☆3・1独立運動(人民蜂起)

 

3.1独立運動100年

 

日本の植民地であった朝鮮・京城(ソウル)のパゴタ公園で1919(大正8)年3月1日午後2時過ぎ、朝鮮の宗教人らによって起草された「われらはここにわが朝鮮が独立国であることを、及び朝鮮人が自由民たることを宣言する」にはじまる「独立宣言書」が発表され、それを契機に、学生・労働者・市民ら数10万人の民衆が熱狂して「独立万歳」を叫び、反日デモを行った運動をいう。

 

当時日本は、1910(明治43)年8月22日に朝鮮併合(「日韓併合ニ関スル条約」調印=韓国皇帝が、韓国の一切の統治権を永久に放棄、日本国皇帝に譲渡し、それを日本国が受諾して韓国の日本帝国の併合{国際法上、一つの国家が他の国家、またはその領土の一部を自国のものとすること}を承認する⇒大韓帝国李王朝500年の歴史ここに終焉する)して以来の武力による抑圧(弾圧)的な統治政策を行いったが、1911(明治44)年4月17日には土地収用令を制定、多くの農民から土地を奪った。また、朝鮮総督府は日本の会社の権益を擁護するため会社令により、朝鮮の民族産業の発達を阻止していた。そのため生活の基盤を奪われた朝鮮民衆の不満と怒りは頂点に達していた。

 

そのころ、ロシアでは社会主義革命が成功(1917年)、さらに翌1918年1月8日、アメリカでは、ウッドロー・ウィルソン米大統領の民族自決宣言(世界平和のために−第1次世界大戦講和の条件−発表した14か条の一つ)が行なわれた。こうした国際的潮流を背景に朝鮮の人々は、独立運動を展開するところとなる。

 

この運動を3・1独立(反日)運動または万歳事件と呼ぶが、運動は1919年3月下旬から4月下旬にかけて頂点に達する。これに対して日本軍が徹底的な弾圧政策を断行、そのため運動は暴動化し、朝鮮全土に拡大するところとなった。一連の運動の参加者は200万とも1,000万人ともいわれ、日本軍との衝突による朝鮮側の死者は実に7,645人におよんだ。

 

さしもの日本軍もこれに大きな衝撃をうけ、以後、朝鮮統治の方向転換を余儀なくされるのである。

 

外務省文書「不逞(ふてい)団関係雑件」には、「朝鮮の3・1独立運動に立ち上がった人々を教会に閉じこめて火を放って殺した。失火として処理した」と記述されている。

 

3・1独立運動当時の朝鮮総督府政務総監が関東大震災直後の大混乱中で、民衆の不満の矛先が権力側に向けられることを恐れ、朝鮮人暴動なるものを作り出して戒厳令発令による治安を掌握の口実を作り戒厳令を発布したのが、内務大臣・水野錬太郎であり、朝鮮総督府警務局長が内務省警保局長の後藤文夫であった。

 

なお、韓国の盧武鉉大統領は05年3月1日、ソウルで行われた「3・1独立運動」の記念式典での演説で「過去の真実を究明し、心から謝罪し、賠償することがあれば賠償し、そして和解しなければならない」と訴え、日本政府や国民に、日韓和解に向けた「真摯(しんし)な努力」を求めた。日韓基本条約締結(日韓国交回復1965年6月)40周年といったこともあり、演説全体の7割もの部分を日韓関係に割く異例の内容となった。

 

 日本統治下の朝鮮で1919年に起こった3・1独立運動の際に朝鮮軍司令官だった宇都宮太郎大将(1861〜1922。肥前佐賀生まれ。陸軍大学校卒。陸軍大将。桂太郎や仙波太郎とともに陸軍の3太郎と呼ばれた。宇都宮徳馬〈1906〜2000。京都帝大在学中河上肇【はじめ】に師事し、不敬罪で検束され退学となる。1938【昭和13】年にミノファーゲン製薬を設立して社長に就任。1952年衆議院に自民党から立候補して当選【当選10回】。宇都宮軍縮研究室を設立して軍縮や日中友好に尽力した〉の父の15年分の日記など、大量の史料が見つかった。「事実を事実として処分すれば尤(もっと)も単簡なれども」「虐殺、放火を自認することと為(な)り、帝国の立場は甚(はなはだ)しく不利益」となるため、幹部との協議で「抵抗したるを以(もっ)て殺戮(さつりく)したるものとして虐殺放火等は認めざることに決し、夜十二時散会す」(4月18日)。翌19日、関与した中尉を「鎮圧の方法手段に適当ならざる所ありとして三十日間の重謹慎を命ずることに略(ほぼ)決心」等、独立運動への鎮圧の実態や、民族運動家らに対する懐柔などが詳細に記されている。実際、30日間の重謹慎処分となった。旧軍の対外情報活動をはじめ、日本のアジア政策の裏面史を含む貴重な記録である。なお宇都宮は、主に情報収集を任務とし、日露戦争前後に英国で世論工作に携わったほか、辛亥(しんがい)革命では三菱財閥から活動費10万円を提供させ、中国での情報工作費にあてた。なお、日記は「日本陸軍とアジア政策 陸軍大将宇都宮太郎日記」(全3巻)として07年4月以降、岩波書店から刊行される(07年02月28日付『朝日新聞』)

 

 「きょうは三月一日、美わしき故国三千里の山河……」「敵よ立ち去れ 朝鮮独立万々歳」=幕が開く直前に、群衆の歌声が流れる。日本が統治する朝鮮で、1919年の3月1日に起こった反日独立運動3・1独立運動を題材にした戯曲の一節(金南天「3.1運動」『現代朝鮮文学選』創土社)。当時、朝鮮軍司令官だった宇都宮太郎大将の日記などが見つかった。運動を鎮圧する中で起きた虐殺を隠蔽(いんぺい)し、抵抗したために殺害したことにするといった機密が記されている。一方で、朝鮮人の恨みは自然とも書き、民族運動家や宗教者らと意見交換もしていたという(07年03月01日付『朝日新聞』−「天声人語」)

韓国大統領演説の要旨 3・1独立運動記念式典

 

韓国の盧武鉉大統領が06年3月1日、「3.1独立運動」記念式典で述べた演説の要旨は次の通り。

 

1.昨年1年間(歴史や領土問題などをめぐる日本の対応に)大きな変化はなかった。(日本の)指導層の靖国神社参拝は続けられ、侵略戦争で独島(日本名・竹島)を強制的に占拠した日まで記念している。

1.わが国民の立場では、今も日本が侵略と支配の歴史を正当化し、覇権の道を進むのではないかと危惧(きぐ)を抱くのは当然だ。

1.「参拝は戦争反対の決意を固め、他国が干渉することではない」と(小泉首相は)言うが、国家指導者の言葉と行動の意味は当事者自らが釈明するものではなく、客観的に評価されるもの。

1.国家指導者の行為は、人類普遍の良心と歴史の経験に照らして評価しなければならない。

1.日本は既に謝罪をした。われわれは繰り返し謝罪を要求していない。謝罪に合った実践を要求している。謝罪の裏返しとなる行動に反対している。

1.日本が「普通の国」になることを「世界の指導的な国家」になることとするならば、法を変えて軍備を強化することではない。人類の良心と道理に合った行動をして国際社会の信頼を確保しなければいけない。

1.われわれは日本の国民の良心と歴史の大義を信じ、粘り強く説得、要求していく。

(06年3月1日配信『共同通信』)

 

 

3.1独立運動100年

 

三・一運動100年 日韓関係改善の契機に(2019年3月5日配信『北海道新聞』―「社説」)

 

 日本による植民地統治に抵抗し朝鮮半島で起きた「三・一独立運動」から100年がたった。

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は式典の演説で「過去は変えられないが未来は変えられる」として、未来志向で日本との協力を進める考えを示した。歴史問題で日本を直接的な表現で非難することはなかった。

 慰安婦問題を「反人道的な犯罪行為」と断じた昨年とは対照的である。関係改善への意欲を示したと言えよう。

 韓国海軍によるレーダー照射問題や、韓国国会議長による「天皇謝罪要求」もあり、日韓は過去最悪とも言える関係に陥っている。

 これを機に、日韓両政府は対話を重ね、諸懸案の解決に努めてもらいたい。

 韓国各地で1日、デモや行事が相次いで開かれたのは、歴史問題を巡る日本への反発がいまだ根強いことの表れだろう。

 文氏は、植民地支配に協力した「親日の残滓(ざんし)の清算」を進める考えを示す一方で「隣国との外交で葛藤の要因をつくろうとするものではない」とも述べた。

 来年の総選挙を控え、文氏の支持率は低迷している。

 支持層に対日強硬派が多いとはいえ、これ以上の関係悪化は避けたいとの思いが透ける。

 日韓間の懸案である徴用工問題を巡っては、損害賠償訴訟の原告が日本企業の資産を差し押さえ、売却手続きに入る方針を示している。解決を急がねばならない。

 文氏は演説で「力を合わせて(植民地支配の)被害者たちの苦痛を実質的に癒やしたとき、韓国と日本は心の通じる真の友人になる」と述べた。

 ところが韓国政府は日本が求めた協議に応じていない。まずはテーブルに着くべきだろう。

 慰安婦問題も支援財団の解散手続きに入った後、解決策を示そうとしないのは理解に苦しむ。

 一方、日本側も韓国の歴史観をよく知る必要があろう。

 1910年、日本が当時の大韓帝国を併合した後、国際的な「民族自決」の動きの中で、19年に朝鮮半島全土に広がったのが三・一独立運動だった。

 文氏ら革新派はこの年の臨時政府樹立が建国の起源とし、保守派は李承晩(イスンマン)政権樹立の48年と主張する。論争になっているものの、独立の背景にある抗日運動を肯定的に捉える認識では一致している。

 日本側にはこうした韓国の複雑な国民感情を理解した上で、関係改善に努める姿勢が欠かせない。

 

三・一運動100年/「未来志向」は日本も共に(2019年3月5日配信『神戸新聞』―「社説」)

 

 日本の植民地統治下の朝鮮半島で起きた大規模な抵抗運動「三・一独立運動」から1日で100年の節目を迎え、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が政府主催の式典で演説した。

 元徴用工訴訟や韓国軍艦艇のレーダー照射問題などを巡り、日韓関係は悪化している。文氏が演説で対日批判を強める懸念があったが、昨年に比べ抑制的な内容だった。

 印象的だったのは「日本との協力強化」「未来志向」などの言葉が並んだ点だ。関係立て直しの意欲を示すメッセージとも評価できる。日本政府も未来を見据え、隣国との関係改善の糸口を模索すべきだ。

 三・一独立運動は「抗日」のシンボルの一つとされる。日本の強権統治への反発には、大正デモクラシーの父とされる思想家の吉野作造ら日本側の文化人も理解を寄せていた。

 当時読み上げられた独立宣言書は日本を責めるのではなく、共存共栄し、東洋や世界の平和を目指す、という理念を掲げる内容だった。

 圧制下にあっても、宣言書は日本との真の友好を展望していた。100年を機に、日韓両政府は長期的視野に立って両国関係を捉えねばならない。

 今回、文氏が対日批判を抑えたのは、直前の米朝首脳再会談が物別れに終わり、北朝鮮の非核化実現には日本との関係重視が不可欠という現実的な判断もあったのだろう。米国が日韓関係の悪化を懸念している点も念頭に置いたとみられる。

 ただ両国間の関係を根本的に改善するには、戦後処理と真の和解の道が避けて通れない。

 同じ敗戦国であるドイツは、強制労働の被害者への道義的責任を認め官民で基金を設け、戦後補償に取り組んだ。ナチスの非道に真摯(しんし)に向き合おうとする姿勢が国際社会で一定の評価を得ている。

 今年は大阪で20カ国・地域首脳会合が開かれる。こうした機を逃さずトップ会談を設定するなど、「戦後最悪」とされる関係を修復するため積極的な努力を重ねる必要がある。

 東アジア地域の平和と安定をより強固なものにするためにも、日韓は共に次の一歩を踏み出すべきときだ。

 

韓国独立100周年(2019年3月5日配信『宮崎日日新聞』―「社説」)

 

◆日韓の役割振り返る機会だ◆

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が「三・一独立運動」から100年に際した演説で、日本との協力関係強化を表明、直接の対日批判は避けた。冷却化した関係を復元しようとする意欲を示しているとすれば幸いだが、言葉だけでは意味がない。協力姿勢を具体的な行動で示してもらいたい。

 最近の日韓関係は1965年の国交正常化以降、最悪とされる。元徴用工訴訟の賠償命令に基づく日本企業資産の差し押さえや従軍慰安婦問題を巡る日韓合意の事実上の白紙化、海上自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射問題など、摩擦が収拾する兆しはない。

親日派の清算を強調

 韓国国会議長の天皇陛下に謝罪を求める発言も日本の国民感情を逆なでし、事態を一層こじらせた。こうすれば関係は悪化する、という事態が起き続けている。日本は冷静に対応する必要はあるが、いずれの懸案も韓国がいたずらに日本に刺激を与え続けている側面があることは否めない。

 「三・一独立運動」は、日本の植民地統治への代表的な抵抗運動とされているが、当時読み上げられた独立宣言書には、共存共栄や世界平和を目指すとの理念が盛り込まれていた。今日にも通用する精神だ。だが、文政権には独立運動100年を革新勢力の政治基盤を強化する契機として利用しようとする思惑がうかがえる。日本の植民地統治に協力した「親日派の清算」、いわば排除を進めようとしているためだ。

 文大統領は最近の閣議や今回の演説で、「親日派の清算は長く先送りされてきた宿題」と再三強調している。文大統領が清算の対象にしようとする「親日派」は、保守陣営に圧倒的に多い。革新と保守の政争の道具に、「親日派」清算が利用されている。

対北朝鮮で連携必要

 文大統領は現代の知日派と「親日派」を区別しようとはしているが、日本の存在感を排除しようとする弊害が生じる懸念がある。

 実際にソウル市議会では今年に入り、戦時中に韓国人を強制動員したとされる日本企業を、同市や公共機関の備品調達に際した随意契約から除外しようとする条例案を、文政権支持の議員が提出。対象とされる日本企業は約300社にもなるという。議会の審議では「時代錯誤的だ」との批判もあるというが、バランス感覚のある指導力を文政権は見せてほしい。

 2回目の米朝首脳会談は物別れに終わり、北朝鮮の非核化を巡る情勢は再び不透明さが増してきた。緊張した局面が再び訪れないとの保証はない中で、日韓関係の冷え込みが長期化するとすれば、両国にとって益するものは何もない。日韓、そして日米韓の連携を再点検することも必要だ。国交正常化後の日韓関係が、北東アジアの安定と繁栄に果たしてきた役割を冷静に振り返る機会として、独立運動100周年を日韓の指導者が共に考える発想も必要だろう。

 

韓国「三・一」式典 抗日の歴史観拡大を憂慮(2019年3月3日配信『北国新聞』―「社説」)

 

 韓国政府は、1919年の「三・一独立運動」から100年の節目を記念する式典を開催し、文在寅大統領は演説で、朝鮮半島の平和のために「日本との協力を強化する」と強調した。

 日本に対する直接的な批判を避けたのは、南北融和の面から期待した米朝首脳会談が不調に終わり、引き続き日米との連携強化が必要と判断してのことだろう。しかし、日韓両政府間の懸案である慰安婦問題や元徴用工訴訟に関しては、「植民地支配の被害者への実質的な癒やし」を日本に求めるばかりで、韓国政府に日韓合意の履行や訴訟対応を求める日本側の要請にまったくこたえようとしなかったのは残念である。

 日本政府として気掛かりなのは、文氏の演説内容より、日本の朝鮮半島統治に抵抗する「三・一独立運動」が起き、独立運動家が「大韓民国臨時政府」を樹立した1919年を韓国の建国年とする歴史観であろう。

 韓国内では長年、建国の時期をめぐって論争が続いている。保守派は、李承晩が初代大統領に就任した1948年を建国年とし、国際的に認知されている。これに対して、文氏や文政権を支える左派は19年説を主張している。建国の原点を抗日運動に求め、韓国よりも北朝鮮に建国の正統性を認める考え方である。

 歴史観に違いがあるのは当然であるが、文政権の三・一記念式典は、日本の植民地支配に協力した親日派の「清算」を訴える左派の歴史観で、韓国内を染めようという意図が感じられる。

 抗日・反日を建国精神とするような歴史観が広がると、日韓の歴史認識を共有しての融和はますます困難になり、ことあるごとに反日感情が高まるのではないかと憂慮せざるを得ない。

 先に天皇陛下の謝罪に言及し、日本政府に発言の撤回と謝罪を求められた韓国国会議長は「戦争や倫理に関する犯罪に時効はない」と強調している。文氏は演説で、親日派の清算も外交も「未来志向的に成し遂げるべきだ」と訴えたが、未来志向という言葉に説得力は感じられない。

 

3・1運動から100年 相互尊重へ新たな歩みを(2019年3月2日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 日本統治に抵抗して1919年3月1日に朝鮮半島で始まった「3・1独立運動」から100年を迎えた。

 記念演説で、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は「過去は変えられないが未来は変えられる」と未来志向の日韓関係を強調した。歴史問題は間接的に言及するにとどめ、朝鮮半島の平和のため日本との協力を強化する考えを明らかにした。

 1年前の演説で、慰安婦問題について「加害者である日本政府が『終わった』と述べてはならない」と非難したのとは対照的である。

 元徴用工への賠償命令判決や慰安婦問題、韓国艦艇のレーダー照射問題などで国民感情は悪化している。さらに対日批判を強める懸念があったが、関係改善に向けた意欲をにじませたことを評価したい。

 また、文氏はかつて日本統治に協力した「親日派の清算」を掲げるのは民主的な国づくりのためで、「隣国との外交で摩擦の要因を作ろうというのではない」と理解を求めた。 独立運動は民族の誇りを取り戻すための闘いで、100周年を記念するからといって反日機運を高める意図はないということだろう。

 これは前向きに受け止めたい。菅義偉官房長官が「日本語の親日とは意味が異なる」と問題視しない姿勢を示したのは妥当である。

 1919年は、年初に第一次世界大戦の終結に向けたパリ講和会議が始まった年だった。3・1独立運動は、それに先立って米国のウィルソン大統領が民族自決の原則を掲げたことに触発された。

 欧州では国際協調の流れが生まれ始めていたのに、日本は後発の帝国主義国家として潮流を読み誤った。

 それから100年が過ぎた今もなお、日本と朝鮮半島の緊張は続いている。日韓併合に対する異なる歴史観が埋めがたい溝となっている。

 一方で、市民レベルの交流は飛躍的に拡大し、年間1000万人が往来する時代となった。歴史問題での対立とは別次元で、相手国の文化に親しもうという成熟した関係が築かれつつある。

 互いを尊重し、違いは違いとして認める。双方の政治指導者は、こうしたメッセージを発信し続けていくべきだ。それが両国の新たな歩みにつながっていくだろう。

 

韓国はナショナリズム管理を(2019年3月1日配信『日本経済新聞』―「社説」)

 

日本統治下の朝鮮半島で1919年に起きた「3.1独立運動」から、100年がたった。韓国では市民らが当時の運動を模して万歳三唱しながら街を練り歩いた。年内に様々な行事を予定しており、日韓関係への影響が心配だ。

文在寅大統領は1日の演説で「親日残滓(ざんし)の清算」を進めると強調した。日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた最高裁判決や従軍慰安婦問題を念頭に、日韓が力を合わせて被害者の苦痛を癒やすときだとも語った。

一方で、朝鮮半島の平和のため日本との協力を強める考えも示した。文政権は北朝鮮との南北関係を優先し日本との懸案を軽んじてきた。結果、日韓関係は国交正常化以降で最悪といわれる状況にある。それだけに対日批判を全体的に抑制したのは適切だった。

日韓を往来する訪問者数が年間1000万人を突破するなど、民間レベルの結びつきは強まっている。だが最近、韓国の街中では日本語で大きな声を出さないようにしている、という現地駐在員の話も聞く。韓国に拠点を置く日本企業は不安を抱えている。

韓国の教育現場では日本とゆかりのある歴史的文物を撤去する動きもでてきている。政府や自治体などが歴史をめぐる日本との確執をあおり、結果として草の根の交流を支える市民や子どもたちの対日感情が揺さぶられるようなことは、望ましくない。

4月には、日本に抵抗して中国に組織した臨時政府の発足100年、という節目も控える。文政権は北朝鮮の金正恩委員長の早期訪韓も要請中で、民族意識が喚起されやすい。6月に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議を日韓修復の機にできるかは、韓国側の出方によるところが大きい。

米朝首脳会談で合意が見送られるなど朝鮮半島情勢は不透明さを増している。日韓関係の悪化が長期化するのは双方に不利益が大きい。急速な関係改善が見込みにくいなか、韓国政府にナショナリズムの適切な管理を求めたい。

 

3.1運動100年 互いに歴史踏まえたい(2019年3月2日配信『東京新聞』−「社説」)

  

 日本統治時代に朝鮮半島で起きた3.1独立運動から100年。日韓関係は荒波の中にあるが、市民の交流は着実に広がっている。この機会に相互の歴史に向き合い、日韓関係の重要さを再確認したい。

 文在寅(ムンジェイン)大統領が、ソウルで1万人以上を前にして行った演説は、大方の予想より穏やかだった。

 朝鮮半島の平和のため、日本と協力すると表明し、「未来志向」という言葉も使った。

 日韓間の懸案となっている元徴用工を巡る判決などへの直接の言及はなく、昨年の厳しい調子とは、様変わりだった。

 日本との関係改善の意欲を示したメッセージとして、率直に評価したい。日本政府もこの機会を逃さず、対話を重ねてほしい。

 昨年末以降、日韓関係は緊張と対立が続いている。元慰安婦問題、レーダー照射、韓国国会議長の「天皇謝罪要求」発言もあり、政府関係者や政治家同士が批判しあう場面も少なくない。

 しかし、こうした事態が続けば、日米韓の連携が揺らぎ、結果的に、当面の懸案である北朝鮮の非核化にも影響するだろう。

 もともと100年前のこの日、現在のソウルにある公園で読み上げられた独立宣言書は、日本を責めることが本旨ではなかった。

 日本が誤った道にいると指摘し、共に東洋平和を実現しようと呼びかける内容だった。

 日本で学ぶ朝鮮人留学生が先に独立宣言を作成し、3.1宣言に影響を与えたとも伝えられる。

 また大正デモクラシーを代表する思想家の吉野作造や、後に首相となる石橋湛山(たんざん)、民芸の柳宗悦(やなぎむねよし)らの知識人たちが、武力を背景にした日本の統治を批判し、3.1運動への共感を表明していた。

 韓国が誇りにする3.1運動には、日本側からの支援があったことをあらためて想起したい。

 日韓関係の悪化は、冷戦の終結や、韓国の経済力の向上など構造的なものがあると分析されている。今後も、さまざまな摩擦は避けられないだろう。

 しかし、歴史問題が日韓関係を左右する現状はむろん好ましくない。外交、安保、経済上の協力は切り離して対応すべきだ。

 市民同士の交流にも注目したい。日韓両国の年間往来者数は、昨年初めて1千万人を突破した。芸術、文学、医療など市民レベルの協力も広がっている。

 難しい時だからこそ、相互理解を深め、日韓関係を、より重層的なものにしたい。

 

三・一運動100年 「反日」で国をまとめるな(2019年3月2日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 韓国の文在寅大統領が日本の朝鮮統治時代に起きた「三・一運動」から100年の式典で、「歴史の立て直しこそが重要であり、(日本に協力した)親日の残滓(ざんし)の清算が課題だ」と演説した。

 文氏は、対日外交について「未来志向的」であるとしつつ、「力を合わせ(日本統治時代の)被害者らの苦痛を実質的に癒やしたときこそ、韓国と日本は心の通じる真の友人となる」と語った。

 直接的な言葉による日本非難は避けたものの、意味するところは相当強硬である。

 「徴用工」訴訟、慰安婦問題、天皇陛下への謝罪要求、旭日旗の排斥など、韓国側は歴史に由来する問題を数多くつくり出し、日本に突きつけている。

 文氏は、韓国側の主張に日本が従わなければ友好はないと言っているに等しい。韓国だけが問題が解決したかどうかを決める権利があるという論法でもある。未来志向とかけ離れている。

 これほど乱暴な要求を、日本は受け入れることはできない。

 韓国政府が取り組むべきは、「徴用工」問題をめぐり、日韓請求権協定の規定に基づく日本との協議に応じることだ。慰安婦問題は、日韓合意を履行する立場に戻り、ソウルの日本大使館前から慰安婦像を撤去することだ。

 「親日残滓の清算」も異様な言葉遣いだ。隣国英国に統治されたことがあるアイルランドが同種のことを言っているだろうか。

 ソウル市長やソウル市議会は日本製品から韓国製品への代替などを論じている。仮に東京都知事や都議会が韓国製品についてそのようなことを論じたら、大騒ぎになるだろう。それほど異常なことが韓国でまかり通っている。

 日本の外務省は、3月1日に韓国に滞在する日本人旅行者に対して注意を喚起する渡航情報を出さざるを得なかった。

 韓国は戦後独立して久しい。経済は成長し、先進国の仲間入りをした。いつまで「反日」で国をまとめようとするのか。いいかげんやめたほうがいい。

 三・一運動では死者7509人という数字がしばしば引用されるが、海外にいた独立運動家が著書で示した数字であり、根拠は十分でない。断定的に使用するのは疑問だ。朝鮮総督府が村役場ごとに集計した553人とは13倍以上も差がある。検証が必要だろう。

 

(2019年3月2日配信『産経新聞』−「産経抄」)

 

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領がお膳立てしたトランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とのお見合いは今回、不首尾に終わった。文氏が米朝それぞれにささやいた甘い仲人口は、双方の期待をふくらませた分、罪深い。会談後のトランプ氏の記者会見の様子は、すっかり熱が冷めたようだった。

▼「落胆を隠せない」(産経)、「ぼうぜん自失としている」(日経)、「受けた衝撃は大きい」(読売)などと、1日付の新聞各紙朝刊は文政権の動揺を伝えている。うまく運ぶものと勝手に信じ込み、仲人席で米朝国交正常化という華燭(かしょく)の典を見守ることを夢見ていたのだろう。

▼そのためか、1日の文氏の演説は拍子抜けするほどおとなしかった。「三・一独立運動」の100周年記念日という晴れ舞台だというのに、「親日残滓(ざんし)の清算」は訴えたものの、予想された対日批判は影を潜めた。それどころか「朝鮮半島の平和のため、日本との協力を強化する」と言い出した。

▼だが、あちらが破談したからこちらへと、急にすり寄られても困る。日本国民も政府も韓国にはとっくに食傷気味である。「文政権は韓国というより北朝鮮そのものだ。隣の国はないものと思って生きるしかない」。つい最近、外務省幹部はこう漏らした。

▼日本に協力を求めるなら、せめて次のことを実行してから言ってもらいたい。在韓日本大使館前の慰安婦像の撤去、いわゆる徴用工裁判の韓国最高裁判決の無効化、自衛隊哨戒機レーダー照射事件への謝罪、事実をねじ曲げた反日教育の取りやめ…。

▼1990年代、韓国で『日本はない』(田麗玉著)という日本をこれでもかと否定する本がベストセラーになったことがある。当面、小欄も「韓国はない」と思うことにしようか。

 

「三・一運動」100年 未来へ日韓共に粘り強く(2019年3月2日配信『西日本新聞』―「社説」)

 

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領はきのう、「三・一独立運動」100年式典の演説で、日本への直接的な批判を避けた。

 文政権は昨年来、かつてないほど対日批判をエスカレートさせた。このままいけば両国関係だけでなく、日米韓3カ国の連携さえ揺るがしかねない状況の中での判断だろう。自制を利かせたと前向きに捉えたい。

 一方で、日本の植民地支配による被害者の救済を、さらに求めるとも取れる内容も盛り込んだ。今後、具体的にどんな対日政策を取るのか。冷静に考え、行動に移してもらいたい。

 文氏の対日姿勢は、多くの日本人には到底理解しがたいものである。日韓合意に基づく慰安婦財団の一方的解散や、「徴用工」訴訟判決を巡る対応などだ。理解するには、文氏の立脚点を押さえる必要がある。

 文氏は金大中(キムデジュン)、盧武鉉(ノムヒョン)両元大統領の流れをくむ進歩派(リベラル派)だ。日本統治時代と保守政権当時の弊害を除去するという「積弊清算」を掲げる。

 保守派が「主敵」とする北朝鮮との民族融和は優先する。昨年、南北首脳会談開催に続き、初の米朝首脳会談を橋渡しした。そうした成果と自負が、同僚の文喜相(ムンヒサン)国会議長による「天皇謝罪要求」など、極端な言動につながったようだ。

 きのうの演説で特に懸念するのは、「植民地統治に協力した親日派の清算」を掲げたことだ。朴槿恵(パククネ)前大統領など保守勢力を指すとみられるが、突き詰めれば矛先は日本に向くだろう。

 日本側は冷静に対応したい。重要なのは、文政権が今の韓国のすべてではないことだ。保守派のメディアを中心に批判が上がり、景気悪化を背景に政権の支持率も低下している。米国では連邦議会の超党派議員が、東アジアの安定に影響するとして日韓関係の改善を求めた。

 過去にも日韓関係が「最悪」とされた時期はあった。その際、両国民が互いの誤解に気付き心を通い合わせる一助となったのは、韓流や日流と呼ばれる文化の相互理解である。幸い、観光などで両国を往来する人は年間約1千万人に上る。

 むろん、植民地支配で傷ついた民族の自尊心は容易には癒やされないと、日本側は心に刻まなければならない。その上で政府は、歴史的事実に基づく日本の立場を粘り強く韓国と世界に示していくことが重要だ。

 「わが朝鮮国が独立国であることを宣言する」。1世紀前の3月1日、宗教家らが宣言書で高らかにうたった。日本にはアジアの安定に努めるよう促し、自ら「排他的感情」に流れないよう戒めた。狭量な「反日文書」ではなかった史実に学びたい。

 

協力姿勢を行動で示せ(2019年3月2日配信『佐賀新聞』―「論説」)

 

日韓関係

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が「三・一独立運動」から100年に際した演説で、日本との協力関係強化を表明、直接の対日批判は避けた。冷却化した関係を復元しようとする意欲を示しているとすれば幸いだが、言葉だけでは意味がない。協力姿勢を具体的な行動で示してもらいたい。

 最近の日韓関係は1965年の国交正常化以降、最悪とされている。元徴用工訴訟の賠償命令に基づく日本企業資産の差し押さえや従軍慰安婦問題を巡る日韓合意の事実上の白紙化、海上自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射問題など、摩擦が収拾する兆しはなく、拡大し続けている。

 韓国国会議長の天皇陛下に謝罪を求める発言も、日本の国民感情を逆なでし、事態を一層こじらせた。

 こうすれば関係は悪化する、という事態が起き続けているのだ。

 日本は冷静に対応する必要はあるが、いずれの懸案も韓国がいたずらに日本に刺激を与え続けている側面があることは否めない。日本には遠慮なく振る舞っても構わない、というような独善的な考え方が韓国側にあるとすれば、文大統領がいくら協力強化を訴えても事態は改善しない。

 「三・一独立運動」は、日本の植民地統治への代表的な抵抗運動とされているが、当時読み上げられた独立宣言書には、共存共栄や世界平和を目指すとの理念が盛り込まれていた。今日にも通用する精神だ。

 だが、文政権には独立運動100年を革新勢力の政治基盤を強化する契機として利用しようとする思惑がうかがえる。日本の植民地統治に協力した「親日派の清算」、いわば排除を進めようとしているためだ。

 文大統領は最近の閣議や今回の演説で、「親日派の清算は長く先送りされてきた宿題」と再三強調している。文大統領が清算の対象にしようとする「親日派」は、保守陣営に圧倒的に多い。革新と保守の政争の道具に、「親日派」清算が利用されているのだ。

 文大統領は現代の知日派と「親日派」を区別しようとはしているが、日本の存在感を排除しようとする弊害が生じる懸念がある。

 実際にソウル市議会では今年に入り、戦時中に韓国人を強制動員したとされる日本企業を、同市や公共機関の備品調達に際した随意契約から除外しようとする条例案を、文政権支持の議員が提出。対象とされる日本企業は約300社にもなるという。議会の審議では「時代錯誤的だ」との批判もあるというが、バランス感覚のある指導力を文政権は見せてほしい。

 米朝首脳がハノイで行った2回目の会談は、非核化と見返り措置の協議がかみ合わず物別れに終わった。米朝双方とも対話姿勢は維持しているが、北朝鮮の非核化を巡る情勢は再び不透明さが増してきた。緊張した局面が再び訪れないとの保証はない。

 こうした状況で、日韓関係の冷え込みが長期化するとすれば、両国にとって益するところは何もない。日韓、そして日米韓の連携を再点検することも必要だ。

 同時に、国交正常化後の日韓関係が、北東アジアの安定と繁栄に果たしてきた役割を冷静に振り返る機会として、独立運動100周年を日韓の指導者が共に考える発想も必要だろう。

 

文大統領、日韓関係努力アピール 三・一独立運動100年(2019年3月2日配信『東京新聞』)

 

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1日、ソウル市内で開かれた「三・一独立運動」100年の政府式典に参加する文在寅大統領(中)

 

韓国は1日、日本の植民地支配に抵抗して1919年に起きた「三・一独立運動」から100周年を迎え、各地で記念行事を開いた。文在寅(ムンジェイン)大統領は、ソウル中心部の光化門広場での政府式典で演説し、「朝鮮半島の平和のために日本との協力も強化する」と述べ、日韓関係の改善に努力する姿勢をアピールした。 

 文氏は元徴用工訴訟や慰安婦問題など、日韓関係悪化の要因となっている歴史問題について、「力を合わせ、被害者たちの苦痛が実質的に癒やされる時、韓国と日本は心が通じる真の友人になれる」と表現。昨年の演説で慰安婦問題を「反人道的な犯罪行為」としたような直接の批判は避けた。

 演説では「新たな朝鮮半島体制」にも言及した。「これからの百年は、過去とは質的に異なる百年になる」と強調。南北の経済協力を進めるとともに、「統一の準備をしていく」と表明した。

 ハノイで開かれた米朝首脳会談にも触れ、事実上の決裂に終わった結果を「より高い合意に進む過程だと考えている」と評価。「米国、北朝鮮と緊密に協力し、完全な合意を必ず実現させる」と意欲をみせた。金剛山(クムガンサン)観光と開城(ケソン)工業団地の再開を目指し、米国と協議する意向も示した。

 このほか、元慰安婦らが参加した行進や万歳三唱の再現など、さまざまな行事が開かれた。南部の釜山では、市民団体が日本総領事館前で元徴用工像の設置を試みたが警察に阻止され、約100メートル離れた場所に像を置いた。

◆摩擦回避へ批判弱める

 文大統領は演説で、直接的な対日批判はしなかった。元徴用工訴訟や慰安婦問題などで日韓関係は冷え込んでいるが、政策の柱とする南北融和の進展が見通せない中、不必要な外交摩擦は避けたいとの思惑が見える。

 「親日残滓(ざんし)の清算は、長く先送りにされてきた宿題だ」。文氏は演説で、国民にそう語りかけた。韓国で「親日」とは、独立運動家を弾圧するなど日本の植民地支配に協力した人たちを指す。日韓関係ではなく、政治的に対立する保守派勢力を意識した国内向けの発言だ。

 文氏はその上で、「今さら傷をほじくり返して分裂や葛藤を引き起こそうというのではない。親日残滓の清算も外交も、未来志向的でなければならない」と主張した。

 日韓関係について「朝鮮半島の平和のために日韓の関係も強化する」と述べ、関係改善に意欲をみせる一方、「被害者たちの苦痛が実質的に癒やされる時、韓国と日本は心が通じる真の友人になれる」と暗に問題の解決を要求。元慰安婦や元徴用工、世論への配慮もにじんだ。

 演説の後半は、「新たな朝鮮半島体制」の構築に向けた意思表明に費やした。経済政策の失敗で支持率が低迷する文政権にとって、南北融和が最重要課題。これ以上の外交問題を抱えることは政権運営上、得策ではない。国民大の李元徳(イウォンドク)教授は「政権にとっても国民にとっても、南北関係が最も大事な問題。日本への関心は薄い」と指摘する。

 米朝首脳会談の事実上の決裂で、南北融和はさらに見通せない状況となったが、演説文をつくる段階で、すでに日本を刺激する表現は避けるとの判断があったという。

 文氏は演説を通して独立運動の意義を説きながら、南北の経済協力や南北統一にも言及。「南北関係の発展が米国と北朝鮮、日朝関係の正常化につながり、北東アジアの新たな平和安保秩序として広がっていく」と強調した。

 

三・一独立運動の精神継ごう(2019年3月2日配信『しんぶん赤旗』)

 

韓国 記念集会各地で

韓国の首都ソウルでは1日、1919年3月1日に独立宣言書が読み上げられたタプコル公園をはじめ、独立運動家らを収監した西大門刑務所歴史館などで三・一独立運動100年を記念する集会や行進が行われました。憲法前文にも書かれている三・一運動。市民は、民族自決、自由、平等など運動の精神を引き継いでいこうと声をあげました。

 独立運動に参加し、獄中で死亡した柳寛順(ユ・グァンスン)の母校である梨花女子高校の生徒や卒業生は1日午前、ソウル市内で万歳行進を行い、市庁舎前広場の一角で、「梨花独立宣言書」を朗読しました。宣言は、南北のだれもが幸せになれる生活を確保することや、希望と可能性を尊重し自由と人権が保障され、人類の自由、平等、博愛を実践する国、国民をつくることなどをうたっています。

 

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1日、ソウル市内の光化門広場で「国民が導く国」と書いたのぼり旗などを持ち、行進する人たち

 

 参加者の一人、クォン・ヒョンジンさんは「臨時政府の設立につながった独立運動は自主独立、主権在民という精神を呼び起こした」と語り、独立運動を高く評価する必要があると語りました。

 正午になると教会や寺の鐘が一斉に鳴り響きました。7大宗教団体が「正義で平和な国、南北が和解し、ともに繁栄する国の主人公」になることを願い、催したものです。

 当時、独立宣言文が印刷されたとされる貞洞教会では、独立運動を主導した牧師らのパネルを展示。小学2年生の子どもと見ていた女性(38)は、「(前政権を打倒した)ろうそく集会に参加して、声をあげれば社会が変わると思った。植民地という難しい時代に、独立や自由を叫んだ人たちは勇気がいったと思う。子どもにも正しいことは正しいといえるようになってほしい」と語りました。

 午後2時からはソウル中心部の光化門広場で、市民団体や宗教界、労組など約1000団体が参加する実行委員の主催で「3・1運動100年汎国民大会」が開かれ、宣言書の朗読や、歌や踊りが披露されました。

 

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1日、ソウル市内で、三・一運動の精神を引き継ごうと行進する梨花女子高の生徒や卒業生

 

3・1運動100年 「歴史知って」 新宿で日本の加害責任を問う集会(2019年3月1日配信『毎日新聞』)

 

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3・1独立運動から100年に合わせて開かれた集会で、リレートークに耳を傾ける参加者ら=東京都新宿区で2019年3月1日午後7時12分


 朝鮮半島の民衆が日本の植民地支配に抵抗した「3・1独立運動」から100年に当たる1日夜、日本でも過去を反省しようと東京・新宿のアルタ前広場でキャンドル集会が開かれた。日本の加害責任を問う有識者や市民団体の代表らが呼びかけ、約600人(主催者発表)が参加した。
 集会では日本軍「慰安婦」問題や強制連行問題、国の高校授業料無償化措置から朝鮮学校が除外されている問題などに取り組む団体の代表らがリレートークを行い、キャンドルライトなどを手にした市民が耳を傾けた。
 「日本軍『慰安婦』問題解決全国行動」の梁澄子(ヤン・チンジャ)共同代表は「日本の市民は100年前に何が起きたのか、アジア各地の慰安所でなにがあったのかを知らない」と強調。「朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動」の矢野秀喜事務局長は「韓国は植民地主義の清算を呼びかけている。(日本は)今こそこれに応えるべきだ」と呼びかけた。
 隣接した場所では排外主義を唱える団体が集会を開き、「100年前のことはどうでもいい」と訴え、「朝鮮人は朝鮮へ帰れ」などとヘイトスピーチを繰り広げた。

 

31独立運動から100年 文氏、「未来志向」強調し対日批判せず(2019年3月1日配信『毎日新聞』)

 

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3・1運動記念式典会場へ太極旗を手に向かう学生ら=ソウル市内の光化門交差点で2019年3月1日午前10時40分


 日本の植民地支配に抵抗する3・1独立運動が起きて100年を迎えた1日、ソウル市中心部の光化門(クァンファムン)広場で記念式典が開かれ、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が演説した。元徴用工訴訟など歴史問題で日韓関係が悪化する中、対日関係への言及が注目されたが、韓国内の「親日の残滓(ざんし)の清算」の必要性を指摘しながらも、北朝鮮の核問題や南北関係改善などを念頭に日本との協力を強化するとの未来志向の姿勢を強調した。
 文氏は演説で植民地時代の日本による統治によって、独立運動に関わった人たちが「思想犯」として共産主義者とともに弾圧され、そうした後遺症として韓国内の保革対立が深まったなどの認識を示したが、「隣国との外交問題の要因を作ろうということではない」とも強調。現在の日韓関係の悪化を受け、直接的な対日批判は避けた。
 ただ、歴史問題に関連しては「(日本と)力を合わせて被害者の苦痛を実質的に癒やす時、韓国と日本は心の通じる本当の友人になるだろう」とも述べた。元徴用工訴訟問題などが念頭にあるとみられる。
 昨年の就任後初の3・1記念日は「歴史の現場」として抗日運動家らが投獄された「西大門(ソデムン)刑務所」跡で式典を実施し、文氏は演説で慰安婦問題について「加害者である日本政府が『終わった』と述べてはならない」と注文するなど、日本側の対応を批判していた。
 光化門広場は2016年秋に朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾を求めるろうそく集会が開かれた場所で、「主権在民を示す象徴的な場所」(青瓦台副報道官)との理由で選ばれた。参加者は正午に一斉に万歳を叫び、100年前の3・1運動を再現した。

 

(2019年3月1日配信『信濃毎日新聞』―斜面」)

 

<来(きた)る者は拒まず>を地で行くような夫婦だった。新宿中村屋を創業した安曇野出身の相馬愛蔵と黒光(良)である。1910年代、インド独立運動の指導者ボースやロシアの盲目の詩人エロシェンコらを当局の意に反してかくまった

   ◆

1919年2月下旬、林(リン)と名乗る朝鮮人が相馬家で働くめいを頼って訪ねてきた。夫妻は林をしばらく滞在させる。3月1日、日本が植民地支配していた朝鮮半島で独立運動が始まる。独立万歳を叫ぶ民衆を軍部などが武力弾圧し、多数の犠牲者が出た

   ◆

同月4日、刑事がやってきた。林の存在には気付かず引き揚げた。黒光の自伝「黙移」によれば、間もなくして帰途に就いた林は東京駅で逮捕された。黒光は林が独立運動に関わっていたことを初めて知る。中村屋の2階は「万歳事件の策源地」と世間に誤って伝えられたという

   ◆

 3.1独立運動から今日で100年。朝鮮半島と日本の間にはいまだ深い溝が横たわる。歴史認識のずれが生むマグマはことあるごとに噴き出す。特に日韓関係は元徴用工訴訟やレーダー照射などの問題が相次ぎ、65年の国交正常化以来、最悪とされる

   ◆

中村屋は印度式カレーやロシアのボルシチを看板メニューに加えていった。相馬夫妻の国際交流を調べた安曇野の研究者は「懐の深さ」を2人に感じるという。多様な文化を受け入れて弱き者を助けた。責め合うばかりの日韓の政治家にそんな懐の深さを求めるのは無い物ねだりだろうか。

 

平等と民族自決(2019年3月1日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 日本の植民地統治からの解放を訴え、1919年3月1日に始まった朝鮮の「3.1運動」からきょうで100年。独立を訴える人々が各地で配った「独立宣言書」は人類が平等であり、民族自決の権利があることを強調していた

▼宣言書は朝鮮が独立することで日本とも正しい友好関係が築けると訴えた。だがデモが朝鮮全土に及ぶと日本の朝鮮総督府は警察だけでなく軍隊を投入し、銃撃を加えるなどして弾圧した。犠牲者は7千人を超えたとの説もある

▼韓国では今年、100周年行事が各地で行われている。一方で日韓関係は混迷を深めている。元徴用工訴訟の判決、天皇陛下に慰安婦問題への謝罪を求めた韓国国会議長発言などが相次いだ

▼日本による植民地支配に端を発する問題だが、日本政府は反発を強める一方だ。文在寅(ムンジェイン)大統領は1月、元徴用工問題の根源を「韓国政府がつくったのではなく、過去の不幸な歴史のためにつくられた」と指摘した

▼韓国では「3・1運動」を1980年の光州事件や87年の「6月民主抗争」など、独裁政権からの解放を求めた運動と結びつけ、民主主義の大切さを考える動きがある

▼琉球併合、同化政策、沖縄戦、米統治。抑圧と抵抗の歴史は韓国と沖縄に共通している。隣国の節目を機に100年前の独立宣言書にある人類の平等、民族自決の大切さをあらためてかみしめる。

 

朝鮮3.1運動100年(2019年3月1日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

歴史の過ち直視し未来志向へ

 100年前の1919年3月1日、日本の植民地支配下にあった朝鮮の京城(現・ソウル)で独立宣言書が発表され、街頭で「独立万歳」を叫ぶ示威行動が全土に広がりました。「3.1独立運動」です。宣言書は、独立が民族自決の正当な権利であるだけでなく「東アジアの平和を重要な一部とする世界の平和、人類の幸福に必要となる階段」であり、「日本を正しい道に戻して、東アジアを支えるための役割を果たさせようとするもの」と強調しました。3.1独立運動は、日本との真の友好と平和のための協力に向けた展望までも先取りしたことを示しています。

国民間の理解と交流深め

 3.1独立運動は激しい弾圧を受けましたが、45年の日本の敗戦による朝鮮の解放、65年の日韓国交正常化を経て、98年に金大中(キム・デジュン)大統領と小渕恵三首相が発表した「日韓パートナーシップ宣言」で3.1独立運動が示した展望は実現へ大きな一歩を踏み出しました。植民地支配に対する「痛切な反省と心からのお詫(わ)び」を日韓の公式共同文書として初めて明記するとともに、「和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させる」ことを約束したのです。

 日本が歴史の過ちを直視した上で、友好と協力を深めようと合意したという点で、真の「未来志向的な関係」に向かう出発点に立った画期的な共同宣言でした。

 しかし、日本の首相や閣僚による靖国神社参拝、日本軍「慰安婦」に加え、最近では徴用工問題が浮上し、歴史問題が日韓関係をこじらせています。日本政府は65年の日韓請求権協定、2015年の「慰安婦」問題についての日韓外相合意を挙げて、植民地支配下の朝鮮半島出身者の被害は全て「解決済み」の一言で片づける態度です。

 政府間の外交合意があるとはいえ、被害者一人ひとりが抱える深刻な心の傷を癒やしてこそ「解決」と言えるはずです。日本政府の姿勢は、そこからかけ離れていると言わざるを得ません。

 政府間関係が冷え込んでいる一方、国民レベルの交流と相互理解は著しく進展しています。「韓流」はすっかり日本に定着し、世界的スター「防弾少年団(BTS)」が昨年11月から日本で行った9公演には、38万人のファンが詰めかけました。韓国の最大手書店で09年から10年間に最も売れた小説は東野圭吾の127万部、2位は村上春樹の100万部です。昨年、訪韓した日本人は295万人、訪日した韓国人は753万人、初めて合計1000万人を超えました。

 日韓パートナーシップ宣言が指摘している通り、「政府間交流にとどまらない両国国民の深い相互理解と多様な交流」が日韓協力の基礎になります。

協力し平和への大転換を

 困難を抱えつつも朝鮮半島で平和への激動が始まりました。朝鮮半島の非核化、恒久的な平和の構築が進めば、戦争の脅威にさらされてきた北東アジアは、平和と繁栄の地域へと一変します。3.1独立運動が目指した「東アジアの平和を重要な一部とする世界の平和」への旅程が始まろうとしています。日韓両国政府も協力して、北東アジアの平和と安定に向けた大転換を促進すべきときです。3.1独立運動100年を機に、日本政府が歴史を直視する誠実な姿勢を取り戻すことを求めます。

 

(2019年3月1日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

沈黙のパートナー。100年前、第1次世界大戦を終わらせるために開かれたパリ講和会議。戦勝国の一員として国際舞台に登場した日本はそう呼ばれました

▼米英仏が主導した会議ではほとんど発言できず、存在感の薄さが際立ちました。その後、秩序づくりに腐心する国際社会からも外れ、アジアへの侵略をいっそう加速させていきました

▼独立万歳(トンニプマンセー)! 1919年3月1日、日本の植民地支配下にあった朝鮮で独立運動がわき起こります。ソウル中心部にある公園では宣言書が読み上げられ、運動は日本の憲兵や軍による激しい弾圧にあいながら瞬く間に全土にひろがっていきました

▼のちに、この運動について韓国を代表する詩人の金芝河(キム・ジハ)が語っています。「あの日、私たちは、あなたたち日本民族を単に仇敵(きゅうてき)として復讐(ふくしゅう)しようとしたのではなく、残忍無道な加害者であるあなたたち日本民族をも同時に救うことを念じたのです」

▼民族の自決や人類の平等、東アジアの安定を求めた独立宣言から1世紀。いま日韓の両国関係は冷え込んでいます。根っこにあるのは、歴史の過ちを省みない安倍政権の姿勢です。「未来志向」をいいながら平和への動きのなかでも孤立しています

▼現代によみがえる宣言書は高らかに。「武力をもって人びとを押さえつける時代はもう終わりである。過去のすべての歴史のなかで、磨かれ、大切に育てられてきた人間を大切にする精神は、まさに新しい文明の希望の光として、人類の歴史を照らすことになる」

 

朝鮮独立運動100年 感情に走ると道を誤る(2019年2月28日配信『徳島新聞』―「社説」)

 

 あす3月1日は、韓国にとって特別な日だ。日本の植民地支配に抵抗して起きた「3.1独立運動」の記念日である。今年は100年の節目を迎える。

 文在寅大統領はこのタイミングをとらえ、国民に民族主義を鼓舞している。反日カードを南北融和政策への追い風にしようとしている。

 ベトナムで始まった米朝首脳再会談の推移と同様、3.1を巡る動向は、日本と朝鮮半島との関わりに大きな影響を与えかねない。

 文政権の反日一辺倒には首をかしげざるを得ないが、わが国の安全保障上、日米韓の連携が不可欠なのも事実である。北朝鮮の非核化、拉致問題の進展に向け、無視できない隣国だ。

 「売り言葉に買い言葉」のごとき感情的対立に陥ってはならない。国益を見据えた怜悧な視点が必要だ。

 3.1運動は1919年、日本統治下のソウルで起きた。学生や民衆が独立宣言を発表。示威行動は朝鮮全土に広がり、朝鮮総督府が鎮圧した。この運動の位置づけは、保守派の朴槿恵政権から進歩派とされる文政権になって、大きく変わった。

 最大の違いは、建国の時期に関わるものだ。戦後の大韓民国誕生(1948年)を建国とするのがそれまでの常識だが、文政権は、独立運動を受けた上海での「臨時政府樹立」(19年4月)を現国家の始まり、とみなす。この理屈によると、以降の日本統治はすべて「不法」となる。

 元徴用工訴訟の韓国最高裁判決でも、「植民地支配に直結した不法行為だから、慰謝料を出すべきだ」との論理が採られ、個人の損害賠償請求権は日韓協定の対象外としている。

 文大統領は、3.1を前に独立運動家の記念館で閣議を開き祝賀ムードを演出。独立運動について「私たちの誇らしい歴史であり、今日の韓国をつくる根っことなった」と自らの歴史観を表明した。

 その前には、伊藤博文・初代韓国統監を暗殺した安重根の墓を参拝している。

 100周年を前に、独立運動家を英雄視する映画やテレビドラマが次々と放映されており、対日感情の動向も楽観できない。「登場人物の描き方が日本を美化している」との抗議で、修正を迫られたドラマもあった。

 韓国からの訪日客は昨年753万9千人。中国に続く2位で、人口を加味すれば、実質トップだ。日本でも根強い韓流ブームが続き、若い世代を中心に、互いの好感度も上昇傾向にある。そこに冷水を浴びせる政治対立である。

 日本でも今春は、皇室の代替わりや改元などの祝賀行事や式典が相次ぐ。互いの国民感情に火が付くような事態は避けたい。

 レーザー照射問題のような、軍事的な面で偶発的な出来事が起きないか、気掛かりだ。安全保障上の不信感が生まれると修復は難しい。

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