2017都議選

 

記事 論説 小池都政はどこへ

 

安倍「辞めろ」「帰れコール」

共謀罪で逮捕との投稿に工藤彰三自民衆院議員(「魔の2回生」)が「いいね!」

「やめろコールは活動家の妨害」 昭恵氏が「いいね!」

「かきくけこ」 THIS is 大打撃 + あいうえお

「日本会議」の候補 都議選で54%落選

 

(2017年7月2日配信『朝日新聞』)

 

(2017年7月3日配信『毎日新聞』)

 

 

(2017年7月3日配信『朝日新聞』)

 

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(2017年7月4日配信『しんぶん赤旗』)

 

(2017年7月4日配信『東京新聞』)

 

 

 

 

小池氏支持勢力で79議席 自民23、共産19、女性最多

  

2017年7月2日投開票された東京都議選(定数127)は、小池百合子知事率いる地域政党「都民ファーストの会」の49人が当選し、第1党になった。公明党の23人なども含め、小池氏の支持勢力で過半数の79議席を獲得した。

 

 自民党は過去最低の23議席。これまで最も少なかったのは1965年と2009年の38議席だった。公明は7回連続の全員当選となった。

 

 共産党は19、民進党は5、都民ファ推薦の無所属が6、地域政党「東京・生活者ネットワーク」と日本維新の会が、それぞれ1議席となった。

 

 女性候補の当選は36人で過去最多となった。

 

 都連の下村博文会長は3日未明、報道陣に「責任を取って会長をやめたいと思います」と述べた。下村会長は惨敗の理由について、「国政の問題、国会議員の問題が大きかった。自民党に対する怒りだったと受け止めている」と語り、加計かけ学園を巡る問題や、稲田防衛相の失言など、国政での相次ぐ“失点”が影響したとの見方を示した。都連は下村会長ら5役全員が辞任する方針で、萩生田光一総務会長は「都連を刷新してやり直していかなければいけない」と語った。

 

安倍晋三首相は3日午前、東京都議選で自民党が惨敗したことについて、「厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と首相官邸で記者団に語った。また、「国政には一時の停滞も許されない。反省すべき点は反省し、謙虚に丁寧にやるべきことを前に進めたい」とも語り、引き続き政権運営にあたる意欲を示した。敗因については「安倍政権に緩みがあるのではないかとの厳しい批判があったんだろうと思う」とし、「政権奪還した時の初心に立ち返り、全力を傾ける」と述べた。

 

東京都の小池百合子知事は7月3日、地域政党「都民ファーストの会」の代表を同日付で辞任し、野田数(かずさ)幹事長を代表に再任させることを明らかにした。

 

自民党は3日、党紀委員会を持ち回りで開き、小池百合子東京都知事と若狭勝衆院議員(東京10区)、保坂三蔵元参院議員が提出していた離党届を受理した。

党内には除名などの厳しい処分を求める声もあったが、2日投開票の都議選で自民党が小池氏が代表を務める地域政党「都民ファーストの会」に惨敗したことを受け、処分を避けた。

 

 

政治考 自民 都議選惨敗の深層(2017年7月17日配信『しんぶん赤旗』)

 

基盤のもろさと国民の憤り

  「23議席という数字は誰も想像していなかった」

 東京選出の自民党議員や同党関係者、政府関係者から東京都議選(2日)の歴史的惨敗について「想定外」の言葉が深刻に語られます。自民党大敗の深層を考えます。


 「投票日1週間前の情勢調査では41ぐらい取れるはずだった」

 自民党ベテラン議員の一人はこう語ります。情勢の大激変の中の都議選だったことが浮き彫りです。自民党の土屋正忠衆院議員は自身のブログで「10数年前、県庁所在地の小選挙区の第1区で自民党が相次いで敗北して『1区現象』と言われた。この現象が東京全体を覆い尽くした」と述べます。

「実は強くない」

 従来の歴史的最低ラインは38議席。これを15議席も下回る結果はどうして起きたのか。

 政府関係者の一人は、「もともと支持基盤が広いわけではない。塊のような消極的支持に支えられてきた。それが一気に離れた。公明党と離れてたたかったのも大きかった」と述べます。自民党関係者の一人は「メッキがはがれた。実はもともとそんなに強くない。それが露呈した」と語ります。

 安倍政権の暴走への怒りが噴き出す中で、党の基盤のもろさが露呈したという共通の指摘です。

 2014年総選挙で自民党の対有権者総数に対する得票率である絶対得票率は16・99%(比例代表)で、5人に1人の支持も得ていません。その後、内閣支持率は60〜50%台と高水準を維持してきましたが、支持の最大の理由は「ほかに適当な人がいないから」という消極的支持が多数でした。

 東京大学社会科学研究所の宇野重規教授(政治学)は「直近の政治の動きの中で、森友・加計疑惑、若手議員の暴言や稲田防衛相の失言などが重なったが、根本では自民党の総体的な実質基盤の弱さがもろに現れた」と指摘。「直近の総選挙での小選挙区での絶対得票率も25%程度。後援会組織も弱くなって自民党自体が空洞化している」と語ります。

 さらに宇野教授は、「突っ込んで考えるとそれだけではない」として次のように語ります。

 「安倍政権のやりたいことは、結局、憲法改正であって、日本社会の真の未来など見ていない。改憲のために支持率を維持する、そのためには株価であり、円安である。少子高齢化に集約される日本社会の持続可能性、国民の日々の生活は放置され、深刻に毀損(きそん)されている。そういう政治に対する不安、前途のみえなさに対する根本的な憤りが噴出した」

急落「赤信号だ」

 自民党関係者の一人は、「都議選結果に加えさらに厳しいのが、選挙の1週間後の全国世論調査(10日発表)で、内閣支持率が3割前半まで一気に落ち込んだことだ」と衝撃を隠しません。14日には時事通信の世論調査で「危険水域」と言われる20%台(29・9%)に続落。支持率急落が止まらない状況です。

 ベテラン議員は「30%を切ったら危機的状況、赤信号だ」と表情を変えました。「このうえ23日の仙台市長選、30日の横浜市長選で負けたら、もう終わりだ」と危機感を募らせます。

 

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受け皿示した共産党 野党共闘の文化定着しつつある

 「安倍首相や菅官房長官は態度が大きいし、上から目線。国会答弁も記者会見も、相手の後ろに国民がいるのを忘れて、人をばかにしたような、高飛車で、頭から反対意見を切り捨て、自分だけが正義だという態度。きちんと説明するのが官房長官の役割なのに『全く問題ない』と傲慢(ごうまん)にくり返す。あんなむちゃくちゃな答弁を毎日やっていたら、国民が怒るのも無理はない」と、前出の自民党ベテラン議員はまくし立てます。

 「なんであれほどの失言をした稲田防衛相を切らないのだ。多くの議員より自分の“身内”の方が大事なのか」と安倍首相への不満が充満しています。

 政府関係者の一人も「政治の質、安倍政権の体質への肌感覚での反発だ。安倍首相自身の問題だけに、内閣改造では回復できない」と述べます。

 自民党議員の一人は「安倍政権の求心力は、支持率が高く選挙で勝てることにある。都議選で惨敗し、支持率が下がれば、人心は一気に離れる」とし、「憲法改正どころではない」と肩を落としました。

筋を通す大切さ

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(写真)五十嵐仁法政大名誉教授

 小池百合子都知事率いる「都民ファーストの会」が55議席に躍進する中、日本共産党が現有議席を超えて躍進したことに注目が集まっています。

 法政大学名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は「共産党が前進したのは安倍政治と対峙(たいじ)し、ぶれることなく間違っていることは間違っていると言い続けてきたことが評価された結果だ。安倍政権との対決で筋を通すことがいかに支持を獲得するうえで重要かということだ」と強調。そのうえで五十嵐氏は、共産党が共闘という「受け皿」を示してきたことの重要性を語ります。

 「自民党は比例代表では17%程度。その背後には投票に行かない多くの人がいる。これらの、いわば諦めている人たちに希望=受け皿を提示する必要がある。今回の都議選では議員選挙での他党派候補の応援、政党間の連携が生じた。共通政策づくりで一致点を拡大してきたこれまでの取り組みの成果だ。共闘の経験と信頼感が背景にある。そこから新しい政治文化が生まれ、政党間の垣根が低くなり『共闘は当たり前』で、エール交換が行われるようになった」

政治判断が成熟

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(写真)宇野重規東大教授

 東大の宇野教授は「特定秘密保護法から安保法制、共謀罪、さらに原発、これらの課題で一貫して極めて強い批判勢力があり、それが日本全体で確固として存在している。この人たちの受け皿になり得たのは、都民ファーストではなく共産党だった。共産党は固有の支持基盤プラス、強い安倍批判勢力にとっての唯一の受け皿になった」と指摘します。

 マスメディア関係者の中からも「無党派層の中の政治的に高感度の部分は、ファーストに行かずに共産党に行った。丸々ファーストが非自民・反自民の受け皿になったわけではない」という声が相次ぎます。

 宇野氏は、野党共闘の積み上げについて「批判勢力がバラバラにされ各個撃破されてしまうと相対的な強さしかないはずの自民党が『1強』になってしまう。これに対抗するというある種の政治的リテラシー(知見)、戦略的な感覚が一般市民にも広がっている。100%一致できなくても、一人でも多く批判勢力の代表を送り出すにはどうすればいいかと、政治的判断力の成熟が進んでいる。野党共闘の文化は定着しつつある」と述べます。

 自民党惨敗の深層では、日本共産党と市民と野党の共闘が表裏の関係で深く関連しています。

 

「日本会議」の候補 都議選で54%落選(2017年7月12日配信『しんぶん赤旗』)

 

改憲勢力に打撃 共産党訴えに共感

 東京都議選(2日投開票、定数127)で、侵略戦争を正当化し9条改憲をめざす改憲・右翼団体「日本会議」の地方議員組織に加入する54人中、当選は25人(46%)にとどまりました。改選前の57人の44%に半減しました。

 都議選の結果、日本会議に所属している自民党50人のうち22人が当選し、都民ファーストの会は3人全員が当選しました。

 落選した日本会議の自民都議には、川井重勇議長、都議会自民党の高木啓幹事長、崎山知尚政調会長らが含まれます。日本会議地方議員連盟(2007年設立)の初代会長に就任した野村有信都議も落選しました。

 4年前の都議選では立候補した日本会議会員41人のうち、36人(すべて自民党)が当選。その後、同会に入会した議員を加え、改選前には同会都議は57人に増えていました。

 共産党は都議選で安倍内閣の改憲策動を厳しく批判、「憲法改悪を許さず、憲法を都政に生かします」と公約し、共感を広げました。

日本会議都議候補の当落

[自民党]

中央区 石島秀起▲

港 区 菅野弘一、来代勝彦▲

新宿区 秋田一郎

文京区 中屋文孝

台東区 和泉浩司▲

墨田区 川松真一朗、桜井浩之▲

江東区 山崎一輝

品川区 田中豪▲、沢田洋和▲

目黒区 鈴木隆道▲、栗山芳士▲

大田区 神林茂、鈴木章浩、鈴木晶雅▲

世田谷区 三宅茂樹、大場康宣、小松大祐

中野区 川井重勇▲

杉並区 早坂義弘、小宮安里

豊島区 堀宏道▲

北 区 高木啓▲

練馬区 柴崎幹男、山加朱美▲

荒川区 崎山知尚▲

板橋区 河野雄紀▲、松田康将▲

葛飾区 舟坂誓生、和泉武彦▲

足立区 高島直樹、発地易隆▲

江戸川区 宇田川聡史、田島和明▲

八王子市 伊藤祥広

立川市 清水孝治

武蔵野市 島崎義司▲

青梅市 野村有信▲

府中市 鈴木錦治▲

町田市 吉原修

小平市 高橋信博

日野市 古賀俊昭

西東京市 山田忠昭▲

南多摩  小礒明▲

北多摩1 北久保真道▲

北多摩2 高椙健一▲

北多摩3 栗山欽行▲

北多摩4 野島善司▲

島 部 三宅正彦

 

[都民ファーストの会]

品川区 山内晃

世田谷区 木村基成

足立区 馬場信男

 

[無所属] 1人

中央区 立石晴康▲

 無印は当選。▲は落選。

 

都議選、公明協力なら自民単独第2党…読売試算(2017年7月9日配信『読売新聞』)

 

 

 2日に行われた東京都議選(42選挙区。定数127)で、公明党が国政選挙と同様に自民党と協力を行った場合、自民党が実際の結果より12議席増やす可能性があったことが、読売新聞社の試算でわかった。

 小池百合子都知事率いる地域政党「都民ファーストの会」に次ぐ、単独第2党になる計算だ。「公明票」の行方が自民党の議席数を大きく左右することが、改めて浮き彫りになった。

 公明党は定数1と2の22選挙区のうち、同党が候補を立てた荒川区(定数2)を除く21選挙区で、都民ファーストの公認候補22人全員を推薦した。都民ファーストが推薦する無所属候補のうち2人についても推薦を出した。試算は、この21選挙区を対象とした。

 

逃げる都議選の戦犯たち “安倍一派”退陣運動が全国に拡大(2017年7月9日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 7日始まったドイツG20が「もっけの幸い」とばかりに、安倍首相は歴史的惨敗を喫した都議選の追及を避けるように欧州歴訪中だ。前川喜平前文科次官が出席する10日の閉会中審査も欠席。12日帰国の予定だが、逆回転を始めた歯車は元に戻りそうにない。国民に顔向けできないのか、「お友達」ともども公の場から逃げ回っている。

 大敗の“戦犯”のひとりである稲田防衛相は7日、都内のホテルで開催するはずだった政治資金パーティーを「諸般の事情を考慮した」として、急きょ中止した。

 「稲田大臣は都議選の応援演説で“防衛省、自衛隊としてもお願いしたい”と発言し、大バッシングを浴びました。それから間もない九州豪雨の対応中に防衛省を70分間も留守にしたのだから呆れます。内閣改造で交代は間違いありませんが、その前に自ら辞職を申し出るべきです」(政治評論家・伊藤達美氏)

 加計学園から「200万円の闇献金」が渡っていたことが報じられた下村博元文文科相も5日に講演会をドタキャン。「このハゲーーッ!!」のパワハラ暴行の豊田真由子衆院議員は、入院したまま行方知れずになっている。森友学園と加計学園に関与したとされる安倍昭恵夫人は、今月21日に登壇挨拶する予定だった「日米国際海洋環境シンポジウム」を辞退した。

 都議選の“戦犯”たちは「引きこもり作戦」で不祥事が忘れられることを期待しているのだろう。

■このまま逃げ続ければ巨大化は避けられない

 しかし、そうは問屋が卸さない。

 9日17時から「安倍政権に退陣を求める緊急デモ」が新宿中央公園水の広場で開催される。安倍首相退陣を求めるデモは同日の同時間帯に名古屋、大阪、福岡でも行われる。さらに11日は、国会議員会館前と長野市、和歌山県新宮市で共謀罪施行に反対するデモが実施予定。都議選最終日に秋葉原で起きた“安倍辞めろコール”の国民運動が加速度的に全国に拡散しているのだ。

 都議選に大敗し、安倍首相は神妙な面持ちで『深刻に受け止め、深く反省しなければならない』と言いましたが、具体的に何をどうするかには言及していません。首相がこのまま逃げ続ければ、退陣デモがますます増えるでしょう。10月下旬には愛媛で衆院補選があります。自民党が負ければ、ますます巨大なうねりになっていくと思います」(伊藤達美氏)

 安倍首相は前倒しで内閣改造を進め、起死回生を図ろうとしているが、口利きワイロ問題で辞任した“お友達”の甘利明前経済再生相を再入閣でもさせようものなら火に油だ。狂い始めた歯車は音を立てて壊れようとしている。

 

戦犯4人も全員所属 安倍「清和会」包囲網が自民内で着々(2017年7月7日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 

魔の2回生」もとい「魔の清和会」と永田町で揶揄されている。都議選の戦犯を表す「THIS IS 敗因」のT(豊田真由子衆院議員)、H(萩生田光一官房副長官)、I(稲田朋美防衛相)、S(下村博文元文科相)は全員、「清和会」(細田派)所属。つまり、安倍首相が属する総裁派閥なのである。いま自民党内でこの清和会に対する不満が爆発寸前だ。その矛先は当然、安倍首相に向けられ、包囲網が形成されつつある。

 4日、都内で「平成研究会」(額賀派)が前身の経世会創設から30年の会合を開いた。ここで「安倍1強から脱却し、党内で活発な議論を取り戻す必要がある」などと、安倍首相批判ともとれる発言があったという。

 「平成研のこの会合は、当初マスコミにフルオープンの予定だったのに、一転、冒頭の額賀会長の挨拶までとなった。安倍政権への批判をマスコミに聞かれてはマズいという配慮があったようです」(担当記者)

 この前日の3日には、新麻生派「志公会」が総勢59人の党内第2派閥として発足したが、自民党内ではここへきて、派閥の権力闘争の動きが活発化している。

 「自民党は森喜朗首相以来、もう15年以上、清和会の天下です。そんな中で、続出する不祥事や失言は清和会に所属する議員ばかりで、ついには都議選の歴史的大惨敗を招いた。さすがに『清和会よ、いい加減にしろ』という怒りが党内に蔓延しています。麻生派も額賀派も表向きには『安倍政権を支える』と言っていますが、本音は違う。もともと麻生派は宏池会から分裂した派閥ですし、額賀派は経世会。いずれもハト派で保守本流の気概が強い。タカ派の清和会こそ傍流と思っているのです」(自民党関係者)

都議選敗北は「安倍NO」の号砲

 今後も最大派閥・清和会打倒を掛け声に、派閥の合従連衡が進む可能性がある。カギは宏池会(岸田派)だ。麻生大臣が岸田派に「大宏池会」構想を呼びかけている。第3派閥の額賀派と二階派が「大経世会」(二階幹事長は92年の竹下派分裂まで経世会)として一緒になるという話も囁かれている。この「大経世会」が岸田派と連携して、かつての「大角連合(田中角栄元首相と大平正芳元首相が連携)」の再来を描く向きもある。

 共同通信記者時代、長年にわたって清和会を担当してきた政治評論家の野上忠興氏はこう言う。

 「都議選敗北は『安倍NO』の号砲になりました。これを好機と捉え、他派閥の動きが活発になるでしょう。清和会は最大派閥とはいえ、安倍さんの次が不在。先日、安倍さん自身が『四天王』などと下村さんらの名前を挙げていましたが、誰も本気にしていません。安倍さんの求心力が落ち、清和会に先が見えないとなると、1、2回生が危機感から動く可能性が出てきて、清和会が分裂する可能性すら出てくると思います」

 5日の党憲法改正推進本部の会議でも「丁寧な議論が必要だ」と首相を牽制する声が上がった。安倍1強は確実に揺らいでいる。今ごろ安倍首相は悲鳴を上げているんじゃないか。

 

自民大敗、鎌倉幕府末期みたい?(2017年7月6日配信『朝日新聞』)

 

 「おごれる人も久しからず、只(ただ)春の夜(よ)の夢のごとし」。思い上がった権力は必ず滅びると、「平家物語」は伝えている。東京都議選で大敗を喫した自民党。「安倍1強」が続き、おごりや慢心があったのではないか。底流には何があるのか。

■歴史学者・本郷和人さん

 今回の都議選での自民党の惨敗を見て、「おごれる平氏は久しからず」ということで平家政権の崩壊を思い起こす人もいるかもしれませんが、平家の場合、おごって武士であることを忘れて貴族化して、地方のことを見向きもしなくなった結果、地方の反乱を呼んで滅んだのであって、今回のように首都からの反乱とは異なります。中世政治を研究する者としては、むしろ鎌倉幕府の崩壊の過程に近いのではないかと思いました。

 鎌倉幕府には大きく二つの潮流がありました。一つは幕府と主従関係を結んだ御家人の利益を最優先する立場の人たちです。御家人は全国に3千人ほどしかいませんから、人口1千万人の日本の中では超エリート層です。彼らをまとめておけば幕府は安泰と考えたわけです。もう一つの潮流は御家人以外の武士や農民、商人も含めた日本全体に責任を持つべきだと考える人たちです。

 この二つの潮流の路線対立から、1285年に霜月騒動という幕府内の内乱が起きました。その結果、第2の潮流は滅ぼされ、幕府はいわば「御家人ファースト」の政権になってしまいました。幕府は御家人の利益となる政策を次々と採り始めます。その最たるものが「永仁の徳政令」です。これは御家人が売った土地は無償で取り返すことができるという命令です。御家人は喜びますが、御家人から土地を買った者からすればただで土地を取り上げられるわけですから、不満が高まります。

 このあたりは友人や思想が近い人を優遇した疑いが持たれた加計(かけ)学園、森友学園の問題をほうふつとさせます。

一方、「御家人ファースト」を言っていた幕府の中では、執権の北条一族が次第に権力と権益を一手に独占するようになりました。北条一族のおごりが始まり、御家人たちも「俺たちは確かに大事にされているけど、北条はもっとすごいことになっているぞ」と気づき始めます。

 そうした不満に呼応して1331年に後醍醐天皇が武装蜂起したものの、失敗して隠岐の島に流されました。その意思をくんだ楠木正成(くすのきまさしげ)と護良(もりよし)親王がゲリラ戦を始めます。けれどもこの段階では、優遇されていた御家人たちはまだ動きませんでした。

 そこに、足利尊氏が後醍醐天皇に味方して「北条政権を倒そう」と挙兵すると、全国の武士たちが一斉に北条政権に牙をむいて、1カ月もしないうちに政権は崩壊してしまいました。

 私は、今回の都議選は、鎌倉幕府崩壊の過程になぞらえると、楠木正成のゲリラ戦の段階だと考えています。

 これが次第にボディーブローのように効いて、時の政権の力をそいでいくと、いずれ尊氏のような人物が現れて一気に流れを変えてしまうのではないかと考えます。

 では、今の状況でだれが尊氏になるのかが問題です。

 小池百合子都知事が有力候補かもしれませんが、小池さんのように安倍晋三首相と同様の右寄りの政治家では新鮮さがありません。安倍政権のおごりは金権政治といった形ではなく、稲田朋美防衛相のような自分と考えの近い右派の政治家を極端に優遇するという形で現れています。右寄りの発言をすることによって出世できる構造があるので意図的にそうした発言をしている部分もあるでしょう。

 私の願望かもしれませんが、「自民党の良識」ともいうべき古き良き穏健な保守主義者の中から尊氏が現れるのではないでしょうか。自民党内でも安倍さんの友だちではない人たち。本心から現在の右寄り路線に乗りきれない人たちをまとめて立ち上がることができる人物が現れれば、潮目は一気に変わるのではないか。そうした人物がどれくらい生き残っているのかはわかりませんが。

     ◇

 1960年生まれ。専門は日本中世政治史。2012年から東京大学史料編纂(へんさん)所教授。著書に「武力による政治の誕生」「謎とき平清盛」など。

 

■政治学者・宇野重規さん

 大きく潮目が変わった選挙といえるでしょう。「安倍1強」といっても自民党への支持がすかすかで、決して堅固ではなかったということがあらわになりました。

 これまでの選挙では、民進党などがだらしなくて他に選択肢がないと考えていた有権者も、共謀罪をめぐる強引な議事運営、森友、加計(かけ)学園の疑惑、若手議員たちのスキャンダルで潜在的な不満に火を付けられ、自民党におきゅうを据えることができる「受け皿」が出現したこともあって、一気にそれを噴き出させました。民意を示すという選挙の重要な役割を果たすという点で大きな意味がありました。とはいえ、新たな権力をつくるという選挙のもう一つの役割に関しては課題も残ります。

 東京は浮動票が多く、有権者が行政に依存する度合いも低い。しかも、都知事選や都議選は外交や安全保障とは直接結びつかない地方選挙です。どうしても「面白ければ良い」という感覚が前に出る傾向もあります。今回も都政について真剣に議論された結果というよりは、都議会自民党という悪役を退治するエンターテインメントになってしまった側面もありました。「小池劇場」の勝利です。

 注目すべきなのは、党首が非常に強く、候補者は誰でもよいといった「1人政党」の問題です。安倍晋三首相と小池百合子知事が衆院議員に初当選した1993年の総選挙では、細川護熙さんが日本新党のブームを起こします。その後も、郵政解散の小泉純一郎首相、橋下徹さんの大阪維新の会、今回と続いてきました。これだけ次から次へと1人政党が生まれ、旋風を起こす国は日本だけでしょう。米国で、いくらトランプ大統領がかき回しても、二大政党は残っています。仏総選挙では、「共和国前進」などマクロン大統領の陣営が躍進しましたが、中道政党の結集という側面があり、1人政党とはいえません。

 政党は、民意を吸い上げて政策体系、パッケージをまとめ上げる機能と、時間をかけて訓練と選別を重ね、国政を担いうる経験と人格を備えた人材を育てる機能を持っています。1人政党は、そうした機能を放棄し、瞬間風速だけを重視します。そうなると、風を受けたカリスマやスターの交代劇だけが政治になってしまいます。

 小池知事が「国民ファーストの会」のような政党をつくれば、国政選挙でも議席を獲得できるかというと、それほど簡単ではないでしょう。しかし、1人政党が今後も出てくる可能性があります。ちょうど冷戦が終わり、日本における政党対立の構造が揺らぎ、イデオロギーや社会の枠組みが流動化していた時に小選挙区制度を導入したことも、政党の空洞化、流動化を招いた一因でしょう。

 政党の立て直しが求められています。しかし、歴史的な大敗を喫した自民党も、何から手を付けるべきなのかが分からないようです。自己改革よりは「いい風が吹くときに選挙を」ということなのでしょう。民進党も離党者が相次ぎ、壊滅的な結果だったにもかかわらず、解党的出直しに取り組もうとしているようには見えません。このままでは、小池知事がたとえ国政に進出しなくても、新たな1人政党を台頭させてしまう土壌が温存されるでしょう。

 この20年を超える日本の政治改革は、あまりに政党に期待し、依存しすぎたのかも知れません。逆に理想から遠ざかるばかりです。政党は人類が時間をかけて築いてきた大切な仕組みですが、市民が直接政策を提案するなど選挙以外の民主主義の回路を充実させていくことにも注力すべきでしょう。地方を歩くと、市町村レベルには、自らの責任で地域の課題を解決しようとする多くの人々に出会えます。政党をしっかり立て直すという課題と民主主義の多様化を、両にらみではかっていくしかありません。(聞き手・池田伸壹)

     ◇

 1967年生まれ。2011年から東京大学教授。著書に「保守主義とは何か」「〈私〉時代のデモクラシー」「トクヴィル 平等と不平等の理論家」など。

 

「こんな人たち」発言、敵味方を峻別 首相演説が波紋(2017年7月6日配信『朝日新聞』)

 

 「こんな人たちに負けるわけにはいかない――」。安倍晋三首相が東京都議選の応援演説で、自らを激しく批判していた人たちを前に発した一言が波紋を広げている。多様な世論に耳を傾け、意見をまとめ上げる立場の最高権力者が、有権者を敵と味方に分けるかのような発言。「丁寧に説明する」と強調していた首相の言葉はどこへ行ったのか。(岡戸佑樹、仲村和代、田玉恵美)

首相演説に「辞めろ」「帰れ」の声 都議選で初の街頭に

 安倍首相の発言は、都議選の投開票日前日の1日夕、東京・秋葉原の街頭で行われた自民候補の応援演説の場で出た。秋葉原は首相が国政選挙の演説の締めくくりに選ぶ「聖地」だが、都議選で初の街頭演説となった首相の演説の最中、聴衆の一部から「帰れ」「やめろ」コールがわき起こった。

 すると首相は、連呼している人たちの方向を指さし、「憎悪からは何も生まれない。こんな人たちに負けるわけにはいかない」などと反論した。

 首相が指さした聴衆は、首相らが乗った選挙カーの向かいで、日の丸を振る自民支援者らに取り囲まれるように陣取っていた。「安倍やめろ」と書かれた横断幕を広げたり、安倍政権を批判する言葉が書かれたプラカードを掲げたりもしていた。ツイッターなどで参加を呼びかける動きがあったという。通りがかりの人の中にも、一緒に「やめろ」などと声を合わせる人もいた。

 基本的に「やめろ」コールが起きている最中でも、マイクを通して首相の声を聞き取ることができたが、抗議している人たちの近くでは、聞きづらかった可能性はある。

 菅義偉官房長官は3日の記者会見で「(首相の発言は)極めて常識的な発言じゃないですか」。4日の会見でも「総理が選挙で政策を訴えようとしている時に、妨害的行為があったことは事実じゃないか」と話し、首相の発言は問題ないとの認識を示した。

■対照的なオバマ前大統領

 「国家のかじ取りをつかさどる重責を改めてお引き受けするからには、丁寧な対話を心がけながら、真摯(しんし)に国政運営に当たっていくことを誓います」。安倍首相は民主党から政権を奪い返した直後の国会でこう語っていた。また、6月30日の東京都内での演説でも「売り言葉に買い言葉、私の姿勢にも問題があった。深く反省している」と述べたばかりだった。それなのに、反対派とはいえ、有権者に対し、「こんな人たち」という言葉を向けた。

 自民党の歴代首相を間近で見てきた元党副総裁の山崎拓さんは「歴代首相は感情をいちいち表に出さず、もっと泰然自若としていた」。「ヤジを飛ばしているのは小さな反対勢力だと錯覚し、その後ろにある民意の大きな山が見えていないのではないか」とみる。

 2000年から共産党委員長としてときの首相と論争してきた志位和夫委員長も5日、記者団に「少しでも批判をしたり、反対したりする者は敵だと峻別(しゅんべつ)する態度。この傲慢(ごうまん)さに都議選で審判が下った。首相はそれを全く理解していない」と語った。

 「首相が自ら招いた事態でもある」と指摘するのは山崎望・駒沢大教授(政治理論)だ。「国会で自らヤジを飛ばす首相を筆頭に、安倍政権は加計学園などさまざまな問題で丁寧な説明をしてこなかった。秋葉原で起きたことは、有権者があのような場でなければ、政権に抵抗が不可能な状況に追いやられている現実を象徴しているのではないか」

 菅官房長官が「妨害的行為」と非難した「やめろ」コールについても、旧自治省選挙部長を務めた片木淳・早大教授(選挙制度論)は「遠くからヤジを飛ばしただけで、演説が続行不可能になったわけでもない。公職選挙法に定める選挙の自由妨害には当たらない」とみる。

 安倍首相と対照的なのは、前のオバマ米大統領だ。在任中の昨年11月、大統領選の民主党候補のクリントン氏の集会で、共和党のトランプ氏の支持者が演説を邪魔し、民主党支持者からブーイングを浴びた。すると、オバマ氏は支持者にこう呼びかけた。

 「みんな静かに。私は真剣だ」

 「私たちは言論の自由を尊重する国に生きている」

 「ブーイングをやめよう、投票しよう」

 

■安倍首相の発言をめぐる菅義偉官房長官の記者会見での主なやりとり(3日)

Q:秋葉原での「このような人々に負けるわけにはいかない」という首相の発言。主権者が説明責任を果たしていない、と抗議しているのに対する発言として、政府としてどのように受けとめているか

菅氏:政府として発言するような問題ではないと思います。

Q:有権者をある意味、軽視している発言にも思えるが、発言自体に問題あると思いませんか

菅氏:まったくあると思いません。

Q:その理由は

菅氏:ないからです。発言は自由です。

Q:秋葉原での、かなりのああいう抗議の声が出てくることは見ていて衝撃的だった。政府として、ああした声が出てくることを重く受け止めているのか。

菅氏:失礼ですが、あなたの主観に答えることは控えたいと思います。客観的なことについて、事実に基づいて質問して頂きたいと思います。

Q:では、秋葉原での声をどう受け止められたか。ああした声が出てくることは、国民への政権への怒りの声だという認識はどうか

菅氏:ですから、あなたの主観ですから。当然これ、民主主義国家ですから、選挙運動というのは自由です。

Q:「総理の発言は自由」とは

菅氏:選挙応援は自由じゃないですか。当然そうでしょう。民主主義国家ですから。

Q:どんな発言をしてもよいと。

菅氏:それは民主主義国家ですから。そこの許容の範囲というのはあるでしょうし、総理はきわめて常識的な発言じゃないですか。それこそ、そうした発言を縛ること自体ありえないと思いますよ。

Q:「このような人には負けない」というのは、民主主義国家だから常識的だという理解か。

菅氏:ひとの発言を妨害するようなことだったんじゃないですか。ですから、総理としてはそういう発言をされたんだろうと思いますよ。ですから、そういう人たちを含めて、日本は民主国家ですから。そういう中で発言をしたわけです。

Q:総理発言を問題とは思っていないという認識か。

菅氏:まったく思っていません。

 

首相「反省」口先だけ(2017年7月6日配信『しんぶん赤旗』)

 

臨時国会・解散総選挙を

志位氏

 日本共産党の志位和夫委員長は5日、羽田空港での記者会見で、記者団から東京都議選で大敗した自民党・安倍政権の姿勢について問われたのに対し、都議選中に安倍晋三首相が抗議する市民を指して「こんな人たちに負けられない」と発言し、菅義偉官房長官も安倍氏の演説には「何の問題もない」と述べたことに言及し、「安倍首相は『反省』を述べたが、口先だけだ」と厳しく批判しました。

 志位氏は「自分の味方は優遇するが、自分の敵と考えたら徹底的に攻撃する。こういう政治姿勢が厳しい批判を呼び起こし、(都議選で)厳しい審判が下ったが、まったく反省がみられない」と語りました。

 その上で、「首都の審判で安倍政権にレッドカードがはっきり突きつけられたわけだから、この審判を受けて、これまでやってきた国政の私物化の問題、憲法破壊の強権的な政治の問題について、国民に審判を仰ぐ必要がある」と強調。「首都の結果をみても、国民世論と国会の構成には大きなギャップ(格差)が生まれている」として、「解散・総選挙で国民の審判を仰いで、国民の民意を反映する国会にする必要がある」と述べました。

 また、閉会中審査に安倍首相が出席しない方針を自民党が示していることについて、「論外だ。総理の政治責任や(加計、森友)疑惑では総理の関与の問題が問われているわけだから、当然総理が出席した予算委員会での集中審議を要求していく」と強調しました。

 志位氏は「私たちは憲法53条に基づいて臨時国会の召集を要求しており、召集する義務が内閣にある。ずるずると先延ばしすることは許されない」と指摘。首相出席の予算委集中審議は「最低限、緊急に行うべきだ」と述べ、臨時国会の早期召集を求めていく考えを表明しました。

 

国政私物化・憲法破壊 総選挙で信問え(2017年7月6日配信『しんぶん赤旗』)

 

BS番組 小池書記局長が主張

 日本共産党の小池晃書記局長は4日夜放送のBSフジ「プライムニュース」に出演し、東京都議選の結果や憲法改定、解散・総選挙をテーマに与野党と議論を交わしました。

 自民党が23議席という歴史的惨敗となった都議選結果について、自民党の平沢勝栄衆院議員は「自民党におきゅうをすえてやろうということが間違いなくあった」と発言しました。小池氏は「国民の声に耳を貸さない、一部の『お友達』のために国政を私物化するという根本的な政治姿勢が問われ、首都東京でこれだけ明確な審判が下された。一刻も早く解散・総選挙を行い、国民の信を問うべきだ」と主張しました。

 「加計学園」疑惑をめぐり、与党が10日の衆参両院での閉会中審査と前川喜平・前文科事務次官の参考人招致に応じるとしたことについて、小池氏は、閉会中審査は当然だとし、「安倍首相は『真摯(しんし)に説明』といったのだから、当然、総理出席の衆参予算委員会で集中審議をやるべきだ」と指摘。さらに、4野党が憲法53条にもとづき求めている臨時国会の速やかな召集、前川氏の証人喚問を行うべきだと述べました。

 改憲をめぐっては、平沢氏が「今回の選挙では憲法の改正が争点になったわけではない」などと主張したのに対し、小池氏は「都議選の最中に安倍首相が秋の臨時国会に自民党の改憲案を提出すると発言したのだから、大争点になった」と反論しました。その上で、都議選の結果が改憲に与える影響について、「そもそも安倍首相の発言は憲法99条の尊重擁護義務違反だ。都議選で自民党は大敗し、明確な審判を受けたのだから、秋の臨時国会で自民党案を衆参憲法審査会に出すなどとんでもない」と指摘。国民が望んでいるのは改憲ではないとし、「悪化する経済や社会保障の問題こそしっかり議論するべきだ」と強調しました。

 都議選後の国政のあり方を問われ、「今度は国民に信を問え!」と書いたフリップを掲げた小池氏。「野党がしっかり結束して、総選挙での協力を徹底的に広げ、自公を少数に追い込む。そのための徹底した国会審議をやっていきたい」と語り、豊かで魅力ある共通政策の策定など「本気の共闘」をつくりあげていく決意を述べました。

 

都議選で退場宣告の安倍政権が改造や改憲を語る噴飯(2017年7月5日配信『日刊ゲンダイ』)

 

「自民党に対する厳しい叱咤と深刻に受け止め、深く反省しなければなりません」

 2日に投開票された都議選で歴史的大敗という結果を受け、安倍首相はこう言っていたが、例によって口先だけだ。やはり、この男はまったく反省などしていない。4日の毎日新聞に載った安倍の単独インタビューは、呆気にとられる内容だった。

 秋の臨時国会に自民党の憲法改正案を提出するスケジュールは「変わっていない」、内閣改造は「速やかに人事の検討に着手したい」、都議選惨敗の責任は「経済の回復を確かなものにする責任が私にはあるので、結果を出すことによって果たしていきたい」……と今後の政権運営を手前勝手に並べ立てるばかりで、どこにも「反省」の色は見えない。

 このインタビューは3日に行われたものだという。つまり、都議選で自民党を惨敗させた民意に配慮するフリさえ、わずか1日で捨て去り、「これまで通り好きにやらせてもらう」と居直ったのだ。恐るべき厚顔である。

 「うわべだけの反省で切り抜けられると思っているのでしょう。臨時国会の重要テーマは『人づくり革命』などと言って、また目くらましをしようとしていますが、国民はもう騙されない。森友問題や加計問題では、安倍首相が関与していた疑惑が高まっても、説明責任を果たさず、追及する野党に『印象操作だ』と逆ギレする。関係資料も出さず、告発者に対しては個人攻撃まで仕掛けて疑惑を封じようとする。旗色が悪くなると、『中間報告』という禁じ手まで使って法案を強行して国会を閉じ、疑惑に無理やりフタをした。そういう強権的なやり方に、多くの有権者が恐怖や嫌悪感を感じたから、都議選で『NO』の意思を表明したのです。主権者から不信任を突きつけられた首相が、臆面もなく憲法改正を語り、数の力で強行しようなんて噴飯ものですよ」(政治評論家・森田実氏)

  ■「こんな人たち」に負けた都議選

 都議選最終日の秋葉原演説で湧き起こった「辞めろ」コールに対し、安倍は「こんな人たちに負けるわけにはいかない!」とイキリ立った。自分を批判する「こんな人たち」の意見など聞く必要ないと思っているのだろうが、そういう不遜な態度が有権者の離反を招いた。都議選は「こんな人たち」に負けたのだ。

 会見で安倍の「こんな人たち」発言について問われた菅官房長官は、相変わらず「問題ない」を繰り返し、「常識的な発言」とも言っていた。 

「都議選の前と後で、この政権は何も変わっていない。反省していない証拠です。安倍首相は都議選の敗因を『政権の緩みに対する有権者の厳しい批判』と言っていましたが、“緩み”ではなく“誤り”ですよ。やること、やり方がすべて間違っている。国民の声をまったく分かっていないのです。あれだけの民意を示しても態度を改めないのなら、選挙で何度でも同じ結果を突きつけるしかありません」(政治ジャーナリストの角谷浩一氏)

 メディアの側も、なぜ、わざわざ安倍の口から改憲スケジュールや改造人事について語らせ、続投を既成事実化するような真似をするのか。それも忖度ということか。せっかく単独インタビューする機会があるのなら、空虚な反省の弁を垂れ流すより、聞くべきことがあるだろう。国民が知りたいのは、改憲スケジュールより森友問題や加計問題の真相だ。なぜ、そこにズバッと切り込まないのか。この落とし前もつけずに内閣改造だ、改憲だと先に進ませるわけにはいかない。

 幕引きは内閣総辞職か疑惑の徹底解明しかない

「都議会で歴史的な大惨敗を喫した理由は、自民党というより安倍首相の問題です。国民は森友や加計の疑惑が解明されることを求めている。首相の仲間内に特別な便宜が図られたのではないかと、疑っているのです。官邸の意向があったのではないか。もっと言えば、この疑獄の主犯は安倍夫妻なのです。安倍首相が居座っているかぎり、国民の疑念や怒りは消えません。自民党が国民の支持を取り戻そうと思うなら、内閣総辞職か、疑惑の徹底解明しかありません」(政治評論家・本澤二郎氏) 

 疑惑解明のため、野党は臨時国会や閉会中審査を求めているが、これまで自民党は「総理が加計の追及を嫌がっている」と拒否し続けてきた。安倍が嫌がれば憲法の要請も無視とは、恐るべき無法者集団だが、都議選惨敗で、さすがに譲歩せざるを得なくなった。閉会中審査に応じ、10日に衆院内閣委、文科委の連合審査を実施することで合意。文科省の前川前次官を参考人として招致することも確認した。だが、安倍はG20とヨーロッパ歴訪の外遊中で出席しないというからフザけている。

 「安倍首相がいない時に、わずか1日だけの開催なんて、アリバイづくりでしかない。疑惑の当事者が出席しなければ、意味がありません。国民をナメるのもたいがいにしろと言いたいですね。こんな小手先で乗り切れると慢心しているのなら、自民党はオシマイです。都議選の投票率はさほど高くなかったので、無党派層が大きく動いたわけではない。それなのに、自民党が無残な負け方をしたのは、自民党支持層が別の政党に投票したからです。『安倍政権のやり方はダメだ』とお灸を据えた。党を守るなら、ここで自浄作用を発揮しないと、この先、政党支持率も下がっていく。国政選挙も悲惨な結果になるでしょう」(角谷浩一氏=前出)

■政党支持率も下がる一方

 世論調査で安倍内閣の支持率はダダ下がりだが、自民党の政党支持率はさほど落ちていない。「自民党政権でいいけれど、安倍政治は嫌だ」という有権者が多いということだ。いまトップをスゲ替えれば、政権党としてまだまだ生き残れるのに、有権者から「NO」を突きつけられた安倍を支え続けるなんて、自民党は錯乱しているとしか思えない。

 都議選でハッキリしたのは、受け皿があれば、有権者がこぞって流れるということだ。たとえ候補者の顔ぶれが心もとなくても、「安倍自民よりはマシ」と選ばれた。 

 首相の不在を狙っての閉会中審査が、忖度なのか、「総理のご意向」なのか知らないが、そうやって安倍を守っていれば自民党も一緒に沈むだけだ。安倍を隠せば隠すほど、“真っ黒”だと自白しているも同然で、ますます支持は離れる。

 安倍も「問題ない」と言うのなら、堂々と国会に出てきて、国民が納得するまで説明すればいいのだ。人前に出られない首相なんて、恥ずかしくないのか。

 「昔の自民党なら、とっくに安倍降ろしが始まっています。森友や加計は安倍首相の疑惑であり、首相の身から出た錆なのです。稲田防衛相や金田法相らの問題閣僚にしても、問われるのは首相の任命責任です。それでも辞任を求める声が与党内から出てこないことが、日本政治の腐敗と堕落を物語っている。疑惑の中心人物に改憲なんてやらせるわけにいかないでしょう。国会に期待できない以上、国民が声を上げるしかありません」(森田実氏=前出)

 都民ファースト圧勝という結果はともかく、「こんな人たち」の意思が都政の景色を変えた。国政も同じだ。

 9日には新宿で「#安倍政権に退陣を求める緊急デモ」が行われる予定で、かなりの規模になりそうだという。国民からの退陣要求は、もう止まらない。

 

都議選惨敗で自ら露呈…自民党は“公明抜き”では戦えない(2017年7月5日配信『日刊ゲンダイ』)

 

「公明党抜きの単独で勝利するいい機会だ」――。今年3月、国政選挙で連携する公明が都民ファーストと選挙協力する都議選に向け、こう強気の発言をしていたのが安倍首相だった。憲法改正に慎重姿勢を示す公明よりも、ウマが合う維新との連携を念頭に啖呵を切ったのだ。ところが、いざフタを開けてみれば、都議会第1党死守どころか、ギリギリ第2党の屈辱的な結果となり、擁立した候補者全員が勝利した公明の底力をまざまざと見せつけられる結果となった。

 とりわけ自民が真っ青になったのが、北区の高木啓・都議会自民党幹事長の落選だ。北区が大半を占める衆院東京12区は、2003年以来、都内で唯一、自民が候補擁立を見送り、公明の太田昭宏前代表を支えてきた。いわば「自公連立」の象徴区だ。これまで都議会の北区は4人区で“自公共存”ができていたが、今回から定員が3人に減ったうえ、公明は都民ファーストと選挙協力し、状況は大きく変わった。

 「公明は終盤、『自民の高木さんは当選圏内だが、ウチはまだまだ圏外だ』と支持者をあおり、投票を猛烈に訴えた。それが奏功し、公明は前回比6000票増で当選した一方、自民は4000票も減らす結果となったのです。自民支持者は『今後の国政選挙で公明とは協力しない』とカンカンで、自公連立の亀裂になるとの見方が広がっています」(永田町事情通)

 自民の高木幹事長はもともと国政転身に意欲をみせていたといわれ、党内強硬派からは次期衆院選で太田前代表の対抗馬にぶつける、なんて話も出ている。しかし、都議選で明らかになったのは自民はしょせん、公明抜きの単独では戦えないということだ。

 共同通信が都議選の票数を基に、衆院選の都内25小選挙区の結果を試算したところ、自公協力が解消された場合、都民ファーストは22議席、自民はわずか2議席になったという。仮に安倍首相の言うように「自民単独」で総選挙を戦えば、自民壊滅は必至だ。

政治評論家の五十嵐仁氏がこう言う。

 「公明票がないと勝てないことを見せつけられました。落選した自民候補は“怒り心頭”かも知れませんが、むしろ公明をますます大事にしなければならなくなった」

 「自公亀裂」の拡大を一番心配しているのは自民党だ。

 

(新ポリティカにっぽん)自民惨敗、街頭での予兆(2017年7月4日配信『朝日新聞』)

 

 7月1日の夕方、安倍晋三首相の顔を見にJR秋葉原駅の電気街出口にでかけてみた。なにしろ、東京都議選がもう9日間も繰り広げられているというのに、安倍さんの街頭演説は1回もなかった。もうあしたは投票日というときに、1回だけやるという。そりゃ、どんな感じかな、と見にいったわけである。むろん、安倍さんの顔は、もう2、30年、見慣れてはいるが…。

 しかし、そこで見た人びとの顔、聴衆の顔、その動き、あとになってみれば、あれが2日の投票日の自民党惨敗を予兆させていたんだなと思い当たる。「千代田区」は定数1、自民党は27歳の中村彩さんという女性の候補者を擁し、安倍さんを迎えておおいに盛り上がるべきなのに、そこで飛び交った「安倍やめろ」「帰れ」のシュプレヒコール、わたしも長く政治を取材してきてこんな場面に出会ったことは、覚えがない。

 この秋葉原駅前、安倍さんも好きなのだろうか、折々、ここで彼の演説を聞いたことがある。ここのスペースは、演説カーを囲んで聴衆は横に縦に広がり、自動車の通行に妨げられることもなく、一体感をもって聞くことができる。この日も、これは自民党の固定的な支持層というべきか、日の丸の旗が配られ、おおいに盛り上がろうということだろう、聴衆の右半分は、そんな日の丸を持つ人々が占めた。ほお、相変わらずだね、とわたしは後ろに立って見ていた。

 安倍さんはまだ来ない。候補者の中村彩さんが演説に立つ。

 「2020年、東京はオリンピック、パラリンピックで頂点になる、その東京の未来をどの政党に託すのかの選挙です」

 そうですね、ここで都議に当選すれば任期は2021年まで、その前年のオリンピック、パラリンピックでは、都会議員は重要なもてなし役を務めることになるだろう。

 「わたしはつねに正直に、きっぱりと、若い世代の代表としてがんばります」

 それで何をするのか。

 「みんなのために、より都政を身近に感じられるように、地域密着の自民党が必ず東京の町をよくします」

 と述べて、マイクを司会者に返した。あれれ、それで終わりかい? もう少し、具体的に政策を語れないのかな。まあ、27歳ならば、これから勉強ということかな。

 丸川珠代、石原伸晃の二人の自民党国会議員がつなぐ。

 丸川さん。「身近な解決は自民党にしかできません。都民ファーストは未経験。これでできるか。これまで『新』のついた政党はみななくなった」

 そうなんだ、こんどはこの「都民ファースト」という政党が名乗りでて、旋風を巻き起こしそうなのである。小池百合子東京都知事はなかなかのやり手、存在感がある。しかし、小池さんは自民党と決別して名乗り上げたから、都議会のなかに与党がいない。そこで、今回、小池与党として、この「都民ファースト」という政党を立ち上げ、都議選に多数の候補者を擁立したのだが、果たして成否のほどは? 立候補した人は、さまざまな職種、区会議員経験者もまじっているようだが、総じていえば丸川さんから「未経験」といわれても、まあ仕方ないかもしれない。

 さて、次は石原さんの演説、まもなく安倍さんが現れる手はずである。

 このあたりからか、この日の聴衆の群れの左半分、別の雰囲気の人びとが占めていることに、わたしは気付いた。何だか自民党らしくない人たちだな、着ているものもわりとラフだし、何だかいろいろプラカードを持っているぞ……。

 石原さんが叫ぶ。「いま安倍晋三総裁が帰ってきました。福島から戻ってきました」

 そのとき、その左半分から「安倍辞めろ」「安倍帰れ」などというコールが聞こえ始めた。おいおい、こりゃなんだい、安倍さんの演説を聞こうと集まったんじゃないのかい、しかし、石原さんは「一部の人が演説を妨げる」といいながらも演説を続けた。

 「政治にときどきブームが訪れる。しかしブームは一過性で長続きしません」

 やはり、「都民ファースト」はブームになると警戒しているのか。

 石原さんは、8年前、民主党が躍進しても「どんどん新しい船に移りかわった」し、24年前の日本新党ブームも「いまは一人も残っていない」し、そのさらに4年前は、社会党の土井たか子委員長が「山が動いた」と語った大勝利も跡形ないとあげつらい、今回の「都民ファースト」もそれらに似て、いっときだけでいずれ消えるだろうと言いたかったようである。

■演説かき消すコール

 さて、いよいよ安倍晋三総裁の登場である。

 今回の都議選では初めての街頭演説だから、と耳をすまそうとすると、「安倍辞めろ」「帰れ、帰れ」の声が大きくなる。なんだこれは、と彼らに近づいて彼らのプラカードを見ると、なんだこれは!

 「国民を舐めるな」「森友疑惑 徹底糾明を」「共謀罪反対」「STOP 戦争法」などと安倍政治批判の言葉ばかりである。「応援演説するひまあったら 臨時国会を開いて丁寧な説明を」などとていねいな?プラカードもある。そこにまた、上空からも見えるような「安倍やめろ」と大書した横断幕も持ち込まれた。わたしも時の総理大臣の演説は、田中角栄首相以来欠かさず見てきたが、こんなのは初めてである。

 安倍演説はそんななかで始まる。

 「いよいよ都議選最終日です。きびしい闘いです。自民党、何をやっているんだ、しっかりしろと。申し訳ない思いでいます」

 安倍さんもわかっているんだろうな。共謀罪をムリな強行採決で通したこと、加計学園の獣医学部新設をなんだか「行政を私物化」して実現したようにみられていること、稲田朋美防衛相の「自衛隊としてお願いしたい」発言、それから豊田真由子衆院議員の秘書への「このハゲ!」暴言、あれはとくにひどかったな、以上、いろんな不祥事が次々と起き、安倍さんもさすがに「申し訳ない」と言わざるをえないと思ったのだろう。

 さて、その間、「安倍やめろ」「安倍帰れ」のシュプレヒコールはやむどころか、ますますボリュームが大きくなる。しかし、安倍さんも負けていない、マイクの音量をあげて、経済再生の手柄話、「働き方改革を進める。人生をもっとゆたかに、どんなに貧しい家庭で育っても大学に進学できる給付型奨学金を新設した」と続ける。そして「安倍やめろ」コールに向き合って「人の主張を、人が述べている場所で、それを邪魔するようなことは自民党は絶対やらない。何も生まれない、ひぼう中傷したって」と声を張り上げた。

 そして小池百合子知事にも言及、「確かに新風です。オリンピック、パラリンピックは協力していきます」と持ち上げる一方、「20年前、日本新党は1年で解党した」と、これは日本新党出身の小池さんへのあてつけだろう、「いま、新しい党でマイクを握っている人は信用できない。愚直に自民党から立候補している、まさに仕事をできる人を選んでください」と締めくくった。

 わたしは「安倍やめろ」コールのなかでかき消されがちな安倍さんの演説を必死に耳をそばだてて聞いてメモした。時の総理大臣に聴衆がじかに向かい合って、是か非か、○か×か、ちょっとしたやじとかではなく正面からぶつかって真剣勝負となったような演説会は、何度も繰り返すようだが、歴代首相の演説会を数多く聞いてきた古手の政治記者のわたしでも、かつて経験がない。今回、その現場にいたのを記者経験としての幸運と思うべきかどうか。

 7月2日の投票日、晴れ間ののぞく梅雨としては穏やかな日曜日、母校の小学校の投票所で1票を入れる。夜8時、投票締め切り、そして開票、テレビをつけると、なんだなんだ、「都民ファースト」が圧勝、「自民の歴史的惨敗」だって!

 それで「千代田区」はどうなったか。安倍さんがただ1カ所、街頭演説をした選挙区だというのに、当選した「都民ファースト」の候補は1万4千票、安倍さんが応援した中村彩さんは7千票であえなく落選した。そんな次第だったから、都議会の全議席127議席のうち、小池さんの「都民ファースト」は49議席、その他の党をあわせて小池支持勢力は79議席で過半数を制し、自民党は23議席にとどまった。現有57議席の半分もとれなかった。

 ついに「安倍一強」支配が崩れ出したということなのか、いや「自民党」が溶け出してきたということなのか。(早野透=元朝日新聞コラムニスト・桜美林大学名誉教授)

 

早野透(はやの・とおる) 1945年生まれ、神奈川県出身。68年に朝日新聞に入社し、74年に政治部。編集委員、コラムニストを務め、自民党政権を中心に歴代政権を取材。2010年3月に退社し、同年4月から16年3月まで桜美林大学教授。著書に「田中角栄 戦後日本の悲しき自画像」など。

 

都議選惨敗の安倍政権 高級フレンチで生き残り密談の醜悪(2017年7月4日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 安倍自民が歴史的大敗を喫した都議選の投票箱が閉じられる瞬間、党総裁の安倍首相が過ごしていたのは官邸でも公邸でも自民党本部でもなく、東京・四谷の高級フランス料理店「オテル・ドゥ・ミクニ」だった。オーナーシェフの三國清三氏とは懇意な間柄で、ともに昭和29年生まれの著名人が集う「29年会」のメンバー。2013年にオランド仏大統領(当時)が来日した際には官邸で開かれた「日仏ワーキングランチ」の総料理長を任せるほど、信頼を置いている。ありていに言えば、身内だ。

 そこで晩餐テーブルを囲んだのが菅官房長官、麻生財務相、甘利前経済再生相の3人。甘利が口利きワイロ問題で辞任するまで、第2次政権発足時から支えてきた仲間だ。都議選の結果を受けて「予想以上にひどい」との認識で一致したものの、「首相の責任問題にはならない」「国政への影響はない」「経済優先でいくべきだ」という話になり、「みんなで首相を支える」と確認したという。レームダックの種をまく張本人たちが、顔を突き合わせて生き残りを画策していたのだから、醜悪のひと言に尽きる。

 ■歴史的大敗の戦犯がデタラメ謀議

 政権の屋台骨を揺るがす森友学園や加計学園をめぐる疑惑の核心は安倍本人だ。加計問題にからんで文科省から流出した「総理のご意向文書」を怪文書扱いし、告発した前文科事務次官の前川喜平氏を個人攻撃して炎上させたのは菅。麻生は安倍チルドレンの豊田真由子衆院議員が起こした暴言・暴行騒動をフォローするどころか、「あれ女性ですよ、女性」とちゃかし、都議選の最中には「マスコミはかなりの部分、情報が間違っている」と劣勢を責任転嫁して物議を醸した。そして、アベ政治への不信の始まりは甘利の金銭授受問題である。

 政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏はこう言う。

「候補者や支援者が必死に戦っている最中に仲間内で高級フレンチですから、現場からは相当反発が出ています。あえて余裕を見せて、都議選と国政を切り離す世論向けの演出なのでしょうが、都議選の自民惨敗は安倍政権に対する『NO』の意思表示以外の何物でもありません。森友、加計問題の対応もそうですが、ボタンを掛け違え、さらに世間の反発を招いている。どう見られるか、どういう印象を与えるのか。もはやマトモな判断ができなくなっているのではないでしょうか」

黒を白と言いくるめる世紀のペテン集団の茶番劇は国民に見透かされている。その事実さえも、ねじ曲げようというのか。候補者全員が当選し、20議席増やした13年の前回都議選で安倍は何と言ったか。「半年間の政権の実績に一定の評価をいただいた」とホクホク顔だったのだ。今回有権者が突き付けたのは、紛れもなく安倍と菅の退陣勧告だ。我田引水にもほどがある。いくら取り繕い、安倍お得意の論点ずらしでごまかそうとしてもムダなのだ。

不支持が半数超え、つるべ落としの内閣支持率

内閣支持率はつるべ落としの勢いで下げ続けている。JNNが1〜2日にかけて行った世論調査では第2次政権が発足して以来最低の数字で、支持と不支持が逆転。前月調査と比べて支持率は11.1ポイント減の43.3%に大幅下落し、前々月から20ポイントも下げた。不支持率は前月比11.4ポイント増の55.5%で半数超え。朝日新聞が同じ日程で行った調査でも支持率は38%にとどまり、不支持率の42%を下回った。

都議選から一夜明け、ようやくぶら下がり取材に応じた安倍は「我が党に対する、自民党に対する厳しい叱咤と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」「安倍政権に緩みがあるのではないかという厳しいご批判があったんだろうと思う。そのことはしっかりと、真摯に受け止めなければならない」などと殊勝な言葉を口にしたが、強引に閉じた通常国会後の会見での発言とほぼ同じ。あの時は「政府への不信を招いたことは率直に認めなければなりません」と繰り返していた。その場しのぎの「反省のふり」はもう聞き飽きたし、国民はそのウソを見抜いている。

米ユタ大教授の東照二氏(社会言語学)は言う。

「言葉には力と共感の2要素があり、これらを押したり引いたりしながら均衡を保つことがスピーチのコツなのですが、安倍首相は力強いリーダー像の演出にとらわれ、常に上から目線の持論を一方的に繰り返す。だから、言葉が上滑りしてしまう。国民の信頼を失い、人気がなくなった政治家が例外なく陥るパターンです」

■日米電話会談アピールも裏目

得意とする外交でもまたしかりだ。タイミング良く7日から独ハンブルクでG20が始まる。3日は、米国側の要請でトランプ大統領と約35分間の電話会談を行ったと報じられた。

高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)は言う。

「ことさらに〈米国側からの要請〉を強調することに違和感を覚えました。トランプ政権との緊密関係をアピールして政権浮揚につなげようという意図なのでしょうが、伝えられている内容はといえば、北朝鮮問題への圧力強化方針の確認。トップがあえて話すほどのテーマとは思えません。米政権側の関心事は、間違いなく首都選挙の国政への影響でしょう。安倍政権は持ちこたえられそうなのかどうか。にもかかわらず、都議選に一切言及していないのは、よほど突っ込んだやりとりがあったからなんじゃないか。かえってそうした疑問が湧いてきます」

安倍自民はここへきて歯牙にもかけなかった閉会中審査に応じる方針を固め、内閣改造の「7月前倒し論」も出てきているが、姑息な目くらましは有権者の怒りをエスカレートさせるだけだ。

「国民の疑念には答えず、追い詰められると温かく迎えてくれる身内のもとへ逃げ込むような安倍首相はやっぱり総理の器ではない。そうした国民感情のうねりがアキバ演説での〈アベ帰れ!〉〈アベ辞めろ!〉コールにつながった。それも、国を思う気持ちがあるこそ起きた政権批判の声です。ところが、安倍首相は耳を傾けるどころか〈こんな人たちに負けるわけにはいかない!〉といきり立ち、またぞろ弥縫策を講じようとしている。火に油ですよ」(前出の五野井郁夫氏)

安倍政権はもう持たない。否、持たせたらいけない。

 

大敗自民 獲得議席、得票率、当選率いずれも過去最悪(2017年7月4日配信『東京新聞』)

 

 自民党は東京都議選で、現有57から34議席減らし、過去最低の23議席の獲得にとどまった。過去の都議選とデータで比較すると、今回ほどの負けっぷりは例がない。結党以来、16回の都議選を戦った自民党にとって、どれだけの歴史的大敗だったかが浮かび上がる。

 過去に自民党が大敗した都議選は、現職議長らが相次いで逮捕された汚職事件を受け、議会が自主解散した1965年、消費税導入やリクルート事件の逆風が吹き荒れた89年、政権交代への期待が高まっていた2009年の3回だ。

 23という今回の獲得議席は、過去最低だった65年と09年の38を大幅に下回る。下村博文幹事長代行は「大惨敗」と認め、即座に党都連会長の辞任を表明した。

 全体の得票率、候補者の当選率も過去最悪だ。

 今回の自民党の得票率は22・52%で、過去最低だった09年の25・87%を割り込んだ。当時は民主党(現民進党)が躍進し、直後の衆院選で自民党は下野した。

 立候補者数に対する当選者数の割合を示す当選率は、今回は38・33%で、65年の49・35%を大きく割り込んだ。議会解散という異常事態で、自民党が防戦を強いられた当時より、結果が悪かったことになる。

 前回からの議席減少幅が34というのも突出している。これまでの最大は89年の20だった。

 

 

都議選;自民幹部、メディア攻撃 制御できず、いら立つ?(2017年7月4日配信『毎日新聞』)

 

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政権幹部のメディア批判発言

 自民党の劣勢が伝えられた東京都議選の終盤以降、安倍政権の政権幹部らから報道機関を威圧するような発言が相次いだ。逆風へのいらだちをあらわにした発言の背景には、権力者のおごりがあるとの指摘も出ている。

 自民党の二階俊博幹事長は、毎日新聞などの世論調査で厳しい選挙情勢が伝えられた後の先月30日、国分寺市での応援演説で「我々は金を払って(新聞などを)買っている。そのことを忘れてはだめだ」と主張。さらに「落とすなら落としてみろ。マスコミが選挙を左右すると思ったら大間違いだ」と、政権を批判する報道機関を威圧するかのような発言をした。

 選挙戦最終日の1日、世田谷区で応援演説した麻生太郎副総理兼財務相は「マスコミは言っているだけ。責任は何も取らない。しかも、情報が間違っている。そんなものに金まで払って読むか」と攻撃的な言い回しで持論を展開した。

 下村博文自民党東京都連会長は2日夜、自民大敗の情勢を受け、インターネット番組のインタビューで「都民の自民に対する怒りだったと受け止める」と答えた。一方で、自身の政治資金を巡る疑惑を週刊文春に報道されたことに触れ「事実だけを書いてほしい。書かれた側は被害者になるわけで、ペンの暴力には断固抗議したい」と述べた。

 岩渕美克(よしかづ)日本大教授(政治学)は、こうした一連の「メディア批判」に対し、「自民党の焦りの表れだ。国政への批判が選挙に影響を与えかねないため、『メディアは疑惑を打ち消しているのに報じない』と責任を押しつけようとした」と指摘。「権力者は自らを監視するメディアをコントロールしようとする。思うようにコントロールできないことへのいら立ちもあっただろう」と話している。

 

小池知事、都議選圧勝で次は「国民ファースト」?(2017年7月4日配信『日刊スポーツ』)

 

 東京都の小池百合子知事は3日、都議選圧勝を受けて取材に応じ、国政で小池氏勢力に同調する動きが生まれることに、期待を示した。国政進出は否定しつつ、「国民ファースト」というワードを初めて披露。追加公認を含めて55議席を獲得した「都民ファーストの会」の、「国会支部」の名称になる可能性がある。この日も、既存政党から離党の動きが出た。

 小池氏は、「都民の皆さまの期待で、第1党に上り詰めることができた。議会を引っ張れるよう、第1党の役目をしっかり果たす」と圧勝を振り返った。願掛けで今年1月から断酒していたが、2日夜に自宅でビールを解禁。「おいしかった」と、勝利の美酒に酔ったことも明かした。

 圧勝で、知事と議会がチェックし合う二元代表制に懸念が生じることを踏まえ、この日で都民ファ代表を退く意向を表明。特別顧問に就任した。知事職に専念する構えだが、それでも消えないのは国政進出への臆測。取材では、そのヒントとなりそうな「キーワード」が飛び出した。

 小池氏は「新党ではなく、自身を支持する議員を推薦するような手法での国政進出はあるか」と問われ、「今はその状況にはない」とした上で、「いろいろな動きが国政にも出てくると思う。都民ファーストならぬ、国民ファーストをベースに考える必要がある。そういう方が増えるのは、国民にもよいことだ」と指摘。都民ファに共鳴する議員の動きを歓迎する意向だ。

 「国民ファースト」は、永田町に一気に広がった。与党関係者は、「国政の『小池新党』の名称ではないか。都民ファの『国会支部』をつくり、連携する可能性は十分ある」と述べた。

 国会議員5人以上で、政党要件を満たす。都議選では若狭勝、長島昭久両衆院議員、渡辺喜美、松沢成文両参院議員の4人が都民ファ候補を応援。「連携予備軍」とみられる。あと1人で政党結党への道筋が立つが、3日、民進党の藤末健三参院議員が、離党届提出を表明。憲法改正をめぐる執行部との見解の相違が理由で小池氏との連携は否定したが、「中道の考えを持つ議員5人で政党をつくりたい」とも主張。臆測を呼んでいる。別の複数の民進党議員も、「離党予備軍」に浮上している。

 都議選で都民ファ候補が獲得した票は、約200万票。14年衆院選の東京比例で自民党が獲得した約185万票を上回り、「国政でも勝機あり」の根拠の1つになっている。都民ファでは今後、まず都内の市区町村の首長選への候補者擁立を検討。小池氏は「保育、介護の現場は市区町村にあり連携したい。日程を確認し、今のリーダーの方との間合いもみながら考えたい」と、意欲を示した。

 

自民、「首相の責任」に及び腰 都議選惨敗、総括できず(2017年7月4日配信『朝日新聞』)

 

 自民党の歴史的惨敗で終わった東京都議選から一夜明け、安倍晋三首相が「反省」を口にした。あまりにも惨めな敗北に、政権幹部は首相の責任問題につながる敗因の総括ができず、結束を呼びかけあうしかないのが実情。悲願の憲法改正に向けた動きも視界不良になった。

 「都民の厳しい声を謙虚に受け止め、深く反省したい。信頼回復に向け、襟を正さなければならない」

 3日朝の党役員会。首相は冒頭で反省を口にした。二階俊博幹事長も「反省すべき点は大いに反省したい」と続けた。

 下村博文幹事長代行は、党都連会長として敗北の責任をとって都連役員が辞任することを報告した。だが、挙党態勢で臨んだ選挙の敗北に、自らの責任に言及する党幹部はいなかった。ベテランは「責任を取るのは都連まで。それ以上になると大変だ」と語る。

 加計学園問題では首相自身のほかに萩生田光一官房副長官の名が挙がり、応援演説では稲田朋美防衛相が問題発言。下村氏には献金問題。首相はそうした側近たちをかばい、街頭演説でも抗議の声を上げる人を批判する。惨敗の責任を追及すればするほど、首相の責任に焦点が当たるのは避けられない――。そう考える政権中枢に、惨敗を総括する様子はない。

 都議選で自民が大敗した2日夜、首相と都内のフランス料理店で会食し、首相への責任問題にはならないとの認識で一致した麻生太郎副総理。3日は、この会食に同席した甘利明元経済再生相とともに、当初予定通り、山東派などと合流する59人の党内第2派閥の誕生を宣言した。

 新会長に就いた麻生氏は会見で「都議選等々、言われているが、引き続き安倍政権をきっちり支えていく。その真ん中で頑張っていく」と強調した。首相の出身の細田派とは別の大派閥をつくり、「ポスト安倍」に備える。そのための合流ではあるが、あくまで首相が自ら退かない限りは支えるというのが基本姿勢。都議選惨敗の責任にも、一切触れなかった。

 こうした政権中枢の動きが露骨になると、これまでならば「安倍1強」のもとで党内が沈黙するのが通り相場だった。ところが、内閣支持率の低下と都議選惨敗を境に、そうした抑えが利かなくなり始めている。

 後藤田正純副幹事長は3日、都議選での街頭演説をめぐり、自らのフェイスブックを更新した。

 「私の街頭演説が、安倍批判をしたと党幹部に伝わり、クレームがきた」としたうえで、こう記した。「密告、引き締め、礼賛、おかしな管理をしている今の執行部をみると、結果は仕方ない」

 党役員会に出席した一人は「都議選は、首相への不信任だったが、首相は、自分が負けたと思っていない。何も反省していない」と漏らした。

 別の党幹部はいう。「8年前の政権転落に比べれば、まだ、立ち直れる。これで反省できなければ終わりだからね。やっぱり国民はよく見ているよ」

■改憲シナリオ、視界不良

 「これからの検討課題だ」。二階幹事長は3日の記者会見で、都議選の惨敗が首相主導の憲法改正シナリオに影響するかどうかを問われ、言葉を濁した。

 首相は先月24日、自民党の改憲原案を秋の臨時国会に提出する意向を表明した。憲法9条への自衛隊の明記について「現在の1項、2項は残しながら、自衛隊の意義と役割を書き込む案を検討する」と強調。党内に異論もあるなか、「安倍1強」体制のもとでトップダウンで改憲論議を急がせる考えだ。

 だが、都議選惨敗の衝撃で「1強」の足元は揺らぎ始め、改憲シナリオには暗雲も垂れ込めている。

 「党内にはもっと丁寧な議論が必要という意見があるし、総裁の意向を是としない意見もある」。石破茂元幹事長は3日、改憲をめぐる首相提案について記者団にそう訴えた。「何が何でも臨時国会なのか。もう7月だから時間はない」とも指摘。首相は改憲原案について11月上旬には党内合意を得たい考えだが、党内には「首相のスケジュールは練り直しだ」(閣僚経験者)との声もあり、議論紛糾は必至の様相だ。

 公明党も首相の姿勢には距離を置く。ある党幹部は加計学園問題などで首相自らが疑念を招いているとし、「国民に疑われる首相が主導する憲法改正に理解が得られるのか」と批判。山口那津男代表も3日の政府与党連絡会議後、記者団に「自民党内の検討を見守りたい。いずれにしても、国会の憲法審査会で国民の理解を得ながら進めていくのが基本だ」と慎重な構えをみせた。

 一方、与党内のこうしたムードとは裏腹に、首相周辺はなお首相主導の改憲シナリオに固執する。首相に近い党幹部は「都議選の結果は、憲法改正スケジュールに影響しない。予定通り進める」と強調。政府高官も「憲法改正は自民党の党是だ。チャンスがあるのに、やらないほうがおかしい」と語る。

 首相がいったん示したシナリオを撤回すれば、首相の主導力が根本から揺らぎかねない面もある。側近の一人は「憲法改正の方針変更は、安倍政権そのものが問われるのに等しい」との見方を示す。

 首相はいまの衆院議員が任期満了を迎える来年12月中旬を見すえ、年明けからの通常国会で憲法改正の発議を目指す。ただ、求心力が回復しないまま強引に議論を進めれば改憲勢力にミシン目が入り、3分の2の賛成が得られなくなる可能性もある。与党内の調整に手間取れば、発議ができないまま衆院解散・総選挙に追い込まれかねない。

 ベテラン議員は語る。「首相は憲法改正で期限を引いた。不満を持つ勢力は、その期限を必死にひっくり返そうとするだろう」

 

2007年の転落と酷似…安倍首相“政権ブン投げ”のXデー(2017年7月4日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 今、政界が固唾をのんで見守っているのが、都議選自民の歴史的大敗によって、安倍首相の体調がどうなるのかだ。すでに深夜に医師団を呼ぶほど悪化している。

 都議選最終日の街頭演説で浴びたすさまじいヤジはこたえたろうし、党内で安倍降ろしがくすぶれば、ますますストレスが高まる。ストレスが高まると、安倍首相の持病である「潰瘍性大腸炎」は一気に悪化するという。

「都議選中に応援に入った演説会で、安倍首相は身ぶり手ぶりを交えてハイテンションでしたが、逆にムリしているように見えました」(自民党関係者)

 ストレスといえば、いったん休戦状態に入った加計疑獄の追及も再び強まる。安倍首相は「丁寧に説明する」と繰り返しているが、野党が要求している臨時国会開会を突っぱねれば、ますます国民の政権不信を招く。加計学園の獣医学部開設について認可の是非を文科省の審議会が判断するのは8月末。どちらに転んでも、安倍首相との深い関係が再びクローズアップされるのは間違いない。さらなる世論離れは確実だ。

「今度の都議選は、政権交代につながった09年の38議席を大幅に下回った。世論の自民党に対する厳しさは、あの政権交代時以上だということです」(ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)

 安倍官邸が恐れているのは、政治状況が07年とソックリになってきたことだという。止まらない閣僚の失言や不祥事、選挙で大敗、そして支持率が下落。まさに第1次安倍政権が歩んだ転落の軌跡に酷似している。その先にあるのは、政権ブン投げだ。

 「安倍首相は遮二無二、憲法改正に突っ走るでしょうが、果たして“公約”にした『臨時国会への提案』を実現させられるのかどうか。自民党内がガタガタしてくれば、まとめるのが難しくなる。加えて、これまでは何を言ってもついてくると甘くみていた公明党との関係に、緊張感が生まれる可能性があり、改憲論議に影を落とすでしょう。改憲が無理だということになれば、安倍首相は一気に気持ちが萎え、18年度予算編成をレガシーに、来年の通常国会前に退陣することもあり得ると思います」(政治評論家・野上忠興氏)

 それどころか、ストレス過多で秋の臨時国会中に下痢が止まらず……、なんてこともあるかもしれない。いよいよ安倍政権は末期を迎えた。

 

首都で審判 解散・総選挙で信を問え(2017年7月4日配信『しんぶん赤旗』)

 

共産党都議19氏勢ぞろい

都議選受け志位委員長が訴え 東京・新宿

 

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志位委員長、小池書記局長はじめ、19の党議席を獲得した各氏と衆院東京比例の議員・候補による緊急街頭演説=3日、東京・新宿駅西口

 

自民党が歴史的な大敗をし、日本共産党が躍進した東京都議選から一夜明けた3日、日本共産党は、新宿駅西口で志位和夫委員長をはじめ19人の都議が勢ぞろいした緊急街頭演説を行いました。このなかで志位氏は「国政の私物化、憲法を壊す政治をこのまま続けていいのか。首都・東京のみなさんは、はっきり答えを出しました。次は、解散・総選挙によって、国民に審判を仰ぐべきではないでしょうか」と訴え、野党と市民の共闘、共産党躍進で、安倍政権を倒し、新しい日本をつくる決意を表明すると、大きな拍手と歓声がわきおこりました。


 自民党との競り合いを勝ち抜いた19人の都議が小池書記局長の紹介であいさつするたびに大きな歓声と拍手。定数1減の北区で、最後の3議席目を自民党幹事長を競り落として6期目を勝ち取った曽根肇都議は、「3人区でも自民党が勝てなかったという大きな衝撃は、自公のこれまでの路線に大きな惨敗の大痛打を与えた」と述べたうえで、「本当の都民の改革のために全力をつくす」と表明しました。

 志位委員長は都議選の結果を報告し、当面の政治に臨む党の基本姿勢について訴え。安倍自民党を大敗させるうえで共産党は、論戦で安倍・自民党と正面から対決する論陣を展開するとともに、多くの選挙区で自民党を打ち負かして勝利をかちとるという貢献ができたと強調。「今度ばかりは安倍政権をこらしめたいという気持ちが広がり、怒りとなって渦巻いて自民党の歴史的大敗という結果が出ました。安倍首相は都民の審判を重く受け止めるべきです」とのべました。

 そのうえで志位氏は、緊急の問題として(1)野党4党が憲法53条に基づいて要求している臨時国会の速やかな召集(2)「自衛隊としてお願いする」と発言した稲田朋美防衛相の罷免(3)首都ではっきりノーの審判が下った憲法9条改悪の中止―の3点を求めました。

 同時にいまの政局の根本的な打開の道として、「首都・東京の審判は、安倍政権へのレッドカードをはっきり突きつけるものとなりました。この結果をふまえて、わが党は、速やかな解散・総選挙を行うことを強く求めます」と表明しました。

 街頭演説では、次期衆院選を比例東京ブロックの予定候補としてたたかう笠井亮政策委員長・衆院議員、宮本徹(東京20区重複)、池内さおり(同12区重複)の両衆院議員、谷川智行(同7区重複)、原純子(同9区重複)の両氏が紹介されました。

 

都議選 安倍政権への国民の怒りが爆発的に示された(2017年7月4日配信『しんぶん赤旗』)

 

小池書記局長会見

 日本共産党の小池晃書記局長は3日、国会内で記者会見し、2日に投開票された東京都議選の結果について、「安倍自公政権による異常な国政私物化、憲法破壊に対する国民の強い怒りが爆発的に示された」と指摘。「解散・総選挙に向けて野党と市民の共闘をさらに発展させ、安倍政権を倒すために力をつくしたい」と決意を表明しました。

 小池氏は、都議選での日本共産党の得票総数が77万3722票で、前回時比で得票を19万票以上増やし、得票数比率で133・4%増、得票率も13・56%から14・73%へ1・17ポイント前進させたことを指摘。「前回比で得票と得票率ともに伸ばしているのは、日本共産党だけだ」と強調しました。また、マスコミの出口調査では、無党派層・支持政党なし層の投票先として、日本共産党が都民ファーストの会に次いで第2党になっていることをあげ、「選挙の終盤に急速に反応が良くなっていった実感とも合うものだ」と述べました。

 さらに、個別選挙区では、北多摩4区、目黒区、北多摩3区で16年ぶりに議席を獲得し、町田市では初めての議席を獲得したことを指摘。「2人区、3人区で、前回の3議席から6議席に前進したことの意義も大きい」と述べました。

 一方、選挙協力という点では、北多摩2区、千代田区、中央区、武蔵野市、小金井市、青梅市などで候補者を推薦・支持してたたかい、2人区、3人区、4人区でも、民進党、自由党、社民党、新社会党や無所属会派の地方議員が応援弁士として立ったことをあげ、「全体として、野党と市民の共同の流れが都議選でも示された」と強調しまた。

 また、小池氏は、都民ファーストが大幅に議席を伸ばしたことに加え、日本共産党の奮闘が自民党の議席を落とす結果につながったと強調。日本共産党が自民党と議席を争い、自民党の現職が落ちた選挙区が多くあるとして、「わが党の奮闘によって自民党が議席を減らし、国政に大きな影響を与えた意義は大きい」と述べました。

 

都議選 共産党19万票余の増(2017年7月4日配信『しんぶん赤旗』)

 

前回比 得票率は1・17ポイント増

  2日に投開票された東京都議選と前回の都議選(2013年)を比較すると、日本共産党は得票数が19万3839票増、得票率も1・17ポイント増えて、国政政党の中で一番の伸びとなりました。(※前回も今回も公認候補をたてている比較可能な選挙区の得票数合計での比較)

 同様の比較で、公明党も約6万5千票増えていますが、得票率は1・71ポイント減りました。歴史的惨敗となった自民党は、前回から約37万3千票減らし、得票率は13・51ポイント下落しています。

 今回、日本共産党が獲得した77万3722票は、共産党にとって都議選の歴史で3番目に多い数です。最も得票が多かったのは1973年(96万8210票)、二番目に多かったのは1997年(80万3379票)でした。

 日本共産党が獲得した議席数(19)も、3番目に多い議席数です。1997(26)1973(24)に次ぐもので、1985年の獲得議席と並びました。

 

「密告・礼賛の自民執行部」後藤田氏が都議選めぐり批判(2017年7月3日配信『朝日新聞』)

 

 自民党の後藤田正純副幹事長は3日、東京都議選をめぐり自らのフェイスブックを更新し、こう記した。

 「私の街頭演説が、安倍批判をしたと党幹部に伝わり、クレームがきた」「このような密告、引き締め、礼賛、おかしな管理をしている今の自民党執行部を見ると、(自民が惨敗した都議選の)結果は仕方ないと思わざるを得ません」「安倍政権が、せっかく積み上げた多数議席や外交や安全保障、経済成長、地方創生などの政策や成果に己を見失ったことを反省し、都議選の結果を真摯(しんし)に受け止め、いま一度、己を知ることが大事であります」

 

後藤田正純FB

東京都議選について

勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし。

江戸時代の松浦静山の言葉。

民心から離れた自由民主党に対して、都民は見事に反応しました。

将棋や囲碁でもあるように、負けました!と認めるべき。

私も都議選の応援には、何日も何ヶ所も行きました。

その際、私は必ず最初に安倍政権、自由民主党についての、現在の問題点と反省を包み隠さず述べて、その後には、外交や安全保障、経済や金融などの、安倍政権の成果に理解を求める演説をしてきました。

私自身が、自由民主党執行部はおかしくなってると感じたのは、私の安倍政権の反省についての街頭演説が、安倍批判をしたと、党幹部に伝わり私にクレームがきたこと。

石破さんは私に対して、私の挨拶は当然だと擁護して頂いたが、このような密告、引き締め、礼賛、おかしな管理をしている、今の自民党執行部をみると、結果は仕方ないと思わざるをえません。

順風で己を見失い

逆風で己を知る

この言葉をかみしめて、安倍政権が、順風すなわち、せっかく積み上げた多数議席や外交や安全保障、経済成長、地方創生などの政策や成果に酔いしれ、己を見失ったことを反省し、都議選の結果を真摯に受け止め、今一度、己を知ることが大事であります。

 

「都民」公約377、実現できる? 問われる本気度(2017年7月3日配信『産経新聞』)

 

 東京都の小池百合子知事が率いて都議選に大勝した地域政党「都民ファーストの会」は377の政策を公約に掲げている。待機児童、受動喫煙への対策などを重点政策に位置付けており、小池氏が目指す都政の将来像が見えてくる。一方、職員からは都民が第1党になり、議会構成が激変することに期待と不安の声が上がる。

 ■議会改革

 「古い都議会にNO」をスローガンに掲げる都民は全公約の完成に先立ち、議会改革の項目を公約の第1弾として発表した。

 選挙後100日以内に、政務活動費の飲食への使用禁止と議員公用車廃止を提言。「口利きにより水面下で政策が決まる議会を変える」と、知事の反問権導入、非公開で開かれる各委員会理事会の内容公開などを盛り込んだ議会改革条例を制定するとしている。

 都議会では今年、議員報酬の2割削減、政務活動費の減額などの議会改革を実施したばかり。単独では過半数に達していない都民は他会派との合意形成に向け、早速、調整力が問われることになりそうだ。

 ■待機児童対策

 小池氏が知事就任時から「喫緊の課題」と位置付けるのは待機児童対策。平成28年度補正予算で126億円を計上し、保育所の整備費の補助などを充実させた。29年度予算では過去最大の1381億円を計上したが、今年6月上旬までの集計では都内の待機児童数は前年同期比で約120人増の約8590人に上る。

 都民は、区市町村や民間への財政支援、都営公園の敷地などを利用した保育施設の整備などを提唱。「待機児童という言葉をなくす」を目標に、31年度末までに保育サービスの定員7万人増を掲げる。

 待機児童解消は党派を超えた目標であり、対策は加速していくことになる。

■東京五輪

 2020年東京五輪・パラリンピックの経費膨張を問題視した小池氏が就任後間もなく着手した経費見直しは、会場整備費の削減などを経て、今年5月には国などとの間で費用分担の大枠合意に至った。今後は仮設施設の設計を進め、会場ごとのセキュリティー、観客らの輸送計画などを練り上げていくことになる。

 都民は公約で「不透明な経費をガラス張りにし、無駄遣いを防ぐ」とし、東京五輪経費透明化条例の制定を提唱。工費の積算を厳しく審査する都契約適正化委員会を設置するとした。

 大会が開催される平成32年に向け、観光振興にも力を入れ、訪都外国人旅行者を28年比で約2倍の2500万人に増やすとした。

■受動喫煙防止

 受動喫煙の防止は東京五輪を3年後に控え対策が急務とされ、国は対策強化を盛り込んだ健康増進法改正案の国会への提出を目指している。しかし、30平方メートル以下のバーなどを規制対象外とした厚生労働省案に対し、自民党は150平方メートル以下の飲食店と規制を緩めた案を策定。両者の折り合いがつかず、提出が先送りにされている状況だ。

 こうした動きの中、小池氏は「国の法整備を見守っていても時間ばかりが過ぎていく」と条例制定に意欲をみせる。公約では家庭内などでの受動喫煙から子供を守るための条例と、公共施設や飲食店の屋内を原則禁煙とする罰則付きの条例の制定を盛り込んだ。飲食店は店舗面積に関係なく、従業員が喫煙に同意した場合を規制対象外とする独自色を打ち出した。

 都幹部の一人は「われわれは知事の考えから政策を作るのが仕事。その意味で都民の第1党は合意形成が取りやすくなり、スピード感を持ってやれる」と話す。一方、別の幹部は自民や民進党などからの移籍組や民間出身の新人がいることを指摘し、「内輪もめが起き、議会が混乱しなければいいのだが」と案じた。

 

早期の衆院解散を=共産・志位氏(2017年7月3日配信『時事通信』)

 

 共産党の志位和夫委員長は3日、東京都議選での自民党大敗について「首都東京の審判は安倍政権へのレッドカードをはっきり突き付けた」と指摘し、早期の衆院解散・総選挙を求めていく考えを示した。JR新宿駅前での街頭演説で語った。

 志位氏は「国政の私物化、憲法を壊す政治を続けていいのか。解散・総選挙によって全国民が審判を下す時だ」と強調。「野党と市民が力を合わせ、自民党と公明党とその補完勢力を少数に追い込もう」と訴えた。

 

「議会がらっと変わる」 都職員から戸惑う声(2017年7月3日配信『東京新聞』−「夕刊」)

 

 東京都職員からは、大きく変わる都議会の構図が議会運営に及ぼす影響を不安視する声などが聞かれた。

 「自民党がここ(23議席)まで減るとは衝撃だ。議会ががらっと変わる。8年前に民主党(当時)が第1党となった時と同じように、議会と都庁側とのやりとりでも当初は混乱するかもしれない」。都幹部の一人は戸惑いを隠さない。

 市場の移転問題については「知事が告示直前に打ち出した『豊洲移転、築地再開発』の基本方針を評価する都民が多かったと受け止める。築地再開発は財源問題など課題が多いが、どうやって生かすのか詰めないといけない」と語った。

 一方、2020年東京五輪・パラリンピックの準備を担当する都幹部は「大会を成功させようという気持ちは都議会で一致している。どんな議会構成になろうと足を引っ張るような動きが出てくることは考えにくい」と見通した。

 

議選街頭演説;安倍首相、秋葉原の激高 かばう菅氏(2017年7月3日配信『毎日新聞』)

 

聴衆の「辞めろ」コールに「こんな人たちに…」

 安倍晋三首相は学校法人森友学園や加計(かけ)学園の問題で不信を招いたとして、国民への「丁寧な説明」を約束している。ところが1日の東京都議選遊説では聴衆の「辞めろ」コールを「演説を邪魔する行為」と批判し、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と激高した。国会で今後、丁寧な説明を期待できるのか。【和田浩幸、佐藤丈一】

 これまで国政選挙に圧勝してきた安倍首相にとり、東京・秋葉原駅前は支持者が日の丸の旗を振る街頭演説の「聖地」とされる。

 しかし、その日は違った。「安倍やめろ」の横断幕を掲げる集団が駅前ロータリーに陣取り、演説前から物々しい雰囲気に包まれていた。首相がマイクを握ると「帰れ」コールが起き、途中で「辞めろ」の大合唱に変わった。首相は選挙カーの上から指さし、有権者を批判した。

 演説の邪魔など「自民党は絶対にしない」と断言したが、その首相自身、国会で野党側にやじや挑発的答弁を繰り返してきた。先月5日の衆院決算行政監視委員会では、加計学園問題を巡り「やじを飛ばすのはやめていただきたい」と野党側に注文。だが、その約10分後、野党の質問中に「いいかげんなことばかり言うんじゃないよ」とやじを飛ばし、委員長に注意された。

 首相が街頭演説で有権者に声を荒らげるのは異例だ。一橋大の只野雅人教授(憲法学)も「安倍首相は批判されるとむきになるところがあるが、普通は考えられない」と驚きを口にする。加計学園問題などを審議する臨時国会の召集に自民が応じない点を踏まえ、只野氏は「ほとぼりが冷めるまで待つつもりかもしれないが、有権者の批判は抑え込めない」と見ている。

 政治家の発言を分析した著書もある名古屋外国語大の高瀬淳一教授(情報政治学)は「支持率低下の中で投票前日に街頭に出たこと自体が逆効果なのに、聴衆のやじに反応し、投票結果に影響したのではないか。政治家として未熟だ」と話す。首相は都議選惨敗を受けて3日に「反省すべき点は反省し、謙虚に丁寧にやるべきことを前に進めたい」と述べたが、高瀬氏は「今後よほど丁寧に政権運営しないと党内をまとめることも難しくなる」と指摘する。

 首相とともに「丁寧な説明」を口にする菅義偉官房長官も3日の記者会見で、秋葉原の件は有権者軽視では、と記者に問われ、いつもの口調で「全く(問題)ありません。きわめて常識的な発言じゃないですか」と安倍首相をかばった。

 

国政が動かし、国政を変える 平成の都議選(2017年7月31日配信『日経新聞』)

 

 東京都議選は小池百合子知事を支持する勢力の圧勝、自民党の歴史的惨敗となった。これまでも都議選は国政の影響を受け、国政も変えてきた。1989年(平成元年)に自民党が大敗してから28年。2017年の都議選は知事が前面に出て、時の政権に打撃を与えた。米ソ冷戦終結を端緒とする国際情勢の激変が、日本にも影響を及ぼした平成の都議選史をみる。

■知事が主役の初選挙(2017年)

 平成8回目で最後の都議選投開票日は7月2日。現職知事の小池氏が地域政党、都民ファーストの会を率いて選挙戦を駆け回り、49議席へと躍進した。落としたのは1つだけという文字通りの圧勝だった。

 平成で都議選を迎えた知事は鈴木俊一氏が2回、青島幸男氏が1回、石原慎太郎氏が3回、猪瀬直樹氏が1回。鈴木氏は87年都知事選で自民、公明、民社3党の推薦で当選してきたが、91年は自民党の小沢一郎幹事長が公民両党と別の候補を推し、都連の推薦で党本部を破った。

 青島氏から猪瀬氏まではいわゆる無党派候補だった。知事自らが地域政党を率いて選挙戦の主役になるのは大阪が先鞭(せんべん)をつけており、東京では初めてだった。自民党は23議席と過去最低を15議席も下回る歴史的惨敗となった。国政選挙では民主党政権を嫌気する空気もあって、安倍政権は連勝してきた。今回の都議選は、自民党以外の選択肢を小池氏が示したことが、勝利に寄与した。

 小池氏は1992年に日本新党から出馬して国政に登場し、2005年はクールビズを提唱、郵政選挙では「刺客」として東京に来た。いずれも都議選と近い年か、同じ年だった。

■自民、歴史的大敗(1989年)

 89年、昭和が終わり、元号が平成になった年の都議選は6月23日告示―7月2日投開票。今回とまったく同じ日程だった。

 自民党の議席は63だったが、リクルート事件による政治不信、4月の消費税導入に加え、6月に竹下登氏から交代したばかりの宇野宗佑首相に女性問題が直撃。告示日こそ宇野氏は遊説したが、その後は出番がなかった。

 さらに選挙戦最中に「首相が一時、辞意」と伝わり、宇野氏の求心力は一段と低下。自民党は歴史的な大敗を喫し、社会党が躍進した。

 1カ月後の参院選でも自民党は敗れて初の過半数割れ。宇野氏は「明鏡止水の心境」と言い残して退陣した。

■非自民連立への転機(93年)

 93年の都議選告示は6月18日。国会では宮沢内閣不信任案が可決されて衆院は解散。自民党は結党以来の大分裂を起こし、東京では衆院選と都議選の「ダブル選挙」の様相を呈していた。

 主役を務めたのは日本新党だった。4年前の都議選とは違い、米ソ冷戦の終結による国際情勢の激変、PKO法案をめぐる牛歩や議員辞職戦術などが嫌気され、野党第1党である社会党の支持は低下。「自民党ではない保守政党」への期待が高まっていた。

 日本新党は公認だけで20議席を獲得する大勝利で、都議選選対本部長を務めていたのが小池百合子氏だった。小池氏は直後の衆院選で参院からくら替えして当選。自民党は野党に転落し、小池氏が属した日本新党の細川護熙代表が首相になる「非自民連立政権」が誕生した。

■小沢新進党の壊滅(97年)

 97年の都議選投開票日は7月6日。当時、都知事は2年前に既成政党不信、無党派旋風の象徴として当選した青島幸男氏だった。国政は自民党、社会党、新党さきがけの3党連立による橋本龍太郎政権と、非自民勢力を結集した小沢一郎氏率いる新進党が対峙する二大政党。衆院選は前年の96年秋に終わっていた。

 争点は見えにくく、橋本内閣の堅調な支持率もあって自民党は復調。問題は二大政党の一翼を担っていた新進党が議席ゼロと壊滅したことだ。

 衆院では新進党に合流していた公明党は当時、参院と地方議会では「公明」として活動しており、これが新進壊滅の一因だ、と新進党首脳部は不満を強め、この年の末に新進党は解党してしまう。

 自民党への批判票を集めたのは共産党で、過去最多の議席を獲得して第2党に躍進した。

 

都議選、「安倍1強」もろさ浮き彫り 危機感薄く(2017年7月3日配信『日経新聞』)

 

 2日投開票の東京都議選は「安倍1強」のもろさを浮き彫りにした。小池百合子都知事が実質的に率いる地域政党「都民ファーストの会」は今後、自民党に代わる新たな保守層の受け皿となる可能性を秘める。保守票が都民フに大きく流れた安倍政権の危機意識の薄さが、事態の深刻さを物語る。

 都議選での自民惨敗を示す先行指標はすでに出ていた。日本経済新聞社が実施した6月の世論調査。安倍内閣の支持率は49%と前回調査から7ポイント下がった。一方、不支持率は6ポイント増の42%。不支持率は今年に入り、一貫して上がり続けていた。国民の不満は静かに高まっていた。

 首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」を巡る疑惑。稲田朋美防衛相による自衛隊の政治利用とも受け取れる発言。「魔の2回生」の一人、豊田真由子氏の暴言・暴行問題。あるいは下村博文幹事長代行への加計学園の献金疑惑――。「今回ばかりは応援しない」とさじを投げた自民党員も多かった。

 「都民ファーストは保守なんだよね」。首相周辺は選挙直前までこう軽口をたたいていた。事実、小池氏は首相と同じく憲法改正に理解を示す一人だ。自民党は都民フと保守層を奪い合う展開になると理解しながら、惨敗を喫した。何より、首相の思想信条に近い小池氏への批判を繰り返し、結果的に小池氏を「肥大化」させたのは他ならぬ自民党だ。

 小池氏への批判を容認していた首相の危機意識は、どこか乏しいと言わざるを得ない。「難しい選挙ではあるが、まなじりを決して勝ち抜く決意だ」。首相がこう語ったのは今年4月。都議選の個別候補の応援演説に入ったのはわずか4回にとどまった。告示前も含めて20カ所以上で街頭演説した前回の都議選との違いは明らかだ。今回は首相の応援演説のうち、自民候補が議席を獲得できたのは文京区だけだった。

 首相が初めて街頭演説に立った1日、JR秋葉原駅前は騒然となった。「安倍辞めろ」「帰れ」と声を上げる安倍政権に批判的な聴衆。首相は「相手を誹謗(ひぼう)中傷したって何も生まれない。こんな人たちに負けるわけにはいかない」と指をさして反論、今回の選挙戦を象徴する場面だった。受け入れにくい批判の声でも耳を傾ける姿勢こそ、首相に必要ではなかったのか。

 投開票日の当日夜、首相は高級フランス料理店で会食した。テーブルを囲んだのは菅義偉官房長官や麻生太郎副総理・財務相、甘利明前経済財政・再生相。第2次安倍政権の発足から中枢を担ってきた盟友たちだ。首相にとっては安心する相手かもしれないが、周囲にはどう映るだろうか。閣僚経験者の一人は「これだけ負けているのに何が原点回帰だ。お友達回帰なだけだ」と述べ、側近政治だと批判する。

 考え方の違う人を排除せず、一つ一つの意見に耳を傾ける謙虚さこそ、今の安倍政権には求められる。それは、近く首相が断行する内閣改造・党役員人事の姿と無関係ではない。

 

安倍首相;何度も「丁寧な説明」 はたして実行は?(2017年7月3日配信『毎日新聞』)

 

同種のせりふ、第2次安倍政権発足時に「丁寧な対話を…」

 安倍晋三首相は通常国会閉会を受けた19日の記者会見で、学校法人加計学園の問題が不信を招いたことを認め「丁寧に説明する努力を積み重ねたい」と述べた。思えば首相はこれまで何度も「丁寧な説明」というせりふを口にしてきたが、はたして実行されたのだろうか。【岸達也】

 同種のせりふを探すと、第2次安倍政権発足時の演説にまでさかのぼることになった。「過去の反省を教訓として心に刻み、丁寧な対話を心がけ……」

 その後も特定秘密保護法、安全保障関連法の前提となる「集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更」の閣議決定、安保関連法、原発再稼働、沖縄米軍基地問題など、世論が割れる局面でせりふは多用されてきた。

 加計学園問題でも首相が繰り返した「丁寧な説明」を、専門家はどう見るのか。

 政治アナリストの伊藤惇夫さんは「これまでの政権運営で、一種の成功体験として『世論を二分する案件も数の力で決めてしまえば国民の関心はやがて薄れる』と考えていることが大きい」と見る。ただし、加計学園問題は「首相自身の疑惑でこれまでのようにはいかず、支持率低下が続き追い込まれる可能性がある」と話す。

 東京大の吉見俊哉教授(社会学)は「これまで信頼できる証拠をもって説明したためしはないのではないか」と批判する。加計学園問題で首相サイドは、文部科学省の内部文書の中身をかたくなに否定してきた。「官僚の文書記録能力は高い。その信ぴょう性は官僚制度の根本で、政治主導の土台でもある。官邸がそれを疑ってみせたのは禁じ手だ」と影響を懸念する。

 駒沢大の逢坂巌准教授(政治コミュニケーション)は政策と参院選の関係を分析。選挙が近づくと経済や外交で点を稼ぎ、選挙後に自身のカラーを打ち出す安倍政権は老練だと見る。「憲法解釈変更や安保法制は選挙のない年、特定秘密保護法は13年参院選後だった。強引にやって支持率が下がるとリベラルに配慮した戦後談話や女性登用策、内閣改造で乗り切ってきた」。それでも「共謀罪審議打ち切りの背景に加計問題があるとすれば乱暴だ」と話す。

 加計学園問題で「丁寧に説明する努力を積み重ねる」なら、野党の求める臨時国会召集に応じる手もあるが、今のところその気配はない。そういえば安保関連法成立直後の一昨年秋にも臨時国会の話が出たが、与党は首相の外交日程などを理由に拒否した。安倍首相、今度の加計学園問題では丁寧に説明してくださるんでしょうか?

 

2017都議選(2017年7月2日配信『朝日新聞』)

 

自民幹部「安倍おろしの声出るかも」 首相の求心力低下

 東京都議選は2日、自民党が歴史的敗北を喫した。国政での自民党優位は動かないが、選挙戦では安倍晋三首相の政権運営が問われたこともあり、首相の求心力が低下するのは必至。政権幹部らは首相の責任問題との切り離しに躍起だが、自民党内では首相への批判勢力が声を上げ、野党は政権批判を強める構えだ。

■加計問題・稲田氏演説…「自滅」

 2日夜、東京都新宿区のフランス料理店で麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、甘利明元経済再生相と約2時間の会食を終えた首相は記者団の呼びかけには答えず、左手を上げたまま無言で立ち去った。

 出席者によると、会食では都議選について「結果は予想以上にひどい」との認識で一致。ただ「首相の責任問題にはならない」「国政への影響はない」「経済優先でいくべきだ」と語り合い、「みんなで首相を支える」と確認したという。

 麻生、菅、甘利3氏は、第2次安倍政権の発足から甘利氏が現金授受問題で閣僚を辞任するまで政権中枢を担ってきた。今回の大敗は、その政権「原メンバー」が一堂に会さねばならないほどの衝撃だった。

 選挙結果に、党内からは「想像を絶する状況だ」(ベテラン議員)。石破茂・前地方創生相は「都民ファーストが勝ったというより自民が負けた。自民にプラスになることが何もなかった」と分析。柴山昌彦首相補佐官も「自民党の自滅。おごりや危機管理に問題があった」と語った。

 閣僚経験者の一人は、不祥事や疑惑を引き起こした閣僚や政権幹部の名前を挙げながら都議選惨敗の要因を総括してみせた。「THIS IS 敗因。Tは豊田、Hは萩生田(はぎうだ)、Iは稲田、Sは下村」

 加計(かけ)学園をめぐる問題について、首相は先月19日の記者会見で「対応が二転三転し、国民の不信を招いた」と釈明。「指摘があればその都度、真摯(しんし)に説明責任を果たしていく」と述べた。だが、萩生田光一官房副長官の「指示」を記した新文書が明らかになり、野党が閉会中審査や臨時国会開会を求めても、政権はいずれも応じなかった。

 22日には自民党の豊田真由子衆院議員の暴言・暴行疑惑を週刊新潮が報じた。さらに、首相が重用してきた稲田朋美防衛相が27日、都議選の応援演説で「防衛省、自衛隊としてもお願いしたい」などと発言。29日には、週刊文春が首相に近い下村博文・党都連会長をめぐる加計学園絡みの献金疑惑を報道した。

 首相が主導する「安倍1強」は「結果を出すこと」にこだわり、国会では議論を途中で打ち切る採決強行を多用した。自民の中堅議員は、自民大敗の原因をこう分析する。「加計問題などによる一時の突風ではなく、安倍政権の強引な手法という根源的な問題によるのではないか」

■改憲・総裁選、不透明に

 都議選の惨敗で、自民党内では首相と距離を置く議員らの反発が強まるのは必至だ。「安倍1強」を背景に進めてきた政権運営も練り直しを迫られそうだ。

 まずは首相が悲願とする憲法改正だ。「臨時国会が終わる前に衆参の憲法審査会に提出したい」。首相は先月24日の講演で、自民党の改憲原案を秋の臨時国会に提出する考えを示した。

 首相は発議後の国民投票を次の衆院選と同日に行う日程も想定する。ただ、船田元・自民党憲法改正推進本部長代行は2日夜、朝日新聞の取材に「自民案を押しつけることは国民の反発を受ける可能性がある。これまで以上に公明党や野党との対話を重視し、丁寧に手続きを進める必要がある」とコメント。都議選大敗で党内には慎重論が広がりそうで、首相周辺は「憲法改正の戦略は出直して考えざるを得ない」と話す。

 来年9月の党総裁選での「3選」への道のりも険しくなりそうだ。「安倍首相の後は安倍首相」(二階俊博幹事長)と3選を確実視する見方が強かったが、政権の経済政策に批判的な議員の勉強会が5月に立ち上がるなど、政権中枢と距離を置く動きが顕在化。衆院ベテラン議員は「第1次政権では参院選に負けて『安倍おろし』が始まった」と語り、都議選惨敗で首相の求心力低下は必至だ。

 局面を打開する最初の試金石となりそうなのが、8月中にも検討されている内閣改造・党役員人事だ。

 首相は当初、これまでと同様に側近らで党や内閣の要職を固め、憲法改正や経済政策を推進する構想を描いていた。ただ、最側近の稲田防衛相や萩生田官房副長官に批判が集中。政権中枢の強硬姿勢にも都議選で疑問符がついた。イメージの刷新を優先し、政権中枢を含む大幅な人事に踏み込む可能性もある。

 ただ、自民党の幹事長経験者は「求心力が落ちている時の人事は鬼門だ」と指摘する。安倍内閣ではこれまで、改造で起用された新閣僚らに失言や不祥事が相次いで生じた経緯もある。閣僚経験者は「こういう状況では、内閣改造自体がリスクになりかねない」と話している。

■公明、増す存在感

 「ポスト安倍」と目される候補たち。岸田文雄外相ら自民党岸田派の幹部は2日夜、都内の事務所に集まった。「今は憲法9条の改正は考えない」と語っていた岸田氏。都議選が憲法改正に与える影響を記者団に問われると、「信頼回復への努力から始めなければならない」と語る一方、「具体的な政策の行方は、その結果だ」と含みを残した。

 石破氏は朝日新聞の取材に「党本部は関係ないとはならない。負けたことを総括しないと次も負けるぜ」。別の石破派幹部は「すべては安倍さんが招いた」と首相を批判した。

 野田聖子・元総務会長は取材に「批判、失望、積もった思いの表れだ。かけ声や勢いで政権を運営してきたが、国民の声を聞いて出直すしかない」と述べた。

 首相自らを直撃した加計学園問題で内閣支持率が下がり、都議選敗北に直結。ある党幹部が「『安倍おろし』の声が出るかもしれない」と漏らすように、「安倍1強」下で抑えられてきた首相批判が表に出やすくなることは確実だ。

 都議選で自民とたもとを分かった公明党との関係も変質しそうだ。首相官邸は、これまで集団的自衛権の行使を認める憲法解釈変更やカジノ法など公明が嫌がる政策を押し切ってきたが、次の衆院選で共闘を強める野党を迎え撃つにはこれまで以上に公明との選挙協力が不可欠だ。自民中堅はいう。「公明がいないと選挙に勝てないと分かった。公明の存在感が増す」

 都議選の結果は「自民1強」が、自民以外の選択肢があれば簡単に崩れることを示した。国政では、政党支持率も堅調で、自民1強がすぐに崩れるわけではないが、野党は、大型選挙での「直近の民意」という武器を得た。政権がこれまで通り採決強行を繰り返すことは難しくなりそうだ。

■共産「野党共闘発展を」

 「安倍1強」に苦しんできた野党勢は「安倍政権への不信任の選挙結果」と受け止め、攻勢を強める構えだ。次期衆院選に向けて野党共闘路線は加速する見通しだが、議席を減らし、退潮傾向に歯止めがかからなかった民進党内には「解党的出直し」を求める声も上がっている。

 前回都議選や最近の国政選挙で議席増が続く共産党は、今回の都議選を「野党と市民の共闘を発展させる契機」と位置づけ、選挙戦では政権批判を展開した。同党の志位和夫委員長は3日未明の記者会見で、選挙結果について「大きな勝利だ。共闘を発展させていきたい」と強調。「安倍首相が進めようとする憲法9条改定に打撃になった。手を緩めることなく中止に追い込む」と意気込んだ。

 民進、共産両党は今後、与党に対し、臨時国会の早期召集や加計学園の獣医学部新設をめぐる予算委員会の閉会中審査開催などの要求を強める。また「昨年の参院選以来の野党共闘が東京でも具体化できた」(小池晃共産書記局長)として、次期衆院選に向けた選挙協力などを進める。

 一方、民進は告示前に離党者が相次ぎ、「獲得議席ゼロの可能性もある」(党幹部)とささやかれていた。形勢を立て直すため、選挙戦では街頭に党幹部を大量投入して政権批判を展開。同党の蓮舫代表は「日を追うごとに、立ち止まってくれる人が多くなった」。野田佳彦幹事長は3日未明、都内で記者団に「安倍政権にノーの意思が示された結果だ。わが党の追及に一定の効果があった」と振り返った。

 通常国会で存在感を示せず、蓮舫氏は党内で求心力が問われていた。都議選で惨敗すれば、東京を地盤とする蓮舫氏が責任をとって代表を辞任すべきだとの声も出ていた。これに対し、野田氏は記者団に「これからも責任を果たしていきたい」と語り、蓮舫氏も周辺に続投への意欲を示した。

 ただ、党内では「旧民主党が厳しかった前回と比べても、圧倒的に減らしている。態勢と戦略の見直しが必要だ」との声が上がっているほか、共産との共闘路線に否定的な声も根強い。共闘路線への反発から離党届を提出し、除名処分を受けた長島昭久元防衛副大臣の例もあり、「共産より小池知事と組みたい」と語る議員が少なくない。小池知事を支持する勢力による新党結成への合流論などもくすぶり、執行部には「民進も惨敗。楽観はできない」との指摘がある。

■東京都議選と安倍政権をめぐる動き

〈6月〉

15日 「共謀罪」法、与党が参院で委員会採決を省略し本会議で採決強行、可決・成立

18日 通常国会が閉会

19日 安倍晋三首相が国会閉会で記者会見。加計学園問題について「対応が二転三転し、国民の不信を招いた」と釈明

20日 加計学園問題で文部科学省が萩生田光一官房副長官の指示などが記された新たな文書を公表

22日 豊田真由子・自民党衆院議員が男性秘書に暴言・暴行と週刊誌に報じられ、同党に離党届提出

23日 東京都議選が告示

27日 稲田朋美防衛相が都議選の応援演説で「自衛隊としてもお願いしたい」などと発言、終了後に撤回

29日 下村博文・自民党都連会長が「加計学園からヤミ献金」と週刊誌に報じられ、記者会見で反論

30日 二階俊博・自民党幹事長が都議選の応援演説で「私らを落とすなら落としてみろ」などと発言

〈7月〉

1日 麻生太郎副総理が都議選の応援演説で「マスコミは言っているだけで責任は何もとらない」などと発言

1日 安倍首相がJR秋葉原駅前で都議選初の街頭演説。聴衆の一部から「辞めろ」「帰れ」のコールも

2日 都議選が投開票

■今後の主な政治日程

2017年7月7〜8日 ドイツでG20首脳会議

   8月にも   内閣改造・自民党役員人事

   臨時国会中  安倍首相が表明した自民党改憲原案提出期限

 18年5月にも   築地市場の豊洲移転

   9月30日   自民党総裁の任期満了

   12月13日   いまの衆院議員の任期満了

 19年春      統一地方選

   夏      参院選

   10月1日   消費増税(8%→10%)を予定

 20年7〜9月   東京五輪・パラリンピック

 

都議選惨敗;自民党内に不満高まる 改憲日程、疑問視も(2017年7月3日配信『毎日新聞』)

 

 自民党内では安倍晋三首相や執行部への不満の声が出始めた。閣僚の一人は「党内は荒れる。これで荒れなかったら自民党はなんなんだ、という話になる」と漏らした。党の憲法改正案を今秋の臨時国会で示すとした首相主導のスケジュールを疑問視する声も強まっている。

 「ポスト安倍」を狙う岸田文雄外相は3日午前、東京都内で記者団に「選挙結果に国会議員の言動が影響したという指摘を多くいただいている」と敗因を指摘しつつ、「私は内閣の一員。(首相と)ともに努力しなければならない」と述べて政権を支えるとした。石破茂元幹事長は2日深夜、「都民ファーストが勝ったというより、自民党に懸念や疑問が持たれている。問われているのは自民党だ」と語った。

 自民ベテラン議員は「経済最優先に戻るしかなく、憲法改正の旗は降ろすのではないか」と述べ、首相の党運営が厳しくなるとみる。中堅議員からも「憲法改正はできないし、やらせない」との声が上がった。

 政権内でも厳しい受け止めが相次ぐ。首相周辺は「予想外に負けた。政策的な問題ではないが、(政権への打撃は)大変なことになる」と身構えた。官邸に近い党幹部は「憲法の論議など、さまざまな国政の課題に影響が出るだろう」と語った。一方、政府高官は「党内で足を引っ張る人はいないだろう。政権運営への影響はあまりないと思っている」と党内の動きをけん制した。

 

都議選1勝15敗…安倍政権の“4厄病神”が自民候補を抹殺(2017年7月3日配信『日刊ゲンダイ』)

 

は候補者2人擁立で1人落選

 

 今回の都議選は安倍首相はじめ、加計疑惑の「4疫病神」が自民候補を次々と“殺戮”していく衝撃の結末を迎えた。

 安倍・菅コンビが応援入りした選挙区と、加計問題でミソをつけた下村都連会長の地元・板橋区、萩生田官房副長官の地元・八王子市の選挙結果を別表にまとめた(△は候補者2人擁立で1人落選)。△も負けに数えると、全16選挙区の勝敗は1勝15敗。疫病神が足を引っ張った結果が如実に表れた。

 街宣に出た安倍首相が「帰れ」コールを浴びせられた千代田区は、自民候補が都ファ候補にダブルスコアで惨敗。屋内集会で登壇した台東区、小金井市も負けた。唯一取った文京区も、共産新人にわずか200票差の辛勝だった。

 下村氏のお膝元、板橋区は目も当てられない。5人区にもかかわらず、下村氏の元秘書で現職だった河野氏と松田氏がまさかの共倒れ。先月27日の松田氏の応援集会で、「防衛省・自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」とやらかした稲田防衛相がトドメを刺した格好だ。

 萩生田氏の地元・八王子市も5人区で、自民は2人候補者を立てたが、1人が最下位に滑り込むのがやっと。菅官房長官が応援に入った北区はナント、都議会幹事長の高木氏が落選だ。

 国民の敵の4疫病神に応援されても、ありがた迷惑。大間違いだった。

 

都民が安倍錯乱政治に退陣通告 この結果で続ける気か<>(2017年7月3日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 逆風なんてものじゃない。これはもう有権者からの退場勧告だ。2日投開票された都議選で、自民党はまさかの23議席に沈む大惨敗。過去最低だった38議席を15議席も下回り、これ以上の議席減はちょっと考えられないくらいの歴史的な敗北である。それだけ、都民の怒りはすさまじかった。「思い知ったか!」と声を上げた有権者も多かったに違いない。

 執行部は「あくまで地方選」と、国政とは切り離して責任回避しようとしているが、それは無理な話だ。もちろん都議会自民党にも問題はあるが、大敗の主因が安倍首相の資質と強引な政権運営にあることは、もはや疑う余地がない。

「この選挙は、安倍首相への信任投票だったといっていい。通常国会では、森友問題や加計問題で数々のデタラメが発覚した。どちらも首相自身の問題です。ところが、説明責任を果たすどころか、ごまかしや隠蔽、詭弁で逃げまくり、共謀罪を強行して国会を閉じてしまった。不誠実な安倍政権に鉄槌を下そうと、有権者は手ぐすね引いていました。都議選の最中にも数々の暴言や醜聞が政権中枢から飛び出したことで、有権者の怒りが爆発したのです」(政治評論家・本澤二郎氏)

応援演説で、稲田防衛相が「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と問題発言。二階幹事長は「落とすなら落としてみろ。マスコミの人たちが選挙を左右すると思ったら大間違いだ」などと言っていた。

極め付きが安倍だ。

選挙戦で一度きりの街頭演説を行った最終日の秋葉原。候補者そっちのけで民進党の批判に演説時間を費やしていた安倍は、聴衆の「安倍辞めろ」コールにブチ切れ。「憎悪や誹謗中傷からは何も生まれない!」と語気を荒らげ、コールを続ける聴衆を指さして「こんな人たちに負けるわけにはいかない!」とイキリ立った。自分への批判を許さず、民意を敵視。国民に対して憎悪を剥き出しにするとは、信じられない話だ。正気を失っているとしか思えない。

これら一連の発言、行動から見えてくるのは、安倍自民の権力私物化と選民意識、数の力に驕った反知性主義だ。

そこに多くの有権者が呆れ、嫌悪感を抱いたことが、都議選での空前の大惨敗につながった。

「これだけ負けると、もう解散も打てません。解散権を失った首相はレームダック同然。居直ったところで、いずれ野垂れ死ぬ運命です」(本澤二郎氏=前出)

潮目は変わった。首都決戦で民意が安倍1強を突き崩したのだ。

■政治のイロハも知らない稲田大臣を庇いメディアに八つ当たりする錯乱政権にもはや政権担当能力なし

 安倍の蹉跌は、都議選の応援演説でトンデモ発言を繰り出した稲田防衛相を庇ったことにある。

「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」――。憲法にも抵触しかねない大問題発言だし、自衛隊員が「選挙権行使を除く政治的行為」を制限されていることは社会人の常識だ。何より、自衛隊を政治に介入させるのは許されないこと。即刻、辞任するのが当たり前である。なのに、安倍は「お気に入り」だから更迭しなかった。ここでも“お友だち”に甘い安倍政権の体質が如実に表れ、有権者の反発を招いた。

 そのうえ稲田は釈明会見で「誤解を招きかねない発言」と繰り返し、まるでメディアや有権者の受け取り方が悪いと言わんばかり。この政権はこんなのばっかだ。

疑惑を追及されるたび、安倍は「印象操作だ!」とヒステリックにわめき散らす。下村都連会長は「週刊文春」に加計学園からの闇献金疑惑が報じられると、「選挙妨害」と言い切った。

 麻生財務相は都議選の応援演説で「(マスコミ報道の)内容はかなりの部分が間違っている。書かれている本人だからよく分かる。こんなものをお金まで払って読むか」と発言。「結果として新聞は部数が減っている。自分でまいた種じゃないか」などと言っていた。

 「自民党こそ、自分でまいた種です。安倍政権が疑惑まみれで、次々と問題を起こすから、報道される。メディアに八つ当たりする前に、自分たちの言動を反省すべきですよ。メディアの姿勢を問題にするようでは、都合の悪い報道は『フェイクニュース』扱いする米国のトランプ大統領と何も変わらない。政治の根本が崩れています」(政治学者の五十嵐仁氏)

 こんな錯乱政権には、もはや政権担当能力はない。

今や「安倍帰れコール」は全国に広がる国民運動

 安倍本人が演説を始めると、湧き起こった「帰れ」コール――。選挙戦最終日、秋葉原駅前にこだました「退陣勧告」の大合唱は、全国民の怒りを代弁していた。

 アキバは政権を奪還した2012年の総選挙以来、国政選挙のたびに安倍自民党が必ず「マイク納め」の場所としてきた“聖地”だ。

 ヤジを恐れて街頭に立てなかった安倍が最初で最後の街頭演説の地にアキバを選んだのも、必勝パターンの験を担いだからだろう。

 そんな淡い期待を抱いた安倍を待ち受けていたのが想像をはるかに上回る怒号の嵐だった。

 その映像のインパクトは絶大で、SNSなどを通じて瞬く間に拡散。YouTubeにも「安倍帰れコール」の動画が次々と公開され、視聴回数は最も多いもので25万回を超えた。安倍の演説終了から、たった1日チョットで、これだけの広がりを見せているのだ。国民の多くが共感した裏返しだ。

「空間と時間を超え、あっという間に人々を結びつけるのが、ネット時代のすさまじさです。これほどの勢いで拡散したのは『安倍帰れコール』が全国に広がる国民運動になりつつあるということでしょう。多くの国民の内に秘めた怒りに火を付けたのです。今後は安倍首相が視察などでアチコチに出かけるたび、『辞めろ』のプラカードを突き出される可能性がある。森友学園の籠池前理事長だって常に100万を持ってやってくるでしょう。首相が森友・加計両学園疑惑の説明責任から逃げ回る限り、この現象は続くのです」(高千穂大教授・五野井郁夫氏=国際政治学)

 

過去の都都民が安倍錯乱政治に退陣通告 この結果で続ける気か<>(2017年7月3日配信『日刊ゲンダイ』)

 

■国民の怒りを知らないオレ様政権は内閣改造でごまかす算段だが、目くらましは見透かされている

 有権者にハッキリ退陣勧告を突き付けられたのに、国民の怒りを受け止めようとしないオレ様首相はまだまだ政権にしがみつく気でいる。

 その目玉が「7月前倒し論」も出てきた内閣改造だ。小泉進次郎衆院議員など党内の人気者を次々と入閣させ、加計疑惑や都議選の惨敗ムードから国民の目先を変えるつもりだ。

 この期に及んで安倍は気心の知れた甘利の再入閣を熱望しているというから、とことん国民をなめている。金銭疑惑でクビになった甘利を再登板させれば「火に油」に決まっている。こんな姑息な目くらましが通用するはずがない。前出の五野井郁夫氏が言う。

 「8月の予定だった改造を7月に前倒ししようが、レームダック政権に入閣したがるような物好きな自民党議員がどれほどいるでしょうか。人気者にはことごとく振られ、入閣待機組のベテランだけが顔を並べる滞貨一掃がオチです。そもそも、内閣改造程度で有権者の怒りの炎を鎮められると思っているのが大間違いです。今回の都議選は自民と共産が激しく争った結果、自民現職が落選した選挙区が品川、目黒、豊島、北、板橋、北多摩1、同3、同4と8つもある。自民の得票が共産より下回るのは国政選挙では考えられないこと。共産党員が激増したとは聞かないので、アレルギーを超え、政権批判票の受け皿になった証拠です。想定外の事態を巻き起こすほど有権者の怒りは頂点に達しているのです」議選はことごとくその先に起きる日本の政治状況を先取りしてきた。都民が発した「安倍辞めろ」コールが全国に拡大していくのは時間の問題だ。

 燎原の火のごとく、燃え広がった国民の怒りを収める手段はただ一つ。退陣しかない。内閣改造でごまかせると思ったら、とんだ思い違いだ。

■これから始まる自民党内の内ゲバ、安倍降ろしの茶番劇

 昨夜、安倍は菅官房長官、麻生財務相、甘利前経済再生相と優雅なフレンチディナー。選挙結果を謙虚に受け止める考えで一致したという。

「4人で会食し、『厳しい結果だが、安倍首相の下で結束してやっていこう』という方針を早々に打ち合わせたのでしょう。都連執行部が辞任することで責任を取り、“これは地方選挙”という流れをつくりたいのでしょうが、ここまで大敗するとそうはいかない。必ず党内から責任を問う声が上がってくるでしょう。自民党内はガタガタしてくるはずです」(ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)

 23議席という歴史的惨敗では、さすがに「都議選は地方選挙」と逃げるのは難しい。早速、石破元幹事長が「一地方選挙とすべきでない」と口火を切った。党内でいつ「安倍降ろし」が始まってもおかしくない。

 この状況にシメシメなのが実は麻生だ。3日、山東派と谷垣グループの一部を吸収合併し、第2派閥に躍進。消費増税したい財務省が熱心に麻生をバックアップしているともいう。

 岸田外相もヤル気満々で、「今は9条改憲を考えない」と発言し、安倍とは違うハト派路線を強調、党内向けアピールに余念がない。安倍との関係がギスギスしていると噂される菅も色気アリとされる。

 「既成事実化されてきた安倍さんの総裁3選も、にわかに黄信号が点灯しました。この都議選が政局の変わり目になりそうです」(政治評論家・野上忠興氏)

 しかし、安倍内閣の閣僚で“ポスト安倍”のたらい回しなんて茶番は許されない。日本一有権者の多い東京で「自民はNO」の判定が下されたのだ。自民は下野するのが当然だ。

 

共産躍進 自民歴史的惨敗(2017年7月1日配信『しんぶん赤旗』

 

都議選 共産党19議席

  安倍自公政権の暴走政治への審判と東京都政の転換が大争点となった都議会議員選挙(定数127)が2日、投・開票され、日本共産党は現有17議席を上回る19議席を獲得し、勝利しました。史上初めて町田市(定数4)で議席を獲得。定数2の北多摩4区、定数3の目黒区と北多摩3区で、1997年以来の議席獲得を実現しました。現職区でも、定数3の豊島区、北区で大激戦を制しました。


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(写真)当選を決め、喜びのバンザイをする星見てい子さん(中央)=2日、東京都目黒区

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(写真)再選を決め、支持者とバンザイをする米倉春奈さん(中央)=2日、東京都豊島区

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(写真)2人区での勝利を喜ぶ原のり子さんと支援者たち=2日、東京都東久留米市

 自民党は、前回獲得した59議席を大幅に減らし23議席、過去最低の38議席(2009年)を下回る歴史的惨敗となりました。日本共産党の小池晃書記局長は同日、党本部で記者会見し、「安倍自公政権の憲法破壊と国政の私物化が問われるなかでの選挙で、過去最低の議席になるということは、当然、今後の国政に重大な影響を与えることになる。この間、野党が要求しているように、この結果を受け、臨時国会をただちに開会するべきだ」と強調しました。

 日本共産党は、新宿区(定数4)で大山とも子氏が7回目の当選、八王子市(同5)の清水ひで子氏が6選、江戸川区(同5)の河野ゆりえ氏が4選、江東区(同4)の、あぜ上三和子氏が3選、北区(同3)の、そねはじめ氏が定数1減のなか都議会自民党幹事長との大激戦を制して6選を、それぞれ果たしました。

 世田谷区(同8)では里吉ゆみ氏、北多摩1区(同3)の尾崎あや子氏、葛飾区(同4)の和泉なおみ氏、板橋区(同5)の、とくとめ道信氏、豊島区(同3)の米倉春奈氏、品川区(同4)の白石たみお氏が、それぞれ再選を決めました。

 町田市(同4)では池川友一氏が初当選し、初の党議席をかちとりました。

 目黒区(同3)の星見てい子氏、北多摩3区(同3)の、いび匡利氏、北多摩4区(同2)の原のり子氏が、それぞれ初当選しました。

 新旧交代の選挙区では、杉並区(同6)の原田あきら氏、練馬区(同6)の、とや英津子氏、足立区(同6)の斉藤まりこ氏、大田区(同8)の藤田りょうこ氏が、それぞれ初当選を決めました。文京、中野両区はおよびませんでした。

 小池百合子都知事が代表の「都民ファーストの会」が議席を増やし、第1党となりました。

 自民党の下村博文幹事長代行(都連会長)はNHKの中継番組で、「予想していなかった厳しさだ。都民が厳しい審判を下した」と述べました。

 

共産党の当選者

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(写真)大山とも子氏(新宿区)

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(写真)原田暁氏(杉並区)

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(写真)清水秀子氏(八王子市)

 

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(写真)井樋匡利氏(北多摩3区)

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(写真)里吉ゆみ氏(世田谷区)

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(写真)戸谷英津子氏(練馬区)

 

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(写真)斉藤真里子氏(足立区)

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(写真)星見定子氏(目黒区)

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(写真)米倉春奈氏(豊島区)

 

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(写真)徳留道信氏(板橋区)

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(写真)藤田綾子氏(大田区)

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(写真)河野百合恵氏(江戸川区)

 

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(写真)白石民男氏(品川区)

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(写真)曽根肇氏(北区)

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(写真)原紀子氏(北多摩4区)

 

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(写真)和泉尚美氏(葛飾区)

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(写真)池川友一氏(町田市)

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(写真)畔上三和子氏(江東区)

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(写真)尾崎あや子氏(北多摩1区)

 

 

もう一つの歴史的惨敗(2017年7月15日配信『熊本日新聞』−「射程」)

 

 自民党の歴史的惨敗となった東京都議選から2週間。その陰に隠れた形だが、同じく危機的現状を突きつけられた民進党にとって、事態はより深刻かもしれない。森友学園・加計学園問題、閣僚や自民衆院議員の失言・暴言など、政権側に多くの「失点」がありながらの惨敗だけに、立て直しへの道のりは険しい。

 民進党の選挙結果をあらためて振り返ると。当初は36人を公認する予定だったが、小池百合子都知事率いる地域政党「都民ファーストの会」の公認や推薦を得るため離党者が続出。最終的に23人を擁立したものの、当選は現職3人を含む5人止まり。党派別得票率は6・9%だった。

 民主党時代で政権交代前夜の前々回(2009年)は54議席を獲得し、得票率は40・8%。政権運営に失敗し衆院選で惨敗、下野した翌年の前回(13年)でさえ15議席、15・2%だった。目を覆うばかりだ。

 投票結果を基にした共同通信社の衆院選シミュレーションによると、都内全42議席(小選挙区25、比例代表東京ブロック17)のうち、民進が獲得できるのは比例1議席のみ。小選挙区は、野党共闘を前提に共産党票を加えても議席ゼロという。

 続投に意欲を見せる蓮舫代表は11日から、地域ごとに所属議員と「ブロック会議」を順次開催。25日にも開く両院議員懇談会でその総括を示すという。だがこの際だ。都議選だけの総括にとどまらず、政権交代可能な二大政党として再び国民の期待を集めるにはどうすればいいかを徹底議論するべきではないか。

 蓮舫氏は台湾との「二重国籍」問題を決着させ、求心力低下に歯止めをかけたいようだが、それが党勢衰退の根本原因なのか。腰の定まらない憲法改正や原発政策へのスタンスを見つめ直すのが先決ではないか。言葉だけでなく、真に「解党的出直し」の覚悟がなければ、党再生はおぼつかない。

 

(2017年7月14日配信『神戸新聞』−「正平調」)

 

「布石」とは囲碁の対局でこれからどう戦っていくか、その見通しを立てた上で手を打つことをいう。広く将来に備える場合に使われることが多い

◆明治のころ、本因坊秀栄(しゅうえい)がライバル秀甫(しゅうほ)との十番碁に負け越した。彼は小笠原の島にわたり、そこで布石を1万局つくって研究に励み「打倒・秀甫」に燃えたという。棋士の呉清源(ごせいげん)さんがある文章に書いている

◆1万局とはどれほどか。呉さんによれば、勝ちたいという気持ちぐらいではとても成しえない数だそうだ。それこそ勝負の鬼となって、目を怒らすほどの熱情がいると

◆さて、なんの話かというと、民進党である。東京都議選で惨敗し、なぜ政権批判の受け皿になれない−と嘆いている。有権者からいわせてもらえば、天下取りへの「布石」がまるで見えないからではなかろうか

◆旧民主党政権が人々にそっぽを向かれ、下野したのは5年前だった。兵庫でも退潮著しく“暗い冬”が続く。それなのに日ごろまちを歩いていて、「次」に備え汗している姿をあまり見かけないのはなぜだろう

◆しつこいようだが、秀栄は戦いの鬼と化して布石1万局をつくった。かたやいまの民進党は、蓮舫代表の「戸籍公表」が世間の話題である。出直しを誓った両者の、迫力の違いたるや。

 

(2017年7月8日配信『日経新聞』―「春秋」)

 

さすがに華がある――と好意的に見る向きも少なくなかったのだが、いまやその蓮(はす)の花も、人々の期待もすっかりしぼんでしまったようだ。民進党の蓮舫参院議員が、平和の象徴だという自らの名に触れつつ、代表としての抱負を熱く語ったのはわずか10カ月前である。

▼自民党の歴史的惨敗や都民ファースト躍進とともに、東京都議選であらためて浮かび上がったのはこの党の体たらくだ。獲得したのはたったの5議席。へたをすれば1議席とされた下馬評に比べれば善戦との声もあるそうだから、話にならない。かりそめにも国会では野党第1党なのに、こんどの選挙では蚊帳の外だった。

▼蓮舫代表は党勢回復の切り札だったろうに、焦るばかりなのか、どうにも顔色が暗い。しかと路線も定まらぬ組織の、深い混迷を示してあまりある。かくて安倍1強のおごり、高ぶりを極まらせていったのが蓮舫体制の10カ月ではないか。穏健な保守とリベラルが理念を競う政治からは、日本はずいぶん遠いところに来た。

▼「花と、面白きと、めづらしきと、これ三つは同じ心なり」。世阿弥の「風姿花伝」にある言葉だ。観客を感動させるものはワクワク感や新規性だということだろう。残念ながら、かの蓮の花はそんな魅力を放つことがないまま今日に至る。花の下の泥の池で、レンコンに徹すると意気込んだ幹事長の罪も一通りではない。

 

日本の防備なまでの寛容さ? 共産党躍進の不思議(2017年7月7日配信『産経新聞』−「産経抄」)

 

 先の東京都議選では、自民党の大敗と地域政党「都民ファーストの会」の大躍進の陰に隠れて目立たなかったが、共産党も2議席増やして19議席を獲得している。5議席だった民進党の実に4倍近い数字であり、23議席の自民、公明両党にほぼ並んだ。

▼共産党は昨年7月の参院選でも改選3議席を6議席へと倍増させており、じわりと、だが確実に勢力を伸長させている。民進党が、自民党批判の受け皿にも政権交代の選択肢にもなれずにいる体たらくなので、その分存在感を増しているのだろう。

▼ただ、こうした日本の現状は、世界的には稀有(けう)な事例らしい。歴史資料収集家の福冨健一氏の著書『共産主義の誤謬(ごびゅう)』によると、先進国で共産党が躍進しているのは日本だけで、欧米では消えつつあるという。米国や英国、ドイツ、イタリアなどでは共産党は国政の場に議席を持っていない。

▼「どうして日本には、共産党があるの?」。福冨氏が、諸外国の若者たちを国会議事堂に連れて行くと、決まって驚くのだそうだ。確かに、共産党は憲法違反だとして1956年に解散させた西ドイツ(現ドイツ)のような国からみると、日本の無防備なまでの寛容さは不思議なのだろう。

▼「最初の有権者の審判で、出ばなをくじいた」。共産党の小池晃書記局長は都議選投開票日の2日夜、こう勝ち誇っていた。憲法全条文を守る護憲政党として、安倍晋三首相が5月に憲法改正案を表明した後、初の大型選挙での勝利の意義を強調したのである。

▼ただ、共産党綱領は皇室制度について「存廃は、将来、国民の総意によって解決されるべきもの」と明記しており、将来は共和制を目標とする考えも示している。実のところは改憲政党なのではないか。

 

(2017年7月6日配信『山形新聞』−「談話室」)

 

▼▽馬齢だけは重ねちょっとやそっとのことでは驚かなくなったつもりだが、あれには魂消(たまげ)た。「ミカは知能指数が低くて頭がおかしい」。トランプ米大統領が、自分を批判する女性キャスターをこき下ろした投稿である。

▼▽ツイッターには「視聴率が低い番組が私のことを悪く言っている」とも。大統領というより、感情の抑えがきかなくなった子どもの言い草だ。これを、大統領副報道官が「国民は強い闘士を大統領に選んだ。彼はやられたらやり返す」と擁護するに至っては何をか言わんや。

▼▽今度はわが首相である。東京都議選の投票前日、唯一の街頭演説の舞台は秋葉原だった。それまで連戦連勝の国政選挙でも最後に気勢を上げた“聖地”。だが今回は「辞めろ」「帰れ」コールが続く。首相は興奮気味に「こんな人たちに私たちは負けるわけにはいかない」。

▼▽異論を排除しがちな日頃の姿勢を反映したものか。結果は歴史的惨敗。首相は3日「厳しい叱咤(しった)。深く反省しなければ」と神妙だったものの、同じ日「こんな人たちに」発言を問われた官房長官はすげなく「極めて常識的」。米政権の対応を参考にしている? まさか、ね。

 

(2017年7月6日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

2日の東京都議選で安倍政権・自民党が歴史的大敗を喫し、晴れやかな気持ちを味わえたのもつかの間。わずか2日後の4日は心身ともに不快感でいっぱいになりました

▼その元凶は空から降ってきました。台風3号が各地にもたらした大雨被害に加え、対岸の国・北朝鮮から発射された弾道ミサイルです。4日午前、秋田県沖に落下。午後には、国営メディアの「特別重大報道」で、「ICBM発射に成功」したと報じました

▼国際社会の声を無視してはばからない北朝鮮による度重なる暴挙です。「世界のどこでも攻撃できる核強国になった」と誇るアナウンサーの声を聞くと、不快感はますます高まります

▼北朝鮮がこれほどまでに核・ミサイルに固執するのはなぜか。「核保有国」として米国からの体制保証を得る。そのための交渉に引きずり出すために、米本土に到達するICBMは不可欠だと考えている―多くの専門家はそう見ています。しかし、この道は北朝鮮にとっても未来はありません

▼そうした身勝手な行動のために、日本国民は甚大な迷惑をこうむっています。周辺海域にミサイルを落とされるだけではありません。憲法9条改悪や軍拡など「戦争する国」づくりの格好の口実にされることが容易に想像できます

▼不快な梅雨空ですが、晴れ間も見えています。史上初めて核兵器が違法化される条約が7日にも国連で採択される見通しです。この世界の流れに背く北朝鮮など核固執勢力を孤立させる大きな転機。希望を抱いて見守りたい。

 

(2017年7月5日配信『東京新聞』−「筆洗」)

 

 目の前にいる人が「このコラムは…」と言い出したとする。続く言葉は「おもしろい」であることを願うが、「ひどいね」かもしれぬ。その言い出しではどっちか分からない。「こんなコラムは…」と言い出した場合は、顔を赤くし、身を縮めるしかない。その言葉に続くのは「読みたくない」とか「いやだね」という批判である

▼指示語のこれ、あれ、それ、どれ。なにかを指し示しているだけでそこには判断も感情も含まれないのだが、形容動詞の「こんな」「そんな」「あんな」になると話はやや違ってくる

▼「こんなことも分からないのか」「そんなばかな」。「こんな女に誰がした」(「星の流れに」)。なぜか、否定の評価や嫌い、気に入らぬという意味や感情が強くなる

▼「こんな人たちに負けるわけにはいかない」。首相の先の演説での発言である。「帰れ」「やめろ」と首相を批判する聴衆にそう叫んだ言葉が頭を離れぬのは「こんな」の冷たさのせいだろう

▼批判に腹が立ったか。それでもすべての国民を守るべき首相が反対派であろうと国民に向かい、悪意のこもる「こんな人たち」を使った。それが寂しい

▼異論に首相が取り組むべきは説得であり、少しでも理解を得ること。「こんな」と呼ぶことは相手にせぬと切り捨てるに等しいだろう。「こんな」と悲しみ、「そんな」と嘆き、「あんな」と驚く。

 

幹事長発言 報道の役割への無理解(2017年7月5日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 報道の役割に理解が薄い安倍晋三首相の姿勢が影響しているのではないか。

 自民党の二階俊博幹事長がまた、報道機関を威圧するような発言をした。先週の東京都議選応援演説でのことである。

 こう述べている。「言葉一つ間違えたら、すぐにいろんな話になる。どういうつもりで書いているか知らないが、お金払って(新聞などを)買ってもらっていることを忘れては駄目だ」

 その前日、幹事長は精神障害者に対する差別的な表現を使って北朝鮮のミサイル発射に言及していた。メディアが批判的に報じたことに反論する形での発言だ。

 その際、報道が選挙に与える影響に触れて、「落とすなら落としてみろ。マスコミの人たちが選挙を左右すると思ったら大間違いだ」とも言っている。

 幹事長は4月には閣僚の辞任問題をめぐって報道を批判していた。今度の発言もついうっかりの失言などではない。

 党の若手議員が開いた2年前の勉強会を思い出す。安保法案を批判する報道について「マスコミをこらしめるには広告料収入をなくせばいい」などの発言が繰り返された。講師に呼ばれた作家は「沖縄の二つの新聞はつぶさなければいけない」と話している。

 こうした発想の発言をさかのぼると5年前の第2次安倍政権発足に行き着く。首相に近い人物をNHK経営委員に起用したのを手始めに、民放幹部を党本部に呼んで「事情聴取」するなど、メディアへの介入がその後続く。

 首相自身、民放テレビに出演して番組内容に「おかしい」とかみついたこともある。幹事長発言はその延長線上にある。

 国際NGO「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)が発表した今年の報道自由度ランキングで、日本は180カ国中72位だった。先進7カ国(G7)の中で最下位だ。安倍政権が発足して以降、順位は急落している。

 メディアの自由な活動が封じられると国民に本当のことが伝わらず、政治の健全な運営が難しくなる。事態を深刻に受け止めなければならない。

 ここで改めてメディア自身の姿勢が問われる。報道の自由を侵食させない努力を尽くしているか、振り返らねばなるまい。

 例えば最近も大手紙が安倍首相の改憲路線の露払いをするかの記事を載せた。権力に擦り寄っていると見なされるようでは、メディアの存在意義が揺らぐ。

 

都議選で自民惨敗(2017年7月5日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

◆政権の過ち厳しく総括せよ◆

 安倍晋三首相が、自民党が歴史的惨敗を喫した東京都議選の結果を受けて記者団に、「自民党に対する厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め深く反省しなければならない」と述べた。

 現有57議席から23議席に減らし、過去最低だった38議席を大きく下回った結果は、安倍政治への「不信任」に等しい。首相自身、「政権が発足して5年近くが経過する。その中で、政権に緩みがあるのではないかという厳しい批判があったと思う」とも述べている。

1強のおごり高ぶり

 従来のように反省ポーズで終わらせ、先に進むことは許されない。まず官邸への「忖度(そんたく)」や首相の「ご意向」で便宜が図られたと指摘されている森友・加計学園問題への対応、委員会採決を飛ばす奇策を使った「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の成立過程など、この事態を招いた政権の誤り、過ちを自ら厳しく総括することが必要だ。

 森友・加計学園などの問題で、東京都民はじめ国民の目に映し出されたのは、首相が言うような政権の「緩み」ではない。首相を頂点とする「1強」が常態化したことによる「おごり高ぶり」だ。

 公開を求められた公文書や公的資料の提出を拒む、あるいは存在しないことにする。出す時は読ませたくない部分を黒塗りにする。

 加計学園問題では官僚が作成した文書を官房長官が「怪文書」と切り捨てる。内部調査が始まると文部科学省の副大臣が国家公務員法の守秘義務違反を持ち出して官僚を威嚇、存在が確認されると今度は名指しされた官房副長官らが記載内容を全面否定する。

 さらには、それを国会内外で追及する野党やメディアを「印象操作」と非難する。極めつきは稲田朋美防衛相による都議選での自衛隊の政治利用発言だ。

抑制のない強権志向

 一連の言動の背景にうかがえるのは、都合の悪いことにはふたをしろ、逆らう官僚はけなしたり脅したりして黙らせればいい、彼らは自分たちに従うのが当然なのだという傲慢(ごうまん)さと抑制のない強権志向である。

 加えて「魔の2回生」とやゆされる当選2回の衆院議員による数々の不祥事だ。失言、暴言のみならず不倫や交際トラブルなど女性問題、秘書への暴行疑惑。そして、もろもろの問題の当事者が首相の夫人や側近、安倍チルドレンと呼ばれる若手議員である。

 都議選最終日、街頭演説に立った首相はやじを浴びた。極めて異例の出来事ではあったが、首相はその原因に目を向けるべきだ。

 首相は今後、内閣改造や自民党幹部人事で態勢の立て直しを図るつもりだろう。しかし、常々、安倍首相が言うように政治は「結果」責任である。それは、評価される実績を残せばいいということではない。政権を巡るさまざまな問題を最高責任者として引き受けることでもある。

 

都議選結果を受けて(2017年7月5日配信『佐賀新聞』−「論説」)

 

安倍1強の「おごり」総括を

 何を深く反省するのだろう。安倍晋三首相が、自民党が歴史的惨敗を喫した東京都議選を受けて記者団に「自民党に対する厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と述べた。しかし、どう反省し、党と政権の立て直しのために何をするのか、具体策は何も語らなかった。

 政権の誤り、過ちを自ら厳しく総括することこそが必要だろう。その姿勢に欠けていると言わざるを得ない。

 「政権に緩みがあるのではないかという厳しい批判があったと思う」とも記者団に語っている。しかし、敗因は「緩み」だろうか。それは「安倍1強」による「おごり」そのものが招いたのではないか。

 都議選は地方選ではあるが、首都の選挙であり、過去、選挙結果がさまざまに国政に影響を与えた。それだけに自民党は党を挙げて力を入れてきた。今回、首相はほとんど応援演説に姿を見せなかったが、惨敗の原因になったものは、大半が国会議員と国政にかかわることだったと言っていい。

 官邸への「忖度(そんたく)」や首相の「ご意向」などと国会を騒がせた森友学園・加計学園問題、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法案審議での強引な国会運営、閣僚らの失言・不祥事など、「安倍自民」のおごりそのものではなかったか。国民はよく見ていて、「調子に乗りすぎている」と感じ、政権に不信感を持った結果が、都議選に反映されたとみるべきだろう。

 国政にかかわることが原因なら、選挙結果は国会が受け止めなければならない。自民党は閉会中審査に応じる方針で、前川前文科次官の参考人招致も野党に提案した。それはそれで歓迎するが、十分ではない。野党が憲法に基づいて要求している臨時国会をすみやかに召集する必要がある。

 「安倍1強」は盤石だろうか。安倍政権は「支持率の高さ」と「選挙の強さ」の二つで持っていた。最近の支持率は下がり、都議選でも大敗した。どちらもくずれると、求心力がなくなる。

 安倍首相は今後、内閣改造や自民党幹部人事で態勢の立て直しを図るつもりだろうが、小手先の対応では政権浮揚はままならない。首相が執念を燃やす憲法改正のような国柄を大きく変えるテーマは慎重に考えるべきだし、また現実に、進めにくくなるかもしれない。

 一方、小池百合子都知事率いる地域政党「都民ファースト」は都議会第1党に躍進した。小池氏は党の代表を辞任したが、実態はトップとしてにらみをきかせるだろう。しかし、これで都民ファーストの議員らは、議会の場で知事にもの申すことができるのか。小池都政の追認で終われば、都民の期待は失望に変わると言っておきたい。

 都議選で自民票の受け皿になったのは都民ファーストであり、野党第1党の民進党ではなかった。獲得したのはわずか5議席。党がなぜ埋没したのか、こちらもきちんとした総括をしないと展望が開けない。党内の意見がバラバラで統一感がないのは長年の課題であり、最大の反省点だろう。まずは加計学園問題などの追及で先頭に立ち、国会で存在感を見せることが求められる。

 

[自民の受け皿] 民進の力不足は深刻だ(2017年7月5日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 東京都議選で歴史的大敗を喫したのは自民党だけではない。国政で野党第1党の民進党も、現有7議席を5議席に減らした。

 自民党は、森友・加計学園問題や共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の強引な成立、稲田朋美防衛相の失言などで大きな批判にさらされている。

 民進党は自民批判票の受け皿になることはできず、小池百合子都知事が率いる「都民ファーストの会」の躍進を許した。

 二大政党の一翼を担う民進党の力不足は深刻である。この惨敗を党存亡の危機と捉え、一から出直す覚悟で党を抜本的に改革しなくてはならない。

 選挙戦開始前から暗雲は立ちこめていた。「離党ドミノ」が止まらず、36人を見込んでいた公認候補は23人に減少し、組織のほころびが目立った。

 前身の民主党は、選挙の度に「風頼み」とやゆされた。だが今回は、自民へ強烈な逆風が吹いているのに、存在感は薄く弱体ぶりが際立った。

 都議選前の共同通信社による世論調査で、安倍内閣の支持率は44.9%だった。このうち、支持する理由として46.1%が「ほかに適当な人がいない」と回答し、野党が選択肢になり得ていないことが読み取れた。

 逆に言えば、魅力ある選択肢があれば、「安倍1強」とされる自民党も、決して盤石でないということだ。

 都議選の結果はこれを裏付けたともいえよう。安倍晋三首相の強権的な政権運営に不満を持ち「おきゅうを据えたい」と思う都民の多くが選んだのは、新味のある都民ファーストだった。

 今の民進党からはどんな国政を目指そうとしているのか、その姿は見えてこない。

 憲法改正に慎重な執行部に対する不満や、共産党との選挙協力に嫌悪感を持つ議員がいる。それらを理由に離党した人もいる。

 民進党をはじめとする野党は国会の場で、安倍政権のさまざまな疑念をただす役割がある。追及の手を緩めることなく真相解明につなげてほしい。

 ただ、次期総選挙への準備を怠ってはならない。衆院議員の任期は来年12月までだ。総選挙は残り1年半の間に確実に実施され、残された時間は少ない。

 都民ファーストの国政進出が取り沙汰される中、いかに党を立て直すのか。政権交代を目指すのであれば、もっと本音の政策論争や結束が必要だ。

 自民党だけでなく、民進党にとっても正念場である。

 

三木スピリッツの継承なし(2017年7月5日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★“バルカン政治家”元首相・三木武夫が作った番町政策研究所、いわゆる旧三木派が副総理兼財務相・麻生太郎の派閥「志公会」に吸収され、消滅した。三木自身は88年に死んだが、自民党の歴史には議会の子・三木ありと存在感を示す実力者だった。政界渡り鳥という言葉があるが、三木も自民党が戦後に結党されるまではそうだ。初当選は昭和12年。第1次近衛内閣発足の年だ。戦後は協同民主党、国民協同党、国民民主党、改進党、自由民主党と政党の変遷を見せる。

★三木の政治理念は一貫して金権政治打破、政治浄化を訴え、数の力を嫌い、クリーン政治と政策より議員の質で戦ってきた。その意味では小派閥の悲哀もあったろうが、首相・田中角栄の金権疑惑で自民党が大混乱に陥った時、首相の座に就いた。この時には少数派閥の首相を助けるため、派閥の重鎮の元環境庁長官・毛利松平、元運輸相・森山欽司、元労相・丹羽兵助が各派に頭を下げて協力を求め、他派閥から「お辞儀3人衆」と言われた。こうべを垂れ、腰低く党内調整に動く政治など今の自民党の駆け引き、取引、どう喝政治には見受けられないが三木政治の真骨頂だった。

★派閥としては三木、元通産相・河本敏夫、元首相・海部俊樹らを輩出し、三木派の後は河本、党副総裁・高村正彦、衆院議長・大島理森が派閥を引き継ぎ、元参院副議長・山東昭子が山東派としていたがこのほど消滅した。派閥の栄華はさまざまだが、三木のスピリッツは三木以外には継承されたとはいえないものの、三木派や三木の役割が自民党の一時期を助け、守ったことを考えると一抹の寂しさを覚える。麻生派はどんな政治を目指すのか。

 

(2017年7月5日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

 怒りっぽい、すぐにキレる、相手を攻撃する―。怒りという感情は否定的なイメージでみられる場合が多い。たしかに怒りを抑制できなければ円滑な人間関係はつくれません

▼精神科医の和田秀樹さんによると、生きる原動力としての怒りもあるといいます。世の中を進化させる源泉は多くの場合、怒りのエネルギー。大衆の怒りをぶつけるパワーの強さは政治や経済を健全なものにする機能につながると(『「怒り」の正体』)

▼政権へのさまざまな怒りが噴き出した都議選最終日の秋葉原。安倍首相は最初で最後の街頭演説で「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と叫びました。抗議の意思を示すために集まり、安倍辞めろとコールした人たちに向かって

▼あれでまた議席を減らしたと自民党の中からも聞こえてきた恨み節。自分に従う者は味方、反対する者は敵と国民を分ける首相。原発の再稼働や沖縄の米軍基地建設に反対する市民も打ち倒すべき敵にみえるのでしょう

▼人は怒りが激しかったり、長く続いたりすると、心も体もまいってしまいます。嫌なことは早く忘れたいという思いも。しかし、この政権は新たな怒りを次々に呼び起こします。菅官房長官は、こんな人たち発言に「全く問題ない」と例のごとく

▼公共の正義の立場から感じる公憤は、世の中を良い方向に変えていこうとするエネルギーだと和田さん。秋葉原で声を上げた青年が訴えていました。「この国の政治や社会は安倍首相のものではない、私たちのものだ!」

 

都議選自民惨敗 首相の反省、行動で示せ(2017年7月4日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 東京都議選は、自民党が過去最低の23議席という惨敗を喫した。

 地方選挙とはいえ有権者1100万人を超す首都決戦である。学校法人加計(かけ)学園の問題や稲田朋美防衛相の発言に象徴される政権のおごりと緩みに対し、都民が厳しい審判を下した結果に相違ない。

 小池百合子知事が率いた「都民ファーストの会」は、都政改革への期待とともに政権批判票の受け皿にもなり第1党に躍進した。

 安倍晋三首相はきのう、「自民党に対する厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と述べた。

 今度こそ反省を言葉だけに終わらせてはならない。加計問題などの疑念に答えよという民意は鮮明になった。政府は国会の閉会中審査にとどまらず、臨時国会を速やかに召集すべきだ。

 都議選の争点は当初、小池都政への評価だとみられていたが、結局は過去の選挙と同様、国政と直結するような様相を呈した。

 そうさせたのは、国民の声に耳を傾けぬ安倍政権の振る舞いだ。

 まず「共謀罪」法を委員会採決抜きで成立させる、相も変わらぬ強引な国会運営があった。加計問題での野党の追及をかわすため、国会の幕引きを急いだとされる。

 「防衛省・自衛隊としてもお願いしたい」という稲田発言は自衛隊法抵触の疑いがあるが、首相は重用してきた稲田氏を守った。

 加計学園側が自民党の下村博文幹事長代行にパーティー券代200万円を取りまとめて持参したとされる政治資金問題も、購入者が明かされていないなど下村氏が説明責任を果たしたとは言い難い。

 まるで、「お友達」と呼ばれた身内をかばい崩壊した第1次安倍政権を思い起こさせる状況だ。

 首相は第2次政権以降は、民進党の低迷にも助けられ、高支持率で1強体制を築いたかに見えた。

 しかし違憲の疑いが濃い安全保障法制や特定秘密保護法を数の力で成立させた政権の手法を、国民が支持していたわけではない。

 民意の不満が鬱積(うっせき)していたところへ、都民ファが格好の受け皿になったとも言えよう。

 一方、民進党は安倍政権批判を全面展開したものの現有7議席を下回る5議席と不振だった。共産党は2議席上積みしており、強い追い風を生かせなかった民進党の存在感の低下が際立つ。

 憲法改正問題など基本政策の明確化や地方組織の強化など、党運営の足元を固め直すための徹底論議が必要ではないか。

 

こんな人たち(2017年7月4日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

朝日新聞の往年の名コラムニスト故・深代惇郎さんは、「言論の自由」について「自由にものを言う権利」との説明では不十分だと語った。では、どんなものだと言うのか

▼「多数派に対し、とりわけ権力を持つものに対し、聞きづらいことを言う権利であり、また相手がその聞きづらいことを聞かねばならぬ義務のことなのだ」。今回の東京都議選で、改めてその言葉をかみしめた

▼「マスコミは言ってるだけで責任は何も取らない」(麻生太郎財務相)「(新聞を)買ってもらっていることを忘れちゃダメだ」(二階俊博自民党幹事長)。有力者たちの一連の発言は、逆風の責任を報道に転嫁し、批判への圧力ととられても仕方ないものだった。そこに「聞きづらいことを聞かねばならぬ」姿勢はあったか

▼都議選終盤、安倍晋三首相の応援演説に聴衆から「辞めろ」コールが起きた。首相は「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と叫んだが、「こんな人たち」に耳を傾ける謙虚さが少しでもあれば、歴史的惨敗はなかったかもしれない

▼一夜明けて、首相は「謙虚に丁寧に、やるべきことを前に進めたい」と語った。けれど、野党が求める臨時国会の召集について、具体的に言及しなかった

▼政権幹部は、「国政への影響はない」と確認し合ったそうだ。しかし、忘れない方がいい。「こんな人たち」は全国にいる。もちろん北海道にも。

 

都議選 自民惨敗/「安倍1強」への不信任だ(2017年7月4日配信『河北新報』−「社説」)

 

 おごり高ぶった振る舞いが続く「安倍1強政権」に、痛烈な不信任が突き付けられたと言っていいのではないか。
 2日投開票された東京都議選(定数127)は、小池百合子知事率いる「都民ファーストの会」が、49議席を獲得して第1党に躍進。支持勢力を加え、79議席の過半数を確保して完勝した。
 自民党はすさまじい逆風にさらされた。改選前57議席から過去最低だった38議席を大幅に下回る23議席に沈み、歴史的惨敗を喫した。2012年12月の衆院選以来、大型選挙で圧勝してきた安倍晋三首相にとって、政局の潮目になりかねない痛手だろう。
 森友学園、加計(かけ)学園問題で、安倍首相や周辺人物が説明責任を果たすことはなかった。国民の賛否が割れる「共謀罪」法を巡っては、委員会審議を打ち切る強引な採決の末に成立させた。
 都合の悪い問題にはだんまりを決め込み、反対があっても実現したいことは数の力で押し切ったと、有権者に映ったのは間違いない。
 閣僚の失言も目に余った。都議選の選挙応援で稲田朋美防衛相が「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と支持を呼び掛けた。豊田真由子衆院議員(自民党離党)の秘書に対する暴言など不祥事も止まらない。
 安倍首相の求心力低下は避けられない。早期の内閣改造で立て直しを図るのだろうが、政局は流動化しそうな気配だ。自民党内に鬱積(うっせき)する首相への不満が、一気に噴出することも予想される。
 首相は年内に党憲法改正案を国会に提出し、2020年の改正憲法施行を目指す意向だ。18年9月には党総裁選、同12月には衆院議員の任期満了を迎える。
 次期衆院選と憲法改正国民投票の同時実施も取り沙汰されたが、党内には慎重論が広がるとみられ、思い描くスケジュールに不透明感が増す。
 まずは惨敗を踏まえ、首相は野党が要求している臨時国会や閉会中審査に応じるべきだ。積み残されたままの多くの疑問について、説明を尽くすことを民意は求めている。
 圧勝した小池氏は、昨夏の知事選に続き自民党を「敵」に見立てた劇場化戦略が的中した。裏返しすれば、「敵失」に乗じただけとの冷めた見方もできよう。
 市場移転問題を巡っては豊洲、築地の共存策に「都議選目当ての玉虫色決着」との批判は根強い。
 都民ファーストの会の「実力」にも疑問符が付く。当選49人のうち新人は39人に上り、大半が政治経験ゼロという。小池旋風に支えられた「人気投票」の側面は否めない。
 「復興五輪」を掲げる20年東京五輪まで3年。巨大化した地域政党は、躍進の原動力である小池氏とどう緊張関係を保つのか。「追認集団」と化す恐れはないのか。早速、真価を問われることになる。

 

「おごり」厳しく総括を/都議選 自民が惨敗(2017年7月4日配信『東奥日報』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が、自民党が歴史的惨敗を喫した東京都議選の結果を受けて記者団に「自民党に対する厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め深く反省しなければならない」と述べた。その後もさまざまな場で「反省」に言及した。

 現有57議席から23議席に減らし、過去最低だった38議席を大きく下回った結果は、安倍政治への「不信任」に等しい。首相自身、「政権が発足して5年近くが経過する。その中で、政権に緩みがあるのではないかという厳しい批判があったと思う」とも記者団に述べている。

 「内外に課題が山積している」ことを理由に、反省ポーズで終わらせ、先に進むことは許されない。

 まず、官邸への「忖度(そんたく)」や首相の「ご意向」で便宜が図られたと指摘されている森友・加計学園問題への対応、委員会採決を飛ばす奇策を使った「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の成立過程などこの事態を招いた政権の誤り、過ちを自ら厳しく総括することが必要だ。

 野党から召集要求が出ている早期の臨時国会がその場となる。しかし、首相がそう認識しているかは疑わしい。

 森友・加計学園などの問題で、東京都民はじめ国民の目に映し出されたのは、首相が言うような政権の「緩み」などではないからだ。それは首相を頂点とする「1強」が常態化したことによる「おごり、高ぶり」だった。

 公開を求められた公文書や公的資料の提出を拒む、あるいは存在しないことにする。

 加計学園問題では官僚が作成した文書を官房長官が「怪文書」と切り捨てる。内部調査が始まると文部科学省の副大臣が国家公務員法の守秘義務違反を持ち出して官僚を威嚇する。

 さらには、国会内外で追及する野党やメディアを「印象操作」と非難する。極めつきは稲田朋美防衛相による都議選での自衛隊の政治利用発言だ。加えて「魔の2回生」とやゆされる当選2回の自民党衆院議員による数々の不祥事もあった。

 首相は今後、内閣改造や自民党幹部人事で態勢の立て直しを図るつもりだろう。しかし、常々、首相が言うように政治は「結果責任」である。それは、評価される実績を残せばいいということではない。政権を巡るさまざまな問題を最高責任者として引き受けることでもある。

 

東京都議選 国会で説明責任果たせ(2017年7月4日配信『デイリー東北』−「時評」)

 

 東京都議選で自民党は現有57議席から過去最低の23議席に減らす歴史的惨敗を喫した。改憲論議など今後の政権運営に影響が出るのは必至だ。

 安倍晋三首相は政権への厳しい審判と受け止め、学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設計画を巡る対応など都議選で注目された問題について国会で説明責任を果たし、政治への信頼回復に努めるべきだ。

 通常国会閉幕後、首相の側近議員による不祥事などが相次ぎ、野党は都議選で「国政の私物化」批判を繰り広げた。

 稲田朋美防衛相が選挙応援で「自衛隊としてもお願いしたい」と自衛隊の政治利用と受け取れる失言をしたのに続いて、加計学園側から下村博文自民党幹事長代行への「闇献金疑惑」(野田佳彦民進党幹事長)が表面化。萩生田光一官房副長官の加計学園問題への関与を示す文部科学省の文書も明らかになった。豊田真由子衆院議員の秘書への暴力問題も自民党への逆風を加速した。

 通常国会は、安倍昭恵首相夫人が肩入れしていた学校法人「森友学園」への国有地払い下げや、首相の友人が理事長を務める加計学園の問題についての首相や政府側の説明に国民の理解が十分に得られないまま閉会した。「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の成立を委員会採決抜きで強行した結末も国民の反発を招いた。

 国会閉幕を受けた共同通信の世論調査で内閣支持率は10・5ポイントも急落していた。都議選での自民党惨敗は「安倍1強」の「おごり」への国民不信の総決算と言えるだろう。

 民進、共産、自由、社民の野党4党は加計学園問題を巡り、憲法53条に基づき、臨時国会召集の要求書を衆参両院に提出している。稲田防衛相の失言問題では首相に罷免を要求する異例の4党首声明を発表、防衛相続投を指示した首相の任命責任を追及する構えだ。

 都議選で関心を集めた国政上の一連の問題は、政治への国民の信頼確保という点でいずれも重要な意味を持つ。安倍首相は国会で疑問や批判に答える責任を負っている。臨時国会を召集すべきだろう。まずは閉会中審査に早急に応ずるべきだ。

 加計学園問題で「行政がゆがめられた」と主張する前川喜平前文科事務次官の証人喚問が必要だ。森友学園問題でも昭恵首相夫人が国会で説明すべきだ。首相は通常国会閉会に当たって「信なくば立たず。何か指摘があれば、その都度、真摯(しんし)に説明責任を果たしていく」と表明した。有言実行を求めたい。

 

(2017年7月4日配信『デイリー東北』−「天鐘」)

 

沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色 盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理を(ことわり)あらはす おごれる人も久しからず―とは、平家の栄華と没落を描いた『平家物語』の冒頭部だ。高校時代に暗唱させられた有名な一節がなぜか選挙の度に口をついて出てくる

▼祇園(ぎおん)精舎(しょうじゃ)の鐘の音(こえ) 諸行無常の響きあり―全てのものは変わりゆくという仏教的無常観。源平の合戦に題材を求め、人の世のはかなさを詩情豊かに描いた名作である

▼無常観を教える古典のはずが、最近はよく「おごれる人」が脳裏をかすめる。都議選最終日の秋葉原。「安倍やめろ」コールに取り囲まれた首相は「こんな人達に負けるわけにはいかない」と啖呵(たんか)を切って見せた

▼自民党の二階俊博幹事長も「落とすなら落としてみろ。マスコミが選挙を左右すると思ったら大間違いだ」と凄(すご)んだ。無論、勝敗を決めるのはマスコミではなく有権者だが、かの大統領の台詞と瓜二つである

▼惨敗の夜、首相と政府首脳陣は「おごりや危機管理に問題があった。原因は自滅」と総括したとか。逃げまくった加計学園、耳を疑った稲田朋美防衛相発言、身の毛もよだつ豊田真由子様の暴言と枚挙に遑が(いとま)ない

▼問題は政策よりすぐおごり高ぶる強引な「安倍1強」の体質そのものでは。権力の集中は小選挙区制が産み落とした負の遺産か。引き締めを図ればおごりの濃度が増すばかりだ。議論伯仲、熟考の末に採決した中選挙区時代が懐かしい。

 

都議選自民大敗 おごり生む体質改めよ(2017年7月4日配信『秋田魁新報』−「社説」)

 

 「加計(かけ)学園」問題や「共謀罪」法案の強引な採決、相次ぐ閣僚らの問題発言など「安倍1強」下でおごりや緩みが目立つ自民党に東京都民の強烈な審判が下された。2日に投開票された都議選(定数127)で、自民党は現有の57議席から半分以下の23議席に落ち込む惨敗を喫した。これまで最低だった38議席(1965年、2009年)を大きく下回る歴史的敗北だ。

 小池百合子都知事が率いる地域政党「都民ファーストの会」が49議席を獲得して第1党となり、公明党など支持勢力と合わせ過半数を占めた。小池知事派が都政改革への期待を集めて躍進した形だが、自民党が自滅し、都民ファが批判票の受け皿になったと見るべきだろう。

 安倍晋三首相は結果について「大変厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と述べた。大敗の背景に、安倍首相の強引な政権運営があるのは間違いない。国民の賛否を二分するような問題でも異論に耳を貸さず、数を背景にさまざまな法案を押し通してきた。首相は自身の強硬な政治姿勢が政府・与党のおごりを生む原因になっていることを認識し、改めるべきだ。

 安倍内閣の支持率は、首相の友人が理事長を務める学校法人加計学園の獣医学部新設計画に、首相や官邸が関与した疑いが持たれたことなどを受けて急落した。6月中旬の共同通信社の世論調査では、5月から10・5ポイント下げて44・9%となり、不支持率43・1%(8・8ポイント上昇)と拮抗(きっこう)。世論が大きく離反する中、その後も不祥事や問題発言は止まらない。

 豊田真由子衆院議員は元政策秘書への暴行や暴言を報じられ自民を離党した。稲田朋美防衛相が都議選自民党候補の応援で「防衛省・自衛隊としてもお願いしたい」と自衛隊の政治利用とも取れる発言をして撤回。下村博文・元文部科学相は加計学園からの闇献金疑惑を週刊誌に報じられ、釈明に追われている。

 これまで国会などで疑惑が指摘されると、安倍首相が「(疑惑を植え付ける)印象操作だ」として逆に批判したり、菅義偉官房長官が「指摘は当たらない」と根拠も示さず否定したりする場面が目立った。そうした高圧的な姿勢も民意の反発を招いた一因だろう。

 稲田防衛相は防衛省・自衛隊を私物化するかのような発言を「誤解を招きかねない」と撤回したが、どのような意図で発言したのか納得できる説明はしていない。政府・与党に何より求められるのは、数々の疑惑、問題発言について国民への説明責任を果たすことだ。

 まずは安倍首相が自身にかけられた疑惑を晴らし、手本を示してもらいたい。加計学園問題について、野党の求めに応じて早期に臨時国会を召集し、真相を明らかにすべきだ。「反省」を言葉だけで終わらせてはならない。

 

都議選の波紋 安倍1強のおごり一喝(2017年7月4日配信『岩手日報』−「論説」)

 

 自民党の歴史的惨敗に終わった東京都議選の結果は、そのまま安倍政権の現状に対する国民の評価だろう。

 野党第1党の民進党も、政権に逆風が吹き荒れ、投票率が上がる中で少ない議席をさらに減らした。その結果も重い。与野党ひっくるめ、政治の現状に不満をため込む市井の人々の姿が浮かび上がる。

 小池百合子知事率いる地域政党「都民ファーストの会」は、50人が立候補して49人が当選。政策以前に、その存在が批判の受け皿として機能したのは想像に難くない。

 「自民1強」「安倍1強」と言われる政治情勢を支える土台は、存外にもろい。政権の対抗勢力が育たないことで「1強」が成り立っている。少なくとも都議選の結果からは、そう読める。

 自民党の獲得議席は、これまで最低だった2009年選挙より15議席も少ない23。同年、自民は衆院選でも議席を減らし、民主党に政権を明け渡した。政権交代時よりも深刻な負けっぷりなのだ。

 「数の力」に任せて国民の意思をなおざりにしてきた―そのように政権が反省できるなら、今回の選挙結果は「厳しい叱咤」(安倍首相)と言ってもいい。だが首相の反省の弁はおぼつかない。

 安倍首相は、惨敗の原因について「政権に緩みがあるとの厳しい批判があったのだろう」とまるで人ごと。自衛隊の政治利用と批判される防衛相の発言や、党所属議員による秘書への暴行などを指すと見受けられるが、これほどの逆風の要因は「緩み」の一言では説明が付くまい。

 選挙戦最終盤、街頭に立った安倍首相に横断幕などを手にした聴衆から手厳しいやじが飛ぶと、首相はそちらを指さし「こういう人たちに負けるわけにはいかない」と反論した。多様な声を許容しない傾向は、重要法案を巡る強硬姿勢に通じるものがある。

 共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正法の成立強行や、首相周辺の関与が強く疑われる森友学園、加計学園などの問題で問われているのは安倍首相自身の「おごり」だ。

 党首の姿勢が問われる点では民進党も同様。安倍政権への逆風が作用し「蓮舫降ろし」の動きは目立たないが、かねて疑問視される党の一体感は不安定を増すだろう。

 都民ファーストには、選挙を通じて無所属の国会議員の支援が相次いだという。同会の国政進出の可能性をにらんだ動きに違いない。「1強多弱」は都民の1票によって大きく揺さぶられている。

 それは与野党のどちらに有利というさまつな問題でもあるまい。政治が信頼を取り戻すために、いま何をするべきか。既成党派は等しく胸に手を当てなければならない。

 

(2017年7月4日配信『岩手日報』−「風土計」)

 

新渡戸稲造が、首の痛みに耐えかねて病院に行った。専門医が入れ代わり立ち代わり現れる。「耳から来たのではないかと耳を引張ったり、喉から来たのではないかと、喉へ何か突込んだり、あるいは血液がどうであると言って」

▼「それぞれの専門家が診たけれども、結局何にもならなかった」。新渡戸は経験を引いて言う。「専門家」は専門以外を知らず、幅広い視野がない。だから青年をはじめ新しい人が「現われなければならぬ」と

▼専門家を「政治家」に換えれば、東京都議選の結果にも合点がいく。「ドン」などと呼ばれる政治家が議会を牛耳り、密室で決める。裏の駆け引きしか知らないベテランに任せていては、都政の病弊は治らない

▼都民が一票を託したのは、広い世界から転身した若き新人たちだった。妊娠中の女性がいれば、障害児を持つシングルマザーもいる。圧勝した「都民ファーストの会」の半数は政治経験がない素人集団だという

▼「古い議会を新しく」。小池百合子知事の掛け声通り、新風を吹き込むだろう。だが風に乗って生まれた議員の行く末は厳しい。小泉、小沢チルドレンの運命を見れば

▼不祥事続きの安倍チルドレンを反面教師に、緩まず、おごらず。素人も結構、でも期待に応えるなら、新渡戸が説いた幅広い視野の「専門家」に進化してもらいたい。

 

都議選で自民惨敗 政権の過ち、厳しく総括を(2017年7月4日配信『茨城新聞』−「論説」)

 

安倍晋三首相が、自民党が歴史的惨敗を喫した東京都議選の結果を受けて記者団に「自民党に対する厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め深く反省しなければならない」と述べた。その後もさまざまな場で「反省」に言及した。

 現有57議席から23議席に減らし、過去最低だった38議席を大きく下回った結果は、安倍政治への「不信任」に等しい。首相自身、「政権が発足して5年近くが経過する。その中で、政権に緩みがあるのではないかという厳しい批判があったと思う」とも記者団に述べている。

「内外に問題課題が山積している」ことを理由に、従来のように反省ポーズで終わらせ、先に進むことは許されない。

 まず、官邸への「忖度」や首相の「ご意向」で便宜が図られたと指摘されている森友・加計(かけ)学園問題への対応、委員会採決を飛ばす奇策を使った「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の成立過程などこの事態を招いた政権の誤り、過ちを自ら厳しく総括することが必要だ。

野党から召集要求が出ている早期の臨時国会がその場となる。しかし、首相がそう認識しているかは疑わしい。

森友・加計学園などの問題で、東京都民はじめ国民の目に映し出されたのは、首相が言うような政権の「緩み」などではないからだ。

それは首相を頂点とする「1強」が常態化したことによる「おごり高ぶり」だった。

 公開を求められた公文書や公的資料の提出を拒む、あるいは存在しないことにする。出すときは読ませたくない部分を黒塗りにする「ノリ弁」にしてしまう。

 加計学園問題では官僚が作成した文書を官房長官が「怪文書」と切り捨てる。内部調査が始まると文部科学省の副大臣が国家公務員法の守秘義務違反を持ち出して官僚を威嚇、存在が確認されると今度は名指しされた官房副長官らが記載内容を全面否定する。

 さらには、それを国会内外で追及する野党やメディアを「印象操作」と非難する。極めつきは稲田朋美防衛相による都議選での自衛隊の政治利用発言だ。

 一連の言動の背景にうかがえるのは、都合の悪いことにはふたをしろ、逆らう官僚はけなしたり脅したりして黙らせればいい、彼らは自分たちに従うのが当然なのだからという傲慢(ごうまん)さと抑制なき強権志向である。

 加えて「魔の2回生」とやゆされる当選2回の自民党衆院議員による数々の不祥事だ。失言、暴言のみならず不倫や交際トラブルなど女性問題、秘書への暴行疑惑。あまりのレベルの低さに具体的に説明すると疲れを覚えるような惨状である。

 そして、もろもろの問題の当事者が首相の夫人や側近、安倍チルドレンと呼ばれる若手議員である。都議選最終日、街頭演説に立った首相は「辞めろ」「帰れ」コールを浴びた。極めて異例の出来事ではあったが、首相はその原因に目を向けるべきである。

 首相は今後、内閣改造や自民党幹部人事で態勢の立て直しを図るつもりだろう。しかし、常々、安倍首相が言うように政治は「結果責任」である。それは、評価される実績を残せばいいということではない。政権を巡るさまざまな問題を最高責任者として引き受けることでもある。

 

都議選、重い民意 首相の「反省」は本物か(2017年7月4日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 「自民党に対する、厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」

 自民党の惨敗に終わった都議選の投開票から一夜明けたきのう、安倍首相は「反省」の言葉を繰り返し語った。

 問題は、首相が何をどう反省し、具体的な行動につなげていけるのか、だ。

 首相は内閣改造を検討しているという。政権浮揚が狙いだろうが、国民が求めているのは看板の掛け替えではない。

 敵と味方を峻別(しゅんべつ)し、異論には耳を傾けず、数の力で自らの主張を押し通す。首相自身の強権的な体質を反省し、改められるかどうかが問われている。

 国会では協力的な野党をことさら持ち上げ、政権を批判する野党には露骨な攻撃で応じる。

 報道機関を選別し、自らの主張に近いメディアを発信の場に選んできた。一方で都議選では、首相や二階幹事長らから、自民党への逆風の責任をメディアに転嫁する発言が相次いだ。

 「1強」の異論排除の姿勢は自民党の活力も失わせている。

 政権復帰から4年半。選挙の公認権、人事権、政治資金の配分権などを一手に握る首相の前に、多くの自民党議員が黙って追従する。党総裁任期を連続3期9年に延長する党則改定を、目立った異論もなく認めたのも自民党の単色化を物語る。

 最後は多数決で結論を出す。それが民主主義の物事の決め方とはいえ、少数派の声に耳を傾け、議論を尽くすことも民主主義の欠かせぬルールだ。首相はそのことに思いを致し、異論排除の姿勢を改めるべきだ。

 都議選敗北を受け、安倍政権は国会の閉会中審査に応じる方針だという。審議が行われること自体は歓迎するが、それだけでは足りない。

 野党が憲法53条に基づいて要求している臨時国会を、すみやかに召集する必要がある。

 53条は、衆参いずれかの総議員の4分の1以上の要求があれば内閣は召集を決定しなければならないと明確に定める。少数派の発言権を保障するための規定であり、首相の反省が本物なら、まずこの憲法の規定に従うところから始めるべきだ。

 行政府のあやまちを正すのは立法府の重い責任だ。そこには本来、与野党の区別はない。自民党の議員たちも、国会議員としての矜持(きょうじ)をもって臨時国会召集を首相に求めてはどうか。

 加計学園問題での政権の対応について、都議選の本紙出口調査で71%が「適切ではない」と答えた。反省が言葉だけなら、民意はさらに離れるだろう。

 

都議選、重い民意 本気で議会の改革を(2017年7月4日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 既成政治への不満が、東京都議会の勢力図を一変させた。小池知事が率いる地域政党・都民ファーストの会が第1党に躍進し、自民党は惨敗を喫した。

 都議会は、顔ぶれだけ見ればこれまでも新陳代謝を繰りかえしてきた。だがベテラン議員の発言権が強く、体質の古さは解消されなかった。

 都民ファーストの公約の最大の柱は、その議会の改革だ。都民との約束を果たすことに、まず全力を注いでもらいたい。

 現状はどうなっているか。

 たとえば、どんな条例案を審議しているのか市民が知ろうとしても、議会のホームページには概要しか載らない。実質的な議論が交わされる委員会の様子はネット中継されない。

 そもそも議員定数の配分がゆがんでいる。人口69万人の江戸川区から選出される都議は5人なのに、68万人の足立区は6人。同様の説明のつかない現象があちこちにみられる。

 予算や住民同意の取りつけが必要な事業とは異なり、こうした不合理は議員のやる気さえあれば、直ちに是正できる。市民感覚、情報公開、公正・透明など、選挙で訴えたものが本物だったのか早々に試される。

 気になるのは、かねて指摘されている知事との関係だ。

 小池氏はきのう突然、都民ファーストの代表を辞めると表明した。知事が代表を兼ねれば、所属議員は都政のチェックという本来の使命を果たせないのではないか。そんな指摘にもかかわらず、「改革のスピードを上げる」という理由で、わずか1カ月前に就いたポストだ。

 選挙の顔の役目が終わると、さっさと放り出して批判をかわす。そのくせ、実態は党のトップとしてにらみをきかせる。

 こんな調子で、都民ファーストの議員らはこの先、小池氏にもの申すことができるのか。知事に付き従うだけでは、生まれては消えた永田町の「チルドレン」と同じく、早晩、有権者に見放されてしまうだろう。

 市場移転問題で明らかになったように、都政へのチェック機能を十分に果たしてこなかった公明党が、引き続き知事を支える側に回る。過去をどう総括・反省し、いかに振る舞うのか。これも注目される点だ。

 都議選は国政の影響を直接うけて、各党の勝敗が決することが多い。今回もそうだった。そして審判を終えると、有権者の関心は急速に失われてゆく。

 それが「古い都議会」の温存につながってきた。同じ轍(てつ)を踏まぬためには、都民自身が目を光らせ続けるしかない。

 

東京都議選と首相の「反省」 すり替えは通用しない(2017年7月4日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 何を反省し、どう謙虚になろうというのか。

 東京都議選に惨敗した安倍晋三首相(自民党総裁)は記者団に「厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と述べ「謙虚に丁寧に」国政に取り組むと語った。

 その後の毎日新聞のインタビューでも「私自身、緩み、おごりはないか」と述べた。

 先の通常国会での「共謀罪」法強行成立や加計(かけ)学園問題が世論の批判を招いたことを踏まえての発言だ。

 ところが、安倍首相は野党が求める臨時国会を早く開いて自ら批判に答える姿勢も、憲法改正で時間をかけて合意形成を図る謙虚な態度も示さなかった。

 これでは惨敗の責任を深くかみしめているのか、疑問を抱く。

 これまで首相はタカ派色の強い政策を強行し、支持率が下がると「経済最優先」をアピールして政権浮揚を図ってきた。

 特定秘密保護法成立後の成長戦略強化や、安全保障関連法成立後の「1億総活躍」提唱が、そうだ。

 人気を回復して選挙に臨み、勝利した勢いを次の対立法案推進のテコにする手法である。

 今回の惨敗をどう乗り越えるか。首相は「人づくり革命」を掲げるが、それを跳躍台に憲法改正につなげる狙いがあるのではないか。

 今回はそのすり替えは通用しない。都議選で問われたのは安倍首相の政治手法そのものだからだ。

 首相は国会閉会後の記者会見で「反省」を口にし、さまざまな指摘には「説明責任を果たす」と言った。

 だが、その後の加計学園を巡る新文書や稲田朋美防衛相の自衛隊に言及した応援演説を重大視せず、疑念に進んで対応しなかった。

 野党の異論に耳を傾けないどころか、敵視する。自身に近い議員を重用し、言動に問題があっても任命責任を取ろうとしない。官僚は人事権で服従させる。

 そんな首相の姿勢に国民が不信を抱くのは当然だろう。

 都議選惨敗で首相の求心力の低下は避けられない。自民党は結束して安倍政権を支えていくと確認したが、党内には不満もある。政権の問題点をきちんと指摘する議論が起きるのかが、試されている。

 

民進党「受け皿」になれず 深刻さがわかっているか(2017年7月4日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 自民党惨敗の陰に隠れているが、もう一つ、東京都議選で敗北した政党がある。民進党だ。

 国会ではなお野党第1党でありながら、獲得したのはわずか5議席。にもかかわらず、党内には「最悪の予想は上回った」とほっとした空気さえ漂っている。

 なぜ、都民ファーストの会が安倍晋三政権への批判の受け皿となり、民進党は埋没したのか。深刻に受け止めない限り、展望は開けない。

 戦う前から負けていたというべきだろう。同党ではいったん公認した候補が次々と離党し、その多くが告示前に都民ファーストに走った。

 蓮舫代表は選挙中、安倍政権批判を繰り返したが、東京都政で小池百合子知事と連携するのかどうか、基本姿勢は明確でなかった。党内の意見がバラバラで路線がはっきりしないという長年の課題がここでも浮き彫りになった形だ。

 民進党は大阪府議も1人しかいない。都市部での弱さも明白だ。

 ところが、蓮舫氏や野田佳彦幹事長らの責任を問う声は党内からあまり聞こえない。それは逆に党の停滞ぶりを物語っているように見える。

 今回の都議選は何を示したのか。

 都民ファーストという国会とは別の新たな選択肢ができた結果、有権者の間に根強かった安倍政権への批判や不満が一気に顕在化したと見るべきだろう。裏返せば、安倍政権以上に民進党に対する有権者の不信が消えないことが、これまで政権を助けてきたということだ。

 国会では今後、都民ファーストと連動する新党作りの動きが浮上しそうだ。都議選と同様、「次の選挙は戦えない」と新党に移る民進党議員が出てくる可能性がある。

 一方、共産党は前回より2議席増の19議席となった。政権批判勢力として共産党の主張の方が有権者には分かりやすかったのだろう。そんな中、今後の衆院選で共産党と連携を進めていくのかどうか、一段と判断は難しくなった。

 もちろん加計学園問題をはじめ、民進党は国会での追及の先頭に立たなければいけない。

 同時に民進党はどんな政治を目指すのか、再度、原点に立ち返るべきである。衆参の議員総会を開いて夜を徹してでも議論してはどうか。

 

沖縄の民俗信仰の風習に(2017年7月4日配信『毎日新聞』−「余禄」)

 

 沖縄の民俗信仰の風習に「マブイグミ」がある。マブイは魂、グミは込めるの意味で、人が何かのショックで落とした魂を元に戻す儀式である。落とした場所で呪文(じゅもん)をとなえてマブイを呼び戻すのだという

▲このマブイは太平洋の島々に広がる「マナ」という呪力への信仰がルーツという説がある。南太平洋の島々のマナは人間のほか道具などにも宿り、部族長の強さも、速いカヌーの性能もみな強力なマナをたくさん持つおかげとされる

▲このマナ、マブイのように人から出たり入ったり、他に移ったりするのが特徴らしい。強盛を誇った部族長も老齢などにより期待された力を発揮できなくなると、マナを失ったとして声望も失墜した

▲こちらはあちこちでマナを失い、東京都議選で惨敗の憂き目を見た安倍晋三(あべしんぞう)首相である。小欄はかつての衆院選大勝の際に首相がため込んだ大量のマナに注目したが、いざそれを宿願の改憲に用いようという段になってのガタ減りだ

▲今さら列挙もしたくない昨今の政権の失態の数々である。とくに国民の疑念に答えようとせぬ権柄(けんぺい)ずくには怒るよりあきれた方も多かろう。地方選ながらこぼれたマナの受け皿を持つ小池百合子(こいけゆりこ)都知事が圧勝したのは成り行きだった

▲過去の内閣支持率低落の折には経済優先の呪文でマナを戻した首相である。今度もこのまじないと内閣改造などの儀式で霊力を回復できると踏んでいるのか。それとも失ったマナは取り戻せなくとも、ろくな受け皿はないと見くびっているのか。

 

都議選1強大敗 政権の信頼回復を地道に図れ(2017年7月4日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 一度失われた国民の信頼を回復するのは簡単ではない。批判にも謙虚に耳を傾け、地道に政策に取り組んで結果を出す以外に方策はあるまい。

 安倍首相は、自民党が大敗した東京都議選について反省の弁を記者団に述べた。「自民党に対する厳しい叱咤しったと深刻に受け止めねばならない」と語った。

 政府・与党連絡会議では、「もう一度、政権交代の時の初心に立ち返り、丁寧に政策を進めたい」とも強調し、協力を要請した。言葉通りの行動を求めたい。

 都議選の敗因は、主に国政に連動している。加計学園問題や強引な国会運営、閣僚らの失言・不祥事など、「安倍1強」の慢心に有権者が反発した。出口調査で、自民党支持層の5割しか同党候補に投票しなかったのは象徴的だ。

 不信感の払拭ふっしょくには、説明責任を果たしつつ、外交や経済政策で着実に成果を上げねばならない。

 年内に、自衛隊の根拠規定を追加するなどの自民党の憲法改正案を国会に提出する。来年9月の自民党総裁選で3選を果たし、国民投票で憲法改正を実現する。こうした首相の政権戦略も、国民の支持がなければ画餅となろう。

 首相は、公明党の山口代表と党首会談を行い、国政での協力を再確認した。都議選で自公連携を解消した公明党との関係を早期に正常化することが求められる。

 自民党の今回のつまずきで、公明党から憲法改正への慎重論が高まる可能性もある。

 自民党の憲法論議を活性化させて、具体案を詰める。公明党とも積極的に議論し、与党の合意を丁寧に形成することが重要だ。

 自民党内では、局面打開のため、内閣改造・党役員人事を求める声が高まっている。人事は首相の求心力を高める一策ではあるが、目玉人事で政権浮揚を図るような安易な発想を持つのは禁物だ。

 重要政策を強力に遂行できる安定態勢を重視する必要がある。

 民進党は、都議選で政権批判票の受け皿にならず、議席を減らした。政権交代への期待が少ないことを重く受け止めるべきだ。

 野党は、国会の閉会中審査などを要求している。与党は、予算委員会の集中審議を早期に開き、加計学園問題などの疑念に具体的に答えねばなるまい。

 次期衆院選に向けて、都議選で躍進した「都民ファーストの会」が国政に進出するかどうかが注目されている。進出する場合は、風頼みではなく、体系的な政治理念と政策の提示が欠かせない。

 

(2017年7月4日配信『日経新聞』―「春秋」)

 

「負けました」。おとといの夜、公式戦30連勝に挑んでいた将棋の藤井聡太四段は投了を告げ、がくりと肩を落とした。午後9時31分。いまや国民的スターとなった14歳の天才が敗北を喫した瞬間である。その苦い味は少年の身と心に、容赦なく染み入ったに違いない。

▼東京都議選で自民党の歴史的惨敗が浮かび上がってきたのも、同じ日の夜更けだった。よほどショックが大きかったのか、安倍首相からは「負けました」の宣言もないままだった。一夜明けて「わが党への叱咤(しった)と受け止め、深く反省しなければならない」と述べたが、わずか23議席という結果は叱咤と呼ぶには強烈すぎる。

▼コワモテ一方の政権運営。「加計学園」問題で見せた不遜なふるまい。二階幹事長は新聞をやり玉に挙げて「私らを落とすなら落としてみろ」と毒づいた。投票日前日には、街頭で「帰れ」コールを浴びた首相が「こんな人たちに負けるわけにいかない」といきり立つ。少なからぬ有権者が、もう愛想を尽かしたのである。

▼新たな夢をひらく藤井四段の負けと違い、おごりと慢心が招いたこの大敗は誰が見ても内容が悪い。往年の大棋士、升田幸三いわく「難局はこれ良師なり。負けることはありがたい」。かように謙虚につつましく、こんどの負けを糧にできるのかどうか。まさか、地方選でいいガス抜きができた……などとは考えていまい。

 

安倍政権 課題実現へ信頼取り戻せ(2017年7月4日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 歴史的大敗に終わった東京都議選の結果を受け、安倍晋三首相は「自民党に対する厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければいけない」と語った。

 選挙結果が安倍政権への批判であることを率直に認め、対応することが必要だと判断した。当然のことだろう。

 もとより、惨敗に至った原因や経過を正しく総括するのは重要だが、それは単に有権者の機嫌をとることではない。

 憲法改正や経済再生など、首相が挑む課題の実現には、険しい道のりがある。突き進むには国民の信頼と理解が欠かせない。それを取り戻すことが、首相の大きな責務である。

 首相は通常国会終了後の会見でも、国会答弁などについて反省を口にした。だが、政権の「おごり」や「緩み」が消えたと考えた有権者は少なかった。

 閣僚らの相次ぐ失言に加え、政権の「加計学園」問題への対応のまずさは、首相が自ら認めたことである。

 防戦に追われ、政権として日本や国民のためにどんな仕事を進めていくかも伝えきれなかった。わざわざ逆風を吹かせたようなものではないか。

 3日の党役員会では政権を結束して支えることが確認された。首相は「結果を出していくことで国民の信頼を回復していきたい」とも語った。問われるのは、それが具体的に何を指すかである。

 今後の政権運営にあたり、明確に打ち出せるものがあるのか。将来に期待を抱ける政策を展開できるか。それなしに内閣改造を行っても、政権を取り巻く空気を変えるのは難しかろう。

 見失ってはならないものは何か。都議選を経て、2020年施行の憲法改正実現を目指す方針に揺らぎがあってはならない。

 選挙により憲法改正反対の民意が示されたといった意見は、反対派の宣伝にすぎない。

 憲法改正は争点ではなかったし、都民ファーストの会を率いた小池百合子東京都知事は、憲法改正が持論である。

 とはいえ、政権運営の拙(つたな)さから支持を失えば、憲法改正の機運が衰える懸念は小さくない。

 安倍首相は信頼回復に全力を尽くし、憲法改正をはじめとする政策を実現する態勢を再び整えてもらいたい。                                                                                         

 

閑古鳥が鳴く自民党(2017年7月4日配信『産経新聞』−「産経抄」)

 

  東京都議選の投開票が行われた2日夜、自民党本部は重苦しい雰囲気に包まれていた。午後10時近くになるまで、候補者の名前が書かれたボードには、一つのバラも飾られていない。お客が入らず、閑古鳥が鳴いている飲食店のようだった。

▼閑古鳥とは、カッコウの別名である。「これは少しヘンではあるまいか」と歌人の小池光さんは疑問を呈する。カッコウの声は本来、明るくてすがすがしい。誰かが当てた漢字の字面(じづら)に引きずられて、もの寂しいイメージが生じてしまった。これが小池さんの推測である(『うたの動物記』日本経済新聞出版社)。

▼都議選では、小池百合子知事が代表を務めた「都民ファーストの会」とは対照的に、自民党には暗いイメージが植え付けられてしまった。張本人は明らかである。「森友、加計学園」問題に加えて、国会議員の暴言、失言が次々に発覚した。昨日の各紙は、「安倍1強」のおごりを指摘していた。

▼投開票日の夜、安倍晋三首相の姿は都内のフランス料理店にあった。麻生太郎副総理や菅義偉官房長官らと会談して、都議選の結果について「謙虚に受け止める」との認識で一致したという。

▼飲食店の勘定や会計の意味で使われる「お愛想」は、「愛想尽かし」を略したものらしい。客に勘定を請求する際、愛想尽かしなことですが、と店側がへりくだったのが始まりである。逆に客が「お愛想して」などと言えば、「こんな店には愛想が尽きた。二度と来ない」という意味になってしまう。

▼安倍首相は昨日の朝、自民党の惨敗について、改めて「深く反省しなければならない」と述べた。その反省がきちんと形になって現れないと、今度こそ、有権者から愛想を尽かされてしまう。

 

首相への注文 憲法を守る政治に戻れ(2017年7月4日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 東京都議選で自民党は歴史的大敗を喫した。敗因となった言動の底流を流れるのは、憲法を軽視、あるいは無視する政治である。国民の信頼を回復するには、憲法を守る政治に戻らねばならない。

 投開票から一夜明けたきのう、自民党総裁でもある安倍晋三首相は「党に対する厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と語った。その表情からは、自民党が負った傷の深さがうかがえる。

 しかし、反省するにも何を反省すべきか。それを取り違えると、反省したことにはならない。

 首相は「政権が発足してすでに5年近くが経過し、緩みがあるのではないかという厳しい批判があったのだろう」と述べた。反省すべきは「政権の緩み」にあると言いたいのだろう。

 その点は否定はしないが、真に反省すべきは憲法を軽視、無視してきた安倍政権の政治姿勢そのものである。都議選での大敗は、そうした首相の政治姿勢に対する国民の嫌悪感が原因ではないのか。

 憲法改正を政治目標に掲げるからといって、現行憲法を軽んじていい理由にはもちろんならない。

 しかも首相や閣僚らは憲法を尊重、擁護する義務を負う。その立場にある者として、その改正を主導すべきではない。首相はまず、年内に自民党の改憲案を提出するとの発言を撤回すべきである。

 都議選大敗の一因とされるのが森友、加計両学校法人の問題である。公平・公正であるべき行政判断が「首相の意向」を盾に歪(ゆが)められたのではないか、との疑念だ。

 憲法15条は公務員を「全体の奉仕者」と定める。一部への便宜を認める政権の体質があるのなら憲法軽視との誹(そし)りは免れまい。

 公務員や公的資源を私的利用しても構わないという憲法を顧みない政権内の空気があるからこそ稲田朋美防衛相から防衛省・自衛隊を自民党の選挙応援に利用しようとする発言も飛び出すのだろう。

 野党側は憲法63条に基づいて臨時国会の開会を求めている。政権側はこれ以上、憲法の規定を無視すべきではない。

 首相が行うべきは稲田氏を速やかに罷免し、体制を一新することだ。そして今後の政権運営にどう臨むのか、首相の所信を聞くために臨時国会の開催を求めたい。

 そのどれもが憲法に基づいた措置である。それらを誠実に履行することが、首相が憲法を守る政治に戻り、国民の信頼を少しでも回復するための第一歩だろう。

 

囲碁に「大場より急場」という格言がある。広大な陣地形成に…(2017年7月4日配信『上毛新聞』−「三山春秋」)

 

▼囲碁に「大場より急場」という格言がある。広大な陣地形成につながる好手(大場)をあえて見送ってでも苦境の石を助ける我慢の手(急場)を選べ、と教える。傲慢(ごうまん)さを戒める名言は冷静な局面判断が前提だ

▼こちらの情勢判断は的確だったのだろうか。自民党が歴史的惨敗を喫した2日投開票の東京都議選である

▼高崎市出身の下村博文衆院議員は厳しい結果に「大惨敗の責任を取る」と党都連会長の引責辞任を表明した。同党2回生議員(離党)の秘書への暴言、自衛隊を巡る稲田朋美防衛相の失言、下村氏自身への献金疑惑報道が続発したのが響いた

▼そもそも逆風の中の選挙だった。森友学園問題や加計(かけ)学園問題といった疑念に対する政府の説明不足に加え、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法の採決強行。国民の反発は政権支持率急落という形で顕在化していた

▼異論の強い政策や改憲の実現という大場に突き進む安倍政権に対し、民意は、後手に回ってでも丁寧に国民と向き合うよう急場への手入れを求めた格好だ

▼安倍晋三首相は今後、外交や内閣改造などで支持率浮揚を狙うだろう。しかし、国民が求めるのは加計学園問題など疑念に対する丁寧な説明と謙虚な政治姿勢だ。小手先の「急場しのぎ」だけなら不満の火種はくすぶり続ける。

 

惨敗の自民党 「反省」を口にするなら(2017年7月4日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 東京都議選は自民党への「不支持」を鮮明に映し出した。

 国政の問題が影響したことは党の幹部らも認めている。重く受け止め、国政運営の在り方を見直すべきである。

 現有57議席から23議席に減らした。過去最低だった38議席を大きく下回る惨敗だ。小池百合子知事が率いた地域政党「都民ファーストの会」に第1党の座を明け渡している。党幹事長代行の下村博文氏は責任を取り、都連会長を辞任する意向を表明した。

 「共謀罪」法の採決強行や加計学園問題で内閣支持率は急落していた。加えて、稲田朋美防衛相が自民候補の応援で自衛隊の政治利用と受け取れる発言をしたり、下村氏が加計学園側から現金を受け取っていたことが判明したりと自民には逆風の選挙だった。

 安倍晋三首相は「大変厳しい〓咤(しった)と深刻に受け止め、反省しなければならない」と官邸で記者団に述べた。党臨時役員会でも同様の考えを表明している。二階俊博幹事長も「厳粛に受け止める。反省すべき点は大いに反省し、党勢回復に全力を尽くす」とする。

 こうした発言を額面通りに受け取ることはできない。首相は「党一丸となって態勢を整え、結果を出していくことによって国民の信頼を回復していきたい」とも述べている。内閣改造と党役員人事を早期に実施する構えだ。目先を変えようという思惑だろう。

 反省を口にするなら政府、与党がまずすべきは国民の疑問に正面から答えることだ。

 加計問題は「官邸の最高レベルが言っていること」などと記した文書の存在を文部科学省が認める一方、内閣府は発言を否定し、食い違いが残ったままだ。萩生田光一官房副長官と文科省幹部とのやりとりをまとめたとされる文書も新たに見つかっている。

 国会閉会を受けた記者会見で首相は「指摘があればその都度、真摯(しんし)に説明責任を果たしていく。国会の閉会、開会にかかわらず、分かりやすく丁寧に説明していきたい」としていた。しかし、約束を果たそうという姿勢は見えない。

 「防衛省・自衛隊、防衛相」として自民候補の支持を訴え、撤回した稲田氏については菅官房長官が「職務にまい進してほしいとの思いに変わりはない」とする。どんな判断で続投させるのか、首相の詳しい説明を聞きたい。

 民進、共産、自由、社民の野党4党が憲法の規定に基づき臨時国会召集を既に要求している。速やかな召集を改めて首相に求める。

 

新都議に望む 積極的に物申す役割を(2017年7月4日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 新たに東京都議となる面々に、考えてほしいことがある。

 突出した巨大都市とはいえ、東京都も一地方自治体であり、地方側のリーダー的役割が期待される。

 首都の描く構想は地方全体、日本の将来に大きく影響する。都議会は時に「都の利害」を超えた視点で政策議論を交わし、都知事や政府に積極的に物申す立法機関であってもらいたい。

 東京都には1300万人余の人口が集中する。年間の予算総額は13兆円。スウェーデンの国家予算に相当し、都道府県では唯一の地方交付税不交付団体だ。

 では、地方が直面する少子高齢化の問題と無縁かといえば、決してそうではない。

 他県からの人口流入が進み、都の人口は2025年まで増え続ける見込みという。減少に転じる、その後が大変だ。

 65歳以上の高齢者数は既に300万人を超え、20年後には400万人に達するとされる。借家住まいの1人暮らし世帯も多いことから、医療費や介護費のほか、生活保護費の需要が急激に高まると予測されている。

 若者は多くても、合計特殊出生率は1・24と全国で最も低い。全国的な人口減少で流入する人も少なくなり、税収減は避けられない時代が迫っている。

 問題が深刻になったとき、東京だけでは解決できまい。介護・医療施設の建設地を他県に求めるような事態も考えられる。

 一極集中を抑えることは東京にとっても切実な課題といえる。小池都政からはまだ、少子高齢化に臨む中長期的な計画が見えない。他の地方議会と意見交換し、率先して政策立案することも都議会が果たす役割の一つだ。

 人口減に伴う財源不足の危機感から、地方はいま、税源の偏りが小さく安定的に税収を確保できる地方税体系の再構築を訴えている。が、国は地方からの提案を受け付けず、税財源や権限を巡る論議は停滞している。

 地方税が偏在する東京都と他県とで意見が折り合わない例も少なくない。それぞれの自治体の継続的な営みが可能になってこそ、構造的な社会問題を改善する糸口はつかめる。都議会には広い視点からの建設的な提言を求めたい。

 心配なのは小池都知事との一体化だ。都議会が知事提案を丸のみするようでは、有権者の支持は離れるだろう。「これまでにない都政」の実現は、立法機関としての存在感の発揮にかかっている。

 

(2017年7月4日配信『信濃毎日新聞』−「斜面」)

 

嘆きを笑いに変える自虐ネタがうまい人は職場の潤滑油として欠かせない。都議選を「THISIS敗因」と総括したと報じられた閣僚経験者にも「座布団1枚」と言いたくなる。THISは豊田、萩生田、稲田、下村の4氏のこと

   ◆

 いずれも首相に近く、「加計(かけ)学園」をめぐる働き掛けや政治資金の疑惑、秘書への暴言、自衛隊に絡んだ失言が問題になった。投票直前に次々噴き出し、自民党惨敗につながったのは確かだろう。惜しむらくは肝心の「A=安倍」が入らなかったことか

   ◆

投票前日、首相が一度だけ街頭演説に立ったJR秋葉原駅前のニュース映像は異様に見えた。聴衆の中から「帰れ」「辞めろ」コールが起き、首相が「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と反論する。秋葉原は若い支持者が多く集まる。政権にとって“聖地”のはずだった

   ◆

選挙演説を邪魔するのは論外だが、車上から言い返すというのも見たことがない。野党からの批判を「印象操作」と言い立てて異論に耳を傾けようとしない。溝が深まろうが、お構いなし。共謀罪法案を無理に押し通した国会と秋葉原が重なって見えた

   ◆

 開票から一夜明け、首相は「深く反省しなければならない」と謙虚な姿勢を見せている。ならば今度こそ、加計学園問題の解明と向き合うことだ。「総理の意向」に対する官庁の食い違いを放置せず、国会から逃げず。うそや隠し事の多い国政にうんざりしているのは都民ばかりではない。

 

都議選自民惨敗 政権不信が生んだ結果だ(2017年7月4日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 東京都議選で自民党が歴史的な惨敗を喫した。獲得議席は現有の半数にも及ばない23にとどまり、過去最低だった38議席をさらに大きく下回った。

 「加計(かけ)学園」疑惑や「共謀罪」法の成立強行に加え、安倍晋三首相側近の疑惑や不祥事が重なる中で行われた選挙である。

 政権と自民党に対する有権者の不信感が、はっきり表れたといっていいだろう。

 安倍首相は敗北の責任を深刻に受け止めるべきだ。同時に、民意軽視の独善的な政治と決別し、加計学園を巡る疑惑の真相究明に取り組まなければならない。

 だが、都議選で示された有権者の思いが首相にきちんと伝わっているか疑問が拭えない。

 首相は敗戦の理由について問われ、「安倍政権に緩みがあるのではないか、という厳しい批判があったのだろう」と答えた。

 あまりに軽い。この間の政権の対応を振り返れば、「緩み」などという言葉で簡単に片付けられるとは思えない。

 首相の友人が理事長を務める加計学園の獣医学部新設計画を巡って「総理のご意向」などと記された文書の存在が発覚し、行政がゆがめられたのではないかとの疑いが指摘されている。

 これに対し政権や与党は、真摯(しんし)に真相を究明し、説明責任を果たす態度を見せてこなかった。野党が求めた閉会中審査にも消極的な態度を崩さなかった。

 「共謀罪」法は、参院の委員会採決を省略する奇策を用いてまで成立させた。

 安倍首相側近の稲田朋美防衛相による自衛隊の「政治利用」演説問題では、厳しい批判の声が上がる中で、首相はすぐさま続投を指示した。

 自民党への逆風を生んだこれら一連の問題は「緩み」によるものだろうか。そこには政権の強固な意思がうかがえる。

 異論や疑問に耳を貸さず、政治を進める上で強権的手法も辞さない。問われているのは、安倍政権が宿す傲慢(ごうまん)な体質である。

 首相は都議選惨敗を受け、「反省すべき点は反省しながら謙虚に丁寧に」とも述べた。果たして信用していいものかどうか。

 通常国会閉会直後の記者会見で首相は、自らの国会答弁に限定した形で「反省」を口にしていた。今回の選挙結果を見れば、首相の姿勢に有権者が納得していないのは明らかだ。

 本気で「謙虚に丁寧に」と考えているなら、閉会中審査に応ずるなど具体的な行動で示すことが不可欠である。

 都議選では、小池百合子都知事が率いた地域政党「都民ファーストの会」が自民党など既成政党への不満や批判の受け皿となる形で圧勝を収めた。

 一方で、首都とはいえ自治体の選挙が政権の信を問う場になり、都民生活に密接に関わる政策論争が脇に置かれる形で選挙戦が進んだ印象が強い。

 首相の強引な政権運営がそうした構図を生む一因となったことも反省しなければならない。

 

都議選惨敗の自民 信頼回復は本筋の政策で(2017年7月4日配信『北国新聞』−「社説」)

 

 東京都議選で自民党が歴史的な惨敗を喫し、安倍晋三首相は政権の立て直しを迫られている。いわゆる無党派層の多い都議選は、時々の政治情勢や政権運営の評価に左右されやすく、今回、学校法人「加計学園」問題や稲田朋美防衛相の失言などが自民党敗北の大きな要因になったことは疑いない。安倍政権に対するきつい「お灸(きゅう)」といえ、安倍首相は深い反省と初心に帰っての出直し表明を、実際の行動と結果で示さなければなるまい。

 安倍首相は国政選挙で4連勝を果たし、自信を持ってリーダーシップを発揮してきた。しかし、5年近い政権運営の中で緩みが生じたという批判は、首相自身も認めざるを得ないところである。「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法の改正は必要な法整備であるが、委員会採決を省略したことで強引な政権運営の印象を与えたことは否めない。

 加計学園や森友学園問題では、安倍首相の違法関与疑惑が何の具体的証拠も示されないまま過大視されたきらいがある。が、首相側の説明も決して十分とはいえず、「政治を私する」ことを許さぬ国民に疑念を抱かせたことは率直に反省しなければならないだろう。「謙虚に丁寧」に国政に当たるというのであれば、閉会中審査に応じることも考える必要があるのではないか。

 ただ、政権運営の至らなさや閣僚、議員の失態は非難されても、安倍政権の政策や外交自体が都議選で批判、否定されたわけではあるまい。政策という政治の本筋に全力を尽くし、成果を上げることが信頼回復に最も肝要である。経済や外交政策の停滞は許されず、絶えず結果を求められることをあらためて銘記してほしい。

 都民ファーストの会が大勝した今都議選では、強固な組織、支持基盤を持つ公明党と共産党が善戦したのに対して、国会で安倍政権を厳しく批判し、加計学園問題などを追及してきた民進党は政権批判の受け皿になり得ず、議席をさらに減らした。既成の野党第一党として民進党も危機感を持って再建を図らなければなるまい。

 

都議選で自民惨敗(2017年7月4日配信『福井新聞』−「論説」)

 

「1強」崩壊への始まりだ

東京都議選で自民党が57議席から23議席に減らす歴史的惨敗を喫した。安倍晋三首相は「政権に緩みがあるとの厳しい批判があったのだろう」と述べたが、「おごり」には触れなかった。自らの傲慢(ごうまん)な政権運営ではなく、閣僚らの「緩み」のせいにするかのような発言は「1強」崩壊への始まりから目をそらすものと言わざるを得ない。

 「共謀罪」法は、委員会採決を省き、本会議で強行可決。監視社会や捜査権の乱用などを危惧する国民の声を無視した形だ。加計(かけ)学園問題では「総理のご意向」などと書かれた文書が確認されたが、「そんなことは誰も言っていない」(山本幸三地方創生相)などと門前払いする不誠実さを露呈した。

 こうした「国民の忘却を待っている」かのような安倍政権の姿勢は「おごり」以外の何物でもない。軽率な言動を繰り返す稲田朋美防衛相にもどこか通じるものがあるのではないか。

 首相は都議選の結果を受け「深く反省しなければならない」とし、「反省すべき点は反省しながら謙虚に丁寧に、しかしやるべきことは前に進めていかなければならない」とも述べた。「反省」は通常国会の閉会直後にも口にし、「何か指摘があればその都度、真摯(しんし)に説明責任を果たしていく」と強調したはずだ。

 だが、萩生田光一官房副長官が「指示」したとされる文科省の新たな文書が見つかるという「指摘」があったのにもかかわらず、一向に「丁寧な説明」はない。野党が憲法に基づき臨時国会の早期開会を求めたのも突っぱねたままだ。この期に及んで反省のポーズだけでは許されない。

 首相の言う「やるべきこと」とは、獣医学部の新設を全国で認めていくことや、憲法改正の自民党案を秋の臨時国会に示すことなのか。局面転換を狙う内閣改造で済む話でもない。都合のいいことはやるが、都合の悪いことからは逃げる―。都議選は、そんな体質を都民が見抜いた結果と受け止めるべきだ。

 「指摘」といえば、首相の側近の下村博文元文部科学相が「加計学園から200万円の闇献金」との週刊誌報道がなされたこともその一つだ。学園自体からは「もらっていない」としたが、パーティー券購入先の氏名などを明らかにしないままでは疑念は拭えない。

 一方、大勝した「都民ファーストの会」。自民党中心の「古い都議会」の打破を掲げて過半数を大きく上回る勢力を獲得した。ただ、イエスマンをそろえただけならこれまでの都議会体質と何ら変わらない。

 待機児童や豊洲・築地市場問題、東京五輪・パラリンピックなど課題は山積みだ。小池百合子都知事は代表を退く意向だが、形だけの「二元代表制」で何でも決められる体制であってはならない。大量当選した都議会の「小池チルドレン」は「緩み」がちになり、都知事は「おごり」へと向かわないか。まさに「安倍1強」の構図であり「他山の石」とすべきだ。

 

東京都議選は自民党の歴史的な惨敗…(2017年7月4日配信『福井新聞』−「越山若水」)

 

東京都議選は自民党の歴史的な惨敗に終わった。一夜明けたきのう党総裁の安倍晋三首相は「政権奪還した時の初心に立ち返り、全力を傾ける」と反省を口にした

▼地方選とはいえ国政での不手際が大きな敗因。今後の政権運営にも影響するとあっては、やむを得ない弁だ。ただ立ち返る「初心」は、実は難しい言葉である

▼能を大成した世阿弥は伝書「花鏡(かきょう)」に書き残している。「初心忘るべからず」。その意味は一般的な用法とは違う(「世阿弥の世界」増田正造著、集英社新書)

▼世阿弥が挙げるのは年代や経験に応じた三つの初心。このうち「是非の初心」は若い頃のまだ「下手な自分」。それは上達を測る座標になるので忘れてはいけない、との意味だ

▼若さが人気を呼ぶことがある。そこで思い上がり、名人ぶるのは「あさましき事なり」。そう世阿弥は戒め、先輩たちにこまごまと尋ねて稽古せよとも書いた(「風姿花伝」)

▼政治を政道と捉えれば、相通じる点もあるだろう。とりわけ、このところの政権運営は名人気取りが鼻についた。その結果が「あさましき事」との審判だったのだろう

▼首相は「政権の緩みがあるとの厳しい批判」と分析してみせた。揚げ足取りのようで恐縮ながら、この「緩み」が閣僚らの失言、暴言などを指すなら違う気がする。問われたのは首相自身の「初心」ではないか。

 

(2017年7月4日配信『静岡新聞』−「大自在」)

 

▼10円玉を握って通った街頭紙芝居。荷台に木箱を載せた自転車は駄菓子屋を兼ねた小さな劇場だった。“型抜き”菓子を買ってチューリップやひょうたんの形を上手に抜くと、おまけがもらえた。子どもにソースせんべいや水あめが行き渡ると拍子木が鳴って、始まり始まり…

▼と、半世紀も前の浮き浮き感がよみがえった。おととい沼津市の仲見世商店街をメイン会場に開かれたニッポン全国街頭紙芝居大会。6回目の今年は、東北から四国まで各地のプロ・アマ紙芝居師28組が集合。記憶に残るおじちゃんとは様変わりした派手なメークや衣装も新鮮に映った

▼つば付きハットにピンクの長じゅばんで登場した市川光雄さん(65)=静岡市=は紙芝居歴11年。自営業の傍ら児童館、幼稚園などで毎年50公演近くをこなす。もともと人前は苦手だったが、東京で出会った紙芝居師の芸に魅了された

▼声色に鳴り物を交えて1枚ずつ進む場面に子どもたちはハラハラ、ドキドキ。座が沸けば、子どもたちと一緒の笑顔になる。「もうやみつき。こんな幸せはないって思いますよ」

▼関係者によれば、紙芝居は日本独特の文化で近年、世界にも発信される。演じ手と観客が一体になった演劇空間はコミュニケーションを深め、その効用は教育・福祉の分野でも注目を集めているという

▼「それに子どもは正直でね。つまらないと見ればすぐ離れちゃう」。ちょうど紙芝居大会は、東京都議選の投開票当日。演じ終えて汗だくの市川さんの一言が気のせいか、政治の舞台と妙に重なって聞こえた。

 

都議選自民大敗  反省の内容が問われる(2017年7月4日配信『京都新聞』−「社説」)

 

今年最大の政治決戦と目された東京都議選で、小池百合子知事の率いる地域政党「都民ファーストの会」が圧勝し、第1党の自民党は歴史的な大敗を喫した。

 安倍晋三首相・自民党総裁は「大変厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」「党一丸となって態勢を整え、結果を出していくことで国民の信頼を回復したい」と述べた。

 先月の通常国会閉会時の会見に続いて「反省」を口にしたが、問われるのは反省の中身だ。民意に正面から向き合い、今度こそ有言実行せねばならない。

 選挙戦では、豊洲市場移転問題以外で各党の主張に目立った違いがない中、首相と側近らをめぐる一連の疑惑や、稲田朋美防衛相の失言に対する批判票が都民ファに大きく流れた。

 本来論じられるべき都政の課題が埋没したことには違和感があるが、国政の風を受けるのは首都の選挙の常といえる。小池氏の唱える改革への有権者の期待値が依然高いこと、公明党が自民ではなく都民ファとの連携を選んだことも要因として挙げられよう。

 自民党内では人心一新のため、内閣改造・党役員人事の大幅な前倒しが取り沙汰される。当面はドイツでのG20首脳会合をはじめとする外交や、経済対策に注力すべきとの声もある。

 これまで首相は選挙のたびに経済優先を掲げ、そうして得た「数の力」で、反対を押し切って特定秘密保護法や安全保障関連法、共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を成立させた。今回も党内結束で「結果を出し」て信頼回復を−というが、筋が違うのではないか。

 政権は森友学園と加計学園をめぐる問題で、指摘された矛盾や疑問点に誠実に向き合ってこなかった。自民逆風の背景にあるのは、重要な法案や疑惑について熟議を重んじず、説明責任を果たさない「安倍1強」体制への有権者の不信、不満である。

 ここに至ってなお、民意との距離を埋める動きが党所属議員の間で低調なのは理解に苦しむ。一日も早く野党の求める閉会中審査を開き、臨時国会を召集すべきだ。

 首相は2020年の改正憲法施行を自ら描き、今秋、党の改憲案を国会に提出する考えを示している。これも「結果を出す」ことの一つなのだろうか。スケジュールありきでなく、異論・異見に耳を傾け、丁寧に議論する。そうした謙虚な姿勢こそ求められよう。

 

都議選後(2017年7月4日配信『京都新聞』−「凡語」)

 

 スマホが出始めたころ、なじめないと告白する落語家がいた。師匠は高座で、スマホの「本名」がスマートフォンなんだから、略称はスマフォにすべし、と混ぜっ返した

▼安倍晋三政権のおごりと失言の結果であろう。東京都議選で小池百合子知事の地域政党「都民ファーストの会」が一気に第1党となった。だが、その略称表記は「都民フ」と「都民ファ」に割れており、なじみが薄く、よく分からない

▼都民ファーストの命名は、トランプ米大統領の「アメリカ・ファースト」に由来すると察する。だとすると、地域の利益を最優先する排外主義とも受け取れる。五輪経費の負担問題では、隣接する他県知事から一時不満の声が上がった

▼都議会では、小池氏を支持する勢力が過半数を占めた。しかしその内実は、チルドレンのほかは自民党や民進党の移籍組、連携先を切り替えた公明党の議員らである。「昨日の淵ぞ今日は瀬になる」で、よいのかどうか

▼小池氏自身、郵政選挙では刺客を務め、つい昨日まで自民党籍を有していた。何が本質なのか、師匠の混ぜっ返しではないけれど、一度じっくり聞いてみたい

▼一夜明けて、国政進出のキーワードとなりそうな「国民ファースト」に触れた。まずは「1強」とファーストがどう違うのか、教えてほしい。

 

東京都議選/政権にはね返る自民惨敗(2017年7月4日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 東京都議選は、「小池旋風」が吹き荒れ自民党が惨敗した。地方選挙ではあるが、これまでも都議選の結果が時の政権にはね返り、その後の国政選挙に結びついてきた。安倍晋三首相の求心力低下は避けられず、「安倍1強」の終わりの始まりになるかもしれない。

 小池百合子都知事が率いた地域政党「都民ファーストの会」は、公認した50人のうち49人が当選した。とりわけ1人区、2人区で自民候補を圧倒して勢いを見せつけた。公明党などの小池知事を支持する勢力と合わせて、議席は過半数の64を大幅に超えた。

 一方の自民党は、57議席から23議席へ激減した。歴史的な大敗である。象徴的なのは千代田区(定数1)だ。自民党都議会のドンと呼ばれた実力者の地元で、後継の候補が都民ファーストの新人に敗れた。

 雪崩を打ったような結果をもたらした原因は、小池知事への期待感や人気だけでなく、自民の側にもある。政権の緩みやおごりが招いた結果と言わざるを得ない。

 「森友」と「加計(かけ)」学園をめぐる疑惑に加え、「共謀罪」法の強行採決など強引な国会運営が批判を浴びた。衆院議員による元政策秘書への暴行・暴言や下村博文都連会長の政治献金に関する週刊誌報道など、「オウンゴール」は続いた。

 極めつけは稲田朋美防衛相の失言だ。都議選の応援演説で「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と述べた。撤回したが、自衛隊法や公選法に抵触する恐れがある。

 首相の態度にも問題がある。「丁寧に説明する」と言いながら、疑念に正面から答えようとしない。閉会中の審査や臨時国会を早期に召集して、疑惑の解明に応じなければならない。

 これまで安倍首相は衆参両院選挙で4連勝していた。だが不満の受け皿さえあれば、逆風が吹くことが示された。野党第1党の民進党の存在感の希薄さが自民を助けていたといえる。

 都政は課題山積である。小池知事は、東京五輪・パラリンピックや築地市場の豊洲への移転問題などに、スピード感をもって取り組まなければ、都民の期待を裏切ることになる。

 

都議選自民惨敗 厳しい民意 政権は直視を(2017年7月4日配信『山陽新聞』−「社説」)

 

 東京都議選で小池百合子知事を支持する勢力が圧勝し、自民党は歴史的な惨敗に終わった。強引さや慢心が指摘される安倍政権に対する有権者の反発の表れだと言える。政権は結果を厳しく受け止めねばならない。

 小池都政に対する評価とともに、国政の先行きを占う選挙としても注目されていた。小池知事が率いた地域政党「都民ファーストの会」が49議席で第1党に躍進し、選挙協力を結んだ公明党などの支持勢力と合わせて計79議席を獲得して過半数を制した。自民は過去最低の38議席を大幅に下回る23議席に減った。

 自民の敗因は明らかだ。先の通常国会では、森友学園や加計学園を巡る問題で、安倍晋三首相や側近、妻昭恵氏らの関与や官僚の「忖度(そんたく)」の有無が問われた。「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の審議では、委員会採決を省略する異例の手法で強引に成立させた。

 首相は2012年末から衆参4回の国政選挙に連勝し、「1強」状態を築いている。一方で、批判や質問に正面から答えず、数の力に頼るような国会運営が目につくのも確かである。有権者の目にはそれが「おごり」と映ったのだろう。

 党内に広がる「緩み」も響いた。稲田朋美防衛相が応援演説で自衛隊を政治利用するかのような失言を行い、若手衆院議員による秘書への暴言・暴行問題も発覚した。都議会での自民と公明との連携が解消された点も大きかった。

 自民大敗の影響は、国政にも波及しそうだ。首相はきのう、惨敗を受けて深く反省したいと述べた。今後、内閣改造を早期に実施し、求心力や支持率の回復につなげたい構えだが、目先の看板を掛け替えるだけに終わるのでは、選挙で示された厳しい民意を受け止めたことにはなるまい。

 求められるのは実際の行動である。野党側は、加計学園問題の解明が不十分などとして、臨時国会の召集や閉会中審査の実施を求めている。謙虚な姿勢で丁寧に説明責任を果たすべきだ。

 任期中に憲法改正を目指す戦略や、衆院の解散時期にも影響は及ぶだろう。

 圧勝したものの、小池知事は今後、力量が試される。都議選の告示直前まで築地市場の豊洲移転問題への対応方針を示さなかったことなどから「決められない知事」と批判もあった。選挙で足元が固まった以上、市場問題や五輪準備など先送りできない課題にきちんと判断を下していく姿勢が必要となろう。

 都民ファの議員にも注文したい。49人の当選者中、39人が新人であり、知事人気に後押しされた政治経験の浅い議員ばかりである。地方自治は、選挙で選ばれた首長と議会がチェックし合う二元代表制で行われる。都議会が知事に対して何でも賛成する追認機関とならないよう、しっかり自覚してほしい。

 

激高して秘書に暴言を浴びせたこ…(2017年7月4日配信『山陽新聞』−「滴一滴」)

  

 激高して秘書に暴言を浴びせたことが報じられ、自民党を離党した国会議員がいた。公開された音声を聞き、考えさせられた。怒りの感情との付き合い方だ

▼「アンガーマネジメント」という言葉をしばしば聞くようになった。もともとは1970年代に米国で生まれた、怒りの制御方法を学ぶ教育プログラムという

▼例えば、イラッとしたら数を1から6までゆっくりと数える。怒りのピークが続くとされる6秒をやり過ごせば冷静さを取り戻せる。パワハラや体罰を防ぐため、研修に取り入れる企業や学校が増えているそうだ

▼いくつかの指南本をめくっていたら、自分の心のコップを想像しようという勧めもあった。不快な出来事が起きるたび、怒りの水が注がれていく。いっぱいになると感情が爆発するから、その前に自分で水を抜くように意識を向けることが必要という

▼国民の心のコップには相当の怒りが満ちていたとみえる。東京都議選で自民党が惨敗した。都政と国政は別とはいえ、「安倍1強」のおごりが目立つ政権への不信や不満もコップにはたまっていたのだろう

▼制御できない怒りは信用や仕事まで失いかねない厄介なものだが、選挙で示されるそれは政治を変える力を持つ。一夜明けて「深い反省」を述べた安倍晋三首相。国民の怒りのコップにこれからどう向き合うか。

 

都議選、自民惨敗 「おごり」厳しく総括を(2017年7月4日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 東京都議選で自民党が喫した歴史的な惨敗を受け、安倍晋三首相はきのう「大変厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と記者団に述べた。だが、責任の重さを本当に自覚しているのだろうか。「反省」の言葉を繰り返すだけでは、国民の信頼を取り戻せるとは思えない。安倍政権は大きな曲がり角を迎えているのではないか。

 首都決戦での自民党へのすさまじい逆風は「安倍1強政治」のおごりがもたらした、といえるからだ。自民党が獲得した23議席は、もとの57議席の半分以下で、過去最低だった38議席を大幅に下回った。そこまで負けるとは、党内でも「予想以上」だったようだ。

 逆風を生んだ一つは、森友・加計学園問題への対応である。官邸への「忖度(そんたく)」や首相の「ご意向」で便宜が図られたのではないかとの疑念は解消されていない。存在する記録文書を「怪文書」と断じ、あるのに「ない」とした政権の姿勢は、国民に強い不信感を抱かせた。

 都議選で自民党候補の応援演説をした稲田朋美防衛相が「自衛隊としてもお願いしたい」と自衛隊を政治利用するかのような発言をしたのも大きく足を引っ張った。「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法は、法案に疑問や強い反対があったにもかかわらず、委員会採決省略という異例の手続きで無理やり成立させた。

 首相に政治信条などが近い「身内」に甘く、不透明な手続きで政策を強引に進める―。「1強」を背景とした、そんな政治手法への違和感は、政権が想定する以上に国民の間に広がっているのではないか。

 不満の受け皿となったのが、小池百合子知事率いる地域政党「都民ファーストの会」だったのだろう。公認候補の49人が当選、推薦候補の追加公認を合わせると55議席を得て圧勝した。共同通信社が実施した出口調査で、自民支持層の11・2%が都民ファーストに投票したと答えたことも見逃せない。

 これほど深刻な結果を受けても、自民党内からの首相批判の声が乏しいのはなぜなのか。きのうの党臨時役員会でも安倍政権を支える方針を確認した。しかし必要なのは、政権の誤りや過ちを自ら厳しく総括することにほかならない。

 内閣改造を今月にも前倒しする案が現実味を帯びているが、体制を変えても、誤りをなかったことにはできない。それより野党が要求する臨時国会の召集や、予算委員会の閉会中審査に自民党は応じるのが当然だ。一連の疑惑や失態について丁寧に説明するのが先である。

 安倍首相は「結果を出す」ことで国民の信頼を回復する考えも示している。悲願である憲法9条改正を成し遂げることも「結果」と考えている節がある。もしそうであれば、空恐ろしい。5月に首相が唐突に提案したのは、9条に自衛隊を明記する文言を加える内容だ。秋に想定する臨時国会で自民党案を提出したいとみられる。来年の通常国会での改憲発議を視野に入れているらしい。

 しかし議論が始まる前から期限を切って進めようとする傲慢(ごうまん)さにこそ、批判が向けられている。それがまだ、分からないのだろうか。

 

敗者の弁(2017年7月4日配信『中国新聞』−「天風録」)

 

 脱いでいた上着を再び着て、最後に深々と頭を下げた。将棋の藤井聡太四段の公式戦連勝がおととい「29」で止まった。「機敏に来られ、押し切られました」。完敗を認めた謙虚さも、あるいは天才少年の魅力か

▲記録更新に立ちふさがった佐々木勇気五段も将来が期待される実力派だ。にわかファンには藤井四段の強さばかりが目立っていたが、今更ながら若手棋士の層の厚さに気付く。「1強」がずっと続くようでは、勝負の世界だけに関心は薄れかねない

▲政治の世界にも当てはまるのではないか。1強のおごりが敗因という指摘に、うなずく人も多いだろう。こちらは、対局と同じ日にあった都議選で歴史的な惨敗を喫した自民党である。57あった議席は23にまで減った

▲厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない―。一夜明けたきのう、そんな敗戦の弁を首相は述べた。内閣改造では国民の不信感は到底解消させられそうにない。まずは率先して疑問に答えるべきでは

▲「一度真っ白な気持ちになって…」。藤井四段のデビュー戦で白星を提供した加藤一二三・九段は励ます。今、真っ白な気持ちを取り戻す必要があるのは将棋界に限らない。

 

都議選で自民惨敗/政権の手法 厳しく総括を(2017年7月4日配信『山陰中央新報』−「論説」)

 

 自民党の歴史的惨敗という東京都議選の結果を受けて、安倍晋三首相は記者団に「自民党に対する厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め深く反省しなければならない」と述べた。その後もさまざまな場で「反省」に言及した。

 現有57議席から23議席に減らし、過去最低だった38議席を大きく下回った結果は、国政レベルでの安倍政治への「不信任」とも映る。首相自身、「政権が発足して5年近くが経過する。その中で、政権に緩みがあるのではないかという厳しい批判があったと思う」と述べた。しかし反省のポーズだけで終わらせるような対応になれば、信頼回復は望めないだろう。

 まず、官邸への「忖度(そんたく)」や首相の「ご意向」で便宜が図られたと指摘されている森友・加計学園問題への対応、委員会採決を飛ばす奇策を使った「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の成立過程など、この事態を招いた政権の手法を自ら厳しく総括することが必要だ。

 野党から召集要求が出ている早期の臨時国会も、その場として考えるべきだが、首相がそう認識しているかどうか。森友・加計学園などの問題で、東京都民や国民の目に映し出されたのは、政権の「緩み」だけではなく、首相を頂点とする「1強」が常態化したことによる「おごり高ぶり」だったのではないのか、よく考えるべきだろう。

 公開を求められた公文書や公的資料の提出を拒む、あるいは存在しないことにする。出すときは読ませたくない部分を黒塗りにしてしまう。

 加計学園問題では、官僚が作成した文書を官房長官が「怪文書」と切り捨てた。内部調査が始まると、文部科学省の副大臣が国家公務員法の守秘義務違反を持ち出して官僚を威嚇、存在が確認されると今度は名指しされた官房副長官らが記載内容を全面否定した。

 さらには、それを国会内外で追及する野党やメディアを「印象操作」と非難する。極めつきは稲田朋美防衛相による都議選での自衛隊の政治利用発言だ。

 一連の言動の背景には、都合の悪いことにはふたをし、逆らう官僚はけなしたり脅したりして黙らせればいい、という傲慢(ごうまん)さと強権志向さえうかがえたのではないか。

 加えて「魔の2回生」とやゆされる当選2回の自民党衆院議員による数々の不祥事だ。失言、暴言のみならず不倫や交際トラブルなど女性問題、秘書への暴行疑惑。あまりのレベルの低さに、具体的に説明するのも嫌になるような状態が続いた。

 そして、もろもろの問題の当事者が首相の夫人や側近、安倍チルドレンと呼ばれる若手議員である。都議選の最終日、街頭演説に立った首相は「辞めろ」「帰れ」コールを浴びた。極めて異例の出来事ではあったが、首相はその原因に、しっかりと目を向けるべきだ。

 首相は今後、内閣改造や自民党幹部人事で態勢の立て直しを図るつもりだろう。しかし、常々、安倍首相が言うように政治は「結果責任」である。それは、評価される実績を残せばいいということだけではない。政権を巡るさまざまな問題を、最高責任者としてきちんと引き受けることでもある。

 

都議選で自民惨敗 安倍政権への「猛反発」の表れだ(2017年7月4日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 自民党が東京都議選で歴史的な惨敗を喫した。議席数は、過去最低だった38を大きく下回る23。学校法人「加計学園」を巡る不透明な経緯や「共謀罪」法の強引な採決など、安倍政権の「おごり」に対する有権者の強烈な反発の表れだ。

 安倍晋三首相は「厳しい叱咤(しった)と真剣に受け止め、深く反省しなければならない」と話した。「反省」や「おわび」は、通常国会閉会後にも繰り返したが、国民には届いていない。本当に反省しているのなら、野党が要求している臨時国会を直ちに召集し、「森友学園」も含めた数々の疑惑を、国民の納得がいくように説明するべきだ。

 「数の力」で強行成立させたのは先の国会での「共謀罪」法だけではない。安全保障関連法や特定秘密保護法も全く同じ手法だった。「丁寧に説明する」と約束したが、いずれも実行されていない。国会で審議を尽くさないまま、改憲議論を始めることなど、絶対に許されない。

 加計学園問題では、萩生田光一官房副長官や下村博文元文部科学相ら、首相の側近の関与が疑われる。稲田朋美防衛相による度重なる失言や「安倍チルドレン」と呼ばれる衆院2回生議員らの不祥事が相次いでいる。首相はそれぞれの議員に、きちんと説明責任を果たさせるべきだ。今月にも予想される内閣改造で「お茶を濁す」ようなことがあってはならない。

 国会軽視の態度も改めなければならない。野党の追及に自らやじを飛ばしたり、「げすの勘ぐり」と見下す発言をする党幹部を容認したり。野党の背後には多くの国民がいることが、今回の惨敗で分かったはずだ。

 都議選最終日の街頭演説で、首相は「辞めろ」コールを上げる聴衆に対し「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と感情的に声を張り上げた。「つい強い口調で反論する」(首相)態度は一向に改まっていない。自分への厳しい意見にも謙虚に耳を傾ける度量が欲しい。

 他党も課題が多い。公明党は今回、候補者全員を当選させたものの、その立ち位置には疑問が残る。国政では与党として安倍政権の暴走に加担したことを反省し、今後は歯止めの役割をしっかり果たさなければならない。民進党はこれだけ自民への逆風が吹いたにもかかわらず、議席を逆に減らしてしまった。野党第1党として認められていない現状を重く受け止め、党の在り方を根本的に見直さなければならない。

 小池百合子都知事が自ら率いた「都民ファーストの会」は今回、自民批判の受け皿になった形だが、大勝は決して自分たちの力ではないことを肝に銘じておく必要がある。議員としての識見を高め、権力をチェックする責務を果たさなければ、国政の「チルドレン」たちの二の舞いになりかねない。小池氏も圧勝に慢心することなく、情報公開を進めながら都政の推進に力を注ぐべきだ。

 

追い風参考(2017年7月4日配信『愛媛新聞』−「地軸」)

 

 「えっ、この人も?」と驚いた。都議選の期間中、4年前に住んでいた都心を訪れた。通り掛かった街宣車の元職候補は前回、旧民主党公認だったが、今回は地域政党「都民ファーストの会」に移っていた

▲自民党が大逆風を受ける中、風向きを読んでか、民進党からくら替えする候補が相次いでいるのは、数字としては知っていた。だが、顔の分かるかつての選挙区の候補となるとより実感が湧く

▲街宣車からの訴えは、多くが「小池百合子代表率いる都民ファースト公認です」。追い風戦略は成功して当選したが、次回を思うと、気が重くなったかもしれない

▲躍進した政党が期待に応えられず、次回は逆風ということも少なくない。最近では、政権交代直前の2009年に民主が大勝したが、13年は惨敗。風向きがくるくる変わる中、一票に任期4年を託す有権者も毎回悩まされる

▲追い風を受ける候補には強い風は歓迎だが、陸上短距離では毎秒2bを超えてしまうと、記録が公認されず「追い風参考」になる。男子100bは10秒を切る日本選手が3人出たものの、すべて残念ながら非公認。来月の世界選手権で公認の9秒台が出ることを楽しみにしている

▲選挙では「追い風参考」として、当選が認められないことはない。だからこそ、甘えは許されず、議員活動の中身が大切になる。当選はスタートであって、ゴールは実績を積み重ねた先にあることを忘れぬよう。

 

【都議選自民惨敗】安倍政治への「ノー」だ(2017年7月4日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 東京都議選は自民党が歴史的な惨敗を喫し、代わって小池百合子知事が率いる地域政党「都民ファーストの会」が第1党の座に就いた。

 地方選挙ではあるが、安倍首相の政権運営を左右する選挙として注目されてきた。示された民意は安倍政治への明確な「ノー」だ。

 国政では衆参両院で自民党勢力が強く、「自民1強」「安倍1強」といわれる状態が続いている。ゆがみは顕著だ。数の力にものを言わせた強引な国会運営が目立つ。

 安全保障関連法の強行採決もそうだったが、先の国会では「共謀罪」法や森友、加計(かけ)の両学園問題でも審議を尽くさぬまま法案を成立させたり、国会を閉幕にしたりした。

 自民党惨敗は有権者の怒りの表れだ。多くの国民の思いを代弁する審判でもあろう。安倍首相や自民党は重く受け止めるべきだ。

 今回の都議選は、議会の刷新を目指す小池氏と、小池都政に反発する都議会自民党の全面対決となった。公明党が小池支持に回るなど国政とは異なる構図だったが、自民党政治を問う選挙戦となった。

 その結果、都民ファーストが49議席を占め、公明党などを合わせた小池氏の支持勢力は79議席と、定数127の過半数を占めた。57議席を有していた自民党は23議席にとどまり、過去最低数となった。

 小池都政はスタートして1年足らずで、都民ファーストは今回が初の都議選だった。新党による改革を期待する向きはあるにしても、積極的に支持するには力量は未知数というしかない。

 大量の議席獲得をもたらしたのはやはり、政権批判の受け皿になった結果とみるべきだろう。投票率も前回より7ポイント以上上昇している。自民党支持層の票も相当量が流れ込んだとみられる。

 選挙結果を受け安倍首相は、深く反省し、謙虚に受け止める趣旨の発言をしている。ならば行動で示してもらいたい。

 首相はこれまでも、重要法案の採決強行後に国民に説明を尽くしていく姿勢を表明してきたが、実践されているとは言い難い。都議選の街頭応援演説では、退陣を求める聴衆の声に「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と叫んだ。

 国民の批判に謙虚に耳を傾けるのであれば、まずは閉会中審査や臨時国会に応じるべきだ。稲田防衛相による自衛隊の政治利用発言も早々に不問に付したが、党内からも批判が出ている。内閣改造で取り繕っても誠実な対応には映らない。

 小池氏や都民ファーストにも注文しておきたい。

 築地市場の豊洲移転問題や東京五輪・パラリンピックの準備など都政は課題が山積している。その動きは全国に影響する。

 小池支持勢力が過半数を占める都議会と都執行部がなれ合いに陥れば、過去と何ら変わらない。二元代表制を生かした緊張感ある都政運営が求められる。

 

以前、福島県会津若松市の鶴ケ城を訪ねた折(2017年7月4日配信『高知新聞』−「小社会」)

 

 以前、福島県会津若松市の鶴ケ城を訪ねた折、明治初年に撮影された写真を見た。白壁のあちこちに戊辰戦争での被弾の跡が生々しく残る。雄壮な五層の天守は瓦が剥がれ落ちて、ぐしゃりとひしゃげたような姿が痛々しかった。

 白虎隊の悲劇も生んだ激戦。鶴ケ城での籠城戦は、官軍の圧倒的な兵力に耐え1カ月に及んだ。ただし会津側は油断から官軍の進軍速度を侮ったり、部隊間の連絡に不備があったりしたとも指摘される。備え次第ではもっと長期戦に持ち込めたかもしれない。

 「築城三年、落城一日」。かねてこの言葉を用いて、政権運営での慢心を戒めていたはずの安倍首相。都議選で現有議席の半数以下となる歴史的な惨敗を喫した。首相の言葉とは裏腹に、「安倍1強」にはやはり油断や侮り、備え不足があったということだろう。

 象徴的だったのがJR秋葉原駅前での応援演説。「帰れ」コールを続ける聴衆に、首相は「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と声を荒らげた。辛辣(しんらつ)な批判派とも対話に努めてこそ、一国の宰相にふさわしい。それをせず自ら溝を広げ、分断をあおってどうする。

 森友、加計(かけ)問題や閣僚の失言。国民が抱いている疑念や不信に、安倍政権は国会で誠実に答えなければならない。内閣改造で取り繕えると考えているなら、それこそ慢心である。

 自民「落城」からの信頼回復にはさて、どれほどの月日がかかるのか。

 

都議選で自民惨敗   傲慢な政権運営を改めよ(2017年7月4日配信『徳島新聞』−「社説」)

                    

 「安倍1強」政治の潮目が変わるのだろうか。

 東京都議選で自民党が歴史的惨敗を喫し、小池百合子知事が率いる「都民ファーストの会」が第1党に躍進した。

 衆参両院選など大型選挙で連勝してきた安倍政権にとって、大きな痛手である。

 自民党は過去最低の議席数の6割にも届かなかった。政権に対する反発が予想以上に強かったということだ。

 安倍晋三首相はこの審判を重く受け止め、傲慢(ごうまん)な政権運営を改めなければならない。

 とりわけ不信感を高めたのは、学校法人「加計(かけ)学園」を巡る問題である。獣医学部新設で、官邸の指示や首相への忖(そん)度(たく)はなかったのか。そうした疑問に答えず、国会を閉じて幕引きを図ろうとした。

 国有地を安く取得した学校法人「森友学園」に関する疑惑も残ったままだ。

 都議選を受けて首相は「深く反省」するとし、「やるべきことは前に進めていかなければならない」と述べた。

 ならば、野党が求める臨時国会を直ちに召集し、加計学園問題などの集中審議に応じるべきである。

 稲田朋美防衛相が、都議選の応援で「自衛隊としてもお願いしたい」と発言したのも見過ごせない。自衛隊の政治利用につながりかねないのに、首相は続投を指示した。

 加計学園側が、自民党の下村博文幹事長代行への献金を取りまとめていたことも表面化した。下村氏の説明は納得し難いものだった。

 それらの真相も国会で解明する必要がある。

 第2次安倍内閣が発足して4年半になる。長期政権のおごりは、強引な国会運営にも表れている。

 先の通常国会では、国民が不安を抱く「共謀罪」法の採決を強行した。

 これまでも、特定秘密保護法や安全保障関連法を数の力で成立させたが、今回は委員会採決を省略する「中間報告」という奇手まで使った。国会の議論を軽視し、民主主義を否定する暴挙である。

 国民を甘く見た代償は大きい。信頼を回復したいなら、内閣改造など小手先の手法ではなく、その声に真摯(しんし)に耳を傾け、丁寧に説明する姿勢に転じるべきである。 

 小池氏の責任も重大だ。築地市場の豊洲移転や東京五輪・パラリンピックの準備、待機児童対策など、課題は山積している。与党が過半数になった以上、都政の停滞をもう議会のせいにはできまい。

 都民ファなどの与党議員は、首長を厳しくチェックする議会の役割を忘れないでもらいたい。知事の追認機関になれば、小池氏が批判してきた「古い議会」に逆戻りし、支持は失われよう。

 7議席から2議席減らした民進党の力不足は深刻だ。国政で野党第1党にもかかわらず、政権批判の受け皿になれず存在感を示せなかった。

 これでは政権奪取など到底できまい。戦略の抜本的な練り直しが求められる。

 

(2017年7月4日配信『徳島新聞』−「鳴潮」)

 

東京都議選が自民党の歴史的惨敗で終わった日、将棋の最年少プロ棋士、藤井聡太四段の連勝記録が29で止まった。「勝負どころなく敗れたのは残念」。大記録にもおごらず、負けても腐らず。丁寧な口調で戦いを振り返った

  藤井四段にプロ初勝利を献上した「神武以来の天才」、「ひふみん」こと加藤一二三九段が、ツイッターでこんなエールを送っていた。<人生も、将棋も、勝負はつねに負けた地点からはじまる>

  勝負は佐々木勇気五段がリードする形で進み、やや押し戻す局面はあったものの、押し切られた。読みの甘さなど自分の弱点を挙げ、さらなる精進を誓った14歳の中学生。再びここから書き継ぐ神話は、大著となろう

  負けに不思議の負けなしという。将棋の方は見当がつかないが、自民惨敗の原因は、はっきりしている。「加計(かけ)学園」問題や「共謀罪」法の採決強行、閣僚の失言などによる逆風が、議席を吹き飛ばしたのである

 「よりまし」を求めてさまよう票が、「都民ファーストの会」へとなだれ込んだ。つまりは受け皿があるかどうか。「1強」も決して盤石ではない

 「反省すべき点は反省しながら謙虚に丁寧に、やるべきことは前に進めていかなければならない」と安倍晋三首相。「やるべきこと」に国民の意識とずれはないだろうか。感想戦をしっかりと。

 

自民都議選惨敗 1強政治の潮目となるか(2017年7月4日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 盤石に見えた「1強政権」も退潮の潮目に差し掛かったのだろうか。自民党が東京都議選で民意の厳しい審判を受けた。過去最低だった38議席にも遠く及ばない23議席という歴史的惨敗である。

 代わって小池百合子都知事が率いた地域政党「都民ファーストの会」が第1党の49議席を獲得し、公明党などを合わせた支持勢力は計79議席と過半数を制した。

 安倍晋三首相の1強政治に多くの有権者が不信任を突き付け、小池氏と都民ファーストに都政の刷新を託した。

 ●政権のおごりと慢心

 予兆はあった。投票前日の1日の土曜日、首相は東京・秋葉原の街頭に立った。今回の都議選で唯一の街頭演説だった。

 政権支持が強いとされる若年層が目立つ秋葉原だが、選挙カーの首相には初めて目にする驚きの光景だったに違いない。

 「安倍やめろ」の横断幕を掲げるグループ、あちこちに「共謀罪NO」といったプラカード、首相に退陣を求めるシュプレヒコールは1時間以上も続いた。

 国有地を格安の価格で売却した「森友学園」問題、特区を活用した獣医学部の新設を目指す学校法人「加計(かけ)学園」問題はいずれも、首相周辺の関与が疑われ、かつ官僚や側近による忖度(そんたく)が行政を不当にゆがめたのではないか−という疑惑である。

 「問題ない」の一点張りで、まともに説明責任を果たそうとしない政権の高圧的な姿勢に有権者は1強のおごりを見て取った。

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法は世論の賛否が二分する中で疑問や懸念を抱えたまま強引に成立させた。参院の委員会採決を省略する中間報告で本会議採決を強行する手法は「数の力」で異論や反論を封じ込める安倍政治を象徴していた。

 さらには、上は閣僚から下は若手議員まで、まるで日替わりメニューのように失言・暴言が相次いだ。そこに都民が政権の慢心を感じ取ったのは当然だろう。

 都議選の応援で「防衛省・自衛隊」を持ち出して自民党候補支援を呼び掛けた稲田朋美防衛相の発言は極め付きだった。撤回すれば済む話ではない。投票行動にどう影響したかは容易に想像がつく。「自民党よ、おごるな」である。

 ●信頼回復の道険しく

 惨敗から一夜明け、首相は「大変厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と記者団に語った。その後の臨時党役員会では「信頼回復のため成果を上げたい」と述べた。

 自民党幹部も一様に反省や謙虚の言葉を口にした。野党が求める国会の閉会中審査も「やらざるを得ない」方向という。

 局面打開のため、早期の内閣改造と自民党役員人事も予想される。ただし、単なるポーズでは信頼回復は難しい。従来の国会審議では首相も閣僚も野党の質問に正面から答えない不誠実な答弁が目立った。同様の対応で閉会中審査、あるいは臨時国会が乗り切れると思ったら大間違いだ。

 改造や役員人事にしても看板の掛け替えなら国民は納得しない。持論の「アベノミクス」も限界説が取り沙汰される。経済最優先の掛け声だけで支持をつなぎ留める時期は過ぎたのではないか。求めたいのは反省の言葉だけではなく、謙虚な政治の実行である。

 首相が思い描く政局の展望も軌道修正を迫られよう。都議選惨敗を受け、衆院解散の判断は難しくなった。ずるずると先送りすれば、来年12月の任期満了が近づく。都議選で対決した公明党との関係修復も重い宿題である。

 首相が悲願とする憲法改正への影響も避けられまい。首相は国会の頭越しに9条改憲や秋に想定される臨時国会への自民党案提出を表明していた。内閣支持率の急落、そして都議選惨敗と政権の体力が著しく低下する中で「改憲」にどこまで集中できるのか。野党はもとより自民党内から異論や反対論が出る事態も予想される。

 首相は来年9月、自民党総裁の任期満了を迎える。つい最近まで「首相1強」と呼ばれ、首相の連続3選が既定路線のように語られた。しかし、まさに政治の一寸先は闇である。首相の政治姿勢が改まらず内閣支持率の下落に歯止めがかからなければ、党総裁の地位すら必ずしも安泰とはいえない。

 

鳥の目と小池知事(2017年7月4日配信『佐賀新聞』−「有明抄」)

 

 鳥は視覚が特に発達した生き物である。上空から遠くの獲物を素早く見つけるためで、視界は広く視力もケタはずれだ

◆鳥類学の本によれば、タカはヒトの6倍以上の視力を持ち、ハヤブサの仲間のアメリカチョウゲンボウなら18メートルも離れた木の上から、ほんの2ミリの虫を見つけることができるそうだ。中にはヒトとほぼ同じ色彩感覚を備え、紫外線さえ感知できる種もいるというから、うなってしまう

◆鳥は常に空の上から俯瞰(ふかん)して見ているわけだが、この「鳥の目」の大切さを口癖にしているのが小池百合子都知事。都議選で自ら率いる「都民ファーストの会」が圧勝し、小池氏勢力で過半数を占めることに

◆加計(かけ)学園問題に防衛大臣の失言…。いろいろあって歴史的な大敗となった自民党は自滅した格好である。日本列島を上から見下ろした時、安倍政権への民意の不信が、マグマのように熱くたぎっているのを読み切った小池氏と見誤った自民。受け皿さえあれば自民が負けることがあることを教えた。センサーを働かせ感知しなければ、行く先に政治の晴れ間はない

◆どんな世界でも鳥の目に加え、地べたをはいずり回り近距離でよく見る「虫の目」も要る。同志が増え真価が問われる小池氏。都政の課題など政治の壁を越えられるかは、複眼の発想ができるかにかかっているだろう。

 

都議選自民惨敗 おごりへの民意の反発だ(2017年7月4日配信『熊本日日新聞』−「社説」)

 

 「安倍1強」体制によるおごりが招いた結果といえよう。首相の求心力低下は避けられまい。

 東京都議選(定数127)は2日投開票され、自民党は57議席から23議席に減らす歴史的な惨敗で第1党の座から転がり落ちた。一方、小池百合子知事が率いた地域政党「都民ファーストの会」は49議席を得て自民党から第1党の座を奪取。23人全員が当選した公明党などを合わせると、小池氏の支持勢力は過半数を制した。

 地方選の一つとはいえ、日本の総人口の約1割が集中する首都東京の有権者の判断は国政にも大きな影響を与えるのは間違いない。首相が任期中の実現を目指している憲法改正や、衆院解散・総選挙の時期など、今後の政権運営にも影を落としそうだ。

 自民党の惨敗は国政の失態によるものと言わざるを得ない。国民の多くが不安や疑念を抱く中、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を強引に成立させ、首相の友人が理事長を務める「加計学園」の獣医学部新設計画を巡る不透明な経緯にも政権は正面から向き合わなかった。こうした安倍政権のおごりともいえる姿勢に民意が強く反発した結果だ。

 首相は通常国会閉会後から「反省」「おわび」「真摯[しんし]に説明」と繰り返したが、肝心の行動が伴っていない。少なくとも、野党が求める臨時国会や閉会中審査に応じるべきだった。

 さらに豊田真由子衆院議員の秘書への暴力行為や、自衛隊の政治利用とも受け取られる稲田朋美防衛相の失言など、選挙期間中、日替わりのように不祥事が噴出し、有権者は怒りを募らせた。

 国政で連立を組む公明党の支援が得られなかったことも、敗因の一つといえる。都議会では昨年12月、都議の報酬削減を巡って自公が対立し、たもとを分かった。その後、公明党は都議選での全候補当選を目指して都民ファーストの会と選挙協力。都政と国政で自公関係のねじれが生じた。

 一方、小池氏の支持勢力が躍進した最大の要因は、改革色を前面に出して政権批判票の受け皿となったことだろう。共同通信の出口調査によれば、無党派層の29%をはじめ、自民党支持層の11%、民進党支持層の13%も都民ファーストの会に投票したと答えている。既存政党への不満票も集まった。

 ただ、勝利した小池知事側にも課題はある。地方自治は首長と議員が監視し合う二元代表制が原則だ。小池知事は3日付で都民ファーストの会の代表を退く意向を示したが、もし議会が知事のイエスマンばかりになってしまっては、新たな「1強」体制になりかねない。

 首相は3日、選挙結果を受けて「大変厳しい叱咤[しった]と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と語った。今後は早期の内閣改造や経済・外交を優先した政策運営で局面打開を図るようだが、「反省」を言葉だけで済ませ、政権のおごりや緩みに変化がなければ国民の怒りは収まるまい。

 

(2017年7月4日配信『熊本日日新聞』−「新生面」)

 

 サンゴは奇妙な動物である。そもそも見た目が植物のようでもあり岩のようでもある。ところがクラゲやイソギンチャクの仲間で、自分で造った石灰の家の中に張りついている

▼最も不思議なのは、体の中に褐虫藻という単細胞の植物を取り込んでいることだ。サンゴは褐虫藻から酸素や栄養をもらい、褐虫藻は二酸化炭素をもらって光合成をする。お互いに利益を共有する「相利共生」の関係である

▼ところが、海水温が上昇したり水質が悪化すると、褐虫藻はサンゴから逃げ出す。すると、サンゴはもともと透明なので骨格の白い色だけになる白化現象を起こす。そのままだとサンゴは死ぬ

▼東京都議選で自民党が大敗した。安倍晋三政権の一部で白化現象が起き始めたらしい。サンゴは少しの温度変化でも大きなダメージを受ける。政治も同じだろう。「安倍1強」のおごりが限界を超えた途端、有権者は自民党という家から離れていった

▼思い出すのは、細川護熙氏が1992年に結党した日本新党だ。翌年6月の都議選で擁立した候補者22人のうち20人、推薦も含めると27人が当選していきなり都議会第3党になった。3週間後の衆院選でも勝利し、結党1年余りで首相まで駆け上がったのである

▼その衆院選で参院議員からくら替え当選したのが日本新党の小池百合子氏、初当選したのが安倍氏である。あのころの政治課題も自民党のおごりだった。首相は政権奪還時の初心に帰ると記者団に述べた。白化現象の怖さが再びよみがえったろうか。

 

根っこ(2017年7月4日配信『宮崎日日新聞』−「くろしお」)

 

 心安らかだったら固い根っこもおいしく感じる、書名にはそんな意が込められているという。明代に書かれた「中国五千年の人生訓を集大成した奇書」と評される菜根譚だ。

 毛沢東も愛読した同書には、前・後集に三百余の金言が収録されている。「何気ないひとことが平和を脅かし、取るに足りないような行為が末代までの禍根を残すことになるから十分に注意せよ」は、そのうちのひとつ(王福振編「菜根譚 心を磨く一〇〇の智慧」)。

 おととい投開票された東京都議選で自民党が惨敗を喫した。2012年12月の衆院選以来、おもな選挙で連戦連勝を続けてきた安倍首相の不敗記録は国の本丸、首都の議会選挙で小池系勢力に過半数を占める議席を許す結末で途切れた。

 全軍総崩れの要因はひとつやふたつではない。所属議員の聞くに堪えない暴言、自衛隊を都議選の応援演説で利用しようとした閣僚への嫌悪、反発もあったはずだし、「共謀罪」法の採決強行への怒り、学校法人「加計(かけ)学園」問題に対する歯がゆさもあっただろう。

 何気ないひとこと、取るに足りない行為でさえ重大な結末を招きかねないから注意せよ、という菜根譚の教えを知る者ならば必然の結果だったはずだ。自民党にとっては太平の世を揺るがし、次の国政選挙へ禍根を残す都議選になった。

 「逆境ではすべてが良薬。順境にあるときは武器を持った兵に囲まれているようなもの」も菜根譚にあるが、勝った小池系も負けた自民も胸に刻んでほしい金言だ。国民の心にはびこる政治不信という名の草を根っこから取り除くために。

 

[都議選自民惨敗] 政権のおごりが招いた(2017年7月4日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 東京都議選で自民党が歴史的惨敗を喫した。現有57議席から半分以下の23議席まで減らした結果は、安倍政治への「不信任」に等しい。

 学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画を巡る不透明な経緯など、多くの疑問に正面から向き合おうとしない安倍政権の「おごり」に民意は強く反発した。

 首都決戦の大敗は安倍政権にとって大きな痛手である。安定的に推移してきた政権運営の潮目が変わる可能性も否定できない。

 安倍晋三首相は選挙結果に対し「反省」の弁を繰り返している。だが、従来のように反省のポーズだけで終わらせることは許されまい。

 この事態を招いた政権の過ちを総括する必要がある。

 第2次政権発足から4年半たち、安倍首相の「1強」は常態化していた。高い内閣支持率に加え、過去4回の衆参両院選を勝ち抜いてきたのが力の源泉だ。

 だが、「数の力」で押し切る強権的な政権運営が露呈し、報道各社の内閣支持率は軒並み急落していた。

 官邸への「忖度(そんたく)」や首相の「ご意向」で便宜が図られたと指摘されている森友・加計学園の問題については、安倍政権は全く説明責任を果たそうとしなかった。

 しかも都合の悪いことにはふたをして、逆らう官僚は黙らそうとする。政権に従うのが当然というごう慢さと強権志向が見て取れる。そうした事態を国会内外で追及する野党やメディアを「印象操作」と非難した。

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法は、委員会採決を省略する異例の手続きで強引に成立させた。

 自衛隊を政治利用するかのような稲田朋美防衛相の暴言は、閣僚の資質を疑わせた。当選2回目の自民党衆院議員による失言や女性問題など相次ぐ不祥事は、政権の緩みを映しているのではないか。

 安倍首相はこうした問題に背を向けず、まずは野党が求める閉会中審査や臨時国会召集に応じ、丁寧に説明すべきだ。

 今回の選挙結果は、安倍首相が目指す憲法改正や来年9月の総裁選、次期衆院選のスケジュールにも影響を及ぼしそうだ。

 首相は今後、内閣改造や自民党幹部人事で態勢の立て直しを図るつもりだろう。だが、小手先の対応で済ませるなら、都民や国民の不満を解消できない。 

 これまでの政権運営を真剣に振り返り、厳しい声に謙虚に耳を傾けなければならない。信頼回復への道は険しい。

 

(2017年7月4日配信『南日本新聞』−「南風録」)

 

城という漢字は、「土」と「成」でできている。敵から身を守るため、土地や建物の周りに堀を施し、掘って出た土を盛って土塁や柵を築いたのが城の始まりとされる。

 もともとは土づくりだったが、織田信長によって城のイメージは一新する。安土城は石垣や金箔(きんぱく)瓦、天主(天守閣)を備え、その威容は欧州にも知られたと記録に残っている。しかし、完成からわずか3年で焼失し、跡形もなく消えてしまった。

 「築城三年、落城一日」。このところ政権運営で口にしてきた安倍晋三首相に、まさかの結果が突きつけられた。おととい東京都議選で自民党が歴史的な大敗を喫した。「安倍1強」政治ががらがらと音を立てて崩れ落ちそうな気配である。

 永田町から吹いた逆風は強烈だった。説明が不十分な学校法人「加計学園」の問題をはじめ、「共謀罪」法を成立させた強引な国会運営、防衛相の失言など、枚挙にいとまがない。安倍政権のおごりと緩みは極まっていたのではないか。

 「人は石垣、人は城」という武田信玄の格言を思い出す。大規模な居城を造らずに、配下の武士たちを要所に置いた。人材を十分に使いこなすことは、戦国の世でなくても政治の要諦(ようてい)だろう。

 政権の立て直しに内閣改造を前倒しする案が浮上している。求められるのは謙虚な政治姿勢である。そうでなければ、今度こそ「安倍城」は落城するだろう。

 

[都議選後の国政]権力監視の機能高めよ(2017年7月4日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 東京都議選から一夜明けた3日、安倍晋三首相は自民党惨敗に終わった選挙結果について「大変厳しい叱咤(しった)と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と記者団に語った。その後もさまざまな場で「反省」を繰り返した。

 通常国会閉会を受けた先月の会見でも、加計(かけ)学園などを巡る自身の国会対応を「深く反省する」と述べている。

 今回の歴史的敗北は「反省は口先だけ」と都民が不信感を抱いた結果ではないか。

 2日投開票された都議選は、小池百合子知事率いる地域政党「都民ファーストの会」が第1党に躍進し、公明党なども合わせた支持勢力で過半数の79議席を獲得し圧勝した。

 自民党が過去最低の23議席と大敗したのは、「共謀罪」法の採決強行や森友・加計学園に関する疑惑など、国民の不安や疑問に向き合おうとしない政権の「おごり」に民意が強く反発した結果だ。

 都議選の真の敗者は安倍首相その人というべきだろう。

 自民党内からは「おごりが国民の怒りを招いた」との批判が出ている。首相を含む執行部の責任を問う声もある。

 ただ、物申すのは一部の限られた議員だけ。いまだに多くは官邸の顔色をうかがい、沈黙したままである。

 異論を許さない空気が「おごり」を助長してきたというのに、開かれた議論で民意をくみ取っていく動きにつながっていない。

 「安倍1強」の下で国政はチェック・アンド・バランスの機能を失っている。

■    ■

 安倍氏の政権運営で目立つのは、数の力による強引な手法だ。

 その最たるものが、委員会採決を飛ばす禁じ手を使った「共謀罪」法。加計学園問題では「印象操作」の言葉を連発し、野党の質問に正面から答えようとしなかった。

 「手荒い方法で成立しても、失言や暴言が飛び出しても、時がたてば国民は忘れ、支持率は回復する」−そんな高慢な姿勢さえ見え隠れした。

 安倍氏は今後、早期の内閣改造や党役員人事で態勢の立て直しを図るという。

 大事なことは「物言えば唇寒し」という空気を一掃し、自由な党内論議を保障することだ。

 個々の自民党議員に対してもイエスマンからの脱却を求めたい。

 臨時国会召集を求めている野党には、行政権の肥大化をチェックする役割を果たす責任がある。

■    ■

 都議選ではっきりしたのは、安倍内閣の高支持率がもろい基盤の上に成り立っていることである。公明抜きの選挙で自民党は足腰の弱さを露呈。都民ファーストの会のような受け皿があれば、国政でも勢力図は一気に逆転する。

 安保法制や辺野古新基地建設で民意との乖離(かいり)が指摘されたように、安倍氏への支持は絶対的なものではなく、受け皿欠如がもたらしたものだ。

 日本の政治は大きな曲がり角に差し掛かっている。行政府の暴走を食い止めるためチェック・アンド・バランスの機能を回復させることが何より重要だ。 

 

小池都政、今後の頼りは都職員(2017年7月4日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★都議会選挙で自民党を壊滅的敗北に追い込んだ都民ファーストの会。政局観の見極めに強い都知事・小池百合子の勝負勘にも舌を巻く。しかし自民党の敵失による大勝であることを忘れてはならない。国政での自民党も大勝するとチルドレンと呼ばれる新人議員が大量発生し、今では問題を起こすと「魔の2回生」などと呼ばれるが、小池チルドレンには希望の塾で学んだとはいえ、素人同然の議員もいる。もっともこの新人たちよりも質の悪い自民党都連執行部が総退陣した。加計学園疑惑の渦中にいる人物らがいることも小池陣営の追い風になった。小池の言うブラックボックスや、おっさん政治の権化も姿を消した。小池政治の面目躍如だ。

★都民ファーストの面々は選挙戦の最中こそ、自民党のような失言もなく、また小池を困らせるような発言もなかったが、選挙戦の立ち上がり時期には街宣車での演説もおぼつかず、聴く者に不安を残したのも事実だ。無難な政策と他党攻撃を避け短期決戦を逃げ切った。だが議会ではそうはいかない。議席を守り与党を構成するための政治家としての振る舞いや政党人としての対応が求められる。また、ベテランたちは議会の要職に就くことになれば、議員団をまとめる力も必要だ。その意味では公明党との関係強化は急務で双方保険をかけあいながら議会運営をすることになろうが、自民党もいろいろと仕掛けてくるだろう。小池は国政への色気を絶ち外部の諮問委員ばかりに頼らず、都庁職員との信頼関係を重視すべきだろう。これから本当に頼りになるのは職員たちになるはずだ。

★今回の都議選は自民党自身の自壊が大きいことは既に述べたが、メディアの世論調査も当たらなかった。その最大の理由は共謀罪の成立によって軽々に支持表明などしないという保身作用が有権者に働いたからではないのか。全国に広がる現象なのか注視したい。

 

都議選の審判(2017年7月4日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

安倍暴走への深い怒り示した

 東京都議選は、自民党が過去最低の23議席という大惨敗を喫する結果となりました。日本共産党は現有17議席から19議席へ上積みする重要な躍進を果たしました。支持候補1人の当選も実現しました。かつてない大激戦の中、ご支持、ご支援いただいたみなさんに心から感謝申し上げます。

 自民党が前回議席の半分にも届かない歴史的大敗に追い込まれたのは、民意に反する暴挙を重ねる傲慢(ごうまん)極まる安倍晋三政権に都民が「もう我慢できない」と怒りを爆発させた結果にほかなりません。安倍政権に政治を担う資格がないことはいよいよ明白です。

定数5でも自民空白に

 首都の有権者が安倍政権に突き付けた「ノー」の審判はまさに衝撃的です。自民党の都議会の最低議席は1965年と2009年の38議席でしたが、今回はそれからも15議席も下回りました。定数1を争う選挙区では、島しょ部以外は全敗でした。自民が独占していた定数2の選挙区をはじめ、定数3〜5でも相次いで自民党空白区が生まれました。衆参両院で単独過半数を持つ政権党が、首都の議会で第1党の座からいっきに滑り落ちる―。怒りのうねりの広がりを強烈に見せつけました。

 「加計」「森友」疑惑に象徴される、自分の親しい者を優遇するため行政をゆがめる「国政私物化」、先の通常国会での「共謀罪」法強行のような「数の力」を振りかざした民主主義破壊、国民が願ってもいない9条改憲へ前のめりの異常なタカ派ぶり…。選挙中、大問題になった稲田朋美防衛相の「自衛隊として」選挙応援発言は、安倍政権のおごり高ぶる危険な体質を際立たせたものでした。積もり積もった安倍政権への国民の怒りと不信の深さ、この政権の体質への嫌悪感などが投票ではっきり示されたことは明らかです。

 国政でも都政でも、自民党に最も厳しく対決してきた日本共産党が17議席から19議席へ議席を伸ばしたのは、安倍政権への都民の怒りを真正面から受け止める確かな存在として大きな期待が寄せられたためです。「自民党を懲らしめたい」「今度ばかりは共産党だ」。こんな声が宣伝や対話のなかで数多く聞かれました。他の政党や無所属の議員などから「平和と福祉の共同候補」として共産党候補者への支援をいただいたことは、新たな情勢の変化を浮き彫りにしています。これらの共同の力などが重なり合い、多くの選挙区で、共産党候補は自民党候補に競り勝ち、自民の議席を劇的に減らす上で大きな力を発揮したことは重要です。

 都政の大争点の市場移転問題で、「豊洲移転中止・築地現在地再整備」を公約した共産党の議席が伸びたことを小池百合子知事は直視すべきです。共産党は「食の安全・安心」「築地ブランド」を守るために全力をあげるとともに、大型開発優先の都政を暮らし優先に切りかえるため、都民と力を合わせてさらに力を尽くす決意です。

解散・総選挙で信を問え

 安倍首相は首都の審判の結果を受け止め、臨時国会を開催するとともに、9条に自衛隊を書き込む自民党改憲案づくりを断念すべきです。国政私物化、憲法破壊の政治を続けさせるわけにはいきません。市民と野党の共闘をすすめ解散・総選挙を実現して安倍政権に審判を下すことが必要です。

 

(2017年7月4日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

 梅雨を彩るアジサイは色とりどりの花から七変化や八仙花の別名があります。白や青、紫やピンク。多彩な色調は土壌の質がつくり出すといいます

▼それぞれの地で育てられ、支えられ、大輪を咲かせた19人が一堂に会しました。都議選開票から一夜明けた日本共産党の街頭演説会。宣伝カーからあふれんばかりの、大激戦を勝ち抜いた一人ひとりが笑顔であいさつ。健闘及ばず議席獲得まで至らなかった仲間の分まで都政改革への思いを込めました

▼歓声や拍手がひときわ大きかったのが自民候補を競り落としてきたという報告。朝の宣伝で「選挙区から自民党がいなくなってすっきりした」「おきゅうでは足りない。安倍を倒してほしい」といわれた当選者も

▼自民党、安倍政権への都民のすさまじい怒りが表れた都議選でした。都民だけではないでしょう。電話で対話した年配の女性は埼玉に住む子どもから自民を落としてくれと頼まれたと

▼疑惑隠し、異論や反対の声に一切耳を貸さないおごり高ぶった態度、国会の議論を数の力で封じる強権政治。都政の問題と相まって、政権の横暴にたいする憤怒が自民の歴史的な惨敗を引き起こしました

▼安倍首相は結果を受けて反省や初心を口にしますが、わが身が招いた敗因を国民の前に明らかにすることさえしていません。首都東京の地から突きつけた安倍ノーの審判は、いま全国と地つながりです。梅雨の晴れ間にアジサイのように咲き乱れた民意の花々。それが、列島を覆う日を一日も早く。

 

禁・勘違い(2017年7月3日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

「このはげ」「違うだろ」(何かをたたくような音)。文字だけで見てもなかなかすさまじいが、テレビなどで流された音声記録はもっと鬼気迫っていた

▼豊田真由子衆院議員(自民党に離党届提出)の政策秘書だった男性が、車を運転中に後部座席の豊田氏から浴びせられた罵詈(ばり)雑言である。これだけでも驚きだが、それ以上に世間とのずれを感じさせたのは、自民党の河村建夫元官房長官の擁護発言だ

▼「かわいそうだ。男性の衆院議員なら、あんなのはいっぱいいる。気持ちは分かる」。その後、訂正して取り消したが、こんなパワハラは日常茶飯事ということならば、そっちの方が寒けを覚える

▼豊田氏は自民党が政権復帰を果たした2012年12月の衆院選で初当選。「安倍1強」しか知らず、勘違いの行動が目立つ当選2回組の1人だ。公認した党の責任は免れまいが、その自覚が薄いから擁護発言も飛び出す

▼東京都議選がきのう、投開票された。小池百合子都知事率いる地域政党「都民ファーストの会」参戦で注目度は高かった。国政にも影響を及ぼすだけに、所属政党を判断基準に1票を投じた有権者もいるだろう

▼当選者はその勝因がどうあれ、都政に責任を負う立場になったことは間違いない。まずは、都議会の課題である都政のチェックという使命を果たすべきである。間違っても豊田氏らのような勘違いをしてはならない。

 

都議選、自民大敗 政権のおごりへの審判だ(2017年7月3日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 東京都議選は自民党の歴史的な大敗に終わった。

 小池百合子都知事への期待が大きな風を巻き起こしたことは間違いない。ただ自民党の敗北はそれだけでは説明できない。安倍政権のおごりと慢心に「NO」を告げる、有権者の審判と見るほかない。

 「安倍1強」のゆがみを示す出来事は枚挙にいとまがない。

 ■数の力で議論封殺

 森友学園や加計学園の問題では、首相自身や妻昭恵氏、側近の萩生田光一官房副長官らの関与が問われているのに、説明責任から逃げ続けた。そればかりか、野党が憲法53条に基づいて要求した、臨時国会の召集にも応じようとしない。

 国民の賛否が割れる「共謀罪」法を、委員会審議を打ち切る異例のやり方で強行成立させた。民主主義の根幹である国会での議論を、数の力で封殺する国会軽視にほかならない。

 閣僚や党幹部らの暴言・失言も引きも切らない。最たるものが、稲田防衛相が都議選の応援演説で「防衛省、自衛隊、防衛大臣としてもお願いしたい」と支持を呼びかけたことだ。

 稲田氏は以前から閣僚としての資質が疑われる言動を重ねてきたが、首相は政治的主張が近い、いわば「身内」の稲田氏をかばい続ける。

 次々にあらわになる「1強」のひずみに、報道各社の世論調査で内閣支持率が急落すると、首相は記者会見などで「反省」を口にした。しかしその後も、指摘された問題について正面から答えようとはしない。

 首相と民意のズレを象徴したのは、都議選最終日のJR秋葉原駅前での首相の演説だ。

 聴衆から首相への「辞めろ」コールがわき上がると、首相は「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と声を張り上げた。首相にすれば、ごく一部の批判派による妨害だと考えたのだろう。だが都議選の結果は、首相の政権運営に対する「NO」の声は、決して一部にとどまらない現実を物語る。

 ■臨時国会を召集せよ

 安倍政権の議論軽視、国会軽視の姿勢は今に始まったものではない。

 2012年の政権復帰以来、選挙では「経済最優先」を掲げながら、選挙が終わると特定秘密保護法や安全保障関連法など、憲法上大きな問題をはらむ法律を成立させてきた。

 多くの国民や野党が懸念の声をあげ、問題点を指摘しても、時間をかけて理解を求めようとはせず、一定の審議時間が積み上がったからと数の力で押し切ってきた。

 国会は主権者である国民を代表している。野党の背後には多くの国民がいる。首相は、その民主主義の要諦(ようてい)を忘れてしまってはいないか。

 これまで衆参両院の選挙に勝ち続けてきたことが、首相の力の源になってきた。地方選とはいえ、首都である都議選での大敗は、今後の首相の政権運営に影を落とすのは間違いない。

 来年9月の党総裁選、同年12月に任期満了を迎える衆院議員の選挙、さらには首相が旗を振る憲法改正への影響は避けられないだろう。

 首相がとるべき道ははっきりしている。憲法に基づき野党が求めている臨時国会をすみやかに召集し、様々な疑問について誠実に説明を尽くすことだ。

 政権は国民から一時的に委ねられたものであり、首相の私有物ではない。その当たり前のことが理解できないなら、首相を続ける資格はない。

 ■小池都政も問われる

 都政運営の基盤を盤石にした小池知事も力量が問われる。

 「ふるい都議会を、あたらしく」という宣伝文句で改革姿勢を打ち出し、現状に不満をもつ人々の票を、自らが率いる地域政党「都民ファーストの会」に導いた手腕は見事だった。

 だが、自民党都連を「敵」に見立て、政治的なエネルギーを高めていく手法はここまでだ。「挑戦者」として振る舞える期間は名実ともに終わった。首都を預かるトップとして、山積する課題を着実に解決していかなければならない。

 例えば、2025年をピークに東京も人口減に転じる見通しだ。「老いる巨大都市」にどう備えるのか。築地市場の移転にしても、五輪の準備にしても、問題を提起はしたが、具体的な成果は乏しく、前途は決して生やさしいものではない。

 都議選告示後の都民を対象にした朝日新聞の世論調査では、知事を支持する理由として「改革の姿勢や手法」と答えた人が支持層の44%を占め、「政策」はわずか4%だった。実績を積んで、「政策」を挙げる人を増やしていかなければ、いずれ行き詰まるのは明らかだ。

 この数年、都知事は短期で交代し、都政は揺れ続けてきた。小池氏は東京の未来図をどう描き、説明責任を果たしながら、それを実現させるのか。1千万都民の目が注がれている。

 

都議選に吹いた風(2017年7月3日配信『朝日新聞』−「天声人語」)

 

 気象学者の故関口武さんによると、日本には2145もの風の名があるという。いまの時候はとりわけ多彩である。べたつく強風「いなさ」、黒雲を伴う「黒南風(くろはえ)」など強弱さまざまな風が吹く

▼東京都議選を制したのは「緑の風」だった。小池百合子都知事が率いる都民ファーストの会を象徴する色である。昨年の知事選で緑色の服を身にまとって大勝した

▼「この選挙では緑色の悪い風が吹いていて強いんです」。石原伸晃・前自民党東京都連会長は選挙期間中に訴えた。「悪い風」などとあけすけな物言いをせざるを得ないほど追い込まれていたのだろう

▼なにせ自民には強烈な逆風が吹いた。二つの学園ミステリーが「荒南風(あらはえ)」なら、防衛相の問題発言は稲田に冷害を及ぼす「やませ」のようだった。終盤に浮上した献金疑惑は空を暗くする「黒風(こくふう)」を思わせた

▼都民ファーストの起こした風そのものにさほどの風圧は感じられなかった。むしろ、安倍政権に向けられた批判の風がはるかに強かった。投票前日に初めて駅頭で演説のマイクを握った首相に、「帰れ」「辞めろ」と声が飛んだ。日ごろ官邸では浴びることのない「炎風(えんぷう)」の激しさに驚いたことだろう

▼今後を見すえて気になるのは、都民ファーストが有権者の心をしっかり捕まえたようには見えないことだ。五輪といい市場移転といい、小池知事に実績らしい実績はまだない。このままであれば、追い風はやがてやむ。次には横風が吹き、冷たい向かい風に転ずる。

 

議選で自民が歴史的惨敗 おごりの代償と自覚せよ(2017年7月3日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 「築城3年、落城1日」。安倍晋三首相が自らを戒めたこの言葉を地でいくような結果だ。

 東京都議選は、小池百合子知事を支持する勢力が圧勝し、自民党は歴史的な大惨敗を喫した。

 「加計学園」問題や「共謀罪」法の強引な採決などで安倍政権への批判が急速に強まる中、「小池都政」への評価以上に政権の今後を占う選挙として注目された。

 この選挙結果は「1強」のおごりと慢心に満ちていた政権に対する、有権者の痛烈な異議申し立てと受け止めるべきだろう。それほど自民党への逆風はすさまじかった。

 さらに、首相に近い稲田朋美防衛相の軽率な言動や、「安倍チルドレン」と称される衆院当選2回議員の醜聞が逆風に拍車をかけた。

 首相は今後、早期の内閣改造で立て直しを図るとともに、謙虚な姿勢のアピールを試みるだろう。しかし、数の力で異論を封じ込めてきた強権的な手法が不信の本質であることをまずは自覚すべきだ。

 少なくとも野党の求める臨時国会や閉会中審査に応じ、加計関係者の国会招致を実現する必要がある。

 首相が自民党に指示した憲法改正のスケジュールも不透明になってきた。野党を置き去りにして独断で進めることは厳に慎むべきだ。

 小池氏自ら率いる「都民ファーストの会」は政権批判票の受け皿となり、結成からわずか9カ月余りで都議会第1党に躍り出た。

 小池氏が批判してきたのは従来の都政を十分にチェックできなかった都議会の不透明な体質だ。ただし、新たな知事与党が小池都政を追認するだけになれば、都庁の情報公開は進まない。知事と議会の間には健全な緊張関係が必要だ。

 国政選挙で4連勝してきた安倍首相にとって、政権復帰後、初めて経験する大型選挙での敗北だ。

 にもかかわらず、国政の野党第1党である民進党は政権批判の受け皿になるどころか、小池新党と自民党の対決構図の中に埋没した。

 他方、共産党は前回都議選の獲得議席を上回る健闘を見せた。

 民進党の蓮舫代表は次期衆院選で共産党との協力を進めようとしている。だが、成算のある路線なのか、厳しい総括が求められている。

 

都議選自民大敗 「安倍1強」の慢心を反省せよ(2017年7月3日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 ◆小池氏支持勢力の責任は大きい

 小池都政の改革に期待したい。それ以上に、自民党の安倍政権の驕おごりと緩みに反省を求める。それが、首都の有権者が示した意思と言えよう。

 東京都議選は、小池百合子知事が代表を務める初陣の地域政党「都民ファーストの会」が躍進し、自民党に代わって第1党の座を確保した。

 公明党、無所属などと合わせた小池氏支持勢力の議席の合計は、半数を大きく上回った。小池氏は、都政運営を進める安定的な基盤を築くことに成功した。

 ◆公明と二人三脚が奏功

 自民党は、歴史的な惨敗を喫した。長年、緊密に連携してきた公明党と袂たもとを分かった影響に加え、国政の加計学園問題に関する政府の不十分な説明や、稲田防衛相らの失言が響いた。

 知事が地域政党の先頭に立つ選挙戦は都民の関心を集め、投票率は51・27%と前回を上回った。

 都民ファーストの原動力は、小池氏個人の高い人気だ。公明党との選挙協力も功を奏し、安倍政権に対する批判票の受け皿となった。1人区を次々と制し、複数区でも着実に議席を得た。

 公明党は、小池氏と二人三脚で都政を安定させると訴え、7回連続で全員当選を果たした。

 小池氏は記者会見で「期待以上の成果で、都民の理解を得たことに感動すると同時に、責任の重さを痛感する」と勝利宣言した。

 昨年8月の就任以降、小池氏は豊洲市場の盛り土問題などを追及し、都の縦割り組織の弊害や無責任な体質を浮き彫りにした。情報公開による都政の透明化を掲げる姿勢も都民に評価された。

 市場移転問題では告示直前、豊洲に移したうえで築地を再開発する案を示し、「決められない知事」との自民党の批判をかわした。

 ただ、二つの市場機能をどう併存させるのか、詳細は語っていない。具体的な計画や収支見通しを早期に提示する必要がある。

 ◆閣僚らの失言も響いた

 自民党は、現有の57議席から大幅に後退した。過去最低だった2009年都議選の38議席をも大きく下回った。

 下村博文都連会長は、「国政の問題が都議選に直結したのは非常に残念だ」と語った。

 加計学園問題を巡る疑惑に安倍政権がきちんと答えなかったことや、通常国会終盤の強引な運営、閉会中審査の拒否などに、有権者が不信感を持ったのは確かだ。

 都議会自民党は、小池氏の改革に抵抗しているイメージを払ふっ拭しょくできなかった。麻生副総理兼財務相や自民党の二階幹事長が応援演説で、独自のメディア批判を展開したことも、政権党の慢心を印象づけ、逆風を加速させた。

 国政選並みの挙党態勢で臨んだ都議選の敗北は、自民党にとって打撃だ。衆参両院選で4連勝し、「1強」と評される安倍首相の求心力の低下は避けられまい。

 年内に予定される憲法改正の自民党案の作成・国会提出など、大切な課題が山積している。来年9月には自民党総裁選も控える。

 安倍首相は、今回の敗北を重く受け止め、政治姿勢を真剣に反省しなければなるまい。国民の信頼回復には、政権全体の態勢を本格的に立て直す必要がある。

 言葉で「低姿勢」を強調するだけでは済まされない。疑惑や疑問には丁寧に説明し、重要政策で着実に結果を出すべきだ。

 民進党は、告示前に立候補予定者の離党が相次ぎ、苦戦を強いられた。自民党の「敵失」を選挙に生かせないのは、国政の野党第1党として深刻な状況だ。

 共産党は、自民党への批判票を集め、議席を増やした。

 都議選で各党は、待機児童対策や防災、受動喫煙防止条例の制定などの公約を打ち出したが、政策論争は概して低調だった。

 ◆知事の監視機能が重要

 新たな都議会では、小池氏支持勢力が多数派を占めても、二元代表制の基本を踏まえ、知事との一定の緊張関係を維持すべきだ。

 懸念されるのは、小池氏との「近さ」を訴えて当選した新人議員たちが単なる「追認集団」になることである。政治経験に乏しい人が多いだけに、知事にモノを言えない可能性が指摘される。

 知事と一線を画し、都政をチェックする役割を果たさなければ、小池氏が批判してきた「古い議会」と同じになりかねない。

 小池都政では、一部の外部有識者らの提言を重視した政策決定が目立っている。無論、議員への過度な根回しなどは排すべきだが、都議会という公式の場で政策論議をくすことは欠かせない。

 

安倍自民は歴史的惨敗の意味を考えよ(2017年7月3日配信『日経新聞』―「社説」)

 

 「安倍1強」といわれて久しい自民党が東京都議会議員選挙で歴史的な惨敗を喫した。首都決戦でこれだけ一気に勢力を減らしたのは、安倍政権の強権的に映る姿勢や閣僚らの度重なる失態への批判の高まりが背景にある。自民党執行部は今回示された厳しい民意の意味を深く考えるべきだ。

 都議選は小池百合子都知事が率いる地域政党「都民ファーストの会」が第1党に躍進し、支持勢力を合わせて過半数の議席を確保した。一方で自民党は候補者の全員当選を果たした前回からうって変わり、1人区で惨敗するなど過去最低の38議席を大幅に下回った。

 自民党は敗れるべくして敗れた感が強い。都民フが「古い勢力」対「改革勢力」という構図を打ち出したのに対し、説得力のある争点を最後まで示せなかった。

 自民党は前国会で「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法の成立を急ぎ、強引な審議方法が目立った。学校法人「加計学園」の獣医学部の新設問題などでも野党から強い批判を浴びた。そこに稲田朋美防衛相の都議選応援での政治的中立性を逸脱した発言や豊田真由子衆院議員の秘書への暴言・暴行問題が加わった。

 安倍晋三首相は政権復帰を果たした2012年の衆院選から国政選挙で4連勝中だ。だが都議選では長期政権のおごりや緩みを感じとった有権者の批判票が都民フに流れた様子がうかがえる。直近の内閣支持率の急低下と合わせ、順調だった首相の政権運営は曲がり角に差しかかっている。

 小池都政は都議選でも支持が明確となり、議会運営の確固たる基盤を築くことになった。まずは開催までまもなく3年となる東京五輪への準備を加速してほしい。競技会場や湾岸部の道路は本格着工に至っていない施設が多い。築地市場の豊洲の新施設への移転も速やかに実現すべきだ。

 都政は懸案が多い。都内の待機児童は4月時点で8590人に上る。知事は待機児童の解消に取り組んでいるものの、追加的な対策が要るだろう。五輪後をにらんだ成長戦略の柱として、東京を魅力ある国際金融都市に変える構想も具体化はこれからだ。

 都民フの躍進は自民党の「敵失」に助けられた部分も多く、政党としての政策の肉付けはこれからだ。議員公用車の廃止や政務活動費による飲食の禁止など議会改革も公約通り推し進めてほしい。

 

小池勢力圧勝 都政改革の期待に応えよ(2017年7月3日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 東京都議選は小池百合子知事が率いる地域政党「都民ファーストの会」が大幅に躍進し、第一党の座をかけて争った自民党は惨敗した。

 都政の改革を掲げて1年前に登場し、議会内でも自らの基盤を固めようとした小池氏の戦略が奏功した。

 この結果を受け、小池氏は具体的に都政を前に進める大きな責任を負ったともいえる。

 停滞した築地市場の移転問題や東京五輪の開催準備、さらに都民の生活に関する課題への取り組みを加速してもらいたい。

 自民党の敗因は、一義的には改革姿勢を明確に打ち出せなかった点にある。ただし、国政レベルで相次いだ政権与党内の不祥事が逆風を招いたのは明らかだ。

 安倍晋三首相は、政権の立て直しと党の引き締めを急がなければならない。

 都議選では、都政をめぐる政策論争が十分とはいえなかった。それに代わり、閣僚らの失言や「加計学園」問題などが注目され、野党側は政権批判に集中した。

 つまり、東京をどうするかという中心課題についての論戦は尽くされておらず、これから小池氏が諸課題にどう取り組むか、それを議会がいかにチェックしていくかは不透明さが残る。

告示直前に小池氏は「豊洲移転、築地再開発」という両立案を発表した。豊洲市場への移転は実現するが、築地は5年後をめどに「食のテーマパーク」として再開発することなどを掲げた。

 だが、財源の詳細な根拠や具体的な築地活用計画は小池氏も「都民」も語っていない。早急に今後の青写真を提示すべきだ。

 3年後に迫る東京五輪・パラリンピックを成功に導く大役も、都議会は都とともに担う。

 選挙戦では、改革という言葉が多用されたが、「古い議会か、新しい議会か」といった抽象論では課題を解決することはできない。「都民」と連携して戦った公明党にも与党としての責任を十分果たしてもらいたい。

 選挙戦では、安倍首相が相次ぐ不祥事について「『しっかりしろ』と厳しい言葉をいただく。ご心配をおかけして申し訳ない」と陳謝する場面もあった。

 

 都選を通じ、有権者の目線に気を配り、謙虚に受け答えする必要性を認識したならば、実践あるのみである。

 

大敗の自民 「安倍政治」への怒りだ(2017年7月3日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相には、逆風が吹きすさぶ選挙だった。自民党は大幅に議席を減らし、過去最低となる歴史的大敗だ。「安倍政治」を断じて許さないという都民の怒りを、深刻に受け止めるべきである。

 首相が今回、街頭で応援に立ったのは、選挙戦最終日の一カ所だけ。告示前を含めて三十カ所近くで街頭に立った前回と比べ、首相の置かれた厳しい状況を物語る。

 「準国政選挙」と位置付けた前回から一転、首相は今回「都民が直面している地域の課題、東京独自のテーマが争点になると思う」と国政との分離を図った。国政の混乱が都議選に影響するのを避けたかったのだろう。

 国政と自治体選挙とは本来、別だが、完全に切り離すことは難しい。むしろ都議選結果は、それに続く国政選挙の行方を占う先行指標になってきた。

 自民党が今回の都議選で逆風に立たされたのは、丁寧な政権運営とは程遠い、安倍政権の振る舞いが影響したことは否めない。

 まずは「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法の審議に代表される強引な国会運営だ。

 罪を犯した後に処罰する日本の刑事法の原則を根本から覆し、国民の懸念が強いにもかかわらず、参院では委員会での議論を打ち切り、採決を省略する「中間報告」という奇策で成立を強行した。

 首相自身や金田勝年法相の不誠実な答弁も反発を買った。

 さらに森友、加計両学校法人をめぐり、公平・公正であるべき行政判断が「首相の意向」や忖度(そんたく)によって歪(ゆが)められた、との疑いは結局、払拭(ふっしょく)されなかった。野党が憲法に基づいて臨時国会を開くよう求めても、政権側は無視するなど説明責任を果たそうとしない。

 そして豊田真由子衆院議員(自民党を離党)の秘書に対する暴言や、稲田朋美防衛相による防衛省・自衛隊の政治利用発言である。

 首相は近く内閣改造を行い、問題閣僚を交代させ、人心を一新したい意向なのだという。「人材育成」など、新たな目玉政策も打ち出すことで、都議選の痛手を癒やし、支持率を再び回復基調に乗せたいのだろう。

 しかし、問われているのは、民主主義の基本理念や手続きを軽んじる安倍政権の体質そのものだ。それを改めない限り、国民の支持を取り戻すことは難しいのではないか。弥縫(びほう)策では限界がある。

 

都民ファースト 風で終わらせぬよう(2017年7月3日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 東京都知事の一輪車だけでは危なっかしい。議会がもう一つの車輪になってこそ都政は前へ進む。旋風が巻き起こり、知事の味方は多く集った。アクセルとブレーキを賢く使い分ける力はあるか。

 小池百合子知事の人気が後押しし、新参の都民ファーストの会が躍進した。公明党などを含めた小池氏支持派が過半数を制し、議会の勢力図が大きく塗りかわった。だが、これで都政は安泰か。

 旧来ながらの数合わせの理屈で語るのは危うい。第一党になった都民ファーストの会の代表は小池氏本人だ。議会が唯々諾々と知事に追従し、チェック機能を失っては元も子もない。

 なれ合い都政の延長はごめんだ。情報公開や住民参加、政策論議を促す仕組みが欠かせない。密室政治を避け、衆人環視の下に置く。まずは議会改革を望みたい。

 例えば、本会議のみならず、常任委員会の動画や議員個人の賛否を公開する。多様な立場の都民との直接対話の回路を開き、民意の反映に努力してほしい。

 議会でのやりとりも刷新し、形骸化に歯止めをかけねばならない。知事の政策案をただす一方向の議論ではなく、知事に反問権を与え、討論する。議員間の討議を自由化する。議員の仕事ぶりを評価する制度を導入してはどうか。

 早速、新議会の力量が試されよう。小池氏は築地市場の豊洲移転問題の打開策として、豊洲は物流拠点を、築地は再開発して食のテーマパークを目指す考えを打ち出した。市場業界の利害調整はもとより、難題が山積している。

 賛否を言い募った末に、数の力で押し切るような議会は要らない。説得力のある証拠とともに修正案、対案を出し合い、練り上げる姿勢と知恵が問われる。それこそが託された使命ではないか。

 2020年東京五輪・パラリンピックの課題もさることながら、その後に本格化する東京の少子高齢化にどう向き合うか。時間が押し迫る中、小池氏は将来像を描き切れているとは言い難い。

 東京一極集中の論点を交え、議会として道筋を示してはどうか。日々の暮らしを案じる都民感覚に常に立ち戻るべきだ。

 かつて都政は、知事と議会が癒着したいわば「一元代表制」だった。小池氏支持派が多数を占める議会との間で「二元代表制」は機能するのか。目が離せない。

 

(2017年7月3日配信『東京新聞』−「筆洗」)

 

物語の展開に困った作家がこんな方法を思い付いた。丸い紙に物語上、起こりえる出来事をたくさん書き込んでおく。たとえば、「予期せぬ来訪者」「ヒロインの愛の告白」「身内の裏切り」…。それをルーレットのように回し、止まった内容に従って物語を続けていく

▼1920年代、ベストセラー作家になった英国出身のエドガー・ウォーレスによる「回転プロット」

▼何のことはない。「神さまの言う通り」式なのだが、その偶然によって物語に思いもよらぬ急展開を与えることができたか

▼「安倍一強」の日本政治に急展開である。きのう投開票の東京都議選。自民党は歴史的な大敗となった。小池百合子都知事が率いる都民ファーストの会に苦戦するとは事前から伝えられていたとはいえ、わが世の春の政権与党がここまで大敗するとは

▼無論、この結果は神の手による偶然ではない。このところの自民党があの回転プロットに書き込んでいた出来事は「加計学園問題への不十分な説明」「乱暴極まりない国会運営」であり「防衛相の愚かな発言」である。これではどうルーレットを回しても、国民の物語は必然的に大敗へと急展開する

▼さて自民党はこの次の回転プロットに何を書くのか。「反省」や「丁寧な説明」なら救いもある。だが「都議選の敗北にすぎない」「マスコミが悪い」では物語の結末は見えている。

 

「自民大敗」(2017年7月3日配信『紀伊民報』−「水鉄砲」)

 

 東京都議選で自民党が大敗した。60人の候補を立てながら、当選したのは23人。小池百合子都知事の支持勢力の合計79議席の3分の1にも満たない惨敗である。

▼この結果をみて、思わず「おごる平家、久しからず」という言葉が浮かんだ。ここ数年、首相をはじめとして政権幹部のおごりたかぶった言動が相次いでいたからだ。

▼例えば国会で憲法改正に関する質問を受けた首相の答弁。「私の考えは読売新聞に詳しく書いてある。それを熟読してもらいたい」といって議員の質問にまともに答えなかった。森友学園への国有地払い下げや加計学園の獣医学部新設に関する政権幹部の答弁や官房長官の対応からも、有権者の疑問に真剣に対応する姿勢は見られなかった。

▼首相に近い稲田朋美防衛相は都議選の応援演説で、自衛隊を私兵のように扱う発言をして批判された。選挙戦を指揮した下村博文・元文部科学相は、加計学園の元秘書室長が持参した200万円を受け取ったことを週刊誌で追及された。二階俊博幹事長は、報道が選挙に与える影響に言及し「落とすなら落としてみろ。マスコミの人たちが選挙を左右すると思ったら大間違いだ」などと強調した。

▼国政と都政は別である。だが、そうした党幹部の発言が「おごり」と判断され、それなら落としてやろうとなったのではないか。

▼議会政治は政党が健全であってこそ、力を発揮する。自民党の自浄作用を期待したい。 

 

稲田防衛相発言 文民統制の認識なく資質を欠く(2017年7月3日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 なぜ、今もその職にとどまっているのか理解できない。

 稲田朋美防衛相が東京都議選の自民党候補応援で「防衛省、自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と訴えた。自衛隊を政治利用しようとし、行政の中立から逸脱しているのは明らかだ。文民統制(シビリアンコントロール)を破り、自衛隊法などに違反している可能性が極めて高い。国の根幹に関わる問題で、単なる失言とは次元が違う。任命権者の安倍晋三首相は一刻も早く罷免すべきだ。

 自衛隊法は61条で、選挙権行使を除く自衛隊員の政治的行為を制限している。戦前、軍部が独走した反省から、実力組織の自衛隊を政治に関わらせないことは、政治家として常識だ。稲田氏には大臣以前に、国会議員としての資質に問題があると言わざるを得ない。

 稲田氏は発言を撤回し、謝罪したが、その真意は疑わしい。撤回は菅義偉官房長官に指示を受けてから、謝罪は発言の3日後だった。撤回理由を「誤解を招きかねない発言があった」ためと説明するが、誤解の余地がないほど、明確に自衛隊の政治利用に言及している。問題を矮小(わいしょう)化し、責任逃れをしたいだけではないか。

 稲田氏を巡る問題は他にもある。南スーダン国連平和維持活動(PKO)の陸上自衛隊による日報の隠蔽(いんぺい)では、組織的なものかどうか調査する特別防衛監察を指示したが、中間報告すらできておらず、防衛相としての責務を果たしていない。後に見つかった日報にある「戦闘」との表現を、憲法9条に抵触するとして「武力衝突」とすり替えた。戦前の軍国主義教育と結び付いた教育勅語は「その精神は取り戻すべきだ」と是認。森友学園問題では、学園の訴訟に絡み虚偽答弁が発覚した。

 度重なる失態を容認し、続投を指示した首相の判断は看過できない。

 首相は稲田氏に政界入りを勧め、その後は閣僚などに抜てきしてきた。続投は「秘蔵っ子」かわいさとしか思えない。1次政権時の「お友達内閣」の失敗から何も学んでおらず、首相の目線は国民ではなく「身内」に向けられていると疑わざるを得ない。村上誠一郎元行政改革担当相(衆院愛媛2区)が「友達を優遇しすぎではないか」と厳しく指摘するのは当然だ。

 現政権下で、自衛隊に絡む問題発言は稲田氏だけではない。防衛省制服組トップの河野克俊統合幕僚長は、自衛隊を憲法9条に明記するとの首相の改憲提案に対して「非常にありがたいと思う」と賛意を示した。文民統制の原則に反する発言だが、首相はこの時も不問に付した。

 夏以降の内閣改造が取り沙汰されている。稲田氏の傷が小さく済むようにと、改造時の交代を想定しているのならあまりにも国民と国政を軽んじている。首相は、一国の宰相として自身の判断能力が問われていることを自覚しなければならない。

 

つもり違いの十箇条(2017年7月3日配信『佐賀新聞』−「有明抄」)

 

 通りすがりのお寺で、こんな標語を見かけた。「高いつもりで低いのが教養」「低いつもりで高いのが気位」…。自己評価と実像には大きなギャップがあるという戒め「つもり違いの十箇(か)条」である

◆「浅い知恵」に「深い欲望」、「薄い人情」に「厚い面皮」と続く。他人には厳しいくせに、自分のこととなると何かと言い訳をつけて甘くなりがち。そんな日頃のふるまいを突き付けられたような気になる。真っ白な紙に、堂々たる墨文字。思わずスマホでパシャリと撮った

◆先日、ラジオ番組に出演した自民党の中谷元・前防衛相が、こんな「あいうえお作文」を披露していた。題して「権力者のあいうえお」。あせらず、威張らず、浮かれず、えこひいきせず、おごらず−。このあいうえおを戒めなければ、いかに権力者といえども信頼は得られないというわけだ

◆高い支持率に陰りが見えてきた「安倍1強」に向けたメッセージに違いない。いつの時代も、手にした権力は人を慢心させるのだろう。古代ローマの歴史家タキトゥスも書いている。「人間は地位が高くなるほど、足元が滑りやすくなる」と

◆私が見かけた十箇条の張り紙には、お寺さんからのメッセージも添えられていた。数々のつもり違いの後で「そのつもりで頑張りましょう」とある。心の中で「はいっ」と返事した。

 

都議選で自民惨敗 政権のおごりへの批判だ(2017年7月3日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 小池都政への信任だけではない。安倍政権のおごりに対する強い批判が首都決戦で示されたのである。

 東京都議選は、小池百合子知事の率いる地域政党「都民ファーストの会」が自民党に代わって第1党となり、公明党などを合わせた支持勢力で過半数を獲得した。

 自民党は安倍政権の強引な国政運営が影響し、現有57議席を大幅に減らした。民意に向き合わない「安倍1強」政治に、都民は「ノー」を突き付けたということだ。

 安倍政権は監視社会につながる「共謀罪」法を参院法務委員会での採決を省略する異例の手続きで成立させた。安倍政権の国会軽視、国民軽視の姿勢に、都民は敏感に反応したのである。

 連立を組む公明党からは今年初め、「世間の評判が悪い法案を無理に通せば、その後の都議選でしっぺ返しを受けかねない」との声もあった。それが現実のものとなった。

 安倍首相の友人が理事長を務める「加計学園」の獣医学部新設問題では、数々の疑惑が浮上した。にもかかわらず、安倍首相は真相究明に後ろ向きな姿勢に終始した。森友学園問題もそうだ。

 通常国会閉会を受けた会見で、安倍首相は加計学園問題について「指摘があればその都度、真摯(しんし)に説明責任を果たしていく。国会の閉会、開会にかかわらず、分かりやすく丁寧に説明していきたい」と述べた。だが、野党が求める閉会中審査に応じていない。

 安倍首相の言う「丁寧に説明」は沖縄の米軍基地問題同様、「民意を無視する」との意味にほかならない。都民、そして国民はそれを見抜いているのである。

 稲田朋美防衛相は都議選の応援演説で「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と訴えた。その後、「誤解を招きかねない」として発言を撤回したが、発言を聞いた側が誤解したとする姿勢は、国民の目には傲慢(ごうまん)に映った。それも自民党惨敗の要因である。

 だが、それ以上に稲田防衛相の度重なる暴言、失言をかばってきた安倍首相への反発が、大きく影響したのではないか。

 安倍首相は都議選での自民党惨敗を受け、内閣改造と党役員人事の早期実施を検討するようである。もはや内閣改造などで済む話ではない。閣僚の顔ぶれを代えたとしても、安倍政権への国民の不信感は到底解消されない。政治不信に拍車を掛ける効果しかもたらさない。

 都議選の結果に見られるように、安倍政権は国民の信頼を失っているのである。国会を解散し、国民に信を問うしかない。

 安倍首相は麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官らと選挙結果を「謙虚に受け止めなければいけない」との認識で一致した。言葉だけでなく、行動で示すべきだ。解散の早期断行を強く求める。

 

[都議選自民大敗]国政の疑惑解明を急げ(2017年7月3日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 都議選最終日の応援演説で初めて街頭に立った安倍晋三首相は、一団の聴衆から強烈な「辞めろ」「帰れ」コールを浴びた。この選挙を象徴する異例の場面だった。

 東京都議選は2日、投開票され、小池百合子知事が代表を務める地域政党「都民ファーストの会」が、小池人気に乗って自民党批判票を手堅くまとめ、大きく躍進した。

 公明党を含む小池都知事の支持勢力が過半数を確保し、自民党は歴史的大敗を喫した。

 都議選なのに何かと国政が話題になったのは、築地市場の移転問題など都政が抱える政策課題に加え、「安倍政治」そのものが、隠れた争点になったからだ。この選挙結果は今後の国政にも重大な影響を与えずにはおかないだろう。

 国民の懸念に応えることなく「共謀罪」法の採決を強行した手法、学校法人「加計(かけ)学園」を巡る疑惑、公職選挙法違反の疑いの残る稲田朋美防衛相の失言、自民党2回生国会議員の相次ぐ不祥事…。

 そのすべてが自民党にマイナスに作用した。

 安倍首相側近の下村博文・自民党幹事長代行が、加計学園の元秘書室長から政治資金パーティー券の代金を受け取っていたことが投票前に明らかになった。

 稲田氏の失言も発言を撤回すれば済むような軽い話ではない。

 臭いものにふたをするようなあいまいな処理は許されない。早急に臨時国会を開くか閉会中審査を行い、国民の疑問に答えることが必要だ。

■    ■

 安倍政権の「おごり」と「緩み」を象徴する事例にはこと欠かない。

 東日本大震災を巡り「まだ東北で良かった」と失言した今村雅弘復興相は安倍首相の判断で即座に更迭された。首相はなぜ稲田氏をかばい続けるのか。その感覚が理解できない。

 「加計」問題を巡り、萩生田光一官房副長官の発言内容をまとめたとされる文書が国会閉幕後、新たに見つかり、官邸が計画に深く関与したとの疑惑が深まった。

 そのあとに浮上したのが、下村氏のパーティー券を巡る疑惑である。

 萩生田氏も下村氏も疑惑を否定しているが、共通するのはともに安倍首相の側近で、ともに加計学園と関係があったこと。国民が疑念を抱くのは当然である。

 安倍首相は野党の追及に対して「印象操作だ」と批判するだけで、説明を尽くしたとはいえない。

■    ■

 日本の政治にとって深刻なのは、安倍1強体制の下で、国会にも自民党にも官僚にも、チェック機能が働かなくなっていることだ。

 各省庁の幹部級人事を采配する内閣人事局の局長は官房副長官の萩生田氏が兼ねる。菅義偉官房長官と萩生田氏を中心にした「官邸主導」の幹部人事が進み、官僚は過度に官邸の意向を忖度(そんたく)するようになったといわれる。

 権力の行使をためらわない首相の下で、行政権限が肥大化したとき、どういうことになるか。今回の都議選結果を「警鐘」と受け止めたい。

 

崩壊自民、下落続けば内閣改造まで持たない(2017年7月3日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★「都議選が荒れると政局に直結する」とは、2週間前の自民党幹部の言葉だ。それだけ結果を恐れていたものの、国会終了後に発覚した加計学園に関わるペーパーや疑惑に対して、野党4党は臨時国会召集を提案したが、首相・安倍晋三は拒否した。その間も魔の2回生と呼ばれる当選2回の自民党衆院議員・豊田真由子による秘書への暴行と暴言が発覚。さらには副総理兼財務相・麻生太郎の「あれ女性ですよ」発言。都議選の応援で防衛相・稲田朋美による憲法15条、公選法136条、自衛隊法61条違反となる「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」発言とその後の対応も政権への打撃になった。

★しかし、官邸も自民党も事態の深刻さに気付いておらず、通常の強気の対応に終始した。「印象操作」「レッテル貼り」「何の問題もない」などすべてを否定し、思い通りに進めようとする強引さは国会の答弁でも記者会見でも続いた。自民党幹事長・二階俊博は先月29日、都議選の応援でミサイル発射実験などを続ける北朝鮮のことを差別用語を使い批判。翌日の応援演説で「言葉ひとつ間違えたらすぐ話になる。どういうつもりで書いているか知らないが、我々はお金を払って(新聞などを)買っている。そのことを忘れてはだめだ。落とすなら落としてみろ。マスコミが選挙を左右すると思ったら大間違いだ」とメディアを挑発した。

★麻生も引き継ぐように「ここにいるマスコミの人は言っているだけだから。責任はなんも取らんわけです、この人たちは。それは事実でしょうが。しかも、かなりの部分、情報が間違っている。間違いありませんよ、俺、書かれている方だからよくわかる。読んだらこれも違う、これも違うなと。たぶん他の人も違うんだ。そんなものにお金まで払って読むかと。結果として、新聞は部数が減っている。自分でまいた種じゃないか」。極め付きは都議選最終日に屋外の応援に出た首相がヤジに激高し、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」だろう。

★もう幹部から若手まで、理性の歯止めが利かない。この10日余り、都議選期間の発言だけでも、自民党中枢は崩壊しているといえる。今日からメディアは、この高慢で不遜な政権に対して忖度(そんたく)する必要はない。国民にウソをつき続けごまかし続ける政権に対して、明確なNOを都民が突き付けたことを「一地方選挙」と片づけるのなら、本気で戦わなければなるまい。とはいえ新しい月に入り、メディア各社は今月の世論調査を行う。下落が続くようならば、内閣改造まで持つまい。自民党は新たな政権作りに動きださなければならなくなるだろう。

 

 

 

<小池都政はどこへ>(上)「知事は社長」企業的政党(2017年7月4日配信『東京新聞』)

  

 東京都議選は、小池百合子知事率いる「都民ファーストの会」が第一党に躍進し、支持勢力で過半数を獲得した。「都民」はどんな政党で、小池都政はどこに向かうのか。2回に分けて連載する。

 「この地域政党は、企業のような一体的な意思決定に基づく管理、運営を目指す」

 「都民」が都選挙管理委員会に提出した規約の前文には、こんな文言がある。今回当選した「都民」の一人は、規約の意味を「社員が社長に企画を提案する『企業内コンペ(競争)』のようなもの」と説明する。「都民」は選挙中、都議提案の政策関連条例が可決された例は少ないと訴え「古い議会を新しく」と主張した。文言には、党内で政策提案を競うようなイメージが込められているという。

 これまでの都議会の既成政党について、議員それぞれが活動する個人経営型とする一方「うちは同じ組織に知事や特別秘書がいる。社長、専務、複数の取締役がいる大企業型だ」と言う。トップが方針を決めれば一致団結して大きな仕事をするとの自負がにじんだ。

 ただ、地方自治は知事と議員を選挙で別々に選び、緊張関係を保つ「二元代表制」が採用されている。「企業」内でチェック機能が働くのか疑問が残る。

 小池氏は3日、1カ月間の「都民」代表から特別顧問に戻ったが、内部では「社長」と呼ぶ人がいた。この日の記者会見で「さまざまな政党が瓦解(がかい)する理由は、ワンボイス(一つの意見)ではなかったことだ」と述べ、党としての意思統一の必要性を語った。

 「偉大なるイエスマン」と呼ばれ、小泉純一郎元首相の側近だった元自民党幹事長の武部勤氏は、小池氏が2008年の自民総裁選に出馬した際に選対総本部長を務めた。

 武部氏は都議選前、本紙の取材に「自民が行き詰まる原因は既得権と硬直感、そして惰性だ。国民は常に変化を求めている」と、都議選の結果を見越すような見解を述べた。小池氏について「基本政策と理念においては自民と共有している」と語った。

 自民と目指す方向に大きな違いはないという「都民」。しかし「企業的な運営」という手法は都議会の自民とは異なるように映る。都は毎年、スウェーデンの国家予算に匹敵する13兆円を扱うが、都政運営にどう関わるかが問われる。

 都議会は都政の監視機能も期待される。「社員」に当たる都議たちは、知事という「社長」にものを言うことができるのか。具体的な姿はまだ見えない。 

 

<小池都政どこへ>(下) 改革志向の底流 息づく自民(2017年7月5日配信『東京新聞』)

 

 東京都議選が告示されて2日後6月25日の日曜日。小雨が地面をぬらす中、小池百合子知事が率いた「都民ファーストの会」の演説会場で、3人の男が顔を合わせた。自民党を離れて「都民」から出馬した陣営の関係者が、「都民」の幹部に対し、業界団体の幹部を紹介していた。

 「都民」の幹部は、選挙戦をシンクロナイズドスイミングに例えて言う。「水面上の華やかさは小池氏が、水面下の話は私が担当。票に直結したかは分からないが、地道に汗もかいている」

 巧みな演説で聴衆を沸かせる「空中戦」が得意な小池氏。その一方で、「都民」の幹部は、自民の基盤となっている業界団体の切り崩しも熱心だった。

 小池氏側に歩み寄った団体もあった。都医師会のある役員は「こんなに話を聞いてくれる知事はいない」と絶賛。「都民」は、都医師会の受動喫煙防止条例の素案を考えた弁護士を候補者に立てた。小池氏も遊説のたびに条例制定の必要性を訴え、蜜月ぶりをアピールした。

 小池氏は選挙期間中、自民の選挙戦術について、本紙の取材に「組織選挙が徹底している。でも、そういう組織って既得権の組織。そういう党に改革はできない」と語っている。だが、「都民」から当選した追加公認を除く四十九人のうち、元自民系の都議や区議、元秘書らは十人を超える。

 小池氏の改革志向は、1992年に発足した日本新党(当時)が出発点だ。金権政治が批判された自民への対抗勢力として、同年の参院選で日本新党から出馬して初当選した。

 ただ、今回の首都決戦を注視してきた元滋賀県知事の武村正義・元新党さきがけ代表は苦笑いする。「ここまで自民党にこだわってきた政治家はいない。離党届を出しても、まだ自民にこだわっている」

 武村氏は93年に日本新党などと非自民の連立政権を誕生させ、自民を下野させた1人。その連立政権は内部から崩れ、翌年6月、新党さきがけと社会党(当時)は自民と連立政権を発足させた。一年足らずで自民を政権に戻した一人でもある。

 九三年に衆院議員にくら替えした小池氏はさまざまな政党を渡り歩き、2002年に自民に。昨年夏の知事就任後は党籍をあいまいにしたまま、「都民」を立ち上げ、離党届を出したのは今年の6月1日だった。

 「ふるい都議会を、あたらしく」。小池氏は都議選の告示日(6月23日)に公認候補50人にげき文を送った。自民が支配していた都議会の改革を訴え続けた小池氏。結果、「都民」は圧勝したが、底流には自民が息づいている。

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