第4次安倍改造内閣と改憲問題

 

9条改憲首相案支持40% 安倍政権下54%反対

  

 共同通信社は20194月10日、憲法記念日の5月3日を前に郵送方式で実施した憲法に関する世論調査の結果をまとめた。9条改正について、戦力不保持と交戦権否認を定めた2項を維持したまま自衛隊を明記する安倍晋三首相案を支持したのは40%にとどまった。安倍政権下での改憲には反対54%、賛成42%だった。国民の理解が深まっているとは言えない現状が明らかになった。

 9条改正自体の賛否を聞いた設問は「必要はない」47%、「必要がある」45%と回答が二分。必要と答えた人に理由を聞いたところ、首相が主張する「自衛隊は憲法違反との指摘があるから」を選んだ人は26%に限られた。

 

記事

 

玉城デニー沖縄知事選圧勝と辺野古問題

 

第197回国会における安倍内閣総理大臣所信表明と代表質問(2018年10月24日・29日30日)

 

【自民党大会】「改憲4項目」条文素案全文(2018.3

 

【9条改正】

 第9条の2

 (第1項)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。

 (第2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

 (※第9条全体を維持した上で、その次に追加)

 

【緊急事態条項】

第73条の2

 (第1項)大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。

 (第2項)内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。

 (※内閣の事務を定める第73条の次に追加)

 第64条の2

 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。

 (※国会の章の末尾に特例規定として追加)

 

【参院選「合区」解消】

 第47条

 両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる。

 前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

 第92条

 地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本とし、その種類並びに組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。

 

【教育の充実】

 第26条

 (第1、2項は現行のまま)

 (第3項)国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない。

 第89条

 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

 

辺野古への移設方針「見直し必要」55% 朝日世論調査

 

(2018年10月24日配信『東京新聞』)

 

 

第197回国会における安倍内閣総理大臣所信表明と代表質問(2018年10月24日・29日30日)

 

第百九十七回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説(2018年10月24日)

 

国の理想を語るものは憲法です。憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の皆様の理解を深める努力を重ねていく。そうした中から、与党、野党といった政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られると確信しています。

 そのあるべき姿を最終的に決めるのは、国民の皆様です。制定から七十年以上を経た今、国民の皆様と共に議論を深め、私たち国会議員の責任を、共に、果たしていこうではありませんか。

 

【衆院本会議】枝野幸男立憲民主党代表が安倍総理の所信表明に対し代表質問(2018年10月29日)

【憲法】

 総理は所信表明で「国の理想を語るものは憲法」とおっしゃいました。

 しかし、憲法は、総理の理想を実現するための手段ではありません。憲法の本質は、理想を語るものでもありません。確かに形式的意味の憲法に理想を語っているとも読めるプログラム規定が含まれることはありますが、憲法の本質は、国民の生活を守るために、国家権力を縛ることにこそあります。

 総理の勘違いは今に始まったことではありませんが、ここでもう一度、申し上げます。総理、憲法とは何か、一から学び直してください。「国家権力の正当性の根拠は憲法にあり、あらゆる権力は憲法によって制約、拘束される」という立憲主義を守り回復することが、近代国家なら当然の前提です。憲法に関する議論は、立憲主義をより深化・徹底する観点から進められなければなりません。憲法を改定することがあるとすれば、国民がその必要性を感じ、議論し、提案する。草の根からの民主主義のプロセスを踏まえて進められるべきであり、縛られる側の中心にいる総理大臣が先頭に立って旗を振るのは論外です。

 

              玉木雄一郎国民民主党代表の安倍総理の所信表明演説対し代表に対する代表質問                                                            

 

憲法の「平和的改憲」 

次に、憲法について伺います。本年1月の代表質問で、安倍9条改憲案について質問しましたが、総理は「自衛隊の任務や権限に変更が生じることは無い」と答弁しました。しかし、総理、この答弁は国民を欺くウソです。事実、今春に示された自民党の改憲案は「必要な自衛の措置をとることを妨げず」としています。このことで、いわゆる72年見解に示された「必要最小限度」という制約がなくなり、何の限定もない集団的自衛権の行使さえできる可能性があります。「自衛権」の範囲を大幅に拡大する改憲案を作っておいて「何も変わらない」と言い切るのはウソつきであり、こうした誤魔化しの9条改憲案に、国民民主党は反対です。総理、それでもなお「何も変わらない」と言い切れますか。お答えください。他方、現行9条は、高い理想を掲げている一方で、権力の付け入る「隙」のある条文でもあります。すなわち、時の政権の解釈で自衛権の範囲が自由に伸び縮みする余地があり、軍事的公権力の行使をしばる「規範としての力」が弱いからです。それは、安保法制の議論の際、9条があっても、地球の裏側で武力行使できる憲法解釈の変更を防ぎきれなかった事実からも明らかです。そこで、自衛権の範囲を憲法上明確にし、平和主義を国民自身の手によって定義する「平和的改憲」を議論していくべきと考えます。すなわち、先の大戦の教訓と、憲法の平和主義の原則を踏まえ、例えば、武力行使の三要件を一つのベースにして、「我が国にとっての急迫不正の侵害がある場合であって、これを排除する他の適当な手段がない場合には、必要最小限度の実力行使が可能である」と憲法に明記し、海外派兵はしない、他国の戦争に参画することはないことを条文上明らかにする。これこそが、立憲主義に魂を吹き込む正しい改憲の方向性だと考えます。「制約のない自衛権」を掲げる自民党案と、平和主義に整合的な「制約された自衛権」を掲げる案とを比較して議論をすれば、自民党の憲法「改悪」案の問題点が国民に浮き彫りになるでしょう。ただし、憲法改正は国民の広範な理解と協力が大前提です。自民党には、数に驕ることなく少数派の意見にも耳を傾けながら丁寧に議論を進めることを強く求めます。その意味でも、憲法審査会において、まずは、国民投票法について議論を行い、とりわけ、CM・広告規制を導入することが、憲法改正案の中身について議論する大前提であり条件です。国民投票法にCM・広告規制を盛り込むことについて総理の見解を求めます。 

 

第197回国会における稲田朋美筆頭副幹事長質問

 

六.憲法改正について

現行憲法は、占領下に制定されました。法治国家の基本法たる憲法が、主権が制限されていた時代に作られたことは厳然たる事実です。一方で現行憲法の下で戦後の平和で豊かな日本が築かれてきました。

わが党は「憲法の自主的改正」を党是とする改憲政党です。総理は自民党総裁として、憲法改正を「歴史的チャレンジ」と位置づけ、憲法9条改正の方向性も示されました。

憲法9条については2項を維持することによって、集団的自衛権はフルサイズでは認めないが、自衛隊を明記することによって自衛隊違憲論に終止符を打つ、ということだと理解しています。

私も防衛大臣時代に南スーダンを視察しましたが、気温50度を超える灼熱の地で黙々と道路や施設を補修する自衛隊員の姿は現地の人々や世界から賞賛されていました。

自衛隊の、現地の方々に寄り添った、誠実で丁寧で親切な活動はまさに「日本らしい」ものとして誇りに感じます。災害において自らの危険を顧みず救助、復興作業に当たっているのも自衛隊の皆さんです。

 自衛隊を誰からも憲法違反などとは言わせない、そのためにも憲法改正は急務だと思いますが、総理のご所見を伺います。

  

 

 

【政界徒然草】参院憲法審は開かれるのか 衆院側「苦労しても廃案に…」(2019年5月14日配信『産経新聞』)

 

 衆院憲法審査会は9日、憲法改正の是非を問う国民投票でのCM規制のあり方をめぐり参考人質疑を行った。憲法審での実質的な議論は衆参両院を通じて1年3カ月ぶりで、与党は国民投票法改正案の成立に意欲をみせる。ただ、ここにきて衆院側から、改正案を次に議論する参院憲法審の「受け入れ態勢」を懸念する声が出始めた。参院側は与野党合意のもとで参院へ送付するよう求めており、このままでは事実上、今国会での成立は難しい。

 9日の衆院憲法審では、CM規制のあり方について日本民間放送連盟(民放連)幹部から意見聴取が行われ、民放連は国民投票法が求める「表現の自由」に抵触するとして、CM量の自主規制はできないとの考え方を表明した。

 国民投票法にはCM費用の上限規制がないため、野党側は政党や団体の資金力によりCM量に差が生じ、投票の公平性が損なわれると規制を求めている。

 一方、継続審議となっている国民投票法改正案は、デパートなどへの共通投票所の設置など、平成28年に改正された公職選挙法と同様に有権者の投票機会を確保し、利便性の向上を図る目的だ。今回の憲法審でテーマとなったCM量の規制は含まれていない。

 立憲民主党や国民民主党も改正案の内容には反対していないため、与党は9日の憲法審に先立つ幹事会で16日中に採決するよう提案したが、野党は回答を保留した。

 ようやく正常化した衆院憲法審に比べ、出遅れているのが参院憲法審だ。今国会に入って一度も開かれていないばかりか、憲法審の前段となる幹事懇談会も開催されていない。

 ある与党幹部は「衆院で苦労して参院に改正案を送っても、参院が開かれなければ廃案になるだけだ」と懸念を深める。

 さらに別の幹部は「夏の参院選を前に、憲法改正が争点化するのを避けたいと思っているのは、公明党だけではなく、自民党も同じだ」と語り、参院憲法審の遅れには政局的な側面があると分析する。

 一方、参院の与党幹部は、国民投票法改正案を成立させるには「衆院で煮崩れしないことが前提だ」と反論する。

 9日の衆院憲法審では、立憲民主党の枝野幸男代表が、平成19年の国民投票法成立時に民放連が「CM量を自主規制する」と述べていたことを引き合いに出し、国民投票法の前提が崩れたとして「現行は欠陥法だ」と批判。現行の国民投票法の制定に関わった枝野氏自身と、当時与党側の責任者だった自民党の船田元衆院議員を憲法審の参考人として呼ぶよう求めた。

立憲民主党や国民民主党も改正案の内容には反対していないため、与党は9日の憲法審に先立つ幹事会で16日中に採決するよう提案したが、野党は回答を保留した。

 ようやく正常化した衆院憲法審に比べ、出遅れているのが参院憲法審だ。今国会に入って一度も開かれていないばかりか、憲法審の前段となる幹事懇談会も開催されていない。

 ある与党幹部は「衆院で苦労して参院に改正案を送っても、参院が開かれなければ廃案になるだけだ」と懸念を深める。

 さらに別の幹部は「夏の参院選を前に、憲法改正が争点化するのを避けたいと思っているのは、公明党だけではなく、自民党も同じだ」と語り、参院憲法審の遅れには政局的な側面があると分析する。

 一方、参院の与党幹部は、国民投票法改正案を成立させるには「衆院で煮崩れしないことが前提だ」と反論する。

 9日の衆院憲法審では、立憲民主党の枝野幸男代表が、平成19年の国民投票法成立時に民放連が「CM量を自主規制する」と述べていたことを引き合いに出し、国民投票法の前提が崩れたとして「現行は欠陥法だ」と批判。現行の国民投票法の制定に関わった枝野氏自身と、当時与党側の責任者だった自民党の船田元衆院議員を憲法審の参考人として呼ぶよう求めた。

 

“憲法改正めぐる萩生田発言” 野党反発 協議見送り(2019年4月18日配信『NHKニュース』)

 

憲法改正をめぐって自民党の萩生田幹事長代行は、野党側の理解が得られなくても衆議院憲法審査会の開催を検討すべきだという考えを示しました。野党側はこれに反発し、18日の与野党の筆頭幹事による協議は見送られました。

自民・公明両党は衆議院の憲法審査会を早期に開催し、国民投票法の改正案の審議を進めたい考えですが、野党側と調整がつかず開催の見通しは立っていません。

これに関連して、自民党の萩生田幹事長代行はインターネット番組で「この状況を国民は望んでいない。審査会長の判断で開催できるので、これまで丁寧にやってきたが、やるしかないところまで来ている」と述べました。

 そのうえで「新しい時代になったら、自民党は少しワイルドな憲法審査を進めていかないといけない」と述べ、来月以降、野党側の理解が得られなくても審査会の開催を検討すべきだという考えを示しました。

 萩生田氏の発言を受け、衆議院憲法審査会の野党側の筆頭幹事を務める立憲民主党の山花憲法調査会長は「信頼関係が崩れた」などとして与党側の筆頭幹事との協議に応じませんでした。

 山花氏は記者団に対し「萩生田氏には、発言の撤回なり、謝罪なり、けじめをつけてもらわないといけない。幹事長代行は責任のある立場のはずで話は重大だ」と述べました。

 

衆議院憲法審査会 3週連続で懇談会見送り(2019年4月10日配信『NHKニュース』)

 

衆議院憲法審査会の開催に向けて、自民党の森英介会長は、日程を協議する懇談会を開くよう改めて呼びかけましたが、立憲民主党や国民民主党などは応じませんでした。

憲法改正をめぐって、自民・公明両党は、衆議院憲法審査会を早期に開催し、国民投票法の改正案の審議を進め採決したい考えですが、野党側と調整がつかず、審査会の日程を協議する懇談会は開かれていません。

衆議院憲法審査会長の自民党の森英介氏は、11日にも審査会を開催したいとして、10日、与野党の幹事らに改めて懇談会での日程協議を呼びかけました。

これに対し、自民・公明両党と日本維新の会や希望の党は応じたものの、立憲民主党や国民民主党などは、与野党の合意がなく環境が整っていないとして応じませんでした。

このため、懇談会は3週続けて見送られ、審査会開催の見通しは立たないままです。

自民 新藤元総務相「極めて遺憾な状態」

衆議院憲法審査会の与党側の筆頭幹事を務める自民党の新藤元総務大臣は、記者団に対し、「残念で、極めて遺憾な状態だ。国民投票法の改正案は、趣旨説明を行ってから3国会目に入っており、採決に向けて準備は整っている。何としてもいい形を作りたいので、引き続き野党側に申し入れ、まずは懇談会を開いて話し合いをしたい」と述べました。

立民 山花憲法調査会長「環境が整わず」

衆議院憲法審査会の野党側の筆頭幹事を務める立憲民主党の山花憲法調査会長は記者団に対し、「与党側から、また幹事懇談会を開くと連絡があったが、本来、合意して立てるべきところをそうではない形が続いているので、環境が整っていないと判断している。改めて抗議し、しっかりとした環境整備を求めたい」と述べました。

維新 馬場幹事長「大義名分がない」

日本維新の会の馬場幹事長は記者会見で、「与党側の筆頭幹事は、丁寧に時間をかけて、野党側の筆頭幹事と話をしてきたと思う。国会のすべての委員会が動いているのに、なぜ憲法審査会だけ開けないのか、大義名分がないのではないか。わが党が主張する教育の無償化と統治機構の改革などをさらに精緻なものにして、憲法審査会に提出できるよう、準備を行いたい」と述べました。

 

安倍首相また国会で赤っ恥「法の支配」の対義語を知らず(2019年3月7日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 また、安倍首相が国会で“無知”と“無教養”をさらし、赤っ恥をかいた。

 6日の参院予算委員会。立憲会派の小西洋之参院議員から、「“法の支配”の対義語は何か」と問われ、まったく答えられなかったのだ。

 質問された安倍首相は、チンプンカンプンだったのだろう。答えられないから答弁に立てず、しばらく椅子に座ったまま。結局、「まさに、この反対語と言うよりも、法の支配、え、ということを申し上げているのはですね、いわば、あーこのー、この海、、、繁栄の海……」などと、シドロモドロになり、最後まで“法の支配”の対義語は答えられずじまいだった。

 作り笑いでごまかしていたが、心臓がバクバクしているのが、外からも明らかだった。

 呆れた小西議員が、「“法の支配”の対義語は、憲法を習う大学1年生が初日に習うことですよ。法の支配の対義語は“人の支配”です」と教えていた。

無知をバラされたのがよほど悔しかったのか、小西議員に対し「人格的な批判だ。将来を思えばそういうことは控えられた方がいいのでは」と負け惜しみを口にしていた。

 しかし、“法の支配”や“人の支配”といった基礎的な概念さえ知らず、よくも改憲を口にできたものだ。

 さすがに、ネットでは、「笑ってごまかす総理大臣」「答えは“人による支配”すなわち、いまおまえがやっていることだよ」「ひでえなぁ。法学部出たのに、法の支配⇔人の支配も分からない。国会議員で首相だぞ」「なんで法の支配の“対義語”を問われて<海が〜>と迷走答弁すんだ、安倍首相は?」と、批判が殺到している。

 九大名誉教授の斎藤文男氏(憲法)がこう言う。

「法の支配の対義語を知らないということは、“法の支配”の正しい意味も知らないのでしょう。これは恐ろしいことですよ。英語でも“ルール・オブ・ロー”と“ルール・オブ・マン”という対義語があります。恐らく、安倍首相は立憲主義の意味も理解していないのでしょう。法は国民を支配する道具だと考えているのではないか」

 この男にだけは、改憲をさせてはいけない。

 

自民、改憲「Q&A」配布(2019年2月24日配信『しんぶん赤旗』)

 

安倍首相の妄執 国会議員動員

 自民党の改憲条文素案について、同党が一問一答形式の資料を作成し党所属国会議員に配布したことが23日、分かりました。素案は安倍晋三首相のもとで同党がまとめており、9条への自衛隊明記など4項目の改憲を提案しています。9条改憲に固執する安倍首相のもと、同党が改憲策動の巻き返しを強めていることが鮮明になりました。

 

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 資料の題名は「日本国憲法改正の考え方 『条文イメージ(たたき台素案)』Q&A」で、同党憲法改正推進本部が作成。表紙、目次を含め全15ページで、素案への疑問に答える体裁です。関係者によると同党所属の国会議員事務所に20日ごろ配布されました。

 Q&Aは、(1)9条への自衛隊明記の理由(2)緊急事態条項の導入(3)参議院の合区解消(4)教育の充実―の4項目でまとめています。

 焦点の9条について素案は、「必要な自衛の措置をとることを妨げず」「内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」という条文を加えます。この追加についてQ&Aは、「自衛権行使の範囲を含め(中略)これまでの憲法解釈についても全く変えることなく」と説明しています。

 しかし戦力不保持と交戦権の否認を明記した憲法に自衛隊を書き込めば、9条の空文化につながり、海外での武力行使が無制限になってしまいます。

 安倍首相は昨年、憲法審査会を動かして自民党の「素案」をもとに自民党案を提示しようと画策したものの失敗。今年に入って巻き返しに出ています。

 1月23日に、全国にある衆院小選挙区支部のすべてに「憲法改正推進本部」の設置を急ぐよう文書で党国会議員、都道府県連に通知。今月9日には党国会議員に、自民党改憲の考えを記した「憲法ビラ」を配布しています。

 安倍首相も自民党大会(10日)で市町村の「6割以上が(自衛隊員募集の)協力を拒否している」などと主張し、憲法に自衛隊を明記しようと呼びかけました。若者の名簿を強制的に集めることが、9条改憲の狙いの一つであることを“告白”しています。自民党政調会は、これに呼応して14日に党国会議員に文書を出し、地元自治体が自衛隊募集に協力しているか確認するよう“圧力”をかけています。

 

 

安倍首相「亥年」決戦へ決意―憲法改正実現目指す・自民党大会(2019年2月10日配信『時事通信』)

 

自民党大会で演説する安倍晋三首相。4月の統一地方選と夏の参院選が重なる12年に1度の「亥(い)年選挙」に向け、「厳しい戦いになるが、まなじりを決して戦い抜く先頭に立つ決意だ」と述べ、結束を呼び掛けた。

 自民党は10日、第86回定期党大会を東京都内のホテルで開催した。安倍晋三首相(党総裁)は演説で、4月の統一地方選と夏の参院選が重なる12年に1度の「亥(い)年選挙」に向け、「厳しい戦いになるが、まなじりを決して戦い抜く先頭に立つ決意だ」と述べ、結束を呼び掛けた。憲法改正の実現にも改めて意欲を示した。

 亥年選挙では、自民党は統一地方選による「選挙疲れ」から参院選でしばしば苦戦している。首相も第1次政権時の2007年参院選で惨敗し、その後の退陣につながった。首相は「私の責任であり、片時たりとも忘れたことはない」と振り返り、必勝を期す方針を示した。

 改憲について、首相は「いよいよ立党以来の悲願である憲法改正に取り組むときが来た」と表明。「憲法にしっかり自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打とう」と力を込めた。 

 

安倍首相 改憲呼びかけ(2019年1月31日配信『しんぶん赤旗』)

 

自衛隊明記へ“自作自演”

 安倍晋三首相は30日の衆院本会議で「すべての自衛隊員が強い誇りを持って任務をまっとうできる環境を整えることは今を生きる政治家の責任だ」などと述べ、憲法99条の「憲法尊重擁護義務」や、三権分立の原則に違反する形で憲法9条への自衛隊明記の改憲を国会議員に呼びかけました。自民党の二階俊博幹事長への答弁。

 憲法改定の考え方を問われた安倍首相は「内閣総理大臣としてお答えすることは本来差し控えるべきだが『わたしの気持ちを述べよ』とのことなので丁寧にお答えさせていただく」と改憲発言を正当化。28日の施政方針演説でほとんどふれなかった首相の9条改憲案について、自民党の代表質問に答える“自作自演”の形で、約22分の答弁のうち4分半を費やしました。

 安倍首相は「自衛隊に関するいわれなき批判や、反対運動、自治体による非協力な対応がある」などと発言し、「一部の自治体が自衛隊員の募集実施を拒否し、受験票の受理さえおこなっていない」と強調。反対運動を展開する団体の要請で採用説明会の開催が取りやめになった事例をあげ「現状は誠に残念。このような状況に終止符を打つためにも自衛隊の存在を憲法上に明確に位置付けることが必要ではないか」などと呼びかけました。

 

9条は大黒柱 「憲法学び実感」 「大工目線」解説本で勉強会(2019年1月21日配信『東京新聞』)

 

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「大工目線」の憲法解説本の著者、明良佐藤さん(中)と憲法を学ぶ参加者=20日、宇都宮市で

 

 「大工目線」で憲法の条文を解説した本「大工の明良(あきよし)、憲法を読む」をテキストにした勉強会が20日、宇都宮市内で開かれた。筆者のペンネーム明良佐藤さん(75)も参加し、主権者の国民が憲法を学び、4月の統一地方選や夏の参院選で選挙権を行使する重要性を確認し合った。

 明良さんの本は昨年10月に出版。憲法を「国の設計図」と捉え、戦争放棄と戦力不保持を掲げる9条を「世界で最も先進的な構造を持った家の大黒柱」などと表現している。大工や生活者としての切り口が分かりやすいと好評だ。

 勉強会は、国防軍を明記する2012年の自民党改憲草案に危機感を持った栃木県益子町の主婦中井美樹さん(39)と宇都宮市の同中江綾(あや)さん(35)が中心となり、17年秋から月1回程度開催。12回目の今回は初めて「大工の明良」を使用した。30代から80代の県内女性8人が参加した。

 会では、全員で「第5章 内閣」部分を読んで、議院内閣制の仕組みを学んだ。明良さんは「いい国をつくるには『発注元』の国民が、しっかり意見を出すことが大事だ」と強調した。

 生後1カ月の赤ちゃんと出席した中江さんは「専門家が書いた文章は難しいがこの本は読みやすい。憲法と生活が結びついていると実感した」と話した。

 

 

9条には『超近代』の理想が含まれている」梅原猛さん語録(2019年1月14日配信『毎日新聞』)

 

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梅原猛さん=京都市左京区で2015年1月13日


 日本古代史への大胆な仮説や「森の文化」の復権を唱え、日本文化や現代文明の在り方を問い続けてきた哲学者で文化勲章受章者、国際日本文化研究センター顧問の梅原猛(うめはら・たけし)さんが12日、肺炎のため京都市の自宅で亡くなった。93歳。葬儀は近親者のみで15日に営む。後日、お別れの会を開く予定。
 梅原猛さんの語録は以下の通り。
 「脳死を死と決めつけて臓器移植をすることは著しく自然の法を曲げるものであると思う」
 「移植のために太古以来の死の概念を変えようとし、それによって起こる脳死者の人権の侵害も、末期医療の放棄も、現行法との矛盾をもほとんど考慮しない」(1992年2月、毎日新聞への寄稿で)
 「(九条の会の発起人に名を連ねたことについて)政治の流れがうんと右に行っているので、歯止めとして9条を守る必要があるという意思表示をしたかった。私は日本の憲法や9条には、国家絶対主義を克服する『超近代』の理想が含まれていると思う」(2004年、毎日新聞の取材に)
 「(1944年12月の名古屋大空襲の経験について)私が入るはずの防空壕(ごう)に爆弾が直撃して大勢の中学生が座ったまま死にました。死骸が吹き飛ばされて屋根の鉄骨の上に引っかかっているのを見て、深く戦争を憎みました」(08年、毎日新聞の取材に)
 (東京電力福島第1原発事故を受けて)「我々人類が原発なしでいかに生きていけるか、それが問われる事態になった。目をそらしてはいけない。今からでも遅くはない。むやみにエネルギーを使わない文明を考えないとあかん」(11年、毎日新聞の取材に)
 「日本文化の原理は『草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)』。草も木も生きものだという人類の原初的考え方だ。人間中心の傲慢な文明が近代文明。近代哲学はその文明を基礎づけた。そんな人間中心主義を批判しないといけない。こういうことを語らねばならないと思ったのは東日本大震災後だ」(11年、毎日新聞の企画で岩村暢子さんと対談し)
 「日本思想には将来の人類が必要とする原理が隠されていると考え研究を始めたが、理解するには約50年が必要だった。作家は80歳を過ぎると新しいことを書けないというが、私は90歳を過ぎても新しい研究を続けていく」(13年、愛知県碧南市での講演会で)

 

自民案 自衛隊明記「9条の2」逐語点検 平和主義骨抜き表現だらけ(2019年1月7日配信『東京新聞』)

 

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安倍晋三首相が、今年も改憲論議を国会に促していく姿勢を繰り返し示している。首相が国会への提示を目指す4項目の自民党改憲条文案のうち、首相が特に重視するのが、自衛隊の存在を明記する「9条の2」の新設。短い文章の中に、憲法の平和主義を骨抜きにする表現が驚くほど多く盛り込まれていると専門家は危ぐする。日本体育大の清水雅彦教授(憲法学)=写真=の指摘を基に「逐語点検」した。 

 自民党案は、戦争放棄をうたった現行の九条一項と、戦力不保持を定めた2項を維持した上で、9条の2の1項、2項を加える内容。一読すると、平和を守るため自衛隊を保持し、国会が統制するとだけ書いてあるように読めるが、清水教授は「非常に巧妙にできている条文」と注意を促す。

 一つは「国及び国民の安全を保つため」。自衛隊の任務を「国の安全を保つため」とした自衛隊法3条と違い、「国民」が加わっているのがミソ。清水教授は「海外にいる国民の安全を保つためにも使える組織ということ。海外派遣しやすくなる」と懸念を示す。

 さらに危ういのは「自衛の措置」。清水教授は、自民党憲法改正推進本部の資料に「自衛の措置(自衛権)」という説明があることに触れ「集団的自衛権も入っていると解釈できる」と指摘。他国を武力で守る集団的自衛権を巡り、安倍政権は安全保障関連法で「存立危機事態」に限って行使できるとしたが、自民党の条文案は限定しておらず「フルスペック(全面的)の集団的自衛権行使が憲法上可能」という。

 「実力組織」に関しても、自民党内の議論では当初「必要最小限度の実力組織」とする案もあったが、採用されなかった。「自衛隊の活動に歯止めがなくなる」と清水教授。仮に今後、他党との調整で復活することがあっても、何が最小限度なのかそもそも曖昧と首をひねる。

 自衛隊の最高の指揮監督者としての首相を「内閣の首長」と修飾したのも、自民党の意図が隠されているという。清水教授によると、首相が「内閣を代表して」自衛隊を指揮監督するとした自衛隊法七条は、閣議決定を前提とした表現。自民党の条文案は首相の権限を強化し、閣議決定を経ずに「首相の判断一つで自衛隊を動かせる」という。

 自衛隊が「国会の承認その他の統制に服する」と定めた2項についても、国会承認は例示にすぎないと問題視。「行政側の組織による統制だとしたら、ほとんど意味がない」という。国会承認にしても、事前承認が原則になっていない。

 清水教授は、自衛隊を憲法に明記すること自体「自衛隊が公共性を帯び『徴用』がやりやすくなる」とも懸念。有事に国が民間の技術者や運輸業者を動員し、自衛隊や米軍に従うよう命じやすくなるとしている。

 

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<安全保障関連法> 安倍政権が閣議決定した憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認や、他国軍への後方支援拡大を盛り込んだ法律。2015年9月に成立、16年3月施行された。密接な関係にある他国が攻撃を受けて日本の存立が脅かされる場合を「存立危機事態」と認定。他に適当な手段がないなどの「武力行使の新3要件」を満たせば、他国を武力で守る集団的自衛権を行使できると定めた。

 

映画「不思議なクニの憲法2018」松井久子監督に聞く 「改憲問題を考えて」(2019年1月5日配信『毎日新聞』)

 

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映画監督の松井久子さん=東京都千代田区で2016年6月8日

 

公式HP


 
映画監督の松井久子さん(72)が昨年春、ドキュメンタリー映画「不思議なクニの憲法2018」を完成させた。2016年に発表した「不思議なクニの憲法」を土台に、追加のインタビューなどを盛り込んだ改定版で、全国各地で上映会が行われている。松井さんは「『改憲問題』を自分自身のことと考え、周囲の人たちと語り合ってほしい」と訴える。改憲論議や映画への思いを尋ねた。

◇「憲法、なぜ遠い存在?」
 松井さんはテレビ番組の制作や映画のプロデュースを手がけた後、1998年に「ユキエ」で監督デビューした。「不思議な〜」は監督第5作目にあたる。
 テーマに憲法を選んだ背景は、15年9月に成立した安全保障関連法(平和安全法制)を巡る一連の動きだった。その前年に従前の憲法解釈が変更され、集団的自衛権の一部行使が可能となった。国民から憲法や立憲主義を守るべきだとの声が上がり、国会前では幾度となく大規模なデモが繰り返された。
 デモの盛り上がりは感じていたが、「憲法は国民のものなのに、国民の意識から遠いところにある。なぜだろう?」と疑問を持った。そこで、高校生、主婦、弁護士、国会議員、大学教授など約30人にインタビューを行った。安保関連法に反対してデモを行う10代の女性、憲法が生活に根ざしていると気付いた主婦などをはじめ、憲法学者の長谷部恭男さん、元文相の赤松良子さんらにマイクを向けた。安保関連法だけでなく、憲法の成立過程や男女平等、幸福追求権など生活に身近な要素を盛り込んだ。
 作品は劇場公開され、さらに全国各地で市民団体などによる上映会が開催され、これまでに約1300回に及んだ。
◇「2018」を製作した理由
 「2018」は、実は3番目のバージョン。第2バージョンでは、「立憲的改憲」を主張する識者の意見を盛り込んだ。さらに「2018」は9条の改憲問題を意識し、新たに詩人などへのインタビューを加えた。大きなきっかけは、「安倍晋三首相が9条改憲を正面から主張したから」という。
 17年5月3日の憲法記念日。民間団体が開いた改憲についての会合に、安倍晋三首相は自民党総裁としてビデオメッセージを寄せた。そこで20年の新憲法施行、9条への自衛隊明記を目指す考えを表明した。その後、自民党は自衛隊明記を含む改憲案をまだ国会に提示してはいないが、首相は今月4日に行った年頭の記者会見でも「まずは具体的な改正案を示し、国会の活発な議論を重ねていくことが私たち国会議員の責務だ」と議論を急ぐことに意欲を示している。
 松井さんは「安倍政権は特定秘密保護法や『共謀罪』を導入しました。これまで憲法で当たり前に守られてきた個人の尊厳や自由を、国家が管理する準備が整いつつあるような気がしています。私の中で、そういう危機感や恐怖感が強まっています」と語る。
 そんな中で出てきた9条改憲。自衛隊を明記する問題点について国民側から活発な議論が起きてもよさそうなものだが、「国民の憲法への関心は総じて高くない」と感じている。確かに、衆院選などの際、新聞が実施する世論調査などを見ると、国民が政治に求めるのは景気対策や雇用、社会保障などが上位で、憲法の優先度合いはやや低い傾向にある。
 「安保関連法の際、国民の憲法への意識は高まった。なくなってはいないと思います」としながら、「日々の生活の安定は重要なので、政治に優先的に求めるのは自然だと思います」と語り、関心の低さには他の背景もあると指摘した。
◇ドイツで「日本の歴史教育は?」と質問される
 「不思議な〜」の完成後、ドイツの大学に招かれた。5都市で上映会を行い、学生たちと語り合った。その際、「日本ではどんな歴史教育をしているのですか」と何度も質問された。ドイツでは、ナチスが行った人権侵害や戦争犯罪を含む現代史について、1年間かけて学ぶと聞いた。日本ではそこまで行われていない。
 「もし日本で現代史についてもっと学ぶ教育が行われていれば、第二次世界大戦の反省から生まれた憲法9条にも思いが及ぶのではないでしょうか。9条の条文と現実は大きく懸け離れてしまっていますが、戦後日本人は戦争や憲法を深く考えないまま過ごしてきた側面が大きいのでは」。学生の問いには「権力側の歴史観がそうだったから」と答えざるをえなかったという。 「2018」では新たに、ソウル大学の日本研究者のインタビューを加えた。研究者は憲法9条、平和主義を東アジア諸国の視点からも考える必要があると指摘する。松井さんは「韓国の徴用工や慰安婦の問題について、安倍政権は被害者の心の痛みに寄り添っているようには見えません。そんななかで9条改憲が進められれば、さらに日韓関係に悪影響が出るのでは」と懸念している。
 「不思議な〜」のDVDが近く発売予定だ。「万一、国民投票が行われるようなときに参考にしてもらえれば」と力を込めた。上映会などの問い合わせはエッセンコミュニケーションズ(電話045・349・9149、ファクス045・783・7530)まで。

 

改憲の国会発議「各党合意を」43% 参院選世論調査(2019年1月4日配信『東京新聞』)

  

 本社加盟の日本世論調査会は参院選と統一地方選に向けた全国面接世論調査を昨年12月8、9両日に実施した。憲法改正の国会発議に関し、時期や是非を尋ねたところ「時期にこだわらず各党の幅広い合意を形成するのが望ましい」との回答が43%に上った。今夏の参院選について、自民、公明両党と安倍政権下での改憲に前向きな政党や議員を合わせた改憲勢力が「発議に必要な3分の2以上の議席を占めた方がよい」は45%、「3分の2に達しない方がよい」が47%で拮抗(きっこう)した。

 政府が10月に予定する消費税率10%への引き上げは「予定通り実施するべきだ」が39%。「引き上げるべきではない」33%、「先送りするべきだ」25%と割れた。改憲や消費税増税を巡り、有権者の見解が分かれている実態が浮かんだ。

 参院選の結果は「与野党勢力が伯仲する方がよい」は53%で、「与党が引き続き過半数」の30%を上回った。「野党が過半数」は10%となった。

 【注】小数点1位を4捨5入。

 

<こう動く2019日本>(1)参院選 改憲「2/3維持」なら加速(2019年1月1日配信『東京新聞』)

 

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夏の参院選は、改憲案の国会発議を目指す自民党の戦略に大きく影響する。国会で改憲論議は進んでいないが、改憲勢力が発議に必要な3分の2を維持すれば、世論の支持を得たとして、自民党は論議を加速させる考えだ。

 「2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと申し上げた。今もその気持ちに変わりはない」

 安倍晋三首相(自民党総裁)は臨時国会閉幕を受けた12月10日の記者会見で、こう明言した。

 自民党は、基本的に参院選後の発議を想定している。4月には与野党が激しく対立する統一地方選があり、その直後には天皇陛下の退位と新天皇の即位が予定されている。こうした政治日程を踏まえた判断だ。衆参両院の憲法審査会で、改憲論議が進んでいないことも考慮している。

 参院選で3分の2を維持すれば、早ければ秋の臨時国会で改憲発議をして、20年夏の東京五輪・パラリンピック前に改憲の是非を問う国民投票を行うスケジュールを描く。ただ、3分の2維持は簡単ではない。

 共同通信社や本紙の取材などから、参院の改憲勢力は自民、公明両党のほか、改憲を掲げる日本維新の会と希望の党の4党、さらに改憲に前向きな無所属議員4人と判断した。4人のうち3人は改選を迎える。非改選は藤末健三氏。16年参院選の比例代表に民進党(当時)から立候補して当選したがその後、自民党会派に入ったため、改憲勢力に含めた。改憲勢力は計166議席になる。

 参院選は3年に一度、半数が改選される。改憲勢力の改選議席は89で、非改選議席は77。3分の2を維持するには、今回改選される124議席のうち、87議席を獲得しなければならない。3年前の参院選で、改憲勢力の獲得議席は77にとどまり、改選議席の3分の2に届かなかったからだ。

 首相は1月の日ロ首脳会談に続き、6月に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会合でもロシアのプーチン大統領と会談し、北方領土問題を前進させるなど、外交で実績を上げて参院選に臨み、議席を増やす戦略を描いている。

 首相の総裁任期は21年9月まで。今夏の参院選で3分の2を維持できなければ、改憲勢力でない野党や無所属議員に手を回して、賛同を得る以外に道はなくなる。野党の中で改憲論議を否定していない国民民主党との連携を模索することになる。

 首相は年末、ラジオ番組で否定したが、野党の候補者調整を阻止して選挙を有利に進めるため、衆院を解散して衆院選と参院選を同日に行う「ダブル選」に打って出る、と予測する自民党議員は少なくない。 

 ×  ×  × 

 2019年はどう動くだろうか。国民生活に関係が深い分野ごとに、担当記者が探った。

 

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憲法審強行 会長が反省(2018年12月11日配信『しんぶん赤旗』)

 

与党筆頭幹事は「おわび」

 衆院憲法審査会が10日開かれ、森英介会長(自民党)が会長職権により審査会を強行したことを念頭に「円滑なる運営ができなかったことは誠に残念であり遺憾」と反省の意を示しました。

 野党は自民党が与野党の合意なく審査会を一方的に開くなど官邸の指示に基づき改憲4項目の提示を画策してきたことに強く抗議。自民党と森会長の謝罪を求めていました。森会長は「憲法改正の発議権を有しているのはあくまでも国会であり、憲法審査会は与野党協力して丁寧に運営していかなくてはならない」とし、「今後は、会長として、改めて審査会の公正・円満な運営に、これまで以上に努めてまいる所存」だと述べました。

 自民党の新藤義孝筆頭幹事は幹事会で「私自身の配慮が足りず、不快の念を抱かせたことをおわび申し上げたい」と謝罪。「今後は政局に左右されることなく静かな環境の下で、円満な運営に努めてまいりたい」と述べました。

 自民党は今国会で改憲4項目を提示できませんでした。審査会では国民投票法(改憲手続き法)改定案の継続審議を与党の賛成多数で決めました。日本共産党、立憲民主党、国民民主党、無所属の会、自由党、社民党の野党6党派はそろって反対しました。

 また同日、衆院憲法審の幹事懇談会で、改憲の国民投票のテレビCM規制に関し、日本民間放送連盟(民放連)の幹部から意見を聴取しました。

 

改正憲法20年施行目指すと首相 臨時国会閉幕後に会見(2018年12月10日配信『共同通信』)

 

 安倍晋三首相は10日夜、臨時国会閉幕を受けて官邸で記者会見し、2020年の改正憲法施行を目指す考えを改めて表明した。今国会で自民党改憲案4項目の提示が見送られたことを踏まえ「20年に新しい憲法を施行させたいとの気持ちは今も変わらない」と述べた。外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法に関し「地方で中小事業者が深刻な人手不足に直面している。この現実に向き合わなければならない」と訴え、国民に理解を求めた。

 改正入管法は野党から「準備不足」と強い批判を受け、参院本会議での成立が8日未明にずれ込むなど混乱した。

 

自民・下村改憲本部長「護憲は思考停止」(2018年12月8日配信『産経新聞』)

 

 自民党の下村博文憲法改正推進本部長は8日、札幌市で講演し、日本だけが一度も改憲をしていないと指摘した上で「世界から見たら護憲は思考停止だ。もっと良い国をつくろうとしていないのではないか」と述べた。同時に「現状維持で何も変えようとしない。現状を良くしようとしていない」とも付言した。

 講演後、記者団に「それぞれの立場があるので(護憲派を)否定をしたわけではない」と説明した。

 講演の中で、改憲論議が進まなかった今国会を振り返り「残念」と表明。来年の通常国会で、衆参両院の憲法審査会の議論活性化や、世論の改憲機運を高めることに意欲を示した。「自民党だけで改憲は不可能だ。他党に働き掛け、国民に理解をしていただき、来年はより良い憲法(へと改正)を目指す流れをつくれるよう、精進したい」と強調した。

 

衆院憲法審、12月10日に民放連から意見聴取へ(2018年12月7日配信『毎日新聞』)

 

 衆院憲法審査会の与党筆頭幹事の新藤義孝氏(自民党)と、野党筆頭幹事の山花郁夫氏(立憲民主党)は7日、電話で協議し、憲法改正案の国民投票で賛否を呼びかけるCM規制に関して日本民間放送連盟(民放連)の担当者から意見聴取することで合意した。10日に憲法審の幹事懇談会を開く。立憲の要請によるもので、野党側も出席する方向だ。

 現行の国民投票法ではCM放送は投票日前の14日間を除き自由。立憲や国民民主党は資金力が豊富な大政党に有利になりかねないとして規制強化を求めている。自民党はCM規制の議論を通じ、野党の憲法審への出席を促す考え。新藤氏は記者団に「(野党と)議論を深められる機会は喜ばしい」と語った。

 

自民改憲4条文案 今国会提示見送り(2018年12月6日配信『東京新聞』)

 

 

 衆院憲法審査会の森英介会長(自民)と与党幹事らは五日、国会内で協議し、野党の反発を踏まえて6日の憲法審開催を見送ることを決めた。10日までの今国会の会期で、6日は最後の定例日。与党は会期を延長しない方針で、自民党が今国会で目指していた改憲4項目の条文案提示は、見送られることになった。 

 協議に先立ち、野党筆頭幹事の山花郁夫氏(立憲民主)は5日、与党筆頭幹事の新藤義孝氏(自民)と会談。先月29日の衆院憲法審が野党6党派欠席で開かれたことから「憲法審を開く環境にない」と強く求めた。新藤氏は「重く受け止める。憲法審の運営を正常化させることは極めて重要なことだ」と応じた。

 条文案の提示が見送られることについて、新藤氏は「憲法改正に向かって国民議論を深めていく方向に、何の変わりもない」と記者団に強調した。今国会は、衆参両院の憲法審で実質的な議論を一度も行わずに閉会する見通し。

 改憲を巡り自民党は、今年中に改憲案を国会発議することを目指し、議論の加速を図った。野党や世論の反発が大きく、断念した。

 

今国会初の衆院憲法審 幹事を選任 反発の野党は欠席(2018年11月29日配信『東京新聞』−「夕刊」)

 

 衆院憲法審査会が29日午前、今国会で初めて開かれた。立憲民主、国民民主などの野党は、森英介会長(自民)が職権で開催を決めたことに反発し、欠席した。自民、公明の与党と、野党の日本維新の会、希望の党、衆院会派「未来日本」は出席した。憲法審は与野党合意による運営を慣例としており、野党欠席のまま開催するのは異例。

 この日は幹事の選任のみで散会。継続審議となっている国民投票法改正案の質疑などは行われなかった。

 今国会で自民党は、木曜日の定例日ごとに衆院憲法審の開催を呼びかけてきたが、野党側は自民党の下村博文憲法改正推進本部長の「職場放棄」発言に反発し応じてこなかった。

 与党筆頭幹事の新藤義孝氏(自民)は憲法審後の記者会見で「幹事選任は議論の場をつくる最初の手続き。場がなければ、国民のための議論ができない」と説明した。野党欠席での開催は「忸怩(じくじ)たる思いで、申し訳ない」と話した。

 立憲民主党の辻元清美国対委員長は「安倍政権の横暴極まれりだ。国民との合意がない改憲に向けて牙をむき出した」と記者団に語り、与党側の対応を批判した。

 

憲法審:今国会初の開催 立民、国民は反発し欠席(2018年11月29日配信『共同通信』)

 

 衆院憲法審査会は29日午前、先月24日召集の臨時国会で衆参両院を通じ初めての審査会を開いた。自民、公明両党と、野党の日本維新の会、希望の党、会派「未来日本」が出席。立憲民主党、国民民主党などの野党は、森英介会長(自民党)が開催を強行したとして反発し、欠席した。与党が出席を促したが、野党側は応じず、開催は予定より25分程度遅れた。

 憲法審では、自民党人事に伴い中谷元氏らが幹事を辞任。新藤義孝氏ら6人を新たな幹事に選び、手続きのみの約2分で終了した。新藤氏は与党筆頭幹事に就いた。国民投票の利便性を公選法にそろえる国民投票法改正案は議論されなかった。

 終了後、立民の辻元清美国対委員長は同党などが不在のまま憲法審が開かれたことに関し「安倍政権の横暴極まれりだ。憲法論議の大幅な遅れにつながるのは間違いない」と国会内で記者団に述べた。

 新藤氏は自民党本部で記者会見し、下村博文・党憲法改正推進本部長の「野党は職場放棄」発言について「他党の方に不快な思いをさせ、自民党として謝罪したい」と語った。「謙虚に野党の声を聞き、静かに議論を深められる環境をつくりたい」と強調した。

 自民党は、憲法9条への自衛隊明記など4項目の改憲案について、今国会での提示を見送る方針だ。

 

自民:改憲案、今国会提示断念へ 参院選前の発議困難に(2018年11月28日配信『毎日新聞』)

 

 自民党は、自衛隊の存在明記など4項目の憲法改正について、今国会での条文案提示を断念する方針を固めた。衆院憲法審査会が同党の想定通りに進まず、12月10日の会期末が迫る中、強引に審査会を運営すれば来年の通常国会に影響すると判断した。国会による改憲案の発議は早くても来年夏の参院選後になる見通しで、安倍晋三首相は戦略の再考を迫られそうだ。

 衆院憲法審の森英介会長(自民党)は28日、幹事懇談会を職権で開いた。オブザーバーの日本維新の会と衆院会派「未来日本」は出席したが、立憲民主党や国民民主党は欠席した。森氏は、29日に今国会で初めて審査会を開くことも職権で決めた。与党筆頭幹事に内定した自民党の新藤義孝氏ら新幹事を選任する。

 立憲民主党の辻元清美国対委員長は「自分たちで環境を壊した。そんな中で憲法論議はできない」と反発。自民党憲法改正推進本部の下村博文本部長の「野党は職場放棄」発言も尾を引いており、野党は29日以降の審査会に応じない構えだ。

 衆院憲法審の定例日は29日と12月6日。来年度予算編成を控えて会期の大幅延長は見込めず、自民党幹部は「今国会は幹事の選任までだ」と語った。同党が審議の呼び水にしようとした国民投票法改正案の成立も来年の通常国会に先送りする。

 

特集ワイド:喜劇で描く「9条改憲は滑稽」 中村敦夫さん(2018年11月25日配信『毎日新聞』)

 

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中村敦夫さんの書斎には原発や哲学などの本や資料が所狭しと並べられている=東京都内で、丸山博撮影


◇新作「流行性官房長官」

 俳優、作家、脚本家など多くの肩書を持つ中村敦夫さん(78)が新作喜劇の台本を発表した。題名は「流行性官房長官−憲法に関する特別談話−」。首相の懐刀とも女房役とも言われる官房長官が主人公だ。改憲を目指す安倍晋三政権を思い起こさせるタイトルだが、9条改憲がいかに滑稽(こっけい)か、劇場で立体的に示すのが狙いという。

 舞台は東京・永田町ではなく、なぜか東京湾の倉庫街。地下3階に設定された記者会見場には、ギターを抱えた歌手が椅子に座り、一筋のライトを浴びている。歌手が「長官のテーマ」を奏でる中、分厚いノートを小脇に抱えた官房長官が登場し、記者たちを前に口を開く。この官房長官、方言で自分のことを「わだし」と言い、「〜でガス」と話す語尾に特徴がある。劇中、実在する政治家の名前は出てこない。
 <これより、官房長官として、超特別記者会見を始めるでガス。定例会見とは異なり、官邸から遠く離れた東京湾、(中略)極秘の談話室で展開する重大発表でガス。一年に、二度はあっても三度なしという……ハアハアー、ハクション!>
 流行性感冒(インフルエンザ)にひっかけた「流行性官房長官」は、今秋発売された本「憲法についていま私が考えること」(日本ペンクラブ編、角川書店)に収められている。作家、評論家、詩人ら44人が寄稿した。その多くは評論やエッセーだが、中村さんはなぜ喜劇を書いたのか。

 

試し読み

 

 「安倍さんの目指す改憲にリアリティーがないからです。自衛隊を憲法に書き込まないと『かわいそうだ』との趣旨の発言をしていますが、それならば領海を守る海上保安庁や、国内治安にあたる警察や消防も憲法に明記されていないから、かわいそうだ。日本の防衛問題を考える上で、本質的な議論が行われていない。この滑稽さを浮き彫りにするには、喜劇が最もふさわしいと考えました」
 官房長官は、政権に忖度(そんたく)する記者だけを集めて会見し、「ポンちゃん」のあだ名を持つ首相が、なぜ改憲を目指しているかをレクチャーする。
 <さて、本日のテーマは、日本国憲法でガス(ギターがジャジャジャーン)。久しぶりに超でっかい話になる。私個人は正直言って、この問題はややこしくて嫌いでガス。いくら議論したって、落としどころがないからでガス。それなのに、ポンちゃんが「改正! 改正!」って叫ぶもんだから、とんでもない騒ぎになっちまったんでガス>
 この官房長官、一種の「護憲派」なのか、改憲の必要は全くないと説明する。なぜなら、改憲の目的が既に達成されているとの主張を持っているからだ。日米安保条約の違憲性が争われた「砂川事件」の最高裁判決(1959年)を引き合いに出す。
 <その理由は、「条約のように高度の政治性をもつものは、裁判所の違憲立法審査権には原則としてなじまず、内閣と国会の判断にゆだねるべき」ってことだった。君ら、ここは重大だ。この瞬間に、日本の司法界は、強大な権限を自ら投げ捨てたんだからな>
 なぜ最高裁が「三権分立」の原則を崩したのか。官房長官は「判検交流」制度について解説する。裁判官が法務省に出向し、行政訴訟で国側の代理人を務めることによって、行政と裁判所の間で癒着が生じるというものだ。正気と狂気を併せ持つ官房長官。<三権分立は空中分解し、裁判所も検察も内閣の言いなりになった。大日本帝国、万歳! 君らもやれ! 万歳!>と声を張り上げると、ギターを持った歌手が続けて言う。
 <あーあー驚いた、あーあー知らなんだ、危ねえぞこれ、どうすんだこれ!>
 官房長官と歌手の掛け合いで約25分の芝居が進行する。
◇永田町での日々 喜劇そのもの

 72年にテレビで始まった時代劇「木枯し紋次郎」でブレークした中村さん。スターの座をなげうって、98年から6年間、参院議員を務めた。永田町での日々は喜劇そのものだったと振り返る。例えば、在職時に著した本「国会物語 たったひとりの正規軍」に、こんなエピソードが載っている。当選後初めて参院本会議場に入り、議長を選ぶ際、中村さんが議員バッジを「権威主義のシンボル」とみなして胸につけなかった場面だ。
 <私が(採決用の)投票箱に近づいた時、にわかに会場が騒がしくなった。中央の自民党席が私を指差して大声で野次(やじ)っている。よく聞いてみると、「バッジをつけろ!」「つけねえ奴(やつ)は出てゆけ!」「気取ってんじゃねえ!」。中には、興奮して歯をむき出し、顔を真っ赤にしている者もいる。私は一瞬、自分が猿の惑星に舞い降りたのではないかと錯覚した(一部略、以下同)>
 同じく98年に、閣僚が本会議場のひな壇に並んだ時の感想はこうだ。個性的な顔が多い内閣だった。
 <まるで妖怪漫画の雰囲気である。もし、国民が私たち議員席に座り、『これが国難に対処する内閣メンバーです』と紹介されたら、我を忘れて外へ逃げ出すのではないかと思った>
◇国会は世襲議員の特殊な世界

 今の国会、内閣をどうご覧になってますか?
 「1998年と2018年、全く変わりませんね。世襲議員が多い特殊な世界です。国会議員にはある程度の知的レベルが必要ですが、持ち合わせていない人が多い。小選挙区制度の弊害ですね。野党が弱いと、与党の候補はみんな当選してしまう」
 無駄な公共事業や権力の腐敗を追及し、「政界の一匹オオカミ」と呼ばれた中村さん。当時、「三つの旗」を掲げていた。環境主義、行政改革、憲法9条にのっとった平和外交だ。なぜ、9条なのか聞くと、俳優座時代の米ハワイ大留学(65年)にさかのぼるという。
 「私は戦中を知る最後の世代ですが、大学時代は60年の安保闘争にも無関心なノンポリでした。しかし、ハワイ大には肌の色や文化の異なる人が一堂に集まり、島国の日本しか知らなかった私は度肝を抜かれた。『あなたはどう思う?』と自分の意見を表明することが求められる。自分自身の国際化が進み、日本のことを考えました。日本国憲法には民主主義、基本的人権の尊重といったアメリカ合衆国の価値観が色濃く反映されている。『アメリカ的』がいいなと思いました」
 しかし、米国がベトナム戦争に突入すると、米国的価値観を単純に支持できなくなった。
 「正義のための戦争ではなく、経済政策としての戦争という側面がありました。ならば、どんな価値観を持てば、戦争をしない国になれるのか。その答えが、9条を『語る』ことではなく、『実現する』ことにありました」
◇まずアメリカからの独立を
 再び劇中。官房長官は「外交政策の転換」の必要性を説く。
 <米兵に少女が暴行されても、逮捕、裁判もままならない。わが政府ができるのは、ポーズだけの抗議の繰り返しだ。こうした治外法権の網が広く日本にかけられ、愛国主義者であるわだしは、正直気分が悪い>
 防衛問題を考える上での基本がここにあるという。
 「日本は戦後、自信を喪失したまま、アメリカの属国であり続けています。だから、安倍さんは、米大統領選でトランプ氏が当選を決めると、いち早く駆けつけた。まだ現職だったオバマ氏に対して失礼な行為であり、外交儀礼に反する。奴隷根性であり、非常にみっともない。自衛隊を憲法に書き加える前に、まずアメリカからの独立を果たすべきです。日米安保条約と日米地位協定の運用が、憲法の上位に立っている現状を変えなければいけない」。地位協定は在日米軍の法的地位などを定めたもので、米軍人が事件を起こしても裁判権は米側にある。60年に発効してから一度も改定されていない。

 その安倍内閣。森友・加計両学園問題に加えて閣僚の問題発言が相次いでも、高い支持率を誇っている。中村さんの分析はこうだ。

 「資本主義国は安い労働力を途上国に求めてきた歴史があります。しかし、それらの国が経済的に発展すると、労働力不足に陥る。だから、国内の中産階級を崩して格差社会にし、安い労働力を生み出す。これが、バブル崩壊後、日本がたどってきた道です。格差に不満を持つ人たちは、外敵を作り、ナショナリズムに救いを求める。彼らが『美しい国』を唱える安倍さんを支える構図で、世界各国で同じような状況が生まれています」

 新作喜劇の終盤、官房長官は狂気に陥り、支離滅裂になる。

 <我々に必要なものは、日本の文化、国情、気質、体質に合った古き良き国家を取り戻すことでガス。まずは教育改革。すべての幼稚園で教育勅語を教える。登校時、校門前での君が代斉唱を義務付ける。大日本帝国万歳! 君らもやれ! 万歳!>

 なお、劇中の「ポンちゃん」は「アンポンタン」に由来しているという。

 

◇なかむら・あつお

1940年、東京都生まれ。東京外国語大中退。63年、俳優座入団。72年、テレビ時代劇「木枯し紋次郎」の主役に抜てきされトップスターに。83年、小説「チェンマイの首」を発表し、ベストセラー。84年、情報番組「地球発22時」のキャスターに。98年、参院議員に初当選。2007〜09年、同志社大大学院で環境社会学を講義。16年、自ら台本を書いた反原発朗読劇「線量計が鳴る」の全国公演を始める。25日の横浜公演で50回目。来年4月まで公演日程が埋まっている。この台本と戯曲をもう1本収めた「朗読劇 線量計が鳴る」(而立書房)を10月に刊行。

 

衆院憲法審開催メド立たず 首相、側近起用が裏目に(2018年11月15日配信『毎日新聞』)

 

 

「職場放棄」発言、下村氏謝罪も暗雲晴れず

 自民党の下村博文憲法改正推進本部長は15日、国会の憲法審査会の早期開催に消極的な野党を「職場放棄」と批判した自身の発言の謝罪・撤回に追い込まれた。しかし野党の反発は収まらず、衆院憲法審は開催のメドが立たない。安倍晋三首相は改憲本部長に下村氏、衆院憲法審の筆頭幹事に新藤義孝元総務相を充て、側近2人を「車の両輪」として議論を進める陣容を作ったが、裏目に出た形だ。【田中裕之、村尾哲】

 下村氏は15日朝の東京都内での講演で「野党の皆さんに不快な思いをさせてしまった。この場を借りておわびを申し上げたい」と述べ、その後、記者団に発言撤回を表明した。

 下村氏は既に憲法審幹事への就任を辞退したが、余波は収まらない。立憲民主党の辻元清美国対委員長は15日、記者団に「首相が言った(改憲議論の加速)ことを実現するために憲法審の幹事がバタバタしている」と批判。謝罪・撤回を講演などで済ませたことへの不快感も噴出。国民民主党の原口一博国対委員長は記者会見で「憲法を読み直し、(謝罪に)来られた方がいい。メディアから聞くのは違和感を禁じ得ない」と述べた。

 与党内の風当たりも強い。自民党の伊吹文明元衆院議長は15日の二階派会合で「理念が安倍さんと一緒だ、とかいうだけでポストに就いても、なかなか物事はうまくいかない。話し合いの場に各党に出てもらうのは最大会派の責任だ」と指摘。その上で「ちょっと間違ったり失敗しても、野党と太い信頼関係と人脈があればあまり追及されない。毎日、野党との人間関係構築に努めれば、皆さんの将来にきっとプラスになる」と若手を説諭した。

 衆院憲法審幹事を務める公明党の北側一雄副代表は会見で「職場放棄という発言は適切と全く思わない。野党の皆さんの主張もそれはそれで理解していかないといけない」と苦言を呈した。下村氏はこの後の衆院本会議の際に議場内で北側氏の席に赴き、謝罪した。

 野党の反発で15日の衆院憲法審は見送られ、次の定例日の22日の開催も見通せない。通常国会から積み残しの国民投票法改正案の成立でさえ、12月10日までの国会会期の延長がなければ困難な情勢だ。この中で下村氏は15日午後になり、野党の反発を招きかねない発言を重ねた。保守系団体の会合で「『護憲だ』と言って(憲法に)指一本触れさせないところもある中で非常に苦慮している」と発言。自民党憲法族は「今国会ではもう論議ができないのではないか」と嘆いた。

 

自民党:下村氏憲法審幹事辞退へ 野党「職場放棄」発言で(2018年11月13日配信『毎日新聞』)

 

 10月に自民党憲法改正推進本部長に就任した下村博文氏が、国会の憲法審査会の早期開催に応じない野党を「職場放棄」と批判し、窮地に立たされた。衆院憲法審は定例日の15日も開かれない見通し。下村氏は内定していた憲法審幹事を辞退する意向を固めた。

 安倍晋三首相は衆院憲法審の与党筆頭幹事に新藤義孝元総務相、幹事に下村氏と「腹心」2人を起用し、改憲論議の加速を狙っていた。下村氏は委員として出席する方向だが、幹事を外れると審査会の運営には直接関与できない。自民党は今国会で戦術の見直しを迫られそうだ。

 衆参両院の憲法審は週1回しか定例日がなく、次第に12月10日の会期末が迫る。自民党は、憲法改正手続きを定めた国民投票法改正案を呼び水に憲法審を動かし、同党の改憲条文案を他党に説明する段取りを描くが、今のところ机上の空論にとどまっている。

 そうした中、問題発言は9日、TBSのCS番組収録で飛び出した。今国会で憲法審が一回も開かれていないことへの不満から、下村氏は「率直に議論さえしないなら国会議員として職場放棄ではないか。高い歳費をもらっているにもかかわらず、職場を放棄していいのか」と野党を批判した。

 これで野党は一層態度を硬化させた。立憲民主党など野党6党派の衆院憲法審幹事らは13日、国会内で会談し、下村氏の謝罪がなければ日程協議に応じないことを確認。野党筆頭幹事の山花郁夫氏(立憲)は新藤氏との電話で、15日の開催は「けじめをつけてもらわなければ難しい」と通告した。

 自民党からも下村氏への批判が噴出している。自民党の二階俊博幹事長は12日の記者会見で「本人の責任で何をおっしゃっても結構だが、野党にものを言う場合は、慎重の上にも慎重であってもらいたい」と突き放した。新藤氏は「厳に慎んでほしい」と下村氏を注意した。

 下村氏が審議を急ごうとしたのは、首相の意向をそんたくしたからだ。ただ、下村氏が議論を主導することには当初から「下村氏はほとんど国会対策をしたことがない」(閣僚経験者)という不安がささやかれていた。

 公明党の山口那津男代表は13日の会見で「かえって議論が進まない状況を作ってしまう」と下村氏に苦言を呈した。ただ、改憲に慎重な同党からは「憲法審は遅れてもかまわない」(幹部)という本音も漏れている。

 

「とんでもない言いがかり」(2018年11月13日配信『しんぶん赤旗』)

 

小池氏 「職場放棄」発言を批判

 日本共産党の小池晃書記局長は12日、国会内で記者会見し、自民党の下村博文憲法改正推進本部長が衆参両院の憲法審査会の開催に応じない野党側に対して「国会議員として職場放棄」(9日、TBSのCS番組収録)などと述べたことについて、「とんでもない言い掛かりだ」と批判しました。

 小池氏は「憲法を守り生かすのが国会議員の責務であって、われわれはその仕事に全力をあげている。職場放棄と言われる筋合いは全くない」と述べ、憲法を守らず、違憲の法案を強行し、改憲の旗を振る安倍政権の姿勢こそ「究極の職場放棄ではないか」と強調しました。

 小池氏は、下村氏の発言は「焦りの表れだ」と指摘。「安倍首相やその周辺が改憲の旗を振るほど、改憲反対の声がどんどん増えていく状況の中で、焦りが表れている」と話しました。

 さらに、下村氏が加計学園側から支払われたパーティー券代200万円を政治資金収支報告書に記載しなかったとされる問題に言及し、「いまだに説明していない。そんな下村さんに職場放棄と言われるのは片腹痛い」と述べました。

 

憲法審、駆け引き激化 条文案出したい自民×改憲警戒の立民(2018年11月11日配信『東京新聞』)

 

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 臨時国会は、2018年度補正予算の7日成立を受け、衆参両院の各委員会で実質的な審議が始まった。その中で両院の憲法審査会は、改憲4項目の条文案提示を目指す自民党と、安倍晋三首相主導の改憲を警戒する野党が対立し、開催が決まっていない。与野党の駆け引きが次第に激しくなっている。 

 憲法審は、改憲原案の国会提出(別に国会議員による提出も可)や、改憲原案を審査する役割を担う。これまで改憲原案が提出されたことはなく、各党による自由討議などが行われてきた。定例日は衆院が木曜日、参院が水曜日とされる。

 今国会で自民党は、自由討議で党の改憲条文案を説明することが目標。補正予算成立後、最初の定例日となる8日の衆院憲法審開催を、野党側に働きかけてきた。しかし野党第1党の立憲民主党は、一部野党の委員が決まっていないことなどを理由に日程協議に応じず、8日開催は見送られた。いつ日程協議するかも明らかになっていない。

 これまでのところ自民党は、強引に進めると憲法審が円滑に動かないとして無理をしない方針だが、いら立ちも見せ始めている。

 党憲法改正推進本部の下村博文本部長は9日のCS番組で「自民党の条文案を批判してもいい。とにかく議論しよう」と野党に議論参加を促した。その上で「高い歳費をもらっているのに議論しなかったら、国会議員として職場放棄だ」と語った。

 立民は「議論を拒んでいるわけではない」(衆院憲法審メンバー)としながらも、自民党とは一線を画している。議論に応じたとしても、国民投票を巡るテレビCM規制をじっくり検討する立場で、自民党に条文案提示の機会を与えないのが基本戦略だ。

 国民民主党は「議論を展開することで自民党案の問題が浮き彫りになる」(玉木雄一郎代表)と議論には前向きだが、野党内で主導権を握れていない。

 このため自民党は、どこかの時点で穏健路線を捨て、憲法審の幹事懇談会などの場で、一方的に条文案を説明するのではないかとの観測も出ている。

 

内部文書を入手 姑息“安倍隠し”改憲は日本会議と二人三脚(2018年11月6日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 また、小手先の目くらましで突破するつもりか。自民党の下村博文党憲法改正推進本部長が3日、北海道北斗市で開かれた党支部の研修会で講演。改憲論議について「安倍色を払拭して……」と言い出した。一方、日刊ゲンダイは下村名で各選挙区支部長に出された内部文書を入手。「共鳴する民間団体」と協力して改憲世論を喚起するよう要請するものだ。国民不在のまま、改憲に向けた地ならしが着々と進んでいる。

 総裁選後の党役員人事で憲法改正推進本部長に就任した下村は、改憲機運を高めるための全国行脚をスタート。3日の講演はその第1弾だ。

「いつも解釈改憲するのではなく、時代や環境の変化に応じて改正、修正すべきだ」

 こう言って改憲の必要性を訴え、国会での議論活性化に向けて野党側と水面下で接触していることを明かした。野党には「安倍首相の下での憲法改正には賛成できないとの拒否反応がある」というのだ。

 下村は講演後、記者団に対して、「安倍政権の下では議論したくないと思っている人が多い。自民党全体でしっかり対応しながら、『安倍色』を払拭していくことが必要だ」と話した。「安倍色」を隠せば、国民も野党も改憲論議に乗ってくると考えているようだ。

「野党を巻き込むために“安倍隠し”をもくろんでいるのでしょうが、そんな姑息な手は通用しませんよ。改憲推進本部長に側近の下村博文氏、総務会長に腹心の加藤勝信氏、衆院憲法審の筆頭幹事に安倍首相と思想信条が近い新藤義孝氏らを起用した布陣を見るだけでも、安倍カラーは隠しようがない。そもそも、9条に自衛隊の存在を明記するなどといった『改憲4項目』も、党の総務会で了承を得たものではないのです。安倍首相の“私案”とでも呼ぶほかなく、どこからどう見ても安倍色の改憲ゴリ押しです」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)

各支部長には連携を通達

 10月29日には、下村と山口泰明組織運動本部長の連名で、年内をめどに、全国に289ある選挙区支部ごとに「憲法改正推進本部」を設置するよう文書で要請。

 この文書では、「我が党の憲法改正案に共鳴する民間団体の要請に応え」「国民投票に向けた世論喚起を推進する連絡会議の設立」にも協力するよう求めている。

「ここに書かれている民間団体とは、言うまでもなく日本会議系の団体のことです。安倍首相が昨年の5月3日、改憲の具体案や、2020年に新憲法施行というスケジュールを唐突にブチ上げたのも、日本会議が主導する改憲派の集会でした。首相の改憲案の“ネタ元”は日本会議だといわれている。国家の根幹をなす憲法を改正するという大事業が、一団体の意向に引きずられていいのか、という声は党内にもあります」(自民党関係者)

 行政府の長である安倍が改憲に前のめりになっていることには、連立を組む公明党からも批判が出ている。憲法上、改憲を発議するのは立法府であり、首相は無権限だからだ。公明党の山口代表も「政府は余計な口出しをしないでほしい」と苦言を呈している。

 「世論調査の数字を見れば分かるように、国民は拙速な改憲を求めていない。歴史に名を残したいというようなヨコシマな思惑で無理にやろうとするから、あちこちに矛盾が生じるのです」(金子勝氏)

 日本会議と二人三脚で改憲を進めようとしたところで、「安倍色」も「安倍隠し」も、しょせんは無理筋な話なのだ。

 

衆院代表質問:首相「一定程度賛成ある」改憲案提出に意欲(2018年10月30日配信『毎日新聞』)

 

 安倍晋三首相は30日の衆院代表質問で、自民党の憲法改正案について「報道機関の世論調査でも賛成の人が一定程度認められる」と述べ、今国会への提出に改めて意欲を示した。14日の自衛隊観閲式で「(自衛隊は)自身の手で信頼を勝ち得た。次は政治がその役割を果たさなければいけない」と述べたことに関しては「政治家の責務を申し上げた」と説明し、自衛隊の政治利用には当たらないと強調した。

 毎日新聞の9月の世論調査では、自民党案の今国会提出に「賛成」との回答が20%、「反対」は38%だった。共産党の志位和夫委員長が「国民が望まないのに進めるのは憲法の私物化ではないか」とただしたのに対し、首相は「改正の国民的議論を深めるには具体的な案を示す必要がある」と表明。一定の賛成意見があることを踏まえ「私物化という指摘は当たらない」と反論した。

 志位氏は学校法人「森友学園」「加計学園」の問題で昨年の衆院選後に新たな疑惑が生じたとして「国民の審判を仰いだというのは虚偽だ」と追及した。首相は財務省職員による公文書改ざんについて「衆院選後に明らかになった改ざん文書を踏まえても、これまでの説明は覆らず、矛盾はなかった」と答弁した。

 麻生太郎副総理兼財務相を10月の内閣改造で留任させたことに関して、首相は「政権発足後、経済立て直しで大きな成果を上げた。デフレ完全脱却に向け、引き続き全力を尽くしてほしい」と述べた。

 中央省庁の障害者雇用水増し問題では、首相は「再発防止に向けたチェック機能の強化について、法整備も視野にさらなる検討を行う」と表明。来年10月に予定する消費税率10%への引き上げに伴い、店頭での税抜き価格表示を認める2021年3月までの特例措置の延長を検討する考えを示した。いずれも公明党の斉藤鉄夫幹事長の質問に答えた。

 

改憲論議、野党間の違い鮮明 国民・玉木氏「平和的改憲」提案、枝野氏は「論外」と首相批判(2018年10月29日配信『産経新聞』)

 

 衆院で29日に始まった論戦で、主要野党の憲法改正論議に対する姿勢の違いが明確になった。国民民主党の玉木雄一郎代表が「平和的改憲」を提案し、「本質的な議論」に意欲を示した一方、立憲民主党の枝野幸男代表は改憲の議論に応じない姿勢を崩さなかった。

 玉木氏は代表質問で「自民党案では『必要最小限度』との制約がなくなり、何の限定もない集団的自衛権の行使さえできる可能性がある」と自民党の改憲案を批判し、こう続けた。

 「自衛権の範囲を憲法上明確にし、平和主義の定義を国民自身で行う平和的改憲の議論を行うべきだ」

 玉木氏は先の大戦の教訓と憲法の平和主義を踏まえ「海外派兵や他国の戦争に参画しないことを条文上明らかにする」と説明した。これに対し、枝野氏は「憲法の本質は国民の生活を守るために国家権力を縛ることにある」と主張。壇上から「憲法とは何か、一から学び直してください」と首相を挑発し、「首相が先頭に立って旗を振るのは論外だ」と断じた。

 改憲に向けた議論さえ進展しない国会に対し、世論は冷めた目で見ている。

 産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が今月実施した合同世論調査で、「現行の憲法は時代に合っていると思うか」との質問に対し、「思わない」は55.3%で、「思う」の32.8%を大きく上回った。憲法改正への賛成は52.3%に上った。何かと理由をつけて議論さえ拒む枝野氏の姿勢は、こうした声に目を背け続けているように映る。

 玉木氏が新たな提案をしたことで改憲の動きが進む可能性もある。ただ、玉木氏は質問終了後、記者団に「権力に対して謙虚に向き合う者しか憲法改正に手をつけてはならない。首相は全くそれがない」と述べ、首相を激しく批判した。

 首相が29日の答弁で「幅広い合意」を求めたように、最終的に国民投票で決まる憲法改正は野党も含めた理解が欠かせないが、道のりはまだ遠いようだ。

 

憲法改正、反対9ポイント増 慎重論強まる(2018年10月29日配信『日本経済新聞』)

 

日本経済新聞社の26〜28日の世論調査で、安倍晋三首相(自民党総裁)が意欲を示す憲法改正への慎重論が強まった。国民投票の時期はいつがいいか聞いたところ「憲法改正には反対だ」が最多の37%で、前回の10月初旬の緊急調査の28%より9ポイント増えた。「2021年以降」が24%、「19年中」が16%といずれも前回より2ポイント減り、「20年中」は12%と4ポイント減少した。

首相は24日の所信表明演説で「憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の理解を深める努力を重ねていく」と述べた。

立憲民主党や共産党などの野党は自民党の改憲案に反対している。

 首相に期待する政策(複数回答)で最も多かったのは「社会保障の充実」で48%。「景気回復」が43%、「教育の充実」が31%、「財政再建」が30%、「外交・安全保障」が26%だった。「憲法改正」は9%にとどまった。

安倍内閣を支持する理由(複数回答)は「安定感がある」が39%、「国際感覚がある」が35%、「指導力がある」が24%、「自民党中心の内閣だから」が23%だった。

 不支持の理由(複数回答)では「人柄が信頼できない」が53%と最も多かった。「自民党中心の内閣だから」が40%、「政策が悪い」「政府や党の運営の仕方が悪い」がともに32%だった。

 

内閣支持率また下落 「改憲・消費増税」に反対が半数超え(2018年10月28日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 安倍内閣の支持率がまた下落した。

 日経新聞とテレビ東京による調査(26〜28日実施)では、第4次安倍改造内閣発足直後の前回10月初旬の緊急調査から2ポイント減の48%となり、半数を割った。不支持率は42%と横ばいだった。

 読売新聞(26〜28日実施)では10月改造後調査から1ポイント減の49%で、こちらも半数割れした。不支持率は2ポイント上昇して41%となった。

 安倍首相が自民党の憲法改正案を臨時国会で示したいとしていることについて、日経が「国民投票の時期はいつがいいか」と聞いたところ、「憲法改正には反対だ」が最も多く、前回より9ポイント増の37%となった。次いで「2021年以降」が24%だった。

 読売でも「この首相の考えに賛成ですか、反対ですか」の問いに対し、「反対」が47%で、「賛成」の40%を大きく上回った。

安倍3選以降、戦前回帰路線の総仕上げとなる“安倍壊憲”に対する警戒感が国民の間に広がっていることの表れだ。

 安倍首相が明言した来年10月の消費税引き上げについては、読売の「予定通り10%に引き上げることに賛成ですか、反対ですか」との質問に、「賛成」が43%にとどまったのに対し、「反対」は51%で過半数を占めた。

 

首相「政党が案を」VS.枝野氏「論外」 憲法で対決(2018年10月29日配信『朝日新聞』)

 

 臨時国会は29日、衆院本会議で代表質問があり、安倍晋三首相の政治姿勢や、首相が今国会で提示を目指す自民党改憲案、出入国管理法(入管法)改正案などが論点となった。野党側が高市早苗衆院議院運営委員長(自民党)の国会改革試案に反発して本会議開会が遅れるなど、冒頭から与野党が激しく対立した。

 29日に質問したのは立憲民主党の枝野幸男代表、自民党の稲田朋美総裁特別補佐(筆頭副幹事長)、国民民主党の玉木雄一郎代表。

 枝野氏は、森友学園との土地取引をめぐる財務省の決裁文書改ざん問題などを挙げ「議院内閣制の前提を揺るがせた最高責任者としてどう答えるか」と首相の政治姿勢を追及した。玉木氏も「政府・与党の理不尽な行為に対しては他の野党と力を合わせて厳しく追及する」と強調した。両氏は首相を追及する姿勢で足並みをそろえた。

 首相が意欲を示す改憲について、枝野氏は「憲法の本質は権力を縛ること。縛られる側の首相が先に旗を振るのは論外」と批判。玉木氏は「(国民投票運動の)CM規制を導入することが改憲論議の大前提だ」とくぎを刺した。

 首相は憲法9条に自衛隊を明記する自民党改憲案について「政党が具体的な改正案を示すことで、幅広い合意が得られると確信している」と憲法審査会での議論に期待を示した。

 外国人労働者受け入れ拡大に向けた入管法改正案については「安倍政権ではいわゆる移民政策は採らない」と表明。環境整備の一環として「不法滞在者対策など犯罪防止の取り組みを進めていく」と述べた。

 29日の本会議は午後1時開会予定だった。しかし、野党側は高市氏が25日に超党派議員らと面会した際に提案した国会改革試案を問題視。政府提出法案の審議を優先し、議員立法や一般質疑を会期末にする内容を含んでいたため「議運委員長ののりを超えた文書だ」と強く反発した。高市氏は文書を撤回したものの、開会が45分遅れた。

 今国会は、首相との対決姿勢を鮮明にする立憲民主党が、衆院に続き参院でも与野党交渉を主導する「野党第1会派」となった。与野党対決色はさらに強まるとみられる。

 

なぜ改憲?いま必要なの? 「国民の生活を優先して考えて」(2018年10月25日配信『東京新聞』)

  

自民党の改憲案国会提出に反対の声を上げる参加者ら=24日午後、東京・永田町で

 

 24日に召集された臨時国会の所信表明演説で、安倍晋三首相は憲法審査会を開き、改憲に向けた議論を進めたい意向を示した。各社の世論調査をみても、改憲議論を優先すべきと考える国民は多くはない。平成の終わりに「新しい国づくり」を強調する演説を首都圏の人々はどう聞いたのか。 

 「また首相がやりたい放題やるのではないか」

 安倍首相の所信表明演説をテレビ中継で見ていた川崎市宮前区の自営業林佐登子さん(44)は、こんな不安を口にした。反対意見の多い重要法案も次々に成立させてきた国会運営には不信感がいっぱいだ。

 日比谷公園(東京都千代田区)を散歩していた豊島区の会社員寺島伸一さん(36)は「日本の平和を守ってきたのは憲法だと思う。改憲は拙速ではないか」。出版社勤務の女性(24)=杉並区=は「なぜ急いで進めようとしているのか理解に苦しむ」と首をかしげる。

 宇都宮市の元小学校教員、福田孝志さん(65)も「改憲議論は急務ではない。国民の生活について優先的に議論してほしい」と望む。年金生活者として「来年の消費税増税で生活は厳しくなる。退職金を取り崩す人も出てくるだろう」と暮らしの先行きを心配した。

 千葉市花見川区の会社役員の永田孝一さん(67)は、改憲には賛成というが「自衛隊のあり方を深く論議しないまま、自衛隊の明記で存在を認めさせるだけの改憲なんて不要だ。目先のごまかしにすぎず、安倍首相の実績作りにしか見えない。数の力で強引に進める国会運営は言語道断。もっと議論を深める努力をしてほしい」と注文した。

 第9次横田基地公害訴訟原告団長の福本道夫さん(69)=東京都昭島市=も「民主主義国家なら、いかに少数意見を大事にするかを考えるべきだが、安倍政権はこれまでも最終的に人数で押し切ってきた」と警戒する。横田には米軍に加え、航空自衛隊の基地もあり、「現状でも、入間基地の自衛隊機や大型ヘリが(飛来して)住宅地の上を旋回したり低空飛行したりする。憲法に自衛隊を明記したら、さらに何でもやっていい状態にならないか」と懸念を示した。

◆「九条守れ」声一つ 国会前1200人が抗議集会

 国会前の路上では開会に先立ち正午から、憲法改正に反対する野党四党と無所属の国会議員や一般市民ら約千二百人(主催者発表)が集会を開き、「改憲案の提出反対」「九条守れ」などと声を上げた。

 「今の政治はひどすぎる。いてもたってもいられなくて来た」と集会に参加したのは東京都足立区の主婦鎌田由利子さん(67)だ。

 亡き父は十九歳のとき、茨城県内の学校で戦争に反対する新聞を作ったとして治安維持法で逮捕されたという。しばらくして釈放されたと聞いたが「戦争に突き進んでいく中で国賊とみられたんだと思う。戦争をしやすくする、憲法九条を壊す改憲は絶対に止めないと」と語気を強めた。

 東京都武蔵村山市の看護師早川恵子さん(74)は「衰退が止まらない地方を何とかするとか、改憲より優先して取り組むべき課題はあるのではないか」と改憲にこだわる首相の姿勢に首をかしげた。 

 

首相所信表明 改憲発議「議員の責任」 条文案、今国会提示に意欲(2018年10月25日配信『東京新聞』)

  

 第197臨時国会が24日召集された。安倍晋三首相は衆参両院本会議で所信表明演説を行い、改憲について「政党が具体的な改憲案を示すことで、国民の理解を深める努力を重ねていく」と述べ、今国会中の衆参憲法審査会への自民党改憲条文案の提示に意欲を表明した。

 首相は演説で、憲法審査会で議論を重ねれば、与野党を超えた幅広い合意が得られると指摘。「あるべき姿を最終的に決めるのは国民だ。国民と共に議論を深め、私たち国会議員の責任を共に果たしていこう」と改憲の是非を問う国民投票に向け、国会の改憲発議を呼び掛けた。

 演説に先立つ自民党両院議員総会でも「憲法改正という新たな国創りに向けて共に頑張っていこう」と語った。

 自民党は、九条への自衛隊明記を柱とする四項目の改憲条文案をまとめており、今国会で憲法審に提示し、目標とする2020年の新憲法施行に向けて議論を加速させたい考え。立憲民主党などの野党は、国民投票でのテレビCM規制の議論などを優先するよう求めている。

 演説後、自民、公明両党の衆院憲法審査会幹事は国会内で会談し、災害復旧費を盛り込んだ2018年度第1次補正予算案を11月上旬にも成立させた後、速やかに憲法審を再開する方針で一致した。 

 

辺野古への移設方針「見直し必要」55% 朝日世論調査(2018年10月16日配信『朝日新聞』)

 

 朝日新聞社が13、14両日に実施した全国世論調査(電話)で、沖縄県にある米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題について聞いた。県知事選で移設に反対する玉城デニー氏が当選したことを受け、安倍政権が移設方針を「見直す必要がある」と答えた人は55%で、「その必要はない」30%を上回った。

 「見直す必要がある」は男性49%に対し、女性が61%と高かった。支持政党別では自民支持層でも38%が「必要がある」と答え、「必要はない」は50%。無党派層では「必要がある」は63%に上った。

 自衛隊の明記などを盛り込んだ自民党の憲法改正案を、臨時国会に提出することには42%が「反対」と答え、「賛成」の36%を上回った。「賛成」は自民支持層では61%と高めだったが、公明支持層では「反対」が「賛成」を上回った。

 安倍政権に一番力を入れてほしい政策を六つ挙げて聞くと、「社会保障」30%、「景気・雇用」と「地方の活性化」いずれも17%、「財政再建」15%、「外交・安保」10%。「憲法改正」は最も少ない5%だった。

 柴山昌彦文部科学相が、教育勅語を現代風にアレンジすれば、道徳の教育などに使える分野があると発言したことについては、「問題だ」は32%で、「問題ではない」が38%。「その他・答えない」は30%。40代以下は「問題ではない」の方が多く、50代以上は「問題だ」の方が多かった。

 

国会人事も改憲シフト(2018年10月13日配信『しんぶん赤旗』)

 

首相側近・「日本会議」議連中枢など盟友ズラリ

 自民党は衆院の憲法審査会の筆頭幹事に新藤義孝元総務相をあて、参院憲法審査会の筆頭幹事に石井準一筆頭副幹事長をあてる方向で最終調整しています。新藤氏は、安倍晋三首相を支援する議連「創生日本」の役員を務める首相に近い人物で、日本会議国会議員懇談会の中枢メンバーの一人。石井氏は、参院国会対策の中心を担ってきた強硬派です。

 また衆院議院運営委員長に首相側近の一人、高市早苗元総務相をあてました。前任の古屋圭司氏は日本会議国会議員懇談会会長で、高市氏は同懇談会の中枢メンバー。高市氏がバトンを受け継ぎ、改憲発議の際の本会議運営に備える布陣です。

 安倍首相はさきの党役員人事で、党憲法改正推進本部長に盟友の下村博文元文科相を、党の最終意思決定機関の総務会の会長にも側近の加藤勝信前厚労相を抜てき。幹事長代行にもやはり側近の萩生田光一元総裁特別補佐を、新たな総裁特別補佐には稲田朋美元防衛相をあてるなど、改憲推進を狙って要職に側近をずらりと配置しています。

 安倍首相は、24日に召集予定の臨時国会で自民党改憲案について説明するとしており、党内の慎重論をも排して、自身の意思を忠実に反映できる態勢を強めています。

解説

強権姿勢 弱さの表れ

 党の要職や衆参の憲法審査会など改憲にかかわる役職を、自身の側近や盟友で固める露骨な改憲シフトを強める安倍晋三首相―。まさに党内や与党・公明党の慎重論をも排して、力ずくで改憲を進めようとする布陣です。

 その強権姿勢と改憲への執念を決して侮ることはできません。一方でこうした強権姿勢は、安倍首相の強さの表れではなく弱さと孤立をあらわすものでもあります。

 9条改憲の必要性の認識が国民の間でわずかしかないことに加え、安倍改憲への反対が多数を占める中、公明党も世論に包囲され与党協議を開くことさえ拒否。そもそも自民党の改憲案自体が固まっていない状態です。

 さらに秘密保護法や安保法制=戦争法で立憲主義を乱暴に破壊した安倍政権・自民党に改憲を語る資格はないこと、森友・加計問題をめぐる公文書改ざんや虚偽答弁によってまともな議会運営ができない状態になっていることなどから、野党は安倍改憲阻止で一致しています。

 衆参の憲法審査会に改憲原案を議員提案する場合、衆院で100人以上、参院で50人以上の賛成が要件とされています。法律案の提出よりはるかに厳格なのは、単に改憲案が重要であるだけでなく、与野党合意、少なくとも野党第1党の賛成を必要とする趣旨からです。この趣旨を厳格に踏まえれば、改憲案を提案すること自体が不可能な状況です。

 強権発動を可能とする改憲シフトは、こうした孤立を突破しようとするもの。しかし、強引なやり方はますます世論と野党、さらには公明党の反発をも強め改憲論議を困難にします。自民党の憲法審査会関係議員からも「こんなやり方でうまくいくはずがない」という強い批判の声も漏れます。

 

 

憲法審査会/拙速避けて熟議尽くしたい(2019年6月9日配信『河北新報』―「社説」)

 

 安倍晋三首相の目指す憲法改正に向けた論議が足踏みしている。2020年の施行を今も掲げるものの、国会で改憲原案を審議する憲法審査会は5月初め、実質的な審議を衆院で開いただけ。「開店休業」の状態に近い。

 夏の政治決戦である参院選が近づき、与野党ともに機運が盛り上がらないように見える。国民投票に向けた国会発議に必要な3分の2の議席確保を巡る争いがクローズアップされ、肝心な中身の議論は深まらない。

 国の背骨とされる憲法については、他の法律と異なる慎重さが求められる。国民が何を求めているか耳を傾け、安易な妥協や拙速を避けた対応を求めたい。

 先月9日の衆院憲法審では、国民投票の利便性を公選法にそろえる国民投票法の改正をテーマにした。テレビCMの量的規制を巡り、与野党間の溝は埋まらなかった。

 その後も審議に入れない状況が続く。会期末を控え、同法改正案の今国会成立は見送られる公算が大きい。与野党対立の背景には、国民投票法の改正を呼び水に、改憲の本丸に誘い込まれるという警戒感がある。

 野党のかたくなな態度を良しとはしないが、停滞を招いたのは改憲に前のめりな首相の姿勢にも一因があろう。昨年10月、衆院憲法審で各党との協調を重視してきた自民党側の筆頭幹事と幹事が役職を外れた。後任には首相寄りの保守派の議員を充てた。

 翌月には、自民党の憲法改正推進本部長が憲法審の開催をしぶる野党の姿勢について、「職場放棄」と発言するなど、かえって態度を硬化させる一幕もあった。

 熟議のプロセスを軽んじ、無理を重ねて優れた案など生まれるはずはない。過去の国会では、超党派をメンバーとした憲法調査会などが存在した。長い年月をかけ、党の利害を超えた真摯(しんし)な話し合いが重ねられたこともある。世代交代と自民1強が進み、忘れ去られたのだろうか。

 5月3日の憲法記念日。首相は改憲派団体の集会に再びビデオメッセージを寄せ、「2020年を新憲法が施行される年にする気持ちに変わりはない」と述べた。

 自民党の改憲案とは、9条への自衛隊明記、緊急事態条項の新設、参院選の「合区」の解消、教育充実の4項目を指す。

 参院選の公約に4項目を入れ、17年衆院選に続き、重点項目に据える方向だ。党としては選挙の勝利を前提に、秋の臨時国会以降に改憲原案を提出するシナリオを描く。

 しかし、改憲案が国民に浸透しているかと言えば、自衛隊を明記する条項をはじめ、必要性を感じないとの声が数多く聞かれる。

 国民の理解という必要不可欠な環境づくりに努めるのが、まず先だろう。その前に議論すべきことは山ほどある。

 

国民投票法/足りないCM規制の議論(2019年5月24日配信『神戸新聞』―「社説」)

 

 衆院憲法審査会で先日、今国会初の実質審議が行われた。与党側の失言問題などで空転が長く続き、衆院審査会での実質審議は約1年半ぶりである。

 与党が提案している国民投票法改正案は、駅や商業施設などへの「共通投票所」設置を可能にするなど、公選法の規定に合わせた見直しだ。

 ただ安倍政権には改憲の動きにつなげたい思惑がある。今回は投票運動のテレビCM規制をテーマとすることで野党側に譲歩し、民放連の幹部を参考人に招いて意見を聴いた。

 民放連は「表現の自由」を侵害する懸念があるとして規制に反対する立場を表明した。法規制に否定的な自民、公明両党に近い考え方といえる。

 しかしそれでは資金量の差が投票行動に影響を及ぼす事態が予想される。「規制の在り方を考えるべき」とする立憲民主党など野党側の主張も当然だ。

 フランスや英国の国民投票では、公的なCM枠が均等に配分される。一方、それ以外のCMは全面的に禁止される。海外の例も参考に、時間をかけて議論を尽くすべきである。

 現行の国民投票法には、賛否を訴える広告の規制も運動費用の上限もない。テレビCMは投票14日前から禁止されるが、それまでは自由に放送できる。

 規制を最小限度にとどめたのは、国民の活発な議論を促すためだ。民放連の永原伸専務理事は、CM量の不均衡を抑制する放送業界の自主規制についても「国民の表現の自由を制約すべきではない」として、「行わない」と明言した。

 ただ、法の不備を指摘する声は少なくない。永原氏は「フェイク(虚偽)があってはならない」とも述べ、内容を精査する考えも示した。さらにインターネットの広告費がテレビCMに迫る状況を踏まえ、「広告全般の議論でなければおかしい」と訴えた。

 ネット広告のルールづくりは避けて通れない論点である。対象を広げて検討する必要があるだろう。国民民主党は、政党によるCM禁止を柱とする独自の改正案を衆院に提出した。

 与野党は、幅広い観点で一致点を見いだす努力を重ねてもらいたい。

 

国民投票法 CMの在り方考えたい(2019年5月22日配信『秋田魁新報』―「社説」)

 

 衆院の憲法審査会で、国民投票法の見直し議論が行われている。自民、公明両党などは投票の利便性を公選法にそろえる改正案の早期採決を求めている。一方の立憲民主党などは改正案に盛り込まれていないテレビやラジオのCM規制強化についての議論を要求している。国民民主党は独自に政党によるスポットCMの禁止を柱とする改正案を提出した。

 与党などの改正案は、公選法にそろえて投票日当日に駅や商業施設でも投票できる「共通投票所」の設置など7項目。当然行うべき改正であるが、CMの在り方についても国民投票が具体化する前に詰めておかなくてはならない課題である。建設的な議論に期待したい。

 現行の国民投票法は、政党や団体が改憲案への賛否を呼び掛けるテレビやラジオCMを投票日の14日前から禁止している。有権者が静かにじっくりと自らの考えをまとめる時間を確保するためであろう。しかし、それ以前については規制がなく、自由に流せる。

 CMだけで、有権者の投票行動が決まるわけではない。もっと他の情報なども当然参考にするはずである。だが賛成、反対のどちらか一方の側が大量のCMを流せば、世論が誘導され、投票行動に大きな影響を与える可能性もある。

 法制定時の参院委員会の付帯決議は、CM規制について「公平性を確保するためのメディア関係者の自主的な努力を尊重する」としていた。これに対して民放連の担当者は憲法で保障されている「表現の自由」に抵触する恐れがあるとして、CM量の自主規制はできないと表明し、法規制にも反対する考えを示している。

 行き過ぎた規制は民主主義の根幹を揺るがしかねない。一方で資金力の差が、そのまま投票運動、結果を左右するような事態になることは避けなければならない。「表現の自由」はもちろん尊重されるべきであるが、その上で公平性を確保するための方策が必要ではないか。例えば政党や団体が使える資金の上限を設けることなどを検討してはどうか。

 2007年の法成立から12年が経過した。その間に社会を取り巻く環境は大きく変化した。その一つがインターネットや会員制交流サイト(SNS)の急速な普及である。今や多くの人たちが、スマートフォンなどから情報を得る時代である。ネット広告費は昨年、地上波テレビの広告費にほぼ並んだ。テレビ、ラジオだけではなく、ネットCMへの対応も必要であろう。

 憲法改正の是非について判断を下すのが国民投票である。与野党とも、どうすれば有権者が国民投票に関心を持ち、公正な投票行動に結びつくかを最優先で考えなくてはならない。じっくりと時間をかけて一つ一つの課題を洗い直し、議論を進めていくことが求められる。

 

「改憲」の争点化(2019年5月22日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

首相の異常な執念打ち破ろう

 安倍晋三首相(自民党総裁)が、同党の下村博文改憲推進本部長に対して、夏の参院選では「きちんと改憲を訴えていこう」と指示し、争点化する動きを強めています。安倍首相が執念を燃やす改憲が、国民の批判で進まないことから、選挙で「正面突破」する企てです。

 改憲や消費税増税を争点に、衆院の解散・総選挙に踏み切るという、自民党内の動きを伝えるマスメディアもあります。首相と自民党の、改憲の野望を許すわけにはいきません。参院選で厳しい審判を下し、安倍政権を、改憲策動とともに葬り去ることが重要です。

歯止めない軍事大国に

 安倍首相は今年の憲法記念日の改憲派の集会に寄せたビデオメッセージでも、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」という気持ちは「今も変わりはない」と断言しています。安倍氏が下村氏に、参院選で「改憲を訴えていこう」と指示した(17日)のも、改憲への執念深さを示すものです。

 自民党は改憲に向けて、衆院の小選挙区支部ごとに改憲推進本部を設け、改憲を宣伝する資料やビラを大量に発行し、改憲世論の喚起に躍起です。

 安倍首相は2年前の憲法記念日に、憲法9条に自衛隊を書き込むなどの明文改憲案を明らかにし、自民党は昨年、それをもとに改憲条文案をまとめました。これが実行されれば、憲法9条2項の戦力不保持・交戦権否認の規定が空文化・死文化し、自衛隊が大手を振って、海外での戦争に参加することが可能になります。文字通り、自衛隊員が外国で、“殺し・殺される”事態になりかねません。

 自民党の改憲条文案が、自衛隊を憲法に書き込んだ上で、その「行動」は「法律で定める」としているのは重大です。これまで政府は、憲法との関係で、武力行使を目的にした海外派兵や集団的自衛権の行使、相手国を壊滅するための武器の保有や徴兵制は、「できない」としてきました。自民党案の通りになれば、法律さえ通せば、自衛隊の行動は際限なく広げることができます。まさに歯止めのない軍事大国の道です。

 自民党が「改憲4項目」として、9条への自衛隊明記のほかに、「緊急事態条項」の創設や参院選の「合区」解消、教育の「無償化」を持ち出しています。「緊急事態条項」は、国民の権利を侵害するものです。これらはいずれも、改憲の「一丁目一番地」として首相が固執する、9条改憲の“呼び水”にするのが狙いです。

 今年の憲法記念日に「朝日」が報じた憲法問題の世論調査では、憲法を変える機運が「高まっていない」が72%で、9条を「変えない方がよい」が64%と、国民は改憲を望んでいません。国民が求めてもいないのに改憲を強行するのは、最悪の立憲主義破壊です。

「安倍改憲にサヨナラ」

 もともと、憲法を尊重・擁護する義務がある首相が、改憲の“旗振り”をすること自体、憲法違反です。憲法を破壊する首相に、憲法を語る資格はありません。

 全国から憲法を守り生かす運動とともに、市民と野党の共闘を広げ、首相の野望を打ち砕くときです。安倍首相と自民党が参院選で改憲を「訴える」というなら、「安倍改憲は許さない」で力を合わせ、「安倍改憲サヨナラ」の審判を下そうではありませんか。

 

国民投票法改正 課題洗い出し、徹底議論を(2019年5月20日配信『熊本日日新聞』―「社説」)

 

 衆院の憲法審査会で、憲法改正の手続きを定めた国民投票法の改正議論が行われている。

 改正案は、投票日当日に駅や商業施設でも投票できるよう「共通投票所」を設けることなど7項目で、国民投票を現行の公職選挙法とそろえるため当然行うべき改正だ。立憲民主党なども異論はなく、実際に投票が行われる段階になれば、短期間で処理できる内容と言えよう。

 ただ、与党は安倍晋三首相が掲げる2020年の改正憲法施行を見据え、初の国民投票実施に向けて早期に障害を取り除くことを狙う。これに対し野党側には改正案を処理すれば、改憲議論の加速を招くとの警戒感が強い。

 07年の国民投票法成立から12年。そもそも国の形を定める憲法の改正につながる法律でありながら、現行法には不備が目立つ。実施が具体化していないうちに、課題を徹底して洗い出し、しっかりした法改正を目指すべきだ。

CM規制の在り方

 国民投票時のCM規制の在り方は主要課題の一つだろう。

 改憲の国民投票は、活発な議論が国民の間で行われることを期待しており、投票運動は原則自由との考え方に立っている。現行法では、投票14日前から投票日までの間は改憲案への賛否を呼び掛けるテレビ、ラジオのCMは禁止されるが、それ以前は自由だ。

 法制定時の参院委員会の付帯決議は、CM規制について「公平性を確保するためのメディア関係者の自主的な努力を尊重する」とする。ただ、広告にも表現の自由の保障を認めるのが裁判の先例だ。行き過ぎた規制は民主主義の根幹を損なう恐れがあり、民放連の担当者も「表現の自由に抵触する恐れがあるため、CM量の自主規制はできない」と表明している。ともあれ、国民投票が具体化する前に詰めておくべき課題だろう。

資金の多寡で差も

 現行法では、出所不明な資金であっても、上限も使い道も制限はない。有権者の賛否が二分しやすい国民投票で、賛否どちらかの側が豊富な資金を使って大量のCMを流せば、投票行動に大きな影響を与える懸念がある。資金の多寡によって差が生じ、投票の公正さを害するようなことがあってはなるまい。

 選挙では費用に上限が定められ、出納責任者が収支報告を行い、事後的にチェックされる。国民投票でも、表現の自由に配慮しながら、例えば運動できる団体を絞った上で使える資金に上限を設け、投票後の収支報告を義務付けるといった方策を考えるべきではないか。

 一方、現行法制定時には想定されていない課題も浮上している。

 インターネットや会員制交流サイト(SNS)の飛躍的な利用者数の増加だ。ネットの広告費は、昨年地上波テレビの広告費にほぼ並んでおり、ネットCMへの対処も喫緊の課題となっている。

特別な監視が必要

 また、多くの人がスマートフォンなどで情報を得る時代になり、ネットニュースやSNSによる発信が急速に普及。フェイクニュースの横行や、16年の米大統領選で起きた他国による選挙介入も懸念される。特別な監視が必要で対応策を早急に議論すべきだ。

 現行法では、どんなに投票率が低くても有効投票の過半数の賛成があれば改憲が成立する。それで国民の納得が得られるとは思えない。一定の投票率を成立の条件とする「最低投票率」や、有権者の一定割合の賛成を必要とする「絶対得票率」の検討も必要だろう。

 国民投票は改憲の是非を問う重要な手続きであり、スケジュールありきで法改正を進めることなどあってはならない。与野党は、国民に信頼される制度となるよう議論を尽くしてもらいたい。

 

国民投票法 新たな課題に対処を(2019年5月17日配信『茨城新聞』―「論説」)

 

衆院の憲法審査会で、憲法改正の手続きを定めた国民投票法の見直しの議論が行われている。自民、公明両党などは、公選法の規定に合わせて有権者の利便性を高める改正案を提出しており、早期の採決を求める。これに対して立憲民主党など野党は、テレビやラジオのCM規制強化に関する議論を要求し、対立が続いている。野党側には公選法にそろえる改正案を処理すれば、CM規制の議論が棚上げにされ、自民党がまとめた改憲4項目の審議に入るよう求めてくるとの警戒もあるのだろう。

ただ、今の議論からは重要な論点が抜け落ちている。2007年の法制定から12年たち、当時は想定されず、今になって浮上してきた新たな課題への対処だ。利用が広がるインターネット上のCM規制はどうするのか。フェイクニュースの横行や、16年の米大統領選で起きた他国による選挙介入も想定される。

サイバー問題の専門家は「改憲の国民投票は有権者の賛否を二分しやすく、影響も大きいため、特別な注視が必要だ」と指摘する。国の形を定める憲法の改正に他国の介入を許すのは、国民主権が侵される事態と言える。国民投票の実施が具体化していない今のうちに、課題を洗い出して対処策を検討すべきだ。

公選法にそろえる改正案は、投票日当日に駅や商業施設でも投票できる「共通投票所」を設けることなど7項目で、当然行うべき改正だ。しかし、立民なども内容には異論はなく、実際に国民投票が行われる段階になれば短期間で処理できる。急ぐ必要はない。

 一方、CM規制の在り方は国民投票が具体化する前に詰めておくべきだ。現行法では、14日前から投票日までの間は改憲案への賛否を呼び掛けるテレビ、ラジオのCMは禁止されるが、それ以前は自由だ。賛否どちらかの側が豊富な資金を使って大量のCMを流せば、投票行動に大きな影響を与える懸念が指摘される。

 法制定時の参院委員会の付帯決議は、CM規制について「公平性を確保するためのメディア関係者の自主的な努力を尊重する」としていた。だが民放連の担当者は「表現の自由」に抵触する恐れがあるためCM量の自主規制はできないと表明、法規制にも反対する考えを示している。

 国民投票は活発な議論が国民の間で行われることを期待しており、投票運動は原則自由との考え方に立っている。しかし、資金の多寡によって運動量に差が出る事態を放置していいのか。表現の自由に配慮しながら、例えば運動できる団体を絞った上で使える資金に上限を設定するなどの方策を考えるべきだろう。先日の衆院憲法審ではCM以外の課題も検討すべきだとの意見が出た。一つはネットCMだ。ネットの広告費は昨年、地上波テレビの広告費にほぼ並んだ。多くの人がスマートフォンなどで情報を得る時代だ。ネットCMへの対処は必要だろう。

他国による選挙介入は、欧州連合(EU)離脱の賛否を問うた英国の国民投票などでも疑われている。集票関連システムの妨害などの介入だけではない。会員制交流サイト(SNS)を通じて有権者の投票行動を誘導することも可能だという。選挙介入はよその国の話ではない。日本も狙われるとの前提に立ち、対応策を議論すべきだ。

国民投票での広告規制 野放しのままでいいのか(2019年5月14日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 約1年3カ月ぶりに実質審議が行われた衆院憲法審査会で、国民投票実施時のCMのあり方が改めて議論になった。国民投票法は、政党やその他の団体が賛成、反対の投票を呼びかけるCMを投票日14日前から禁止しているが、それ以前は自由に流せるため、放映量の差が公平な投票行動を左右する懸念は拭えない。

 投票呼びかけのCMを2週間禁止したのは、有権者が静かな環境で判断する期間を確保するのが目的だ。大量の広告による影響は、それほど大きいと考えられているわけだ。

 12年前の同法制定時は、日本民間放送連盟(民放連)の自主規制が想定されていた。しかし先週の同審査会で、民放連は表現の自由を理由に量的規制は行わないと表明した。

 主要野党はこれに反発し、立憲民主党は法規制による全面禁止を主張している。国民民主党も政党は全面禁止、その他の団体は広告費の上限を5億円とするよう提案している。

 憲法改正案は、衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議する。国会で熟議を尽くし、主要な与野党が同意する合意優先型であるべきだと考えられていたため、国民投票のCMも改憲内容を周知する啓発活動の一環と位置づけられた。

 実施された場合は、日本で初めてだからこそ、国民投票はできる限り規制のない自由な形で行われるべきだという考え方は理解できる。

 しかし、再登板した安倍晋三首相は、与党など改憲勢力で衆参両院の3分の2の議席を占め、改憲への姿勢は対決型も辞さない構えを見せている。こうした現実政治の変化を踏まえれば、公正な国民投票運動を担保するには、CM規制も野放しのままではなく、広告費の資金総量規制を検討すべきなのではないか。

 さらに、有権者が利用する現在の情報環境を考えれば、テレビCMと共に早急な検討を要するのは、現行法では対象になっていないインターネット広告のルール作りであろう。

英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた国民投票など諸外国の経験を見ても、全有権者の直接投票による意思決定は、時に行き過ぎたポピュリズムによる混乱や国内の深刻な政治的分断を生む可能性がある。

 最高法規の改正手続きは、慎重かつ周到な制度設計を期すべきだ。

 

改憲の国民投票 精査すべき課題は多い(2019年5月13日配信『岩手日報』―「論説」)

 

 憲法を改正するには、衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成を得て発議し、国民投票で投票総数の過半数を獲得する必要がある。

 現在、安倍政権下での改憲に前向きな勢力は衆参で3分の2を超えている。数の上では発議が可能な状況だ。

 既に自民党は改憲案を用意しており、審議を急ぐ構えを際立たせる。だが肝心要の国民投票の全体像は、依然として明確にイメージし難い。

 先週、久々に再開された衆院憲法審査会で主テーマとなったCM規制の是非も大きな課題だが、改憲が「投票総数の過半数」で決まる方式にも多方面から議論がある。

 国政選挙の投票率は低下傾向が続く。どんなに低い投票率でも1票でも多ければ改憲が認められるという規定が、はたして国の基本である憲法を決める国民投票の趣旨に合致するのかどうか。

 発議を受け、国民に改憲案を広報するために衆参両院に設置される国民投票広報協議会の公正さを担保する仕組みも必要だ。ネットや会員制交流サイト(SNS)による発信への対応も後手に回る。

 18歳、19歳も有権者となる中で、投票買収などの犯罪行為は少年事件として扱うべきかという問題もある。

 改正の中身はもちろん大事だが、議論を進める前提として手続きをしっかり定めておくのは当然。国民の意思を問う仕組みがあやふやでは、国の未来に禍根を残す。

 野党がCM規制を求めているのは、改憲賛成派、反対派の資金力の差が投票結果を左右することへの懸念が背景にある。国民投票法は、国民に自由な議論を促す目的から、運動費用やポスターなどの枚数に通常の選挙運動のような規制は設けていない。

 民放連は表現の自由を守る立場からCM規制強化には反対の立場。一方で、テレビCMで資金力のある側の主張がゴールデンタイムを独占する可能性は否めない。

 双方に理屈が立つ状況で、良案を探るのが憲法審の役割だろう。だが与党側が議論に乗る気配は乏しい。民主主義の理念を挟んで二項対立に陥っているのは、現在の改憲論議の現状をしのばせる。

 改憲手続きを精査しないまま自民党が独断で条文案を示し、改正憲法施行のスケジュールにまで言及するのは、与野党が意見を一致させながら議論を積み重ねてきた憲法審の流れにそぐわない。

 共同通信の直近の世論調査では、多くが改憲に関心を抱く様子が浮かび上がる。野党側も自らの主張を言い募るばかりでは、国民の期待に応えているとは言い難い。いずれ憲法を政局にするような国会では、改憲を国民に問う資格が疑われよう。

 

CM規制 考え方の隔たりが鮮明だ(2019年5月13日配信『信濃毎日新聞』―「社説」)

 

 国民投票法の抱える課題が改めて浮き彫りになった。

 改憲の是非を問うに当たってのCM規制を巡り、各党や民放連の考え方は隔たりが大きい。自由で公正な投票のルール作りに向け、腰を据えて議論しなくてはならない。

 衆院憲法審査会がCM規制について、参考人招致した民放連幹部から意見聴取した。憲法審での実質論議は衆参両院を通じ、今国会で初めてだ。衆院では2017年11月以来になる。意見を踏まえて与野党が質疑した。

 民放連はCM量の自主規制を行わないと決めている。憲法審では放送事業者の勝手な判断で国民の表現の自由を制約するべきではないと考えた―と説明した。法規制についても放送事業者の表現の自由を侵害する恐れがあるとして反対の立場を表明している。

 これに対し、立憲民主党は投票法制定に向けた審議の過程で民放連が自主規制を明言したと指摘した。CM量を自主規制しなければ欠陥法になると主張している。

 国民民主党からは民放連が決めたガイドラインについて「賛否を公平に扱うと書いてあるなら法規制は不要だが、書いていないから法規制の話が出てくる」との発言があった。

 法律上、投票日の14日前からは賛否を呼び掛けるCMが禁じられている。それ以前は回数や費用の制約がなく、自由に流せる。資金力によってCM量が偏り、国民の判断に影響を与える恐れが指摘されている。

 表現の自由を最大限尊重するのは当然だ。とはいえ、民放連の意見に同意はできない。自主規制しない立場を取り続ければ、法規制を招く心配がある。放送の公共性を踏まえ、CM量について再検討するよう求める。

 論点は放送事業者の対応だけにとどまらない。国民民主は、政党のスポットCM禁止、企業や団体による支出上限の設定などを唱えている。

 投票法の成立から12年たち、新たな課題も生じている。憲法審ではインターネット広告への言及もあった。誤った情報が広がる危険性を含め、ネット広告や会員制交流サイト(SNS)の在り方を吟味しなくてはならない。

 自由な意見表明と投票の公正をどう両立させるか。社会の変化を踏まえ、国民全体で考えていくべき問題である。

 

憲法と国民世論(2019年5月10日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

改憲望まぬ民意、さらに鮮明

 憲法記念日の3日、いくつかのマスメディアが憲法問題の世論調査を発表しました。「朝日」の調査では、憲法を変える機運が「高まっていない」が72%で、安倍晋三首相が標的にしている9条を「変えない方がよい」が64%と、多くの国民が改憲を望んでいないことが明らかになりました。それにもかかわらず、安倍首相は同日開かれた改憲派集会に寄せたビデオメッセージで、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」という気持ちは「今も変わりはない」と断言しています。国民が求めてもいない改憲を押し付けるのは、最悪の立憲主義破壊です。

国のあり方に「終止符」

 安倍首相は、一昨年の憲法記念日での「読売」インタビューや、改憲派集会へのビデオメッセージで、9条に自衛隊を書き込むことや「緊急事態条項」を創設するなどの項目を示し、20年を「新しい憲法が施行される年にしたい」と明文改憲に踏み切る意向を明らかにしました。昨年の国会に自民党の改憲案を提示、国会の憲法審査会を数の力で押し切って、国民投票に持ち込もうと企てたものの、野党と市民の力で阻止されました。しかしその後も改憲発言を繰り返し、憲法審査会での議論などを求めてきました。首相に求められる憲法尊重・擁護義務も、三権分立の原則も踏みにじる、言語道断な言動です。

 もともと秘密保護法の制定や安保法制=戦争法の強行など、憲法破壊を続けてきた安倍首相には、憲法を語る資格はありません。何より9条に自衛隊を書き込めば、戦力不保持・交戦権否認の現行の規定が空文化・死文化し、自衛隊が大手を振って、海外でアメリカの起こす戦争に参加することを可能にします。自衛隊員が外国人を殺し、戦死者を出すという、戦後一度もなかった事態になりかねません。

 安倍首相は3日のビデオメッセージで、自衛隊をめぐる「違憲論争」に「終止符」を打つために、「先頭に立って、責任をしっかり果たしていく決意」と言い切りました。9条があったからこそ、戦後の日本は、世界から評価されてきました。首相が「終止符」を打とうというのは、こうした戦後日本の、国のあり方そのものです。

 安倍首相が改憲をあおり立ててきたにもかかわらず、「朝日」の世論調査では、改憲機運が「高まっていない」が7割を超え、9条を「変えない方がよい」が昨年と同様に60%を上回っています。首相が一昨年のインタビューで改憲を持ち出した「読売」の調査でも、憲法を「改正しない方がよい」が46%(昨年同)、憲法9条に自衛隊を明記することに「反対」も46%です。明確な9条改定賛成は3割台です。国民の声は明白です。

勝手な理想押し付けるな

 安倍首相は、憲法は「国の理想を語るものであり、次の時代への道しるべ」(ビデオメッセージ)だと言って、改憲を正当化します。とんでもないことです。憲法は主権者・国民が時の権力を縛るものであり、権力者が勝手な「理想」や「道しるべ」を国民に押し付けるものではありません。

 繰り返される改憲策動に反対し、憲法を守り生かす世論と運動を広げ、7月の参院選で厳しい審判を下し、改憲策動もろとも安倍政権に“終止符”を打ちましょう。

 

日程ありきは許されぬ 首相の改憲発言(2019年5月8日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が2020年の改正憲法施行に再び意欲を示した。自民党総裁としての発言だが、改憲の必要性よりも在任中の実現を優先させる意図ではないか。日程ありきの改憲論議は許されない。

 令和最初の憲法記念日。首相は改憲派が主催する「公開憲法フォーラム」にビデオでメッセージを寄せた。日本国憲法施行70年の節目に当たる2年前の同じフォーラムで「2020年を、新しい憲法が施行される年にしたい」と言及したことに触れ、「今もその気持ちに変わりはない」と述べ、自ら改憲実現の先頭に立つ決意を重ねて示した。

 憲法に改正条項がある以上、改憲論議自体は否定しない。法律の改正では対応できず、もし改憲がどうしても必要な状況になれば、幅広い合意により、改正に踏み込むこともあり得るだろう。

 しかし、20年までに改正憲法を施行しなければ対応できないような差し迫った政治課題が今、あるのだろうか。あるいは、国民の側から改憲を求める声が大きく湧き上がっている状況だろうか。

 首相は改憲を必要とする理由に「憲法に自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打つ」ことを挙げたが、「多くの国民は自衛隊を違憲と思っていない」(北側一雄公明党憲法調査会長)のが実態だ。

 共同通信による憲法に関する世論調査では九条改憲の必要が「ある」が45%、「ない」は47%と二分されている。自衛隊違憲論を理由とした改憲論には無理がある。

 また首相は「貧困の連鎖を断ち切るため、教育はすべての子どもたちに真に開かれたものとしなければならない」ことを憲法に位置付ける必要性を強調したが、これも憲法というよりは、法律や政策対応の問題ではないのか。

 改憲が必要な状況でないにもかかわらず、20年という期限を無理やり設定して論議を強引に進めるのであれば、改憲を必要とする切迫性よりも、21年秋までの党総裁任期中の改憲実現を狙ったと指摘されてもやむを得まい。

 改憲は幅広い国民的な合意が前提だ。与党だけや一部の野党を取り込んだだけで強引に進めることがあってはならない。

 首相は「この国の未来像について真正面から議論を行うべき時に来ている」とも語ったが、首相らへの忖度(そんたく)の有無が問題となった森友・加計問題や統計不正など、未来像に影を落とす問題が残されたままだ。改憲論議に先だって国会で解明、議論すべきではないか。

 

国民投票法 CM規制の議論深めよ(2019年4月26日配信『信濃毎日新聞』―「社説」)

 

 国民投票のテレビCMについて、衆院憲法審査会が連休明けに日本民間放送連盟(民放連)から意見を聴くことを決めた。

 資金力のある団体が集中豪雨的にCMを流し、世論を誘導して結果をゆがめる心配が指摘されている。野党の中には規制を求める声がある。

 法的規制をすべきかどうか―。放送業界の自主的な取り組みで対応できるのか―。時間をかけた議論が欠かせない。

 国会が発議する改憲案についてイエスかノーかの判断を示すのが国民投票だ。改憲への最後の関門になる。有効投票総数の過半数の賛成で承認される。

 国民が自由に意見を言えるようにするため、投票法は規制を最小限にしている。運動は政党、団体、個人を問わず誰でもできる。公職選挙法で禁止されている戸別訪問もOKだ。

 テレビCMは、投票日の14日前以降は禁止するものの、それまでは規制しない。国会による改憲発議から投票までは60180日ある。その間、14日前までは自由にCMを流すことができる。

 民放連はかねて、CMの扱いについては自主的な取り組みに任せてほしいと言ってきた。規制が最小限になった背景にも、業界のこうした姿勢がある。

 民放連は先日、CMのガイドラインを決めている。▽自社の番組基準に基づいて適切な考査を行う▽独占的利用を認めない▽個人のCMは取り扱わない―などだ。

 これで大丈夫か疑問が残る。ガイドラインは賛成、反対両派のバランスなど、量的な基準には触れていない。高額の広告料を負担できる団体のCMがゴールデンタイムで幅を利かせる可能性が否定できない。放送の公共性を踏まえた、もっと具体的で実効性の期待できる基準が必要だ。

 国民民主党が昨年決めた国民投票法改正案は、政党のスポットCM禁止や一定額以上の資金を使う団体の届け出制、支出の上限設定などを盛り込んだ。英国では有料CMを禁止している。

 国民投票は一般に、注意深く仕組みを整えて運用しないと思わぬ結果を招く危険がある。憲法を巡る投票では、なおさら慎重であるべきだ。

 今の投票法には最低投票率の規定がないなど、問題はほかにも多い。一から議論をやり直すつもりで中身を洗い直したい。

 

「ワイルド」な改憲とは?(2019年4月24日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 ちょっと前にはやったお笑い芸人の一発ギャグではない。政権党に身を置く名の知れた政治家の発言だ。笑えないし、黙って見過ごすわけにもいくまい

▼18日、インターネットテレビ番組に出演した自民党の萩生田光一幹事長代行。憲法改正に絡んで「(天皇陛下の)ご譲位は終わって新しい時代になったら、少しワイルドな憲法審査を進めていかないといけない」と持論をぶった

▼今国会で憲法審査会が衆参両院で一度も開かれていないことに疑問を呈した萩生田氏。野党が開会に消極的だとして「令和になったらキャンペーンを張るしかない」とも言い切った。たちまち野党の批判を浴び、19日には陳謝する羽目に。お粗末というほかない

▼新しい天皇が即位し、令和の時代になれば手荒な手法で改憲を進めても国民は許してくれると考えたのだろうか。そんなふうに改元を捉える人はいまい。迷惑な話である

▼萩生田氏は安倍晋三首相側近の一人に数えられ、内閣官房副長官の地位にもあった人。彼の発言は改憲に熱心な安倍首相の姿勢にも通じていよう。しかし、世論はついてはいかぬ

▼多くの国民は安倍政権下の改憲を望んでいないことが各種世論調査で分かっている。改憲に突き進むなら、それこそワイルドであり、粗暴だ。改元の2日後には憲法記念日が巡ってくる。憲法の意義を見詰め直してはどうか。

 

法制局長官答弁 「番人」の名に値しない(2019年3月9日配信『北海道新聞』―「社説」)

 

 「憲法の番人」の変質と、1強政権の下にある官僚のおごりを象徴する発言にほかならない。

 内閣法制局の横畠裕介長官が参院予算委員会で、憲法上の内閣に対する国会の監視機能を説明する中で「このような場(委員会)で声を荒らげて発言することまで含むとは考えていない」と述べた。

 憲法問題などで安倍晋三首相を追及していた立憲民主党会派の議員の質問を批判した発言だった。国民を代表する議員の質問を官僚が批判するなど、国会に対する冒涜(ぼうとく)と言っても過言ではない。

 横畠氏はその場で撤回、謝罪した。きのうの参院予算委でも委員長から厳重注意を受け、改めて謝罪したが、野党は辞任を求めている。当然の対応だろう。

 内閣法制局は、内閣が提出する法案などが憲法や他の法律に反していないかどうかを審査する。法の支配に基づく行政を貫く上で欠かせない機能を担う。「番人」と呼ばれてきたゆえんである。

 その役割をねじ曲げたのが、安倍政権の下での憲法9条解釈変更と安全保障法制の制定だった。

 首相は、集団的自衛権の行使は違憲とする見解を変えるために、慣例に反する人事で行使容認派の外務官僚を長官に送り込んだ。

 その後任として、解釈変更の閣議決定や安保法の国会答弁を担ったのが横畠氏だ。

 立憲民主党の辻元清美国対委員長は今回の発言について「法の番人が安倍政権の門番に成り下がった」と批判した。

 だが歴代内閣が堅持してきた憲法解釈を時の首相の意に沿い覆した時点で、既に成り下がっていたとみて差し支えあるまい。だからこそ、行政官の本分を履き違えた発言が口に出たのだろう。

 人事権などの権力を専断的に振るう首相の下で官僚の追従(ついしょう)や忖度(そんたく)が生まれ、行政をゆがめていく。内閣法制局の対応は、森友・加計(かけ)問題に通ずる「政と官」のいびつな関係の第一歩だった。

 横畠氏の下で法制局は、解釈変更に際し内部検討の経緯を記した議事録などを公文書として残していなかった。後世に正確な記録を伝える公文書管理法の精神を軽んじた政権の体質そのものだ。

 横畠氏の発言には与党内からも問題視する声が出ている。

 ただ、肝心の安倍首相から任命者としての反省や謝罪の言葉が聞かれないのはどうしたことか。

 議会制民主主義の在り方に関わる問題だ。与野党を問わず首相の認識を厳しくただすべきである。

 

[法制局長官暴言]まん延する思い上がり(2019年3月9日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 耳を疑うような暴言が飛び出したのは6日の参院予算委員会だった。

 立憲民主党会派の小西洋之氏は、安倍晋三首相の答弁を時間かせぎだと批判し、「聞かれたことだけ堂々と答えなさい」と声を張り上げた。

 小西氏はさらに横畠裕介内閣法制局長官に対し、国会議員が国会で行う質問の性格についてただした。

 横畠氏は何と答えたか。

 「(委員会で)声を荒げて発言することまで含むとは考えていない」と、たしなめるような、やゆしたような言い方で小西氏の姿勢を批判したのである。

 内閣法制局長官は、特別職の国家公務員で、内閣が任命する。国会に提出される法律案が憲法に適合しているかどうかなどを審査する役割を担う。

 法制面から内閣を補佐する組織のトップが、露骨な政治的発言で質問者を批判するなんて、一度も聞いたことがない。

 8日の参院予算委員会で金子原二郎委員長は「職責、立場を逸脱するもので、誠に遺憾だ」と指摘し、厳重注意した。

 横畠氏はこの日、あらためて「不適切だった」と謝罪し、発言を撤回した。

 だが、このような発言が国会答弁で口をついて出るということを、横畠氏個人の一過性の暴言と片づけるべきではない。

 問題の根は深く、深刻だ。 背景にあるのは、安倍政権の国会運営にまん延する「思い上がり」である。

    ■    ■

 自民党の伊吹文明・元衆院議長は「少し思い上がっているんじゃないか」と、所属する派閥の会合で横畠氏を批判した。議長経験者の実感に違いない。

 昨年の通常国会で表面化した政権の相次ぐ不祥事を受け、大島理森衆院議長は、「自省と改善」を求める異例の談話を発表した。

 巨大与党に支えられた強引な国会運営に危機感を表明し、対応を求めたのである。

 国権の最高機関である国会が、行政監視の役割を果たせなくなったときに何が起きるか。

 安倍政権の統治手法の特徴は公開できない意思決定があまりにも多いことだ。どのような議論を経て、誰によってその政策が決定されたのか。

それが覆い隠されれば民主主義は成り立たない。

 実際、内閣法制局は、集団的自衛権の行使容認という憲法解釈の歴史的大転換にあたって、内部の検討過程や官邸側とのやりとりを公文書として残さなかった。

    ■    ■

 「憲法(法)の番人」と評価されてきた内閣法制局は、安保法制を成立させたことで強い批判を浴びた。

 今度は、横畠長官の暴言によって「政権の番人」に成り下がってしまうのか。

 そんな印象を国民に植え付けただけでも、横畠氏は内閣法制局長官としての資質を欠いているというべきである。 国会の数の力に押されてなあなあで済ますと、政権の「思い上がり」に歯止めがかからない。政治をまっとうな軌道に戻すべきだ。

 

(2019年3月8日配信『中日新聞』―「夕歩道」)

 

 第1次安倍内閣の時代は、思えば「法の番人」が機能していた。集団的自衛権の行使を違憲とする憲法解釈の変更を迫る首相に職を賭して抵抗したのは、時の内閣法制局長官、宮崎礼壹氏だった。

 その後、返り咲きを果たした首相は、気脈を通じた外務官僚、小松一郎氏を長官に送り込む異例の人事を断行し、解釈改憲を強行。かくして法の番人は、何やら政権の番犬、忠犬みたいなことに。

 与党重鎮も眉をひそめる「声を荒らげて…」発言の主は、その後継長官。政権の勇み足を許さなかった法の番人の歴史はどこへ。国会軽視の政権と歩調を合わせるような挑発は、起こるべくして。

 

乱暴な議論は慎むべきだ/首相の改憲発言(2019年2月19日配信『東奥日報』―「時論」)

 

 安倍晋三首相が憲法9条を巡り、新たな「理由」を持ち出して改正の必要性を主張している。自衛官の募集事務に多くの自治体の協力が得られていないと強調、9条に自衛隊を明記することで「この状況を変えよう」というものだ。

 しかし多くの自治体は法令に従って、その範囲内で自衛官の募集に協力しているのが実態であり、首相の認識は事実誤認と言わざるを得ない。

 必要ならば法令の整備で自治体に求める協力の内容を定めることは可能で、それを改憲に結びつける首相の主張はあまりにも乱暴だ。国の根幹である憲法の改正論議には精緻な論理構成が求められる。不見識な議論は慎むべきだ。

 首相は先の自民党大会や国会答弁で、9条改正に絡めて自衛官の募集に言及。「6割以上の自治体が協力を拒否している」と述べた。

 自衛隊法は「都道府県知事、市町村長は自衛官募集事務の一部を行う」と定めており、自衛隊法施行令は募集に関し「防衛相は知事、市町村長に必要な報告、資料を求めることができる」としている。しかし、自治体側に資料提出に応じる義務は定められていない。

 防衛省によると、市区町村に18歳と22歳の住民の住所や氏名などの個人情報の提出を要請。2017年度は1741市区町村のうち36%が名簿提出に応じた。ほかの53%の自治体も住民基本台帳の閲覧などを認めた。岩屋毅防衛相は一切の協力を拒否しているのは5自治体と説明した。名簿提出は義務ではないので、9割以上の自治体が協力していると解釈すべきだろう。

 名簿自体を提出していない自治体の多くも、個人情報保護の観点から対応している。首相は「膨大な情報を隊員が書き写している」と閲覧作業の煩雑さを強調。自民党は所属議員に対し、地元自治体に名簿提出を促すよう求める通達を出した。

 しかし個人情報の厳格な管理が求められる中で、対象が自衛隊であれ、個人情報が渡されることをどう考えるのか。慎重な検討が必要だ。

 首相が自治体の対応に関して、改憲によって「空気が大きく変わっていく」と述べた点も見過ごせない。改憲で自治体が拒否できない「空気」をつくりだそうという発想だろうか。社会を取り巻く空気ではなく、法に基づいて政治、行政を行うのが法治国家の鉄則ではないか。

 

(2019年2月19日配信『デイリー東北』―「時評」)

 

安倍晋三首相が客観的事実をねじ曲げた新たな“根拠”をもとに、憲法9条を改正する必要性を訴え始めた。首相は先週の自民党大会で「都道府県の6割以上が新規自衛隊員募集への協力を拒否している悲しい実態がある」とし、9条への自衛隊明記案の意義を訴えた。その後の国会答弁で「都道府県」を「市区町村」と訂正したが、自治体の6割が協力を拒否していると主張し続けている。

 首相の発言は正確なのか。防衛省によると、同省は自衛官募集のため、自衛隊法に基づき市区町村に対し、18歳、22歳になる住民の住所、氏名といった個人情報の提供を依頼。住民基本台帳に基づき、紙媒体で作成、提供している市区町村は4割弱だが、残りの大多数は基本台帳の閲覧を認めている。共同通信の調べでは、基本台帳の閲覧を含めると市区町村の約9割が名簿作成に協力している。

 岩屋毅防衛相は国会答弁で、自衛官募集への協力を一切拒否しているのは5自治体だけであることを認めたにもかかわらず、「約6割の協力を得られていないのは事実だ」と、首相に同調している。

 自民党は首相発言に呼応して、全ての所属国会議員に対し、地元市町村に募集対象者の住所などの基本情報を提出させるよう促す通達を出した。野党側は「地方自治の本旨から逸脱している」などと一斉に批判。身内の自民党内からも、石破茂元防衛相が「『自衛隊が違憲なので協力しない』と言っている自治体を私は知らない」と語るなど、首相の主張に疑問を呈する声が上がっている。

 住民基本台帳の閲覧に応じている自治体を「協力していない」というのはあまりにも乱暴な発言だ。改憲論議が進まないことへの首相の焦りが露呈したのだろうが、首相発言も、自民党の通達も不見識極まりない。

 首相は「自衛隊違憲論争に終止符を打とう」と訴え、9条に自衛隊を明記する自民党の条文案にこだわる。だが、自衛隊は今や広く認知され、多くの国民が安倍首相の下での憲法改正に反対しているのは各種世論調査結果からも明らかだ。

 首相としては、災害時には自衛隊の救助活動に頼る自治体が隊員募集に協力しないのはおかしいではないか、と国民感情に訴えるのが狙いなのだろう。だが、底が浅く、何の説得力も感じさせない。

 任期中の憲法改正に執念を燃やし続ける首相だが、こんなやり方で憲法論議が深まることはあり得ない。

 

首相の改憲発言 議論が乱暴すぎる(2019年2月19日配信『茨城・佐賀新聞・山陰中央新報』―「論説」)

 

安倍晋三首相が憲法9条を巡り、新たな「理由」を持ち出して改正の必要性を主張している。自衛官の募集事務に多くの自治体の協力が得られていないと強調し、9条に自衛隊を明記することで「この状況を変えよう」というものだ。

しかし、多くの自治体は法令に従って、その範囲内で自衛官の募集に協力しているのが実態であり、首相の認識は事実誤認と言わざるを得ない。

さらに、必要ならば法令の整備で自治体に求める協力の内容を定めることは可能で、それを改憲に結びつける首相の主張はあまりにも乱暴だ。国の根幹である憲法の改正論議には精緻な論理構成が求められる。不見識な議論は慎むべきだ。

首相は先の自民党大会や国会答弁で、9条改正に絡めて自衛官の募集に言及。「6割以上の自治体が協力を拒否している」と述べた。

自衛隊法は「都道府県知事、市町村長は自衛官募集事務の一部を行う」と定めており、自衛隊法施行令は募集に関し「防衛相は知事、市町村長に必要な報告、資料を求めることができる」としている。

しかし、自治体側に資料提出に応じる義務は定められていない。

防衛省によると、市区町村に18歳と22歳の住民の住所や氏名などの個人情報の提出を要請。2017年度は1741市区町村のうち36%が名簿提出に応じた。そのほかの53%の自治体も住民基本台帳の閲覧などを認めている。岩屋毅防衛相は一切の協力を拒否しているのは5自治体と説明した。名簿提出が義務ではないことを考えれば、9割以上の自治体が協力していると解釈すべきだろう。

名簿自体を提出していない自治体の多くも、憲法との関係ではなく、個人情報保護の観点から対応している。首相は「膨大な情報を隊員が書き写している」と閲覧作業の煩雑さを強調。自民党は所属議員に対し、地元自治体に名簿提出を促すよう求める通達を出した。

 しかし個人情報の厳格な管理が求められる中で、対象が自衛隊であれ、個人情報が渡されることをどう考えるのか。慎重な検討が必要だ。

たとえ個人情報上の問題点に目をつぶり、自治体に名簿提出を義務付けるとしても、関係法令の整備で対応できる。9条とは全く関係のない話だ。与党・公明党の北側一雄憲法調査会長が「自衛官募集と9条改正は直ちにつながらない」と指摘したのも当然だろう。

9条を巡る主要な論点は「戦争放棄」「戦力の不保持」を定めた条文と自衛隊の存在との整合性だ。集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法を違憲とする主張もあり、これも議論になっている。

 首相は9条改正を訴えるとき、「ある自衛官が息子から『お父さんは違憲なの』と尋ねられた」などのエピソードを持ち出す。だが、求められるのはこうした情緒論や事実誤認に基づく主張ではなく、論理的な議論だ。

 首相が自治体の対応に関して、改憲によって「空気が大きく変わっていく」と述べた点も見過ごせない。改憲で自治体が拒否できない「空気」をつくりだそうという発想だろうか。社会を取り巻く空気ではなく、法に基づいて政治、行政を行うのが法治国家であり、首相が日本の基本的価値として度々自負する「法の支配」の鉄則ではないか。

 

首相の改憲発言 不見識な主張は慎むべきだ(2019年2月19日配信『熊本日日新聞』―「社説」)

 

 安倍晋三首相が憲法改正に関し、憲法9条に自衛隊を明記すれば自治体が自衛官の募集に協力しやすくなるといった主張を展開し始めた。

 首相は、自治体が募集に非協力的だという認識のようだが、自治体などからは「実態に反しており、あまりにも乱暴だ」という声が上がっており、与野党からも首相の主張を疑問視する声が出ている。国の根幹である憲法の改正論議には精緻な論理構成が求められる。不見識な主張は慎むべきだ。

 首相はこれまでも、自衛隊について「憲法学者の7割が違憲と言っている」などとして「これに終止符を打つ」と繰り返してきた。そんな中、先週の自民党大会や衆院予算委員会で突然、「6割以上の自治体から自衛官募集に必要な協力を得られていない」と問題提起した。

 改憲に前のめりになる首相の姿勢とは裏腹に、国会の憲法審査会の論議は停滞したままだ。首相としては、災害派遣などで国民の信頼感や親近感が増した自衛隊を例に取り上げることで世論を味方に付け、何とか前に進めようとする意図があったのだろう。しかし野党の反発に火をつけた格好で、さらなる改憲論議の停滞は避けられまい。

 防衛省によると、自衛官の募集は、全国に50ある自衛隊地方協力本部が業務を担っている。各本部は、自治体から提出された名簿や、住民基本台帳を閲覧して得た個人情報を基に、18歳、22歳の住民にダイレクトメールの発送や戸別訪問などを実施している。

 2017年度の1741市区町村の対応をみると、「名簿提出」36%、「該当者を抽出した名簿の閲覧を認める」34%、「該当者を抽出せず閲覧を認める」20%。「いずれの対応もない」が10%あったが、募集効果が乏しいため協力要請をしていない自治体も含まれており、一切の協力を拒んでいるのは5自治体だけだ。

 自治体の多くは、個人情報保護条例など法令に従い、その範囲内で自衛官の募集に協力しているのが実態であり、首相の認識は事実誤認と言わざるを得ない。

 一方、自民党は所属議員に対し、地元自治体に名簿提出を促すよう求める通達を出した。しかし個人情報の厳格な管理が求められる中、対象が自衛隊であれ、個人情報が渡されることをどう考えるのか。慎重な検討が必要だ。

 自治体に名簿提出を義務付けるとしても、関係法令の整備で対応できる。9条とは全く関係のない話だ。公明党の北側一雄憲法調査会長が「自衛官募集と9条改正は直ちにつながらない」と指摘したのも当然だろう。

 首相は9条への自衛隊明記によって自衛官募集の「空気を変える」とも発言したが、見過ごせない。改憲で自治体が拒否できない「空気」をつくりだそうという発想だろうか。法に基づいて政治、行政を行うのが法治国家である。自衛官募集を引き合いに改憲を訴えるのはあまりに無理が過ぎる。

 

(2019年2月19日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

赤紙配達人―。戦時中、役場の兵事係はそう呼ばれました。国民にとって戦場への入り口となった召集令状。それを持って家々を訪ねる役人は軍の代行人でした

▼当時の日本男子は、20歳になると徴兵検査に。兵事係は戸籍簿に基づいて対象となる若者の名簿を個人ごとに作成。軍に提出することが義務付けられていました。徴兵制や国家総動員法のもと、市町村は天皇制政府や軍の手足となって住民を戦争に駆り立てたのです

▼その動員システムを、今の世によみがえらせようというのか。自衛隊員の募集について「6割以上の自治体が協力を拒否している」と発言した安倍首相。それを変えるためにも9条に自衛隊を書き込むことが必要だと、本音をあらわにしました

▼「9条改憲の狙いの一つが、自治体から若者の名簿を強制的に召し上げることにあると自ら告白するものだ」。すかさず批判した共産党の志位委員長は、こんな恐ろしい道を許してはならないと

▼応じる義務など自治体にはないのに、自民党が国会議員を使って選挙区内の自治体に“圧力”をかけるよう求めていることもわかりました。首相発言の出所が極右団体の日本会議だったことも。防衛省・自衛隊が隊員募集に自治体動員を強めるなかでの動きです

▼紙一枚で若者を戦場に送り、死も伝えなければならなかった、つらい役目。焼却命令に背き書類や記録をひそかに保管していた兵事係もいました。「戦争を知るための証し。二度としてはいけない」。そう戒めを込めて

 

閣僚の発言(2019年2月18日配信『福井新聞』―「論説」)

 

1強政治の劣化止まらぬ

 「政治家は言葉が命」といわれる。だが、安倍晋三首相をはじめ閣僚らが発する言葉からは、謙虚さはみじんも感じられない。

 資質が問われるのは桜田義孝五輪相だろう。競泳の池江璃花子選手の白血病公表に関する発言はその無神経さに批判が集中。さらには野党議員から五輪憲章を読んだかを問われ「話には聞いているが、自分では読んでいない」と担当相にあるまじき答弁をした。

 サイバーセキュリティー担当でもある桜田氏は昨年11月に普段パソコンを使っていないことを明らかにしている。15日の衆院予算委員会では、中国の通信機器大手である華為技術(ファーウェイ)問題について聞かれて、しどろもどろの答弁に終始した。

面倒見のよさなどには定評があるとされるが、所管する分野の基本的なことさえ理解せず、理解しようともしていない節がある。今後、重要さを増す五輪問題などに対応しきれるはずもない。首相は罷免しない考えだが、ここは桜田氏自身が身を引くことを考えるべきではないか。

 確信犯は言わずもがなの麻生太郎副総理兼財務相だ。今月初め地元福岡での集会で少子高齢化に触れ「子どもを産まない方が問題だ」と発言した。2014年にも同様の発言をして批判を浴びた経緯がある。

 麻生氏の「放言癖」は今に始まった話ではない。過去にドイツの独裁者ヒトラーを挙げ「何百万人も殺した。動機が正しくても駄目だ」と述べ、昨年の財務事務次官によるセクハラ問題では「セクハラという罪はない」などと発言し、顰蹙(ひんしゅく)を買った。「誤解を招いたとすれば撤回する」で済ますパターンが常態化しているのも問題だ。首相が政権の屋台骨である自分を辞めさせることはない、そんな思いさえ透ける。

 首相自身も奇妙とも思える発言をしている。先の自民党大会で自衛隊の新規隊員募集に触れ「6割以上の自治体から協力が得られていない。この状況を変えるため、自衛隊を憲法に明記し、違憲論争に終止符を打とう」などと訴えた。

 防衛省は個人情報を紙または電子媒体で提供するよう自治体に求め、要請通りに名簿を出したのは確かに約4割だが、約5割は住民基本台帳の閲覧を認めている。首相はこれを協力と認めないばかりか、自治体が自衛隊に災害時派遣要請をするなら協力すべきだとした。筋違いも甚だしい。

 国会では首相の「悪夢のような民主党政権」発言を巡り、岡田克也元外相と応酬が繰り広げられた。その中で首相は「取り消しません。言論の自由があるわけですから」と突っぱねた。

 売り言葉に買い言葉の側面があったことは否めないが、為政者が「言論の自由」を言い放つさまは異様だ。放言や舌禍をそのひと言で片付けようものなら、議論など成り立たない。

 「1強」のおごり、緩み体質はかねて指摘されてきたが、ここに来て、さらなる政治の劣化を生んでいると言わざるを得ない。

 

(2019年2月18日配信『河北新報』―「河北春秋」)

 

職場で「ダブルスタンダード」は上司が避けるべき所作の一つ。「ご都合主義」「二枚舌」では誰の信頼も得られない。家庭も同様。子どものしつけに「二重規範」があってはならない

▼そんな理不尽がまかり通りかねないという。憲法改正国民投票のこと。賛成と反対のどちらかに投票を呼び掛ける「国民投票運動広告」は投票日2週間前からテレビCMが放映禁止となるが、個人や企業、団体が意見を表明する「意見広告」は投票日当日も放映できる。同じ投票なのに、厳格な公職選挙法とは大違い

▼2007年成立の国民投票法が自由度の高い設計だったためだ。欧州連合(EU)離脱を問うた英国をはじめ国民投票の歴史がある欧州主要国は、公平性の観点から一方的なテレビのスポットCMを禁止する

▼これに正面から異を唱えたのが、通信販売のカタログハウス(東京)。動画投稿サイトのユーチューブや自ら発行する季刊誌「通販生活」で、資金の潤沢な勢力に有利に働きかねない国民投票法を「不公平」と批判する

▼20年の改正憲法施行を目指す安倍晋三首相だが、夏の参院選前の改憲発議は困難な情勢。参院選投票と国民投票が重なる最悪の事態は回避できたとしても、国民を迷わせるような矛盾は早々に解消しておかねばなるまい。

 

自衛官募集発言 安倍改憲の独善がまたも(2019年2月17日配信『新潟日報』―「論説」)

 

 憲法9条の改正を主張するのは、自治体の対応に問題があるからだ−そう言っているに等しい。あまりに強引で、独りよがりとしか見えない。

 野党ばかりでなく、与党内から疑問の声が上がっているのも無理のない話だ。

 安倍晋三首相が9条への自衛隊明記の必要性を巡り、自衛官の募集と絡めた新たな論理を持ち出している。

 先の自民党大会の総裁演説や国会答弁で、6割以上の自治体が自衛官募集への協力を拒否しているなどと訴えているのだ。

 総裁演説の中では「都道府県の6割以上が新規隊員募集への協力を拒否している悲しい実態がある。この状況を変えよう。違憲論争に終止符を打とう」と述べた。

 その後の国会答弁で「正しくは都道府県と市町村だ。自治体だ」と修正した。

 発言には、野党の批判に抗して改憲論議を前進させたい思惑があるとみられている。

 首相はこれまで「自衛隊を明記しても任務や権限に変更は生じない」と説明し、野党からは変更がないなら改憲は不要と指摘されてきた。

 だが、自衛官募集に関する首相発言は、実態をきちんと踏まえたものなのかどうか。

 自衛隊法は自衛官募集について、自治体が法定受託業務として協力すると規定する。防衛省は市区町村に対して、18歳、22歳になる住民の住所や氏名といった個人情報を提供するよう依頼している。

 全市区町村の約4割は住民基本台帳に基づいて個人情報を紙媒体で作成し、提供しているという。これが「6割以上拒否」の根拠のようだ。

 ただし、全市区町村の約5割は紙媒体を提供していないものの、住民基本台帳の閲覧については認め、防衛省側は個人情報を取得しているという。

 首相は協力の「拒否」という厳しい言葉を用いたが、現実を正確に反映しているとは思えない。自治体に責任転嫁して、9条改憲が必要だとこじつけている印象が強い。

 9条への自衛隊明記は、首相の提唱により唐突に浮上した。それだけに、ためにする発言とさえ受け取れる。

 発言を修正した経緯を振り返れば、自衛官募集についての地方自治体の業務や、その実情について十分把握していたのか疑念も残る。

 石破茂元防衛相は首相発言を受け「『自衛隊が違憲なので協力しない』と言っている自治体を私は知らない」と語った。

 公明党幹部も「自衛隊員募集と9条改正は直ちにつながらないのではないか」と疑問を呈している。

 平和憲法の核心といえる9条は戦後日本の道しるべとなってきた。9条を巡る改憲論議が、いい加減な前提に基づく、へりくつやこじつけで粗雑に進められてはたまらない。

 「1強」首相の強権的な体質がにじむ発言に、改めて危うさを覚えるばかりである。

 

長期政権の緩み  放言と異論封じが際立つ(2019年2月17日配信『京都新聞』―「社説」)

 

 安倍晋三首相や政権幹部の粗っぽい発言が気になる。

 安倍首相は先週の自民党大会で「自衛隊員募集に都道府県の6割以上が協力を拒否している」と発言した。

 原因は自衛隊違憲論で、協力を得るには憲法改正が必要だという。事実と論理の両面で、根拠を欠く発言だ。

 自衛官募集で防衛省が協力を求める相手は都道府県ではなく市区町村である。

 自衛隊法では、自治体は法定受託業務として自衛官募集に協力することになっている。防衛省はこれに基づき、全国の市区町村に適齢者の氏名や住所などの提供を依頼する。

 首相は国会で発言を修正したものの、「6割以上の自治体」の主張は変えていない。

 実際には約9割の自治体が名簿の提出や閲覧、書き取りに応じている。

 京都市は今年から住民基本台帳を基に18歳と22歳になる市民の宛名シールを作成し自衛隊に提出する。市の審議会で承認されたが厳しい批判がある。

 自治体は、住民の個人情報保護と自衛隊への協力を両立する必要がある。自治体によって対応が異なるのは、それぞれの判断によるものだ。違憲論があるからではない。

 自衛隊を憲法に明記したら自治体からの名簿提出が進むのだろうか。改憲が首相の悲願とはいえ、論理があまりにも飛躍している。

 1月のNHKの番組では、沖縄県名護市辺野古の米軍基地建設工事について、「土砂を投入するにあたり、あそこのサンゴは移植した」と発言した。

 現在、土砂が投入されている海域には元々サンゴが生息していない。一方、計画海域全体で移植が済んだのは9株にすぎない。沖縄県は事実誤認と強く反発している。

 安倍首相は常々、自身に対する野党からの批判に「印象操作だ」と気色ばんで反発することがある。その批判は自分自身にも当てはまるのではないか。

 首相周辺も同様だ。首相官邸が昨年末、菅義偉官房長官の記者会見で「特定の記者が事実誤認の質問をした」として、「事実を踏まえた質問」を要請する文書を内閣記者会(記者クラブ)に出した。

 記者は会見でさまざまな角度から質問し事実や課題を浮かび上がらせる。質問を封じるような要請は本末転倒である。質問が事実でなければ丁寧に説明するのが政府の役割ではないか。

 麻生太郎副総理兼財務相は今月、「子どもを産まないほうが問題だ」と発言し、桜田義孝五輪担当相は競泳の池江璃花子選手の白血病公表を「がっかりしている」と語った。

 自らの発言がどう受けとめられるのかを考えず、主張や感情を一方的に口にするのは政治家失格である。

 安倍政権は今月23日で吉田茂政権を抜き戦後単独2位の長期政権となり、11月には憲政史上最長になる。無思慮な発言は長期政権のおごりと緩みから来ている。

 歴史に名を残すためには、何が必要か。首相や政権幹部は深く考え直してもらいたい。

 

【自衛官募集】首相の理屈は乱暴すぎる(2019年2月17日配信『高知新聞』―「社説」)

 

 自民党が所属する全ての国会議員に出した通達に大きな波紋が広がっている。自衛官募集に利用する適齢者名簿の提出を地元自治体に促すよう求める内容だ。

 安倍首相は、先の党大会や国会答弁で「6割以上の自治体から募集に必要な協力を得られていない」などと主張。憲法9条に「自衛隊を明記することで、そういう空気は大きく変わっていく」と改憲の必要性を強く訴えた。

 通達はそれを党としても後押しした格好だ。問題の多い主張、対応というほかない。

 首相がいう協力自治体とは、名簿を紙や電子媒体で提出する市町村を指す。防衛省によると、2017年度は全国36%の市町村だった。

 残る6割超のほとんどが非協力的との捉え方だが、過半数53%の市町村は住民基本台帳の閲覧を認め、自衛隊が適齢者を把握できるようにしている。合わせて9割近くが協力しているのであって、首相の切り捨て方は乱暴すぎる。

 自衛隊法は、募集事務の一部を自治体首長が行うと定める。自衛隊法施行令では、防衛相は首長に「必要な報告または資料の提出を求めることができる」としている。

 これらを踏まえ、防衛省・自衛隊は市町村に自衛官適齢者の氏名や住所などの提出を依頼してきた。18年度からは紙・電子媒体の提出を要請している。

 とはいえ制度的には「求めることができる」のであって、義務ではない。どのように協力するかは自治体の裁量といってよい。

 各自治体は個人情報保護のため、住民情報は原則非開示としている。書き写しに時間がかかる住民基本台帳の閲覧のみであっても、自衛官募集には特別対応をしているとみるべきだ。

 政府・自民党には14年度の高知市の事例を忘れてもらっては困る。

 住民基本台帳の閲覧方式で協力してきた市に対し、自衛隊高知地方協力本部が突然、「法定受託事務が執行されていない」「従来の方針を変更し強く適齢者情報の(紙での)提供を求める」と要請した。

 批判を受けた防衛省は国会で、法令の理解が十分でない不適切な要請だったと釈明。当時の中谷元・防衛相も「地方公共団体が実施し得る可能な範囲での協力をお願いしている」との立場を強調した。

 同じ安倍政権下でありながら、今回の首相や自民党の言動はこうした経緯を無視している。

 まして自衛官募集と憲法9条への自衛隊明記は筋が違う話だ。任期中に改憲を実現したい安倍首相が、なりふり構わず改憲の動機付けをしているとの批判が出て当然だろう。与党内からも疑問の声が出ている。

 自衛隊はいまや多くの国民に受け入れられている。特に災害時の活動には期待が大きい。隊員募集は重要だろうが、政治が市町村を批判し、改憲と強引に結び付けては、自衛隊の印象をかえって悪くしかねない。

 

[自衛官募集協力] 改憲の論拠とは乱暴だ(2019年2月17日配信『南日本新聞』―「社説」)

 

 自衛官募集に「6割以上の自治体が協力を拒否している」。

 憲法9条に自衛隊を明記する改憲案を念頭に置いた安倍晋三首相の発言が波紋を広げている。

 自民党大会で首相は、防衛省が新規募集の対象として求める18歳、22歳になる住民の住所、氏名といった個人情報を紙か電子媒体で提供している市区町村が、4割に満たないことを「悲しい実態」とし、「この状況を変えよう」と憲法改正の意義を訴えた。

 9条に自衛隊を明記すれば非協力を解決できると訴えるのは、論拠が短絡的で乱暴ではないか。

 確かに自衛隊法は、自治体が法定受託業務として自衛官募集に協力すると規定。同施行令は、防衛大臣は必要な資料の提出を求めることができるとしている。

 だが、首相の発言は正確さを欠くと言わざるを得ない。

 2017年度の全1741市区町村調査で名簿提供は36%にとどまるが、53%は住民基本台帳の閲覧を認めており、約9割の自治体からは情報を得られたからだ。

 個人情報保護法が施行され、個人情報の取り扱いには厳格さが求められる。閲覧による情報提供を認めた自治体の判断を尊重すべきだし、「協力拒否」とひとくくりにするのはおかしい。

 名簿未取得の10%の中には人口が少ないなど募集効果がないと判断して閲覧していない自治体もあり、協力拒否は5自治体だと岩屋毅防衛相が明かしている。

 安倍首相は、衆院予算委員会でも「膨大な情報を手書きで写している」と主張し、災害派遣を引き合いに「自衛隊は助けを求める自治体があれば駆け付け、献身的な働きを行っている。協力の現状は誠に残念」と述べた。

 困った時に助けてもらうのだから協力するのが当然、と言わんばかりの態度にも違和感がある。

 首相はこれまでも、自衛隊について「憲法学者の7割が違憲と言っている」「ある自衛官は息子から『お父さんは違憲なの』と尋ねられた」ことを挙げ「これに終止符を打つ」と繰り返してきた。

 自らの手で改憲を成し遂げようとなりふり構わず、次々に論拠を持ち出しているように見える。

 問題なのは、自民党が全ての所属国会議員に対し、自衛官募集の関連名簿提出を地元市町村に促すよう求める通達を出したことだ。

 安倍首相を後押しする狙いだろうが、自治体側は圧力と受け止めるだろう。政権党が無批判に追従するような姿勢は残念だ。

 憲法論議は、開かれた場で冷静になされる必要がある。不確かな論拠で前のめりな主張は危うい。

 

自衛官募集 改憲の理由にはならぬ(2019年2月14日配信『朝日新聞』―「社説」)

 

 自衛官募集に自治体の協力が得られないから、憲法9条に自衛隊の明記が必要だ――。

 今年に入って安倍首相が言い出した改憲の根拠は、事実を歪曲(わいきょく)し、論理も破綻(はたん)している。首相の改憲論の底の浅さを、改めて示したと言うほかない。

 首相は先の国会答弁や自民党大会での演説で、9条改正に関連し、自治体の6割以上が自衛官募集への協力を拒否していると強調した。しかし、これは明らかに事実に反する。

 防衛省は採用活動に役立てるため、主に18歳と22歳の男女を対象に、住所、氏名、生年月日、性別の情報を「紙または電子媒体」で提供するよう自治体に要請している。

 求め通りに名簿を提出したのは確かに約36%だが、約53%は住民基本台帳の閲覧や書き写しを認めている。これを加えた約9割が募集に協力しているとみるべきだ。

 自衛隊法やその施行令に基づき、防衛相は自治体に協力を求めることはできるが、自治体側に応じる義務は定められていない。このため個人情報保護の観点から、閲覧にとどめているという自治体もある。

 首相はきのうの国会で、自衛隊員が膨大な情報を書き写す作業が負担だとして、名簿提供以外は「協力していただけないと考えるのが普通だ」と述べた。個々の自治体の判断を軽んじ、国の都合を一方的に押しつけようとしている。

 首相はまた、災害時に自衛隊が救援活動を行っていることを引き合いに、自治体の「非協力」を非難した。災害派遣を受けるなら募集活動に協力しろと言わんばかりだ。不見識きわまりない。

 自衛官募集のために改憲をというのは飛躍がありすぎる。首相はきのう、9条に自衛隊を明記すれば、自治体が協力しないような「空気は大きく変わっていく」と述べたが、改憲で世の中の「空気」を変えようという発想は極めて危うい。

 首相の改憲ありきのご都合主義は、いまに始まったことではない。

 当初は憲法改正の発議要件を緩和する96条改正を掲げたが、支持が広がらないとみるや9条改正などに転じた。だが、教科書に「自衛隊が違憲」と書かれているという主張も、実際には断定的な記述はなく、意見の紹介にとどまっている。

9条は戦後日本の平和主義の根幹をなす。その重みを踏まえた熟慮の跡もなく、事実をねじ曲げる軽々しい改憲論は、いい加減に慎むべきだ。

 

首相の自衛官募集発言 事実の歪曲で憲法語るな(2019年2月13日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 また安倍晋三首相が憲法に関して奇妙なことを言い始めた。自衛官募集に協力しない自治体があるから憲法改正が必要だという論理だ。

 首相は自民党大会の演説で「新規隊員募集に対して都道府県の6割以上が協力を拒否している」と語り、「憲法にしっかりと自衛隊と明記して違憲論争に終止符を打とうではありませんか」と呼びかけた。

 「都道府県の6割以上」というのは間違いだ。自衛官募集に使うため18歳など適齢者の名簿提供を求める対象は全国の市区町村だからだ。首相も国会で発言を修正した。

 自衛隊法施行令は、防衛相は自衛官募集に必要な資料の提出を自治体に求めることができると規定する。ただ法令上、自治体側に名簿提供の義務はない。このため2017年度に紙や電子媒体で名簿を提供した市区町村は全体の36%にとどまる。

 その代わり、名簿を提供していない自治体のほとんどが自衛隊側に住民基本台帳の閲覧を認めている。台帳を閲覧して氏名や住所を書き写す自衛隊側の手間はかかるものの、住民の個人情報について慎重な取り扱いが求められる自治体側の対応としては理解できる。

 これを含めれば、自衛隊は9割の市区町村から個人情報の提供を受けていることになる。首相の言う「協力を拒否」は事実を歪曲(わいきょく)している。

 首相発言について石破茂元防衛相は「憲法違反なので募集に協力しないと言った自治体は寡聞にして知らない」と語った。自衛隊を憲法に明記したら自治体の協力が進むかのような首相の主張は詭弁(きべん)に等しい。

 演説で首相は、地方自治体から災害派遣要請があれば命がけで出動するのが自衛隊だと強調した。だから自治体側は募集に協力すべきだというのも論理のすり替えだ。

 全国的に自衛官の確保が難しくなっているのは事実だ。主な要因は少子高齢化であり、憲法ではない。自衛隊は採用年齢の上限引き上げなど地道な取り組みを続けている。

 首相はこれまでも「憲法学者の7割以上が自衛隊を違憲と言っている」ことを改憲理由に挙げてきた。事実関係のあやふやな根拠を立てて情緒に訴える論法は今回も同じだ。

 一国の首相が事実をねじ曲げて憲法を語るべきではない。

 

原点まで後退した憲法改正論議(2019年2月12日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★10日の自民党大会であいさつした党総裁(首相)安倍晋三は憲法改正について「立党以来の悲願に取り組むときが来た。皆さんと決意を誓い合いたい」とし、憲法9条への自衛隊明記の意義について「都道府県の6割以上が新規隊員募集への協力を拒否している悲しい実態がある。この状況を変えよう。違憲論争に終止符を打とう」と演説した。同日、元防衛相・石破茂は「憲法違反なので協力しないと言っている自治体を私は知らない」とした。

★身内の会合でなら受け入れられるとばかり憲法問題に触れた首相だが、その環境づくりは全くと言っていいほど進んでいない。カウンターパートナーである立憲民主党憲法調査会長・山花郁夫との協議は進んでいない。1日、自民党憲法改正推進本部長・下村博文は日本記者クラブで会見し、憲法改正に関して「教育無償化など、9条よりも先に他党とまとまれるテーマがあれば、早く発議すべきだ」と言い出した。

★つまり憲法改正問題を自民党の原点にまで引き戻した。「これは憲法改正推進本部最高顧問・高村正彦の差し金だろう。政権は統計不正すらかわせるかどうかもわからない状態。党大会前に状況を説明したのだろうが、現実は何を改正するか、いつのタイミングかの議論の前に本当に改正できるのかまで後退している」(自民党ベテラン議員)。

★つまり現実は何が何でもやりたいができるのかという下村の発言通り。首相の演説もアリバイ作りでしかない。無論、参院選までは公明党も無理、野党は安倍政権での改正には反対。このままだと安倍後まで持ち越されてしまう。「参院選後からオリンピックまでの間のタイミングで一気に仕掛けたいがこればっかりは何とも言えない」(自民党中堅議員)。憲法改正は近年では一番失速しているといっていい。

 

代表質問 憲法論議の活性化を図れ(2019年2月2日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 統計不正を追及し、消費税増税の問題を論じるべきは当然だが、それだけで国会の役割が果たせたといえるだろうか。骨太の論議が見られなかったのは物足りない。

 衆参両院で3日間にわたって行われた代表質問への感想である。

 統計不正は自公両党、旧民主党双方の政権で長く続いてきた。立憲民主党の枝野幸男代表は「国家としての基礎が揺らいでいる」と危機感を表明したが、与野党は自らの責任も認識し、問題解決に努めなければならない。

 ただし、国家の基礎は統計に限らない。憲法改正もそれに該当する大切な問題ではないか。

 安倍晋三首相(自民党総裁)は施政方針演説で、憲法は「次の時代への道しるべ」と述べた上で、衆参両院の憲法審査会で「議論が深められることを期待」すると各党に呼びかけた。

 憲法改正に賛成でも反対でも、各党の立場を積極的に示し、議論することが望ましい。代表質問もその機会となるべきだった。

 憲法論議に前向きだったのは、自民と日本維新の会だ。

 自民の岡田直樹氏は、北朝鮮の核問題や中国の軍拡の問題を取り上げ、憲法に自衛隊の存在を明記する同党改憲案を説明した。大規模災害に備える緊急事態条項の創設や、参院選挙制度の「合区」解消、教育の充実に関する同党案も語った。維新の片山虎之助共同代表は同党の改憲案に触れ、審査会での徹底議論を訴えた。

 極めて残念なのは、与党の公明党と、衆院での野党第一党の立憲民主党が、憲法改正に触れなかったことだ。

 両党は、憲法改正の問題を無視したいのか。憲法改正自体は否定していないのに党独自の改正案をまとめる努力もしていない。極めて残念である。改憲に反対する共産党のほうが分かりやすい。

 国民民主党は玉木雄一郎代表が、憲法に自衛隊の存在を明記する自民党案に反対するとした上で、改憲の議論には真摯(しんし)に向き合うと表明した。憲法改正国民投票へのCM規制の法制化も訴えた。国民民主は、昨年のようにCM規制の問題を審議の条件闘争に使うことなく、憲法改正自体の論議にも加わってもらいたい。

 国の礎である憲法のあるべき姿を、国民の前で堂々と論ずることが何よりも重要である。

 

改憲と強権化(2019年2月1日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 南米ベネズエラでフアン・グアイド国会議長が暫定大統領への就任を宣言した。反米左翼のマドゥロ大統領による独裁政治が続く同国は、主要な収入源である石油生産の落ち込みで財政難に陥った。社会主義的政策が行き詰まり食料・医薬品不足やハイパーインフレが深刻化している

▼マドゥロ氏は1999年以降に憲法改正などを通し、強権体制を築いたウゴ・チャベス前大統領の後継者だ。チャベス氏は大統領選挙で貧困層から圧倒的な支持を得て当選した。だが強大な権力を手にして進めた改革はマドゥロ氏の下で頓挫した

▼選挙によって民主的に選ばれた指導者が、憲法を改正したり骨抜きにしたりして強大な権力を手にする事例は近年も相次ぐ

▼野党弾圧や言論統制が問題化しているトルコのエルドアン大統領は、改憲によって権力強化を進めた。中央アジアのキルギスなどでも指導者に権力を集中する改憲案が取りざたされている

▼権力を縛り、暴走を防ぐのが憲法だ。権力側から改憲を言い出すとき、その底意に注意を払う必要がある。自民党改憲草案の柱の一つが緊急時に国民の権利を制限できる緊急事態条項だった

▼同条項は「人権や地方自治が制限され、乱用される危険性が高い」と多くの憲法研究者らが指摘している。国民の約1割が国外に脱出してしまったベネズエラの事例が示唆を与えている。

 

改憲の動き/政治ばかりが先走っても(2019年1月20日配信『神戸新聞』―「社説」)

 

 安倍晋三首相が「悲願」とする憲法改正の議論が、今年はヤマ場を迎える。夏の参院選で自民、公明両党などの「改憲勢力」が3分の2超の議席を維持すれば、国会発議に向けた動きに弾みがつく可能性がある。

 首相は、東京五輪・パラリンピックが開催される2020年に改正憲法の施行を目指している。「在任中の改憲」にこだわりを見せており、数の力に頼る展開も十分に予想できる。

 しかし、公明党が慎重姿勢を示し、与党の足並みは必ずしもそろわない。自民党内でも石破茂元幹事長が「国民的な議論に至っていない」と述べるなど、疑問を呈する声が上がる。

 強引な手法は内輪の合意形成も困難にすることを、首相サイドは肝に銘じるべきだ。

 現在、改憲勢力は、衆参両院で国会発議に必要な総議員の3分の2を超えている。昨年秋に自民党総裁3選を果たした首相にとって、21年9月までの任期中の改憲実現が目標となる。

 そのためにはこの夏、「歴史的勝利」とされた13年参院選に匹敵する議席を獲得しなければならない。「3分の2」は結構高いハードルといえる。

 自民、公明に日本維新の会、希望の党などを合わせた改憲勢力も、主張は微妙に異なる。とりわけ連立与党の公明は「平和の党」を自任するだけに、9条改正を掲げる自民との間に一線を画する構えを見せる。

 首相は先日、「各党が考え方を持ち寄るべきだ」と論議の進展を促した。側近の下村博文・党憲法改正推進本部長が、なかなか議論に乗らない野党を「職場放棄」と批判し、先の臨時国会で憲法審査会が空転した。その経緯が脳裏にあるようだ。

 自民党は、9条への自衛隊明記など改憲4項目の国会提示を急いでいる。だが、留意すべきは政党間の駆け引きでなく、国民の受け止め方だろう。

 日本世論調査会による昨年12月の世論調査では「時期にこだわらず各党の幅広い合意を」が43%に上った。「改憲勢力が3分の2に達しない方がよい」は47%と約半数を占める。

 何のための、誰のための改憲論議か、国民の多くは首をひねっている。政治が先走れば民意との乖離(かいり)は広がるばかりだ。

 

自民幹部改憲発言(2019年1月20日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

終止符を打つのは焦眉の課題

 改憲に執念を燃やす安倍晋三首相(自民党総裁)の下で、自民党役員に起用されたメンバーから、改憲をめぐる発言が相次いでいます。改憲推進本部長の下村博文氏が、「新元号の年に憲法改正の流れを」と述べたのをはじめ、総務会長の加藤勝信氏も、改憲実現に「汗をかく」「地道な努力をしっかりと重ねていく」などと表明しました。自民党は昨年の臨時国会ではできなかった改憲案の国会提示を、通常国会で強行しようと企てています。安倍首相が旗を振る改憲策動に終止符を打つ、野党と国民のたたかいが急務です。

執念燃やす首相の意受け

 安倍首相は年明け後も、「国会において活発な議論がなされ、できる限り広範な合意が得られることを期待する」(4日の年頭記者会見)、「新たな国づくりに挑戦する1年にしていきたい」(5日の地元・山口県下関市での後援会新年会で)と繰り返し、改憲実現への執念を隠そうとしません。首相が一昨年5月に明らかにした、9条に自衛隊を書き込むなどした「新憲法」を、2020年から施行したいとの考えには「全く変わりはない」(6日のNHKインタビューで)と言い切っています。

 安倍政権が当初描いていた、昨年の臨時国会への自民党改憲案の提示を許さず、3分の2の多数で国会で発議、国民投票に持ち込むというスケジュールを大きく狂わせているのは、憲法を守り生かす野党と国民のたたかいです。首相や自民党には、改憲を力ずくでやろうとして国民の怒りを買ったことへの反省が全くありません。

 下村改憲推進本部長が16日の福岡市での講演会で、「新元号の年に憲法改正の流れを」などと発言した(同日のNHKなどが報道)のも、そうした首相の意向を受けたものです。しかし「改元」と改憲は何の関係もなく、こじつけというほかありません。

 最近のNHKの世論調査でも、国会での改憲議論を「早く進めるべき」は23%にすぎず、「急いで進める必要はない」が50%、「議論をする必要はない」が14%を占めます。改憲の議論を押し付けるのは、それ自体、主権者である国民を無視した、立憲主義の破壊です。

 加藤総務会長が同日の日本記者クラブで講演し、小選挙区単位で改憲の運動体をつくるなど、「地道な努力をしっかりと重ねていく」などと述べたのも、国民を無視する点では同じです。現に自民党は小選挙区単位に改憲推進本部をつくり、草の根からの改憲運動を進めており、加藤会長の発言は極めて危険です。草の根からの改憲策動には、全国津々浦々での「九条の会」や全国3000万人署名など、草の根からの運動で包囲し、阻止していくことが重要です。

「戦争する国」許さず

 安倍首相が憲法9条に自衛隊を書き込もうと狙うのは、1項、2項の戦争放棄・戦力不保持・交戦権否認の規定を空文化・死文化し、自衛隊が大手を振って戦争に参加する「戦争する国」づくりのためです。そうした狙いは有害なだけでなく、アジアで広がる平和への流れの中で根拠を失っています。

 今求められるのは改憲ではなく、憲法を守り生かし、世界の平和に貢献することです。国民のたたかいと統一地方選、参院選での審判で、改憲策動を安倍政権もろとも、葬り去ろうではありませんか。

 

理想主義(2019年1月11日配信『愛媛新聞』―「地軸」)

 

 戦前戦後を通じて理想主義を貫いた。きょうは小説家で政治家、山本有三の命日。45年前に86歳で世を去った

▲軍国主義が暗い影を落とす時代、子どもたちに豊かな読み物があることを伝えようとした人だ。全16巻の「日本少国民文庫」を編さんし、第1巻は世界の感動の逸話をまとめた「心に太陽を持て」。冒頭の詩の一節が表題となった。「心に太陽を持て/そうすりや何が来ようと平気ぢやないか!」

▲新しい国への希望。終戦後に山本が広めようとした読み物が日本国憲法だったのは必然かもしれない。それまで法律の文章は片仮名書きの文語体と決まっていたが、政府にひらがな交じりの分かりやすい口語体にするよう働きかける。前文、1条、9条の口語体の文案を手掛けた。現憲法はその筆致を色濃く残したものだ

▲憲法が公布された翌日の論評からは戦争放棄への信念が伝わってくる。「問題はどれだけ武力を持つかということではない。そんなものは、きれいさっぱりと投げ出してしまって、裸になることである」

▲あれから70年余り。裸どころではなく、防衛力は増強の一途をたどる。相手国に近づき壊滅的な攻撃ができる事実上の空母を持つ計画も決まった。他国の脅威にならないことで自国の安全を保つ専守防衛の大原則ですら、なし崩しの危機にある

▲「裸より強いものはない」と説いた山本の理想主義。「時代が変わった」と受け流すことはできない。

 

憲法論議 「上からの改憲」の無理(2019年1月10日配信『朝日新聞』―「社説」)

 

 「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」

 安倍首相がこう語ったのは2017年の憲法記念日のことだ。首相は先日のNHK番組で「気持ちは全く変わりがありません」と述べ、憲法改正への意欲を改めて示した。

 一方で、首相は「スケジュールありきでない」とも付け加えた。ならば、その言葉通り、期限を切って議論を進めようという姿勢は、もうやめるべきだ。

 17年10月の衆院選で自民、公明両党が3分の2超の議席を維持すると、自民は9条への自衛隊明記など改憲4項目の具体化を急いだ。ところが昨年3月に財務省の公文書改ざんなどが明らかになると内閣支持率は低下。党内では「改憲どころではない」との空気が強まった。

 首相は9月の党総裁選で3選を果たすと、国会での議論にてこ入れをしようと、下村博文氏ら自身に近い議員を憲法に関係する党や国会の要職に起用した。しかし、下村氏が「憲法議論をしないのは国会議員の職場放棄」と言い放ったことに、野党が反発。結局、昨年は年間を通じて衆院憲法審では実質審議は行われなかった。

 その直接の原因は与野党の対立にあったとしても、首相をはじめ自民の「改憲ありき」の前のめりな構えに、国民の支持や理解が広がらなかったことが大きいのではないか。

 首相は自衛隊明記にこだわるが、理由として強調するのは「自衛隊員の誇り」という情緒論だ。9条が改正されても自衛隊の役割は何も変わらないというなら、何のための改正なのか。朝日新聞が昨年の憲法記念日に合わせて行った世論調査で、53%がこの案に反対と答えたのも無理はない。

 仮に多くの国民が改正の必要性を感じていたら、野党も議論に応じないわけにはいかなかっただろう。

 昨年の憲法をめぐる動きを振り返ると、憲法に縛られる側の権力者が自ら改憲の旗を振るという「上からの改憲」が、いかに無理筋であるかを証明したといえよう。

 昨年は、憲法改正の国民投票を実施する際のテレビCMについて、法で規制すべきかどうかに改めて焦点があたった。自主規制が期待された日本民間放送連盟が、規制は困難と表明したからだ。

 野党はCMを出す資金力の差が投票の行方を左右しかねないとして規制を求めている。自由闊達(かったつ)な議論と運動の公平性をどう調和させるか。多角的な視点から検討が必要な課題だ。

 

政治展望(2019年1月8日配信『宮崎日日新聞』―「社説」)

 

◆最長政権の是非が問われる◆

 2019年は、12年に1度重なる4月の統一地方選と夏の参院選、4〜5月の天皇陛下の退位と新天皇の即位、10月の消費税率引き上げと重要な節目が続く一年となる。安倍晋三首相の在職日数は11月に戦前の桂太郎氏を抜いて歴代最長となる。だが後世に残る業績を上げたとは言いがたい。21年9月までの任期をにらみ政権のレガシー(政治的遺産)づくりに取り組むことになるだろう。

領土交渉で成果狙う

 最大の関門は参院選だ。7年目に入った「1強体制」は、国会軽視や官僚組織の劣化などの弊害が指摘される。歴代最長を視野に入れる政権をどう評価するのか。参院選は、その是非が問われる。

 立憲民主党など野党は議席増を目指し、衆院選につなげる構えだ。32の改選1人区で候補者を一本化する方針だが調整は遅れている。立民は比例代表や改選複数区では「野党各党が切磋琢磨(せっさたくま)すべきだ」と調整に否定的で、国民民主党や共産党との連携が焦点となる。

 安倍政権は参院選に向けて成果づくりに力を注ぐだろう。「戦後外交の総決算」を掲げる首相は年頭の記者会見でロシアとの平和条約締結・北方領土返還交渉に意欲を表明、「戦後70年以上残されてきた課題に終止符を打つ決意をプーチン大統領と共有した」と強調した。1月下旬に訪ロして前進を図り、参院選直前に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合の際の大統領との会談で成果を打ち出したい算段とみられる。

 領土交渉が前進すれば確かにレガシーとなる。だが首相は4島一括返還の方針を転換し、2島先行での交渉にかじを切っている。それで国民の理解が得られるのか。

参院選が改憲岐路に

 レガシーとして目指すもう一つの課題は憲法改正だ。首相は20年の改正憲法の施行を目指すと表明。首相は年頭会見で「国会で活発な議論を重ねるのが国会議員の責務だ」とした。衆参両院で改憲発議に必要な「3分の2以上」の議席を占める現体制の間に国会発議にこぎ着けたい考えだろう。

 だが天皇代替わりの行事はつつがなく進める必要があり、その前に与野党対立の改憲論議を行うのは困難ではないか。参院選で改憲勢力が3分の2以上の議席を維持すれば、改憲に向けて自民党が主導権を握る。逆に下回れば議論は止まる。極めて重要な選挙だ。

 消費税率の10%への引き上げは10月1日に予定される。財政再建は深刻な課題だが、増税に消極的とされる首相が予定通り税率を引き上げるのか疑念は消えない。首相は「衆参同日選は頭の片隅にもない」と否定したが、レガシーづくりに向けた政権基盤の再強化のために衆院解散を模索する可能性も見極める必要がある。

 揺れ動く国際社会、不透明さを増す国際経済に日本はどう対処するのか。日米同盟や沖縄の米軍基地問題も含め、戦略的な外交の真価が問われる年にもなる。

 

平和の時代を守らねば 平成と憲法(2019年1月4日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 平成は天皇陛下が「日本国憲法を守る」と述べて始まりました。平和であり続けた時代です。その源泉たる憲法とは何かを再確認したいときです。

 1989(平成元)年1月9日。即位後に皇居・宮殿で行われた朝見の儀でのお言葉です。

 「日本国憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓い、国運の一層の進展と世界の平和、人類福祉の増進を切に希望してやみません」

 天皇が憲法を守ることは当然です。憲法99条で「天皇又(また)は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ(う)」と定められているからです。

政府が暴走しないよう

 憲法尊重擁護義務といわれる重要な規定ですが、大切なのは、この一文に「国民」の文字がないことです。これは日本国憲法が社会契約説に立っているからです。

 世界史を見れば、政府は暴走する危険が常にあります。だから、憲法を守るよう命ぜられているのは政府であり、権力を行使する人だけなのです。権力を暴走させない役割が憲法にはあるのです。

 天皇もその一人です。お言葉は憲法に従った宣言なのでしょう。即位の時のお言葉にもう一つ、注意すべきことがあります。同年2月10日の国会開会式でです。

 「わが国は国民福祉の一層の向上を図るため不断に努力するとともに、世界の平和と繁栄を目指し、自然と文化を愛する国家として広く貢献することが期待されています」

 福祉や世界平和、文化などのキーワードが示され、国会議員を前に「使命を十分遂行することを切に希望します」と述べました。

 昭和天皇は在位の前半は激動の時代でした。陸海軍を統率する大元帥の立場は戦争と不可分です。

戦争のない時代に安堵

 それを継ぐ天皇として、陛下はとくに平和への祈りを強く考えられたのではと推察します。国民の福祉も文化の国も、平和なしで成り立ちませんから…。

 戦争の天皇でなく、平和の天皇でいられた喜びは、昨年12月23日のお言葉でも明らかです。85歳の誕生日を迎え、陛下はときに涙声になりつつ、こう述べたのです。

 「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵(あんど)しています」

 そう、平成とは戦争のない時代だったと、後の世にも記憶されることでしょう。心から喜ばしい思いで万感胸に迫ったのではないでしょうか。共感を覚えます。

 確かに即位の八九年という年はベルリンの壁が崩れ、旧ソ連と米国との冷戦が終わった節目にあたります。だから、これからは世界は平和を迎えるのではと、期待が膨らみました。

 戦争とは他国の社会契約を攻撃することだという説があります。冷戦という戦争で、旧ソ連の共産主義国家の社会契約は崩れ去り、ロシアという新しい国家の社会契約へと変更されたのだと…。

 超大国の冷戦が終われば、必然的に世界の戦争も解消されるだろうと思われたのです。

 実際には世界の平和は訪れませんでした。各地で民族紛争や宗教対立が起こり、テロによって、多くの犠牲者が生まれることになりました。今なお、多数の難民が苦しい日々を送っています。

 しかし、日本は平和をずっと守ってきました。戦後73年間も戦争に加わることがありませんでした。これは世界的に希有(けう)な国であるのは疑いがありません。もちろん戦争放棄を定めた9条の力のゆえんです。

 さて、その9条です。憲法尊重擁護義務を負った首相が自ら改憲を呼び掛けています。今年は改憲発議があるかもしれません。9条に自衛隊を明記する案です。

 平和国家の外堀は、いつの間にか埋められています。特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、安全保障法制、「共謀罪」法…。米国から高額な兵器をどんどん購入し、防衛予算は膨れ上がる一方になっています。

 政府自ら中国や北朝鮮の脅威をあおり、事実上の空母保有や先制攻撃ができる兵器も検討されるありさまです。もはや平和国家というより、アジア諸国からは好戦国に見えるかもしれません。

軍拡競争の末は戦争だ

 その分、実は日本は危うい状態となるのです。軍拡競争の次に待っているのは戦争なのだと歴史が教えているからです。さらに9条まで手をつければ、戦争への道は近くなります。「9条を改憲しても何も変わらない」と首相は言いますが、要注意です。

 軍縮と平和的外交という手段で平和を築ける知恵を人類は知っています。「戦争のない時代」を続ける努力が求められます。

 

[政治展望] 政権の命運握る参院選(2019年1月4日配信『南日本新聞』―「社説」)

 

 2019年は政治的に重要な日程がめじろ押しだ。

 4月の統一地方選、5月の新天皇即位と改元、6月には大阪で20カ国・地域(G20)首脳会合、7月には安倍政権の命運を左右する参院選が予定され、「政治決戦のヤマ場」と位置づけられる。

 さらに、10月には消費税率が10%に引き上げられる見通しだ。

 国民生活に直結するものが多く、安倍政権は気の抜けない政権運営を強いられよう。

 12年に自民党が政権に返り咲き、長く「安倍1強」の状況が続く中、独善的な姿勢が際立つ。

 昨年の通常国会では、厚生労働省の不適切データが表面化したにもかかわらず働き方改革関連法を強行に成立させた。臨時国会では、外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法の成立を熟議とは程遠い手法で押し切った。

 森友学園問題では財務省の公文書改ざんが発覚し、国有地の大幅値引きの理由は解明されていない。加計学園問題も「加計ありき」の疑念が晴れないままだ。

 おざなりな審議で数の力に任せる手法は国会の空洞化を招いている。長期政権のおごりと言わざるを得ない。

■国民に飽きや不満も

 安倍晋三首相は昨秋の自民党総裁選で3選を果たし、通算の首相在任期間が歴代最長になる可能性が出てきた。11月19日を迎えれば戦前の桂太郎の2886日に並んで憲政史上最長となる。

 首相の行く手を阻む可能性があるのが参院選だ。定数は昨年の公選法改正で6増となり、248議席の半数が改選を迎える。

 政権が長期にわたることや、国会審議で異論や疑問に耳を傾けず強引に突破する手法に、国民の間では飽きや不満がたまりつつあるように見える。

 人口減少や少子高齢化に直面し、地方再生が必要とされる中、有権者はどんな審判を下すのか。

 安倍首相は自民党総裁選で地方票の45%を石破茂元幹事長に奪われた。足元は必ずしも盤石とは言い難い。

 鹿児島選挙区を含め、全国に32ある1人区でどれだけ議席を確保できるかが勝敗を決する。

 現状を維持して、改憲に前向きな勢力が国会発議に必要な「総議員の3分の2以上」の議席を占めることができるか注目される。

 「安倍1強」に立ち向かう野党も課題が多い。

 野党第1党の立憲民主と国民民主は、改正入管難民法の審議で足並みがそろわなかった。

 10月に予定される消費増税について立民は反対、国民は容認の姿勢を示しているほか、安全保障関連法や統一会派結成に対する考え方にも温度差がある。

 参院選の1人区では特に候補者調整が不可欠だが、野党が結集できるかは不透明だ。

 野党が候補者を一本化できず候補者が乱立するようでは、与党を利するだけである。政策の一致点や妥協点を見いだして、候補者を一本化し、与党との対立軸を明確にする必要がある。

■拙速な改憲論議禁物

 安倍首相が悲願とする憲法改正論議は正念場を迎えそうだ。

 自民党は昨年3月に9条への自衛隊明記、緊急事態条項新設、参院選「合区」解消、教育無償化・充実強化の4項目を柱とする党改憲条文案を取りまとめた。

 先の臨時国会で提示する予定だったが、下村博文自民党憲法改正推進本部長の野党に対する発言への反発や、改正入管難民法の審議などもあり、提示されなかった。

 連立を組む公明は改憲に慎重姿勢を示し、主要野党は安倍政権下での改憲に消極的だ。通常国会での審議が進む見通しはなく、参院選前の発議は困難とみられる。

 共同通信社が昨秋実施した全国世論調査でも、国民が安倍内閣に求める政策として挙がるのは「年金・医療・介護」「景気や雇用など経済政策」が圧倒的に多く、「憲法改正」の優先順位は低い。

 国民の間で憲法改正を求める機運が高まっているとは言い難い。

 とはいえ安倍首相の前のめりの姿勢に変わりはない。臨時国会閉幕後の記者会見では、20年の改正憲法施行を目指す考えを改めて示した。

 首相は憲法改正に対する国民の意識を踏まえ、拙速な改憲論議を避けるべきだ。

 4月からは改正入管難民法が施行され、外国人との「共生の時代」に突入する。

 国は労働・生活環境の充実など受け入れ体制の整備に取り組み、現場が混乱しないよう万全を期してもらいたい。市民も隣人として共に生きる覚悟が必要だろう。

 沖縄県の米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題や東日本大震災をはじめとする各被災地の復興、東京電力福島第1原発の廃炉作業などからも目が離せない。

 地方では過疎化が進み、これまで以上に地域活性化や東京一極集中の是正が不可欠だ。従来の「地方創生」の手だてを十分検証して、一層有効な策を講じることが求められる。

 安心して子どもを産み育てられる環境づくりを含めた人口減対策、持続可能な社会保障制度など長期的な視野で取り組むべき課題からも目をそらしてはならない。

 

2019年と憲法(2019年1月4日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

「安倍改憲」に終止符打つ年に

 2019年は、あくまでも改憲に執念を燃やす安倍晋三政権と、憲法を守り生かそうと望む国民との、激しいせめぎあいの年となります。憲法9条に自衛隊を明記するなどの「安倍改憲」に反対する国民のたたかいは、昨年の臨時国会でも自民党の改憲案提示を許さず、改憲策動に痛打を与えました。今年も改憲阻止の世論と運動を広げに広げ、「安倍改憲」に終止符を打ち、安倍政権とともに、改憲策動そのものを、葬り去る年にしようではありませんか。

首相の執念は変わりない

 自民党改憲案の提示ができなかった臨時国会閉幕後の記者会見で、首相は20年を新しい憲法が施行される年にしたいという自らの目標について「今もその気持ちには変わりはありません」と明言しました。首相はあくまでも、改憲に固執しています。

 首相が改憲強行“シフト”に起用した下村博文自民党改憲推進本部長や萩生田光一幹事長代行、加藤勝信総務会長、吉田博美参院幹事長らも昨年末相次いで、改憲の意向を表明しました。

 2月に開く自民党大会に提出予定の運動方針案には、改憲に「道筋をつける覚悟」と明記されると報じられています。

 見過ごせないのは、自民党が改憲強行のために、すべての小選挙区支部に改憲推進本部をつくり、“草の根”からの運動を強化していることです。同時に、年末の同党改憲推進本部の会合で改憲派ブレーンの大学教授が「反対派を敵と位置付け、名指しで批判する」と発言したように、なりふり構わぬ姿勢です。「安倍改憲」の動きは絶対軽視できません。

 憲法破壊を繰り返してきた安倍首相が一昨年から、9条に自衛隊を明記するなどの明文改憲を持ち出し、その実現に必死になっているのは、自らが祖父の岸信介元首相のDNAを引き継いだタカ派だというだけではありません。安保法制=戦争法を強行しても、なお残る憲法上の制約をなくし、海外での自衛隊の戦争参加に道を開くためです。

 自衛隊を9条に明記すれば、同条1項、2項の戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認の規定が空文化・死文化し、自衛隊が大手を振って、海外での戦争に参戦可能になります。安倍政権は昨年末に決めた新しい「防衛計画の大綱」や「中期防衛力整備計画」で、事実上の空母の保有やF35戦闘機の大量購入など、派兵型の軍備を着々と増強しようとしています。

 「安倍改憲」は、74年前に侵略戦争に敗北した日本が、痛苦の反省のうえに、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」(憲法前文)とした決意を根こそぎ覆すものです。首相の改憲策動を許さない決意を、新年にあたり、新たにしましょう。

野党と市民の力強めて

 臨時国会での自民党改憲案の提示を阻んだのは、「9条の会」の活動や3000万人署名の全国的な広がりなど、憲法を守り生かす、野党と国民の取り組みです。

 「安倍改憲」反対の世論は、共同通信調査で52・8%(12月17日付「東京」など)となっています。国民が望まぬ改憲を強行するのは、それ自体、憲法の大原則、立憲主義の破壊です。

 「安倍改憲」阻止へ、野党と市民の力を強めることが重要です。

 

今年の国政 強引な政権運営、決別を(2019年1月3日配信『秋田魁新報』―「社説」)

 

 安倍政権の真価が問われる2019年となる。内政、外交とも課題が山積している中で、夏の参院選、10月の消費税率引き上げなど重要な節目が続く。強引な政権運営に決別し、政治への信頼を取り戻し、直面する課題に一つ一つ答えを出すことが求められる1年である。
 安倍晋三首相の在職日数は、11月に戦前の桂太郎氏を抜いて歴代最長となる。しかしこれまでの政権運営はどうであったか。圧倒的な「数の力」を背景に、国の在り方に大きく関わる重要法案の採決を繰り返し強行して成立させてきた。まさに「安倍1強」のおごりとしか言いようがない。
 一方で官僚組織の劣化が指摘され、不祥事が相次いでいる。森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざんは象徴的でもある。官僚はどこを向いて仕事をしているのか。国民ではなく、官邸ばかり見ているのではと疑いたくなる。長期政権の弊害である。
 安倍首相は、先に進む前に、まずはこれまでの政権運営について省みる必要がある。それが信頼回復への第一歩となる。
 宿願とも言える憲法改正について、20年の施行を目指すとしているが、拙速に進められることがあってはならない。安倍首相としては今月召集の通常国会で、改憲案を憲法審査会に示して議論を始め、早ければ秋の臨時国会で発議にこぎ着けたい考えであろう。
 改憲の行方を占うのが参院選である。改憲勢力が国会発議に必要な「3分の2以上」を維持できれば、安倍首相は引き続き主導権を握ることができる。だがラインを下回れば改憲論議は一気にしぼんでしまい、首相自身の求心力低下を招く可能性もある。
 「安倍1強」による強引な政権運営を許してきたのは野党にも問題がある。立憲民主党や国民民主党などの足並みが乱れていては残念ながら対抗勢力としては力不足であった。参院選では結束し、共闘することが不可欠である。
 10月1日に予定されている消費税率10%への引き上げに向けて、安倍政権は景気減退を避けるためにと、大盤振る舞いとも取れる各種対策を明示した。こんなことで税率アップが目指す安心して生活できる社会保障制度の構築や少子高齢化対策が本当に進むのか、疑問が残る。
 外交では、米国のトランプ大統領の身勝手な振る舞いに翻弄(ほんろう)されている。通商交渉、防衛装備品の購入などについて言われるままに従うことが、同盟国としての日本の役割ではない。ロシアとの北方領土交渉の行方が気掛かりであり、北朝鮮の拉致問題解決も急がなくてはならない。
 20カ国・地域(G20)首脳会合が6月に大阪で予定されている。安倍首相には議長国としてリーダーシップを発揮し、混迷する国際社会に道筋を示すことが求められる。

 

2019 政治 権力の在り方問い直す年(2019年1月3日配信『岩手日報』―「論説」)

 

 〈権力の本体は、そういう術策にあるのではなく、権力者自体の自らの在り方にあるのだということだけは銘記すべきであろう〉

 大平正芳氏は首相に就く前の1971年、「新権力論」と題する小論を発表した。冒頭は、その一節である。

 「か弱い寄る辺なき人間」を守るため、権力は全身全霊の力を込め、あらゆる術策を用意しなければならないと、大平氏は説く。

 一方で、権力に本当の信頼と威厳をもたらすのは、術策の分量や組み合わせの巧拙より、権力主体の信望の大きさだとする。

 権力の本体が権力者自体の在り方にあるというのには、そうした意味がある。

 大平氏の権力観を振り返ったのは、安倍晋三首相「1強」の下での現政権の振る舞いがあまりに対照的に感じられるからだ。

◆異論切り捨ての傲慢

 ことしは、統一地方選と参院選が重なる。12年に1度の「亥(い)年選挙」の年だ。

 選挙とは、民意による政治権力の選択と言っていい。

 首相は政権復帰から7年目に入り、在任が長期化する中で政権のおごりも指摘される。

 有権者がこれまでの政権運営を振り返り、望ましい権力や権力者とはどういうものかを不断に問い直す。よりよい政治を求める上でそのことが不可欠に思える。

 安倍政権の強権的手法を端的に示すのが、昨年12月、政府が米軍普天間飛行場の移設工事で沖縄県名護市の辺野古沿岸部に土砂投入を強行したことだ。

 政府は普天間返還には辺野古への移設しかないとする。だが、昨年秋の沖縄県知事選では移設反対の玉城デニー氏が勝利し、県民は改めて「辺野古ノー」の意思表示をした。

 土砂投入強行は民意を踏みにじったに等しい。政府の方針と異なるからといって、選挙を経て示された県民の意思を切り捨てるようなやり方は傲慢(ごうまん)のそしりを免れない。民主主義を愚弄(ぐろう)したと言っても差し支えあるまい。

 しかも、そこに至るまでに「術策」を巡らせた印象も強い。首相と玉城氏の会談を設定して対話姿勢を演出する一方、辺野古埋め立て承認を撤回した県への対抗措置を周到に準備していた。

 民意に正面から向き合おうとせず、自らの目的達成のためには策を弄することも恥じない。それがいまの政権の姿ではないか。

常態化した国会軽視

 国会を軽んじる首相や政権の姿勢は相変わらずである。

 森友、加計疑惑など首相や政権に不都合な問題の追及はかわし続け、重要法案の採決では与党が圧倒的な数の力で押し切る。

 昨年は、拙速批判も意に介することなく、「成立ありき」とばかりにしゃにむに突き進む強硬姿勢がさらに際立った。

 通常国会では首相が最重要と位置付けた働き方改革関連法、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備法、自民党が主導した参院定数を6増する改正公選法を強引に成立させた。

 働き方改革法は「過労死が増える」と不安視されていた高度プロフェッショナル制度もセットとなった。IR整備法は、ギャンブル依存症を巡る疑問がくすぶる中での強行突破である。

 臨時国会では、野党から「生煮え」と批判された改正入管難民法を成立に持ち込んだ。

 IR整備法は、国民の批判がある中で統一地方選や参院選への影響を避けるために成立を急いだとされた。人手不足に対応する入管難民法の改正にこだわったのは、選挙向けに成果をアピールすることが目的とみられている。

 先を見据えて国民のために審議を尽くすことよりも、選挙対策を優先する。これではあまりに身勝手が過ぎよう。

◆改憲担う資格あるか

 数や策を頼んだ強引な政権運営が続く中で改めて考えたいのは、安倍首相や政権は憲法改正を担うに足る信望や信頼を備えているかということだ。

 9月の自民党総裁選で連続3選を果たした首相は、改憲に関わる主要ポストに下村博文氏ら側近を起用して体制固めを図った。

 ところが下村氏は、憲法論議に消極的だとして「職場放棄」と野党を批判し、反発を呼んだ。臨時国会での党改憲案提示は断念に追い込まれ、参院選前の改憲案国会発議も困難になった。

 独りよがりとしか見えない下村氏の態度は、最大与党の改憲の責任者にふさわしいとは思えない。

 自民改憲案は首相肝いりの9条への自衛隊明記も含む。9条は平和憲法の核であり、改憲を巡る国民の議論は分かれている。

 こうした中で、権力や政治に何を求めるのか。十分に吟味しておかなければならない。

 

(2019年1月1日配信『信濃毎日新聞』―「社説」)

 

栄村の年越しは多彩な郷土食が並ぶ。車麩(くるまぶ)や根曲がり竹などをひら椀(わん)に盛る「菜(せえ)」。地元産干しゼンマイの「ぜんまい煮」。豪雪地ゆえに保存や調理法に知恵や工夫が詰まる。料理研究家横山タカ子さんは「素にして上質」と表現した

   ◆

11年前に村民有志で発刊した102品のレシピ本「ばぁのごっつぉ うんめぇのし」。村は昨年、これを元に「食」の価値を見直し発信する活動に取り組んだ。横山さんも協力し村の女性たちが料理を作り東京・銀座で振る舞ったところ大好評だった

   ◆

活動に関わった上田市農林部の長谷川正之さんによれば女性たちは祖先から次世代に引き継ぐ役割を果たせたと安堵(あんど)の表情を見せた。活動で出会った70代女性の言葉も忘れられないそうだ。「冬はかけがえのない時間だ。好きな読書ができる」。豊かに生きる知恵を感じたという

   ◆

今年は元号が変わる。政権は「平成の、その先の時代の新たな国創り」をうたう。だが日本の、とくに地方の厳しい現実に区切りはない。〈去年(こぞ)今年貫く棒の如きもの〉高浜虚子。改憲をすれば世の中を一新できるかのような改革の幻影に惑わされまい

   ◆

栄村は年末、雪が降り続き森宮野原で1メートルを超えた。創業90年の「吉楽(よしらく)旅館」は先々代のおかみが戦時中、布団の中で抱きかかえ供出しなかった銅鍋を今も使う。昆布巻きを煮ると鮮やかな緑色に仕上がるという。過去から連綿とつながる時間に身を置けば大切にしたいものが見えてくる。

 

新しい年を迎えて 憲法の精神を見つめ直す(2019年1月1日配信『熊本日日新聞』―「社説」)

 

 <炭もガスも乏しければ湯婆子[ゆたんぽ]を抱き寝床の中に一日をおくりぬ>。作家の永井荷風は、1941(昭和16)年元日の日記にそう記す。

 一人暮らしの荷風は不便な自炊生活を送る。だが、<去年の秋ごろより軍人政府の専横一層甚[はなはだ]しく世の中遂[つい]に一変せし>今になってみれば、そんな暮らしが楽しくもある。そして<かくのごとき心の自由空想の自由のみはいかに暴悪なる政府の権力とてもこれを束縛すること能[あた]はず。人の命のあるかぎり自由は滅びざるなり>と、反骨精神あふれる文章を残している(『断腸亭日乗』岩波文庫)。

国民の「不断の努力」

 2019年の幕が開いた。80年近く前とは違って今の時代、荷風の言う「心の自由」はもとより、個人の自由は当たり前のようにも思える。だが、本当にそうだろうか。この先もずっと私たちは、自由であり続けるのか。

 <この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない>と日本国憲法は定める。そんな憲法の精神をどれだけの人が意識しているだろう。自由を保ち続けるために、私たちが「不断の努力」を行っているとはとても言えまい。

 4月には統一地方選、夏には参院選がある。このところ各種選挙で投票率の低下が目立つが、1票を投じることも自由のための「不断の努力」の一つと言えよう。たとえ小さな1票でも、その積み重ねは社会を変え得るからだ。

 憲法はまた、<生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については(中略)立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする>ともうたう。

 果たして、そうした国民の権利は国政の上で尊重されているだろうか。立法府は「熟議」とは程遠く、政府提出法案を数の力で押し通す場面ばかりが目につく。それも特定秘密保護法や「共謀罪」法など、国家権力の強化へと、そのベクトルは向いているようだ。また、沖縄では「これ以上、基地はいらない」と悲痛な声が上がるが、一切顧みられることはない。

 今年は天皇陛下が退位され、「平成」が終わる。そんな時代の変わり目だからこそ、改めて憲法の精神を見つめ直すべきではないか。

 つきまとう根本的疑問

 その憲法は岐路に立っている。昨年の臨時国会で自民党が目指した4項目の党改憲条文案提示は見送られたが、国会閉幕後、安倍晋三首相は改めて20年の改正憲法施行を目指す考えを表明した。

 改憲が首相の悲願というのは衆知のことだ。だが、やはり今になっても、「なぜ変える必要があるのか」「なぜ20年施行なのか」という根本的な疑問はつきまとう。

 憲法を考えることは国の在り方に思いを巡らすことでもあり、大いに議論するべきだ。ただ、昨年12月の共同通信社の世論調査では、首相の改憲方針に反対が52・8%と、賛成の37・6%を大きく上回った。国民の間に改憲への理解が広がっているとは言えまい。むしろ、安心できる社会保障制度の構築や地方創生、被災地復興といった課題に、もっと政治のエネルギーを注ぐべきではないのか。

 首相は「それぞれの政党が憲法についてどういう改正案を持っているかを開陳しなければ、国民が議論を深めようがない」とも述べた。期限を区切り、「変える」ことを前提とした発言には違和感を覚えざるを得ない。

 一人一人の想像力を

 県内に視線を移せば、今年は熊本地震から3年を迎える。復旧工事が進む熊本城は、10月には一般公開され大天守の外観を近くで見ることができるようになる。熊本博物館や熊本市動植物園など被災施設の再開も相次ぎ、益城町の県道熊本高森線4車線化工事も間もなく始まる。復旧・復興は着実に歩みを進めているように見える。

 しかし、仮住まいの被災者は、初めて1万世帯を下回ったとはいえ、昨年11月末現在でなお9519世帯、2万1678人もいる。仮設住宅は昨年4月以降、原則2年間の入居期限を順次迎えており、退去のペースは加速しているが、退去者が増えれば仮設団地の自治機能が衰え、残された人が孤立する恐れがあることも重い課題だ。

 3年という時間の中で、熊本地震は風化し始めていないか。それを食い止めるためには、政治や行政はもちろん、私たち一人一人が想像力を鍛えるべきだろう。被災者の思いを想像し、共有する。自分が暮らすまちの将来の姿を思い浮かべてみる。そうした積み重ねこそが、分断や孤立を防ぎ、誰もが住みよいまちへと近づけるための一歩となるはずだ。

 

憲法への岐路 空回りの改憲 民意に向き合う政治こそ(2018年12月30日配信『信濃毎日新聞』―「社説」)

 

 宿願の実現へ、安倍晋三首相が一段と踏み込んだ姿勢を見せながら、改憲の論議は広がらないまま1年が終わる。自民党は、自衛隊の明記をはじめ4項目の条文案をまとめたものの、国会には提示できなかった。

 改憲は国会が発議し、国民投票で決める。国民が権利を実行するために、国会には改憲を議論する義務がある―。1月の参院予算委員会での安倍首相の答弁だ。

 「義務」という強い言葉を持ち出して、政府の長である首相が国会に号令をかけるような発言である。自民党総裁と首相という立場の線引きを踏み越え、改憲を主導するかの姿勢は、その後も目についた。自衛隊の観閲式でも改憲への決意を述べている。

 そもそも安倍首相の主張は根拠を欠く。憲法は、首相や閣僚、国会議員が憲法を尊重し擁護する義務を負うことを定めている。改憲の議論を国会に義務づけるような条文はどこにもない。

 改憲の手続きについては、国会に発議を委ねる一方、内閣の権限には何も触れていない。本来、首相が関与する余地はないということだ。改憲を主張することは妨げられないにしても、国会への介入は避けなければならない。

<ないがしろにし続け>

 首相の座に再び就いて6年。安倍政権は、憲法をないがしろにし続けてきたと言って過言でない。平和主義を変質させたことはその最たるものだ。

 歴代政権が認めてこなかった集団的自衛権の行使を、憲法解釈を強引に変えて容認し、安全保障法制を成立させた。今年改定した防衛大綱の下では、事実上の空母も配備し、任務、装備ともに専守防衛からの逸脱が進む。

 9条だけではない。沖縄では新たな米軍基地の建設が民意を顧みずに強行され、民主主義と地方自治が踏みつけられている。抗議する人たちを実力で排除し、逮捕者も相次ぐ状況は、政治的な意見の表明を封じるに等しい。

 昨年施行された共謀罪法は、幅広い犯罪について、合意するだけで処罰を可能にした。公権力の刑罰権に縛りをかける人権保障の骨組みが揺らいでいる。

 憲法に基づく野党からの臨時国会の召集要求をたなざらしにすることも繰り返された。国会の議論を軽んじ、数を頼んで押し切る独善的な姿勢も強まるばかりだ。

<首相の情念が際立つ>

 自民党の改憲条文案は、首相の意に沿って事を急ぐ間に合わせのものでしかない。党内でも議論は尽くされていない。国会に提示するのはもともと無理がある。

 自衛隊の明記について安倍首相は、任務や権限は何も変わるわけではないと説明する。けれども、安保法制で自衛隊の任務、活動は既に大きく拡大している。

 さらに、条文案の「必要な自衛の措置をとる」との文言は、必要最小限度の実力組織という制約を取り払い、集団的自衛権の全面的な行使を認めるようにも解釈し得る。戦力の不保持を定める9条2項が意味を失いかねない。

 他の改憲3項目は、緊急事態、参院選の合区解消、教育の充実である。どれも憲法を改める理由は見いだせない。災害への対処は現行法で可能だ。緊急事態を憲法で定める必要はない。合区解消も定数是正や法改正で対応できる。

 衆参両院の憲法審査会は今年、実質的な審議ができなかった。与野党の合意を重視してきた慣例に反する自民党の強引な姿勢に、野党は反発を強めている。連立与党の公明党も距離を置く。

 それでも安倍首相は「2020年に新しい憲法を施行したい気持ちに変わりはない」と重ねて表明している。かねて現憲法を「みっともない」などと語ってきた首相の情念が際立って見える。

<主権者の意思を示す>

 それは、国民が政治に求めるものとは懸け離れている。世論調査でも、力を入れてほしい政策の第一に挙がるのは、社会保障や景気・雇用である。期限を区切って改憲を目指す首相の方針に反対する人は半数を超す。改憲は優先すべき政治課題ではない。

 来年は天皇の代替わりを挟んで統一地方選と参院選がある。時間をかけて憲法を議論できる状況にはない。国や社会の根幹に関わる事柄を国会で十分話し合いもせず前に進めるわけにいかない。

 国民投票法にも不備が目立つ。一つは運動資金に制限がないことだ。広告宣伝などで資金力に勝る側が有利になり、公正さを保てない恐れがある。改憲を発議する前提が整っていない。

 憲法は、主権者である国民が国会や政府、司法、地方自治のあり方を定めたものだ。掲げられた理念、原則に立って、民意と人権を重んじる政治こそが求められる。それがおろそかにされ、改憲が無理押しされないか。年明け後も政権の姿勢を厳しく見つめ、主権者として意思を示したい。

 

国民投票は静かな環境で(2018年12月12日配信『日本経済新聞』―「社説」)

 

憲法改正のための国民投票の際のテレビ広告をどう扱うべきか。簡単に決められない問題だ。言論の自由を封じることがあってはならないが、特定の政治勢力に有利になるのも好ましくない。重要なのは、有権者が落ち着いて熟慮できる環境をつくることだ。

国民投票法は投票日の2週間前からテレビ広告を禁じている。いま議論になっているのは、その前の期間をどうするかだ。

放映が無規制だった場合、資金力に勝る保守派が改憲を推奨するCMを大量に流し、有権者の判断に大きな影響を及ぼすのではないか。立憲民主党など野党はそうした懸念を抱いている。

衆院憲法審査会に出席した日本民間放送連盟の専務理事は自主規制の実施に否定的な見解を表明した。どういうもの言いをすれば推奨にあたるのか、など判断が難しいことは理解できる。

だからといって、この問題を放置しておいてよいとも思えない。憲法論議が中身をめぐる対立によってではなく、手続き論で膠着状態に陥るのは残念である。

民放連が自主規制をするのかどうか。問題の本質はそこにあるのだろうか。そもそも集中豪雨的にテレビ広告を流そうという発想が自民党になければ、野党も身構える必要はなくなる。

安倍晋三首相にしても「改憲をカネで買おうとしている」といった批判を被るのは本意ではなかろう。過去の衆院選を上回るテレビ広告は考えていない。自民党がそう公約すればすむ話だ。

 改憲が発議されると国会に国民投票広報協議会を設けることになっている。だが、その具体的な運営方法はまだ決まっていない。改憲に重きを置いたキャンペーン機関になると思われれば、護憲派はいままで以上に発議の阻止に注力することになろう。

 国民投票はどういうものなのか。有権者にはわからないことがまだまだたくさんある。先々のルールを話し合うところから、憲法審査会を正常化させたい。

 

臨時国会閉幕 目に余る安倍政権の立法府軽視(2018年12月12日配信『愛媛新聞』―「社説」)

 

 消化不良の質疑、強引な議事進行、飛び交う怒号…。10日閉会した臨時国会は、安倍政権となって既視感のある光景がまたも繰り返された。「国権の最高機関」は形骸化する一方だ。

 その原因は立法府を軽視する安倍政権の姿勢と、それに手を貸す与党にあると言わざるを得ない。外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法をめぐっては、衆参両院の法務委員会での審議時間はわずか35時間ほど。多くの問題点が指摘される中、採決に突き進んだ。言語や文化、価値観の違いを超え、「共生社会」を目指すための法律の審議が、異論を排し、批判に耳をふさぐ形で成立した矛盾に深く失望する。

 国会での審議とは、幅広い合意を築き上げていくことに意義があるはずだ。それを放棄し、ひたすら採決のみを目指すような議事運営は認められない。国会の必要性さえも問われかねない危機的状況である。政府与党にあらためて猛省を促したい。

 臨時国会では、改正水道法や水産改革関連法などの審議で与野党が激突する中で、与党の強引な議事運営が目立った。その最たるものは改正入管法だ。政府が進める働き方改革や少子化対策とも密接に絡んでおり、厚生労働委などとの連合審査で幅広く議論すべきだった。

 さらに、法務省による外国人技能実習生の調査結果に誤りが判明。野党の反発にもかかわらず、委員長職権で衆院法務委を開催し、野党が欠席したまま審議時間を稼ぐ「空回し」も行われた。参院法務委では、与党が質問時間を1時間早く切り上げる「職務放棄」も起きた。

 衆参の法務委ともに与党が採決を強行。すべてが「4月法施行」の日程ありきで進められた信じがたい議事運営だった。これでは「選良」の責任を果たしたと言えまい。

 不安や懸念に正面から向き合おうとしない政府の姿勢も相変わらずだ。改正法は根幹の部分を政省令に委ねるため、国会で十分なチェックができない恐れが指摘されている。審議の過程では政府側の「検討中」の答弁が目立ち、数字の根拠を示せないなど、改正法への疑問が膨らむ一方だった。大島理森衆院議長が政府に対し、施行前に国会への全体像提示を求める異例の注文を付けたのも当然だ。

 今国会では、憲法審査会の審議は野党の反対で開かれなかった。首相は閉幕を受け、2020年の改憲を目指す考えを改めて表明した。

 そもそも改憲が優先して取り組まなければならない政治課題とは考えられないが、少なくとも、これまでの安倍政権による「日程ありき」「議論軽視」の姿勢を改めることが、野党が話し合いの席に着く大前提となろう。今のままでは、国民の理解が深まる真摯(しんし)な議論がなされるとは到底思えない。悲願である改憲を阻んでいるのは、ほかでもない自分自身であると肝に銘じなければならない。

 

【首相会見】立法府軽視が目に余る(2018年12月12日配信『高知新聞』―「社説」)

 

 

 安倍首相にとっての「謙虚で丁寧な政権運営」とは一体、何なのか。国民の理解を深める熟議にはほど遠く、数の力で採決を強行する光景がまた繰り返された。

 臨時国会が閉幕した。首相は記者会見で、外国人労働者受け入れを広げる改正入管難民法について「地方で中小事業者が深刻な人手不足に直面している」とし、拙速な国会論議をさておいて国民に理解を求めた。

 来年4月から外国人労働者の受け入れ施策は大きく転換し、単純労働分野にも幅広く門戸を開く。地域社会と住民は、さらに「共生」という課題と向き合うことになろう。

 ところが、地域の将来に関わる重要法案にもかかわらず、政府は「検討中」という答弁を繰り返した。新制度の根幹は、法が成立した後で定められる。

 新しい資格の特定技能1号の在留期限や、2号の期限更新などは省令に記載される。日本人と同等以上とする雇用契約の基準や日本語教育、生活ガイダンスの提供など外国人への支援計画項目も同様だ。

 業種ごとの向こう5年の受け入れ見込み数も、分野別運用方針で決まる。首相は会見で、受け入れに向けた環境整備のための総合的対応策は年内に策定するとした。

 政府の裁量に多くを委ねる手法である。野党側が「白紙委任法」と反発するのも当然だ。国民の代表が集う立法府の軽視が目に余る。

 衆院の採決に際しては、委員会の与党幹部が「この問題は議論したら切りがない。いくらでも問題点が出てくる」と言い放った。立法府としての職務放棄に等しい。

 来春施行ありきの手法は、選挙イヤーの来年に向けた政権の実績づくりが狙いとされる。その思惑をくむばかりで議論を煮詰めないとすれば、野党が言う「与党は官邸の下請け機関」との批判も仕方あるまい。

 立法府を軽んじる安倍首相の姿勢は、記者会見の憲法改正に関する発言にもにじんでいる。

 首相は改めて2020年と期限を区切り、改正憲法施行を目指す考えを示した。さらに、各党が改正案を開陳しなければ、国民が議論を深めようがないと注文を付けた。

 国会論議の活性化を促す首相発言を巡っては、今国会でも論争があった。主要野党は憲法99条の憲法尊重擁護義務違反とし、改憲を発議するのは国会であり、三権分立にも反すると批判した。しかし、首相に発言を控える気配はない。

 共同通信が11月に行った世論調査では、自民党改憲案の臨時国会提出は反対が54%と賛成の353%を大きく上回った。国民は改憲を急いでいないといえる。首相は民意まで軽視せず、耳を澄ませるべきだろう。

 改正入管難民法に関しては、大島衆院議長が、施行前に政省令を含めた全体像を政府から国会に報告させるという異例の裁定を行った。

 1強政治の下、立法府の存在意義が揺らいでいる。与野党を問わず危機感を持つべきである。

 

臨時国会閉幕 言論の府の劣化進んだ(2018年12月11日配信『北海道新聞』―「社説」)

 

 怒号が飛び交う委員会室で、問答無用とばかりに採決を強行する与党議員―。そんな光景が、残念ながら今回も繰り返された。

 決して、「見慣れた場面だ」と言って見過ごしてはならない。

 臨時国会がきのう閉幕した。

 外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法などの重要法案が十分な審議のないまま、またも与党の数の力により成立した。

 議会制民主主義の担い手である国会議員が、自ら言論の府の土台を崩している。危機的状況への自覚を政権与党に求めたい。

 驚いたのは、閉幕を受けた安倍晋三首相の記者会見だった。

 改正入管難民法成立に伴い、政府の基本方針や分野別運用方針、外国人との共生のための総合的対応策を年内に示すと表明した。

 国会審議では明かさなかった日程の後出しで、姑息(こそく)な対応だ。

 与党はせめて会期を延長して審議を続け、政府に説明させるのが筋だったのではないか。

 そもそも、肝心の点を政省令に委ねた今回の法改正は与党の事前審査で「生煮え」と批判が出た。本来なら与党が提出に待ったをかけるべきお粗末な内容だった。

 それが結局は抜本修正もなく審議入りし、あとは具体論について政府は野党に言質を与えず、与党は成立ありきで突き進む。

 国権の最高機関を軽んじる審議は、漁業や水道事業に民間企業参入を促す各関連法改正、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)承認も同じだった。

 国会は、政府の意向に従って与党が法案を通すだけの「法律製造機」と化したかのようだ。

 立憲民主党など野党6党派はきのう、国会運営の在り方について与野党が協議する場を設けるよう大島理森衆院議長に申し入れた。大島氏は「建設的に与野党が協議できるよう努力する」と述べた。

 ならば、行政府の監視という本来の使命を果たせるよう、立法府の再建に議長として責任を持って取り組んでもらいたい。

 今国会で首相が目指した、憲法審査会への自民党の改憲4項目提示は見送られたが、首相は2020年の改定憲法施行を目指す意向は「変わらない」と述べた。

 与野党協調を基本としてきた憲法審査会で、与党は衆院で異例の会長職権による開催に踏み切り、ここでも強引な運営を見せた。

 その姿勢を改めずして、数を頼みに日程ありきで改憲に突き進む。そんなやり方は断じて認められないと指摘しておきたい。

 

国会の空洞化が加速 政権の暴走が止まらない(2018年12月11日配信『朝日新聞』―「社説」)

 

 巨大与党に支えられた安倍政権の横暴がまた繰り返された。

 自民党総裁選で3選された安倍首相が初めて臨んだ臨時国会が閉幕した。従来にもまして議論をないがしろにし、国会を下請け機関のように扱う政権の独善的な体質が際だった。

 ■熟議よりも日程優先

 先の通常国会では、森友・加計問題をはじめとする政府の不祥事に対し、国会が十分なチェック機能を果たせなかった。大島理森衆院議長が「深刻な自省と改善」を求める異例の談話を発表したが、事態は改善されるどころか、深刻さを増したとみざるを得ない。その重い責任は、首相と与党にある。

 外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法の改正は、社会のありようにかかわる大きな政策転換だ。より幅広い国民的合意が求められるにもかかわらず、政府・与党は野党の理解を得る努力を、はなから放棄していたというほかない。

 審議の土台となる外国人技能実習生にかかわる資料を出し渋り、重要事項の多くは法成立後の省令などに委ねる。質問されても「検討中」を繰り返す。

 来年4月の施行に向け、熟議よりも、48日間という短い会期内での成立にこだわった。審議を短縮するため、与党が質問時間を放棄する場面もあった。

 広範にわたる課題を抱え、政府が全体として取り組むべきテーマであるのに、首相が前面に立つことはなく、答弁はほとんど法相任せだった。

 驚いたのが、3年間で技能実習生69人が凍死、溺死(できし)、自殺などで死亡したとする政府資料に対する見解を問われた時の首相の発言だ。「初めてうかがった。私は答えようがない」。外国人労働者を人として受け入れようという当たり前の感覚が欠落しているのではないか。

 論戦の過程で明らかになった不安や課題に丁寧に向き合うことなく、成立ありきで突き進んだのは水道法改正も同じだろう。沖縄県の反対にもかかわらず、名護市辺野古の海に土砂を投入しようとしている米軍普天間飛行場の移設問題にも重なる強権的な姿勢は、断じて認めるわけにはいかない。

 ■信頼回復には程遠い

 首相は自民党総裁選で、地方の厳しい声にさらされた。しかし、政治手法に対する反省にはつながらなかったようだ。

 いまだ国民の多くが首相の説明に納得していない森友・加計問題の解明は、今国会で一向に進まなかった。論戦のテーマになることが少なかったという事情はあろうが、政治への信頼を回復するには、首相が自ら進んで説明を尽くす責務がある。

 さらに信頼を損ねる閣僚の言動も相次いだ。

 組織的な公文書改ざんの政治責任をとらずに留任した麻生太郎副総理兼財務相は、相変わらず問題発言を繰り返している。不摂生で病気になった人の医療費を負担するのは「あほらしい」という知人の言葉を紹介し、「いいことを言う」と述べたのは、健康な人も含めて医療費を分かち合う社会保険制度の基本への無理解を示すものだ。

 国税庁への口利き疑惑に加え、政治資金収支報告書を2カ月で4度も訂正した片山さつき地方創生相。サイバーセキュリティーを担当しながらパソコンを使ったことがなく、海外メディアから驚きをもって報じられた桜田義孝五輪相。

 閣僚の資質をめぐる議論に国会論戦が費やされる事態を招いた。首相の任命責任は厳しく問われねばならない。

 ■頓挫した「改憲」論議

 政策面でも、社会保障制度の立て直しや財政再建など、先送りしてきた難題に向き合う覚悟はうかがえなかった。負担と給付をめぐる議論は早々に封印、消費増税対策として、「キャッシュレス決済」を対象にしたポイント還元や「プレミアム商品券」を打ち出すなど、来夏の参院選をにらんだ野放図なバラマキばかりが目立った。

 与野党の協調をないがしろにする政権のもと、首相が意欲を示した改憲論議が進まなかったのは、自業自得だろう。

 与党は、与野党合意を前提とする慣例を破って、会長の職権で衆院憲法審査会の開催に踏み切った。立憲民主党など野党の猛反発を招き、今国会では実質的な審議は行われなかった。

 9条への自衛隊明記など、自民党のめざす「改憲4項目」を審査会で説明し、改憲の発議に向けた歯車を回す――。そんな首相シナリオは崩れた。

 改憲をめぐる世論は熟しているとは言い難く、他に優先すべき政策課題も多い。来年は統一地方選、参院選に加え、天皇の代替わりも控える。首相や自民党の思いばかりが先に立った改憲論議だが、一度立ち止まって冷静になってはどうか。

 今月末で第2次安倍政権は発足6年を迎える。長期政権のおごりや弊害に向き合わず、このまま民主主義の土台を傷つけ続けることは許されない。

 

憲法審査会 不断に議論する環境を整えよ(2018年12月11日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 憲法のあり方について不断に議論すべき審査会が、1年以上もその機能を果たしていないのは、ゆゆしき事態である。態勢の立て直しに向け、与野党は真摯しんしに協議すべきだ。

 衆院憲法審査会での実質的な憲法論議が一度も行われないまま、臨時国会は閉幕した。

 安倍首相は、自衛隊の根拠規定の追加など、4項目の自民党憲法改正案を提示する方針を掲げていた。憲法改正の国会発議を視野に、この国会で踏み込んだ議論を進めるのが狙いだった。

 これに対し、立憲民主党など野党は、与党の国会運営を問題視して、審査会の開催を拒み続けた。自民党の改正案提示を妨げる意図があったのだろう。

 各党が憲法に関する意見を表明する自由討議は昨年11月以来、開かれていない。安倍首相の下での憲法改正論議に反対する立民党の強硬姿勢が背景にある。

 自らの案も示さず、駆け引きに終始しているようでは、「抵抗野党」との誹そしりを免れまい。

 憲法が制定された終戦直後とは、国際情勢は大きく異なる。日本社会と経済も様変わりしている。こうした変化を踏まえ、最高法規のあるべき姿を論ずるのが、審査会の本来の役割だ。

 野党各党は、党内論議を進めて見解を取りまとめ、審査会で明らかにすべきである。

 首相が自身の側近を憲法改正推進の要所に据えた人事が、結果的に裏目に出た面は否めない。

 下村博文・党憲法改正推進本部長は、一部野党を「職場放棄」と批判し、反発を受けた。野党に反対の口実を与えたのは残念だ。

 参院の審査会の議論が滞っていることも看過できない。衆参両院の役割分担にとどまらず、多岐にわたる論点について、主体的に論じなければならない。

 首相は記者会見で、2020年の新憲法施行を目指す考えに変わりはない、と強調した。

 来年1月召集の通常国会で、与党は仕切り直しを迫られる。

 継続審議となっている国民投票法改正案の早期成立を図ったうえで、自由討議の開催を目指す方針である。丁寧な審査会運営に努めることが求められよう。

 憲法改正は、国会発議後、国民投票で過半数の賛成を得る必要がある。世論の関心を喚起し、改正の意義や内容への理解を広げる取り組みが欠かせない。

 自民党は、全国で研修会や街頭演説を実施している。地道な活動を続けることが大切だ。

 

臨時国会閉幕(2018年12月11日配信『福井新聞』―「論説」)

 

「1強」追随が露骨過ぎる

 「議論したらきりがない。いくらでも問題点が出てくる」。改正入管難民法の審議過程で自民党議員がこう言い放った。閉幕した臨時国会を象徴する発言と言っていいだろう。

 誰が見ても政府の準備不足は明らかだった。入管法は自民党内の事前審査でも法務部会が6回に及ぶなど紛糾した。それにもかかわらず、衆参合わせてわずか35時間の審議で採決を強行した。人手不足が深刻化する経済界に取り入り、来春の統一地方選や夏の参院選に向けて成果を誇示する狙いも、安倍「1強」への追随ぶりも、これまでに増して露骨だったといえよう。

 入管法審議の最終盤に来て、法務省の集計で2015年から17年に事故や病気、自殺などで69人の外国人技能実習生が死亡していたことも分かった。「安価な労働力」として酷使されている実態がさらに鮮明になった。把握していながら策を講じない、そんな法務省が中心となって、新制度で実効性のある政省令が作れるのか、甚だ疑問だ。

 安倍晋三首相は閉幕会見で改めて移民政策を否定し、在留管理を徹底すると述べた。どう「選ばれる国」になるかの言及は全くなかった。これで海外から優秀な即戦力が来てもらえるのか、冷水を浴びせるかのような発言にしか聞こえなかった。実習生制度に関しては「万全を期していく」と述べるにとどまった。喫緊の課題として即刻対応すべきだろう。

 首相は、大島理森衆院議長の裁定に則して、国会に対して年内に基本方針や分野別運用など、施行前には全体像を提示することを確約した。どの分野でどの程度受け入れるのか、生活支援をどう整備するのか、日本人と同等以上の待遇をどう担保するのか、制度の根幹を早急に示すだけでなく、野党の疑問に答える場を設けなければならない。

 参院法務委の前に「ややこしい質問を受ける」と述べた首相。傍観者然とした発言であり、行政府の長としての責任が感じられない。そんな首相の意向を与党が丸のみし、国会を軽んじ成立に突き進む体は異常だ。政府に十分な説明をさせることなく、自身の質問時間を大幅に余らせるといった、あるまじき光景まで現れた。

 水道法や漁業法の改正を巡っても与党の強引な手法が目立った。ともに従来にない民間活用を掲げたが、利点ばかりを強調し、問題点に関して慎重審議を求める野党の声を遮るように採決を強行した。施行後に不利益を被るのは国民という目線がないままでは、混乱を招くだけである。

 強引な手法が裏目に出たのが、首相の悲願である憲法改正論議だろう。最側近である自民党の下村博文憲法改正推進本部長が憲法審査会を巡る野党の対応を「国会議員としての職場放棄だ」と批判したのがきっかけで、改正案の提示は見送られた。首相が描く参院選までの国会発議は見通せなくなった。「1強」のおごりが招いた、まさに「オウンゴール」(野党)である。

 

改憲論議停滞 民意の後押しがなければ(2018年12月11日配信『西日本新聞』―「社説」)

 

 「憲法審査会の審議に応じない野党は職場放棄だ」「(改憲を度々行っている)世界から見れば護憲は思考停止だ」−。

 自民党の下村博文・憲法改正推進本部長がこんな独善的で乱暴な発言をするようでは、野党が反発し、国民の理解が得られないのも当然だろう。

 臨時国会は、焦点だった改憲に向けた憲法審査会での実質的な議論が、一度も行われないまま閉幕した。自民党は改憲案提出の先送りを余儀なくされた。

 安倍晋三首相は9月の自民党総裁選に先立ち、次期国会での改憲案提出に意欲を示し、この臨時国会では下村氏ら側近を国会運営の要職に据え、審議を加速させるシフトを敷いた。

 総裁連続3選で勢いを得た首相には、来年の参院選前に改憲の発議にこぎつけたい思惑もあったろう。それが裏目に出た。

 9条への自衛隊明記を軸とした「改憲4項目」を掲げて先を急ぐ自民に対し、野党は警戒感を強め、憲法審の開催に慎重な姿勢を貫いた。それに業を煮やした下村氏の「職場放棄」発言だったが、思慮を欠いていた。

 憲法では改憲の発議は国会議員が担うとされている。故に首相らは「発議は国会の責務」と強調する。しかし憲法は元来、権力を縛るものであり、天皇をはじめ国会議員や公務員らに憲法擁護の義務を課している。

 それに照らせば、改憲論の前に、今の国政に憲法の精神が十分に生かされているのかなど、現状をつぶさに検証する作業が求められる。野党側が下村発言に反発するのは理解できる。

 下村氏は8日、国会審議の停滞を巡り「護憲は思考停止。現状維持で何も変えようとしない」とも語った。そう決め付ける「改憲ありき」の姿勢こそが思考停止ではないのか。

 停滞の背景には、来春の統一地方選を控え、連立を組む公明党が改憲に慎重なこともある。臨時国会では外国人労働者受け入れ拡大の法改正の審議で、新制度のあいまいさが露呈し、守勢に回ったことも影響した。

 そもそも民意の後押しがあるのか、冷静に見つめるべきだ。世論調査では改憲の賛否は拮抗(きっこう)しているが、国民が望む政策の上位には景気や福祉対策などが並び、改憲は下位にとどまる。

 現在、衆院と同じく改憲に前向きな党派の議席が3分の2を占める参院の勢力図は、来夏の参院選で変わる可能性がある。そのため、来年の通常国会でも再び改憲論議が焦点になろう。

 首相は10日の記者会見で、2020年の改正憲法施行を目指す考えを重ねて示し「幅広い合意」の必要性を強調した。であれば「数の力」におごらず、真摯(しんし)な議論を積み重ねるべきだ。

 

臨時国会閉幕(2018年12月11日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

強権で隠せぬ安倍政治の破綻

 安倍晋三首相が自民党総裁に3選され、内閣改造と党役員人事を行って初の臨時国会が閉幕しました。安倍政権はルール破り連続の強権的手法で、外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法の改定や、漁業法と水道法の改悪、日欧経済連携協定(EPA)などの成立・承認を強行しました。一方で、首相が実現に執念を燃やした自民党改憲案の提示はできませんでした。国会内外では安倍政治に反対する野党と市民の共闘が大きく前進しました。どんなに強権政治に乗り出しても、安倍政治の破綻は隠しようがありません。

国民との矛盾あらわに

 安倍政権が技能実習生や留学生として来日した外国人労働者の実態を隠し、受け入れ拡大の改定入管法を強行したのは強権政治の最たるものです。安倍政権は失踪実習生の聴取票さえ国会に提出せず、閲覧を認めただけでした。野党議員がそれを書き写して独自集計し、首相らに過酷労働の事実を突き付けても、居直るばかりです。

 改定入管法は、外国人労働者の受け入れ業種などを省令等に委ねた“空っぽ”の法律です。政権側も「議論したらきりがない」とか「ややこしい」と認めた法案を、衆院でも参院でもわずかな審議時間で押し通したのは重大です。大島理森衆院議長でさえ苦言を呈し、首相も同法施行前に、改めて国会に全容を報告すると口にせざるを得ませんでした。

 浜の漁業を企業に明け渡す漁業法改悪や、水道事業を企業のもうけの対象にする水道法の改悪、酪農家などを危機に追い込む日欧EPAの承認なども、強行に次ぐ強行の連続でした。国民に重大な中身が説明できないという、破綻が招いた暴走です。

 文字通り国民と国会を愚ろうするものです。こうした政治がいつまでも許されるはずはありません。国民からの批判と反発が強まるのは必至です。

 安倍政権の力ずくの政治と国民との矛盾があらわになったのは、首相が固執した、自衛隊を明記するなどの改憲案の国会提示が実現しなかったことです。首相は総裁3選にあたっても、改憲案を国会に示し、改憲発議を急ぐと繰り返しました。そのために側近の下村博文元文部科学相を改憲推進本部長に据えるなど異常な「改憲シフト」を敷きました。

 首相は国会冒頭の所信表明演説で改憲論議は「国会議員の責任」とまで言って、憲法尊重擁護義務も三権分立の原則も投げ捨てて改憲に拍車をかけようとしました。結果は逆に、野党と国民の怒りを買っただけで行き詰まりました。強権政治の明白な破綻です。さらに国民の声と力を強め、改憲を断念させることが必要です。

来年の選挙で審判下そう

 沖縄の民意を無視した強権的な米軍新基地建設も見通しがありません。今年7〜9月期の国民総生産(GDP)の改定値が年率2・5%減に悪化するなど、経済の不振は深刻さを増します。大企業本位の「アベノミクス」の弊害は明白です。改憲や軍拡に熱中し消費税増税などを強行する安倍政権を続けさせることはできません。

 政治をゆがめた「森友」「加計」問題も解明されていません。来年の統一地方選と参院選で厳しい審判を下し、安倍政権を退陣に追い込むことが重要です。

 

憲法論議 前のめり姿勢を改めよ(2018年12月8日配信『デイリー東北』―「時評」)

 

 安倍晋三首相の強い意向を受けて、自民党が今臨時国会で目指していた憲法9条への自衛隊明記など党憲法改正案4項目の提示は見送りとなり、来年1月召集の通常国会以降に持ち越されることになった。

 憲法論議の舞台となる衆参両院の憲法審査会が一度も実質的議論を行えないまま、10日の会期末を迎えるためだ。

 自民党は当初、継続審議になっていた国民投票法改正案を成立させた上で改憲案を示し、与党と改憲に前向きな勢力で憲法改正発議に必要な「衆参両院で3分の2以上」の議席を占めている来年夏の参院選までに発議する段取りを描いていた。

 しかし、改憲案提示と国民投票法改正案の成立がどちらも先送りされたことで参院選前の発議は極めて困難となり、首相の改憲戦略は見直しを余儀なくされている。

 この背景には入管難民法改正案を巡る与野党の対立激化があったが、それだけではない。改憲実現に向けて性急に議論を進めようとする首相と自民党の姿勢が野党を刺激し、不信と反発を招いたことが底流にある。

 自民党の下村博文憲法改正推進本部長が衆参憲法審での議論に消極的な野党を「職場放棄」と批判したり、与党が慣例を破って衆院憲法審を森英介会長(自民)の職権で開催したりしたのも、思惑通り進まない焦りの表れだったと言える。

 憲法改正の重大性に照らせば、こうした政治日程ありきの拙速なやり方には問題が多い。首相、自民党は改憲への「前のめり」姿勢を改めなければならない。その上で懸案となっている国民投票法改正案の処理を優先させるべきだろう。

 安倍首相は10月の自民党人事で改憲シフトを敷き、憲法審での審議促進に並々ならぬ意欲を見せていた。

 これに対し、立憲民主党など野党側が反発したのは当然としても、連立政権を組む公明党からも警戒感が示されたのは首相にとって誤算だったようだ。

 公明党の北側一雄憲法調査会長は、自民党の動きを「公明党と考え方が違う。(臨時国会と次期通常国会の)2国会で発議できるなどとんでもない話で、あり得ない」と批判。山口那津男代表も、来年は統一地方選や参院選など日程が窮屈な点を挙げ、発議を困難視している。

 今回は頓挫したが、改憲を旗印とする首相は実現に向け再び動くだろう。ただ、強引かつ強権的な手法は避け、奇策に走らず、議論を尽くして合意を得る姿勢だけはわきまえるべきだ。

 

憲法審査会 与野党の信頼崩壊招いた(2018年12月8日配信『山陽新聞』―「社説」)

  

 憲法改正原案を与野党で審査する衆参両院の憲法審査会の議論が、今国会中は一度も行われない見通しとなった。

 自民党は改憲案4項目の提示を目指したが、入管難民法改正案の審議などで与野党対立が激化した影響もあり、提示に持ち込めなかった。来年夏の参院選前に改憲発議を目指した自民党のシナリオに狂いが生じた格好だ。

 自民党は今年3月、9条への自衛隊明記などを盛り込んだ改憲案をまとめた。安倍晋三首相は今国会への提示に意欲を見せ、党憲法改正推進本部長に下村博文氏、衆院憲法審査会の筆頭幹事に新藤義孝氏ら自らと考えの近い側近を起用。筆頭幹事として野党との協調を重視してきた中谷元氏らを交代させ、改憲に向けた布陣を整えた。

 ただ、こうした前のめりな姿勢は結果的に裏目に出た。下村氏は、議論に応じない野党を「国会議員としての職場放棄だ」と批判し、反発を買って陳謝に追い込まれた。

 11月には、野党6党派が欠席したまま、衆院憲法審査会を開いた。幹事を選出しただけで実質的な議論はなかったが、強行開催だとして野党は一層反発を強めた。

 審議に応じない野党への批判的見方があったのも事実だが、職場放棄発言などは自民党の傲慢(ごうまん)さの表れと言うほかない。与野党の合意を重んじてきた審査会の伝統を軽視した形になったのも残念だ。

 そもそも、国会の改憲論議が低調な背景には、自民党案に対する国民の理解が広がっていない状況があるとも言える。共同通信社が11月に実施した全国電話世論調査によると、自民党改憲案の今国会提出を目指す首相の意向について「反対」が54・0%で、賛成が35・3%だった。

 戦力不保持を定めた9条2項を維持しつつ、自衛隊の存在を書き込んでも、世界有数の装備を備える自衛隊を戦力とみなさないという矛盾の解消にはつながるまい。

 他の項目も、緊急事態条項や教育充実は改憲に踏み込むまでもなく、法律で対処可能との指摘がある。参院選の合区解消は、地方の民意をくみ上げる上で意味はあろうが、7月の公選法改正で比例代表に「特定枠」が設けられており、自民党は合区になった選挙区で擁立できない県の候補を特定枠で救済する方針だ。国民にとって改憲案に特段の必要性や緊急性を見いだしにくいのではないか。

 改憲に向けて自民党が作業を加速させた契機は、首相が昨年5月の憲法記念日に、新憲法を2020年に施行したい考えを突然表明したことだった。だが、なぜ今改憲に踏み出すのか、国政に多くの課題がある中で優先すべきものなのかといった点で十分な説得力を欠いていると言わざるを得ない。改憲自体が目的であるかのような姿勢や、首相の任期中に実現させるといった日程ありきの考えがあるとすれば見直すべきだ。

 

想像してごらん(2018年12月7日配信『北海道新聞』―「卓上四季」)

 

元ビートルズのジョン・レノンが凶弾に倒れ、あすで38年。ジョンは代表曲の一つ「イマジン」で、「想像してごらん、みんなが平和に暮らしていることを」と呼び掛けた

▼もしも平和が失われたら、世の中はどうなるのだろう。ときにそんな想像を巡らすのも、平和の大切さを認識し直すきっかけになる。大事な息子が出征することになったら。愛する彼が戦場で大けがをしたら―

▼荒唐無稽と笑うだろうか。だが、1943年秋、明治神宮外苑競技場で開かれた出陣学徒壮行会では約2万5千人の学生が雨の中を行進し、「生等(せいら)(われらの意)もとより生還を期せず」と叫んで戦地に赴いた。75年前のことだ。若い男性だけではない。先の大戦では女性や子ども、お年寄りも「銃後の守りのため」と過酷な生活を強いられた。空襲や原爆投下で多くの命が失われた

▼かつては戦争体験者から直接話を聞くこともできた。今や戦後生まれが人口の8割を超す。映画や本、戦争体験者の手記などから想像するしかない。人は過去を忘れれば、同じ失敗を繰り返す

▼安倍晋三政権は集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、安全保障関連法を制定した。積極的平和主義という名の下、防衛力の増強も続く。さらに、改憲の動きも

▼あすは太平洋戦争開戦の日でもある。「新たなる開戦の日の来る不安」(成田強)。そんなときが来るのは、想像したくない。

 

憲法の岐路 憲法審査会 合意の原則に反しては(2018年12月7日配信『信濃毎日新聞』―「社説」)

 

 強引に改憲を進めようとする安倍晋三首相の姿勢は、国民が政治に求めているものから懸け離れている。議論が進まなかったのはその帰結と見るべきだ。

 衆参の憲法審査会が実質的な審議をしないまま今国会の日程を終えた。直接の原因は下村博文・自民党憲法改正推進本部長の発言だ。審査会開催に野党が消極的だとして「国会議員としての職場放棄だ」などと批判した。

 立憲民主党など野党は反発し審議をボイコットした。衆院憲法審の森英介会長(自民)はその後、主要野党が欠席する中、審査会を会長職権で開催。火に油を注ぐ結果になった。

 流れを追うと、安倍首相の姿勢が根っこにあって一連の無理押しにつながっていることが分かる。

 首相が昨年の憲法記念日にビデオメッセージで、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と述べたのが始まりだった。最近は10月の会見で「自民党がリーダーシップを取り次の国会に改正案を出すべきだ」とハッパを掛けた。今国会の所信表明でも「国会議員の責任を果たしていこう」と述べている。

 自民執行部は首相に合わせて憲法関連の党内人事を一新している。野党との協調を重視してきたメンバーに代えて、下村氏ら首相に近い議員を起用した。

 下村氏の「職場放棄」発言は首相の意に沿おうとしたあまりの勇み足だったのだろう。執行部の狙いが裏目に出た形である。

 そもそも自民党の改憲4項目、▽9条への自衛隊明記▽緊急事態条項▽参院選の「合区」解消▽教育充実―は党内事情や野党対策が優先された結果、全体の整合性が取れていない。いまなぜこの4項目なのか、説得力が乏しい。

 各種世論調査を見ると、国民の多くは改憲を緊急テーマと見ていない。国民が求めるのは暮らしの安心である。改憲を急ぐ安倍政権の姿勢に無理がある。

 審査会の前身である衆参の憲法調査会は与野党合意を重視する運営を続けてきた。5年間の審議を経て2005年4月に報告書をまとめ、発表している。調査会として一致できたこと、できなかったことを整理し、その後の議論のたたき台とした。

 審査会の運営が広い合意を目指す原則に立ち返らない限り、議論の深まりは期待できない。国民の理解も得られないだろう。

 

改憲案提示断念 自民の傲慢が招いた帰結(2018年12月7日配信『新潟日報』―「社説」)

 

 野党の警戒感を払拭(ふっしょく)するどころか、火に油を注ぐような傲慢(ごうまん)な自民党の振る舞いが招いた当然の帰結といえる。

 安倍晋三首相が意欲を燃やしていた自民党憲法改正案4項目の今国会提示が見送られ、来年1月召集の通常国会以降への持ち越しが決まった。

 与党が野党側の要請に応じ、木曜が定例日の衆院憲法審査会の6日開催を断念したためだ。自民党が目指してきた来年夏の参院選前の改憲発議は、事実上困難となった。

 首相は先の党総裁選で「改憲4項目」を今国会に提示したいと表明した。

 10月の党人事では、衆院憲法審幹事に自らに近い下村博文氏や新藤義孝氏を充てる改憲シフトを整えた。

 与野党協調を重視してきた従来路線からの転換だが、こうした首相の前のめりな姿勢が裏目に出た格好である。

 最初のつまずきは党の憲法改正推進本部長である下村氏だ。先月8日の衆院憲法審が見送られたことについて「高い歳費をもらっているのに、国会議員としての職場放棄だ」と発言、野党の猛烈な反発を浴びた。

 さらに先月29日には今国会で初めての衆院憲法審が開かれたが、森英介会長(自民党)が職権で開催に踏み切り、野党からは与野党合意で進める慣例を破ったと批判が高まった。

 首相主導で浮上した改憲への動きについては、野党ばかりでなく与党の公明党にも慎重論が根強くある。

 各党が応じるかどうかは別として、こうした中で改憲論議を呼び掛けるなら最低限、謙虚さが不可欠だろう。

 ところが、自民党からは「1強」首相の威光をかさに着たかのような身勝手さばかりが伝わってくる。

 改憲4項目には、戦後の平和日本の歩みに深く関わる9条への自衛隊明記も含まれる。にもかかわらず、自民党の対応は重要な問題を議論しようとする態度とは程遠い。

 自民党サイドは、早ければ来年の通常国会で衆参両院の3分の2以上の賛成を得て改憲を発議するスケジュールを描いていたが、今国会での提示先送りで目算は狂った。

 党幹部からはこれを受け、早くも「来年秋の臨時国会で発議を目指すことになる」との声が出ている。

 自民党は、改憲にこだわり続ける首相の意向に沿った「発議ありき」に陥ってしまっているように見える。

 改憲が目的化し、「首相のため」のようになっていないか。違和感が拭えない。

 国民の間でも議論が分かれている改憲を自らの都合で進めるような態度では、不信感が募るばかりである。

 下村氏の「職場放棄」発言や会長職権による衆院憲法審開催は、安倍「1強」体制に根差したものとしか思えない。

 こうした体質のまま、改憲論議を推し進めようとすることに強い危惧を覚える。

 

改憲派も護憲派も「敵」作る方法だけ?(2018年12月7日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★自民党のやり方なのか、それとも党憲法改正推進本部長・下村博文の発想なのか、同本部は5日、国際医療福祉大教授・川上和久(政治心理学)を党本部に招き「憲法改正国民投票の最大の壁とは」と題して戦略指南を行った。川上は資料を示しながら、投票に向けて改憲派も反対派を敵と位置付け、名指しで批判するなどネガティブキャンペーンが必要とした。つまり疑似内乱を誘発させようというわけだ。

★そもそも与党を構成する自民党が思想信条を軸に国民を対立させ、改憲派は味方、護憲派は敵という構造を作るべきという勉強会を行うことに違和感を持たないのならば自民党も落ちたものだ。川上は国民投票となれば「野党(と一部マスコミ)による激しい『反』安倍キャンペーン」が始まり、「不安があおられる」と予測。その上で「改憲派自身も何らかの『敵』を作り、国民の不安、怒りなどを覚醒させるしか方法はない?」と時事通信は伝えている。

★そもそも、改憲の中身も自民党は国民に示さず、護憲派は敵という構造だけを作り上げようとする感覚が理解できない。党内の護憲勢力、例えば宏池会は「憲法9条を守るべき」が信条の派閥だが、理屈で言えば敵になる可能性もある。では連立を組む公明党はどうだろう。激しい「反」安倍キャンペーンが始まるから敵が必要なのかもわかりにくい。

★もうそんな党内議論でなく、元来、改憲という国民運動に広げたいのならば、本来敵を作るよりも味方を増やすことを政党は考えるものではないのか。改憲のみならず、改憲議論のプロセスまでゆがめ始めた自民党を正面から議論を挑める政党に覚醒してもらいたい。

 

改憲案提示できず(2018年12月7日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

さらに追い詰め断念させよう

 安倍晋三首相が執念を燃やす憲法「改正」の自民党案を今国会に提示しようというたくらみが、国会の憲法審査会が開かれず、不可能になりました。内閣改造・党役員人事で異例の「改憲シフト(布陣)」を敷き、国会にまで号令をかけて、改憲論議を進めようとした首相の策動が、野党の反発と国民の反対の火に油を注いだからです。もともと国民が望んでもいないのに、憲法9条に自衛隊を書き込むなどの改憲を強行するのは、憲法の大原則である立憲主義を破壊する極みです。安倍首相と自民党をさらに追い詰め、改憲そのものを断念させましょう。

強硬姿勢が裏目になる

 安倍首相は今国会冒頭の所信表明演説で、憲法審査会で「政党が具体的な改正案を示す」「国会議員の責任を、共に、果たしていこう」と発言しました。憲法の「尊重擁護義務」がある首相の立場を投げ捨て、行政府の長が立法府に命令するという、「三権分立」の原則まで踏みにじる、常軌を逸した姿勢です。

 直前の内閣改造・党役員人事で、自民党の改憲推進本部長に首相側近の下村博文元文部科学相、自民党案を党議決定する総務会長に首相に近い加藤勝信前厚生労働相を起用するなど、異常な「改憲シフト」を敷いたうえでのことです。

 しかしこうした強硬姿勢はたちまち裏目に出ます。首相の「国会議員の責任」という発言を受けて、下村本部長が、野党を「職場放棄」と攻撃したことに批判が集まり、衆院憲法審査会の幹事就任どころか委員も辞退しなければならない事態に追い込まれたのです。

 下村氏や、これも首相側近で「改憲シフト」の一人の萩生田光一自民党幹事長代行らは「『安倍色』の払拭(ふっしょく)」や「総理が黙る」ことで改憲論議を推進しようとしました。もともと安倍氏が言い出した改憲をそんな小細工で推進しようとしても通用しません。自民党が改憲案の提示を狙った衆院憲法審査会は、先週こそ森英介会長の職権で開催が強行され、与党などの出席で新藤義孝元総務相らを新たな幹事に選んだものの、逆に野党の反発を強めました。今国会の会期中、最後の定例日になる6日は開会さえできず、自民党案の提示はできなくなったのです。

 今国会に自民党案を示し、次の国会で改憲を発議、国民投票に持ち込み、2020年には改憲を施行することを狙っていた首相のもくろみは、大きく狂うことになります。

 改憲スケジュールを狂わせたのは、「安倍改憲」の強行に反対する野党と国民の力です。その力をさらに強め、首相があくまで固執する改憲を断念に追い込むことが重要です。

「改憲」安倍政権を退陣に

 もともと、憲法破壊の政治を続け、「憲法尊重擁護義務」も「三権分立」も守らない首相に、憲法を語る資格はありません。

 最近の世論調査でも、今国会での自民党の改憲案提示に「反対」が47%(「読売」11月26日付)で、改憲そのものにも「急いで進める必要はない」が50%(NHK11月12日放送)です。

 憲法に自衛隊を書き込み「戦争への道」を広げる「安倍改憲」の危険は明白です。改憲阻止、安倍政権退陣の声をいよいよ大きくしていきましょう。

 

(2018年12月6日配信『信濃毎日新聞』―「斜面」)

 

和紙24枚つづりの文書は風呂敷に包まれ、竹で編んだ箱に入っていた。冒頭に「日本帝国憲法」と記してある。50年前の夏、東京都西部の五日市町(現あきる野市)で山林地主だった深沢家の土蔵から見つかった明治初期の憲法草案

   ◆

1881年、千葉卓三郎が中心になって起草した。千葉は仙台藩の下級武士の家に生まれ戊辰(ぼしん)戦争で敗走。医学や儒学などを学びつつ、各地を放浪して求道(ぐどう)生活を続けた。五日市町で深沢家に迎えられ学校の教師を務めながら自由民権運動に身を投じた

   ◆

204条から成る憲法草案は地元の青年民権家らと論議を重ねて完成させた。統治は天皇が強大な権力を持つ仕組みを規定しているが、国民の権利は言論や思想、信教の自由、政治参加などを盛り込んだ。ギリシャ正教の布教で投獄経験がある千葉の人権擁護の姿勢が表れている

   ◆

各地で起草された私擬憲法の一つだ。草の根の人々にたぎっていた自由民権への願いが伝わる。五日市郷土館が16日まで企画展を開いている。ひるがえって自民党の改憲4項目はどうか。自衛隊明記は安倍晋三首相が昨年の憲法記念日に突然言い出した

   ◆

いわば私案が論議も生煮えのまま党の条文案になり今国会で提示を目指した。首相は東京五輪の2020年に実現し国の未来を切り開くと大見えを切ったが自由民権家ほどの進取の精神がどこにあるのか。国民の理解も広がっていない。「宿願」を遂げたいだけなら神棚に飾るのが一番だ。

 

今国会で政権は何を目指したか(2018年12月6日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★10日に会期末を迎える国会は間もなく閉会する。自民党総裁選挙で圧勝の3選を果たし、向かうところ敵なしといった安倍政権だが第4次安倍改造内閣を発足させ、憲法改正への強い意欲を示し、側近の下村博文を憲法改正推進本部長に据えたものの、今国会では野党はその誘い水に乗らず、連立を組む公明党も来夏の参院選を前に憲法改正が争点になってはたまらんと笛吹けど踊らず、当然自民党内もその機運は高まっていない。4日、参院憲法審査会は継続審議中の国民投票法改正案の来年以降への先送りが決まった。

★つまり憲法問題は来夏の参院選が終わるまで塩漬けが決まったといっていい。では10月24日からの48日間、今国会で政権は何を目指したのか。所信表明で首相・安倍晋三は「次の3年、国民と共に新しい国創りに挑戦する。挑戦者としての気迫は、いささかも変わらない」としたものの、既に憲法改正は出ばなをくじかれ、「今こそ、戦後日本外交の総決算を行う」といいながらロシアが1956年の日ソ共同宣言を認めるのならば2島は無条件で返還されると思い込み、北方領土4島のうち2島を捨てるという失策をやらかした。一方、トランプ政権には武器を大量に買うことで機嫌を取る。少なくとも外交に一貫性があるとはいえず、国会では自身のずさんな政治資金処理を巡り地方創生相・片山さつきや五輪相・桜田義孝の答弁能力ばかりが話題になった。

★結果、この国会で可決したのはさして審議もせずに通った水道民営化と入管法改正。野党も本気でつぶしにはかからなかった。国民生活に直結するテーマに自民党も野党も緊張感をもってあたらないのは、どうせ強行採決で可決するというあきらめがあるのだろうか。フランスの黄色いベストは日本にはなじまないか。

 

憲法審査会  丁寧な手順を踏むべき(2018年12月5日配信『京都新聞』―「社説」)

 

 今国会で初めてとなる衆院の憲法審査会が先ごろ開かれた。

 自民党は9条への自衛隊明記など4項目の改憲条文案を提示するため早期開催を求めていた。立憲民主や国民民主など野党6党派は開催強行に反発し、欠席した。

 憲法審は伝統的に与野党協調を重視して運営されてきた。国家の根幹である憲法の改正論議には与野党の枠を超えた幅広い合意が必要との共通認識があったためだろう。

 だが、今回は異例の会長職権で開催に踏み切り、幹事を選任しただけで実質審議は行われなかった。野党との協調を軽んじ、強引な印象は否めない。

 立民や国民も憲法論議自体を否定しているわけではない。粘り強く出席を働きかけるべきだった。

 そもそも野党が反発したのは自民の下村博文・党憲法改正推進本部長が審議に応じない野党の対応を「国会議員として職場放棄だ」と発言したのがきっかけだ。

 安倍晋三首相は今国会の所信表明演説で「政党が具体的な改正案を示すことで、国民の理解を深める努力を重ねていく」と各党に改憲案提示を促した。だが、自民の独自案がまとまったから他党にも案を出せと迫り、それに応じなければ「職場放棄」と批判するのは乱暴ではないか。

 国会の会期末が迫る中、自民は改憲案4項目の提示を見送る方向で調整しているという。当然の判断である。

 党内には、衆参両院で改憲に前向きな勢力が国会発議に必要な「総議員の3分の2以上」の議席を占めている来年の参院選までが発議の好機だとの声がある。

 とはいえ国民の間に憲法改正を求める声が広がっているとは言い難い。世論調査で安倍政権に求める政策として挙がるのは社会保障や経済が圧倒的に多く、憲法改正の優先順位は低い。

 与党である公明党も慎重だ。山口那津男代表は来年の重要政治日程を見据え「改憲について合意を熟成する政治的余裕は見いだしにくい」とした。

 こうした状況を踏まえると参院選前の国会発議は非現実的だと言わざるを得ない。

 衆院憲法審では、改憲手続きを定める国民投票法改正案の審議が優先課題だ。先の通常国会で継続審議となっており、国民や立民も国民投票運動でのテレビCM規制の議論を求めている。

 これらの課題について手順を踏んで与野党がじっくり議論を進めていく必要がある。自民はその環境整備に努めてほしい。

 

憲法審査会 議論を拒んでは理解されまい(2018年12月4日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 国の最高法規について真摯しんしに議論することが、憲法審査会の本来の役割である。開催すら拒む、一部の野党の対応は、到底理解できない。

 今国会で初となる衆院憲法審査会が開かれた。立憲民主党など5党1会派が反発し、欠席する中、与党側の筆頭幹事ら新任幹事6人を選出しただけで散会した。

 国会召集から1か月以上経たち、会期末は目前に迫っている。

 日程や議題などを協議する実務的なポストの幹事が不在という状況を放置するのは、国会の機能を否定することだ。野党が、選任にさえ応じないのは問題がある。

 与野党は、外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理・難民認定法改正案を巡って対立する。立民党は「憲法論議の環境が整っていない」と主張している。

 審査会は、2000年に設置された前身の憲法調査会以来、政局とは一線を画し、議論することを目指してきた。野党の姿勢は、これまでの積み重ねを蔑ないがしろにするものではないか。

 野党が欠席する中での審査会開催について、立民党は「憲法論議は100年遅れる」と、自民党に抗議した。与野党協調の慣行を逆手に取って、与党に責任を転嫁するのは筋違いである。

 憲法のあり方について、各党が自らの見解を国会で堂々と披瀝ひれきし、建設的な論戦を深める。それが立法府の責務だ。

 安倍首相は臨時国会で、自衛隊の根拠規定の追加や緊急事態条項の創設など、4項目の自民党の憲法改正案を提示する方針を示している。これをたたき台に、憲法論議を加速させる狙いがある。

 憲法改正には、衆参各院の3分の2以上の賛成で発議した後、国民投票で過半数を得るという高いハードルが待ち受ける。

 与野党の幅広い合意を形成し、国民の理解を広げていくことが欠かせない。自民党は、粘り強く取り組まなければなるまい。

 自民党は、憲法改正手続きを定めた国民投票法改正案について、今国会成立を断念する方針だ。

 法案は駅や商業施設に共通投票所の設置を認めるなど、投票の利便性を高める内容である。公職選挙法でも規定されており、各党に特段の異論はないはずだ。速やかに成立させる必要があろう。

 野党は、国民投票運動でのテレビCMの規制強化を主張している。国民投票運動は原則、自由であるべきだ。その基本を踏まえつつ、歩み寄りの余地がないか、与野党で話し合うことが大切だ。

 

動かぬ憲法審 役割を全うできるのか(2018年12月2日配信『北国新聞』―「社説」)

 

 衆院憲法審査会が与野党の対立で機能停止状態にある。今国会で初めて開かれた審査会は、立憲民主、国民民主など野党6党派が欠席し、新幹事を選出しただけで終了した。

 自民、公明両党と野党の日本維新の会、希望の党、会派「未来日本」が出席したのに対して、立民などは森英介会長の「職権による強行開催」と反発しているが、憲法審で真摯に議論をする責任ある対応とは言い難い。

 憲法および憲法に関する基本法制について総合的に調査を行い、憲法改正の発議や国民投票法などについて審議するという憲法審の役割を全うするよう望みたい。

 自民党は今国会中の憲法審に党改憲案を提示する予定でいたが、会期は残り少なく、困難な情勢である。衆院憲法審の幹事に内定していた下村博文・党憲法改正推進本部長が不用意な発言で憲法審委員を降り、陣容の立て直しを迫られたのは、党として誤算であったろうが、国民にドタバタした印象を与えたのは残念である。

 下村氏はテレビ番組収録で「議論さえしないのは、国会議員としての職場放棄だ」などと述べて野党を批判した。下村氏はその後陳謝したが、安倍晋三首相主導の憲法改正に反対し、憲法審開催に消極的な立民など野党に、審議拒否の口実を与える結果となった。

 下村氏は憲法審の議論をリードする立場にあった。それだけに一層、軽率発言が責められるが、憲法審に対する野党側の姿勢もほめられたものではあるまい。憲法改正に反対であれば、なおさら憲法審で意見を述べる必要がある。審議拒否や引き延ばしなどの国会戦術に終始しては、国民の理解を得られないだろう。

 憲法9条への自衛隊明記など4項目の自民党改憲案については、同党内にも慎重論が根強い。「権力を縛るのが憲法」と立民などと同様の論理で、改憲に積極的な安倍首相に自重を促す議員もいる。それだけに憲法審では丁寧に議論を尽くさなければならないが、いつまでも結論を出さないのも、主権者の国民に対して無責任と言わなければならない。

 

憲法論議 丁寧な手順を踏むべきだ(2018年11月28日配信『茨城新聞』―「論説」)

 

臨時国会は召集から1カ月以上が経過したが、衆参両院の憲法審査会は一回も開かれていない。

自民党は9条への自衛隊明記など4項目の改憲条文案を憲法審査会に提示するため、早期の開催を求めるが、野党第1党の立憲民主党などが反対している。

残り会期が2週間を切り、自民党は審査会を開くよう野党への働き掛けを強める構えだ。だが憲法審査会は伝統的に与野党の協調を重視する運営が行われてきた。国家の根幹である憲法の改正論議には、与野党の枠を超え幅広い合意が必要だとの共通認識があったためだろう。自民党は強引な手法は慎み、丁寧な手順を踏むべきだ。

立民なども憲法論議自体を否定しているわけではない。反発を強めたのは、審査会の開催に応じない野党の対応を「国会議員としての職場放棄だ」と批判した下村博文自民党憲法改正推進本部長の発言がきっかけだ。さらに外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法などの改正案の審議を巡り対立が深まった。

 安倍晋三首相は臨時国会冒頭の所信表明演説で「政党が具体的な改正案を示すことで、国民の理解を深める努力を重ねていく」と各党に改憲案を示すよう促した。国会前の党人事では、改憲推進本部長に側近の下村氏を起用。憲法審査会では、野党との協調路線を重視してきた自民党幹事を交代させ、自らに近い議員を充てる体制を敷いた。

 だが、自民党の独自案がまとまったから他党にも案を示せと迫り、拒否すれば「職場放棄」と批判するのは乱暴ではないか。安倍首相は以前、憲法論議は「静かな環境で議論を深めてほしい」とも語っている。

 野党側が自民党案の国会提示を警戒するのは、自民党が臨時国会で案を説明したという実績を作った上で、来年の通常国会に改憲原案を提出。2国会にわたって丁寧に審議を重ねた形式を整えようとしているとみているためだ。自民党内には、衆参両院で改憲に前向きな勢力が国会発議に必要な「総議員の3分の2以上」の議席を占めている来年参院選までが発議の好機だとする声もある。

 しかし、そもそも国民の間に憲法改正を求める声が広がっているのか。世論調査では安倍政権に求める政策として挙がるのは社会保障や経済政策が圧倒的で、憲法改正の優先順位は低い。自民党は全国の衆院小選挙区支部に改憲推進本部を設置する方針で、下村氏は「国民的関心を広げたい」と言うが、それこそ改憲の機運が広がっていない証左ではないか。

与党である公明党も慎重だ。山口那津男代表は、来年は重要な政治日程のため「改憲の合意を熟成する政治的余裕は見いだしにくい」と指摘。北側一雄憲法調査会長も自民党の改憲4項目とは考え方が違うとして「2国会の審議での発議などあり得ない」としている。自民党は参院選前の国会発議は極めて非現実的だとわきまえるべきだ。

 衆院憲法審査会では、先の通常国会から継続審議となっている改憲手続きを定めた国民投票法の改正案の審議が優先される。立民や国民民主党は、国民投票運動でのテレビCM規制の議論を求めている。国民世論と現実的な政治日程を勘案し、これらの課題について、手順を踏んで議論を進めていくべきだ。

 

意固地にならず憲法論議を(2018年11月25日配信『日本経済新聞』―「社説」)

 

国会の憲法審査会が立憲民主党などの反対で開かれずにいる。拙速な憲法改正は好ましくないが、だからといって話し合いの場を封じるのは筋違いだ。与野党は打開の道筋を探ってほしい。

衆院の憲法審査会で、各党が意見表明する自由討議を最後に実施したのは昨年11月、もう1年も前のことだ。いまの臨時国会では、会議の前提である幹事の選任すらできていない。

安倍政権は秋の人事で、憲法にかかわる役職に改憲に積極的な顔ぶれを起用した。臨時国会の会期中に、自衛隊の明記や参院の選挙区の合区解消など4項目の改憲案を審査会に提示する構えをみせている。前のめり感があるとの指摘はその通りだ。

ただ、改憲の国会発議には、衆参双方の3分の2の多数の賛成が必要であり、自民党だけで進められる話ではない。

「(臨時国会と来年1月召集の通常国会の)2国会で憲法改正が発議できるなど、とんでもない話だ。憲法改正というのはそんな簡単なことではない」。これは自民党と連立を組む公明党の北側一雄憲法調査会長の最近の発言だ。来年夏の参院選前の発議の可能性はさほど大きくない。

にもかかわらず、「議論の環境が整わない」として審査会の開会を妨げるのはいかがなものか。自民党の下村博文憲法改正推進本部長が「職場放棄」と挑発したのは感心しないが、意固地になって開会を拒否し続ければ、いずれ逆風は野党に向くだろう。

国会論戦は議事録という公文書に記録が残る。護憲ならば護憲、改憲ならば改憲の立場できちんと発言することが、国民の憲法への理解を深める一助になる。

立憲民主党や国民民主党は、憲法改正のための手続きを定めた国民投票法をめぐり、テレビCMの放映への規制強化を求めている。こうした課題があることは、国民にはほとんど知られていない。審査会を開くことは野党にマイナスばかりではない。

 

憲法審査会 論議の仕切り直し必要だ(2018年11月24日配信『熊本日日新聞』−「社説」)

 

 自民党が今国会で目指している党憲法改正案4項目の衆参両院憲法審査会への提示が、極めて難しい状況となっている。定例日が週1回の憲法審が、提示に反対する野党の抵抗により今国会で一度も開かれないままで、来月10日の会期末までに審議日程を確保するのが厳しくなっているためだ。

 安倍晋三首相は、今国会での所信表明演説で、憲法改正を巡り「与党、野党といった政治的立場を超え、幅広い合意が得られると確信している」と述べたが、現状は、そうした認識とは程遠い。2020年の改正憲法施行を目指す首相の意向が先行した論議のペースを仕切り直し、熟議の環境を整えることが必要だろう。

 今月9日、自民党の下村博文憲法改正推進本部長が、憲法審の早期開催に応じない野党を「職場放棄だ」と批判。反発した野党側は態度を一層、硬化させた。

 この発言に対しては、自民党の二階俊博幹事長でさえ、「野党にものを言う場合は、慎重の上に慎重であってもらいたい」と苦言を呈した。首相側近である下村氏の推進本部長就任は、改憲論議加速を狙う首相の肝いり人事だったが、かえって裏目に出た形だ。

 自民党の憲法改正案4項目のそもそもの出発点は、首相が昨年5月に行った憲法9条に自衛隊を明記して改正し、20年施行を目指すという提案である。

 それまでの論議の積み重ねを飛び越えた唐突な提案だった。党内からも異論が噴出したが、首相提案に、大災害時の緊急事態条項や参院選の「合区」解消、教育充実も合わせて、今年3月に改正案を取りまとめた。

 しかし、自民党内でもいまだに不満がくすぶっている上に、改憲に慎重な公明党との溝も埋められず結局、同党との事前協議は見送り単独提示を決めている。

 自民党は、来夏の参院選前の改憲発議を目指しているが、加速するペースに国民世論はついていっていない。今月上旬の共同通信世論調査では、首相が党改憲案の今国会提示を目指す意向を示していることに54・0%が反対。賛成は35・3%にとどまった。

 与党間の合意もなく、世論の後押しもない改正案提示で、果たして「幅広い合意」は得られるだろうか。現状では「改憲勢力が3分の2を占める現在が最大のチャンス」(下村氏の18日の合志市での講演)とみて、議席構成が変わらぬ参院選前に数の力で押し切りたいとの思惑が透けて見える。

 特に、自衛隊を明記する9条改正については慎重な論議を行うべきだ。生煮えのままで進めて世論を分断しては、かえって首相のいう「自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境」整備の足を引っ張ることになりかねない。

 もともと、行政府の長である首相が、改憲発議の主体である立法府の国会をリードするような進め方には、違和感が拭えない。自身の主張を抑制し、時間は掛かっても、論議進行を国会に委ねる姿勢が求められよう。

 

スキャンダル内閣(2018年11月21日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

改憲や増税強行の資格はない

 第4次安倍晋三改造内閣の発足後、閣僚のスキャンダルが後を絶ちません。片山さつき地方創生担当相の「口利き」疑惑や政治資金収支報告書の報告漏れに加え、宮腰光寛沖縄北方担当相ら複数閣僚の「政治とカネ」をめぐる問題、五輪担当相なのにオリンピックのビジョンもまともに答弁できず、サイバーセキュリティ戦略副本部長なのに自らパソコンを打ったことがないと認めた桜田義孝大臣など、問題閣僚続出です。「全員野球」どころか、「ほぼ全員エラー」、「スキャンダル」内閣です。責任は本人にとどまらず、閣僚を任命した安倍首相にあります。

問題閣僚は10人近く

 10月初めに改造政権が発足してから、新聞や週刊誌などで問題が指摘されてきた閣僚は、10人近くに上ります。

 最初に週刊誌で、「私設秘書」を通じた国税庁への「口利き」疑惑が指摘された片山地方創生相は、その後も企業・団体献金の報告漏れや公職選挙法に違反した寄付の疑い、市の許可を受けず看板を設置したなど、疑惑まみれです。

 片山氏は仲介した「私設秘書」の存在を認めず、証拠の音声記録が公表されても中小業者からの「請託」の事実も「報酬」の受け取りも認めていません。しかし国税庁に電話したことは認めています。業者の依頼に答えて国税庁に働きかけ、金銭を受け取ったのが事実なら、あっせん受託収賄罪にあたる重大犯罪です。

 政治団体を通じた企業・団体献金の報告漏れを指摘された問題では、片山氏は3回にわたって450万円の収入などを訂正しました。申告漏れはそれ以外にも、「しんぶん赤旗」日曜版がスクープした140万円の献金などがあり、資金管理団体の会計責任者の実態も怪しくなっています。片山氏にはカレンダーの無償配布や、名前入り著書の看板を無断で設置したなど、公選法や広告物条例に関わる疑念が突き付けられています。

 「政治とカネ」などの問題が指摘された閣僚は、後援会からの多額の支出が行方不明になっている宮腰沖縄北方担当相や、暴力団関係者からの献金が明らかになった平井卓也IT担当相、「加計学園」と親しい山本順三国家公安委員長など多数に上ります。

 オリンピックについてまともな答弁ができず、パソコンを使ったことがないと発言した桜田五輪担当相・サイバーセキュリティ戦略副本部長は、国内だけでなく海外のマスメディアでも取り上げられました。桜田氏の発言を、米ワシントン・ポスト紙は「衝撃の発言」と紹介し、英ガーディアン紙は「システムエラー」と皮肉っています。一連の閣僚が「適材適所」でないのは明白です。

任命した安倍首相の責任

 閣僚は「内閣総理大臣」が「任命」します(憲法68条)。問題閣僚の続出は、閣僚を任命した安倍首相の責任に直結します。

 安倍首相は内閣改造にあたって、「全員野球」内閣だと主張しました。首相の責任は重大です。

 だいたい安倍首相は、「森友」問題の対応で批判されている麻生太郎副総理を留任させ、自らが関わり政治をゆがめたとされる、「森友」「加計」問題では説明責任を果たしていません。首相は責任を取って退陣すべきで、改憲や消費税増税を強行するなど論外です。

 

国会の憲法論議 「安倍色」前面は筋違い(2018年11月17日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 自民党の下村博文憲法改正推進本部長が、衆院憲法審査会開催に野党が消極的だとして「職場放棄だ」と批判した。野党側は反発して、下村氏は発言を撤回し、衆院憲法審の幹事就任を辞退した。

 安倍晋三首相は今国会で、9条への自衛隊明記など党の改憲4項目の審査会への提示を目指している。その意向を受けた下村氏は開催に応じない野党にいら立ち、思わず本音が出たのだろう。

 だが衆参の憲法審査会は、政局や改憲に対する立場の違いを超えて憲法論議を深めようと、与野党協調を基本に運営されてきた。

 衆参で改憲勢力が3分の2を超える現状でも維持すべき原則だ。

 野党への配慮に欠ける下村発言だけが問題なのではない。改憲に国民の理解が広がらないまま、首相主導で作成した党の案を説明したいと求めること自体、従来の審査会の運営と明らかに異なる。

 憲法を守るべき行政府の長が立法府に改憲論議を急がせる。そんな筋違いな首相の姿勢が招いた結果でもある。審査会の運営に「安倍色」を持ち込むべきではない。

 先月の内閣改造に伴い首相が、宿願の改憲実現へ推進本部長に起用したのが側近の下村氏だった。

 少数意見を軽んじ、数の力で強引に国会を運営してきた首相は、改憲でも同じ手法を繰り返そうとしている―。野党側の慎重姿勢の背景に、そんな警戒感もあろう。

 野党の憲法論議へのスタンスは一様ではない。

 第1党の立憲民主党は改憲を問う国民投票制度にCM規制がほぼないことを問題視する。国民民主党も規制を強化する国民投票法改正案をまとめ、玉木雄一郎代表は憲法論議自体には前向きだ。

 共産党は改憲に反対で、日本維新の会は積極姿勢を見せる。

 公党としてのそれぞれの立場が尊重されるべきで、数の多寡によって軽重を判断する話ではない。

 ところが首相は各党の違いが眼中にないかのように、改憲案を提示し議論を深めることが「国会議員の責任」だと言う。独り善がりの決めつけと言わざるを得ない。

 自民党には、政権との対決姿勢を強める立憲民主との分断を図ろうと、国民民主に接近したい思惑もあるようだ。党利党略で事を進めるのでは国民の不信感を買う。

 立法府として国民の負託に応えるための改定が必要だという議論の方向性が見いだせないまま、政権の意向によって発議ありきで進む―。それでは、国政を担う者として責任ある態度とは言えまい。

 

「職場放棄」発言 安倍改憲の独善が透ける(2018年11月17日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 自民党の意向通りに事が進まないからといって、野党に批判を浴びせるのは筋違いだ。こんな独りよがりでは、反発を招くのは無理もない。

 国民の多くが求めているとはいえない憲法改正に強くこだわる安倍晋三首相の姿勢とも、通ずるようだ。

 「高い歳費をもらっているにもかかわらず、議論さえしないのは、国会議員としての職場放棄だ」。下村博文・自民党憲法改正推進本部長の、この発言が波紋を広げた。

 発言は、衆院の憲法審査会の開催に消極的な野党に不満をぶつけたものだ。9日のテレビ番組収録で語った。

 野党から「妄言」「八つ当たり」などと批判が相次いだだけでなく、身内である自民党の二階敏博幹事長も「慎重に」と求め、下村氏は内定していた憲法審幹事を辞退した。

 憲法審の15日の開催は見送られ、下村氏は陳謝と発言の撤回に追い込まれた。だが、それで済ませていいとは思わない。

 敵対的な言葉で野党を挑発するような下村氏の態度は、そもそも議論に臨む資格を欠いているように見える。

 改憲問題を担う最大与党の責任者として、下村氏はふさわしいのか。「適格性」への疑問は膨らむばかりである。

 首相の指示に従い、自民党は党内議論を経て「改憲4項目」を取りまとめるなど積極的に動いてきた。

 首相は臨時国会の所信表明演説でも「憲法審査会に政党が改憲案を示すことで国民の理解を深める」と述べ、自民党改憲案提示に意欲を示した。

 とはいえ、これはあくまでも自民党の方針にすぎない。他党が必ず合わせなければならないというものではなかろう。それぞれの党の判断が異なるのは当たり前である。

 下村氏は首相の側近として知られ、改憲論議の加速を期待されて本部長に起用されたとみられている。

 首相が改憲に前のめりになっているのに、国会での論議が思うように進まない。下村氏にはそうした現状へのいらだちや焦りがあるのかもしれないが、野党を非難するのは単なる身勝手にすぎない。

 さらに危ういのは、首相の意向最優先を色濃くにじませるような下村氏の姿勢である。

 自民党の改憲4項目には、首相が提唱した9条への自衛隊明記も含まれる。9条を巡る改憲論議は国のありように深く関わるだけに、とりわけ慎重さが求められる。

 しかし、首相に近く、強権的な物言いで野党の反発を呼んだ下村氏が自民党の責任者では心配だ。異論に耳を傾けず、自己の主張を押し通すだけになるのではないか。

 「与党、野党といった政治的立場を超え、幅広い合意が得られると確信している」。首相は所信表明で改憲を巡りこう述べたが、下村発言は安倍「1強」下での改憲論議に対する危惧の念を改めて抱かせる。

 

下村氏の幹事辞退(2018年11月16日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

今こそ改憲断念に追い込もう

 今国会に自民党の改憲案を提示しようと策動している安倍晋三政権が、開催を狙っていた15日の衆院憲法審査会が見送りになりました。審査会の自民党側の幹事に予定されていた下村博文・同党改憲推進本部長の、野党は「職場放棄」だとの暴言が批判を受けたためです。下村氏は幹事就任を辞退しました。しかしそれで済ませるわけにはいきません。もともと「安倍改憲」の強行に道理はありません。今こそ改憲策動を断念させることが必要です。

言語道断な下村氏発言

 下村氏が9日の民放番組で、改憲論議に応じない野党の国会議員に対して、「高い歳費をもらっているにもかかわらず、国会議員として職場放棄してもいいのか」などと発言したのは、改憲に熱中する安倍政権の焦りを示す、言語道断な発言です。

 下村氏は自民党の改憲案の今国会提出を目指す安倍首相(党総裁)によって、改憲推進本部長に起用されました。安倍政権は改憲議論を加速させるために、国会の憲法審査会の早期再開を目指し、衆院では15日開催の日程が取りざたされてきました。憲法審査会を再開し、改憲のための国民投票法案の審議で野党を誘い込んで、12月10日の会期末までに改憲案を提示するのが自民党のシナリオです。その先には、国会での改憲案発議、国民投票を狙っています。

 安倍首相は国会の憲法審査会での論議を要求するなど、三権分立の原則を踏みにじる異常な発言を繰り返していますが、もともと憲法は国会議員に対して改憲論議を求めていません。はっきり定めているのは、憲法尊重擁護義務(99条)です。改憲論議に応じないからと言って「職場放棄」などと言われる筋合いは全くありません。憲法を守らず改憲に熱中する安倍氏や下村氏こそ、首相や国会議員としての職責に反しています。

 安倍首相が昨年5月、「読売」のインタビューや改憲派集会へのメッセージで言い出した憲法9条に自衛隊を書き込むなどの改憲は、異常な改憲派である安倍氏の持論ではあっても主権者である国民が望んでいるものではありません。

 直近のNHKの世論調査でも国会で改憲議論を早く進めるべきかとの質問に、「早く進めるべき」はわずか17%で、50%は「急いで進める必要はない」と答えています。審査会を早期に再開し、改憲論議を促進しようというのは、主権者の意思を無視した、明白な憲法私物化、立憲主義の破壊です。

 下村氏は15日になって「野党の皆さんに不快な思いをさせてしまったことをおわびしたい」と発言しています。それで審査会を動かそうというのは虫がよすぎます。反省というなら、憲法私物化、改憲策動をやめるべきです。

審査会動かさず発議阻止

 安倍政権が狙う憲法9条に自衛隊を書き込む改憲は、憲法の平和原則を破壊し、自衛隊の無制限の武力行使に道を開く大変危険なものです。それ以前の問題として今問われているのは、一連の改憲策動自体が憲法尊重擁護義務や憲法の立憲主義を破壊していることです。憲法を守らない政権に憲法を語る資格はありません。

 下村氏は審査会の委員としてとどまり引き続き論議に拍車をかけようとしています。断念に追い込む国民のたたかいが重要です。

 

下村こそ職場放棄だ(2018年11月13日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★9日、自民党憲法改正推進本部長・下村博文はテレビで「(衆参両院の)憲法審査会で憲法改正について率直な議論をすることさえしないのは、高い歳費をもらっている国会議員の職場放棄ではないか」と言ってのけた。下村は3日にも憲法議論が進まないことから「安倍政権のもとでは議論したくないと思っている人が多い。自民党全体でしっかり対応しながら、『安倍色』を払拭(ふっしょく)していくことが必要だ」と発言している。

★先月23日の毎日新聞のインタビューで下村は「野党第1党の立憲民主党が『安倍政権下での憲法改正はできない』と主張するのは、国民には理解されないと思う。今後は安倍首相におんぶにだっこではいけない。『安倍改憲』ということではなく、『自民党の改憲』ということでもなく、国民が自分たちで改憲するかどうかを決める段階にしなくてはいけない」と強気だったが、日に日に発言がトーンダウンしている。

★専門外の党憲法改正推進本部長に就任したものの、強気の精神論と腕力だけでは進まない現実の壁にぶつかった。長年、弁護士資格のある議員らを軸に超党派で議論してきたものを、首相から「議論はもういいから進めろ」と言われても、下村にはグリップ出来ないだろう。ついには10日、自民党にしっぽを振った国民民主党代表・玉木雄一郎にまで職場放棄発言を「円満な環境づくりに貢献するとは思えない言葉だ。かえって憲法の議論が遠のいたのではないか」と指摘される始末。

★それどころか、ネットでは加計学園からの闇献金疑惑について「(17年7月の)都議選が終わったら丁寧に説明する」としながら、1年4カ月近く経過しても国民に対して何の説明もない下村は、「これこそ職場放棄ではないのか」と突っ込まれている。政界関係者は「入管法、消費税増税、そして森友・加計学園疑惑、いずれも来年の通常国会が主戦場になるだろう。平成の最後、統一地方選、参院選に衆院とのダブル選のうわさも出始めた。憲法議論は一体どこでやるのか」。

 

首相の改憲発言 前のめりの姿勢は危うい(2018年11月11日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 立憲主義や三権分立の原則を踏まえれば、行政府の長(首相)による立法府(国会)での憲法改正を巡る発言は、抑制するのが筋ではなかろうか。

 臨時国会で安倍晋三首相が、持論の改憲論に踏み込んだ発言を繰り返している。

 憲法改正に最も熱心な「旗振り役」が、主権者の国民ではなく、立法府でもなく内閣総理大臣−という現状は、果たして正常な姿なのか。以前にもまして改憲に前のめりな首相の政治姿勢を危ぶまざるを得ない。

 「首相が憲法審査会の在り方に言及したことは、三権分立の観点から問題だ」。立憲民主党の吉川沙織氏は参院代表質問でこう問いただした。

 首相は所信表明演説で「国の理想を語るものは憲法」と述べるとともに「憲法審査会で政党が具体的な改正案を示すことで、国民の理解を深める努力をしていく」「国会議員の責任を共に果たそう」と改憲論議の加速を国会に呼び掛けていた。

 吉川氏の指摘に対し、首相は憲法63条を引用して「国会議員の中から指名された首相の私が、政治上の見解などについて説明し、国会に議論を呼び掛けることは禁じられておらず、三権分立の趣旨にも反しない」と答弁した。憲法63条は、首相や閣僚が「何時(いつ)でも議案について発言するため議院に出席することができる」と定めている。

 共産党の志位和夫委員長は衆院代表質問で「行政府の長が立法府に号令を掛けるのは重大な介入、干渉だ」と批判した。

 これに対し首相は、国会議員をはじめ公務員に憲法尊重擁護義務を定めた憲法99条に関して「憲法改正について検討し、主張することを禁止する趣旨ではない」と反論した。

 確かに、一国会議員として憲法改正に関する持論を表明することは認められるべきだろう。

 しかし、公の立場ということを冷静に考えてほしい。いわゆる三権の長の一人で、行政府を率いる一国の首相だ。憲法改正を発議する権限は立法府の国会にある。もちろん、最終的に憲法改正の是非を国民投票で判断するのは私たち国民だ。

 三権の長の経験者である伊吹文明元衆院議長は、所属派閥の会合で「首相が国会にああいうことを言うことはいいのかなという感じはした」と疑問を呈し「焦燥感が首相の腹の中にあると思う」とも指摘した。

 自民党憲法改正推進本部の下村博文本部長は、改憲を巡る首相発言に野党が反発していることを念頭に「『安倍色』を払拭(ふっしょく)していくことが必要だ」と述べた。身内の自民党内ですら危ぶむ声があることを、首相は重く受け止めるべきである。

 

国会の憲法論議 審査会を早期に正常化させよ(2018年11月10日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 国会が、最高法規である憲法を不断に論じるのは当然だ。政局と切り離し、各党は衆参両院の憲法審査会で建設的な議論に臨まねばならない。

 衆院憲法審査会の運営を巡り、早期開催を求める自民党と、これに応じない野党の駆け引きが続いている。各党が憲法に関して意見を表明する自由討議は昨年11月以来、行っていない。

 憲法改正原案を審議する機関が本来の役割を果たさないのは、怠慢の誹そしりを免れない。

 自民党は審査会で、自衛隊の根拠規定を明記することなど4項目の条文案を提示したい考えだ。安倍首相は所信表明演説で「政党が具体的な改正案を示すことで、幅広い合意が得られる」と強調し、憲法論議を促した。

 憲法改正への理解を深めるには、具体的な条文案に基づいた丁寧な議論が欠かせない。

 疑問なのは、野党の一部が「安倍内閣での改憲」に反対する姿勢を崩していないことである。

 立憲民主党の枝野代表は代表質問で「憲法の本質は国家権力を縛ることだ」とし、「縛られる側の首相が改憲の旗を振るのは論外だ」との自説を唱えた。

 立民党の参院議員も、首相が憲法を尊重し擁護する義務を負うことを理由に「首相は、改憲に関する発言に自制的、抑制的であるべきだ」と主張した。

 憲法を擁護することと、憲法が定める手続きに従って改正することは矛盾しない。首相が改憲を主導しても憲法上の問題はない。

 擁護義務は国会議員にも課せられている。野党の論理に立つとすれば、国会での憲法論議も制約されることにならないか。野党の批判は、的外れである。

 保革が対立した55年体制下で、憲法改正に関する発言をタブー視する風潮が生まれた。

 冷戦終結後に憲法改正を求める動きが活発になり、国会においても、審査会の前身の憲法調査会が2000年に発足した。以来、各党は論点整理などを通じ、問題意識の共有に努めてきた。

 政争に絡めて、こうした歩みを逆戻りさせてはならない。

 自民党は、憲法改正の手続きを定める国民投票法改正案を早期に成立させた上で、自由討議に入りたい考えだ。投票の利便性を高める内容には異論はないはずだ。

 野党は、政党によるテレビCMの規制強化などを求めている。国民投票の運動は原則自由であるべきだが、自民党は、野党との接点を探ってはどうか。                                                       

 

(2018年11月10日配信『産経新聞』−「産経抄」)

 

 「最終的には国民が判断することで、今の状況は国会の怠慢」。日本維新の会の馬場伸幸幹事長は6日の記者会見で、今国会でまだ一度も開催されずにいる衆参両院の憲法審査会について嘆いた。立憲民主党などは、開催に応じない理由をいろいろと並べているが、要はさぼりである。

▼3、4年も前に、一部野党がこんなことを言い出した。「安倍晋三首相が首相である間は、憲法改正の議論はしたくない」(当時の岡田克也・民主党代表)。その奇天烈(きてれつ)な論理を立民党は墨守していて、国民にとってはいい迷惑でしかない。

▼憲法は改正条項(96条)を備えており、社会の必要や時代の要請に応じた改正を前提としている。改正の是非を問う国民投票に参加するのは国民固有の権利であるにもかかわらず、それを国会が阻害しているのが現状である。

▼与党である公明党からも「改憲は切迫した問題じゃないし、票にもならない」(幹部)との声が漏れ聞こえる。米国製の現行憲法が施行されて70年以上がたって、初めて国民投票の権利を行使できるかもしれないという国民の期待を、あまりに軽く見ている。

▼「国会の役割は、改正項目を議論して発議し、国民が最終判断する材料を提供することだ」。この馬場氏の記者会見での言葉も、もっともである。「なぜ今なのか」「機は熟していない」といった消極的意見も飛び交うが、それは「やりたくない」を言い換えただけだろう。

▼「9条改正に関して、自衛隊の存在を明記することで国論が収斂(しゅうれん)しつつある」。小紙の社説に当たる「主張」欄が、国際情勢の緊迫化を受けてこう書いたのは、平成16年11月だった。それから14年の星霜を経た今日の国会の不作為は、もはや怠慢の域を越えている。

 

自民党改憲策動(2018年11月7日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

姑息な「安倍隠し」通用しない

 今国会での自民党の改憲案の提示を目指す、同党改憲推進本部長の下村博文氏が、「『安倍色』を払拭(ふっしょく)し、自民党全体でしっかりと対応していくことが必要だ」などと言い出しています(3日、北海道函館市で記者団に)。同党の萩生田光一幹事長代行も「総理が黙ることで、憲法審査会が動くのであれば、そういうことも考えたい」(先月28日のNHK日曜討論で)と言っています。安倍晋三首相が改憲の旗を振ってきたことは周知の事実で、今頃になって「安倍隠し」を図っても通用しません。

首相発言で改憲に拍車

 下村氏の発言は、自民党が改憲の合意づくりのために始めた「全国行脚」の第1回として、北海道北斗市を訪れた際、函館空港で語ったものです。自民党は全国の小選挙区党支部に「改憲推進本部」の設置を求めており、下村氏の全国行脚はその一環です。

 首相側近の下村氏は、安倍氏が自民党総裁に3選された後の、党役員人事で改憲推進本部長に起用されました。同じく首相側近の萩生田氏や、党内を取りまとめる総務会長に起用された首相に近い加藤勝信前厚生労働相らとともに、安倍改憲を支える「改憲シフト(布陣)」の一人とみられています。

 下村氏や萩生田氏がにわかに「安倍隠し」を始めたのは、現職首相が改憲の旗振りをすることは、明々白々、憲法の「尊重擁護義務」(99条)に違反しており、国会や自衛隊にまで改憲を号令した首相の一連の発言が、三権分立の原則にも自衛隊の政治的中立にも反していると、厳しい批判を浴びているからです。

 しかし姑息(こそく)な「安倍隠し」を図っても、それは通りません。安保法制=戦争法の強行など、異常な憲法破壊を重ねてきた安倍首相が、自衛隊を憲法9条に明記する等の明文改憲をいきなり持ち出してきたのは、昨年の憲法記念日の「読売」インタビューや改憲派集会へのメッセージです。その後も安倍首相は改憲に固執し、9月の自民党総裁選以降は、今国会に同党の改憲案を提示すると主張し、異常な「改憲シフト」を敷いたのです。

 今国会の所信表明演説でも改憲発言を繰り返し、代表質問への答弁でも、首相の改憲発言は憲法の尊重擁護義務に反すると追及されると、「発言は禁止されていない」と開き直り、野党の追及に「お尋ねだから答える」とごまかして、とうとうと改憲発言を繰り返すありさまです。

 現職の首相が改憲をあおりたてるのは、どんなに改憲が持論の首相であっても、歴代政権では見られなかった異常事態です。自民党は安倍首相の改憲発言をやめさせ、改憲策動を中止すべきで、「安倍色」を払拭するから、国会の憲法審査会などでの議論を進めてほしいなどとは虫のいい主張です。

憲法の立憲主義に反する

 最新の共同通信の世論調査でも、改憲の自民党案を今国会に提示するとの首相の意向に「賛成」は35・3%で「反対」が54・0%を占めます(「東京」5日付など)。国民が支持しない改憲の強行はそれ自体、憲法の立憲主義に反します。

 憲法を守らず、改憲の旗を振る安倍首相に政権を担う資格はありません。安倍改憲を阻止する国民のたたかいが重要です。安倍政権を退陣させることこそ、憲法を守り生かす、最も確かな道です。

 

慎み欠く首相の姿勢 臨時国会(2018年11月3日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 臨時国会は首相の所信表明演説と各党代表質問を終え、委員会審議に入っている。

 序盤の論戦で目につくのは、改憲に向けた安倍晋三首相の前のめりの姿勢である。行政府の長が国会で改憲の旗を振ることに違和感を覚える人も多いだろう。

 「制定から70年以上を経た今、国民の皆さまと共に議論を深め、私たち国会議員の責任を共に果たしていこうではありませんか」

 所信表明で首相は訴えた。

 前段の部分では、国会の憲法審査会に各党が改憲案を提示し、国民の理解を深める努力を重ねることにより、与野党を超えた幅広い合意が得られると確信している、と述べている。

 安倍首相は自民党の総裁でもある。自民党は結党以来、改憲を基本政策の一つに掲げている。首相が総裁として党の会合で改憲を訴えるのは、政治の仕組みとしてはあり得ることだ。

 しかし所信表明演説は首相が当面する政治課題について基本姿勢を明らかにするものだ。語られるべきはあくまで国政の課題である。党の目標である改憲を主張するのは筋が違う。

 首相は臨時国会召集の10日前に行われた陸上自衛隊朝霞駐屯地の観閲式でも改憲への意欲を述べている。こう訓示した。

 「全ての自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境を整えるのは、今を生きる政治家の責任だ。責任を果たす決意だ」

 憲法の制約を受ける実力部隊に向け、最高指揮官の首相が改憲への決意を表明する―。行き過ぎ、と言われても仕方ない。

 首相は行政府の長としては憲法を順守する義務を負う。国民に対し改憲を発議できるのは国会であり、内閣ではない。首相が改憲を主張することについて、直ちに憲法順守義務違反とは言えないとしても、公的な場で繰り返し唱えるのは慎みを欠き、不適切だ。

 そもそも、首相がこだわる9条への自衛隊明記には問題が多い。書き込めば装備や運用に関する歯止めが弱くなる。安保上の役割強化を求める米国に押し切られ、専守防衛がますます空洞化する結果を招きかねない。

 自衛隊は自衛隊法などにより、法律上の位置付けははっきりしている。国民の多くも合憲の存在と認めている。いま9条に書き込まなければならない理由はどこにも見いだせない。

 

首相の改憲答弁(2018年11月2日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

「尊重義務」否定は通用しない

 憲法9条に自衛隊を明記するなど自民党の改憲案を、今国会に提示すると公言している安倍晋三首相が、「改憲発言は禁止されない」と開き直り、野党から追及されると「お尋ねだから答える」とごまかして、とうとうと持論を述べる答弁を繰り返しています。とんでもないことです。首相の改憲発言は、憲法99条の「憲法尊重擁護義務」に違反し、首相が国会に改憲論議を求めるのは、三権分立の原則にも反します。憲法を守らない首相に、憲法を語る資格はありません。改憲策動は直ちにやめるべきです。

安倍氏一流の“改ざん”

 首相や国務大臣の憲法尊重擁護義務は憲法に明記されており、首相が率先して改憲の旗振りをするのは、明確な憲法違反です。

 憲法99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」としています。改憲発言は「違憲ではない」という首相の強弁は、安倍氏一流の、憲法解釈の“改ざん、ねつ造”のたぐいです。

 安倍政権以前の歴代首相は、たとえ改憲が持論でも、在任中は発言を慎みました。就任以来憲法破壊を重ね、ついに明文改憲を言い出した安倍首相は全く異常です。

 改憲に固執する安倍首相は今国会の所信表明演説でも、「(国会の)憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示す」「議論を深め、私たち国会議員の責任を果たしていく」などと、国会に号令して、改憲をあおり立てました。国会開会直前には、政治的中立が最も求められる自衛隊の幹部会同や観閲式に「最高指揮官」として出席して、「自衛隊員が誇りを持って任務を全うできる環境を整えるのは政治家の責任」「その責任をしっかり果たしていく」などと、改憲に向けた決意表明まで行いました。

 改憲について「尋ねられた」から説明するという首相の発言は詭弁(きべん)です。昨年の憲法記念日(5月3日)に改憲派集会へのメッセージなどで自衛隊明記の改憲を打ち出し、国会の施政方針演説や所信表明演説で改憲を主張し、ついに自衛隊の集会でまで改憲を公言したのは安倍首相自身です。質問に答えたふりは通用しません。

 かつて衆院議長だった伊吹文明氏も、安倍首相の最近の発言について「内閣総理大臣は国会に対してああいうことを言うのはいいのかなという感じはした」と語り、「焦燥感が安倍晋三の腹の中にはある」と述べています。(10月25日、自らの派閥の会合で)

 首相が憲法の尊重擁護義務を踏みにじれば、主権者である国民が権力をしばる立憲主義は崩壊します。憲法を守らない首相は改憲の企てを、即刻中止すべきです。

公布72年に憲法守ろう

 今月3日は現在の憲法が1946年に公布されて72年になります。安倍首相は1年半前の憲法施行の記念日に明文改憲の意思を明らかにしましたが、公布72年に開かれている今国会を改憲議論加速の舞台にすることは許されません。

 どの世論調査を見ても国民は改憲を求めておらず、今国会への自民党の改憲案提示を支持していません。国民が望んでいない改憲を強行するのは、それ自体憲法の私物化・破壊です。首相は改憲を断念し、直ちに退陣すべきです。

 

首相の憲法発言 前のめりで自制足りぬ(2018年11月1日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 臨時国会で安倍晋三首相が改憲に前のめりな発言を続けている。

 国会議員に改憲論議の加速を促し、9条に自衛隊を明記することにも強い意欲を示した。

 残された任期の中で改憲を実現したい思いが先走っているように見える。だが、急を要する政治課題は他にたくさんあり、憲法問題を急ぐ必要性は見当たらない。

 憲法改正は国会が発議し、国民投票で承認することになっている。首相が先頭に立って改憲の旗を振ることには違和感がある。

 自らの主張を抑制し、議論を国会にゆだねる姿勢が求められる。

 所信表明演説で首相は、政党が具体的な「改正案」を示し、国民の理解を深め、ともに議論することが国会議員の責任だと訴えた。

 国会議員の責任は、まず憲法を順守することだ。改正も可能ではあるが、必ず果たさなければならない責任とは言えない。

 「制定から70年以上を経た」などの理由で改憲を大前提に掲げ、国会議員に議論を強いるかのような首相の言い分は理解に苦しむ。

 代表質問への答弁では9条への自衛隊明記に関し、「国民のため命を賭して任務を遂行する隊員の正当性を明文化することは、国防の根幹に関わる」と述べた。

 自衛隊の任務や隊員の身分などは自衛隊法に定められている。憲法に書き込まなくても、首相が求める正当性は担保されている。

 野党は、首相が国会に憲法論議を呼びかけることは三権分立に触れると指摘し、99条にある憲法尊重・擁護義務を挙げて首相に自制を求めた。

 首相は「憲法改正について検討、主張することを禁止する趣旨ではない」と反論したが、論点そらしではないか。野党側が求めるのは自制であり、禁止ではない。

 禁止されていないからといって首相が声高に改憲を訴えれば「行き過ぎ」との批判は免れない。

 安倍政権は政府が長年違憲としてきた集団的自衛権の行使を、根拠もあいまいなまま合憲へと解釈変更した。昨年は憲法の規定に基づく野党の臨時国会召集要求に応じようとしなかった。

 こうした憲法軽視が疑念を招いていることを忘れてはならない。

 首相は内閣改造・党役員人事に伴い、自民党の憲法改正推進本部や国会の憲法審査会の幹部を側近で固め、議論促進を狙った。

 しかし、他党との調整は難航が予想される。数の力によるごり押しは許されまい。謙虚で丁寧な対応が欠かせない。

 

代表質問と憲法 改正論議に背を向けるな(2018年10月31日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 憲法改正の重要性を訴える安倍晋三首相に対して、多くの野党が論議の土俵に上ることさえ拒んでいる。

 29日から始まった衆参両院の代表質問で浮き彫りになった、極めて残念な国会の姿である。

 各党とすべての国会議員は、憲法改正の発議に関する論議や議決を託されている立場を自覚すべきだ。

 安倍首相は、憲法に自衛隊を明記する改正案について「国民のため命を賭して任務を遂行する隊員の正当性の明文化、明確化は国防の根幹に関わる」と語った。

 さらに、衆参の憲法審査会へ各党が具体案を示すことで「幅広い合意が得られることを確信している」と述べ、議論への参加を呼びかけた。

 だが、改正論議に積極的な姿勢を示したのは、自民党と日本維新の会だけだった。

 驚きを禁じ得ないのは、立憲民主党と共産党が、首相が国会の場で憲法改正を論じることを封じようとしたことだ。

 首相が所信表明演説で憲法審査会への改正案提示に言及した点をとらえ、立民の吉川沙織氏は「三権分立の観点から問題」だと批判した。共産の志位和夫氏も「国会への重大な介入、干渉」で三権分立を蹂躙(じゅうりん)すると非難した。

 憲法にのっとって運用されている行政府の長が首相だ。移り変わる時代と憲法の間で生じる矛盾に最も直面する立場にある。その首相に改正を語らせないのでは、憲法のひずみを正せない。

 そもそも、三権分立に反するわけがない。現憲法に関する大規模な調査審議を初めて行った「憲法調査会」が、昭和30年代に内閣の下に設置されていた経緯もある。首相ら政府関係者が憲法改正を論ずることに問題はない。憲法をはき違えているのは立民や共産のほうである。そこまでして論議を妨げたいのか。

 国民民主党の玉木雄一郎代表は自衛権の範囲を明確にする「平和的改憲」を訴えた。自衛隊の活動を制約して厳しい安全保障環境への対応を損なうが、それでも必要というなら党として具体案を憲法審査会に提出したらどうか。

 玉木氏は、国民投票に新たなCM規制を導入することが「改憲論議の大前提」とも語った。新たなCM規制は国民の知る権利を侵害する恐れがある。改正論議に背を向ける理由にはなるまい。

 

首相の改憲策動(2018年10月28日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

提示許さず“水際”で阻止を

 安倍晋三首相が憲法9条に自衛隊を明記するなどの改憲に執念を燃やし、開会中の臨時国会に自民党の改憲案を提示しようとしている中、これを阻止することが、いよいよ急務となっています。憲法を守らない首相には、改憲どころか憲法を語る資格がありません。国民の圧倒的多数が望んでいないのに、改憲を進めるのはそれ自体、立憲主義を踏みにじるものです。改憲案の内容とともに、そのやり方を糾弾し、常軌を逸した安倍首相の改憲策動を許さないことが重要です。

憲法を語る資格ない

 安倍首相は臨時国会の所信表明演説で「(国会の)憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示す」「(改憲へ)国会議員の責任を果たしていこう」などと持論の改憲に執着しました。行政府の長が立法府に改憲論議を行うことを迫る主張は、首相の憲法尊重擁護義務も、立法・行政・司法の独立を定めた三権分立の原則も踏みにじる暴言に他なりません。

 自民党内でも異常な改憲派である安倍氏は首相就任以来、憲法破壊の言動を重ね、言論・思想の自由を侵害する秘密保護法や「共謀罪」法、憲法の平和原則を蹂躙(じゅうりん)する安保法制=戦争法など違憲立法の強行を繰り返してきました。昨年5月の憲法記念日には、憲法9条に自衛隊を明記することや、国民の権利を制約する「緊急事態」条項を創設するなど、あからさまな明文改憲を打ち出しました。

 憲法9条に自衛隊を明記すれば、9条2項の戦力不保持や交戦権否認の規定が空文化・死文化し、海外での自衛隊の無制限の武力行使に道を開くことになります。今のところ自民党内でも改憲案は正式決定されていませんが、首相の改憲への固執は、文字通り「戦争する国」への危険な暴走です。

 首相は臨時国会で、憲法審査会に改憲案を提案し、発議へ向けた動きを加速させようと画策しています。首相側近を憲法審査会の幹事にすえるなど体制を固めています。改憲を阻止するため、臨時国会で憲法審査会を動かさないたたかいを強めることが必要です。

 閣僚の憲法尊重擁護の義務を定めた憲法99条をまったくかえりみようともせず、三権分立の原則も無視するなど、憲法を守ろうとしない首相は、憲法を語る資格を完全に失っています。

 実力組織として、政治的中立が厳しく求められる自衛隊の幹部会同や観閲式の場で、最高指揮官の立場から改憲を叫ぶ安倍首相の姿は憲法破壊の最たるものです。首相のいう改憲案の内容も重大ですが、改憲を進める首相のやり方そのものが憲法違反です。憲法を平然と破壊する首相の姿勢を徹底的に追及し、改憲の企てを“水際”で阻むたたかいを大きく広げることが求められます。

国民は改憲を望まぬ

 憲法は、首相の勝手な持論で改定し、国民に押し付けるものではありません。主権者・国民が権力をしばるのが立憲主義の原則です。世論調査では、自民党が臨時国会に改憲案を提出することに「反対」48・7%、「賛成」36・4%(共同通信調査、4日付「東京」など)です。国民の多くは改憲を支持していません。国民が望んでいない改憲を進めること自体、立憲主義の破壊です。安倍首相による憲法の「私物化」は許されません。

 

所信表明 中身は何もなかった(2018年10月26日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★24日の首相・安倍晋三の所信表明演説に野党から激しいヤジが浴びせられたが、それと共に与党からもため息が漏れた。中身が何もないのである。それは総裁選3選を果たしたものの、何をやるための3選なのかが見えない証左でもあった。加えて今国会は首相出席の委員会審議が必要な「重要広範議案」が臨時国会で8年ぶりにゼロとなった。与党は補正予算程度で閉じたいところだろうが、そうはいかないだろう。

★そもそも被災者生活再建支援法改正に手を付けずに「被災者の皆さんの心に寄り添い」といい、日米FTA交渉で日本農業に壊滅的打撃を与えるテーブルにつきながら「農家の皆さんの不安にもしっかり向き合い」でもなかろう。沖縄では知事選で2度連続、辺野古反対を掲げた知事が誕生して明確な民意が示され、沖縄県知事・玉城デニーが首相に「対話」を呼び掛けた5日後には政府が移設工事再開に向けて対抗措置を打ち出した。それでいて「沖縄の皆さんの心に寄り添い」は、もう笑い話だ。

★議会で憲法改正について訴えたくてうずうずしている首相は、表現ぎりぎりの線で「(国会の)憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の皆様の理解を深める努力を重ねていく」としたが、相変わらず三権分立を理解せず立法府への政治介入といえる。また入管法改正が今国会の最重要法案でありながら「即戦力となる外国人材を受け入れる」とさらりと表明。すなわち移民法の策定だが簡単なものではない。移民労働者に単純労働をさせるなど規制は緩和させられるが、彼らへの健康保険や社会保障、賃金水準、宗教や文化の違う移民への社会の受け入れ方、違法雇用の罰則や移民の保護の仕方。亡命権や参政権、永住権と議論は尽きない。しかし政府は来年4月からの施行、実施を考えている。来年は統一地方選や参院選の年だ。ある自民党議員は「これで選挙ができるのか」とつぶやいた。

 

首相所信表明 空疎な言葉もういらぬ(2018年10月25日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相は、きのう召集された臨時国会で所信表明演説を行い、政権運営への決意を語った。

 今回も目立ったのは「新しい日本の国創り」という抽象的なスローガンや、「ピンチをチャンスに変える」の繰り返しに象徴される根拠に乏しい楽観論だ。

 空疎な言葉は実態を覆い隠す。現実を見据えて課題に取り組む誠実な姿勢こそが求められる。

 最後の自民党総裁任期となる3年間で首相に課された最大の課題は、急速な少子高齢化に対処する道筋を着実に付けることだろう。

 その政策として、首相は「全世代型社会保障改革」や外国人労働者の受け入れ拡大を挙げた。

 「全世代型」の柱には、来年10月の消費税率引き上げに伴う幼児教育無償化と、65歳を超えての継続雇用など高齢者の人材活用を想定しているようだ。

 「人生百年時代の到来は大きなチャンス」だと言う。

 高齢者の全てが元気で意欲的に働ける人では無論ない。膨らむ医療、介護費の財源をどう確保し、財政再建と両立させるか。社会保障の「本丸」を語ろうとしない。

 外国人労働者の受け入れ拡大に関し首相は「世界から尊敬され、世界中から優秀な人材が集まる日本を創り上げる」と意気込んだ。

 拡大には、生活環境の整備や職を失った場合の対応など詰めるべき課題が山積している。ばら色の言葉は何の解決にもならない。

 外国人との共生を図る視点が大事だが、政府が提出予定の入管難民法などの改正案は人手不足の穴埋めとみなすような側面が色濃い。拙速な対応は認められない。

 「戦後日本外交の総決算」も、言葉だけが踊る典型の一つだ。

 進展の見えない北朝鮮による日本人拉致問題やロシアとの北方領土交渉に加え、米国の強硬姿勢がのぞき始めた新たな貿易交渉など、まずは厳しい現実を国民に率直に語るべきだ。

 改憲への意欲は、皇位継承、東京五輪と続く「平成の、その先の時代の新たな国創り」をうたった文脈に続いて示された。

 与野党の「幅広い合意が得られると確信している」と述べたが、自民党内にも冷めた声のある現状とあまりにかけ離れている。

 演説の最後に取り上げたのは、初の本格的な政党内閣を組織した原敬の「常に民意の存するところを考察すべし」との言葉だった。

 それが心構えであるなら、国民が緊急性を感じていない改憲に前のめりになる理由は何もない。

 

所信表明演説/「新たな国造り」具体性欠く(2018年10月25日配信『河北新報』−「社説」)

 

 「本音」をつまびらかにせず、重要政策を総花的に並べただけの印象が残る。財政健全化に触れないまま、殊更強調する「新たな国造り」の具体像は判然としない。

 きのう召集された臨時国会における安倍晋三首相の所信表明演説への率直な感想だ。

 第4次安倍改造内閣発足後、初の与野党論戦の舞台である。2019年10月に予定される消費税率10%への引き上げや憲法改正について、首相が何を語るのか注視したが、踏み込みは乏しかった。

 最も釈然としなかったのは、消費税の引き上げについて明言を避けたことだ。

 首相は全世代型社会保障改革について、65歳以上への継続雇用延長や中途採用拡大の推進を言明。19年10月に幼児教育、20年4月に高等教育を無償化すると表明した。

 ただ、財源となる消費税に関しては「引き上げが経済に影響を及ぼさないよう、あらゆる施策を総動員する」と述べるにとどめた。

 首相は15日の臨時閣議で消費税率引き上げを19年10月に予定通り実施すると表明した。このときも菅義偉官房長官が「消費税率は法律で定められた通り引き上げる」と首相の発言を紹介しただけ。

 国民に直接説明する機会だったにもかかわらず、触れずじまいの姿勢には「本音は増税嫌い」(自民党幹部)がにじむ。先進国で最悪の状況にある財政健全化は宙に浮き、国民に不安や混乱を抱かせる要因にもなっている。

 憲法改正を巡っては、衆参両院の憲法審査会で政党が具体的な改正案を示す必要性を指摘。国民が理解を深める努力を重ねていく中で「与野党の政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られると確信している」と訴えた。

 念頭にあるのはもちろん、9条改正を含む4項目の自民党改憲案の提示だ。

 首相は総裁選後の党人事で憲法改正推進本部や衆参の憲法審査会の要職に自らに近い保守派を据え「改憲シフト」を敷いた。野党との協調を重視してきたこれまでの路線を転換し、強引に議論を進める可能性は否定できない。

 野党側は新閣僚に浮上する「政治とカネ」を突破口に対抗する構えだ。立憲民主党が衆参ともに野党第1会派となったことで対決路線は強まる。追及力とともに、来夏の参院選を見据えた共闘の道筋をどう描くかが試される。

 首相は演説で、「平民宰相」と呼ばれた第19代首相の原敬(盛岡市出身)が残した「常に民意の存するところを考察すべし」を引用した。「長さゆえの慢心はないか。そうした国民の皆さまの懸念にもしっかりと向き合っていく」と謙虚な姿勢を演出した。

 指摘しておきたいのは、森友、加計学園問題を巡る首相の説明は尽くされていないということだ。それを棚に上げて「継続こそ力」を強調するなら、慢心にほかならない。

 

所信表明演説 課題解決の展望見えず(2018年10月25日配信『デイリー東北』−「時評」)

 

 臨時国会が召集され、安倍晋三首相は所信表明演説で「新しい国創り」を強調、内外の諸課題に取り組む姿勢を示した。

 少子高齢化を「わが国最大のピンチ」と受け止め「全ての世代が安心できる社会保障制度」改革を3年かけて進めると断言。具体的には65歳以上への継続雇用の引き上げなどを挙げたが、国民の間に先行き懸念がある年金や医療制度については触れずじまいだった。

 来年10月の消費税率10%への引き上げは既定路線と位置付け「経済に影響を及ぼさないよう、あらゆる施策を総動員する」と指摘した。政府内では景気対策としてポイント還元やプレミアム付き商品券などが検討されているが、それには踏み込まず、財政再建の道筋も示さなかった。

 過去2回先送りされた消費税率アップだが、来年は本当に実施されるのかという疑念は晴れなかったのではないか。

 宿願の憲法改正に向けては「できるだけ幅広い合意が得られると確信している」と、与野党の合意形成に強い期待を表明。衆参両院の憲法審査会で自民党改憲案の提示を目指す意向も示したが、憲法擁護義務のある首相の発言か、それとも自民党総裁としての弁なのか判然としないという印象が残った。

 外交では「戦後日本外交の総決算」を訴えた。北朝鮮とは、拉致問題解決に向け「あらゆるチャンスを逃さないとの決意」を強調。今年1月の施政方針演説で、北朝鮮の核・ミサイル開発を「重大かつ差し迫った脅威」などとした表現は消え、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談実現に重点を移した形となった。

 ロシアとの関係は「領土問題を解決し、平和条約を締結する」との政府の基本方針を再確認した。ただ、ロシアのプーチン大統領は先月、前提条件抜きで今年末までの平和条約締結を求めており、歩み寄りの道が開けているとは言い難い。

 今国会で与野党対決法案になるとみられる、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた入管難民法改正案。首相は成立に自信を見せたが、野党は「事実上の移民政策だ」と反発しており、論戦で中身を詰めていく必要があるだろう。

 首相は第2次内閣発足後、6年近く経過しているのを踏まえ「長さ故の慢心はないか」という国民の懸念と向き合う姿勢を表明した。ただ、野党側が追及テーマに挙げる中央省庁の障害者雇用水増しや学校法人森友・加計学園問題には演説で触れておらず、国民の政治不信の解消にはつながらなかった気がする。

 

首相所信表明演説 具体性を欠き無責任だ(2018年10月25日配信『秋田魁新報』−「社説」)

 

 「今後も、抑止力を維持しながら沖縄の皆さんの心に寄り添い、安倍内閣は基地負担の軽減に一つ一つ結果を出したい」。臨時国会がきのう召集され、安倍晋三首相が所信表明演説を行った。その内容は、首相が述べた冒頭の言葉に象徴されている。説得力が全くない、荒唐無稽な言葉の羅列にしか聞こえなかった。

 そもそも安倍首相が常套句(じょうとうく)のように用いる「沖縄の皆さんの心に寄り添う」ことなど過去にあったのか。

 9月の沖縄県知事選では、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する玉城デニー氏が与党の推す候補に大差で勝利。「移設反対」の民意が示された。にもかかわらず、辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回した県への対抗措置として、国は行政不服審査法に基づき撤回の効力停止を申し立てた。民意を顧みようとしない安倍首相の「心に寄り添う」発言は沖縄県民を侮辱している。

 増大し続ける医療費、年金などの社会保障費の問題は第2次安倍内閣が発足した6年前から大きな課題だった。だが改革は遅々として進まず、実質的に棚上げされたままだ。その反省もなく「3年かけて改革を進める」と新たな課題でもあるかのように語る姿勢は無責任だ。

 「国民の皆さまと共に新しい国創りに挑戦する」と言われても、どんな国を創るつもりなのか理解できない。重要政策の推進に強い決意を示すのはいいが、肝心の課題解決への具体性に欠けている。

 一方で、最大の懸案の一つである森友・加計(かけ)学園問題については一言も触れなかった。都合の悪いことこそ、自らが率先して解決の道を探る決意を示すべきだ。これでは、安倍内閣に対する国民の不信感を払拭(ふっしょく)するのは難しいだろう。

 臨時国会では、外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案が焦点の一つとなる。安倍首相はその必要性を強調した。しかし外国人増加による労働環境の変化や事実上の永住容認など、さまざまな問題点が指摘されている。与党は早期成立を目指す姿勢だが、重要なのはこうした課題を洗い出して、しっかりと対処することだ。そのためにも慎重な審議が求められる。

 憲法改正の動きも注目される。改憲の手続きを定める国民投票法改正案の審議が行われるほか、自民党が会期(12月10日まで)中、自衛隊明記など4項目の条文案を衆院両院の憲法審査会に提示する方針だ。世論調査では改憲案の今国会提出に対し「反対」が「賛成」を上回っている。国民の理解を得ながら進めることが不可欠だ。

 自民党総裁選で連続3選を果たした安倍首相にとって集大成となる3年間。これまでの道のりを謙虚に振り返り、真に民意に寄り添う政権運営を今国会で見せてほしい。

 

首相の所信表明 究極のスローガン政治か(2018年10月25日配信『茨城新聞』−「論説」)

 

支持層に訴えるスローガンとしては上出来なのだろう。

安倍晋三首相は臨時国会での所信表明演説で、残る3年の任期中に、憲法改正による「新たな国創り」と、北朝鮮やロシアとの間の諸問題を解決して「戦後日本外交の総決算」を実現すると強調した。

列挙された日本人拉致問題や北方領土問題などはいずれも歴代内閣が成し遂げることができなかった難問だ。仮にこの一つでも解決できれば安倍内閣は、その長さのみならず実績でも戦後史に深く名を刻むだろう。

一方、2012年末の政権復帰後、看板政策であったアベノミクスへの言及がなくなった。最大の柱である金融の大規模緩和は、円高是正による株価上昇をもたらしたが、2%の物価上昇というデフレ脱却への最終目標は達成されていない。

次々に新しいスローガンと目標を打ち出し続ける一方、都合の悪いものはフェードアウトさせるのであれば、「スローガン政治」の究極の形と言わざるを得ない。

この所信表明演説は、安倍首相が政権復帰後、初めて行われた9月の自民党総裁選で連続3選を果たし、任期を21年9月まで延ばして以後、国会で政治方針を示す最初の場だった。

演説は総裁選で自らを選んだ自民党にも向けられている。今回は、通常の所信表明、施政方針両演説と違って、今後3年間の方向性を示す必要があった。安倍首相が「新たな国創り」や「戦後日本外交の総決算」を打ち出したのはそのためでもあったのだろう。

しかし、未来を語るのであれば、政権の過去を中間総括することが必須だ。政権復帰後、すでに約6年間という長い年月が過ぎているからだ。かつて安倍首相はアベノミクスについて「道半ば」と位置づけ、さらなる継続を訴えていたが、野党などから「永遠の道半ば」と突っ込まれると使わなくなった。

安倍首相が言及せずともアベノミクスが道半ばであることは物価上昇目標が時期を6回延期しても達成されていないことで明らかだ。

 緩和を縮小させる「出口戦略」の必要性が叫ばれ続け、安倍首相自身も9月の総裁選の討論会で「ずっとやっていいとは思わない。経済が成長している中で、なんとか私の任期のうちに(緩和縮小への方向転換を)やり遂げたい」と述べたにもかかわらず、演説では一切触れなかった。

 日本人拉致問題や北方領土問題に至ってはこの6年間、道半ばどころか形になった成果が全く出ていない。一方、最近は財務省の決裁文書改ざん事件など大島理森衆院議長から「民主主義の根幹を揺るがす」とまで批判された公文書やデータにかかわる不祥事が頻発した。過去の検証も説明もせず、新たなスローガンと目標を並べ立てるのでは目先を変えようとしているとしか見えない。

 「長さゆえの慢心はないか。そうした国民の皆さまの懸念にもしっかりと向き合っていく。むしろ、その長さこそが、継続こそが、力である。そう思っていただけるよう、一層、身を引き締めて政権運営に当たる」

安倍首相は演説の終わりにこう述べた。しかし、演説のままの政権運営を続けるのであれば、この言葉もいつか消え去る運命のスローガンとなるのだろう。

 

首相所信表明 「国民と共に」は本当か(2018年10月25日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 自民党総裁選で3選を決めてから初めて臨む国会だ。新たな3年の任期で何を目指すのか、骨太な政権構想が語られるのかと思いきや、これでは全くの拍子抜けである。

 臨時国会がきのう開幕し、安倍首相が所信表明演説を行った。「新しい国創り」「強い日本」「希望にあふれ、誇りある日本」。抽象的なスローガンが並び、具体的な将来ビジョンや、そこに至る政策の全体像が示されたとは言い難い。

 首相は総裁選の地方票で想定外の接戦を強いられた。内閣改造でも支持率は伸びず、沖縄県知事選では政権が推す候補が大差で敗れた。政権のおごりや緩みに対する批判を受けとめ、その政治姿勢をどう改めていくのかも問われている。

 首相は「長さゆえの慢心はないか。国民の懸念にもしっかりと向き合う」と述べはした。しかし、森友・加計問題に触れることは一切なかった。森友問題の解明に後ろ向きな麻生財務相を続投させたことをみても、その本気度は疑わしい。

 口利き疑惑を報じられた片山さつき・地方創生相をはじめ、「政治とカネ」の問題を早くも指摘される新任閣僚が相次いでいる。政治への信頼を回復するためには、首相が率先して、説明責任を果たさねばならない。

 今国会の最重要法案は、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた出入国管理法改正案である。

 首相は国内の深刻な人手不足を理由に、外国人材の必要性を強調した。だが、言及は総じてあっさりしており、この国のかたちや社会のありように関わる重大テーマだという認識はうかがえなかった。自民党内に根強い異論を刺激したくない――。そんな思惑から深入りを避けたのなら、本末転倒だろう。

 首相が演説の中で繰り返し使ったのが「国民の皆様と共に」という言葉だ。「国民」という以上、政権与党を支持しない人を含め、多種多様な人々に向き合う覚悟が必要である。

 しかし、ここでも首相の本気度には疑問符がつく。最たるものが、演説でも意欲を示した憲法改正への対応だろう。

 首相は9条に自衛隊を明記する改憲案を、この臨時国会で提示する考えだ。自民党の憲法改正推進本部や国会の憲法審査会の幹部に側近議員を配置し、改憲案を了承する党総務会からは、首相と距離を置く石破派の議員を排除した。

 異論を遠ざけ、同じ考えの持ち主で事を進めようという手法は、「国民と共に」という言葉とは全くかけ離れている。

 

臨時国会スタート 首相が議論の土台作りを(2018年10月25日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 臨時国会が召集された。12月10日まで48日間の会期となっている。

 安倍晋三首相が新たに3年の自民党総裁任期を得てから最初の国会だ。首相は所信表明演説で「次の3年、国民の皆様と共に新しい国創りに挑戦する」との決意を語った。

 今国会では日本社会のありようを変える可能性のある重要法案が審議される。外国人労働者の受け入れを拡大する入国管理法改正案だ。

 深刻な人手不足への対策であり、移民の受け入れではないというのが政府の説明だが、入管政策の抜本的な転換であることは間違いない。

 事実上の移民政策につながるとの指摘がある一方で、家族の帯同を5年間認めないなどの制限に対しては人道上の問題も懸念される。

 首相は「世界から尊敬される日本、世界中から優秀な人材が集まる日本を創り上げていく」と強調した。

 そうであるならば、人手不足対策に矮小(わいしょう)化するのでなく、移民の受け入れも含めた社会政策として真正面から論じるべきだ。与野党で徹底した議論をしてもらいたい。

 今国会では憲法改正論議の行方も注視しなければならない。自民党のまとめた自衛隊明記案の提示に首相が強い意欲を示しているからだ。

 演説でも「平成の、その先の時代の新たな国創り」へ向けて改憲を語り、「与党、野党といった政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られると確信している」と国会での審議入りを与野党に呼びかけた。

 しかし、国会で与野党が熟議する土台を崩したのは首相ではないか。

 先の国会では森友・加計問題の真相究明に取り組むどころか、野党の質問をはぐらかす不誠実な答弁に終始した。「謙虚に、丁寧に」と言いながら国会を軽んじる言動を重ねたことへの反省が必要だ。

 第1次政権を含め10年の長期政権を見据える首相は「長さゆえの慢心はないか。そうした国民の皆様の懸念にもしっかりと向き合っていく」との一節を演説に盛り込んだ。

 臨時国会の審議を充実させたいのであれば、まずは首相自らこの言葉を実行に移すべきだ。

 森友・加計問題のみならず、人口減少や財政赤字などの不都合な現実と向き合い、野党とも真摯(しんし)に議論する姿勢が求められる。

 

所信表明演説 腰を据え中長期の課題に挑め(2018年10月25日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 山積する難題をどう解決するのか。長期的な戦略に基づく政策を示し、建設的な国会論戦を主導する必要がある。

 安倍首相が衆参両院で所信表明演説を行った。「世界をリードする日本を創る」と述べ、先頭に立つ決意を表明した。

 演説に目新しい内容は盛り込まなかったものの、中長期の課題を列挙した。少子高齢化に伴う労働力の確保や、持続可能な社会保障制度の構築などである。

 首相は「全ての世代が安心できる社会保障制度」の実現に3年間で取り組む方針を掲げた。少子高齢化を踏まえた妥当な考えだ。

 政府はまず、企業の継続雇用年齢の65歳超への引き上げを目指す。意欲と能力のある高齢者の雇用機会を確保する意義は大きい。民間企業が前向きに取り組めるような仕組みを検討すべきだ。

 痛みを伴う社会保障の制度改正は避けられない。給付抑制や負担増についても、与野党で議論を深めてもらいたい。

 人手不足の解消のため、政府は外国人労働者の受け入れを拡大する。首相は、新たな在留資格を設ける法改正に意欲を示した。

 本来は就労が目的ではない外国人に、事実上、単純労働を担わせてきた現状を改める狙いがある。外国人の就労環境の改善にも取り組まねばならない。

 気がかりなのは、デフレ脱却を目指す方針に触れなかったことだ。内閣の最重要課題である経済再生に向け、規制緩和や成長戦略を推進することが大切だ。

 自民党は、憲法改正案を衆参の憲法審査会に提示する方針だ。自衛隊の根拠規定を設ける9条改正など4項目である。首相は演説で、国会の議論を通じて合意形成を図る意向を強調した。

 審査会は、国の最高法規について不断に検討を重ねるのが本来の役割である。自民党は、公明党や野党の意見に耳を傾け、一致点を見いだす努力が欠かせない。

 首相は「戦後日本外交の総決算」として、北方領土問題に取り組むと語った。4島の帰属の問題を解決し、平和条約を締結する。その基本方針を堅持し、粘り強く交渉を進めるべきだ。

 北朝鮮による日本人拉致問題を解決するため、首相と金正恩朝鮮労働党委員長との直接対話の環境を整えねばならない。

 長期政権の緩みや驕おごりが指摘されている。首相は「慢心はないか。国民の懸念にしっかりと向き合う」と語った。謙虚な姿勢で政権運営にあたることが重要だ。

 

少子高齢化を克服する具体策が聞きたい(2018年10月25日配信『日本経済新聞』―「社説」)

 

自民党総裁選で勝利した安倍晋三首相は、あと3年の任期でいったい何を成し遂げるのか――。24日に召集された臨時国会の最大の焦点はそこにある。

首相は衆参両院本会議の所信表明演説で「激動する世界を、そのど真ん中でリードする日本を創り上げる。次の3年間、私はその先頭に立つ決意だ」と強調した。重点政策に掲げたのは、国土強靱(きょうじん)化、地方創生、外交・安全保障の3つの柱だ。

今国会で政府は西日本豪雨や北海道地震に対応する2018年度補正予算案の早期成立をめざす。迅速な復旧作業は当然だが、公共事業費のバラマキを避けるには災害に強い都市の将来像とセットで議論していく必要がある。

地方創生では「全世代型社会保障」「生涯現役の雇用制度」「即戦力となる外国人材の受け入れ」に言及した。首相は「少子高齢化という我が国最大のピンチもまた、チャンスに変えることができるはずだ」と訴えた。

安倍政権がめざす社会保障改革の中身はまだ不明確だ。医療や介護などの歳出膨張をどう抑え、19年10月に消費税率を10%に引き上げた後に財政健全化にいかに道筋をつけるか。具体策を早く明らかにしてもらいたい。

政府は外国人労働者の受け入れ拡大に向けた入国管理法改正案を今国会に提出する。野党は就労を目的とした新たな在留資格について「事実上の移民政策だ」と指摘し、対決姿勢を強めている。

介護、農業、建設分野などの人手不足を緩和し、成長力を底上げしていく方向性は正しい。同時に来日した外国人の生活を安定させて治安の悪化を避ける環境整備などについて、与野党で議論をもっと深める必要がある。

首相は憲法改正に関して「政党が具体的な改正案を示すことで、国民の理解を深める努力を重ねていく」と強調した。

自民党は憲法審査会に9条への自衛隊明記を含む改憲4項目の考え方を示す方針だ。幅広い合意形成には、他党の意見に耳を傾ける謙虚な姿勢が大事だろう。

2日に発足した第4次安倍改造内閣では、新閣僚らの「政治とカネ」をめぐる疑惑が相次いで報じられた。野党は森友、加計両学園問題も引き続き追及していく構えだ。政府・与党は政治不信を招かないように、事実関係を国会で丁寧に説明していく責任がある。

 

所信表明演説 「憲法改正」論議の前進を(2018年10月25日配信『産経新聞』−「主張」)

 

安倍晋三首相は、自民党総裁3選後、初めての国会で演説し「新しい日本の国創りをスタートするときだ」と語った。

 憲法改正の実現は、それにふさわしい課題といえる。

 首相は「憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の理解を深める努力を重ねていく」と述べた。今国会中に「自衛隊明記」などの自民党改憲案を提示する考えを示したものだ。9月の党総裁選時の公約を果たすことになる。

 与党である公明党や野党の中には、憲法改正論議を進めることへの慎重論がある。

 首相は「国会議員の責任を果たしていこう」と呼びかけた。ならば、自民党総裁の立場で、憲法改正がなぜ、どのように必要なのかを国民に語りかけ、論議をリードしてほしい。党幹部に任せるだけでは十分ではない。

 首相は演説で、外国人材の受け入れを進めることを表明した。政府は、外国人労働者の受け入れを拡大する入国管理法改正案を今国会の重要法案としている。

 だが、日本の国の形を大きく変え得る政策転換だ。これまで認めてこなかった単純労働に道を開く。高度な試験に合格すれば家族の帯同を含む永住を可能にする。移民政策ではないといわれても納得することは難しい。

 少子高齢化に伴う人手不足が背景にあるが、外国人の大規模受け入れに世論は分かれている。

 永住外国人については社会保障や家族の就労などの問題が必ず起こる。詳細な制度が詰め切れていない。野党はもとより自民党からも慎重論が出ている。法案提出ありきで急ぐのは極めて危うい。

 国会論戦で首相は多くの疑問に答えてもらいたい。

 首相は「戦後日本外交の総決算」を掲げ、北朝鮮の非核化や拉致問題、北方領土問題、対中関係の改善に意欲を示した。

 その前提として「基軸は、日米同盟だ」と語ったのは当然である。ただ、日本をとりまく外交・安全保障環境の急激な変化についての言及がなかった点は、物足りない。

 その最たるものが米中新冷戦だ。通商から安全保障、人権分野にまで拡大した対立は、日本の対中外交、日本企業の経営を直撃する。訪中後の国会で首相は日本の対応を明快に語る必要がある。

 

首相所信表明 長さゆえの慢心戒めよ(2018年10月25日配信『東京新聞』−「社説」)

  

 9月の自民党総裁選で連続3選を果たし、歴代内閣最長の在任記録も視野に入る安倍晋三首相。在任期間の長さゆえの慢心はないのか。常に戒めながら、謙虚で丁寧な政権運営に努めるべきである。

 臨時国会がきのう召集された。会期は12月10日までの48日間。首相が最後の3年間、日本の舵(かじ)をどう取ろうとしているのか。所信表明演説はそれを語り尽くしたとは言い難い内容だった。

 内政のキーワードは「新たな日本の国創り」だろう。本格的な人口減少社会にどう対処するのか。演説からは、未来を担う子どもたちや子育て世代にも大胆に投資する全世代型社会保障の実現と、外国人材の受け入れを柱とする安倍内閣の方針はうかがえる。

 高齢世代に限らず現役や将来世代も安心できる社会保障制度に異議はないが、演説では将来不安の要因である深刻な財政状況に触れずじまい。財政健全化の意思があるのなら明確に語るべきだった。

 外国人材受け入れは説明だけでなく、議論が根本的に足りない。専門性や技能で新しい在留資格を設けるというが、自民党政権が否定してきた移民政策とどう違うのか。外国人材の流入に伴う社会不安や摩擦が起こらないかなど、議論すべき論点は山積している。

 野党側が、改正法案を「重要広範議案」に指定し、首相の委員会出席を求めるのは当然だ。審議が尽くされないのなら、臨時国会での法改正を急ぐべきではない。

 外交では「戦後日本外交の総決算」を掲げた。残り任期の3年間で、北朝鮮による拉致問題やロシアとの北方領土交渉など冷戦時代の残滓(ざんし)とも言える懸案を解決する意欲の表れだろう。その決意は了とするが、解決は容易ではない。進捗(しんちょく)状況を国民に率直に説明し、理解を求めることも必要だ。

 政権運営の前提は政治への信頼である。首相は「長さゆえの慢心はないか」と自省する姿勢を見せる一方、「長さこそが、継続こそが、力である」とも語った。

 「山高きが故に貴からず」という言葉がある。人間は外見でなく実質が伴ってこそ価値があるという教えだ。同様に、在任期間が長いゆえに貴いのではない。重要なのは政治の中身である。

 首相は演説で「常に民意の存するところを考察すべし」という、初の平民宰相、原敬の言葉にも触れた。国民の声に真摯(しんし)に耳を傾けて、国民のための政治の実現に努めているか。常に自問し、長期政権の緩みを戒めることが必要だ。

 

臨時国会開会 「安倍新体制」を問う場だ(2018年10月25日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が自民党総裁選で連続3選を果たし、政権の新体制が発足してから、初めての国会論戦の舞台である。

 首相が実現を目指す政策は真に国民のためになるのか。その疑問をただし、新閣僚の資質を問う場としなければならない。

 臨時国会が24日開会した。首相は所信表明で「強い日本」をつくる先頭に立つと訴え、重要政策推進へ決意を示した。

 気がかりは、首相が執念を燃やす憲法改正だ。「憲法審査会に政党が改憲案を示すことで国民の理解を深める」と、今国会中の自民党改憲案提示に意欲を見せた。

 首相は総裁選でも、改憲の必要性を繰り返し唱えていた。当選後、党憲法改正推進本部長に自らに近い下村博文氏を起用するなど改憲シフトを整えた。攻勢をかける構えのように映る。

 所信表明では「与党、野党といった政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られると確信している」とも述べたが、あまりに独りよがりだろう。

 自民党の「改憲4項目」の中でも、焦点は首相が提唱した9条への自衛隊明記だ。平和憲法の核といえる9条の改正は、国のありように深く関わる。

 連立を組む公明党は改憲に慎重姿勢を見せる。自民党が提示に踏み切れば、野党が反発を強めるのは確実だろう。各種世論調査でも、改憲に対する国民の賛否は分かれている。

 こうした中で、改憲に政治のエネルギーをつぎ込むことが国民のためになるとは思えない。

 首相が掲げてきたこれまでの政策は、地方創生をはじめスローガン先行が目立つ。

 所信表明でも「全ての世代が安心できる社会保障制度」「戦後日本外交の総決算」などと訴えたが、やりたいことの羅列にとどまり、実現への具体的な道筋は見えなかった。

 改めて政策の優先順位と中身を総点検し、何をどう実行するのかに知恵を絞るべきだ。そのために指導力を発揮することこそ、首相の責務である。言いっ放しに終わっては困る。

 今国会は、新閣僚らの適格性をチェックする機会でもある。

 片山さつき地方創生担当相が週刊文春で国税庁への口利き疑惑を報じられるなど、新閣僚の「政治とカネ」を巡る問題が発覚している。柴山昌彦文部科学相は教育勅語を一部評価する考えを示し、批判を浴びた。

 決裁文書改ざんや前事務次官のセクハラ問題がありながら留任となった麻生太郎財務相の責任を問う声も根強くある。

 新内閣発足に当たり、首相は「適材適所」を強調した。字義通り受け止めていいのか国民が見極める上でも、資質や適格性を巡る論戦は重要だ。

 森友、加計問題も幕引きとするわけにはいかない。

 問題は、野党が結束して政権に対峙(たいじ)できるかである。先の通常国会では野党の足並みが乱れ、与党を利した。

 今国会で、衆参両院で野党第1会派となった立憲民主党の責任は極めて重い。

 

臨時国会開会 国のありよう問う論戦を(2018年10月25日配信『北国新聞』−「社説」)

 

 臨時国会が開会し、第4次改造内閣をスタートさせた安倍晋三首相が所信表明演説を行った。首相は歴史の転換点にあるという認識のもと、平成の先の時代に向かい「日本の新たな国創りを進めよう」と呼びかけた。来年の統一地方選と参院選を見据え、与野党の対決ムードが高まっていこうが、内政、外交とも歴史的な変わり目にあり、大きな視点で今後の国のありようを問う論戦を望みたい。

 安倍首相は演説でまず、自然災害の被災地の復旧復興と強靱な国土づくり、さらに農林水産業を中心とした地方創生に取り組む決意を表明した。さらに「わが国最大のピンチ」という少子高齢化に対応して国力を維持していくため、全世代型社会保障改革や幼児教育・保育の無償化、ロボットや人工知能などによる生産性革命、外国人材の活用を力説した。

 演説後半では、「戦後日本外交の総決算」として北朝鮮問題や北方領土問題、新たな段階の日中関係構築に取り組む意欲をあらためて表明し、憲法審査会での改憲論議の深まりと具体的改正案の合意に強い期待感を示した。

 臨時国会であり、演説内容が新味に欠けるのはやむを得ないとしても、今後の質疑で具体的な政策提示を求められよう。例えば、消費税率引き上げが経済に影響を及ぼさないよう「あらゆる施策を総動員する」と強調したが、具体策は演説で示されなかった。

 政府が今国会の最重要議案に位置づける、外国人材受け入れ拡大のための入管難民法改正案は、まさに国の在り方に関わる問題であり、深い議論が必要である。

 野党は、森友学園問題で批判された麻生太郎副総理兼財務相や、国税庁への「口利き」疑惑が指摘される片山さつき地方創生担当相らに照準を合わせ、閣僚の適性、資質を追及する構えである。野党にとって攻めどころであろうが、内閣のあら探しのような質疑に終始しては、政党としての存在意義を問われよう。国会論戦は、めざす国家像や理念、政策など政党の「旗印」を示す格好の場であることも忘れないでほしい。

 

首相の所信表明演説(2018年10月25日配信『福井新聞』−「論説」)

 

問題から目を背けるのか

当面の政治課題への基本姿勢とはいえ総花の感が否めず、それぞれ内在する問題には一切触れない―。安倍晋三首相が臨時国会で行った所信表明演説にはそんな印象が拭えない。

 自民党総裁選で声高に提唱した憲法改正は末尾でわずかに触れただけ。残る3年で「やり遂げる」といった意気込みは見えない。今国会にも自民党の改憲案を提出するとしていたはずだ。連立を組む公明党のつれない対応に行き詰まっているのが現状だろう。

 消費税増税に関しても「あらゆる施策を総動員する」と、従来の主張を繰り返すにとどまった。これまで「リーマン・ショック級の出来事がない限り増税する」と説明してきたが、ここに来て、米中貿易摩擦の激化やイラン、サウジアラビア情勢などに伴い、世界同時株安の様相が強まっている。増税分の一部を幼児教育などに充てるとする首相は悩ましさを募らせていないか。

 臨時国会の焦点に浮上してきたのが、外国人労働者の受け入れ拡大に伴い新しい在留資格を設ける出入国管理法改正案。移民政策の解禁と受け取る与党議員からも性急な制度設計を危ぶむ声が出ている。首相は演説で「日本人と同等の報酬をしっかりと確保する」と確約したものの、安価な労働力としての実態がある技能実習生制度とどう整合性を図るのかも見えない。

 北朝鮮の拉致問題や、沖縄の辺野古新基地建設問題にも言及した。ただ「私自身が金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と向き合わなければならない」「沖縄の皆さんの心に寄り添う」は国民の多くが聞き飽きたと感じているのではないか。両問題は同列には扱えないが、そうした文言がいつまでも繰り返されるようでは、首相のリーダーシップが問われる事態だということを自覚すべきだ。

 外交や貿易問題もしかり。「戦後日本外交の総決算」「自由貿易の旗手」をうたったが、結局は対米関係を追従一辺倒から、もの申す関係に変えられるかにかかる。核兵器や貿易摩擦など世界を引っかき回すトランプ米大統領をいかにいさめられるか。蜜月関係にあるならば、そこを国民は期待してやまない。だが、演説からはそうした気概は一向にうかがえない。

 総裁選で地方からの批判が高まったことを意識したのだろう、「強靱(きょうじん)な故郷づくり」「地方創生」に演説の多くを割いた。ただ、災害からの復旧復興は政府として当然の責務だし、創生の中身は1月の施政方針演説の域を超えるものではなかった。

 

臨時国会開会/かみ合った論戦が見たい(2018年10月25日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 臨時国会がきのう召集された。安倍晋三首相が自民党総裁選で3選され、内閣改造後初めてとなる国会だ。

 内は少子高齢化が加速し、外は国際秩序の大きな変革期を迎える中、国民の不安や疑念を解消し、生活を安定軌道に乗せることが求められる。政府、与党は、これまでのような議席の数を背景にした強引な国会運営ではなく、野党の質問にも丁寧に答えるべきだ。がっちりとかみ合った論戦を期待したい。

 首相は所信表明演説で、当面の政治課題に対する基本姿勢を明らかにした。

 社会保障制度改革では、3年間で全世代型に転換すると述べた。社会保障は国民の最も関心が高いテーマだ。データを公開し、安心できる制度設計に知恵を絞る必要がある。

 焦点の一つが、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた入管難民法改正案だ。単純労働に道を開き、一定の条件で永住を認める内容である。政府は移民を認めるものではないとするが、大きな政策転換につながる。人手不足解消に目を向けるあまり、共生のための議論を先送りしてはならない。

 首相は「国会議員の責任を共に果たそう」と、「悲願」とする憲法改正に改めて意欲を見せた。自民党の改憲案を今国会中に提示する意向だ。だが、国民の優先順位は低く、緊急性も認められない。首相個人の思いを持ち込むのは慎むべきだ。

 政治とカネを巡る問題も浮上した。片山さつき地方創生相は、国税庁への口利き疑惑が報道された。政務官が会費制集会の収入を政治資金収支報告書に記載していなかった件も表面化した。明快な説明を求めたい。

 ふに落ちないのは、首相が「森友・加計(かけ)」学園の問題に触れなかったことだ。もう終わったことと思っているのだろうか。決裁文書の改ざんなどで失われた行政への信頼回復のためにも、疑惑の解明が欠かせない。

 先の通常国会では、野党第1会派が衆院は立憲民主党、参院は国民民主党となり足並みの乱れもあったが、臨時国会は立憲が衆参とも第1会派となった。どのように野党をまとめて「安倍1強」に挑むのか。枝野幸男立憲代表の手腕も問われる。

 

臨時国会開幕 中身の濃い論戦の展開を(2018年10月25日配信『山陽新聞』−「社説」)

  

 臨時国会が召集された。安倍晋三首相は所信表明演説で「世界をリードする日本をつくる」と述べ、自民党総裁任期が切れる3年間での憲法改正や全世代型の社会保障改革に意欲を示した。

 会期が12月10日までの48日間と短く、首相の外遊日程も相次ぐため、政府・与党は提出法案を絞り込んだ。だが新閣僚の「政治とカネ」の問題や官公庁の障害者雇用の水増し問題などで、野党は安倍政権を厳しく追及する姿勢を見せている。政府は分かりやすく国民に説明し、与野党とも中身の濃い、突っ込んだ論戦を展開してほしい。

 まず急がれるのは、西日本豪雨や北海道地震などの災害復旧費を盛り込んだ2018年度第1次補正予算案の審議である。9356億円のうち豪雨の被災地には5034億円を振り向ける。被災者の生活再建などに必要な手当てになっているか、丁寧に精査してもらいたい。

 外国人労働者の受け入れ拡大を図る入管難民法改正案も大きな焦点になる。人手不足が深刻な農業、建設、介護などの分野で就労のための在留資格を創設し、2025年までに50万人超の受け入れを検討している。これまで認めてこなかった単純労働分野での就労を可能にする、政策の大転換と言えよう。

 政府は「移民政策とは異なる」とするが、「事実上の移民政策で矛盾する」(立憲民主党)などと野党は慎重審議を求めている。各産業の人手不足は喫緊の課題であり、将来の人口減少時代も見据えた長期戦略が必要なのは間違いない。一方で、現在の外国人の技能実習制度は劣悪な労働環境が一部で指摘されるなど改善の余地がある。しっかりとした制度設計が必要だ。

 憲法改正に絡む動きも注目される。与党は改憲手続きを定める国民投票法改正案の審議加速と成立を目指し、野党の一部も国民投票に関して政党や企業がテレビCMに支出する費用を規制する改正案を検討している。

 安倍首相は今国会中に自民党の改憲案を提示し、論議を加速させたいようだが、慎重な与党の公明党との温度差は埋まっていない。幅広い合意形成に至る環境は整っていないと言える。

 そのほかにも議論すべきテーマは数多い。首相の唱える全世代型社会保障改革をはじめ、来年10月に迫る消費税増税への対応、厳しい交渉が予測される日米通商問題、移設反対派の知事が誕生した沖縄の米軍普天間飛行場問題などだ。地方創生と東京一極集中是正の取り組みもしっかり検証するべきだ。

 財務省の決裁文書改ざん問題の責任を問われる麻生太郎副総理兼財務相の資質や、森友、加計学園問題も野党は引き続き追及する構えだ。

 安倍首相は、丁寧な政権運営に徹すると繰り返し述べている。建設的な国会での熟議を求めたい。

 

首相の所信表明 6年間の総括はどこに(2018年10月25日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 「強い日本」「強靱(きょうじん)な故郷(ふるさと)」「ど真ん中でリードする日本」。きのうの安倍晋三首相の所信表明演説では、いつにも増して威勢のいい言葉が続いた。

 その割に、首相が「わが国最大のピンチ」とする少子高齢化など山積する問題への具体策は述べられなかった。未来を語るのであれば、自身の6年に及ぶ政権運営についても総括が必要だったのではないか。

 「新しい日本の国創り」として、首相が最初に挙げたのが「強靱な故郷づくり」だった。道路や河川の改修、ため池の補修など災害復旧を加速させるという。防災・減災のための事業は急いでほしい。だが「強靱な故郷」とは何か。イメージも湧かなかった。

 「ピンチもチャンスに変えることができる」との文句も繰り返し使われた。少子高齢化や地方の過疎化を「ピンチ」と位置付けているようだ。

 少子化で生産年齢人口が減る中、自ら掲げた「女性活躍の旗」が、女性の就労を増やしたと誇った。だが依然として待機児童は解消されず、就労環境は不十分だ。そこには触れないで「女性活躍」を成果のように持ち出すのは筋が違う。

 「1億総活躍」も掲げた。「女性も男性も、若者も高齢者も、障害や難病のある方も、誰もがその能力を存分に発揮できる1億総活躍社会を」とも訴えた。しかし、政府による長年の障害者雇用水増しが発覚した後ではしらじらしい。

 来年10月に引き上げる消費税については、「経済に影響を及ぼさないよう、あらゆる施策を総動員する」と述べた。一方で、あれほど胸を張ってきた自らの経済政策アベノミクスに、今回は全く言及がなかった。デフレ脱却への目標が達成できないことを認めたのだろうか。

 北朝鮮やロシアとの諸問題を解決して「戦後日本外交の総決算」を実現するとも打ち出した。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談にも意欲を示したが、核・ミサイル問題と拉致問題をどう包括的に解決するのか見えないままだ。

 対ロシアでは「私とプーチン大統領との信頼関係の上に領土問題を解決し、日ロ平和条約を締結する」と述べた。だがプーチン氏は先月、いきなり前提条件なしの平和条約締結を提案しており、本当に信頼関係があるのか心もとない。

 憲法改正についても、改めて意欲を示した。しかし現時点で「政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られると確信しています」と述べるのは理解に苦しむ。今月初めの世論調査では、自民党の改憲案を国会に提出する首相の意向について、国民の約半数が反対している。

 「安倍1強」「最長政権」への慢心が批判されることを意識したのかもしれない。演説の締めくくりには、日本で初めて本格的な政党内閣を築いた原敬の「常に民意の存するところを考察すべし」を引用していた。

 だが最近だけでも森友・加計学園問題や陸自の日報問題を巡る公文書管理に対する姿勢など、国民の信頼を裏切るような不祥事は少なくない。

 「民意」というならば、聞こえのいい言葉をひねり出すばかりではなく、総括も必要である。臨時国会では内容を伴った論戦を、与野党に求めたい。

 

首相の所信表明 国会で熟議重ねる謙虚な姿勢を(2018年10月25日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 第4次安倍改造内閣の発足後初の臨時国会が召集され、安倍晋三首相が所信表明演説を行った。「新しい日本の国創り」をスタートさせると理想を掲げたものの、列挙した政策に具体性が乏しいため目標への道筋が明確ではない。国民に説明を尽くしながら政権運営に努めることが大切で、国会で熟議を重ねる謙虚な姿勢が求められる。

 首相が「安倍1強」による弊害やおごりを指摘する声を意識しているのは間違いない。「長さゆえの慢心はないか。そうした国民の懸念にしっかり向き合う」との心構えを示した上で、「長さこそが、継続こそが力である」と思ってもらえるよう身を引き締めると決意を述べた。

 しかし、これまで「謙虚に丁寧に政権運営に当たる」と何度も言ってきたが、行動が伴わなかった。今回も言葉通りには受け取れない。首相は国会での質疑で同じ説明を繰り返す場面が目立つ。自分の主張は正しく、理解しない相手が悪いという傲慢(ごうまん)な考えを持っていることの証左である。説得力に欠ける自らの言葉に問題があると認めることから始めなければならない。

 首相が強い意欲を見せる憲法改正では、政党が具体的な改正案を示し、国民の理解を深める努力を重ねる中で「与党、野党といった政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られると確信している」と強調した。今国会での自民党案の提示については世論調査で反対が賛成を上回っており、公明党にも根強い抵抗感がある。野党の反発も必至だ。現段階で合意形成の見通しは立っておらず、首相による独善的で前のめりな言動は看過できない。

 北朝鮮問題を巡っては、金正恩朝鮮労働党委員長との直接会談に強い意欲を示し、「あらゆるチャンスを逃さない」と改めて発言したが、拉致、核、ミサイル問題への具体的な方策は示さなかった。ロシアに対しては「プーチン大統領との信頼関係の上に、領土問題を解決する」と抽象的な表現にとどまった。描く戦略が見えない以上、首相が掲げる「戦後日本外交の総決算」はイメージ先行だと言わざるを得ない。

 臨時国会の審議では新閣僚の力量も問われるが、早くも適格性を疑われる不祥事が明らかになった。片山さつき地方創生担当相の口利き疑惑が週刊文春に報じられるなど「政治とカネ」に絡む問題が続出している。野党側は予算委員会での集中審議を求め、問題をただす構えだ。

 追及姿勢を強める野党の責任も大きい。通常国会では、対決路線の立憲民主党と「対決より解決」を掲げた国民民主党で足並みが乱れた。野党が主導権争いに終始しているようでは、巨大な与党に対峙(たいじ)できない。衆参両院で野党第1会派になった立民が中心となり、野党の連携を図る必要がある。与野党が健全で徹底した論戦を交わすのは国会の責務であると各議員は肝に銘じなければならない。

 

首相所信表明 民意に向き合う政治こそ(2018年10月25日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 臨時国会がきのう召集され、安倍晋三首相が所信表明演説をした。先の自民党総裁選で連続3選を果たし、内閣改造も行った首相にとって「最後の3年」に臨む最初の国会である。

 衆参両院の巨大与党に支えられ、「1強政治」を築き上げた首相は、長期政権をどう締めくくるつもりか。

 案の定、首相は悲願の憲法改正に照準を定めた。その決意を改めて力説することが演説の眼目だったとさえ言えよう。

 演説の最終盤で「国の理想を語るものは憲法です」と切り出した首相は、「憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の皆さまの理解を深める努力を重ねていく」と宣言した。

 どの条項をどう変えるのか。具体的な提示こそなかったが、首相が自ら提唱した9条への自衛隊明記▽緊急事態条項▽参院選「合区」解消▽教育充実‐の4項目で構成する自民党の改憲案が想定されるのは言うまでもない。

 しかし、ちょっと待ってほしい。自民党内でさえ、改憲論議は活発だとは言い難い。先の総裁選では9条への自衛隊明記に真っ向から反論した石破茂元幹事長が地方票で善戦した。

 連立を組む公明党は改憲に慎重な姿勢を崩していない。野党は安倍政権の改憲志向そのものに強い警戒感を抱いている。

 世論も同様だ。内閣改造直後に共同通信社が実施した世論調査では、この臨時国会に自民党の改憲案提出を目指す首相の意向について、賛成は36%にとどまり、反対は48%に及んだ。

 党内外の情勢や国民の意識に比べ、首相の改憲論がいかに突出しているか‐ということだ。

 憲法論議は私たちも大切だと考える。しかし、多くの国民は今、改憲が最優先課題とは考えていない。その現実を首相は冷静に判断してほしい。

 無論、改憲は演説の一節であり、首相は内政外交の基本方針を語った。災害復旧・復興の加速、国土強靱(きょうじん)化、地方創生、全世代型の社会保障改革、激動する国際情勢に応じた戦後日本外交の総決算に意欲を示した。

 ただ、その中身は総裁選から内閣改造にかけて、首相が繰り返し表明してきた方針や政策の域を出ず、新味に乏しい。

 他方で、多くの国民が説明責任を果たしてほしいと望む森友・加計(かけ)学園問題には触れず、障害者雇用の水増し問題など官の不正にも言及しなかった。なぜか、と問いたい。

 「常に民意の存するところを考察すべし」という平民宰相、原敬の言葉を首相は引いた。まさに至言である。民意に向き合う政治を首相に求めたい。

 

臨時国会所信表明(2018年10月25日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

“仁”なく強権際立つ首相演説

 第4次安倍晋三改造政権が発足して初となる臨時国会での首相の所信表明演説を聞きました。外面は取り繕っても誠実さがない「巧言令色鮮(すくな)し仁」という言葉がありますが、首相の演説は文字通り「仁」がありません。首相や妻の昭恵氏が政治をゆがめたといわれてきた「森友」や「加計」の問題については一言も触れず、改造後の閣僚に続出している「政治とカネ」などの問題も言及しません。一方、憲法9条に自衛隊を書き込む改憲や消費税の10%への引き上げについては執念をむき出しにする強権ぶりです。安倍首相と政権の一日も早い退陣が求められます。

「もり・かけ」一言もなく

 30分近くの演説で首相は、「若者がチャレンジしやすい町を目指す」「全世代型社会保障改革」「ピンチもチャンスに変えることができる」「日本外交の総決算」「新たな時代のルールづくり」など、聞こえのいい言葉をちりばめました。しかし、5年以上たっても「アベノミクス」で日本経済は本格的に回復せず、所得も消費も落ち込んでいます。外交では、プーチン・ロシア大統領から領土問題の解決抜きの「平和」条約交渉を持ち掛けられてその場で反論しなかったことや、トランプ米政権に2国間の「自由貿易協定(FTA)」交渉を押し付けられた屈従外交など、破綻は隠しようがありません。

 何より見過ごせないのは、通常国会閉幕後に「今後も丁寧に説明する」と発言していた森友学園への国有地払い下げや、首相が関与して政治をゆがめたといわれる加計学園の獣医学部開設について一言もなかったことです。「森友」問題では、所管する麻生太郎財務相・副総理を改造政権でも留任させて批判を招き、「加計」問題では愛媛県が作成した記録での首相と学園理事長との面談があったのかが焦点になっているのに、全く触れないのは納得できません。

 改造政権で首相が起用した片山さつき地方創生相の国税庁への「口利き」疑惑や、宮腰光寛沖縄北方相や渡辺博道復興相らの「政治とカネ」をめぐる問題についても一切語りません。閣僚の任命責任に関わるのに、首相にはその自覚がありません。

 その半面、首相は来年10月から予定している消費税の10%への引き上げについては「経済に影響を及ぼさないよう、あらゆる施策を総動員する」というだけで見直す考えがないことを表明し、改憲についても「憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示す」と改めて強硬姿勢を示しました。沖縄の県知事、豊見城・那覇両市長の選挙で県民の反対の意向が鮮明になった米軍新基地建設についても、県民の心に「寄り添い」は言葉だけで、「結果を出していく」と強引な姿勢は変わりません。

 増税でも改憲でも新基地建設でも、民意を踏みにじる首相の姿勢はあまりに明らかです。

改造後も支持率低迷

 その首相が演説の最後で「常に民意の存するところを考察すべし」という原敬の言葉を引用したのは噴飯ものです。その言葉はそのまま首相にはね返ります。

 改造後の世論調査では内閣支持率が上昇せず、多くの調査で低下しています。民意を「考察」するなら、増税や改憲の強行ではなく、疑惑を明らかにして、退陣するしかありません。

 

首相所信表明 政策遂行の道筋見えない(2018年10月25日配信『熊本日日新聞』−「社説」)

 

 臨時国会が24日、召集された。安倍晋三首相は所信表明演説で「新しい日本の国創[づく]りをスタートする」と述べるとともに、北朝鮮やロシアとの間の諸問題を解決して「戦後日本外交の総決算」を実現すると強調。主要政策の着実な遂行に意欲を示したが、その道筋には不明確な部分が多い。
 今国会は、安倍首相の自民党総裁任期である今後3年間の政権運営が問われる機会となる。首相は、総裁選で連続3選を果たした勢いをてこに憲法改正論議の進展を狙うとともに、2018年度補正予算案や外国人労働者の受け入れ拡大に向けた入管難民法改正案の審議を最優先とする考えだ。
 一方、野党は森友・加計学園問題を引き続き追及する構えだ。決裁文書改ざんなど財務省の不祥事で責任が問われた麻生太郎副総理兼財務相の留任を問題視するとともに、新閣僚の資質や「政治とカネ」に絡む疑惑もただす。
 首相は憲法改正について、「与党、野党といった政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られると確信している」と期待感を示した。同時に「憲法審査会で政党が具体的な改正案を示すことで、国民の理解を深める努力を重ねていく」とも述べ、9条への自衛隊明記を含む自民党改憲案の提示に意欲をにじませた。
 与党は憲法改正の国民投票に関する規定を公職選挙法とそろえる国民投票法改正案の成立を目指している。だが、自民党が首相の意向に沿って改憲案の提示に踏み切れば、野党の反発は必至だ。
 社会保障制度に関しては「今後3年で全世代型に改革する」と宣言。65歳以上への継続雇用引き上げを検討するほか、「未来を担う子どもたち、子育て世代に大胆に投資する」とした。では、必要な財源はどこから捻出するのか。

 来年10月の消費税率引き上げへの備えについても、首相は「あらゆる施策を動員する」と触れるにとどめた。米中の貿易摩擦が激化する中、万全の経済対策を取れるか不安は尽きない。
 北朝鮮情勢を巡り、核・ミサイル問題と日本人拉致問題との包括的な解決に向けて「あらゆるチャンスを逃さない」としたが、先行きは不透明だ。ロシアとの北方領土交渉も「戦後日本外交の総決算」という言葉が先行し、中身が追い付いていない印象だ。拉致も領土問題も形になった成果は全く出ていない。
 外国人労働者の受け入れ拡大に関する入管難民法改正案については「即戦力となる外国人材を受け入れる。日本人と同等の報酬をしっかりと確保する」とした。ただ野党は「移民法と同じだ」としており、激論が予想される。
 「新たな国創り」や「戦後日本外交の総決算」と未来を語るのであれば、政権の過去をいったん総括することが必須だ。今回の演説で、看板政策のアベノミクスへの言及はなかった。過去の検証も説明もせず、新たなスローガンと目標を並べ立てるのでは目先を変えようとしているとしか見えない。

 

[所信表明演説] どんな国を目指すのか(2018年10月25日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 秋の臨時国会が召集された。安倍晋三首相は所信表明演説で「今こそ新しい日本の国創りをスタートさせる時」と強調して、重要政策を推進する決意を見せた。

 だが、首相の言う「新たな国創り」とは、どんな国を目指すのか理解しがたい。

 そんな曖昧なスローガンの下、進めようとしている政策の一つが憲法改正である。

 首相は自民党改憲案を憲法審査会に提示する意欲を見せ、国民の理解を深める努力を重ねる中から与野党の幅広い合意が得られることに期待感を示した。

 しかし、国民の改憲への期待感は小さく、首相の前のめりの姿勢とはかけ離れていると言わざるを得ない。世論を顧みないまま改憲論議が加速することを危惧する。

 共同通信社が今月実施した全国世論調査では、首相が自民党の憲法改正案を次の国会で提出できるよう取りまとめを加速すべきだという意向を示していることについて、48.7%が反対で、賛成は36.4%にとどまった。

 しかも、安倍内閣が最優先で取り組むべき課題(複数回答)として「憲法改正」を挙げた人は8.6%で、「年金・医療・介護」の38.7%、「景気や雇用など経済政策」の36.1%を大きく下回る。

 自民党案が提示されれば野党は反発を強めるに違いない。改憲は喫緊の課題ではない。国民が不安を抱いている社会保障や経済政策といった課題に力を注ぐべきだ。

 首相が演説で掲げた政策の多くは具体性に欠け、踏み込み不足は否めない。

 首相は社会保障制度について今後3年で全世代型に改革すると強調した。少子高齢化が進む中、制度改革が不可欠なのは論を待たない。だが、少子化や人口減といった長期的な課題の解決に向けた道筋は示さなかった。

 北朝鮮の拉致や核・ミサイル問題、ロシアとの領土や平和条約締結問題に関しては「戦後日本外交の総決算」を掲げたが、具体的な解決策は見えてこない。

 外国人労働者受け入れ拡大に向けた入管難民法改正案については、「移民政策への大転換になりかねない」との指摘があり、徹底した論議が必要だ。

 安倍政権の看板政策であるアベノミクスへの言及がなかったのはどうしたことか。未来を語るのであれば、これまでの政策の検証が欠かせない。

 こうした疑問や懸念に、野党側は野党第1党の立憲民主党を中心に、論議を深めてもらいたい。安倍政権は論戦を通じ、丁寧に答える姿勢が求められる。

 

きょう臨時国会 閣僚の資質も問われる(2018年10月24日配信『徳島新聞』−「社説」)

 

 臨時国会がきょう召集される。第4次安倍改造内閣が発足して、初めての国会論戦である。

 内外に山積する懸案に、どう対処すべきか。活発な議論を通じて、分かりやすく国民に示してもらいたい。

 まずは、災害復旧費を盛り込んだ本年度補正予算案の審議である。北海道の地震から1カ月以上、西日本豪雨からは3カ月以上もたつ。被災者の生活再建と復旧を急がなければならない。

 法案で焦点となるのは、農業や介護、建設など人手不足が深刻な分野で、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた入管難民法改正案である。

 単純労働分野も対象に、一定技能が必要な業務に就く「特定技能1号」と、熟練技能が必要な業務に就く「特定技能2号」の在留資格を新設するのが柱だ。

 高度な専門人材に限っていた政策を転換するもので、野党などから「事実上の移民政策」だとの指摘が出ている。

 改正案は、受け入れ先に対し、日本人と同等以上の報酬確保など一定基準以上の雇用契約や、生活支援に取り組む責務があると明記する。

 だが、幅広い分野で外国人が働く技能実習制度では、違法な長時間労働や賃金不払いが後を絶たない。そんな状況で、果たして外国人労働者の雇用環境や人権を守れるのかどうか。

 不法滞在や治安悪化を心配する声もある。人手不足の解消は喫緊の課題だが、拙速は許されない。審議を尽くすよう求めたい。

 新閣僚の資質や「政治とカネ」の問題も、厳しく問われよう。

 柴山昌彦文部科学相は教育勅語に関する発言で物議を醸し、片山さつき地方創生担当相には現金100万円の授受と国税庁への口利き疑惑が浮上した。宮腰光寛消費者行政担当相と平井卓也科学技術担当相は、談合に関わった企業から献金を受けたとされる。

 続投した麻生太郎副総理兼財務相は、「森友学園」の文書改ざんなど財務省不祥事の責任を取らないままだ。

 森友、加計学園を巡っては未解明な点が多く、国民の不信感は根強い。関係者の招致を含め、引き続き国会で追及する必要がある。

 安倍晋三首相は、今国会に自民党の憲法改正案を提出し、議論を加速させたい考えだ。党憲法改正推進本部や衆参両院憲法審査会の幹部に側近を配置し、態勢を整えた。

 しかし、強引な運営をすれば、与野党の溝は深まるばかりだろう。与党の公明党も首相から距離を置いている。幅広い合意形成が基本であることを、忘れないでほしい。

 来年10月の消費税率引き上げに備えた景気対策や、激しい攻防が予想される日米通商交渉への対応など、議論すべきテーマは多い。

 実のある内容にするには、政府の丁寧な説明が欠かせない。首相には真摯な姿勢が望まれる。

 

改憲論議 「数の力」はなじまない(2018年10月16日配信『岩手日報』−「論説」)

 

 自民党は、憲法改正条文案に関する公明党との事前協議を断念。24日召集が見込まれる臨時国会に、9条への自衛隊明記など今春とりまとめた4項目の党改憲条文案の単独提示を目指すという。

 公明党が協議に応じないのは、統一地方選や参院選を来年に控え、改憲に慎重論が根強い支持層に波風を立てたくないのが本音とされる。だが「憲法は与党協議にそぐわない」とする建前は、それ自体が道理と言えるだろう。

 法案や予算案ならいざ知らず、憲法に与野党対決の構図はなじむまい。国会の憲法論議が協調を重視してきたゆえんだが、自民単独提示の動きは、その流れを一変させる可能性をしのばせる。

 改憲を宿願とする安倍晋三首相(自民党総裁)は、改憲に関わる党の重要ポストから野党協調派を外し、改憲推進派の起用を進めている。

 先ごろ、衆院憲法審査会の与党筆頭幹事に、野党との協調を重んじてきた中谷元・元防衛相に代えて新藤義孝元総務相を充てる人事を内定したのは象徴的だ。与党筆頭幹事は、審議日程やテーマを巡って野党側との交渉を取り仕切る要の役どころ。新藤氏の憲法観は、安倍首相に近いとされる。

 同じく協調派とされる与党幹事船田元氏も交代の方向。改憲論議を自民主導、さらに言えば首相の意向に沿って進める態勢が整いつつある。

 党総裁選で3選された首相が、任期の仕上げとして改憲実現に躍起なのは衆目の一致するところだ。対抗馬として善戦した石破茂元幹事長も、憲法観や手続き論で違いこそあれ議論には前向き。党内で改憲機運が盛り上がっているのは確かだろう。問題は国民の多くが、それを冷めた目で見ている現状だ。

 世論調査では次期国会への改憲案提出に「反対」が多数を占める。社会保障制度の充実や経済政策などに関心が集中する中で、改憲への期待は高くない。

 安倍首相は、自ら提唱した9条への自衛隊明記案について、昨年2月の衆院予算委員会で「自衛隊が合憲であることは、明確な一貫した政府の立場だ。それは国民投票で否決されても変わらない」と述べた。何のための改憲か国民が戸惑うような発言には、改憲それ自体が目的化している印象が否めない。

 直近の共同通信調査によると、先の内閣改造と自民党役員人事を「評価しない」が多数派で、内閣支持率も下落。要因はさまざまに推察されようが、総じて信頼には至っていないということだ。

 森友・加計学園問題も依然くすぶる中、「数」で主張を押し通すような改憲論議を、国民は決して望むまい。

 

先週の不用意な発言×2(2018年10月16日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★週末、我が国の2人の要人の発言があったが、いずれも看過できぬものだ。1つは5日のテレビ番組で、首相・安倍晋三が2度先送りしてきた消費税率の10%への引き上げについて、来年10月に「予定通り行っていく考えだ」と述べたが、インドネシアを訪問している日銀総裁・黒田東彦は、消費増税が日本経済に与える影響について、「4年前の8%に引き上げた時より小さい。3分の1か4分の1程度にとどまる」という見方を示したことだ。

★黒田は一体、何を根拠に発言しているのだろうか。楽観論にもそれなりの根拠が必要だろうが、早速「実のところは、来年3月までに突然消費税10%引き上げの3度目の延期を発表し、首相主導で国民のために中止を英断させる」という説が流れ始めているという。なるほど、黒田は別の意味で楽観していたというのだ。自由党共同代表・山本太郎も「参院選前、不利な状況なら与党は『凍結』カードを出すはず。今10%への増税を強調しておけば、『凍結』カードは効果絶大。野党は『凍結』と寝ぼけてる場合ではない。庶民生活を考えれば、消費税は10%も凍結もない。まずは5%を野党共通の訴えに」とツイートしている。

★もう1つは、首相が自衛隊観閲式で憲法9条改正を「政治家の責任」と強調したことについて、共産党委員長・志位和夫が「政治的中立性が厳格に求められる実力部隊を前に、9条改憲の持論を述べる。自衛隊は首相の私兵ではない。閣僚に憲法順守・尊重を義務づけた憲法99条違反を繰り返すことは、絶対に認められない」とツイートするように、立場も役割も分かっていない首相の言動だ。わざわざ観閲式で順法義務を無視し、三権分立を理解しないで自衛隊を私兵のように扱い、憲法改正を訴えるのはいささか裸の王様の様相だ。それを持論として強行しようとするなら、今までの首相の支持者も離れるのではないか。いずれも不用意な発言だ。

 

安倍改憲・増税発言(2018年10月16日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

自説の固執が政治家の責任か

 自民党総裁3選、党・内閣人事後の、安倍晋三首相の暴走が、いっそう激しさを増しています。14日の自衛隊最大行事の一つ、観閲式で、「政治家の責任」とまで言って憲法9条に自衛隊を明記する改憲の執念を示したのに続き、15日には臨時閣議を開いて来年10月からの消費税増税を改めて表明しました。9条改憲も消費税増税も国民多数が反対しているだけでなく、与党や支持勢力の中にも批判がある首相の持論です。自説への固執が「政治家の責任」なのか。安倍政権を退陣に追い込み、改憲も増税もやめさせることが重要です。

国民は支持していない

 自衛隊の観閲式で9条改憲を表明した安倍首相の訓示は、閣僚の憲法尊重擁護義務も実力組織である自衛隊の政治的中立原則も踏みにじる、言語道断な発言です。首相は「全ての自衛隊員が、強い誇りを持って任務を全うできる環境を整える。これは、今を生きる政治家の責任だ」と言いました。首相は今の自衛隊員が、誇りを持って、任務を全うしていないとでも言うのか。憲法9条に自衛隊を明記する改憲は、安倍首相が昨年の憲法記念日に突然言い出したものです。憲法に自衛隊を明記すれば、戦力不保持・交戦権否認の9条2項が空文化・死文化し、自衛隊の無制限の武力行使に道を開くことになります。

 9条改憲の強行は、最新のJNNの世論調査でも52%が改憲案の国会提出に反対しているように、多くの国民が支持していません。自民党内でも正式決定できず、改憲案を発議する国会の憲法審査会では一切審議されていません。その改憲案を臨時国会に提示し、自民党総裁の任期中に強行しようと狙っているのが安倍首相です。「自衛隊員の誇り」を持ち出して自説を押し通す、首相の企てを許すことはできません。

 安倍首相が臨時閣議まで開いて強行を確認した消費税増税も、国民の消費や景気に与える影響が大きいことから、これまで安倍政権でさえ2回にわたって延期してきたものです。前回の増税の影響で消費不況が長引く中で強行すれば、暮らしと経済に重大な打撃を与えることは明白です。食料品などの税率を据え置く「軽減税率」の導入も、低所得者ほど負担が重い逆進性の緩和にも貧困と格差の解消にも役立たず大混乱を招くだけです。住宅や自動車への減税は一部の大企業を喜ばすものです。

 だいたい臨時閣議で首相が指示した消費減「対策」として巨額の資金を投じながら、増税するというのは矛盾です。首相の狙いは来年春の統一地方選や夏の参院選を控えて、早めに打ち出して国民の反発をかわそうという思惑でしょうが、そんなことで国民はだまされません。

破綻した政権の退陣を

 日本共産党の志位和夫委員長は14日の第5回中央委員会総会の結語でこうした動きにふれて、安倍首相が狙う改憲と消費税増税をめぐる「激しいたたかいが本格的に始まる」と表明しました。

 安倍首相に9条改憲と消費税増税への固執をやめさせるとともに、国民運動の力、市民と野党の共闘の力、そして日本共産党の躍進によって、退陣に追い込むことが必要です。破綻した安倍政治を終わらせ、希望ある新しい政治を切り開くため力を尽くすときです。

 

改憲には幅広い合意づくりが必要だ(2018年10月14日配信『日本経済新聞』―「社説」)

 

自民党が今月下旬に始まる臨時国会に憲法改正案を提示する構えをみせている。憲法に自衛隊の存在を明記すると訴えた安倍晋三首相が総裁選で勝利し、党内調整は決着したと首相側近は語る。本当にそこまで時機は熟したのか。日本の針路にかかわる課題であり、丁寧な論議が必要だ。

改憲が安倍首相のかねての悲願なのは周知のことだ。長期政権の政治的な遺産にしたいとの思いもあろう。9月の総裁選直後の記者会見でこう力説した。

「改正案の国会提出に向けて対応を加速する」

これを踏まえ、今月初めの内閣改造・自民党役員人事で、憲法にかかわる役職は、首相と距離が近い議員で占められた。憲法改正推進本部の本部長に下村博文氏、国会提出を判断する総務会の会長には加藤勝信氏が就いた。

以前の推進本部は「憲法族」と呼ばれる与野党協調路線のメンバーが多かった。野党第1党が反対のまま、国民投票に臨めば否決されかねない、として改憲派でありながら議論の急加速にむしろブレーキをかけてきた。安倍首相はこうした対応にずっと不満を抱いていたという。

 だから首相直轄ともいえる体制にしたようだが、それで改憲が近づいたかとなると首をかしげる。連立政権を組む公明党は事前協議を断った。自民党があまりに前のめりになると、与党の結束を損ない、さまざまな政策遂行に支障が生じかねない。

 自民党内をみても、先の総裁選では安倍首相3選への批判票が予想外に多かった。これで一件落着といえるのか。憲法改正の中身と同時に、進め方も再度、徹底的に論議してしかるべきだ。憲法になじみの薄い国民に論点を知ってもらう効果も期待できる。

 国会では現在、いわゆる改憲勢力が国民投票の発議に必要な衆参両院の3分の2の多数を占める。理屈のうえでは改憲の環境は整ったようにみえる。

 ただ、いまの選挙制度は第1党に有利にできており、自民党の議席占有率ほど民意が改憲に傾いているのかは即断できない。単純過半数を問う国民投票で改憲案が否決されれば、安倍首相の政治責任は免れない。

 憲法改正は大事な課題であり、幅広い合意づくりが求められる。耳ざわりな声にも耳を貸す。急がば回れ、である。

 

乗降客は1日平均約8万2千人だから、東京の鉄道駅の中では決して多い方ではない…(2018年10月13日配信『西日本新聞』−「春秋」)

 

 乗降客は1日平均約8万2千人だから、東京の鉄道駅の中では決して多い方ではない。けれども、朝夕のラッシュ時は構内が大混雑してホームから人があふれそうになる

▼東京メトロ(東京地下鉄株式会社)の永田町駅。混雑の原因はここで交錯する大量の乗り換え客だ。すぐ隣に赤坂見附駅があって構内がつながっているため、五つの路線(有楽町線、半蔵門線、南北線、銀座線、丸ノ内線)が利用できる

▼同メトロが運営するのは計9路線。その半数以上が接続するのはここだけだ。電車の行き先は池袋、新宿、渋谷、銀座、上野、浅草…と多方面に及び、乗り換えは“自在”の感がある

▼永田町といえば政治の中枢。その姿にふさわしい駅のようにも見えるが、実態は逆か。国政を担う安倍晋三首相らの姿勢は「憲法改正」の1本路線。近く召集される臨時国会で9条に自衛隊の存在を明記する改憲案などをまとめ、来年の国会で発議する算段のようだ

▼しかし最近の世論調査を見ても、政治が優先して取り組むべき課題で上位に並ぶのは「年金・医療・介護」「景気・雇用」「子育て・少子化」。改憲は下位にとどまっている

▼東京では郊外を走る私鉄と地下鉄の相互乗り入れが進んでいる。それを利用して毎日、満員電車で遠方から都心に通う会社員らも多い。そんな人々の暮らしをいま一度、しっかり見つめてはどうか。無論、行き先変更は歓迎する。

 

自民憲法新体制 合意形成へ真摯に努力重ねよ(2018年10月12日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 憲法論議を主導する自民党が新たな体制を整えた。国会での議論の停滞を打破するには、より多くの党との連携を図らなければならない。

 安倍首相は、憲法改正推進本部長に側近の下村博文・元文部科学相の起用を決めた。党内手続きをにらみ、総務会長には重用する加藤勝信氏を充てた。

 先の総裁選で、首相は、自衛隊を明記する9条改正を優先するよう主張した。日本の平和と安全を守る自衛隊に対する違憲論を払拭ふっしょくする意義は大きい。

 首相の9条改正案に異論を唱えた石破茂・元幹事長は総裁選で敗れたが、混乱が後を引かないよう党内調整を進めてもらいたい。

 自民党は近く召集される臨時国会で、改憲案を提示する方針だ。衆参両院の憲法審査会での議論に委ねたいとしている。

 首相は、改憲案について公明党との事前協議を見送った。両党で意見をすり合わせることが望ましかったものの、公明党が消極姿勢を崩さなかったためだ。

 公明党の協力がなければ、改正論議は頓挫する。

 現行の憲法条文を残し、必要があれば追加する「加憲」が公明党の基本姿勢だ。首相の9条改正案は、現行条文に自衛隊の根拠規定を加えるもので、公明党の考え方に近い。自民党は丁寧な説明で、理解を求めるべきだ。

 野党は今春以降、政局と絡めて、憲法審査会での実質的な審議に応じてこなかった。

 与党は、共通投票所の設置などを認める国民投票法の改正を呼び水に、審査会での憲法自体の論議に進みたい考えだ。

 立憲民主党など野党は、国民投票に関するテレビCMの規制強化の必要性などを理由に、難色を示す。憲法改正論議を先送りするのが狙いではないか。

 憲法のあり方を真摯しんしに論じるのが国会の責務である。審査会の機能不全を招く対応は疑問だ。

 国民民主党の玉木代表は、地方自治などの論点について積極的に議論する立場を取っている。党内論議を進め、具体的な見解をまとめるべきである。

 国会は2000年以降、9条改正や緊急事態対応などの議論を重ね、問題意識を共有してきた。その土台を生かして、改正の議論を深める時期に来ている。

 国会論議を推し進めるには、国民の理解が欠かせない。自民党は国民向けの広報活動に力を入れ、改正の意義を分かりやすく訴えることが求められる。

 

憲法の岐路 自民の新体制 数の力を使うつもりか(2018年10月11日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 宿願とする憲法の改定に向け、安倍晋三首相が自民党内の体制固めを進めている。

 改憲を望む声が国民に多いとは言えない中での首相の積極姿勢である。今後には厳しい目を注ぎ続けなければならない。

 具体的な改憲案をまとめる憲法改正推進本部の本部長に下村博文氏、党の最高意思決定機関である総務会の会長に加藤勝信氏を起用した。いずれも首相の側近だ。

 野党との協議を取り仕切る衆院憲法審査会の与党筆頭幹事、中谷元氏と、与党幹事の船田元氏は交代させる。野党との協調を重視してきたコンビである。首相主導で進める意図が鮮明だ。

 首相は先の総裁選について「改憲が最大の争点だった」との考えを示している。会見では「自民が(改憲への)リーダーシップを取る」「次の国会に改憲案を出すべきだ」などと述べた。

 首相の言うように、総裁選を経て議論を前に進める環境は整ったか。答えは「ノー」だ。

 理由は第一に、自民党内でさえ考えが一致していないことだ。総裁選で石破茂氏は、「国民の理解のないまま(改憲案を)国民投票にかけてはいけない」と首相を批判した。その石破氏に党員・党友票の約45%が投じられている。首相の姿勢を危ぶむ声が根強いことをうかがわせる。

 第二に連立を組む公明党の理解も得られていない。首相が改憲への意欲を示す度に、公明は「われわれとしては考えていない」などけん制してきた。山口那津男代表は最近「与党の合意形成はない」と述べ、与党協議そのものから距離を置いている。

 そして第三に国民世論である。各種調査では慎重論が多い。

 そもそも、いま改憲しなければならない緊急の理由は存在しない。憲法学者の間に自衛隊違憲論が根強いなど、首相が挙げる理由は説得力が乏しい。自衛隊の発足以来、その存在を「合憲」としてきたのは自民ではないか。

 公明との協議を見限って改憲案を国会に単独で提示する―。先日は自民幹部がそんな考えを示している。数の力を使うつもりとすれば問題は大きい。憲法論議の進め方として不適切だ。

 憲法を変えるかどうかを決める権利は国民にある―。首相がよく使う言い方である。

 国民が改憲を望んでいるか、首相がまず自問すべきだ。

 

[臨時国会と改憲]急ぐ理由どこにもない(2018年10月11日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 内閣改造後初めての臨時国会が今月下旬、召集される。 政府は、西日本豪雨や北海道地震などに対応するため、補正予算案を提出し、早期成立をめざす方針だ。

 自民党総裁選で憲法改正への意欲を繰り返し明らかにしてきた安倍晋三首相が執着しているのは、自民党がまとめた憲法改正案の提出である。

 首相本人が前のめりになればなるほど野党は反発し、国民は警戒する。与党の中でさえ合意形成は進んでいない。

 自民党総裁選では、石破茂・元幹事長との考え方の違いが表面化した。衆院憲法調査会の幹事を務める船田元氏は首相の姿勢に「同調できない」として総裁選で白票を投じた。

 自民党は当初、公明党と事前調整を進める意向だったが、山口那津男代表は「憲法審査会での議論が基本」だと主張し、与党協議を否定した。

 創価学会の中には9条改憲に対する警戒心が強い。沖縄県知事選で問われたのも「平和の党」としての存在意義だった。

 各種世論調査でも憲法改正の優先度は極めて低い。共同通信社が9月に実施した世論調査では、臨時国会への党改憲案提出に51%が「反対」と回答した。

 安倍首相の姿勢が改憲の「私物化」だと批判されるのは、こうした状況を無視して強引に改憲を進めようとしているからである。

 改憲を発議するのは国会であって首相ではない。首相が気負って旗を振れば振るほど「安倍改憲」への疑問と懸念は深まるばかりだ。

■    ■

 一体、どのような深謀遠慮が働いているのか。

 安倍首相は、臨時国会に自民党の憲法改正案を提出し、来夏の参院選前に国会発議するスケジュールを描いていたといわれる。

 党役員人事で安倍首相は、側近の下村博文・元文部科学相を党改憲本部長に起用するなど改憲シフトを敷いた。

 だが、憲法改正原案を臨時国会に提出するのは現状では不可能である。

 首相が考えているのは、衆参両院の憲法審査会に4項目の自民党改憲案を提示し、その中で与野党が協議し、必要があれば一部修正をした上で、憲法改正原案を策定する、という流れだ。だが、立憲民主党などの野党は、こうした手順にも反対している。

 間違っても、来年の参院選前に発議したり、参院選と同時に国民投票を実施するというような、強引な改憲が行われてはならない。

■    ■

 臨時国会では、憲法改正の手続きを定めた国民投票法改正案をめぐっても、激しい議論が展開されそうだ。

 現行法は、投票日の2週間前まではテレビやラジオの広告・宣伝のためにいくら金を使っても構わない仕組みになっている。資金量を誇る改憲派が有利なのは明らかだ。

 憲法9条の1項、2項を維持した上で新たに自衛隊を明記する改憲案は、成立したあと、憲法解釈がとめどなく広がっていく可能性が高い。

 改憲をめぐる問題はあまりにも多く、首相の意向で改憲を急ぐのは極めて危うい。

 

国民投票という劇薬(2018年10月10日配信『東京新聞』―「私説・論説室から」)

 

 英国と欧州連合(EU)の離脱交渉が行き詰まっている。「合意なき離脱」の場合、企業撤退などの経済的打撃だけでなく、英国からEU加盟国への航空便運航認可手続きの煩雑化など、影響は計り知れないという。離脱を決めた2年前の国民投票なかりせば、との思いを強くする英国民は多いはずだ。

 人ごとではない。自民党総裁選で3選を果たした安倍晋三首相は、憲法改正の国民投票をと意気込む。民意を直接問う体裁の国民投票だが、危うさがいっぱいだ。国民投票法のCM規制は投票14日前からの放映を禁じているだけ。民放連もCM量の自主規制はしない方針だ。資金があれば、国会発議から60〜180日の投票運動期間中の大半で、CMを活用して改憲を刷り込むことができる。

 英国の国民投票では有料のCMが禁止されている。それでも、「移民が社会保障を食いものにしている」など根拠のあやふやな言説が飛び交い、離脱賛成を後押しした。カネをかければ、もっとバラ色の「離脱後」を脚色することもできただろう。

 ドイツには国民投票制度はない。ヒトラーに全権を委ねる「総統職」設置などが、国民投票での圧倒的な支持でお墨付きを得たナチ時代への反省からだ。国民投票は劇薬だ。英国の苦境を肝に銘じたい。もっとも、EU離脱撤回への道を開くやり直し国民投票は、良薬になるかもしれないが。

 

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