沖縄知事選関連記事

 

玉城デニー沖縄知事選圧勝と辺野古問題

 

第4次安倍改造内閣と改憲問題

 

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初当選を果たし、支持者とカチャーシーを舞う玉城デニー氏=30日午後9時35分、那覇市古島の教育福祉会館(2018年10月1日配信『琉球新報』)

 

「優勢」の報道を受け、「ひやみかち・うまんちゅの会」の呉屋守將会長(前列左から2人目)と握手する玉城デニー氏(中央)=30日午後8時24分、那覇市古島・教育福祉会館(2018年10月1日配信『沖縄タイムス』)

 

当選から一夜明け、交差点を行き交う人や車に手を振る玉城デニー氏=沖縄県沖縄市で2018年10月1日午前7時49分(2018年10月1日配信『毎日新聞』)

 

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沖縄県知事選で過去最多(2018年10月1日配信『琉球新報』)

 

得票率にして11.2%もの差

(2018年10月1日配信『朝日新聞』)

 

(2018年9月30日配信『毎日新聞』)

 

 

沖縄の肝心に火をつけた 玉城デニー氏 県知事選勝利 【金平茂紀の新・ワジワジー通信(38)】(2018年10月16日配信『沖縄タイムス』)

 

TBS報道記者、キャスター、ディレクター

1953年北海道生まれ。TBS報道記者、キャスター、ディレクター。2004年ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に「ホワイトハウスから徒歩5分」ほか。

 

 まさに歴史的瞬間だった。9月30日の夜9時半すぎ。那覇市古島の教育福祉会館の2階ホールは、NHKが玉城デ二ー氏の当選確実を報じるや、歓喜の拍手とカチャーシーと「デニー・コール」で沸き立った。一方の候補の選対開票会場、ハーバービュー・ホテルの大宴会場に陣取った佐喜真淳陣営は敗北に沈んだ。何から何までが対照的だった。 

調べてみると、玉城陣営の会場レンタル費用は実質8時間で6万円、佐喜真陣営の会場費はそれとは一桁違う金額だった。選挙中、県民所得が全国最低だの、最低賃金がどうのと訴えていたのは佐喜真陣営だったのだが…。会場に詰め掛けていた人々も両陣営では大きな違いがあった。佐喜真陣営は与党幹部や地方議員、その関係者らがほとんど。一方の玉城陣営には多種多様な人々が集っていた。組織・団体VS草の根。

 実は、あの夜、朝日新聞、QAB(琉球朝日放送)が、午後8時の投票締め切りとほぼ同時に「玉城デニー氏当選確実」と速報した。これには僕も驚いた。僕らが身内で「ゼロ打ち」「冒頭(当確)」と呼んでいるこの速報は、よほどの確度のある裏付けがなければ打てない。それが今回はあった。

 だがその後90分にわたって沈黙が続いた。東京の政治部報道では政権べったりの色彩が強いNHKが、午後9時33分に玉城氏当確を打った。その瞬間、最前列の玉城氏めがけて後方からお揃(そろ)いのデニT(玉城デニー氏の顔をあしらったTシャツ)を着た若者たちが駆け寄ってきてカチャーシーの乱舞が始まった。デニー氏も体全体で喜びを表現するように踊っていた。ああ、ここには音楽もダンスもあるなあ。長い間、硬直した「反対運動」に欠けていた文化のチカラがあった。運動は楽しくかつ魅力がなければ人々は集わない。そう言えば、佐喜真陣営が流していた選挙応援ソングは候補者と何だかマッチしていないなあ、と僕は思った。音楽は玉城氏自身が若い頃から虜(とりこ)になっていた得意分野だ。何しろコザのロック少年だったのだから。

 大昔に大ヒットしたロックの名曲にドアーズの「Light My Fire」というのがある。邦題がなかなかよくて「ハートに火をつけて」だ。デニー氏に「この歌好きでしょ?」と聞いたら「大好きです」との答えが返ってきた。僕は、この「ハート」という語を玉城デニー氏がよく口にする「ちむぐくる(肝心)」(本当に心に大切に思っていること)という語に置き換えて、玉城氏に謹呈したい。今回の玉城氏の勝利は、沖縄の人々のちむぐくるに火をつけたことが勝因だと僕は思っているのだ。

 識者たちが訳知りに勝因敗因分析を開陳するだろう。故・翁長雄志前知事が辺野古新基地建設阻止の公約を命を削って守り抜いた、政治家としての究極的な清廉さを、沖縄の人々が忘れなかったこと。公明党の支持母体、創価学会・沖縄の人々が、辺野古新基地建設反対を明言しない佐喜真氏に強い不信感を抱き、3割以上の学会員がデニー候補に票を投じたとみられること。投票日間近に台風24号が沖縄を直撃し、期日前投票を促し、結果的に浮動票の掘り起こしに大いに作用したこと。小泉進次郎衆院議員や菅官房長官、小池百合子東京都知事、片山さつき参院議員といった中央の著名政治家らが相次いで佐喜真氏応援に駆けつけて、応援すればするほど、かえって反発を招いたこと。とりわけ、沖縄だけ携帯電話料金4割引きなどという県民を愚弄(ぐろう)するような言辞をもてあそんだこと…。

 だが、もう少し広い視野から今回の選挙結果の意味をとらえ返してみようではないか。決定的に重要なのは、候補者の人品骨柄だった。中央政界とのパイプを誇示する「へつらい型」の生き方と、沖縄のことは沖縄で決めるという「あらがい型」の生き方。後者は、いばらの道を歩むことになるかもしれないが、フェアな、誠実な生き方ではないのか。沖縄の有権者の多数派はそのような生き方を選んだのだ。

 玉城デニー氏は父親が米軍基地の兵士だった。その父親はデニー氏が母親のおなかの中にいる時に単身帰国した。だからデニー氏は父親の顔をみたことがない。母子家庭で育ち、地域住民の愛情の中で育てられた。冷徹な事実がある。玉城デニー氏は米軍基地が沖縄になかったならば、この世に生を受けていなかった。その彼が、沖縄の地にこれ以上の新たな米軍基地はいらないと主張することの「重み」を、本土に蝟集(いしゅう)する、歴史を知らぬ政治家たちはよくよく考えた方がよい。「ボーっと生きてんじゃねえよ!」とチコちゃんに喝をいれてもらいたいくらいだ。多人種、多文化、チャンプルー性、政治手法の多様性と柔軟性を、身をもって生きてきた玉城デニー氏を、沖縄県民は知事に選んだ。有権者の判断力と勇気に敬意を表する。なぜならば、僕らはその沖縄をいたぶり、いじめ、脅し続ける政権を、知らんぷりをする国民とともに、選挙を通じて勝たせ続けている本土の人間だからだ。

 さて、ご報告。2008年8月以来、東京から、そしてアメリカから本紙に原稿を送り、掲載されてきた「ワジワジー通信」の連載(「ニューヨーク徒然草」「ワジワジ通信」「新・ワジワジー通信」)は、今回をもって終了することになりました。長年の皆さまのご愛読とご支援に心から感謝いたします。沖縄の取材現場で「ワジワジー、読んでますよ」と声をかけられた経験が幾度となくあり、随分と僕自身励まされました。それが取材を続ける糧となりました。本当にありがとうございました。

 半世紀近く前に加藤周一という希代の知識人が書いていた言葉が今は心に染みます。「私の民主主義の定義は、実践的な目的のためには…甚だ簡単である。強気を挫き、弱きを援く」(朝日新聞1972年1月21日夕刊)。「ワジワジー通信」は、考えてみれば、そのような思いと共感するところから書き継いできたように思います。ですから、今回の玉城デニー氏の知事選勝利は、「ワジワジー精神」の勝利だと、僕はひそかに思っているのです。「ワジワジー通信」をお読みいただいた読者の皆さんとは、また別のところでお目にかかるかもしれません。なぜならば、僕はジャーナリストなので、口をつぐんでいる気はさらさらありませんので。皆さん、新時代の沖縄を力強く作っていってください。またお目にかかりましょう。さようなら。(テレビ報道記者・キャスター)

 

オール沖縄と野党共闘 新しい発展へ(2018年10月13日配信『しんぶん赤旗』)

 

デニー知事 共産党にあいさつ

志位委員長ら国会議員団が歓迎

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知事選で若者がはやらせたポーズをとるデニー沖縄県知事(中央)と党国会議員団=12日、国会内

 沖縄県知事選挙(9月30日)で名護市辺野古の米軍新基地建設反対を訴え、県知事選として過去最多得票で当選した玉城デニー知事が12日、国会内の日本共産党控室を訪れ、志位和夫委員長をはじめ党国会議員団に就任あいさつをしました。

 「おめでとうございます!」。デニー知事が党控室に到着すると、総出で待ち構えていた党国会議員団は笑顔で花束と盛大な拍手を送りました。デニー氏は「ありがとうございます」と顔をほころばせながら一人一人と固い握手を交わし、喜びの熱気とカメラのフラッシュに包まれました。

 志位氏は、今回の県知事選で辺野古新基地建設に反対する民意がはっきり示されたと強調し、「デニー知事を先頭とするオール沖縄のたたかいを共産党として衆参国会議員団あげて支えていきたい」と連帯のあいさつを送りました。

 デニー氏は、自由党議員時代に国会対策委員長として野党共闘に取り組んできた経験を振り返り、「県知事選につながった強力な信頼関係はとても大きかった」と述べました。

 志位氏は、「オール沖縄のたたかいと、市民と野党の共闘がリンクした状況がつくられた、新しい発展だと思います。これまでデニーさんが国会で一緒に共闘を進めてきたその力が、今度はオール沖縄をプッシュします。ぜひ両方の力をあわせて、誇りある豊かな沖縄をつくる仕事を一緒にやっていきたい」と語りました。

 デニー氏は、来年の参院選や衆院沖縄3区の補選などにふれ、「皆さんで将来の政権交代を目指す歩みに、私なりに加われることができればいいと思っています」と応じました。

 同日に行った安倍晋三首相と菅義偉官房長官との懇談について、辺野古新基地建設に反対する民意を訴えつづけることを表明。「アクションするためには皆さんのお力添えが必要です。また今後ともよろしくお願いいたします」と話しました。

 

辺野古移設「変わらない」と安倍首相 玉城知事と初会談(2018年10月12日配信『朝日新聞』)

 

沖縄県の玉城デニー知事(左)と握手する安倍晋三首相=2018年10月12日午後1時33分、首相官邸

 

 沖縄県知事就任のあいさつで上京中の玉城デニー知事は12日午後、首相官邸で安倍晋三首相と初めて会談した。玉城氏は米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する考えを伝え、「早急に話し合いの場を設けていただきたい」と求めた。

 会談には菅義偉官房長官が同席した。会談終了後、記者団の取材に応じた玉城氏によると、安倍首相は「辺野古移設を進める政府の立場は変わらない」と応じたという。

 玉城氏は知事選で辺野古移設反対を前面に掲げ、移設計画を推進する安倍政権が全面支援した佐喜真淳前宜野湾市長を大差で破った。

 

玉城知事「辺野古は認められない」 安倍首相と初会談(2018年10月12日配信『毎日新聞』)

 

 玉城デニー知事は12日午後、首相官邸で安倍晋三首相、菅義偉官房長官と就任後初めて会談した。玉城知事は会談の冒頭、知事選を通じて「辺野古新基地建設は認められないという民意が改めて示された」と基地建設に反対する立場を伝え、「安全保障の負担は全国で担うという問題であり、民主主義の問題であるという認識のもと、早急に話し合いの場を設けていただくことを期待したい」と要望した。

 また「米軍普天間飛行場の5年以内の返還は辺野古移設とは関わりなく実現すべきだ」とし、普天間飛行場の負担軽減推進会議の開催や、米側との協議を求めた。

 安倍首相は沖縄に多くの米軍基地が集中している現状について「是認できるものではない。県民の気持ちに寄り添いながら基地負担軽減に向けて一つ一つ着実に結果を出していきたい」と語った。

 

玉城デニー沖縄県知事が与野党行脚 ただし維新は“素通り”(2018年10月12日配信『産経新聞』)

 

 沖縄県の玉城デニー知事は12日、国会内で、与野党会派へのあいさつ回りにも出向いた。知事選で玉城氏を支援した立憲民主党や国民民主党などへの訪問は祝福ムードに包まれたが、玉城氏は、対抗馬を推薦した日本維新の会の控室には足を運ばなかった。

 立憲民主党へのあいさつでは、枝野幸男代表が「県民も翁長雄志前知事も喜んでいる」と満面の笑みで祝意を伝えた。玉城氏は「絶対に守るべきものは守ろうという力をいただいた」と応じ、「立憲民主党の短期決戦のノウハウが、今回の知事選で見事に生かされた」と謝意を述べた。

 国民民主党の控室では、玉城氏と安倍晋三首相、菅義偉官房長官との面会が話題となった。玉城氏は「首相は柔らかい雰囲気だったが、菅氏は事務方として(米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設は)進めていく姿勢は崩していなかった」と明かした。玉木雄一郎代表は「沖縄の民意を体現しているデニーさんを無視できないと思ったんでしょう」と持ち上げた。

 知事選を支えた「オール沖縄」の中心的役割を担った共産党への訪問では、玉城氏が「昼夜を分かたず皆さんが頑張ってくれた」と感謝の言葉を述べた。志位和夫委員長は「共産党としては、玉城氏を先頭とする大きな戦いを衆参国会議員団を挙げて支えていきたい」とエールを送った。

 最後は、「政治の師」と仰ぐ自由党の小沢一郎代表のもとを訪れた。

 小沢氏は玉城氏を勝利に導き、中央政界でも求心力を取り戻しただけに、まな弟子の凱旋(がいせん)を格別の思いで迎えた。玉城氏が「まだまだ引退できませんね」と語りかけると、小沢氏は「よかった、よかった」と笑顔で応じた。

 

玉城デニー沖縄知事「腹くくって」古巣自由党に凱旋(2018年10月12日配信『日刊スポーツ』)

 

 

玉城デニー沖縄県知事は12日、衆院議員時代に所属した古巣・自由党の国会内にある控室を訪れ、小沢一郎共同代表ら衆参の全所属議員の祝福を受けた。

1カ月前の9月13日に告示された知事選に出馬し、国会議員は自動失職となった玉城氏だが、知事選では安倍政権が全面支援した候補に約8万票の差をつける大勝。県知事となって、故郷ならぬ、古巣に錦を飾る“凱旋(がいせん)”訪問となった。

玉城氏は衆院議員時代、小沢氏と行動をともにし、幹事長として小沢氏を支えた。出馬を決意して小沢氏に相談した際、「最後に決めるのは自分だ」と背中を押され、「ここまできたらやるしかないと思った」と、当時を振り返った。「腹をくくって仕事をして、もしいやなことがあったら、ここ(控室)に逃げ込んできます」と軽口をたたくと、森裕子参院議員は「だめよ」と、ピシャリ。木戸口英司議員が「男衆は優しく迎えますから」と、フォローする場面もあった。

小沢氏は「本当によかった。よかった。これからも頑張れ」と笑顔で知事選の労をねぎらい、約10分間の面会中も、「良かった」を繰り返した。

玉城氏に「パイレーツになった気持ちで、大海原にこぎだそうという気持ちだ。沖縄のビジョンは、日本ではなく世界。私たちの船出は始まったばかりです。代表、まだまだ   

引退できませんよ」と水を向けられるとさらに表情を崩し、満面の笑みで応えた。

これに先立ち、立憲民主党や国民民主党など野党各党にもあいさつ回りを行った。

 

「新基地阻止の遺志継ぐ」 玉城知事、沖北相に反対明言(2018年10月10日配信『東京新聞』)

 

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翁長雄志前沖縄県知事の県民葬で式辞を述べ、席に戻る玉城デニー知事(手前)。玉城氏の右は菅官房長官

 

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の移設に伴う名護市辺野古(へのこ)への新基地建設に反対し、8月に膵(すい)がんのため67歳で死去した翁長雄志(おながたけし)前知事の県民葬が9日、那覇市の県立武道館で営まれた。玉城(たまき)デニー知事は式辞で「(翁長氏は)埋め立て承認の取り消しなど、あらゆる手法を駆使して新基地阻止に取り組んだ。県民は遺志を引き継ぐ」と重ねて表明。就任後、安倍政権の閣僚では初となる宮腰光寛沖縄北方担当相との会談にも臨み、新基地に反対する考えを直接伝えた。 

 県民葬は県や県議会などでつくる実行委員会の主催で、県関係者や一般県民ら計約3000人が参加。政府からは菅義偉(すがよしひで)官房長官や宮腰氏らが参列した。

 玉城氏は先月30日の知事選で、翁長氏の後継として立候補。安倍政権が推す候補に完勝した。式辞では新基地阻止に向け、政府と対峙(たいじ)した翁長氏について「沖縄の民意を強く訴え続け、多くの共感を得た」と紹介。米軍輸送機オスプレイの沖縄への配備撤回を求める超党派の要請行動にも触れ「これら『オール沖縄』の取り組みは、翁長さんがいなければ実現することはなかった」とたたえた。

 菅氏は政府代表として安倍晋三首相の追悼の辞を代読し「翁長氏は沖縄に基地が集中する状況を打開しなければならないという強い思いをお持ちだった」と振り返り「沖縄県に大きな負担を担っていただいている現状は到底是認できるものではない。基地負担の軽減に向けて一つ一つ確実に結果を出していく決意だ」と強調した。新基地問題への直接の言及はなかった。

 式典後、玉城氏は県庁で宮腰氏と会談。「新基地建設には反対する」と明言し、計画断念や、国から交付される沖縄振興費の年間3000億円以上の確保など21項目の要望書を手渡した。宮腰氏は基地問題に触れず「まずはしっかり受け止め、事務方でしっかり検討させたい」と答えるにとどめた。

 玉城氏は知事選で支援を受けた立憲民主、国民民主、共産など野党6会派の国対委員長らとも県庁で会い、基地問題などの課題解決へ連携強化を確認した。

 

沖縄知事選のフェイク監視(2018年10月8日配信『東京新聞』)

  

 国政与野党の代理戦の様相を呈し、主要2候補の陣営が県土を2分する激戦を展開した9月末の沖縄県知事選。熱波は会員制交流サイト(SNS)など電脳空間にも及び、仁義なき“論戦”が繰り広げられた。

 発端は告示前の同月初旬。立候補予定の2人の支持率に関し、複数の「世論調査」結果がメールなどで出回った。どれも、一方が他方を大差で上回るとの内容だ。

 地元紙の琉球新報は、調査元とされる新聞社や政党に確認。「そもそも調査もしていない」「事実無根」との回答を得て8日朝刊で「虚構のダブルスコア」と報じた。

 その後も、SNSなどの知事選関連情報を検証する記事を掲載。選挙戦の最中に引退した県出身の歌手安室奈美恵さんが特定候補を支持しているとして拡散された投稿には、最初の投稿者を突き止めた上、名指しされた陣営にも取材し偽(フェイク)と判定した。

 候補者が犯罪に関わったかのような真偽不明情報が、影響力の大きい首長経験者や国会議員のシェアによって広がった現象も追い、名誉毀損(きそん)などに当たる可能性を指摘した。

 「真偽の判別には困難もあったが、投票前に有権者に正しい事実を伝えなくてはと考えた」と知事選取材班の滝本匠(たくみ)キャップ(45)。沖縄タイムスも同様の取り組みを見せ、疑わしい情報60件の検証結果を公表した。報道機関の新たな使命を感じる。

 

玉城デニー氏に当選証書 復帰後8人目の沖縄県知事に就任(2018年10月4日配信『琉球新報』)

 

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当選証書を受け取り、笑顔の玉城デニー新知事=4日午前10時半ごろ、県庁

 

県選挙管理委員会は4日午前10時半、県庁で県知事選当選証書付与式を開き、9月30日の第13回県知事選で39万6541票を獲得した玉城デニー氏(58)=本名・玉城康裕氏=に当山尚幸委員長が当選証書を手渡した。任期は2022年9月29日までの4年間。当選の効力の発生と同時に、玉城氏は1972年の日本復帰後8人目の県知事に就任した。8月8日に翁長雄志氏が知事在任中に死去して以降、県知事の欠けた状態が57日ぶりに解消し、玉城新県政の公務がスタートした。
 当選証書を付与した当山委員長は「前知事の逝去に伴い当初予定より日程が前倒しとなり台風24号の影響も受けたが、厳しい選挙戦を制して当選したことに敬意を表する。145万県民の付託に応えるべく活躍を期待する」と激励した。玉城氏は集まった報道陣に「県民の声を受け止めて日々精進して頑張っていく」と語り、晴れやかな笑顔を見せた。

 

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初登庁した玉城デニー新知事=4日午前、那覇市の県庁

 

 当選証書付与式に臨むため、玉城氏は10時15分に県庁に初登庁した。新県政でも引き続き副知事を務める富川盛武、謝花喜一郎両副知事が県庁正面玄関前で玉城氏を出迎えた。県庁1階県民ホールには新知事の初登庁を見守ろうと大勢の県職員が集まり、スーツ姿の玉城氏が姿を見せると大きな拍手に包まれた。玉城氏は女性職員から記念の花束を贈られ、集まった職員や支持者に深々と一礼した。鳴り止まない拍手に手を振って応えながら、軽快な足取りで付与式の会場へと向かった。
 午前11時からは富川副知事から事務の引き継ぎを受け、午後1時45分に就任記者会見を開く。会見後の午後3時から県庁1階県民ホールで就任式があり、職員に訓示する。
 膵臓がんを患った翁長氏が1期目の任期を前に急逝し、当初は11月に予定していた県知事選が前倒しで実施されることになった。玉城氏は翁長氏の後継として立候補し、知事選過去最多得票で初当選した。
 県政の最大課題である米軍普天間飛行場の返還・移設問題では、玉城氏は名護市辺野古の新基地建設阻止の公約を翁長県政から受け継ぎ、埋め立て工事を進めようとする日米両政府に計画の見直しを訴えていく。

 

沖縄・玉城知事が初登庁 翁長氏の辺野古阻止継承(2018年10月4日配信『共同通信』)

 

 沖縄県知事選で初当選した玉城デニー知事が4日、県庁に初登庁した。同日、当選証書を受け取り、知事に就任した。争点となった米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設問題について「万事これからだ。地に足を着けて頑張っていく」と述べた。証書を受け取った後、記者団に答えた。辺野古移設に反対し続け、8月に死去した翁長雄志前知事の県政運営を継承する。

 玉城氏は当選後、辺野古移設を進める安倍政権側との協議の必要性を指摘。ただ、政権は知事選の結果にかかわらず辺野古移設を進める方針で、対立が先鋭化していく可能性が高い。

 

初登庁し、支援者の県議と握手する沖縄県の玉城デニー新知事=4日午前、沖縄県庁

 

 

玉城デニー氏の勝利 海外メディアが絶賛「多様性への扉」(2018年10月3日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 玉城デニー前衆院議員の大勝となった沖縄県知事選。その余波が世界中に広がっている。

 玉城氏の父親が米海兵隊員だったということもあり、米国ではCNNやABCなど主要メディアで玉城氏の勝利が報じられた。特に米紙NYタイムズ(電子版)は9月30日、「アメリカ海兵隊の息子が基地に反対して沖縄知事選に勝利」と題して、日本で初めてハーフの県知事が誕生したと紹介。全米オープンテニスの女子シングルスで優勝した大坂なおみを引き合いに出しながら、「玉城氏の勝利は、日本で人種の多様性への扉が開かれつつあることを示唆している」とした。

 さらに同紙は、オピニオン面でも沖縄の米軍基地問題を取り上げ、「日本で最も貧しい市民に、不公平で不必要で危険な負担を押し付けることはできない。安倍首相と米軍の司令官は公平な解決策を見いだすべきだ」と締めくくった。

 米紙ワシントン・ポスト(電子版)も1日、AP通信の記事を掲載し、選挙での勝利を祝い踊る玉城氏の写真を紹介しながら「均一的で従順な国として知られる日本に、玉城氏は寛容性と多様性を持ち合わせた新しいリーダーとして現れた」と玉城氏の人間性を高く評価している。

 “政権VS沖縄”という構図で報じたのは、仏紙ル・モンド(電子版)で1日、タイトルを「日本の沖縄で新知事誕生により安倍晋三が挫折」として、玉城氏の勝利が総裁3選したばかりの安倍首相の敗北を意味していると強調。「小さなアリはゾウの足を動かすこともできる」という玉城氏の言葉を紹介しながら、勝利を称えた。

 日本政府が逃げ腰でも、世界は玉城勝利の意味をしっかり理解しているということだ。

 

沖縄県知事選“大敗の戦犯” 菅官房長官の留任に党内から不満噴出(2018年10月2日配信『日刊ゲンダイ』)

 

安倍政権が推す候補者が8万票の大差で敗北を喫した沖縄県知事選。自民党関係者の間で今、大敗の“A級戦犯”として名が挙がるのが、沖縄にたびたび応援に入った菅義偉官房長官である。あまりの選挙戦略のヒドさに、党内から不満が噴出しているというのだ。

「辺野古移設について、上から目線で『粛々と進める』などと発言してきた菅長官は、ただでさえ、沖縄県内での評判は最悪です。にもかかわらず、3回も沖縄に入り、『ケータイ代を安くします』とブチ上げた街頭演説が特に『あざと過ぎる』と、党内で物議を醸しているようです」(永田町関係者)

 菅氏は先月16日、那覇市内での街頭演説で、候補者の佐喜真淳氏、小泉進次郎衆院議員と並び、「ケータイ料金4割値下げ」を徹底アピール。県知事はもちろん、政府にも値下げの権限はないのに、テレビカメラの前でパネルを使ったアンケート調査までやってみせた。

 ところが、アンケートの返答者は「ほとんど自公支持層だった」(県政関係者)。分かりやすい“ヤラセ”演説をテレビで見た自民関係者からも、「さすがにやり過ぎだ」と批判の声が噴出。「官房長官留任」とされる2日の組閣人事についても、異論が渦巻いている。

「菅長官は、主導した新潟県知事選、名護市長選では負けなしだったが、最重要の沖縄県知事選を落としたことで、『長官留任でいいのか』とねたみに近い批判が飛び交っている」(自民党関係者)

「禍根」を残したままだと、来年4月の統一地方選、7月の参院選で「“アベスガ”では勝てない」との声が拡大してもおかしくはない。

「『ケータイ代値下げ』をメインに訴え、基地問題という最大の争点をぼかすやり口は、あまりにも不自然で、不誠実でした。それは、県民の目から見ても明らかだったのでしょう。8万票もの大差には、対立候補の玉城陣営も驚いていました。それほど、菅長官の“オウンゴール”が大きく響いたということです。今後、党内で『菅長官のやり方では選挙に勝てない』との声が広がる可能性があります」(ジャーナリストの横田一氏)

 長官留任当日から“菅降ろし”が始まっても不思議ではない。

 

沖縄県知事選で創価学会員が反旗 公明は参院選で惨敗危機(2018年10月2日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 辺野古基地建設反対を訴えたオール沖縄の玉城デニー氏(58)が、基地推進の安倍政権が推す佐喜真淳氏(54)を破った沖縄県知事選。玉城勝利を導いたのは、公明党本部や創価学会幹部から、意に反する選挙運動を強いられた学会員の造反だった。

 公明は約3割の支持者が玉城氏に流れた。昨年10月の衆院選で公明が沖縄(比例)で獲得した10万8602票をベースに試算すると、その3割は3万2000票。今回の8万票差は、行って来いでかなり縮まる。造反がなければ、結果は分からなかった。

 公明は全国から数千人規模の動員をかけ、創価学会の原田稔会長も沖縄を訪れるなど「史上最大規模」(党関係者)の佐喜真当選の大キャンペーンを展開した。

 しかし「基地のない沖縄」は創価学会の基本理念。公明党沖縄県本部は今でも辺野古基地に反対だ。しかも、佐喜真氏は極右の「日本会議」メンバーだった。創価学会の理念とは全く相いれないのに全力の応援――沖縄の学会員が反発するのも無理はない。

 「玉城氏に流れたのは3割にとどまっていますが、納得して佐喜真さんに入れた学会員は、ほとんどいません」(沖縄の学会関係者)

 公明は前回の衆院選の比例で初めて700万票を割った。元公明党副委員長の二見伸明氏が言う。

「今回の知事選で、公明党が連立で引き受けたことを問答無用で支持者に下ろすというやり方の限界が露呈しました。創価学会と公明党は、しっかり議論して、安倍政権に向き合う姿勢に転じる必要があります。例えば、改憲。公明党は、連立離脱も視野に入れて臨まないと、来夏の参院選は惨敗するのではないか。沖縄知事選で基地反対を貫いた学会員の姿に勇気づけられた学会員も少なくない。安易な改憲議論は、全国の学会員の反発を招きます」

 玉城陣営の開票会場には学会の三色旗も翻っていた。同日の公明党大会で6選された山口那津男代表は「膝詰めの対話の中で国民が何に悩み、何を望んでいるのかを探り、その解決に向け制度・政策を練り上げていくとの行動原理を貫く」と語ったが、本気で原点に戻る気はあるのか。

 

県民、心折れなかったよ 翁長雄志知事に報告 妻・樹子さん(2018年10月2日配信『琉球新報』)

 

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玉城デニー氏の知事選当選後、インタビューに答える亡くなった翁長雄志知事の妻・翁長樹子氏=1日、那覇市大道

 

 沖縄県知事選から一夜明けた1日、故翁長雄志知事の妻樹子(みきこ)さんは「携帯電話利用料の4割減だとか、聞こえのいい『話くゎっちー』にも県民は流されなかった。多くの若者が集まったことは次につながる。勝ったり負けたりで疲れ果てながらも、頑張ってきたかいがあった」と、玉城デニーさんにバトンを受け継ぐ喜びを語った。
 9月22日に那覇市の新都心公園で開かれた玉城陣営の総決起集会で、ただ一度だけマイクを握った。「ウチナーンチュのマグマを吹き出させて命(ぬち)かじり頑張ろう。簡単には勝てない。それでも簡単には負けない」と訴えて支持者の気持ちを一つにした。
 喪に服していることもあり、選挙戦で表に出るつもりはなかった。だが相手陣営は自公の国会議員や運動員を大挙して送り込み、菅義偉官房長官や小泉進次郎衆院議員が何度も沖縄入りした。中央の異例のてこ入れに、「政府の権力を使って沖縄を押しつぶそうとする。ここまで来ると国家の暴力だ。翁長が必死に頑張ってきただけに見過ごせなかった」と意を決して表舞台に立った。
 知事選当日の夜は、那覇市大道の自宅に集まった子や孫たちとテレビの開票速報を見守った。玉城さんに当確が出ると「勝ったよ。県民の心は折れなかったよ」と仏前に手を合わせた。1日に当選報告で訪れた玉城さんに「あなたが思っている以上に大変だよ。でもどんなに苦しくても後ろには県民がいるから、ぶれずに真っすぐ進んで」とエールを送った。
 「那覇市議と県議時代は青春で、那覇市長は念願、そして県知事は私心は一切捨てて県民に尽くすと言っていた。人生としても知事任期としても短かったかもしれないが、後悔はなく本望だったはずだ」と翁長県政の3年9カ月を振り返った。

 

玉城氏が翁長氏遺影へ勝利報告「新基地造らせない」(2018年10月2日配信『日刊スポーツ』)

 

翁長雄志氏の自宅の祭壇に手を合わせる玉城デニー氏

玉城デニー氏(右)と小沢一郎共同代表

翁長雄志氏の急逝に伴う沖縄県知事選で初当選した前衆院議員の玉城デニー氏(58)は1日、翁長氏の自宅を訪れ、遺影に当選を報告した。菅義偉官房長官が同日の会見で、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設方針は変えない意向を示したことについて「新基地を造らせないというのは、絶対に譲ることができない」と強調。その上で「国とまずは協議したいと伝えたい。はなから対立や分断の立場を取るつもりはない」と、対話に意欲を示した。

一方、総力で支援した候補が敗れた安倍晋三首相は「真摯(しんし)に受け止める。沖縄の振興、基地負担の軽減に努める」。党内では一時「接戦情報」も流れたが、結局は玉城氏に8万票近い差で敗れる惨敗。翁長氏の遺志を支持した沖縄の「民意」を、突きつけられる結果になった。

 

玉城デニー氏 翁長さんに勝利を報告(2018年10月2日配信『しんぶん赤旗』)

 

 沖縄県知事選に初当選した「オール沖縄」の玉城デニー氏(58)は1日、亡くなった翁長雄志さんの自宅を訪れ、位牌(いはい)に手を合わせました。

 訪問後、玉城氏は記者団の取材に「多くの皆さんに支えられ当選させていただいたことを報告し『これからも頑張ります。見守ってください』と手を合わせた」と語りました。

 翁長雄志さんの妻、樹子(みきこ)さんから「これから大変ですけど、みんなで支えていきます。頑張ってください」と言葉をかけられたといいます。

 菅義偉内閣官房長官が時期を問わず面談する姿勢を示していることを問われ、「私は政府と常に協議する気持ちで臨みたい。県民の思いを伝え、政府の考えも聞き、幅広く協議する立場で臨む」とした上で、「辺野古に新基地を造らせないことは絶対に譲れない」と語りました。

 

玉城氏勝利に三つの意義(2018年10月2日配信『しんぶん赤旗』)

 

沖縄県知事選 小池書記局長が会見

 日本共産党の小池晃書記局長は1日、国会内で記者会見し、沖縄県知事選で、名護市辺野古への米軍新基地建設反対を掲げた玉城デニー候補が大勝したことについて「新基地建設を推進する安倍官邸丸抱えの候補に8万票余の大差をつけ、県知事選史上最高の得票で揺るがぬ民意が示された。安倍政権は民意を重く受け止め、新基地建設を直ちに中止し、デニー知事とともに普天間基地の閉鎖・撤去を求める対米交渉に直ちにとりかかるべきだ」と述べました。

 小池氏は、「オール沖縄」勝利の意義を3点にわたって語りました。

 第一に「沖縄の基地をめぐるたたかいに大きな展望を開いた。安倍政権が結果を無視して新基地建設を進めることが難しい状況に追い込んだ」と指摘。安倍政権が県による埋め立て承認撤回に対抗し、法的な措置をとって工事を再開したとしても、「大浦湾の超軟弱地盤の問題や活断層の問題など、県知事の承認なしには越えられない、さまざまな壁がある。それでもやるとなれば、異常な強行手段を取らざるをえなくなる」と警告しました。

 第二に、「安倍政権に対する強烈な痛打になった」と強調。「人も金も大量につぎこみ、公明党・創価学会も総動員して徹底した組織戦を展開し、最大争点の辺野古新基地建設の是非は隠すという官邸・与党側の“勝利の方程式”をやればやるほど県民の心が離れ、怒りが起こる結果になった」と述べました。

 さらに、「沖縄の問題は、安倍政権の強権的な手法が集中的に表れている分野であり、憲法、消費税、原発などでも、その手法が通用しなくなっていることを示している」と指摘し、「安倍政権の国民的な基盤は弱い。県知事選を、安倍政権を終わりにするたたかいの始まりにしたい」と決意表明しました。

 第三に、「国政の5野党1会派で『辺野古新基地建設反対』という共通の旗が立った。今後の野党共闘にとっても大きな意義がある」と指摘。「旗印を明確にし、『本気の共闘』をすれば自民党を追い詰めることができることが示された」と力を込めました。

 

玉城氏「海兵隊訓練の海外移転、米と交渉」(2018年10月2日配信『毎日新聞』)

 

 9月30日投開票の沖縄県知事選で初当選した玉城(たまき)デニー氏(58)は1日、米海兵隊が使用する米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設計画を巡り、「米海兵隊の訓練を海外に移転できれば、普天間飛行場や辺野古移設は不要になる」と述べ、在沖米海兵隊の運用のあり方について米政府と交渉するよう日本政府に求める考えを明らかにした。毎日新聞など報道各社のインタビューに答えた。

 玉城氏は、沖縄に集中する米軍基地の大半が米海兵隊の施設であることを念頭に「米海兵隊の陸上部隊や航空部隊が国外に移転しても抑止力に穴は開かない」と主張。日本政府に対し、在沖米海兵隊の訓練をグアムやオーストラリアなど海外に完全に移転するよう米政府と交渉することを求めていく考えを示した。

 また、県による辺野古沿岸部の埋め立て承認の撤回に対し、政府は法的な対抗措置を取る構えをみせているが、玉城氏は「『移設ありき』で司法に持ち込むのではなく、問題解決のために対話をすべきだ」として県側との協議の場を求める考えも明らかにした。

 玉城氏は8月に急逝した翁長雄志(おなが・たけし)知事の後継として移設反対を訴え、知事選で過去最多の39万6632票を獲得。移設を進める安倍政権が全面支援した候補に約8万票の大差をつけて勝利し、移設反対の強い民意を突き付けた。玉城氏は4日に知事に就任する。

 一方、菅義偉官房長官は1日の記者会見で「早期に辺野古移設と普天間飛行場の返還を実現したいという考えに変わりはない」と述べ、移設を計画通りに進める考えを改めて示した。

 

沖縄の県民投票 玉城氏「意思表示の機会を確保したい」(2018年10月1日配信『朝日新聞』)

 

 沖縄県知事選から一夜明けた1日、初当選した玉城デニー氏(58)は報道各社のインタビューを受けた。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画について「あらゆる手段を講じて新基地は造らせない」と改めて反対との決意を述べた。主なやり取りは次の通り。

 ――翁長県政では安倍政権との関係が硬直化した。どうするか。

 辺野古や普天間の問題は政府と考え方が異なるかもしれない。しかし、異なるからといって協議しないということは、私の中にはありえない。なぜ辺野古に造れないのか、普天間を早期に閉鎖・返還できないのか、できる方向で話そうという協議もあると思う。

 ――県が実施した辺野古沿岸部の埋め立て承認の撤回について、政府が司法に訴えた場合の対策は。

 司法に委ねられたら、判断を仰ぐしかない。最初から対話も協調もないということになってしまいかねない。この問題をどう解決するかということを真摯(しんし)に協議すべきだと国に求める。

 ――辺野古問題で、米政府との協議は具体的にいつ、何を求めるのか。

 現段階で計画があるわけではない。自治体外交をし、米国世論にも訴える。

 ――辺野古移設の賛否を問う県民投票については。

 住民による地方自治への参画であり、民主主義を発露する権利だ。意義があるもので、県民の意思表示の機会をぜひ確保したい。

 ――翁長氏は「米軍基地の集中は差別」と言ったが、同じ考えか。

 事実を一顧だにしない政府の姿勢は、差別を黙認、助長していることにしかならない。

 ――沖縄振興予算は今後も3千億円台を求めるか。

 要求規模は3500億円とし、自由度の高い一括交付金を求める。ただ交付金頼みではない自主財源をつくり、社会保障費にあてたいと考えている。

 

何でもアリで臨んだ沖縄で惨敗…安倍政権の終わりの始まり(2018年10月1日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 驕れる安倍政権に痛烈な一撃だ。事実上の一騎打ちとなった沖縄県知事選。数千票差で決する大接戦とみられていたのが、フタを開けてみれば、約8万票も差をつけられての惨敗だった。組織をフル稼働させ、万全の態勢で臨んだ自公は、まさかの敗北に真っ青になっている。

■上から目線のゴリ押しはもう通用しない

 9月30日投開票された沖縄県知事選は、「オール沖縄」が支援した玉城デニー前衆院議員(58)が、自民・公明・維新・希望推薦の佐喜真淳前宜野湾市長(54)を大差で破って初当選した。一部メディアでは午後8時の投票終了と当時に「当確」が出る圧勝だった。沖縄知事選の過去最多得票数を記録した。

 自民党総裁3選を決めたばかりの安倍首相にとって、このダメージは計り知れない。

 何しろ自公両党は党幹部が沖縄に常駐し、所属議員や秘書、カネをかつてない規模で投入する総力戦を展開。

 自民党は二階幹事長や菅官房長官、客寄せパンダの小泉進次郎筆頭副幹事長らが何度も沖縄入りするなど、国政選挙を上回る力の入れようだった。これで負けたら目も当てられない。

「安倍首相を看板にして来年春の統一地方選、夏の参院選を戦えるのかという話になってくる。求心力の低下は避けられません」(自民党関係者)

 それにしても、異様な選挙戦だった。台風の直撃もあって、期日前投票が有権者の35%を超えたのも異例だが、佐喜真陣営は米軍基地の辺野古移設という最大の争点を隠蔽。カネと物量で圧倒し、業界団体に「期日前実績調査票」を提出させるなど、徹底的に締め付けた。テレビでは自民党のCMがバンバン流れ、ネット上には玉城氏に対する中傷デマが飛び交った。

 現地で選挙取材を続けたジャーナリストの横田一氏が言う。 

「玉城陣営は『アリがゾウに挑むようなもの』と言っていたほどで、カネも人員も宣伝量も圧倒的な差がありましたが、最後は沖縄の良識が勝ったのだと思う。辺野古移設をゴリ押しする安倍政権の意を受けた佐喜真陣営は、選挙戦では辺野古のヘの字も言わない二枚舌で、携帯電話料金の値下げや公共事業費アップなどカネの話ばかりしていた。札びらで顔をはたくようなものですが、知事に携帯代を下げる権限はないから偽札なのです。あまりに沖縄県民をバカにしている。経歴から日本会議との関係を消したり、デマを拡散したりと、勝つためならルールも無視する汚いやり方には、与党支持者からも反発の声が上がっていました。本土の安倍政権にウチナーンチュが怒りの声を示したわけで、草の根の勝利です」

■問われたのは体質そのもの

 玉城氏は無党派層の7割から支持を得たほか、自民、公明支持層の2割程度も玉城氏に流れたとみられる。中央の意向を押し付ける強権的なやり方が嫌われたのだ。

争点を隠し、勝つためならデマも利用し、「こっち側につかなければ干す」と脅しをかける。団体を締め付け、バラマキで懐柔する。もう、こういう傲慢なやり方は通用しないということだ。総裁選で安倍首相を圧勝させるため、上から締め付けたことが反発を招いて、地方票が伸び悩んだのと構図は同じである。

「総裁選の地方票で党員から見放されたのに続き、沖縄の有権者からも『NO』が突き付けられた。これは深刻な痛手ですよ。問われたのは、民意を無視して基地移設を押し進める安倍政権の体質そのものだからです。知事選の結果は、数の力を背景に、権力を振りかざして少数派を黙らせる安倍1強政治に対する不信任といっていい。これでも謙虚にならず、内閣改造でオトモダチ重用人事を断行するようなら、国民世論が黙っていない。政権の“終わりの始まり”がハッキリ見えてきました」(政治評論家・野上忠興氏)

 沖縄県知事選での惨敗は、安倍政権ご臨終の一里塚だ。

 

沖縄県知事選:「ウチナーンチュの勝利」移設反対市民祝う(2018年10月1日配信『毎日新聞』)

 

 沖縄県知事選で米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設計画に反対する玉城(たまき)デニーさん(58)が初当選し一夜明けた1日、移設工事が進む辺野古のキャンプ・シュワブゲート前では、移設反対の抗議行動を続ける市民が勝利を祝い、移設阻止の声を高めた。対照的に、普天間飛行場の行方が一層、不透明になった宜野湾市では住民が複雑な思いに揺れる。【宗岡敬介、宮城裕也、杣谷健太】

 「ばんざーい!」。午前9時前、辺野古のゲート前にある抗議活動のためのテント小屋に集まった住民らが万歳三唱し、抱き合って玉城さんの当選を喜んだ。ゲートに並ぶ警備員を前に「NO BASE」の旗などを掲げ、改めて移設反対を訴えた。

 抗議活動を率いる山城博治・沖縄平和運動センター議長(66)も駆け付け「翁長雄志(おなが・たけし)知事の壮絶な闘いが県民の心に残っていたのだろう。選挙は実質的にはデニーさんと政府との闘いだった。これだけの票差が出た以上、政府は率直に沖縄の思いを受け止めて基地移設を見直すべきだ」と語った。

 大宜味村の土木業、奥間政則さん(53)は「なぜ基地を沖縄だけに集中させるのか。今回の結果はそんな差別をウチナーンチュは許していないことを示した」。名護市議の大城敬人(よしたみ)さん(78)も「新基地建設阻止をしてほしい。ルールにのっとって勝利したのだから、国は県民の思いを受け止めるべきだ」と訴えた。

 一方の宜野湾市。嘉手納基地内で40年以上働いていた女性(84)は「新基地はいらないが、普天間の返還が遅くなるのではないかと心配。日本以外のどこかに移してほしいけど……」と表情を曇らせた。

 自営業の男性(51)は昨年12月、普天間第二小学校に米軍ヘリの窓が落下したことに触れ「『辺野古移設が唯一の選択肢』という政府の言い方が正しいのなら、米軍機が窓を落とし続けることを容認することと同じ」と政府を批判。「辺野古への新基地建設とは関係なしに普天間飛行場は返還されるべきだ。県民は辺野古が唯一の解決策ではないと知っている」と話した。

 

初当選の玉城デニー氏「辺野古隠しに県民憤り」 当選一夜、本紙編集局長がインタビュー(2018年10月1日配信『沖縄タイムス』)

 

 30日投開票の沖縄県知事選で、過去最多となる39万6632票を獲得し、初当選を果たした玉城デニー氏(58)は1日午前、沖縄タイムス社で、与那嶺一枝編集局長のインタビューに応じ、抱負などを語った。玉城氏が名護市辺野古の新基地建設に反対する中、政府、自民党などの推した佐喜真淳氏が是非を明らかにしなかったことに「(県民が)われわれを見くびっているのではないかという形の憤りが表れたのではないか」と選挙結果につながったとの考えを示した。

 佐喜真氏が政府と協調した経済振興を訴えながら、政府の進める辺野古問題に触れなかったことで、逆に「辺野古が争点化された」と語った。

 辺野古の埋め立て承認撤回で政府が法的措置を講じる可能性には「県は公有水面埋立法に基づき、その趣旨に合わない、沖縄防衛局が違反行為を続けている、指導しても応じないことから明確な行政判断を下した」と正当性を主張した。

 一方、「協議もせず、(政府が)司法の場に持ち込むことが、いわゆる対立や分断につながるのではないかと懸念している。なぜ県が辺野古移設に賛成できないのか丁寧に説明したい」とも述べ、国と地方が対等関係であることから、司法ではなく、協議での解決を求めた。

 政府と県、宜野湾市が普天間飛行場負担軽減推進会議で確認している来年2月を期限とする「普天間の5年以内の運用停止」について、「普天間を使わないことが運用停止の状態だ」と強調。「小学校の上空を米軍ヘリが飛び交い、子どもたちが避難する状況は法治国家と思えない」と指摘し、海兵隊が県外や国外で訓練するローテーションの期間を長くするなど、運用停止の方法を米側と日本政府が議論する必要があると力を込めた。

 知事選での勝因については、「想像していた以上の支援をいただいた。翁長雄志前知事が県民と約束したことを命を削ってまでまっとうしたいという思いが、県民に届いた。その上で、自立と共生とダイバーシティー(多様性)を基本とした私の政策との相乗的効果が出たとしたらうれしい結果」と喜んだ。

 宮古島市や石垣市などへの陸上自衛隊配備では、憲法の範囲内の自衛隊を認める見解を示した上で、「例えば、他府県で自衛隊を強行配備することがあり得るか。地元住民の理解、合意形成が大前提で、強行配備には反対」と説明した。

 幹部人事では、富川盛武、謝花喜一郎の両副知事に続投を求める考えを示し、「いろいろ精査するが、基本的には翁長知事の方向性を継承する観点から頑張りたい」と述べた。

 北部基幹病院の設立に向けた地元自治体の財政負担では「予算をどう振り分けるかは政策的な考えが網羅される。精査すれば、いろいろな考え見つかるだろう」と地元負担なしでの実現を目指す方針を明かした。

 

「自立と共生と多様性を」一夜明け玉城氏(2018年10月1日配信『毎日新聞』)

 

妻智恵子さんから「ここからが本当の始まりね」

 翁長雄志(おなが・たけし)知事の死去に伴う9月30日の沖縄県知事選で初当選した元自由党衆院議員の玉城(たまき)デニー氏(58)は投開票から一夜明けた1日朝、沖縄市の自宅前で報道各社の取材に応じた。「県民の意識は、翁長氏が命をかけてでも守ろうとした『辺野古に新しい基地を造らせない』という遺志を継いでほしい、ということではないか」と述べ、改めて米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設計画を阻止する決意を示した。

 玉城氏は知事選で、辺野古移設を進める安倍政権が支援した候補に約8万票の大差をつけて勝利。39万6632票の得票は沖縄県知事選で過去最多だった。

 辺野古移設を巡っては、県が8月末に埋め立て承認を撤回し、工事は法的根拠を失って止まっている。政府は工事再開に向けて法的措置を取る構えだが、玉城氏は「就任のあいさつの場などで今後について国と協議をしていきたいと伝える」と述べ、司法の場ではなく話し合いによる解決を求める考えを明らかにした。

 昨夜は取材対応や事務所回りなどを終えて、帰宅したのは1日午前2時半ごろ。睡眠時間はわずか2時間半ほどだったが、この日は朝から地元・沖縄市の交差点に立ち、あいさつをしながら笑顔で手を振った。

 「誰一人取り残さない政治を」。玉城氏は選挙期間中、繰り返しそう訴えた。本土復帰前の米国統治下で生まれ、米兵の父の顔を知らずに育った。見た目の違いからいじめられた幼少期、泣いて帰ると育ての母親から「トゥーヌイービヤ、ユヌタケーネーラン(10本の指に同じ長さのものはない)」と教えられた。それが多様性を何よりも大事にしたい、という自らの政治信条になった。

 かつてはラジオパーソナリティーとして沖縄で人気を博し、「口から生まれた人間」と自任。8人目の沖縄県知事に4日就任するが、「一生懸命選挙戦を走ってきたので、まだ実感は20%くらい」と笑う。

 ロックバンドをしていた時代に知り合った妻智恵子さん(59)から当選後、「ここからが本当の始まりね」と声をかけられた。基地問題だけでなく、経済や子供の貧困など沖縄の政策課題は山積しているが、「自立と共生と多様性を県政運営の基本的な理念に置きたい」と語った。

 

沖縄の声 伝える 玉城さん「結束」訴え(2018年10月1日配信『東京新聞』)

   

 「辺野古ノー」の強風が島々に吹き渡った。沖縄県名護市辺野古での米軍新基地建設の是非を最大の争点に30日、投開票が行われた県知事選。故翁長雄志(おながたけし)知事の後継として建設反対派の「オール沖縄」が擁する玉城デニー前衆院議員(58)が、安倍政権が全面支援する佐喜真(さきま)淳前宜野湾(ぎのわん)市長(54)を破り、事実上の一騎打ちを制した。基地負担に苦しむ沖縄に対する政権の強硬姿勢は、政権支持者からも反発を招いた。

 玉城陣営の支持者100人以上が集まった那覇市内のホールでは、玉城さんも午後8時前から姿を見せ、支持者と一緒に開票を待った。NHKのテロップが流れたのは午後九時半すぎ。「やったー!」。支持者らは指笛を鳴らし、玉城さんも自らカチャーシーを踊って喜びを分かち合った。

 激戦を制した玉城さんは「翁長雄志知事がこれ以上新しい基地を造らせないという思いを命を削って全うしたことが県民に宿り、後押しした。私も辺野古に新しい基地を造らせないとしっかりと脳裏に刻んでやっていきたい」と誓った。「諦めずに一致団結すれば、良い方向に進む」と明言すると、支援者たちも「そうだ」と呼応した。

 8月に翁長知事が急逝したことを受け、衆院議員を辞職して急きょ立候補。保革を超えて新基地に反対する政党や団体でつくる「オール沖縄」の支援を得て戦った。翁長知事が訴えてきた「イデオロギーよりも沖縄県民のアイデンティティーを大事に」を呼び掛け、後継をアピールして競り勝った。

 辺野古の新基地を巡っては翁長知事の意向を踏まえた県が8月末に埋め立て承認を撤回している。国との攻防が始まるが、玉城さんは「さまざまな行政指導をしたが、国が法律を守らなかった。とうてい民主主義国家や法治国家とは言えない。それを堂々と主張する」と述べた。ただ、「翁長さんもそうだったが、我々から対立や分断を持ち込んでいない。沖縄の優位性を高めることで国内の経済を伸ばし支えていくことについて、国としっかり協議したい。県民が認められない最たるものが辺野古の新基地で、政府に県民の思いをしっかり訴えていきたい。自立と共生、多様性を大事にしながら進めたい」ときっぱり話した。

 沖縄駐留の米軍人の父親と同県の伊江島出身の母親の間に生まれた玉城さん。本名は玉城康裕で、デニーは子どものころからの愛称だ。ラジオDJなどで活躍したが、2002年に沖縄市議選でトップ当選し政界入りした。

 この日、「母子家庭で育ち、高等教育を受けたわけでもないが、色々な人に支えられてきた。漠然と、いつか世のため人のために役立ちたいと思ってきた」と自らの歩みを振り返りながら、県民に尽くす覚悟を語った。 

 

沖縄知事選 負担「もう許せない」 県民 1票に託した思い(2018年10月1日配信『東京新聞』)

   

 台風24号の爪痕が残る那覇市の投票所で、有権者に1票に託した思いを聞いた。

 那覇市の主婦(69)は「これまで政府は基地を沖縄に集中させても金で何とかなるだろうと県民をバカにしたようなやり方をしてきた。でも翁長さんが言ったように、これ以上は許せない」ときっぱり話す。基地建設に明確に反対する玉城さんを選んだという。

 長年保守系を支持し、翁長知事にも入れなかったという同市の別の主婦(70)も、今回は玉城さんに投じた。安倍首相には好感を抱いてきたが「今の政府のやり方は上から押さえ付けるだけ。基地を巡る事故も増えているのに、沖縄とほとんど話し合いにも応じようとしない姿勢が許せない」と失望感をあらわにした。

 基地問題への姿勢を判断材料にした有権者は多い。

 那覇市の主婦古我知(こがち)直子さん(53)は「まだ未成年の子どもがいる。自分より下の人たちが平和に、安全に、笑って暮らせるように願って基地をなくし、トラブルを根本から解決してくれそうな人に投票した」と話す。2016年にうるま市で起きた米軍属による女性殺害事件の痛みも生々しい。古我知さんは「どれだけ沖縄県民は米軍や軍属、家族に苦しめられるのか。米軍関係者が酔っぱらって家に入ってくるような状況は基地の近くに住んでいなければ分からない」と嘆く。

 東京都出身で沖縄在住10年という元福祉施設職員伊藤諭さん(50)は「基地反対はきれいごとのような気もし、判断に迷った」。9カ月の子をあやしながら投票した那覇市の主婦片野愛里沙(ありさ)さん(29)は「子どものためにも基地をなくし、豊かな自然を残してもらいたい」と投票基準を話した。

 新基地建設が計画される名護市民も悩みながら投票した。同市辺野古の男性漁師(40)は新基地建設を推進する政府与党が推す佐喜真さんへ投票した。「海上に新基地ができると思ったら止まり、止まったと思ったら進む状況が20年続いている。俺たちはどうすればいいのか。埋め立てももう始まっている。今回で決着をつけたい」

 同市では今年2月、自民党などの支援を受けた新市長が誕生し、それを踏まえた交付金で9月から給食費や保育料が無料になった。市内で4人の子育てをする40代の会社員男性は「目先のお金と、100年も200年も残る基地のどちらを選ぶべきか考えた」と話した。

 

沖縄県知事選 安倍首相「選挙の結果、真摯に受け止める」(2018年10月1日配信『毎日新聞』)

 

 安倍晋三首相は1日午前、沖縄県知事選で米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設計画に反対する玉城デニー氏が初当選したことについて、「選挙の結果は政府としては真摯(しんし)に受け止め、今後、沖縄の振興、基地負担の軽減に努める」と述べた。首相官邸で記者団に語った。

 

菅義偉官房長官「辺野古移設の考えに変わりない」(2018年10月1日配信『産経新聞』)

 

 菅義偉官房長官は1日午前の記者会見で、沖縄県知事選で米軍普天間飛行場(宜野湾(ぎのわん)市)の名護市辺野古移設に反対する玉城(たまき)デニー前衆院議員(58)が当選したことを受け「政府としては早期に辺野古移設と普天間飛行場返還を実現したい考え方に変わりはない」と述べ、移設計画を進める考えを強調した。

 国との協議に意欲を示す玉城氏との面会については「日程が合えばお会いしたい。時期はこだわらない」と述べた。

 辺野古移設をめぐり、政府は県の埋め立て承認撤回に対し、取り消しを求めて法的措置を取る方針だ。菅氏は「沖縄防衛局で適切に対応する」と話した。

 菅氏は移設を進める理由を「問題の原点は市街地に位置し、世界で一番危険といわれる普天間飛行場の危険除去と返還だ。移設が実現すれば安全は格段に向上し、騒音も大幅に軽減される」と説明した。

 その上で、沖縄の基地負担軽減を目に見える形で実現する方針を改めて示し、「政府の取り組みを新知事に丁寧に説明し、県民の理解を得たい」と述べた。

 一方、知事選で政府・与党が支援した佐喜真淳(さきまあつし)前宜野湾市長(54)が敗れたことには「地方公共団体の首長選の結果について政府としてコメントすべきではない」と述べるにとどめた。

 

菅氏演説は批判浴び…沖縄知事選、政権の全面支援空振り(2018年10月1日配信『朝日新聞』)

 

 佐喜真淳氏(54)は報道陣に敗因を問われ、「県民の暮らし最優先を訴えたが、浸透しなかった」と述べた。

 自民党国会議員らが擁立を決めたのは7月。宜野湾市長として、政府との良好な関係を築いてきたことが決め手で、選挙戦でも国との対話路線を強調した。

 選挙戦は安倍政権が全面支援。小泉進次郎・自民党筆頭副幹事長が3度駆けつけるなど、自民、公明などの国会議員が次々と沖縄入り。菅義偉官房長官は自ら街頭に立ち「携帯電話料金の4割削減」と掲げてみせた。だが、携帯料金の引き下げは知事に権限はなく「県民を愚弄(ぐろう)するような宣伝」(小池晃・共産党書記局長)との批判を浴びた。

 

玉城氏、辺野古移設阻止へ決意 沖縄県知事当選、一夜明け(2018年10月1日配信『東京新聞』)

  

 沖縄県の翁長雄志知事の死去に伴う9月30日の知事選で初当選した前衆院議員玉城デニー氏は一夜明けた1日、沖縄市の自宅前で記者団の取材に応じた。知事選の争点となった米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設について、阻止への決意を改めて表明。

 選挙結果にかかわらず辺野古移設を進める方針の政府は、対応を検討。

 玉城氏は辺野古反対を主張し続け8月に急逝した翁長氏の後継候補。選挙戦では県による辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回や県議会が審議中の辺野古移設の是非を問う県民投票条例の制定を支持していた。

 

玉城氏「米国の血を引く僕の意見、聞かないわけはない」(2018年10月1日配信『朝日新聞』)

 

 父が米兵で、10歳まで養子に出され、その後も母子家庭で育った元ラジオDJが、本土復帰後8人目の沖縄県知事に選ばれた。

 「誰一人取り残さない政治をしたい」。選挙期間中、出自を説明し、そう繰り返してきた。

 米軍統治下の沖縄本島生まれ。康裕が本名だ。見た目の違いからいじめられた子ども時代、養母に何度も「トゥーヌイービヤ、ユヌタケーネーラン(10本の指に同じ長さのものはない)」とウチナーグチ(沖縄の言葉)で慰められた。多様性を尊重する原点だ。

 「人を笑顔にする仕事がしたい」。沖縄市議から衆院議員に転じ、4期途中まで9年務めた。翁長雄志(おながたけし)知事が急逝する数日前に期待する人として名前を挙げられて「後継候補」になったことで、人生が変わった。

 政治家になってからも、ゴミ出しなどの家事をこなし、休みがあればギターを弾いて過ごす。妻智恵子さん(59)は「裏表のない、でも一度決めたら曲げない性格」と評する。

 沖縄県知事の仕事は基地問題が大きなウェートを占める。一貫して反対してきた米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題では、政府との法廷闘争が予想される。どう解決するのか。「米国の血を引く僕の意見を、米国は聞かないわけはない」。楽観的と言われても、信じる道を行く。

 

沖縄知事に玉城氏 辺野古反対を前面 2代続き 政権派破る(2018年10月1日配信『東京新聞』)

  

 沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事の死去に伴う知事選が30日投開票され、米軍普天間(ふてんま)飛行場(宜野湾(ぎのわん)市)の名護市辺野古(へのこ)移設に反対する前衆院議員玉城(たまき)デニー氏(58)が、移設を推進する安倍政権が支援した前宜野湾市長佐喜真淳(さきまあつし)氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=ら3人を破り、初当選した。翁長氏に続く反対派知事の誕生により、政府の移設スケジュールに影響が出るのは必至だ。

 投票率は63・24%で、前回選を0・89ポイント下回った。玉城氏の得票は38万票を超え、同県知事選で過去最多となった。

 政権は選挙結果にかかわらず移設を進める方針だが、玉城氏は移設の是非を問う県民投票を実施して反対の意思を示すなど徹底抗戦する構えで、対立がさらに先鋭化するのは確実だ。

 選挙戦は、いずれも無所属新人の玉城、佐喜真両氏による事実上の一騎打ちの構図だった。

 当選を決めた玉城氏は、那覇市内で「辺野古に新基地を造らせないという誓いを、しっかりとぶれずに、全うしたい」と強調。「これ以上新基地を造らせないと翁長氏が命を削って全うしようとしたことが県民に宿り、後押しした」と語った。佐喜真氏は「県民の暮らしが最優先という訴えが浸透せず、私の力不足だ」と敗北宣言した。

 選挙戦で玉城氏は移設阻止を前面に掲げた。翁長氏の後継であることを強調して「弔い合戦」を演出。移設反対派の団体や共産、社民など野党各党の支援を受けながら、県民から幅広い支持を得るために政党色を抑える戦略が奏功した。

 佐喜真氏は、子育て支援の充実などを訴える一方で、辺野古移設への反発を懸念して是非を明らかにしなかったため「争点隠し」と有権者の反発を招いた。菅義偉(すがよしひで)官房長官ら政権幹部が相次ぎ沖縄入りするなど異例の支援態勢で臨み、前回選では自主投票だった公明党も推薦に回って徹底した組織戦を展開したが、無党派に浸透できず、及ばなかった。

 県は8月に辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回した。玉城氏は撤回を評価する立場で、早期の土砂投入を目指す政府との間で法廷闘争に突入する公算が大きい。

◆新基地 県民再び拒否

<解説> 30日投開票の沖縄県知事選は、玉城デニー氏の勝利により米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設を拒否する知事が、翁長雄志氏、玉城氏と2代続くことになった。安倍政権が進める新基地建設に、前回の選挙があった4年前と変わらず県民が「ノー」の強い意思を示したことの意味は大きい。玉城氏は選挙戦で、志半ばで急逝した翁長氏の後継であることを訴えてきた。選挙ビラなどでも、その他の公約とは別扱いにして、新基地反対を前面に出した戦術をとった。

 政権側の手厚い支援を受けながらも敗れた佐喜真淳氏は、辺野古移設の争点化を避けた。米軍基地問題での対立の過熱や長期化を懸念する層や、地元県本部が新基地反対の立場の公明党の票を意識したからだ。

 自民党は、政権の意向をくんで動く知事を誕生させるため、地元の企業・団体を締め付ける組織型選挙を徹底。前回は自主投票だった公明党も今回は全面支援した。政権側は辺野古の工事を今後も進める意向だ。

 にもかかわらず、県民は翁長氏に続いて玉城氏を後押しすると決めた。玉城氏は選挙結果を受け、新基地建設について「民意に沿って政府が判断すればいい」と語った。その重みを政権は無視してはならない。 

 

沖縄県知事選 玉城デニー氏 初当選(2018年10月1日配信『NHKニュース』)

 

沖縄県知事選挙は30日に投票が行われ、野党が支援し、アメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設阻止を訴えた前衆議院議員の玉城デニー氏が、初めての当選を果たしました。

野党が支援した前衆議院議員の玉城氏が、自民・公明両党などが推薦した前宜野湾市長の佐喜真氏らを破り、初めての当選を果たしました。

玉城氏は沖縄県出身の58歳。タレントとして活動したあと、平成21年の衆議院選挙で初当選し、自由党の幹事長を務めています。

玉城氏は、8月に死去した翁長知事の遺志を受け継ぐとして、政府が進めるアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設阻止を訴え、知事を支持してきた共産党や社民党などの支持層を固めたほか、いわゆる無党派層の支持も集め、初めての当選を果たしました。

 玉城氏は「翁長知事の礎を継承し、発展させていく。埋め立て承認の撤回を支持し、名護市辺野古への移設反対をぶれずにやっていく」と述べました。

 対する佐喜真氏は、地域経済の振興などを訴え、自民・公明両党の全面的な支援を受けましたが、及びませんでした。

 一方、宜野湾市の市長選挙も30日に投票が行われ、自民・公明両党などが推薦した前副市長の松川正則氏(65)が初めての当選を果たしました。

玉城氏「翁長知事の礎を継承・発展を約束したい」

玉城氏は「本当に身の引き締まる思いでいっぱいです。翁長知事の礎を継承し、発展させていくことを約束したい。埋め立て承認の撤回を支持し、名護市辺野古への移設反対をぶれずにやっていく。対立や分断を持ち込んでいるわけではなく、経済については国としっかり協議をしたいが、県民が認められないものはしっかり政府に突きつけていく」と話していました。

佐喜真氏「申し訳なく思う」

佐喜真淳氏は「結果は私の不徳の致すところで申し訳なく思う。まだ、つぶさに結果を見ていないので、すぐに話はできないが、4つの党や各種団体の推薦を受けて戦ってきたが、『県民の暮らしが最優先』という訴えが県民に浸透できなかった」と述べました。

玉城候補を支援した各党は

立憲民主党の福山幹事長は「翁長前知事の遺志を継承する県政を県民が選択し、辺野古新基地建設撤回を支持する県民の意志が改めて明確となった。政府・与党は、県民の選択に真摯(しんし)に向き合い、県民の意志に反する安全保障政策に有効性はないことや、政府・与党の都合を押しつける手法はもはや通用しないことをしっかりと肝に銘ずるべきだ。辺野古新基地建設の埋め立て工事の再開などは、到底あってはならない」という談話を発表しました。

国民民主党の玉木代表は「争点となった辺野古の新基地建設問題については、今回示された沖縄の民意を尊重し、政府が強引に手続きを進めることがないよう、沖縄県と丁寧な話し合いを行うことを求める。あわせて、日米地位協定の改定に向けた具体的な作業を開始することを求める」という談話を発表しました。

共産党の志位委員長は「辺野古に新基地はつくらせない、普天間基地は即時閉鎖・撤去をという県民の確固たる意思を示したもので、翁長知事の遺志を引き継ぎ、県民が勝ち取った歴史的勝利だ。安倍政権は、沖縄に対する強権政治をきっぱりやめ、県民の意思を重く受け止め、名護市辺野古の新基地建設を直ちに中止すべきだ」という談話を発表しました。

自由党の小沢代表は「翁長前知事の心をしっかりと受け継ぎ、沖縄のあるべき姿や未来について、具体的に情熱的に訴えかけてきた姿勢が理解された。辺野古移設問題は、はっきりとした民意が示された。国は重く受け止めて反省し、沖縄に重荷を押しつけることのないよう、解決に力を尽くすべきだ」という談話を発表しました。

社民党の吉川幹事長は「玉城氏とともに、沖縄県の過剰な基地負担を全国で受け止め、辺野古新基地建設阻止や普天間基地の即時、運用停止と閉鎖・撤去などを強く求めていく。安倍政権は、辺野古移設を断念し、県民が平和に生きる権利の具体化に努めるべきだ」という談話を発表しました。

佐喜真候補を推薦した各党は

自民党の塩谷選挙対策委員長から選挙結果の報告を電話で受けた安倍総理大臣は「残念だけどしょうがない」と述べたということです。

自民党の二階幹事長は「あと一歩及ばず、残念な結果となった。沖縄県民の審判を厳粛に受け止め、敗因をよく分析し、党組織の拡充強化に努めつつ、県民の期待に応えられるよう、さらに研さん努力していきたい」とするコメントを出しました。

公明党の斉藤幹事長は「敗因は、知名度不足と、佐喜真候補の人柄、能力、実績を沖縄県全域に浸透させる時間がなかったことだ。新知事には、県民生活の向上や普天間基地の危険除去という佐喜真候補が訴えた政策も考慮に入れた県政を望みたい」とする談話を発表しました。

日本維新の会の馬場幹事長は「沖縄県民の民意として厳粛に受け止めたい。沖縄の問題は基地問題だけではない。新しい知事には、経済政策や暮らし、子育て支援など、県民の目線に立った県政運営を望みたい」というコメントを発表しました。

希望の党の松沢代表は「辺野古移転は普天間基地の危険除去のための唯一の解決策ということについては、県民に一定の理解を頂いたと思っている。今後、玉城氏が、普天間基地の危険性除去についての具体的な代替案を提示することをせつに望んでいる」というコメントを発表しました。

米国務省「沖縄の貢献を評価」

玉城氏の当選を受けて、アメリカ国務省は「玉城氏の当選に祝意を伝えるとともに、今後、一緒に仕事をしていくことを楽しみにしている」というコメントを発表しました。

この中で、国務省は「アメリカ政府は、日米同盟と2国間の安全保障に対する沖縄の貢献を非常に重んじている」と沖縄の重要性を強調しています。

一方で、玉城氏が反対する立場を鮮明にした普天間基地の移設問題については言及しておらず、日米両政府で合意した名護市の辺野古沖に移設する計画を維持していく方針です。

 

「県民の誇りが勝った」 名護市民の声 沖縄県知事選(2018年10月1日配信『琉球新報』)

 

「県民の良心の勝利だ」。米軍普天間飛行場の移設先となっている沖縄県名護市では、移設反対を訴えた玉城デニーさん(58)の勝利に市民から喜びの声が上がった。

 市内にある玉城さんの選対事務所には午後8時前から続々と市民が詰め掛けた。前名護市長の稲嶺進さん(73)は「県民の良心は揺るがない。県民の誇りが政府に打ち勝った」と語気を強めた。ヘリ基地反対協共同代表の安次富浩さん(72)は「民主主義を標ぼうするなら、国は結果をしっかりと受け止めてもらいたい」と話した。

 佐喜真さんの北部事務所には渡具知武豊市長(57)ら支援者が集まった。玉城さんの当選を受け、渡具知市長は「結果を受け止めないといけない」と険しい表情で語った。

 

沖縄知事選 県民がかちとった歴史的勝利(2018年10月1日配信『しんぶん赤旗』)

 

志位委員長が談話

 日本共産党の志位和夫委員長は30日、沖縄県知事選での玉城デニー候補の勝利を受けて、次の談話を発表しました。

一、沖縄県知事選挙での玉城デニー候補の勝利を、大きな喜びをもって歓迎します。この勝利は、「辺野古に新基地はつくらせない」「普天間基地は即時閉鎖・撤去を」という沖縄県民の確固たる意思を示しました。それは、急逝された翁長雄志知事の遺志を引き継ぎ、沖縄県民がかちとった歴史的勝利です。

保守・革新の垣根をこえて心一つにたたかった「オール沖縄」のみなさん、勇気と誇りをもって歴史的審判を下した沖縄県民のみなさんに、心からの敬意を表します。ご支援いただいた全国のみなさんに心からの感謝を申し上げます。

一、玉城デニー候補の勝利は、首相官邸が主導し、国家権力を総動員して沖縄県民の民意を押しつぶそうとした安倍政権に対する痛烈な審判ともなりました。

安倍政権は、沖縄に対する強権政治をきっぱりやめるべきです。県知事選挙で示された県民の意思を重く受け止め、名護市辺野古の新基地建設をただちに中止すべきです。普天間基地の即時閉鎖・撤去にとりくむべきです。

一、この勝利は、新たなたたかいのスタートです。前途にどんな困難があろうとも、わが党は、玉城デニー新知事を支え、誇りある豊かな沖縄を築くために、あらゆる力をつくすことを表明するものです。

 

玉城氏勝利で辺野古移設、泥沼化の恐れ 工事妨害を明言(2018年10月1日配信『産経新聞』)

 

 玉城(たまき)デニー前衆院議員が30日投開票の沖縄県知事選に勝利したことで、米軍普天間飛行場=宜野湾(ぎのわん)市=の名護市辺野古移設をめぐる政府と県の対立が続くことになりそうだ。

 「私は翁長雄志(おなが・たけし)知事の遺志を引き継ぐ。行動の原理も引き継ぐ」

 玉城氏はこう述べて支持を訴えてきた。翁長氏の行動原理とは、辺野古移設を「沖縄差別」と断定し、徹底的に移設工事を妨害することに他ならない。玉城氏は、県が8月31日に行った埋め立て承認の撤回を支持する考えも表明している。

 これに対し、政府は埋め立て承認の撤回を取り消すよう求める法的対抗措置をとる方針だ。事前の手続き不備を理由とした承認の「取り消し」をめぐる裁判では最高裁で県の敗訴が確定しており、今後行われる裁判でも勝訴できると踏む。

 しかし、問題はその先だ。

 辺野古の軟弱地盤の改良工事や設計変更について新知事の承認を得なければならない。防衛省幹部は「これまでは知事の承認を得ないで進められるギリギリの工事をしてきたが、それも限界に近づきつつある」と述べる。玉城氏は「あらゆる手法を駆使して、辺野古に新基地はつくらせない」とも語っており、移設工事が進まなくなる可能性は否定できない。

政府内では知事権限を国に移す特別措置法の制定で事態を乗り切る案がある。また、翁長県政時代に約570億円減額された一括交付金など沖縄振興予算を、さらに削るべきだとする声もある。ただ、いずれも玉城氏との対立を激化させ、野党は国会での安倍晋三政権批判に利用することは想像に難くない。

 一方、政府が玉城氏との間で妥協することも難しい。玉城氏自身は「保守」を名乗っているが、共産党や社民党など革新勢力の支援なしで知事選は勝利できなかった。翁長県政時代も活動家が大挙して県庁に押し寄せ、政府との妥協を牽制(けんせい)する光景が頻繁に見られた。玉城氏も9月1日に辺野古を訪れた際、県庁などに押しかける活動家の行動を褒めたたえた。

 とはいえ、玉城氏が普天間飛行場の早期返還にこぎ着ける道筋を描き切っているわけではない。辺野古以外の移設先についても言及していない。米国人の父を持つ玉城氏は「私はお父さんの血が流れているから、向こうの人たち(米政府)は絶対否定できない」と移設交渉に自信を見せるが、米政府の戦略的判断と血筋は全く関係がない。

 日米両政府の普天間返還合意から22年。玉城氏の当選で、市街地に囲まれた普天間飛行場の危険性は、さらに続く恐れがある。平成16年8月には隣接する大学に米海兵隊ヘリが墜落し、昨年12月にも小学校校庭にヘリの窓枠が落下した。玉城氏は日米同盟を支持する立場だが、犠牲者が生まれる事故が発生すれば同盟に対する国民的支持を揺るがしかねない。県民の命を守る知事の責任も問われることになる。

 

翁長さんの魂継ぐ 沖縄知事当選の玉城さん 未来のため「体張る」(2018年10月1日配信『琉球新報』)

 

 激しい選挙戦を繰り広げた沖縄県知事選挙は30日、翁長雄志知事の後継として「辺野古に新基地を造らせない」と訴えた玉城デニーさん(58)が新基地建設の是非を明言しなかった佐喜真淳さん(54)に大勝した。米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市の辺野古新基地建設を拒む県民の意思が明確に示された。玉城さんは涙を浮かべ「新基地建設を止めることが未来の子どもたちにできる、私たち責任世代の行動だ」と呼び掛け、「翁長知事の遺志を継いで、私も体を張って主張する」と魂の継承を力強く誓った。

 辺野古新基地建設阻止を掲げ当選を果たした玉城さん。午後9時半すぎ、当選確実が報じられると、那覇市古島の教育福祉会館に集まった支持者から、悲鳴のような歓声と割れんばかりの拍手が湧き起こった。「これ以上の辺野古新基地建設は認めない。『道理』を止めてはいけない。崩れても、折れてもいけない」と決意を新たにした。
 午後7時58分に支持者が待つ会場に到着した。妻の智恵子さん(59)らと緊張した面持ちで席に着き、数回深呼吸した。複数の報道機関が当選確実を報じたのを受け、湧き起こった「デニー」コール。盛り上がりは最高潮に達した。支持者らと人さし指と小指を立ててポーズを取った後、カチャーシーを舞い、孫の笑茉ちゃん(2)を抱きかかえて喜びを表した。
 急逝した翁長知事が生前に残した音声で、後継に玉城さんの名前を挙げたことを受け、出馬を決心したのが8月末。4期目途中で衆院議員を辞し、1カ月余りの短期間の中、選挙戦に臨んだ。「イデオロギーよりアイデンティティー」と、翁長知事の姿勢を継承して支持を広げた。
 伊江島出身の母と米海兵隊員の父との間に旧与那城村で生まれた。母子家庭で育ったことや産みの母と育ての母の2人の母がいることなど、自身の出自も語りながら「一人も取り残さない社会をつくる」と訴え、沖縄中を駆け巡った。
 「わったーや、勝っちゃんどー」。支援者に向かって深々と頭を下げ、感謝した。「政府と対峙(たいじ)することの難しさは考えていない。われわれの民意に沿って政府が判断すればいいことだからだ」と力強く語ると、拍手と指笛が鳴りやまなかった。
 県内外で多くの関心を呼んだ県知事選。玉城さんの元には、報道関係者が120人以上集まった。

 

翁長氏の“遺志”「オール沖縄」再結集に力 玉城デニー氏に無党派の支持【勝因】(2018年10月1日配信『沖縄タイムス』)

 

 玉城デニー氏は翁長雄志前知事の遺志を引き継ぐことで「弔い合戦」のムードを醸成し、ラジオパーソナリティーなどのタレント活動歴や衆院議員を4期途中まで務めた知名度の高さを生かすことで革新票や無党派層の支持を集め、相手候補に大差をつけて勝利した。

 名護市辺野古の新基地建設の賛否を最大の争点と位置付けるも、基地一辺倒ではなく、経済や子育て政策などにも重点を置き、無党派層の支持を広げた。

 翁長氏の急逝後、後継候補を巡る人選は思惑が入り乱れ波乱含みだったが、翁長氏が生前残した音声データによって「オール沖縄」勢力を再結集させた。

 選挙序盤は自身の出自を絡めて政策を訴えることが多かったが、22日の総決起大会を機に改めて翁長氏の後継候補という立ち位置を前面に打ち出す方針に転換。翁長氏の次男雄治氏に加え、富川盛武、謝花喜一郎両副知事と前面に出ることで、翁長県政の継承を一層印象付けた。

 選挙期間中は遊説中心に日程を組み、街宣カーの上ではなく県民と同じ高さに立って演説することで庶民目線をアピール。若者や女性といった無党派層の掘り起こしを狙った。

 沖縄タイムスと朝日新聞、琉球朝日放送(QAB)の出口調査では、投票で重視した点として「基地問題」が46%で最も高かった。普天間飛行場の辺野古移設反対は57%で、うち8割が玉城氏を支持。新基地建設に反対する根強い民意を取り込んだ。

 玉城氏は共産、社民、社大、立憲民主、国民民主、自由の支持層を手堅くまとめ、無党派層の7割からも支持を得た。公明の約3割、自民の2割を取り込み、一部の保守票を切り崩した。保守から革新まで幅広く支持を得るため政党色を排除したことも功を奏した。

 序盤は相手候補に比べ出遅れ感も否めなかったが、投票率68%、獲得票40万8千票と目標を高く掲げ、選対を引き締めた。期日前投票を徹底し、会員制交流サイト(SNS)なども積極的に活用して無党派層、若者対策に力を入れた。

 

辺野古ノー再び 「翁長さん遺志」県民共感(2018年10月1日配信『毎日新聞』)

 

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設計画に、沖縄県民は4年前に続いて再び「ノー」を突きつけた。30日に投開票された沖縄県知事選は、8月に急逝した翁長雄志(おなが・たけし)知事の遺志を継ぎ、「辺野古に新基地は造らせない」と訴えた元衆院議員の玉城(たまき)デニーさん(58)が、移設を進める安倍政権が支援した前宜野湾市長の佐喜真淳(さきま・あつし)さん(54)らを破って初当選を決めた。政府が移設工事を強行する中にあっても、県民は辺野古の美(ちゅ)ら海を埋め立てるのは許さないとの強い決意を示した。

 「当選確実」を伝えるテレビの速報が入ると、支持者が集まった那覇市の会場は大きな歓声に包まれ、指笛が響く中、沖縄の手踊り「カチャーシー」を舞う玉城さんの笑顔がはじけた。辺野古移設反対を訴え続けた玉城さんが、ほころびかけていた保守の一部と革新が共闘する「オール沖縄」態勢を再びつなぎ合わせた。

 玉城さんは速報で歓声が湧き起こる中、思わず天を仰いでいた。「命がけで新しい基地を造らせないという翁長知事の思いが県民に宿っていて、私を後押ししてくれた」。そう話した玉城さんは「翁長知事から受け継いだ礎を継承し、県民とともに希望へと進んでいくことを翁長知事に約束したい。チムグクル(真心)にあふれる沖縄をみんなでつくっていきましょう」と決意をにじませた。

 膵(すい)がんのため67歳で急逝した翁長氏の後継として出馬を表明したのは告示のわずか2週間前。翁長氏が生前に玉城さんの名前を挙げていたことが明らかとなり、急転直下で短期決戦に挑んだ。

 父は、本土復帰前の米国統治下の沖縄に駐留していた米兵で、生まれる前に帰国し、顔も知らない。母は生活のために働き、10歳ごろまで知人女性が預かって育ててくれた。そんな自らの出自を政治理念の原点とし「誰も取り残さない社会」の実現を目指した。

 本名は康裕で「デニー」は愛称。街頭や集会ではラジオパーソナリティーだった経験を生かし、ウチナーグチ(沖縄の言葉)を駆使した軽妙な語り口で聴衆の心をつかんだ。

 全国の米軍専用施設の約7割が沖縄に集中する不条理に「日米両政府から沖縄をウチナーンチュ(沖縄の人)の手に取り戻す」と真っ向から立ち向かい、国に頼らない自立型経済の推進を訴えた。

 選挙戦終盤には翁長氏の妻樹子(みきこ)さん(62)も集会で壇上に上がり「翁長が命がけで守ろうとした沖縄を、県民の心に1ミリも寄り添おうとしない相手に譲りたくない」と訴えて「弔い合戦」をアピールした。「まけてーないびらんどー(負けてはならない)」など玉城さんも翁長氏のスローガンを多用して、支持を広げることに成功した。

 

「辺野古」避ける戦術が有権者とずれ 佐喜真氏、知名度浸透せず【敗因】(2018年10月1日配信『沖縄タイムス』)

 

 政府や自民、公明、維新、希望の推薦を得て物量作戦で圧倒したにもかかわらず、地元の緩みが生じ佐喜真淳氏が敗れた。超短期戦で佐喜真氏の知名度が全県的には浸透しなかった。名護市長選同様、辺野古新基地建設の是非へ言及を避ける戦術をとったが、県内では安倍政権の基地問題への姿勢は評価が低く、政府や政党本部の前面に出た支援も票離れにつながった。

 

敗戦の弁を述べる佐喜真淳さん=30日午後9時43分、那覇市泉崎・ANAクラウンプラザホテル沖縄ハーバービュー

 

 佐喜真氏は米軍普天間飛行場の返還が原点とし、地元の県本が反対している公明への配慮で、辺野古新基地建設への態度は明らかにしなかった。代わりに訴えのメインに据えたのは「県民所得300万円の実現」など経済振興策だった。

 保守系候補が経済政策を掲げ、政府与党が実現性を担保するのはこれまでの常とう手段。しかし、沖縄タイムス、朝日新聞、琉球朝日放送(QAB)の出口調査では重視する政策に4割強が「基地問題」を、3割が「経済の活性化」を挙げ戦略とずれが生じた。

 佐喜真氏は基地の負担軽減などを掲げ、来県した菅義偉官房長官は返還の実績を強調した。だが調査では安倍政権の基地問題に対する姿勢に6割が「評価しない」と回答。県民に響かなかった。

 名護市長選の「ステルス作戦」と異なり、終盤は官邸へのアピールのため国会議員らが街頭にも繰り出した。佐喜真氏が強みとした「国とのパイプ」を「政権のいいなり」と相手側が批判したのに対し、有効な手をうてなかった。

 

当選の玉城氏、無党派層の7割支持 沖縄知事選出口調査(2018年10月1日配信『朝日新聞』)

 

 沖縄県知事選で米軍普天間飛行場の辺野古移設反対を掲げた玉城デニー氏は、無党派層や女性からの多くの支持を得て、移設実現をめざす安倍政権が支援した佐喜真淳氏を引き離した。朝日新聞社が30日、沖縄タイムス、琉球朝日放送と共同で実施した出口調査でこんな傾向が浮かんだ。

 調査は県内83投票所で実施し、有効回答は4032人。支持政党別の投票先では、無党派層の70%が玉城氏に投票。立憲、共産、社民の各支持層の9割以上が玉城氏に入れていた。

 一方、佐喜真氏への投票は自民支持層の78%、公明支持層の71%だった。両党が組織を挙げて佐喜真氏を推したが、支持層の一定数が玉城氏に流れていた。

 男女別では、女性の61%が玉城氏に投票し、佐喜真氏との差を広げた。年代別に見ると、若年層で佐喜真氏、高齢層で玉城氏への投票が多い傾向があった。50代以上で玉城氏が6割の票を得ていた。

 投票する人を選ぶときに一番重視したことを聞くと、「基地問題」が46%と「経済の活性化」の34%を上回った。「人柄や経歴」10%、「支援する政党や団体」4%と続いた。「基地問題」と答えた人の83%が玉城氏に投票、「経済の活性化」と答えた人の76%が佐喜真氏に投票し、傾向が分かれた。

 辺野古移設の賛否を聞くと、「反対」57%、「賛成」36%。反対する人の81%が玉城氏、賛成する人の79%が佐喜真氏に投じた。

 安倍内閣の沖縄の基地問題への姿勢を尋ねると、「評価しない」が64%、「評価する」は29%。評価しない人の74%が玉城氏、評価する人の77%が佐喜真氏に投票した。自民支持層では「評価する」56%、「評価しない」36%と、基地問題での政権への不満が一定数あることを示した。無党派層は「評価しない」が77%にのぼった。

 当日調査とは別に、県内5市6カ所の期日前投票所でも調査を行い、2409人から有効回答を得た。期日前投票でも、無党派層の7割以上が玉城氏に投票していた。

 

沖縄県知事選 玉城デニー氏が初当選 「菅官房長官と小泉進次郎氏の演説で失敗」(自民党幹部)(2018年9月30日配信『AERAdod.)

 

 9月30日投開票の沖縄県知事選挙で辺野古移設に反対する前衆院議員玉城デニー氏(58)が初当選した。

 政権与党の自民党と公明党が推した前宜野湾市長、佐喜眞淳氏(54)と在職中に亡くなった翁長雄志前知事の後継として、オール沖縄が支持した前衆院議員、玉城氏の事実上、一騎打ちとなった。

 玉城氏が世論調査などでは終始リードし、そのまま、逃げ切って当選を決めた。

「なんとかリベンジをと思ったが、歯が立たなかった」

 と沖縄の自民党の地方議員は悔しそうにそう話した。

 自民党幹部が嘆いた菅官房長官と小泉進次郎氏の失敗とは?

 自民党が投票直前に行った出口調査では佐喜眞氏が追い上げ、1ポイント程まで差を詰め、あわや逆転かとも思われた。

「自民党の世論調査で追い詰められ、逆に結束が固くなった。それまではオール沖縄は共産党や社民党がそれぞれバラバラに動いていた。だが、このままでは勝てない、翁長氏の遺志を継いで成し遂げなければ、と一致団結したことが勝利につながった」(玉城氏を支援した地方議員)

 一方、安倍政権としては辺野古基地移転問題などを抱え、絶対に勝たなければならない選挙だった。自民党幹部がこう頭を抱える。

「4年前に翁長氏に負けた瞬間から、4年後に勝つためにやってきた。告示前から、二階幹事長を筆頭に、小泉進次郎氏も3回も沖縄入り。公明党も山口代表以下、幹部が続々と現地に入った。新潟県知事選挙で勝利したように、期日前投票で圧勝して貯金をつくり、当日は互角で勝つ戦術だった。だが、自民党、公明党の支援者でも辺野古など基地移転問題では反対を示す離反者が続出した。玉城氏の演説会に創価学会の三色旗を振る人まで出て、票が流れてしまった。とりわけ、これまで安倍首相に代わって厳しい姿勢を沖縄にとり続けていた菅官房長官が現地入りし、進次郎氏と一緒に演説したことが、失敗だった。辺野古のへの字も言わず、携帯電話の値下げの話などを延々と喋り、『帰れ』と怒号まで飛び交う始末だった」

小沢一郎の復権を恐れる安倍政権

前出の自民党幹部は公明党についてもこう語った。

「公明党さんには最後までよく支援をしてもらった。だが、投開票終了直後に当確が出るほど差が開いてしまった。安倍首相が総裁選で勝利し、さあ最後の締めくくりと思っていたが、出鼻をくじかれた。これまで安倍政権が長期にやれたのは、実力以上に野党がダメすぎたから。オール沖縄で結束されると勝てることを2回も実証された。来年の参院選挙は沖縄の二の舞になるかも。玉城氏の勝利で自由党の小沢一郎氏が発言力が増すだろう。そこが一番怖い」

翁長氏の遺志を継ぐと宣言している玉城氏。当選後、初めての大仕事が安倍首相や菅官房長官への挨拶となる予定だ。翁長氏が当選直後、東京で安倍首相や菅官房長官に面会を求めたが、実現しなかった。

「翁長氏は安倍首相や菅官房長官が面会拒否したことを、本当に悔しがっていた。当選の挨拶だけなのに、なぜ、こんな態度を取るのかと心底、怒っていた。玉城氏にはそういう対応をとらないでほしい」(前出のオール沖縄の地方議員)

安倍政権には大きな黒星となりそうだ。(今西憲之)

 

玉城デニー圧勝の理由を選対幹部が明かす「本土頼みで自滅した佐喜眞陣営、沖縄主体で勝利」(2018年9月30日配信『AERAdod.)

 

「翁長知事がしっかりと築いた礎を積み上げ、多くの県民のみなさんと一緒に希望へと進んでいく。そのことを翁長知事に約束したい」

 翁長知事の死去に伴う沖縄県知事選は30日夜に投開票され、辺野古移設に反対する玉城デニー・前衆院議員が当選した。翁長県政継承への決意表明は、メディア各社で当選確実が報じられ、支援者らとカチャーシーを踊った後の言葉だった。

 激戦が予想された選挙戦だったが、フタを開ければ玉城氏の圧勝。その理由をたずねると、玉城陣営の幹部は淡々とこう話した。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし、だね」

 言わずと知れた、プロ野球の名監督・野村克也氏の名言である。なぜ、この言葉を選んだのか。そこには、佐喜眞淳氏の陣営に3つの“ミス”があったからだという。

「一つ目はキャッチコピー。いくら翁長知事の弔い選挙だといっても、正直、勝つのは難しいと思っていた。それが、相手のキャッチコピーを聞いたときに『勝てる』と思った。  

佐喜眞氏のコピーは『対立から対話へ』。これはおかしいよね。沖縄に対立を持ち込んだのは本土の人間でしょう。広告代理店なのか、選挙参謀なのか知りませんが、沖縄の歴史をまったくわかっていない本土の人間が選挙やっているんだなと思った」

 二つ目が、女性票だ。出口調査では、女性票で玉城氏が佐喜眞氏を大きくリードした。ここでも佐喜眞氏は致命的なミスをおかしていた。

 9月5日、候補者による公開討論会で女性政策を問われた時、佐喜眞氏が「女性の質の向上」と話したのだ。この発言はインターネットでも拡散され、「女性は男性よりも劣っているという意味か」との批判が殺到した。結果、選挙中の情勢調査でも玉城氏は終始、女性票で優位に立った。「あの失言はボディーブローのように効いただろう」(前出の選対幹部)という。

 そして最大のミスは「人選」だ。佐喜眞陣営の選挙には、小泉進次郎筆頭副幹事長や菅義偉官房長官など、自民党の大物が次々に沖縄にやってきて、応援演説をした。これが裏目に出た。

進次郎氏のW客寄せ神話”は崩壊?

「進次郎さんの演説を見に行ったけど、動員ばかり。得意のダジャレも滑っていたし、名護市長選の時に若者をたくさん集めた時のような熱気はなかった」(自民党関係者)

 いまや日本で最も演説会での動員力があると言われている進次郎氏。“客寄せ神話”は崩壊してしまったのか。

「崩壊というには、彼にはかわいそうかも(笑)。というのも、一緒に演説したのが菅さんで、『携帯電話料金の値段を4割下げる』と言ったからです。知事にも官房長官にもその権限はない。そんなことは誰でもわかること。『沖縄県民をバカにしているのか』と多くの人が思ったはずです」(前出の選対幹部)

 これだけではない。東京からやって来た政治家たちが、次々と沖縄で顰蹙を買った。

「ある国会議員は、世論調査でも基地問題が最大の争点になっているのに、戦争中の話をわざわざ持ち出して、『沖縄の人たちはよく戦ってくれた』という話をしました。たしかにその通りなのですが、玉砕させたのは本土の人間でしょう。沖縄の人は、本土の人がこういう“愛国漫談”をすると、トゲに触れたように敏感に反発する。なぜ、佐喜眞陣営はこんな話をするのを止めなかったのか。おそらく、安倍政権には何の意見も言えないんでしょうね。そのことがわかって自民・公明の支持者が逃げた」(同)

 そのほかにも、小池百合子・東京都知事や石破茂・元自民党幹事長など、次々に大物議員を投入したが、すべて不発に終わった。

「もちろん、野党も幹部議員が沖縄に来ましたよ。しかし、スポットで演説することはあっても、できるだけ目立たないようにした。これは、新潟県知事選で野党の党首達が一斉に演説して、新潟の人たちが反発したことの反省からでした」(同)

 沖縄主体の選挙戦を展開した玉城陣営に対し、中央とのパイプを明確にしてW自滅”した佐喜眞陣営。予想以上の票差の背景には、こういった事情があったのだ。

 そして玉城氏陣営が9月22日に那覇市で開いた集会で、翁長前知事の妻、樹子(みきこ)さんがマイクを握り、「政府の権力を行使して沖縄県民を押しつぶそうとしている」と訴えたことも大きかった。

 選対幹部はこうも語った。

若い人が奮闘した玉城デニー選対

「デニー選対は、若い人がよく頑張った。佐喜眞選対にも若い人がいたが、こっちはみんなボランティア。給料もらったり、動員かけられたりして来ているわけではない。熱心さが違ったと思う。デニー選対の青年局は、翁長知事の息子の雄治(たけはる)くんが局長で、SNS班がネット選挙を盛り上げた。それがデニーさんの勢いにつながった」

 玉城新知事には、公約である「辺野古移設阻止」という難題が待ち受けている。若者たちと一緒に、“官邸の壁”を超えることができるのか。(AERA dot.編集部/西岡千史)

 

沖縄知事選 玉城デニー氏が初当選 辺野古反対派に追い風(2018年9月30日配信『毎日新聞』)

 

 翁長雄志(おながたけし)知事の死去に伴う沖縄県知事選は30日投開票され、翁長氏の後継として米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設計画に反対する元自由党衆院議員の玉城(たまき)デニー氏(58)が、移設を進める安倍政権が支援した前宜野湾市長の佐喜真淳(さきまあつし)氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=ら3氏を破り、初当選した。政府は移設を計画通り進める方針だが、玉城氏は「あらゆる権限を駆使して阻止する」としており、今後も政府と沖縄の対立が続く。玉城氏の得票は沖縄県知事選で過去最多得票となった。

 1996年の日米両政府による普天間飛行場の返還合意以降、知事選は6回目。移設阻止を掲げた翁長氏が移設推進を訴えた現職を大差で破った2014年の前回選に続き、辺野古移設反対の強い民意が改めて示された。一方、9月の自民党総裁選で3選した安倍晋三首相は10月2日に内閣改造を行うが、全面支援した佐喜真氏の敗北は来年の統一地方選や参院選を前に大きな打撃となった。

 辺野古移設を巡っては、政府が17年4月に護岸工事に着手したが、県が今年8月末に埋め立て承認を撤回して工事は法的根拠を失って止まっている。政府は工事再開のために法的措置を取る構えだが、移設反対の玉城氏の勝利を受けて県民の反発が強まるのは必至だ。

 玉城氏は8月に膵(すい)がんで急逝した翁長氏の後継として、辺野古移設に反対する共産や社民などの政党や企業、団体からの支援を受けた。選挙戦で「翁長氏の遺志を継ぎ、辺野古に新基地を造らせない」と強調。政党の推薦は受けずに、前回選で保守の一部と革新が辺野古移設反対で共闘した「オール沖縄」態勢の再構築を狙った。

 前回選以降、「オール沖縄」勢力から一部の保守系議員や企業が離脱するなどしたが、「イデオロギーよりアイデンティティー」「誇りある豊かさを」と翁長氏のスローガンを繰り返し使って「弔い合戦」をアピール。無党派層にも浸透して幅広い支持を集めた。

 自民県連が擁立した佐喜真氏は、普天間飛行場の早期返還を強調する一方、辺野古移設の賛否を明言しない戦略を徹底した。移設問題で政府と対立した翁長県政からの転換や政権と協調しての経済振興を訴えた。

 菅義偉官房長官が9月に3回沖縄に入るなど政府・与党は異例の態勢で組織戦を展開。県本部が辺野古移設に反対のため前回選は自主投票に回った公明も、今回は推薦して全面支援した。だが、翁長氏が知事就任後も埋め立て工事を強行した安倍政権への反発は強く、支持を伸ばせなかった。

 初当選を決めた玉城氏は「辺野古に新しい基地を造らせないという誓いをぶれずにしっかり貫いていく」と移設阻止の決意を述べた。そのうえで「(県による辺野古沿岸部の)埋め立て承認の撤回は公有水面埋立法に基づく判断だ。それを守れないのは民主主義国家、法治国家ではない」と移設工事を強行する政府を批判した。

 投票率は63.24%で前回(64.13%)を下回った。当日有権者数は114万6815人。

 

沖縄県知事選:識者談話 ウチナーンチュの激しい怒り(2018年9月30日配信『毎日新聞』)

 

◇仲地博・沖縄大学長(行政法)

 「翁長雄志知事の後継者」を前面に打ち出した玉城デニーさんの勝利によって、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への県内移設計画に対する強い反対の民意、翁長県政への支持が改めて示された。

 それは、日米安保条約は必要だとしながらも、沖縄に過重な米軍基地負担を押しつけていることを当たり前としてきたヤマトンチュ(本土の人)に対するウチナーンチュ(沖縄の人)の激しい怒りの表れでもある。

 安倍政権が支援した相手候補は「基地問題は国の専権事項で、沖縄側が賛否を示す必要はない」という姿勢で辺野古移設の是非を封印して選挙戦を展開した。だが、沖縄にとって基地問題は戦後70年以上も続く最大で重要な関心事だ。沖縄の将来像を描く時に基地負担はどうあるべきかという議論は避けて通れず、そこを意図的に争点から外すやり方は明らかに民主主義のプロセスを逸脱していた。

 玉城さんが知事になることで、移設工事を強硬に進める政府に対して、沖縄は今後も異議申し立てを続けることになる。一方で、基地問題の解決には国民世論がカギを握る。新知事は、全国の米軍専用施設の70%が沖縄に集中する不条理な状況を全国に理解してもらう努力をこれからもさらに続けるべきだ。

 そのうえで、在沖縄米軍の大半を占める米海兵隊の駐留が本当に必要なのか、必要であるならば日本全体でどう応分負担すべきか、という議論を全国に喚起し、県外移設など別の解決方法も模索していく必要がある。

 

沖縄県知事選:識者談話 無視できない移設反対の民意(2018年9月30日配信『毎日新聞』)

 

◇熊本博之・明星大准教授(地域社会学)

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への県内移設計画について、急逝した翁長雄志知事が命がけで反対しても無視し続けた政府に対する県民の反発が、玉城デニーさんを勝利に導いたとみるべきだ。

 安倍政権が全面的に支援した相手候補は1人あたりの平均県民所得を300万円に向上させると公約に掲げたが、最大の争点であるはずの辺野古移設の是非を明らかにしなかった。そこに「移設さえ認めれば所得も向上しますよ」という「アメとムチ」の姿勢を感じ、「ウチナーンチュ(沖縄の人)のアイデンティティーが傷つけられた」という反感が広がったのではないか。

 玉城さんの父親は米兵だが、沖縄県民はその点をマイナスと捉えなかった。米国統治時代が戦後27年間にわたって続き、今も全国の米軍専用施設の約7割が集中する沖縄には、同じ境遇にある人たちが多くいるからだろう。むしろ社会的弱者の側に立つことのできる人物であると捉え、県の代表である知事として認めたことに多様性を尊重する県民の姿勢が示されたと感じる。

 本土で暮らす私たちは今回の結果を改めて真摯(しんし)に受け止め、自分たちの問題として考えなければならない。沖縄に過重な基地負担を押しつけ続ける政府の政策に従うだけでいいのか。沖縄が再び示した移設反対の民意をいつまでも無視していていいのか。本土側が動かなければこの問題は終わらず、私たちの地方自治そのものが危機に陥る。

 

沖縄県知事選:辺野古ノー再び 「翁長さん遺志」県民共感(2018年9月30日配信『毎日新聞』)

 

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設計画に、沖縄県民は4年前に続いて再び「ノー」を突きつけた。30日に投開票された沖縄県知事選は、8月に急逝した翁長雄志(おなが・たけし)知事の遺志を継ぎ、「辺野古に新基地は造らせない」と訴えた元衆院議員の玉城(たまき)デニーさん(58)が、移設を進める安倍政権が支援した前宜野湾市長の佐喜真淳(さきま・あつし)さん(54)らを破って初当選を決めた。政府が移設工事を強行する中にあっても、県民は辺野古の美(ちゅ)ら海を埋め立てるのは許さないとの強い決意を示した。

 「当選確実」を伝えるテレビの速報が入ると、支持者が集まった那覇市の会場は大きな歓声に包まれ、指笛が響く中、沖縄の手踊り「カチャーシー」を舞う玉城さんの笑顔がはじけた。辺野古移設反対を訴え続けた玉城さんが、ほころびかけていた保守の一部と革新が共闘する「オール沖縄」態勢を再びつなぎ合わせた。

 玉城さんは速報で歓声が湧き起こる中、思わず天を仰いでいた。「命がけで新しい基地を造らせないという翁長知事の思いが県民に宿っていて、私を後押ししてくれた」。そう話した玉城さんは「翁長知事から受け継いだ礎を継承し、県民とともに希望へと進んでいくことを翁長知事に約束したい。チムグクル(真心)にあふれる沖縄をみんなでつくっていきましょう」と決意をにじませた。

 膵(すい)がんのため67歳で急逝した翁長氏の後継として出馬を表明したのは告示のわずか2週間前。翁長氏が生前に玉城さんの名前を挙げていたことが明らかとなり、急転直下で短期決戦に挑んだ。

 父は、本土復帰前の米国統治下の沖縄に駐留していた米兵で、生まれる前に帰国し、顔も知らない。母は生活のために働き、10歳ごろまで知人女性が預かって育ててくれた。そんな自らの出自を政治理念の原点とし「誰も取り残さない社会」の実現を目指した。

 本名は康裕で「デニー」は愛称。街頭や集会ではラジオパーソナリティーだった経験を生かし、ウチナーグチ(沖縄の言葉)を駆使した軽妙な語り口で聴衆の心をつかんだ。

 全国の米軍専用施設の約7割が沖縄に集中する不条理に「日米両政府から沖縄をウチナーンチュ(沖縄の人)の手に取り戻す」と真っ向から立ち向かい、国に頼らない自立型経済の推進を訴えた。

 選挙戦終盤には翁長氏の妻樹子(みきこ)さん(62)も集会で壇上に上がり「翁長が命がけで守ろうとした沖縄を、県民の心に1ミリも寄り添おうとしない相手に譲りたくない」と訴えて「弔い合戦」をアピールした。「まけてーないびらんどー(負けてはならない)」など玉城さんも翁長氏のスローガンを多用して、支持を広げることに成功した。

 

安倍首相「しょうがないね」 沖縄知事選、政権に痛手(2018年9月30日配信『朝日新聞』)

 

 安倍政権が総力を挙げた沖縄知事選で与党系候補が敗れ、自民党総裁3選後の安倍晋三首相の政権運営は、厳しいスタートになった。米軍普天間飛行場の移設に反対する知事候補が2回連続して当選したことで、移設工事の進め方にも影響するのは必至だ。

 首相は30日夜、敗北を受けて「残念だったけど、しょうがないね」と自民党幹部に電話で伝えた。自民は総裁選期間中から幹部を大量投入して国政選挙並みの態勢で臨んだ。公明党も支持母体の創価学会がフル回転。日本維新の会と合わせた「必勝態勢」で組織戦を展開した上での敗北は、政権に対する不信の強さを物語る。

 首相にとっては総裁選の地方票で伸び悩んだことに続く衝撃の結果だ。総裁選では沖縄の地方票で6割以上を獲得したが、自民党員から支持を得た地域でも、有権者全体では厳しい世論があることがはっきりした。来年の統一地方選、参院選の「選挙の顔」として疑問符もつきそうだ。

 首相は2日に内閣改造・自民党役員人事を行う。政権の「土台」とする麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、二階俊博幹事長らを続投させ、主流派頼みの政権運営が強まりそうだ。憲法改正の旗は掲げ続けるが、参院選前にどこまで進められるかは見通せない。首相自身の求心力低下が進む可能性もある。

 辺野古への移設計画は結果にかかわらず進める方針。しかし、沖縄で2回示された民意に逆らい、工事を強行することへの批判はこれまで以上に強まることは確実で、政権運営にとって大きな火種となる。

 

沖縄県知事選で玉城デニー当選! 卑劣なデマ選挙でも勝てなかった安倍政権、辺野古反対の民意を示した沖縄県民(2018年9月30日配信『リテラ』)

 

 翁長雄志知事が2015年の県民大会で発した「うちなーんちゅ、うしぇーてぃないびらんどー!」(県民をないがしろにするな)という力強い言葉が、いま、再び響く。──本日、投開票がおこなわれた沖縄県知事選で、亡くなった翁長知事の後継候補だった玉城デニー氏が、“安倍政権の傀儡候補”の佐喜真淳氏を破り、当選を確実にした。

 今回の知事選はまさに「県民をないがしろに」した選挙だった。本サイトでも繰り返し伝えてきたが、自民党と公明党、日本維新の会などの佐喜真陣営は、潤沢な選挙資金と組織力にものを言わせたすさまじい物量作戦を展開。自民党は企業・業界団体に、公明党は創価学会に、厳しい締め付けをおこなっただけでなく、選挙期間中におこなわれた安室奈美恵の引退前のラストライブをめぐり、菅義偉官房長官がイベントを企画したセブン−イレブン・ジャパンや音楽プロモーターを通じて“知事選にはかかわるな”と圧力をかけようとしたと報じられたほど。

 さらに、もっとも醜悪だったのが、佐喜真応援団がネット上で繰り出した、玉城氏に対するデマ攻撃だ。その詳細は過去記事に詳しいがhttps://lite−ra.com/2018/09/post−4278.html、「小沢一郎の別荘」「隠し子」などの疑惑はすべてデマであることが週刊誌報道などによって判明しているにもかかわらず、選挙戦最終盤までネット上で流布されつづけた。しかも、「小沢別荘」デマを拡散させたのは、公明党の遠山清彦衆院議員というれっきとした国会議員だった。

 このような類を見ない物量作戦とネガティブキャンペーンを繰り広げながら、佐喜真氏は見事に敗れた。普通なら、もっと大差をつけて玉城氏が勝利を収めていてもおかしくはないのだ。

 なぜ、安倍自民党と公明党がここまで総力戦を展開しながらも、敗北を喫したのか──。それは、佐喜真氏が最後まで最大の争点であった「辺野古新基地建設の是非」について明言を避け、逃げてきた結果だろう。

 玉城氏は「辺野古新基地は絶対につくらせない」と明確に訴えてきたが、対する佐喜真氏は辺野古新基地にほとんど言及することなく「普天間飛行場の早期返還」の一点張りで押し通し、告示前におこなわれたJC(日本青年会議所)主催の公開討論会では「安全保障問題は国が決めること。我々には努力の限界がある」などと発言(ちなみに、この討論会で佐喜真氏の口からは「女性の質の向上を目指す」などと女性を下に見るような発言も飛び出した)。他方、辺野古の話をしない代わりに佐喜真氏は「携帯電話料金の4割削減」などという首長にも国にもまったく権限がないデタラメな政策を打ち出すという“騙しの公約”を掲げた。

 さらに、佐喜真氏は、「対立から対話へ」というキャッチフレーズを打ち出し、プロモーション動画では、佐喜真氏と菅官房長官が対話をするシーンを織り交ぜ、佐喜真氏が菅官房長官の肩を強く叩くという猿芝居まで披露していた。

 しかし、いくら辺野古についてふれず、あたかも「菅官房長官にだって強く出られる」という印象付けをおこなっても、「早期に辺野古への移設と普天間飛行場の返還を実現する考え方に変わりはない」という考えを示してきた菅官房長官が表立って応援していることから佐喜真氏がどういう考えなのかは明々白々。「対立から対話へ」ではなく、「対立から国の言いなりへ」というのが実態だったのだ。

安倍政権と本土メディアは沖縄県民の辺野古反対の民意を無視するな

 こうした嘘にまみれた選挙に対し、沖縄県民があらためて「辺野古新基地建設はさせない」とはっきり打ち出した玉城氏を選んだ意味は、非常に大きい。

 だが、この民意が示された選挙結果を受けて、安倍政権がさらに“沖縄いじめ”を激化させることは必至だ。なかでも、翁長知事が命を賭けた沖縄県の辺野古埋め立て承認の撤回に対しては、選挙中は見合わせていた撤回の効力を失わせる執行停止の申し立てなどをさっそくおこなうだろう。

 そして、もうひとつ大きな問題は、「本土」メディアの報道姿勢だ。米軍基地問題は沖縄県だけの問題ではけっしてなく、国全体の問題だ。にもかかわらず、今回の沖縄県知事選をクローズアップしてじっくり報じたテレビ番組はごくわずかだった。

 この背景にあるのは、基地問題を沖縄に押し付けつづける「本土」メディアの姿勢にくわえ、政権からの“圧力”に怯えたせいだろう。基地問題を争点として伝えた場合、どうしても佐喜真氏の欺瞞が露わになってしまう。そうすれば、安倍政権からどんな恫喝を受けるか──。そう考えた結果、忖度して“報道しない”という選択をとったのではないか。

「本土」メディアがこの調子では、これから玉城新知事が安倍政権と対峙し、米軍基地問題や日米地位協定について日本全体の問題だといくら訴えても、この国はいつまでも沖縄にその重荷を背負わせつづけることになる。その一方、安倍政権がさらに沖縄報道に目を光らせていくことはあきらかだ。

 今後は、沖縄の問題に向き合わない「本土」メディアの報道姿勢にも、よりいっそう注視する必要があるだろう。

 

新知事に玉城デニー氏が当確 辺野古反対に支持 承認撤回、翁長氏を継承(2018年9月30日配信『琉球新報』)

 

 翁長雄志知事の死去に伴う第13回沖縄県知事選挙は30日、投票が行われた。即日開票の結果、県政与党が推す無所属新人で前衆院議員の玉城デニー氏(58)が、政府与党が推す無所属新人で前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=を破って初当選を果たした。

 最大の争点だった米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設について玉城氏は反対を公約に掲げ、翁長知事が指示した辺野古埋め立て承認の撤回を支持している。

 知事選で県民は辺野古移設反対の民意を改めて示す結果となった。辺野古新基地建設を強行してきた政府の今後の対応が注目される。

 辺野古新基地建設に対し玉城氏は選挙期間中、「宜野湾市民が受ける基地被害の苦しみを名護市民に背負わせることはできない。翁長知事の遺志を継ぎ、新基地建設を阻止するために全力を尽くす」と訴えてきた。

 その上で、来年2月に期限を迎える普天間飛行場の5年以内の運用停止について「政府は(運用停止の)約束を守るべきだ」と主張している。

 埋め立て承認撤回に対しては「全面的に支持する。撤回は公有水面埋立法に基づき適正に判断したものだ」と指摘してきた。

 このほか、玉城氏は政策で「誰ひとり取り残さない社会」の実現を目指すと宣言。「保育料の無料化」「待機児童ゼロ」「子育て世代包括支援センターの全市町村設置」「保育所整備、認可外保育施設の認可化を支援」「認可外保育施設の給食費補助」などを掲げてきた。

 玉城氏は1959年10月13日、うるま市与那城生まれ。本名は玉城康裕。人気ラジオパーソナリティーとして活躍していたが、政治家を志し、2002年に沖縄市議に初当選。09年に衆院議員に初当選し、4期務めた。妻・智恵子さんと2男2女。

 

沖縄知事に玉城氏初当選 政権支援の候補破る(2018年9月30日配信『朝日新聞』)

 

 沖縄県知事選が30日投開票され、前自由党衆院議員の玉城(たまき)デニー氏(58)が、前宜野湾市長の佐喜真(さきま)淳(あつし)氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=ら3氏を破り、初当選した。最大の争点だった米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画に、玉城氏は「反対」を主張してきた。県民は翁長雄志(たけし)知事が当選した前回知事選に続いて、辺野古移設にノーを突きつけた形となった。

 移設計画が浮上してから6回目の知事選。8月に急逝した翁長氏は「辺野古移設阻止」を掲げ、安倍政権と対立し続けてきた。選挙戦では、その路線を維持するか、転換するかも問われた。

 玉城氏は、翁長氏を支えた共産、社民両党や、労組、一部の企業人らによる「オール沖縄」勢力が後継として擁立した。翁長氏の家族も集会でマイクを握るなどして、辺野古阻止の遺志を継ぐことを訴え、沖縄に基地が集中し続ける現状の理不尽さを強調した。

 玉城氏を支援する立憲民主党の枝野幸男代表や自由党の小沢一郎代表ら野党幹部も応援に訪れた。だが、玉城氏と街頭でほとんど並ばないことで党派色を抑え、無党派層も取り込んだ。

 一方、佐喜真氏は安倍政権の全面支援を受け、「対立から対話へ」をスローガンに政権との関係改善を主張。県民に根強い「辺野古反対」を意識して、移設の賛否には一切言及せず、生活支援や経済振興を前面に押し出した。菅義偉官房長官ら政府・与党幹部も続々と沖縄に入り、政権の支援を印象づけた。だが、辺野古移設を強引に推し進めてきた安倍政権への反発をかわせなかった。

 辺野古では埋め立て予定区域の一部で護岸がつながり、政府は8月にも土砂投入を始める予定だった。しかし県は8月末に埋め立て承認を撤回し、工事は止まっている。政府は今後、法的な対抗措置を執り、裁判所に認められれば埋め立てを始める構えだ。

 

異例で異様な知事選 沖縄の将来を左右 本紙政経部長の視点(2018年9月30日配信『沖縄タイムス』)

 

 異例で異様な知事選だと感じた人も多かったに違いない。

 翁長雄志前知事の急逝で選挙が大幅に早まった。超短期決戦となり選挙自体が見えづらかったし、最後は台風の直撃も受け、日程を切り上げる形で選挙戦を終える展開となった。異例の連続が結果にどう影響を及ぼすかは見通せない。

 「異様さ」も際立った。

 本紙などの調査に対し、知事選で「基地問題」を重視すると答えた有権者が多数を占めた。辺野古新基地建設問題が焦点化した4年前と同様、「経済の活性化」を上回った。

 今回も辺野古問題の是非が最大の争点である。新基地建設を推進する安倍政権・与党本部が死に物狂いで、テコ入れを図ってきたのも、このことを証明している。選挙結果が、辺野古新基地計画に重大な影響を及ぼすことになるからだ。

 それなのに、選挙戦で辺野古の是非について議論が深まることはなかった。異様さはここに尽きる。

 翁長前知事の後継の玉城デニー氏(58)は新基地に反対を明言した。だが、先の展望は見えなかった。政府・与党から全面支援を受ける佐喜真淳氏(54)は、普天間飛行場の早期返還は訴えた。だが、辺野古については最後まで賛否を明らかにせず、選挙戦を終えた。

 1996年の普天間返還の日米合意から知事選は6回目となる。普天間の移設について候補者の姿勢が明示されずに選択が迫られるのは、初めてである。

 結果によっては新基地の行方を決定づける選挙で、深められるべきことが深められず、1票を投じる判断材料が十分に提供されなかったのは残念である。

 辺野古についての問いは基地問題にとどまらない。沖縄と政府の関係性はどうなっていくのか。憲法が規定する地方自治とは何か、地方と中央の関係はどうあるべきなのか−。選挙結果は、さまざまな分野に波及することになるだろう。

 沖縄の将来を決定する岐路ともなる知事選である。一人一人が未来と、次の世代に大きな責任のある1票であることを胸に、投票に臨んでもらいたい。(沖縄タイムス政経部長 宮城栄作)

 

新基地や経済など争点 沖縄県知事選告示(2018年9月14日配信『沖縄タイムス』)

 

 翁長雄志前知事の死去に伴う第13回県知事選挙が13日告示され、いずれも無所属で新人の前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦、自由党前衆院議員で「オール沖縄」勢力が推す玉城デニー氏(58)ら4人が立候補を届け出た。米軍普天間飛行場の返還方法や名護市辺野古への新基地建設、経済振興、子育て支援などを主な争点に、30日の投開票まで17日間の選挙戦に突入した。

 

(左から)佐喜真淳氏、玉城デニー氏、渡口初美氏、兼島俊氏

 

佐喜真氏と玉城氏、事実上の一騎打ち

 知事選は、与野党が激しく対決する佐喜真氏と玉城氏の事実上の一騎打ちで、結果は新基地建設計画などに影響を与える可能性がある。14日から県内各市町村で期日前投票が始まる。

 佐喜真氏は普天間飛行場の一日も早い返還と早期の運用停止、県民の所得向上、米軍基地返還跡地の利用促進などを訴えている。

 玉城氏は翁長氏の後継として、新基地建設阻止を掲げ、好調なアジア経済を取り入れた自立型経済の確立などを主張している。 

 両氏とも普天間の早期返還では一致しているものの、手法は分かれている。

 このほか、元那覇市議で琉球料理研究家の渡口初美氏(83)と元会社員の兼島俊氏(40)も届け出た。12日現在の選挙人名簿登録者数は115万8569人。

 

<佐喜真候補>対話を通し未来へ前進

 県民の暮らし最優先宣言をした。まずやりたいことは県民の所得を300万円まで上げるよう努力する。子どもの貧困の撲滅を実現していく。給食費、保育料、医療費の無償化を目指して子育て、教育王国・沖縄をつくっていく。

 沖縄には39の有人離島がある。本島も本土に行くにも交通費が大きな課題。航空運賃の軽減を図り、どこにいても幸せが感じられる沖縄をつくっていく。4年間進まなかった北部の基幹病院を、市町村負担がないよう設置して命を守る。

 145万の県民が等しく喜べるようにするのが県知事の役割だ。宜野湾市長として2期6年間、市政運営を行ってきた。普天間飛行場の返還が実現できなかったじくじたる思いがある。私は絶対に諦めない。県民、市民のため普天間、キャンプ・キンザー、那覇軍港を含めて返還できるのは私しかいない。全力で沖縄のために頑張る。基地問題も私にしかできない。県民の悲願である、日米地位協定は絶対に改定する。

 対立や分断ではなく対話、和をもって沖縄を取り戻す。和をもって沖縄をつくる。和をもって沖縄の未来を前に進めよう。

 佐喜真 淳氏(さきま・あつし)1964年8月9日生まれ。宜野湾市出身。宜野湾市議2期、県議2期、宜野湾市長を2期6年務めた。

 

<玉城候補>誇りある豊かさを構築

 ここ伊江島で生まれた母の長男として生を受けた。伊江島は、戦後の島ぐるみ闘争の発祥地だ。もう一度ちむぐくるを奮い立たせ、右も左も、イデオロギーなど関係ない、アイデンティティーに根ざした未来の沖縄をつくっていきたい。

 子どもの貧困を断ち切るために、全市町村に子育て世代包括支援センターを設置する。年金や非正規雇用、アルバイトにより学業を優先できない学生の問題など、すべての県民を救うための条例を制定し、ひとりも取り残さない、ちむぐくるの県政をつくりたい。

 国の補助金頼みではなく、自らの力で海外に打って出る。沖縄が日本経済のフロントランナーとして最前線に立てるよう、外資を呼び込み、実のある観光立県沖縄の経済をつくりたい。得られた原資収入を優しい沖縄社会へ循環していく。それが玉城デニーの目指す新時代沖縄の未来。

 うちなーんちゅが「誇りある豊かさ」を築き「イデオロギーよりもアイデンティティー」を大事にしようという翁長雄志知事の遺志を引き継ぎ、辺野古に新しい基地を造らせない、その意思を明確にして選挙戦を堂々と闘っていこう。

 玉城 デニー氏(たまき・でにー)1959年10月13日生まれ。うるま市出身。タレント活動を経て沖縄市議1期、衆院議員4期を務めた。

 

<渡口候補>料理で長寿県に

 基地問題だけでなく、衣食住に重点を置き、琉球料理を通して長寿を目指す行政にしたい。

 渡口 初美氏(とぐち・はつみ)1935年1月15日生まれ、那覇市出身。同市三原在住。那覇高校卒。93年那覇市議に初当選し、1期4年務めた。

 

<兼島氏>声伝わる行政に

 若者と一緒に今後の沖縄をつくりたい。個人の声が行政に伝わるような仕組みをつくりたい。沖縄をもっと良くしたい。

 兼島 俊氏(かねしま・しゅん)1978年1月28日生まれ、沖縄市出身。東京都江戸川区在住。陽明高校卒。元会社員。

 

沖縄県知事選、4氏の選挙戦確定 佐喜真候補、玉城候補の事実上の一騎打ち(2018年9月13日配信『琉球新報』)

 

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沖縄県知事選に立候補した(左から)佐喜真淳氏、玉城デニー氏


 翁長雄志知事の在任中の死去に伴い行われる第13回県知事選が13日告示された。午後5時までに、無所属新人で前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=と、県政与党が推す無所属新人で前衆院議員の玉城デニー氏(58)ら4人が届け出て、受け付けは締め切られた。選挙戦は両氏による事実上の一騎打ちとなる。知事選は一部地域を除き30日に投開票される。

両氏のほかに、無所属新人で琉球料理研究家の渡口初美氏(83)と、無所属新人で元IT会社員の兼島俊氏(40)が立候補を届け出た。

 

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渡口初美氏

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兼島俊氏

 

沖縄の「分断」国と県か、県民同士か かみ合わない論戦(2018年9月13日配信『朝日新聞』)

 

沖縄県知事選・主要候補の普天間飛行場移設問題への立場

 

 13日に告示された沖縄県知事選の候補者で、いずれも無所属新顔の佐喜真淳氏(54)と玉城デニー氏(58)は「対立と分断」の解消を訴える。だが意味するところは異なる。最大の争点である米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画についての論戦でも、両者は切り結びそうにない。

 「対立や分断の4年間を繰り返すのか。それとも沖縄らしい和をもって、沖縄をダイナミックに前に進めるのか」。13日朝、佐喜真氏は、那覇市内でマイクを握り、繰り返し訴えた。

 佐喜真氏が言う「対立と分断」とは、翁長雄志知事時代に冷え切った県と国との関係のことを指す。

 前回知事選で「移設反対」を訴えて大勝した翁長氏は、「民意」を背に辺野古への移設計画の見直しを強く求めた。しかし、安倍政権は「辺野古が唯一の解決策」との姿勢を崩さず、計画を推進。一時は国と県が3件の裁判を同時に争うという異常事態となった。

 普天間飛行場を抱える宜野湾市の市長だった佐喜真氏は、政権寄りの県内市長たちでつくる「チーム沖縄」の代表格だった。菅義偉官房長官とのパイプを築き、翁長県政を「国と話し合いができていない」と批判してきた。知事選では自民、公明両党などから推薦され、安倍政権の全面支援も受ける。

 陣営関係者は「翁長氏は国との対話が途絶え、行き詰まった。県民は別の手法を期待している」と話す。

 キャッチフレーズは「対立から対話へ」。翁長県政を「辺野古一辺倒だった」「一括交付金を570億円減らされた」と批判し、政権との協調をアピールする戦略だ。自民関係者は自信を見せる。「次のステージに進みたい。県民にはそんな空気がある」

 一方、翁長氏の後継候補である前衆院議員の玉城氏も「対立と分断」という言葉を多用する。その意味は、安倍政権下で深まった沖縄の中での亀裂だ。

 沖縄では長らく、基地問題へのスタンスが異なる「保守」と「革新」が対立してきた。しかし2013年1月、普天間の県外移設やオスプレイの配備撤回などを求めた「建白書」に、県内全41市町村の首長と議長が署名。自民から共産まで党派を超えた「オール沖縄」が実現した。

 だが、「辺野古が唯一」という安倍政権の方針に、自民県連は「辺野古容認」へ転換。翁長県政時代に政権は移設工事を推し進め、保守系の地方議員の一部や企業関係者らが「オール沖縄」から離れた。

 「県民の中に対立と分断を持ち込もうとする今の政府の対応は、民主主義国家として恥ずべきものだ」。玉城氏は10日の政策発表会見で批判した。

 同時に玉城氏が繰り返すのは、翁長氏のスローガンだった「誇りある豊かさ」と「イデオロギーよりアイデンティティー」だ。

 13日、辺野古がある名護市でマイクを握った玉城氏は「ウチナーンチュ(沖縄の人)が一つになったら、とても大きな力になる。子や孫に基地を絶対に押しつけてはいけない」「ヤマト(本土)に口を開けているだけでは、(利益は)本土のゼネコンに戻ってしまう」と訴えた。

 政策担当者は「国からお金をもらって潤うというのは、従属でしかない。依存から脱却し、沖縄の自立型経済という将来像を示したい」と話す。

辺野古移設の主張かみ合わず

 「対立と分断」の異なる意味合いの背景にある辺野古移設の是非についても、2人の主張は交わらない。

 佐喜真氏は「原点は普天間飛行場の早期返還だ」と繰り返す。辺野古への移設計画については「(県による埋め立て承認の撤回で)国と県の法廷闘争になるとの報道があり、その流れを注視する」と述べるのみ。賛否を明らかにしない。

 移設計画が浮上して以来の知事選で、自民系候補は考えや立場を説明してきた。稲嶺恵一氏は、選挙公約に「軍民共用化」や「15年の使用期限」といった条件を付けて容認を掲げた。仲井真弘多(ひろかず)氏は初当選の際、沿岸部を埋め立てるV字滑走路案に反対しつつ、県内移設については容認する姿勢を示していた。

 佐喜真氏のように賛否をまったく示さないケースは初めて。支援する国会議員の一人は「賛否をもう少し明確にした方が、県民にはわかりやすい」と指摘する。

 それでも自民関係者は「相手の土俵に乗ってはダメだ」と理解を示す。各種世論調査によると、県民の「辺野古反対」はなお根強く、前回の知事選では「辺野古推進」を明確にした仲井真氏が惨敗した。選挙で再び「辺野古」が論争になれば、移設を推し進める安倍政権の全面支援を受ける佐喜真氏への逆風になりかねない。

 前回知事選で自主投票だった公明への配慮もにじむ。県本部は今も辺野古反対の立場。2月の名護市長選では、政権が推す候補が「辺野古」への言及を避ける作戦を徹底して反対派の現職を破っており、その再現を狙うというわけだ。陣営の一人は「わざわざ『辺野古』に触れる必要はない。他にも大事なことがあると言えばいい」と話す。

 一方の玉城氏は「辺野古反対」を明言し、佐喜真氏の姿勢を「争点隠し」と繰り返し批判している。

 だが、玉城氏が「辺野古阻止」の具体策を示せているわけではない。埋め立て承認の撤回は県にとって「最後の切り札」。国に裁判を起こされて敗れた場合、残る対抗策はいよいよ乏しい。11日にあった討論会では「司法で解決をさせるという国の姿勢は本当に正しいのか、知事として明らかにしていきたい」と述べたが、具体案は示さなかった。

 だが、玉城氏の側近は言う。「名護市長選で反対派が敗れ、知事選でも負ければ、基地が集中する沖縄の不条理を訴えるリーダーがいなくなる。先が見えず苦しくても、訴え続けるしかない」

 

沖縄知事選:佐喜真氏vs玉城氏 事実上の一騎打ち(2018年9月13日配信『毎日新聞』)

 

 翁長雄志(おながたけし)知事の死去に伴う沖縄県知事選が13日告示され、立候補を届け出た4人による選挙戦がスタートした。いずれも無所属新人で、前宜野湾市長の佐喜真淳(さきまあつし)氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=と、元衆院議員の玉城(たまき)デニー氏(58)の事実上の一騎打ちの構図で争われる。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設計画を進める安倍政権が佐喜真氏を推し、翁長氏の後継として移設反対を訴える勢力が玉城氏を支援する。投開票は30日で、結果は辺野古移設の行方に大きな影響を与える。

 那覇市での出陣式で、佐喜真氏は「対立や分断の4年間を繰り返すのか。和をもって沖縄を前に進めていくのか」と政府と協調しての経済振興策などをアピール。辺野古移設の賛否は明言せず、「宜野湾市長として基地問題では政府と闘ってきた。普天間飛行場の返還を実現できるのは私しかいない」と強調した。移設先の名護市でも街頭に立ったが、移設問題には一切触れなかった。

 佐喜真氏は自民県連が擁立。公明は県本部が辺野古移設に反対の立場で、前回選は自主投票で臨んだが、今回は推薦を決めた。

 玉城氏は伊江島で第一声を上げ、「ウチナーンチュ(沖縄の人)のアイデンティティーを思い出し、誇りある豊かさを築こう」と呼び掛けた。その後、抗議活動が続く辺野古を訪れ、「沖縄の海を陸を戦(いくさ)に使うための基地は造らせない。翁長知事が託したバトンをしっかりと受け取る」と訴え、移設に反対する姿勢を明確に示した。

 自由党衆院議員だった玉城氏を、共産、社民などのほか、辺野古移設に反対する企業や団体が支援。翁長氏を前回選で支えた保守と革新が共闘する「オール沖縄」態勢の再構築を狙う。

 1996年の日米両政府による普天間飛行場の返還合意以降、知事選は6回目。2014年の前回選は辺野古移設反対を訴えた翁長氏が移設推進を主張した現職を大差で破った。だが、安倍政権は「辺野古移設が唯一の解決策」との姿勢を変えず、17年4月に護岸工事に着手。土砂投入による埋め立ての準備を既に整えたが、県は8月31日に埋め立て承認を撤回し、工事は中断している。知事選は当初、11月に予定されていたが、翁長氏が8月8日に急逝し、前倒しされた。

 知事選には2氏のほか、琉球料理研究家の渡口(とぐち)初美氏(83)と元IT会社員の兼島俊氏(40)も立候補を届け出た。

 沖縄県の有権者数は12日現在で115万8569人。

 

沖縄知事選告示 辺野古争点、与野党対決 佐喜真、玉城氏ら届け出(2018年9月13日配信『東京新聞』)

 

 沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事の死去に伴う知事選が13日告示され、新人4氏が届け出た。米軍普天間(ふてんま)飛行場(宜野湾(ぎのわん)市)の名護市辺野古(へのこ)移設の是非を争点に、与野党が激しく対決する事実上の一騎打ちの構図。30日に投開票される。結果は政府の移設計画や今後の日米関係に影響を与える可能性がある。

 立候補を届け出たのはいずれも無所属で、移設を進める安倍政権が推す前宜野湾市長佐喜真淳(さきまあつし)氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=と、反対を訴える自由党前衆院議員玉城(たまき)デニー氏(58)ら4氏。

 佐喜真氏は、那覇市で開いた出陣式で「対立や分断からは何も生まれない。対話を通して県民の思いを伝えるべきところにしっかりと伝える。普天間飛行場や、那覇軍港の返還などを全てできるのは、この私しかいない」と強調した。

 玉城氏は、伊江村の第一声で「国頼みではなく、沖縄の人が誇りある豊かさを築き、イデオロギーよりもアイデンティティーを大事にしようという翁長氏の遺志を受け継ぎ、辺野古に新しい基地を造らせない」と話した。

 佐喜真氏は、市中心部にある普天間飛行場の早期返還と危険性の除去を訴えるが、辺野古移設の是非については明言していない。政権とのパイプを生かした生活支援や経済振興を中心に訴える。

 玉城氏は、共産、社民など県政与党や辺野古反対の市民団体が後押しする。県による辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回を支持し、移設阻止を前面に掲げる。翁長氏の後継だと主張して「弔い合戦」を印象づける。

 元那覇市議で琉球料理研究家の渡口初美(とぐちはつみ)氏(83)と元会社員の兼島俊(かねしましゅん)氏(40)も届け出た。12日現在の選挙人名簿登録者数は115万8569人。

 

◇沖縄知事選立候補者(届け出順)

佐喜真淳(さきまあつし) 54 無新 

 (元)宜野湾市長・県議・宜野湾市議▽千葉商大 =自公維希

 

玉城(たまき)デニー 58 無新 

 自由党幹事長(元)衆院議員・タレント▽上智社会福祉専門学校

 

渡口初美(とぐちはつみ) 83 無新

 琉球料理研究家(元)那覇市議▽那覇高 

 

兼島俊(かねしましゅん) 40 無新 

 (元)IT会社員・焼き鳥店経営▽陽明高

 

虚構のダブルスコア 沖縄県知事選、出回る「偽」世論調査(2018年9月8日配信『琉球新報』)

 

 13日告示、30日投開票の沖縄県知事選を巡り、主な立候補予定者の支持に関する「世論調査」の情報が複数飛び交っている。調査結果の数字はおおむね傾向が一致し、主な立候補予定者2人のうち、一方の立候補予定者がダブルスコアでもう一方を上回るという結果となっている。その中には「朝日新聞の調査結果」とされる数字も含まれているが、朝日新聞社は本紙の取材に「事実無根。調査していない」と答え、偽(フェイク)情報であることが分かった。このほか「国民民主党の調査」もあるが、同党も調査を否定した。

 「朝日新聞の世論調査」とされる情報は「朝日新聞が52対26」という表現のもので、取材を通して得られる情報として出回っている。調査は9月1、2日に行われたとされており、主な立候補予定者2人のうち、一方への支持が52%、もう一方が26%と、2倍近い差がついている。朝日新聞社広報部は、この数字の真偽について「これは事実無根だ。弊社の数字ではない。そもそも調査も何もしていない」と調査自体を否定した。

 「朝日新聞」以外でも、政党が調査したとされる数字で「56・8対21・3」や、「34〜35ポイント差がついている」といった情報が出回っている。

 そのうち「国民民主党の世論調査」とされるものは8月25、26日の調査で、「サンプル数2000」との情報とともに「ある立候補予定者がもう一方を13ポイントリード」とされている。国民民主党は本紙の取材に対し「調査をやったという話は確認できない。承知していない」と答えた。

 (’18知事選取材班)

※特定の立候補予定者や陣営を利することにならないよう、立候補予定者の名前は伏せました。

※飛び交っている「世論調査」の情報については、取材の中で得られる情報として出回っているものもあります。「朝日新聞の世論調査」とされる数字についても、その一つであることから記事中に「取材を通して得られる情報として出回っている」との文を追記しました。

 ■ファクトチェック―フェイク監視■

 2016年の米大統領選でネット上において拡散され問題になった「フェイクニュース」。琉球新報は30日投開票の知事選に関するデマやうそ、フェイク(偽)情報を検証する「ファクトチェック―フェイク監視」を随時掲載します。LINE「りゅうちゃんねる」で情報も募ります。

 

 

 

玉城デニー氏が圧勝した沖縄知事選、各紙の社説はこんなに違う(2018年10月1日配信『BuzzFeed News』)

 

「民意を聞け」から「現実的な立場を」まで。

 

10月1日の新聞各紙の朝刊

 

9月30日投開票された沖縄県知事選は、玉城デニー氏が勝利した。

米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画に反対する玉城氏の勝利を、翌朝の新聞各紙はどのような論調で県知事選の結果を伝えたのか。BuzzFeed Newsは、新聞各紙の社説を比較した。

読売新聞「普天間の危険性除去を進めよ」

読売新聞は、冒頭から「国との対立をあおるだけでは、県政を率いる重要な役割を果たせまい」と、玉城氏に対して厳しい書きぶりだ。辺野古移設を進める国との対立が続くことには、「県民の間にも一定の批判がある」と指摘。辺野古への移設が「普天間の返還を実現する上で、唯一の現実的な選択肢」と安倍政権の主張に賛意を示した。その上で、国と県の対立を解消すべく、玉城氏に対して「政府との緊密な連携」を求めた。辺野古への移設に反対し、玉城氏を支援した野党に対しても厳しい書き方だ。「かつての民主党の鳩山政権と同じで、無責任のそしりを免れない」と批判した。一方で、自民党・公明党が総力をあげて支援した佐喜真淳氏が敗れたことについて、「安倍政権にとって痛手」と指摘。政府に対して、あくまで辺野古移設を念頭に「県と真摯な姿勢で協議するとともに、着実に基地の再編や縮小を進めなければならない」と求めた。

読売新聞は、冒頭から「国との対立をあおるだけでは、県政を率いる重要な役割を果たせまい」と、玉城氏に対して厳しい書きぶりだ。 

辺野古移設を進める国との対立が続くことには、「県民の間にも一定の批判がある」と指摘。

辺野古への移設が「普天間の返還を実現する上で、唯一の現実的な選択肢」と安倍政権の主張に賛意を示した。

その上で、国と県の対立を解消すべく、玉城氏に対して「政府との緊密な連携」を求めた。

辺野古への移設に反対し、玉城氏を支援した野党に対しても厳しい書き方だ。「かつての民主党の鳩山政権と同じで、無責任のそしりを免れない」と批判した。

一方で、自民党・公明党が総力をあげて支援した佐喜真淳氏が敗れたことについて、「安倍政権にとって痛手」と指摘。

政府に対して、あくまで辺野古移設を念頭に「県と真摯な姿勢で協議するとともに、着実に基地の再編や縮小を進めなければならない」と求めた。

 

朝日新聞「沖縄知事選 辺野古ノーの民意聞け」

朝日新聞は、佐喜真氏を支援した安倍政権への批判的な筆致が目立った。辺野古移設に反対する玉城氏の勝利を「県民の思い」と表現。安倍政権に対して「辺野古が唯一の解決策」という姿勢を改善するように求めた。さらに、菅義偉官房長官らが佐喜真氏の応援で「県政とは直接関係のない携帯電話料金の引き下げに取り組む姿などをアピール」したことを問題視。「政権側がとった対応は異様」「都合の悪い話から逃げ、耳に入りやすい話をちらつかせて票を得ようとする」と断じた。その上で、「安倍政権がとってきた、従う者は手厚く遇し、異を唱える者には徹底して冷たく当たる政治によって、県民の間に深い分断が生まれてしまった」と主張。こうした分断の修復に「全力で取り組んでもらいたい」と締めた。

朝日新聞は、佐喜真氏を支援した安倍政権への批判的な筆致が目立った。

辺野古移設に反対する玉城氏の勝利を「県民の思い」と表現。安倍政権に対して「辺野古が唯一の解決策」という姿勢を改善するように求めた。

さらに、菅義偉官房長官らが佐喜真氏の応援で「県政とは直接関係のない携帯電話料金の引き下げに取り組む姿などをアピール」したことを問題視。

「政権側がとった対応は異様」「都合の悪い話から逃げ、耳に入りやすい話をちらつかせて票を得ようとする」と断じた。

その上で、「安倍政権がとってきた、従う者は手厚く遇し、異を唱える者には徹底して冷たく当たる政治によって、県民の間に深い分断が生まれてしまった」と主張。

こうした分断の修復に「全力で取り組んでもらいたい」と締めた。

 

毎日新聞「沖縄知事に玉城デニー氏 再び『辺野古ノー』の重さ」

毎日新聞も、朝日新聞と同じくタイトルに「辺野古ノー」の言葉を用いた。移設反対の玉城氏を選んだ県民の選択は「極めて重い」と指摘。政府が「従来の姿勢を見直さざるを得なくなったのは明らか」として、安倍政権に批判的な論調をとった。翁長前知事の知事就任後、安倍晋三首相と菅官房長官が「4カ月にわたって面会を拒み続けた」ことにも言及。今回も「そんな大人げない対応を繰り返せば、国と沖縄の対立はますます深まるだけ」と、安倍政権に釘をさした。沖縄に在日米軍の基地が集中している現状については、「日米安保のメリットは日本全土が受けているのに基地負担は沖縄に集中するという、その極端な不均衡にある」と分析。辺野古移設をめぐる国と県の対立を解消するため、政府に対して「虚心に県との話し合いを始める必要がある」と求めた。

毎日新聞も、朝日新聞と同じくタイトルに「辺野古ノー」の言葉を用いた。

移設反対の玉城氏を選んだ県民の選択は「極めて重い」と指摘。政府が「従来の姿勢を見直さざるを得なくなったのは明らか」として、安倍政権に批判的な論調をとった。

翁長前知事の知事就任後、安倍晋三首相と菅官房長官が「4カ月にわたって面会を拒み続けた」ことにも言及。

今回も「そんな大人げない対応を繰り返せば、国と沖縄の対立はますます深まるだけ」と、安倍政権に釘をさした。

沖縄に在日米軍の基地が集中している現状については、「日米安保のメリットは日本全土が受けているのに基地負担は沖縄に集中するという、その極端な不均衡にある」と分析。

 辺野古移設をめぐる国と県の対立を解消するため、政府に対して「虚心に県との話し合いを始める必要がある」と求めた。

 

日本経済新聞は、沖縄県知事選に関する社説なし

日本経済新聞は1面で選挙結果を伝えたが、10月1日付の社説は「保育支える人材を質と量の両面で厚く」「IT企業に変質強める米金融」の2つ。他の主要紙とは異なり、社説で沖縄県知事選には一切触れなかった。

 

産経新聞「沖縄知事に玉城氏 国と県の関係正常化図れ」

産経新聞は、辺野古移設をめぐり国と県の対立の原因はあくまで「移設を妨げる県の従来方針」にあると主張。翁長前知事の路線を継承し、辺野古移設に反対する玉城氏を牽制した。辺野古移設については「日米両政府が交わした重い約束事」「抑止力維持の観点からも見直せない」とし、玉城氏に「基地負担の軽減を進めていく現実的な立場」をとるよう求めた。ここまでは、読売新聞と同様の論調だ。ただ、産経新聞は今回の県知事選の意味について、踏み込んだ表現をしている。知事選について「基地移設の是非を決める役割があると考えること自体が誤っている」と断じ、「中国が狙う尖閣諸島は沖縄の島である」と、中国の脅威に言及する書き方をした。「米軍基地を国内のどこに置くかという判断は、国の専権事項」「憲法は地方自治体の長に、安保政策や外交上の約束を覆す権限を与えていない」と強調。これを「民主主義の基本」として、玉城氏には「防衛の最前線である沖縄の知事である自覚をもってほしい」と締めくくった。

産経新聞は、辺野古移設をめぐり国と県の対立の原因はあくまで「移設を妨げる県の従来方針」にあると主張。翁長前知事の路線を継承し、辺野古移設に反対する玉城氏を牽制した。

辺野古移設については「日米両政府が交わした重い約束事」「抑止力維持の観点からも見直せない」とし、玉城氏に「基地負担の軽減を進めていく現実的な立場」をとるよう求めた。ここまでは、読売新聞と同様の論調だ。

ただ、産経新聞は今回の県知事選の意味について、踏み込んだ表現をしている。

知事選について「基地移設の是非を決める役割があると考えること自体が誤っている」と断じ、「中国が狙う尖閣諸島は沖縄の島である」と、中国の脅威に言及する書き方をした。

「米軍基地を国内のどこに置くかという判断は、国の専権事項」「憲法は地方自治体の長に、安保政策や外交上の約束を覆す権限を与えていない」と強調。

これを「民主主義の基本」として、玉城氏には「防衛の最前線である沖縄の知事である自覚をもってほしい」と締めくくった。

 

 

翁長雄志前知事の「遺産」の一つに…(2018年10月29日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 翁長雄志前知事の「遺産」の一つに、筋を通すことへのこだわりがある。過去、米軍が事件や事故を起こすと、県から抗議に出向くのが通例だった。それを改め、県庁に来させるよう努力した

▼「なぜ被害を受けた側が行くのか」。県幹部は素朴な疑問が出発点だったと振り返る。翁長氏が提起して、沖縄担当大使や沖縄防衛局長は県庁に足を運ぶようになった

▼一方、当事者の米軍は犯罪が起きると来るが、訓練中の事故では渋ることが多い。戦闘になれば事故どころか死者さえ付き物。軍の論理では不時着などは軽微な事案で、県民の不安には思いが及ばない

▼政府の卑屈さも一因だろう。防衛相は沖縄に来ると基地内に四軍調整官(中将)を訪ねることが多い。片や米国で言えば国防長官、片や米軍に600人以上いる将官の1人。格からも、防衛局など日本側の施設に呼ぶべきではないか

▼日本が独立を回復した直後の1952年には、米軍司令官が当時の吉田茂首相と外相を自宅に呼び付けた。その場で有事には日本の部隊が米軍の指揮下に入るという密約をのませた。隷従の歴史は脈々と続く

▼翁長氏の遺志を継ぐ玉城デニー県政には、米軍に道理を説く努力も続けてほしい。政府にできないなら、沖縄が。それは、いまだ「独立」を果たせないこの国の姿への問いでもある。

 

[「新聞週間」に]偽情報検証 新たな責務(2018年10月16日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 9月30日に実施された県知事選はのちのち、「フェイク(偽)ニュース」が飛び交った初めての選挙として記憶されるかもしれない。

 知事選は事実上の一騎打ち。辺野古新基地建設の是非を巡り、安倍政権が総力を挙げ、政府対県の構図が鮮明になった。熾(し)烈(れつ)な選挙戦になったこともあってフェイクニュースがネット上にあふれた。候補者の人格をおとしめるような誹謗(ひぼう)中傷も出回った。

 今や会員制交流サイト(SNS)によって誰もが情報を発信することができる時代である。フェイクニュースを意図的に流し、それがツイッターでリツイートされ、フェイスブックでシェアされる。瞬く間にネット空間に広がり、大量に拡散されていく。

 真偽不明な候補者のネガティブ情報も有権者を惑わす。

 これまでの知事選では見られなかった現象である。

 公正な選挙は民主主義の根幹をなすことを考えればフェイクニュースは社会の基盤をむしばむ重大な問題である。

 ある陣営の選対本部長が選挙中に「緊急告知」としてフェイスブックで「相手候補者にもリスペクトを払う」ことを促し、「建設的でない批判や個人攻撃したりする必要はない」と自重を求めたほどだった。野放し状態だったということである。

 選挙の本来の姿は論争で政策を競い合うことだ。知事選は一方の陣営が公開討論に積極的でなく肝心な政策論争に至らず、フェイクニュースの量産につながった側面があった。極めて残念である。

■    ■

 15日から「新聞週間」が始まった。本年度の代表標語は「真実と 人に寄り添う 記事がある」である。

 作者で東京都の友野美佐子さん(59)は「インターネットにはない、ファクトを追求し人間の心を伝える記事をこれからも読みたい」と真実を伝える新聞への期待を語る。

 知事選におけるフェイクニュースの横行は、沖縄タイムスにとってもほぼ初めての経験で専門家の意見を聞き、試行錯誤しながら検証した。ネット上からフェイクニュースの疑いのある68件を抽出。17件をピックアップし、ファクトチェック(事実確認)した3件を記事化した。

 米軍基地に関するフェイクニュースもネット上に多い。事実に基づいて一つ一つ反論し『誤解だらけの沖縄基地』としてまとめている。

 フェイクニュースをどういち早く打ち消していくか。新聞の新たな課題である。

■    ■

 フェイクニュースは世界的現象である。2016年の米大統領選のトランプ氏当選に影響を及ぼしたと指摘されている。今も自身に批判的なメディアを攻撃。米メディアも報道の自由を訴える一斉社説の掲載で反論している。

 昨年の仏大統領選では組織の枠を超え新聞社など30以上の団体がフェイクニュースの疑いのある記事について検証し公表したことがある。

 メディアや専門家との連携が必要かもしれない。既存のメディア不信にも真(しん)摯(し)に向き合いながら、真実を追求し国民の「知る権利」に応える姿勢をあらためて自覚したい。

 

新聞週間 ファクトチェックは使命(2018年10月15日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 きょうから新聞週間が始まった。71回目の今年は「真実と 人に寄り添う 記事がある」が代表標語だ。

 ネットを中心にフェイク(偽)ニュースがあふれる中、事実に裏打ちされた報道を続けてきた新聞社として、自らの役割と責務を改めてかみしめ、真実を追求する姿勢を持ち続けたい。

 琉球新報は今回の県知事選から「ファクトチェック(事実検証)」報道を始めた。これまで放置されがちだったネット上にはびこるデマやうそ、偽情報を検証し、その都度、記事を掲載した。

 最近の選挙では、明らかに誤った情報や真偽の不確かな情報が、あたかも事実であるかのように会員制交流サイト(SNS)などで拡散していた。投票行動に影響を及ぼす恐れも危惧されていた。

 中には現職の国会議員や元首長など公職経験者が、事実確認もせず、無責任に真偽不明の情報を流布させる事例もあった。公職選挙法では虚偽情報を流せば処罰対象となる。

 本紙は知事選で4本のファクトチェック記事を掲載したが、選挙運動の正常化に一定の貢献はできたと自負する。

 だが、SNSの拡散力は強い。偽ニュースに対しては、取材力と信頼度のある新聞などの既存メディアが正面から取り組んでいかないといけない時代だ。本紙の使命と覚悟も重いと認識している。

 新聞には、権力を監視する重大な責務がある。強大な権力をかさに着て国家が弱者や国民の権利を踏みにじることがないか、目を光らせるのも、民主主義のとりでとしての不可欠な役割だ。

 その権力の横暴と言えるのが辺野古新基地問題である。

 知事選では、安倍政権が強力に推した候補に、新基地反対を訴えた玉城デニー氏が大差で勝利した。新基地を拒む民意が示されたのは、もう何度目か。政府が新基地強行に拘泥するのは民主主義の否定であり、到底許されない。

 ここでも偽ニュースが流された。菅義偉官房長官は普天間飛行場の辺野古移設と在沖米海兵隊のグアム移転がリンクしていると発言した。2012年の日米安全保障協議委員会(2プラス2)では、両者を切り離すことで合意しているにもかかわらず、である。

 フェイクニュースの「元祖」と言えば、トランプ米大統領だ。自身に批判的な報道を「フェイクニュース」とうそぶき、メディアを攻撃している。

 これに対し、新聞社など450近い全米の報道機関が8月、社説で一斉に異議を唱え、報道の自由の必要性を訴えた。フェイクは許さないという報道人の矜持(きょうじ)が感じられる。対岸の火事ではない。

 本紙は今後も、読者の知る権利に応えるために、真実に迫る報道に精力的に取り組みたい。併せて、新聞週間テーマの「人に寄り添う記事」のように、人々の喜怒哀楽を伝え、地域とともに歩む紙面作りを心掛けていきたい。

 

政権と沖縄 強硬策では展望開けぬ(2018年10月13日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 就任直後の新知事と対話の機会を設けはした。しかし、米軍普天間飛行場の辺野古移設を進める従来の立場を変えないのでは、知事選で示された明確な民意に向き合うつもりはないと見るしかない。

 安倍首相がきのう、首相官邸を訪れた沖縄県の玉城デニー知事と会談した。4年前に翁長雄志(おながたけし)知事が就任した時は4カ月も面会の要請に応じず、県との対立が深刻化した。

 今回の対応は、知事選で連続して「辺野古ノー」の民意が鮮明になったことを、政権としてそれなりに重く受け止めてのことだろう。

 知事選では、玉城氏が過去最多の39万6632票を獲得し、自民、公明両党が全面支援した候補に8万票の大差をつけた。辺野古埋め立てに向けた工事に着手した後も、県民の多くがあきらめることなく、ノーの意思表示をした。

 きのうの会談で玉城氏は辺野古移設に反対の立場を伝えた。これに対し、首相は「政府の立場は変わらない」と応じたという。これでは、県との深い溝を埋めることはできない。

 政府がやるべきことは、県が8月末に埋め立て承認を撤回したため、現在は止まっている辺野古の工事を、これ以上強行しないと約束することだ。政府は裁判に持ち込んで工事を再開させる構えをみせているが、そんなことをすれば、県との対話の土台は崩れてしまう。

 埋め立て予定地で見つかった軟弱地盤の問題も大きい。今後、設計や工法の変更が必要になっても、県の協力を得られる見通しはない。工事は長期化する可能性が高く、強硬姿勢のままで展望は開けない。

 政府は今度こそ「辺野古が唯一の解決策」という硬直した方針を改めねばならない。日米合意を見直すのは簡単ではないだろうが、地域住民のこれだけ明確な意思に反して基地を押しつけることは、民主主義の観点からも許されない。

 米政府に協議を呼びかけ、辺野古案を白紙にして、代替策を探る必要がある。沖縄の海兵隊はアジア太平洋地域を巡回しており、拠点を海外に移したり、県外・国外に機能を分散させたりすることは可能なはずだ。

 その際、在日米軍にさまざまな特権を認めている日米地位協定の改定も提起すべきだ。知事選では、玉城氏のみならず、政権が推した候補も公約の柱に据えた。与党公明党は具体的な見直し案をまとめ、政府に申し入れている。これ以上、放置してはならない。

 

首相と沖縄知事が会談 まずは政府が譲る覚悟を(2018年10月13日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が沖縄県知事に就任した玉城(たまき)デニー氏と首相官邸で会談した。菅義偉官房長官も同席した。

 4年前、首相は翁長雄志(おながたけし)氏の知事就任時に4カ月会談せず、批判を浴びた。玉城氏との会談が就任1週間余りで実現したことは評価したい。

 ただし、形だけの対話では意味がない。米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する県側の訴えに耳を貸すことなく、政府側が埋め立て工事を強行すれば、国と沖縄の不毛な対立がさらに4年間続くことになる。

 会談で玉城氏は、2回の知事選で示された「辺野古ノー」の民意に真摯(しんし)に耳を傾けるよう求めたが、首相は「政府の立場は変わらない」と答えた。これまでと同じ平行線だ。

 移設計画の白紙撤回か、断固推進か。双方がオール・オア・ナッシングの姿勢では出口が見えない。

 玉城氏は日米安保体制を認める立場を強調した。「反米」「反基地」などのイデオロギーで移設に反対しているのではなく、全国で担うべき基地負担が沖縄に集中している理不尽を問うている。玉城氏が民主主義の問題だというのは理解できる。

 沖縄のアイデンティティーを尊重してほしいという訴えなのに、政府が決めた移設計画を唯一の選択肢だといって一方的に押しつけるから、かみ合わない。アイデンティティーをないがしろにされた沖縄の怒りを解くには真摯な対話しかない。

 玉城氏の求めた「話し合いの場」を政府は早急に設ける必要がある。そこで何らかの譲歩策を示さないことには一歩も前に進まない。

 選挙で示された民意を尊重するのが民主主義であり、まずは政府側が譲る覚悟を見せるべきだ。

 玉城氏は辺野古移設と切り離した「普天間飛行場の5年以内の運用停止」も提起した。5年前に埋め立てを承認した仲井真弘多(なかいまひろかず)元知事が主張したものだが、代替施設なしに米側が受け入れる見通しは立たない。

 在日米軍に特権を認めた日米地位協定の見直しも含め、玉城氏の要望内容は政府に米側との交渉を促している。玉城氏の提案した政府・米軍・沖縄県の3者による協議会設置も米側に働きかけてみてはどうか。

 米軍にとっても、地域住民の理解が得られない状態での駐留は決して望ましくないはずだ。

 

沖縄政策/硬直姿勢が偏見をあおる(2018年10月12日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 現在の安倍政権が2012年末に発足して以来、広まった現象の一つが、沖縄に対する悪意と偏見に満ちた言動だ。

 国内の米軍専用施設面積の7割が集中し、県民に負担を強いている。その現実を、揶揄(やゆ)するようなデマや中傷がネット上や書籍にあふれる。そうした風潮は、硬直した政権運営の姿勢と無関係とは決して言えない。

 「県民に寄り添う」との言葉と裏腹に、地元が猛反発しても米軍普天間基地の辺野古沖への移設を「負担解消の唯一の解決策」として強行する。

 これでは沖縄の不信感を増し、本土との分断をあおりこそすれ、解消にはつながらない。

 米軍基地が日本の安全保障に欠くことができないのであれば、負担は沖縄に集中させず全国で担う必要がある。そのための議論を重ねるとともに、分断解消に力を尽くすのが、日本政府として取るべき態度だ。

 米ニューヨーク・タイムズ紙は社説で、辺野古問題について「日米両政府は妥協案を見いだすべきだ」と、沖縄県民を犠牲にした安全保障の現状を批判した。移設反対派の玉城デニー氏を新知事に選んだ県民の明確な意志を受けてのものだ。

 外交と安全保障は国の専権事項とする日本政府とは対極の考え方を、米国の主要紙も示した。民主主義国家である以上、安全保障政策も民意の尊重が大原則であることを、改めて認識しなくてはならない。

 基地問題は一都道府県の問題ではないと、故翁長雄志(おながたけし)前沖縄県知事は訴え続けてきた。全国知事会はこれに応え、在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の抜本的見直しを政府に求めた。地方も沖縄の負担軽減を求めていることを、重く受け止める必要がある。

 菅義偉官房長官はきょうにも玉城知事と会談する意向だ。安倍晋三首相とも面会するというが、単に思いを聞き置くだけなら意味がない。

 アジアを巡る情勢は大きく動こうとしている。米軍基地の再配置も取り沙汰される。

 政府はこの機に、沖縄の負担軽減につなげる構想を描き、米国にぶつけるべきだ。交渉すべき相手は、同胞ではない。

 

きょう知事首相会談 「辺野古唯一」捨て対話を(2018年10月12日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 上京中の玉城デニー知事がきょう、安倍晋三首相、菅義偉官房長官と就任後、初めて会談する。安倍政権が、知事就任9日目に会談に応じるのは、翁長雄志前知事への対応に比べると随分早い。

 米軍普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古の新基地建設について、玉城知事は翁長前知事の遺志を継ぎ、明確に建設阻止を訴えて初当選した。

 39万6632票という過去最多得票によって示された圧倒的な民意を前に、安倍政権としても沖縄県への丁寧な対応をアピールする狙いがあるのだろう。

 対話に応じたポーズを示すだけのアリバイ的な会談であってはならない。安倍政権として「辺野古が唯一の解決策」という硬直した思考を捨て去り、沖縄県の求めに応じて新たな道を探ることが大切だ。

 2014年12月に翁長前知事が就任した後、安倍首相、菅官房長官は知事と会おうとしなかった。就任あいさつで上京した際も「名刺だけでも渡したい」とした翁長前知事に取り合わなかった。結局、安倍首相が官邸で翁長前知事と初めて面談したのは約4カ月後の15年4月だった。

 官邸で握手を交わした後、安倍首相は沖縄の振興策から話を切り出し、「辺野古移転が唯一の解決策」と通り一遍の話に終始した。振興策の話題を受け流した翁長知事が「選挙で辺野古新基地反対という圧倒的な民意が示された」と強調すると、安倍首相の表情が一転、こわばった。

 16年には辺野古の代執行訴訟で和解が成立し、国と県との話し合いが求められた。しかし、協議は数カ月で決裂した。その後、6月23日の沖縄全戦没者追悼式典で顔を合わせはしても、首相と知事の本格的な対話はないままだった。

 国はその後、自然環境保護などを懸念する沖縄県の訴えを無視し、協議に応じなかった。問答無用の形で新基地建設を強硬に進めている。今年8月には辺野古海域に一部の護岸を完成させた。

 共同通信社が県知事選直後の今月2、3両日に実施した全国緊急電話世論調査によると、普天間飛行場の辺野古への移設を進める政府方針について「支持しない」は54・9%で、「支持する」34・8%を上回った。県知事選で示された沖縄県民の意志を踏まえた結果だ。

 国と県が法的手段を通じてではなく、話し合いで解決策を探るのが、あるべき姿だ。安倍政権が対話のテーブルに戻るのは当然である。

 会談で玉城知事は辺野古新基地建設阻止など自身の考えを説明し、沖縄の負担軽減などへの協力を求める構えだ。まずは民意を背景にした玉城知事の訴えを聞き、新たな策を考えるのが真の対話だ。

 ここまで明確に示された沖縄の声に耳を傾けず、国家権力で押し切るなら、もはや民主主義国家とは言えない。

 

[菅官房長官発言]事実をゆがめ不誠実だ(2018年10月12日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 あえて事実と違うことを発言している真意は何なのか。沖縄の基地負担軽減を担当する菅義偉官房長官の姿勢は、不誠実ではないだろうか。

 菅氏は7日のNHKの番組で、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設と在沖米海兵隊のグアム移転について、「(辺野古移設が)実現すれば、米軍9千人がグアムをはじめ海外に出ていくことになっている」と発言した。辺野古の新基地建設が、グアム移転とリンクして沖縄の海兵隊の削減につながり、結果として沖縄の負担軽減になるとのロジックである。この発言には、辺野古を進める正当性を強調する狙いがある。

 菅氏は10日の記者会見でも、辺野古とグアム移転は「結果的にリンクしているのではないか」との認識を示した。普天間問題を巡り迷走し、辺野古に進展がなかった旧民主党政権時代に、米議会がグアム移転事業の予算執行を凍結した点や、その後、安倍政権になって新基地建設の作業が進んで資金凍結が解除された経緯を挙げ、そう強調した。

 事実は異なる。日米両政府は2006年在日米軍再編計画で、普天間の辺野古移設とグアム移転をリンクさせていた。しかし、辺野古の進展が見通せず、リンクに固執すれば米軍の不利益になるとの判断があり、日米両政府は12年に両者を切り離すことで合意した。現在も有効である。

 菅氏も12年合意を知らないはずはない。内閣のスポークスマンがあえてリンク論を持ち出し、辺野古への理解を引き出そうとする姿勢はこそくと言わざるを得ない。

■    ■

 事実と異なる菅氏の発言はこれだけではない。辺野古新基地建設について1999年に地元同意があったと政府方針の正当性を強調する。

 翁長雄志前知事と初めて面談した2015年4月。菅氏は「99年に当時の知事と名護市長の受け入れ同意を得て、辺野古移設を閣議決定した経緯がある」と述べ、その後も記者会見などで何度も繰り返した。

 当時、稲嶺恵一知事も岸本建男名護市長も、軍民共用の飛行場とすることなどいくつもの条件を付け、それが満たされなければ受け入れを撤回するとしていた。

 しかし、その閣議決定は、06年に辺野古にV字滑走路を造る現在の計画を日米政府で合意した後に、政府が一方的に破棄した。前提を欠いているのだから地元の「同意」のみ取り上げるのは、都合のいい捉え方というほかはない。

■    ■

 これらの菅氏の発言には、知事選で翁長氏、玉城デニー氏が当選し辺野古に反対する民意が圧倒的に示されたにもかかわらず、政府方針が誤っていないと、ダメージコントロールをする意図もあるだろう。負担軽減や地元の合意を意図的にクローズアップし、新基地建設への理解を世論の中に固定化したいとの思いも透ける。

 安倍晋三首相と菅氏は12日、玉城知事と初めて会談する。早期の会談で沖縄への丁寧な対応を世論にアピールする狙いもみえる。基地問題を巡る発言も、事実に沿って丁寧に発言してもらいたい。

 

「辺野古」への政府対応 もう押しつけは通じない(2018年10月10日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 翁長雄志(おながたけし)前沖縄県知事の県民葬に政府から菅義偉官房長官が出席し、「基地負担の軽減に向けて一つ一つ確実に結果を出していく決意だ」との安倍晋三首相の弔辞を代読した。

 週内には玉城(たまき)デニー新知事が東京を訪れ、菅氏ら関係閣僚と会談する見通しとなっている。

 4年前の翁長知事就任時、首相や菅氏が4カ月も会談せず、県との対立を決定的にしたのと比べれば、政権側は対話に前向きなようだ。

 ただし、玉城氏が米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に明確に反対しているのに対し、政権側は米政府と合意した計画通りに移設を進める姿勢を崩していない。

 首相は「沖縄に寄り添う」と繰り返してきた。ならば、2回の知事選で示された「辺野古ノー」の民意にきちんと向き合うことが必要だ。

 外交・安全保障政策は確かに政府が責任を負う。日米安保条約に基づく履行義務もある。

 一方で憲法は地方自治を定める。どこに基地を置くかまで地域の理解を得ずに政府が勝手に決めてよいことにはならない。そのような押しつけは国と地方を対等な関係とうたう地方自治法の精神にも反する。

 翁長氏の訴えた「沖縄の自己決定権」を踏みにじるかのような政府の対応が反発を買い、沖縄知事選で史上最多の39万票という玉城氏の得票につながったと考えるべきだ。

 そうした反省に基づき、県側が方針決定に関与できる形で真摯(しんし)な協議を行うほかに打開策はない。

 安倍政権は翁長県政時代、1カ月の集中協議期間を設けたり、裁判所の和解案で県側との協議を促されたりした経緯がある。そのたびに形だけ話を聞き、移設工事を強行するアリバイづくりに使ってきたのではないか。同様の姿勢を続けるなら、問題解決の道は遠のくばかりだ。

 知事選では政権として全面支援した佐喜真淳(さきまあつし)氏が日米地位協定の改定を強く訴えた。公明党も協定見直しを政府に申し入れている。

 これは米軍に絡む事件・事故に苦しんできた沖縄が長年求めていることである。知事選で負けたからといって検討しないのは不誠実だ。

 沖縄の基地負担軽減は政府が一方的に進めるものではなく、ともに話し合っていくことが望ましい。

 

姉妹都市解消は稚拙な感情論では?(2018年10月8日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★先の沖縄県知事選で自民党ら県内野党が推した候補は、公約に「携帯電話料金4割削減」を掲げた。自民党の選対が策定した公約という。沖縄県知事がどうしてそんなことができるのか、それが知事の公約となるのか理解に苦しむ。陣営は「中央との強いパイプにより4割削減を促す」ことという。そんな努力目標まで公約になるのか。そもそも民間電話会社の料金は、国や所管の総務省では決められない。民間で決めるのだ。随分と県民をばかにした話だが、そもそも知事の仕事ではない。

★大阪市長・吉村洋文は慰安婦像の設置を巡り、米・サンフランシスコ市との姉妹都市関係の解消を発表した。慰安婦像の市有化を撤回するよう大阪市は求めていたが、回答がなかったためという。市長は「信頼関係は破壊された」とした。都市間の交流は長い歴史の上に成り立つ。東京都知事・小池百合子は912日、北京市長・陳吉寧(ちん・きつねい)と都庁で面会した。東京都と北京市は1979年から姉妹友好都市となっている。しかし北京市長の訪日は実に24年ぶりのことだ。

★その間、日中間には多くの政治問題・外交問題が立ちはだかった。最近では当時の都知事・石原慎太郎が、尖閣諸島を中国が占領しかねないとして、私有地だった尖閣諸島を都が買うと言い出し、寄付を集めたが、政府が国有化を決めたことがあった。しかし、都が北京市との友好都市をやめたことはない。一時期、関係が冷え込んでも、そんなことはしない。石原はことごとく中国批判を繰り返したが、事を構えるのは政府の外交であり、自治体のそれは民間外交に近く、政府ができないことを行えばいい。吉村の勇み足は稚拙な感情論ではないのか。市長の独断で歴史を断つ権利はあるのか。

 

一つでもいいので荷物取り除いて(2018年10月6日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 地元で人気のご当地ヒーローが全国から一堂に集まる日本ローカルヒーロー祭が先月、千葉県で開催された。今年で5回目を数え、北海道から九州までの地域のヒーローが集結した

▼今回沖縄からの出場はなかったが、過去にはハルサーエイカーや伝統神ウルマーが参加した。独自の文化を背景にストーリーが展開される琉神マブヤー。「あるある」と皆がうなずくやりとりは大人も楽しめる

▼当方は秘密戦隊ゴレンジャー世代。戦隊モノはたいてい5人でキャラクターが魅力的だ。個人的にはニヒルなアオレンジャーに憧れた。それぞれに個性があり多様性にあふれる

▼玉城デニー知事は当選後のインタビューで「最も重きを置いているのは自立と共生と多様性だ」と語った。選挙戦中も三つのDの一つに「ダイバーシティー(多様性)」を掲げた

▼故翁長雄志氏の遺志を継ぐと強調する一方で、米海兵隊員の父とウチナーンチュの母との間に生まれた出自も披歴しデニーカラーを通した。自身の存在が多様性を象徴している

▼ニューヨーク・タイムズは「日本で初の混血の知事誕生」と報じ、社説で辺野古新基地を再考するよう日米両政府に促した。これまでの知事とは違ったスタートだ。玉城知事は「対話」を強調するが、「唯一の解決策」と繰り返す相手に、多様な答えをどう導けるか。世界も注目している。

 

沖縄のことわざにある。「十ぬ…(2018年10月5日配信『山陽新聞』−「滴一滴」)

  

 沖縄のことわざにある。「十(とぅー)ぬ指(いーび)や、ゆぬ丈(たけー)無(ねー)らん」。10本の指の長さは同じでないが、それぞれあるから手として動く。人間もいろいろな人がいて当たり前で、尊重し合うべきとの意味という

▼沖縄県知事選で初当選した玉城デニー氏(58)が大切にしている言葉だと語っていた。父は沖縄駐留の米海兵隊員。いじめに遭った子ども時代に、育ての母が教えてくれたという

▼玉城氏が生まれる前に父は帰国した。母子家庭で育ち、生みの母と育ての母がいる。そんな自身の出自も語りながら、選挙戦では多様性の尊重や貧困対策の重要性を説いた

▼「一人も取り残さない社会をつくる」との訴えも有権者の心に響いたのだろう。翁長雄志知事の後継で、得票は4年前の翁長氏を上回った

▼米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り、政府と沖縄県の対立が続いている。「解決の糸口は対立や分断でなく、協議からしか見いだせない」と玉城氏は政府に対話を求める。投げられたボールを安倍政権はしっかり受け止めてほしい

▼玉城氏はきょう就任する。米国人を父に持つ知事の誕生は、米国でも注目されている。米紙ニューヨーク・タイムズは知事選で沖縄の民意が示されたとし、「日米両政府は妥協策を探る時だ」と移設計画の再考を促す異例の社説を掲載した。沖縄に新しい風が吹くか。

 

玉城デニー知事就任 民意後ろ盾に問題解決を(2018年10月5日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 日本復帰後8人目となる玉城デニー知事が就任した。玉城氏の勝利は、圧倒的な力を示す安倍政権へ「ノー」を突き付けた県民の意志の表れだ。

 国が押し付ける名護市辺野古の新基地建設問題、任期中に迎える新たな振興計画への対応、子どもの貧困や全国最下位の県民所得など克服しなければならない課題は山積している。

 民意を後ろ盾として、公約に掲げた「誇りある豊かな沖縄」「誰一人取り残さない多様な個性が輝く社会」を実現してほしい。

 台風25号の襲来に象徴されるかのような嵐の船出だ。初登庁後の記者会見で玉城知事は「辺野古新基地は基地負担軽減にはならない、将来まで過重な基地負担を押し付ける無責任さだ」と述べた。

 今知事選で最大の争点になった米軍普天間飛行場の移設先とされる辺野古の新基地建設に対し、改めて断固阻止する意向を示した。

 しかし安倍政権は「辺野古が唯一の解決策」との姿勢を崩していない。4年前に翁長雄志知事が誕生した後、政府は県との対話で問題を解決しようとせず、工事を強行してきた。辺野古の海には一部の護岸が完成して、土砂を投入するばかりになった。菅義偉官房長官は辺野古移設を進める政府方針が変わらないことを強調している。

 県は翁長前知事の遺志を引き継ぎ、埋め立て承認を撤回した。工事は止まったが、国は近く法的対抗措置を取る構えだ。実際、2015年に翁長知事が埋め立て承認を取り消した際、政府は翌日、県の取り消し処分の執行停止を申し立てた。

 しかし、4年前、今回と2度にわたって辺野古新基地建設に反対する民意が明確に示されているのに、問答無用で法廷闘争に持ち込むことは、民主主義国家のすることではない。

 菅官房長官は玉城知事と話し合いの場を持つことには肯定的だ。ただし政府はこれまでと同様に「辺野古移設か、普天間の固定化か」の二者択一を迫るかもしれない。沖縄関係予算の減額や来年5月に切れる酒税の軽減措置の見直しなどを絡めて揺さぶりをかける可能性もある。

 表面的に見れば玉城知事が持つ新基地建設阻止の材料は多くない。自然環境保護策の弱さや海底の軟弱地盤など辺野古の工事上の問題点が挙げられるが、政府が取り合う様子はない。

 ただ、半年以内には県民投票も行われる。県知事選に続き民意が明確に示されるだろう。なおも工事を続けるなら強権国家そのものだ。

 翁長前知事は圧倒的な民意を背景に県外や米国、国連での訴えを通じて国内国際世論を動かそうとした。それは道半ばだ。玉城知事は沖縄の民意を背に、国内外の賛同の動きを強めて、沖縄問題の解決に全力を尽くしてほしい。

 

瀬長亀次郎とデマ(2018年10月5日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 「人民党はあんなものだ、人殺しや強盗などと一緒になり、扇動して善良な市民生活をおびやかす党だ」。そんなデマが流布されていたと、人民党事件で投獄されていた瀬長亀次郎さんが1954年の日記に書き残している

▼収監中に起きた沖縄刑務所暴動事件を瀬長さんが扇動していたかのような言説だ。立法院議員選挙を目前に控えていた。選挙にデマは付き物という人もいるが、虚偽の情報で有権者の対立をあおることは許されない

▼今回の沖縄県知事選でも真偽不明の情報がネット上で多数、拡散された。若手著述家の古谷経衡(ふるやつねひら)さんが、ヤフーニュースの記事で知事選を論じている

▼「玉城デニー氏が当選すれば、沖縄は中国に乗っ取られる」といった荒唐無稽の陰謀論を叫ぶ人々が佐喜真淳氏を応援したことによる悪影響を指摘した。「ネット右翼活動家」は「いかなる陣営にとっても害毒しかもたらさない」と断じている

▼デマや弾圧に負けずに闘った瀬長さんは2001年のきょう、94歳で亡くなった。50年の沖縄群島知事選挙では「人民が声をそろえて叫んだならば、太平洋の荒波を越えてワシントン政府を動かすことができる」と団結を呼び掛けていた

▼新基地建設阻止に向けた道は平坦(へいたん)ではないだろう。デマに左右されなかった県民が強固な意志を明確に示した今、瀬長さんの言葉をかみしめたい。

 

安倍改造内閣と沖縄]「辺野古」断念へ協議を(2018年10月5日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 安倍政権の課題や火種を残したままの内閣改造だ。

 第4次安倍晋三改造内閣が発足した。閣僚19人のうち初入閣は12人に上った。刷新をアピールしたとみられるが、新しさは感じない。

 政治分野の男女共同参画推進法を掲げる中で女性大臣は1人にとどまり、これまでと同様「安倍シンパ」の起用が目立つ。

 その一人、首相補佐官だった柴山昌彦文科相は教育勅語に対する認識を問われ「現代風に解釈され、アレンジした形で、道徳などに使うことができる分野は十分にある」と発言して早くも批判を浴びている。

 滅私奉公の思想をうたう教育勅語は、先の大戦の精神的支柱になったことから戦後の国会で失効が決議された。国民主権の憲法の下では相いれない内容で、教育行政を預かるトップとしての認識が問われよう。

 麻生太郎副総理兼財務相の留任も首をかしげざるを得ない。省職員に自殺者まで出した「森友学園問題」や、セクハラによる前事務次官辞任の重大さを考えれば、更迭されても仕方がなかった。内閣改造で引導を渡すべきではなかったか。政権の自浄能力に疑問符が付く。

 菅義偉官房長官も留任した。引き続き沖縄基地負担軽減相を兼務する菅氏は、会見で早々と「普天間飛行場の危険除去と同時に、辺野古移設や負担軽減を目に見える形で実現したい」と述べた。

 普天間の閉鎖・返還や辺野古新基地建設で、県民の民意を顧みず、これまで通り強行姿勢で押し進めることを宣言したに等しい。

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 安倍政権下で県民は2度も、新基地建設に反対する知事を選んだ。しかも圧倒的な民意で、である。

 翁長雄志前知事が誕生した4年前、安倍政権は翁長氏との面談を4カ月にわたって拒否したことは記憶に新しい。サトウキビ交付金に関する面会を農水相が断ったり、沖縄振興予算を議論する自民党の会合に招かなかったりするなど、政権や党による徹底した無視が続いた。

 今回の知事選で、政権が推した候補は政府と県の関係について「対立より対話を」と主張したが、過去に対話を拒否したのはほかならぬ安倍政権の側だ。

 対話を拒む政府の姿勢そのものが、この間、新基地建設を巡る裁判の応酬や、建設現場での市民らと機動隊の衝突など混乱をつくってきたことを見れば、変わらなければならないのは政府の姿勢であるのは明らかだ。

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 新知事に就任した玉城デニー氏は、当選した当初から政府に協議を提案している。4日、初登庁した玉城氏は、かつて政権が翁長氏の面会を拒否したことなどを振り返り「県民が選挙の争点で明確に示したのは辺野古反対の民意。このことを政府に求めるのはもちろん、県が法律に基づき判断した埋め立て承認の撤回についても県の判断に従うよう求める」と述べた。

 県民が再び選んだ辺野古反対の知事を、安倍政権が無視することは許されない。

 

ユイマール(2018年10月4日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

沖縄県知事選で当選した玉城デニー氏には、2人の母がいる。「アンマー(沖縄の方言で母の意)」と呼ぶ生みの母と、「おっかあ」と呼ぶ育ての母である

▼父は米兵で、生まれたときには帰国していた。家は貧しく、10歳まで母の知人であるおっかあに預けられていた。小さな頃はハーフというだけでいじめられ、泣いて家に帰ったこともしばしばだったそうだ

▼そんなとき、おっかあは言った。人間の見た目は皮1枚の違いしかない。手の指の長さや太さはそれぞれ違っても、ちゃんと動いているでしょう―と

▼社会にはいろいろな人がいる。だが、それは個性だ。仲良くしなさい。そう言いたかったのだろう。弱い立場にいたからこそ、そういう人たちのためにできることがある。玉城氏が政治家を志したのはそんな思いからだったという

▼翁長雄志知事の遺志を継ぐ新知事として、今後、米軍の辺野古新基地建設問題にどう対応していくか、注目が集まる。それとともに、二つのルーツを持つ知事が自らの生い立ちと重なる社会的弱者に対して、どのような政策を打ち出すのかにも関心は高い

▼いま、貧困や出自、性的指向などに伴ういわれなき差別と分断が、大きな社会問題となっている。「ユイマール(支え合い)の精神」を掲げる玉城氏の政治は、果たして解決の糸口となるか。新知事はきょうが初登庁。さまざまな面で目が離せない。

 

[玉城氏きょう知事就任]辺野古 任期中に道筋を(2018年10月4日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 前衆院議員の玉城デニー氏が、きょう知事に就任する。

 屋良朝苗氏から数えて復帰後8人目となる県政の舵(かじ)取り役は、元ミュージシャンという異色の経歴を持つ。持ち前の明るさと発信力で「新時代沖縄」を築いてもらいたい。

 急逝した翁長雄志前知事の後継として立候補した玉城氏が、佐喜真淳・前宜野湾市長を約8万票の大差で破ったのは、有権者が翁長県政の継承を望んだからだ。

 既に富川盛武、謝花喜一郎両副知事の留任が決まっており、新県政は前県政の政策を軸に運営されることになる。

 しかし辺野古新基地阻止や埋め立て承認の撤回を、具体的政策にどう落とし込んでいくかは、必ずしも明らかではない。

 当選後、玉城氏は新基地問題について、協議による解決を求めていく考えを表明した。政府は法的な対抗措置をちらつかせるが、知事選で再度示された民意を無視することは許されない。

 米紙ニューヨーク・タイムズは選挙結果を受け「安倍晋三首相と米軍司令官は、公平な解決策を見いだすべき」との社説を掲載した。両政府に計画見直しを促したのだ。

 日本政府は玉城氏の求めに応じ、工事を中断したままの状態で協議に応じるべきである。

 基地政策では具体策を持って議論し、打開策を見いだす戦略も必要だ。

 今年1月、県議会は全会一致で「海兵隊の国外・県外移転」を決議した。県として海兵隊の問題をどのように整理していくのか。新基地建設とも絡むだけに、できるだけ早く考えをまとめる必要がある。

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 玉城氏が選挙公約のタイトルに「新時代沖縄」を掲げたのは、在任中に迎える復帰50年を意識したからだろう。

 基地維持装置とも評される沖縄振興体制は今のままでいいのか、その後の10年、沖縄はどのような社会を選び取っていくのか、重要な岐路に差し掛かる。

 県政の舵取りは初めてである。その「経験不足」を補い、あらゆる知恵を結集するためにも、玉城氏には「基地」「経済」の両分野で、専門家からなるブレーン集団をつくってもらいたい。県議会与党との連絡も密にすべきだ。

 翁長氏が国連人権理事会などで理不尽な基地政策を訴えたように、県民の思いを国内外に発信していくことも必要である。世界各地に「応援団」を増やしていくことは、問題解決の大きな力になる。

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 翁長氏の遺志を継承しながら、玉城カラーをどう発揮していくか。

 二つのルーツを持ち、苦労人でもある玉城氏が語る「沖縄らしいやさしい社会の構築」に期待を寄せる声は多い。

 最重要政策に掲げる「子どもの貧困対策」は、翁長県政の実態調査によって問題が共有されたが、貧困の連鎖を断ち切り希望を生み出す「沖縄モデル」へとつなげるのは、これからの仕事である。

 

 選挙中繰り返した、他者の痛みに寄り添う「チムグクル」をいつまでも忘れないでほしい。

 

重すぎる荷物(2018年10月4日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 米兵に話し掛ける背広姿の男性。後ろには、重い荷物を背負わされた男性が疲労困憊(こんぱい)の表情を浮かべている

▼「日米同盟」の紙切れを握り締めている背広姿の男性は「NODA」と書かれており、当時首相だった野田佳彦氏を指している。やせ細った男性には「OKINAWA」の文字が見えるが、首相が気にする様子はない。6年前、米有力紙ニューヨーク・タイムズに載った風刺画だ

▼端的に日米の力関係と沖縄の現状を表していると感心した。翁長雄志氏は「沖縄が日本に甘えているのか。日本(本土)が沖縄に甘えているのか」と疑問を呈したが、風刺画を見るまでもなく答えは明らかだろう

▼玉城デニー氏は「辺野古に新たな基地を造らせない」と強調した。これを受け、菅義偉(すがよしひで)官房長官は「早期に辺野古への移設を実現したい」と応酬している。全く話が通じない

▼2月の名護市長選では移設推進の安倍政権が推す渡具知武豊氏が当選した。その際、菅氏は「選挙は結果が全てだ。相手候補は必死に埋め立て阻止を訴えたのではないか」と述べた。今回の知事選は「結果が全て」ではないのか

▼普天間問題の原点は危険性除去だが、沖縄側が県内に移設してくださいと頼んだことはない。「負担が重すぎてこれ以上は抱えきれない」というのが原点だ。きょう就任する玉城新知事は決してこのことを忘れはしまい。

 

(2018年10月3日配信『河北新報』−「河北春秋」)

 

前沖縄県知事の翁長雄志さんは子どもの頃、米軍基地を巡り隣近所や親戚が憎み合う姿を見て育った。県民同士が争う様子を誰かが上から笑って見ていると感じた。それが日米両政府と分かったのは政治家になってからだった。自伝に書いてある

▼基地前で座り込む人、それを排除する警官はともに沖縄県人であることが象徴するように、今も分断は続く。翁長さんの死去に伴う知事選も沖縄を二分した。普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する玉城デニー氏が、移設を推進する安倍政権が支援した佐喜真淳氏を破った

▼両氏の主張が真っ向から対立したわけではない。「県民の心を一つに」と言う玉城氏。佐喜真氏は「対立より協調」と訴えた。両氏は「和」を求めた

▼争点は辺野古だったが、沖縄から基地を減らしたいという基本的な考えは同じだった。県民の大半にとって基地は迷惑施設。沖縄に過重な基地負担が残るのは、基地が沖縄にないと困る「上の人」がいるためだろう

▼「沖縄が日本に甘えているのか。日本が沖縄に甘えているのか」。こう訴えた翁長さんと首相は会おうとしなかった。政権は物事を強引に進め、都合の悪いことは見て見ぬふりをしてきた。民意は示された。上から見ているだけでは何も解決しない。

 

沖縄の古謡集「おもろさうし」には「セジ」という言葉が…(2018年10月3日配信『毎日新聞』−「余録」)

 

 沖縄の古謡集「おもろさうし」には「セジ」という言葉がよく出てくる。国王がセジを得るように祈る歌には「戦(いくさ)セジ」「百(ひゃく)歳(さ)セジ」「世添(よそ)うセジ」などさまざまな種類がある。このセジ、霊力のことなのだ

▲戦セジとは戦勝をもたらす霊力、百歳セジは永遠の命を保つ霊力、そして世添うセジとは世を保護し支配する霊力という。セジは人や物がもともと備えているのではない。天と地の間にあって、何かの拍子に人や物に宿る霊力なのだ

▲先日の沖縄県知事選では翁長雄志(おなが・たけし)氏から基地移設反対を引き継いだ玉城(たまき)デニー氏へ、世添うセジはすんなり移行した。地域振興策を人質に基地の移設を進める政府に対し、沖縄の誇りと意地を掲げて霊力を蓄えた翁長氏の遺産である

▲ひるがえって自民党総裁選で3選を果たしたばかりの安倍晋三(あべ・しんぞう)首相には出だしからのつまずきである。総裁選での党員票の伸び悩みもこれあり、来年の参院選をにらんで首相の政治的霊力を値踏みする党内外の視線も厳しさを増そう

▲その第4次改造内閣は財務相や官房長官らの骨格は維持しながら12人が初入閣、女性は何と1人の陣容となった。各派閥の入閣待機組の受け入れや盟友・側近重視の人事は、党内に潜むリスクを避けて霊力の消耗を防ぐ狙いのようだ

▲つまりは参院選、また改憲を狙った布陣だろうが、野党も新閣僚の資質や女性1人の陣容など突っ込みどころには困るまい。むろん参院選セジの宿り先を決めるのは、その間の一切を見つめる国民である。

 

「辺野古移設」まず対話を/沖縄県知事選(2018年10月3日配信『東奥日報』−「時論」)

 

 翁長雄志氏の急逝に伴う沖縄県知事選は、翁長氏の後継として米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を訴えた前衆院議員の玉城デニー氏が初当選を果たした。

 「政府との対話」を掲げ、安倍政権が全面的に支援した前宜野湾市長の佐喜真淳氏らを退けた。辺野古移設反対を明言する知事を再び選んだ県民の意思は明確と言える。

 安倍晋三首相は「選挙結果は真摯(しんし)に受け止める」と述べたが、菅義偉官房長官は「辺野古移設の方針は何ら変わらない」と強調した。政府と県が法廷闘争も含めて対立する事態は県民も望んでいないだろう。辺野古移設の是非をあらためて検討すべきであり、まずは政府と新知事との対話を求めたい。

 玉城氏は「辺野古に新基地を造らせないという翁長氏の遺志を継ぐ」と表明。沖縄県が決めた辺野古沿岸部の埋め立て承認の撤回を維持する方針だ。さらに県議会に条例案が提出されている辺野古移設の賛否を問う県民投票も実施し、県民の意思を政府に突き付けていく考えだろう。

 ただ、私たちが考えるべきなのは、移設の是非を巡る選択を沖縄県民に強い続ける現状でいいのかという問題だ。現在、在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中する。日米同盟を維持するのであれば、全国で基地を負担し、その縮小を目指すべきではないか。

 沖縄県に関して早急に取り組むべき課題も選挙戦で明確になった。一つ目は、普天間飛行場の早期の運用停止だ。安倍政権は仲井真弘多県政時代に普天間飛行場の20192月までの運用停止を約束している。佐喜真氏も選挙戦で早期返還を訴えた。

 二つ目は、日米地位協定の抜本改定だ。在日米軍の法的地位を定めた地位協定について玉城氏とともに佐喜真氏も「不平等だ」として改定を主張した。政府はこれまで「運用の改善」という小手先の対応でごまかしてきたが、その手法はもはや許されない。

 三つ目は、経済振興策だ。玉城、佐喜真両氏ともに、全国的にも最悪な水準にある県民所得の向上や子どもの貧困の解消を訴えた。玉城県政でもこれらは引き続き重要な課題になる。安倍政権は辺野古移設に反対すれば沖縄振興予算を減らすという「アメとムチ」の対応を取ってきた。その姿勢が県民の不信を深めていることを省みるべきだ。

 

安倍内閣改造 挑発と対立から転換を(2018年10月3日配信『デイリー東北』−「時評」)

 

 「安倍政治」の総仕上げに向けた第一歩ということだろう。安倍晋三首相は自民党総裁選で3選を果たしたのを受け、内閣改造と党役員人事を行った。

 保守的理念を共有する盟友、側近を内閣・党の要衝に配置、政権基盤の安定を図りつつ、首相が悲願とする憲法改正と来年夏の参院選を見据える布陣としたのが特徴だ。総裁選で自身を支持した陣営を中心に初入閣となる閣僚を多数起用、論功行賞と滞貨一掃の色彩も濃厚となった。

 内閣では要となる麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官が続投。政策の継続性から河野太郎外相や茂木敏充経済再生担当相、世耕弘成経済産業相らが留任した。

 党では二階俊博幹事長と岸田文雄政調会長を再任。改憲で党内論議の取りまとめ役となる総務会長に加藤勝信前厚生労働相、党憲法改正推進本部長に下村博文元文部科学相を起用し、来年の参院選を指揮する選対委員長に甘利明元経済再生担当相を充てた。加藤、下村、甘利氏はいずれも首相側近だ。

 安倍新体制の前途には首相が取り組みを明言した全世代型の社会保障制度改革、戦後外交の総決算、制定以来初の改憲実現以外にも、来年5月の新天皇即位と改元、同10月の消費税率10%への引き上げなど対応が急がれる課題が山積している。

 どれも野党の協力や国民各層の幅広い理解と支持なくしては前進が望めそうにない。首相が異論や批判に耳を貸そうとしなかったり、国会で野党を挑発していたずらに対立をあおり、最後は「数の力」で押し切ったりするこれまでの政治姿勢を改め「信頼と対話の政治」に転換することがまず求められよう。

 改憲を巡り、首相は憲法9条に自衛隊を明記するなど自民党の改憲案を秋の臨時国会に提出し、来年の参院選前に国会発議する段取りを描いている。

 だが、党内の異論に加え、連立を組む公明党が慎重で野党の反対も強く、改憲論議を加速できるかどうか見通せない。臨時国会で優先的に処理される国民投票法改正案の行方が、その後の展開を占う試金石となろう。

 来年は亥(い)年で春の統一地方選と夏の参院選が12年に1度重なって行われる。選挙疲れで地方議員の動きが鈍り、参院選で自民党が苦戦するケースが多いとされ、安倍首相は第1次政権の2007年に参院選で惨敗、2カ月後の退陣につながった苦い記憶がある。

 この難関を突破できるかどうか、政権の命運が懸かる。

 

対話なき辺野古移設は難しい(2018年10月3日配信『日経新聞』―「社説」)

 

沖縄県にある米軍普天間基地の県内移設に反対する玉城デニー氏が知事選で勝利した。再び反対派知事が誕生したことを軽んじるべきではない。国は自らの主張がなぜ県民の理解を得られなかったのかをよく考え、新知事と真摯に対話すべきだ。

知事選の最大の争点は、普天間基地の名護市辺野古への移設の是非だった。玉城氏は「県内に新たな米軍基地はつくらせない」と訴え、8月に急死した翁長雄志前知事がつくった保革相乗りの「オール沖縄」の枠組みを再現した。

かつて自民党に属していた翁長前知事は、日米安保体制にも在日米軍の駐留にも賛成していた。掲げていたのは「沖縄の過重な負担の解消」だった。

にもかかわらず、安倍政権は翁長氏を反米主義者のように扱い、対決姿勢で臨んだ。振興予算を削るなど“兵糧攻め"のようなこともした。こうしたやり方が結果として、翁長路線を引き継いだ玉城氏に追い風となった。

日米両政府が普天間基地の返還で合意して22年になる。いまさら白紙に戻して、改めて移設先を探すのは現実的ではない。他方、基地はつくればよいというものではない。米軍将兵にも生活があり、地元住民の協力なしには円滑な運用は難しい。

このふたつを両立させるには、国が今後、沖縄の基地負担を劇的に改善すると確約し、途中経過として辺野古移設だけはお願いしたいというしかない。

そのための糸口はどうつくればよいのか。佐喜真淳氏を擁立した自民党はバラ色の公約をばらまいた。学校の給食費の無償化もそうだし、米軍に有利とされる日米地位協定の改定を佐喜真陣営が要望したときも否定しなかった。

 それらを玉城県政でも進めればよい。安倍政権が姿勢を改めたとわかれば、県民の世論も変化しよう。辺野古沿岸の埋め立て許可を巡る裁判が近く始まる。「法的に勝てば埋め立て開始」よりも、「まず対話」が解決につながる。

 

16年前、沖縄市の狭い路地にある飲み屋でのこと…(2018年10月3日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 16年前、沖縄市の狭い路地にある飲み屋でのこと。その人は地方自治や政治家について熱っぽく語った。先輩記者と一緒に話を聞いた相手は、新知事に選ばれた玉城デニーさん

▼ラジオのパーソナリティーなどで活躍する中、意外な気もしたが、市民参加型の街づくりや若者が活躍し、子どもやお年寄りに優しい社会にしたいという庶民目線が印象的だった

▼その後、沖縄市議、衆院議員と政治の道へ。政治家になってからも地元のラジオ局で番組を持ち、好きなロッカー風のいでたちで地元を歩く姿は、庶民派そのものだった

▼知事選でも有権者目線を重視し、「だれ一人取り残さない社会」を掲げた。このメッセージで思い出したのは、普天間第二小学校に米軍ヘリの窓が落下した事故を取材したときの市民の声だ

▼「死人が出ないと、この国は分からないのか」。乱暴な言い方かもしれないが、多くの保護者が口にした。相次ぐ米軍機の事故で、子どもの命が脅かされる現状を変えられない政府への怒りとそれが届かないむなしさを表していた

▼玉城さんを知事に押し上げたのは、騒音や過重な基地負担など日常の問題を解決できない政府への積もり積もった抗議であり、取り残されてきた声でもある。玉城県政はあすスタートする。生活者の声を第一に県政のかじを取ってほしい。

 

沖縄知事に玉城氏/対立構図脱する道はあるか(2018年10月2日配信『河北新報』−「社説」)

 

 前知事の死去に伴う沖縄県知事選は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する前衆議院議員の玉城デニー氏(58)が移設推進派の前宜野湾市長佐喜真淳氏(54)=自民・公明・維新・希望推薦=ら3人を破って当選した。

 選挙結果は辺野古移設反対という県民の多数の意思を明確に示したと言えよう。移設阻止を選挙戦で前面に掲げた玉城氏がこの方針を堅持するとすれば、移設を進める国との間の膠着(こうちゃく)した関係は今後も続くことになる。

 翁長雄志前知事は2015年に辺野古の埋め立て承認を取り消し、以後、国との間で法廷闘争を続けた。客観的に見れば、県側にほぼ勝訴の可能性がない訴訟合戦は、結果として、いたずらに時間を浪費しただけだった。

 移設問題はもう一度、原点に立ち返って考えるべきだろう。普天間飛行場を取り囲んで住宅地が広がり、小学校があり、大学がある。移設の最大の目的は、世界で最も危険とされるこの飛行場の危険性除去だったはずである。

 日米が普天間基地返還で合意してから既に22年が過ぎている。この間、迷走を重ねた移設問題を巡って、今後も県と政府の対立が長く続くとすれば、不幸なのは周辺住民である。危険に瀕(ひん)する状況が固定化される恐れさえある。

 翁長氏の知事在任時は、この原点が置き去りとなった印象が拭えない。辺野古移設に反対なら反対として、実現可能な具体的な対案をある程度は提示するのは知事に求められた責任ではなかったか。

 むろん、代替案は国が考えるべきだという県側の主張には理がある。しかし、さまざまな行政手続きを重ね地元の意向も取り入れてまとめた移設案を政府が容易に放棄することはあり得まい。

 共同通信社が投開票日に実施した出口調査によると、辺野古移設に「反対」「どちらかといえば反対」と答えた人はほぼ6割。知事選の結果と共に、政府はこうした数字を重く受け止めるべきで、これまで以上に県民に対して丁寧な説明が必要になろう。

 新知事もまた、これまでの経緯にかかわらず、何らの成果も生んでいない不毛な対立構図を脱し、仮に現実的な方策があるのだとすれば、青写真を早急に県民に対して示すべきではないか。

 地元経済を見れば、基地の見返りとしての巨額の補助金や基地用地の賃貸料に多くを頼っている現実は、否定できない。その結果、基地を容認する世論も一定の割合で存在しているのが事実である。

 ただし、基地負担の軽減に基本的に異を唱える意見はほとんどない。何よりも負担軽減の実現のためには経済振興が前提条件となろう。自立した経済を確立しない限り、基地の縮小や移転が進まないのもまた沖縄が置かれた厳しい現実だからである。

 

                     沖縄県知事選 民意は明確に示された(2018年10月2日配信『デイリー東北』−「時評」)               

 

 沖縄県の翁長雄志知事の死去に伴う知事選で、野党の支援する前衆院議員玉城(たまき)デニー氏が、安倍政権の推す前宜野湾市長佐喜真(さきま)淳氏との事実上の一騎打ちを制して当選した。

 選挙戦で玉城氏は、翁長氏の遺志を継いで米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設反対を訴え、同県知事選では過去最多となる39万票超を獲得した。2014年の前回知事選に続く政権支援候補の敗北で、移設反対が沖縄の民意であることを明確に示したといえる。

 玉城氏は当選後、「県民の思いをしっかり政府に要求していきたい。政府はわれわれの民意に添って判断すればいい」と、政府に移設中止を迫っていく方針を強調した。

 一方の政府側は、普天間飛行場の危険性除去と、沖縄の米海兵隊による抑止力の維持を両立させる唯一の方法は辺野古移設だとの立場を堅持。沖縄県が翁長氏の遺志に従って辺野古沖の埋め立て承認を撤回したことに法的措置を取って対抗し、移設工事を強行していく方針を崩さない。

 これでは県と国の対立が先鋭化するばかりだ。まさに翁長氏が喝破したように「政治の堕落」だと言わざるを得ない。

 玉城氏は翁長氏同様、日米同盟自体を否定する立場を取っているわけではない。だが、在日米軍専用施設の70%以上が沖縄に集中。県民は米軍人による度重なる凶悪犯罪や、米軍機の相次ぐ事故に苦しめられてきた。両氏はこうした不条理を是正してほしいという県民の切実で、ごく当たり前の願いを代弁することで知事選を勝ち抜いた。

 日米同盟の円滑、かつ効果的運用には米軍施設の周辺住民の納得と理解が必要不可欠となる。県民の大多数の反対を押し切って辺野古沖の新基地建設を強行しても反発を招くばかりで、日米同盟の強化にはつながらないのではないか。

 安倍政権は一貫して、北朝鮮の核・ミサイル開発と中国の軍事的膨張により、日本を取り巻く安全保障環境はかつてなく厳しく、沖縄の海兵隊による抑止力維持が不可欠だと訴えてきた。だが、米朝両国は歴史的な首脳会談を機に、北朝鮮の非核化に向けた協議を継続している。日本政府も硬直した立場に固執すべきではない。

 自民党総裁選で連続3選を果たし、内閣改造に踏み切る安倍晋三首相は今回の選挙結果で冷や水を掛けられた気分だろう。これを契機に、今度こそ本当に「沖縄県民に寄り添っていく」姿勢に転じなければならない。

 

沖縄知事選 真摯に民意受け止めよ(2018年10月2日配信『秋田魁新報』−「社説」)

 

 翁長(おなが)雄志氏の急逝に伴う沖縄県知事選で、自由党前衆院議員の玉城デニー氏が前宜野湾市長の佐喜真淳氏ら3人を破り、初当選した。

 玉城氏は、2014年の知事選で米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を掲げて当選した翁長氏の遺志を継ぎ、「辺野古に新しい基地を造らせない」と正面から基地問題を訴えた。40万票近くを獲得し、移設を推進する安倍政権の全面支援を受けた佐喜真氏に8万票余りの差をつけた。

 沖縄県民が移設反対の意思を再び明確に示した事実は極めて重い。知事選を制して移設を加速させる狙いだった安倍政権にとって大打撃だろう。菅義偉官房長官は選挙結果を受けて「移設と普天間返還を早期実現する考えは何ら変わらない」と強調したが、このままでいいはずがない。県民から突き付けられた「辺野古ノー」の思いを重く受け止め、真摯(しんし)に対応しなければならない。

 佐喜真氏は政権の意向を受け、経済振興や子育て支援などに重点を置く一方、移設の是非には触れず「辺野古隠し」を徹底した。今年2月の名護市長選では、安倍政権が支援する新人が辺野古を争点に掲げない戦い方で移設反対派の現職を下したものの、今回は通用しなかった。最大の争点について論戦を避ける姿勢はいかにも姑息(こそく)だった。

 安倍政権幹部が相次ぎ沖縄入りし、前回は自主投票だった公明党も推薦に回るなど、分厚い態勢で臨んだ結果の落選でもある。自民党の二階俊博幹事長は「敗因をよく分析し、県民の期待に応えられるよう努力する」とコメントした。小手先では通用しないことを肝に銘じるべきだ。

 県民の辺野古移設への抵抗感は顕著だ。共同通信が選挙期間中に行った世論調査で、移設に「反対」「どちからといえば反対」が6割を超え、「賛成」「どちらかといえば賛成」は3割に満たなかった。米軍機のトラブルや米兵による犯罪も依然、後を絶たない。沖縄県に在日米軍専用施設の7割が集中している基地負担の在り方が根本から問われている。

 移設を巡っては、13年に当時の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事が辺野古沿岸部の埋め立てを承認したのに対し、翁長氏が承認には法的な瑕疵(かし)があったとして撤回。最高裁で敗訴が確定し護岸工事が進められたが、今年8月には工事に違法行為があったとの理由で県が承認撤回に踏み切るなど国との法廷闘争が続く。玉城氏は移設の是非を問う県民投票も視野に入れて徹底抗戦する構えだ。

 政府は「辺野古移設は唯一の解決策」と言い続けている。民意を無視して再び辺野古移設工事を強引に進めれば、溝は一層深まるばかりだ。速やかに玉城氏との協議に臨み、辺野古移設の是非も含め、沖縄の基地負担軽減に向けた具体策に本腰を入れるべきだ。

 

沖縄県知事選 政府が方針を改めねば(2018年10月2日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 沖縄県知事選は、名護市辺野古に新基地を造らせないと訴えた前衆院議員の玉城デニー氏が当選した。

 再び示された民意に政府は正面から向き合わなければならない。強引な姿勢を改める必要がある。

 翁長雄志知事の死去に伴う選挙だ。米軍普天間飛行場の辺野古移設が最大の争点だった。辺野古反対を主張し続けた翁長氏の後継候補である玉城氏と、政権が支援する前宜野湾市長の佐喜真淳氏による事実上の一騎打ちだった。

 玉城氏は移設反対派の団体や共産、社民など野党の支援を受けながら政党色を抑える選挙戦を展開した。佐喜真氏は辺野古移設の是非を明らかにせず子育て支援の充実などを訴えていた。

 結果は8万票の差をつけての当選である。沖縄県知事選で過去最多の票を得た事実は重い。

 政権には手痛い敗北だ。自民党が告示前から国会議員や秘書を大量に派遣したほか、菅義偉官房長官らも沖縄入りした。前回は自主投票だった公明党も推薦に回っている。異例の支援態勢で臨んでも及ばなかった。辺野古反対が改めて明確に示された形である。

 安倍晋三首相は「選挙結果を真摯(しんし)に受け止める」としつつ、「沖縄の振興、基地負担の軽減に努める」とこれまで同様の発言をしている。菅氏は「移設と普天間返還を早期実現する考えは何ら変わらない」とする。今回も沖縄の民意に応えようとはしない。

 政府は、普天間の危険除去のため辺野古移設が唯一の解決策だとして「普天間の固定化」か「移設容認」かという苦しい二者択一を沖縄の人たちに迫ってきた。県民に分断、亀裂を生じさせる政府の振る舞いは罪深い。

 県が8月に辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回したため、工事は中断している。政府は県の処分を取り消すよう求める行政訴訟など法的対抗措置を取る方針だ。政府が強硬な姿勢を変えなければ、今後も国と県の対立が続く。

 訴訟の結果、工事を再開できたとしても、ごり押しは県との間に深刻な溝を残す。重い基地負担を背負い続けてきた沖縄の声を踏まえ、米側と交渉するのが政府の本来の姿ではないか。

 玉城氏は国と協議したい意向を示した。「検討できるものがあれば、忌憚(きたん)なく意見交換する」と表明している。菅氏は「日程が合えばお会いしたい」と述べた。政府は、辺野古移設を前提とするのでなく、県との話し合いによる解決に向けて努力すべきである。

 

(2018年10月2日配信『信濃毎日新聞』−「斜面」)

 

沖縄県知事在任中に亡くなった翁長雄志さんは保守の政治一家に育ち自民党県連幹事長も務めた。なぜ基地移設で安倍政権と全面対決したのか。著書「戦う民意」を読むと“歴史と立場”に無理解な政府と本土への憤りが伝わってくる

   ◆

保守政治家として初めて反対運動の先頭に立ったのは2007年、第1次安倍政権の教科書検定問題だった。沖縄戦で軍の強制とした集団自決の記述が修正された。「おじい、おばあに聞かされた事実を無かったことにはできない」と立ち上がったのだ

   ◆

13年、第2次安倍政権による「主権回復の日」式典の開催も無神経さに我慢がならなかった。沖縄にとって講和条約発効の日は日本と切り離され、苦難の道を歩んだ「屈辱の日」だ。那覇市長だった翁長さんは、失望や悲しみの意味を込めた紺色の旗を市庁舎の壁に張り巡らせた

   ◆

 国土の0・6%にすぎない島に約70%の米軍基地が集まる。安全保障のためと言われても地元にとっては法の及ばぬ危険地帯だ。県内移設では固定してしまうだけ。中国、東南アジアから近い観光地として脚光を浴びる今、基地は発展の邪魔でしかない

   ◆

一度会ったら皆兄弟という意味の「いちゃりばちょーでー」精神と助け合いの「ゆいまーる」精神、各国の文物が入り交じる「チャンプルー文化」を生かして日本とアジアの懸け橋に―。平和の緩衝地帯になることが翁長さんの夢だった。民意は翁長さんの遺志を継ぐ新知事を誕生させた。

 

玉城氏勝利 政権は強硬姿勢を改めよ(2018年10月2日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 沖縄の民意は改めて「辺野古ノー」を突き付けた。安倍政権は強硬姿勢を反省し、県民の思いを丁寧にくみ取らなければならない。

 沖縄県知事選は、急逝した翁長雄志(おながたけし)知事の後継として、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を訴えた前衆院議員玉城(たまき)デニー氏が初当選した。

 移設を推進する政権が全面支援した前宜野湾市長の佐喜真(さきま)淳氏を破っての勝利である。

 前回知事選では、移設反対を掲げた翁長氏が辺野古埋め立てを承認した現職に勝った。辺野古移設に反対する県民の思いが根強いことを示したといえる。

 共同通信の出口調査によると、投票で最も重視した政策は普天間の返還・移設問題がトップで51%を占め、2位の経済振興・雇用の18%を引き離した。

 辺野古移設反対は59%に上り、沖縄県の埋め立て承認撤回を60%が支持した。

 法廷闘争などあらゆる方法で移設に抵抗した翁長知事に対し、安倍政権が取り続けた強硬姿勢への反発も玉城氏を押し上げたに違いない。

 選挙戦で玉城氏は移設阻止を前面に掲げ、佐喜真氏は子育て支援の充実などを訴えた。佐喜真氏は「対立だけを求めた」と翁長氏を批判し、政権との関係を強調した一方、辺野古移設の是非を明らかにしなかった。

 移設反対派に勝った名護市長選の再現を狙ったが、こうした「争点隠し」の戦略も県民の不信を招いたのではないか。

 政権・与党側は佐喜真氏に最大級のてこ入れを図った。幹部が相次ぎ沖縄入りし、異例の支援態勢で臨んだ。

 しかし自民、公明両党支持者の4分の1は玉城氏に投じ、与党は支持者すら固めきれなかった。地方の異論に聞く耳を持たず、国策を強引に進める安倍政権のやり方に身内から反発が出たといっていい。

 安倍晋三首相は選挙結果について「真摯(しんし)に受け止める。沖縄の振興、基地負担の軽減に努める」と述べたものの、菅義偉官房長官は「早期に移設する政府方針は何ら変わらない」と言い切った。

 政府は今後、県の処分を取り消すよう求める行政訴訟を起こすほか、撤回の効力を即時に停止させるため裁判所に申し立てる方針だ。

 裁判所の判断次第では工事再開の可能性もあり、県民投票を視野に入れる玉城氏との対立激化が懸念される。

 政権がまずなすべきことは新知事や県の言い分に耳を傾けることだろう。対立を話し合いで解決することこそが政治の根幹だ。民意をないがしろにしてはならない。

 首相と石破茂元幹事長が争った党総裁選では地方票の約45%が石破氏に流れた。それに続く知事選敗退は「安倍1強」下での政権運営そのものが問われていると見て差し支えあるまい。

 首相はきちんと向き合うべきだ。言葉だけの「真摯」や「謙虚」で済ませてはならない。

 

普天間移設問題 司法判断仰ぐほかないか(2018年10月2日配信『北国新聞』−「社説」)

 

 米軍普天間飛行場を名護市辺野古へ移設する計画を推進する政府・与党は、沖縄県知事選の敗北でこれまで以上に厳しい立場に追い込まれた。安倍晋三首相の言う通り、選挙結果を真摯に受け止め、沖縄の振興、基地負担の軽減に全力で取り組まなければならない。といって、辺野古移設という日米両政府の合意をここで覆すこともできない。

 沖縄県は8月、移設工事での違法行為を理由に、いったん出された辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した。政府としては承服し難い措置であり、県の処分取り消しを求める行政訴訟などの対抗措置を予定している。外交・安全保障政策をめぐり、政府と自治体が法廷闘争を繰り返す事態は残念であるが、事態打開のため司法判断を仰ぐこともやむを得まい。

 沖縄県には、全国の米軍専用施設の約7割が集中している。沖縄県民にとっては理不尽な状況であり、辺野古移設に反対の玉城デニー氏は、沖縄を日米両政府からウチナーンチュ(沖縄人)の手に取り戻すと訴え、支持を集めた。玉城氏当選の背景には、琉球王国時代からの歴史的経緯や、過重な基地負担を強いる政府、本土に対する強い反発もあろう。

 ただ、地政学的に米軍基地が沖縄に多い理由も理解したい。日本に対する北朝鮮の核・ミサイルの脅威がなくなる道筋は見えず、中国の軍事的膨張も続いている状況にあって、米軍の抑止力は欠かせない。沖縄駐留の米海兵隊がグアムなどに全面移転すれば、普天間飛行場も代替施設も必要性を失うが、現実には困難であり、辺野古移設が頓挫すれば、危険な普天間飛行場の継続使用という最悪の状況になりかねない。

 玉城氏は元来、自衛隊と日米安保に理解を示す保守中道派と目され、知事選では当初、独自色にこだわっていた。故翁長雄志知事の遺志を継ぐ立場を前面に出す戦術に切り替え勝利したが、基地問題より経済振興を願う県民も少なくなく、知事選で訴えた自立型経済の具体策を示す必要がある。政府はその点で玉城氏を温かく支援する度量も求められよう。

 

沖縄県知事に玉城氏(2018年10月2日配信『福井新聞』−「論説」)

 

国は民意に背を向けるな

これが沖縄の民意だ。米軍普天間飛行場の返還に伴う名護市辺野古への新基地建設が最大の争点となった沖縄県知事選で、建設に反対する玉城デニー氏が初当選した。過去最多の得票39万6千票余に加え、建設を推進する与党などが支援した佐喜真淳(さきまあつし)氏につけた8万票の票差は重い。「沖縄に寄り添う」と言いつつ辺野古一辺倒にまい進してきた安倍政権は、再びノーを突きつけた民意にこれ以上背を向けてはならない。

 玉城氏は、急逝した翁長雄志(おながたけし)知事の「遺志を継ぐ」と表明。弔い合戦の様相を呈した選挙戦では、翁長氏の遺族の応援も得て流れをつかんだ。特に妻樹子さんの「政府が権力を行使して、沖縄県民を押しつぶそうとしている」との訴えは、翁長氏の国との激烈な戦いを想起させ、県民の心を揺り動かしたのではないか。玉城氏は米兵の父、母子家庭育ちといった生い立ちに触れ、全国最悪とされる県民所得や子どもの貧困率の解消などを訴えたことも奏功したようだ。

 一方の佐喜真氏は、普天間の早期返還は訴えたものの、辺野古には触れずじまい。直近の名護市長選では「争点隠し」に終始した与党候補が当選したが、沖縄全土には通用しなかったとみるべきだろう。さらに「辺野古が唯一の解決策」を主張し続けてきた菅義偉官房長官ら与党大物が続々と応援に駆けつけ、4年前は自主投票だった公明党も推薦に回るなど、組織的な選挙戦を展開したことが、むしろマイナスに働いたのではないか。

 「1強」による居丈高な進め方への批判は、安倍晋三首相が3選を決めた自民党総裁選で地方票の45%が対抗馬の石破茂元幹事長に流れたことでも明確になったばかり。沖縄県知事選の敗北は、改めて政権の地方基盤の揺らぎを示したといえる。来年の統一地方選、参院選に向け、どうすべきかを考える時が来ている。

 沖縄県は8月末に辺野古の埋め立て承認を撤回する「最後のカード」を切った。玉城氏は「あらゆる手段を使って阻止する」としたが、手段や権限はほとんどないのが実情だ。政権側がこれまでのように法廷闘争はクリアできると考え、何ら手を打たず、沖縄を追い詰めるようなことはあってはならない。首相は「選挙結果は真摯(しんし)に受け止める」と述べた。ならば辺野古の是非を再検討すべく、まずは新知事との対話をすぐにでも行うべきだ。

 日米地位協定の抜本改定にも取り組む必要がある。米軍の事故や事件のたびに沖縄県民は不平等を痛感し泣き寝入りさせられてもきた。政府の「運用の改善」という小手先の対応はごまかしであり、許されない。

 玉城氏が訴えた「アイデンティティー」は、在日米軍基地の7割の集中を強いられる沖縄が自己決定権を取り戻そうという翁長氏の理念である。どの地方自治体にとっても欠かせない理念であるからこそ、無関心ではいられないはずだ。沖縄を注視していかねばならない理由がそこにある。

 

沖縄知事選/辺野古への民意は明白だ(2018年10月2日配信『神戸新聞』−「社説」)

  

 翁長雄志(おながたけし)知事の死去に伴う沖縄県知事選は、前衆院議員の玉城(たまき)デニー氏が前宜野湾市長の佐喜真(さきま)淳氏らを破り当選した。

 名護市辺野古沖への米軍普天間基地(宜野湾市)の移設について、県政の与党会派や国政の野党4会派が支援する玉城氏は反対を明言した。一方、政権与党の自民と公明が推す佐喜真氏は賛否を明らかにしなかった。

 結果は玉城氏が8万票の大差をつけ、39万票を超え沖縄知事選で最多得票となった。県民の民意は、辺野古移設に対して明確に「ノー」を示した。

 政府は、移設が普天間の基地負担を解消する唯一の策であるとの立場を変えず、米国との合意を強調する。しかし批判の声は、政権運営の強硬姿勢にも向けられていることを認識しなければならない。

 佐喜真陣営は自民党三役が応援組の指揮を執るなど、政権与党を挙げての態勢となった。移設の議論を避け、経済振興を掲げて国とのパイプを訴えた。

 だが共同通信社の出口調査では移設反対が約6割に達した。争点隠しの戦略が有権者に不信や疑問を抱かせたといえる。

 前回の知事選で自主投票だった公明は、佐喜真氏を推薦したが、出口調査では支持者の27%が玉城氏に流れた。組織力の強さで知られる党としては異例の事態だ。辺野古への反発の根強さをうかがわせる。

 ただ、玉城氏が移設を阻止できるかは見通せない。現在、県の承認撤回で埋め立て工事は中断しているが、国は執行停止などを裁判所に訴える方針で、認められれば土砂投入を始める構えを見せる。

 法廷で勝っても、根本的な解決にはならず、むしろ溝を深めるだけだろう。なぜ県民がこれだけ反発するのか、国は動きを止めて冷静に考えるべきだ。

 1999年に当時の県知事が移設を容認した際、民間も使える暫定施設などの条件をつけ、国も受け入れた。しかし現行計画は恒久施設であり、内容は大きく異なる。それから20年近く経ても、沖縄の基地負担がさほど緩和されてはいない。

 新知事の任期中に、沖縄は本土復帰50年の節目を迎える。基地問題の解決の道を、日本全体で考え直す契機としたい。

 

沖縄県知事選 政府は対話を再開させよ(2018年10月2日配信『山陽新聞』−「社説」)

   

 沖縄県民は4年前と変わらず、辺野古移設に「ノー」の意思を示した。2度の知事選で示された民意を、政府は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 沖縄県知事選で、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を掲げた前衆院議員の玉城デニー氏が初当選を果たした。得票数は同知事選で過去最多となる39万6千票余りに上った。

 翁長雄志知事の急逝を受け、玉城氏は後継候補として出馬した。翁長氏の支持母体「オール沖縄会議」の支持を受け、「辺野古に新たな基地は造らせない」と主張した。

 一方、移設を推進する安倍政権は前宜野湾市長の佐喜真淳氏を全面支援した。菅義偉官房長官が9月に入って3度も沖縄入りし、自民、公明両党の幹部も相次いで応援に入るなど、政府、与党は異例の支援態勢で臨んだ。

 前回の2014年知事選では自主投票だった公明党も佐喜真氏の推薦に回ったため、政党の基礎票を単純に積み上げれば佐喜真氏が有利との見方も当初はあった。しかし、共同通信社が実施した投票所の出口調査の分析によると、自民、公明両党の支持者の一部も玉城氏を支持。支持政党のない無党派層では7割が玉城氏を支持した。

 選挙戦中、佐喜真氏は辺野古移設の賛否に言及しない戦術を取ったが、多くの県民は移設問題を大きな争点としてとらえたとみられる。出口調査では、投票で最も重視した政策はどの年代でも移設問題が最多だった。結果、玉城氏は佐喜真氏に8万票余りの大差をつけた。総力戦で敗れたことは、自民党総裁に3選されたばかりの安倍晋三首相にとっても痛手だろう。

 沖縄県は翁長氏の遺志に沿って、8月末に辺野古の埋め立て承認を撤回した。埋め立て土砂を投入する寸前で、工事が停止している状態だ。政府は工事を再開させるために法的対抗措置を取る構えを示している。早い時期に、撤回の効力を失わせるための執行停止の申し立てや、処分取り消しの行政訴訟に踏み切るとみられている。

 ただ、知事選で示された直近の民意を踏みにじるように政府が手続きを進めれば、県民の反発は大きかろう。さらに、辺野古移設を巡っては賛否を問う県民投票条例案が沖縄県議会で審議されており、今月中にも可決される公算が大きい。玉城氏は県民投票の実現に前向きな姿勢を示している。このままでは、国と沖縄県の対立がさらに先鋭化するのは確実だ。

 知事選の結果を受け、安倍首相は「選挙結果を真摯に受け止める」と述べた。そうであるなら、これまでの強硬な姿勢をまずは改める必要がある。今月4日に知事に就任する玉城氏は「はなから対立や分断の立場を取るつもりはない」とし、国と協議したいとの意向を示している。政府は速やかに、沖縄県との対話を再開するべきだ。

 

沖縄新知事に玉城氏 政権は民意に寄り添え(2018年10月2日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 沖縄県知事選で、前衆院議員の玉城デニー氏が初当選した。急逝した翁長雄志(おながたけし)知事の後継を名乗り、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡って「新基地を造らせない」と強く訴えた。安倍政権が支援する前宜野湾市長の佐喜真淳(あつし)氏を大差で下した。

 4年前に続き、移設反対の民意が示されたことになる。普天間の閉鎖・返還にめどを付けないまま、移設をごり押しする政権への強い反発があるのは間違いあるまい。

 安倍晋三首相にはショックだったのではないか。選挙結果を「真摯(しんし)に受け止める」と述べた。ならば、移設が本当に「唯一の解決策」なのか、立ち止まって再検討すべきである。

 翁長氏の死去に伴う急転直下の知事選だった。移設を推進する安倍政権は、佐喜真氏の擁立を早々と決めた。一方で、翁長氏を支えた勢力の「オール沖縄」の候補者選びは進まず、自由党の衆院議員だった玉城氏が立候補を正式表明したのは告示2週間前になった。

 元タレントの玉城氏は一定の知名度があるとはいえ、出遅れた感が否めない。事実上一騎打ちの佐喜真氏には、自民党の有力議員が続々と応援に駆け付け、てこ入れを図っていた。それでも玉城氏が大勝したという事実は重い。

 共同通信社の出口調査によると、投票で最も重視した政策は、普天間飛行場の返還・移設問題が最多の51・5%だった。佐喜真氏は移設への賛否を明らかにせず、経済振興策を中心に訴えたが、逆効果だったのではないか。結果的に、基地問題の議論がかみ合わなかったのは残念だった。

 玉城氏の知事就任で、まず注目されるのは政権側のスタンスだろう。同じく辺野古移設に反対の立場で当選した翁長氏は、安倍首相に面会を申し入れても会えない日が続き、面会できたのは選挙の4カ月後だった。

 玉城氏は知事選から一夜明けたきのう、政権との関係について「はなから対立や分断の立場を取るつもりはない。忌憚(きたん)なく意見交換したい」と早期の面会に意欲を示した。安倍首相は、翁長氏の時のような態度を取ってはならない。

 知事選と同日に投開票された宜野湾市長選では、佐喜真氏の後継で、政権が支援する新人が当選した。これで県内11市長のうち9市長が政権寄りになり、県政とのねじれは明らかだ。知事選の出口調査でも、年代別で30代は佐喜真氏の支持が上回った。外交が絡む基地問題よりも、身近な経済振興を求める有権者の姿も見える。

 今こそ普天間飛行場の運用停止を辺野古移設と切り離し、進める道を模索したい。日米両政府の1996年の返還合意は、辺野古移設が前提ではなかった。米朝関係の改善など東アジア情勢の変化を踏まえ、再検証の余地があるのではないか。

 米軍基地を巡っては、沖縄だけではなく日本全体の問題として捉える機運が少しずつ生まれている。全国知事会は7月、日米地位協定の抜本的な見直しや基地の縮小・返還を求める提言書を全会一致で決議した。本土の私たちが傍観者にならず、沖縄とともに声を上げる姿勢が、政府のかたくなな態度を変える潮流になるはずだ。

 

沖縄の魂(2018年10月2日配信『中国新聞』−「天風録」)

 

 万歳三唱で突き上げた両腕が、今度は拍子を取って左に右に。南の島では選挙に郷土芸能カチャーシーは付き物らしい。次の沖縄県知事に決まった前衆院議員の玉城デニーさんが気持ちよさそうに舞っていた

▲他の陣営は目に見えぬ相手とも戦っていたに違いない。基地問題で政府から袖にされ続け、道半ばで倒れた翁長雄志(おながたけし)前知事である。「イデオロギーよりアイデンティティー」「誇りある豊かさを」。遺訓は、今回も有権者の魂を揺さぶっていたはず

▲選挙結果も、3年前の県民大会でのあいさつ通りだったといえる。先日の小欄でも引いた。「うちなーんちゅ、うしぇーてー、ないびらんどー(沖縄の人を、ないがしろにしては、なりませんよー)」

▲ただ、その民意も決して一枚岩ではない。地元紙などの出口調査では、玉城さんに軍配がはっきり上がった中高年層に比べ、20代、30代では与党系候補が肩を並べる傾向だったそうだ。同日選の宜野湾市長選でも、政権が後ろ盾の候補が制している

▲カチャーシーは、こぶしを軽く握って舞う姿をよく見掛ける。幸せや魂がこぼれ落ちぬように願っての験担ぎだと聞く。間違っても外から握りつぶしてはなるまい。

 

沖縄県知事選/まずは対話を求めたい(2018年10月2日配信『山陰中央新報』−「論説」)

 

 翁長雄志氏の急逝に伴う沖縄県知事選は、翁長氏の後継として米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を訴えた前衆院議員の玉城デニー氏が初当選を果たした。

 「政府との対話」を掲げ、安倍政権が全面的に支援した前宜野湾市長の佐喜真淳氏らを退けた。辺野古移設反対を明言する知事を再び選んだ県民の意思は明確と言える。

 安倍晋三首相は「選挙結果は真摯(しんし)に受け止める」と述べたが、菅義偉官房長官は「辺野古移設の方針は何ら変わらない」と強調した。民意に真正面から向き合う姿勢が必要ではないか。政府と県が法廷闘争も含めて対立する事態は県民も望んでいない。辺野古移設の是非の再検討も視野に、まずは政府と新知事との対話を求めたい。

 玉城氏は「辺野古に新基地を造らせないという翁長氏の遺志を継ぐ」と表明。沖縄県が8月に決めた辺野古沿岸部の埋め立て承認の撤回を維持する方針だ。県議会に条例案が提出されている辺野古移設の賛否を問う県民投票も実施していく考えだろう。

 考えるべきなのは、移設の是非を巡る選択を沖縄県民に強い続ける現状でいいのかという問題だ。かつて本土に置かれた米軍基地は地域の反対運動に遭って沖縄に移され、今では在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中する。日米同盟を維持するのであれば、全国で基地を負担し、その縮小を目指す考え方もある。

 知事選では、二階俊博自民党幹事長や菅官房長官らが何度も応援に入り、政府、与党が一体となって佐喜真氏を支援した。4年前の知事選では自主投票だった公明党も推薦に回り、組織的な選挙戦を展開した。それでも玉城氏は同県知事選では過去最多となる約39万票を得票した。佐喜真氏との約8万票の差は厳然としている。

 先の自民党総裁選でも、首相は党員・党友の地方票で石破茂元幹事長に善戦を許した。共同通信が県知事選の期間中に実施した世論調査では、沖縄県民の安倍内閣支持率は27%にとどまり、不支持率が59%に上る。「安倍1強体制」といわれるが、政権の地方の基盤は揺らいでいるのではないか。来年の統一地方選、参院選に向け、足元を見つめ直す必要があろう。

 沖縄県に関して早急に取り組むべき課題も選挙戦で明確になった。一つ目は普天間飛行場の早期の運用停止だ。安倍政権は仲井真弘多県政時代に普天間飛行場の2019年2月までの運用停止を約束している。佐喜真氏も選挙戦で早期返還を訴えた。

 二つ目は日米地位協定の抜本改定だ。在日米軍の法的地位を定めた地位協定については、玉城氏とともに佐喜真氏も「不平等だ」と改定を主張した。政府はこれまで「運用の改善」という小手先の対応でごまかしてきたが、その手法はもはや許されない。

 三つ目は経済振興策だ。玉城、佐喜真両氏ともに、全国的にも最悪な水準にある県民所得の向上や子どもの貧困の解消を訴えた。玉城県政でもこれらは引き続き重要な課題になる。安倍政権は辺野古移設に反対すれば沖縄振興予算を減らす「アメとムチ」の対応を取ってきた。その姿勢が県民の不信を深めていることを省みるべきだ。

 

沖縄知事選 辺野古移設反対を貫く民意重い(2018年10月2日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 翁長雄志知事の死去に伴う沖縄県知事選で、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する前衆院議員玉城デニー氏が、同知事選で過去最多票を獲得して初当選した。安倍政権が全面支援した前宜野湾市長佐喜真淳氏は敗れた。

 翁長氏の遺志を受け継ぐ形で辺野古移設に改めて「ノー」が突きつけられた。「辺野古が唯一の解決策」と、強引に移設を進めようとする安倍政権への反発であり、過重な基地負担を押しつけられ続ける沖縄の強い抵抗の表れだ。政府は民意を重く受け止め、かたくなな姿勢を見直さなければならない。

 玉城氏は、翁長氏の支持基盤だった共産や社民などの政党や市民団体などでつくる「オール沖縄会議」の支持を受けた。一部の保守系の支持者は離れたものの、辺野古反対を貫いた翁長氏の後継者である点を強調したことで、無党派層にも広く浸透した。

 一方で、佐喜真氏は移設への是非を明らかにしなかった。根強い移設への反発に配慮した戦略だったが、最重要課題である移設への姿勢を示さないまま県政を担うのは無理があった。多くの県民に不信感を抱かせ、支持が広がらなかったのも当然だろう。

 結果を受け、安倍晋三首相は「真摯(しんし)に受け止める。沖縄の振興、基地負担の軽減に努める」と述べた。だが、政府は移設方針を変えていない。今後、翁長氏が撤回した辺野古沿岸部の埋め立て承認を巡り、取り消しを求める行政訴訟などの対抗措置を打つ構えだ。移設反対の民意が幾度となく示されているにもかかわらず、報復的な対応を続けるようでは、県民との溝をさらに深めるだけだ。

 玉城氏の対抗策も限られている。翁長氏の埋め立て承認撤回は「最後の切り札」だった。これまでの法廷闘争は、判決に至ったケースで県側が全敗しており厳しい。現在、県議会が審議している移設の是非を問う県民投票に活路を見いだしたい考えだが、移設反対多数だったとしても法的拘束力はなく、八方ふさがりになる可能性もある。

 選挙戦では、全国最低の県民所得の底上げや、子どもの貧困対策なども重要課題として取り上げられた。本土との格差を解消するための手当てが欠かせない。沖縄振興予算の概算要求は翁長氏就任以降、3年連続で減額され、来年度予算の概算要求でも増減が回避されている。移設問題を「人質」に取るような手法は許されない。

 日米地位協定の改定には、玉城氏だけでなく佐喜真氏も言及しており、基地負担の軽減は共通の願いだった。日米の普天間飛行場返還合意から22年余り。基地問題を争点にせざるを得ない状況が続き、対立と分断は深刻化した。県民は疲弊し切っている。基地問題を沖縄だけに負わせず、全国民が、本土の問題として向き合うよう意識を改める必要がある。

 

【沖縄知事選】政権は立ち止まり対話を(2018年10月2日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 新たな基地は断固認めない―。沖縄県民はその意思の強さを再び明確に示した。安倍政権は強権的な姿勢を改め、沖縄の声に誠実に向き合い直さなければならない。

 沖縄の翁長雄志知事の死去に伴う知事選で、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設阻止を掲げた前衆院議員、玉城(たまき)デニー氏が新たなリーダーに選ばれた。翁長氏の遺志が受け継がれた。

 前回知事選で、辺野古移設を承認した現職知事を翁長氏が破ったのに続き、沖縄の民意は移設反対を貫いた。玉城氏の得票は同県知事選で過去最多となり、基地建設を強行してきた政権への不信の高まりを映し出したといえる。

 8月に急逝した翁長氏の後継として立った玉城氏と、安倍政権が全面支援する前宜野湾市長、佐喜真淳(あつし)氏の事実上の一騎打ちだった。自民党などが国会議員らの投入や組織力で総力戦を仕掛ける対決になり、「国家権力対地方」という構図さえ色濃くした。

 だが、佐喜真陣営は普天間飛行場の早期移転を強調する一方、最大争点だった辺野古移設の是非は明言しなかった。基地批判をかわすためのあからさまな「争点隠し」はもはや安倍政権の常とう手段でもあり、逆に有権者の反感を招いた。票を伸ばせなかった大きな要因だ。

 安倍政権は力ずくで沖縄を揺さぶり、基地政策をごり押ししてきた。県や名護市を通さず、辺野古の地元地区に地域支援の補助金を直接手当てしたり、移設反対派の市長が就任すると基地関連の交付金支給を止めたりしてきた。

 たとえ地域の疲弊に苦しんでいても、地方のプライドを踏みにじる政権の圧力には決して従わない。沖縄県民の不屈の意思表示だったともいえよう。

 そうした県民の決然とした審判にもなお、政権は辺野古移設が「唯一の解決策」との考えを変えず、県の埋め立て承認撤回を覆す法的措置に踏み出す方針だ。沖縄側は移設の是非を問う県民投票の構えもあるが、残された対抗策は限られる。

 安倍首相らは政権側が敗れた前回知事選後、翁長氏との面会をしばらく拒否した。沖縄の声を無視するような横暴で、子どもじみた対応は許されない。

 沖縄が願うのは対立ではない。対話だ。沖縄以外への県外移設はできないのか。アジアの安全保障環境が変わる中、新たな基地がなお必要なのか。そうした説明が尽くされていないことが不信の根にある。

 安倍政権は立ち止まり、沖縄との対話の場を再設定することから仕切り直すべきだ。

 安全保障は国の専権事項だとしても、負担や分断を強いられるのは常に地域だ。沖縄では米軍機の事故や軍人らの凶悪事件も後を絶たない。民主主義下の国との関係の中で、地域の「主権」や安寧をどう守っていくか。沖縄県民の審判は国民全てにその問いを投げ掛けている。

 

人の好みや考えはみんな違うというたとえに…(2018年10月2日配信『高知新聞』−「小社会」)

 

 人の好みや考えはみんな違うというたとえに用いられる「十人十色」。沖縄言葉のことわざにも同じ意味のものがある。「トゥーヌイービヤ(十ぬ指や)、ユヌタケーネーラン(同丈無らん)」。10本の指に同じ長さのものはない。

 父親が駐留米兵だった玉城(たまき)デニーさんは子供のころ、いじめに遭ったという。その時、住み込みで働く母親に代わり世話をしてくれた、育ての母がよく口にした言葉だ。政治家になったいまも大切にしている。

 沖縄県知事選で玉城さんが初当選を果たした。「沖縄に新たな米軍基地は造らせない」。志半ばで病に倒れた翁長雄志前知事の遺志を受け継ぐ。翁長さんが見抜いていたように、さまざまな考えを持つ、いわば「十人十色」の人たちを束ねる中心となる力が備わっていたのだろう。

 事実上の一騎打ちの相手、前宜野湾市長は「辺野古移設」の是非を明らかにしなかった。支援した安倍政権の助言があったのかどうか。最大の争点を隠そうとすれば、有権者が強い不信を抱くのは当たり前だ。

 「トゥーヌ…」のことわざは自分の価値観のみを良いとし、他の人の考えを認めようとしない者を戒める場合などに使われるという(仲村優子編著「黄金言葉」)。沖縄の民意を無視してきた人々に向けた、ぴったりの言葉ともいえる。

 安倍首相は「選挙結果を真摯(しんし)に受け止める」と話すが、行動が伴わなければ相手に伝わらない。

 

沖縄知事に玉城氏 辺野古反対の民意は重い(2018年10月2日配信『徳島新聞』−「社説」)

 

 沖縄県知事選で、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を掲げる前衆院議員の玉城デニー氏が当選した。急逝した翁長雄志前知事の遺志を継ぐ玉城氏が勝利したことで、政府が描く移設スケジュールの遅れは避けられまい。

 玉城氏は過去最多の39万6632票を得た。安倍政権が支援した前宜野湾市長の佐喜真淳氏に8万票の差をつけた。政府は沖縄の民意と向き合い、話し合いを進めるべきだ。

 日米両政府が普天間飛行場返還で合意した1996年以降、沖縄は翻弄され続けている。移設を巡っては2013年に当時の仲井真弘多知事が辺野古沿岸部の埋め立てを承認したが、翁長前知事が15年に取り消した。国と県の法廷闘争の末、16年に県の敗訴が確定し、国は昨年4月に護岸造成に着手した。土砂投入を阻止しようと、県は工事に違法行為があったなどの理由で承認を撤回。工事は法的な根拠を失い、中断している。

 国は、移設工事の再開を目指し、法的対抗措置に乗り出す構えだが、民意に逆行すれば混迷の度は深まるばかりだ。

 玉城、佐喜真の両氏は日米地位協定に関して改定の必要があるとした。米軍機によるトラブルや米兵の犯罪が後を絶たず、県民は不信感を募らせてきた。

 全国知事会は8月、沖縄など米軍基地を抱える自治体の負担を軽減するため、日米地位協定の抜本的見直しを求める提言書を外務省に手渡した。沖縄の実情を共有し、共に解決の道を探っていくことが大切だ。

 

沖縄知事選 この民意を無視できるか(2018年10月2日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 繰り返し発せられる、沖縄の民意−。その重さを政府は無視できるのか。

 翁長雄志(おながたけし)知事の死去に伴う沖縄県知事選で、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する玉城(たまき)デニー氏(58)が、安倍晋三政権が強力に支援した候補を破り、初当選を果たした。

 最大の争点となった辺野古移設の是非について、沖縄県民は前回知事選に引き続いて「ノー」の意思表示をしたといえる。

 安倍政権は、選挙結果にかかわらずに辺野古移設を推進する構えだ。しかし、ちょっと待ってほしい。いくら外交・安保政策が政府の専権事項だとはいえ、ここまで明確に示される地方の声に耳を傾けようともせず、国家の力で押し切ることが民主主義の本意にかなっていると言えるだろうか。

 立ち止まって、本当に「辺野古移設が唯一の解決策」なのかどうか、再検討すべき時だ。

 ●既成事実化に抗して

 辺野古では、すでに埋め立て区域の一部が護岸で囲まれている。青い海を白い護岸がくっきりと区切り、内部への土砂の投入を待つかのような状況である。

 4年前に「辺野古への新基地阻止」を掲げた翁長知事が当選して以来、政権は沖縄との対話で問題を解決するのではなく、ひたすら移設を既成事実化することで、沖縄県民に無力感を味わわせ、移設反対の意思を弱めようとした。辺野古の護岸はその象徴だ。県民の間に「どうせ新基地はできるのでは」と、一定の諦め感が広がっていたのも事実である。

 しかしそれでも、沖縄県民は今回、「反対」を明確に示した。その意思の強さは驚くほどだ。

 政権が支援する候補は、選挙戦で辺野古への新基地建設への賛否を明示せず、生活支援や経済振興を前面に打ち出した。政権の意向を受けた「争点ぼかし」戦術とみられたが、有権者からは「姑息(こそく)」と受け止められたようだ。

 安倍政権は、菅義偉官房長官が度々沖縄入りするなど、異例の態勢で組織戦を展開したが、それも固い民意の前には通じなかった。

 ●基地負担の再検討を

 翁長県政は、数々の訴訟を提起して辺野古移設の阻止を図ってきた。しかし、これまで裁判所は政府の主張に沿った判断を示し、県は手詰まり状態に近づいている。

 県は8月に埋め立て承認を撤回した。これに対し、政府は裁判所に撤回の効力停止を申し立てる方針だ。ここで主張が認められれば、政府は辺野古への土砂投入に踏み切るとみられている。

 このままでは、さらなる混乱が予想される。工事現場で当局側と住民の衝突にでもなれば、県民の反発は一層強まり、日米安保体制にも悪影響を及ぼしかねない。

 安倍政権は「辺野古移設が唯一」の固定観念を捨て、裁判所への申し立てや土砂投入をいったん据え置き、もう一度、沖縄と本土の基地負担のあり方や、日本国内における米軍展開の将来像などについて、検討すべきではないか。

 今回の選挙戦では、玉城氏だけでなく政権支援の候補も、日米地位協定改定の必要性を訴えた。在日米軍の特権的地位を認めた地位協定の改定は、移設容認か反対かを問わない県民の総意といえる。

 政府は早急に協定改定を米国側に提起すべきである。まさか「支援候補が勝手に言った」などとの言い訳はできまい。

 ●本土住民も考えたい

 知事選で政権支援の候補が敗れたことは、「沖縄に寄り添う」と口では言いながら、実際には補助金や経済振興策をちらつかせ、「アメとムチ」で地方を従わせようとする安倍政権の政治姿勢に対する不信の表れだといえる。

 これは自民党総裁選の地方票で石破茂氏が健闘したことにも通じる。森友・加計(かけ)問題での批判を受け「丁寧」「謙虚」などの言葉を連発しつつ、異論に耳を貸さない強引な政治手法を続ける安倍政権に対し、地方から異議申し立ての声が上がり始めたのではないか。

 重ねて考えておきたいのは、本土の住民である私たちの関わり方だ。国内の米軍専用施設の約7割が沖縄に集中する現状に、どう向き合うか。無関心は結果的に「沖縄への基地押し付け」を容認し、民意を無視することにもなる。

 国内の米軍基地の規模は現状で適正なのか。本土が負担の一部を引き受ける方策はあるのか。「沖縄が反対している」と遠くから眺めるのではなく「じゃあ私たちはどうする」と踏み込み考えることが、沖縄と本土の溝を埋め、基地問題解決を促す力となるはずだ。

 

「西方に、極楽あり」…(2018年10月2日配信『西日本新聞』−「春秋」)

 

 「西方に、極楽あり」。福岡市博物館で開催中の「浄土九州」展のうたい文句だ。災害や疫病、飢饉(ききん)、戦乱…。苦しみ多き平安人は、西のかなたに阿弥陀(あみだ)如来の浄土があると信じ、救済を願った

▼都から見れば西に位置する九州。この地にも長い浄土信仰の歴史がある。悪人が報いを受ける凄惨(せいさん)な地獄絵図や、善人を極楽へと導く阿弥陀如来の光り輝く姿−。九州に残る浄土教美術の数々が先人の祈りを伝える

▼九州よりもさらに西方の沖縄。豊かな自然と文化に恵まれた島々は「楽園」のイメージにより近い。だが、極楽どころか、先の大戦では地獄絵図さながらの犠牲を強いられ、今なお過大な基地負担に苦しむ

▼米軍普天間飛行場の辺野古移設が最大の争点となった沖縄県知事選。急逝した翁長雄志(おながたけし)知事の遺志を継いで移設反対を訴えた玉城(たまき)デニー氏が、移設を強行する安倍晋三政権が支援する候補を破った

▼民意は示されたが、政権は聞く耳を持つだろうか。県民の願いを無視し、国策に従う人だけに経済的な「救済」を与えるやり方を続ければ、対立と分断は深まるばかりだ

▼縦横4メートルの巨大な「曼荼羅(まんだら)」が同展に。阿弥陀如来を中心とし、左右対称に均衡した空間は極楽浄土の情景を描いたものだ。右や左に偏ることなく、政治や思想の対立を超え、平和を中心に、自然や文化、経済、防衛などの均衡が取れた情景こそ、沖縄が求める浄土ではないか。

 

辺野古移設の再検討を(2018年10月2日配信『佐賀新聞』−「論説」)

 

 翁長雄志氏の急逝に伴う沖縄県知事選は、翁長氏の後継として米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を訴えた前衆院議員の玉城デニー氏が初当選を果たした。

 「政府との対話」を掲げ、安倍政権が全面的に支援した前宜野湾市長の佐喜真淳氏らを退けた。辺野古移設反対を明言する知事を再び選んだ県民の意思は明確と言える。

 安倍晋三首相は「選挙結果は真摯(しんし)に受け止める」と述べたが、菅義偉官房長官は「辺野古移設の方針は何ら変わらない」と強調した。民意に真正面から向き合う考えはないのか。政府と県が法廷闘争も含めて対立する事態は県民も望んでいないだろう。辺野古移設の是非を再検討すべきであり、まずは政府と新知事との対話を求めたい。

 玉城氏は「辺野古に新基地を造らせないという翁長氏の遺志を継ぐ」と表明。沖縄県が8月に決めた辺野古沿岸部の埋め立て承認の撤回を維持する方針だ。さらに県議会に条例案が提出されている辺野古移設の賛否を問う県民投票も実施し、県民の意思を政府に突き付けていく考えだろう。

 ただ、私たちが考えるべきなのは、移設の是非を巡る選択を沖縄県民に強い続ける現状でいいのかという問題だ。かつて本土に置かれた米軍基地は地域の反対運動に遭って沖縄に移され、今では在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中する。日米同盟を維持するのであれば、全国で基地を負担し、その縮小を目指すべきではないか。

 知事選では、二階俊博自民党幹事長や菅官房長官らが何度も応援に入り、政府、与党が一体となって佐喜真氏を支援した。4年前の知事選では自主投票だった公明党も推薦に回り、組織的な選挙戦を展開した。それでも玉城氏は同県知事選では過去最多となる約39万票を得票した。佐喜真氏との約8万票の差は厳然としている。

 先の自民党総裁選でも、首相は党員・党友の地方票で石破茂元幹事長に善戦を許した。共同通信が県知事選の期間中に実施した世論調査では、沖縄県民の安倍内閣支持率は27%にとどまり、不支持率が59%に上る。「安倍1強体制」と言われるが、政権の地方の基盤は揺らいでいるのではないか。来年の統一地方選、参院選に向け、足元を見つめ直す必要があろう。

 沖縄県に関して早急に取り組むべき課題も選挙戦で明確になった。一つ目は、普天間飛行場の早期の運用停止だ。安倍政権は仲井真弘多県政時代に普天間飛行場の2019年2月までの運用停止を約束している。佐喜真氏も選挙戦で早期返還を訴えた。

 二つ目は、日米地位協定の抜本改定だ。在日米軍の法的地位を定めた地位協定について、玉城氏とともに、佐喜真氏も「不平等だ」として改定を主張した。政府はこれまで「運用の改善」という小手先の対応でごまかしてきたが、その手法はもはや許されない。

 三つ目は、経済振興策だ。玉城、佐喜真両氏ともに、全国的にも最悪な水準にある県民所得の向上や子どもの貧困の解消を訴えた。玉城県政でもこれらは引き続き重要な課題になる。安倍政権は辺野古移設に反対すれば沖縄振興予算を減らすという「アメとムチ」の対応を取ってきた。その姿勢が県民の不信を深めていることを省みるべきだ。

 

沖縄知事選(2018年10月2日配信『佐賀新聞』−「有明抄」)

 

 「私の生きるこの島は、何と美しい島だろう」「鎮魂歌よ届け。悲しみの過去に。命よ響け。生きゆく未来に」―。6月の沖縄全戦没者追悼式で、沖縄県浦添市の中学3年生相良倫子(さがら・りんこ)さんが朗読した「平和の詩」。前をまっすぐ向いて懸命に訴える姿は胸を打つものがあった

◆沖縄は地上戦の地獄を経験した。そして、求めもしないのに住民が暮らしていた土地に米軍基地ができ、不条理な日米地位協定に苦しめられている。それなのに沖縄と本土との溝は埋まらない。あるのは振興予算という国の露骨な「アメとムチ」、「基地で潤っているんじゃないの?」という誤解だ

◆数年前、宜野湾市にある「嘉数(かかず)高台公園」を訪ねた。沖縄戦の激戦地だったが、いまは公園として整備され、高台に展望台がある。米軍普天間飛行場を見渡せる場所だ。ここに立ってみると、いかに沖縄に犠牲を強いているか肌で感じることができる

◆おとといの沖縄県知事選。この普天間飛行場の辺野古移設に反対する民意が示された。普天間という住宅地にある危険な基地の返還と同時に、「これ以上の基地はいらない」という声の証しといえる

◆国に対する沖縄の人たちの意地もあったろう。この民意とどう向き合うのか。相良さんが愛する美しい島から、未来に発信すべきは何か。本土の私たちが考えるべき時だ。

 

沖縄知事に玉城氏(2018年10月2日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

◆8万票の重み 政権認識せよ◆

 翁長雄志氏の急逝に伴う沖縄県知事選は、翁長氏の後継として米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を訴えた前衆院議員の玉城デニー氏が初当選を果たした。「政府との対話」を掲げ、安倍政権が全面的に支援した前宜野湾市長の佐喜真淳氏らを退けた。辺野古移設反対を明言する知事を再び選んだ県民の意思は明確と言える。

基地負担の軽減図れ

 安倍晋三首相は「選挙結果は真摯(しんし)に受け止める」と述べたが、菅義偉官房長官は「辺野古移設の方針は何ら変わらない」と強調した。民意に真正面から向き合う考えはないのか。政府と県が法廷闘争も含めて対立する事態は県民も望んでいない。辺野古移設の是非を再検討すべきだ。

 玉城氏は「辺野古に新基地を造らせないという翁長氏の遺志を継ぐ」と表明。沖縄県が8月に決めた辺野古沿岸部の埋め立て承認の撤回を維持する方針だ。さらに県議会に条例案が提出されている辺野古移設の賛否を問う県民投票も実施し、県民の意思を政府に突きつけていく考えだろう。

 私たちが考えるべきなのは、移設の是非を巡る選択を沖縄県民に問い続ける現状でいいのかという問題だ。かつて本土に置かれた米軍基地は地域の反対運動に遭って沖縄に移され、今では在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中する。日米同盟を維持するのであれば、全国で基地を負担し、その縮小を目指すべきではないか。

 知事選では菅官房長官らが何度も応援に入り、政府、与党が一体となって佐喜真氏を支援した。公明党も推薦に回り、組織的な選挙戦を展開した。それでも玉城氏は同県知事選では過去最多となる約39万票を得票した。佐喜真氏との約8万票の差は厳然としている。

「アメとムチ」に不信

 共同通信が県知事選の期間中に実施した世論調査では、沖縄県民の安倍内閣支持率は27%にとどまり、不支持率が59%に上る。「安倍1強体制」と言われるが、政権の地方の基盤は揺らいでいる。

 沖縄県に関する課題も選挙戦で明確になった。一つ目は、普天間飛行場の早期の運用停止だ。安倍政権は仲井真弘多県政時代に普天間飛行場の2019年2月までの運用停止を約束している。佐喜真氏も選挙戦で早期返還を訴えた。

 二つ目は、日米地位協定の抜本改定だ。在日米軍の法的地位を定めた地位協定について、玉城氏とともに、佐喜真氏も「不平等だ」として改定を主張した。もはや、これまでの「運用の改善」という小手先の対応は許されない。

 三つ目は、経済振興策だ。両氏とも、県民所得の向上や子どもの貧困の解消を訴えた。これらは引き続き重要な県政課題になる。安倍政権は辺野古移設に反対すれば沖縄振興予算を減らすという「アメとムチ」の対応を取ってきた。その姿勢が県民の不信を深めていることを省みるべきだ。

 

沖縄県知事選 辺野古以外を模索すべきだ(2018年10月2日配信『熊本日日新聞』−「社説」)

 

 翁長雄志知事の死去に伴う沖縄県知事選が9月30日投開票され、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する玉城デニー氏(58)が、移設を進める安倍政権が推す佐喜真淳氏(54)ら3人を破り初当選した。

 玉城氏の得票数は同県知事選では過去最多で、辺野古移設を認めない県民の意思は、前回知事選にも増して明確に示されたといえる。政府は一方的に移設を進めてきたこれまでの姿勢を改め、沖縄の民意に誠実に応えるべきだ。

 翁長氏の後継として擁立された玉城氏は、翁長氏が表明していた辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回を継承し、「移設阻止を貫徹する」としていた。これに対し、佐喜真氏は移設の是非について最後まで明言することがなかった。

 玉城氏に投じられた約39万6千票が移設反対の意思を反映したものと考えられる一方、佐喜真氏が得た約31万6千票は、必ずしも積極的に移設賛成の意思を示したものとは言えまい。そうした意味では、約8万の票差以上に、沖縄の民意は移設を進める政府の姿勢と隔たりがあったと理解すべきではないか。

 また、玉城氏は地域振興について、翁長氏時代に基地問題とリンクして国の沖縄関係予算が減額されてきたことを念頭に、「国の補助金に頼らない自立型経済の構築」を訴えてきた。安倍政権とのパイプをアピールし、国の予算増額を公約にした佐喜真氏とは対照的に、従来型の利益誘導に応じず、辺野古移設にノーを示したという点でも玉城氏が得た票の重みは増す。

 選挙期間中、佐喜真氏側は「対立から対話へ」を掲げて、政府との話し合いによる基地問題解決を訴えていた。佐喜真氏への支持には、国との激しい対立をこれ以上繰り返してほしくないとの県民の思いが込められていることも見過ごしてはなるまい。しかし、これまでの経緯を振り返れば、対話を拒んできたのは、むしろ安倍政権の側だったのではないか。

 翁長氏の知事就任後、安倍晋三首相は再三の面談要請を断り続け、応じたのは4カ月後だった。その後も「辺野古移設が唯一の道」として工事を一方的に進め、翁長氏の声に耳を傾けることはなかった。今回の選挙を見れば、安倍政権のこうした強圧的手法が、地元の反発をますます強める結果を招いたといえるだろう。

 玉城氏は、辺野古移設について「国とまずは協議したい」と述べている。「選挙結果を真摯[しんし]に受け止める」としている安倍首相は、ただちに応じ、辺野古移設以外の政策も真剣に模索すべきだ。

 沖縄の訴えを国民全体がどう受け止めるかも問われよう。東京都の小金井市議会は先月、「辺野古移設を中止した上で、代替施設が必要なら全国の自治体を候補地にして国民的論議を行う」との陳情を採択した。基地問題を、沖縄だけに押しつけず当事者意識を持って考える。私たちにも求められる姿勢である。

 

(2018年10月2日配信『熊本日日新聞』−「新生面」)

 

 「ウチナーンチュ、ウシェーティナイビランドー(沖縄の人をなめてはいけない)」。前沖縄県知事の翁長雄志氏が生きていれば、こう語っただろう。就任2年目に開いた辺野古新基地建設に反対する県民大会で述べた言葉だ

▼実際、8万票の大差をつけ当選した玉城デニー氏の選挙参謀は翁長氏だった。「死んでなお政治をしている」と誰かが言っていた。弔い合戦とはそんなものだ。ただ、翁長氏の言葉には沖縄の歴史を変えるほどの力があるのかもしれない

▼那覇市長時代に「ハイサイ運動」を始めた。市役所の窓口で職員が「ハイサイ」(女性はハイタイ)とあいさつ。自販機からも「しまくとぅば」(島言葉)が出てくるほど沖縄の言葉を大事にした。その集約が「イデオロギーよりアイデンティティー」だった

▼米軍基地は沖縄という体に米軍が埋め込んだ危険なカプセルだ。自分では取り除けない。しかし、県内で議論が起こり対立が深まる。それを眺めて喜んでいる人たちがいる。そんな構図はもうよそう、オール沖縄で戦おうよと訴えたのだ

▼これに対し安倍政権は、いじめっ子のように冷たかった。対話を避け、補助金を減らし、移設工事だけは粛々と進めてきた。今回の選挙では「アメとムチ」のアメを精いっぱい強調したが、まるで植民地扱いするような態度が県民に嫌われた

▼米軍人を父に持つ初めての知事が誕生する。危険なカプセルがもし日本に必要ならばどこに埋め込むべきなのか。問われているのはむしろ私たちの方だ。

 

[沖縄知事選] 辺野古反対の民意重く(2018年10月2日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 沖縄県の翁長雄志知事の急逝に伴う知事選で前衆院議員の玉城デニー氏が当選した。

 玉城氏は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対を貫いた翁長氏の後継者として移設阻止を訴えた。移設推進の安倍政権が推した前宜野湾市長の佐喜真淳氏と事実上一騎打ちの選挙戦で、佐喜真氏に8万票余りの差をつけ退けた。

 移設反対を明言する知事を再び選んだ県民の意思は明確である。政府は示された民意を重く受け止めてほしい。

 玉城氏は「これ以上新基地を造らせないと翁長氏が命を削って全うしようとしたことが県民に宿り、後押しした」と述べ、翁長氏の遺志を継ぐ考えを表明した。

 県が8月に決めた辺野古沿岸部の埋め立て承認の撤回を維持し、土砂投入を目指す政府との間で法廷闘争も辞さない構えだ。さらに県民投票を実施し、県民の意思を政府に突き付けて徹底抗戦に出ることも想定される。

 菅義偉官房長官は「辺野古移設の方針は何ら変わらない」と強調した。そうなれば、県と国との対立が一層激化し、安倍政権が描く移設作業も遅れるだろう。そんな事態は双方に望ましくない。政府は早急に新知事と対話の場を設け、事態打開の道を探るべきだ。

 選挙戦では二階俊博自民党幹事長や菅氏ら、閣僚や与党幹部が連日のように沖縄入りし、佐喜真氏を支援した。4年前は自主投票だった公明党も推薦に加わり、圧倒的な組織選挙を展開した。

 それでも玉城氏の得票は、投票率が低下した中で同県知事選で過去最高の39万6632票に上り、佐喜真氏に大差をつけた。

 安倍政権はこれまで、辺野古移設に反対すれば沖縄振興予算を減らすという「アメとムチ」の対応をとってきた。そうした姿勢に県民が不信感を深めていることを反省し、改める必要がある。

 選挙戦の中で、早急に取り組むべき課題も見えてきた。

 まず、普天間飛行場の2019年2月までの運用停止を、安倍政権は仲井真弘多県政時代に約束している。着実に進めてほしい。

 日米地位協定については、玉城氏も佐喜真氏も「不平等だ」と改定を訴えた。政府はこれまで「運用の改善」という小手先の対応をしてきたが抜本改定が必要だ。

 そのほか、経済振興策や全国最低水準にある県民所得の向上も求められる。

 在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中し負担を強いている。政府は沖縄発展のため、課題解決に誠実に取り組んでもらいたい。

 

玉城新知事に望む ノーサイドで課題解決を(2018年10月2日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 知事選が終わった。「ノーサイド」だ。もとより県民に敵、味方の区別はない。玉城デニー新知事は、対立陣営との間にしこりを残さず、全県民の代表として山積する諸課題に取り組んでほしい。

 振り返れば、2013年に政府に提出した垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの配備撤回と普天間飛行場の閉鎖・撤去を求める建白書は県議会、全市町村、全市町村議会などの連名だった。

 12年の衆院選では、西銘恒三郎、国場幸之助両氏を含む自民党の県選出・出身衆院議員も全員が「普天間飛行場の県外移設を求める」と公約していた。党幹部から辺野古移設を容認するよう促されるなどして翻意している。かつては玉城氏と方向を同じくする時期があった。

 公明党県本は党本部と一線を画し、普天間飛行場の県内移設に反対する立場だ。今回の知事選では、基地問題だけでなく総合的な判断から相手候補を推薦したという。玉城氏と共同歩調を取る余地は十分にあるだろう。

 本土の側が沖縄に分断の種を持ち込んでいることがよく分かる。

 沖縄の面積は国土の0・6%にすぎない。そこに在日米軍専用施設面積の70%が集中している。負担軽減のため、普天間飛行場を返還する代わりに、新たな基地を名護市に造ると政府が決めた。なぜまた県内なのか。

 沖縄は、太平洋戦争で本土防衛の時間稼ぎに利用され、国内で唯一、おびただしい数の住民を巻き込んだ地上戦が行われた。住民の4人に1人が犠牲になっている。

 沖縄を占領した米軍は、銃剣とブルドーザーによって強制的に土地を接収した。今に続く広大な米軍基地はいや応なしに造られた。

 普天間飛行場がなくなったとしても嘉手納基地をはじめ広大な基地は依然として残る。普天間の返還は、抱えている負担の大きさから見ればささやかな要求でしかない。

 小野寺五典防衛相は「辺野古移設が唯一の解決策である」と繰り返している。果たしてそうだろうか。

 石破茂元防衛相が指摘したように、1950年代に本土から沖縄に海兵隊が移ったのは日米が反基地運動を恐れたからだ。政治的に解決できる問題といえる。

 玉城氏は辺野古の新基地建設を巡り国と協議する考えを示した。菅義偉官房長官は会う用意があるという。

 安倍晋三首相は4年前、知事に就任したばかりの翁長雄志氏との面会を4カ月も拒み続けた。新基地反対の強い県民意志が再び示されたことで、聞く耳を持たない姿勢を改めるのなら、歓迎したい。

 民意をバックに、玉城新知事が求める普天間返還と新基地建設の断念は、決して法外な要求ではない。県の埋め立て承認撤回に対し、法的対抗措置ではなく、県と協調する選択肢を模索してほしい。

 

新知事に贈る言葉(2018年10月2日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 県知事選投開票日の3日前、読者から電話をいただいた。事実上の一騎打ちを演じた候補者2人が18歳だったころを振り返った本紙の記事を読んで心が癒やされたという

▼紙面に載った両候補の写真は初々しく、魅力的だ。「2人とも当選すればいいのにね。政府のせいで県民が対立してしまって」と話す電話の主。笑っているようだが、その口調から悲しさが伝わってきた

▼選挙のたび、県民は重い選択を突き付けられてきた。誹謗(ひぼう)中傷に心を痛めつつ投票所に赴いた人もいよう。かなうことのない「2人当選」は、うちなーんちゅの切ない願いにも聞こえた

▼知事選で県民は「新基地ノー」の意志を示した。ネット上のコメント欄には早くも「沖縄は基地固定化を選んだ」「振興策を止めろ」という心ない言葉が並ぶ。県民はこれからも、沖縄を傷つける無関心や侮蔑(ぶべつ)と向き合わねばならない

▼新知事が4日に就任する。順風満帆な航海とはいくまい。でも、逆風の中をヨットが進むことをよく知っているに違いない。沖縄の戦後史にも関わる困難な環境を生き抜いた人を、県民は新知事に選んだ

▼ひめゆり学徒隊の引率教師だった仲宗根政善さんは日記の中で沖縄の政治家の苦悩を「塩」に例え、「塩がなければ、沖縄はたちまち腐り、沖縄ではなくなってしまう」と記した。この言葉を新知事に贈りたい。

 

[玉城氏への期待]持ち味生かし希望語れ(2018年10月2日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 知事選で当選した玉城デニー氏(58)は、ラジオのパーソナリティーを務めていたこともあって、弁舌がさわやかで、とにかく明るい。

 選挙中、高い台に上がらず、地べたで有権者と同じ目線で語りかけ、ハイタッチをしたり、抱きあったりした。

 テレビで「当確」が出たときの、あのカチャーシーの身のこなしは見事だった。

 ロックが大好きでカチャーシーも踊れる知事は過去にはいない。

 屋良朝苗、平良幸市、西銘順治、大田昌秀、稲嶺恵一、仲井真弘多、翁長雄志と、復帰後の歴代知事の名を並べたとき、玉城氏の異色ぶりが際立つ。新しいタイプの知事の誕生だ。

 玉城氏の選挙運動にかかわった沖縄国際大学の4年生(22)は、選挙中盤から「この人の人柄なら勝てる」と確信を持ったという(1日付本紙社会面)。

 沖縄タイムス、朝日新聞社、琉球朝日放送が投票日当日の30日、共同で実施した出口調査によると、無党派層の70%、女性の61%が玉城氏に投票していたことが分かった。

 期日前投票でも、無党派層の7割以上が玉城氏に投票していた。

 さまざまな選挙情報が飛び交う中で、実際には玉城氏に強い追い風が吹いていたのである。8万票という予想外の大差で当選したことが玉城氏の政策推進力になるだろう。

 組織の固定票と違って無党派層の期待は、取り組み次第では失望に変わるのも早い。持ち味を生かし、「希望」を語ってもらいたい。

■    ■

 6月23日の慰霊の日。糸満市で開かれた沖縄全戦没者追悼式で、翁長雄志知事は安倍晋三首相を前に平和宣言を読み上げた。

 「『辺野古に新基地はつくらせない』という私の決意は県民とともにあり、これからもみじんも揺らぐことはありません」

 玉城氏は、志半ばで病に倒れた翁長氏の遺志を引き継ぐことを明言している。

 4日に知事に就任する玉城氏が、行政の責任者として真っ先に直面するのは、辺野古の新基地建設問題である。

 県は8月末、埋め立て承認を撤回した。工事は止まったままだ。政府は裁判所に対し、執行停止を申し立て、司法判断に基づいて工事を再開する方針である。

 県としては、司法の場で撤回の正当性を主張していくことになるが、司法決着とは別の土俵を県が自ら提起する必要がある。

■    ■

 県議会では辺野古埋め立ての賛否を問う県民投票条例案が審議されている。県民投票によってあらためて、埋め立ての正当性を問う。その意義は決して小さくない。

 翁長氏は、命を削ってこの問題に取り組んだが、県と政府の対立の構図を克服し、問題解決の道筋を示すまでには至らなかった。

 過去の経緯を踏まえ、どのように次の段階に踏み出すか。過去の取り組みの縮小再生産では県民は納得しないだろう。ここでも新しいアプローチが必要だ。

 

沖縄知事選惨敗もお友達とがめず側近起用(2018年10月2日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★自民党の党人事では元経済再生相・甘利明を来年の参院選挙を見据えた選対委員長に起用する方針が伝えられたが、秘書の現金授受問題で閣僚を辞任。その後国会にも出て来ず、説明の場もろくに設けずに今日まで逃げ続けた。選挙で当選したことで「みそぎ」は終わったということらしい。結局何があってもお友達にはポストが用意されるということだ。

★その意味では沖縄知事選は中央政界から党本部職員、党所属議員や秘書らが続々と応援に沖縄入りし、幾日も泊まり込む秘書も多くいた。党幹事長・二階俊博、筆頭副幹事長・小泉進次郎らは幾度も異例の沖縄入りし、官邸にいるべき官房長官・菅義偉もが沖縄入りして街頭に立った。公明党も前回知事選では自主投票にしたものの、今回は候補者の親族に支持母体・創価学会員がいるなど縁が深く、自公維希の4党が支援した。その間、悪質なデマやネットを介在させる情報操作、やっていない世論調査の資料の異常な流出、公明党議員の悪意に満ちたツイッターのツイートなど今後の選挙や憲法改正時の国民投票での賛否の啓蒙(けいもう)活動などに重大な影響を及ぼしそうな公正な選挙と逆行する事象が多発した。

★沖縄は2代続いて争点が辺野古移設問題となり、それを県民が2度とも反対した形になる。首相・安倍晋三は「しょうがないね」と発言したようだが、オールスターキャストの総力戦で臨んで負けた与党はどう責任を取るというのか。日曜に都内で行われた党大会で公明党代表に再度選出された山口那津男は「結党の精神は大衆とともに」を連呼し、党幹部も「平和の党」と強調したが、公明党も自主投票にせず自民党と組んだ責任はないのだろうか。既に幹事長や官房長官など今回の選挙で最前線に立っていた顔ぶれの再任が決まっているようだが、こちらもお友達だからおとがめなしということだろうか。自民党はけじめのない不思議な党になり果てたようだ。

 

玉城デニー氏圧勝(2018年10月2日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

「新基地ノー」は揺るがぬ民意

 名護市辺野古の米軍新基地建設問題が最大の争点となった沖縄県知事選で、急逝した翁長雄志知事の遺志を継ぎ、新基地反対を掲げた玉城デニー氏が、安倍晋三政権が全面支援した佐喜真淳氏に圧勝しました。玉城氏の得票は39万6632票と、沖縄の日本復帰(1972年)後の知事選で過去最多となり、佐喜真氏に約8万票もの大差をつけました。4年前の前回知事選での翁長氏当選に続く玉城氏の歴史的勝利は、「辺野古新基地ノー」が沖縄県民の揺るがぬ意思であることを明瞭に示しました。安倍政権は、新基地建設の企てを直ちに中止すべきです。

“権力総動員”を打ち破る

 安倍政権による今回の知事選への介入は、過去に例を見ないほど異常極まりました。佐喜真陣営は▽辺野古新基地の是非を一切語らない争点隠し▽国家権力を使っての企業・団体の締め付け▽自民党、公明党・創価学会の全国規模での動員▽徹底した期日前投票―を「勝利の方程式」と称し、総力を挙げて選挙戦に臨んできました。

 首相官邸を取り仕切る菅義偉官房長官をはじめ自民党の二階俊博幹事長らが繰り返し沖縄入りし、公明党の山口那津男代表や創価学会の原田稔会長らも現地に乗り込みテコ入れを図るなど、地方選としては極めて異例の取り組みだとメディアも報じていました。

 徹底した争点隠しや企業・団体の締め付けなどを「勝利の方程式」と呼ぶこと自体、沖縄県民を愚弄(ぐろう)するものに他なりません。玉城氏の勝利は、権力を総動員し、民意を力ずくで押しつぶそうとした安倍強権政治に対する県民の誇りをかけた厳しい審判です。

 2012年に安倍氏が政権に復帰して以降、これまで実施された沖縄県知事選は2回です。1回目(14年11月)は、安倍首相が「沖縄振興予算」の大幅上積みというカネの力で、普天間基地の「県外移設」を主張していた仲井真弘多知事を新基地容認に転じさせ、辺野古の埋め立てを承認させた下で行われました。しかし結果は、新基地建設阻止で大同団結した「オール沖縄」代表の翁長氏が約36万票を獲得し、仲井真氏に約10万票の差をつけて圧勝しました。

 2回目の今回、玉城氏は翁長氏の得票をさらに大きく伸ばし、佐喜真氏を圧倒しました。しかも前回と異なり、公明党や日本維新の会も佐喜真氏を推し、玉城氏は「組織票で圧倒的に不利だった」(沖縄タイムス)中での大勝です。

 安倍政権は、県民が「辺野古が唯一」という新基地推進政策に一度も信任を与えず、2度にわたる知事選で明確な拒否の意思を示した事実を直視すべきです。

団結と連帯さらに強め

 今回の選挙結果を受けてもなお、安倍政権が新基地建設推進の立場に「変わりはない」(菅官房長官)としていることは言語道断です。沖縄県が8月末に辺野古埋め立ての承認を撤回したことに法的対抗措置もとろうとしています。

 しかし、辺野古新基地をめぐっては、埋め立て予定海域に軟弱地盤や活断層の存在が判明し、そもそも建設は困難という問題も浮上しています。保守・革新の垣根を越えた「オール沖縄」のたたかいをさらに進めるとともに、全国の連帯を強め、辺野古新基地建設阻止、普天間基地の即時閉鎖・撤去に力を尽くすことが必要です。

 

沖縄知事選 新基地拒否で県政継続(2018年10月1日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 沖縄県知事選はきのう投開票され、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する自由党前衆院議員の玉城(たまき)デニー氏が勝利した。

 この結果は「辺野古移設が唯一の解決策」として新基地建設を強行し続ける安倍晋三政権の高圧的なやり方に、改めて「ノー」を突きつけたものと言える。

 国は、県による辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回に対し、法廷闘争などに踏み切るべきではない。

 工事を中止し、県側と真摯(しんし)に向き合わねばならない。

 玉城氏は新基地阻止を訴えてきた翁長雄志(おながたけし)知事が8月に急逝したことを受け、その後継として出馬し、保守、革新の枠を超えた「オール沖縄」勢力の支持を受けた。

 移設反対の声が広がった背景には、安倍政権が米軍基地の県内移設を推進するため、経済振興を絡めて、アメとムチとも言える「上から目線」のやり方を続けていることへの怒りがある。

 国は県民の分断を招くような手法は改める必要があろう。

 政権与党が支援した前宜野湾市長の佐喜真淳(さきまあつし)氏は、国とのパイプを強めて経済に力を注ぐと強調し、一定の支持を集めた。

 沖縄は県民所得、有効求人倍率ともに全国最低水準という経済状況にある。次期県政は経済振興を求める県民の声にも応える責任を負うことになろう。

 佐喜真陣営の訴えには、分かりづらさも多かった。

 普天間基地の返還が重要だとしながら、辺野古移設の是非にはあえて言及しなかった。推薦を受けた自公両党が辺野古移設を進める中で「争点隠し」とも言える主張に反発もあったのではないか。

 公明党は、本部が政権と歩調を合わせながら、県本部は普天間の県外移設を求めた。こうした足並みの乱れも影響したとみられる。

 沖縄の現状で忘れてならないのは、米兵・米軍属の事件が後を絶たないことである。

 選挙戦で玉城、佐喜真両氏はともに在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の改定の必要性を訴えた。全国知事会も協定を抜本的に見直すよう提言している。

 こうした声を受け、国は協定の改定に向けて取り組むべきだ。

 沖縄には国内の米軍専用施設の7割が集中している。その負担軽減こそが沖縄が求める声である。

 国が説得すべき相手は沖縄ではない。米国だ。首相は「沖縄に寄り添う」と言い続けている。ならば行動で示してもらいたい。

 

沖縄と「日本」(2018年10月1日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

「どこつかんどんじゃボケ、土人が」「黙れこら、シナ人」という聞くに堪えない差別的な暴言が浴びせられた。戦前の話ではない。わずか2年前、2016年10月18日のことである

▼暴言の主は大阪府警の機動隊員だった。沖縄県の米軍北部訓練場にヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)を建設する工事の警備に当たっていた。抗議する人々に向かって吐いたという

▼二重、三重の差別を含んだ発言が許されるはずもないが、不思議だったのは、政府の対応である。当時の鶴保庸介沖縄北方担当相は参院内閣委で「『土人である』と言うことが差別であるとは断定できない」と述べた。世間とはずいぶん感覚が違う。そう思った人も少なくなかろう

▼きのう投開票された沖縄県知事選は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を強く訴えた玉城デニー氏が勝利した。選挙中の世論調査では、移設「反対」「どちらかといえば反対」が6割を超えており、それが結果に反映されたと言える

▼ただ、それだけではないかもしれぬ。凄惨(せいさん)だった沖縄戦、米軍による占領、なくならない米軍基地、国民ではなく米軍を守る日米地位協定…。沖縄に昔も今も存在する差別に、終止符を打つ。有権者はそんな願いを、1票に託したのではないか

▼故大田昌秀元沖縄県知事は1995年、記者会見でこう問いかけていた。「沖縄は日本ですか」

 

沖縄知事選 辺野古ノーの民意聞け(2018年10月1日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 沖縄県知事に前衆院議員の玉城(たまき)デニー氏が当選した。

 急逝した翁長雄志前知事は、米軍普天間飛行場の移設先として、名護市辺野古に基地を造ることに強く反対してきた。その遺志を継ぐ玉城氏を、有権者は新しいリーダーに選んだ。安倍政権は県民の思いを受けとめ、「辺野古が唯一の解決策」という硬直した姿勢を、今度こそ改めなければならない。

 まず問われるのは、県が8月末に辺野古の海の埋め立て承認を撤回したことへの対応だ。この措置によって工事は現在止まっているが、政府は裁判に持ち込んで再開させる構えを見せている。しかしそんなことをすれば、県民との間にある溝はさらに深くなるばかりだ。

 朝日新聞などが行った県民世論調査では、辺野古への移設は賛成25%、反対50%だったが、基地問題に対する内閣の姿勢を聞く問いでは、「評価する」14%、「評価しない」63%とさらに大きな差がついた。「沖縄に寄り添う」と言いながら、力ずくで民意を抑え込むやり方が、いかに反発を招いているか。深刻な反省が必要だ。

 今回の選挙で政権側がとった対応は異様だった。全面支援した佐喜真淳(さきまあつし)氏は辺野古移設への賛否を明らかにせず、応援に入った菅官房長官らは、県政とは直接関係のない携帯電話料金の引き下げに取り組む姿などをアピールして、支持を訴えた。

 都合の悪い話から逃げ、耳に入りやすい話をちらつかせて票を得ようとする。政権が繰り返してきた手法と言えばそれまでだが、民主主義の土台である選挙を何だと思っているのか。

 一方で、沖縄の今後を考えるうえで重要な主張の重なりもあった。玉城、佐喜真両氏がそろって、在日米軍にさまざまな特権を認めている日米地位協定の改定を、公約の柱にすえたことだ。佐喜真氏も、協定の運用を話し合う日米合同委員会に「沖縄の声が反映する仕組みをつくる」と具体的に唱えた。

 過重な基地負担に苦しむ県民の、立場を超えた願いと見るべきだ。政府もまさか「佐喜真氏の独自の考えで、我々とは関係ない」とは言うまい。実現に向けた真摯(しんし)な努力を求める。

 新知事の前には、基地問題だけでなく、地域振興や福祉・教育などの課題が待ち受ける。加えて、安倍政権がとってきた、従う者は手厚く遇し、異を唱える者には徹底して冷たく当たる政治によって、県民の間に深い分断が生まれてしまった。

 

沖縄知事に玉城デニー氏 再び「辺野古ノー」の重さ(2018年10月1日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 沖縄県の新知事に、米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する玉城(たまき)デニー元衆院議員が当選した。8月に死去した翁長雄志(おながたけし)氏に続き、再び「辺野古ノー」の知事を選んだ県民の審判は極めて重い。

 安倍政権はこの間、民意に刃向かう形で強引に埋め立て工事を進めてきた。知事選には佐喜真淳(さきまあつし)前宜野湾市長を擁立し、県外から国会議員や地方議員、秘書団まで動員する政権丸抱えの選挙戦を展開した。

 それでも玉城氏が勝利したことで、政権が従来の姿勢を見直さざるを得なくなったのは明らかだ。

 市街地の真ん中に位置する普天間飛行場は一刻も早い返還が必要だ。にもかかわらず、日米の返還合意から22年が過ぎても実現していない根底に、基地負担のあり方をめぐる本土と沖縄の意識差が横たわる。

 日米安保条約に基づく在日米軍の存在が日本の安全保障の要であることについて、国民の間でそれほど意見対立があるわけではない。

 問題の核心は、日米安保のメリットは日本全土が受けているのに基地負担は沖縄に集中するという、その極端な不均衡にある。

 県外移設を求める沖縄側と、「辺野古移設が普天間の危険性を除去する唯一の選択肢」という政府の主張はかみ合っていない。

 民主主義国家では最終的に多数決で政策が決定されるが、議論を尽くしたうえで少数派の意見を可能な限り取り入れることが前提となる。

 外交・安保は政府の専権事項だからといって、圧倒的な多数派の本土側が少数派の沖縄に不利益を押しつけるのを民主主義とは言わない。

 辺野古移設をめぐる国と沖縄の対立を解消していくにはどうすればよいのか、今こそ政府は虚心に県との話し合いを始める必要がある。

 翁長氏が知事に就任した際、安倍晋三首相と菅義偉官房長官は4カ月にわたって面会を拒み続けた。玉城新知事に対してもそんな大人げない対応を繰り返せば、国と沖縄の対立はますます深まるだけだろう。

 来年春までには辺野古埋め立ての賛否を問う県民投票も行われる見通しだ。自民党総裁に3選されたばかりの首相だが、問答無用で基地負担をごり押しする手法で状況を動かすことはできない。

 

沖縄新知事 普天間の危険性除去を進めよ(2018年10月1日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 国との対立をあおるだけでは、県政を率いる重要な役割を果たせまい。新知事は、基地負担の軽減や県民生活の向上に地道に取り組むべきだ。

 沖縄県知事選が投開票され、野党が支援した玉城デニー・前衆院議員が、自民、公明など4党推薦の佐喜真淳・前宜野湾市長らを破り、初当選した。

 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画について、玉城氏は「何が起きても基地は造らせない」と強調した。亡くなった翁長雄志・前知事の「弔い選挙」と陣営が訴えたことも、支持を広げた要因だろう。

 自公両党は、多くの国会議員が沖縄入りし、総力を挙げて佐喜真氏を支持した。敗北は安倍政権にとって痛手である。

 玉城氏が反対の立場を貫けば、移設工事の停滞は避けられない。日米両国は、早ければ2022年度の普天間返還を目指しているが、工事は大幅に遅れている。

 政府は、計画の前進に向けて、県と真摯しんしな姿勢で協議するとともに、着実に基地の再編や縮小を進めなければならない。

 翁長県政は、辺野古の埋め立て承認の取り消しや、工事差し止め訴訟などで計画を阻止しようとした。司法の場で翁長氏の主張は認められていない。

 県は8月、埋め立て承認を撤回した。政府は近く、裁判所に撤回の執行停止を申し立てる方針である。基地問題を巡って国と争いを続けることに、県民の間にも一定の批判があることを玉城氏は自覚しなければならない。

 選挙戦で玉城氏は、普天間の危険性除去の必要性も訴えていた。辺野古への移設は、普天間の返還を実現する上で、唯一の現実的な選択肢である。

 日本の厳しい安全保障環境を踏まえれば、米軍の抑止力は不可欠だ。基地負担を減らすとともに、住民を巻き込んだ事故が起きないようにする。そのために、どうすべきなのか、玉城氏には冷静に判断してもらいたい。

 玉城氏を推した野党は、辺野古への移設計画について、「違う解決策を模索する」と反対する。具体的な案を示さずに普天間返還を実現するという主張は、かつての民主党の鳩山政権と同じで、無責任のそしりを免れない。

 知事の立場は、野党議員とは異なる。沖縄の発展に重い責任を負うからには、県民所得の向上や正規雇用の拡大に向けて、総合的に施策を推進する必要がある。政府との緊密な連携が欠かせない。

 

沖縄知事に玉城氏 国と県の関係正常化図れ(2018年10月1日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 沖縄県知事選は共産、社民両党や労組などでつくる「オール沖縄」が推し、米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する玉城(たまき)デニー前衆院議員が、自民、公明両党などが推した佐喜真淳(さきま・あつし)前宜野湾(ぎのわん)市長を破って当選した。

 8月に死去した翁長雄志(おなが・たけし)前知事は辺野古移設に反対し、国と激しく対立した。死去後に県は辺野古埋め立て承認を撤回し、埋め立て工事は中断した。

 当選した玉城氏は、翁長県政の継承を唱えてきた。だが、辺野古移設をめぐり、国と県の対立を再燃させるのは望ましくない。

 移設を妨げる県の従来方針を改め、国との関係を正常化し、基地負担の軽減を進めていく現実的な立場をとってもらいたい。

 辺野古移設は日米両政府が交わした重い約束事だ。抑止力維持の観点からも見直せない。

 米軍基地を国内のどこに置くかという判断は、国の専権事項である安全保障政策に属する。憲法は地方自治体の長に、安保政策や外交上の約束を覆す権限を与えていない。

 この民主主義の基本を玉城氏は理解してほしい。知事選に基地移設の是非を決める役割があると考えること自体が誤っている。

 玉城氏は、県による「埋め立て承認撤回」を取り消すべきだ。そもそも撤回するほどの不手際が国にあったとはいえない。

 もし、「承認撤回」を取り消さないのであれば、国は裁判所に撤回の執行停止を申し立てるべきである。認められれば、埋め立て工事を再開できる。

 宜野湾市の市街地に囲まれた普天間の危険性を取り除く上で移設は待ったなしの課題である。同時に在沖縄の米海兵隊は、北朝鮮や中国などを見据えた日米同盟の抑止力の要である。

 抑止力の維持と基地の安全性の確保を両立させるには、辺野古移設が唯一現実的な解決策だ。国と県の対立を再燃させて移設が滞れば、周辺国が日米同盟が動揺しているとみなす恐れがある。抑止力低下と普天間の固定化は望ましくない。

 玉城氏は「基地を造ったら平和にならない」と語ったが、抑止力を否定する発想は非現実的で安保環境をかえって悪化させる。中国が狙う尖閣諸島は沖縄の島である。防衛の最前線である沖縄の知事である自覚をもってほしい。

 

沖縄県知事選 辺野古基地は白紙に(2018年10月1日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 辺野古新基地建設はNO。沖縄県知事選で、米軍普天間飛行場移設問題にあらためて民意が示された。政府は直ちに辺野古移設を見直すべきだ。これ以上、沖縄に対立と分断をもたらさないために。

 日米両政府が1996年、普天間飛行場の返還に合意して以来、知事選は6回目。辺野古移設への対応が毎回の争点となってきた。

 今回は、故翁長雄志知事の後継者として出馬した玉城デニー氏が勝利し、2012年以降の安倍政権下では2回、いずれも辺野古反対の重い民意が明らかにされた。

 政権の全面支援を受けるも敗れた佐喜真淳氏は、訴えで移設の是非に触れずじまい。玉城氏とは激戦だったが、それをもって辺野古への賛否が割れたとは言い難い。

 選挙期間中の琉球新報社などの県民世論調査では、県内移設に反対する意見が6割を超えた。辺野古問題では、明らかに多数が新基地は不要と判断している。

 新基地建設に関しては8月末、国の工事に違法性があるとして、県が沿岸の埋め立て承認を撤回した。事前の設計協議なしに着工し軟弱地盤や活断層の問題も判明した−などが理由。手続き上も工法上も国側が無理を重ねている。

 辺野古反対派が当選した以上、政府は法的対抗措置を凍結し、移設計画を白紙から見直すべきだ。普天間返還に代替施設が必要か、あらためて米国と交渉し、再び国内移設をというのなら、移設先を一から検討するよう求めたい。

 辺野古の海では一部区域の護岸建設が進められたが、埋め立ての土砂投入は行われていない。元の海への回復はまだ間に合う。

 選挙結果は、自民党総裁に連続で3選された安倍晋三首相には痛手だろうが、沖縄の民意をこれ以上踏みにじることは許されない。

 自ら誘致したのでもない基地を巡り、国に恭順するか否かが毎回問われる知事選は沖縄以外にはない。振興予算の加減による政権側のアメとムチ政策が県民を分断する原因にもなっている。今回も、生活基盤整備が先と感じる佐喜真氏支持層と玉城氏支持層の間でしこりが残るかもしれない。

 そんな不幸な状況を解消し、沖縄の自治を保障するため政府がとるべき道は、沖縄のみに過剰な基地負担をかけない、必要な財政支援はする、との当たり前の政治に転換するだけのことだ。

 政府には、速やかに新知事と沖縄の将来について、真摯(しんし)な協議を始めることを望みたい。

 

沖縄に新知事  「基地」に新たな視点を(2018年10月1日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 新しい沖縄県知事に、玉城デニー氏が決まった。

 玉城氏は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対を続けて8月に急逝した翁長雄志前知事の後継者である。

 県民は、辺野古移設に改めて「ノー」を突き付けた。

 きのう投開票された知事選は、自由党衆院議員だった玉城氏と、前宜野湾市長で自民、公明、維新、希望の各党が推す佐喜真淳氏の事実上の一騎打ちだった。佐喜真氏の敗北は、安倍晋三政権が進める移設に対し、県民の抵抗感が根強いことを改めて示した。

 安倍政権は重く受け止めてほしい。同時に、国民全体も沖縄の意思を理解しなければならない。

 だが、安倍政権は選挙結果に関わりなく移設を進める方針だ。県が辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回したことへの対抗措置をとるとみられ、再び県と政府の全面的な法廷闘争が続くことになる。

 地元の民意を切り捨てる形で移設手続きを強行すれば、県と国だけでなく県民同士の分断がますます進むことになりかねない。

 米軍基地が安全保障面で重要であればこそ、安倍政権は米国や他府県とも協議して、沖縄の重い負担を軽減するためのあらゆる可能性を探るべきだ。まずは、新知事と誠実に向き合ってほしい。

 選挙戦で玉城氏は辺野古移設反対を前面に掲げ、翁長氏の「弔い合戦」を印象づけた。保守層の取り込みを念頭に政党色を抑えた。

 佐喜真氏は辺野古移設の是非を明言せず、経済振興と普天間飛行場の早期移転を訴えた。移設問題の争点化を避けたといえる。

 それでも移設問題は選挙戦の大きなテーマだった。共同通信による選挙中盤の世論調査では、玉城氏支持層の8割強が移設に反対、佐喜真氏支持層も3割強が反対だった。勝敗にかかわらず、こうした県民の拒否感は否定できない。

 沖縄の基地を巡っては、翁長氏の働きかけで一昨年、全国知事会に「米軍基地負担に関する研究会」が設置された。知事会は今年7月、日米地位協定の抜本的見直しや基地の整理縮小促進などを求める提言を全会一致で決議した。

 基地を沖縄だけの問題にせず、日本全体の課題として考えようとの機運が生まれている。米朝関係の改善など東アジア情勢が大きく動く今こそ、基地の必要性も含め、新たな視点で基地問題をとらえ直す好機ではないか。安倍首相は沖縄の現状から目をそらさず、事態打開に踏み出してほしい。

 

新知事に玉城氏 新基地反対の民意示した(2018年10月1日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 翁長雄志知事の死去に伴う沖縄県知事選挙は、名護市辺野古への新基地建設反対を訴えた前衆院議員・玉城デニー氏(58)が、安倍政権の支援を受けた前宜野湾市長・佐喜真淳氏(54)を大差で下し、初当選した。

 米軍普天間飛行場の移設に伴う辺野古への新基地建設について、玉城氏は「辺野古に新たな基地は造らせない」と主張、知事の持つあらゆる権限を行使して阻止する姿勢を示した。

 佐喜真氏は辺野古移設を推進する安倍政権の全面的な支援を受けながらも、その是非について言及を避け続けた。

 玉城氏が当選したことで、新基地建設に反対する沖縄県民の強固な意志が改めて鮮明になった。政府は、前回、今回と2度の知事選で明確に示された民意を率直に受け止め、辺野古で進めている建設工事を直ちに中止すべきだ。

 沖縄には、普天間飛行場の4倍以上の面積を有する嘉手納基地をはじめ在日米軍専用施設面積の7割が集中している。県内移設を伴わない普天間飛行場の返還は決して法外な要求ではない。

 今選挙で政府・与党は菅義偉官房長官、自民党の二階俊博幹事長、竹下亘総務会長、公明党の山口那津男代表らが次々と沖縄入りし、総力を挙げて佐喜真氏を応援した。

 政権の動きに呼応するかのように、ネット上では玉城氏に対する誹謗(ひぼう)中傷やデマが拡散された。模範となるべき国会議員までが真偽不明の情報を発信した。

 沖縄県知事選で玉城氏ほど、いわれのない多くの罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられた候補者がかつていただろうか。有権者の中には、デマを本当のことだと思い込んだ人もいたかもしれない。

 戦後、米軍統治下にあった沖縄で直接選挙によって住民の代表を選ぶ主席公選が初めて認められたのは1968年のことだ。自治権の拡大を求める沖縄住民が勝ち取った権利だった。

 その際、自民党は川島正次郎(副総裁)、福田赳夫、中曽根康弘の各氏ら有力者を次々と送り込み、保守側の候補者を強力に支援した。結果は、革新の屋良朝苗氏が当選している。あれから50年。政府与党は知事選に介入し敗れた。

 振興策で思い通りになると考えていたとすれば、県民を軽んじた話ではないのか。

 政権与党対県政与党という対立構図の中で、県民は翁長県政の路線継承を望み、安倍政権に「ノー」を突き付けた。「政府の言いなりではなく、沖縄のことは沖縄で決める」という強い意志の表れだ。

 県は前知事による辺野古の埋め立て承認を8月31日に撤回した。政府は法的対抗措置を取る構えを見せている。

 この期に及んで、なおも新基地を押しつけるというのなら、民主主義国家を名乗る資格はない。政府は沖縄の揺るぎない民意を尊重し、新基地建設を即刻断念すべきだ。

 

不条理と闘った歴代知事(2018年10月1日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 昨年ハワイを訪ねた時、県系人の言葉に問題の根深さを知った。「翁長雄志知事の子は中国人と結婚した」。新基地建設を巡り、沖縄の民意を政府にぶつけてきた翁長氏へのデマ。拡散は予想以上だった

▼翁長氏の死去で早まった知事選は異例づくし。超短期決戦に、台風24号が直撃する。候補者ポスターの撤去や繰り上げ投票、相次ぐ日程変更…。まさに嵐のような慌ただしさだった

▼新知事に玉城デニー氏が決まった。復帰後では第8代。県民の願いは沖縄ばかりに負担を押し付けず、穏やかな暮らしを実現すること。異例を引きずるのはごめんだ

▼「基地ができる前まで普天間に人はいなかった」「沖縄経済は基地なしでは成り立たない」との事実誤認を今も耳にする。翁長氏は自身に向けられたデマを県議会答弁で否定した。そのやりとりは怒りを通り越して悲しい

▼歴代知事は沖縄への無知や偏見、不条理とも闘った。復帰後初代知事の屋良朝苗氏は破れた履物を意味する「弊履(へいり)」に例え、「沖縄県民の気持ちと云うのはまったく弊履の様にふみにじられる」と憤った

▼「知事」の「知」は治める意のほか、変化に応じて的確に判断できる頭の働きも指す。嵐が過ぎて沖縄の新たな4年間が始まる。新知事はどうかじを取り、進んでいくのか。県民は弊履にあらず。1票に託した思いが踏みにじられてはならない。

 

[玉城氏が圧勝]沖縄から新しい政治を(2018年10月1日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 新しい沖縄県知事に前衆院議員の玉城デニー氏(58)が選ばれた。前回知事選の翁長雄志氏の得票を上回り、復帰後の知事選では過去最多得票での勝利である。

 出馬表明の遅れや組織体制の不備、相手の強大な組織力をはねのけての圧勝だ。その政治的意味は極めて大きい。

 大方の予想を覆して玉城氏が勝利を収めた要因は何か。

 一つは、安倍政権と国政与党が前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)をなりふり構わず支援したことへの反発である。

 菅義偉官房長官は9月に入って3度も沖縄入りし、人気者の小泉進次郎衆院議員も告示後3度沖縄に駆け付けた。水面下では二階俊博幹事長らが企業や団体へのテコ入れを徹底。党が前面に出たことで候補者の影は薄くなり、「政権丸抱え」の印象を与えた。

 佐喜真氏が若者票を意識して権限のない「携帯電話利用料の4割減」を公約に掲げたのもとっぴだったが、これに菅氏が「実現したい」と応じたのに違和感を持った県民も多かった。有権者は「古い政治」の臭いをかぎつけたのではないか。

 玉城氏は、翁長県政の継承と辺野古新基地反対の姿勢を明確に打ち出しつつ、名護市長選敗北の経験から経済政策や子育て支援策にも力を入れ、幅広い層の支持を得た。

 米軍統治下の沖縄で、米兵を父に持ち母子家庭で育った玉城氏は、沖縄の戦後史を体現するような政治家である。自らの人生を重ねるように語った多様性の尊重や子どもの貧困対策は、女性を中心に有権者の心をつかんだ。

 グローバル化が進む中、草の根運動によって二つのルーツを持つ知事が誕生したことは、「新しい政治の始まり」を予感させるものがある。

■    ■

 今回の知事選では、前回自主投票だった公明党が佐喜真氏推薦に回り、翁長知事を誕生させた「オール沖縄」陣営から抜ける企業もあった。

 政党の基礎票を単純に積み上げていけば、玉城氏が勝てる要素は乏しかった。組織票で圧倒的に不利だったにもかかわらず勝利したことは、安倍政権の基地政策に対する有権者の「ノー」の意思表示であり、新基地反対の民意が依然として強固なことを示すものだ。

 選挙期間中、佐喜真氏が連呼したのは「対立から対話へ」のキャッチフレーズだった。しかし翁長氏との対話を拒否したのは安倍政権である。

 就任後、面会を申し入れても安倍晋三首相に会えない日が続き、会談が実現したのは4カ月も後のこと。新基地建設問題を巡る係争処理手続きで総務省の第三者機関が協議を促す結論を出した際も、政府は話し合いによる解決を拒んだ。

 現在、県の埋め立て承認撤回によって工事は止まっている。政府は法的な対抗措置を取るのではなく、これを受け入れ、新たな協議の場を設けるべきだ。

 これ以上、政府の都合で県民同士の分断と対立を深めてはならない。従来のような強硬策では何も解決しない。

■    ■

 今度の選挙は、1968年の主席公選から50年の節目の選挙である。新知事は在任中に復帰50年を迎える。 

 本土との格差是正を目的に、国の責務として始まった沖縄振興特別措置法に基づく沖縄振興策は、ここ数年、新基地の「踏み絵」のように使われ始めている。翁長県政になって以降、目玉の一括交付金が減額されるなど沖振法が「米軍再編特措法化」しているのだ。

 究極の「アメとムチ」政策である米軍再編交付金だけでなく、沖縄関係予算まで基地維持の貢献度に応じてということになれば、沖縄の地方自治は成り立たない。

 玉城氏には、佐喜真氏支援に回った経済団体とも早急に対話を進め、民間主導の自立型経済の構築に向け、一致協力して取り組んでもらいたい。

 子どもの貧困対策や子育て支援、雇用の質の改善、県民所得の向上など生活に密着した課題も山積みだ。 

 「新時代沖縄」につながる政策を着実に進めてほしい。

 

前回知事選の取材ノートを見返していたら、「この戦いに勝って差別を(2018年10月1日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 前回知事選の取材ノートを見返していたら、「この戦いに勝って差別を終わらせる」という言葉が目に飛び込んできた。保守にも革新にも失望し、政治から離れた男性。今回だけは、と翁長雄志氏を応援していた

▼当時、安倍政権は辺野古新基地に反対する沖縄の自民党国会議員5氏を記者の前に並べて屈服させ、工事を始めた。屈辱感が男性を突き動かした。沖縄全体がうねっていた

▼その後の4年間、沖縄はまるで民主主義の学校のようだった。公約を破った仲井真弘多氏に退場を促し、代わった翁長氏は公約を守った。県民は投票だけで終わらせず、必要なら主権者として体を張って現場で抵抗した

▼政権はその民意を踏み破り、辺野古の海をつぶしてきた。県民の心に諦めを植え付け、新基地反対という選択肢自体を奪おうとした。だが、県民は命の選択肢を諦めず、手放しもしなかった。玉城デニー氏を選んだ

▼高揚より、静かな覚悟という言葉がふさわしい。道が険しいことを誰もが知っている。先の男性は「もう一回、民主主義が生き返るチャンス」と表現する

▼少数派を差別し、人権を脅かす数の暴力を民主主義とは呼ばない。政権とそれを支える国民大多数が、沖縄に息づく健全な民主主義を傷つけてきた。4年間の猶予ができた。今度こそ民主国家日本が応える番だ。

 

沖縄知事選きょう審判(2018年9月30日配信『福井新聞』−「論説」)

 

本土も観客では済まない

 沖縄県知事選がきょう投開票される。米軍基地問題を巡り、国と鋭く対立してきた翁長雄志(おながたけし)知事の死去を受けた選挙である。安倍晋三政権が総力を挙げて支援する佐喜真淳(さきまあつし)氏(54)と翁長氏後継と目される玉城(たまき)デニー氏(58)による事実上の一騎打ちは、異様なほど過熱したまま審判の時を迎える。

 最大の争点は、基地問題のなかでも普天間飛行場の返還に伴う名護市辺野古への新基地建設問題である。沖縄県民の判断はそのまま日本の安全保障体制に関わる。事はひとり沖縄だけの問題ではない。他県のわれわれも、政治ショーのように眺めてはいられない。

 ■政治闘争の観■

 普天間返還で日米が合意したのは、橋本龍太郎政権下の1996年4月。曲折を経ながら、代替施設の用地が辺野古に決まった。だが、政府や米海兵隊の意向などもあって施設内容は二転三転し、規模が大きくなり続けた。

 この20年余りの間、沖縄では米兵、軍属による凶悪事件や軍用ヘリなどの墜落事故が絶えず、基地を巡る県民の怒りが膨らんでいた。

 こうした民意が押し出したのが翁長県政である。前任知事による辺野古の水面埋め立て承認を翁長氏は取り消し、法廷闘争も展開した。それは安倍政権との政治闘争の観があった。

 翁長氏の執念の背景には、国土のわずか0・6%しかない県に、日本に駐留する米軍基地の7割以上が集中する不条理があった。本土の基地は過去に縮小したのに沖縄の負担が変わらない事実は、差別にほかならないとの思いだったとされる。

 その思いが多くの県民の意志を代弁するものだったのは、最近の各種調査でも明らかだ。県民の7割は辺野古建設に反対しているのである。

 ■辺野古以外にも策■

 沖縄ばかりがなぜ、苦難を背負わなければならないのか。同じように米軍基地のある各国に比べ、日本は米国に配慮しすぎではないか―。

 責任は、沖縄県民をはじめ国民の多くが持つ疑問と真剣に向き合ってこなかった歴代の日本政府にもあるだろう。

 ただ安倍政権は、基地問題を主導する菅義偉官房長官が辺野古建設を「唯一の解決策」として強硬策を取り、翁長氏と敵対し続けてきた。国が地方を押しつぶすような対応は、対等であるべき関係を覆すものであり、苦言を呈さざるを得ない。

 今回の知事選では、翁長氏の遺志を継ぐと明言する玉城陣営に対し、与党幹部らを総動員して佐喜真氏を支援している。一方で、佐喜真陣営は辺野古問題について態度を明らかにしないままだ。「争点隠し」と非難されても仕方のない姿勢だろう。

 内外の専門家の多くは、辺野古以外にもさまざまな解決策があると指摘している。普天間の危険を除くには、例えば米軍の部隊編成の変更や機能の分散といった手法も考えられる。普天間の返還に伴う解決策として、辺野古に固執するのは「政治的」すぎるというのである。

 ■本土にも議論の芽■

 国民的議論の結果、普天間の代替施設が必要となれば本土で建設地を決めるよう求める―。そんな内容の陳情が東京・小金井市会の本会議で採択された。

 定数24のうち自民、公明会派などを除く13人が賛成したという。この一事をもって、基地負担を沖縄と分かち合う機運が広がるとみるのは楽観的すぎるかもしれない。だが長年、沖縄県民の苦難に目をつぶってきた本土にも、ようやく議論の芽が出てきたとはいえる。

 東西冷戦後、中国の台頭なども相まって世界に与える米国の影響力が相対的に低下しているとされる。当面最大の脅威と見なされてきた北朝鮮の姿勢にも変化が見られる。

 沖縄県知事選の結果がどうであれ、これを機に国民も日本の安全保障のあり方を考えるべき時期に直面しているのは間違いない。

 

知事選きょう投開票 沖縄の意思を票に託そう(2018年9月30日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 第13回県知事選挙がきょう30日、投開票される。沖縄の自治の方向性を決定付ける重要な選挙だ。自らの代表を決める機会を決して放棄することなく、必ず1票を投じてほしい。

 今年は沖縄で主席公選が実施されてから50年の節目に当たる。1968年11月、行政主席を住民が投票して決める直接選挙が初めて実施された。

 米統治下にあった沖縄ではそれまで、全住民の代表を直接選ぶことさえ認められていなかった。主席公選は自治権拡大を求める住民が勝ち取った大切な権利だ。米国に封じられていた自己決定権を住民側に取り戻し、その後、県知事選として引き継がれ、現在に至っている。

 今回の選挙は前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)と前衆院議員の玉城デニー氏(58)による事実上の一騎打ちとなる。最大の争点は米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設の是非だ。

 28日の最後の訴えで佐喜真氏は「普天間飛行場は22年前の返還合意が原点だ。新たな未来のため普天間飛行場の一日も早い返還を目指してきた。基地整理縮小は県民の悲願だ」と述べた。新基地建設には言及しなかった。

 28日の最後の訴えで玉城氏は「これ以上新たな米軍基地は必要ない。翁長知事と辺野古新基地建設を認めず体を張ってでも止めようと固く誓い合った。普天間の原点は戦争で奪われた土地を返すことだ」と述べた。

 どちらが当選しても、新知事は就任後、すぐに新基地建設の重要局面と向き合わなければならない。県が8月31日に前知事による埋め立て承認を撤回したからだ。

 国は停止している工事を再開させるため、裁判所に撤回の取り消しを求め提訴し、判決を待たずに撤回の効力を止める執行停止を申し立てる可能性がある。こうした動きに対して、新知事はすぐに判断を迫られる。新基地建設に対する姿勢をあいまいにしたまま県政を担うことは許されない。

 琉球新報社が共同通信社と合同実施した世論調査では、6割が県の承認撤回を支持した。県民の間に新基地建設を阻止したい意思が根強いことが分かっている。こうした民意も踏まえる必要があろう。

 来年2月には政府が約束した普天間飛行場の「5年以内運用停止」の期限を迎える。政府は現時点でも具体策を示していない。宜野湾市では知事選と同日に市長選が実施される。立候補者2人の公約を踏まえ、市長にふさわしいと思える人を選んでほしい。

 今回の知事選は選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから初の選挙となる。これからの沖縄を担う若い世代の多くの人にも投票所へ足を運んでいただきたい。

 沖縄の意思を明確にする選挙だ。主権者たる県民の思いを1票に託したい。

 

台風を超えて(2018年9月30日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 あらゆる所で「台風」が吹き荒れている。性的少数者に対する偏見に満ちた見解を月刊誌に寄稿した自民党の杉田水脈(みお)衆院議員。援護する企画まで掲載した「新潮45」は休刊に。多くの人を傷つけたことを認識するべきだ

▼角界の「台風の目」になったのは貴乃花親方。日本相撲協会との対立が続いたことによる「引退」の決断だろうが、弟子の今後を含め影響は大きい。話し合いで溝を埋める努力は十分なされたのか

▼沖縄地方は文字通り台風の直撃を受けている。きょう投開票される県知事選でも県民を翻弄(ほんろう)した。選挙では全有権者が権利を行使できる環境を確保しなければならない。琉球新報は28日付紙面で、車いす利用者に対する投票所の対応状況を調べた

▼少なくとも67カ所で利用が困難だと分かった。県脊髄損傷者協会理事長の仲根健作さんは、設備が整う商業施設での期日前投票を呼び掛けた。週末は人が多くて利用しにくい状況もあったため、商業施設や図書館での投票所がさらに増えることが願いだ

▼悪天候は障害のある人の投票機会をさらに狭める。郵便による不在者投票などの制度はあるが広く知られていない。仲根さんは「各自治体が積極的に告知してほしい」と求める

▼30日は投開票日。対話を大事にし、偏見や差別がなく、全ての県民が暮らしやすい社会を築いていける知事の誕生を期待する。

 

[沖縄県知事選 きょう投開票]「沖縄の将来」選択の時(2018年9月30日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 沖縄の将来の行方を大きく左右する県知事選挙は30日、投開票される。

 米軍普天間飛行場を抱える宜野湾市の市長選挙も同日実施され、両選挙とも深夜には大勢が判明する見通しだ。

 最初から最後まで異例づくめの選挙だった。2期目を目指した翁長雄志前知事が急逝し、選挙日程が当初の11月18日よりも大幅に早まった。選挙は、前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)と、前衆院議員の玉城デニー氏(58)の事実上の一騎打ちに。

 知事選は、復帰後13回目となるが、終盤になって、大型で非常に強い台風24号が沖縄地方を直撃、県選管や市町村選管は台風対策に振り回され、各陣営の選対事務所も遊説日程の変更など対策に追われた。

 期日前投票は、台風が接近する前から前回を上回っていたが、台風接近に伴い、県選管や各選対が積極的に期日前投票を呼びかけたことから、うなぎ上りに増え、空前の数字を記録した。

 そして選挙戦最終日の29日。沖縄地方は猛烈な風雨に見舞われ街頭活動は完全にストップ、各陣営ともネットや電話作戦に専念せざるを得なかった。

 過去に例のないこのような経過が選挙結果にどう影響するか、正直、見通せない。

 気になるのは投票率である。4年前の知事選は64・13%だった。身の安全を確保した上で、大切な1票の権利を行使してほしい。

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 佐喜真、玉城両陣営の取り組みは、何から何まで対照的だった。

 佐喜真氏は安倍官邸と国政与党の全面的な支援を受け、企業・団体を中心とする組織選挙を徹底し、期日前投票によって票固めを図った。

 玉城氏は翁長県政を誕生させた「オール沖縄」勢力を軸に、手づくり選挙を展開し、無党派層や若年層に対する支持の拡大に努めた。

 「県民の暮らし最優先」を主張する佐喜真陣営は、子どもの貧困率や待機児童数、1人当たりの県民所得など、劣位の数字を列記した。

 「誇りある豊かな沖縄」を訴える玉城陣営は、実質経済成長率や地価上昇率、入域観光客数の増加など経済の好調な側面を取り上げた。

 両陣営が掲げた明暗二つの数字は、沖縄の二つの側面を示すもので、ピンからキリまでの数字が並ぶのは沖縄社会の特徴である。

 その点を見極め、実現可能性を吟味して政策を評価する必要がある。

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 玉城氏が辺野古の新基地建設に反対し、翁長前知事の姿勢を引き継ぐことを強調したのに対し、佐喜真氏は、普天間返還は繰り返したが、辺野古移設についてはほとんど語らなかった。

 選挙戦の期間中、議論はまったくかみあわなかった。

 だが、はっきりしていることがある。選挙結果は沖縄の将来を左右するだけではない。安倍晋三首相の今後の政権運営に影響を与え、国民の「沖縄理解」や辺野古に対する考え方にもさまざまな影響を与えることになるだろう。

 

県知事選挙を前に首里東高校で開かれた3年生対象の(2018年9月30日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 県知事選挙を前に首里東高校で開かれた3年生対象の主権者教育の授業を見学した。「どんな人に投票したいか」の問いに返ってきたのは「県民の意見を尊重してくれそうな人」「何かを変えてくれる人」など素直な答えばかり

▼クラス34人中18歳が17人と半数で、生徒たちにとり選挙は既に身近なものになっている。一方で「民主主義を日々の生活で感じることは少ない」とも

▼沖縄の住民が初の主席公選で民主主義を実感したのは、ちょうど50年前。他の都道府県で知事が選ばれてから21年もたった後だった。沖縄では、地域の未来を住民が選ぶ「自治」は神話だと決めつけられたこともあった

▼県知事の仕事は自治を実現できるかにある。多くの人々の声を吸い上げ、よりよい地域をつくること。それに尽きる。高校生の回答にもあるように

▼「知」という漢字には、祭事の用具として矢をそなえて天の声を聞き、神に誓う意味があるとされる。中国で「知事」が統治者の役職名として使われるようになったのは、10世紀に成立した宋代の時期という

▼太平洋戦争が終わるまで、日本の知事は中央政府という「天」に従う存在だった。時代は下り現代の知事が耳を傾けるのは、1票を等しく手にした有権者の声。きょうは4年に1度、主権が私たちの手の中にあることをあらためて確認する日だ。

 

[沖縄県知事選 待機児童]ゼロへの道筋 具体的に(2018年9月27日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

                                                      

 今年4月時点で認可保育所に入れない県内の待機児童は1870人に上った。昨年より400人近く減ったものの、割合は全国ワーストだ。

 選挙戦で主要な論点になっているとはいえないが、わが子を保育所に預けられるかどうかは、親たちにとって切実な問題である。候補者には、「ゼロ」への道筋を具体的に語ってもらいたい。

 厚生労働省のまとめによると、県内の待機児童数は東京都の5414人、兵庫県の1988人に次いで全国で3番目に多い。

 待機児童数を申込者数で割った待機児童率は3・26%と突出して高く、2番目の東京、3番目の兵庫を大きく上回っている。中でも南風原町、西原町、南城市、うるま市、沖縄市は5%を超えるというから驚く。沖縄は全国一公的保育所が不足している県なのだ。

 子育て環境を巡る課題に、県や市町村も手をこまねいているわけではない。昨年に比べ保育所は約100カ所、定員は約5千人増え、受け皿整備が進む。しかし増加のスピードには追い付けない。

 県が掲げる目標は、2019年度末までの待機児童ゼロ。ただ来年10月に保育料の無償化が実施されれば、利用希望者がさらに増えるのではとみられている。

 すべての子どもは、よりよい保育を受ける権利があり、行政にはサービスを提供する責務がある。

 予算や人を集中させるなど「異次元」の対策が必要だ。

■    ■

 それにしてもちぐはぐなのは、待機児童が多いにもかかわらず、定員割れが起こっていることである。県全体では定員枠より利用児童数が約1600人も少ない。

 昨年4月、那覇市で新設園を中心に多数の定員割れが生じた際は、エリアによる保育所の偏在と保護者ニーズとのミスマッチが指摘された。

 地域別、年齢別の保育需要はもちろん、今の整備計画で十分なのか、点検を急いでほしい。

 政府が進める「企業主導型保育所」でも同様に定員割れが問題となっている。充足率は全国平均で49%と半分以下、那覇市は60%だった。

 従業員が一般の認可園を選んでいるという事情もあるようだが、ここでも需要と供給のミスマッチが起こっている。

 目指すべきは、保護者に選ばれる保育所づくりである。

■    ■

 知事選の公約に、前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)は「待機児童ゼロ」を盛り込む。前衆院議員の玉城デニー氏(58)も「待機児童ゼロ」を訴える。どちらも子育て支援策の柱の一つと位置付けている。

 沖縄の深刻な待機児童問題は、戦後、米軍統治下に置かれた影響による保育政策の立ち遅れに起因している。

 近年、深刻化する保育士不足の解消には、給与アップを含めた待遇改善が不可欠である。

 子育て環境を整え、女性たちが活躍できる社会をつくることは、少子化対策にもつながる重要な政策だ。

 

[沖縄県知事選 語らぬ辺野古]有権者に丁寧に説明を(2018年9月26日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

                                   

 安倍政権が文字通り総力を挙げて支援する佐喜真淳氏(54)と、「オール沖縄」勢力が推す手作り感漂う玉城デニー氏(58)の戦いは、「象とアリの戦い」を思わせるものがある。

 政権によるテコ入れは、その規模と徹底性において、過去のどの知事選をも上回る。

 沖縄基地負担軽減担当を兼ねる菅義偉官房長官は、今月に入ってすでに3度も来県し、石垣市や宮古島市にも足を延ばした。

 告示前の総決起大会には自民党の二階俊博幹事長、公明党の山口那津男代表、日本維新の会の馬場伸幸幹事長がそろい踏みした。

 小泉進次郎衆院議員もすでに2回、沖縄入りしている。

 安倍政権が死に物狂いの選挙戦を展開しているのはなぜか。その理由はただ一つ。辺野古移設などの基地問題を抱えているからだ。

 なのに、候補者の佐喜真氏も、基地負担軽減を担当している菅氏も、辺野古移設をまともに取り上げない。

 知事選は、両陣営が辺野古移設について正面から論じ、主張の違いを分かりやすく提示し、有権者の判断を仰ぐ機会である。そうあるべきだ。 翁長雄志前知事が命を削って辺野古問題に取り組んできたことを思えば、知事選で翁長県政への評価と辺野古の是非を語らないのは、あまりにも不自然であり、有権者に不誠実である。

 語るべきことを語らない選挙は有権者に目隠しをして投票させるようなものだ。

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 名護市長選で、政権が推す渡具知武豊氏が当選したとき、菅氏は「選挙は結果がすべて」だと言ってのけた。

 安倍晋三首相は、市長就任6日目に渡具知氏に会い、激励した。

 名護市長選、知事選、衆院選、参院選で辺野古反対派が相次いで勝利したときはどうだったか。

 安倍政権は選挙結果を完全に無視し、翁長氏の当選後、およそ4か月も面談を拒み続けた。

 敵・味方の論理に基づく敵視政策は、安保政策をゆがめ、地方自治をいびつにする。

 沖縄タイムス、朝日新聞社、琉球朝日放送が22、23の両日実施した情勢・世論調査によると、基地問題に対する安倍政権の姿勢について、63%が「評価しない」と答え、「評価する」は14%にとどまった。

 基地負担軽減担当の菅官房長官は、この現実に向き合い、選挙戦を通して丁寧に県民に説明する責任を負っている。

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 「普天間の危険性除去」「一日も早い閉鎖」という主張は両候補とも一致している。県議会は全会一致で「海兵隊の国外・県外移転」を決議した。公明党と渡具知氏も名護市長選で政策協定を結び、「海兵隊の県外・国外移転」を確認した。

 こうした積み重ねを踏まえて、さらに議論を深めるまたとない機会が知事選だ。

 もっとも大切な「説明責任」と「情報開示」が不十分なまま、事あるごとに「辺野古が唯一」だと主張するのは印象操作というほかない。

 

[沖縄県知事選 LGBT支援]公約の本気度を見たい(2018年9月25日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 自民党の杉田水脈衆院議員が月刊誌「新潮45」で同性カップルを「生産性がない」などと主張し批判された問題で、同誌最新号が今度は「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」と題する特集を組み、また批判を浴びている。

 特集の中で寄稿者の一人である文芸評論家は同性愛を「全くの性的嗜好(しこう)ではないか」などと書く。どの性を愛するのかという「性的指向」と、性的趣味を示す「性的嗜好」を混同しているとしか思えない考えだ。

 さらにLGBT(性的少数者)の権利を擁護するなら、「痴漢」が「触る権利を社会は保障すべきでないのか」などと論じている。

 無理解による偏見であり、当事者への配慮を欠いた表現と言わざるを得ない。

 新潮社と関わりの深い小説家からも批判の声が噴出し、新刊書籍の販売を取りやめる書店も出た。

 佐藤隆信社長は「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現」と異例のコメントを発表した。だが、どこが差別的な表現なのかには触れず、当事者への謝罪の言葉もなかった。

 杉田氏を巡る問題で自民党は8月、ホームページで指導したと明らかにしたが、処分しなかった。二階俊博幹事長は「いろんな人生観もある」と容認し、安倍晋三首相も総裁選で「まだ若いですから」とかばうような発言をした。自民党のうやむやの対応が差別をさらに助長する発言につながっているのではないか。

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 「生産性がない」との発言に対し全国各地で抗議集会が起き、批判の声が広がった。

 今回の知事選で前宜野湾市長の佐喜真淳氏、前衆院議員の玉城デニー氏ともLGBT支援について、公約に書き込んでいる。

 佐喜真氏は、福祉政策に「LGBT等のマイノリティーへの理解」と記述。「性的指向や性自認を理由とする差別をなくするため、理解の促進を図る。性の多様性を受け入れ、尊重する環境づくりを行う」としている。

 玉城氏は、主要政策の中で「沖縄県LGBT宣言」を盛り込む。「すべての県民の尊厳を等しく守る。個々の違いを認め合い、マイノリティーを排除せず、互いに尊重しあう共生の社会づくりを進める」とうたう。

 すでに那覇市をはじめ、全国9自治体が同性カップルを夫婦と同じような関係と認める「パートナーシップ登録制度」を導入している。県全体としての取り組みが課題だ。

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 国内でLGBTに該当するのは人口の約8%という調査がある。13人に1人の割合で、決して少数者ではない。

 自民党内には伝統的家族観を支持する政治家が多い。自民党から推薦を受ける佐喜真氏からは杉田氏の寄稿に対する意見を聞きたい。

 玉城氏は少数者に配慮し、多様性に富んだ共生社会を目指すという。「違い」をどう強みに変えていくか。具体的に語ってほしい。

 多様な生き方の尊重は世界の流れである。マイノリティーの人権の課題にどう取り組むか注視したい。

 

けなすより褒めたい(2018年9月23日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 「空気が読めない」「気が弱い」。短所を指摘され、傷ついたことのある人は多いだろう。これらの言葉を長所に言い換えて―。日本ほめる達人協会が主催する「ほめる達人検定」で出題された問題だ

▼回答は順番に「主張できる、人に流されない」「やさしい、繊細な心の持ち主」となる。心の底から相手の良さを見いだし、あらゆるものから価値を発見する。正しく褒めることは人間力も向上させるとして企業などを中心に支持されている

▼第三者から見ると、人を批判したり、けなしたりする言葉を見るより、褒める言葉を見る方が気持ちいい。県知事選挙で発信されるツイッターの投稿文約20万件に半日以上の時間をかけて目を通した

▼攻撃や批判、中傷する内容が大半で気がめいった。各候補者を褒める文を見つけると救われる思いがした。気持ちの問題だけではない。2013年4月、インターネットによる選挙運動が解禁された

▼虚偽や誹謗(ひぼう)中傷の投稿は法で禁じられている。ある首長が20日、自身のフェイスブックで個人攻撃ではなく政策論争を展開しよう、と呼び掛けた。全面的に賛同したい

▼候補者が沖縄のために何をしてくれるのか。ネットでも前向きな主張が読みたいし、この候補に投票したいと思える情報が欲しい。大人がしていることを将来の沖縄を担う子どもたちはしっかりと見ている。

 

知事選・ネット投稿 民主主義壊すデマの拡散(2018年9月22日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 インターネットが「落選運動」のために利用されている実態が、本紙によるツイッターの分析で明らかになった。知事選に立候補した佐喜真淳、玉城デニー両氏の名前を含む一般人の投稿は候補者に対する中傷が多い。

 明らかな偽情報や検証できない真偽不明の情報で候補者を攻撃するケースも現れている。憂慮すべき事態だ。

 支持する候補者を当選させたいからといって、根拠もなく対立候補を誹謗(ひぼう)中傷することは許されない。情報を受け取った側が本当のことだと思い込むと、選挙結果に影響しかねないからだ。

 だからこそ、公職選挙法は、当選させない目的をもって候補者に関し虚偽の事項を公にしたり、事実をゆがめて公にしたりした者への罰則を規定している。

 インターネット選挙運動は2013年に解禁された。候補者にとっては自らの政策を発信しやすくなり、有権者にとっては政治参加が容易になるといった利点がある。

 現実を見ると、候補者を肯定してアピールするよりも、否定しておとしめることに利用されている観がある。

 人々の内面に潜む悪意が、手軽なインターネットツールによって顕在化してきたともいえる。

 県知事選に関するツイッター分析によると、9月9日から告示日の13日までに一般の人が投稿したツイートの大半が玉城氏への攻撃や批判的な意見だ。9〜12日を見ると、約9割に上る。

 佐喜真氏に対しては、肯定的な内容も否定的な内容も少ない。肯定的な内容だけを見ると、玉城氏の方が佐喜真氏よりも多かった。

 SNSは誰でも情報を発信できるだけに、内容は玉石混交だ。信頼性に乏しい情報が飛び交う空間でもある。受け取る側に真偽を見極める力がないと、うっかり信じ込んでしまうだろう。

 不確かな情報が次々と拡散されていくうちに、意識の中に刷り込まれ、あたかも真実であるかのように伝わっていく。「印象操作」の効果は無視できない。

 今回の知事選では、模範となるべき国会議員までがツイッターで事実と異なる情報を発信していた。政治家の質の劣化を象徴する出来事だ。

 言うまでもなく、選挙は民主主義の根幹をなす重要な制度である。怪情報を流布させて対立候補のイメージダウンを図る手法が横行するなら、政策そっちのけの泥仕合になってしまう。民主主義の自殺行為でしかない。

 米軍基地の集中、経済振興、福祉、教育…。沖縄が抱える問題は山積している。ネガティブ・キャンペーンでは政策論争は深まらない。

 候補者はインターネットを正しく活用し正々堂々と政策を訴えてほしい。国民には、真偽不明の中傷をうのみにして拡散しないだけの見識と節度が求められる。

 

[沖縄県知事選 県民投票と「撤回」]どう対応するかを語れ(2018年9月20日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 知事選が終わったあと、新しい知事を待ち受けているのは、新基地建設をめぐる埋め立て承認撤回への対応と県民投票である。

 誰が当選してもこの問題を避けて通ることはできない。

 翁長雄志前知事が埋め立て承認の撤回を表明したのは7月27日。3日後の30日、病状が悪化して入院し、8月8日、急逝した。

 「人がどう言うか、どう評価するか、分からない。でも、知ってほしい。僕は精いっぱいやったんだ。これ以上できない」

 亡くなる直前、翁長氏は、樹子夫人にそう語っていたという。

 撤回という行政処分は、命と引き換えに実現した最後の大仕事だった。

 聴聞手続きなどを経て県が正式に辺野古の埋め立て承認を撤回したのは8月31日のことである。

 政府は、翁長氏の逝去に伴い、当初予定していた執行停止の申し立てや処分取り消しの行政訴訟を見合わせた。

 撤回の効力で埋め立て工事は止まったままである。

 政府は知事選後の早い時期に、撤回の効力を失わせるため、執行停止の申し立てを行うはずだ。

 新しい知事は、就任後、すぐにこの問題に直面することになる。どういう姿勢で臨むのか。選挙戦こそ、それを語る絶好の機会である。

 有権者が知りたいことに正面から向きあって初めて、論戦は活発化する。

■    ■

 翁長氏は、撤回を表明した記者会見の冒頭、県民投票にも触れた。

 「政府におかれても、これほど多くの県民が署名した重みにしっかり向き合ってもらいたい」

 署名活動を進めてきた「『辺野古』県民投票の会」は、直接請求に必要な有権者の50分の1(約2万3千筆)を大幅に上回る9万2848筆の署名を県に提出し、条例制定を求めた。

 条例案は20日に開かれる県議会臨時会に提案され、いよいよ議会での審議が始まる。

 条例案は辺野古米軍基地建設のための埋め立ての賛否を問うシンプルな内容である。

法的な拘束力はない。

 県民投票が実現するまでには、いくつかの関門がある。 野党自民党は、埋め立てによる辺野古移設を認めており、条例案にすんなり賛成するとは考えにくい。

 埋め立ての賛否を問う内容に対しては、二者択一ではなく、条件付きの3択か4択方式にすべきとの考えも野党の中にある。

■    ■

 与野党調整が不発に終わった場合、どうなるか。大きな鍵を握るのは、新しい知事の姿勢である。

 辺野古の新基地建設に反対する前衆院議員の玉城デニー氏(58)は県民投票に積極的だ。普天間飛行場の返還を最重視する前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)は態度を明らかにしていない。

 県民投票をどう考えるのか。選挙期間中に基本姿勢を明らかにすべきだ。

 

沖縄県知事選 「辺野古」争点をぼかすな(2018年9月19日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事の死去に伴う知事選が先週告示され、4人の無所属新人候補による選挙戦が繰り広げられている。

 このうち、前宜野湾市長の佐喜真淳(さきまあつし)氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=と、前衆院議員の玉城(たまき)デニー氏(58)が激しく競り合う展開だ。佐喜真氏は安倍晋三政権の強力な支援を受けており、玉城氏は翁長氏の後継候補との位置づけである。

 沖縄県知事選では昨今、米軍普天間飛行場(宜野湾市)を名護市辺野古に移設するという日米両政府の計画を認めるか、それとも認めないかが大きな争点となってきた。

 特に今回は、「辺野古移設阻止」を掲げて当選した翁長氏が国と激しく対立するさなかに亡くなったこともあり、辺野古移設の是非が最大のテーマとなるのは当然だといえる。

 しかし、玉城氏が「あらゆる手段を行使して基地建設を阻止する」と主張するのに対し、佐喜真氏は辺野古移設の是非を明言していない。有力候補の一方が争点への賛否を語らない状況はかなり不自然に映る。

 告示日の出陣式の演説で、佐喜真氏は普天間飛行場の早期返還を訴えたが、その代替飛行場を辺野古に建設する計画には触れなかった。告示直前の公開討論会でも「(県と国との法廷闘争の)流れを注視する」などと語るにとどめた。

 この「明言しない」戦術の陰には、佐喜真氏を支援する政権の思惑があるのではないか。

 今年2月の名護市長選でも、安倍政権が推す新人候補が「辺野古移設」への賛否を明言せず、経済振興策を前面に打ち出す戦法で移設反対派の現職市長を破った。政権は今回の知事選でも、この「争点ぼかし」を狙っているように見える。

 確かに知事選の争点は一つではない。深刻とされる子どもの貧困解消策、自立型経済の確立、地域医療の充実など論じるべきテーマは多岐にわたる。

 しかし、やはり「辺野古」という最大の論点から距離を置く選挙戦術は、有権者に対して不誠実であろう。佐喜真氏は辺野古移設に対する賛否を明確にし、県民に判断材料を示して選挙を戦うべきである。

 一方、玉城氏は「移設阻止」の内実を問われる。沖縄では、着々と進む辺野古での建設準備作業を前に、反対する市民の間に無力感が漂い始めているのも現状だ。諦めを振り払えるような現実的な戦略があるのか。きちんと説明する義務がある。

 本土の住民もこの選挙に無関心であってはならない。沖縄の基地負担を自分たちの痛みとして捉え、解決策を考える契機として、知事選を見守りたい。  

 

自分事(2018年9月18日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

2004年8月、沖縄・宜野湾市の沖縄国際大に米軍の大型ヘリが墜落、炎上した。しかし、現場は米軍によりすぐに封鎖されてしまい、沖縄県警は現場検証すらできなかった

▼16年12月、米軍のオスプレイが名護市沖に「墜落」した際も、原因や再発防止の詳しい説明がないまま、わずか6日後には飛行が再開された。米軍の事件、事故について、日本側の捜査権が制約される日米地位協定があるためだ

▼遠い沖縄の問題だ―とは言っていられない。胆振東部地震の発生で中止になったものの、今月予定されていた日米共同訓練では、陸上自衛隊帯広駐屯地がオスプレイの補給拠点になっていた

▼オスプレイの訓練内容は、昨年以上に拡充されていた。北海道は、これまでも米海兵隊の実弾射撃訓練を受け入れている。まるで、北海道を含め日本全土の「基地化」が進んでいるかのように

▼故翁長雄志・沖縄県知事は生前、米軍基地問題について「沖縄のことと傍観していると、地方は必ずしっぺ返しを食う」と話していた。まさにいま、翁長氏の言葉が北海道に突き付けられているのではないだろうか

▼沖縄では県知事選が繰り広げられている。最大の争点は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設問題である。道民には投票権はないが、基地問題を「他人事(ひとごと)」ではなく「自分事」として関心を持って見守りたい。しっぺ返しを食わないためにも。

 

ここ数年、「共感力」という言葉をよく耳にする…(2018年9月18日配信『毎日新聞』−「余録」)

 

 ここ数年、「共感力」という言葉をよく耳にする。就活のキーワードにもなっている。相手の側に立って考えられる能力のことだ

▲例えば漫才のネタ作りにも共感力が必要だといわれる。ただし、客の誰もが共感し、安心して笑えるものもあれば賛否を巻き起こす刺激的なものもある。お笑いコンビの「ウーマンラッシュアワー」が昨年暮れにテレビで披露したネタは後者の方だろう

▲「沖縄の在日米軍に払っている予算をなんと言う?」「思いやり予算」「アメリカに思いやりを持つ前に」「沖縄に思いやりを持て」。インターネット上でも大きな反響を呼んだ

▲コンビの一人で、過激なツイートで知られる村本大輔さんのアイデアという。「炎上芸人」と呼ばれる当人とすれば面目躍如か。最近では珍しく、時事問題ネタがうけたのは間違いない

▲米軍普天間飛行場の辺野古移設の是非を争点に、沖縄県知事選が始まった。自民党総裁選の投票も近い。安倍晋三首相は「さまざまなご批判を真摯(しんし)に受け止め……」「謙虚に丁寧に政権運営を行っていきたい」と語った。では、沖縄から届く政府批判の声にも共感力を発揮できるだろうか。政権がそれをできるなら、沖縄と歩み寄る道も開けるかもしれない

▲かのお笑いコンビには原発問題に絡めたネタもある。村本さんの出身地、福井には原発が多いが、街は夜7時になると真っ暗になるとか。「これだけは言わせてください。電気はどこへゆく!」。総裁選の争点にならなくても共感できる

 

[日米地位協定改定]保革超えた行動起こせ(2018年9月17日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 米軍キャンプ・シュワブ近くの名護市数久田で農作業小屋が被弾した事件(2018年)は米軍が捜査に協力せず進展がない。大型ヘリが東村高江で炎上大破(17年)しても、オスプレイが名護市安部の沿岸部で墜落大破(16年)しても、沖縄国際大に大型ヘリが墜落炎上(04年)しても、機体の差し押さえもできず、日本の捜査権が及ばない。

 宜野座村の米軍キャンプ・ハンセン演習場で救難ヘリが墜落炎上した事故(13年)では住民の水がめの大川ダムに近接していたため村や県は立ち入りを求めたが、米軍は拒否。土壌調査は7カ月後。安全性の確認まで1年余りも取水停止を余儀なくされた。

 日米地位協定によって捜査権や自治権が著しく制約されているにもかかわらず、政府は改定に踏み込まず、運用改善でしのいできた。

 凶悪犯罪を巡り米側が日本側への起訴前の身柄引き渡しに「好意的配慮」を払うことや、環境補足協定で汚染事故が発生した場合、米側が立ち入りに「妥当な考慮」を払うことで合意している。運用改善と言っても、米軍の裁量次第なのである。

 県は第2次大戦敗戦国のドイツ、イタリアに職員を派遣し比較調査した。

 立ち入り権が明記され、緊急時には事前通告なしに立ち入りができる。米軍の訓練や演習は事前通告や承認が必要である。騒音問題など地域の意見を吸い上げる委員会も設置されている。

 対等な地位協定へ改定することは主権国家であるかどうかの試金石である。改定に消極的な日本の現状は「半主権国家」と言わざるを得ない。

■    ■

 地位協定は1960年の締結以来、一度も改定されたことがない。前宜野湾市長の佐喜真淳、前衆院議員の玉城デニー両氏とも地位協定改定を掲げ、一致している。

 佐喜真氏は、県がすでに改定を要請している見直し項目を引き継ぐとしている。特に地位協定の運用を協議する日米合同委員会の在り方を変更したい考えだ。

 合同委に自治体が関与し、地域で発生する事件・事故の防止について発言できるように改めるとしている。

 玉城氏は、最低飛行高度などを定めた航空法に、米軍が縛られない特例法を廃止し、国内法の適用を訴えている。

 事故や環境汚染が確認された場合は、自治体の速やかな立ち入りを認めることや、合同委の中に自治体代表が参加する地域特別委員会を設置することを求めている。

■    ■

 全国知事会は今年7月、米軍に航空法や環境法令など国内法を適用することなど地位協定改定を盛り込んだ「米軍基地負担に関する提言」を全会一致で採択した。

 翁長雄志前知事が2016年7月に要望したのがきっかけで研究会が設置され、その成果である。基地のない知事も賛同している意味は重い。

 地位協定改定は、県や政党単独では難しい。選挙戦のスローガンに終わらせることなく、誰が当選しても、国民運動として取り組む必要がある。

 

沖縄県知事選 辺野古移設の意義を説け(2018年9月16日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 米軍普天間飛行場の辺野古移設の是非を最大の争点とする沖縄県知事選が告示され、無所属の新人4氏が立候補した。

 知事選は、その地域の県民の暮らしや経済の向上をめぐる政策が主として問われる。だが、沖縄は知事選の度に辺野古移設の是非が問われ、全国の注目を集める。

 普天間飛行場は市街地の真ん中にあり、周辺住民の安全が損なわれている。日米両国は早期の移設が必要で、辺野古移設が唯一の解決策だと確認している。

 県民の安全を確保するための現実的な解決策を論じ、その具体化に資する選挙とすべきである。

 移設を推進する安倍晋三政権の与党である自民、公明両党などは前宜野湾市長、佐喜真淳(さきま・あつし)氏を擁立した。移設反対の共産党や社民党、労組などでつくる「オール沖縄」は、前自由党衆院議員、玉城(たまき)デニー氏を推し、両氏による一騎打ちの構図になっている。

 「オール沖縄」陣営に支えられ、8月に急逝した翁長雄志(おなが・たけし)前知事は県内移設を認めず、辺野古への移設に強く反対して政府と対立した。県は、翁長氏の遺志を受けて、知事不在にもかかわらず辺野古埋め立て承認を撤回し、工事は中断している。

 普天間の早期返還自体は、佐喜真、玉城両氏とも求めている。住民の安全を考えれば当然だ。

 ところが玉城氏は翁長県政の後継の立場をアピールし、辺野古移設に反対している。これでは普天間返還は実現しない。住民の安全が損なわれるのではないか。

 佐喜真氏は、政府と県が対立してきたことについて「何も生まれない」と語り、政府との対話を重視する姿勢だ。ただし辺野古移設を容認すると明言していない。

 米海兵隊が使用している普天間の基地機能は、日米同盟の抑止力にとって欠かせない。中国は尖閣諸島を狙い、北朝鮮の核・ミサイルの脅威は除かれていない。辺野古移設には、県民を含む日本国民の安全がかかっている。

 基地の移設を含む外交・安全保障政策は本来、国の専権事項であって、知事に覆す権限はないことを改めて冷静に考えてほしい。

 政府・与党には沖縄の振興とともに、普天間周辺住民の安全と平和を守る抑止力の双方を保つ責務がある。それには、辺野古移設を進めるしかない点を正面から説くべきである。

 

沖縄県知事選 辺野古、正面から議論を(2018年9月15日配信『秋田魁新報』−「社説」)

 

 翁長(おなが)雄志知事の死去に伴う沖縄県知事選が告示され、4人が届け出た。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設を争点にした選挙戦がスタートした。安倍政権の全面支援を受ける前宜野湾市長佐喜真淳氏と、移設反対を訴える自由党前衆院議員玉城デニー氏の事実上の一騎打ちという構図だ。

 沖縄最大の懸案である辺野古移設を巡っては埋め立て工事が本格化しつつある中、県が埋め立て承認を撤回したばかりだ。それだけに県のリーダーを決める知事選は重要な意味を持つ。各候補は移設問題にどう向き合うのかしっかりと説明する必要がある。

 残念なのは、佐喜真氏が辺野古移設の是非を明言しない戦略を取ろうとしていることだ。2月の名護市長選で、政権支援の新人が「辺野古隠し」を徹底し、反対派現職に大勝した成功体験を模倣したとみられる。自らの政策・主張を明らかにしないのは、移設問題に苦しむ多くの県民を愚弄(ぐろう)する行為だ。

 佐喜真氏は「対立や分断からは何も生まれない」と対話の必要性を訴える。だが、辺野古移設を強力に押し進めようとする政府との対話から生まれるものは一体何なのか。「対立から従属へ」。そんな懸念が強いだけに国との関係をどう構築するかも明確にすべきだ。

 一方の玉城氏も翁長氏の後継として移設阻止を訴えているが、実現への具体策が主張からは見えてこない。沖縄の民意など介さない移設工事が着々と進む中、「いくら反対を訴えても無駄だ」といったあきらめムードも漂っている。強権的な政府を止める有効な手だてを示さなければ県民の心には強く響かないだろう。

 辺野古移設は1999年に閣議決定。2013年に当時の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事が埋め立てを承認したが、翌14年の知事選で移設反対を訴えた新人の翁長氏が現職に大差で勝利。県民は移設に反対する意思を明確に示した。埋め立て承認を巡る問題は訴訟に発展、16年に最高裁で沖縄県側の敗訴が確定した経緯がある。埋め立て阻止を狙った今回の県の埋め立て承認撤回により、再び県と国の法廷闘争に発展する可能性は大きい。

 両氏には、辺野古移設問題を含めた米軍基地の負担軽減策を示すことも求められる。沖縄は、日本の米軍基地負担を一手に強いられてきた歴史がある。今も全国のわずか0・6%の面積しかない県土に、在日米軍専用施設の70%以上が集中している。この異常な状況を放置していいはずがない。

 現在の沖縄経済を支えているのは観光である。魅力は南国ムード漂う自然だ。豊かな自然を守りながら地域をどう発展させていくか。辺野古移設問題以外の課題についても議論を深める必要がある。中長期的な視点に立った沖縄の将来像を県民に明示してもらいたい。

 

沖縄知事選告示 辺野古、争点から外せぬ(2018年9月14日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 翁長雄志(おながたけし)沖縄県知事の急逝に伴う県知事選がきのう告示された。

 政権与党が推す前宜野湾市長の佐喜真淳(さきまあつし)氏と、翁長氏後継として出馬した自由党幹事長で前衆院議員の玉城デニー氏との事実上の一騎打ちとなった。

 選挙戦では、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設の是非が問われよう。

 安倍晋三政権は「辺野古移設が唯一の解決策」として、新基地建設に反対する翁長県政とこの4年間、対立してきた。

 法廷闘争を交えた政権の強硬姿勢には県外でも批判があり、選挙の行方は全国が注目する。

 国内の米軍専用施設の約70%が集中する沖縄にとって、基地問題は早急に解決すべき懸案である。

 両候補は辺野古移設にどう対処するのか、具体策を示し、真っ向から論戦してもらいたい。

 県は先月31日、辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回し、国は法的な対抗措置を取る方針を示している。新知事は就任後すぐに辺野古移設問題への対応が迫られよう。

 自民、公明両党などが推薦する佐喜真氏は出陣式で「対立や分断からは何も生まれない」とし、普天間飛行場の返還を実現できるのは自分だけだと訴えた。

 ただ、県内の辺野古に移設することの是非には言及しなかった。

 政権与党とのパイプを生かして経済振興に努める考えを前面に出しながら、政権が強行する辺野古移設に口を閉ざすのは「争点隠し」と見られても仕方あるまい。態度を明らかにすべきだろう。

 一方、玉城氏は第一声で「イデオロギーよりもアイデンティティーを大事にするという翁長氏の遺志を継ぎ、辺野古に新基地は造らせない」と強調した。

 ただ、承認撤回後の県の対応も含め、国会議員の経験を生かして、政権とどう向き合っていくのかについても丁寧に説明する必要がある。

 玉城氏の陣営にとっては、保守、革新の枠を超えて翁長氏を支えた「オール沖縄」体制をどう維持するかも課題だろう。

 残念なのは、一足早く告示された自民党総裁選で辺野古の問題が論議されていないことだ。

 候補の石破茂氏はかつて党幹事長として辺野古移設を進める立場にあった。首相は「沖縄に寄り添う」と言い続けている。

 ならば、米軍基地問題の解決をどう図っていくのか、対米外交の姿勢とともに、しっかりと提示する責任がある。

 

沖縄県知事選 最大の争点をぼかすな(2018年9月14日配信『新潟日報』−「論説」)

 

 8月に急逝した翁長雄志知事の後継を決める沖縄県知事選は、安倍政権が支援する前宜野湾市長の佐喜真淳氏と、翁長氏の支援母体「オール沖縄」勢力が擁立する自由党衆院議員の玉城デニー氏の事実上の一騎打ちが確定した。

 争点は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対した翁長県政を引き継ぐか否かに絞られよう。

 翁長氏は亡くなる直前、前任知事が許可した辺野古沿岸部での埋め立て承認の撤回を表明。その遺志を引き取る形で県が正式に撤回したのを受けての選挙戦だ。政府は法的な対抗措置を取る方針で、前哨戦から不穏な空気が漂う中での告示となった。

 告示直前に地元記者クラブが主催した討論会で、佐喜真氏は普天間飛行場の早期返還を訴え、玉城氏は辺野古移設の阻止を主張した。

 米軍普天間飛行場は宜野湾市のど真ん中にあり、市域の約4分の1を占める。住宅や学校などの公共施設が隣接して、かつて米側も「世界一危険」と認めた飛行場だ。

 早期返還の必要性そのもので、両者に意見の相違はあるまい。見解を分けるのは、その代替基地として辺野古移設を認めるか否かだ。

 翁長氏の遺志を継ぐ玉城氏は、沖縄への新基地建設を認めない立場で移設に反対。佐喜真氏は明言を避けている。

 宜野湾市長当時の佐喜真氏は「普天間周辺の危険除去」を最優先に、辺野古移設に賛成とは言わないまでも否定しなかった印象がある。今選挙では公明党の支援も得ているとあって、発言に殊更慎重になっているのだろう。同党の沖縄県本部は、辺野古移設に反対しているからだ。

 先の討論会でも、埋め立て承認を巡る国県の対立を「注視する」と言うにとどめた。国の方針に、少なくとも反対でなければよしとする政権の意向が透ける。2月の名護市長選で移設反対派の現職を破った与党系候補も、自らの考えは明確にしなかった。同様の選挙戦術を描いているのは想像に難くない。

 「勝てば官軍」は、150年前の戊辰戦争の「教訓」だが、翁長氏が移設推進派の現職を大差で破った4年前の知事選で、政権は「負けても官軍」の姿勢を堅持。その民意を顧みず、辺野古移設の取り組みを加速させてきた。

 安全保障は国の専管事項ではあるが、地元に対立と分断をもたらすようでは「国を守る」意味が疑われよう。

 辺野古移設で日米が合意して20年余。日本の安全保障や在日米軍を取り巻く状況も変化する中で、今なお「辺野古移設が唯一の解決策」とする必然性はあるのか否か。今選挙戦で、国民注視の争点をぼかす選択肢はあるまい。

 

沖縄知事選 「辺野古」を論じよ(2018年9月14日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 翁長雄志(おながたけし)氏の死去に伴う沖縄県知事選が告示された。

 安倍政権が全面的にバックアップする前宜野湾市長の佐喜真淳(さきまあつし)氏と、翁長県政を支えてきた「オール沖縄」勢力が推す前衆院議員の玉城(たまき)デニー氏との、事実上の一騎打ちだ。

 選挙は、ただひとつの争点をめぐって行われる住民投票などとは違って、さまざまな要因が絡みあう。

 この知事選でも、本土に比べて依然として立ち遅れている県内経済をどうやって発展させていくかや、福祉・教育の充実、離島の振興など、論ずべき課題はたくさんある。

 ただ間違いなく言えるのは、政府が進める米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設の行方に、選挙結果が大きな影響を及ぼすということだ。だからこそ政権幹部らが次々に沖縄入りして票固めに奔走している。

 玉城氏は辺野古に新基地を造ることに反対を明言した。一方の佐喜真氏は賛否を明らかにせず、県による埋め立て承認の撤回についても「流れを注視する」と述べるにとどまる。告示前に開かれた2人の討論会も、結局かみ合わなかった。

 思い起こすのは2月にあった名護市長選だ。政権の支援を受けた新顔候補は、辺野古問題に明確な姿勢を示さないまま当選を果たした。「辺野古隠し」との批判も多く聞かれた。

 選挙戦術としてはありうるのかもしれない。保守・革新のイデオロギーを超えた集まりであるオール沖縄側にも、共闘を維持するために、踏み込むのを避けているテーマが現にある。

 しかし、「辺野古」が問いかけているのは、基地建設の是非にとどまらない。

 憲法が定める地方自治とは何か。中央政府と自治体はいかなる関係にあるのか。過酷な歴史を歩み、いまなお重い基地負担にあえぐ沖縄の荷を軽くするために、本土は何ができるのか、何をなすべきなのか――。

 知事は基地建設にかかわる多くの権限を持ち、この先、県が進む方向を決めるかじ取り役である。全国の関心が集まり、今後のこの国の姿をも占う「辺野古」に、どう向きあっていくのか。考えを明確にして、論戦を深めてもらいたい。

 改めて思うのは、くり返し示された民意を無視して基地建設を強行する一方、自らの意に沿う動きをする勢力には、経済振興の予算をしっかり手当てするなどして、沖縄に深い分断を持ち込んだ政府の罪深さだ。

そうした政権の振る舞いもまた、審判の対象となるだろう。

 

沖縄知事選告示 争点がかみ合う選挙戦に(2018年9月14日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対してきた翁長雄志(おながたけし)氏の死去に伴う沖縄県知事選が告示された。

 安倍政権の支援する佐喜真淳(さきまあつし)前宜野湾市長と、翁長県政の継承を訴える玉城(たまき)デニー元衆院議員による事実上の一騎打ちだ。

 佐喜真、玉城両氏は「世界一危険な基地」といわれる普天間飛行場の「一日も早い返還」では一致する。

 ただし、玉城氏が移設を前提としない「閉鎖」を主張するのに対し、佐喜真氏は辺野古移設への賛否を明言していない。

 佐喜真氏は自ら日米両政府と交渉することによって「現実的に取り組む」と主張している。移設受け入れも視野に、経済振興策などを政府に求める構えとみられる。

 沖縄の政治は、日米安全保障体制に反対して反基地闘争を展開する革新系と、「基地より経済」という保守系の対立が長く続いてきた。

 日米両政府が普天間返還で合意した1996年以降、5回の知事選が行われ、翁長氏が当選した前回2014年を除く4回は保守系が勝ったものの、辺野古移設の受け入れを明言して当選した知事はいない。

 その曖昧な構図を打ち破ったのが4年前の翁長氏だ。

 翁長氏は自民党出身ではあるが、「辺野古新基地反対」の一点で保守系の一部と革新系を糾合して「オール沖縄」勢力を構築した。日本全体で負担すべき米軍基地が沖縄に偏在するいびつな現状と闘うのに保守も革新もないとの考えに基づく。

 玉城氏は第一声で、翁長氏の唱えた「イデオロギーよりアイデンティティー」を強調した。弔い合戦ムードを高めて前回知事選の翁長氏支持票を取り込もうとしているが、翁長氏の死去によって陣営の革新色が強まっている側面も否めない。

 対する佐喜真氏は、翁長県政下で国との対立が深まったことを念頭に「対立から対話へ」を掲げた。ならば、辺野古移設問題で政権とどう対話するのかを明らかにすべきだ。

 4年前に示された民意を無視することはできない。今回、どちらが勝つにせよ、国と沖縄の間で、辺野古移設を含む基地負担のあり方をめぐる協議が必要になるだろう。

 争点のかみ合う論戦を展開し、県民に判断材料を提供してほしい。

 

沖縄知事選告示 豊かな県へ将来像を競い合え(2018年9月14日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 沖縄県の将来像をどう描いていくか。各候補者は、現実的な政策に基づいて、実りある論戦を展開すべきである。

 翁長雄志氏の死去に伴う沖縄県知事選が告示された。自民、公明など4党の推薦を受けた佐喜真淳・前宜野湾市長と、野党が推す玉城デニー・前衆院議員の事実上の一騎打ちの構図だ。30日に投開票される。

 翁長氏は4年前の知事選で、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画に反対する方針を掲げて当選し、これを県政運営の柱に据えた。国と全面的に対決し、訴訟を繰り返した。

 玉城氏は、移設計画に反対する団体などでつくる「オール沖縄」の支援を受ける。翁長県政の継承を掲げ、第一声では「翁長氏の遺志を引き継ぎ、辺野古に新基地は造らせない」と述べた。

 これに対し佐喜真氏は「対立や分断からは何も生まれない。政治は交渉だ」と語った。妥協点を模索し、国との対立に終止符を打つという主張だ。移設計画の是非には言及しなかった。

 沖縄では今年、名護、石垣、沖縄の3市長選で与党などが支援した候補が野党系を破った。自民党は知事選でも勝利し、移設計画を着実に推進することを狙う。

 普天間飛行場は、米海兵隊の活動を支える重要な拠点だが、市街地に囲まれているため、事故のリスクも抱える。抑止力を維持しつつ、住民に被害が及ぶ危険性を低減するには、辺野古移設が唯一、具体的な案だ。

 1996年の普天間返還の日米合意以来、移設計画の是非は、何度も知事選で問われてきた。

 米軍基地の再編や縮小は、国が安全保障政策の一環として県民の理解を得ながら丁寧に進めなければならない。だが、移設の賛否を最大の争点とする選挙戦が繰り返されることに、違和感を抱く県民も少なくないだろう。

 県は先月、翁長氏の考えに基づき、辺野古の埋め立て承認を撤回した。政府は対抗措置を見送っている。知事選を無用に混乱させないとの判断は理解できる。

 沖縄県には、日本にある米軍基地の7割以上が集中する。負担軽減を進めるとともに、幅広い観点から沖縄を豊かにする施策を冷静に議論しなければならない。

 沖縄県の1人あたりの県民所得は、全国最低である。非正規雇用の割合も高い。インフラ整備や産業振興などを総合的に進めて経済を活性化させ、県民生活の向上を図ることが大切だ。

 

沖縄県知事選 地位協定を見直さねば(2018年9月14日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 13日告示の沖縄県知事選の論点の一つは、日米地位協定の見直しだ。争点ではない。有力立候補者がそろって公約に掲げる。米軍輸送機オスプレイの本土配備も間近。広く問題を共有したい。

 米軍ヘリが大学構内に墜落しても警察、消防は立ち入り禁止。小学校校庭に窓を落下させても、翌月には同じ上空をヘリが飛ぶ−。

 故翁長雄志沖縄県知事は、こんな地元の状況を「憲法の上に日米地位協定がある」と指弾し、改定を強く主張してきた。

 知事選の最大の争点は米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設の是非だが、地位協定見直しは党派を超えた県民の切実な願いだ。選挙戦では、安倍政権の支援を受ける前宜野湾市長佐喜真淳氏、反政権側の前衆院議員玉城デニー氏の両有力候補者とも、翁長氏と同様の考えを訴えている。

 在日米軍の権限などを定めた地位協定が、国際的にもいかに不平等か。沖縄県はこれを探るため昨年度から諸外国の調査を始めた。

 初年度は、同じ第2次大戦敗戦国のドイツ、イタリアが対象。その結果報告は非常に興味深い。

 基地内の米兵の取り調べや事故機の差し押さえといった警察権が行使できない、米軍機は航空法に縛られずに飛び回るなど、米軍の活動には国内法が原則として適用されない日本に対し、両国では自国と同じ法規制を行っている。

 訓練は事前通告し承認を得ること、自治体職員らの基地内への立ち入りなども認めさせている。

 日米協定は1960年の締結以来一度も改定がないが、独伊では冷戦後の90年代に大幅な改定や覚書締結で対等関係を確保した。

 「国際的な(協定)見直しを進めないと日米関係だけが奇異になってしまう」「米国の言うことを聞いているお友達は日本だけ」

 県の聞き取りに、イタリアのランベルト・ディーニ元首相はこう直言。問題が起きるたび「運用改善で対応」と、改定に及び腰できた日本政府を痛烈に皮肉った。

 背景には、日本国民の無関心さもある。

 沖縄県の調査結果を重視した全国知事会は7月、協定の抜本的見直しを求める提言を決議し、日米両政府に申し入れた。東京都の米軍横田基地では十月、沖縄などで不時着や墜落が相次ぐオスプレイの正式配備が始まり、本土上でも広く訓練が行われる見通しだ。

 協定見直しはもはや沖縄の問題ではない。選挙結果にかかわらず国民全体で取り組むべきである。

 

沖縄県知事選 論戦を共に見守りたい(2018年9月14日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 沖縄県知事選が告示され、前宜野湾市長の佐喜真淳氏、自由党前衆院議員の玉城デニー氏らが立候補した。

 事実上の一騎打ちである。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り与野党の支援を受ける候補が激突する。米軍基地の在り方は、県民だけでなく国民全体で考えなければならない問題だ。30日の投開票に向けた論戦を見守りたい。

 翁長雄志知事の死去に伴う選挙である。佐喜真氏は自民、公明両党などが推薦している。玉城氏は共産、社民など県政与党や辺野古反対の市民団体が後押しする。

 佐喜真氏は「対立や分断からは何も生まれない。普天間飛行場や那覇軍港の返還などを全てできるのは、この私しかいない」と強調した。普天間の早期返還と危険性除去、政権とのパイプを生かした経済振興などを訴える。

 玉城氏は県による辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回を支持し、移設阻止を掲げる。「イデオロギーよりもアイデンティティーを大事にしようという翁長氏の遺志を受け継ぎ、辺野古に新しい基地を造らせない」と述べている。

 対立や分断を生んだ大きな要因は政府の姿勢にある。選挙で繰り返し示された反対の民意を顧みずに工事を強行してきた。辺野古が唯一の解決策だとして普天間の固定化か移設容認か―の二者択一を迫る。県民に苦しい選択を強いる酷なやり方だ。

 佐喜真氏は「県民が等しく喜べることをするのが、県知事の役割だ」とする。先日の名護市議選では移設反対派が過半数を維持している。移設の是非をどう考え、政府とどのように向き合っていくのか、詳しく聞きたい。

 玉城氏は、新基地阻止の展望はあるのか。翁長氏は15年に埋め立て承認を取り消したものの、国と法廷闘争になり、県の敗訴が確定した。承認撤回にも国の法的対抗措置が見込まれる。一方では普天間の早期返還が求められる。

 誰が新知事になっても分断を解消するのは容易でない。在日米軍専用施設が集中する沖縄の現状に改めて目を向けさせられる。基地のたらい回しでは、沖縄の負担は軽減されない。政府の方針を問い直す機会でもある。

 政府は承認撤回への対抗措置を知事選後に先送りする方向だ。不利な要素を減らそうという判断だろう。沖縄の人たちが広く納得できる解決策を目指し、米国と真剣に協議するのが政府の本来の姿である。移設ありきで県民の亀裂を深めることは許されない。

 

沖縄県知事選 争点は基地だけではない(2018年9月14日配信『北国新聞』−「社説」)

 

 現職知事の死去に伴う沖縄県知事選が始まった。前回と同様、米軍普天間飛行場を名護市辺野古へ移設する政府計画の是非が最大の争点となっている。

 辺野古移設に反対し、政府との裁判闘争の途中に急逝した翁長雄志知事の支持勢力は、「弔い合戦」として知事選に臨んでいる。このため、辺野古移設問題がより大きく前面に出る形になっているが、国の専権事項である外交・安全保障政策をめぐって政府と県が争い、米軍基地問題を唯一最大の争点として知事選が終始することに、疑問や違和感を抱く有権者も少なくないはずである。

 移設先である名護市の市民らも決して反対一色ではなく、条件付きで移設を容認する住民も多い。どの候補者が沖縄の未来を託すにふさわしいかを判断するには、多様な政策論争こそ望まれる。

 沖縄県は、米軍基地の負担軽減のほかに大きな課題を幾つも抱えている。例えば、経済、産業面では、沖縄の県民所得は長年、全国最下位という状況であり、沖縄の子どもたちの3割は経済的貧困状態という調査結果もある。文部科学省の全国学力テストで低位にある教育問題も重大である。

 米軍基地が沖縄振興の妨げになっているという指摘はかねて聞かれるが、原因はそれだけではあるまい。知事選の各候補者も多くの政策を公約に掲げている。

 政府与党の自民、公明などが推す佐喜真淳氏は、普天間飛行場の早期返還を訴え、辺野古移設の是非について明言を避けている。これに対して、県政与党の社民、共産などに支えられる玉城デニー氏は、翁長氏の遺志を継いで辺野古移設阻止を訴えているが、両氏は公約の中で産業振興や所得向上、教育・保育などに関する多くの政策を打ち出しており、それらの妥当性や実現性をめぐる論戦の方がむしろ重要ではないか。

 普天間飛行場の返還、移設問題は、1996年の日米合意から22年が経つ。重い基地負担を強いられる沖縄県の苦悩を理解しなければならないが、自治体の反対で安保政策が滞る事態は国民にとって望ましいことではない。

 

沖縄知事選告示/辺野古の論議を避けるな(2018年9月14日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 翁長(おなが)雄志(たけし)知事の死去を受けた沖縄県知事選が告示された。政権与党の自民、公明や一部の野党が推薦する前宜野湾市長の佐喜真(さきま)淳氏と、県政与党の共産、社民や市民団体が擁立した前自由党衆院議員の玉城(たまき)デニー氏が、30日の投票日まで事実上の一騎打ちを繰り広げる。

 最大の争点は、米軍普天間基地の移設計画に伴う名護市辺野古沖の基地建設への賛否だ。

 埋め立て承認撤回を模索した翁長氏の遺志を継ぎ、玉城氏は反対を明言する。一方、佐喜真氏は普天間返還や基地負担軽減を求めるが、移設の是非には触れていない。公開討論会でも「基地問題は国が決める」と、あえて争点にしない戦略だ。

 知事選の結果は、沖縄県民の民意を示すことになる。佐喜真氏は辺野古建設の論戦を避けることなく、有権者に立場を明らかにして判断を仰ぐべきだ。

 前回の知事選と大きく構図が変わったのは、自主投票だった公明党沖縄県本部が佐喜真氏と政策協定を結び、推薦に回った点だ。県本部は辺野古移設に反対の立場だが、協定は是非に触れていない。支持者の納得が得られる説明が必要である。

 政府は辺野古を負担軽減の「唯一の解決策」とするが、県民には反対が根強い。先日の名護市議選は、移設反対派が過半数を占めた。その中には公明議員も2人含まれている。与党内ですら地元では異論がある点を安倍政権は直視するべきだ。

 政府、与党は自民党総裁選の投開票を20日に控え、知事選の結果が政権運営にも響くと神経をとがらせる。

 2019年度政府予算の概算要求で、沖縄振興費は前年度要求と同額にとどまった。他省庁の要求額拡大とは対照的だ。誰が知事になるかで予算を見直す思惑もうかがえる。

 玉城氏は「新時代沖縄」と銘打ち、国の補助金や交付金に頼らない活性化策を掲げる。佐喜真氏は政府との対立より対話が重要とし、国からの一括交付金の増額を求める。

 人口減や高齢化が加速する中で、地方は国と対等な関係を貫きながらどんな将来像を描けるのか。国策に翻弄(ほんろう)されてきた沖縄の選択は、他の地方にとっても人ごとではない。

 

沖縄知事選と本土 基地負担、わが事として(2018年9月14日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 翁長雄志(おながたけし)氏の死去に伴う沖縄県知事選がきのう告示された。「米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設」の是非を最大の争点に、安倍政権が推す前宜野湾市長の佐喜真淳(さきまあつし)氏と、翁長氏後継者の自由党前衆院議員玉城(たまき)デニー氏の事実上の一騎打ちとなった。

 地方選挙ではあるが、争点は日本の民主主義や地方分権の在り方にも関わるはずだ。

 先週開かれた公開討論会では佐喜真氏が「普天間返還」を争点に挙げて基地跡地の経済効果を強調する一方で、辺野古移設の是非には言及しなかった。「われわれには努力の限界がある」「宜野湾市民は悩み苦しんできた」との発言も出た。

 一方、玉城氏は争点を「辺野古埋め立て承認撤回の是非」と明言したが、その先の手法については立ち入っていない。「承認撤回は法治国家の自治体が取るべききちんとした手続きだ」とも述べた。立場は違うが、いずれの発言にも外部から持ち込まれて久しい米軍基地という重圧がにじみ出ていよう。

 両氏のきのうの第一声で印象的なくだりがあった。佐喜真氏は「対立や分断からは何も生まれない」と強調し、玉城氏は「イデオロギーよりアイデンティティーを大事にしようという翁長氏の遺志」を掲げた。

 ことしは本土復帰から46年である。にもかかわらず着地点が見えない基地問題に対し、県民は疲労の度を増しているはずだ。「対決」ではなく「総意」によってそれを解決したいという考えが、両氏に共通しているように思えてならない。

 選挙戦は翁長氏が現職の仲井真弘多(なかいまひろかず)氏を破った前回の構図とほぼ同じではあるが、現実の沖縄は風雲急を告げている。国が辺野古への移設工事を着々と進めるのに対し、県は埋め立て承認撤回で対抗している。

 保革を超えて翁長氏を推してきた「オール沖縄」に、ほころびが見える点も違う。自主投票に転じた企業グループがあるほか、県内の市長選では翁長氏の流れをくむ候補が相次いで敗れた。だが沖縄の知事選は国政の与野党対決を持ち込むだけで片が付くものではあるまい。

 普天間の固定か、辺野古移設か、二者択一を県民に迫る構図にすべきでもなかろう。

 普天間の土地は、沖縄戦のさなかに米軍が日本本土攻撃に備えて強制的に接収し、今もなお使い続けている。戦時の財産奪取を禁じるハーグ陸戦条約違反の疑いも拭えないはずだ。

 返還時期については1996年に当時の橋本龍太郎首相とモンデール駐日米大使が「5〜7年以内」で合意しながら、いまだ履行されていない。隣接する沖縄国際大に米軍ヘリが墜落して市民を恐怖に陥れるなど、危険極まる基地であり、無条件の閉鎖・返還しかあり得ない。

 これに対して、辺野古は国が海面を埋め立てて造成する恒久的な基地である。辺野古は普天間と切り離して、争点として扱われるべきだろう。

 翁長氏は「安全保障は国民が等しく負担すべきである」と主張し続けた。安全保障をどのように捉えるにせよ、沖縄にだけ過重な負担を強いる現実が、本当は問われなければならない。今回の沖縄県知事選は、国民が人ごとでなく考える契機とすべき選挙でもある。

 

沖縄 もう一つの闘い(2018年9月14日配信『中国新聞』−「天風録」)

 

ドーナツ状に市街地が広がる沖縄の宜野湾市。穴に当たる中心部に米軍普天間飛行場がある。かつては集落や村役場、国民学校があった所だが、沖縄戦のさなか銃剣とブルドーザーで米軍に土地を奪われた

▲ところがネット上ではデマが散見される。飛行場はもともと田んぼの中にあり、商売のため人が周りに住みだした、と。「うるさいのは分かるが、選んで住んだのは誰か」と続き、事実誤認のまま矛先を住民に向ける

▲基地がないと経済が成り立たない―といった誤解も含め、沖縄を巡るデマは枚挙にいとまがない。昨年起きた米軍機の部品落下事故では、保育園による「自作自演」といった話まで流布された。もはやデマのレベルを超えていると言えよう

▲きのう告示された県知事選を巡っても、全国紙や政党の世論調査とされるデータが飛び交っているらしい。地元紙の報道では、双方とも調査自体を否定しているから偽情報なのだろう。では一体誰がなんのために。よく分からないだけに薄気味悪い

▲デマに左右されないようチェックをNPO法人が始めた。基地問題が争点とならざるを得ない選挙の裏で進む、もう一つの闘いと言える。そちらも目が離せない。

 

沖縄知事選告示 「辺野古」の争点隠し許されない(2018年9月14日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 沖縄県の翁長雄志知事の死去に伴う知事選が告示された。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設の是非が最大の争点だ。

 移設を進める安倍政権が総力を挙げて支援する前宜野湾市長の佐喜真淳氏=自民、公明、維新、希望推薦=と、移設反対を掲げ、野党が支援する自由党前衆院議員玉城デニー氏による事実上の一騎打ちとなる。自民党総裁選後の政権運営や来夏の参院選もにらんで、与野党の激戦が始まっている。

 県民は選挙のたび、自ら望んだのでもない米軍基地を巡って分断を強いられてきた。国や本土の国民に実情を伝え、政策を見直す機会にするためにも、全候補者が考えを明確に示し、徹底的に論じ合ってもらいたい。

 投票結果は今後の移設計画に少なからず影響を与えよう。にもかかわらず、佐喜真氏が移設への自らの立場を明かさないのは問題だ。玉城氏が翁長氏の遺志を継いで「辺野古に新基地を造らせない」と明言するのに対し、佐喜真氏は普天間飛行場の早期返還を訴えながらも、その先にある辺野古移設の是非については言及を避け、公約でも触れていない。針路を示さなければ県民は判断のしようがない。

 全面支援する政権側の意向を受けた「争点隠し」戦術であることは間違いない。裏を返せばそれだけ政府与党が県民の強い反対を自覚し、恐れる証左であろう。辺野古移設を争点として先日行われた名護市議選では、反対派が過半数を占めている。

 2月の名護市長選でも同様の争点隠しが行われた。選挙戦で口をつぐみ、当選後に政府が民意を得たとするなら、県民への重大な背信行為だ。繰り返すことは許されない。

 県は先月、仲井真弘多前知事による辺野古の埋め立て承認を撤回した。県と国との裁判闘争に再び突入し、当選した知事はたちまち対応を迫られる。この難題にどう向き合い、県民の思いをつなぐのか表明することも欠かせない。

 沖縄は基地問題を巡る政府との長い闘いで疲れ切っている。「対立から対話へ」との佐喜真氏の訴えはもっともだ。だが、対話を求めても無視し続けるのは政権側だ。翁長知事就任後4カ月、安倍晋三首相は会おうともしなかった。県民の抗議に一切耳を傾けず、辺野古の工事を強行。土砂投入も迫る。政府こそが姿勢を改めるべきであり、対等な関係に立った真の対話につながる選挙戦を求めたい。

 沖縄経済は好調だが、一方で子どもの貧困や高い失業率など問題を抱える。政府は基地を受け入れれば交付金を与え、異を唱えれば減額するというアメとムチで県民を翻弄(ほんろう)してきた。自立した教育、福祉政策も候補者は示す必要がある。

 民主主義や地方自治の在り方を考える意味でも、沖縄知事選は一地方の問題ではない。日本全体が国の在り方を考え直すきっかけにしなければならない。

 

【沖縄知事選告示】基地と地方自治を語れ(2018年9月14日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 沖縄県の翁長雄志知事の死去に伴う知事選がきのう告示された。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設の是非が争点だ。

 辺野古移設を進める安倍政権が推す前宜野湾市長の佐喜真淳(あつし)氏と、移設阻止に取り組んだ翁長氏の遺志を継ぐ自由党前衆院議員の玉城(たまき)デニー氏による事実上の一騎打ちで、沖縄を舞台にした国政与野党の対決の構図でもある。

 移設を承認した当時の知事を翁長氏が大差で破った前回知事選から4年。移設に「ノー」を示した民意に反し、国は工事に踏み切り、強行してきた。沖縄県民が再び下す審判は移設計画に重大な影響を与え、沖縄の針路を左右する。

 戦後、沖縄県民の土地を米軍が「銃剣とブルドーザー」で強制接収し、その上に基地が造られた。日本の国土の0・6%にすぎない島に米軍の国内施設の7割が集中する。沖縄の過酷な現実。その前提に改めて立ちたい。

 自民、公明両党などの支援を受ける佐喜真氏は普天間飛行場の早期返還などを訴えながらも、辺野古への移設の是非は明言しない構えだ。保守層の移設反対派の批判を避ける狙いのようだ。

 佐喜真氏は「基地や安全保障の問題は国が決める。地方自治体には外交権限がない」と語る。だが、基地問題は国家権力と地方の関係を一貫して問い続けてきた。

 地方自治は国家権力を縛る憲法が規定する。そこに「地方は国に服従せよ」とは一字もない。今月9日の宜野湾市議選では移設反対派が過半数を維持した。地元自治体の直近の民意だ。移設に是であれ、非であれ、有権者に正面から向き合った議論が求められる。

 野党勢や市民団体が支える玉城氏は、移設阻止を前面に掲げる。沖縄県は知事選を前に辺野古の埋め立て承認の撤回に踏み切った。法的な最終手段でもある。

 沖縄はこれまでの法廷闘争でも国に敗れ、政府への再三の抗議や対話要請も冷徹にはねのけられてきた。反対運動に手詰まり感が広がりかねない。土砂搬入が始まれば引き返せなくなる事態も懸念される。

 翁長氏の「弔い合戦」という意味合いも確かにあろう。だが玉城氏は何より、承認撤回の先の具体的で、説得力のある移転阻止の展望を明示する必要がある。

 地方選挙の本来の主題は地域の共生や活性化である。「国とのパイプを重視するばかりでいいのか」「では、自立的な振興策は」。両氏は議論を豊かにし、基地問題で深まった分断を解く糸口を導いてほしい。

 重ねて言う。国と地方の関係はどうあるべきか、その普遍的テーマが問われる選挙だ。基地負担を強いられてきた沖縄が抱え続けてきた問題であり、同時に、本土の無関心がその苦痛に加担してきた面は否めない。選挙とその後の沖縄を自らの足元に重ねて見守り、「地方自治の本旨」を探る機会としたい。

 

先の大戦で「血の島」と化した沖縄。看護要員として…(2018年9月14日配信『高知新聞』−「小社会」)

 

 先の大戦で「血の島」と化した沖縄。看護要員として動員された「ひめゆり学徒隊」も悲惨を極めた。10代の女生徒たちは負傷兵らの手を引き、肩をかして砲弾をかいくぐり南へ、南へ。断崖や壕(ごう)に追い詰められ、多くが悲劇の最期を遂げた。

 〈先生! もういいですかと手榴弾(しゅりゅうだん)を握りしめたる乙女らの顔〉。引率教員だった仲宗根政善(せいぜん)さんは戦後、教え子を失ったはらわたのちぎれる思いと、自らは生き残った負い目にさいなまれながら短歌を詠んだ。

 学徒隊員の手記を集めた実録「ひめゆりの塔をめぐる人々の手記」は映画化もされた。そこにはこうも書かれている。〈二十余万の生霊の静かに眠る土の上に、このような巨大な基地をそのままにしてよいだろうか〉。

 沖縄県知事選がきのう告示された。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設の是非が争点。移設推進の安倍政権が推す前宜野湾市長、佐喜真淳(あつし)さんと、反対する自由党前衆院議員、玉城(たまき)デニーさんによる事実上の一騎打ちだ。

 玉城さんは死去した翁長雄志知事の遺志を継ぐ。佐喜真さんは移設の是非を明言していないが、本当に辺野古が唯一の解決策なのか。両陣営には移設を巡って論を戦わせる責任があろう。

 狭い島に米軍基地が集中する状況は、戦後ずっと変わらない。「もういいですか」。過重な負担に耐えかねた県民のあえぎが聞こえる。私たちも無関心でいるわけにはいかない。

 

沖縄県知事選 「辺野古」正面から論戦を(2018年9月14日配信『熊本日日新聞』−「社説」)

 

 翁長雄志知事の死去に伴う沖縄県知事選が13日告示された。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設の是非が最大の争点で、移設を進める安倍政権が推す前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)と、移設反対を訴える自由党前衆院議員の玉城デニー氏(58)の事実上の一騎打ちの構図となった。

 移設を巡っては、県が8月、移設阻止への最後の手段とされる辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回に踏み切ったばかり。選挙戦では県民の意思を明確に反映させるためにも、両候補が移設の是非に正面から向き合い、論戦を展開してもらいたい。

 承認撤回はもともと、「あらゆる手段で辺野古への新基地建設を阻止する」としていた翁長氏が生前表明していた。同氏の後継として擁立された玉城氏は承認撤回を支持し、移設反対を貫徹するとしている。また、アジアとの交流促進などを基に、国の補助金に頼らない自立型経済の構築を掲げる。

 選挙体制についても、前回知事選で翁長氏の基盤となった保守系の一部と革新系を結集した「オール沖縄」の枠組みをアピールする。ただ、翁長氏を支持していた企業グループの一部が今回は自主投票を決め、前回自主投票だった公明党県本部が佐喜真氏を推すなど、ほころびが見られる。中道・保守層の取り込みが課題となろう。移設阻止についても、県民投票の実施以外に承認撤回に続く対応策を示しておらず、具体的方策が問われることになる。

 一方、佐喜真氏は「対立より対話」を強調。玉城氏と同様に普天間飛行場の早期返還を訴えるが、辺野古移設への賛否は明らかにしていない。承認撤回についても「法的にどうなるか注視する」と述べるにとどまっている。

 有力候補が県政最大の課題について立場をはっきりとさせないのは、「争点隠し」と批判されてもやむを得まい。佐喜真氏は、経済振興の財源として、国からの米軍再編交付金を挙げているが、これは辺野古移設が前提となるものだ。有権者にはその点も明確にして説明する責任がある。

 米軍を巡っては、両候補が共通して訴えている公約もある。日米地位協定の改定だ。

 協定によって日本の国内法は米軍に適用されず、米軍による事件や事故、環境破壊は事実上の治外法権とされてきた。この問題については翁長氏の働き掛けをきっかけに、沖縄県だけの課題ではないとして先月、全国知事会が協定の抜本的見直しを求める提言を政府に提出している。

 沖縄の米軍基地問題がここまでこじれた背景の一つには、こうした日米地位協定の在り方も含め、政府が地元の訴えに耳を傾けず、放置してきたことがある。

 今回の知事選がどういう結果になるにせよ、政府がこれまで同様の姿勢を続けるならば、対立の根本解消にはつながるまい。政府にこそ、沖縄の民意に正面から向き合い、対話が求められていることを指摘しておきたい。

 

[沖縄知事選告示] 辺野古が最大の争点だ(2018年9月14日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 沖縄県の翁長雄志知事の死去に伴う知事選がきのう告示され、新人4人が立候補を届け出た。

 最大の争点は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設の是非である。

 移設を進める安倍政権が推す前宜野湾市長の佐喜真淳氏と、翁長氏の後継として移設反対を訴える前衆院議員の玉城デニー氏の事実上の一騎打ちとなった。

 30日の開票結果は、政府の移設計画や今後の日米関係に影響を与える可能性がある。移設反対を訴え続けた翁長氏の遺志に、県民がどう審判を下すのか注目される。

 沖縄県土は国土面積のわずか0.6%にもかかわらず、在日米軍専用施設の約70%が集中している。米兵らによる凶悪事件や米軍機の墜落事故などが繰り返され、県民の不安と怒りは計り知れない。

 米軍基地の縮小や県外移転は、多くの県民の願いと言っていい。

 だが、普天間飛行場の返還と辺野古への移設の問題は約20年にわたって続き、県民に分断と対立を強いている。

 国が辺野古沿岸部の埋め立てを進める中、県は先月末に埋め立て承認を撤回した。法廷闘争などで埋め立て反対を訴えても、なお「辺野古移設が唯一の解決策」との立場を譲らない国の姿勢に対抗する最終手段である。

 こうした中、候補者に求められるのは辺野古移設の是非について、持論を述べることだろう。

 玉城氏は県による辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回を支持し、移設阻止を前面に掲げる。 

 一方の佐喜真氏は、政権とのパイプを生かした生活支援や経済振興など訴える。普天間飛行場の早期返還と危険性除去も主張するものの、辺野古移設の是非については明言していない。「辺野古」を封印することで、保守層の移設反対派を取り込む狙いに違いない。

 だが、これでは「争点隠し」と指摘されても仕方がない。辺野古移設への考えを明確に示して、有権者の判断を仰ぐべきだ。

 安倍政権は知事選後に移設工事を再開する構えだ。

 確かに、市街地中心に位置する普天間飛行場は危険である。だからといって反対派が多い中、辺野古沿岸部を埋め立て、新基地を造る必要性があるだろうか。立ち止まって見直す必要がある。

 沖縄に集中する米軍基地の負担軽減は、国民一人一人が向き合わなければならない問題である。

 北東アジアなどの安全保障環境に変化の兆しが見える中、日本の防衛政策全体の再検討が必要だ。沖縄の歴史に思いをはせ、基地問題をわがこととして考えたい。

 

[沖縄県知事選 変わる構図]無党派の取り込みが鍵(2018年9月14日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 今年最大の政治決戦となる沖縄県知事選が13日、告示された。安倍政権が全面支援する前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=と、翁長雄志前知事の後継で自由党前衆院議員の玉城デニー氏(58)らが立候補を届け出た。

 事実上の一騎打ちとなり、二人は、県民生活の向上や沖縄振興、米軍基地問題を中心に、沖縄の将来像や政策を訴え支持を求めた。17日間の選挙戦で、誰が知事にふさわしいか有権者が判断できるよう、諸課題に対する見解を明示してもらいたい。

 今回の知事選は、「オール沖縄」が誕生し保守が分裂した4年前と比べ、構図が大きく変化している。

 まず、前回自主投票だった公明党が、佐喜真氏への推薦を決定した。最近の首長選挙で自公と共闘してきた日本維新の会に加え、希望の党も推薦。支援態勢は前回より強化された格好だ。

 一方、県政与党や労組を中心に立憲民主などを含めた「オール沖縄」勢力が玉城氏を支援する。だが、翁長氏を支えた保守・中道層の勢いがしぼんで、今回は自主投票に転じた企業グループもあり、こちらも態勢が変容した。

 2017年の衆院選比例代表の得票数で比べると、佐喜真氏を支える政党の得票が玉城氏側を上回る。衆院選では玉城氏所属の自由党は比例候補がなく、国民民主党は誕生していないため単純比較はできないが、構図変化に伴う情勢の一端はうかがえる。

■    ■

 自公維の選挙協力は、今年に入って名護、石垣、沖縄の市長選で威力を発揮し、「オール沖縄」勢力側の候補を破ってきた。政党、企業、団体の縦の指示系統を駆使した組織選挙で、「勝利の方程式」ともいわれる。

 政府・与党が全面テコ入れした2月の名護市長選では、公明が4年前の自主投票から転じ、渡具知武豊市政誕生に貢献した。政府・与党幹部が入れ代わり立ち代わり名護入りして、振興策をアピールし、組織の締め付けを徹底した。この戦術が、知事選でも再現されようとしている。

 一方、玉城氏は、ラジオパーソナリティーなどのタレント活動歴や、衆院議員を4期途中まで務めたことから、全県的な知名度は高い。「保守・中道」をアピールし、国政野党の党派色を薄めて幅広い層へ支持の浸透を図る。「オール沖縄」体制を維持できるかも注目される。

■    ■

 選挙戦は、佐喜真、玉城の両陣営とも総力戦の様相だ。

 政府・与党は幹部や国会議員を送り込み業界団体に協力を求め、公明の支持母体の創価学会も最高幹部が指揮をとる。出遅れた玉城氏側も、危機感をバネに運動を加速化させ、若者や女性、無党派層へもアプローチを強める。

超短期決戦のため、両陣営とも県都の那覇市を中心に運動を展開する。那覇を制する候補者が知事選では勝利を収めてきたからだ。都市部では無党派への浸透が鍵を握る。佐喜真、玉城の両氏には、政策論争に徹してもらいたい。

 

[沖縄県知事選 変わる構図]無党派の取り込みが鍵(2018年9月14日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 今年最大の政治決戦となる沖縄県知事選が13日、告示された。安倍政権が全面支援する前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=と、翁長雄志前知事の後継で自由党前衆院議員の玉城デニー氏(58)らが立候補を届け出た。

 事実上の一騎打ちとなり、二人は、県民生活の向上や沖縄振興、米軍基地問題を中心に、沖縄の将来像や政策を訴え支持を求めた。17日間の選挙戦で、誰が知事にふさわしいか有権者が判断できるよう、諸課題に対する見解を明示してもらいたい。

 今回の知事選は、「オール沖縄」が誕生し保守が分裂した4年前と比べ、構図が大きく変化している。

 まず、前回自主投票だった公明党が、佐喜真氏への推薦を決定した。最近の首長選挙で自公と共闘してきた日本維新の会に加え、希望の党も推薦。支援態勢は前回より強化された格好だ。

 一方、県政与党や労組を中心に立憲民主などを含めた「オール沖縄」勢力が玉城氏を支援する。だが、翁長氏を支えた保守・中道層の勢いがしぼんで、今回は自主投票に転じた企業グループもあり、こちらも態勢が変容した。

 2017年の衆院選比例代表の得票数で比べると、佐喜真氏を支える政党の得票が玉城氏側を上回る。衆院選では玉城氏所属の自由党は比例候補がなく、国民民主党は誕生していないため単純比較はできないが、構図変化に伴う情勢の一端はうかがえる。

■    ■

 自公維の選挙協力は、今年に入って名護、石垣、沖縄の市長選で威力を発揮し、「オール沖縄」勢力側の候補を破ってきた。政党、企業、団体の縦の指示系統を駆使した組織選挙で、「勝利の方程式」ともいわれる。

 政府・与党が全面テコ入れした2月の名護市長選では、公明が4年前の自主投票から転じ、渡具知武豊市政誕生に貢献した。政府・与党幹部が入れ代わり立ち代わり名護入りして、振興策をアピールし、組織の締め付けを徹底した。この戦術が、知事選でも再現されようとしている。

 一方、玉城氏は、ラジオパーソナリティーなどのタレント活動歴や、衆院議員を4期途中まで務めたことから、全県的な知名度は高い。「保守・中道」をアピールし、国政野党の党派色を薄めて幅広い層へ支持の浸透を図る。「オール沖縄」体制を維持できるかも注目される。

■    ■

 選挙戦は、佐喜真、玉城の両陣営とも総力戦の様相だ。

 政府・与党は幹部や国会議員を送り込み業界団体に協力を求め、公明の支持母体の創価学会も最高幹部が指揮をとる。出遅れた玉城氏側も、危機感をバネに運動を加速化させ、若者や女性、無党派層へもアプローチを強める。

 超短期決戦のため、両陣営とも県都の那覇市を中心に運動を展開する。那覇を制する候補者が知事選では勝利を収めてきたからだ。都市部では無党派への浸透が鍵を握る。佐喜真、玉城の両氏には、政策論争に徹してもらいたい。

 

知事選きょう告示 沖縄の針路が決まる(2018年9月13日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 県知事選は13日に告示され、30日に投開票される。沖縄の針路を決める今年最大の政治決戦だ。有権者は立候補者の公約を十分に吟味し、大切な1票を投じてほしい。

 選挙戦は前宜野湾市長・佐喜真淳氏(54)と衆院議員・玉城デニー氏(58)による事実上の一騎打ちとなる。

 翁長雄志知事の死去という不測の事態を受けて行われる今知事選は過去に例のない超短期決戦だ。佐喜真氏は8月14日に、玉城氏は同29日にそれぞれ出馬を正式表明し、前哨戦を展開してきた。

 自民、公明、維新、希望の各党が佐喜真氏を推薦した。玉城氏は政党の推薦を受けない方針だ。安倍政権を中心とする勢力と県政与党を中心とする勢力が激しく対決する構図になっている。

 佐喜真氏は「県民の暮らし最優先」を掲げ、全国平均並みの県民所得300万円の実現や子どもの保育費、給食費、医療費の無償化、跡地利用の推進などを打ち出した。

 玉城氏は「新時代沖縄」を提唱し、各国との交流を促進する万国津梁会議の設置、中・高校生のバス通学無料化、「観光・環境協力税」の導入などを打ち出した。

 日米地位協定は、同じように米軍が駐留するドイツやイタリアに比べると著しく不利な内容だ。両氏とも協定の改定を求める姿勢を示した。

 米軍普天間飛行場の移設に伴う新基地建設が名護市辺野古で進む中、建設に反対する県が、前知事による埋め立て承認を8月31日に撤回したばかりだ。新基地建設の是非が最大の争点になる。

 佐喜真氏は「政府と対等な立場で、一日も早い普天間飛行場の返還を実現する」と述べ、新基地建設の是非については触れない方針だ。

 玉城氏は「普天間の閉鎖・返還を政府に要求する。辺野古に新たな基地は造らせない」と述べ、阻止するためあらゆる権限を行使する構えだ。

 誰が知事になるにせよ、就任してすぐに、新基地への判断を迫られる。各候補者は、有権者が抱くあらゆる疑問に真摯(しんし)に答え、正々堂々と選挙戦に臨んでほしい。

 次期知事は、屋良朝苗、平良幸市、西銘順治、大田昌秀、稲嶺恵一、仲井真弘多、翁長雄志の各氏に続く第8代の知事だ。1972年に日本に復帰してから13回目の知事選となる。

 戦後27年間、米軍施政下にあった沖縄では68年に主席選挙が実施されるまで、全住民の代表を直接選ぶ権利さえ認められなかった。主席公選の実現は自治権の拡大を求める沖縄住民が勝ち取った成果の一つといえる。

 沖縄以上に選挙の大切さを身にしみて知っている地域はなかっただろう。

 あれから50年。選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから初の県知事選だ。ぜひ投票所に足を運んでほしい。若い人たちにとっては選挙の意義を学ぶ絶好の機会だ。

                                                                

知事選の政策論争 討論の機会を増やしたい(2018年9月12日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 翁長雄志知事の急逝に伴う県知事選挙は、前宜野湾市長の佐喜真淳氏に続いて衆院議員の玉城デニー氏が政策を発表した。事実上の一騎打ちとなる新人2人の公約が出そろった。

 それぞれが会見で政治姿勢と政策を説明したほか、日本青年会議所(JC)沖縄ブロック協議会主催、県政記者クラブ主催の2度の討論会が行われ、2人の相違点が浮かび上がった。今後の選挙戦を通じて自らの所信を堂々と示し、有権者に明確な判断材料を提供してほしい。

 政策はそれぞれ多岐にわたり、経済政策を前面に掲げている点は共通する。違いが際立つのは、政府にどう向き合うのかという点だ。

 安倍政権の支援を受ける佐喜真氏は「政府と連携して」という文言を政策パンフレットに盛り込んだ。基地問題について「対立から対話へ」を掲げ、翁長県政との違いを強調した。地位協定改定などを挙げ、辺野古新基地建設には言及しなかった。

 政策発表の会見で「ここ数年は法廷闘争があり、県と政府が常に争っているイメージがある」と翁長県政に疑問を呈した。討論会で辺野古新基地建設の是非を問われると「原点は普天間飛行場の危険性除去」と繰り返し、直接の言及を避けた。

 玉城氏は政策発表会見で「辺野古の新基地建設に断固反対する姿勢はぶれない」と翁長知事の姿勢を継承することを強調した。国との関係をどうするか問われ「国に対しても協議を求める。だが、国が強行している辺野古新基地建設は地域の住民の意思も地方自治の本旨も逸脱している。これに対しては断固反対の意思を明確に示す」と訴えた。

 討論会では県の埋め立て承認撤回について「公有水面埋立法に基づいた、法治国家の地方自治体が取るべききちんとした手続きだ」と支持を明言した。

 姿勢の違いは示されたが、県民が分断されている現状や解決の展望については議論されたとは言えず、2回の討論会だけでは消化不良の感は否めない。

 今回もメディア各社は討論会を行おうとした。玉城氏は積極的だったものの佐喜真氏の陣営は時間がなく応じられないとした。メディア側は窮余の策として県政記者クラブ主催の合同討論会を開いた。

 選挙は民主主義の根幹であり、有権者の関心を高め、投票を促す選挙報道はメディアの役割の一つである。このためメディア各社は、有権者に正確な判断材料を提供するため独自に討論の場を企画してきた。

 メディア主催の討論会は、立候補予定者の政策を有権者に浸透させ、人となりをアピールする最も有効な機会である。時間がないなら、なおさら活用すべきではないのか。

 超短期決戦の中で、政策論争を深める努力を各陣営に求めたい。

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