 改めて話を聞くと、「生徒の人権を守るためと言うが、出自やアイデンティティーの証明を求めることが人権侵害だとなぜわからないのか」と話しました。「形式的には筋が通っていても、全体として個性や多様性をすごく抑圧している。まず髪を染めた人が不良、不真面目という認識モデルを疑うべきだ」と言います。

 ある都立高の教諭は「地毛の場合は指導の対象にはしないという、指導と人権配慮のバランスをとるための苦肉の策だ」と説明します。「そもそも茶色の髪の毛はダメだという頭髪指導こそ人権侵害だ。だが、学校にそれを求めているのは世間であり、日本社会。その議論をせずに地毛証明書だけを批判するのはおかしい」と話しました。

 

【地毛証明書の記事の要旨】

 都立高(全日制)の約6割が、髪の毛を染めたりパーマをかけたりしていないかを見極めるため、一部の生徒から入学時に「地毛証明書」を提出させているという内容でした。裏付けのために幼少期の写真を求める高校もあり、専門家からは疑問視する声も出ていると紹介しました。

 保護者が髪の特徴を記入して押印する形が多く、呼び方や書式は各校で違います。保護者も参加する入学前の説明会で、地毛かどうか疑わしいと思われる生徒に声をかけて用紙を渡す例もあります。

■「万引きしないと」と署名

 「地毛証明書」について報じた後、朝日新聞社会部の情報窓口に、東京都が小学校低学年向けに作った万引き防止啓発リーフレット「万引きなんてしない!」について、メールが届きました。「直感的に『なにこれ!』と違和感を覚えた」と訴える保護者からでした。

 A4判4ページで「人のものをだまってとることははんざいです」と強調し、罪を犯した場合は、刑務所に入れられるか、罰金を払わされると説明しています。最終ページには「私は、何があっても、ぜったい万引きはしません!」と宣言文があり、児童が署名するようになっています。

 都によると、3月末に都内の全小学校に電子データを送ったそうです。各校で印刷して、道徳の授業や生活指導の時間に教材として使うといいます。高学年や中学生向けのものもあります。都青少年課の和田栄治担当課長は「万引きは、はっきり駄目だと伝えるための内容」と話します。署名は「友達に誘われるなどしても、揺るがない姿勢を示すため」と説明しています。

 ある小1の保護者の男性は、子どもの学級で全児童が署名をしたとして、「(子どもは)一律、『万引き予備軍』なのでしょうか。ものの大切さ、それに多くの人が関わることの意味を考えて良心を育てる姿勢が欠けている」と言います。喜多明人・早稲田大教授(子ども支援学)はリーフレットについて「厳罰化による対症療法であり、一定の効果はあるかもしれないが、子どもが自律的に解決する機会を奪ってしまう」と指摘しています。(峯俊一平)

■清掃、ひざつき無言で

 日本の学校の風景としてよく話題にのぼるのが「掃除」です。文部科学省が2016年度から始めている「日本型教育の海外展開」でも、掃除や給食などの特別活動が注目されているといいます。

 子どものトイレ清掃には教育的な意義があるとして、横浜市は10年度から、市内の全小中学校計500校で、児童や生徒によるトイレ掃除を復活させました。従来は、用務員の業務と位置づけられていました。教職員向けに同市教育委員会が作った冊子には、「清掃活動で伸ばしたい力」として、公共心や規範意識、自律心の醸成などが挙げられています。ただ、その後のトイレ掃除の実施率や効果を調査する予定はないそうです。

 「清掃は心を磨く」として、独自のスタイルを採り入れている学校もあります。

 「かつては生徒指導が大変な学校でした」。埼玉県本庄市立本庄東中学校の関根栄一校長は言います。授業中に席を立つ生徒がいて、先生たちは困っていたそうです。そこで同校が注目したのが「清掃教育」でした。10年からは、ひざをついた姿で15分間黙々と掃除をする「無言ひざつき清掃」に取り組み、学校のホームページでも発信しています。「最初は怒鳴っていた先生もいました。でも、先生がしゃべると無言にならない。絶対に清掃中は怒らないでほしいと伝えました」と関根校長。先生たちも、生徒と一緒に掃除をしています。川田博樹教頭は「生徒に完璧に清掃をやらせようと思えば、教員もストレスがたまる。一緒にやろうと思えば、ストレスにならない」と言います。

 そのうち、黙々と掃除をする生徒の姿が、他の生徒たちの間で「かっこいい」と憧れられるようになったそうです。高学年になると、掃除をがんばったという「輝き賞」を受賞する生徒も増えます。こうした生徒を見習うために、高学年の教室掃除に低学年が「清掃留学」する機会も設けているそうです。

 朝日新聞の地方版によると、「無言清掃」は、長野県や福井県、佐賀県など各地で実施されています。

■前例踏襲、実は「珍百景」?

 現役の公立小学校の先生ら13人が2014年に出版した「学校珍百景 『学校あるある』を問い直す」(学事出版)は、学校に特有の光景や活動に光を当てます。日直や「朝の会・帰りの会」、席替え、上履きなど、これまで当たり前とされてきた「学校文化」について、「本当に必要なの?」と疑問を投げかけました。15年には「学校珍百景2 まだまだ出てくる『学校あるある』」も出版されました。

 編著者である千葉県浦安市立小学校の教諭塩崎義明さん(59)によると、学校には「無言清掃」だけでなく、「無言給食」もあります。「もぐもぐタイムなどといいますが、残さずに全部を食べさせるのが狙い。先生が子どもを管理することばかりに目がいっているように感じます」と話します。

 同様に、校門での一方的なあいさつ運動や、靴を5ミリのずれなくそろえさせるなど、「何のためのマナーなのかが抜けて、今までやってきたからというだけで残っていることが多い。それが珍百景を生んでいます」と指摘します。

 そして、こう問いかけます。「決まりを厳しくすればするほど、先生は口うるさくなり、ストレスもたまります。管理しようとして、自分の首をしめていませんか」

 疑問をもちつつ前例踏襲で続けてきたことが「珍百景」として取り上げられていると知った先生たちからは、「気が楽になった」と感想が届いているそうです。

     ◇

 高校が地毛証明書を出させている理由の多くは「校則で染髪やパーマは禁止されており、地毛が茶色い生徒らを守るため」でした。でも、証明書を出した経験がある男性は「先生に染めていると疑われ、悲しかった」と話します。目的が一見、正しそうな学校のルールや活動が、実は誰かを傷つけてはいないか。立ち止まって考えてみたいと思いました。

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